2021 年 5 月
ハイイールド債とバンクローンの見通し
今はクレジットサイクルの回復期
Investment Professionals Scott Minerd Chairman of Investments and Global Chief Investment Officer Kevin H. Gundersen, CFA
目次 要旨 .......................................................................................................................... 1 本レポートのハイライト ............................................................................................... 1
Senior Managing Director, Portfolio Manager
レバレッジクレジット・スコアーボード........................................................................... 2
Thomas J. Hauser
マクロ経済概況 .......................................................................................................... 3
Senior Managing Director, Portfolio Manager
2021年第1四半期の市場動向 ................................................................................... 4
Brian Smedley
クレジットサイクルの各フェーズを理解する .................................................................. 7
Chief Economist, Head of Macroeconomic and Investment Research Maria M. Giraldo, CFA Managing Director, Investment Research
回復期における新規発行の動向 ................................................................................ 9 投資への示唆 .......................................................................................................... 11
要旨 クレジットサイクルは、後退期、修復期、回復期、拡大期、そして投機期からなる一連のフ ェーズを通過していく。各フェーズはそれぞれ数カ月から数年続く場合もある。足元では新 型コロナ対策として前例がない政策が実施されており、その結果として一つのフェーズか ら次のフェーズに移行する期間が大幅に短縮された。後退期に低迷したリスク資産の価 格はこれまでにない速さで回復し、通常は収益リセッション後に行われる企業のバランス シート修復が収益リセッションのさなかに行われた。こうした動きは、私たちが今クレジット サイクルのどのフェーズにあるかを特定することをより難しくするが、弊社のリサーチによ れば、私たちは今、回復期に位置していると考えられる。回復期の特徴としては、力強い 企業収益の伸び、デフォルトの減少、格上げ、スプレッドのタイト化などが挙げられる。 今回のクレジットサイクルにおいて回復期および拡大期が今後どれほど長く続くかは、借 り手および投資家がどれほどの規律をもって行動するか、さらには金利、経済成長、政府 の政策、外部ショックなどの要因によって決まるであろう。クレジットサイクルのフレームワ ークを考えれば次のフェーズに進む前にデフォルトが増加するとは考えにくく、歴史的にタ イトな水準にあるクレジットスプレッドが懸念材料となる可能性は低い。デフォルトリスクが 低い今のうちに、ポートフォリオの利回りおよびトータルリターンを向上させる機会を追求し たい。
本レポートのハイライト
ファンダメンタルズが良好であるため、スプレッドはタイトであるがクレジット商品はロ ングポジションを維持する。また、最近、金利が上昇したことやイールドカーブがステ ィープ化したこと、さらに夏には米国債の金利が通常低下することを考慮すると、長期 のクレジットリスクをヘッジするためにデュレーションをオーバーウエイトしたい。
過去20年間でハイイールド社債のスプレッドが今よりタイトであった時期はわずか8% しかない。クレジットサイクルの回復期にスプレッドがここまでタイトになるのは珍しいこ とであり、通常はより後のフェーズで最もタイトになる。これは、今回のサイクルの今後 のフェーズにおいてスプレッドがさらにタイト化する可能性が高いことを意味する。しか しながらクレジットスプレッドの水準は、将来の期待デフォルト率と比較して相対的に測 定、評価されるべきである。現在のファンダメンタルズの状況は1990年代初めの状況 と似ており、当時もスプレッドは現在とほぼ同じタイトな水準に長くとどまった。弊社は、 スプレッドが歴史的にタイトな水準にある現状においても、クレジット商品のロングポジ ションを維持すべきと考えている。
アナリストによる収益予測をベースとすると、上場ハイイールド発行体の利払い前・税 引き前・減価償却前利益(EBITDA)は2021年に中央値ベースで前年比24%増加す る。一方、中央値ベースのレバレッジ比率は収益の伸びだけで4.1倍まで低下する。こ れは2018年末以来の低水準である。
2021年第1四半期の格上げペースが今後も続くと仮定すると、現在のハイイールドイ ンデックス構成銘柄の28%近くが年末までに少なくとも1ノッチ格上げされることにな る。格上げに伴いデフォルト確率が低下することを考慮すれば、より格付が低い銘柄 を投資対象とすることは理にかなっていると考える。
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マクロ経済概況 強い成長期待≠早期の利上げ 「信用リスクのパラダイム
弊社のマクロ経済・投資リサーチグループは、2021年第1四半期の米経済成
は、政府および FRB の
長率予測をこれまでの5.5%から7%強に引き上げた。これは、以前の想定を
政策により引き起こされ たクレジットの社会化に より変化した」 – スコット・マイナード
超える財政刺激策を織り込んだ結果である。景気刺激策の総額について、以 前は2020年~2021年の国内総生産(GDP)の約8%と算出していたが、これを 約11%として予測に織り込んだ。前四半期のレポートで指摘した通り、個人消 費および住宅市場が堅調である。さらに米国のワクチン接種はジョンソン&ジョ ンソンのワクチンが使用一時停止になったことによりそのペースが最近やや落
グッゲンハイム インベストメンツ
ちたものの、死亡者数および死亡率は今後も低下を続け、経済の再開がさらに
チェアマン兼グローバル CIO
進むであろう。米国では5月中旬までに2億6500万回を超える接種が行われ、 人口の35%が接種を完全に完了した。ワクチン供給について、米国ではベスト ケースシナリオが実現しつつあるが、他国においては必ずしも順調ではない。 欧州におけるワクチン接種は、アストラゼネカ製ワクチンの安全性に懸念が生 じ幾つかの主要国において供給が一時的に停止されたことから、大きく減速し た。この安全性への懸念と供給不足により、ドイツ、フランス、イタリアで本年第 1四半期末までに接種を受けた人の数は人口の15%以下にとどまった。これ は、夏までに人口の7割の接種を完了させるために必要なペースを大きく下回 っている。 またインドは、深刻な感染第2波の真っただ中にある。感染者数は370万人を 超えてさらに増加を続けており、昨年の第1波のピークの4倍近くに達している。 これまでで最多のコロナウイルス検査が実施されているが陽性率は10%を超 えており、状況は改善どころか悪化する可能性が高い。このインドでの急激な 感染拡大の背景には、特に感染力が強い変異種の出現、無制限な集会の増 加、ワクチン接種率の低さなどがあると考えられる。 残念ながら、こうした世界各国における感染終息の遅れは欧州やインド以外の 国にも影響を及ぼしており、失業者の大部分を旅行業界やホスピタリティワー カーが占める米国もその例外ではない。それでもなお米国においては、欧州に おけるワクチン接種の遅れやインドでの感染爆発の他国への影響をよそに、経 済の再開が進み労働市場が大きく改善している。新規失業保険申請件数(季 節調整済み)は、5月8日に終わる週に47万3000人まで低下し、コロナ感染拡 大が始まって以来の最低を記録した。一方、4月の雇用統計は非農業部門雇 用者数が前月比わずか26万6000人増とあらゆる予想を大きく下回った。その 原因は幾つかのセクターにまだ各種の制限措置が残っているためであると考 えられるが、これらの制限措置は夏までには緩和されると期待されている。 経済の再開を受けて米国債利回りが急速に上昇したことが2021年の話題とな っている。これを受けて、市場が予想する米連邦準備制度理事会(FRB)の次 の利上げ時期はこれまでの2023年12月から2022年12月へと1年前倒しされ、
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長期的なターミナル・フェデラル・ファンド・レート(利上げサイクルの最終的な到 達点となる金利水準)の推定値は、昨年8月の0.55%から2.36%まで上昇し た。弊社では、今後数年GDPは力強く成長すると見ているものの、FRBによる 利上げの時期については市場予想よりも遅くなると予想している。 インフレ率については、今後数カ月間、ベース効果により対前年比で上昇する と予想する。さらに物流のサプライチェーンの混乱や一部のサービスセクター のキャパシティの制約からインフレがさらに加速する可能性がある。しかし、こ れらの要因はいずれも短期的なものであり、夏以降はベース効果によりインフ レ率は抑えられるであろう。さらに、FRBが目指しているのは高いインフレ率を 持続させることである。2021年中にコアインフレ率がFRBが目標とする2%を超 えたとしても、FRBの目標はインフレ率の長期的な平均値が2%となることであ るため、これまでの何年分もの不足を補う必要がある。また、FRBは完全雇用 の定義を拡大して労働市場の不均衡の是正を目指していることもあり、そう簡 単には利上げに踏み切らないであろう。資産購入のテーパリング(資産購入額 の縮小)開始は2022年の後半となる可能性が高く、利上げ開始はそれから数 年後であろう。 金融緩和と低金利により、クレジット市場は今後数年間堅調に推移するであろ う。市場の楽観的な見方が先行きの金利上昇期待を生み出し債券利回りが上 昇するようなことがあれば、ポートフォリオの利回りを上げる好機と考える。
2021 年第 1 四半期の市場動向 第1四半期半ばに米国債イールドカーブの中期ゾーンで利回りが急上昇したた め、ハイイールド市場の年初来利益の3分の1強が失われた。ICEバンクオブア メリカ・ハイイールド・インデックスのトータルリターンは2月15日までは1.4%で あったが、四半期末には0.9%まで低下した。これとは対照的にクレディスイス・ レバレッジドローン・インデックスのパフォーマンスは金利上昇下でも底堅く推 移し、四半期を通じてのトータルリターンは2%を記録した。それでもなお、ハイ イールド社債のスプレッドは四半期を通じて43ベーシスポイント(bps)縮小して おり、投資家が引き続き収益確保に動く中で米国債の利回り上昇を吸収した形 となっている。一方、レバレッジドローンの3年ディスカウントマージンは37bps 縮小した。
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米国債金利上昇下でもローンのリターンは堅調に推移 クレディスイス・レバレッジドロー ン・インデックスのパフォーマンス は金利上昇下でも底堅く推移し、 四半期を通じてのトータルリターン は 2%を記録した。それでもなお、 ハイイールド社債のスプレッドは四 半期を通じて 43 ベーシスポイント (bps)縮小しており、投資家が引 き続き収益確保に動く中で米国債 の利回り上昇を吸収した形となっ ている。
Source: Guggenheim Investments, Bloomberg, Credit Suisse, ICE Index Services. Data as of 3.31.2021.
今年の初めはクレジットベータをロングにする戦略が適した時期であった。 2021 年第 1 四半期の BB 格社債のトータルリターンは-0.2%であったが、 B 格は 1.2%、CCC 格は 5.2%を記録した。社債インデックスのサブセットの中 で最もパフォーマンスが良かったのは短期の CCC 格社債で、トータルリターン は 7.2%であった。ローン市場の状況も同様で、最もリターンが高かったのは CCC 格の 7.6%であった。BB 格および B 格のローンのリターンは、それぞれ 0.7%、1.5%であった。
第 1 四半期に最もパフォーマンスが良かったのは短期の CCC 格 社債のトータルリターン(格付および満期別) 社債インデックスのサブセットの中 で最もパフォーマンスが良かった のは短期の CCC 格社債で、トー タルリターンは 7.2%であった。ロ ーン市場の状況も同様で、最もリ ターンが高かったのは CCC 格の 7.6%であった。
Source: Guggenheim Investments, ICE Index Services. Data as of 3.31.2021.
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第 2 四半期および第 3 四半期のクレジット市場の環境は、ワクチン接種が加速 し経済再開が軌道に乗ることから引き続き良好であると予想する。さらに、通常 夏季には金利が低下する傾向にあることから、デュレーションのオーバーウエイ トに適した時期である。足元では、BB 格社債についてデュレーションを 3 年~ 5 年から 10 年まで長くすることにより、年率で 1.8 パーセントポイントの追加利 回りを得ることができる。またイールドカーブがスティープであるためロールダウ ンによるリターンが魅力的である。なお B 格社債で同様にデュレーションを延長 した場合に得られる追加リターンは 1.2 パーセントである。 過去 20 年間でハイイールド社債のスプレッドが今よりタイトであった時期はわ ずか 8%しかない。クレジットサイクルの回復期にスプレッドがここまでタイトに なるのは珍しいことであり、通常はより後のフェーズで最もタイトになる。これ は、今回のサイクルの今後のフェーズにおいてスプレッドがさらにタイト化する 可能性が高いことを意味する。しかしながらクレジットスプレッドの水準は、将 来の期待デフォルト率と比較して相対的に測定、評価されるべきである。現在 のファンダメンタルズの状況は 1990 年代初めの状況と似ており、当時もスプ
過去においてもスプレッドが現状とほぼ同水準に長くとどまったことがあった 現在のファンダメンタルズの状況 は 1990 年代初めの状況と似てお り、当時もスプレッドは現在とほぼ 同じタイトな水準に長くとどまった。 弊社は、スプレッドが歴史的にタイ トな水準にある現状においても、ク レジット商品のロングポジションを 維持すべきと考えている。この見 解は、現在がクレジットサイクルの どのフェーズにあるのかを分析し た結果に基づいている。
Source: Guggenheim Investments, Credit Suisse, ICE Index Services. Data as of 3.31.2021. Shaded areas represent periods of recession.
レッドは現在とほぼ同じタイトな水準に長くとどまった。弊社は、スプレッドが歴史的 にタイトな水準にある現状においても、クレジット商品のロングポジションを維持すべ きと考えている。この見解は、現在がクレジットサイクルのどのフェーズにあるのか を分析した結果に基づいている。本レポートの後半では、クレジットサイクルの中で 現在が、クレジット商品のリターンがプラスとなり、力強い企業収益の伸び、格上 げ、低いデフォルト率などに特徴付けられるフェーズであることを解説する。最大の 収益機会は既に終わっているかもしれないが、それでもなおスプレッドがさらに縮小 し、アクティブ運用からリターンが得られる機会が存在している。
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クレジットサイクルの各フェーズを理解する ストラテジストは通常、クレジットサイクルを幾つかのフェーズに分類する。初期、中 期、後期、後退期と分類するストラテジストもいれば、修復期、回復期、拡大期、後 退期と分類するストラテジストもいる。弊社では、拡大期と後退期の間に「投機期」 を加えた。どのような分類方法を使おうとも、今、私たちがクレジットサイクルのどの フェーズにあるのかを知ることは短・中期のデフォルトリスクを推計する上で大変重 要だ。今私たちは、後退期を脱して、デフォルトが減少する修復期から回復期のど こかに位置しているという見解にはほとんどのクレジットアナリストが同意するであ ろう。 クレジットサイクルの各フェーズを区別する境界線は明確に定義されているわけで はなく、現在がどのフェーズであるかを特定するのは科学というよりはむしろアート の世界になる。修復期の特徴の一つは企業が収益の減少に対応して流動性を確 保しようとすることだが、現在のサイクルにおいてはこの修復期が 2020 年の景気 後退期に織り込まれ、既に終了したと考えられる。新型コロナ感染拡大の影響を受 けて企業収益が落ち込むことが容易に予測できたからである。修復期が短かった もう一つの理由は、政府および FRB によるコロナ対策であった。記録的な額の財 政支援に加え、FRB が前例がない形でクレジット市場に介入した。これらの政策に より、資産価格が将来の成長を織り込んで急速に回復するとともに、圧倒的な量 の流動性が市場に供給されてテクニカル面を支えた。
クレジットサイクルの動向(2009 年 7 月~2016 年 6 月) クレジットサイクルの各フェーズを 区別する境界線は明確に定義され ているわけではなく、現在がどのフ ェーズであるかを特定するのは科 学というよりはむしろアートの世界 になる。右の表は 2009 年から 2016 年をクレジットサイクルの各 フェーズに分類し、その特徴を示し たケーススタディである。回復期に おいては、新規発行額の増加、デ フォルト率の低下、格上げの増加、 クレジットスプレッドのタイト化など の特徴が明確に見てとれる。
Source: Guggenheim Investments, Moody’s, S&P LCD, ICE Index Services. 1. Based on Moody’s speculative-grade default rate.
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しかし、ファンダメンタルズを冷静に眺めてみると、私たちはまだ企業収益が急速 に回復し、デフォルトが減少し、格上げが増加する回復期に位置していると考えら れる。 格下げおよび企業収益の伸び悩みは 2021 年にはいずれも改善に向かうであ ろう。上場ハイイールド社債発行体のレバレッジ比率(債務総額/利払い前・ 税引き前・減価償却前利益(EBITDA))は 2020 年に全体の平均で 7.1 倍、中 央値ベースで 5.3 倍へと跳ね上がった。しかし、アナリストによる収益予測をベ ースとすると、上場ハイイールド発行体の EBITDA は 2021 年に中央値ベース で前年比 24%増加する。債務総額が変わらないと仮定しほかにも幾つかの前 提を置くと、中央値ベースのレバレッジ比率は収益の伸びだけで 4.1 倍まで低 下する。これは 2018 年末以来の低水準である。ただし、ネットの新発債発行 がありうるため全ての発行体が債務総額を一定に維持するわけではなく、また セクターによってレバレッジの削減にはばらつきが見られるであろう。しかし、こ うした傾向が格上げにつながると弊社は予想する。 格上げは既に第 1 四半期においても、エネルギー、小売り、サービスなどのセ クターで見られた。第 1 四半期に格上げされたハイイールド社債は全体の約 7%であったのに対し格下げは 2.5%にとどまり、ネットの格上げ率は 4.6%と なった。これは四半期ごとのネット格上げ率としては 2011 年第 2 四半期以来 の高い数字であり、このペースが続くと仮定すれば現在のハイイールドインデ ックス構成銘柄の 28%近くが格上げされることになる。
ハイイールドインデックス構成銘柄の格下げは減り、格上げが増加している 四半期ごとの格付変更 第 1 四半期に格上げされたハイ イールド社債は約 7%であったの に対し格下げは 2.5%にとどま り、ネットの格上げ率は 4.6%とな った。これは四半期ごとのネット格 上げ率としては 2011 年第 2 四半 期以来の高い数字であり、このペ ースが続くと仮定すれば現在のハ イイールドインデックス構成銘柄 の 28%近くが格上げされることに なる。
Source: Guggenheim Investments, ICE Index Services. Data as of 3.31.2021. Based on constituents of the ICE BofA High Yield Index only.
過去の数字から判断すると、ネットの格上げ率は 2021 年、2022 年ともにプラスを 維持するであろう。2008 年の金融危機が 2009 年 6 月に終了した後、2010 年
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6 月までの 1 年間のハイイールドインデックス構成銘柄のネットの格上げ率は 2.6%であった。さらにその次の 1 年のネット格上げ率は 9.7%に上った。ローン市 場においても 2010 年 6 月までの 1 年間におけるインデックスのネット格上げ率は 2.3%であったが、その次の 1 年は 12.5%へと上昇した。 市場は既に格上げの増加をクレジットスプレッドカーブに織り込んでおり、カーブは フラット化した。しかし、今後予想される格上げおよび格下げを織り込んだ上でもな お、ポートフォリオを改善する余地は残っていると考える。
格上げ期待が高まるにつれてクレジットカーブはフラット化 市場は既に格上げの増加をクレジ ットスプレッドカーブに織り込んで おり、カーブはフラット化した。しか し、今後予想される格上げおよび 格下げを織り込んだ上でもなお、 ポートフォリオを改善する余地は 残っていると考える。
Source: Guggenheim Investments, ICE Index Services. Data as of 3.31.2021.
回復期における新規発行の動向 確固たるルールがあるわけではないが、クレジットサイクルの各フェーズにおける 新発債発行の動向には以下のような特徴がある。
後退期では通常、ネットの新規発行はほとんど見られない。
修復期における新規発行はほとんどが借り換えであり、ネットの新規発行はほ とんど見られない。
回復期においても借り換えの比率が高いが、ネットの新規発行も増加する。
拡大期における新発債の資金使途は、設備投資などの一般的な企業活動およ び M&A、レバレッジドバイアウト(LBO)などがほとんどを占める。
投機期における新発債の動向は拡大期と同様であるが、それに加えてバリュエ ーションの拡大、レバレッジ比率の上昇、投資家保護の弱体化その他のアグレ ッシブな動向が見られるようになる。
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現在の新発債市場における最も顕著な特徴は発行額の大きさと借入金利の低さ である。2021 年第 1 四半期におけるレバレッジドローンの総額は過去最高の 1730 億ドルに上り、ハイイールド社債の発行額も過去 2 番目となる 1320 億ドル を記録した。ローンと社債を合わせたトータルのレバレッジドクレジット発行額は 3050 億ドルに上り、これまでの四半期発行額の記録であった 2017 年第 1 四半 期の 2540 億ドルを上回って過去最高となった。
四半期ごとのレバレッジドクレジット発行額は過去最高 2021 年第 1 四半期におけるレバ レッジドローンの総額は過去最高 の 1730 億ドルに上り、ハイイール ド社債の発行額も過去 2 番目とな る 1320 億ドルを記録した。ローン と社債を合わせたトータルのレバ レッジドクレジット発行額は 3050 億ドルとなり、これまでの四半期発 行額の記録であった 2017 年第 1 四半期の 2540 億ドルを上回っ て過去最高となった。
Source: Guggenheim Investments, S&P LCD. Data as of 3.31.2021.
2021 年第 1 四半期の企業の借入コストは歴史的な低水準であった。新発債の平 均利回りは BB 格発行体が 3.4%、B 格が 5.4%、CCC 格が 7.0%であった。CCC 格発行体の借入コストは、わずか 6 カ月前の B 格の借入コストとほぼ同水準であ った。新規ローンの平均利回りは BB 格が 3.0%、B 格が 4.6%、CCC 格が 7.8% であった。 現在の新発債市場は回復期の特徴を有していると思われる。全体の 61%が借換債 であり、これにより満期が延長され借入コストが削減されるが、市場規模やレバレッ ジド比率に変化はない。借換債を除いた 2021 年第 1 四半期のネットの新規発行額 は 1200 億ドルで、四半期の発行額としては過去第 8 位であった。しかし、レバレッ ジドクレジット市場全体と比較するとわずか 3%弱であり、健全な水準と考える。 M&A や LBO を資金使途とする調達の増加はクレジットサイクルが次のフェーズに 入ったことを示す明確なサインとなるが、それが起きるのは今年後半、いやむしろ 2022 年前半となる可能性が高い。こうした調達は第 1 四半期においては全体の 約 4 分の 1 弱であり、2005 年から 2020 年の平均値 41%を大きく下回っていた。 しかしこれをネガティブに捉える必要はなく、むしろ発行体がキャッシュフローの改 善、企業価値の向上、借入余力の増加などを積極的に活用しようとしているサイン と捉えるべきである。とは言え、発行体あるいはセクター全体が組織的成長に行き 詰まり、買収でしか成長できないようになれば懸念材料となり得る。
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新発債市場におけるよりアグレッシブな動きとして注目されるのは配当リキャップ (dividend recap)の増加であろう。これはプライベートエクイティのスポンサーが、 借入金を原資として自分たちに配当金を支払わせる仕組みである。第 1 四半期に おいては、レバレッジドローン 200 億ドルおよびハイイールド社債 30 億ドルが配 当リキャップに充当され、これは新発レバレッジドクレジットの約 8%に相当した。こ の種の動きは通常クレジットサイクルの終盤で起きるため、注意深く見守る必要が ある。しかし、新発レバレッジドクレジットの 60%以上がクレジットにプラスの借り換 えであることを考えれば、配当リキャップのトレンドはプライベートエクイティのスポ ンサーが金利が上昇する前に低金利でトランザクションを行おうとした戦略的な選 択と思われる。
投資への示唆 クレジットサイクルの考え方を通じてクレジット市場を評価することにより、投資家 は地に足をつけてバイアスなしにクレジット市場の動向を評価することができる。新 発債市場の動向は落ち着いており、短期的にはリターンは安定しデフォルト率も低 く抑えられると考えている。一方で、力強いペースで進展するワクチン接種、労働 市場の改善、大規模な財政刺激策により米国経済の見通しは明るく、結果として 今後 2 年間はデフォルト率が低く抑えられるであろう。 テクニカル面から見ると、利回りが歴史的低水準にあるため、米国債などのリスク フリーアセットに対するスプレッドが厚いセクターへの需要が高まっている。貸し手 側がどのようなクレジットの借り手にも資金を提供する用意があることから金融市 場は緩和的な状態にあり、デフォルトリスクが低下して次のデフォルトサイクルが 先延ばしされている。金利が前年比低下している環境での借り換えは、支払金利 の削減効果があることからクレジットにはポジティブと考える。また、これにより借り 手は収益成長を図るとともに自律的にバランスシートを改善し、格上げのメリットを 享受する時間を手にすることができる。これらは全て、私たちがクレジットサイクル の新たなフェーズのまだ早い段階にあることを示している。 信用格付の向上は、ポートフォリオに関する判断に重要な影響を及ぼす。格上げ によりその発行体のデフォルト確率が低下し、期待クレジット損失スプレッドに影響 を及ぼすからである。利回りが歴史的な低水準で推移しているため、次のデフォル トサイクルの兆候を見逃さないことがオールイン・クレジット利回りを低下させない ために大変重要となる。しかし、現状は景気後退期を脱したばかりであり、まだこ れからクレジットサイクルの各局面を経ていくことになるため、次のデフォルトサイ クルからは最も離れた位置にいるといえるであろう。
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High-Yield and Bank Loan Outlook | Second Quarter 2021
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重要な通知及び表明事項 指数及びその他の定義 ここに表示された指数は、運用されているものでなく、直接投資の対象とすることはできません。指数のパフォーマンスは取引コスト、報酬または費 用を含みません。 Credit Suisse Leveraged Loan Index は、投資可能な米ドル建レバレッジ・ローン市場をトラックします。これは、「5B」またはそれ以下のローン から構成され、この指数に含まれる最も高いローンは、ムーディーズ/SP の格付において Baa1/BB+または Ba1/BBB+です。すべてのローンは、 先進国に所在する借手による最低 1 年満期の借入れ済みタームローンです。 Intercontinental Exchange (ICE) Bank of America Merrill Lynch High-Yield Index はハイイールド債の一般的に使用されるベンチマーク指数です。 S&P/LSTA U.S. Leveraged Loanインデックスは、市場加重、スプレッド、利払いに基づいて、米国のレバレッジド・ローン市場のパフォーマンスを 測定するように設計されています。 ベーシス・ポイント(bps)は、ある商品の価値または利回りの変化を表すために用いられる計測単位です。1ベーシス・ポイントは、0.01%と同一です。 3年満期割引マージン(dmm)は、割引マージンとも呼ばれ、ローンの平均残存期間を3年と仮定した場合の、ローンのリファイナンス利回りから現 在の3ヶ月間のLiborレートを差し引いたものです。 Spreadとは、同様の満期の米国債の利回りとの差を言います。 EBITDAとは、利払い・税引き前・償却前利益のことを指しており、事業の収益力の指標として標準的に使用されています。 リスクに対する考察 債券投資は、信用リスク、流動性リスク、金利リスクおよび商品によってはカウンターパーティーリスクを負っています。これらリスクは、投資が、一 つの発行体、産業、地域または国に集中している限りにおいて、増大する可能性があります。一般に、債券投資の市場価値は、とりわけ、元となる 債務の対象債務者または合成証券の場合は参照対象債務の債務者もしくは発行者の財務状況、経済全般の状況、特定の金融市場、政治的イベ ント、ある特定の産業の発展またはトレンドの状況及び適用金利水準の変動状況に応じて変動します。債券投資には金利上昇に伴い価値が下落 する恐れがあります。 バンクローンは、通常投資適格未満であり、様々な理由により非収益化、または不良化することがあります。非収益化した、または不良化したロー ンは、実態的に新しい条件のための交渉又はリストラクチャリングを必要とすることがあり、それが、とりわけ、利率の相当な減免、ローン元本の相 当な償却等の結果となることがあります。加えて、特定のバンクローンは、高度にカスタマイズ化されているので、公に取引される証券に比べ容易 に売買できないことがあります。セカンダリー取引市場においては、制約が課せられる場合があり、適切なレベルの流動性が確約されるわけでは ありません。ある種の銀行ローンにおいては、譲渡に当たって制約が課せられる場合があります。バンクローンに関連するリスクは、一般的に、プ レミアムまたはペナルティーの受け払いなくいつにても繰り上げ償還が発生する可能性を含みます。ハイ・イールド・デット証券は投資適格証券と比 較してより大きいクレジットリスクと流動性リスクを負っています。 ハイ・イールド・デット証券は、一般に無担保であり、当該発行体の一部の他の債務よりも劣後することがあります。ハイ・イールド・デット証券が低 格付けであり、投資適格未満のローンであることは、発行体の財務状況、経済全般の情勢又はこれら双方が不利に変化した場合に、元本又は金 利の支払い能力を毀損する可能性がより大きいことを反映しています。投資適格未満の格付の証券は、一般に「ジャンク・ボンド」と呼ばれていま す。ハイ・イールド・デット証券のリスクは、とりわけ下記を含みます。 (i) 流動性及びセカンダリー市場のサポートが限られていること、 (ii) 適用金利 水準の変化により市場において相当程度のボラティティが生ずること、(iii)ハイ・イールド・デット証券の発行者の収入が、 債務の返済にあたり不十 分となる可能性があること、並びに (iv) 金利上場局面、経済の下降局面又はこれら双方により、このようなハイ・イールド・デット証券の発行体の信 用力低下及び潜在的な倒産の可能性。経済情勢の悪化又は金利上昇により、ハイ・イールド・デット証券の市場が著しく毀損されることがあり、発 行済のハイ・イールド・デット証券の価値及び当該発行体の元利金の返済能力に悪影響を及ぼす可能性があります。ハイ・イールド・デット証券の 発行体は、レバレッジ比率が高いことがあり、従来からある資金調達ができない可能性があります。 この資料は専ら情報の提供を目的としたものであり、いかなる有価証券、投資戦略または投資商品に関して、投資助言または推奨をするものではあ りません。この資料はフィデューシャリー義務の立場から提供されたものではなく、投資決定を行うための十分な根拠となることを意図したものとみな すべきではありません。また、特定の有価証券の売買に関する勧誘とみなしてはなりません。 本資料は、会計、法務または税務上のアドバイスを供 与するという考えから頒布するものではありません。これらの問題については、貴社の法律または税務上のアドバイザーに助言を求めてください。 本資料は、著者の意見を含みますが、グッゲンハイム・パートナーズまたはその子会社の意見を含むものとは限りません。著者の意見は、予告なく 変更することがあります。本資料に含まれる将来にむかっての表明、予測および一定の情報は、自社または他社の調査および他の情報源に基づ くものです。本資料に含まれる情報は、信頼に足ると信ずる情報源より取得していますが、その正確性を保証するものではありません。本資料の 如何なる部分も、グッゲンハイム パートナーズLLCの書面による明示的同意なしには、如何なる方法であれ、複製し、または引用することはできま せん。過去のパフォーマンスは、将来の結果を暗示するものではなく、そのような情報に基づく判断につき、現時点における正確性、責任を表明ま たは保証するものではありません。 1 グッゲンハイム・インベストメンツの預り資産総額は、2021年3月31日現在のものです。ここには、運用資産に対するレバレッジを含む154億米ド ルを含みます。グッゲンハイム・インベストメンツは、下記の関係会社による投資運用業務を総称します。Guggenheim Partners Investment Management, LLC, Security Investors, LLC, Guggenheim Funds Distributors, LLC, Guggenheim Funds Investment Advisors, LLC, Guggenheim Corporate Funding, LLC, Guggenheim Partners Europe Limited, Guggenheim Partners Fund Management (Europe) Limited, Guggenheim Partners Japan Limited, GS GAMMA Advisors, LLC, and Guggenheim Partners India Management. 2
グッゲンハイム・パートナーズの運用資産は、2021年3月31日現在のものであり、時価約780億米ドルの顧客へのコンサルティング・サービスの 対象資産を含みます。 © 2021年 グッゲンハイム・パートナーズLLC。グッゲンハイム・パートナーズ LLC による明示的な書面による許可なく、本文書のいかなる部分につ いても、いかなる形式における再作成および他の出版物における引用を禁じます。Guggenheim Funds Distributors, LLC,はグッゲンハイム・パートナー ズ LLCの関連会社です。お問い合わせについては800.345.7999または800.820.0888にお掛け下さい。 Member FINRA/SIPC
グッゲンハイムの投資プロセス グッゲンハイムでは、行動バイアスを軽減し、より優れた意思決定のつながるように設計された体系的で規律をもった 投資プロセスに基づいて債券ポートフォリオの運用を行なっています。弊社の投資プロセスでは、最良のリサーチとア イデアをマクロリサーチ、セクターチーム、ポートフォリオ構築およびポートフォリオマネジメントの 4 つの機能を、専門 性に応じて分離しています。このプロセスにより、特定の個人やグループに依存することなく、認知バイアス、衝動的 な判断、その他行動ファイナンスに基づく意思決定の落とし穴を避けることを目的としています。魅力的なリスク調整 後リターンを提供する投資機会を追求するため、弊社のアセットアロケーションは広く採用されているベンチマークとは 大きく異なっております。
グッゲンハイム インベストメンツについて グッゲンハイム インベストメンツは、グッゲンハイム パートナーズのグローバル資産運用および投資助言部門です。 債券、株式およびオルタナティブ戦略の資産合計は 2,450 億ドル 1 に上ります。グッゲンハイムでは保険会社、企業、 公的年金基金、ソブリン・ウェルス・ファンド、基金・財団、コンサルティング会社、資産運用会社、富裕層投資家のお 客様のリターンとリスクのニーズに重点をおいています。弊社の 295 名以上の投資専門家は、市場トレンドを理解し、 しばしば複雑で十分な調査が行われていない分野で見過ごされている投資機会を見つけ出すため、厳密な調査を行 っています。この投資運用アプローチによって、グッゲンハイムは投資の分散と魅力的な長期的成果を実現する革新 的な戦略を実行しております。
グッゲンハイム パートナーズについて グッゲンハイム パートナーズは 3,150 億ドル 2 以上の資産を運用している世界的な投資助言会社です。投資運用業 務、投資銀行業務、保険サービスの弊社の 3 つの主要ビジネス全てにわたり、革新的なソリューションによって大きな 成果を生み出してきました。世界中の拠点に 2,300 人以上の専門家を擁する弊社は、お客様の戦略的利益を前進さ せ、卓越かつ一貫した長期的な結果を生み出すことに力を尽くしています。弊社のウェブサイト (GuggenheimPartners.com)やツイッター(twitter.com/guggenheimptnrs)にて、当社の高度な専門性と価値につい てさらに詳しくご覧ください。
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