SF Bay Area Residential Income Property Market Report (Japanese Version)

Page 1

[幻冬舎ゴールドオンライン]連載記事

不動産 海外不動産 国際資産分散 連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動

産投資の最新事情【第 1 回】

サンフランシスコ・ベイエリアの不 動産が注目される理由とは? 小川 謙治 2015.12.1 米国不動産イノベーション雇用スタートアップ


カリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリア、シリコンバレーには、 アップルコンピュータ、グーグル、フェイスブックといった超大企業に加 え、世界屈指の有名大学も集まっています。彼らが生み出す新しいビジネ スは多くの雇用を生み、それが地域の不動産価格に大きな影響を及ぼして います。本連載では、その最新事情などをお伝えします。

圧倒的な雇用を生み出す「イノベーション産業」

米国のここ数年にわたる底堅い経済成長は、「イノベーション産業」によって支 えられているものだといえます。

カリフォルニア大学バークレー校教授のエンリコ・モレッティ氏の実証によれば、 製造業の生む雇用が 1.5 倍なのに対して、イノベーション産業が生む雇用は 5 倍で あり、そのうちの 2 割がプロフェッショナル、3 割がサービス業となり、さらに所 得面では、製造業中心の都市にいる大卒よりもイノベーション産業中心の都市に いる高卒が上を行く、という結果を得ています。

ところで、イノベーション産業とは何でしょうか?


イノベーションとは、既存のものとは異なる新しい技術や考え方から、新たな価 値を生み、社会的に大きな変化を起こすことを指します。

20 世紀は自動車製造がイノベーション産業でした。同様に、コンピュータ製造業 も、導体産業もイノベーション産業でしたが、その雇用はそれぞれ 1980 年後半、 2000 年にピークを打っています。


モレッティ氏の著書『年収は住むところで決まる』(2014 年、プレジデント社) によれば、現在雇用を生んでいるイノベーション産業は、インターネット産業、 ソフトウエア産業、サイエンス系研究開発産業、創薬産業、ロボティクス、先端 医療機器、エレクトロニクスであり、また、エンターテイメント、工業デザイン、 マーケティング、金融の一部もそれに含まれると考えられています。




上記の「雇用を生む産業」が発生・集積している地域として、多くの方が思い浮 かべるのは、カリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリア、シリコンバ レーではないでしょうか。

イノベーション産業の「ハブ」としての機能が発生し、特定地域に集積していく 理由は、以下の3点に集約されます。

① 高学歴の人材確保 サンフランシスコ・ベイエリアには、スタンフォード大学、カリフォルニア 大学バークレー校、カリフォルニア大学サンフランシスコ医学校など、全米 でもトップレベル大学が集まり、優れた教授陣のもとで優秀な人材が輩出さ れています。そしてまた、全世界の高学歴な人材が当地を目指します。シリ コンバレーの人口の 30%はインド、中国を中心としたアジアからの移民が占 めています。

② ビジネスのエコシステム シリコンバレーのメンロパークには、「スタートアップ」に欠かせない資金 調達の役割を果たすベンチャーキャピタル群(代表的なものにセコイヤキャ ピタルがあります)が集積しています。また、弁護士、会計士、コンサル


ティングファームも、スタートアップに対するストックオプションを見返り として、起業家たちへのアドバイスに応じています。彼らは起業家たちに対 し、自分たちのオフィスから車で 20 分以内の場所での起業を勧めます。

③ 知識の伝播 創造性豊かな人たちが集まり、交流することで、お互いに学びあう機会が生 まれてイノベーションが活性化します。イノベーションとは、真空地帯に突 然発生するものではないのです。

集結する企業と人々に影響を受ける不動産需要

実際のところ、サンフランシスコ・ベイエリアには、全米でも屈指の時価総額を 持つ IT 企業――シリコンバレーを代表するアップル、グーグル、フェイススブッ クの3社、時価総額合計 1 兆 4764 億ドル=181 兆 6000 億円(2015 年 11 月 24 日終値 ベース)――などが数多く存在し、人・物・金を引き寄せるパワーを十分に発揮 しています。


これらのことから、サンフランシスコ・ベイエリアは、非常に活気があり、今後 もさらに有望な企業が集まるだけでなく、それら企業に関係する所得の高い居住 者の転入が見込まれる地域であるとがわかります。

不動産価格というものは、ほぼ需給関係で決まります。米国では、収益不動産は 物件から生まれるキャッシュフローの多寡が価格算出の尺度となっているので、 供給が限定的で需要が多いマーケットでは傾向として家賃が上昇し、価格も上が るのです。

住居系収益不動産の需要はそのマーケットから半径 30-60 分内で通勤可能な産業エ リアの質とボリュームで決まります。

したがって、サンフランシスコ・ベイエリア、ならびにシリコンバレー地区の不 動産は、米国でも有数な投資物件があるといえるでしょう。


不動産 海外不動産 国際資産分散 連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動

産投資の最新事情【第 2 回】

サンフランシスコ・ベイエリアの家 賃価格が上昇を続ける理由 小川 謙治 2015.12.15 米国不動産イノベーション産業雇用家賃


今回は、雇用成長率と家賃上昇率がどのように結びついているのか、また、 カリフォルニア州内でも、サンフランシスコ・ベイエリアの家賃上昇率の 伸び率が高い理由について、データをもとに見ていきます。

州内でもひときわ高い雇用成長率を見せるベイエリア

前回はサンフランシスコ・ベイエリアに多く集積しているイノベーション産業が、 一般的な製造業に比べ、多くの雇用を生み出していること、また、その乗数効果 について説明しました。今回は、実際の過去の具体的な数字を追ってみたいと思 います。

下の図表1は、2005 年を 100 としたときの、同じカリフォルニア州内の主要都市 の雇用数の増減を指数化にしたものです。下記にあげた南カリフォルニアの3大 都市圏である、アナハイム大都市圏(オレンジ郡)、ロサンゼルス大都市圏(ロ サンゼルス郡)、サンディエゴ大都市圏(サンディエゴ郡)の主な産業には、防 衛、航空、メディア、港湾事業、石油精製などがあります。最近は、IT 企業の進 出も目につくようになってきました。


一方、北カリフォルニアの 2 大都市圏である、サンフランシスコ大都市圏、サンノ ゼ大都市圏には、主な産業として、IT、バイオテック、ヘルスケアなどのイノベー ション産業のほか、金融、石油精製、化学、アパレルなどがあります。

グラフの中の記号は以下を意味します。

ANA=アナハイム大都市圏(オレンジ郡) LA=ロサンゼルス大都市圏(ロサンゼルス郡) SD=サンディエゴ大都市圏(サンディエゴ郡) SF=サンフランシスコ大都市圏 SJ=サンノゼ大都市圏

[図表1]カリフォルニア州南北都市の雇用指標


[図表2]2015 年 9 月単月の雇用増加数(単位:千人)と前年同月比の成長率


図表1のグラフからもわかるように、ベイエリア(サンフランシスコ、サンノ ゼ)での雇用成長率は+23%~+27%(2005 年比)、南カリフルニアの成長率+ 6%~+10%(2005 年比)と、背景にある産業構造の違いにより、雇用面で大きく 差が出ています。

雇用成長と家賃価格の上昇はやはり切り離せない要素

雇用成長はアパート賃貸マーケットに大きく影響を与えています。

下記に掲載した図表3のグラフは、上記に掲載した図表1のグラフと同じ時期 (2009 年 1 月から 2015 年 9 月、期間:6 年9ケ月)にわたっての、家賃上昇の伸 び率を示しています。図表1のグラフに見られるように、南カリフォルニアの年


平均上昇率は 4.2%、ベイエリアの同上昇は 9.7%となっています。図表4によれば、 過去2年間ではベイエリアのオークランド大都市圏(サンフランシスコ対岸)は、 サンフランシスコ大都市圏とサンノゼ大都市圏をも上回る上昇率を記録していま す。

[図表3]カリフォルニア州南北都市の家賃上昇率


[図表4]ベイエリアの家賃上昇率


ちなみに、下記の図表5は全米 TOP17 大都市圏の家賃上昇率のランキングです。 ベイエリアの4大都市圏はすべて上位にランキングされています。

[図表5]全米 TOP17 大都市圏の家賃上昇率ランキング


日本ではごく一部のサブマーケットでしか経験できない家賃上昇について、ピン と来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、米国不動産投資を語る場合、家賃 上昇がキャピタルゲインの一部をなしていると言えるでしょう。つまり、経済成 長率以上の家賃上昇があれば常に不動産価値が上昇し、さらに不動産価値上昇率 は常に家賃上昇率を上回ることになるのです。


参考資料 http://www.axiometrics.com/company Axiometrics Inc.


不動産 海外不動産 国際資産分散 連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動

産投資の最新事情【第 3 回】

サンフランシスコ・ベイエリアの家 賃上昇率と物件価格の関連性 小川 謙治 2016.1.3 米国不動産家賃キャピタルゲイン


今回は、サンフランシスコ・ベイエリアとロサンゼルス大都市圏の家賃上 昇率を比較しながら、どういった仕組みで家賃上昇がキャピタルゲインに つながっていくのかを検証します。

家賃上昇率が高くなるほど「不動産価値」も上がる

前回は、イノベーション産業による賃貸需要面(雇用数の伸び)について、賃貸 アパート不動産マーケット、特に家賃水準に与える影響を、南カリフォルニアと 比較しながら、過去の具体的な数値を見てみました。

今回は、どういう仕組みで家賃上昇がキャピタルゲインにつながっていくのかを 検証していきましょう。

過去3年間の家賃上昇率が約 10%となったサンフランシスコ・ベイエリア(サン フランシスコ、サンノゼ、オークランドの3大都市圏)における、典型的なケー スをご覧ください(実例1)。比較対象として、今年 6%上昇となったロサンゼル ス大都市圏も加えます(実例2)。


ここでは説明を簡単にするために、不動産収入に関わる税金は考えないことにし ます。ちなみに、アメリカの今年の全国平均家賃上昇率は 4.9%です。

【実例1】サンフランシスコ・ベイエリア(2012~15 年 家賃上昇率:10%)

家賃 100 → 110 (+10%増加) 経費 40 → 42 (+4%増加) 純利益 60 → 68 (+13%増加)・・・減価償却前利益を前提 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―― 物件価格 1,600 → 1,813 (+13%増加)・・・ネット利回り 3.75%不変の想定 1年間のリターン 17.6%=(値上がり分 213+年間純利益 68)/投資額 1,600

【実例2】ロサンゼルス大都市圏(2015 年 家賃上昇率:6%)

家賃 100 → 106 (+6%増加) 経費

40 →

純利益 60 →

41 (+3%増加) 65 (+8%増加)・・・減価償却前利益を前提

―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―― 物件価格 1,263 → 1,368 (+8%増加)・・・ネット利回り 4.75%不変の想定


1年間のリターン 13.5%=(値上がり分 105+年間純利益 65)/投資額 1,263

ここでお気づきかと思いますが、家賃上昇率が高いサブマーケットほど、純利 益・不動産価値の増加率は高まっています。なぜなら、一般的に経費は人件費や 経済成長率に連動する項目が多いためです。

そのほかの要因としては、唯一プロパティマネジメント費用が「家賃×パーセン テージ」と連動しています。米国では経費に占める固定資産税の割合が 60~70% 程度と大きく、物価上昇率にリンクしているのが現実です。

加えて言えば、そのようなサブマーケットでは、現実的にネット利回り率(俗に いうキャップレート)は圧縮が続いています。サンフランシスコ・ベイエリアの ネット利回り率は確実に低下しているのです。

いみじくもトマ・ピケティ教授が『21 世紀の資本』(2014 年、みすず書房)で、 過去 300 年間のデータから「資本利益率>経済成長率」の方程式を実証ましたが、 不動産投資においては、すでに損益の段階で経費分析すればこの方程式が実証さ れてしまいます。いわゆる「レバレッジ効果」であると言えます。


現金投資なら家賃上昇でキャピタルゲインを得やすい

失われた 20 年を経験している日本のほとんどのサブマーケットでは、家賃の伸び が期待できません。経費の伸びもゼロではありますが、純利益の伸びも期待でき ません(実例3)。

【実例3】日本のサブマーケット(家賃上昇率:0%)

家賃 100 → 100 (+0%増加) 経費 40 → 40 (+ 0%増加) 純利益 0 → 60 (+ 0%増加)・・・減価償却前利益を前提 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―― 物件価格 1,200 → 1,200 (+0%増加)・・・ネット利回り 5.0%不変の想定 1年間のリターン 5.0%=(値上がり分 0+年間純利益 60)/投資額 1,200

この場合、金融緩和期待で起こるであろうネット利回り率の圧縮と金融機関から の借入レバレッジでキャピタルゲインを極大化するか、もしくは、何らかの理由 で低位にある案件に付加価値をつける「バリュー投資」の道を探るしかありませ ん。


高い借入比率を前提とした投資家は、借入コストを賄うために高いネット利回り を求める傾向がありますが(高いネット利回りには、あまり家賃が上昇しないと いったバックグランドがあり、リスク見合いであることを忘れないようにしま しょう)、オール現金での投資を想定した場合、高い家賃上昇によって、安全か つ効率良くキャピタルゲインを得やすくなることは、上記の実例からも証明され るといえます。 不動産 海外不動産 国際資産分散 連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動

産投資の最新事情【第 4 回】

サンフランシスコ・ベイエリアの新 規建築認可数と家賃の関係性 小川 謙治 2016.1.15 米国不動産環境規制雇用賃貸


雇用の増加などによって賃貸住宅の需要が高まるサンフランシスコ・ベイ エリアですが、それに対する供給の状況はどうなっているのでしょうか。 今回は、サンフランシスコの州法や規制を踏まえつつ、この地域の賃貸住 宅供給の展望について見ていきます。

増える賃貸住宅需要への供給が追いつかない状況

前回は、どういう仕組みで家賃上昇がキャピタルゲインへつながっていくかを見 ていきました。つまり、イノベーション産業が生む乗数効果的な雇用が賃貸住宅


(アパート)の需要につながり、家賃上昇によるキャピタルゲインを得やすいと いう構図が、サンフランシスコ・ベイエリアに存在することを述べました。

あらためて申し上げますが、不動産の価格は需要と供給で決まります。値段の上 昇は、賃貸住宅(アパート)に対する強い需要と限られた供給により、引き起こ されます。それでは、今回は賃貸住宅(アパート)の供給面から数値の検証を 行ってみましょう。

下記図表は、全米主要大都市圏の過去4年間における年ごとの賃貸住宅(アパー ト)建築許可戸数と雇用増加数・増加率をあらわしています。

[図表1]全米主要大都市圏の賃貸アパート建築許可戸数と雇用増加数・増加率


サンフランシスコ・ベイエリア4大都市圏(サンフランシスコ、サンノゼ、オー クランド、サクラメント)には、次のような特徴が読み取れます。

1.サンフランシスコ・ベイエリアでの雇用増加(4 年で+92 2000 人)は、全米雇用増加数(4 年で+1008


2000 人)の約 9%を占めるが、ここ数年増加傾向にあり、昨年は約 15%を占めるに 至った。

2.一方、この 4 年間におけるサンフランシスコ・ベイエリアで新規建築が許可さ れた賃貸住宅(アパート)総戸数は 5 1782 戸に対して、全米で新規建築が許可された賃貸住宅(アパート)総戸数は 139 438 戸となっており、サンフランシスコ・ベイエリアでの許認可件数は米国全体の 3.7%を占めるに過ぎない。 [補足]2015 年第 3 四半期でのサンフランシスコとサンノゼ大都市圏での戸建て中 間価格は 920 ~107 5000 ドルと高額であり、大半の住民は賃貸住宅(アパート)暮らしをする傾向にあ る。

3.いわゆる過去 4 年間における需給レシオ(=雇用増加数/新規許可件数)は、 サンフランシスコ・ベイエリアが新規許可1戸あたり 17.8 人に対して、全米平均 が 7.4 人となっている。ちなみに、ロサンゼルスが 9.1 人、ダラスが 5.0 人、ニュー ヨークシティが 4.2 人となっている。


以上のことからわかるように、カリフォルニア州、特にサンフランシスコ・ベイ エリアにおける許認可件数が極めて少なく、増える需要に供給が追い付いていな いことがわかります。

一般的にカリフォルニア州、特にサンフランシスコ・ベイエリアでは、開発にか かわる規制が厳しいうえに、開発余地のある土地が限定的となっている状態が何 十年も継続しています。

限定的な供給が「家賃価格と稼働率の上昇」を後押し

カリフォルニア州政府は米国連邦政府および他州に比べ、リベラル(革新的)と 言われており、特に環境問題に対する規制強化(2020 年までに自動車による温室 効果ガス排出を 1990 年レベルまでに削減するという州法を 2006 年に規定)をいち 早く取り入れた州として有名です。

カリフォルニア州政府の厳しい環境規制姿勢による影響は自動車メーカーに対す る排気ガス規制強化のみに留まらず、過去から住宅開発の許可件数に大きく影響 を与えております。公共交通機関の整備が途上にある加州(いわゆる車社会)で は公共交通機関の開発投資を進める一方、開発戸数が増えれば当然保有自動車数


も増加するものと考え、BART(東京でいうならメトロ地下鉄網)・Caltrain・バス 等の公共交通機関で輸送できる大都市中心部駅周辺のみで新規(および再)開発 による新規供給増加は限定されているのが現状です。

2013 年6月にサンフランシスコ・ベイエリアの全市町村郡政府で採用した「ベイ エリア計画 2040」では、加速度的に集積するイノベーション産業群とは裏腹に、 2013 年から 2040 年までの公共交通機関投資および土地利用の長期計画を、都市ご と、地域ごとに綿密な規定をし、それに沿った形での開発許可を粛々と実行して います。


[図表2]サンフランシスコ・ベイエリア周辺の鉄道網

つまり、サンフランシスコ・ベイエリアの賃貸住宅(アパート)の新規供給が限 定的であるがために、サンフランシスコ・ベイエリアの平均稼働率をこの数年 95


~97%に高止まりさせ、家賃上昇率が平均約 10%という記録的な数字を維持してい る背景の一端を担っているわけです。


不動産 海外不動産 国際資産分散 連載集積するイノベーション産業と頭脳――米国シリコンバレー不動

産投資の最新事情【第 5 回】

SF ベイエリアの開発を左右する 「ベイエリア計画 2040」とは? 小川 謙治 2016.2.1 米国不動産ベイエリア計画 2040


今回は、サンフランシスコ・ベイエリアの環境対策で、今後の不動産市場 にも大きな影響を及ぼす「ベイエリア計画 2040」の詳細と、そこから読み 取れる将来の展望について見ていきます。

大量輸送可能な公共交通機関近辺で新規・再開発を限定 前回はサンフランシスコ・ベイエリアにおける賃貸住宅(アパート)について、 供給面から見た数値の検証と、そのバックグランドについて解説しました。今回 は、サンフランシスコ・ベイエリアの環境対策として敷かれている厳しい不動産 開発規制の根幹、「ベイエリア計画 2040」を掘り下げてみたいと思います。

「ベイエリア計画 2040」は、サンフランシスコ・ベイエリアにおいて、持続可能 なコミュニティと 2008 年地球温暖化防止条例を実現化したもので、温室効果ガス 削減を目的とした土地利用・交通・住宅開発を統合したものです。

なお、2013 年 7 月、この計画は全市町村郡政府によって採択されています。

下記の図表 1 は、2010 年に行われた国勢調査のデータと、「ベイエリア計画 2040」にある予想値は UC バークレイ校等の調査機関が行った調査の数値です。


[図表1]「ベイエリア計画 2040」の数値の概略



※サンフランシスコ・ベイエリアの周辺地図

「ベイエリア計画 2040」の特徴として、以下のことが読み取れます。


① サンフランシスコ、オークランド、サンノゼの 3 大都市内を中心に PDA(優先開発地区)を指定し、BART 等の公共交通機関の大量輸送が可能 な場所に、アパートを中心とした住戸増加を伴う新規および再開発を限定す ることにした。 ※シリコンバレーはこのおかげで、一般的な大都市で見られる、ダウンタウ ンへの通勤とダウンタウンからの帰宅にともなう交通渋滞が起きていない。 朝の I-280 号線は、サンノゼダウンタウンからクパチーノ・マウンテンビュー への間で、夕方は逆方向で交通渋滞となっている。

[図表 2]地区に見る戸建てとアパートの許認可の比較

青色は戸建てよりもアパートの許認可が多い地区であり、オレンジ色はアパートよりも戸建ての許認可が 多い地区である。


② その結果、住戸増加分の 80%、および雇用増加分の 66%を PDA で吸収す ることになった。計画では、3 大都市内で住戸増加分の 14%、および、雇用 増加分の 17%を吸収する。残りは 3 大都市周辺の中小規模都市で賄う。

③ 一方、マリン・ナパ・ソノマ・ソラノ郡のベイエリア北部地区では、オー プンスペースおよび農地を確保する観点から、極力開発を抑制することにし た。

④ 計画では、市町村郡政府等による公共投資 600 億米ドル(約 7 兆円)は、 ベイエリア南部地区における公共交通機関の整備を中心に割り当てられる。

IT 企業の拡張志向で SF・B.A 全体がシリコンバレー化

改めて全米におけるサンフランシスコ・ベイエリアの経済規模の位置づけと成長 状況を数値で確認してみましょう。全米大都市圏 GDP に関わる TOP20 ランキング は、下記図表 3 の通りとなっています。


下記統計資料ではサンフランシスコ・オークランド都市圏とサンノゼ都市圏が分 割表示されていますので、合算するとサンフランシスコ・ベイエリアの経済規模 はロサンゼルスに次いで実質第 3 位になります。

[図表3]全米大都市圏経済規模(GDP)ランキングとその推移


単位は百万米ドル、円は 1 ドル 115 円換算。 地名のあとの(%)は 2009 年からの伸び率を表す。

サンノゼ都市圏(従来「シリコンバレー」と呼ばれる地域、〈サンフランシスコ


は含まない〉というのが一般的な定義ですが)の面積は 4800 平方 km と、東京都 と神奈川県を合わせた程度の広さですが、GDP については過去 5 年間の伸び率で 43%と極めて高い成長を示しています。

これは以前の連載でもご紹介したとおり、イノベーションション産業の乗数効果 によるものであると考えられます。それが今や IT 企業の拡張志向が、従来シリコ ンバレーではなかったサンフランシスコ・オークランドまでに及んでおり、サン フランシスコ・ベイエリア全体がシリコンバレー化してきていると言えるでしょ う。

繰り返しますが、この背景には、自動車から排出される二酸化炭素を削減のため、 居住用不動産の供給が開発規制上極めて限定的であることが大きな要因となって いるということが「ベイエリア計画 2040」から読み取れます。

人口規模(2010 年米国国勢調査)でいうと、

① ニューヨーク都市圏(2310 万人〔内アジア系 100 万人〕、面積 1 7405k㎡) ② ロサンゼルス都市圏(1790 万人〔内アジア系 60 万人〕、8 7490k㎡)


③ シカゴ都市圏(980 万人、5498 平方 km) ④ サンフランシスコ・ベイエリア都市圏(720 万人〔内アジア系 50 万人〕、1 8808k㎡)

の順となっています。

ちなみに、サンフランシスコ・ベイエリアの人口動態実績(2010 年)および予測 は、「ベイエリア 2040」によると、

① 白人:45%(→31%) ② ヒスパニック系:23%(→35%) ③ アジア系:21%(→24%※) ④ アフリカ系:6%(→5%)

となっています(※2010 年国勢調査によれば、米国におけるアジア系人口は

1470 万人であり、全体の 4.7%にすぎない)。

アジア系の人口が多い地域は、

① ニューヨーク:104 万人


② サンフランシスコ・ベイエリア:57 万人(サンノゼ:30 万+サンフラン シスコ:27 万) ③ ロサンゼルス:43 万人 ④ サンディエゴ:21

⑤ ホノルル:18

など。

アジア系の人口比率の高い地域は、

① ホノルル:54.8% ② デイリーシティ(サンフランシスコ・ベイエリア):55.6% ③ フリーモント(サンフランシスコ・ベイエリア):50.6% ④ サニーベール(サンフランシスコ・ベイエリア):40.6% ⑤ アーバイン(LA 郊外オレンジ郡):39.2% ⑥ サンタクララ(サンフランシスコ・ベイエリア):37.7%

など、カリフォルニア州、特にシリコンバレー周辺で高率になっています。


また、日本の都道府県別 GDP の TOP5 規模は、以下の通りです。

平成 24 年度の都道府県別 GDP の TOP5(平成 27 年 6 月内閣府発表) ① 東京都 92 兆円 ② 大阪府 37 兆円 ③ 愛知県 34 兆円 ④ 神奈川県 30 兆円 ⑤ 埼玉県 20 兆円


Turn static files into dynamic content formats.

Create a flipbook
Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.