Death and Denial Unsafe Abortion and Poverty Japanese

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死と拒絶 −安全でない人工妊娠中絶と貧困

From choice, a world of possibilities


死 と 拒 絶 ー 安 全 で な い 人 工 妊 娠 中 絶 と 貧 困

まえがき ガレス・トーマス 国会議員 国際開発副大臣(英国)

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世界にはリプロダクティブ・ヘ ルスサービスを受けられない女性 が何百万人もいますが、妊娠する か否かの決定権がまったく、ある いはほとんどない女性となるとさ らにその数は増えます。その結果、 安全でない人工妊娠中絶に頼らざ るを得ない女性は毎年約1900万 人にも上っています。なかには生 命を失う女性も多く、さらに多く の女性が死はまぬかれても一生治 らない傷害を負っています。死亡 したり傷害を受ける女性のほとん どすべてが貧しい国々に暮らす貧 困層です。 これらの死亡と傷害は妊産婦死 亡全体の13%を占めていますが、 安全でない中絶をなくさない限り これを防ぐことはできません。安 全でない中絶による死亡のほとん どは予防可能です。望まない妊娠 をしても女性は安全でない中絶に 生命をかける必要はないのです。

女性が合法的で安全な中絶を受 「いかなる女性もどこにいようと、 けられるようにし、不完全な中絶 安全な中絶が受けられないばかり や安全でない中絶による合併症の に死や障害に直面することがあっ 治療も受けられるようにすれば、 てはなりません。妊娠によって死 毎年、何千人もの女性の生命が助 なない権利を女性がもつことに反 かることになります。それはまた、 対する人がいるでしょうか。誰か 女性が家族計画や避妊へのアクセ 。 スを得る重要な機会を提供するこ いますか? いませんね」 とにもなり、中絶が繰り返される ヒラリー・ベン閣下 国会議員 ことを防ぐ助けになるでしょう。 国際開発大臣 カウントダウン2015 刑罰のある法律を作ったり中絶 グローバル・ラウンドテーブル を受ける手段を制限しても、中絶 2004年、ロンドン 件数は減るどころかかえって危険 が増すだけでしょう。その結果、 さらに多くの女性が苦しむことに なります。最も大きな代価を払う のが、わずかな治療費も支払えな い最も貧しい女性であることは、 驚くに値しません。理性的な議論 と思慮深い行動が強く求められる テーマを扱ううえで、この報告書 は大いに役に立つものと考えま す。 2006年1月


「解決策がわかっているまぎれもない公衆保 健の問題が、途上国、なかでもアフリカの 女性にとっては多くの死者を出す大量殺害 の場(キリング・フィールド)になってしま っている」 。 フレッド・サイ ガーナ大統領特別顧問による「安全でない中絶」に 関する講演から。カウントダウン2015、グローバル・ラウンドテー ブル、2004年、ロンドン

はじめに り、社会におけるジェンダーの不 平等(訳注:女と男の間の不平等 な力関係)とも密接なかかわりを もつ。それは女性、特に若い女性 と少女が基本的なセクシュアル/ リプロダクティブ・ライツを自ら 行使できず、自分のからだをコン トロールできないということであ る。そのことで彼女たちは、社会 から排除されるか、あるいは安全 でない中絶で自らの生命と健康を 危険にさらすかという厳しい選択 人権から宗教に至る様々な理由 を迫られる。 から、中絶は他のいかなる問題と比 べても政治的・社会的に賛否が分か 2005年9月、国連の世界サミッ れる。多くの国で、それは依然とし ト会議の席上、世界の指導者たち て非常に感情的かつ複雑な問題であ は妊産婦死亡の減少と妊産婦保健 り、ときにはバランスのとれた議論 の向上を含めたミレニアム開発目 の余地もないように思われる。 標の達成責任を改めて確認した。 さらに誰もがリプロダクティブ・ この報告書は、安全でない中絶 ヘルスを手に入れられるようにす に関する世界の現状を概観し、政 るという、以前の世界的公約を遂 府、国会議員、公衆保健、開発お 行することも明言した。しかし、 よび医療の専門家、サービス提供 5年前にミレニアム開発目標が採 者、さらに合法で安全な中絶を求 択されてから今日まで、この分野 め地球規模で活動するIPPF(国際家 に関してはほとんど進展がみられ 族計画連盟)のような政策提言者 ないことが総括の過程で明らかに が、この問題について大いに必要 なった。また、中絶が特に途上国 な時宜を得た議論を起こすきっか の依然として高い妊産婦死亡率の 主因であることもわかった。 けとなることを願っている。

今年だけでも、意図しない妊娠 や望まない妊娠に直面し、安全で ない中絶によって生命にかかわる 影響を受ける女性は少女を含め 1900万人に上ると推定される。 その結果、7万人近くの女性と少 女が亡くなり、何十万人もが健康 を害する、それもしばしば一生に わたる傷害を抱えることになる。 これらの女性の96%以上は世界 の最貧国に住んでいる。

安全でない中絶は、世界の妊産 婦死亡の最大の原因のひとつとな っているが、これはまさに予防可 能な人類の悲劇である。このこと から明らかなのは、各国政府と国 際社会が公衆保健の問題に取り組 むことに失敗したことであり、そ れが富める国と貧しい国を分断す るという最大の社会的不公正のひ とつをはびこらせている。安全で ない中絶は貧困と因果関係にあ

関心をもつことで、家族計画とリ プロダクティブ・ヘルスサービス が果たす予防的役割が大きいこと が新たな焦点となってきた。 望まない妊娠を安全でない中絶 に追いやる要因として、近代的避 妊法が入手できないことも無視で きない。 安全でない中絶の原因と結果に みられる根本的不公正について、 オープンで十分な情報に基づく議 論を早急に行う必要がある。中絶 の権利について主導的立場をとる 勇気ある政府はほとんど見当たら ない。またそのような勇気のある 国際組織もほとんどない。わずか に英国政府とIPPFの二者が、女性 のウェル・ビーイングにとって非 常に重要な闘いに勇気と決意をも って臨んでいる。 国際開発省の業務をとおして、 英国政府は信用できる公衆保健の 証拠に基づいて中絶に取り組むと いう方法を推進してきた。その結 果、英国はその指導力と英知で国 際的に高い評価を得ている。IPPF はこの取り組みで国際開発局のパ ートナーとして建設的役割を果た す覚悟である。妊産婦死亡の 15%以上、アフリカや東南アジ アの国々によっては50%が非合 法の安全でない中絶に直接起因す ることを考えると、この予防可能 な死因を減らすこと、あるいはな くすことに正面から取り組むこと が重要である。

独自の大規模調査によると、中 絶を制限してもそれをなくすこと にはつながらず、危険な闇中絶に なるだけであることがわかる。安 全でない中絶がいかに妊産婦の死 亡と不健康の原因となっているか について、保健当局や政治的指導 者の理解が深まるにつれ、中絶に 関する政策を再検討しようと準備 する国が増えている。さらに、意 スティーブン W. シンディング 図しない妊娠を防ぐことに新たな IPPF事務局長


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IPPF/Chloe Hall エチオピアのIPPF加 盟協会は、農村部で 地域社会に根ざした 避妊サービスの配布 体制をつくり、望ま ない妊娠の件数を減 らす努力をしてい る。

安全でない人工妊娠中絶、妊産婦死亡、 ミレニアム開発目標 3-4

世界保健機関(WHO)は、中絶が「必要な技術をもたない人によって、「中南米の人たちは、中絶が単に または最低限の医療水準にも満たない環境の下で、あるいはその両方 妊産婦のモラルの問題ではなく、 の条件下で行われる」場合、その中絶は安全でないと定義している。 妊産婦死亡の問題であると考え始 安全でない中絶による結果をみると、先進国と途上国間の社会や公衆 めている」 。 保健における不均衡な格差と、中絶が非合法または厳しく制限されて ニューヨーク・タイムズ いる国の中での同様の格差が浮き彫りになる。単純な真実がひとつあ 2006年1月12日 る。それは、安全でない中絶は、その国のなかでも最も貧しい女性に 圧倒的影響を及ぼすということだ。

安全でない中絶 貧困との因果関係 ミレニアム開発目標、なかでも 若い女性や少女が、意図しなかっ 妊産婦保健の向上と妊産婦死亡の た望まない妊娠をすると、多くの 減少という目標を達成するには、 場合、自分の生命と健康を賭けて 幅広い分野を横断した行動が必要 安全でない中絶を受けるか、学校 である。妊産婦の死亡と疾患の原 を退学して子どもを産むかのどち 因は多種多様で複雑を極めるが、 らかに決めざるを得ない。 女性が世帯の収入と子育てに100% 近く責任をもつところでは、安全 「アフリカの多くの場所に住む貧 でない中絶による死亡と疾患は経 しい女性は、妊娠や出産が原因で 済的・社会的に重い犠牲を強いる 死に至る危険性が英国女性の200 ことになる。 倍以上も高い」 。 英国国際開発省 女子が男子と平等に教育を受け 妊産婦死亡のほとんどすべては 開発途上国で起きており、規模に られるようにすることはミレニア おいても不公正の度合においても ム開発目標のもうひとつの重要な 先進国と途上国の保健格差を示す ねらいである。教育をとおして女 最たるもののひとつである。年間 性の可能性が引き出せないと、女 50万件の妊産婦死亡のうち、約7 性は地域社会で経済的、社会的、 万件すなわち13%は安全でない 政治的役割を十分果たせなくな 中絶の合併症によるものである。 り、それは直接貧困に結びつく。

貧困には、経済資源の不足、人 権の欠如、不健康、選択の剥奪な ど、多くの側面がある。国連が 2000年10月に開催したミレニア ムサミットでは、191カ国が世界 の貧困と不平等をなくすという責 務に同意した。妊産婦保健を向上 させ、妊産婦死亡数を1990年の4 分の1に減らすことはその不平等 をなくす重要な取り組みのひとつ として認められた。


安全でない中絶 ジェンダーによる不平等の代価 既婚・未婚を問わず、多くの女 性は自らの性生活を一切コントロ ールできない。彼女たちは、安全 な家族計画サービスを利用でき ず、あるいは利用が許されず、そ の結果、いつ妊娠するか、あるい は妊娠するか否かを選択すること がほとんどできない。多くの社会 に広くみられる文化的・宗教的規 範のため、女性、特に若い女性と 少女は安全でない中絶による死亡 や傷害に直面し、あるいは社会か ら排斥され見捨てられている。 社会での不平等な地位のため、 少女や女性の多くは、基本的なセ クシュアル/リプロダクティブ・ ライツを享受することを阻まれて いる。

彼女たちには、意思決定や移動 の権限がなく、家のなかの財産の 管理もできないのと同様、自分自 身の身体を自分でコントロールす ることができない。この社会的、 政治的、経済的不平等のため、女 性の多くは安全なサービスの利用 も、希望するサービスを要求する ことも阻害されている。 若い女性と思春期の女性および 女児は特に性的強要や虐待、搾取 を受けやすい。世界中で起きてい る性暴力の半数は、15歳以下の 少女に対するものである。年長の 男性が支配する人間関係の中で彼 女たちは無力である。こうした関 係によって望まない妊娠と安全で ない中絶のリスクはさらに大きく

なり、多くの国で若い女性のHIV 感染率増大に油を注ぐ重要な要因 となっている。 ジェンダーの不平等、文化的規 範、宗教的慣習および貧困はすべ て、女性と少女が自らのセクシュ アル・リプロダクティブ・ライフ (性や産む産まないにかかわる生 活)について選択する機会を制限 する要因である。そのため少女と 女性はセックスに「ノー」という 選択ができない。彼女たちが貧し く、社会の隅に追いやられている 場合には、特にそうである。この ような状況は多くの女性、とりわ け最も困窮している女性に悲惨な 結果をもたらす。

何百万人もの女性が安全でない中絶による傷害と後遺症に苦しんでいる 安全でない中絶によって、母、 娘、姉、妹の誰が死亡してもその 家族にとっては大きな悲劇だが、 それと変わらず深刻なのが、何十 万人もの女性が安全でない中絶の 結果、身体の衰弱を招く傷害や疾 患、または生涯にわたる障害に苦 しんでいることである。

中絶が非常に限定された条件でのみ許可される国では、毎年、何 千人もの女性が安全でない手術による重症の合併症で入院している。 国

中絶関連入院者

15−44歳の女性 千人当たりの入院

早いうちに治療を受けていれば 合併症も多くの場合は治るのだ が、信頼できるプライマリー・ヘ ルスケア施設を利用できない女性 は数多い。安全でない中絶の合併 症があっても、すべての女性が病 院で治療を受けられるわけではな い。10カ国のデータをみると問 題の大きさとそれがヘルスケア制 度にどのような影響を及ぼしてい るかがわかる。

アフリカ エジプト(1996) ナイジェリア(1996) アジア バングラデシュ(1995) フィリピン(1994) ラテンアメリカ ブラジル(1991) チリ(1990) コロンビア(1989) ドミニカ共和国(1990) メキシコ(1990) ペルー(1989)

安全でない中絶が健康に及ぼす 影響

アラン・グットマッハー研究所 「責任を分かち合う−女性、社会と世界の人工妊娠中絶」 Alan Guttmacher Institute, Sharing Responsibility; Women, Society and Abortion Worldwide

WHOのナイジェリアでの2000 年調査によると、女性の75%が傷 害ないしは疾患に苦しんでいた。 ナイジェリアのイロリンで、安全 でない中絶を受けた女性144人を 対象に実施された調査は典型的合 併症を示している。

貧血を伴う敗血症 骨盤膿瘍 腹膜炎を併発した子宮穿孔 子宮壁裂傷 膀胱腟瘻

敗血症 27% 13% 貧血 (出血) 9% 死亡 5% 腟頸部裂傷 4% 腸の傷害 化学的刺激が誘因となって 4% 起こる腟炎

3% 3% 3% 3% 1%

ケニアにおけるIpas(訳注:米国 の民間団体。Ipasは略称ではない) のさらに新しい調査 (The Magnitude of Abortion complications in Kenya, International Journal of Obstetrics and Gynaecology「ケニアにおける大規 模な中絶合併症」RCOG 国際産科 婦人科ジャーナル)はナイジェリア のデータを裏付け、安全でない中 絶は、 「アフリカで最も軽視されて

216,000 142,200

15.3 6.1

71,800 80,100

2.8 5.1

288,700 31,900 57,700 16,500 106,500 54,200

8.1 10.0 7.2 9.8 5.4 10.9

いる保健問題である」と言明した。 ケニアの保健制度のあらゆるレ ベルを対象に行った809件のケース スタディのうち80%以上に安全で ない中絶による合併症がみられた。 死亡7件のうち6件は、妊娠2/3期(訳 注:妊娠中期)に入ってからの合併 症だった。このことは安全で利用 しやすい中絶サービスをできる限 り妊娠早期に受けることがいかに 必要であるかを示している。Ipasの 調査は、安全でない中絶による合 併症のためケニア人の女性2万893 人が毎年入院することになると推 定している。


死 と 拒 絶 ー 安 全 で な い 人 工 妊 娠 中 絶 と 貧 困

世界の計画外妊娠と安全でない中絶 世界中で毎年2億1100万件の妊 • もう子どもは産まないことを選 娠が起きているが、そのうち ぶ。 8700万人の女性は意図しない妊 • 子どもを産み、育てるには若す 娠をし、4600万人近くは中絶を ぎるか、経済力がなさ過ぎる。 する。さらに3100万の妊娠は流 • 学業を修了したい。 産や死産に終わる。 • 出産間隔をあけるため、子ども を産む時期を延ばしたい。 世界のどの地域の女性も望まな い妊娠を中絶によって終わらせ • パートナーとの関係が終わって たいと考えている。毎年、中絶 しまった、あるいは不安定であ を選択する女性4600万人のうち、 る。 78%は開発途上国、22%が先進 • 出産によって健康が害されるだ 国の女性である。毎年行われる ろう。 中絶のうち1900万件は安全でな • レイプや近親姦で妊娠した。 く、その96%は途上国で起きて • 社会通念、宗教上の信仰から未 いる。 婚女性が妊娠を続けるのは難し い。 多くの独自の調査によると、国 の違いはあるにしても、女性が妊 娠を中絶する時の理由は非常に似 通っていることがわかる。

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世界の地域別中絶

途上国の安全でない中絶

アフリカ 11% 59% アジア ヨーロッパ      17% 9% 中南米・カリブ海地域 米国・カナダ・オセアニア 3%

アフリカ     420万件 アメリカとカリブ海地域 380万件 1050万件 アジア

アラン・グットマッハー研究所 「責任を分かち合う−女性、社会と世界の人工妊娠中絶」 Alan Guttmacher Institute, Sharing Responsibility; Women, Society and Abortion Worldwide

「世界の多くで保守主義的傾向と資源競争がみられるが、重要な課題は ミレニアム開発目標にうたわれているように、貧困削減のため開発に 向けた努力の重点を引き続きセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス/ ライツにおくことである。そのためにIPPFは、同じ考えをもつ政府や 組織とパートナーシップを組み、これまでの家族計画や特に安全な中 絶のためのサービスをまさに拡大しながら、政策提言活動を強化して いく必要がある」 。 ジャクリーン・シャープ博士 IPPF会長

本報告書を編集するにあたり、IPPFは数多くの統計データを参考 にした。なかでも最も多く使用したのは、アラン・グットマッハー 研究所の画期的な出版物「責任を分かち合う−女性、社会と世界の 人工妊娠中絶」(1999年)である。

ヨーロッパの安全でない中絶 WHOは、ヨーロッパにおける 安全でない中絶は、毎年50万件 から80万件と推定している。東 欧では依然として安全でない中絶 により女性が死亡しているが、事 態は改善に向かっている。中欧・ 東欧諸国における妊産婦死亡の 6%から23%は安全でない中絶が 原因である。 安全で合法的な中絶を利用しや すくするため、IPPFヨーロッパ・ ネットワークは、他の組織と連携 し、アルバニア、アルメニア、ボ スニア・ヘルツェゴビナ、グルジ ア、カザフスタン、ポーランド、 タジキスタン、ウズベキスタンの 加盟協会の職員とボランティアを 対象に2日間のワークショップを 開催した。さらに彼らが提供する 中絶サービスの質的向上を図るた め、他のヨーロッパ加盟協会を集 めて会議を開いた。 ルーマニアでは中絶を禁止する 法律が1966年に可決された。そ の後、出生10万人当たりの妊産 婦死亡は1964年の80件から1988 年の180件にまで急増した。しか し、1989年にこの法律が廃止さ れてからは、妊産婦死亡率は出生 10万人当たり40前後に減った。 この減少部分のほとんどは安全な 中絶が利用しやすくなり、安全で ない中絶の合併症による死亡件数 が減少したことに起因する。 1966−1988年の間、安全でない 中絶が原因で亡くなったルーマニ ア人女性は約2万人と推定される。


計画外の出産は世界中の女性にとって よく起きることである 小家族を希望する女性がますます増加している。サハラ以南のア フリカと他のわずかな国々を除き、小家族とはおおまかには2−3人 の子どもをもつことを意味する。先進国の大半では、小家族は社会 的規範となっている。それでも、世界全体では女性の多くは自分た ちが望む以上の数の子どもを産み育てている

コートジボアール

サ ハ ラ 以 南 の ア フ リ カ

ケニア ナイジェリア ジンバブエ エジプト

北 ア フ リ カ と 中 東

モロッコ チュニジア バングラデシュ インド

ア ジ ア

インドネシア フィリピン ブラジル

ラ テ ン ア メ リ カ

コロンビア メキシコ ペルー フランス 日本

先 進 国

カナダ スウェーデン 米国

0

10

20

30

40

50

60

過去5年間の出生の割合(%)

望まない出産

もっと出産を先送りしたかった

アラン・グットマッハー研究所「責任を分かち合う−女性、社会と世界の人工妊娠中絶」 Alan Guttmacher Institute, Sharing Responsibility; Women, Society and Abortion Worldwide

計画外の望まない妊娠とその原因 • ジェンダーの不平等とは、女性 が自分の身体を自分で十分管理 できないことを意味する。 • 家族計画サービスが得られない。 • 近代的避妊法の情報不足と伝統 的方法への依存。 • 避妊の失敗または避妊薬(具)の 使用が不規則。 • 独身女性と避妊薬(具)の使用に まつわる偏見。 • 女性には性行為に関しコントロ ールする力がない。 • 性的暴力、レイプ、近親姦 • 文化的・宗教的規範のため、女 性は避妊について交渉する力が 弱い。 よりよい避妊法の選択 出産間隔を十分にあけ、希望ど おりの家族規模にするには、女性 の出産可能期間を通して、女性も 男性も信頼性のある避妊法を正確 に継続して使用しなければならな い。 証拠に基づいて言えるのは、世 界的にみて、既婚・未婚を問わず 計画外妊娠を避けるため、常時近 代的避妊法を使っている女性の数 は、妊娠を遅らせたい、あるいは その間隔を十分にあけたいと望ん でいる女性の数を下回っている。 その理由は複雑で、根の深い社 会的・文化的通念や経済状態か ら、女性が相手に避妊について言 い出せない関係にあることまで多 岐にわたる。世界の多くの国にみ られるもうひとつの理由は、避妊 薬(具)のニーズが満たされていな いことで、女も男も希望するだけ の必要な家族計画サービスが入手 できていない。カップルの多くは、 避妊効果のない伝統的方法に頼ら ざるを得ないのである。これが必 然的に計画外妊娠につながる。


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ケーススタディ 計画外の妊娠 ネパール ネパールでは、若年結婚と度重 なる計画外妊娠のため、多くの女 性が安全でない闇の中絶に解決を 求めてきた。中絶は2002年に特 定の条件のもとで合法化され、 2004年初頭に法律の施行が承認 された。この法改定は、その他の 女性の権利をうたった妊娠保護法 のなかに取り込まれた。IPPF加盟 のネパール家族計画協会(FPAN) は、2004年に3カ所の診療所で中 絶サービスを開始した。 14歳の少女がFPANのバリー診 療所を訪れ、中絶したいと言って きた。はじめのうち、彼女は職員 になかなか実情を話したがらなか ったが、やがて遠い親戚と性的関 係をもち、身ごもってしまったこ とを打ち明けた。成績優秀な生徒 である彼女は、妊娠が次の試験に 影響し、結局、学業を修了できな いのではないかと心配していた。

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それまではこれほど若い人が診 療所にサービスを求めてきたこと がなかったため、職員には手続き の基準となるものがなかった。急 遽、サービス提供者と上級職員の 会議が開かれ、法的な事項を検討 し、この少女を助けるにはどうす るのが一番よいかについて協議し た。ネパールでは、父母または保 護者の同意がない限り、16歳以 下の女性に中絶サービスを提供す ることは非合法である。職員は、 彼女が翌朝保護者の同意書をもっ てくれば、その日のうちに安全な 中絶をすることを決定した。 次の日、少女が診療所に姿を見 せなかったため、職員は心配した。 FPANのフィールド・スタッフが 注意深く問い合わせ、本人と密か に会って追加のカウンセリングを 行った。約束の日に診療所に来な かったのは、その午前中に学校の 試験があったからだということが わかった。それから週末がきて、 診療所は休診になったが、支部責 任者はこれ以上遅れるのを懸念し て、保護者と一緒にやってくる少 女のため特別に診療所を開いた。

家族計画協会アウトリーチ・ワ ーカーから協会のサービスについ て話を聞いた36歳の妊婦が2005 年半ば、診療所を訪れた。彼女と 肉体労働者である夫は、すでに7 人もの幼い子どもを育てることに 四苦八苦していた。8人目の子ど もを育てようとすれば、どの子ど もにも十分食べさせることはでき なくなると、明らかに彼女は落胆 していた。 残念ながら、FPANは利用者全 部に無料でサービスを提供するこ とはできず、その妊婦は750ルピ ー(約6ポンド)の料金が支払えな かった。彼女の体調は非常に悪く、 安全でない「伝統的」中絶方法に 頼るかもしれないと恐れたスタッ フは自分たちで手術の資金を集め ることにした。

診療所にはカルメンのボーイフ レンドと母親も一緒にきており、 彼女は何が起こったかを包み隠さ ず話し、解決策についてもオープ ンに話し合うことができた。中絶 後のケアに関する情報に加え、彼 女はHIIVの検査やその他の性感染 症についてもカウンセリングを受 けた。彼女は手動の真空吸引法を 受ける決心をし、手術は何の合併 症もなく終わった。彼女がフォロ ーアップのために診療所を再訪し たとき、様々な避妊法についてカ ウンセリングを受けた。しかし、 彼女の話によると、ボーイフレン ドはレイプと中絶にまつわる偏見 のため彼女のもとを去ってしま い、今はもう避妊薬(具)はいらな いという。

多くの女性にとって、安全な中 絶手術は高すぎてとても支払えな い。またそのために借金をするこ となどは問題外である。これが安 全でない中絶に依存する理由のひ とつである。 36歳の女性は、安全な中絶手 術と避妊を含む予後のカウンセリ ングを受けた。FPANの家族計画 サービスをもっと早く知っていた なら、子どもの数を少なくする手 段がとれたのに、と彼女は職員た ちに話した。 ペルー 19歳のカルメンが、IPPFのペル ーの加盟協会INPPARES の診療所 にやってきた。彼女は落ち込み、 情緒不安定の状態だった。話を聞 くうち、彼女は6週間前にレイプ されたが、それを恥と感じて、警 察に報告をせず、治療も受けなか ったことがわかった。絶望のあま り、彼女は薬物を使って流産しよ うと試みたが、それが原因で腟か らの出血に苦しんでいた。

すべてのケーススタディはIPPF加盟協会の報告による。

IPPF/Chloe Hall モーリタニアの加 盟協会のヌーアデ ィボウ診療所で女 性が避妊サービス を受けている。こ れらのサービスは 望まない妊娠を防 ぐ基本である。

IPPF/Christian Schwetz タイの加盟協会で は女性に様々な避 妊法を教えるよう にしている。


IPPF/Chloe Hall エチオピアのウォン ドゴネットで市場の 立つ日に行われるア ウトリーチ・サービ スを受けるため、ブ ゼンスは徒歩で数時 間かけて出かける。 この土曜診療所は、 避妊サービスを受け られる唯一の機会で ある。

家族計画に対する世界の約束 国際人口開発会議がカイロで 1994年に開催された際、国際社 会は2015年までに家族計画とセ クシュアル/リプロダクティブ・ ヘルスサービスを誰でも利用でき るようにすると誓約した。その 10年後、さらなる誓いが立てら れたにもかかわらず、世界の指導 者たちはその約束を果たしたとい

うにはほど遠いところにいる。事 実、この間に、世界の家族計画サ ービスへの拠出金は削減されてし まった。

意図に反した望まない妊娠につな がり、安全でない中絶による高率 の妊産婦死亡と健康障害に結びつ く。

不十分な資金や政治的・宗教的 反対により、家族計画サービスが まったくないか、あってもサービ スの質が悪い場合、それは直接、

グローバル・ギャグルール (口封じの世界ルール) 絶したIPPFの加盟協会およびその 「ギャグルールの影響を量的に測 他の組織は世界的に大きな打撃を 定するのは容易ではない。そこか 受け、実際にセクシュアル/リプ ら派生する問題はひそかに拡大 ロダクティブ・ヘルスサービスを し、何年にもわたって影響を及ぼ 実施するために受けていた資金援 してきた。ギャグルールがなかっ 助の多くを失ってしまった。この たら提供されたはずのサービスを 政策は、その規則に拘束された組 受けられずに死んだ人が何人に上 織の言論の自由と結社の自由を制 限している。しかし、中絶禁止を るか、公衆保健問題の壊滅的状況 擁護する言論は認められており、 について発言を封じられた運動家 ギャグルールの思想的側面を際立 が何人いたか、政府やその他の NGOと協力してさし迫ったヘル たせている。 スケアニーズに応えようとしなが ギャグルールの意図は、世界の らそれを禁止された組織がどれほ 中絶を減らすことにあるという どあったか、それらを追跡するの が、それには失敗している。現実 は不可能だ」 。 には、セクシュアル/リプロダク 米国家族計画連盟「グローバ ティブ・ヘルスサービスの実現に ル・ギャグルールに関する報告」 大打撃を与えてしまったため、結 2003 果として意図しない妊娠とそれに ギャグルールは言論の自由を著 伴う中絶件数が増加しているので しく制限し、医師と患者の関係を ある。 阻害し、中絶に関する法規制の緩 和について公衆保健と人権の観点 からバランスのとれた考察を行う ことを妨害する。このルールを拒 グローバル・ギャグルールは、 1984年に初めて導入されたもの を2001年にジョージ・ブッシュ 大統領が再導入したもので、米国 外の非政府組織(NGO)に対して女 性の健康と権利を守る活動を続け るか、米国からの資金援助を失う かの二者択一を迫り、彼らを抗い がたい状況に追いやるものであ る。これは米国の資金援助を受け ている組織に対し、自己資金であ っても中絶に関する情報やサービ ス、ケアに使うことを認めず、中 絶について話し合うことも安全で ない中絶を批判することも禁止す るというルールである。このルー ルはさらに、NGOがその国の政 府の要請でこれらの問題に取り組 むことすら禁止している。


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各国の状況− ケニア 避妊サービスが入手できるように する必要性 IPPFは、中絶関連の妊産婦死亡 を減らしたりなくすため二面作戦 をとっている。ひとつは、中絶の ニーズを減らすためのサービスを 提供することである。良質の避妊 サービスがあるところでは中絶率 は低下する。しかし、いかに効果 的な避妊サービスが提供され、利 用されても、意図しない妊娠は起 こる。 IPPFの第2の目標は、中絶をあ らゆるところで合法化し安全なも のにすることである。その根拠は 明白だ。女性が安全な中絶サービ スを受ける権利をもって初めて、 安全でない中絶による医学上の合 併症や妊産婦死亡が真にまれな出 来事になるからである。

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この二面作戦はケニアで劇的効 果をみせた。家族の規模を小さく したいと願う夫婦の声に押され、 政府が家族計画の全国プログラム を開始した1980年から2000年の 間に、女性1人当たり平均8人だ

った出生率が4人強にまで急速に 女性が相変わらず中絶に頼って出 低下したのである。それでも妊産 生を管理していることを示してい 婦死亡率はなかなか減らず、中絶 る。 件数は依然として多い(現在の推 避妊サービスが利用できると、 定数年間30万件以上)。 計画外の妊娠とその後の中絶の件 中絶はケニアの法律で厳しく制 数が減る。ケニアの例でわかるよ 限され、唯一の例外が母体の生命 うに、家族計画と避妊薬(具)のニ を救うためであることから、中絶 ーズが満たされないところでは、 の大多数は非合法で危険なもので 女性は出産を避けるため、中絶に あり、全国の妊産婦死亡の30− 依存する。中絶が非合法か制限さ 50%を占めている。これがケニ れている国では、それは女性が生 アの医療制度がもつ資源に大きな 命と健康を犠牲にしても安全でな い中絶に頼ることを意味する。死 影を落としている。 事実、ケニヤッタ国立病院の産 亡を予防し、安全でない中絶によ 婦人科病棟の60%は安全でない る健康被害に取り組むには、効果 中絶の犠牲者で占められている。 的な家族計画およびリプロダクテ ィブ・ヘルスサービスとともに安 ケニアでの家族計画の満たされ 全で合法的な中絶サービスがなけ ないニーズは依然として高く、夫 ればならない。 婦の24%は希望するサービスを 受けられず、家族計画サービス自 体も削減されてきている。その最 大の理由は、グローバル・ギャグ ルールの導入である。それでも中 絶率は依然として高く、ケニアの

ケニアとグローバル・ギャグルール IPPFの加盟協会であるケニア家族計画協会(FPAK)は、この国の避妊 とリプロダクティブ・ヘルスサービスのかなりの部分を担当してい る。米国国際開発庁からの資金と技術援助のすべてを失うか、安全な 中絶のための活動をすべて中止するかの二者択一を迫られたFPAKは 援助をあきらめ、ケニアの女性の健康とウェル・ビーイングを自由に 支援できる道を選んだ。資金援助がなくなったため、FPAKは診療所3 カ所の閉鎖、残りの診療所でのサービスの縮小、アウトリーチプログ ラムの経費の大幅削減に追い込まれた。その結果、貧しい人たちはま すます家族計画サービスや情報を受けにくくなり、望まない妊娠と安 全でない中絶が増えるのは必至とみられている。 中絶に関する法律再検討の必要性 2004年の初頭、何人ものケニアの医師が中絶に携わっていたと告 発され、殺人の罪で裁判にかけられた。これに対抗して、全国から集 められた代表で構成されるケニア・リプロダクティブ・ヘルス運営委 員会が設置され、告発された医師たちの弁護とリプロダクティブ・ヘ ルス/ライツの拡大を目指した。 運営委員会の活動を通して、近い将来中絶法を緩和する草案が議会 に上程されることになっており、現在は中絶に関し全国規模の包括的 見直しが行われている。安全な中絶サービスを利用しやすくすること に賛同する人たちを集めたことは、それ自体現行の中絶法に対する挑 戦となった。もしFPAKを含む組織が、ギャグルールに署名していた ら、たとえ自国政府の要請があったとしても、このような挑戦はあり 得なかっただろう。

「避妊薬(具)のニーズが満たされ ない状態が続き、避妊の失敗が繰 り返されるならば、必然的に計画 外の望まない妊娠の増大につなが り、多くの女性は安全でない手段 で妊娠を中絶せざるを得なくな る。その結果、容認しがたいほど の高率で不妊や長期にわたる疾 患、死亡を含む合併症が起きる」 。 「ケニアにおける大規模な中絶 合併症」RCOG 国際産科婦人 科ジャーナル(The Magnitude of Abortion complications in Kenya, RCOG International Journal of Obstetrics and Gynaecology)


IPPF/Asociacion Civil de Planificacion IPPFのベネズエラ 加盟協会とそのボ ランティアは中絶 を処罰することに 反対するベネズエ ラの運動の中心メ ンバーである。

中絶の法改正を目指すベネズエラの努力 南米諸国では中絶が厳しく規制 されたため、安全でない中絶によ る妊産婦死亡率が世界でも最も高 い地域のひとつという荒廃した状 態が長い間続いてきた。ベネズエ ラでは、中絶手術は、女性の生命 を救う場合にのみ許可される。 レイプや近親姦あるいは女性の健 康保持という目的であっても例外 は認められない。さらに法律には、 中絶した女性には最高2年、施術 者には最高30カ月の禁固刑がう たわれている。

IPPFのベネズエラ加盟協会は法 案の草稿づくりを助け、議会の女 性・家族・青少年に関する委員会 に中絶のもつ公衆保健上の問題に ついて意見書を提出した。同委員 会は現在この法案を支持してい る。委員たちが、安全な中絶を必 要としていた女性の話を聞き、妊 産婦死亡と疾患の実態を直接視察 してから、委員会の姿勢は大きく 変わった。彼らは、中絶を処罰の 対象にしたところで中絶の予防に なるわけでもニーズが減るわけで もなく、女性を苦しめるだけだと 2004年12月1日、中絶を犯罪と いうことを認め、その結果、現行 しない法案が国会に提出された。 法の改正に賛同するようになっ 安全でない中絶の合併症による女 た。 性の死を目の当たりにして疲弊し きっていた医療従事者にとって は、画期的な出来事だった。この 法案は女性団体、大学、産婦人科 医の会、保健省、さらにIPPFのベ ネズエラ加盟協会(Asociacion Civil de Planificacion Familiar)を含むリ プロダクティブ・ヘルスの提供者 など多くの人々の努力を具現した ものだった。カトリック教会が強 大な影響力をもつ国で、中絶を犯 罪としない法案は、中絶に関する 公開の法的議論に道を開く第一歩 であった。それは大いに必要とさ れたことであった。

1984年のグローバル・ギャグ ルールにもかかわらず、29カ国 が中絶法を緩和した。 アルバニア アルジェリア オーストラリア ベルギー ベニン ボツワナ ブルガリア ブルキナファソ カンボジア カナダ チャド チェコ共和国 エチオピア フランス ガーナ ギニア ギリシャ イラン マレーシア マリ メキシコ モンゴル ネパール パキスタン ルーマニア スロバキア 南アフリカ共和国 スペイン スイス

1996年 1985年 2002年 (2州) 1990年 2003年 1991年 1990年 1996年 1997年 1988年 2002年 1986年 2004年 2001年 1985年 2000年 1986年 2005年 1989年 2002年 2000年 (2州) 1989年 2000年 1990年 1989年 1986年 1996年 1985年 2002年


死 と 拒 絶 ー 安 全 で な い 人 工 妊 娠 中 絶 と 貧 困

家族計画に反対することは、望まない妊娠や安全でない中絶を 減らす努力を阻害することである IPPF/Chloe Hall 加盟協会の診療 所が提供する無 料の家族計画サ ービスがミモー ナたち女性の命 を守り、モーリ タニアの妊産婦 死亡数を食い止 めている(首都 ヌアクショット にて) 。

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セクシュアル/リプロダクティ 「効果的で利用しやすい家族計画 ブ・ヘルス/ライツの推進者は、 サービスがあれば、妊産婦死亡の 米国、バチカンその他の保守政権 35%までは回避できる」 や宗教指導者による敵意に満ちた 「妊産婦死亡の削減−証拠と行動」 政治的反対にますますさらされて 国際開発省(DFID)のための戦略 いる。このことで、誰もがリプロ 2004年9月(Reducing Maternal ダクティブ・ヘルスサービスを受 Death: Evidence and Action, A けられるという希望の実現が、世 界の大多数の貧困層からさらに遠 Strategy for DFID, September のくことは必至である。その結果 2004) をまともに受けるのは世界中の女 西アフリカ15カ国を対象にし 性と少女であり、彼女たちは今後 とも、妊産婦死亡と安全でない中 た調査によると、避妊実行率が最 絶という問題の本質とその深刻さ も高い国では妊産婦死亡率が最も から目をそらす政策の矢面に立た 低く、反対に実行率の低いところ されることになる。 では妊産婦死亡率が高いことがわ かった。

家族計画の包括的サービスと 情報が利用できるところでは、 中絶件数は減少している。避妊 薬(具)を使わない、あるいは伝 統的方法を使っている女性が近 代的方法に切り換えていたな ら、アルメニアやカザフスタン、 キルギス、ウズベキスタンでの 中絶件数は半減していたはずで ある。 質の高い家族計画サービスを 十分受けられるバングラデシュ の女性の中絶率は、出生千対 2.3だが、サービスが得られな い女性の場合は6.8になる。 ダフ・ギルスピー「ランセット」 363号、2004年1月(Duff Gillespie, The Lancet, Vol.363, January 2004)


変革の基盤をつくる−証拠に基づく対策 中絶を巡る思想的議論は、望ま ない妊娠がわかると、多くの女性 は合法か否か、安全か否かにかか わらず中絶を求めるという語られ ない真実を覆い隠してしまう。そ れが致命的結果につながることは 言うまでもない。女性は生命の危 険にさらされ、生命を落としたり、 あるいは一生にわたって障害に苦 しめられる。中絶が非合法である ことと、中絶には汚名がつきまと うため、証拠となる情報を探すの は困難である。しかし、調査を行 い事実を分析すれば中絶の法規制 を緩和し、同時に安全なサービス

を利用しやすくすることから目を は、女性は出産可能期に平均して 1人1回の中絶を行っている。ペ 背けることはできなくなる。 ルーでは、1人当たり2回に増え 中絶を犯罪とみなすことが、中 る。貧しい女性は安全な治療が受 絶を減らすどころか、女性の生命 けられないが、そのことは資格の を脅かすことにつながるという証 ない人による非合法で不衛生な安 拠は世界各地でみられる。中南米 全でない手術に頼ることを意味す では、ほとんどの国が中絶を禁止 る。 したり厳しく制限しているが、中 絶率は世界でも最も高いグループ に入っており、西欧諸国や北米を はるかにしのいでいる。 女性の生命を救う場合であって も中絶を認めないコロンビアで

各国の状況− ウガンダ いつ、どのように中絶を合法化 するかを巡るウガンダの論争は、 女性の身に現実に起きている悪循 環を隠している。現在、中絶は非 合法で、女性の生命を救う場合、 または心身の健康を保持する場合 にのみ例外的に許されている。し かし、中絶手術は登録された医師 が行い、他に2人の医師の同意が 必要なため、さらに行政上の障壁 が加わる。ウガンダの刑法では, 非合法中絶をすると、女性も医師 も7年以下の禁固刑が科せられる。 しかし、この法があるからといっ て安全でない中絶を減少させる助 けにはほとんどなっていない。

家族計画サービスの利用が制限 された結果、平均的なウガンダ女 性は生涯に7人の子どもを産んで いる。これは平均希望数よりも2 人多い。望まない妊娠を終わらせ ようと、多くの女性は不衛生で危 険な状況のもとで法を破る。その 最大の影響を受けるのは、最も貧 しい層の女性、なかでも農村部の 女性であり、彼女たちは望まない 妊娠を終わらせたいという絶望的 な思いからやむなく鋭利な道具や 薬草を使う。その75%以上は合 併症を患っており、現在ウガンダ では、安全でない中絶が妊産婦死 亡総数の3分の1を占めている。

ウガンダは人口の40%近くが 貧困ライン以下で暮らしている世 界最貧国のひとつである。英国国 際開発省が資金援助をした2005 年発表の調査により、ウガンダの 女性の3分の1はサービスを受け る手段がないため、避妊を拒絶さ れた状態にあることが明らかにな った。これはウガンダ家族計画協 会が出した証拠を裏付けるもので あり、中絶法の改正に向け一般の 人々の支持と政治上の約束を得る ための現実的で実体のある議論構 築につながる。

このような事実に基づく証拠を 無視することはできない。すでに 変革を支援しようという高まりが 起きている。2005年9月、IPPFと ウガンダ家族計画協会はノルウ ェ−の国会議員による現地視察団 を実現させた。その結果、同視察 団は声明を出し、安全かつ合法的 な中絶を利用しやすくすること が、特に弱い立場にある農村の貧 しい女性にとって重要であると強 調した。この声明についてはウガ ンダの国会議員と保健省担当官、 報道関係者が公開で話し合い、一

般の間にも大きな議論が起きた。 その結果、リプロダクティブ・ヘ ルス・プログラムの責任者が、合 法的中絶は妊産婦死亡を減少させ ると公式に認めるに至った。保健 省は、中絶法の見直しを計画して おり、安全でない中絶の合併症に よってこれ以上無益な死と疾患が 起きないよう現行法をいかにより よく解釈できるか検討している。 同国のIPPF加盟協会は、安全な 中絶サービスを利用しやすくする ことで、望まない妊娠を減らせる ことを裏付ける証拠を活用し、公 衆保健の観点から制限の多い現行 の中絶法を廃止するよう政府に訴 えた。これはウガンダ家族計画協 会がグローバル・ギャグルールに 署名していたなら、到底できない ことであった。


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世界の中絶法−公衆保健上の課題

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• 1950年以前、安全な中絶は世界 のほぼすべての国で非合法であ るか、厳しく制限されていた。 • 安全でない中絶の影響に関する 関心が高まり、中絶を自由化し 合法化する国が、主に先進諸国 とその他の国々で急速に増加し た。 • その傾向はグローバル・ギャグ ルールが初めて導入された1984 年以降、鈍った。 • 1985年と1997年の間に、19カ 国が中絶の法規制を緩和した。 • さらに最近、11カ国が中絶法を 緩和した。 • 同時に、5カ国が現行法を一層 厳しくした。 • 世界人口の25%は、現在も中絶 が非合法ないしは厳しく制限さ れた国に住んでいる。 • その他の国々では、中絶は一定 の条件のもとでのみ合法だが、 サービスや情報を得る手段は著 しく制限されている。 • 国の法解釈や施行および中絶に 対する医療界の姿勢が、サービ スが受けやすくなるか否かを左 右する。 • 複数の調査により、中絶の合法 化も中絶法の緩和も全体の中絶 率増加にはつながらないことが 明らかになっている。

世界にみる中絶許可の根拠 女性の生命を救うため また、心身の健康を保持するため また、レイプや近親姦の場合 また、胎児に障害がある場合 また、経済的・社会的理由 また、要請に応じて 該当人口(単位100万)

国の数

「世界保健報告 2005」WHO The World Health Report 2005, WHO

安全で合法的な中絶サービスの利用 中絶についての適切な情報と安 全で支払い可能な中絶サービスを 利用できるようにすることは、中 絶の合法化と同様に重要である。 これらが同時に行われなければ、 安全でない中絶は世界中で何百万 人もの女性の生命を脅かし続ける だろう。 中絶が許可されている国々で も、法的障壁があると安全なサー ビスの利用が大幅に遅れ、その結 果、女性の健康に悪影響を及ぼす ことがある。待機期間の義務付け、 配偶者または保護者の同意が必要 なこと、また認定されたサービス 提供者のところまで長い道のりを 行かなくてはならないことなど が、安全な中絶を利用するうえの 阻害要因になっている。

料金についても同じことが言え る。安全な中絶は料金が高く、貧 しい女性に最大の打撃を与え、危 険な時期まで中絶を遅らせること になる。 インドでは、中絶が合法化され て30年経過したものの、現在で も非合法中絶6対合法中絶1とい う割合が続いており、中絶が妊産 婦死亡率の原因の15%以上を占 めている。これは主に中絶の法的 地位に対する認識や、安全で衛生 的な中絶サービス、熟練した医療 者がいずれも不足しているためで あり、それは特に農村部において 顕著である。

各国の状況− モンゴル モンゴルでは中絶は合法であ る。しかし、政府の政策は、必ず しも安全でない中絶を減らすため の具体的サービスという形で実行 されているわけではない。サービ ス提供に関する厳しい規則によ り、中絶は政府認可の医療施設で 実施することが義務づけられてい る。この規則はサービスの質の高 さを保証しているものの、女性に とっては、政府の病院以外に合法 的選択肢がほとんどないのが現実 であり、結局はサービスの利用が 制限されることになる。政府の病 院の長い行列と官僚主義的手続き のため、多くの女性はすぐに中絶

を受けられる無認可の民間診療所 に行かざるを得ない。ただ、そこ では料金も高く手術は非合法であ る。中絶サービスを利用する手段 は、特に農村部では依然として乏 しい。このような状況から、IPPF 加盟のモンゴル家庭福祉協会 (MFWA)は、簡易診療所でも健康 と安全基準を確保する手段をとっ て、安全で合法的な中絶が実施で きるよう代替制度を提案してい る。 そのための第一歩として、MFWA は中絶に関する人々の意見と実態を 知るため1700人を対象に調査を実

施した。各層の人々を面接調査し た結果、回答者のほとんどが中絶 サービスがどのような条件で利用 できるかについてよく認識してい ることがわかった。近くに民間の 診療所も公立病院もない農村地帯 の住民は、中絶サービスを利用し やすくするという計画を支持し た。これは安全な中絶サービスに 対し、かなりのニーズがあること を示している。


各国の状況− エチオピア エチオピアの22歳の女性ゲー テ(仮名)は、レイプされアディス アベバにある家庭指導協会の診療 所を訪れた。彼女は北部のゴンド ールに暮らしていたが、仕事を探 しにアディスに来て、2004年か ら叔父叔母と一緒に住んでいる。

診療所に送ったが、その時すでに 妊娠4カ月に入っていたため、診 療所のスタッフもレイプされたか 否かの確認はできず、カウンセリ ングと、警察に対しては妊娠を確 認するのがせいぜいだった。

「警察の正式な書類がない限り、 ゲーテはいとこの友人にレイプ 安全な中絶のため彼女を医師に された。その当時、エチオピアで 照会することは診療所としては はレイプと近親姦を除いて中絶は できないのです。このような場 非合法であり、中絶する場合もレ 合、女性が非合法の堕胎医を訪 イプを確認する警察の報告書が必 ねるのはごく普通のことなので 要だった (現在、この法律は撤廃 す」。 されている)。レイプと中絶に対 シスターメケレ アディスアベ する偏見があまりに強いため、ゲ バのモデル診療所の看護師長 ーテは警察に行くことをためらっ た。警察には信じてもらえないだ ろうという思いもあった。レイプ されたことを叔父に告げると、家 を追い出されてしまった。妊娠に 気づいたとき、彼女は中絶を望み、 恐怖心を抑えて警察に行った。警 察はレイプを確認するため彼女を

IPPF Chloe Hall ゲーテは写真で顔 がわからないよう にして欲しいと言 った。

薬剤による中絶−資源の乏しい状況で生命を救う 薬剤を組み合わせて行う薬剤に よる中絶は、望まない妊娠を終わ らせるための安全で効果の高い方 法であり、多くの先進国と一部の 途上国でより好ましい手段として 広まっている。現在のところ、途 上国の女性にはほとんど入手でき ない。訓練を受けたスタッフが投 薬すれば、合併症はまれである。 抗プロゲストゲンのミフェプリ ストンを合成プロスタグランディ ン類似物と合わせて使用する薬剤 による中絶は、自然流産のような 効果を発揮する。医療や財政面か らプライマリ・ヘルスケアシステ ムのなかでは外科的中絶が困難な 国々にとって、薬剤による中絶は 効果的かつ利用者にもやさしい方 法であることが証明された。ここ には、安全な中絶がそれを最も必 要とする女性にとって利用しやす くなるという確かな希望がある。

サラワティというインドの37 妊娠9週以内に行われる薬剤に よる中絶は、診療所に2回行き、 歳のヘルスケア・ワーカーは次の 異なる薬剤を2回投与してもらう ように語った。 必要があるが、2回目の投薬は自 「私は若い頃望まない妊娠をした 宅ですることもでき、そのケース のですが、そのときこの薬剤によ が増えつつある。2回目の受診で る中絶法があったらどんなによか プロスタグランディンの投与を受 ったろうと思います。私は男性の けた女性の90%は、4−6時間の 医師に外科手術をしてもらうのが 間に流産する。この方法の成功率 いやで、しかたなくダイ(伝統的 は98%である。妊娠9週を過ぎる ヒーラー)のところに行ったので と追加処置が必要となるが、外科 すが、何日も痛みと熱がとれませ 的手術ほど身体への侵襲はなく、 んでした。その後、妊娠できない 効果は97%である。 身体になってしまい、夫は私のも とを去ってしまいました」 。 開発途上国にとって薬剤による 中絶の大きな利点のひとつは、大 薬剤による中絶は10年以上に 多数の女性の場合、外来で行える わたり多くのヨーロッパ諸国で実 ため必要な医療資源がずっと少な 施されてきた。国によっては、現 くてすむことである。 在では中絶の50%以上を占めて いる(スウェーデン51%、フラン ス56%、スコットランド61%)。


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HIV陽性の女性と選択の権利 IPPF/Chloe Hall イテネシはHIV陽 性である。彼女 はエチオピア家 庭指導協会が運 営する青少年セ ンターに行き、 HIV陽性というこ とが若い人たち の将来のリプロ ダクティブ・ヘ ルスにどのよう な意味をもつか について話して いる。

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出産可能年齢にあるHIV陽性の 女性は、HIV陰性の女性と同じよ うに計画外妊娠をすることがあ り、同じように子どもを産むべき か否かという問題につきあたる。 ただ、HIV陽性の女性の場合、個 人や家族、さらに社会的、文化的、 宗教的、医学的理由から、問題は 一層複雑である。

家族をつくり、子どもを産むか 否か、産むならいつ産むかを決定 する権利は、女性のセクシュアル/ リプロダクティブ・フリーダムの 基本である。しかし、HIVと共に 生きる女性にはこの権利がしばし ば否定されている。社会もサービ ス提供者もHIV陽性の女性は子ど もをもつべきではない、また性行 動もとるべきではないと考えてい HIVと共に生きる女性は、HIV陽 るからである。 性であることで汚名を着せられる ことが多いが、そのうえ妊娠した これは悲劇的な絵図である。そ となると、HIV陽性なのに無責任 こにはHIV陽性の女性が罪人であ な性行動をとり妊娠したと非難さ ると同時に犠牲者として描かれて れる。彼女たちはときには家族や おり、意思決定の過程でどの程度 ヘルスワーカーから中絶するよう の圧力が加えられたかが示唆され 圧力を受け、ときには、パートナ ている。今日まで、HIV陽性の女 ーや世間から子どもを産むよう圧 性が産むか否かの決定をどのよう 力をかけられる。HIVと共に生き に行っているかについて調査した る女性は、中絶を求めたり中絶し ものはほとんどない。しかし、現 たりすると悪魔扱いされることも 在 あ る 調 査 か ら 明 ら か な の は 、 ある。母子感染予防のための包括 HIV陽性の女性の生命が尊重され 的プログラムを利用できない状況 ず価値がないとみなされているこ で、HIV陽性の子どもを産んだ女 とである。 性は、責められることが多い。

サービスの提供には、女性の セクシュアル/リプロダクティ ブ・ライツと意思決定を尊重す ることが基本になければならな いのは明らかである。そこには、 必要があれば安全で合法的な中 絶に対する権利が含まれる。安 全な中絶サービスを利用できる ようにすることは、HIV陽性の 女性には非常に重要である。と いうのも彼女たちは敗血症や大 出血の合併症に苦しみ、より大 きなリスクに直面しているた め、安全でない中絶の危険度が 著しく増すからである。 どのような立場にあっても、 すべての女性は子どもを産むか 産まないかを自分で決める権利 をもつべきである。


IPPF/Jenny Matthews ネパールでは中 絶が犯罪でなく なり、違法中絶 の罪で投獄され ていた女性が釈 放されたが、彼 女たちは中絶に まつわる汚名が 自分たちについ てまわると強く 感じている。

「こうして、多くの女性がその問題にぶつか るのだ。それも独りで」。 グラディス・バザン博士 (IPPFのペルー加盟協会の婦人科医)

各国の状況− ブラジル サンパウロにあるブラジル最大 の公立病院オスピタル・ダス・ク リニカスには、毎週女性が腟から のひどい出血で救急病棟に担ぎ込 まれる。 そのほとんどは10代か20代初 めで、南米最大の都市の周辺にあ る極貧のスラムに住んでいる。女 性によってはなぜ出血するのか見 当もつかないといい、あるいは月 経が来なくなったと用心深く作り 話をする女性もいる。 誰も本当のことを明かそうとは しない。中絶が非合法であるため、 当局に引き渡されるのを恐れ、闇 で手に入れた潰瘍の薬を腟に挿入 して人工的に流産しようとしたこ とを認めないのだ。

米国では1973年に中絶が合法 化されたが、妊娠総数の25%は 中絶に終わっている。世界で最も 規制の少ない中絶法をもつ国のひ とつであるオランダでは、その割 合はほぼ10%である。 中絶が広く行われているにもか かわらず、最大のカトリック国ブ ラジルでは中絶を口にすることは タブーである。それでも状況は変 わりつつある。というのは、市民 グループや医療専門家の一部が、 望まない妊娠を終わらせるという 女性の権利のための闘いを通し、 中絶について公に議論しようと働 きかけているからである。彼らが 目指すのは、闇中絶による女性の 死を防ぐことである。 現在は、レイプと母体の生命が 危険な場合にのみ中絶が許可され ている。それでも、裁判官の認可 をとるのが困難であり、医師の中 には宗教的理由から手術を拒む者 もいる。

ブラジルでは、ごくまれな場合 を除いて、中絶は法的に許可され ていないが、中絶率は途上国のな かでも最も高いグループに入る。 保健省は妊娠総数のうち31%は 中絶されると推計している。数字 にすると年間140万件の中絶が、 ブラジルでは、中絶手術の失敗 それもほとんどは違法に行われて が妊産婦の死亡原因の第4位を占 いることになる。 める。2004年には、24万4000人

の女性が公立病院で闇中絶による 合併症の治療を受け、これに対し て政府は3500万レアル(900万ポ ンド)を支出した。 ブラジルの中絶法には、社会の 不平等も如実に現れる。金持ちの 女性は、最低月額賃金の5倍もに 相当する1500レアル(400ポンド) を払って、違法であっても安全な 診療所で中絶する。 それに対して、貧しい女性のほ とんどは、サイトテックという商 品名で知られる潰瘍薬のミソプロ ストルに頼る。サイトテックを腟 に挿入すると子宮収縮が起き、胚 または胎児が体外に排出される。 ロイター通信の報告、 2006年1月10日


死 と 拒 絶 ー 安 全 で な い 人 工 妊 娠 中 絶 と 貧 困

死と拒絶のない未来は?

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この報告書の最も重要なメッセ ージは、中絶を処罰しても問題は なくならないことを政府に理解し て欲しいということである。この 文書に示したように、女性はあら ゆる理由で中絶を求め続け、そし て死に続けるだろう。したがって、 必要なことは、もし女性が中絶を 中絶が合法でサービスが容易に 選ぶならそれが安全で合法的であ 利用でき、しかも安全な場合、外 ることを確実に保証することであ 科手術あるいは薬物投与による中 る。 絶が原因で死亡したり身体に傷害 を受ける危険性はわずかである。 この報告書を通して明らかにし 事実、中絶は最も安全な医療処置 てきたのは、次のことを実現する のひとつなのだ。だからこそ、毎 ために、私たちは政治的意思を創 日世界中で、実際には途上国で、 り上げる必要があるということで 200人近くの女性が安全でない中 ある。 絶の合併症により死亡しているの は、公衆保健の悲劇なのだ。 1. 望まない妊娠を減らす。 •セクシュアル/リプロダクティ 限られた未来と社会の不平等に ブ・ヘルス分野におけるこれ すでに直面している女性が望まな までの成果を土台に築き上げ い妊娠をしてしまった場合、彼女 る。 たちはさらに生命の危険に直面す •家族計画を利用しやすくする。 ることがしばしばである。なぜな •貧しい農村の女性と男性のニ ら、中絶が医学訓練を受けていな ーズに焦点をあてる。 い人によって不衛生な環境の下で 行われたり、あるいは女性自ら伝 •女性の地位と権利を推進する。 統的方法を使い望まない妊娠を終 2. 希望するすべての女性が安全 わらせようとするためである。 で合法的な中絶サービスを受 けられるようにする。 この報告書は、中絶が法律で禁

IPPFは以下のことを提唱する。 「安全な中絶が受けられ、それを 選べるという女性の権利を世界的 に認めること、さらに安全でない 中絶のリスクを減らすこと」 IPPF戦略の枠組み

止されているか、厳しく制限され 3. ジェンダーの不平等に取り組む。 ている国での中絶に関する重要な •女性が社会的、政治的、経済 問題を、いくつかの焦点にしぼっ 的にエンパワー(能力強化)さ て取り上げた。私たちの希望は、 れるような環境をつくる。 安全でない中絶のために、女性が 自分の生命と健康を危険にさらさ 4. 不完全な中絶または中絶によ なくていい日がいつか来ることで る合併症で苦しむ女性に対す ある。それを実現するには、中絶 る中絶後のケアサービスが、 は世界のどこでも合法で安全でな 公立および民間の保健サービ ければならない。IPPFは、法律に スに含まれるようにする。 よる不当介入によって、あるいは 5. 安全でない中絶をなくす。 最低限の医療水準も技術もない状 •安全で合法的な中絶サービス 況下の死という極めて現実的なリ を利用できる窓口を増やす。 スクによって、中絶するか否かを •安全な中絶のために法的・社 選ぶ女性の権利が脅かされてはな 会的障壁を減らす。 らないと確信している。 家族計画とリプロダクティブ・ 6. 先進国と途上国の政府が状況 改善のための実施責任を果た ヘルスサービスを利用できるよう すよう監視する。 にすることで、意図しない妊娠の •安全でない中絶が女性、家族、 割合が大幅に減り、中絶の必要性 社会に与える影響について記 も低下することがこれまでに明ら 録する。 かになっている。 •安全でない中絶が引き起こす しかしながら、避妊法を最も効 結果やその経費、社会的不公 果的に使ったとしてもなお、望ま 正について国民を教育する。 ない妊娠は起こる。

7. 中絶にまつわる汚名や差別を なくすことに取り組み、中絶 および中絶が女性に及ぼす影 響についてオープンに率直に 話し合えるようにする。 国際開発省の約束は、英国が公 衆保健の証拠に基づき中絶合法化 のための世界的取り組みを今後と も引き続き推進していくことを意 味している。IPPFはそのアプロー チを強く支持し、英国政府その他 の援助機関と協力して、この取り 組みの先頭に立って活動をしてい く。 安全で合法的中絶に対する信頼 から、多くのIPPF加盟協会は米国 の資金援助を拒否してきた。世界 の政策立案者との対決は今も続い ている。彼らによる懸命な努力が なければ、多くの国々の女性の未 来は何ら変わることがないだろ う。 徐々にではあるが、中絶のパラ ダイム・シフトが起きており、中 絶法の緩和に向けた動きもある。 この報告書がそのような勢いを継 続させる一助となることを期待し ている。安全でない中絶による公 衆保健上の影響、なかでもそれが 社会の不平等と貧困に結びついて いることを示す真の証拠を提示す れば、中絶を合法で安全なものに するよう政府を説得できるだろう と私たちは希望している。私たち は妊娠を中絶するか否かを選ぶ女 性の権利について議論し続け、も し中絶を選んだ場合は、女性の生 命と健康が危険にさらされないよ う保証する努力を続けなくてはな らない。そうして初めて私たちは、 女性が死と拒絶というリスクにあ わなくてすむ、より明るい未来に 向かうことができるだろう。


IPPFとは 国際家族計画連盟(IPPF)は、すべての人々のセク シュアル/リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守る ため、世界に向けて最も強力な意見を発する組織 である。これらの重要な選択と自由が脅威にさら されている現在、私たちの活動はこれまで以上に 必要とされている。 どんな活動をしているか IPPFはセクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス/ ライツの提供者であり、提唱者でもある。IPPFは世 界的ネットワークをもつ任意のNGOであり、182カ 国に150の加盟協会がある。

IPPFの描く未来像 私たちが描くのは、世界中のどこでも女性と男 性が自らの身体を自分でコントロールでき、そう することで自らの運命も決めることのできる世界 である。それは、親になるか否かを選ぶ自由、い つ何人の子どもを産むか否かを決める自由、望ま ない妊娠やHIVを含む性感染症の恐れなしに健康的 な性生活を送る自由のある世界である。 現在と未来の世代のためにこれら重要な選択と 権利を守るため、私たちはできうる限りのことを 断固たる決意をもって行う。

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日本語版 2006年6月15日 第1刷発行 校閲:芦野由利子・ジョイセフ評議員 ISBN978 4-906581-18-4 P700E

© (財) 家族計画国際協力財団 (ジョイセフ) 〒162-0843 東京都新宿区市谷田町1-10 保健会館新館 電話 03-3268-3150 ファクス 03-3235-9776 E-mail info@joicfp.or.jp URL http://www.joicfp.or.jp 英語版 (Death and Denial: Unsafe Abortion and Poverty, © IPPF 2006) は、 IPPFのホームページでPDFファイルが見られます。


International Planned Parenthood Federation 4 Newhams Row, London, SE1 3UZ, United Kingdom Tel +44 20 7939 8200 Fax +44 20 7939 8300 Email info@ippf.org www.ippf.org

表紙写真:IPPF/Jenny Matthews ISBN978 4-906581-18-4 P700E

定価700円 (税込み)


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