The HR Agenda Magazine - 2014年7月~9月 (日本語版)

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提携 1


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目次 2014年7−9月号

発行人からのメッセージ

“終身雇用制”から“終身労働可能性”へ 学習と能力開発を変化にどう役立てるか

3

カビッティン・順 MBA/MS/HRMP JHRSコミュニティー・ニュース

WINジャパン・コンファレンス2014年春で“つながる”女性たち

6

エリザベス・ハンドーヴァー 特集記事

カイゼン文化の波及効果 製造からHRへ愛をこめて

8

本郷麻子

11

繋がる3つのカギとカイゼン概念 ジュン・オルラーネス ウォートンの知恵

世界の最高人材育成責任者 ゼネラル・エレクトリック・モデルとインドの能力構築

カントリーフォーカス

12 14

注目を集めるフィリピンの人材 岡本浩志

HRに聞け

16

リーダーに求められる資質とは何か アンドリュー・マンターフィールド 松井義治(ヨシ) HR法律相談

4

01 l2

pri

A

日本における企業の災害対策

19

ヴィッキー・バイヤー弁護士 研修と開発

軍事原則のビジネス面への応用

20

ジョー・ハグ コーチング

潜在力を引出し目標を達成するための手段としてのコーチングの活用 コーチングはどれだけの価値を組織に提供しうるのか?

23

紫藤由美子 組織デザインと組織開発

オーガニゼーショナル・ラーニングの遺産と教訓

25

ヒルダ・ロスカ・ナルテア

ノンリニア (非線形)

論説

組織開発と学習 反復と統合の時代

27

アネット・カセラス

「The HR Agenda」革新的なプラットフォーム 日本における最初で唯一の二ヶ国語による人事担当者向け雑誌として、 「The HR Agenda」 は 非常に ユニークな舞台 (プラットフォーム) を提供しています。 英語と日本語で書かれた資料を提供し、 寄稿者か ら提出された文章もバイリンガル翻訳することで、 純粋の2方向性を持った意見交換の場を提供します。 過去150年ほどの間、 日本はもっぱら西洋の知見を日本語に翻訳してきました。 私どもは日本の声を国際 的な舞台にも紹介できるような場を創造したのです。 私どもの目的は物事の裏表や問題のすべての相 1 を理解することにあります。私どもは日本と海外における読者の方々や、世界中のHRプロフェショナル や研究者、 オピニオン・リーダーたちの間でオープンかつ誠実な対話を実現させ、 それによってお互い の切磋琢磨を促すことを願っています。

日本のHRプロフェッショナルに影響を与える最新 の知識や情報のやり取りを促進し、世界における HR最優良事例や標準を引き上げることで日本と 世界のHR管理システムを橋渡しする。


「The HR Agenda」はThe Japan HR Societyが出版する日本初かつ唯一 の2ヶ国語人材(HR)専門季刊誌。制作はエイチアールセントラル株式会 社(The Japan HR Society事務局)のエイチアール学習・出版部門。

購読

発行人 統括編集人

The Japan HR Society (JHRS) HRAgenda@jhrs.org www.jhrs.org www.jhrs.org/hr_agenda

編集長

アネット・カセラス editor-in-chief@jhrs.org

編集チーム

岡本 浩志 ヒルダ・ロスカ・ナルテア ステファニー・オーバーマン

翻訳者 デザイン・制作 デザイン監修

澤田 公伸 大川 紀男 岡本 浩志 野口昌子 サイラ・モリイ

広告セールス・ マーケティング および配布

エイチアールセントラル株式会社 advertising@jhrs.org

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編集補佐 および調査担当者

マーク・スィリオ 末広恵美子

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カビッティン・順 MBA/MS/HRMP managing_editor@jhrs.org

ブーン・プリンツ アネット・カセラス

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表紙イメージ

お断り 掲載した記事にある見解や意見は執筆した寄稿者、筆者個人のものであり、必ずしも「The 事務局、 アドバイザー、会友、後援者の立場や見解を反映したも Japan HR Society」の一般会員、 のではありません。本協会は、掲載された記事や広告に含まれるデータ、統計、情報の正確 性、真実性につき、 その全体もしくは一部に関し、責任を負いません。更に、掲載した助言、意 見、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のよ り専門的な法的、財務的助言にとってかわることを目指したものではありません。

アネット・カセラスの構想と 、 アールディー・コロマとイベス・リラが学習と開発を創作しブーン・プリンツが 編集・デザイン

画像の出典:

Cherry Blossom Trees in Waterfront Park by Thye Gn , World oil by Vladimir Yudin, Ripple by Jin Yamada, Opening the gate by Nomadsoul1, Sun beams over Earth horizon by Paulpaladin, Success of a woman by Ardie Coloma, Rescuer search victims in smoke by Tatiana Belova, Portrait of a young man with split careers businessman and soldier by Elswarro, Chris Argyris portrait by Ives Lira, Great Wave Illustrate by Ives Lira.

広告 2


発 行 人 からの メッセ ー ジ 2014年7−9月号

“終身雇用制”から“終身労働可能性”へ 学習と能力開発を変化にどう役立てるか カビッティン・順 MBA/MS/HRMP The Japan HR Societyチーフ・コミュニティ・オフィサー 英語原文から翻訳

成功する人たちの多くに、学習好きと前進への情熱という2つの要素を見て取ることができる。 “終身労働可能”となることができれば、成功の可能性は終わりないものとなるだろう。

2週間ほど前、私は歯の治療を受けるため掛かり付けの歯科医 で順番を待っていた。その間、その歯科医が歯科教育を続けるため

TI R E

ローガンがいう 「無限の可能性」 ということを考えるのも無意味では ないだろう。

F I C AT I O

に受けた多くの資格証明書が、その歯科医の待合室や治療室の壁

IO

T

な立場にあることを私たちはもう一度、思い出す必要がある。むろ ん、それを可能にするのは、継続的なHR教育、修了証明、ネットワー

LL

S

習と自己の専門性の向上であることは言うまでもない。 日本で活動するHR専門家のためには、The Japan HR Society

CE.

J

EN

CA

X

クづくり、 日本内外のHR専門家との連携などを通じた絶え間ない学

「学びとは強制されて行うものではな い。 それは単なる生き残りのためでもな い」 -W・エドワーズ・デミング

EDU

E

ために見本を示し、 「学びの文化」を開発することができるユニーク

The

得していることが分かった。そのとき突然、あることが私に閃いた。

“HRのプロ”である私たちは、私たちが属する企業の従業員たちの

E

教育機関からほとんど毎年、次から次へとそうした資格証明書を取

N

見本を示し実践する

C

C そのことに興味をかき立てられた私は待合室の席を立ち、 壁に近 • 付いた。そうすると彼が、米国、 ヨーロッパ、 N それに日本の名だたる のあちこちに架かっていることにすぐ気が付いた。

(JHRS)の生涯教育・修了証明部門である 「JHRSアカデミー」がこの ことを可能にするための様々な機会を提供している。 JHRSアカデミーは2009年以来、オンラインおよび座学による継続

ACADEMY

私の掛かり付けの歯科医は50代後半だが(あるいは60代前半か

的な教育を提供するために「eコーネル」 「テンプル大学日本校」 とい

もしれない)、そのクリニックはいつも沢山の患者(高齢の人もいれ

った世界的な教育機関と提携しており、最近では世界最大のHR機

ば若い人もいる) でにぎわっている。彼がこの仕事から65歳(日本に

関である 「人材管理協会(SHRM)」 との提携を開始した。加えてJHRS

おける法定退職年齢) で引退するとは思えないし、彼はいわゆる終

アカデミーは、労働法規、才能開発、教育訓練、報酬と手当、パーフォ

身雇用を心配していないことは明らかである。なぜなら彼は、 自分

ーマンス管理など、多様なHR関連のテーマを網羅する、 自前開発の

の仕事を単純明快に“終身労働可能”なものとしているからである。

講座を提供している。

でもどうすればそんなことができるのだろうか。答えは、継続的な

2013年、 日本にフォーカスしたHR専門家を対象に、HRMP、

学習と能力開発にある。彼は、その人生を費やして学び、 自分の手技

HRBP、GPHRといった仕事に有意義で、世界的に認められたHR資格

の向上に努めている。その際彼は、最新の歯科技術と実践手法を習

の取得、および世界各国のHR専門家と伍していくことへの支援を目

と戦略的な提携関係を結んだ。 これによって今では、認定取 .D.t . 2 0 0 ュート」 A 9 得の準備および再認定のコースをJHRSアカデミーで受講できるよ ではここで、サラリーマン(サラリーウーマンでもよい)が、終身雇

-Es

得し、同じ専門職の人たちとの連携とネットワークの拡充に努め、 ま たより専門的な教育を受けているに違いない。

用の観念にしがみつくのではなく、“終身労働可能”という考え方を

的に、JHRSアカデミーは「HRサーティフィケーション・インスティテ

うになった。

身に付けることが可能かどうかを想像してみよう。富士通の企業ス 3


私は、今年4月18日と19日の両日、 シャングリ・ラ ホテル東京で開催された第4回「WINジャパン・コンファレンス」の主催者と参加者の皆様 に心からの敬意を表するとともに、本誌が巧みに組織化された、 また成功裏に終わったこの会議のメディアパートナーとなったことを誇りに 思います。 この会議に関連する記事を「JHRSコミュニティー・ニュース」 でぜひお読みください。 また、来年開催される第5回会議で皆様とお会 いできることを願っています。併せて、本誌をHR関連のイベントや会議のためのメディアパートナーとすることにご関心をお持ちならば、私た ちにご相談ください events@jhrs.org ますようお願いいたします。 日本初・日本で唯一のバイリンガルHR専門誌である 「The HR Agenda」は今年、創刊3周年を迎えました。 この先駆的な、そして類を見ない 雑誌の一部となってくださった読者、寄稿者、広告主、 スポンサー企業、友人、そして支援者の方々に心から謝意を申し上げます。 この3年は私 たちにとってまさに驚くような3年間でしたが、私たちの挑戦はまだ始まったばかりといってよいでしょう。最新かつ今日的なHR関連情報と日 本におけるHR専門職に影響を与える資源を提供するという私たちの編集使命を実現するために、 これからも皆様の変わらぬご支援・ご愛顧

CE

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JHRSと 「The HR Agenda」は、本誌創刊から3年にわたって編集長を務めてくれたアネット・カセラス氏に深甚なる謝意を申

X

S

ACADEMY

し上げます(本号に掲載されている 「論説」 もお読みください)。 カセラス氏は、本誌を世界のHR出版界における重要な存在

CE.

J

The

EN

CA

N

LL

EDU

F I C AT I O

E

T

N

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を心よりお願い申し上げます。

にする上で多大な貢献を果たすとともに、 日本におけるHRジャーナリズムの進展を大きく助けました。彼女はまた、本誌と その編集チームに高い編集水準を設定し、その結果、本誌の編集品質は大きく向上しました。私たちは、 この3年間に彼女 が本誌に注いだ情熱、献身、 また熱意を高く評価するとともに、 これらから彼女が力を入れるコーチングと教育にも同様の

-Es

t. 2009 A.D.

成功を願ってやみません。本当にお疲れさまでした。

もしあなたが私のように(あるいは先に紹介した私の掛かり付け 歯科医のように)学ぶことに、 また“終身労働可能性”に情熱があるな ら、上述のリンクをぜひ訪れ、選択可能なコースとスケジュールの多 様なオプションについて知ることを強くお勧めする。 また、 これまで と同様、 もし何か質問があればご遠慮なく私 jun@jhrs.org にメール を送っていただければ、 できるかぎりの方法を使って喜んでお手伝

カビッティン・順MBA/MS/HRMP エイチア ールセントラル(株)代表取締役社長、テンプ ル大学日本校非常勤講師を務め、20年以上に わたり人事のバリューチェーン全体に携わっ てきた。 (多くが日本に特化したものである)人 事に関する継続教育、知識の共有、最優良事 例の活用を通じ、人事の課題を解決すること ができると強く信じている。経営学修士、経営 工学修士、HR研究認定(コーネル大学)

いする所存である。学びに幸あれ!

何人の名前が言えますか?

毎号、 「The HR Agenda」は寄稿者をJHRSイベントへの特別ゲストとして招待しています。

ご寄稿ください。記事を載せさせてください。 対話を継続するために本誌は定期的にネットワークづくりのための集まりに寄稿者を招き、特別ゲストとして意見交換を行っています。 もし寄稿について考えをお持ちでしたらぜひお知らせください。 「The HR Agenda」のメールアドレスである HRAgenda@jhrs.org まで電子 メールをください。 また当雑誌に関するご意見などフィードバックを歓迎します。私どもは受理したメールについてすべて掲載できるとはお 約束できませんが、少なくとも返事を出すことはポリシーとしています。本誌で取り上げて欲しいトピックもお寄せください。

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14

Brought to you by:

お断り: HRCIの認定提供者の印章はHRCIがプログラム自体の品質保証をしたもので はありません。 このプログラムが事前にHRCIの単位再認定基準に適合していること を意味するものです。 5

14


COMMUNITY NEWS

Get to know the latest news and updates within the JHRS Community.

2014年7−9月号

WINジャパン・コンファレンス 2014年春で“つながる”女性たち エリザベス・ハンドーヴァー JHRS「Women in HR」提唱リーダー 英語原文から翻訳

WINジャパン・コンファレンス年次会は、女性たちが結束し、変化し、成功し、 そして社会善のための力になる方法を見つける好機である。 WIN創立者であるクリスティン・エンヴィック氏は、第4回WINジ

ジェットスター・ジャパン株式会社代表取締役社長の鈴木みゆき

ャパン・コンファレンスの開会にあたって各参加者に対して 「可能性

氏は、 「思考の多様性」が革新を高めることを付け加えた。多様性は

の仲介者になろう。小さな変化を見つけ、それらを広げよう。胸襟を

管理することが難しく、オープンさ、人の意見に耳を傾ける態度、信

開き、結束し、そして進んで貢献しよう。 リスクを恐れず、関わり、そし

頼、また変容的なリーダーシップを実践するリーダーを求めると

て楽しもう。魔法を期待しよう」 と呼びかけた。

鈴木氏は言う。

4月18日と19日にかけて東京で開催された今回の年次会のテー マは「繁栄する日本の可能性を広げる」 というものだった。 特別ゲストとして招かれた、衆議院議員であり元防衛大臣である 小池百合子氏は、 日本政府において経済成長政策「成長戦略として の女性活躍の推進」に向けて女性の登用がますます進んでいる状

メットライフアリコの政府行政関連担当を務めるマリ・マシューズ 氏は財務的リテラシー(知識)の重要性について講演した。 「あなた の財務状態を理解し、それを守るための方法を知ることが必要」 と マシューズ氏は聴衆に向かって語った。 新国立劇場演劇部門の芸術監督である宮田慶子氏は、芸術は女

況を報告するとともに、 「西暦2020年までに女性管理職の比率を30

性にとって従来にはないキャリア進路となり、それによって高度な

%にする」 という安倍首相の取り組みをさらに強化し、 「2020年に30

リーダーシップスキルを獲得することができることを指摘した。一

%(にいまる・さんまる)」計画と名付けたことを紹介した。 インド人ジャーナリストであり同国ケララ州コチで新役員に選出

方、元マラソン選手の有森裕子氏は彼女なりの“忍耐物語”につい て話し、その中でコーチが彼女に語った「苦闘しろ、 日々、努力すれ

されたアニータ・プラタップ氏は、変化を起こすために、 また社会善

ばきっと前進する」 という言葉を紹介した。それから8年後、バルセ

のための力になるために女性に求められることについて講演した。

ロナ五輪で銅メダル、 アトランタ五輪で銀メダルを獲得した有森氏

また、Ciscoの日本・アジア太平洋地域でグローバル・ダイバーシ

は、2007年、競技生活から引退、その情熱をスポーツ振興に注いで

ティー&インクルージョン・マネジャーを務めるジャネール・ササキ 氏は、 「女性が踏むべき3つのステップ」を会議参加者に話した。す

いる。 会議終了後のディナーにはさらに多くの特別ゲストが参加した。

なわち、多様性と社会的一体性に関して男性を関与させる戦略をつ

例えば、 日本では数少ない女性の企業重役である大河原愛子氏、小

くること、中間管理職の心理に働きかけること、 また上級リーダーが

林いずみ氏、安田ゆうこ氏の3人は、企業内に女性取締役をもっと

後ろ盾になってくれるよう巻き込むことである。

増やしたいとの念願から 「Global Women On Boards」の日本支部

今回の会議で カルビー会長兼CEOである松本晃氏は、同社が最 初の“にいまる・さんまる企業”になるとの決意を表明した。従業員採

をスタートさせた。 今年の「WIN Inspiring Women Japan Award」は有森裕子氏

用における男女比率を同じにしたこと、経営陣のうちの5人を女性

に贈られた。自身のNPO法人「Hearts of Gold」を通じてカンボジ

にしたことに加え、鹿児島工場長に女性を起用したこと、 また中日本

アの子どもたちに対して不屈の支援活動を展開したことが評価さ

事業本部本部長に女性を登用したことを明らかにした。

れた。

マッキンゼー日本支社長のジョルジュ・デヴォー氏は、女性の登用 比率と財務成果の向上の間には相関関係があることを証明する知 見について報告した。同氏の知見によれば、多様性はまた、 より高い 価値、 より大きな革新性、 よりよい意思決定を持つ企業の健全性を 高めるという。企業はトップが強いコミットメントを持ち、女性リーダ ーの開発に投資し、女性のために特化したリーダーシップ訓練を確 保することが重要だとデヴォー氏は述べた。

6

エリザベス・ハンドーヴァー イントラペルソ ナKKの社長であり、ルミナラーニングのアジア 地域パートナー。彼女はACCJウィメン・イン・ ビジネス・コミティーの共同代表であり、 ウィメ ンズ・リーダーシップ・ディベロップメント・セ ンターの共同創始者、 またグローバルWINコ ンファレンスの特別顧問でもある。


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特集記事 2014年7−9月号

カイゼン文化の波及効果 製造からHRへ愛をこめて

本郷麻子 ボルボ・インフォメーション・テクノロジー・ジャパンHRビジネスパートナー 日本語原文による寄稿

カイゼンの考え方を取り入れることで、 もの作りの現場にとどまらず、有益な成果を生み出すことができる。 HRの経験は、 カイゼンが従業員のやる気を向上させ、将来グローバル企業となるための”学びの文化”を育て る重要なツールであることを教えてい る。

約7年前に、大野耐一氏の“今日のやり方が最悪と思え”という言

私のカイゼンとの関わりは現在まで約7年に限られるが、 カイゼ

葉に出会ったときに私はやっとカイゼンの真意を知ったような気が

ン活動の学びには限りがない。 これまで私が学んだいくつかのポイ

した。そうなのである、今日のやり方を標準として更なるカイゼンが

ントを共有したい。

行われる。今日のやり方を知らずしてどうやってカイゼンが行われる であろうか。 また、 もし今日のやり方に自分が満足してしまっていた ら、 カイゼンの必要を感じず、努力をすることもなくなるであろう。 ちょうど同じ頃に、人事や経理のようなモノを作っていないオフィ

1.顧客のニーズを知ること 顧客のニーズを知る事が簡単なようで行われていない事が多い。 それを知ったのは私が前の会社で初めてプロセスマッピングを人

ス部署にも導入できるカイゼン活動のツールを学びリードする機

事の同僚と実施した時だ。その方法は仕事のプロセスの現状(As-

会に恵まれた。その経験は、モノ作りをしないオフィス部署において

Is)を視覚化し、その中の各タスク1つ1つが顧客に付加価値を生

もカイゼン活動が大きな成果を生むことの大きな発見となった。そ

んでいるか、ムダはないかを洗い出し、最後にあるべき姿(To-Be)

してカイゼンは単なる作業効率ではなく、社員のモチベーション向

を定義しそれに向かいカイゼンを行うというものである。

上、チームワークの結束、そして世界クラスの企業文化構築の可能 性を秘めていることに気づく。 周知の通りカイゼンはもともと日本で生まれ発達し、海外へ渡り 今ではリーンという名のものと逆輸入されている。“カイゼン活動に

その時に人事のメインの業務の1つである社員の入社と退社に 対応するプロセスをカイゼンのテーマにし、現状をマッピング(大き な模造紙を使用しフローチャート式に視覚化) したのだが、 「なぜ今 この方法を取っているのか?」の問いに多くの同僚が“昔からこの方

はとっくに慣れている” “我々日本人はカイゼンのDNAを持ってお

法をしています”“こういう風に前任者から教わりました”という反応

り、 自然に毎日できている”-これらの反応が日本人に見られる典型

を示した。つまり業務においての顧客の定義(人事の場合、社内の

的な反応だとしたら、私の同僚も例外ではない。 しかしながらカイ

社員が顧客になる場合が多い) と彼らのニーズ(もしくはその仕事

ゼン活動を実際に経験すると自分達の考えが大きく間違っているこ

の目的)の定義が決定的に欠けていた。

とを知る。

8


大型紙を使って壁に貼り出された現行の プロセスに関するバリュー・ストリーム・マ ップの作成中草案。各枠の中に現行のス テップがポストイットを使ってラベル付け されている。各枠の中のムダと重複が特 定されたのち、理想的なプロセスが作り上 げられる。

この入退社プロセスの中に潜んでいたムダはダブリの書類、情

強みやスキルに気づかず数年が過ぎてしまっているとしたら、 これ

報の複雑な流れ、他部署との連携不足等。そしてこのプロセスにお

は会社にとっても多大な時間とコストのムダとなり得る。昔のある同

いての顧客の定義はプロセススコープによっては社員にもなり得た

僚は、エクセル操作や機能で有効なものに出くわしたら、チームの

し、社内の管理職にもなり得たが、 とにかくこれらステークホルダー

定期会議で必ず共有をするようにしていた。 この彼の姿勢と情報が

達のニーズは、 ダブリの書類でもなく、複雑な情報の流れでもなく、

他部署にも知れ渡り、最後には有効なエクセル機能リストが完成し

単純にタイムリーで正確な新入社員や退職社員に関する情報、そし

社内に共有化されることとなった。

て効果的な導入教育であったのだ。 このプロセスマップを使ったカ イゼン活動は約2か月に渡り、最後に30%のリードタイム削減(現状 を100%とすると)を達成することができた。

3.人事はカイゼン文化構築に大きく貢献できる 現在私はHRBP(Human Resource Business Partner)として仕事を しているが、特にこのロールに就いてから感じている、人事はカイ ゼンの文化構築に大きく貢献できるのだ。具体例で言うと、 フィード

社員のモチベーションが上がれば 自発的に動く姿勢も加速する。 そして 周りがそれに対しフィードバックし レコグニッションを実施する。

バックやレコグニッション(直訳すると認知・表彰であるが、 この場 合ちょっとしたねぎらいの言葉を私は指している)の重要性を説き 社内に浸透させていくことである。 日本においては概して、ポジティ ブなフィードバックよりもネガティブなフィードバックに注力する傾 向がある。そしてほんの些細なレコグニッションが社員のモチベー ションを飛躍的に上げるのに効果的だと気づいていない、 もしくは 頭ではわかっていても実施できていないケースが多い。 またビジネ スがグローバル化するなか、国籍を問わず多様なチーム構成であ

2.人が自ら動くこと カイゼンは個々人が自発的に動く事が重要で、なおかつカイゼン 活動のスピードを加速する鍵となる。多忙な毎日を送る中、 カイゼ

る場合もあり、 ますますフィードバックやレコグニッションは重要視 されている。 皆さんも恐らく1つや2つこういった経験があるのではないか。

ン活動を疎ましく思う社員も多く、彼らの言い分をすべて拒否でき

自分のプレゼンテーションや会議の仕切り、 または自分が提案した

ないと思っている。 しかしほんの1人の自発性が予想もしなかった

ちょっとした業務改善に周りから掛けてもらえた“良かったよ、あな

カイゼン成果を生むことがある。以前の会社で私の同僚にカイゼン

たのプレゼンテーション” “素晴らしいアイデアだね”という言葉が

活動に非常に熱心な1人の社員がいた(派遣社員であった)。彼女

自分のモチベーションを大きく上げ、翌日からの仕事の仕方に影響

は良いアイデアを持ち、そして実行力も備えていた。ある日、彼女は

を与えた経験が。

同じグループ会社の海外の同僚に自分たちのカイゼン活動と成果

社員のモチベーションが上がれば自発的に動く姿勢も加速する。

内容を自発的に共有し、結果として彼女が共有した内容がグローバ

そして周りがそれに対しフィードバックしレコグニッションを実施す

ルで導入されることとなった(具体的には新入社員導入教育チェッ

る。 このスパイラルを実現するために、人事は社員、特に管理職をト

クリスト)。1人の派遣社員の自発的な行動は、同じ人事の同僚を刺

レーニングしサポートすることができると思う。

激しカイゼン活動に興味を抱かせるきっかけとなった。

この記事を書く機会をもらってからもカイゼンに関する出来事

他人が自分と類似する業務を請け負っている場合に率先して他

が毎日自分の周りには起きている。 ちょうど昨日、私は社内の同僚と

者のやり方を知り、お互いの強み(知識や経験)を共有するのも大事

New Ways of Working(仕事の新しいやり方)に関して論議をした。

である。隣に座っている同僚が自分の知らない、なおかつ知るべき

自分達はIT部署よりリーンでAgile(機敏)な仕事の仕方をしていか

機能の操作を知っているかもしれない。 もし隣に座っている同僚の

なければならない。 グローバルで標準化された方法やツールを使 9


HRビジネス・パートナー活動状況ワークフロー・プロセス・マップ (理想的な将来状態プロセス・マップ) 使用者障害認定プロセス 受益者である時間正規従業員

Lean Improvement Institute ® Lean HR Management

社員が掛かり付け 医師を訪問

医師が障害または疾病の重篤度を診断

・医師が発行 ・記入された医師活動状況書面

はい

従業員が書面を検討

受け入れるか?

受け入れるか?

いいえ

仕事に復帰

受け入れプロセス

はい

いいえ

障害モニター相談

HRビジネス・ パートナーが使用者側 担当者に諮問

使用者側担当者がクオ リティ委員会に諮問

HRビジネス・ パートナーに諮問

出典:Lean Improvement Institute、 ジュン・オルラーネス

い、顧客ニーズに沿ったサービスの提供を更に求められているか らだ。昨日は短い時間内に良い論議ができ、改善課題がうまく集約 できたと思っている。 しかしその同僚の中には“このカイゼン活動は 今の仕事に追加される新たなタスクなのか?”“カイゼン部署を立ち 上げて彼らが担当するのはどうだろうか?”という意見を持つ者がい た。 しかし自分の意見は違う。 カイゼン活動は個々人が自発的に行う ときに最大限の成果を発揮できると思っている。 カイゼンの話を今日始めよう 上記1と2のポイントに戻るが、顧客ニーズを改めて考えてみる 事や自分の持っている知識を同僚と共有する事、 こんなちょっとした 事が大きなカイゼン成果につながる。そして自分の経験から言うと 人事や経理等のオフィス部署においてその成果がより大きくそして 短期間で得られる場合が多い。皆さんも是非 明日同僚とさっそく 会話を持ってみてはどうであろうか? ほんの10分でもいい、“今日 のやり方は最悪だよね”と切り出して。

本郷麻子 現在、ボルボ・インフォメーショ ン・テクノロジー・ジャパンのHRビジネスパ ートナー。かつてサンゴバン株式会社人事 マネジャー、 自動車会社の人事アシスタン ト・マネジャーを務めた。

10

はい

事例に実態または 形式があるか?

いいえ


繋がる3つのカギとカイゼン概念 そもそもカイゼン(改善) という手法の当初の意図は、困難な時期

を頼りにする。生産は数値的な工学概念に根差しているが、その領

に備えて組織を準備することだった。職場におけるムダと非効率を

域の外にあるものは皆、計測したり監視したりすることが難しいと

最小化し、 また事業プロセスを単純化することで企業は新しい収益

見られる。

を創造し、収益性を高めることができる。 カイゼンは単にタクトタイ ム(1つの部品・製品をつくるのに要する時間であり、顧客の需要に

7つのムダ

合わせた生産サイクルといってもよい)およびカンバン(見える化に

カイゼンは、非生産的・非効率的活動の真因の除去を目指す。 トヨ

よる管理)の枠組みに焦点を当てるだけではなく、 また、一般に認識

タ自動車元副社長の大野耐一氏が指摘したように、企業におけるこ

されているように製造・生産現場にとどまるものではない。それはむ

うした非生産的・非効率的活動は次のような7つのムダとなって現

しろ、 システムにおけるすべての階層に適用される継続的なミッシ

れる。すなわち、つくり過ぎのムダ、手待ちのムダ、運搬のムダ、加工

ョンであり、組織の継続的な改善と直近の成果につながるものでな

のムダ、在庫のムダ、動作のムダ、不良品をつくるムダである。

くてはならない。一般に、持続的な“カイゼン文化”を達成するため には3つの主要な継続的な変化が必要といわれる。すなわち--

バリュー・ストリーム・マップ(価値の流れ図 ) バリュー・ストリーム・マッピング(VSM) とは、企業における強力

1.

2.

カイゼン活動は体系的で採用が簡単でなければならない。新

なカイゼンツールで、 これによって端から端までのワークフロー(作

規採用の従業員を訓練する場合、彼らの年齢や能力に関係

業の流れ)のプロセスを巨視的に捉えることが可能になる。 この手

なく、 カイゼンを適用することが制約的な要因になってはな

法は、(1)現状の定義と(2)理想的な状態の定義という2つのステッ

らず、彼らの習得スピードを高めるものでなくてはならない。

プから成り、最終的には、改善、ムダの削減、価値の創造につながる

カイゼン文化は個人と集団の両方によって進められる。 カイ

視覚的な表現を提示してくれる。

ゼンは、連続的な改善のための自発的・意識的なアプロー チの導入を目的として、組織に属する全員がその組織にい る他の要員に対する指導と訓練を加速するものでなければ 3.

現場歩き 現場は常に価値創造の場である。現場歩きとは、工場の生産ライ

ならない。

ン、小売店の店頭など、文字どおり現場に出向き、直接見聞したこと

カイゼン文化は、皆を力づける。組織に属するすべての人が

から洞察を得ることをいう。それは、正直な別角度からのフィードバ

自信、創造的な個性、それに誠実さを持つよう促す。 これはま

ックや自発的なキッチンの強化に基づいた改善など単純なもので

た、組織が長い“カイゼンの旅路”を続けることを助ける未来

もよい。行動の核心に目を向けることは、企業の価値の向上につな

のリーダーの育成につながる。

がる従業員の自己意識と能力の強化を促すのである。

リーン生産方式 製造業に携わる人たちにとってカイゼンは、 コスト削減と収益性 の向上に直結する、最も可視的かつ実際的な概念といってよいだろ う。ほとんどの場合(すべてではないにせよ)、生産現場におけるカ イゼン活動はコスト削減を目的としている。生産のプロたちは、 タク トタイム、統計的処理能力、切換時間、品質、 コスト、性能、 リードタ イム、納期といった“目に見える”要素を測るための数値的なツール

ジュン・オルラーネス Lean Improvement Institute Consulting Groupの創業者であ り現在代表取締役。 また、Kaizen Institute/ Genba Research Consulting Groupおよ び Makoto Investment Consulting Group シニアコンサルタントを務める。 また、JW & Company Management Consultingの共 同創業者であり、かつてKaiser Permanente Medical Groupsの上席プロダクトマネジ ャーを務めるとともに、World Industries Companyのためにプロ用スケートボーダー の企画とプロデュースにあたった。

11


2014年7−9月号

世界の最高人材 育成責任者 ゼネラル・エレクトリック・ モデルとインドの能力構築

Knowledge@Wharton(ペンシルバニア大学ウォートン校) 英語原文から翻訳

教育訓練、 リーダーシップ開発、 そして組織的行動に責任を持つ最高人材育成責任者(CLO)はもともと欧米 発祥の概念だが、今や世界のあらゆる地域で、急速に変化する人材育成ニーズに応えようとしている。以下は 彼らの新しい役割と新しい課題の一端です。

ゼネラル・エレクトリック社(GE)が教育訓練に対して熱心なこと はつとに有名である。教育訓練に年間約10億ドルもの予算を費や す同社が、初めてCLOを採用したのは実に1990年代に遡る。同社は 定評のある教育訓練のための本部を1950年代以降、ニューヨーク 州クロトンビルに置いており、同社のCLOの概念は世界中の企業に 広まった。 GEにおいて、世界各地にある教育訓練センターは「故郷を離れて いる従業員にとっての“家”であり、 クロトンビル流のリーダーシップ 教育はミュンヘン、上海、バンガロールだけでなく、今や世界中で行 われています」 と、同社CLO兼幹部養成担当副社長であるスーザン・ ピーターズ氏は言う。 「コース内容を地域環境の中で教えるとともに、それを適切な文 化的ニュアンスと一緒に教えることを保証するのが各地にある教育 訓練センターの役割です。 リーダーシップの本質は世界共通ですか ら、原理や内容を変える必要はないと私たちは考えています。 とはい え、地域独自の文化的側面は厳然としてありますし、地域のリーダー

12

たちは、そうした文化的側面がコースの中に埋め込まれていること を保証しています」 とピーターズCLOは語る。 ピーターズCLOによれば、GEは「GEグローバルラーニング」 と呼 ばれる包括的なアプローチを採用しているという。 「私たちはその アプローチを3つの側面に分けています。第1はリーダーシップ、 第2は機能別に働くスキル、例えば金融スキル、マーケティングス キルなどです。第3はビジネスです。 この部分で私たちが力を入れ ているのは、ビジネスと産業に特有かつ必要な知識の教育です。GE の事業領域は、航空、医療から金融サービスまで多岐にわたってい ますから、そうした各産業ならではの特殊事情も教えなくてはなり ません」。 CLOは、 コースを設計・更新するにあたってCLOの部下であるグロ ーバルチームを頼りにする。 「コースを再設計することもしょっちゅう です。 というのも、 クラスが最新の内容とカリキュラムになるよう常 に微調整しなくてはならないからです」 とピーターズCLOは言う。


教育の価値を学ぶインド 急速に変化するインドでは教育が不可欠であり、CLOの役割が進 化しつつある。 今日、 インドではあらゆる主要企業活動が変わろうとしている。 「通常 の事業プロセスの変革、 M&A、 リブランディング (ブランドの再構築 ) 、 高度成長、 地理的拡大など、企業の活動は多岐にわたっており、多く の人はそれをどう扱っていいか分からないのが実情です」 と言うの は、ムンバイに拠点を置く幹部養成と知識媒体の専門企業、Leap Vault社の最高経営責任者(CEO) であるクマール・バグロディア氏 である。 トップ100ないし200社は何とかこうした変化に対応しているが、 「残る企業は、みなもがき苦しんでいるのが実情です。加えて、HR 機能のアウトソーシング化が進むなか、企業活動の中核として残る のが教育なのです。今や教育産業は専門化が急速に進んでおり、 よ り広範なHRの文脈にぴったりと収めるのは容易ではありません」 と バグロディア氏は語る。 インドのように、 スキルを持たない膨大な人口が近代的な労働力 に加わるという事態は、かつて欧米諸国はどこも経験したことがな かった。 「(第1に)彼らを訓練する責任はいずれ産業が負わなくては なりません。第2に、今日の私たちのビジネスモデル、つまり前に進 むという考えは、欧米諸国のそれとは違ったものになるはずです。 ですから、教育訓練の仕方も欧米とは違って当然なのです。第3に、 欧米は、 自分たち自身がグローバル化を進めながら、 グローバル化 のこのような軌跡を経験したことがありません」 とバグロディア氏は 指摘する。 一方、ボッシュ・インディア社人材担当上級副社長であるA・クリシ ュナ氏によれば、同社は適応の必要を真剣に感じている企業の1 つだという。 「インドでは、企業が期待する能力と実際に使用可能な能力と のギャップ(乖離)がとても大きく、 しかもそれは単に入社レベルに とどまらず企業のすべてのレベルに及んでいるのが現状です」 とク リシュナ氏は言い、 さらに「それだけに、教育機能の重要性と中心 性はますます高まっていますが、それは、能力の低い、あるいは十 分な能力を得ていない人材が基盤を脅かしているからなのです」 と語る。 そうしたギャップを埋めるのはまさにCLOの役割といってよいだ ろう。 「CLOの役割はあらゆる組織における能力構造の実際的な開

発であり、それはまた、能力の枠組みの定義に参加することにほか なりません。 でなければ(CLOは)単なるメッセンジャーボーイにな ってしまいます」 とクリシュナ氏は言う。 インドの“CLOストーリー”における最も意外な側面の1つは、 一般に変化に抵抗する公共部門にCLOが受け入れられているこ とである。政府所有の企業であるインド生命保険会社の専務取締 役、K・B・サハ氏は、 「CLOは、事業戦略の構築とその効果的な実践に 顕著な貢献ができる最も有利な立場になり得ます」 と言う。

「HR機能のアウトソーシング化が進む なか、 企業活動の中核として残るのが教育 なのです。 今や教育産業は専門化が急速 に進んでおり、 より広範なHRの文脈にぴっ たりと収めるのは容易ではありません」 「CLOは、最も基盤にある現実と常時接点があり、 また産業にお ける政治的・経済的・社会的・技術的問題を常に意識しますから、否 応なく、 こうした問題について経営トップの相談に乗り助言する上で 最も重要な人的資源になるのです。産業界のリーダーがこのことを 一刻も早く理解することを願っています」 とサハ氏は言う。 だが、バグロディア氏によれば「HR業界に20年いたからといって CLOになることは難しい」 という。 「市場ニーズ、競争意図、あるいは 従業員の行動は、CLOの役割における高度な専門性をますます必 要とするでしょう」 というのがバグロディア氏の意見である。 もしそう だとすれば教育訓練に要する費用はますます増えることになる。 で も、選択の余地はない。すでにそういう方向に動いているのだ。 「前 に進むしかありません。教育訓練に向かうしかないのです。HRはも はや無用なのです」 とバグロディア氏は言う。 編集者注 本稿は、Knowledge@Wharton の許諾を得て 「How GE Builds Global Leaders: A Conversation with Chief Learning Officer Susan Peters」 「India Learns the Value of Chief Learning Officer」 という2つの論文を短縮して作成した

13


カントリーフォー カス 2014年7−9月号

注目を集めるフィリピンの人材 岡本浩志 「The HR Agenda」上級編集者 日本語原文による寄稿

il

pr

A

14

20

近年、 フィリピンは高い経済成長率とその人材の豊富さから世界の注目を集めている。

GDPの伸び率においてフィリピンは2013年第1四半期(7.7%)、 第2四半期(7.5%) と、中国・インドネシアをしのいでアジア最高を

フィリピン進出企業の例 同特集はまた、 フィリピンに進出して成果を上げている日系企業

記録した。2013年下期、災害に見舞われたが、それでも通年で7.2

として、建機メーカーのコマツと自動車関連ソフトの開発を手掛け

%、2014年第1四半期でも6.5%を記録している。

る富士通テンの2社を取り上げている。いずれも今までの工場労

『日経ビジネス』は「中国の次のアジア」 と題する特集を掲載。ポ スト中国をうかがう新興アジア11か国を紹介している。なかでも

働者を求めるのとは違うパターンである。 コマツは、鉱山機械に対する需要が世界的に高まるなか、サー

同誌が特に注目しているのがVIP(ベトナム、インドネシア、 フィリピ

ビスエンジニアの不足という問題を抱えていた。そこで目を付け

ン)3国だ。その理由として挙げられているキーワードが、 「持続的

たのがフィリピンだったという。同社はマニラ郊外にコマツ人材開

な成長力」 「人材」 「親日」だ。

発センタを設立、サービスエンジニアを養成しすでに各国に送り 出している。

14


富士通テンは1999年にフィリピン子会社を設立し、そこでの従

国民は教育熱心である。 フィリピン人海外就労者はこれまで、船

業員数を拡大するとともに業務内容の高度化も進めてきた。年4

員、メイド、介護士、エンタテーナーなどとして世界に出ていたが、

回の採用試験にはフィリピンの名門大学からを含め毎回応募者が

最近はエンジニア、会計士、医師・看護師、IT技術者など専門知識

殺到、倍率は10倍以上に達するという。

を備えた人材が増えているという。日本を見ると、かつてはエンタ

BPOにおいてはこれまでインドが先行してきたが、近年はフィリ

テーナー(その多数が女性)が2004年に8万人超を記録したが、

ピンが猛追、コールセンター業務では2010年に世界シェアが2割

人身売買の温床になっているとして規制が強化され、2006年には

となり、インドを超えて首位となっている。

ほぼ10分の1の8千人台にその数が減った。その一方で、IT技術 者に門戸が開かれ、数はまだ少ないが日比経済連携協定のもと、 看護師・介護福祉士候補者の受け入れが2009年から始まってい る。 これから日本の労働市場が開かれていく中、 フィリピン人労働

BPOにおいてはこれまでインドが 先行してきたが、近年はフィリピンが 猛追、コールセンター業務では2010年 に世界シェアが2割となり、インドを 超えて首位となっている。

者がますます重要な位置を占めていくことだろう。 その際考慮すべきことがある。 フィリピン人は、人とのつながり、 特に家族とのつながりを大切にする国民である。海外に働きに出 る理由も、多くが家族のためである。そのためホームシックにかか る者が多く、会社としては、Skype等で話せるインターネット環境の 整備、一時帰国できるクリスマス休暇の付与等、 フィリピン人労働 者のモチベーション維持に配慮することが求められる。 また、 ここ数年フィリピンは、製造業の他に日本の衣料品、 ラーメ

フィリピンはかつてスペインの植民地であったため、国民の8 割がカトリック教徒である。宗教上避妊や中絶が禁止されている

ン・とんかつなどの小売店の出店が相次いでいる。2国が、さらに 近い国になりつつあることを肌で感じるこの頃である。

ため今なお出生率が高く、国民の44%を20歳未満が占めるなど、 東南アジア諸国のなかでも極めて若い人口構成となっており、若 年労働力が実に豊富である。 またアメリカの植民地であった歴史(1898-1946年) と親米的 な文化から、国民の多くが英語での高いコミュニケーション能力を 持ち、その力を活かして9,400万人という全人口の約9%にあたる 860万人が海外に滞在している。 フィリピン経済は出稼ぎ者からの 送金に支えられている。

15

岡本浩志 マニラ在住の通訳・翻訳者。 フィリ ピンで10年間、政府、NGO、法廷、マスメディア 他、製造業では半導体、 自動車の分野で働い てきている。


HRに聞け 2014年7−9月号

Andrew

& Y o s h i ’s

AskHR Helping you solve your people issues.

Ask Andrew & Yoshi: email us at AskHR@jhrs.org

リーダーに求められる資質とは何か 今日、ビジネスで成功する上でリーダーに求められるスキルと 資質にはどのようなものがあるのでしょうか。 –日米経営科学研究所(JAIMS)同窓生

ヨシの見解 日本語原文による寄稿

です。例えば、 もし個人や多様性を尊重することが企業の価 値観となっている場合、そのリーダーシップスタイルはトッ

アジアとアジア以外の地域から参加者が半分ずつ集まってシンガ

プダウン方式や独裁的なものではなく、包括的であり、 また

ポールで最近開催されたリーダーシッププログラムで、私たちが取

民主的なものでなければなりません。 また、イノベーション

り上げたトピックの1つが「アジアのコンテキストにみる統率」 でし

が組織的な価値観になっている場合は、 そのリーダーシップ

た。そこで参加者たちは、急速に変化するビジネスと社会環境にお

スタイルは、命令的であったり懲罰的なものであったりして

いて、 アジアの多様な文化背景を持つ人々を統率するための最善の

はならず、人を鼓舞し許容的でなければなりません。

アプローチとスタイルについて議論しました。 私たちは、独裁的、民主的、 自由放任主義的といった典型的 リーダーシップのスタイルについては議論せず、その代わり

3. スタイルを変える能力 リーダーが本当に効果的なものとな り、 また事情に精通するためには個人やビジネスのニーズ

に、GLOBE(Global Leadership and Organizational Behavior Ef-

に応じてスタイルを変えることも必要になってきます。 個人の

fectiveness:グローバルリーダーシップと組織行動の有効性)研究

心理的な型を特定する方法はたくさんあります。例えば主導

で明らかにされた6つのリーダーシップのスタイルについて主に議

型(D)、感化型(I)、安定型(S)、慎重型(C)に分類するDISC理

論しました。そのスタイルとは、 カリスマ的、チーム指向、参加型、人

論、外向型―内向型、感覚型―直感型、思考型―感情型、判

間中心指向、 自立的、 自己防衛的の6つです。

断型―知覚型の組み合わせで見るMBTI、意思、エネルギー、

これらのスタイルはすべてどの民族文化にも存在しますが、程度

配慮、 コントロール、情動性の型を持つFacet5、分析的、系統

に違いがあります。数々の講義や議論を通じて、参加者たちは、あら

的、対人的、想像的の分類を持つHBDIなどがあります。今日の

ゆるビジネス、人間、組織の必要を満たす単独のスタイルは存在し

多文化の職場環境においてはそれぞれ違う民族的・文化的

ないということで基本的に意見が一致しました。効果的なリーダー

なスタイルが存在しています。あなたの会社のリーダーは、

とは、最善の結果をもたらすために状況に応じて自分のスタイルを

これらのスタイルの違いを理解した上で、最善の結果を達

最大限適応させることができる人といってよいのです。

成するために、 これらの違いを最大限に利用するベストのス

ではここで基本に戻りましょう。私は、 自分の行動を決定する際に

タイルやアプローチを採用しているでしょうか。

以下の事柄を考慮に入れることをお勧めします。 1. スキルと心構え リーダーは、(1)根本的なビジネス、人間、組 織に対応する能力を持ち、加えて、(2)組織を率いる心構えを 有していなければなりません。 もし、それらを有していない なら、それはリーダーシップスタイル以前の問題です。 2. 企業価値への一致 あなたのリーダーが一連の適当なスキ ルと心構えを持っていたとしても、そのリーダーシップスタ イルが企業の価値観と風土に十分一致していることが必要 16

松井義治(ヨシ) HPOクリエーション 代表取締役社長 12年間のマーケティング経験と12年間の人事と組織開発の経験をもとに、 リーダ ーシップ開発と組織開発を専門とする。エグゼクティブコーチング、 リーダーシップ 開発、組織変革、マーケティング及び営業力強化などを通して、顧客企業のビジネ ス成果・組織の健康・社員の能力と士気の強化を支援。北九州大学外国語学部卒 (異文化コミュニケーション専門)、ノースウェストミズーリ州立大学経営学修士 (MBA)。現在、ペッパーダイン大学にて教育学博士コース(組織変革専攻)を修了し 博士論文執筆中。


HR Japan Summit 2014年7月9-10日|ホテル椿山荘|東京|日本 世 界 経 済 の 潮 流とともに、日本 企 業 の 経 営 は 人 事そのもの から独自に変 化 することが 求 められている。また、 同 時 に 国 際 競 争 が 標 準となる現 代で は 、日本 企 業 が 生 き残るた め に は 、世 界 基 準 に 合 わ せ た 優 れ た 人 材 を 確 保し育 成していく人 事 部 門 の 今 後 の 戦 略 が 経 営 戦 略 に 大きな 影 響を与えるといっても過 言で は な い。厳し い ビジ ネス 環 境 下で、企 業 が 競 争 優 位 に 立 つ た め に は 、人 事 部 門 が 経 営 者と現 場 の 良 きパ ートナーとして、 現 場 に お ける戦 略 実 践をサ ポ ートし、経 営 の 意 思 決 定をサ ポ ートする役 割を担ってい か な けれ ば ならな い。

ビジネスリーダー・インサイト 業界エキスパート達との情報交換 HR Japan Summitイベントプログラムは、 日本企業の人事部門責任者達からのご意見や、事前調査を基に構成しており、現在のビジネス環境 下における人事部門の緊急課題について討議いたします。

HR ジャパンサミット2014講演者 テルモ株式会社 元・名誉会長 和地 孝 8bitnews 代表; NHK(日本放送協会) 元・アナウンサー 堀 潤 法政大学大学院 准教授 政策創造研究科 石山 恒貴 DHLジャパン株式会社 オーガニゼーションディベロップメントマネージャー 人事本部 牛島 仁 その他多数登壇予定。

サミットに関する詳細・お問い合わせはこちらへどうぞ

17 Summits-apac@marcusevansuk.com


アンドリューの見解 英語原文から翻訳

リーダーシップのスキルに関する本や理論はこれまでにも多数 公にされており、あなたの問いに対する答えはまさに千差万別で す。 ここでは私の個人的な意見を申し上げます。 1. 決断力と粘り強さ 多くの強いリーダーは持論を持っていま す。 また、 自分で決断します。彼らは決断力があり、 自分が信 じたものに突き進み、それを実現させるエネルギーを持っ

ます。 また、 リーダーは自分のもたらす影響を理解しており、 それを組織のために使うことができるのです。 3. パフォーマンスの軌跡 本当のリーダーは成功の記録を残 すものです。多くの人間がリーダーシップに関する著作を読 み、理論を説明できるようにはなるでしょうが、 リーダーシッ プを実践し、 うまく使いこなすためにはスキルが必要なので す。私にとって、その記録がとても重要で、 リーダーシップが 求められるポストに応募してくる人には、それをいつも期待 しています。

ています。 2. 人を率いるスキル 端的に言えば、 リーダーとは文字どおり 「 人をリードする (率いる)人」 です。いつの時代においてもこ のスキルこそが、成功をもたらす鍵となる能力です。昔と違 って今の従業員は批判好きであり自分の意見を持っていま す。彼らは自分がいくつかの選択肢を持っていることを知っ ており、 自分の意見を聞いてもらうことを望んでいます。偉 大なリーダーはビジョンを示し、人をやる気にさせ、未来へ

アンドリュー・マンターフィールド 須田マンターフィ-ルドコンサルティング エグゼクティヴ・コーチ&シニア・コンサルタント 人は「さらなる達成感を得たい」 という願いを持ち、かつ、その願いを実現する能力 を持っている、 と考える彼が目指すのは、 クライアントその人が持つ価値・能力を見出 し、 クライアントが自信と輝きに満ちた毎日を送ることができるよう導くことだ。 「ギネ ス®」 「キルケニー®」、 「スミノフ アイス®」などのブランドを所有する英酒類大手ディア ジオ社での27年にわたる輝かしいキャリアの持ち主で、10年以上に及ぶ人事部門そ してセールス部門での管理職在任中には、 日本、オーストラリア、そしてイギリスでの 駐在をはじめ、 アジア、 ラテンアメリカ、 そしてアフリカ地域を奔走し、当該地域におけ る社の発展に貢献した。そのなかで、 アジアの文化、特に日本の文化を背景とした日 本特有の雇用問題や企業における問題などを深く理解するようになった。

の希望をもたらし、個人ともグループとも関わることができ

お断り アンドリューならびにヨシの回答、意見、見解は個人のものであり、必ずしもThe Japan HR Societyやその会員、事務局、会友、支援者の全般的見解や感情を代表するものではあり ません。更に、 アンドリューならびにヨシの回答、助言、見解は情報提供だけを目的としたものであり、資格を有する法律専門家、財務専門家のより専門的な法的、財務的助言にとってか わることを目指したものではありません。

18


LEGAL

In association with:

CLINIC

"Ignorance of the Law is no excuse."

2014年7−9月号

日本における企業の災害対策 質問 東京では、災害対策のために投資することがすべての企業に義務付けられていますか -グローバルな企業マーケティング専門会社の上級HRマネジャー

回答 英語原文から翻訳

私が知る限りこの分野における唯一の法令は、東京都が2013年 4月1日に施行した条例(条例番号2012年17号) である。 「東京都帰 宅困難者対策条例」 と称するこの条例は、大地震やその他の自然災 害によって帰宅が困難になった個人の支援措置を規定している。 具体的に言えば、 この条例は企業に次のようなことを定めてい る。すなわち、所有する施設をできる限り安全・堅牢なものにするこ と、初期(緊急救援)の消火と人命救助活動が行えるよう常に準備し ておくこと、避難誘導と他の適切な災害対策のための訓練を従業員 に実施すること、 また自社敷地に閉じ込められた・足留めされた個 人を介護するための必要な設備と食糧を備蓄しておくことである。 最後の規定を実現するために、従業員のために3日分の食糧と 水を備蓄するとともに、発電機とその他の緊急照明機器を用意する ことが推奨されている。 ただし、 この条例の規定は強制力を持つ法令というよりは指導措 置であり、非遵守に対する罰則は特に定められていない。 しかしながら、 この条例が定める準備と対応のための最低基準 は極めて合理的で、 できる限りこれに従うよう努力することには意 義がある。 優れた災害対策計画とは、大災害の後も従業員と顧客がサービ LEGAL

CLINIC

我らがエキスパート のご紹介

人事関係の法律に関するご質問、エクスパートへのご志願はhrclinic@jhrs.org までお寄せください。

スを継続できるよう、その両方のニーズを考慮したものでなければ ならない。そのための1つは、すべての従業員のための正しい緊急 連絡情報を整備することである。 今日の多様な技術を活用すれば、災害時、あるいは災害のあとに 従業員と連絡を取るために多くの方法を講じることも可能である。 例えばインターネットやオンラインに基づいた技術、遠隔電話シス

ヴィッキー・バイヤー

採用 、ベネフィット・プログラム、解雇、退職、従業員関係、差別および ダイバーシティ、非競争、調査および懲戒関係

トビー・マレン

米国でのビジネス、労使問題と雇用、不動産法律関係

テム、あるいは無線ネットワークなどを使って従業員が相互に支援 できるようなマルチチャンネル通信システムに投資することもでき る。それらを駆使することで、災害時に不可欠なリアルタイムな通信 フローが可能になる。

大山滋郎

会社法、知財権法

グラント・スティルマン

国際組織および貿易に関する法律

嘉納英樹

労働法、雇用法

サム・エバレット

国際HR法、年金、 リストラ、職業安全衛生、 グローバル・モビリティー、 報酬と手当て、従業員個人の権利、差別、データ・プライバシー 19

お断り:筆者がここで述べているアドバイスや意見は一般的な情報を提供するのが目的で、専門的な法 律アドバイスではありません。 法律的なアドバイスが必要な方は資格を持った専門家に個別に相談して ください。

ヴィッキー・バイヤー 日本の労働法に関して 20年以上の経験を持つ弁護士であり元法学教 授。現在は在日米国商工会議所顧問弁護士。 加えて5年以上にわたって日本以外のアジア 8か国で、雇用法に関わる業務に携わってき た。 ワシントン大学から法学士、ボンド大学か ら会社法と商法の法学修士号を取得。


研 修と開 発 2014年7−9月号

軍事原則の ビジネス面 への応用 ジョー・ハグ プログラムコーディネーター 生涯教育プログラム テンプル大学ジャパンキャンパス

英語原文から翻訳

災害対策の一環として企業が緊急通報受理機関と提携しているのはよくあることだ(本号のHR法律相談参 照)。 ますます企業が日本よりも社会的騒乱が一般的な世界の地域に進出するようになり、政情不安地域にお いて継続的な経済投資と地域で雇用される人員の安全を守るために、ビジネスと軍の新たな連携の役割が 現れている。軍の働きが戦闘から人の安全と平和維持に移行するなか、軍の活用が市民により当たりの良い ものとなり得る。本稿でジョー・ハグ氏は、ビジネスが軍の訓練とリーダーシップから学ぶことができるような 古典的ビジネス書と事例を論評している。

カリフォルニア州立大学マーケティング学教授ウイリアム・A・ コーエン氏は、30年近く前、 「販売戦争に勝つためにどうすれば 歴史的な軍事戦略諸原則が適用できるか」についての小論文を

のような原則で書かれた本は"体系の断片を伝えるだけ"か"理解 するためには深い洞察力が必要である"」 と書いています。 これは戦争外で戦場の例えを理解し適用しようとする過ちを知

書きました(Cohen, W. A.,Historical military strategy principles

るのに役立ちます。過ちとは、作家や学生の多くが、実際のリーダ

advocate for winning marketingwars. Marketing News, April

ーに昇る過程を無視して、 リーダーシップは簡単に習うことができ

12, 1985, p. 23)。彼以降、多くの経済アナリストが軍事の比較対照

ると思っていることです。

の原則をビジネス取引に当てはめようとしてきました。 しかし現実

コストコの共同創業者で元最高経営責任者ジェームス・シネガ

には事業と戦争とは別物です。 しかしHRの視点から理論的に比べ

ル氏は従業員教育とトレーニングは極めて重要であると理解して

てみると両者にはさまざまな類似点が存在します。

いました。さらに管理職を社内から昇進させることにより自身の在

孫子はその有名な著作の中で軍事6原則について書いていま

職期間を超えて会社の成功を確かなものにしました。

す。 これは『孫子の兵法』 として現代に生きています。古典的マニュ

GE(ゼネラル・エレクトリック社)のような主要企業はジャック・

アル、即ちフォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』や毛沢東の『毛主席

ウエルチ氏のような奇才を迎え入れ・育て・引き止め・リーダーへ

語録』が高い評価を受けビジネス理論に採り入れられています。に

と昇進させることができました(本号Knowledge@WhartonのGE

もかかわらず『戦争概論』 (1854) (佐藤徳太郎翻訳、中公文庫刊)

の学習にかける熱心さも参照ください)。ジャック・ウエルチ氏の

の著者アントワーヌ‐アンリ・ジョミニはとても深い洞察力で、 「そ

人柄について書かれたことの数々を横に置いても、事実ウエルチ

20


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氏 はずっとGEに勤めながら、卓越した地位に昇り詰めたのです。

のを受け入れて志願したことと似ています。また、新入社員は雇用

しかしながら今なお他の多くの企業はこの考え方を理解せず、会

主に誓いを立てますが、雇用主からも見返りの誓いを求めます。

社のミッションについて不慣れなものを外部から管理職として雇 っています。

最近のハーバード・ビジネス・レビューの記事が価値ある遺産 を強化するための3つのリーダーシップ・プロセス(入社時トレー ニング、強化教育、維持教育)について書いています(Hipple, J. R.,

従業員が新兵のように教育・トレー ニングを必要としている観点から 戦争になぞらえることがあることを リーダーが理解すれば、軍事原則を適用 することは適切です。 軍事の歴史ではしばしばリーダーのカリスマ性を強調します。そ

& Olson, S. (November 18, 2010). Value-Based Management Lessons from the Marines. Harvard Business Review – Blog Networkから検索) ここでの教訓は、継続的な教育・トレーニング が従業員の開発を成功させる鍵であり、それにより彼らに、将来の 会社の舵取りを委ねていくことになるのです。人事部長は、組織が 従業員に対して責任として負っているトレーニングプログラムの開 発・確立・実施に重要な責任を負っています。 謝辞 翻訳 ㈱IOAK 三宅 康太 IOAK@live.jp

の結果、稀な先見性があるか明確にカリスマ性のある大人物とし て偉大なリーダー像を書き記すのが常です。 この認識の妥当性を証明するため、作家ジェームス・コリンズ氏 とジェリー・ポラス氏は「明確なビジョンを持った会社に共通して 内在する特性を特定するための」6年間の調査プロジェクトを立 ち上げました。調査結果では、ある組織が他の組織よりも優れてい るのは、偉大なリーダーを擁しているからだという仮説が必ずし

ジョー・ハグ 理学修士、経営学修士、企業幹部 向けの経営学修士、テンプル大学日本キャン パスにて生涯教育プログラム・コーディネータ ー、米軍退役軍人、現在オーガニゼーション・ マネージメントの博士号取得を目指している。

も正しくないことを突き止めました(Collins, J., & Porras, J. (1994) Built to last: Successful Habits of Visionary Companies. Harper Business.)。実のところ、偉大なビジネスリーダーが、有名になる前 に受けた広範な教育やトレーニングが成功をもたらしたのです。 確かに、十分に開発された教育とトレーニングプログラムを持 った組織は、偉大なリーダーを生みやすいものです。軍隊も例外 ではありません。 ビジネス成功のカギは従業員の士気を高めることにあります。 ミッションに対する責任感重視は、業績の改善、自主性の開発、忠 誠心の維持のために従業員に犠牲を求めることになるかもしれま せん。

日本の労働法に ついて問題を抱 えていますか? 私がお答えしましょう

毎年日本では大企業がこのことを忘れず、数々の面接や心理テ ストに合格した新しい従業員に教え込んでいます。新入社員は適 切に系統化された教育を受けます。今日の軍隊も新兵を受け入れ る際、最も力を伸ばせる職種に彼らを振り分けるため、心理テスト を利用しています。実例を挙げますと米国のASVAB、オーストラリ アのADFAT、アイルランドのIAPTなどがあります。心理テストの意 義は多くの場合、いつの日か重大な責任ある地位に就く従業員の 長所と短所を往々にして知ることができることです。適切な心理測 定手段を用いることで従業員の配置と成長の助けになります。軍 の求人担当者はこのような手段を使い続けています。 ビジネスは時に生死や戦闘の観点からではなく、従業員が新兵 のように教育・トレーニングを必要としている観点から戦争になぞ

私どもにご連絡を

横浜パートナー法律事務所 tel 045-680-0572 fax 045-680-0573 email oyama@ypartner.com

らえることがあることをリーダーが理解すれば、軍事原則を適用す ることは適切です。新入社員が組織の表明しているものを受け入 れてそれに参加することを志願したことは、新兵が軍の意味するも

22

http://ykomon.com


コ ー チング 2014年7−9月号

潜在力を引出し目標を達成するための 手段としてのコーチングの活用

コーチングはどれだけの価値を組織に提供しうるのか? 紫藤由美子 国際コーチ連盟(ICF)日本支部副理事長 日本語原文による寄稿

コーチングが海外、特に欧米において企業・組織における人材開発に活用され、 その言葉が一般的になって 久しいが、 日本の企業・組織においてもその認識と必要性は高まってきている。 では、 コーチングは、急速に変 化し、不確実な要素を多く含みながら日々複雑化していく現代ビジネス社会において、企業・組織でどのような 役割を果たし、 どのような効果をもたらしているのだろうか? 国際コーチ連盟の実施した調査結果をもとに、 その役割と効果を専門家に語ってもらった。

2.

コーチングが目指すもの

るようになり、視点を変えることができる

はじめにコーチングの定義ですが、国際コーチ連盟の定める定義を かみくだいて説明すると、次のようになります。

3.

創造的なプロセスを見出すことができるようになり、意思決

4.

コンフォートゾーン(快適帯)から意識的に抜け出すことがで

定のための選択肢を増やすことができる

コーチングとは、 クライアントとコーチの継続した対話(毎回のセッ ション)を通じて、 クライアントの

きるようになり、積極性・自信が増す

1.

潜在力を引き出し

2.

思考の自己認識、意識化、言語化、見える化、具現化を図り

3.

自分の考え方・感情の動きの傾向を客観的に見ることができ

成功・目的達成までの道のりを効果的にするプロセスです。 コーチングの定義

言い換えれば、 カウンセリング、 コンサルティング、ティーチ

生産性の向上

(潜在力を最大限に引き出すことによる)

ングとは一線を画し、あくまでクライアントの自主性を原動力 として目標達成や課題克服を目指すことがコーチングの重 要な特質です。 コーチングのプロセスにおいては、意識・思考の変化や新

70%

61%

57%

51%

しい“気づき”がクライアントに生じ、視点が変化し、行動の変 化が起きます。そして、 コーチングは、望む未来や解決したい ことに焦点を当て、思考力の誘発や創造的プロセスを重要視 します。 さらには、 クライアント自らが、意図的かつ意識的に 関わり、決定し、行動することが大きな特徴といえます。 コー チはクライアントのパートナーとしての役割を担い、そのプロ

仕事の生産性の向上

ビジネスマネジメントの向上

タイムマネジメントの向上

チーム効率性の向上

積極性の向上

(自信を育むことは、組織的要求に応じて、困難な状況に立ち向かうために非常に重要。 )

セスに関わっていきます。 私自身、企業でコーチングを実施する機会を多く得ていま すが、 クライアントと一定期間(個人差はありますが)関わる

80%

73%

72%

関係性の改善

コミュニケーショ ンスキルの改善

67%

ことで、 コーチングから次のような成果があることを実感し ています。 1.

ビジョンとゴールを明確にすることができ、それらを 効果的に達成できるようになる

23

自信の向上

ライフワークバランスの改善

出典:International Coach Federation and PricewaterhouseCoopers International Survey Unit


5. 6.

ソフトスキルが強化されることで部下育成が効果的にでき

システムコーチングなど、 さまざまなアプローチにより企業・組織に

るようになる

変化、進化が生まれています。 ここまで、国際コーチ連盟が行った調査結果を参照しながら、企

ストレスマネジメントの一助になる

業におけるコーチングの認知度や受け入れられ方についてお話し してきましたが、私自身がコーチとしてビジネスの現場でコーチン

調査結果に見るコーチングの効果 また、 コーチを起用することによって企業・組織が多くの恩恵を 受けていることは、私の経験からだけではなく、国際コーチ連盟が プライスウォーターハウスクーパースと共同で実施した「ICF Global

グを行っている経験からは、 日本でも同様の傾向が起きていく兆し がすでに現れていると感じます。 コーチングはクライアントの目的達成、課題解決に必要な思考や

Coaching Client Study」の結果を見てもわかります。調査結果の要

プロセスの言語化・見える化・具現化に非常に有効な手法です。 ま

点をいくつかご紹介します。

た、そのプロセスにおいてクライアントの自発性を最大活用し、意図

これらを見ると、多くの企業・組織が従業員に望む生産性の向上 などを実感し、 コーチングが有効だったと回答しています。特に70%

的かつ意識的に取り組む手法でもあり、従業員の成長、ひいては組 織の成長に大きな役割を担っていると考えます。

の対象者が仕事の生産性が向上したと回答していること、ビジネス マネジメント、 タイムマネジメント、チーム効率性の項目についても 半数以上の対象者が同意していることからも、その有効性が見て取 れます。 積極性ということに関しても、80%が自信の向上に役立ったと回 答しており、関係性、 コミュニケーションスキル、 ライフワークバラン スにおいても高い効果率を示しています。投資利益率の観点から は、86%がコーチングに対する投資を回収できたと答えています。 また、 コーチングの経験に対する満足度は100%に迫り、 また受け たいとの回答も96%であったことは、 コーチングという手法がビジ ネスに受け入れやすいものであることを示す1つの指標になって いると考えます。 コーチングと一言で言っても、その手法はさまざまで、企業向けコ ーチングの中で比較的高い認知度を得ているエグゼクティブコーチ ングのような個別コーチングだけでなく、複数の個人を対象にした グループコーチング、個人ではなくチームや組織全体に働きかける

投資に対する効果

(コーチングは、学びや測定可能な結果を導くためのコミットメントに基づく行動を明確にします。 86%の企業がコーチングに対して行った投資が回収できたと述べている。 )

86%

コーチングに対する投資を回収できた

満足と答えた顧客

99%

24

全体として 「ある程度満足」 と 「とても満足」

98%

継続する意思がある

紫藤由美子 国際コーチ連盟日本支部副理 事長。モルガン・スタンレー、 コーポレートサー ビス部日本のCOO、 アジア全域の情報リスク 管理責任者の職責を経て2013年に独立。現在 はHuman Capital Advisory Partners代表。テキ サス大学経営大学院 School of Management 修了。


組 織 デ ザ インと組 織 開 発 2014年7−9月号

オーガニゼーショナル・ラーニングの遺産と教訓 オーガニゼーショナル・ラーニングの父 クリス・アルギリス教授への賛辞 ヒルダ・ロスカ・ナルテア 「The HR Agenda」寄稿編集者 英語原文から翻訳

学習と行動に正しいアプローチで臨むことにより、ビジネスだけでなく人生における問題をも解決し 結果を残すことができるとオーガニゼーショナル・ラーニングの提唱者たちは教えている。

オーガニゼーショナル・ラーニングは、学習を成功する企業文化

引用している。今日、職場環境は驚くべき速さで変化している。 さま

のかけがえのない一部と捉える強力な戦略である。オーガニゼーシ

ざまな概念や理論は一瞬のうちに時代遅れとなる。紋切り型の知恵

ョナル・ラーニングは経営、チーム形成、組織のための単なる概念

はすぐに悪い忠告となるなど、長い間、真実と信じられてきた事柄に

やフレームワークではない。その主要な提唱者たちをよく調べてみ

疑問を投げかけ、働く者たちに働きながら学ばせることが組織にと

れば、オーガニゼーショナル・ラーニングがいかに人の生き方その

って緊急の課題となっている。

ものであるか、 また、世界観における1つの立ち位置であり、ビジネ スだけでなく、人との関係づくりにおける視点であることが理解で きるだろう。

日本における学びの文化をサポートする 日本では、仕事熱心な働き手を育て、高い品質を維持するには“

オーガニゼーショナル・ラーニングの第一人者であり、”オーガ

学びの文化”を下支えすることが組織の不断の使命であると長く認

ニゼーショナル・ラーニングの父”であるクリス・アルギリス教授が

識されてきた。国際アクションラーニング機構の会長であるマイケ

2013年11月に死去した。その際、多くの

ル・マーコード教授は「The HR Agenda」

人から愛されたこのハーバード大学教

とのインタビューで、 「多くの日本の大企

授に、世界中の知己から愛情、尊敬、感

業の創立者は、良い製品を作ると同時に

謝の声が寄せられた。ありふれたお悔

学習に力を入れてきた」 と述べている。

みや賛辞のほかに、彼の教え子、同僚、

彼はそのようなパイオニア企業として、

友人、信奉者たちはアルギリス教授との

ソニー、NEC、パナソニック、 トヨタ、ホン

出会いから学んだ、何年経ってもなお

ダ、キヤノン、富士ゼロックスの名前を挙

有益であり続けている教訓を挙げてい

げている。

る。かつての教え子は次のように述懐し ている。 「私は30年以上前に先生の授業を受 けましたが、そのときに学んだ賢明な教

学び、 また学んだことを忘れるための勇 気と好奇心 オーガニゼーショナル・ラーニングの

えは今も役に立っています」。 このこと自

最も目立った特質は、他のリーダーシッ

体が、開発と問題解決のためのアルギリ

プ概念やプログラムとは違い、理論と実

ス氏の有名な教え、主な助言の中で、 よ

践が融合し、1つの入り組んだ全体を

く知られている原則である、学習を行動

なしていることである。 これこそがまさ

に結び付けることの有用性を実際に示

にクリス・アルギリス氏がその全人生で

しているといってよい。 グローバルビジネスの専門家、思想的 リーダー、教育者、影響力のある人たち は、今日のビジネス環境を自分たちが調査し、他人がそれをうまく切 り抜けていけるように支援する際に、 アルギリス氏の洞察を今なお 25

体現した、絶え間なく教えつつ学び、そ して時には学んだことを意図的に忘れ ることに徹した生き方といってよい。彼は 「たとえ脅威に直面した時も学びを継続するのに必要な好奇心と 勇気を保ち、 より良い世界を作り出すために必要な希望と謙遜」を


保持していたと、SoL(Society for Organizational Learning)のダイア

伝統的な考え方をする人にとってオーガニゼーショナル・ラーニ

ナ・スミス氏はアルギリス氏が残した生き方に思いを馳せながら書

ングは革命的であり、 リスクに満ちた理論かもしれない。なぜなら失

いている。

敗は、予想を超えて洞察にあふれ、思いやりある解決指向にもなり、 真の革新、創造性、成果をもたらすことにもなる。

さまざまな概念や理論は一瞬のうち に時代遅れとなる。 紋切り型の知恵はすぐ に悪い忠告となるなど、 長い間、 真実と信 じられてきた事柄に疑問を投げかけ、 働く 者たちに働きながら学ばせることが組織 にとって緊急の課題となっている。

アルギリス氏の業績の実践応用を一貫して説いている団体にSoL がある。SoLの業績は次の3つの柱に基づく。すなわち、 システム思 考、内省的対話、および志である。統合、開発理論など他の関連理論 は、パフォーマンス・アートを採り入れた気付きや体現などの実践的 手法と共に、最近では、仏郵便公社や仏国鉄、世界銀行、 フィンラン ド政府などで世代を超えて人や組織に成長をもたらすために活用 されている。オーガニゼーショナル・ラーニングは、手っ取り早い解 決策でもなければ、容易でもないことだけは明らかだ。 これにはあ る程度の大胆さや現状を打破したいという欲求が必要なのだ。 しか

アクションラーニングのもう1つの目立った特質は、 リーダーが

し、 もし組織が本当に前向きで革新的な変化を望むのであれば、今

質問をするように期待されていることだ。 これは従来の伝統的なイ

こそ飛躍するのに十分な勇気を持っているかどうか、 自らに問いか

メージ、つまりリーダーたるものは解決策を示すべきであるというイ

けることが重要である。

メージの対極にある。質問することはそのリーダーを弱く見せ、不確 実なポジションに追いやる可能性があるという考えとは反対に、オ ーガニゼーショナル・ラーニングにおいては、恐れずに質問し、誠実

謝辞: 小田理一郎、Society for Organizational Learning (SoL) Japan

に相手の言うことを聞くリーダーこそが実のところ、人の洞察力と知 恵を刺激すると考える。 アルギリス氏はどのような出会いにも常に いくつかの質問を準備していた。 スミス氏はアルギリス氏の「顔を輝 かせたはじける笑顔、好奇心の塊のような目、意外な質問、学びを 深める手掛かりを求める傾聴、彼は何か新しい物が出てくるまでけ っして止めようとしなかった」 と彼の在りし日を偲ぶ。

26

ヒルダ・ロスカ・ナルテア シドニーに本拠を置 くPRエージェンシーのライティングチーム責 任者。そのかたわら、複数のNPO法人のコンテ ンツプロデューサーを務める。またかつて、フ ィリピン・エネルギー省のもとで、国連開発計 画のいくつかのプロジェクトを担当したことも ある。


論説 2014年7−9月号

組織開発と学習 反復と統合の時代 アネット・カセラス 「The HR Agenda」編集長 英語原文から翻訳

今日、組織学習と専門的能力の開発はかつてないほどの大きな規模で進めなければならなくなっている。HR は複合的な応答プロセスを活用して意思決定の瞬間にすべてを集中させ、組織内で東洋と西洋の影響を統 合・反復することによってこれを達成することができる。

1990年代末に複合科学が経営書に登場し たとき、それを受け入れない人々もあった。合理的で も構造的でもない組織において何かを操作し管理することは不 可能と考えたからだ。まったくその通りだ。機械的な操作という意 味で変化や知識を操作することは不可能である。 このような方法 で学習を操作することも不可能だ。 しかしながら、私は可能性を 信じている。 どのようにすれば強化されたコミュニケーションが様 々な規模の組織を結び付けることができるかを検討することによ って、私たちは建設的に学習のあり方に影響を与え、環境を変え ることができるという可能性だ。 全体としての組織がどう動くかを知ることで、管理職も労働者 もより効果的に適応することができる。例えば、需要と供給の変 動に適応する、あるいは採用と訓練を通じた人材管理を含む人 事循環に適応するなど。 グローバルな規模で展開する組織では、 複合非線形反復パターンを理解することはよりいっそう的を射 ている。

27


複合的な応答プロセス

定義 実例 定義 実例 定義

1.人々の専門的な役割と責任を流動的なものとして捉え、ビジネス環境や能力開発にお ける変化に関係させて捉えること。2.建設的な質問を述べたり探求したりする鋭敏さを特 徴とする対話ダイナミック (既存のやり方を強化する対話ダイナミック、あるいは攻撃や非 難を特徴とする対話ダイナミックと対比してほしい) 人やチーム、あるいは部署の行動、態度、口頭での陳述の繰り返しあるいは循環で、予期せ ぬ形態変化の可能性を伴う (上記「分岐」参照)。行動が外に向かって局所文脈から近隣文 脈へ、組織横断的文脈へと伝わり、 さらにステークホルダーにまで伝わる可能性もある た め、巣作り効果が出てくる。 1.あるプロジェクトに対する熟考の螺旋的な循環。それぞれの循環で、前に行った熟考と 進行中のタスクが共に次の反復へのインプットになる。2.組織を通して成功事例を次々 に波及させる複合効果。例えば、 さまざまな規模と種類の変化(社会的、経済的、技術的、政 治的など)についていくために、鋭敏さをもって疑問を呈する能力、分析し直感する能力、 熟考し予測する能力など多様な組織能力の開発。 1+1が2になること。全体が部分の総和に等しい。分析によって理解する。予測可能な 原因と結果の関係。成果や結果に対して、挙げられた要因以外のいかなる要因による間接 的な影響もない。 1.明瞭に定義された有限個の要因の分析に基づいた合理的な意思決定。例えば、現在の 為替レート、過去の総収入と利益、財務目標など。2.事前に定義された手順を用いた計画 の立案。手順通り的確に実行すれば、設定目標が達成できる。3.作業工程プロセスにおい て個々のタスクを明瞭に定義すること。全体的な事業プロセスはこれらタスクの総和と等 しい。熟練したスキルを巧みに用いて個々のタスクを完遂する。4.機械的またはコンピュ ータ化されたプロセス。 1+1が2よりも大きくなること。全体が部分の総和よりも大きくなる。直感によって理解 する。結果は原因に比例しない(上記「バタフライ効果」参照)。複合的なシステム(株式市 場、多国間政治、気候システムなど)が、推測はできるが確実な予測はできないようなやり 方で互いに影響を与え合うような場合に、 より大きくなる。

実例

ノンリニア (非線形)

静止している物体ではなく、何か絶えず動いているもの。ある特定の動きを特徴付けたり 指示したりするパターンまたはエネルギー。

実例

リニア (線形)

1.口コミなどによって急速に広まる内部コミュニケーション。2.1人あるいは1チーム の自主的な取り組みが全社的な成功事例となること。YouTubeの「カオス理論/バタフラ イ効果」、および本郷麻子氏によるカイゼン思考の波及効果に関する本誌特集記事を参照 されたい。

定義

反復

ブラジルで蝶が羽ばたくこととフィリピンの台風との関係のように、初期条件が微妙に影 響を与えること。今日行うことが一見取るに足りないことのように見えても、将来、組織にと って予想外の大きな影響をもたらす可能性があるという考え。

実例

ダイナミック (動的力)

議題に沿った会議に加え、管理者がオープンな会議を始める (予め予定されたというより は緊急の論点 — ライブな、パーソナルな、部署の、あるいは組織規模の論点 — に関して 対話を促したり引き出したりする能力に管理者自らが自信を深めたことで自然と発展した ものかもしれない)。

定義

バタフライ効果

1つのものが2つの方向あるいは枝に別れることで、将来的にさらに分岐する可能性に 繋がる。 (型通りの1つの手順ではなく)2つの選択肢があれば、両方を組み合わせて用い た結果、 さらに他のことを他の方法でし始める可能性も出てくる。

実例

分岐

定義

組織の学習と開発に合わせた定義と具体例

28

1.有限個の要因の分析と、明瞭な定義が難しい要因に対する直感との両方に基づいて統 合的な意思決定をすること。2.現在の状況では小さくても、将来の目標の実現に影響を 持つ可能性がある変化に敏感になること。3.既存のルーティン(定型手順) が効果を失っ たときはそれに気づき、望ましい方向に向けて影響を及ぼすことができるように、行動・態 度を適応させたり、 コミュニケーションの新しいスキルやパターンを開発したりすること。 4.ヒューマンコミュニケーションの多様なパターン。


29


簡単に言うと適応学習は応答プロセスであると理解してよい。前

アングロサクソン的な経営スタイルは企業を、分解と再編成が

の表は複合科学の基本用語と応答プロセスの例を示したものであ

可能な部分の組み合せと見る傾向がある。 また、ある状況における

る。あなたの組織が効果的な学習と変化の力学を無視するのでは

際立った対象に焦点を当てる傾向があるため、結果に関連する要

なく、“航行する”のに役立つであろう。

因数を少なく見がちである。 したがって、組織的な変化はより単純 化されて認識され、 リードタイムもそれに基づいて計算される。東

世界観を統合する 人間の能力をグローバルな規模で企業が活用するために、私た

アジアの人たちは、彼らを取り巻く人間関係の相関性や社会的・物 理的環境における帰属を強調する傾向がある。東アジアでは学習

ちには多様な世界観を統合する能力が必要である。個人レベルに

と変化もまたより広範で濃密な関係性の範囲を持っていて、スケジ

おいて、私たちの脳が脳梁の線維の束で左脳と右脳を繋がってい

ュールの見通しもこれを含めて適応させる必要があるだろう。

るように、 グローバルなレベルにおいて、事業で地域に橋を架けよ うとするならば、企業は東西の文化の知恵を統合する必要がある。 全体的な文化的傾向を理解することで、個人としては一見不可解 に思える行動にも理解が深められ、また企業としては応答能力の 範囲を広げることが可能となる。 グローバル化には、決定論的な仕方と、 よりダイナミックな仕方 を、仕事において統合できる「both-and」 というマインドセット (ど ちらか一方ではなくどちらも両方という考え方)が必要である。 ビッグデータの統合について取り上げてみよう。ある日本のすし 屋は、ビッグデータを活用して入店から会計までの客の注文動向 を追跡することで、無駄を75%カットすることに成功した。また、あ る管理職は同様のデータを使うことで、スタッフのシフトを30分刻

回答の振れ幅 20% 韓国

各国ごとに何パーセントの 人が会社を仕事上の システムと考えているか 1つの社会関係と考えているか。

日本 東 洋 中国

仕事上のシステム 1つの社会関係

ドイツ

東洋と西洋の人々の間での 捉え方の違いは、国際志向の 職場が適応しなければならない 振り幅を示している。

スウェーデン 西 洋 アメリカ 0%

20%

40%

60%

80%

100%

出典:Trompenaars and Hampden-Turner Riding the Waves of Culture

みから10分刻みで組めるようになった。日本では技術面でも運用 面でもこうしたことが実行可能だが、世界の多くの地域では、例え

トロンペナールスとハンプデン—ターナーは、会社を組織され

ば、それほど信頼できない輸送体制が阻害要因となって、 ここまで

た「社会関係」 と考えるか、あるいは「システム」 と考えるかを世界

の時間管理は実行が難しいだろう。

中の人々に尋ねることで現在の職場規範におけるこの古典的な文

ローカルレベルにおいてどのような適応が必要かは、場所と相

化的分岐(違い)を説明した。上のグラフは、東洋と西洋における

手次第である。 ここにおいてこそ敏感で状況に応じたコミュニケー

強調の違いと、 グローバル指向の労働力が備えていなければなら

ション能力が不可欠だ。もし人々が質問したり答えたりするのに、

ない応答力の範囲を示している。両方の世界観をグローバルな企

鋭敏さと、信頼を生み出す敬意とを備えていれば、予測は難しいと

業文化に統合することは、人々が全体を見、両方の、あるいはむし

しても十分に効果的な方法で、その地における全社的な傾向に適

ろ新しい第三の仕方で考え、そしてローカルな従業員・サプライヤ

応できる可能性が高いだろう。

ー・顧客とのインターフェースに適応していくための基盤となる。

30


自分の周りの物事に対して自分自身がどの程度影響を与えるこ

で、 よりダイナミックでより相互作用的な学習を刺激し、積極的な

とができるか、あるいはどの程度与えるべきか、 ということについ

変化を創造することができる。ローカルとグローバルなパターンの

て人々はどう感じているか。 これに関してもまた、十分に立証され

間に見られる結び付きについての意識とコミュニケーション能力

た捉え方がある。それによると、欧米人が自分の行動に対して個人

を人々に与えることで、人と人との間の複合的で応答的な、そして

の主体性と責任の感覚をより強く持っていると考えるのに対し、東

相互に力を与えるプロセスの引き金を引くことができる。

洋人は一般に他者の役割と状況的な要素の影響を強調する傾向

部署、会社、国の経済、あるいはまたグローバルな産業の全体に

がある。個人のアイデンティティーと主体性を重視する欧米的傾向

おいて起こっていることの“兆候”かもしれない何かにチームのレ

はまた、仕事上のプロフェッショナルな行動・態度・成果の決定に

ベルで気づくことは、あたかもグーグルアースを用いて宇宙飛行

際して、物理的・社会的・状況的側面がいかに重要であるかについ

士から見た地球へとズームアウトした後に再び大陸、国、都市、 スト

ての理解を歪ませるかもしれない。 「根本的な帰属の誤り (FAE)」

リートビュー、社屋へとズームインして、 より幅広い文脈の中で個

として社会心理学者の間に知られているように、実際の状況で決

人としての自分とは何かについて熟考するのに幾分似ている。将

定的な要素が関係している場合でも、西洋人は行動を個人の性格

来的な地球規模の変化と事業の成長に貢献するためには、個人的

や気質に帰する傾向がある。一方、東アジアにおけるより統合的な

な開発が“飴と鞭”という報奨システムを包含しながらそれを越え、

見方では、人々が状況要因を認識する可能性はより大きいが、小

さらに競争的な文化価値の受容を包含しながらそれを越え、新し

さなアクションが望ましい効果を持つかもしれないという可能性

い分岐(違い)がスパークする瞬間にすべての人々を集中させるこ

があるときでさえも介入する力はないと感じる傾向があるという (

とが必要である。そのとき人は、自分自身の目標達成よりも、必要

表中の「敏感な依存」参照)。

なスキルセットよりも、さらに広い視点を開発するよう促される必 要がある。それがすなわち統合しつつ反復する意識である。

強化されたコミュニケーションを基盤とする反復学習 直感的と分析的の両アプローチを用いたコミュニケーション

*****

能力を開発するだけではなく、統合的な社会関係と、自己決定主 義の影響が見られる限定されたシステムとの両方を開発すること

この原稿が編集長としての私の最後になります。 これまでの3 年間、 これらのページに寄稿してくださった多くの方々が読者の精 神、知性、職業面に何らかの影響を与えたと信じます。本誌が新た な発展の段階に進むにあたって、 どうぞ皆様からのご意見をお寄 せください hragenda@jhrs.org 。本誌についてどのようなビジョ ンをお持ちですか? 本誌をどのように次のステージに向かわせる べきとお考えですか?

謝辞: ケイジサン、Mrsモリタ、Y・高田

アネット・カセラス 組織のあらゆるレベル のリーダーとチームを育成するコーチであり トレーナー。Coach Training Institute (CTI)と Society of Organizational Learning (Sol)シス テム・パースペクティブ部会」 で研鑽を積む。 日本の複数の名門大学で「グローバル・マイン ドセット」 「コミュニケーション・インテリジェン ス」講座を担当。英国国立レスター大学で修 士号取得。

31

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JHRSとは

コミュニティ・ オフィサー

日本に焦点を絞った世界の人事のプ ロと、 日本でビジネスを行う企業のリ ーダー達のコミュニティです。

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早稲田大学政治経済学術院 教授 トランスナショナルHRM研究所 所長

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32

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