廃墟的要素によるパタン・ランゲージを用いた建築空間構成手法の研究

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2013.2.12


廃墟的要素によるパタン・ランゲージを用いた 建築空間構成手法の研究


第 一 章   序 論


近年、我が国において「廃墟」はひとつ の趣味として発展してきている。2000年代 以降、廃墟に関するWebサイトや書籍が数多 く誕生しており、その勢いは現在でも衰え を見せない。また近年では、保全され、観 光地化されている廃墟も数多くでてきた(軍 艦島、犬島など)。このように「廃墟」は一 部マニアに留まらず、一般的にも感心の高 いジャンルになってきているといえる。

背 景 と 目 的

現代建築における建築設計に おいて、使われなくなった施設 の一部あるいは全体(廃墟的要 素)をリノベートして他の用途 に使用する手法が存在する。こ のとき元の建物が歴史的建築的 価値を有さない場合であっても、 保存による博物的価値とは異な る新たな価値が生成されること がある。さらには、一から新設 される建築物においても、廃墟 的な要素を持ったものが多数存 在するように思われる。  そこで、本研究では、廃墟が持つ廃墟的要素の建 築設計への活用の可能性に着目し、それを利用した 建築空間の構成手法を、クリストファー・アレグザ ンダーの『パタン・ランゲージ』に習い構成し、有 効性を検討することを目的とする。


論 文

第1章 序論 第2章 廃墟建築物の現状調査 日本全国の廃墟建築物について、所在地、用途、廃墟歴などを調べ、 廃墟リストを作成し、廃墟の現状を分析する。

第3章 廃墟の魅力の諸相 廃墟の魅力の諸相について、文献調査により理解する。

の 構

第4章 廃墟的要素によるパタンの構成手法について 廃墟的要素を書籍から抜き出し、アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』 に習いパタンとして構成する方法を説明する。

第5章 廃墟パタン 第6章 廃墟パタンによるケーススタディ 4章、5章で作成したパタンからセミラチス構造をつくる。 現役の建築物に適用してみる。

第7章 結論


第二章 廃 墟 建 築 物 の 現 状 調 査


全国373物件の廃墟について、所在地、用途、廃墟歴などを調べ、 廃墟リストを作成し、日本における廃墟の現状調査を行った。 以下、考察の結果をいくつか紹介する。


!  東北地方には鉱山廃墟が多く、日本を代表する鉱山廃墟物件が集まっている。その理由として東 北地方は地価が安価で、また広大な面積の割に人口が少ないため、廃虚建築物は取り壊されずに 残る傾向にある。 !  関東地方は調査対象廃墟数が非常に多かった。その原因は、単純に人口密度が高いが故に、母体 の建築物の数が多いということと、人口が集中している地域なので、廃墟愛好家は比例して多く なり、また出版社も集中しているために近隣の廃墟がどんどん発見され、書籍やインターネット 上でその情報が飛び交う、ということが考えられる。

都道府県別調査物件数


!  閉鎖年代別でみると、1990年代から廃墟となった物件が一番多く、その原因はバブル崩壊とそれ に追い打ちをかけるように起こった阪神・淡路大震災である。 !  1960年代・1970年代に生まれた廃墟は、エネルギー革命・貿易自由化の影響で閉山に追い込まれ た炭鉱・鉱山が多い。1970年代の鉱山の閉山理由としては、「資源枯渇」というのが多い。 !  バブル崩壊が、観光施設、宿泊施設、娯楽施設へ与えた影響は大きく、1990年代、2000年代初頭 で、日本中に溢れていたこれらの施設の多くが淘汰され、廃墟と化した。

閉鎖年代別物件数


!  炭鉱施設の炭鉱施設跡は、世界遺産暫定リストに登録された「端島炭鉱」、「万田坑」をはじめ、 産業遺産として保存され観光地化されているところもある。一方で、炭鉱遺産の保存の難しさに ついて、炭鉱業はほかの金属系鉱山と比べて単純な産業だったために、地元にこれといった関連 産業を生み出すこともなく、閉山すると単一産業依存でやってきた地元自治体には、それを観光 事業として活かす資金がないということがある。 !  市街地を離れた観光地に多い宿泊施設の廃墟物件では、廃墟となってから不審火による火災が発 生している物件や、死体が発見される物件が多いなど犯罪の温床となることが多く、解体を促進 する要素となっている。

調査物件の元用途別割合


廃第 墟三 の章 魅 力 の 諸 相


第3章では、文献調査を通して、 現在の状態の廃墟が持つ魅力の諸相を分析した。


Mishima Yukio

Kevin Lynch

Arata Isozaki


『バベルの塔』ブリューゲル

『廃墟漂流』小林伸一郎

庭園に配されたフォリー

『天空の城ラピュタ』宮崎駿

『ストーカー』タルコフスキー

『THE CITY』LORI NIX

廃 墟 が モ チ ー フ と し て 登 場 す る 作 品


文献調査から、廃墟の魅力の諸相として 以下のようなものがあることが分かった。

! 郷愁感 廃墟には、過去に使われていたときの人々の記憶や思いが染み付いており、廃墟内では、時間の止 まったような空間を体験することができる。

! 自然侵食 自然侵食により、廃墟は魅力的なものとなる。雨風・積雪による自然崩壊、動植物による侵食は、時 間をかけて廃墟を熟成し、その芸術性を深めている。

! 写真と廃墟 廃墟は刹那的・偶然的なものであるため、時を凍りつかせる装置である写真と相性がよく、被写体と して非常に良いものとして写真家たちに好まれる。

! 美術と廃墟 廃墟は、ヨーロッパでは、中世から現代に至るまで、美術的に優れたものとして扱われており、絵画 や写真、詩や映画などの芸術のモチーフとして使われている。英国では、実際に廃墟を廃墟そのまま の状態で保存している事例がある。


第四章 廃墟的要素によるパタンの 構成手法について


廃墟を廃墟らしくしていると思われる構成要素を、廃墟に関わる書籍から抜き出し、 それをアレグザンダーの『パタン・ランゲージ』に習い、パタンとして構築する。

* * * パタン・ランゲージ(pattern language)はクリストファー・アレグザンダーが提唱した建築・都 市計画にかかわる理論。単語が集まって文章となり、詩が生まれるように、パタンが集まってラン ゲージとなり、このパタン・ランゲージを用いて生き生きとした建物やコミュニティを形成するこ とができる、とされる。


『パタン・ランゲージ』では、各パタンは 以下のような書式に統一されている。

パタン134【禅窓】


廃  墟  パ   タ  ン の  構  築   手  順 1.廃墟を廃墟らしくしていると思われる構成要素を廃墟に関わる書籍から抽出する。 ▼

2.抽出してきた廃墟的要素を一つのパタンに出来そうなものでまとめる。 ▼

3.廃墟的要素のまとまりごとにパタン名をつける。 ▼

4.各パタンを環境、建築、内部空間、素材・部分の4つのヒエラルキーに分類する。 ▼

5.そのパタンの原型を示すイメージを対応させる。 ▼

6.そのパタンを用いたい状態で考えられる問題や、廃墟における定石を記 述し、それを解決もしくは達成する望ましい形を提案する。 ▼

7.そのパタンが当てはまると考えられる廃墟でない建築物を実例として例示する。 ▼

8.関連するパタンをリンク付けする。


今回、上の4冊を対象。

1.廃墟を廃墟らしくしていると思われる構成要素を廃墟に関わる書籍から抽出する。


解説文からその廃墟を廃墟らしくしていると思われるセンテンスを抽出する。

1.廃墟を廃墟らしくしていると思われる構成要素を廃墟に関わる書籍から抽出する。


最果ての道;辺境の色;遺跡の風格;様々な要素をもつ;異次元に迷い込んでしまったかのよう;鬱蒼とした木々の間にたたずむ;独特の威圧感を発する巨大な立坑;錆び付いた階 段;むき出しのコンクリート;階段の先が消えてしまった箇所;質実剛健;灰褐色のコンクリと冬枯れた大地の同系色が織り成すモノクロームな世界;用途を失った建造物が何かの記 号のように存在する;渇水時に姿を現す;絵に描いたようにゴーストタウン;背筋が凍るほど寂しい印象;回らなくなった観覧車;周囲の長閑な風景の中存在感を放つ;森の中に眠 る;雨水や雪解け水による浸水;トップライトから明かりが射し込む螺旋階段;そびえ立つ東洋一の立坑櫓;操業当時の様子を伺い知ることができる;趣のあるレンガ造り;レトロな メーターやスイッチなどの装置が並ぶ;炭鉱夫たちの使った跡がそのまま残っている;昭和の香りを色濃く残したレトロなホテル;人と自然による損傷が激しい;調度品や看板のフォ ントが味わい深い;宴会場の舞台の壁画が銭湯のペンキ画の様で素敵;昭和時代の雑誌の切り抜きが壁に貼られコラージュのよう;シュールなたたずまい;無人の遊園地は普遍的な寂 しさ切なさがある;世間から切り離されたファンタジー;異国情緒たっぷり;レストランの上に大仏;当時を偲ぶ残留物;圧倒的なたたずまい;バブル期につくられたB級スポット;無 惨に放置された遊具の艶やかな残骸;遺跡のような美しい姿;床にはBB弾が散乱;壁にはグラフィティ;アクセスのよさから多くの人が来るようで損傷が激しい;開放的なテラスから 景勝地を望む;中も外も木々に飲み込まれた建物;3階までの吹き抜けと壊れた階段;均等に並ぶコンクリートの支柱;遺跡のような美;巨大な遺跡;いくつも支柱が並ぶ赤い泥土の 積もった;山肌一面に広がっていた;若者によって木っ端みじんに破壊されている;心霊スポット;壁や屋根などが激しく損傷いる;一歩足を踏み入れると外観からの想像を大きく裏 切る光景が広がる;神殿のような太いコンクリートの柱に支えられた高い屋根、その屋根の隙間から射す柔らかな光が広大な空間を照らしていた;エッシャーの絵の中に迷い込んだよ うな階段;兵馬俑と見紛うばかりの光景;どこか宗教的な空間を思わせる;ただただ巨大な空間が広がっている;墓石のように規則正しく並んだ巨大なコンクリート;赤くさびた鉄骨 を残して崩れ落ちた屋根;鉄は赤く染まり壁面は銅の成分とコケによって極彩色に彩られる;退廃的な世界;残留物が当時の状態で置かれていた;離れた場所から見るとまさに雲上の 楽園そのもの;一部に当時の面影が残っている;床は緑の絨毯が敷き詰められ、椅子や机も苔生している;冬は割れた窓や天井から雪が吹き込み;屋内か屋外か分からないほどに雪が 積もっている;雪と苔に浸食され続ける;映画のロケ地として使われた;トロッコたちは草に埋もれ、動かされること無く朽ちるのを待っている;木造の建物は地面から崩れており建 物自体がすでに傾いていた;レンガのサイロ;巨大選鉱場;鹿たちも時々廃墟に出入りしているという、妙に絵になる牧歌的な物件;中華テイストを思わせる配色が素敵で、赤い支柱 にライトブルーの木枠、オレンジ色の絨毯が色褪せながらレトロでキュートな空間を演出している;レトロな残留物が放置された;キュートな遊園地廃墟;緑の平地に観覧車、メリー ゴーラウンド等の遊具が錆び付いたまま放置;女子度の高いメルヘンチックな雰囲気;ラブリーな世界;水を無くした水槽にさびた金属が放置されている姿はとても寂しかった;鬱蒼 とした木々の中に隠されたように建つ;不気味に黒ずんでしまった建物の入り口は有刺鉄線で厳重に封印され;建物内には巨大な変電設備の多くがそのままの状態で残されている;す べてのスケールが桁外れ;コンクリートも青銅色や赤茶色に変色し、山崩れの影響を受け徐々に崩壊しつつある;遺跡系鉱山;神々しくも神秘的な物件;心霊スポット;コンクリート 打ちっぱなし;廃村;残留物が豊富;場末感漂う暗がり;小さく可愛らしい観覧車も植物に侵食されながら色褪せている;幻想的;ほとんどの窓ガラスがなく晴れた日には風が吹き抜 け、開放的ですらある;落書きが大量;心霊スポット;草木に覆われ区画一帯がゴーストタウン;レンガ造りの暖炉;暖炉のある空間は吹き抜け;独特の黒い光沢を放つカラミ煉瓦; 黒色煉瓦が織り成す曲線のアーチと連なる柱は取り囲む山々の緑と決別し、はっきりと存在感を示しながらも、やがて埋もれていく宿命を受け入れたかのように佇んでいた;昭和時代 の夢の跡;閑散とした広い敷地;人為的破壊が進行;不名誉なモニュメント;視界が開けた途端に精錬所跡の巨大な施設群が目に飛び込んできた;雛壇状の敷地;屋根や外壁はすでに 失われ、骨組みだけになり、まるで巨大な鳥かごの様;その鳥かごの中には巨大蜘蛛のごとく怪しげな銅の精錬ライン;石油コンビナートの様な景色;歴史を偲ぶ遺構;迫力のある鉱 山施設;重厚な煉瓦作りの外観;丸形の窓や縦長に伸びた窓;遺跡級;木々に埋もれたその建物は地元の人間でも知らないものが多い;夏場は生い茂る蔦が行く手を阻み、密集した緑 の噎せ返るような臭いが立ち込め、冬場は枯れた蔦が建物を守るように覆っている;伸びる木々の侵食で徐々に光を失い;お化け屋敷;鉄筋コンクリート造りの外観にバリバリに割ら れた西洋風の縦長窓;建物自体が、岩山に寄生するようにへばり付き、まるで岩山と一体化しているよう;巨大な岩山が内部の天井を突き抜けてめり込み;色の無い鉱山の世界に際 立って並ぶ色彩タンク;蔦の侵食が進み茶色く錆び付いた階段;抜け落ちた窓や絡まる蔦が織り成す絵になる光景;昭和レトロのお色気ムードが廃墟の退廃的な空間と調和;個性的な ボイラーと炊飯釜、スロープ、カタパルト跡などが現存;内部に多数の鳥が生息;落書き;人為的破壊;昼間でさえ薄暗い;残留物の多さ;森の中;静かな存在感;人懐っこくラブ リーなキャラたちは微笑ましくもどこか悲しい存在;博物館の展示物が大量に残っていて;窓ガラスはバリバリに割れており;西洋の遺跡を思わせる;遺跡のような廃墟;高山という ロケーションに秘境感と底抜けの開放感;無国籍で幻想的な世界;風景と同化するように、廃墟を静かに体感できる;巨大なツインタワーと無数の煙突;距離感や高さの感覚が麻痺し てしまう;複雑に連結された各施設は、さながら巨大迷路の様;宮崎駿の『天空の城ラピュタ』の世界;昭和テイストな雰囲気;突如稼働しそうな雰囲気の機械;倒壊も激しく無惨な 姿;ガランとした教室を窓から射し込む光がノスタルジックに包み込み;唯一残されている階段が過去と現在を繋いでいるかの様;哀愁漂う廃景;小雨や霧のときに訪れた方がより幻 想的;残る生活用品から当時の様々なドラマが思い起こされる;未完のまま;遺物が豊富;崩れたコンクリやレンガ造りの砲台跡、トンネルなどがいい雰囲気;逓信省の吉田鉄郎設 計;海風に吹かれながら孤独に佇む;見事に朽ち果て;海河の壁が全てなくなり、真っ白な灯台の向こうに広がる太平洋は絶景;茫漠とした草原の所々に遺構が点在する;当時のまま の駅舎や備品は、時の流れが止まったようで、なんだかノスタルジック;巨大;増設を繰り返し、迷宮化している;2基のパラボラアンテナと1基の鉄塔は象徴的な存在である;植物に 埋もれ、季節によってがらりと表情が変わる;外壁内壁に大量に描かれたグラフィティ;異様な不気味さ;ボールやピンが壊れ散らばっている;室内に生えた草による緑の絨毯;廊下 には蔦が張り巡らせられている;海外の古い駅舎や空港を彷彿とさせる;優美さと重厚さを兼ね備えた;鉄筋コンクリート造りの重厚なデザインに蔦が絡み付く;山の中腹に鎮座し、 外観からして不気味な廃テイスト;無機質で冷徹な雰囲気;緑の侵食;セミナー参加者が残した数々のメッセージ;バブル時代の夢の泡沫;巨大施設を飲み込む緑の猛威;空虚でひか らびた楽園;過ぎたときの長さを感じる;昭和にワープした気分;人為的破壊は殆どなく、今静かに自然に還ろうとしている;建物に入るとダークで湿った空気;浮浪者が住んでいた 形跡;何も無い巨大空間;小さいながらも鉱山の面白さが凝縮されている;さび付いた茶色い屋根と木肌の色とのコントラスト;複雑に組み上げられた選鉱ライン;迷路のような階 段;機能美に満ちた建物内;PVの撮影が多数行われている;曲線を多様したデザイン;破壊と落書き、不法投棄;都市伝説になるほどの不気味さ山腹にそそりたつ;コンクリート壁の 塊;増設を繰り返し;複雑にして奇怪な構造;建設途中;巨大な円柱が並び、まるでダークな神殿を思わせる;浸水している通路;2階へ上がる階段が途中から始まる;廊下は途中で 行き止まり;建物が土砂に埋もれている;損傷激しく熟れた空間;残留物も多い;古き時代の意匠を見て楽しむことができる;勢い良く侵入する植物群;繁殖するカビで覆い尽くされ た;人の気配を失った「水場」は例えようになく淋しい;朽ちたコンクリートが苔むし、独特の色彩を作り出している;緑に飲み込まれる;渡り廊下が完全封鎖されている;廃墟の魅 力がギュッと詰まった;産業遺産;蔦が生い茂り、破壊と落書きが成され;訪れるもののいない山間でポツリと佇む;山の急峻な斜面に、選鉱施設や研修施設等が立ち並ぶ;膨大な物 語が詰まっている;建設途中;戦時中の残留物;ゆっくりと自然に還ろうとしている;人為的破壊;無数のBB弾も散らばっている;煉瓦造りの遺構;昭和時代のコンクリート;グロテ クスなコンクリートの塊と化し、異質な存在感を放っている;戦争遺構窓ガラスから射し込む淡い光;ノスタルジック;グラフィティ;窓側一帯に緑が広がる光景は不思議な美を醸し 出している;浮浪者;残留物が豊富;丸みを帯びた工業機械が地上に埋め込まれ、均一に並ぶ姿は、重厚であり女性的;天井が高く開放的;淫靡な空間が廃墟化;白亜の迷宮;真っ白 な空間;様々な廃墟の魅力が凝縮されている;山肌に一つの都市が鎮座している様;施設群の大半を一目で俯瞰できる;木造は一部朽ちて倒壊し、コンクリはひび割れ、金属類は錆び 付き;巨大なコンクリートの支柱が、パルテノン神殿の如く鎮座している;蔦色に錆び付いた屋根の残骸や黒ずんだ木片が散乱し廃墟ならではの美を作り上げている雨風に晒されて朽 ちてゆくコンクリート;古代遺跡;年々勢いを増してゆく緑;貴重な産業遺産の廃墟;緑に埋もれた遺構;そびえ立つ煙突の姿;見る角度によって異国を思わせ;レトロな観覧車;

4冊の書籍から712個の センテンスを抜き出した。

1.廃墟を廃墟らしくしていると思われる構成要素を廃墟に関わる書籍から抽出する。


4冊の書籍から抽出した712個のセンテンスを同じ状態、形態に ついて述べているもの同士でまとめる。そして、それぞれのまとまり ごとに共通する廃墟的要素を短いセンテンスで表し、それをパタン名 とした廃墟パタンをつくる。 例えば、以下のセンテンスのまとまりから、 摩耶山中腹に建つ;廃道沿い;人気の無い山奥に佇む;訪れるものの いない山間でポツリと佇む;木々に埋もれたその建物は地元の人間で も知らないものが多い;最果ての道;自然のみがゆっくりと建物を侵 食していった;地図に存在しない場所;かろうじて舗装されている道 路;町から遠く、陸の孤島といえる立地であった;人っ子一人いない 町というのは、それだけでSFの世界;ススキの原野となった敷地内;

人の生活から遠いところ(1)

の廃墟パタンが作られた。

2.抽出してきた廃墟的要素を一つのパタンに出来そうなものでまとめる。 3.廃墟的要素のまとまりごとにパタン名をつける。


各パタンを4つのヒエラルキーに分類。

Ⅰ.環境(周辺を取り巻く環境、歴史背景) Ⅱ.建築(建築の状態、佇まい、構成) Ⅲ.内部空間(内部空間について) Ⅳ.素材・部分(材料について、部分について) Ⅳ

Ⅲ Ⅳ

Ⅰ 4.各パタンを環境、建築、内部空間、素材・部分の4つのヒエラルキーに分類する。


1)環境 environment

2)建築 architecture

3)内部空間 interior

4)素材・部分 material・detail

1.  2.  3.  4.  5.  6.  7.  8.  9.  10.  11.  12.

13. 自然への回帰 14. 緑に埋もれた建物 15. 自然との一体化 16. 山肌にへばりつくように建つ 17. 海との接近 18. 水没している 19. 建物の崩壊 20. 形骸化した建物 21. 巨大である 22. そびえ立つ 23. 群れて建つ 24. 凝縮されている 25. 工場のよう 26. 軍艦のよう 27. 度重なる増築 28. 異国情緒溢れる佇まい 29. 古めかしいデザイン 30. 遺跡の風格 31. 列柱 32. 不在のモニュメント 33. シュールな佇まい 34. 時間によって変化する 35. 建設途中 36. セルフビルド

37. 外部から想像のつかない内部 38. 時の止まった空間 39. 野外化した屋内 40. 自然物の建物内への侵入 41. 屋内に繁茂する植物 42. 動物の住処 43. 浸水 44. 土砂に埋もれる 45. 何も無い空間 46. だだっ広い空間 47. 高い天井 48. 薄暗い空間 49. ひとつの色の空間 50. 均等に並ぶ柱 51. 迷宮状態 52. 行き止まりになった廊下 53. 長く続く廊下 54. 階段空間 55. 抜けた壁 56. 崩壊による吹き抜け 57. 差し込む光 58. 緑の光 59. 静けさ 60. 響く物音

61.  レンガ造り 62.  色褪せた素材 63.  植物に埋もれた壁 64.  打ちっ放しコンクリート 65.  錆び付いた鉄 66.  むき出しの鉄 67.  朽ちた木材 68.  トタン 69.  原色のもの 70.  崩れた屋根 71.  穴の空いた壁 72.  割れた窓ガラス 73.  不完全な階段 74.  螺旋階段 75.  開かずの扉 76.  燃えた跡 77.  朽ちてぶら下がる 78.  壁面を埋めるグラフィティ 79.  変色した水 80.  干上がった水場 81.  当時を偲ぶ残留物 82.  残された機械 83.  未知なるもの 84.  残された遊具 85.  ヒトガタをしたもの 86.  古いデザインのディティール 87.  大量に溢れたもの 88.  無人の椅子 89.  苔むした家具 90.  裸電球 91.  懐中電灯の灯り

人の生活から遠いところ 森の中に眠る 孤島に建つ 広大な草原にポツリと 雛壇状の敷地 一気に現れる 全貌を望める場所 一人占め 陰鬱な天気 産業を語るもの 戦争を語るもの バブル時代の夢の跡

4.各パタンを環境、建築、内部空間、素材・部分の4つのヒエラルキーに分類する。


廃墟パタン の原型を示す イメージを 対応させる。

これは、そのパタンを視覚的に表現する という非常に重要な役割を持つ。このイ メージの存在により、複数の人がより簡単 に共通の具体像を想像し易い。今回、この 画像は実際の廃墟の写真に限定した。

人の生活から遠いところ(1) の廃墟パタンには次の写真を対応させた。

これは、捨て去られた廃道の写真である。 この道路の続く先に、人の生活の気配は全 く感じられない。

5.そのパタンの原型を示すイメージを対応させる。


それぞれの廃墟パタンを利 用したい状況における、問題 点(廃墟らしくならないのは 何が原因か)や廃墟における 定石を示す。次に、その事項 について、実際の廃墟を例に 挙げつつ論じる。最後にこれ らを踏まえ、どうすれば問題 点や定石を達成し、廃墟らし い建物をつくれるかを簡潔に 示す。

人の生活から遠いところ(1)の場合。  人々の生活に近く賑やかな廃墟は、廃墟の本 質を感じられる空間ではない。 ▼  廃墟では、我々の暮らしている社会からは取 り残されたような廃墟特有の時間が止まってい るような雰囲気を味わうことができる。しかし、 その空間に人間という現代社会をイメージさせ るものが多く混入してしまうとその雰囲気は台 無しである。廃墟に漂う雰囲気とは人の不在感 であり、静けさが必要である。日本に現存する 有名な廃墟の多くは、人気の無い場所に佇む。 そこは山の中腹であったり、孤島であったり、 何かしらの要素が人間の行く手を拒む、ひっそ りとした場所である。また、街中の廃墟は不良 の溜まり場や浮浪者の住処にもなり易い。その 時、近くに住人が居ると苦情が多く寄せられる ため、すぐに撤去・解体されてしまう。 ▼  人々が普段生活しているところから距離を置 く。それは単純に距離をあけるだけでなく、何 らかの隔たりを設けることが望ましい。人の生 活と近い敷地に建てる場合には、周囲からの遮 音に配慮し、また視覚的にも周囲をシャットダ ウンできるようにすること。

6.そのパタンを用いたい状態で考えられる問題や、廃墟における定石を記述し、   それを解決もしくは達成する望ましい形を提案する。


実 例 の 対 応

パタンの意図を体現した廃墟でない建築物を例示する。 この箇所は、アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』 には無い。廃墟という抽象的なものを扱う本研究である が、この箇所があることで、複数の人の間で、パタンの 方向性についてのイメージ共有が起こり易くなる。

人の生活から遠いところ(1)の場合。  修道院は俗世から離れるために、山間部に建てられているものが多い。また美術館など非 現実性を重要視する施設も、都市部から離れたところに建てられる。そこは静かな環境で、 あたかも自分ひとりしか居ないように感じられる場所である。

7.そのパタンが当てはまると考えられる廃墟でない建築物を実例として例示する。


関連パタンの記載 最後に他のパタンへのつながりを示す。この箇所がある からこそ、パタンとパタンは繋がりパタン・ランゲージ となり、ひとつのパタンが様々な意味・可能性を孕むと いうパタン・ランゲージの詩学を構築する。

8.関連するパタンをリンク付けする。


完  成


パタンの分類 パタン名

パタンの原型を表す写真

書籍から抽出した廃墟的要素 問題の本質 問題を論じる本文 パタンの急所を示す解答

パタンの現役建築物での実例

関連パタン

※ 完成



1)環境 environment

2)建築 architecture

3)内部空間 interior

4)素材・部分 material・detail

1.  2.  3.  4.  5.  6.  7.  8.  9.  10.  11.  12.

13. 自然への回帰 14. 緑に埋もれた建物 15. 自然との一体化 16. 山肌にへばりつくように建つ 17. 海との接近 18. 水没している 19. 建物の崩壊 20. 形骸化した建物 21. 巨大である 22. そびえ立つ 23. 群れて建つ 24. 凝縮されている 25. 工場のよう 26. 軍艦のよう 27. 度重なる増築 28. 異国情緒溢れる佇まい 29. 古めかしいデザイン 30. 遺跡の風格 31. 列柱 32. 不在のモニュメント 33. シュールな佇まい 34. 時間によって変化する 35. 建設途中 36. セルフビルド

37. 外部から想像のつかない内部 38. 時の止まった空間 39. 野外化した屋内 40. 自然物の建物内への侵入 41. 屋内に繁茂する植物 42. 動物の住処 43. 浸水 44. 土砂に埋もれる 45. 何も無い空間 46. だだっ広い空間 47. 高い天井 48. 薄暗い空間 49. ひとつの色の空間 50. 均等に並ぶ柱 51. 迷宮状態 52. 行き止まりになった廊下 53. 長く続く廊下 54. 階段空間 55. 抜けた壁 56. 崩壊による吹き抜け 57. 差し込む光 58. 緑の光 59. 静けさ 60. 響く物音

61.  レンガ造り 62.  色褪せた素材 63.  植物に埋もれた壁 64.  打ちっ放しコンクリート 65.  錆び付いた鉄 66.  むき出しの鉄 67.  朽ちた木材 68.  トタン 69.  原色のもの 70.  崩れた屋根 71.  穴の空いた壁 72.  割れた窓ガラス 73.  不完全な階段 74.  螺旋階段 75.  開かずの扉 76.  燃えた跡 77.  朽ちてぶら下がる 78.  壁面を埋めるグラフィティ 79.  変色した水 80.  干上がった水場 81.  当時を偲ぶ残留物 82.  残された機械 83.  未知なるもの 84.  残された遊具 85.  ヒトガタをしたもの 86.  古いデザインのディティール 87.  大量に溢れたもの 88.  無人の椅子 89.  苔むした家具 90.  裸電球 91.  懐中電灯の灯り

人の生活から遠いところ 森の中に眠る 孤島に建つ 広大な草原にポツリと 雛壇状の敷地 一気に現れる 全貌を望める場所 一人占め 陰鬱な天気 産業を語るもの 戦争を語るもの バブル時代の夢の跡

第4章の手順を経て、 計91個の廃墟パタンをつくる ことが出来た。 そのうちのいくつかを紹介する。


6.一気に現れる SUDDEN APPEARANCE

いきなり現れる建築物は我々により 鮮烈な印象を与える。 ▼  はじめて白石鉱山(No.249)を訪れる 時のは印象は強烈である。それは、山 の斜面にへばりつくように建てられた 巨大な施設群が周囲を山に囲まれてい るため、すぐ近くまで来ないと見られ ないという状況が影響している。また、 摩耶観光ホテル(No.293)などの多くの 廃墟が森に囲まれて存在している。そ のため、その全貌を見ることができる のは森を抜けてからである。その出現 は突然であり、我々に驚きや畏怖の念 など他には無い感動を与える。 ▼  山などの周辺環境を利用して、近く に来ないと全貌が見えないような場所 に建物を建てること。もしくは建築的 操作によりそういった状況をつくるこ と。


6.一気に現れる SUDDEN APPEARANCE

周囲を建築物で囲むという建築的操作により一気に全貌が現れるようにする、という手法はター ジ・マハルやアーバネリー階段井戸のような宗教的な意味を持った建築物でよく使われる。モエレ沼 公園では、噴水の周囲を森で囲むことで、森を抜けたときの開放感を演出し、また噴水の大きさを強 調する効果もある。

* * *  一度に視界に入ってくる建物の密度が高いほど、初めて見たたときの衝撃は大きい。雛壇状の敷地 (5)によって、山肌にへばりつくように建つ(16)建物は、建物全体を一度に見ることができる。こ のことは、全貌を望める場所(7)でも同じことが言える。また森の中に眠る(2)建物は、木々によっ て視界を遮られているので、森を抜けたところで一気に全貌を望める。このパタンを内部空間に置き 換えたものは、外部から想像のつかない内部(37)といえる。


8.一人占め MONOPOLY

廃墟の魅力のひとつに人の不在感が ある。自分しか居ないという感覚は人 に自由を与え開放的な気持にすると共 に、どこか物悲しい思いにする。 ▼  展望台を兼ねた施設の廃墟からは、 廃墟になった今でももちろん素晴しい 眺望を望むことが出来る。しかも廃墟 となっている今では、それを一人占め することができるため、それは他では 味わえない廃墟的な体験といえる。展 望台に限らず、廃墟らしい退廃美に満 ちた風景は一人で見てこそ廃墟的で魅 力的なものとなる。 ▼  人の訪問を制限すること。それは建 物の入り口で人数を制限するのでも良 いし、建物自体を人のアクセスしにく いところに建てるのでも良い。もしく は、訪問者がひとりになれる機会を用 意すること。


8.一人占め MONOPOLY

観光地化されてない教会では、訪れる人も少なく、静かに見事な装飾で飾られた大きく荘厳な空間 をじっくり体験することができる。これは観光地化され人でごった返した教会では体験できないもの である。直島の家プロジェクトのひとつ「きんざ」は入場者がひとりに制限されている。カルロ・ス カルパのブリオン家の墓地はアクセスの悪さもあり、ひっそりとしており、ここが墓地であることを 際立たせている。

* * *  建物を一人占めするには、そこが人の生活から遠いところ(1)であると良い。ヒトガタをしたもの (85)があれば、そこはより不在のモニュメント(32)と化し、自分ひとりしか居ないということを 意識しやすい。他に人がいれば、廃墟特有の時の止まった空間(38)の印象は薄れてしまう。


10.産業を語るもの INDUSTRIAL HERITAGE

産業遺産は、操業当時のことを色々 と想像させ、見る人を楽しませる。 ▼  一般的にも人気があり、保全され観 光地化されているところやリノベー ションして新たな用途に転用されてい るところが近年数多く誕生している。 廃墟としても規模が大きいことや、機 械や設備の豊富さから人気が高い。産 業遺産に残された機械や設備類は、専 門でない我々から見れば用途の分から ないものがほとんどで、それらどう使 うのか想像するだけでも十分に楽しい。 また、鉱山ひとつで社会が形成されて いる場合も多く、見所にバリエーショ ンが多く面白い。 ▼  産業を語るものがある場合、それを できるだけそのままの状態で保存し、 積極的に活用していくこと。この場合、 元の用途からかけ離れている方が面白 い。


10.産業を語るもの INDUSTRIAL HERITAGE

犬島アートプロジェクトの「精錬所」のように、世界各国で産業遺産を全く新しいものにリノベー ションする試みが行われており、多くの事例が大成功を収め人気スポットとなっている。

* * *  雛壇状の敷地(5)に山肌にへばりつくように建つ(16)鉱山施設群。工場のよう(25)に、産業遺 産はとにかく巨大である(21)。そして色々な用途が凝縮されている(24)。普段入ることの無い内 部は、だだっ広い空間(46)であったり、高い天井(47)であったり、ひとつの色の空間(49)で あったりと外部から想像のつかない内部(37)をしている。建物の中には、残された機械(82)や当 時を偲ぶ残留物(81)、未知なるもの(83)、大量に溢れたもの(87)が放置されている。鉱山には、 鉱物が溶け出し変色した水(79)がシックナーに蓄えられている。


17.海との接近 CLOSE TO THE SEA  母なる海は大自然の象徴であり、自 然の力で溢れている。 ▼  海への接近は、潮風や波などがあり、 建築物にとって良い状況とはいえない。 しかし古来より人間は、生活の便の良 さや美しい眺望から海の近くに住んで きた。一方、一般の建築物にとっての 不利な条件は、建物を廃墟らしくする という意味においては好条件といえる。 潮風は風化を早め、海の恵みは建物を 侵食する自然を育てる。また、海は視 界的に開けた場所であるため、海に寄 り添う建物を目立たせ、象徴的なもの にする。 ▼  近くに海が有る場合は、できるだけ 寄り添うようにすること。


17.海との接近 CLOSE TO THE SEA

ヴェネツィアのような海のすぐ近くの街は、複雑で雑多な街のところが多い。モラのアルトプラー ジュが建てられているのは湖であるが、水に囲まれているという状況が、建築物を象徴的でシュール なものにすることを表現した良い例である。

* * *  孤島に建つ(3)建物は、海との接近を感じられる。水没している(18)状態が最も接近した状態で ある。海からは潮風が吹き、外装は色褪せた素材(62)、鉄は錆び付いた鉄(65)となり易い。海辺 では、鳴り止まない潮騒の音が響く物音(60)となる。また海辺は視界が開けているので、象徴的で シュールな佇まい(33)をつくり易い。さらに海辺は潮の満ち引きなど自然環境の変化を大きく受け るので、時間によって変化する(34)環境であるといえる。母なる海は動物たちに恵みをもたらすた め、動物の住処(42)にもなりやすい。


26.軍艦のよう LIKE A WARSHIP  「軍艦」という言葉は、「艦艇」は もちろん、「廃墟」を連想させる。 ▼  軍艦ホテル、軍艦アパートなどの 「軍艦∼」の愛称で呼ばれる廃墟がい くつか存在する。それは日本最高峰の 廃墟、軍艦島(No.342)へのオマージュ である。現在、軍艦島は一般的にもか なり知名度があり、「軍艦」と聴いて 「軍艦島」を連想する人は少なくない だろう。軍艦は、形態としても複雑怪 奇で、廃墟的な無秩序さを連想させる。 ▼  軍艦を模したデザインを用いること。


26.軍艦のよう LIKE A WARSHIP

「軍艦のよう」と評される建築物は数多く存在する。これらは、複雑な形態をしているが、基本的 には直方体と円柱など簡単な図形の組み合わせからなる。

* * *  軍艦は巨大である(21)。そして砲台がそびえ立つ(22)。度重なる増築(27)を繰り返したよう な形態をしており、それは凝縮されている(24)工場のよう(25)な機能美を携えている。素材は打 ちっ放しコンクリート(64)やむき出しの鉄(66)のような冷たい印象のものが良い。


30.遺跡の風格 DIGNITY OF ANCIENT RUINS  廃墟が遺跡の様相を呈すとき、それ は美学的に見て価値があるとしかいえ ない。 ▼  遺跡の風格を持つということは、数 多くの廃墟パタンが当てはまることに なる。遺跡のようになるには必然的に かなりの年月が必要であり、そこでは 植物が繁茂し、崩壊が進み、廃墟とし ての熟成度がかなり高い。 ▼  一般的に遺跡とされているものから デザインのヒントを探すこと。


30.遺跡の風格 DIGNITY OF ANCIENT RUINS

ソーク研究所、近つ飛鳥博物館、バングラデシュ・ダッカ国会議事堂は、いずれも遺跡のような オーラを持っている。これらの建物を遺跡的にしている共通の要素として、コンクリート打ちっ放し の建築物、人に対し巨大である、対照になっている、単純な幾何学図形の組み合わせからなる、など。

* * *  遺跡の風格を持つ建物は、異国情緒溢れる佇まい(28)をしている。遺跡化した建物は、形骸化し た建物(20)であり、そこでは自然への回帰(13)が進行し野外化した屋内(39)が広がる。広大な 草原にポツリと(4)建つ佇まい、列柱(31)の並ぶ外観や均等に並ぶ柱(50)を持つ内部空間も遺跡 的である。そして巨大である(21)こと、空間に差し込む光(57)は遺跡の神秘性を高める。素材に は、打ちっ放しコンクリート(64)などの冷たく重々しい印象を持つものを用い、建物全体をその素 材ひとつで統一する。


35.建設途中 UNDER CONSTRUCTION  建設途中の建物は、廃墟と同様、不 完全な建築物である。 ▼  建設中ホテルA(No.296)や中城高原ホ テル(No.373)など建設途中で放棄され、 そのまま廃墟化しているところがある。 そこは、建物ができてゆく過程であり、 なおかつ廃墟として荒廃の過程にある ため、建物においてとりわけ特異な状 況にあるといえる。廃墟は現役だった 頃への想像をかき立てる。しかし建設 途中の廃墟では、現役時代を想像する ことが出来ない。それは、完全に人の 気配の無い無機質な建築物である。 ▼  建設途中で置いておくこと、もしく は建設途中に見えるようなデザインを 用いる。


35.建設途中 UNDER CONSTRUCTION

建設途中であることは完成した姿への想像をかき立てる。コンクリート打ちっ放しの建築は建設途 中に見え易い。

* * *

建設途中の建物は、打ちっ放しコンクリート(64)のままでむき出しの鉄(66)のままの形骸化し た建物(20)であり、シュールな佇まい(33)をしている。内部空間は何も無い空間(45)であった り、反対に大量に溢れたもの(87)(資材)で満たされていたり、抜けた壁(55)の空間であったり と外部から想像のつかない内部(37)空間をしている。建設途中の不完全な階段(73)などは、時の 止まった空間(38)を想起させる。


37.外部から想像のつかない内部 UNIMAGINABLE INSIDE FROM THE OUTSIDE  先に知ってしまうことは、その後の 感動を半減させる。 ▼  廃墟とは、普段我々の日常からかけ 離れた場所であり、その内部空間も非 日常的なものである。したがって、そ こでは一般的な建築では思いもよらな い内部空間が待ち受けている。 ▼  外観からは、内部空間の様子が分か らないように工夫する。ただし、完全 に閉じてしまうと開放感が損なわれる ので、壁の配置などにより視界を操作 し、うまく内部を見えないようにする こと。


37.外部から想像のつかない内部 UNIMAGINABLE INSIDE FROM THE OUTSIDE

サグラダ・ファミリアを初めて訪れた人は、内部空間の外観とのギャップに驚くだろう。このとき、 内部がどうなっているのかを知らずに入ると、その衝撃はさらに大きいものになる。我々は普段ぐ にゃぐにゃした形態の建物に入ることが無いため、MAXXIのようないびつな形の建築の内部の様子を外 観から想像するのは難しい。モスクワの地下鉄ホームは、博物館と見紛うばかりの装飾が施されてい る。日本のような地下鉄ホームを想像して入ると、そのギャップに度肝抜かれる。

* * *  廃墟では、自然への回帰(13)の過程と建物の崩壊(19)によって想定外の内部空間をしているこ とがある。例えば、野外化した屋内(39)、何も無い空間(45)、だだっ広い空間(46)、高い天井 (47)、ひとつの色の空間(49)である。また建設途中(35)やセルフビルド(36)の建物でも、内 部空間が想像しにくいため、中に入ってから驚かされることがある。このパタンでは、内部空間が一 気に現れる(6)状態が重要である。開かずの扉(75)の先は色々と想像をかき立てられる。


41.屋内に繁茂する植物 EROSION INSIDE A BUILDING BY PLANTS  建物内部に森がある光景は、非日常 的かつ神秘的である。 ▼  現役の建物の室内に植物がある場合 は、観葉植物など整えられたものの場 合がほとんどである。廃墟では、植物 が自然本来の姿で思い思いに繁茂して いる。 ▼  内部空間にできるだけ自然のかたち の植物を混入させること。


41.屋内に繁茂する植物 EROSION INSIDE A BUILDING BY PLANTS

このパタンは、現代アートでしばしば使われる他、都市の建物内で人を癒すオアシスをつくる手法 として利用される。

* * *

屋内に繁茂する植物は、自然物の建物内への侵入(40)のひとつである。これは、野外化した屋内 (39)を決定付け、建物の自然への回帰(13)を促す。土砂に埋もれる(44)空間内の土に、抜けた 壁(55)や崩れた屋根(70)から種と水が運ばれることで、屋内に植物が育つ。家具からも植物は育 ち、苔むした家具(89)をつくる。


49.ひとつの色の空間 ONE COLOR SPACE  単一色に染められた空間は、夢の世 界のようである。 ▼  石灰を生産していた白石鉱山(No. 249)、弁柄を生産していた弁柄工場 (No.304)にはそれぞれ白、赤一色で染 められた空間がある。これらの空間は、 建物内の壁、床、天井、備品類あらゆ るところにそれぞれで生産していた石 灰、弁柄が付着し出来上がったもので ある。これらの空間では、色の失われ た、その一色だけになった世界に迷い 込んだような錯覚にとらわれる。 ▼  空間全体をひとつの色で染める。そ れは壁、床、屋根だけでなく、家具や 細かいところまで染め上げること。


49.ひとつの色の空間 ONE COLOR SPACE

シャウエンの街では壁、床、ドア、あらゆるものが蒼くペンキで塗られている。白一色の街は地中 海沿岸に多いが青は珍しい。現代建築で白一色の空間はよく使われる。SANAAやカンポ・バエザは白一 色のミニマルな空間を多用する。ガララテーゼ集合住宅のカルロ・アイモニーノ設計の棟には、ピロ ティの一部が赤や黄色、茶色一色で塗られた空間があり、日常的な場であるはずの集合住宅を不思議 な世界にしている。

* * *

ひとつの色の空間は、外部から想像のつかない内部(37)のひとつといえる。ひとつの色の空間は 実に超現実的な世界である。それが原色のもの(69)であればなおさらである。その空間に別の色の ものが入ると、それはシュールな佇まい(33)になる。産業を語るもの(10)である鉱山では、有色 の鉱物が空間を染め上げるという事例がある。また、遺跡の風格(30)を持った建物の中には、建物 全体が同色になるまで風化したものもある。打ちっ放しコンクリート(64)の建物は、素材がそれひ とつで統一されることが多くグレー一色の空間をつくり易い。


51.迷宮状態 LIKE A LABYRINTH  廃墟の内部空間は、さながら巨大迷 路のようである。 ▼  廃墟では、崩壊や植物によって行き 止まりができていたり、崩壊によって 新しい通路ができていたりと現役当時 の頃に比べ内部空間が複雑化している。 特に工場や鉱山の廃墟については、元 のつくりが複雑でさらに上下の動きも 多いため、とりわけ複雑な迷宮空間が できている。 ▼  内部空間を一筋縄ではいかない複雑 なものとする。自然発生的に空間を構 成してゆく。


51.迷宮状態 LIKE A LABYRINTH

空間を複雑化、迷宮化させることは建物のデザインの独創性向上に繋がる。古い街や砦では、攻め 入る敵を攪乱するために路地空間を迷宮化させていることが多い。普通の建物において、入り組んだ 内部空間は機能的によくないが、下馬の都営アパートの公園の遊具のように、空間の迷路性をうまく 活用した例もある。他にも養老天命反転地オフィスのようなアート色が強い建物ではわざと入り組ま せることがある。

* * *  様々な施設が群れて建つ(23)産業を語るもの(10)や工場のよう(25)なもの、度重なる増築(2 7)を繰り返したもの、セルフビルド(36)建築は、空間が複雑化し迷宮のようになっている場合が多 い。そして、建物の崩壊(19)、自然物の建物内への侵入(40)によって空間はさらに複雑化する。 また、行き止まりになった廊下(52)、長く続く廊下(53)、不完全な階段(73)、開かずの扉(7 5)が迷宮感を強める。山肌にへばりつくように建つ(16)建物では、高さ方向も複雑になり、階段空 間(54)もまた迷宮のようになる。


68.トタン GALVANIZED IRON SHEET

トタンほど廃墟的な建築材料はない。 ▼  これは廃墟に限らず、トタンはもろ く朽ち易い材料であるため、こまめに 補強が必要である。一方、トタンは薄 く加工が簡単で、細かく切って使うこ とができる。これらの性質のため、補 強を繰り返し、トタンで継ぎ接ぎされ たパッチワークのような特異なファ サードを持ったトタン建築が数多く存 在している。トタン建築は現役時代か ら廃墟の様相を呈しているものが多い。 工場や鉱山の廃墟では、施設がトタン 建築であることが多い。これらはどれ もひどく錆び付き、ぼろぼろに朽ち果 てている。 ▼  トタンを建材に用いる。これは赤く 錆び付いていることが望ましい。トタ ンは一枚ではなく、何枚も様々な大き さのものを継ぎ接ぎして使うこと。


68.トタン GALVANIZED IRON SHEET

トタンは、加工が簡単かつ安価であることから、倉庫や増設をする時など簡易な建物をつくる時に よく使われる。「はいしゃ」では、民家の外壁を典型的なトタンのパッチワークで仕上げている。 Wood Patchwork Houseはトタンではなく木であるが、壁を木のパッチワークで構成しており、その様 はまるでトタン建築のようである。

* * *  トタンは度重なる増築(27)を象徴する材料である。産業を語るもの(10)や工場のよう(25)な 建物、セルフビルド(36)の建物では、素材にトタンが使われている場合が多い。廃墟においては、 雨風に晒され時間が経過しているため決まって錆び付いた鉄(65)となっている。またトタンは壊れ やすく、かつ薄く軽いので、風に吹かれるとバタバタ響く物音(60)を立てる。


78.壁面を埋めるグラフィティ GRAFFITIES WHICH FILLS THE SURFACE OF A WALL  壁面を埋めるグラフィティは、マン ネリ化した空間に変化を与える。 ▼  マンション・ホテル廃墟のマンネリ 空間を打破してくれるのが、壁面を彩 るグラフィティである。これは同時に、 空間を負のオーラで満たしている。し かしグラフィティが廃墟にとって、マ イナスに働く場合もある。近年、摩耶 観光ホテル(No.293)の見所のひとつで あるダンスホールのステージに大きな グラフィティが描かれた。これはアー ルデコ調の建物のから浮いており、ノ スタルジックな雰囲気を損ねさせてい る。 ▼  同じような空間が連続しているとこ ろでは壁に絵や模様を施し空間を特徴 づけること。


78.壁面を埋めるグラフィティ GRAFFITIES WHICH FILLS THE SURFACE OF A WALL

同じような空間が連続する中津の高架下では、ひとつチャップリンの絵があることで空間に個性が 出ている。猪熊弦一郎の作品が壁に貼られた香川県庁舎のロビー、金沢21世紀美術館のマイケル・ リンの空間にも同じことがいえる。

* * *  グラフィティは単調な空間を原色のもの(69)で彩る。だだっ広い空間(46)、何も無い空間(4 5)、長く続く廊下(53)は単調な空間である。しかし、単調であるからといって安易にその空間をグ ラフィティで埋めてしまうと、それぞれの持つ純粋な空間として魅力、廃墟らしさが削がれてしまう 場合があるので気をつけること。打ちっ放しコンクリート(64)の壁面はグラフィティのキャンバス になりやすい。


72.割れた窓ガラス BROKEN WINDOW

窓ガラスが割れているかどうかは、 建物を廃墟かどうかを判別する第一の 項目である。 ▼  ガラスには透過性があり窓には欠か せない、しかし割れ易く、割れたら破 片が飛び散り危険、というのは子供で さえ理解しているガラスに対するイ メージだろう。便利かつ美しいガラス も割れると飛び散り危険なものとなる、 という事実は、物事の表裏一体性を象 徴しているように思える。つまり、ガ ラスが割れているかどうかは、建物が 廃墟であるのかどうかを大きく左右す る。 ▼  ガラスの割れた、ガラスの無い窓を 設置する。このとき床に破片、もしく はそれを思わせるものを散乱させるこ と。


72.割れた窓ガラス BROKEN WINDOW

実際に使う建築物にこのパタンを直接的に使うことは難しい。現代アートのシーンでは使われるこ ともあり、窓からガラスが滝のように流れる造形を表現した「Ariel」や、一部ガラスの抜かれた建具 をトンネル状に組み上げた「遠い記憶」、アーティスト自身が鏡を割るインスタレーションの 「Seventeen less one」などがこのパタンに当てはまる。

* * *  建物の崩壊(19)に、窓ガラスの破損は必至である。透過性はあるにしても空間を隔てていたガラ スが破損すると、それは穴の開いた壁(71)(そこが一面ガラス張りの場合は抜けた壁(55))と同 様の効果も持つ。さらに割れると破片が床に散乱する。これは視覚的に空間を廃墟らしくする他に、 踏むと音が鳴るので響く物音(60)にも効果的である。床に飛び散ったガラスの破片に光に当たると、 きらめき、それは浸水(43)によって床の上にできた水たまりを想起させる。ガラスの破損した壁か らは、自然物の建物内への侵入(40)がある。


81.当時を偲ぶ残留物 LEFT BEHIND THINGS WHICH REMEMBERS THAT TIME  当時を語る残留物は、空間全体をタ イムスリップさせる。 ▼  廃墟では、現役当時の空気を感じる ことが出来る。それは過去に使われて いた頃の記憶が染み付いた残留物の存 在が大きい。これらは単純に物が古い というだけでなく、使われていた当時 を思い起こさせる状態で残されており、 我々をセンチメンタルな思いにさせる。 人の手を離れたこれらの残留物は、現 在は使われること無く静かに朽ちてい る。 ▼  過去のものを現在の空間に組み込む。 それは当時の配置や状況をそのまま再 現してある方が望ましい。


81.当時を偲ぶ残留物 LEFT BEHIND THINGS WHICH REMEMBERS THAT TIME

柳幸典の犬島アートプロジェクト「精錬所」では、三島由紀夫が実際に使っていた建具を用い、そ れを宙に浮かせることで、一見現代的であるが懐かしさに満ちた空間を作り出している。ジブリ美術 館の宮崎駿のアトリエや奈良美智の「My Drawing Room」は、アトリエのある一日のひとコマを空間と して作り上げ作品としたものである。

* * *  産業を語るもの(10)、戦争を語るもの(11)、バブル時代の夢の跡(12)、古めかしいデザイン (29)の建物には当時を偲ぶ残留物が豊富に残されている。当時を偲ぶ残留物は時の止まった空間(3 8)を演出する。残留物としては、残された機械(82)、残された遊具(84)、古いデザインのディ ティール(86)のもの、無人の椅子(88)、裸電球(90)


ケ廃第 ー

墟六

スパ 章 スタ タン

デに ィよ る


第5章で紹介した廃墟パタンは、ひとつひとつのパタンが意味を持ち、 それぞれが建物を廃墟らしくする手助けをするものである。 しかし、実際にはこれら廃墟パタンが、独立してはたらいている訳ではない。 これらは互いに影響し合い、編み目のようなネットワークを構成して その効果を高め合っている。


関連パタンの項目に従い、各廃墟パタンの関連パタンを視覚的に表した。


現 役 建 築 物 へ の 適 用 現 役 建 築 物 へ の 適 用  実際の現役建築物について廃墟パタンでの分解を試み る。豊島美術館、ガララテーゼ集合住宅、犬島アートプ ロジェクト「精錬所」の3物件について、それぞれの建 物の建築的特徴のうち廃墟パタンで表現できるものを探 し、そのネットワークを構築する。

上の図のように関連するパタンを矢印で結ぶ。両側に矢の付いた矢印は、 どちらのパタンにも関連パタンとしてお互いが挙げられているもの。


豊 島 美 術 館  の 場 合


人の生活から遠いところ(1) 孤島に建つ(3) 広大な草原にポツリと(4) 自然との一体化(15) 形骸化した建物(20) 巨大である(21) シュールな佇まい(33) 時間によって変化する(34) 外部から想像のつかない内部(37) 野外化した屋内(39) 何も無い空間(45) だだっ広い空間(46) 高い天井(47) ひとつの色の空間(49) 抜けた壁(55) 差し込む光(57) 静けさ(59) 響く物音(60) 打ちっ放しコンクリート(64) 崩れた屋根(70) 穴の空いた壁(71) 割れた窓ガラス(72) 朽ちてぶら下がる(77) 未知なるもの(83) 陰鬱な天気(9) 自然物の建物内への侵入(40) 浸水(43)


豊島美術館における 廃墟パタンの ネットワーク図


考  察  図と表からも分かるように、いくつかのハブが存在する。この ハブの存在があることで、このセミラチス構造のネットワークが、 数多くのパタンが相互に複雑に絡み合うより複雑なものになって いる。例えば人の生活から遠いところ(1)から矢印を辿っていけ ば、そこへ向かう矢印の無い朽ちてぶら下がる(77)、未知なる もの(83)を除けば、その他全てのパタンへと結びつくことが出 来る。  ハブとなっているのは主にシュールな佇まい(33)、外部から 想像のつかない内部(37)、野外化した屋内(39)、自然物の建 物内への侵入(40)の4パタンで、他のパタンはそれを補うもの、 それに影響を受け生まれたものがほとんどを占める。そしてこれ らのハブを含め、その周囲のパタンは、豊島美術館の巨大なひと つの展示空間と天井に空けられた大きな2つの開口という特徴に より生まれたものである。この2つの建築的特徴が豊島美術館に 廃墟らしさを漂わせている。   また、表の「数」が一番多いのがシュールな佇まい(33)で ある。先ほどの2つの建築的特徴は、どちらもこのパタンに大き な影響を及ぼしている。

表1 豊島美術館における廃墟パタン同士の関連密度


ガ ラ ラ テ ー ゼ 集 合 住 宅 の 場 合


巨大である(21) 群れて建つ(23) 軍艦のよう(26) 度重なる増築(27) 全貌を望める場所(7) 列柱(31) シュールな佇まい(33) 時間によって変化する(34) 外部から想像のつかない内部(37) 何も無い空間(45) 高い天井(47) 薄暗い空間(48) ひとつの色の空間(49) 均等に並ぶ柱(50) 迷宮状態(51) 長く続く廊下(53) 階段空間(54) 差し込む光(57) 静けさ(59) 響く物音(60) 原色のもの(69) 穴の空いた壁(71)


ガララテーゼ集合住宅 における廃墟パタンの ネットワーク図


考  察  今回の調査対象は、ロッシの棟を取り囲む様に建つカルロ・ア イモニーノの棟である。アイモニーノの棟もロッシの棟と同じく、 超現実的な空間づくりがなされている。そのため、シュールな佇 まい(33)がひとつ大きなハブとなっている。表2でも、全ての 項目において、シュールな佇まい(33)が一番多くなっている。  ネットワーク図を見ても分かるように、ガララテーゼ集合住宅 を構成する廃墟パタンは、大きな2つの固まりをつくっている。 ひとつはシュールな佇まい(33)を中心とした、建物下層部の原 色に彩られた列柱空間に関するもの。もうひとつは、軍艦のよう (26)、度重なる増築(27)、迷宮状態(51)など建物の複雑に 入り組んだ構成に関するものである。この2つの建築的特徴が、 この建物を廃墟らしくしている。  今回、穴の空いた壁(71)はどのパタンとも繋がることが無 かった。実際には穴の空いた壁(71)は、階段空間(54)に微か に自然光を取り込み、そこを薄暗い空間(48)にしていたが、本 研究で作成した廃墟パタンではリンクを繋ぐことが出来なかった。 これは6-1.で述べた、繋がりがあまりに突飛すぎるもの、状況が あまりに限定的すぎるもの、に含まれる関係といえる。

表2 ガララテーゼ集合住宅における廃墟パタン同士の関連密度


犬 場 島 合 ア ー

ト プ ロ ジ ェ ク ト 「

精 錬 所 」


人の生活から遠いところ(1) 孤島に建つ(3) 広大な草原にポツリと(4) 産業を語るもの(10) 海との接近(17) そびえ立つ(22) 工場のよう(25) 異国情緒溢れる佇まい(28) 一人占め(8) 建物の崩壊(19) 遺跡の風格(30) 不在のモニュメント(32) レンガ造り(61) 古めかしいデザイン(29) シュールな佇まい(33) 外部から想像のつかない内部(37) 時の止まった空間(38) 浸水(43) 薄暗い空間(48) 長く続く廊下(53) 静けさ(59) 色褪せた素材(62) 朽ちてぶら下がる(77) 当時を偲ぶ残留物(81) 未知なるもの(83) 錆び付いた鉄(65)


「精錬所」における 廃墟パタンの ネットワーク図


考  察  「精錬所」における廃墟パタンがつくるネットワークは不在の モニュメント(32)とシュールな佇まい(33)と時の止まった空 間(38)をハブとしている。シュールな佇まい(33)は、アート 施設では望まれ、オープンに使われる要素である。むしろ「精錬 所」において、特徴的なのが不在のモニュメント(32)と時の止 まった空間(38)である。この2つの要素は、実際の廃墟におい ては欠かせない程、廃墟的な要素である。「精錬所」でもこの2 つのパタンは、図5を見ても分かるように、周辺のパタンによっ て肉付けされ、より意味深い存在として空間に漂っている。そし て、廃墟らしい雰囲気を建物全体にもたらしている。  この2つの廃墟パタンは「精錬所」が、銅の精錬所跡をリノ ベーションして建てられているということと、館内の展示品であ る三島由紀夫が実際に使用していた建具がぶら下げられた空間と が大きく影響している。このように実際に過去に使われていたも の(それは大きなものは建物から小さなものは素材や備品にま で)を再利用すると、建物が飛躍的に廃墟らしくなる。

表3 精錬所における廃墟パタン同士の関連密度


結第 七 論章


第6章で、廃墟パタン同士の関連がつくるネットワークを視覚的に表現し、この ネットワークによって、単語が集まって文章となり詩が生まれるように、廃墟パタ ンが集まって、膨大な数の“廃墟パタン・ランゲージ”が発生することを確認した。  そして、“この廃墟パタン・ランゲージを用いれば、廃墟らしい建物を形成する ことができる”ということの有効性を、現役の建築物を廃墟パタンで分解し、それ をネットワーク化し、廃墟パタン・ランゲージをつくることで、反対方向から検討 を行った。結果、廃墟ではない建築物でも、廃墟的要素が十分に散りばめられてい ることが分かり、そしてそれらが相互に複雑に絡み合うことで、セミラチス構造を なした廃墟パタン・ランゲージを構成することが分かった。


これこそ、奇を嗜み 変異に耽溺する、君の領域じゃないか。 『黒死館殺人事件』 小栗虫太郎


終  幕


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