Q2 2019 High-Yield and Bank Loan Outlook Report (Japan)

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2019年5月

ハイイールド債とバンクローンの見通し クレジットリスクとデフォルトランウェイの定量化 要旨 米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)がともにハト派に転じたことにより、中央 Investment Professionals

銀行が取り返しのつかない政策ミスを犯す方向に向かっているというリスク認識が後退し、これ

Scott Minerd

が支援材料となって、両地域の経済成長が年内に持ち直す可能性さえある。しかし、ユーロドル

Chairman of Investments and

先物市場はFRBが2020年3月までに金融緩和を行うとほぼ確実視して織り込んでおり、市場は

Global Chief Investment Officer

利上げ中止の効果を信じていない様子である。クレジット投資家は、年内および2020年に想定

Kevin H. Gundersen, CFA

し得るあらゆるシナリオ展開に備えなければならない。

Senior Managing Director,

統計資料によると、仮に景気後退が今すぐ始まったとしても、ハイイールド社債とバンクローンの

Portfolio Manager

発行体はデフォルトの大きな波が押し寄せるまでに少なくとも12か月間の猶予期間を持てる可

Thomas J. Hauser

能性がある。しかし、2018年第4四半期に経験したように、市場のバリュエーションとファンダメン

Senior Managing Director,

タルズにズレが生じるかもしれない。投資家はクレジットポートフォリオにおいて引き続き長期的

Portfolio Manager

な視点を持ち、景気サイクル後期のリスクを適宜管理すべきである。

Brian Smedley Senior Managing Director, Head of Macroeconomic and

本レポートのハイライト ▪

Investment Research Maria M. Giraldo, CFA

バンクローン・ミューチュアル・ファンドからの資金流出に加えて、起債が担保付債へとシフト したことにより、ローン市場における発行量が減少した。

レバレッジドクレジット市場は、新規供給不足が寄与する形で、第1四半期としては史上最

Managing Director,

高水準のパフォーマンスを記録した。2019年第1四半期には、ハイイールド社債は7.4%の

Investment Research

トータルリターンと5.7%の超過リターン、そしてバンクローンは3.8%のトータルリターンと 3.1%の超過リターンをそれぞれもたらした。 ▪

ハイイールド社債発行体のレバレッジ指標は2018年第4四半期に5四半期連続で低下し、 レバレッジレシオは2015年の水準に戻った。ローン発行体のファンダメンタルズは、レバレ ッジドレシオでみると、ハイイールド社債発行体より若干弱いが、インタレストカバレッジでみ ると、同じ程度であることが分かった。

仮に景気後退が今すぐ始まったとしても、インタレストカバレッジが4.3倍という健全な水準 であれば、両セクターともにデフォルト件数が大幅に増加するまでに少なくとも12か月間の 猶予期間を持てる可能性がある。

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マクロ経済概況 景気判断を惑わすフェイント 「FRB がリスク資産の保有を

2018年末から2019年初めの米国の経済指標は、景気後退懸念をあおり、FRBに利上げサイク

長きにわたり奨励すればする

ルの中止を催促し、3か月物米国財務省短期証券(T-Bill) 対10年国債のイールドカーブをイン

ほど、市場はより慢心し、レバ

バートさせた。住宅建設活動は2018年後半に著しく低下し、個人消費の伸びは減速し、雇用増

レッジレシオはより上昇する。

加のペースは落ち、鉱工業生産は伸び悩んだ。成長基調は恐らく(数値が示すよりも)堅調であ

そして、結局は報いを受ける

るとみられるが、季節的な統計の歪み、政府閉鎖、悪天候、税の還付金支払の遅れによって、

日が来る。いつか、景気後退 入りするだろう。リスクプレミア

統計数値が低めに出ている。実際、第1四半期の国内総生産(GDP)速報値は3.2%と市場予 測を上回ったが、在庫増加と輸出増加の影響で、2.0~2.5%前後とされるトレンド成長より高め の数字となった。

ムが各市場で継続的に低下し ていないか非常に注意して見 守りたい」 – スコット・マイナード

金利低下とリスク資産の回復に支えられ、第2四半期の米国の経済成長率は持ち直し、前四半 期比で3%前後になると予想される。これは2018年からの減速傾向を確認するものとなるだろ う。ちなみに、2018年第2四半期の成長率は年率換算で4.2%を記録し、高いハードルが設定さ れた。ただ、3%前後の成長率となれば、冬場の減速が景気判断を惑わすフェイントであったこ とが判明する。

グッゲンハイム インベストメンツ チェアマン兼グローバル CIO

より長期的な視点で見ると、弊社が米国リセッションダッシュボードの一部として追跡調査してい る指標は、あたかも1年ほどで景気後退入りするかのような動きを引き続き示している。失業率 は長年着実に低下していたがその後横ばいとなり、FRBは金利に関して中立姿勢に転じ、イー ルドカーブはインバートし、主要指標は伸び悩み、総労働時間の伸びは鈍化し、小売売上高の 伸び率は実質ベースで急落している。総合的に判断すると、これらのデータポイントは弊社が以 前から示してきた、「早ければ2020年前半にも始まる次の景気後退に備えるべきだ」という見方 を裏付けている。 海外では、経済指標の継続的な弱さに促され、ついに政策対応がとられた。ECBはモメンタム が減速する中で根強い悪材料が増えていると認識し、よって、2019年の実質GDP成長率の見 通しを12月の予測値から0.6%ポイント下方修正して1.1%とした。また、その直後、ECBは追加 金融緩和のための政策対応の実施に着手した。利上げは今や以前示唆された時期より遅くな るとみられ、ECBは一連の条件付き長期(2年)リファイナンシングオペレーションズを新設した。 第1四半期のGDP成長率が改善すれば、欧州の景気回復の前触れとなるかもしれない。 景気が減速しているもう一つの大国、中国では、最近の経済活動に軟化と安定化の兆しが入り 混じって見られた。4月の工業生産の伸びは年率換算で5.4%に減速し、世界金融危機以降で 最低の水準となった。小売売上高の伸びも期待外れの7.2%となり、2003年以来の低さであっ た。中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、3か月間にわたって50を下回った後で3月に 50.5に上昇したものの、4月には予想外の50.1に低下した。しかし、春節や労働節の連休(黄金 周)のタイミング上、これらの指標に歪みが生じたため、最近の景気刺激策の効果を正しく判断 するには、さらに数か月のデータが必要だろう。減税とインフラ投資を通じた発表済みの財政刺 激策に加え、預金準備率の引き下げという形で金融面からも景気刺激策を実施することにより、 中国の景気は押し上げられると見込まれる。最近の関税引き上げが成長に大きな影響を及ぼ すようであれば、政策当局は追加刺激策を実施するだろう。

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各国政府が自国経済のために実施する刺激策は、米国の経済活動にとってやがて好材料とし て作用する可能性がある。2018年の米国の輸出がやや不振であったことや企業の今年の業績 予想が下方修正されていることから明らかなように、世界の経済成長が低下傾向にあることは 米国経済の重しとなってきた。政策変更が西欧全体の景気後退を回避するか、中国の成長を押 し上げるのに十分なものとなれば、米国の金利低下と相まって、米国の年内の成長にプラスに 働くだろう。しかし、米国、欧州、中国が安心するのはまだ早い。ブレグジット(英国のEU離脱) は合意に至らず、ドイツの製造業の業況は著しく悪化し、米中関税交渉は未決着であることか ら、これら三地域はいずれも世界の経済成長にとって依然として主要なリスクとなっている。欧 州やメキシコの自動車関連輸出に対して新たな関税が課される見通しであり、カタリストとなるプ ラス材料がなければ、米国が今後辿る道は現時点では依然として暗いままである。 いみじくも、FRBは2019年3月の連邦公開市場委員会(FOMC)の会合で金利を据え置くことに よって1月に発表した政策転換の正当性を確認し、フェデラルファンドレートの予測中央値は年 内に利上げがないことを示唆した。また、FRBは3月から9月まで償還上限を徐々に引き下げ、 バランスシートの規模の縮小を9月に終了すると発表した。こうしたハト派転向にもかかわらず、 あるいは恐らく転向したがために、3か月物米国財務省短期証券(T-Bill)対10年国債のイールド カーブが3月のFOMC会合の2日後に、2007年以来初めてインバートした。3か月物短期証券と 10年国債の利回り逆転は、景気後退の前兆として比較的信頼できる指標の一つとされており、 一般に景気後退に平均12か月先行して出現する。債券市場は利上げ中止が景気後退を回避 するのに十分でないというシグナルを出しており、弊社も同感だが、景気後退入りが弊社予想よ り遅くなる可能性は排除できない。とはいえ、リスク資産、特にハイイールド債とバンクローンの 上値の余地がやや限定的であり、現時点では、リスクが高い資産へのシフトは進みそうにない。 3 か月物米国財務省短期証券と 10 年国債の利回り逆転は景気後

米国債のイールドカーブは、信頼できる景気後退指標である

退の前兆として比較的信頼できる 指標の一つとされており、一般に 景気後退に平均 12 か月先行して 出現する。債券市場は利上げ中止 が景気後退を回避するのに十分で ないというシグナルを出している。

Source: Guggenheim Investments, Bloomberg. Data as of 5.16.2019. Shaded areas represent recession.

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ラリーにご用心 11月と12月のスプレッドの大幅拡大や流動性要因による下落を経て、市場はレバレッジドク レジットの動向に順応してきた。こうした状況は2019年も続き得るだろうか? FRBの転向 は格付けの引き下げやデフォルトサイクルを防ぐには遅すぎただろうか? 市場はこれらの 問いに対する答えを依然として思案中のようである。というのは、新規発行件数の低迷と高 いリターンが、クレジットリスクをさらにとる市場の意欲について矛盾したメッセージを送って いるからである。しかし、発行の低迷を背景とした価格上昇は以前から持続不能と見られて いる。新規供給が限定的であると、価格が上昇しやすくなる。 ハイイールド社債と機関投資家向けローンの発行を合わせると、2019年1月から4月までの 総発行額は1,760億ドルとなり、前年同期比で28%の減少、2017年同期比で45%の減少で あった。こうした減少の主因は、機関投資家向けローン市場にある。同市場では、変動利付 き資産への投資需要の減退と新発債の利回り上昇の影響で発行が前年同期比で40%減 少し、こうした状況が発行体のリファイナンス取引需要を減退させている。年内の利上げが ないと織り込まれる中で、ローン・ミューチュアル・ファンドからの資金流出は、流出ペースが 落ちているものの、続いている。

ハイイールド社債と機関投資家向

2017 年や 2018 年の同時期に比べて発行が少ない

けローンの発行を合わせると、 2019 年 1 月から 4 月までの総発 行額は 1,760 億ドルとなり、前年 同期比で 28%の減少、2017 年同 期比で 45%の減少であった。

Source: Guggenheim Investments, S&P LCD. Data as of 4.30.2019. Historical year-to-date data through 4.30 of each year.

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ローンの需要減退を背景に、今年は機関投資家向けローンの発行体がハイイールド社債市 場に移ってきた。2019年4月末までにハイイールド社債の発行を完了した個別発行体89社 のうち、49社が2013年以来2回以上ローンも発行している。クロスオーバー(垣根を超えた 発行)の目的は様々である。多くの場合、発行体は既存ローン(レボルビング・クレジット・フ ァシリティが多い)の一部を債券に交換している(「bond-for loan takeout」と称される)。こう した交換により、発行体は通常、追加デットによる資金調達、既存デットの満期の延長、既 存デットの資金調達費用をより割安なものに切り替えることが可能となる。こうした交換は今 年、ハイイールド社債の新規発行総額の25%超を占めている。 ローン発行体がハイイールド債のプライマリー市場に惹きつけられて移ってきたにもかかわ らず、債券発行は前年同期比で3%の減少となった。しかし、比較的限定的な新発債の供給 は流通市場のパフォーマンスにとって追い風となっている。今年のハイイールド社債は2009 年以降で最も好調なスタートを切り、第1四半期のリターンは7.4%、4月末の年初来リターン は8.9%となった。レバレッジド・ローン・インデックスはハイイールド社債をアンダーパフォー ムしたが、それでも3.8%のプラスのリターン(2010年第1四半期以来の高い四半期リター ン)を実現し、4月末の年初来リターンは5.4%となった。弊社は向こう3~6か月間にわたっ てプラスのリターンをあげると引き続き予想しているが、ハイイールド社債のリターンはより 持続可能なペースに低下しつつある。これは、債券のコンベクシティがかなり小さくなり、ス プレッドがさらに縮小する余地が限定的なためである。 こうした環境下で、市場が今後の金融政策対応を織り込む場合は、特に注意する必要があ る。4月末現在、フェデラルファンド金利先物はFRBが2020年末までに金融緩和を実施する 確率が高いことを織り込んでいる。これは、成長が下振れするリスクがあると市場参加者が みていることを示唆しており、リスク資産にとっては悪材料となる。市場は金融緩和をほぼ確 実視して織り込んでいることから、投資家は想定されるあらゆる結果に備えなければならな い。

規律あるハイイールド債発行体のマーチ 今後の四半期に想定し得る幅広いシナリオを検討する際に、問うべき重要な点はレバレッジ ドクレジット市場が景気の下降局面でどのような展開になるかである。この点に関して、弊社 は 2018 年第 4 四半期に発表された直近のファンダメンタルデータ一式を調べてみた。 ファンダメンタルズ面では、ハイイールド社債市場は2015年初めと似ているように思われ る。当時はちょうど、業績リセッションに向かいつつあり、原油が最悪の弱気相場に入ろうと していた頃であった。ハイイールド社債の発行体は2017年年央から収益が力強く伸びたた め、グロス・レバレッジ・レシオ(総有利子負債/支払利息・税金・減価償却・償却控除前利 益、すなわちEBITDA)の中央値でみると、2018年第4四半期まで5四半期連続で着実にレ バレッジ解消が進み、その恩恵を受けてきた。2018年第4四半期時点において、グロス・レ バレッジ・レシオの中央値は3.8倍であり、直近ピークの4.6倍から低下した。これは現在の ハイイールド社債発行体ユニバースに基づくものであり、もはやインデックスに入っていない 発行体を過去データから除いている。デフォルトした銘柄を除くことにより、生き残り銘柄の 集合と最近の新規組み入れ銘柄がどのように推移してきたかが分かる。

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グロス・レバレッジ・レシオの中央

ハイイールド社債発行体ユニバースのレバレッジとインタレストカバレッジが改善

値でみると、ハイイールド社債の 発行体は 2018 年第 4 四半期ま で 5 四半期連続で着実にレバレ ッジ解消が進み、その恩恵を受け てきた。2018 年第 4 四半期時点 において、グロス・レバレッジ・レ シオの中央値は 3.8 倍であり、直 近ピークの 4.6 倍から低下した。 また、インタレストカバレッジは、 リファイナンスと力強い EBITDA の伸びを背景に改善した。

Source: Guggenheim Investments, ICE Bank of America Merrill Lynch, Factset. Data as of 12.31.2018.

レバレッジレシオの低下は、単なる力強い EBITDA の伸びによってもたらされたのではな い。ハイイールド社債の発行体が過去 3 年間に驚くほど規律ある姿勢をとった結果でもあ る。2016 年以来、ハイイールド債の発行体はスプレッドが縮小する機会を生かし、期近の 高クーポン債を償還してより割安な長期債と入れ替えてきた。2016 年以降は毎年、リファイ ナンス取引がプライマリー市場の起債の 60%超を占め、前回の景気サイクルの最後の 2 年(2006 年と 2007 年)とは対照的である。当時は、リファイナンス用の起債は 31%にすぎ ず、52%が合併・買収(M&A)とレバレッジドバイアウト(LBO)取引のためであった。ハイイ ールド債発行体のバランスシートの負債総額の伸びは 2011~2015 年の前年比平均 4.4%から鈍化し、2016~2018 年にはわずか同 0.7%となったが、これは厳密には発行体 がローン市場に移ったせいではないことを意味している。この結果、ICE バンクオブアメリ カ・メリルリンチ・ハイイールド・コンストレインド・インデックスの額面総残高は 2015 年以来 8%縮小した。 インタレストカバレッジは、リファイナンスと力強い EBITDA の伸びを背景に改善した。ファク トセット社がまとめたクレジットレシオによると、第 4 四半期の支払利息に対する過去 12 か 月の EBITDA の比率の中央値は 4.3 倍に上昇し、2015 年第 3 四半期以来の高い水準と なっている。ファンダメンタルズの改善と FRB の最近のハト派転向を踏まえれば、ハイイー ルド債は現在の経済情勢下において少なくとも向こう 2 四半期にわたって順調に推移する 可能性が高い。額面加重ベースのデフォルト率が若干上昇して年末には 3%前後になりそ うだが、依然として過去平均の 4%を下回ると弊社は引き続きみている。

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2016 年以降は毎年、リファイナ

2016~2018 年の活発なリファイナンス活動により、借入コストが低下

ンス取引がプライマリー市場の 起債の 60%超を占めており、前 回の景気サイクルの最後の 2 年(2006 年と 2007 年)とは対 照的である。当時は、リファイナ ンス用の起債は 31%にすぎ ず、52%が M&A と LBO 取引 のためであった。

Source: Guggenheim Investments, S&P LCD. Data as of 5.15.2019.

過去を想起させるもの ローン発行体のクレジット指標は、インデックス構成銘柄の随時更新集合(動的集合)データ に基づくと改善がみられたが、インデックスにもはや入っていない銘柄を当データから削除 すると、悪化したことになる。動的リストによると、総有利子負債/EBITDA 倍率の中央値は 2014~2016 年の大部分において 4.5 倍を上回ったが、2018 年第 4 四半期には 4.1 倍に 低下した。インタレストカバレッジ・レシオ(EBITDA/支払利息)の中央値は 2013 年がわず か 3.1 倍だったのに対して、現在は 4.3 倍である。しかし、インデックスに現在入っていない 銘柄をデータから除くと、やや異なる傾向が見られる。現在のユニバースに基づけば、レバ レッジレシオの中央値は 2016 年以来 4.0~4.2 倍の狭いレンジ内にあるが、2014 年と比 べると 0.8 倍高く、インタレストカバレッジは 0.7 倍低い。確かに、ローンインデックスから外 された銘柄を除く弊社のやり方ではサバイバーシップバイアスが生じるが、現在のユニバー スのファンダメンタルズがどのように推移してきたかを見ることができる。 過去 5 年間に、ローンインデックスの構成銘柄はクレジットデフォルト、格付けの引き上げま たは繰上償還を理由にインデックスから外された。インデックス構成銘柄の回転率も高止ま りしている。これは、ハイイールド社債市場と異なり、ローン発行の多くが 2014 年以来、 M&A および LBO 取引のために行われてきたためであり、現在のインデックス構成銘柄の 回転率は 2007~2008 年の M&A/LBO 取引のシェアと整合する水準にある。多くの場 合、古いローンは M&A 取引を通じて償還されるか、統合会社の下でより大型ローンと入れ 替えられてきた。固定ユニバースか動的ユニバースのどちらを評価対象とするかによって、 過去データのトレンドが異なる理由は、これらの要因により説明される。

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現在のユニバースに基づけば、レ

現在のユニバースに基づけば、ローンのファンダメンタルズは悪化した

バレッジレシオの中央値は 2016 年以来 4.0~4.2 倍の狭いレンジ 内にあるが、2014 年と比べると 0.8 倍高く、インタレストカバレッジ は 0.7 倍低い。

Source: Guggenheim Investments, Credit Suisse, Factset. Data as of 12.31.2018.

M&AおよびLBO取引のレバレッジ倍率は高めのことが多いため、新発債の有利子負債/ EBITDA倍率(第1順位のみか全体かを問わない)は上昇している。S&P LCDのデータによ ると、新発債の第1順位有利子負債/EBITDA倍率は2013年に3.6倍にすぎなかったが、 2018年には4.2倍に上昇した。こうした傾向は、現在の構成銘柄ユニバースのファンダメン タルデータと一致する部分が比較的多い。

ハイイールド社債市場とは異な

過去を想起させるもの:ローンの M&A/LBO 取引は 2007 年と類似

り、M&A および LBO 取引は 2014 年以来、ローン発行で大き なシェアを占め、現在は 2007~ 2008 年と同程度の水準にある。 こうした傾向はローン発行体のレ バレッジレシオの着実な上昇の一 因となってきた。

Source: Guggenheim Investments, S&P LCD. Data as of 5.15.2019.

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ハイイールド社債とバンクローン市場を並べて比較した場合、レバレッジレシオだけで見れ ば、ハイイールド社債発行体の方が景気後退期にデフォルトを回避する上で若干有利な状 況にあると言えよう。ハイイールド債のレバレッジレシオ中央値は 3.8 倍であり、バンクロー ン市場のレバレッジ中央値である 4.1 倍を若干下回っている(これは発行体の質の分布に 差があることの反映でもある)。また、ハイイールド債の発行体が長年にわたって積極的に レバレッジを解消してきたことも反映している。一方、ローン市場のレバレッジが若干高いの は、2013 年以来、現在のローン構成銘柄の負債の伸びが総利益の伸びを上回ってきたこ とによるものである。 ローンは資本構成において無担保債より上位にあるため、ローントランシェのレバレッジは 発行体の総レバレッジを下回ることが多い。しかし、弊社は総レバレッジも考慮すべきだと考 える。負債倍率が高いと、借り手がより厳しい経済シナリオ下で追加の資金調達を行えなく なる可能性があるほか、当面の流動性を確保し、信用供与を受けることでデフォルトに至る までの期間を引き延ばすことも難しくなるかもしれない。これは、景気後退期のデフォルト確 率を上昇させることになる。

新発債の有利子負債/EBITDA

プライマリー市場がさらに多くのレバレッジドローン発行体を取り込んでいる

倍率(第 1 順位のみか全体かを 問わない)が上昇している。S&P LCD のデータによると、新発債の 第 1 順位有利子負債/EBITDA 倍率は 2013 年に 3.6 倍にすぎな かったが、2018 年には 4.2 倍に 上昇した。

Source: Guggenheim Investments, S&P LCD. Data as of 12.31.2018. Shaded area represents recession.

デフォルトが発生した場合に、貸し手がどの程度資金を回収できそうか考えることが重要で ある。第 1 順位ローン投資家は従来、デフォルト後に平均して元本の 70%を回収してきた。 しかし、ローンのみで構成されるストラクチャーが多い今回のサイクルでは、総レバレッジも 回収見通しに影響を与える可能性がある。S&P レーティングの報告によると、債務のクッシ ョンは 2007 年の平均 30%から 2018 年には 20%に低下した。したがって、高いレバレッジ レシオはローンのデフォルト確率と貸し手の最終的な回収率の双方に影響を与える可能性 がある。しかし、弊社の見解では、ハイイールド債の債権者もデフォルト発生時にはローン の貸手と同等の影響を受けるとみており、このことを心に留めておくことが重要である。

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ローン市場の 4.1 倍というレバレッジレシオは、現在のところ資金調達に支障が出るほど高 い水準ではなく、将来的にも高いとは言えないかもしれない。現在、市場に出される新発債 には、当初のレバレッジ倍率がさらに高いものがある。従来、レバレッジレシオの中央値が 6 倍以上の銘柄は規制当局の精査の対象となっており、インタレスト・カバレッジ・レシオの 中央値が 3 倍未満の時期はデフォルトが多い時期と一致する。両セクターともに、カバレッ ジ中央値は 4.3 倍という健全な水準にある。当然のことながら、弱点は常に存在する。中央 値のあいまいさの陰に隠れているが、ハイイールド社債またはローンの発行体では、102 社 のインタレストカバレッジが 3 倍未満、119 社のレバレッジ倍率が 6 倍を上回っていることが 分かった。

投資への示唆 楽観的に見れば、2018 年第 4 四半期のレバレッジレシオとインタレストカバレッジの中央値 は、仮に今すぐ景気後退入りしたとしても、レバレッジド・クレジット・セクターでデフォルトが 多発するまでにまだ少なくとも 12 か月の猶予期間があることを示唆している。前のセクショ ンで指摘した通り、バンクローン市場とハイイールド社債市場におけるレバレッジレシオとイ ンタレストカバレッジは 2015 年と似ているように思える。2015 年は業績リセッション、新規 発行の減少、スプレッドの拡大に直面したにもかかわらず、企業のデフォルトはエネルギー セクターにほぼ集中し、デフォルト件数は 2016 年になるまで増加しなかった。つまり、およ そ 12 か月間の猶予期間があったことになる。当セクターのエネルギーへのエクスポージャ ーが限定的であるため、ローン市場でデフォルトが深刻化することはなかった。 もし 2016 年に景気後退入りしていたならば、市場では複数の業種でデフォルトが発生し、 スプレッドの拡大が長期間続き、新規発行が少数にとどまっただろうと思われる。次の景気 下降時には、レバレッジドクレジットの発行体はまずクレジットスプレッドの拡大に直面し、プ ライマリー市場や銀行融資を通じて資金調達しづらくなると予想される。そして、景気後退が 鮮明になるにつれ、発行体企業は景気後退に起因する典型的な収益低下に見舞われる可 能性がある。バンクオブアメリカ・メリルリンチのリサーチデータによると、EBITDA 平均値は 先の二つの景気後退期に前年比で 20%減少した。現在のインタレスト・カバレッジ・レシオ に基づけば、同レシオが懸念水準である 3 倍を割り込む局面で EBITDA は現在の水準か ら 30%減少することになる。なお、クレジット指標は業界によって異なるため、これは大まか な目安である。 弊社のレーダーには早ければ 2020 年前半にも景気後退入りすると出ており、デフォルトが 2021 年に増加すると予想される。デフォルトサイクルの規模は、景気後退の長さと深刻度、 財政・金融面からの景気刺激策によって成長を促進できるかどうか、投資家の信用供与意 欲、BBB 格社債市場からの格下げがハイイールド債市場に及ぼすテクニカルな影響など、 様々な要因に左右される。弊社は、市場価格が予想されるデフォルトを先行して織り込むこ とを念頭に置き、過去の景気後退環境で生じたような大幅なスプレッド拡大を回避するため に、ファンダメンタルズと相対的価値の両方を考慮しながら、高いクレジットの質を引き続き 維持する方針である。

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重要な通知及び表明事項 指数及びその他の定義 ここに表示された指数は、操作が可能なものでなく、直接投資の対象とすることはできません。指数のパフォーマンスは取引コスト、報酬または費 用を含みません。 Credit Suisse Leveraged Loan Index は、投資可能な米ドル建レバレッジ・ローン市場をトラックします。これは、「5B」またはそれ以下のローン から構成され、この指数に含まれる最も高いローンは、ムーディーズ/SP の格付において Baa1/BB+または Ba1/BBB+です。すべてのローンは、 先進国に所在する借手による最低 1 年満期の借入れ済みタームローンです。 Intercontinental Exchange (ICE) Bank of America Merrill Lynch High-Yield Index はハイイールド社債の一般的に使用されるベンチマーク指数 です。 S&P 500 Indexは、米国において活発に取引されている500銘柄の株式を資本加重平均したものであり、経済全般の動向の尺度となるべく構築 され、すべての主要産業を含みます。 ベーシス・ポイント(bps)は、ある商品の価値または利回りの変化を表すために用いられる計測単位です。1ベーシス・ポイントは、0.01%と同一で す。 Contractual spreadとは、合意されたLIBORの上乗せ固定スプレッドをいい、約定価格およびディスカウント・マージンで示されたローンの想定年 限を除外します。 The three-year Discount margin to maturity (dmm)、またはディスカウント・マージンは、ローンの利回り(yield-to-refunding)から現在の3ヶ月 LIBORを差し引いたものです。平均満期は3年と想定しています。 London Interbank Offered Rate (Libor)は、無担保の短期融資の短期融資の際の銀行間の金利をいいます。 Spreadとは、同様の満期の米国債の利回りとの差を言います。 EBITDAとは、利払い・税引き前・償却前利益は一般に使用されている事業の収益力の指標。 リスクに対する考察 確定利付商品への投資は、信用リスク、流動性リスク、金利リスクおよび商品によってはカウンターパーティーリスクを負っています。これらリスク は、確定利付商品への投資が、一つの発行体、産業、地域または国に集中している限りにおいて、増大する可能性があります。一般に、確定利 付商品への投資の市場価値は、とりわけ、元となる債務の対象債務者または合成証券の場合は参照対象債務の債務者もしくは発行者の財務 状況、経済全般の状況、特定の金融市場、政治的イベント、ある特定の産業の発展またはトレンドの状況及び適用金利水準の変動状況に応じ て変動します。 バンクローンは、様々な理由により非収益化したり不良化することがあります。非収益化した、または不良化したローンは、実態的に新しい条件 のための交渉又はリストラクチャリングを必要とすることがあり、それが、とりわけ、利率の相当な減免、ローン元本の相当な償却等の結果となる ことがあります。加えて、特定のバンクローンは、高度にカスタマイズ化されているので、公に取引される証券に比べ容易に売買できないことがあ ります。セカンダリー取引市場においては、制約が課せられる場合があり、適切なレベルの流動性が確約されるわけではありません。ある種の銀 行ローンにおいては、譲渡に当たって制約が課せられる場合があります。バンクローンに関連するリスクは、一般的に、プレミアムまたはペナル ティーの受け払いなくいつにても繰り上げ償還が発生する可能性を含みます。 ハイ・イールド・デット証券は、一般に無担保であり、当該発行体の一部の他の債務よりも劣後することがあります。ハイ・イールド・デット証券が 低格付けであり、投資適格未満のローンであることは、発行体の財務状況、経済全般の情勢又はこれら双方が不利に変化した場合に、元本又 は金利の支払い能力を毀損する可能性がより大きいことを反映しています。投資適格未満の格付の証券は、一般に「ジャンク・ボンド」と呼ばれ ています。ハイ・イールド・デット証券のリスクは、とりわけ下記を含みます。 (i) 流動性及びセカンダリー市場のサポートが限られていること、 (ii) 適用金利水準の変化により市場において相当程度のボラティティが生ずること、(iii)ハイ・イールド・デット証券の発行者の収入が、 債務の返済に あたり不十分となる可能性があること、並びに (iv) 金利上場局面、経済の下降局面又はこれら双方により、このようなハイ・イールド・デット証券 の発行体の信用力低下及び潜在的な倒産の可能性。経済情勢の悪化又は金利上昇により、ハイ・イールド・デット証券の市場が著しく毀損され ることがあり、発行済のハイ・イールド・デット証券の価値及び当該発行体の元利金の返済能力に悪影響を及ぼす可能性があります。ハイ・イー ルド・デット証券の発行体は、レバレッジ比率が高いことがあり、従来からある資金調達ができない可能性があります。 この資料は専ら情報の提供を目的としたものであり、いかなる有価証券、投資戦略または投資商品に関して、投資助言または推奨をするもので はありません。この資料はフィデューシャリー義務の立場から提供されたものではなく、投資決定を行うための十分な根拠となることを意図したも のとみなすべきではありません。また、特定の有価証券の売買に関する勧誘とみなしてはなりません。 本資料は、会計、法務または税務上のア ドバイスを供与するという考えから頒布するものではありません。これらの問題については、貴社の法律または税務上のアドバイザーに助言を求 めてください。

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本資料は、著者の意見を含みますが、グッゲンハイム・パートナーズまたはその子会社の意見を含むものとは限りません。著者の意見は、予告 なく変更することがあります。本資料に含まれる将来にむかっての表明、予測および一定の情報は、自社または他社の調査および他の情報源に 基づくものです。本資料に含まれる情報は、信頼に足ると信ずる情報源より取得していますが、その正確性を保証するものではありません。本資 料の如何なる部分も、グッゲンハイム パートナーズLLCの書面による明示的同意なしには、如何なる方法であれ、複製し、または引用することは できません。過去のパフォーマンスは、将来の結果を暗示するものではなく、そのような情報に基づく判断につき、現時点における正確性、責任 を表明または保証するものではありません。 グッゲンハイム・インベストメンツの預り資産総額は、2019年3月31日現在のものです。ここには、運用資産に対するレバレッジを含む113億米ド ルを含みます。グッゲンハイム・インベストメンツは、下記の関係会社による投資運用業務を総称します。Guggenheim Partners Investment Management, LLC, Security Investors, LLC, Guggenheim Funds Investment Advisors, LLC, Guggenheim Funds Distributors, LLC, GS GAMMA Advisors, LLC, Guggenheim Partners Europe Limited, and Guggenheim Partners India Management. 1

グッゲンハイム・パートナーズの運用資産は、2019年3月31日現在のものであり、時価約600億米ドルの顧客へのコンサルティング・サービスの 対象資産を含みます。 2

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グッゲンハイムの投資プロセス 規律を持ち、体系的で再現可能なプロセスを創出するようにデザインされた弊社の債券投資プロセスでは、マクロリサー チ、セクターチーム、ポートフォリオ構築およびポートフォリオマネジメントの 4 つの機能を、専門性に応じて分離していま す。このプロセスにより、特定の個人やグループに依存することなく、認知バイアス、衝動的な判断、その他行動ファイナン スに基づく意思決定の落とし穴を避けることを目的としています。魅力的なリスク調整後リターンを提供する投資機会を追 求するため、弊社のアセットアロケーションは広く採用されているベンチマークとは大きく異なっております。

グッゲンハイム インベストメンツについて グッゲンハイム インベストメンツは、グッゲンハイムパートナーズのグローバル資産運用および投資助言部門です。債券、 株式およびオルタナティブ戦略の資産合計は 2,090 億ドル 1 に上ります。グッゲンハイムでは保険会社、企業、公的年金基 金、ソブリン・ウェルス・ファンド、基金・財団、コンサルティング会社、資産運用会社、富裕層投資家のお客様のリターンとリ スクのニーズに重点をおいています。弊社の 300 名以上の投資専門家は、市場トレンドを理解し、しばしば複雑で十分な調 査が行われていない分野で見過ごされている投資機会を見つけ出すため、厳密な調査を行っています。この投資運用アプ ローチによって、グッゲンハイムは投資の分散と魅力的な長期的成果を実現する革新的な戦略を実行しております。

グッゲンハイム パートナーズについて グッゲンハイム パートナーズは 2,650 億ドル 2 以上の資産を運用している世界的な投資助言会社です。投資運用業務、投 資銀行業務、保険サービスの弊社の 3 つの主要ビジネス全てにわたり、革新的なソリューションによって大きな成果を生み 出してきました。グローバルで 2,400 人の専門家を擁する弊社は、お客様の戦略的利益の前進させ、卓越かつ一貫した長 期的な結果を生み出すことに力を尽くしています。弊社のウェブサイト(GuggenheimPartners.com)やツイッター (twitter.com/guggenheimptnrs)にて、当社の高度な専門性と価値についてさらに詳しくご覧ください。

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