人の成長を促す参加型教育の方法論
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〈論文〉
人の成長を促す参加型教育の方法論 ― デジタル・ストーリーテリングのワークショップ分析 ― 池田 佳代 目次
や佐々木 [2007] も指摘するように、日本のメディア
はじめに
教育やメディア教育学が低調であること、デジタル
Ⅰ デジタル・ストーリーテリングの開発と実践
化や情報機器の革新が目覚しくメディアの進展が激
Ⅱ DST ワークショップの事例分析Ⅰ:関係性の構築
しいことも影響していると考える。現在のメディア
と視聴者への効果 Ⅲ DST ワークショップの事例分析Ⅱ:精神的な成長 と技術習得の効果 Ⅳ 事例分析の考察および DST の応用可能性 おわりに
論が高等教育の中で学べる環境は望ましいが、それ に隣接する制作過程を実践的に学ぶ環境も備えてこ そメディア学が充実するのだと考える。 本論のテーマである、デジタル・ストーリーテリ ング(DST)のワークショプは、安価なデジタル機
参考文献
器を用い、経験がなくても数日間のワークショップ キーワード:Practice of Media Education, Citizenship
に参加するだけで映像が完成する。また、その過程
Education, 傾聴,認知,対話
において、参加者同士の対話を促し、作品の上映を 通じて共感や理解を生じるという特徴があり、個人 において自覚や自立を促し、集団において関係性の
はじめに 筆 者 が 参 加 し て い る 非 営 利 の メ デ ィ ア 組 織・ OurPlanetTV では、2003 年から市民による集団的な ドキュメンタリー映像を制作するワークショップを 実施している。そこで発見したのは、映像のプロが 描く作品とは違った現実味が聴衆の共感を得ている ことである。聴衆は、映像を通して見知らぬ人々に 起きた出来事や経験から学びを得たり、自らの思考 を発展させたりしている。また、制作者たちは制作 の過程において、さまざまなメディア・ツールを使 いこなし、メディアを読み解く力を会得している。 筆者は、このような状態、すなわちメディアを介 して伝える側とそれに接した側の双方に学びや肯定 的な変化が生じることが有益だと考える立場から、仕 事としてよりも、日常生活の一部の行為としてのパ ブリックな映像制作環境の普及が望ましいと考えて いる。その前提となる素養を身につけるためには、基 礎教育において映像制作を学ぶ機会が必要だ。国外 では、すでにそのような環境が整った国や地域はあ るのだが、日本は未だその途上にある。例えば、基 礎教育の 12 年の間に成長段階に合わせてメディア制 作を国語の授業で行う(日本における小、中、高で それぞれ 1 回以上:フランスの例など)、というよう なカリキュラムが、日本にはまだない。 この違いは、映像制作がもたらす学習効果への理 解不足と、設備や人材等の指導環境の不足が理由の 一つであると推測する。それと同時に、今井 [2004]
構築に役立つとされる方法論である。 そこで本論では、DST の開発や実施に中心的な役割 を果たしている、The Center for Digital Storytelling (CDS)の取り組みに注目する。そして、DST はメディ アを読み解き、メディア・ツールを使いこなす力を 身につけるだけでなく、意味のある出来事や歴史か ら学びを得て成長するとの仮説を立て、それを証左 するために行うワークショップの分析を経て、DST が人の成長を促すことで地域社会を肯定的な変化に 導くツールになりうることを明らかにする。 ここでの肯定的な変化とは、さまざまな社会問題 を解決しようとする人々がめざす方向に転換するこ とである。例えば、気候変動による自然災害、長引 く地域紛争や内戦、人間には制御できない科学的災 害や金融危機などは、遠く離れた地域の出来事であっ ても、その影響が世界各地に飛び火することで深刻 な状況を生んでいる現実がある。それらの課題に向 き合う人たちが生まれたとしても、それが少数であ れば解決には向かわないが、より多くの人々と課題 を共有して関心をもつように変化することで解決に 向かう。そのようなことを指している。 そのため、まず第Ⅰ章において、DST を開発した CDS の理念とそれに基づいた導入例を概観すること で、ワークショップが実現する事柄と果たす役割を 明らかにする。次に、第Ⅱ章とⅢ章では、日本とグ アテマラにおいて実施したワークショップのうちの 2 例について、人の成長が促される変化の過程および、 技術の習得や精神的な成長について DST の効果を分
2 析する。ワークショップは、CDS の創作過程に則り、
れ を「 個 人 的 な 声 と 促 進 的 教 授 法(facilitative
輪になって座った状態で自作の物語を語る「ストー
teaching methods)」と称している。その根底にある
リー・サークル」、物語の文章化、物語の録音、画像
のは「6 つの価値観と原理」であり、それを説明する
の選択、パソコンソフトを用いた映像編集、完成作
記述の見出しは以下の通りである。
品の上映とシェアという流れで一連の作業を実施す
ⅰ.だれにでも多くの強力な物語がある
る。
ⅱ.聞くことは難しい
ワークショップに用いるデジタル・メディア・ツー ルは、導入しやすさを意識して、一般に入手しやす
ⅲ.人は見る・聞く・そしてさまざまな方法で 世界を認識する
い廉価な機器やソフトウエアを用いた。具体的には、
ⅳ.創造的な活動は人間の活動
最新でない PC の基本ソフト(Windows XP)と、廉
ⅴ.技術は創造性の強力な手段
価なイヤホンマイク、携帯電話付属カメラの画像や
ⅵ.物語の共有は肯定的な変化につながること
フリー画像(プリント写真はデジタル化する) 、無償
ができる
の編集ソフトなどである。参加者は、映像編集の未 経験者で、これらのツールを保有していない者も含む。 次に、第Ⅳ章では、事例分析によって導かれた、
この観点は、1960 年代以降にラテンアメリカから 欧米へ、そして世界に広まったパウロ・フレイレの
DST の意義を、デジタル技術の習得、個人における
思想や教育実践に通底していると思われる。後章に
成長と集団における関係性の変化について考察する
て考察するが、フレイレは教師から生徒への一方的
ことで、教育現場と一般的な社会環境への導入可能
な伝達型教育を批判的にとらえ、生徒意識化を促す
性について論じる。
ことが望ましいと唱えた人物である。
考察に用いる材料は、創作過程に表れた参加者の
CDS の 6 つの価値観と原理の詳察は省くが、それ
態度や言動の観察記録、完成した物語の文章や語り、
を的確に述べている記述は、 「全ての人が保有してい
音声と組み合わせた画像、及びワークショップ終了
る、意味のある出来事を物語にすることで、見る・
後のコメントやアンケートへの回答などとする。ま
聞く・そして世界を認識することができるし、対話
た、基礎教育において期待される学習効果を促す方
を促すことにもつながる。」「人が本来持ちあわせて
法論といえるのかという観点からも検討を行う。
いる創作意欲とデジタル技術を用いることで物語を 共有することができる。」「自らの経験を示すことは
Ⅰ デジタル・ストーリーテリングの開発と実践 1 The Center for Digital Storytelling(CDS)の理 念とイニシアティブ DST を開発した CDS はデジタル・ストーリーのこ とを、「短い、一人称のビデオであり、録音した音声 と静止画または動画、そして音楽やその他のサウン ドを組み合わせて制作した物語」とし、それを作る デジタル・ストーリーテラーのことを、 「人生経験や 考え、感情などを物語とデジタル・メディアを用い て残そうとする人」と定義している。ワークショッ プは、ビデオ制作の経験がなくとも、ファシリテー ターからの技術指導や創作支援を得て、数日間でデ ジタル・ストーリーを完成させる。 このワークショップは、デジタル・メディア・ツー ル(映像や音声をデジタルに記録または加工する機 器)を用いて、人びとの暮らしの中の意味のある物 語を映像として記録し、共有するもので、その創作 過程において、学習効果や関係性の構築、公正さを 引き出すなどの利点が生じると考えられている。そ の様相は、プロフェショナルな映像制作とは一線を 画している。CDS ではデジタルワーク(録音や編集 など)における支援は一人ひとりの個性に合わせて 行うことを、物語の作成と同様に重視しており、こ
人々の振る舞いを修正することや、共感によって人 を癒すこと、すなわち、肯定的な変化につなげるこ とができる」というものである。 これらを具現化するために用意されているのが、 ワークショップのテキスト『Cook Book』であり、こ こには「Seven Steps of Digital Storytelling」が示さ れている。7 つのステップとは、直観に基づいて本当 に語りたいことを見つける、感情に基づいて物語に 含まれる意味を考慮する・自覚する、変化した瞬間 やその時に起きたことを見つける、自身の物語を注 意深く見つめる、物語を聞く、物語を組み立てる、物 語を共有する、というもので、ワークショップの各 段階において意識すべき事柄として示している。 CDS が常時開講しているワークショップは、一般 向け(3 日間)、教育者向け(同)、ファシリテーター 養成編(5 日間)の三種あり、ほかには「健康」 「家族」 1)
などテーマ別に多数開催している 。 CDS の ル ー ツ は、1990 年 代 初 頭 に さ か の ぼ る。 CDS の代表を務めるジョー・ランバートによれば、 当時、デジタル機器が人々の暮らしにどう役立つか ということに関心をもった芸術家や創作活動家が全 米各地からアメリカ西海岸に集まり、様々な試行錯 誤を行ったという。その中で生まれた一つの手法が 現在のデジタル・ストーリーテリングであり、 「テク
人の成長を促す参加型教育の方法論 ノ通からテクノ恐怖症まで」(CDS の歩みについての
3
ると考えているからである。
記述よりそのまま引用)多様な人々の参加を得て結 実したものだという。CDS は 1993 年頃からの実践を
ⅰ.ロッキーマウンテン PBS 医療物語:デンバー
踏まえて、1998 年に非営利の芸術教育組織としてバー
における医療問題に関するドキュメンタ
クレーに発足した。
リーとして地方局で放送(公共放送 PBS)。
CDS の主な活動は、コミュニティや教育、企業と
ⅱ.ソーシャルワーカーへのユニークで具体的 な青少年育成支援:養護施設のシステムの
の連携を通じた大規模なプログラムの開発や、健康、
改善方法や教育方法などについての共有。
福祉、教育、歴史と文化の保全、コミュニティ開発、 人権、環境などに取り組むセクターにおける、それ
ⅲ.水辺を管理する住民組織の物語:牧場経営
ぞれの目標に応じたデジタル・ストーリーテリング
者ら地主が環境保護と生計維持の方法を探
の開発である。
る。(カナダ・アルバータ州)
拠点は、カリフォルニア州バークレー、コロラド
ⅳ.南アフリカのジェンダー、暴力、HIV とエ
州デンバー、ワシントン DC にあり、ここで開催す
イズ間の関連を探る:青年男女によるジェ
るワークショップは誰もが参加できる。スタッフは 8
ンダー平等の促進、虐待の非難、HIV エイ
人おり、彼らが従事してきた、基礎教育と成人教育、
ズ感染防止の語り。(Sonke Gender Justice
映像及び舞台芸能、放送メディア制作、若者のエン
Network)
パワーメント、コミュニティ開発、薬物乱用と心的
ⅴ.移民労働者の物語の記録と共有:広範な職
外傷への介入、人権や健康問題などの領域での経験
業の労働者や労働組合員が労働運動の意味
や能力を、事業の開発に生かしているという。事業
を語る。(サービス業従業員国際組合)
の開発の冒頭に取り組むのは、依頼者の目標に到達
ⅵ.高等教育におけるデジタル・ストーリーテ
するためのニーズ分析であり、その狙いを下記の 5
リング:教員、学生、地域社会メンバー間
つに分類している。
の連携にむけた DST 実践の共有。 (オハイ オ州立大学)
ⅰ.個人的な思考と成長:個人の歴史から得た ものを社会に反映できるよう保護する ⅱ.教育と意識:組織性や分野を越えた教育、訓 練等に役立てる ⅲ.コミュニティと運動の構築:経験や課題(文
これらは比較的大規模な、または社会的反響の大 きい事業の事例である。そのほかに、組織的な能力 開発をめざした、オーストラリア・メルボルンにあ
化的、言語的、政治的、人種、ジェンダー、
るオーストラリアセンター(ACMI)での移民と先住
年齢など)の違いに向かい合う機会および、
民協会との協同事業 、マイノリティやリスクのある
重要な議論や活動の活性化をもたらす
人たちに無料で DST に参加できるプログラムを用意
ⅳ.政策提言(政策による権利擁護) :抽象的な
4)
5)
しているデジタル・クラブハウス・ネットワーク 、
データと特別な利害関係を排し、一般的に
虐待を受けたサバイバーを支援する世界各地の NGO
見過ごされている人たち(貧困層、移民、高
が連帯してとりくんでいる「Silence Speaks」など、
齢者、若者、および疎外されたコミュニティ
世界各地の人権に敏感な、または社会正義に関わる
のメンバーなど)の声の可視化
非営利組織において積極的に DST が用いられている。
ⅴ.研究と評価:学術またはコミュニティの文
さらに興味深い事例を抜粋すると、多言語、多文化
脈で、特定の問題への理解を探り、地域の
女性のメディア・リーダーシップ事業(カナダ・ト
ニーズを評価し、これらのニーズが満たさ
ロント市の福祉施設・中央隣保館の物語プロジェク
れているかどうかを評価する、コミュニティ
ト) 、Deaf Women and Girls Project(ろう=耳の
メンバーが問題を立証し(物語化)地域の
聞こえない女性と少女:カナダ)、森林保護の物語(カ
強みや資源を明確にする、コミュニティベー
ナダ・アルバータ州) 、薬物乱用や精神保健に関する
スの取り組みの証拠として役立てる
支援、性的マイノリティ支援、米国内の農村管理情
6)
報支援、難民支援、子育て支援、各教育機関におけ CDS を利用した機関は、英語圏を中心に 200 を越 2)
えており 、主なパートナーは、米国 45 州とカナダ
る教授法としての取り組みなどがウェブで紹介され ている。DST の取り組みは、単なる映像制作や表現
5 州をはじめとした 33 カ国ほどある。多数の実践の
活動にとどまらない方法論として、CDS とそれに賛
うち、長期継続している 6 例を以下に示す。DST に
同する教育機関や NGO の取り組みによって確実に広
よれば、これらは模範的な取り組みと紹介されてい
がっていることが分かった。
3)
る 。CDS は、DST の導入を一時のイベントではなく、 継続することが目的の達成や社会への効果につなが
そのほか、DST は臨床心理や福祉分野の大学や専 門学校などの教育機関のカリキュラムにも導入され
4 7)
ており 、アメリカでは社会的な方法論として定着し
60 代の男女 5 人
ている。以上のことから、DST は単なる映像制作や
手順 ストーリー・サークル→物語作成→物語の朗
表現活動にとどまらない方法論であることがわかる。
読→物語修正と朗読練習後に録音→写真の選 択→パソコンでの映像編集→完成作品の上映
2 オーラルヒストリーやスピーチを学ぶための DST 8)
ヘブン [2007] は、デジタル・ストーリーをオンラ
およびシェア 体制 ファシリテーター(筆者)のみ
インで保存することの意義を強調している。デジタ ル・ストーリーをオンラインで保存すれば、いつでも、
1 ワークショップの経過
好きなときに、聞くことや共有することができ、長
本事例は、集団活動の期日を 3 回に分割し、個人
期間視聴に供することができるので、オーラルヒス
作業は各自の余暇時間に実施した。その理由は職場
トリーやスピーチを学ぶ方法論としての導入を推奨
環境上の制約によるものであったが、結果として、
している。デジタル技術を用いて歴史を学んだ若い
CDS の標準的なワークショップに準じた連続した時
世代は、従来継承できなかった事柄にもアクセスし
間設定で実施した場合との差異は見受けられず、そ
ようとするので、自発的に多様な世界を見聞きし、考
の過程や成果に影響しないことの証左ともなった。
える機会を得て、将来を見据える視点が育つという。
ワークショップの実施経過は以下のとおりである。
彼は、「あらゆる営みについて物語が保存されれば、
まず実施前に、物語のテーマを参加者全員で相談
歴史は一つではなくなる」とその効果を展望している。
し、総意を得て「私の大切なもの」と設定した。ワー
たとえば、アフリカ系アメリカ人の最大のアーカ
クショップ当日までは、テーマに沿って語りたい内
イブコレクションの History Makers には、8000 時
容を各自で考え、その内容に組み合わせる写真を準
間以上のデジタル・ストーリーが掲載されており、こ
備した。第 1 回目は、はじめにワークショップの流
こにアクセスすれば、学生や教師、研究者やドキュ
れを説明し、DST で制作した作品を参考のために鑑
メンタリー制作者たちは、失われることのない実際
賞した(図画Ⅱ-1)。ワークショップは「ストーリー・
に存在した多数の声を聴くことができる。それと同
サークル」から開始した。参加者とファシリテーター
時にオンラインで歴史を学んでいるという。日本に
は、輪になり向かい合って座り、一人ずつ順番に作
おいても、先達たちをはじめとした人々が経験を基
ろうとしている物語について語った。
にしたデジタル・ストーリーが web 上にコレクショ
1 人目の A は 30 代前半の男性で、人と交わす挨拶
ンされれば、人の歴史が鮮やかに記録されると同時
の大切さとその理由について語った。2 人目の B は
に、地域史を学ぶ学習コンテンツとしても有用だと
20 代後半の男性で、自分の車と趣味について、それ
考える。
が大切なものになった経緯を語った。3 人目の C は 40 代半ばの男性で、妹の娘(姪)から贈られたペンケー
Ⅰ DST ワークショップの事例分析Ⅰ 関係性の構築と視聴者への効果 場所 京都市東山区の対象グループの職場の事務所 及び自宅等 期日 2011 年 7 月 1 日、同 6 日、同 15 日の計 3 回 形態 集団活動は上記日程で各回 1-2 時間、個人活動 はこれ以外で個別に実施 内容 DST の概要と作業手順の説明、参考作品の上 映、ワークショップ 対象 同じ職場で働き始めて 3 か月を経た 20 代から
スにまつわるエピソードを語り、4 人目の D は、20 代後半の男性で、大学時代に夢中になったゼミ活動 について語った。5 人目の E は 60 代前半の女性で、 被爆二世として生まれた経緯や身体的状況について 後から知った事実とそれに対する当時の想いを語っ た。次に、それぞれが語った内容について、不明な 点や聞き取れなかったことへの質疑応答を相互に交 わした。 次の手順は物語の作成だが、それは自宅での個人 作業とし、ファシリテーターの関与は出来上がった
図画Ⅱ-1 DST ワークショップの概要説明シートの一部。手順は動画完成後に上映会とシェアリングを経て終了
人の成長を促す参加型教育の方法論 物語の文章をメールで受け取り、不明確な点を指摘 する程度のものとした。 ワークショップ第 2 回目は、全員の前で物語を朗
5
たものは、 B「…人に伝えることは今までしたことのない経 験だった」
読し、他のメンバーからの反応や自身が語ってみて
C「…より親近感がわいてきた…」
感じた違和感などをもとに修正を加えるなどして物
D「…知る機会になった。…」
語を完成させ、自分の声で物語の朗読を録音した。そ
E「…受け入れてくれる場なんだという信頼感を
の際、ファシリテーターは、聞き取りにくい朗読に
持てた…」
ならないよう、間合いや語る速度、発音しにくい表
というもので、親近感、信頼感が生じたことの証左
現や同音異句のある言葉の置き換えなどのアドバイ
だといえる。
スを行った。次に、動画編集ソフトの操作方法を紹 介して終了し、写真の選択と映像編集は個人作業と した。
2 典型事例の分析 上記のうち、デジタル・ストーリーテリングがも
ワークショップ第 3 回目は、編集した映像を参加
たらす効果(人の成長を促す自覚・認知・自己の社
者全員で視聴し、感想を述べあいそれらをシェアし
会化、関係性の構築を促す共感・信頼・理解)が明
た。その際に現れたコメントは、
快に表れた例として、参加者 E の様子や作品につい
A「語る内容は、日頃考えていることだったが、
て分析する。E の物語は約 5 分の長さで、タイトルは
関連する文献を調べるなど、改めてそれについ
「私の大切なもの」である。物語を朗読した音声とそ
て考える機会になったことが良かった」、
れに合わせて探しだした写真(街の風景や父母、自
B「自分のこだわりを人に伝えることは今までし
身の出生時から現在まで、現在の自宅やその周辺な
たことのない経験だった」、
ど:章末に別掲)で構成し、BGM はあえてつけてい
C「今までの職場では、仕事に関係のないことを
ない。完成した物語の文章は下記の通りである。*
語り合う機会がなかった。それぞれの関心や考
カッコ内は朗読に合わせた写真の概要と参照番号
え方を知ることができて、(このメンバーに)さ らに親近感がわいた。自分自身にとっては、家 族に対する自分の感情が明確になり、家族が自
『わたしの大切なもの』 西本好江 (図画Ⅱ-2)*タイトルと名前読み上げ
分にとってどんな存在なのかを考える機会に なった」、 D「同僚たちの人となりを知る機会になった。学 生時代の経験が自分に与えた影響などを振り返 ることにつながった」、 E「今回語ったことは、これまでも共に活動する 仲間に話したことはあったが、これだけじっく り聞いてもらうことには至らなかった。それは 自分にとって不完全燃焼の状態だったのだろう と思う。今回、話を聞いてもらえてことで、閉 じていた感情が湧きあがり、涙がにじんだこと などに、自分自身が驚いた。話をしているうちに、
「扁平足」・・ わたしが生まれたときから付き合っている平たい 足。 原爆が落ち、四年後にわたしは生まれた。(被爆直 後の原爆ドーム:図画Ⅱ-3) 爆心地に近い広島日赤病院。 「母親の命を助けるためには、赤ん坊の命をあきら めて・・」医者の言葉に父は従い、(学生服姿の父) 衰弱しきった母は、 「赤ちゃんを助けて」と叫んだ。 (晴れ着姿の母:図画Ⅱ-4) まさに手術が始まらんとするとき、私は産声をあ
ここは私の話したいことを受け入れてくれる場
げた。赤子には足の指が六本あった。 (新生児当時の
だという信頼感が持てたのだと思う」
本人と母:図画Ⅱ-5)
というものだった。これら発言のうち、人の成長に 関するものは以下の通りである。 A「…関連する文献を調べるなど、改めて…考え る機会になったことが良かった」
母は嘆き、祖母は「原爆のせいじゃあなかろうか」 と。(病院があった地域:図画Ⅱ-6) 赤子は無邪気にコロコロ太った。 (幼児の頃、父、 妹とともに:図画Ⅱ-7)
B「…今までしたことのない経験だった」
七年間は草木も生えないと言われた広島で。
C「…自分の感情が明確になり…、…を考える機
赤い靴はいてヨチヨチするころ、小さな指はなく
会になった」、
なっていた。今でも残る六本目の足指のあと。(50 代
D「…知る機会…。…振り返ることにつながった」
の本人:図画Ⅱ-8)
これらは、自覚や認知、知識や情報の獲得にもつ ながったことの証左だといえる。 また、関係性の構築に関するコメントとして表れ
六本の足指を支える関節の痕跡。わたしの偏平足。 歩いた、歩いた、子どもを抱いた。働いた。歩いた、 歩いた、いろんな国を。
6 キャリアウーマンのパンプスには扁平足は辛い。 (赤いパンプス姿の本人・30 代) 足をねじ込むこと、それは自分をねじ込むようで。 いつしか忘れた関節の痕跡。死んでしまった六番 目の足指。走って、歩いて、倒れるほどに働いて。(40 代の本人) ふと振り返る、歩いて来た道。(50 代の本人:図画
図画Ⅱ-8
図画Ⅱ-9
図画Ⅱ-10
図画Ⅱ-11
Ⅱ-9) 「被爆二世」・・血液検査では白血球が少ないと。 被爆した母、祖母、そして叔父や叔母。 わたしの DNA がつぶやく。町は苦しい。山に逃げ ようよ。(現在暮らす農山村) わたしと母、いま山の中にいる。亡くなった足指 が土を踏む。草を食む。肌に翠が染み入る。(変形し た両足の甲:図画Ⅱ-10) 命をはぐくみ、水をたたえる。亡くなった足指が 笑う。六本目の足指、わたしがわたしである証。 幼子に伝えよう、 「ばあちゃんには、足指が六本あったんよ」(孫を 抱えた笑顔の本人:図画Ⅱ-11) (字幕「お母さんへ 感謝を込めて」:雪をかぶっ
図画Ⅱ-12
た茅葺き屋根の自宅:図画Ⅱ-12) (1)ワークショップを通じた関係性の構築 E の物語は、5 本指用の靴を履く度に存在感を現わ す、葬られた 6 本目の足指への哀惜と愛着が伝わる 内容で、最後は孫へのメッセージで締めくくったも のである。ワークショップの上映会では、最後のシー ンが終わると程なくして、参加者の一人が「いい作 品ですね」と発し、他の参加者たちからも内容に対 する共感、初めて知った事柄への衝撃や感動する様 図画Ⅱ-2
図画Ⅱ-3
子が表情や態度に表れた。E は、作品を見てくれたこ とへの感謝の気持ちをメンバーに伝え、彼らはそれ に応じた。 ワークショップを通じて、参加者たちには一つの 史実が提供されたとともに、それが参加者同士の共 通の理解として生じたことで、親近感や信頼感が増 すことにつながった。これによって肯定的な関係が
図画Ⅱ-4
図画Ⅱ-5
構築される様子が見受けられた。 (2)集団活動が促す人の成長 デジタル・ストーリーの完成から 3 ヶ月後の時点 で DST ワークショップに対する学びや気づき、印象 について E に問い、次のような回答を得た。 E は、技術面について、 「画像、音声、全体のバラ
図画Ⅱ-6
図画Ⅱ-7
ンス等を考慮しつつ、編集すること」が難しかった と回答した。しかし、E は簡単なガイダンスを受けた だけで編集作業を自力で行い、不明な点は支援を受 けて修正を加えるなどして完成したため、技術習得 の学習効果は表れている。 DST のプロセスにおいては、 「シナリオをみんなの
人の成長を促す参加型教育の方法論
7
前で読み上げるとき、あふれた自分の感情や母への
ワークショップから 5 カ月後の 12 月上旬、数百人
想いに気づいた。 『不意打ち』を食らった自分に驚い
規模の大ホールで開催するイベントの一プログラム
た」 「ふだん 表層的な振る舞い をしている自分の
として E の作品が上映された。ここでは、上映の直
日常が、非日常の 朗読 をすることで、恥かしさ、
後に E と会場をインターネットで結んだ環境で対話
ためらい、聞いてもらっている等、思いが交錯した」
が行われた。聴衆はスクリーンに映し出された E の
と答えている。抑制的に振る舞う日常から解放され、
生の声を聞き、E への質問も投げかけた。E はパソコ
本来の自分を取り戻すことができたという満足感が
ンに映し出される会場の様子をブラウザで視聴しな
見受けられる。
がら、デジタルカメラ越しに応答した。終了後に E
完成作品の上映会については、 「ひとりひとりの想 いや抱えていることを対面して聴くより、媒体を通 して得るプロセスが作者の気持ちにより正確に添え
が主催者に送ったメールには上映の効果が述べられ ているので、以下に一部割愛して示す。 「(前文略)皆様のご尽力でスカイプ
9)
による参
るように感じた」 「他の方の作品を観て、相手の想い
加をさせていただき、ありがとうとうございま
を察する作業が少しずつできた」と答えている。こ
した。池田さん(筆者)の、すばらしいナビゲー
の回答からは、DST における集中力や傾聴力の訓練
ションで、安心して話をすることができました。
効果が表れたといえる(波線は筆者追加) 。ワーク
会場の参加者さんから、するどい質問をいただ
ショップ終了後の変化については、 「自分の潜在して
き、常日ごろ、私が考えていることを、お伝え
いる感情を大切にしたいと思うようになった。 (これ
できて、うれしく思いました。拙い作品も観て
まではあまり重視していなかったようだ)」と答え、
いただき、恥ずかしいような、ありがたいよう
ワークショップで身に付いたことは「 『表現すること
な気持です。帰宅して、母に、スカイプで話し
=生きること』を実感し、それに気づかされたこと
たことを伝えました。(理解できたかどうかはわ
をうれしく、誇らしく思った。辛抱強くファシリテー
かりませんが)うれしそうでしたよ。これからも、
トしてくれたことに感謝」と答えている。
コツコツと被爆二世として子どもたちに話を伝
また、DST ワークショップの応用可能性について、
えていく活動を続けていきたいと考えています」
「言葉でうまく表現できていないことや、伝えること
と書いている。E は語り伝えたいという思いととも
が苦手な人が、映像と音声との助けを借り、仲間で
に、90 歳を過ぎた母が物事を理解できるうちに感謝
プロセスをシェアすることで、 『自分のことを語って
を伝えたかったという、二つの思いが達せられた。こ
もいいんだ』と体感すると、自尊感情が大切にされ
の場面では、作品の上映後に、インターネットを介
ると思う」と答え、子どもや DV 被害者へのサポート
して大衆と対話するというデジタル技術の発展的な
など、自身の取り組みに生かしたいとの希望が語ら
利活用への E の満足感が見受けられた。
れた。 以上の回答からは、ワークショップへの高い満足 や達成感が現れており、DST のワークショップが実 現する人の成長と技術習得の効果が明快に示された。
(4)作品公開における教育的効果 E の作品は、7 月中旬以降 12 月までの半年間に、 10 回程度の上映が行われ、作品に関連して E がスピー チする機会は 6 回にも上った。その際の聴衆の反応
(3)物語の成長とデジタル技術の利活用
には次のようなものがあった。
ワークショップ終了後の 7 月下旬、E はすでに完成
「とても深い感動をいただき、日常のおつきあいか
した作品を母に見せるため、より充実させようと、写
らだけでは得られない、コミュニケーションの深さ
真の選択をさらに吟味し、写真効果を加え、作品の
を得られた」 (50 代女性)、「5 分余りの作品でも、一
最後に母への感謝の言葉を文字で加えた。ファシリ
人の人間の人生や転機、歴史を感じ取ることは可能
テーターは E の希望に見合う仕上がりになるよう作
なのだという発見があった」 (30 代女性)、「初めてお
業を支援した。完成した作品を見せる場は、E の母が
会いした方の映像を見ることで、共感することが見
被爆体験を地元の小学生たちに語る講演会(8 月 6 日)
つけられた」(30 代男性)、「その人が作った文、そし
であった。上映環境は、作品が保存されているノー
てその人の声で語られることで、親近感を持つこと
トパソコンに会場のプロジェクターとスピーカーを
ができた」 (30 代女性)、 「インパクトが強く印象深かっ
接続してスクリーンに投影したもので、E の母は壇上
た」(20 代男性)、「 (印象に残ったこととして)被爆
で、子どもたちや教員らはフロアで、ともに視聴した。
者たちは差別されたことだ」(20 代女性)などであっ
E の後日談によると若いころの母の写真に歓声を上
た。これらは、複数の DST で完成した作品を上映し
げ、またナレーションにじっと聴き入る子どもたち
た後に得たアンケート回答のうち、E の作品に対する
と、その様子に満足する母の姿などを通して、E の満
記述の抜粋である。
足した様子が見受けられた。
上記の記述からは、作品への共感、共有、親近感、
8 新しい知識の獲得や学びが見て取れる。また、視聴
への弾圧も激化した。その後、国際社会の介入によ
後に原爆に関する漠然としたイメージが具体化した
る和平で内戦は終結したが、マヤの人たちから取り
ことで、 「放射能の影響は現在の広島ではどうなのか」
上げた土地の返還や差別や貧困の解消など、マヤの
という質問も生じた。映像を通して、興味や関心が
人たちが訴えていた課題の解決は進んでいない。若
湧いたことを示しており、学習効果が期待できる一
者は就学が就職に結びつかない状況も手伝って、将
面が表出している。
来への希望を描きにくい状況にある。近年は、自然 災害による農山村の破壊が繰り返され、家ごとまた
(5)メディアまたはジャーナリズム的効果
は村ごと流されるなどの被害が頻発している。
上映会の参加者数を合わせると、この半年間に約
今回 DST を実施した青年組織・CJC(コマラパ青
500 人が E の物語を視聴した。これによって、原爆の
年組織連合)は、このような状況が原因で堕落する
被害が今も続いている事実がごく身近にあることを
若者をつくらないことを目的に、8 つのグループが連
率直に表現し、広く社会に示すことができたといえ
携する文化活動組織である。村の意識的な保護者や
る。参加者のアンケート回答からは、人の半生に接
青年らによる草の根の活動で、資金が乏しいボラン
したことによる自己の覚醒や、作品への共感を通じ
タリー的な運営ではあるが、近代的な演劇やダンス
て、すでに知り合いであるかのような親近感を生じ
による表現活動、伝統や文化的な営み(言語や織物
た様子が表出した。また、映像から受け取った情報
など)の継承などに取り組んでいる。活動のうちの
をヒントに、興味や関心が生まれ、思考を深める機
一つに、15 年程続く内戦の記憶を記録した壁画事業
会も生じた。それは、個人的な事柄が映像を通じて
がある。これは、村の正面入口の左右に配された共
普遍的な課題として伝わったからだと推測する。聴
同墓地と小学校の壁に描かれたもので、子どもたち
衆が「共感」 「親近感」 「衝撃」 「感動」を示したことは、
は成長の過程で壁画の修復作業に関りながら地域史
社会に肯定的な変化をもたらすきざしの証左であり、
を学んでいく。現在の壁画には、内戦の記憶のほか
映像の特性としての記録性が有効に働いた側面が表
にマヤの英雄伝説や伝統的な暮らし、村の風物詩な
れた。この様子はある種のジャーナリズム的な効果
どのコンテンツが追加されている。これらは修復に
の可能性を示唆していると考える。
際して若者たちが企画したもので、作業を通じて民 族の伝統や文化を知り、それを描くことでそれらの
Ⅲ DST ワークショップの事例分析Ⅱ 精神的な成長と技術習得の効果 場所 サン・ファン・コマラパ村の青年組織(CJC) 内のホールと隣接する高校の教室 期日 2011 年 9 月 27 日∼ 28 日の 2 日間。それぞれ 9 時から 17 時。 形態 ホールと教室での集団活動および個人活動 内容 作業手順の説明、参考作品の上映、DST ワー クショップ 対象 パソコンやデジタルカメラを保有しない映像 編集経験のない 10-40 代の男女 9 人 手順 ストーリー・サークル→物語作成→物語の朗 読→物語修正と朗読練習後に録音→写真の選 択→パソコンでの映像編集→完成作品の上映 およびシェア 体制 ファシリテーター(筆者)、通訳者 A、通訳者 B、 コーディネーター(CJC スタッフ) 1 対象者の概況や背景 グアテマラは 1996 年までの約 30 年間、内戦が続 いた国である。内戦は格差是正などを求めた活動家 への政府の弾圧がゲリラを生み、激化したものだが、 その際、植民地支配からの独立後も社会的下層に追 いやられたままのマヤ系先住民たち(人口の 6 割以上)
継承にも役立っている。教育的効果など壁画事業へ の評価は高いが、制作には内容の検討や絵筆を使い こなす訓練など完成までに時間がかかる。また、絵 の具の改良で壁画が劣化しにくくなったことで修復 頻度が減り、壁画制作を通じた歴史の継承が低調傾 向にあることが課題だ。 そこで、絵筆をデジタルに置き換えて、デジタル 技術を用いた地域史を継承する方法論となりうるか を検討することも視野に加えて DST のワークショッ プを実施することとした。 2 ワークショップの経過 ワークショップのスケジュールは、1 日目は DST の説明と作品の鑑賞を行い、その後、自分の物語を つくり録音することを目標にした。2 日目は、映像編 集と完成作品の上映、シェアと振り返りを目標にし た(表Ⅲ-1)。参加者には、段階ごとの目標や注意点 を共有しながら進めるため、ワークショップのガイ ドブックを配布して、その都度目標を確認しながら 作業を進めた(図画Ⅲ-1)。 参加者たちのほとんどがパソコンやデジタルカメ ラを保有していないものの、ネットカフェの利用等 を通じてキーボード入力やマウス操作はできる。本 ワークショップ用いたパソコンは、村の保護者たち が海外から譲り受けた中古品(Windows XP)を用い
人の成長を促す参加型教育の方法論 表Ⅲ-1 デジタル・ストーリーテリング・ワーク ショップのプロセス 手順
作業
自己紹介
ファシリテータ、参加者とも に簡潔に
内容を決め る 【アイスブ レイク】
語る内容が決まっていない場 合、共通するテーマに沿って 語るか、自由にするかなどを 話し合う。
1 ストー リー・サー クル
ガ イ ド ブ ッ ク【5 つ の 原 則 】 に則り一人ずつ物語る内容を 話す。話者以外は傾聴する。 質問や感想を出し合う。
2 台本作成
語ったことに対する質問や感 想などを参考に、語りを文章 化する。
実際の様子・ サン・ファン・コ マラパ村
9
参加者達は、初めての映像編集ソフトの操作にイ ライラすることもなく取り組んでいたことが印象的 であった。作業の様子を観察するときは邪魔をしな いように静かにたたずみ、時には映像を観ながら相 談したり、教え合ったりしている場面が見受けられ た。また、完成した者や、休憩のため席を次の人に 受け渡した者は室外で時間を過ごすなどして、作業 に支障がないよう行動していた。 融通し合いながら目標にむけて落ち着いて協力し 合うという肯定的な状態は、DST という新しい経験、 はじめて出会ったファシリテーター、外国人とのセッ ションという要素や、そういった非日常性が影響し たのかもしれないが、筆者が日常見かける様子とは かけ離れた様子であった。例えば、大学の講義でも PC を使っているうちに遊びに使い出すなどして長時
3 朗読
4 録音
台本を読み上げて、わかりに くい点などをメンバーに聞き、 必要に応じて修正する。完成 したら、何度も朗読して読み やすい流れを確認する。 PC にイヤホンマイクをつな げ、録音ソフトなどを用いて、 完成台本(ナレーション)を 録音する。
間作業に集中できない若年が少なくないからだ。彼 らにとっては、パソコンを一日中使用できること、期 限内に完成させるという緊張感、または人格的な素 養や慣習・教義などの影響があるのかは推測しがた いが、ワークショップがテンポよく進行することに 大いに貢献したといえる。 映像編集は PC の障害等が影響して作業が遅れたた
5 画像のデジ タル化
内容に合わせてデジタル画像 スキャン/ダウン を用意する。 ロード/撮影
6 映像編集 1
PC の 映 像 編 集 ソ フ ト で ナ レーションと画像を組み合わ せる。タイトルとクレジット を加える。
7 映像編集 2
画像の特殊効果や切替効果や BGM を 必 要 に 応 じ て 加 え、 ビデオに変換して完成させる。
め、予定より 1 時間繰り下げて終了した。上映とシェ アは、それまでに完成した 6 作品で行い、未完成の 2 作品は終了後に仕上げることを相談して決めた。 (会 場まで遠方からやってきたメンバーの最終バスに間 に合わせるため) 完成作品の上映は、各人がスクリーンの脇に立ち、 自分の言葉で作品を紹介した。その際、 「新人監督が 初作品を聴衆に紹介するような気持ちで」とファシ
8 上映会& シェア
9 振り返り
完成作品を大スクリーンとス テレオスピーカーを用いて上 映し、参加者全員で視聴する。 作品紹介は本人が行う(映画 監督の舞台挨拶の気分で) 。 視聴後、各人が作品について 感想を述べる。 WS を通じて身についたこと 等を記録する
リテーターが促した。参加者は、ときには照れくさ そうに、しかし、多くの者が誇らしげに作品を紹介し、 作品の上映が終わるごとに、大きな拍手でひとりひ とりの完成をねぎらった。 また、上映とシェアの後に短く休憩して、ワーク ショップ全体の振り返りを行うことを当初予定した が、上述した理由のためにそれは叶わなかった。そ の代わり、シェアの場でワークショップの感想を述
た。事前に OS やアプリケーションソフトのバージョ
べ て も ら っ た。 振 り 返 り を 設 定 し た の は、 ワ ー ク
ン、デバイスをチェックしたにもかかわらず、ワー
ショップの成果を各自が自覚するとともに、DST を
クショップの過程で約半数が音声ボードの故障やウ
生かした取り組みにむけて想いを新たにするために
イルス感染により使用できなくなった。
も有効だと考えたからである。時間内に完成できな
そこで、動画編集には 1 台のパソコンを二人で交
かった 2 人は、終了後に編集を再開して 1 時間以内
互に使用し、手の空いている一人は、編集の様子を
には完成し、その作品上映の機会を別途設けること
観察することで自分の編集時の参考にしたり、編集
で終了した。
の手順を覚えたりして過ごすことを推奨した。また、 動画編集ソフトが起動しない、音声ボードが破損し
3 ワークショップの段階ごとに表出した事象の分析
ている、など動画編集に適さなかったパソコンを使
ストーリー・サークルの場面では、ファシリテー
用して、手書きの物語原稿をワープロソフトでデジ
ターが示した、この段階の目標やヒントを意識して
タル文書化する時間にも充てた。
(図画Ⅲ-1, Step3 のシート)、自分の作りたい物語の
10
図画Ⅲ-1 デジタル・ストーリーテリングのワークショップ参加者に配布した資料 (Center for Digital Storytelling 発行の『COOK BOOK』を参考に筆者作成/ 2011 年 9 月)
内容を語った。参加者は、自分の語りへの反応や質
すすんだりした様子が見受けられた。物語は、内戦
問を受けることで、足りなかった要素を見いだし、思
の影響が与えた苦難から得た示唆、学校に行けなかっ
いついたことはメモするなどして、伝えたい事柄を
た暮らしの先に見出した希望、暴力が蔓延する社会
明確にしていった。書きあがった物語は、ストーリー・
の根底にあるもの、自然環境や日々の暮らし、マヤ
サークルで語ったものよりも明快なものに進化し、物
の言語に関することなどであった。
語が成長した様が現れている。 画像を調達する作業は、イメージ通りの画像を探 すために自分の持ち物だけでなく、ダウンロードや
ワークショップを通じて印象に残ったことへの問 いに、参加者たちは、 「意外と簡単にできた」 「楽しかっ た」 「うれしかった」 「また違う内容で作ってみたい」
撮影、イラストを描くなどして用意することで、み
「パソコンの新しい使い方を知ることができた」 「完
なが活発になる様が見受けられた。このことから、目
成作品を見せたい」「今までよりも PC を使う機会が
的の画像を探す行為は創作力を活性化することが証
増えそう」など、認知や自己の開発に関する言葉が
左された。
発せられ、人の成長を示す要素が表れた。また、DST
完成作品の上映会では、これまで語らなかった出
を自分たちの活動に生かすことについては次のよう
来事や思いが表出したり、初対面の相手への理解が
な発言が生じた。たとえば、失われた言語の回復に
人の成長を促す参加型教育の方法論
11
取り組む者からは「自分たちの活動にも取り入れた
書いたと説明した。そして、持参した写真を物語に
い」 、自然環境破壊を描いた者からは「課題を伝える
活かせるかどうかを一緒に考えてほしい、とファシ
手法として取り組みたい」 、「地域のこと、他のまち
リテーターに要請した。そこで、それらの写真がいつ、
のことをもっと知りたくなった」など、地域や社会
誰が、そして何が映っているのかを彼と一緒に確認
の課題への取り組みに活用する意欲が示された。さ
しながら、物語(音声)と組み合わせる画像を選ん
らに、内戦の経験者(40 才)は「自己の経験を若者
でいった。そして、最後のシーンに現在の自分の姿
に語ることができてよかった」と、史実の継承に用
の画像を加えることを決め、急遽職場に移動して自
いることへの期待も示された。
分の仕事中の様子としての写真を撮影した。
なお、ストーリー・サークルの中で、内戦につい
写真撮影に同行した通訳 A によると、彼はまだ働
ての経験が語られた際、 「内戦の記憶や証言は多様で、
き始めたばかりであまり親しくないオーナーに対し、
経験していない若者はそれをどこまで信用すべきな
撮影の許可を得ようとワークショップに参加した理
のか判断がつかない状況がある」(26 才)との発言が
由を簡潔に説明したという。すぐに撮影は許可され、
あり、それに同調する様が見受けられた。世代間の
他の従業員が働いている脇で撮影が行われた。
情報共有が不足していることで、関係性が築けてい
その後すぐに会場に戻った彼は、持参した写真を
ないことを表出したようだ。人々が DST を用いるな
デジタル・スキャンし、音声と撮影した写真ととも
どして記録することで史実が提供されれば、議論が
に映像編集に進んだ。作業の遅れを取り戻すため、通
生じたとしても、やがて収斂され、継承につながる
訳 A は専属的に彼の編集を支援し、ファシリテーター
のではないかと感じた。このことは、 「意味のある出
は必要に応じて支援することで作品が完成した。彼
来事が物語として残されることで、経験的な学びと
は、1 日目の終了時においては、参加者の中でもっと
しての継承に役立つ」という CDS がめざす DST の
も進度が遅れていた。しかし、2 日目の午前中に作品
原理を表出した状態ともいえる。そのほかのコメン
の構成が明確になったとたんに作業が活発になり、8
トは項末に表(表Ⅲ-3、表Ⅲ-4)で示した通り、肯定
人のうちで最初に作品を仕上げたのだった。
的な発言や満足感が多く見受けられた。
以上のことから、DST の集団活動の効果として、 作業そのものは一人で行うものの、集合した環境で
4 人の成長を促す変化が顕著な事例 ワークショップ参加者における顕著な変化の例と して、以下 2 つについて述べる。16 歳のハイロは、
作業することで、助け合いまたは触発し合い、自発 性や積極性が発揮され、また集中力を磨くことにも つながることが明示された。
自己紹介のときには、イヤホンをつけたまま椅子の 背にもたれて座り、音楽を聴いているのか時に体を 揺らすなどしていた。ストーリー・サークルの時も、
5 ファシリテーター、アシスタントの関与と役割 本論では詳述しないが、ワークショップを成功に
隣に話しかけるなど集中している様子は見受けられ
導くための配慮や振る舞いは存在すると考える。ファ
なかった。自分が物語を話す場面でやっと、彼はイ
シリテーターは、物語のテーマや作業行程、各段階
ヤホンをはずした。彼の物語を聞いたメンバーの多
に生じた疑問などについて、合意の確認や共有を参
くがその内容にうなずき、完成した物語を朗読した
加者に求めるなどして進行した。その結果、各メン
際には、歓声が上がった。それ以降、彼の態度にも
バーが意識的に行動する態度が見受けられた。また、
変化がみられ、積極的になっていった。
物語の文章化や録音、編集においては、ファシリテー
映像編集においては、順番待ちの間に作業を観察
ターの関与は、伝えたいことが明確になるための助
して、自分の制作イメージを高め、順番がやってき
言に徹し、指導的な態度を取らなかったことによっ
た時には、的確にソフトを操作して、ほぼ一人で、メ
て、参加者の積極性が促されたと考える。
ンバー 8 人の中で最短の作業時間で作品を仕上げた。
アシスタントは CJC のスタッフが担い、休憩時の
シェアの場面では、ワークショップについて「意外
軽食や昼食の提供、会場の設営、参加者への技術的
と簡単だった」と感想を照れくさそうに述べて、上
な補助を行った。また、2 名の通訳者は、参加者とファ
映会を湧かせると同時に和ませた。ストーリー・サー
シリテーターとの通訳だけでなく、編集ソフトの使
クルや上映会を通じて最後まで話を聞いてもらえた
い方などについても、必要に応じてわかる範囲で支
という満足感が彼の態度を変化させたと考える。
援した。
もう一例は、前日に物語ができなかった 16 歳のダ
通訳者たちは DST の経験はなかったが、約半年前
ビンソンである。彼は、2 日目の朝、書きあげた物語
からファシリテーターとともに準備をすすめるうち
と写真を持参し、前日に書けなかったのは、自分の
に、その目的や手順、そして機材や運営体制などを
語りたい内容に関連する写真が手元にないため考え
共有した。さらに通訳者 A は、ファシリテーターか
がまとまらなかったが、帰宅後、思い直して物語を
ら CJC への説明とそれへの質疑応答の仲立ちをする
12 なかで、通訳者 B は他の地域でファシリテーターが
4 関連資料
行うデモンストレーションや説明会において通訳す る中で、DST を理解したことが功を奏し、彼女らは 計画どおりの進行に大きく貢献した。これらを通じ て、ワークショップの実施にはファシリテーターの ほかにアシスタントが必要であり、8 人の場合は 2-3 人のアシスタント体制ならば 2 日間のワークショッ プでの完成が可能だとの証左がなされた。 7 交流や教育・教養的コンテンツとして 作品の公開を希望したのは、最初に映像を完成し たダビンソン、最短で仕上げたハイロ、みんなの編 集の様子を最も積極的に観察していたヘレミアスで ある。彼らは、インターネットを通じた公開を希望 したため、主催団体 CJC のウェブで公開することを 検討することになった。また、日本の人たちにも見 てもらい感想が知りたい、とのことだったので、11 月に上映会を実施した。幸い参加者たちも感想やメッ セージを送りたいというので、コーディネーターに 託すかたちで送付した。 このワークショップで完成した 8 作品は、どれも 素直に自分の気持ちや考えを表現し、生い立ちや家 族、仲間への感情や、苦しみや悲しみ、自己の目標 や希望などが語られている。これらの物語を連続し て視聴すれば、グアテマラという国や彼らが暮らす 社会の表象をとらえることが可能だ。作品を連続さ せつつ、その地域や物語に関連する情報を短く補足 すれば、社会科の授業等で教材として視聴に役立て
図画Ⅲ-2 DST の概要説明のため配布した資料(A4 ヨコ 2 枚)
ることもできそうだ。 CJC は、本ワークショップの成果に満足しており、 今後は、今回参加したメンバーを中心に、この方法 論を取り入れた活動にむけた計画を立てるという。導 入した最初の年の目標は、従来の文化芸術等の活動 をより充実させるために DST を用いるという。 このワークショップの成果とは、これまで使った ことのないソフトウエアや、デジタル機器を用いた ことで、デジタル技術を習得する機会になったばか りでなく、自分にもできた、使いこなせたという自 信が、参加者たちに明るさや積極性をもたらすなど、 成長が促されたことである。 そして、2 日間を共に過ごしたことで、2 週間前に ダンス活動に参加したばかりのダビンソンは、既に 活動していたハイロとヘレミアスと親しくなること ができた。CJC のコーディネーターも彼への理解に つながったと述べるなど、関係性の構築につながっ た。今後も、DST を用いることで、関係性の構築や 技術の習得を通じて、人の成長や地域活動の充実に、 そして情報発信に役立てることを期待したい。
図画Ⅲ-3 DST 概要説明に際して上映した作品の画 像一部 『Twinkle』るんみ(東京)/『清 水への道』やすだしげき(京都)/『ある 人生の物語』エステファニー(グアテマラ)
人の成長を促す参加型教育の方法論
13
作り出しているんだ、と気づきました。 彼らを搾取し、貧困に追いやり、仕事の機会を与 えないからです。 子どもに寄り添うことなく、働くことも教えず、放 置しているのです。
図画Ⅲ-5
「ダビンソンの物語」ダビンソン/ 16 歳 こんにちは。僕はダビンソン・エデルマンです。 小さいころから勉強したいと思っていましたが、で きませんでした。 僕の家は貧しいからです。今までずっと勉強する 機会がありません。 自分の生活費を稼ぎ、家族を助けるために働かな ければならないからです。 僕には 20 才の兄と 14 才の妹がいます。僕は 16 才 です。 僕の仕事は、木製の織り機で帯を織ることです。
図画Ⅲ-6 図画Ⅲ-4 配布資料:ワークショップのガイドブック スペイン語翻訳版(A4 ヨコ 3 枚)
「内戦」ビクトル/ 40 歳 こんにちは。私はビクトルです。内戦が私の人生 にどんな問題を残したかについて、話します。
デジタル・ストーリー 8 作品の一部 物語の文章と朗読に組み合わせた写真の抜粋
私が 9 才の時、内戦が激しくなりました。 いつ殺されるかもわからないと、誰もが恐れおの のいていました。
「僕の国の暴力」ハイロ/ 16 歳 僕の名前はハイロです。これまで 16 年生きてくる 中で、この国の犯罪の問題に気がつきました。いつ も自分に問いかけました。 どうして罪を犯す人が絶えないのか?少しずつそ の答えが見えてきました。 仕事がないこと、貧困、そして最も残酷なのは子 どもが放置されることです。 人は自ら犯罪者になるわけではない、自分たちが
だれも平穏に暮らせませんでした。いつ家族が殺 されるとも知れなかったのです。 学校の校長先生も殺され、勉強を続けられません でした。学校が 3 年間閉鎖されたためです。 その後首都に移らなければならず、そこではまた 別の問題にぶつかりました。教育がないので仕事に 就けませんでした。 なぜ今も私たちの村に内戦の影響が残っているの かを、みんなにもわかって欲しいと思います。 家族の崩壊、アイデンティティの喪失、教育や仕
14 事がないことで社会から排除されるという問題があ
手だった若者たちが長時間集中していたことに驚い
ります。
ていた主催者の様子がそれを証左している 。
10)
人間として尊厳のある生活を送れるためには、努
物語を一人で考えるとき煮詰って先に進まないこ
力して勉強し、問題に立ち向かえるようにしなけれ
とがある。しかし、輪になって対等に並んだ状態で、
ばならないのです。
話者の物語に貢献するための発言が許されるという 制約によって行われるストーリー・サークルは、話 者が忘れていた意味のある事柄を思い出させるなど、 物語の要素や構成の形成に有効に働いている。話者 は、語った内容への感想や質問を受けることで認知 が促がされ、物語の内容も充実するなど、物語の成 長とともに人の成長を助けることにもつながる。 事例において、ワークショップ終盤の上映会とシェ アが適度な緊張感とリラックスした雰囲気の中でお こなわれたのは、ストーリー・サークルで示された 物語の成長を見ってきたメンバーがその完成を確か める場であり、制作者は完成した姿を披露する場に なるからである。それが、ワークショップに対する 図画Ⅲ-7
満足感にもつながっている。 以上のことから、ストーリー・サークルは、DST の中心的役割を果たしているとの確信を得た。 2 DST のワークショップの効果 ワークショップの事例分析を通じて、DST は人の 成長や関係性の構築、そしてデジタル技術の習得が 可能になるとの仮説が証左された。事例分析Ⅰでは 関係性の構築や上映による効果が、事例分析Ⅱでは 精神的な成長やデジタル技術を習得する様子が明確 に表出した。また、完成作品は、個人の経験や歴史 的な記録を映像化することで、社会的な課題の可視 化につながり、解決への方向づけにも役立つと展望
図画Ⅲ-8 ワークショップの評価シート、参加者アン ケート用紙
したが、このことは事例分析Ⅰにおいて表出した。 E が DST で制作した物語は、人づてに伝わり、生 活環境の安全やエネルギー問題を展望するイベント
Ⅳ 事例分析の考察および DST の応用可能性 1 ストーリー・サークルの効果∼傾聴、認知、満足 テレビやラジオ、新聞のほかインターネットなど 多様な情報媒体を通じた膨大な情報の中から、瞬間 的に情報を選別する現代の日常は、入手した情報の 消費に追われて咀嚼する余裕を失い、自己において 意味のある事柄や必要な情報を見逃しがちだ。 ストーリー・サークルは、輪になった全員が、話 者と聞き手の双方を体験するため、自分が語るのは 1 つだが、サークルが 5 人ならば 4 の、8 人ならば 7 の 話を聞かなければならない。話に耳を傾けているう ちに、話の内容への理解が深まり、自分なりの考え が浮かぶことにもつながる。このことは、現代人が 失いがちな必要な情報を能動的に獲得する訓練に役 立つと考える。また、自分とは違う考えを受容する ことにもつながる。長時間じっと話を聞くことが苦
会場で大衆にむけて公開することを要請された。さ らに、制作者と聴衆との対話という設定が加わった。 この経験によって、これまで自己の体験を伝えるこ とに積極的ではなかった E は、積極的に発言する意 思を持つように変化した。 以上のことから、DST は、相互に肯定的な共感や 理解を生じさせるだけでなく、前述した CDS の独自 の価値観と原理である 6 項目についても本事例で明 らかになった。筆者の言葉でそれを端的に言い換え れば、DST ワークショップは強力な物語の発見、傾 聴する力の開発、自己の知識や思考の世界を広げる、 創作力の回復、潜在的な能力の開発、そして社会的 存在としての関与という効果が生じることが明らか になった。 3 既存の映像制作との違い DST は未経験でも完成できる手法で、簡易なデジ
人の成長を促す参加型教育の方法論 表Ⅲ-2 ワークショップ観察記録 コマラパ DSTws 観察記録 時・所:9/27-28 コマラパ,ファシリテータ(FS):池田,参加者:9, 通訳 2,コーディネータ(CD):1,テーマ:今伝えたいこと 場面 時計 (ワーク) 儀式 自己紹 介
状況
9:05
時計と逆回りでスタッフから自己 紹介。やや緊張した雰囲気で始まっ たが、9 人目の H(16 歳)はイヤ ホンで音楽を聴いており、みなの 自己紹介は聞いていない様子。自 分の番を他の人に教えられて気づ いたほど。彼の様子への笑いも一 部生じた。
10 代男性の 多くが小声で 早口のため聞 き取りにくい。
DST の説明
9:10
説明用スライドをプロジェクタに 多くが真剣に 投射しながら FS が説明。(実質 15 聞いている。 分弱の説明)主催側の CD 退席。
参考上 映
9:36
ナレーションに西語を重ねる。上 映後作品背景説明。 1 作品目:静かに視聴。内 2 人は耳 打ちし合っている。 2 作品目:静かに視聴。内 2 人は同 じ状況。あくび。 3 作品目:前かがみになるなど真剣 に視聴。 感想:最年長 V が感想。参加者全 員がサン・ファンデル・オビスポ の訪問歴無。 CD:着席。次の年長 E が感想。そ れ以外は発言ない。 FS:るんみ作品に関連して FS の 視点での補足。 E:関連でコメント(アイデンティ ティについてなど)
9:37 9:48 10:00 10:03
10:05 10:08 10:13
CD から FS へのコメン ト:「いつも は長時間集中 できないこと が多いが、今 回はじっと座 り集中してい た。これだけ でもすごい。」
休憩 1
10:30 トルティーヤサンドとコーヒーを配布
語る内 容や テーマ 決め
10:45 輪になり語る内容を話し合う。FS 案外時間をか が参考作品を例に写真の用意に関 けずにきまっ するヒントを与える。次第に「そ た。 れぞれが語りたいことを作る」 「共 通テーマは設定しない」ことで合意。 15 分程で各自が作品の内容をまと める。その後一人ずつ発表するこ とを確認。物語の内容を記すメモ 用紙を配布。
ストーリー サークル (SC)
11:00 輪になって一人ずつ発表。ゲーム 冒頭よりは笑 感覚の順番決めにしたことで場に 顔がみられる 活気が出た。10 代男性の口調は変 わらず小声で早口。
台本作 成
11:30 聴き手の反応などを参考に台本を みなが集中し 手書きする。30 分以内に全員が終 て私語はない。 了(日本での経験に比べ早い)。
台本朗 読
12:00 台本を朗読。各物語へのコメントは ないが、頷きや真剣な面持ちで聞く 様子あり。最後に発表した H の作 品には拍手がわいた。FS は短いコ メントと内容の確認をする程度。
録音練 習
13:15 (昼食提供)食後の余った時間で朗 屋外で自由に 読練習。 過ごす
録音
14:00 自分で PC 録音する人、FS が録音 ノート PC ノ する人と分割。 (ホールと教室にて) イズ有。
映像編 集Ⅰ
15:30 編集ソフトの使用方法をスライド に実画面を映して説明。
映像編 9:00 集Ⅱ休 (2 日目) 憩・昼 休み含 む 上映会 準備
再録音が必要な人も。台本ができな E はこだわり かった人は台本仕上げから。PC8 台 が強く次に進 中不調続発。4 台を二人一台ずつ交 めない。 互に使用する。他の人の作業をみな がら編集方法を覚えるよう促す。
16:00 スタッフが上映環境設営中、ホッ トドックとコーヒーで参加者は休 憩
上映会
16:30 8 作品中の完成 6 作品で上映会。各 SC 時 よ り も 自が正面で作品紹介。H の作品は 明るい雰囲気。 特に盛り上がった。
シェア
17:00 各自の感想は別記。ワークショッ 仲間意識も生 プ全体については 2 日間集中した まれた様子。 ことへの感慨が多い。CD:国内間 交流に興味を示す。
ミニ上 映& シェア
17:10 未完成の 2 作品の映像仕上げに完 成した R もサポート。上映は教室 の PC で。完成した二人の達成感 が見られる。
観察者の 印象
9:00 マヤの先祖にワークショップの成 慣れた様子の (1 日目) 功を祈る 者も見られた
15
記録者:池田佳代
表Ⅲ-3 デジタル・ストーリーテリング作品の映像視 聴における効果 ○:示された ×:示されない △:どちらでもない
個人的効果
社会的効果
発言者記号(年齢):発言要旨
自覚
知識
共感
理解
V(40)「日本の作品は、文化が違う のでわかりにくいが興味深い」
×
○
△
△
V(40)「アンティグアの街は知って いるが、知らないことを知ることがで きた。コマラパに住んでいても、部分 的にしか知らないことが理解できた」
○
△
○
○
E(26)「『Twinkle』は制服など自分 の母校に似ていて懐かしく、共感でき た。母校は内戦で親を失った子どもの ための韓国系カトリック高校で、厳格 だが高い教育を与えている。アイデン ティティに気づけた。」
○
△
○
△
CJC スタッフ(22) 「一人ひとりが違 う感想を持ったことはよかった。違う 国の人の作品に反応して、自分の学校 △ のことを話し出したことは新しい発見。 言葉はわからなくても、写真で理解で きることもあると思った。」
○
○
○
(サン・ファン・コマラパ村でのワークショップ開始前の 参考作品上映時、カッコ内は年齢)
表Ⅲ-4 デ ジ タ ル・ ス ト ー リ ー テ リ ン グ の ワ ー ク ショップにおける効果 ○:示された ×:示されない △:どちらでもない ( )内はワークショップ中の観察に より認められた様子 発言者記号(年齢) :完成作品上映会 における発言 D(16)「よい作品ができた」
個人的効果
社会的効果
自覚
技術
共感
(○)
○
(△) (○)
○
(○) (△)
H(16) 「作るのは大事。やればできる。 ○ 案外簡単」
理解
S(17)「自分の気持ちを表現できて よかった」
○
(○) (△) (△)
Je(20)「気持ちを表現できてよかっ た。それを残すこと、知ってもらうこ とが大事。」
○
(○) (○) (○)
R(24)「作品をつくること、表現す ることは、大事」 「自分の置かれてい る現実を表現できた。 」「みんながこの ように表現できるとよいと思う。」
○
(○)
V(40)「進行役に感謝。新しいこと を学べてよかった。自分は最新の技術 から離れている環境(農業)にあるが、 ○ 自己の経験を若者に語ることができて 良かった」
○
△
△
(○) (△)
(同上)
16 タル機器を活用して映像を制作し、創作過程を通じ
話」によって世界を見つめ、 「それに向かって問いを
て制作者同士の交流や対話を促し、情報の共有や理
発し、さまざまな考えをおたがいに出しあいながら、
解につながる。共感や理解に至らなくても、ワーク
考察を深め、問題解決のための行動を模索する」そ
ショップという場を共有したことで、そこで得た情
れが「意識化」の実践だと解説している。
報に敏感になったり、関連した行動につながったり
人は文字を使う以前から、語りや絵や身振りで自
する可能性がある。一言でいうと、DST は簡単に、
分たちの現実を対象化してきた歴史の方がはるかに
短時間で伝わりやすい映像を完成させる方法論だと
長く、その中で対話を繰り返していた。その意味で、
いえる。
読み書きという行為は、表面的なものではなく、よ
それと比較して、既存のビデオ映像の制作は、企画、
り根源的な行為に根ざすものでなければならない、と
構成、撮影の期間が、ビデオカメラ、マイク、照明、
フレイレは述べている [ 前出 ]。CDS の代表・ランバー
三脚などの装備が、そして、それを操作する人手が
トが『Cook Book』の中で「書くこと」は難しいと言
必要だ。数分のビデオ映像を作るのに短くて 1 週間
及する理由はこのことにも通じていると推察する。
を要し、初めての場合は、機材やソフトを習得する 時間を要する。
また、フレイレは、絵や写真を題材に語るという 行為によって、自主性を奪われた環境の中で非人間
DST はこれら機材の確保も労力も不要で、静止画
化された状態の人たちの「人間性」を取り戻し、 「人
のみを用いる場合は、数日間という短い時間で効率
間化」に向かうことに成功した。これに関連させて、
よく完成に至る。画像を加工する機能や BGM を用い
DST をとらえてみると、読み書きよりもより根源的
れば、音声と静止画を用いたとしても豊かで印象的
な「語り」を用いることで、非人間化した日常から
な動画表現が可能だ
11)
。DST は、こういったところ
が既存の映像制作よりも優位にあるといえる。
人間化した日常を取り戻すことができると考える。 「人間化」とは、 「意識化」であり、CDS がめざす「肯 定的な変化」を生み出すことに連関している。
4 ワークショップの質と効果の保持∼方法論におけ る限界と課題 筆者は、DST ワークショップと上映会をそれぞれ
さらに、フレイレは、対話的行動理論のなかで、 「対 話とは人間の出会い」であり、 「世界を言葉でとらえ るために、人びとは対話する」と述べている [ 前出 ]。
10 回程度実施し、DST の実践について書かれた最新
人は対話を通じて世界を知り、関係性を構築する。対
の英語文献を調査するなかで、参加者たちがみごと
話が成立しなければ世界を知ることはできないこと
に作品に共感して饒舌に感想を述べ、対話が促され
や、人が自覚的になっていく様を 1960 年代の農村に
る場面に接したこと、Alexander[2011] らのように、
おける実践によって証明している。これらの点から、
DST の素晴らしさを「光り輝く・・・」と日本語で
DST のワークショップは、フレイレが述べているさ
は見かけないほど感動的に伝えている複数の著述に
まざまな理論に通底していることがわかる。
多少の違和感が生じ、DST ワークショップの負の側 面について関心が湧いた。
フレイレの理論は、主に第三世界における開発の 文脈で多用されるが、実は多くの先進国で注目され、
それは、セラピー効果を求めて自己開示をした人
翻訳を通じて共感が広がっている。彼の理論は、教
のケアができずに場が混乱したり、特定の概念を植
育機関における教育という枠を超えて、人間社会の
え付けたり反社会的な活動へ誘導するきっかけなど
営みのあらゆる場面において応用可能だと捉えられ
に用いられる可能性はないか、ということである。今
ている。
のところそういった可能性はないようだ。その理由
1979 年に同書の英語版が日本語訳書
12)
として出版
を端的に述べると、心理療法も思想的な誘導も、上
された当時、主に日本の識字運動家たちの注目を集
下関係の中で成立するものだが、DST はストーリー・
めたというが、それから 30 年を経た昨年の 2011 年、
サークルを通じて対等な関係が築かれるためにその
原書であるポルトガル語をもとにした『新訳被抑圧
ような状況は生じないのである。また、メンバーが
者の教育学』 (三砂ちづる訳)が出版された。訳者は
誠実な態度で臨む姿が自己の態度にも反映されるこ
医療分野の専門職として、開発援助の領域で母子保
とも影響していると推測する。
健分野に従事する中でフレイレの書と出会い、 「より よく生きるために言葉を紡いだひと」と彼を表して
5 DST の教育的効果 (1)教育学との接合と現代的意義
いる。その理論に接した訳者は「よりよき存在にな りたいとする人間の希求と、その方法としての対話
識字教育の祖として世界各地に赴き、理論化と実
の本質に魅かれずにはいられない」と翻訳を決意し、
践を繰り広げたパウロ・フレイレ [1979] は著書の中で、
10 年をかけてそれを成し遂げたという。フレイレの
「対話」が「意識化」を起こすと述べている。里見 [2008]
理論は、しばしばヘーゲルの理論など古典的な哲学
によれば、 「モノやコト、つまり現実を媒介にした対
論をも伴うが、そういった点からも普遍的であり、現
人の成長を促す参加型教育の方法論 代の教育、芸術、文化領域で、そして開発援助の領
17
ることができるであろう。
域においても注目され続けているのではないか。こ
そして、上映会とウェブ、どちらにおいても、視
のことは、フレイレの理論に通底または隣接した
覚や聴覚の障がい者に対する情報保障の観点で、文
DST も同様に普遍的な概念を保有しており、1990 年
字通訳や音声ガイドを付与して、両者の不足してい
代の開発から 20 年を経た現在において、現在の課題
る映像教材、または教養的なコンテンツとして提供
に有効に働く方法論であるといえる。
することを推奨したい。最近の DVD プレイヤーは 8 トラックまでの再生が可能であるため、この点を考
(2)DST の教育現場における導入可能性
慮したメディア制作を期待する。
教育現場が抱える課題の要因を「伝達型」教育に
また、公開と関連してインターネットを用いた交
あるとして、それからの脱却を指摘する著述は多く、
流や対話を行えば、遠く離れた地域の人との会話を
シチズンシップ教育という概念への注目もそれに繋
通じて、よく知らない文化や土地について、そこに
13)
によ
暮らす人から知識を得ることができる。社会科や外
る「教師からの一方的な語り」による模倣から脱却
国語や日本語などの言語学習にも向いている。さら
して、意識的な存在になることをめざすことを提唱
に、公開や共有における、著作権や肖像権の処理や
した。
管理、反響対応の実践として、情報管理を学ぶ題材
がっている。フレイレは、「銀行型教育概念」
DST をこの点に照らせば、教室では教員がファシ
に役立てることも有効だ。オーストラリア・クイー
リテーターを担うことで、生徒たちはワークショッ
ンズランド州立図書館が DST の公開において採用し
プの参加者として能動的な状態に導かれる。DST は、
たのはクリエイティブコモンズ・ライセンシング
教室での発言がないなど消極的だった生徒が活発に
という著作権の管理方法である。これは、E の作品の
なる、学校を休みがちだった生徒が毎日登校するよ
ように DST が成長するメディアであるという特性に
14)
うになるなど、目覚ましい変化が起きるという 。 6 ワークショップ実施上の提言 (1)ワークショップのテーマ
15)
照らしても有効であると選択したものである。 (3)デジタル技術を使いこなす訓練の機会として 本論の冒頭で DST の実施に用いる機器等を挙げた
CDS はワークショップのテーマについて、基本的
が、DST ワークショップから発展して、デジタル機
に自由としている。筆者が実施したワークショップ
器を用いた発表会の設営や運営を生徒たちが主体的
を通じて得た印象では、どのようなテーマであって
に実施する機会をつくれば、実践的な機器の運用と
も、自己の考えや想いが整理された内容で表現され
包括的なプレゼンテーション力を開発することが可
る場合が多く、どのようなテーマを設定しても、個
能だ。これらは、デジタル技術が人々の生活に浸透
人の経験や記憶、個別の出来事を記録することに繋
している現代において、社会的な活動場面において、
がっている。 この特性に注目すれば、地域史や埋もれた文化の 発掘など多くの人に共通する話題や出来事の伝承に 応用することも提唱したい。たとえば、地域の高齢 者と子どもたちが混在するストーリー・サークルを 通じて、先達の語りによって若者たちは現実味のあ る史実に接することができる。それは経験知の継承 を通じて人および社会の成長にもつながると考える。 (2)作品の公開と共有 DST の映像作品の公開は、ウェブ環境よりも、上 映会が有効だと考える。それは、大スクリーンとそ れにふさわしいスピーカーが設置された環境で、一 堂に会して集中して視聴することが、映像の視聴に はふさわしいと考えるからである。ウェブで提供す る場合は、多様な関心層からのアクセスを保証する ためのインターフェイスを構成し(視認性) 、動画を 公開する目的を明確に示すこと(内容性)も重視す べきである。簡素であってもその観点に沿ったウェ ブを通じて動画が提供されれば、望ましい理解を得
図Ⅳ-1 デジタル・ストーリーテリングのプロセスご との効果の概念図(作・池田佳代)
18 必要に応じてメディアを活用することで地域社会に 役立つ人材の輩出につながると考えるからである。
おわりに 「はじめに」で述べたメディアの重要な役割が果た される状態への肯定的な変化とは、メディア・リテ ラシーやメディア・ツールを使いこなすなどのメディ ア管理能力が増した状態ともいえる。ここで述べる メディア管理能力とは、映像制作の創作過程を通じ て、目的に合致した情報の「探索」 「収集」 「利用」 「統 合」 「評価」
16)
という行為を経験したことで、映像や
情報は加工されたものであるとの理解が生まれ、メ ディアへの接触が高度になることがその第一である。 また、メディアを活用して課題の解決につなげる力 をつけることがその第二である。本研究は、このよ うな状態を促す方法論を模索するうちに発見したと もいえる。いい方をかえると、課題解決力を育むこ とや社会づくりに役立つ人材育成において、メディ ア論だけでは不十分であるとの実感が、実践力を育 むことへのこだわりにむかっている。 日本の学校現場の多くはすでにパソコンが完備さ れ、デジタルカメラやその機能を持つ携帯機器は社 会一般に普及しているため、ワークショップの設定 は容易である。また、特別な訓練が不要なだけに指 導者の育成にもそれほど時間を要しないことから、 DST は導入のハードルがそれほど高くない方法論で ある。DST ワークショップの導入時期は、本論の事 例の成果によれば、小学校高学年時から開始するこ とは十分可能であり、内容や表現そして充実度合い が世代によって変化するという意味では、高齢世代 における実践も推奨する。 CDS では、2012 年 4 月以降、携帯電話型デジタル 端末 iPhone を用いたワークショップを開始した。 DST ワークショップそのものも新しい技術開発に 伴って成長している。日本においては、俳句のリズ ムによる DST の試みも始まっている。 本研究は、メディアに隣接する方法論の探求を教 育的効果に注目して取り組んだものであるが、DST は、地域社会の問題解決や公衆衛生における政策づ くりなど、多様な領域で導入されている方法論でも ある。筆者は今後、DST の効果を統合的に検証した うえでの政策学的なアプローチを求めてゆく必要を 実感している。
フリカ共和国)、アジア 1(日本)、中南米では 3 件(ジャ マイカ、ホンジュラス、ブラジル)、ヨーロッパは 13 件とウェブで掲載。 3)模範的事例は http://storycenter.org/cs_featured.html で参照。 4)慢性的な病や健康上の課題に直面する家族への対応に 組み込んだ DST(2002 年∼)http://www.acmi.net.au/ digitalstorytelling.aspx 5)アメリカ・カリフォルニア州と NY 州を拠点とする非 営利組織。若者、高齢者、女性、障害者や移民、退役 軍人の作品も多い。http://www.digiclub.org/ 6)C e n t r a l N e i g h b o r h o o d H o u s e h t t p : / / w w w. thestoryproject.ca/ 7)コロラド大学大学院デンバー修士号取得コース(1 年 間) 、 ド ミ ニ カ ン 大 学 カ リ フ ォ ル ニ ア 校、CEUs (Continuing Education Classes:セラピスト、社会福 祉、カウンセラー、看護師等の教育機関)などで DST の科目が単位認定され、CDS より証明書が発行される。 8)Haven, Kendall F. Story Proof: the Science behind the Starting Power of Story. Westport, CT:Libraries Unlimited, 2007 出 典: イ リ ノ イ 大 学 2011(www. prairienet.org) 9)Skype:インターネットを用いた通話サービス。文字に よるチャット機能のほか、動画と音声を同時に相互に 通信することができる。 10)概要説明と参考映像の上映、ストーリー・サークル終了 までの場面(表Ⅲ-2)のこと。 11)CDS や前出のデジタル・ハウスネットワークのウェブ などで表現力豊かな作品を公開している。 12)英語版パウロ・フレイレ著『被抑圧者の教育学』は 1968 年発行。 13)貯金型との訳出もある。教師が生徒に知識を貯め込む ことで教師は満足するが、生徒の自発性は促していな いことを表わしている。 14)平易に記述された DST ワークショップガイド。「Tell a Story, Become a Lifelong Learner」と検索すれば入手 可能(マイクロソフト社のウェブサイト)。 15)著作者の権利を保護する考え方と、文化的により発展 させるための共有や加工を認める考え方の中間的な Some rights reserved ライセンス。権利者は、自分の 考え応じて適切な組み合わせのライセンスを表示する。 詳細は http://creativecommons.jp/licenses/ で参照。 16)アイゼンバーグらの提唱する、情報を活用しながら問 題を解決していくために必要になる 6 大スキル:中山・ 石川・森・森田・鈴木・園田[2010]『シチズンシップ への教育』新曜社 , p103-4 原典:Eisenberg, M. B. & Berkowitz, R. E.(1990)Information Problem-Solving: Th e B i g S i x S k i l l s A p p r o a ch t o L i b r a r y a n d Information Skills Instructio+-n, Albex.
参考文献一覧 注
1)ワークショップについては、http://www.storycenter. org/schedule.html を参照した(2011 年 12 月時点)。 2)これまでに CDS を利用した機関は英語圏を中心に 200 を超え、アメリカ合衆国 168、カナダ 31、イギリス 4、オー ストラリア 1、ニュージーランド 1、アフリカ 4(南ア
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人の成長を促す参加型教育の方法論 Czarniawska, B [1998] A narrative approach to organization studies, Sage Publications. Hartley, W [2009] Story circle: digital storytelling around the world Wiley-Blackwell. Haven, K, F [2007] Story Proof: the Science behind the Starting Power of Story. Westport, CT:Libraries Unlimited. Klaebe, H,. Burgess, J [2008] Oral History and Digital Storytelling Review, Brisbane, State Library of Queensland. Lambert, J [2010] Digital Storytelling CookBook, Digital Diner Press. Margolis, M [2011] Believe Me:a storytelling manifesto for change-makers and innovators. Getstoried. Miller, L, C [2010] Make me a story: teaching writing through digital storytelling, Sten house Publishers. 今井康雄 [2004]『メディアの教育学「教育」再定義のため に』東京大学出版会 小川明子 [2009]「小さな物語の公開 , そして共有」, 小山・ 松浦編『非営利放送とは何か』, ミネルヴァ書房 . 小川明子 [2010]「地域社会とストーリーテリング - 虫の目か らつくりかえる世界」, 川島・松浦編『コミュニティメ ディアの未来』晃洋書房 . 小川明子 [2006]「『デジタル・ストーリーテリング』の可能 性 -BBC・Capture Wales を例に -」『社会情報学研究 Vol.10, No.2』日本社会情報学会 . 小川明子 [2009]「自分の物語を生きるために―ジェンダーを めぐるメディア実践の提案」, 愛知淑徳大学ジェンダー 女性学研究所編『ジェンダーの交差点―横断研究の試 み』彩流社 . 小川・小島・伊藤・稲葉 [2009]「多民族多文化共生のための ストーリーテリング実践 -08 年度コミュニティ・サービ スラーニングⅢ実践報告」 『愛知淑徳大学コミュニティ・ コラボレーション』第 2 号 . オスラー , スターキー [2009]『シティズンシップと教育 : 変 容する世界と市民性』清田 , 関訳 勁草書房 . 京都新聞社 [1972]『差別のない日めざして』雄渾社 . 小玉重夫 [2003]『シティズンシップの教育思想』現代書館 . 小林丈広 [2003]『都市下層の社会史』解放出版社 . こぺる編集部 [1991]『部落の過去・現在・そして…』阿吽社 . 坂元昂(監) , 文部科学省メディア教育開発センター(編) [2001]『教育メディア科学―メディア教育を科学する』 オーム社 . 佐々木宰 [2007]「メディア教育実践としての造形芸術と造形 表現」北海道教育大学紀要教育科学編第 57 巻第 2 号 , 北海道教育大学 . 佐藤寛 [2005]『援助とエンパワーメント : 能力開発と社会環 境変化の組み合わせ』日本貿易振興機構アジア経済研 究所 . 里見実 [2010]『パウロ・フレイレ「被抑圧者の教育学」を読 む』太郎次郎社エディタス . ジョン・フリードマン [1995]『市民・政府・NGO :「力の剥奪」 からエンパワーメントへ』斉藤 , 雨森監訳 新評論 . 杉之原寿一 [1993]『部落問題解決の到達段階 : 全国自治体の 実態調査結果』部落問題研究所 . 鈴木みどり [1997]『メディア・リテラシーを学ぶ人のために』 世界思想社 . デヴィッド・ボーム [2007]『ダイアローグ : 対立から共生へ、
19
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