Statue for Solo Organette(2019)

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塑像

− オルガニート独奏のための −

榊山 大亮

Daisuke Sakakiyama


Commissioned by Mr. Tomita & Nagoya University Composition Club

塑像

− オルガニート独奏のための −

Statue - for Solo Organette -

OP 2019-001

榊山 大亮

Daisuke Sakakiyama


●この曲について  この曲は、2018 年末から 2019 年 2 月にかけて、名古屋大学作曲同好会とその会長である冨田氏より委嘱を受けて、33 弁オルガニート独奏のために書かれた。 本来的にはオルガニートは指定様式に沿って打穴された演奏用のシートを楽器にセットし、スクリューを手で回すことで任意の楽譜を演奏できるオルゴールとして用いられるものであるが、 私はこの楽器を俯瞰的に、あるいは多角的に見つめ直してみることにした。そしてこの楽器自体を別の物体として捉え直す「異化」のプロセスから、様々なアイディアを得ることにしたのである。 結果的に、オルガニートは発音体と化し、楽器を叩き、あるいは擦り、広義の意味で楽器を演奏するというスタイルにたどり着いた。  現代音楽の歴史の中で、大きな転換点となったポスト・モダンの潮流に特徴的な異化のプロセスも、考えてみれば登場して久しいものである。伝統への徹底的なアンチテーゼとして その存在は指示され、爆発的な亜流を生み出していったわけだが、本来批判側であったはずの言語が、批判される側に回ったとするならどうか。 そこで私は異化から始まり、再同化のプロセスに歩みを進めてみようと考えた。その結果、異化によってもたらされる音楽の伝統否定の根幹たる、メロディ性や和声性を再びよみがえらせ、 かつ伝統の象徴の一つとなっていた反復の取り戻しを徐々に行うことで、異化の中に伝統音楽の生まれ変わりを再び励起するような構想となっていった。  上記の考えを曲に実装するにあたって、発音体としてのオルガニートに伝統的な演奏法、すなわちシートに刻まれた音楽を鳴らすという姿を取り戻さねばならなかった。 しかしそれを直截にやるのではなく、音の生まれるプロセスに立ち会うかのごとく、それは異化の中にあって、別の姿から本来の姿を取り戻す過程で無くてはならない。 そこで、シートには別に用意した楽曲を打穴し、これをその楽譜とは別に指示する「回転数リズム」に沿って鳴らすことで、形骸化させてしまい、それを再同化の立ち上がりとみなそうと考えた。  打穴譜用の楽曲は不規則な変拍子の十六分音符の羅列からなるもので、捉え方によっては十分従来の意味でのメロディとハーモニーが存在するものである。 しかしこの楽曲も完全な伝統ではなく、生まれ変わりの意味を希求せねばなんの意味もなさないので、二つの音響モデルを利用し、変質と生まれ変わりを表現することにしてみた。 すなわち、従来の和声法による五度圏の音楽と、本楽曲委嘱者の冨田氏考案の四度圏とロクリア旋法を結びつけて作られた、大変ユニークなモデル T.L.T である。  この二つのモデルで同様の楽譜を逆行させ、頂点にお互いのにじみ合いを作る譜面を考案し、これを楽器にセット、別に示されたリズムで回転させることで、形骸化、再同化を ひとつのプロセスで表現できることになるであろう。  オルガニートと舞台上で格闘し、音にならない音を出し続ける演奏者を、聴衆は塑像を鑑賞するかのように、奇異の視線、あるいは不可解な眼差しで眺めるであろう。  それは、不可解な過去への、あるいは批判側が権威側となる矛盾を、奇異の視線で眺める市民の姿を表し、過去への決別を意味するもになるであろう。 榊山 大亮

委嘱者  名古屋大学作曲同好会及び同会会長冨田悠暉氏 献呈   冨田悠暉氏 作曲年  2019 年 2 月 演奏時間 約 8 分(繰り返し回数により不定) 著作権  著作権は作曲家に帰属する 演奏権  向こう 1 年以内は委嘱者に独占演奏権がある


●演奏に際して 1. 譜表 Organette の本体、箱の部分を表す Organette の打穴シートを送るスクリューを表す 回転数リズムを表記する

楽器以外の演奏やモーションを示す

2. 奏法 本体の箱をスティックで擦る

本体の箱を爪で叩く

本体の箱を指で叩く

手を打ち合わせる

発音を徐々に変化させる

本体の箱を弓で弾く 手を擦り合わせる

机を爪で叩く

通常のボウイング

結果的に指示の強弱が得られないもの

足踏みによる音 指示された発音記号の音を発声する

本体の箱を指で擦る

手で机を叩く

弓を勢いよく振る

本体の箱を弓で弾く 水平方向のボウイング


本体の箱を弓で叩く

机を弓で弾く

可能な限り速くスクリューを回す

水平方向のボウイング

本体の箱を弓で弾く 円形のボウイング

本体の箱を弓で弾く

打穴譜をセットしない状態で

繰り返しの回数は任意

スクリューを回す

スクリューを弓で弾く

机を洗浄ブラシで擦る

通常から円形のボウイングに変化

本体の箱を弓で弾く

本体の箱に息を吹き付ける

円形から水平のボウイングに変化

本体に打穴譜をセットする この際終端と初めを繋ぎ 机を弓の木の部分で叩く

リング状にしておくこと

指示されたリズムのとおりに スクリューを回転させてゆく この場合 1 秒に 1 回転となる 本体の箱を弓の木の部分で擦る

身じろがずに静止する


Commissioned by Mr. Tomita & Nagoya University Music Composition Club

塑像

4 4

− オルガニート独奏のための −

2 4

q = 60 Hit Body by Nail

Rub by Stick

Body Screw f

p

pp

ff

f

p

f

Hit Body by Finger

3

D.Sakakiyama Rub Body by Finger

mp

G.P

Revolution

3 4 f

pp

Foot Dump

Action f

9

4 4

3 4

2 4

f

4 4

2 4

B S f

“ f”

f

R

Rub Both Hands

mp

Hit Desk by Nail

Hand Clap

p

Pronounce

Hit Desk by Hand

ff

graduary

A f

16

f

4 4

pp

f

f

pp

3 4

Normal Bowing

ff [sh] -

f

[s]

4 4

[sh]

ff

Vertical Bowing

B S p

p

f”

p

R Shake Bow

A

“f”

Copyright © 2019 D.Sakakiyama All Rights Reserved.

f”


2 4

2 22

Hit Body with Bow

4 4

3 4 graduary

4 4

Circular Bowing

graduary

B S mp

pp

“ff”

G.P

R

Hit Desk with Bow(Col legno)

c.l A f”

28

3 4

“ff”

Rub Body with Bow(Col legno)

c.l

2 4

3 4

2 4

[ts]

3 4

2 4

-

3 4

B S p

“ff”

mp

p

f”

“f”

p

R c.l

Hit Desk by Hand

Play Desk with Bow

A ff

“ff”

2 4

37

ff

f

4 4

Turn the Screw without Paper

3 4

ff

2 4

4 4

p

2 4

B S

“ f”

“f”

“ f”

pp

“ f”

G.P

R p

f

A [sh]

-

“ff”

p


45

4 4

Play Screw with Bow

5 4

4 4

3 4

4 4

3 4

3

B S

“ f”

“p”

“f”

“ f”

“ f”

“ f”

R f A

“ f”

[sh]

52

2 4

3 4

4 4

Blow Body

3 4

4 4

3 4

4 4

3 4

7 4

B S

“ff”

“pp”

Revolute with the specified Rythm.

G.P

R

3

Set Punched Paper

G.P

A ff

62

3 4

4 4

3 4

4 4

3 4

B S 5

R

A

5

3


4 71

4 4

3 4

4 4

3 4

4 4

B S 5

5

3

3

3

3

3

3

5

R

A

3 4

81

2 4

4 4

3 4

5 4

4 4

6 4

Repeat any time

4 4

B S Fast Possible

3

R

A p

91

3 4

2 4

B S p

4 4

3 4

3

4 4

p

f

3

G.P

R

A pp

mf

3

mp

f

f

f ff

mf


3 4

102

4 4

3 4

4 4

5

B S p

f

3

3

R f A 3

mp

f

f

f ff

ff

f

ff

f

[s]

-

113

B S 5

p

3

R

A 3

mf

2 4

122

mp

4 4

ff

B S p

3

mf

5

Freeze

3 3

G.P

R

G.P f

Rub Desk with Brush

A 3

mp

[sh]

-

[x] -

ff

[sh]

ff

p

3

fff


この楽譜はこのまま演奏するためのものではなく 事前に準備し、別の楽譜の指示の通り楽器にセットされ 別に指示される回転数リズムに従い用いられるものである

Commissioned by Mr.Toimta & Nagoya University Music Composition Club

Sheet for Punched Paper

塑像

8

12

− オルガニート独奏のための −

9

10

13

8

12

D.Sakakiyama

Organette

8

9

6

9

8

12

8

12

9

10

8

Org.

13

8

9

10

9

6

9

9

16

Org.

10

12

4

12

24

Org.

Copyright © 2019 D.Sakakiyama All Right Reserved.

9

6

9


8

2

12

8

13

10

9

12

33

Org.

8

9

6

9

8

12

8

40

Org.

13

10

9

12

47

Org.

※この楽譜はOrganette用の打穴譜として加工され 円になるよう前後を繋げ、リング状にした状態で 楽器にセットされる。 セットされる箇所は別の楽譜上に指示されており、 セット後は、その楽譜に書かれた回転数リズムの 指示に従い用いられるため、上記の表記内容は 形骸化され無意味なものとなる。

※この楽譜は右の理由により、表記された音価は意味をなしていない。 このため、上記の記譜自体は一例を示したものに過ぎず、 例えば、二倍、三倍・・・と拡大されたり、1/2倍、1/3倍と縮小されて打穴されても 全く構わない。 むしろその様な加工をすることで、結果的に得られる音は演奏に際して 変化する要素となり、よりユニークなものとなるだろう。

8


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