松井 恵 作品集
Megumi Matsui Works
国立天文台のための計画 ドローイング 2007
2007
Megumi Matsui Works
国立天文台のための計画
2007 年の 7 月から 12 月にかけて制作した、多摩美術大学美術学部での卒業制作です。
模型写真
再生計画のためのドローイング スチレンペーパー・アクリル絵具・鉛筆 800×800 2007
失われかけた必然性
国立天文台の歴史は江戸時代後期の浅草天文台に始まり、今日まで日本の天文学の中心を担ってきた。 大正13年、当時は緑豊かだった現在の三鷹市に移転したが、徐々に市街地化した周辺都市の過剰な夜間照明の影響に より、近年、観測施設としての役目をほぼなくしてしまった。
つまり、現在この場所に天文台が存在するる必然性は失われかけている。 ところが自然が多く残る広大な敷地内には、戦火を免れた貴重な建築物や資料が数多く残されている。 そこで、今もう一度歴史の宝庫としての側面に光を当て、この場所を伝え続けるべく新たな空間的価値を与え、残され てゆくにふさわしい場所へと変化させるための計画である。
動線のデザインと、資料館の設計
この計画で重要なのは、まず動線計画である。 長年、観測者などの天文台に勤める人間が単純に移動の目的で使ってきた道を、いかにして外部から来る来訪者たちにとって良い散策 路にしていけるかを考えた。 ただ最短距離を結ぶのではなく、ゆっくりと歩きながら見渡す風景に気を配っている新しい動線は、敷地内に残る 5 つの古い観測用建 物をそのままの場所に残し、それらと新しく計画した資料館を巡るための散策路だ。
天文台の門をくぐり、並木道をまっすぐ歩いていくと正面に見えるのが資料館の地上部分であり、そのまま進めば地下へと降りる大階 段にたどり着く。 資料館内で展示物をゆっくり鑑賞した後、再び地上に出た来訪者は、散策路を進みながら天文台の生き証人である観測用の建物たちに 出会ってゆく。
アインシュタイン塔
レプソルド子午儀室
明治の敷地内の様子。まだ建物は少なく、動線も簡潔
大赤道儀室
大赤道儀室内にある望遠鏡
現在の地図より (赤枠内が計画対象範囲)
模型 サイズ:1100×1300 2007
平面図
1 : 500
資料館、地上階 野外劇場
レプソルド子午儀室
EV
常設展示室 レストラン EV
広場
地下へと続く階段
地下へと続くスロープ 散策路
搬入用 EV
平面図 資料館、地下階
図書室
企画展示室 講義室
EV
常設展示室
第一赤道儀室へと続く通路
研究室
研究室
ホワイエ EV
企画展示室
渡り廊下
地上へと続く階段
エントランス
散策路へと続くスロープ
収蔵庫 搬入用 EV
シアター
ろ
配置計画図
新たに設計する資料館は現 在空き地になっている場所 自動光電子午環
に計画した。 その他の既存の建築物は全 て、元々あった場所のまま である。
ゴーチェ子午環
レプソルド子午儀室 アインシュタイン塔 大赤道儀室
に
は
資料館・広場
日時計広場
第一赤道儀室
正門
い
断面図 自動光電子午環
い-ろ
資料館 レプソルド子午儀室
は-に
大赤道儀室 資料館
ゴーチェ子午環
アインシュタイン塔
資料館の地下部分
資料館の地上部分
2009
Megumi Matsui Works
日記の形
2009 年の 3 月から 12 月にかけて制作した、多摩美術大学大学院での修了制作です。
日記を読み返すことと、建築の形をイメージすること
記憶はそれだけでは捉えどころがなく、時間が経てばたつほど、その殆どが無意識の中に流れ去ってしまうも のです。私は日記という形式を通して言葉というかたちでそれを残そうとしてきました。 その言葉一つ一つに愛着がある私は、度々日記を読み返します。 読み返す時、その言葉が持つ過去の記憶に、その日見たものや考えたことを自然とオーバーラップさせている ことに気がつきます。それは時間によって寸断された過去を現在の自分が発見する時、つまり言葉になった記 憶と、現時点の私の視線が出会った時です。その出会いは決して優しいものではなく、ズレがあり、羞恥心や 後悔に苛まれることもありますが、同時に様々なイメージが湧き起こり、今の私に対して新しい行方への道し るべとなってくれます。 そのイメージは空間的なものであることがしばしばあります。 そうしたイメージを形にすることで、改めて今までの自分を今後の自分に自己紹介するつもりで制作に取り組 みました。 私的な表現としての建築というものが存在し得ない、という疑念もあります。しかし私は芸術を学ぶ大学で過 ごしてきた6年間を土台にして、疑念と逆の立場に立って模索しています。 建築表現は意味を持つことが出来、そのしつらえは人の記憶の中に入り込み、経験したことのない視点へと誘 うことが出来ます。特に建築のそういった側面に近づくために、この制作を一年間行いました。
日記の家のためのドローイング 2009
1 はじめの 4 部作
日記は、誰でも簡単に、すぐに実感できる自分の日々の積み重ねです。 それは 100 日書けば 100 枚の紙の厚さになり、物理的に実感できる自分の財産になります。 それは心地よい満足感をもたらします。 日記を書くことは、もしかすると記憶の引き出しにラベルを貼るようなことでしょうか。 ラベルに記す言葉は簡潔でなくてはなりませんから、そこで日記の元になった出来事にイメージが付け加えられた り事実が取捨選択されたりします。 出来事がおこる→日記に記す→読み返す→読み返す… という行為の変遷の中で、記憶の引き出しのラベルは繰り返し上書きされていきます。 元あったラベルは消されたり、すこし消え残ったりします。 こうした、記憶にまつわる事象と、建築は結びついている。と私は断言します。 建築のしつらえは、記憶の中に断片的に入り込み、思い出すたびに変化し、時には私の記憶を知らない視点からと らえる役目をも果たします。 建築を考え、空間の形を考える時には、無意識のうちに胎児期や幼少期の空間体験を求めるところがありますし、 居心地のよい空間には必ず心地よい記憶がすうっとあらわれる一瞬があります。空間と、記憶、イメージ、断片。 人間の側に大昔から共にあったものです。
まず始めに、自分が過去に書きためてきた日記の中から 1 つの文章を選びとり、それに対してスケッチやメモを かきとめ、形、空間、建築にしていくことを考えました。
制作の手順 過去の日記の中から一日に一文、その日気になったものを抜き出し、それを読み返しながら、1〜2 ヵ月の間ドロー イングやメモを重ねていき、1つの形態にする。それを 4 度行う。
1
2
山、湖、太陽、きらいだきらいだ。 2003 年 9 月 15 日 制作期間 2009 年 3 月 28 日 から 2009 年 4 月 7 日
久々に訪ねた部屋は、もうあの頃とは違う 2008 年 4 月 22 日 制作期間 2009 年 4 月 14 日 から 2009 年 4 月 28 日
3
4
静かな、覇気なんてものとは無縁の世界。とんぼの話をしながら、曲がり角を曲がる 2007 年 7 月 10 日 制作期間 2009 年 5 月 4 日 から 2009 年 6 月 23 日
蓋が少し開いたのだろう、もう手遅れのようで鮮やかな青い液体がするすると、静かに床に広がっていった。
倒れた缶、広がる青い色、他人の目。それを気づかずに踏んでしまった男。それをみている私。 2009 年 4 月 15 日 制作期間 2009 年 6 月 4 日 から 2009 年 7 月 13 日
2 日記の家
日記の家、と題したこの作品は、はじめから日記と住宅の関係を考えることを目的として制作したものです。 毎日生活している場であるからこそ、人は自らが住まう家について、あらためてその全体像を意識することは殆ど 無いと言っていいのではないかと思いました。 それよりもむしろ、家の中の自分が気に入っているスペースからの眺めや、ベッドに横たわったときにみえる天井、 カーテンが風に揺らめく様子や、小さな壁のシミ。そんなものの集合で自分の家を認識しているのだと思います。 さらにそれらが見えていても、目に映っているもののことよりもそのときの自分の悩み事や、嬉しかったことなど、 全く別のことを考えながら。 そうした考えから、一見住宅とはなんの関係もない私の過去の日記から 20 の文章を抜き出し、毎日ひとつずつド ローイングを描き、最後にそのドローイングから 20 の模型パーツを作って脈絡無く隣り合うパーツをつなげ、一 つの架空の住宅模型を作りました。 これは新しい視点から見直した私の家かも知れません。
制作の手順 過去の日記の中から一日に一文、その日気になったものを抜き出し、その日のうちに小さなドローイングを制作す ることを 20 日間行った後、ドローイングから形態を起こしていき、20 のパーツからなる1つの家を制作する。
日記の文章とドローイング
2007.3.6
2009.8.24
2007.4.5
2009.8.19
もっともっと遠くまで逃 げないと、追いかけてく る落とし穴。
この家に住み始めて 3 日 が経った。もっともっと 遠くまで逃げないと、追 いかけてくる落とし穴。
決して悟られないように 笑って少しづつ麻痺して いって主観がずれて行く のを見てる。
この家はよくわからな い。 決して悟られないように 笑って少しづつ麻痺して いって主観がずれて行く のを見てる。
2007.6.14
2009.8.20
2007.6.23
2009.8.13
見渡す風景はいつも同じで、 それは暖かいけど、どこか 無機的で、殆どの場合私の ことを無気力にする。
この家に住んで三ヶ月過 ぎた。 見渡す風景はいつも同じ で、それは暖かいけど、 どこか無機的で、殆どの 場合私のことを無気力に
なんだかなぁって呆れてる のを、わたしは悔しさとも どかしさで見てる。
この家に住んでから初め て友人を招いた。 なんだかなぁって呆れて るのを、わたしは悔しさ ともどかしさで見てる。
2007.4.13
2009.8.31
2007.5.14
2009.8.21
背伸びしなくても、余裕 ですべてが見渡せるよう になったら
この家の全てを見てみた い。 背伸びしなくても、余裕 ですべてが見渡せるよう になったら
現象が忘れられて、思い出 が削ぎ落とされて、私の経 験はなんになる?
この家に住む前の私。 現象が忘れられて、思い出 が削ぎ落とされて、私の経 験はなんになる?
2007.7.13
2009.8.18
2007.12.19
2009.9.1
一昨日何か忘れ物した? 気になって仕方ない。 また何か出て行った?
この家は色々なことを忘 れさせてくれるけれど。 一昨日何か忘れ物した? 気になって仕方ない。ま た何か出て行った?
身の回りのほとんどがも ろくて、壊れやすいもの なんだ。私の生活のほと んどは、明日失われても 不思議ではないんだ。
この家でまだ行ったこと のない場所を見つけた。 身の回りのほとんどがも ろくて、壊れやすいもの なんだ。私の生活のほと んどは、明日失われても
2008.5.2
2009.8.28
2008.5.26
2009.8.15
何もかもうまく言うこと が出来ないまま月日がな がれて、誰も彼も振り返 ることもなく通り過ぎて ゆく
この家のことが少し好き になった。 何もかもうまく言うこと が出来ないまま月日がな がれて、誰も彼も振り返 ることもなく通り過ぎて
私がいる場所では何にも 変化できないように思え た?そうかもね
この家が私を見つめてい るような気がした。 私がいる場所では何にも 変化できないように思え た?そうかもね
2008.12.16
2009.8.12
2008.12.18
2009.8.16
誰も入ったことのない山。
この家の中には私しかい ない?誰も入ったことの ない山。
死にたくない。こわい。 みんなうるさい。
この家には屋根がない。 死にたくない。こわい。 みんなうるさい。
2008.7.8
2009.8.14
2008.8.3
2009.8.22
未来が少しだけ想像できる、 という恐ろしさ。
この家は本当によく分か らない。 未来が少しだけ想像でき る、という恐ろしさ。
存在しないけれど、消え ることはない
この家はいつも変わらな い。 存在しないけれど、消え ることはない
2009.3.19
2009.8.27
2009.4.30
2009.8.26
今日のこと忘れたくない。
この家に住んでもう二年が 経ったのか。 今日のこと忘れたくない。
かっこつけてる時間が勿体 ないぜおい、自分のことな んか誰も見てないよ気づい てるか?勝手に生きてるな らお好きにどうぞ
この家に 16 番目の部分を 作った。 かっこつけてる時間が勿 体ないぜおい、自分のこ となんか誰も見てないよ 気づいてるか?勝手に生
2009.7.2
2009.8.25
2009.8.13
2009.8.17
ふとした時にこの生活は崩 壊すればいいんだ。崩壊の 翌日からまた新しい家を作 ればいいんじゃない。
この家に 17 番目の部分を 作った。 ふとした時にこの生活は崩 壊すればいいんだ。崩壊の 翌日からまた新しい家を作 ればいいんじゃない。
死は早くやってくる。そこ までで肉体はおしまい。
この家を出る日が近づいて きている。 死は早くやってくる。そこ までで肉体はおしまい。
2009.8.19
2009.8.29
2009.8.27
2009.8.30
私について特に知りたいこ とはないですか。私につい て特に問題はないですか?
この家のすべては知り得 なかっただろう。 私について特に知りたい ことはないですか。私に ついて特に問題はないで すか?
即興演奏。美しいメロディー を生む力、一瞬の何か。
この家の次の住人は誰だ ろう。 即興演奏。美しいメロ ディーを生む力、一瞬の 何か。
2013 年 2 月 4 日
これは私があの家に住んでいた頃の日記です。 あの家のことはよく思い出せませんので、こ の日記を読み返してようやく少しずつ、こう して絵に描いてみようとしましたが、まだこ れはほんの一部分なのです。 もっと複雑で、もっと奇妙だったような気が するのですが、なにしろあの家を去ってから 私はすっかり変わってしまったので、全てを 思い出すことは諦めます。
私の記憶の中には、あの家で過ごした日々 が浮かんでいるような気がしますが、もう 思い出すことはないでしょう。 特に印象深いこともなかったですし、なに よりあの頃の私はたくさんの迷いを抱えて いて、家の隅々までじっくり見ることなん てなかったのですから。 今となってはこの日記だけが、あの家と昔 の私をつなぐ証拠のようなものになってし まったのでしょう。 けれど、この日記があるだけで、私は充分 なのです。
模型写真 2009.8.13 のドローイングより
3
19 の日記のための場所
19 の日記の文章を選びとった後、それぞれに対してイメージオブジェを制作しました。それまでの作品では文章 をまずスケッチやメモやドローイングに起こしましたが、この作品ではまず、オブジェにすることで具体的なイメー ジを作りました。 それから、一つずつのオブジェを観察し、新たなイメージを付け加えたり削ぎ落としたりしながらドローイングを 描いていきました。 ドローイングによって視点を定められた形は、「描かれていない部分」という空白の領域を獲得します。 その空白を再び埋めるように、ドローイングをみながら形を作りました。 こうしてしつこく反復作業をするのは、日記が、出来事を言葉にした時点で永遠の反復のなかに記憶を閉じ込める ことを実際の建築的表現の中で追っていくためです。
制作の手順 過去の日記の中から一日に一文、その日気になったものを抜き出し、その日のうちに小さな模型を制作することを 19 日間行った後、模型から想起した情景を 19 枚描く。完成した 19 枚のドローイングから形態を起こしていき、 19 のパーツからなる 1 つの模型を制作する。
19 の日記のための形
日記の文章
1 それをいくら否定されたとしても、でもその世界に私はまだ行かないし、そこで分かることは分からないままだけど私も結局は、皆とは違うんだって思っ たって同じような場所に行かなくっちゃいけない 2008.4.19
2 友人への嫉妬、羨望、自分との比較、どうにもならない自分自身、怠慢、思い通りに行かないこと、打ち明ける勇気のなさ、見栄を張ってしまう弱さ、 判断することの重大さ 2008.7.8
3 勝手にやめたっていい。勝手に続けたっていい。何かに全力を尽くすこと、目の前に何かあるのならば、勝手に適当にやってもいい、勝手に頑張ったっ ていい、誰も怒らないよ。でも、勝手に死んだって文句は言わない。勝手に生きていたって文句は言わない。2008.8.21
4 あまりにも自然だから、空しくなったよ。手応えがないというか。2008.11.15 5 元々自分が何をしているか把握していないから、当然相手に分かりやすく説明できるわけもない。聞かれれば聞かれるほど、語彙の足りなさと、理解の 浅さが浮き彫りになる。2008.12.9
6 ありがとうございます。2007.12.15 7 午後 8000 円くらい、使う。2007.1.31 8 自己演出過剰気味 2007.4.11 9 そこだって、風も吹けば、雨も降る、楽な場所じゃあないけれど 2008.1.24 10 会わなくては済まされない人もいる 2009.3.15 11 何かを作りたいんでしょうそうやって人を啓蒙したいんでしょう見られるのが恐いんでしょうでも 2009.4.30 12 力が凝縮しているのではなくて、広がっていること 2009.6. ? 13 でもそんな難しい質問してる雰囲気じゃなかったしなぁ。2007.6.21 14 うまくしゃべれない。2007.2.21 15 私は写真を見て、あなた方とあなた方の家が、とても好きになりました。I saw a photograph, and came to like your and your house very much. あなた方の家は、私の家に比べて美しいですね。Your house is beautiful in comparison with my house. 2001.6.10
16 自分の位置、他人の位置 2008.7.8 17 でも私は、耳を貸してくれない、外に出た瞬間から。2009.4.9 18 明日はまた、あそこに行かなきゃ行けないんだー。2007.1.31 19 全員を?何故?信じられない。2009.9.23
5 形、ドローイング
番号
はじめに作った模型
2009.10.22
2009.11.17
2009.10.28
2009.11.20
模型から描いた ドローイング
制作日
制作日
ドローイングから 起こした形
6
8
2009.10.26
2009.11.19
9
10
2009.10.29
2009.11.21
11
2009.10.30
2009.11.21
13
2009.11.1
2009.11.23
2009.11.4
2009.11.24
14
15
2009.11.5
2009.11.24
16
2009.11.6
2009.11.25
2009.11.8
2009.11.25
17
2009.11.7
2009.11.25
展示の様子 多摩美術大学デザイン棟 1 階ギャラリーにて 2009.12.8
ドローイング・他
日記をもとにした壁紙用図案 2009
日記をもとにした版画 A4 トレーシングペーパー 128 枚 2009
図書館 画用紙・鉛筆 2009
住宅 2005 - 2010
Megumi Matsui Works
鑓水の住宅
2005 年、課題で設計した住宅です。
起伏のある家
敷地は東京都八王子市鑓水。気持ちのよい風が吹き抜ける高台である。 今後、宅地として開発されゆくこの土地も、今は見渡す限り雑草の生い茂る原っぱだ。 北側には丘と崖、南には遠くの街やそのまた遠くの山のシルエット。
今はまだ、この土地が元々持っている起伏が生み出す空気の流れがとてもよく感じられる。 これを生かしつつ土地と共に住まうということを考えた。 架空の施主の家族構成は共働きの夫婦と 11 歳、7 歳、5 歳の 3 人の子供である。
南北に細長く、住宅の中央に半外部空間である中庭を配置する。 ダイニングと夫婦寝室は周囲に対して少しだけ窪んでいる。 その反作用のように起伏の「起」をつくると、住宅の中にも緩やかな起伏が生まれる。
はじめにできる起伏。中央は中庭になり、手前の窪みは寝室に、奥の窪みはダイニングになる。
平面図
テラス GL+1400
夫婦寝室 GL-850
中庭
居間
GL+150
GL+150
食堂 GL-450
キッチン
勝手口 子供たちのスペース GL+100
風呂
トイレ
玄関 GL+100
洗面所
中庭、玄関部分には光を通す素材の屋根がかかる
中庭を取り囲むように、それぞれのスペースがつながる
居間からの眺め。食堂、中庭の向こうに子供たちの部屋が見える
中庭は南からの光を室内に取り込む役目を果たす
設計段階でのコラージュ・スケッチ
大子の住宅
2008 年、実際の施主のために共同実施設計した住宅です。
小さな家と大きな車庫
茨城県久慈郡大子(だいご)町。山々に囲まれ、緑豊かな稲作地帯である。 高低差のある大きな三角形の敷地は、谷から降りてくる爽やかな風を受け止める場所のようだ。 ここに住まう予定である N 一家は 40 代夫婦と小学生の娘の 3 人家族。予算の制約上 30 坪程度の 小さな住宅を希望していた。
しかし、もうあと 30 坪の場所を必要としている住人がいた。 2 台のトラック、3 台の乗用車、6 台のバイクと 3 台の自転車だ。施主の趣味であるこの住人たちは、 どうしても車庫に収めてやらなければならない。 敷地の形や大きさを生かしつつ、4 つの車庫を点在させ、木造の小さな家を一番風の通り抜ける場 所に配置した。南側の大きなデッキからはハンモックに揺られながら谷の風景を一望できる。
私を含めて 3 人での共同設計である。
建設予定地 茨城県久慈郡大子町大字山田字末沢 1179 番地 2(875 ㎡) 建築物の予定規模 住宅:平屋(ロフト付)35 坪(116 ㎡) 車庫:乗用車 3 台、トラック 2 台、バイク 6 台、自転車 3 台分 60 坪(198 ㎡) 建設予定額 2 千万円
2,100
4,850
400
1,400
400
4,550
B-B
550
A-A
550
550
3,640
5,005
2,275
3,556
2,100
2,100
4,850 360
906
1,749
平面図 1:150
断面図 1:150 910
配置計画と、敷地から見える風景
1
3
2
1
2
3
南側には 2 本の梅の木のアーチをくぐるようなアプローチを設けた
車庫の屋根は光を通す軽い素材
内部。ダイニングの上部はロフトになっている
デッキ。2 辺の窓を開け放つことができる
設計段階のスケッチ
ルアンダの家
ポルトガルの首都リスボンで行われる建築トリエンナーレのコンペティション 「Patio & Pavilion A House in Luanda」出品作品です。(大室移築アトリエと共同)
アンゴラの首都、ルアンダ
ルアンダという都市は長年にわたる内戦によってインフラの破壊や人的資源の損失などが著しく、人 口の 90%前後がスラム地区に居住しています。しかしながら埋蔵量 80 億バレルとされる石油は中 国等の海外へ輸出され、経済的な潜在力が高いことから近年世界一物価が高い都市になったほどです。
このコンペティションでの要求は、10m×25m の敷地に、このルアンダにおいて今後住環境を整備 していく上での基本となるような、簡単で安価に建設できる住宅の提案でした。一戸の住宅に 7〜9 人家族が住まうことが一般的であることと、雨期に起こりやすい漏水、浸水に対する配慮も求められ ていました。
建築手順
STEP 1
STEP 2
敷地の中央に簡単な木組みの仮小屋を建 てます。小屋は建設のための作業場兼住 居として使用できます。
STEP 3
敷地の境界線に日干し煉瓦の壁を立てて いきます。同時に仮小屋の中に台所やト イレを作ります。
STEP 4
数本の柱を追加し、周壁と仮小屋の柱 を利用して梁を架けていきます。
STEP 5
台所、トイレ、ダイニングに屋根を架け ます。ベッドや収納などの家具や入口の 扉を取り付けて完成します。
中央の仮小屋を解体しながら梁に沿って 屋根を架けます。屋根の下に日干し煉瓦 を敷き、床を作っていきます。
鳥瞰パース
前庭を通って家の中へ
中庭を眺める
SECTION-2
ELEVATION
galvanized sheet iron GL+3782
column reed screen
brick wall(red)
reed screen
column
GL+2000
brick wall(red)
FRONT YARD GL+200 wood door 2350
2500
2500
concrete 2350 2350
SECTION-3
galvanized sheet iron
GL+3782
STORAGE BED
BATH
PATIO
ENTRANCE
2350
2350
galvanized sheet iron
GL+3782
GL+2000
BED
PATIO
KITCHEN
SPACE GL+200
brick wall(yellow) concrete
2500
STORAGE brick wall(red)
brick wall(red)
2500
SECTION-4
GL+2000
SPACE
wood door
brick wall(red)
GL+200
brick wall(yellow) concrete
2500
2500
2350
2350
2500
2500
2350
10m×25m という敷地の形状に合わせて積まれた日干し煉瓦の壁に、木組みの簡素な屋根を架けることで、ひと続きの細長い 生活空間が生まれます。 片側のウィングには家族全員のベッドや収納などが配置されたベッドスペース、反対側のウィングは家具などがほとんど置か れないユーティリティスペース、それらのウィングの中間に家族の集まるダイニングスペースが配されています。100 ㎡とい う限られた広さの家の中において、各スペースごとに壁を立てて仕切ることはせず、わらを編んだ簾で簡単に区画分けしてい ます。 これらの生活空間に囲いこまれた中庭は、家族の共有スペースです。明るい陽射しが降りそそぎ、暑い気候の中でも風が通り 抜ける中庭とダイニングスペースは、この家の中で最も居心地の良い場所になるでしょう。この中庭を介して、家族全員の居 る場所がわかるようになっています。また、中庭側に台所やトイレなどの機能を突き出させることで、漏水などに簡単に対処 できるようになっています。
芝生のしかれた中庭
この家が基準となり、隣や裏側にも同じものが繰り返して建設されたとき、ひとつの大きな集合住宅となります。 初めは安価な素材で均一に作ることで安定した住宅供給に寄与することが出来、その後は徐々に住人それぞれの 暮らし方によってカスタマイズされ、変化に富んだ前庭と中庭で彩られることとなるでしょう。
会場構成 2009
Megumi Matsui Works
アール・イマキュレ展
2009 年 6 月に CCAA アートプラザ(旧四谷第四小学校)内のギャラリーで行われた 展覧会の会場構成を担当しました。(大室移築アトリエと共同)
教室から展示空間へ
この展覧会は、多摩美術大学の芸術人類学研究所と、ダウン症のアーティストのためのアトリエを主催するアトリエ・エレマン・ プレザン、および会場となった四谷のギャラリーを運営する NPO、CCAA の主催によるもので、展示作品はすべてダウン症の アーティストたちの作品でした。色彩豊かでおおらかなその作品は、とても強いパワーを持っていると同時に繊細な感受性を 備えたものでした。元小学校の教室であるという少し古びたギャラリーにどのように展示したら絵の持つ魅力を生かし、鑑賞 者に素晴らしさが伝わるかということを考えながら壁や床の色、開口部の遮光の提案をしていきました。
ギャラリー1
入口 ギャラリー2
ギャラリー3
インフォメーション
はじめての青い服の肇さん
山と海
北内那奈
杉村奈津季
不明
2004
ギャラリ−3 壁面は白く塗装し、床には全面白いカーペットを敷き詰めました。 この部屋のみ、靴を脱いで上がります。 また、窓ガラスの手前に薄く透ける布を張り、光を柔らかく室内に 取り込むよう調節しています。
ギャラリ−3
ギャラリ−1
反対側には立体作品も
窓の外にはツタの絡む土手
ギャラリ−2
廊下の入り口方面突き当たり
入り口を入ってまず目にする光を柔らかくするため、ここにも薄い布での遮光
タピスリー作品を吊って展示しました _All photos of this page by MAYU ISHIKURA
ドローイング 2008 - 2009
Megumi Matsui Works
上:広場 下:道 ベニヤ・色鉛筆・鉛筆・アクリルガッシュ 2009
浜辺の学校 画用紙・鉛筆・アクリルガッシュ 2009
貝殻と棒切れ 画用紙・パステル・色鉛筆・ペン 2008
イラスト・広告 2009 - 2010
Megumi Matsui Works
広告デザイン
天然素材の衣料、民族服を扱うショップ「楽」のキャンペーン 広告のデザインを担当し、制作しました。 使用ソフト:Adobe Photoshop, Illustrator
web コンテンツ用イラスト
株式会社ニコンの公式ホームページ内フラッシュコンテンツ 「ニコン 歴史発見!」のイラスト。 ニコン社の創業時からの歴史を文化の変遷と合わせて紹介する コンテンツの中で、街の風景を描きました。 URL http://www.nikon.co.jp/channel/ 使用ソフト:Adobe Illustrator
© 2010 Nikon Corporation
外装デザイン 三重県鳥羽市にある元遊郭で文筆家の自邸であった建物の 1 階部分を、 ギャラリーとして再利用するにあたっての外装デザインを提案しました。 (大室移築アトリエと共同) 使用ソフト:Adobe Photoshop
昼景 格子のパターンのバランスや仕舞い込まれていた 遊郭時代の扉(中央の朱色の部分)を生かすことを提案しました
夜景
元々の状態
松井 恵 作品集
Megumi Matsui Works 7 February 2010 All works by Megumi Matsui are © Megumi Matsui