Contents 第 3 室 : クライマックス ご挨拶 波田浩司
謝辞
p.3
p.56
62
冨田 哲司
Ariadne in Contemporary Maze
63
問谷 明希
untitled
64
問谷 明希
untitled
65
問谷 明希
put on
p.30
66
問谷 明希
untitled
p.40
67
三浦 卓也
多くの物語を知る
68
三浦 卓也
Gitana ~ジプシーの肖像~
69
佐藤 仁敬
不在の存在
茂呂 剛伸
p.18
70
加藤 広貴
太陽
小玉 尚弘
p.19
71
加藤 広貴
アパート
こうの 紫
p.28
72
加藤 広貴
ピッカピカの月
東海林 靖志
p.29
松原 壮志朗
p.39
0 室:招待状
p.6
センターテント
p.15
1 室:曲芸
p.20
2 室:イリュージョン 3 室 : クライマックス
第 0 室:招待状 1
渡辺 元佳
casper
2
村山 之都
We go(rreeppllaayy)
3
村山 之都
レストハウス
32
藤田 遼子
diffusion
4
村山 之都
鳥打ち
33
佐々木 ゆか
MANZOKU…?
5
菊谷 達史
何れにせよ、その必要不可欠な猛
34
佐々木 ゆか
夜煌蝶
毒から逃れる術は無い事をまだ知
35
若林 啓
rangda
らずにいるアウストラロピテクス 6 7
竹中 里乃 河崎 辰成
どこでもひとりテント
第 2 室 : イリュージョン
ブリーフベイビーズ
36
スズキ ナツコ
それぞれにわかる合図
スズキ ナツコ
drop drawing
8
宮地 明人
原因と結果
37
9
藤井 康子
輝きをもとめて
38
伊藤 直美
私は貴方を高嶺の花とは思わない
10
藤井 康子
秘めごと
39
伊藤 直美
スモーカーはアンバーに染まる都市
11
kensyo
node,link & memorie
を肺の中で構築している、副流煙を
12
福森 崇広
nest
取り入れた肺もまた己の知らぬ所で
73
山田 啓貴
遥かなるタオロマイ
74
山田 啓貴
海岩の記憶
75
山田 啓貴
ディナーの主役
76
池田 光弘
untitled
イベント a.k.a. 祭太郎
p.13
KICK
p.14
交 流 レイアあーと
p.49
77
川上 亜里子
ユクカムイの角
78
菊地 大
blast
79
菅野 舞子
N0.1 WGS-84(43.059598141.330579)
80
吉井 見知子
龍血樹
81
吉井 見知子
龍血樹Ⅳ
82
波田 浩司
83
波田 浩司
招待作家 : 堀 一浩
p.50
棚澤 寛
p.50
京岡 英樹
p.50
高松 和樹
p.51
羽の舞う日
大泉 佳広
p.51
羽の舞う日
北本 真隆
p.51
アンバー都市を形成するだろう。
センターテント
黒岩 絵里子
mixture
41
風間 雄飛
はいからさん
52
51
13
川上 大雅
14
川上 大雅
planet
42
風間 雄飛
Han-Don
53
15
川上 大雅
What is your trust?
43
河野 健
白湯
54
16
モサパサ
みんな自由だったのだ
44
河野 健
sled & shovel
17
茂呂 剛伸
縄文 bazooka
45
大浦 和代
Japanese food 200908
18
茂呂 剛伸
縄文太鼓
46
安居 沙織
Red AND Black
19
茂呂 剛伸
縄文 bazooka white
47
風間 天心
stamp.
48
風間 天心
Mountain
49
川上 亜里子
畏れ
50
川上 亜里子
祈りの言葉を捧げよ
第 1 室 : 曲芸
2
40 decided.(反応しないスイッチのための)
20
佐藤 史恵
fluid −瞼の裏側にある記憶−
21
佐藤 舞
屍
51
川上 亜里子
人が人でいられた時
22
鈴木 秀尚
portrait
52
川上 亜里子
岩に大地に
23
鈴木 秀尚
portrait
53
川上 亜里子
岩に大地に
24
北田 依知子
沈黙
54
川上 亜里子
存在と力
25
水野 智吉
あの風を呼ぶ
55
千葉 隆弘
最終防衛戦車編
26
宮地 明人
paradox
56
千葉 隆弘
戦車の作品に付随する絵
27
宮地 明人
paradox
57
吉田 浩気
Diamond-Dust
28
谷地元 麗子
いつか見た夢
58
松隈 無憂樹
受け止める耳は開いてゆく
29
谷地元 麗子
いつか見た夢
59
松隈 無憂樹
無題
30
三上 曜
人
60
松隈 無憂樹
無題
31
菊谷 達史
蜜子さん
61
松隈 無憂樹
空も閉じ込める奴ら
46
45
44
43
65
42 50
49
41
47
48
55
37
68
69
70
71
72
58
59
60
78
16 30
31
32
33
79
81
82 86
18 17
34
5
13
4
3
29
87 2
14 28
84 85
15
19
75
79
62
38
61
74
77
63
80 57
73
76
39 56
67
64
40
36
66
88
6
25
1
89
27 20
21
26 24
23
22
7
12
11
10
9
8
3
冷たい空気を照らす日差しが、 これから行く道を解き、潤していく。
雪解けの3月。卒業式。 年度末であるこの月を機会に数々のものが終わりを迎え、そしてまた次の目標へと向かってい きます。そんな中、毎年3月に開催されてきた「サッポロ未来展」は一足先に目標へ向かう準備 を始めます。この展覧会をきっかけとして、若者たちは自分の作品を感じ、次の目標を定めるこ とができます。そして同時に、メンバー同志の交流を通じて意欲を高め、志新たに制作に取り組 んでいく事ができます。作者の成果発表とともに次の目標を見出すことのできる「始まりのとき」 といえるのです。 この度、北海道立近代美術館で開催させて頂きました『第10回サッポロ未来展「ノマディッ クサーカス」 』をご高覧頂き、誠にありがとうございました。雪も解けきらぬ道中、足をお運び 頂いた皆様に、心より感謝申し上げます。 今回は、この10年間の集大成でありました。それぞれの作品制作と同時に、暗中を探りなが らの会場構成、企画。 「サッポロ未来展」としてはじめて与えて頂いた大きな発表の場を最大限 に活かし、それぞれがこれからの可能性を見出し得る有意義な展覧会にすることができたのでは ないかと思います。作家活動と平行し、教員生活を送る私にとって「サッポロ未来展」は、とり わけ重要な展覧会でありました。今回をもって私は引退し、出品作家としては外れますが、これ からもサッポロ未来展卒業生として、力になっていけたらと思います。 これから先、メンバーへ望む事は「個々が自分の可能性に限りをつけず、見てくださる方々と 共感できる感動を自分の中に持ち続けることができるように。」「毎年発表させて頂ける恵まれた 環境に感謝して、それを次の意欲につなげられるように。」という点です。 「サッポロ未来展」メンバーは常に、制作できる環境と、発表できる機会に感謝し続け、それぞ れの目標に向かっていくことを強く望みます。また、メンバー全員の強い意欲と努力によって、 これからも限ることなく、現代美術社会に影響を与え続ける団体となっていくことを信じていま す。 最後になりますが、今までご後援、ご協賛、ご協力、様々な形で支え続けて頂きました多くの 皆様に、そしてご指導・ご鞭撻頂きました先生方々へ、厚く御礼を申し上げます。 これからも「サッポロ未来展」は、若い作家達の「成果発表の場」として、それぞれの「意欲形 成の場」として邁進し続けていきますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。 今後も「サッポロ未来展」を応援し、ご高覧頂けたら幸いに存じます。
平成23年5月 吉日 波田 浩司
4
5
第 0 室:招待状 「第 10 回サッポロ未来展 Nomadic Circus Troupe」のねらいは、非日常的な遊戯空間の演出である。各地を転々 とするサーカスは一過性のお祭りであり、足を運んだ観客は、きらびやかなパフォーマンスに酔いしれ、このひととき のあいだ日常生活を忘れる。この現実と隔離された非日常性こそが「遊び」の本質であると、オランダの歴史家ホイジ ンガは『ホモ・ルーデンス』のなかで述べている。本展もまた、全国各地で多彩な活動を展開するアーティストたちが 一堂に会し、エンターテインメントとして、あるいは一過性のお祭りとしての空間をつくりあげている。 本章は、サーカスの入り口にあたる。ここに掲載されている作品は、現実社会と非日常的空間とを結びつける橋のよう な役割を果たしている。作品を見ていると、自分がいるのが、それまでいた現実世界なのか、それともまったく別の 世界なのかがわからなくなってくる。絵画の織りなすイリュージョンに吸い込まれそうになったり、あるいは展示空間を 構成する立体作品を目前にして自分の立ち位置がわからなくなったりと、一種の眩暈のような感覚におそわれるかもし れない。そのような効果をもたらすのが、本章の作品のねらいであるといえよう。 寺地 亜衣
渡
辺
元
佳
Motoka Watanabe
村
山
之
都
Shitsu Murayama
7
菊
谷
逹
Satoshi
竹
中
Rino
8
史
Kikuya
里
乃
Takenaka
河
崎
辰
成
Tatsunori Kawasaki
宮
地
明
人
Akihito Miyachi
9
藤
井
康
Y a s u k o
子
福
F u j i i
森
崇
広
Takahiro Fukumori
第 0 室 出品作家
渡辺 元佳 1981 年 北海道伊達市生まれ 《casper》 面 白 い 作 者・ 渡 辺 で あ る。 そ の ユ ニ ー ク な 発 想 に い つ も 注 目 さ れ る が、 近 年 ま で の 作 風 で あ る「 猿 」 を モ チ ー フ と し た 作 品 は 記 憶 に 新 し い。 彼 の 洞 察 力 と 感 覚 は ダ ー ウ ィ ン の 頭 脳 の 如 く 、 進 化 を 唱 え て い る 。 作 品 は ど こ へ 行 く の か。 見 よ、 あ の 変 容 を、 作 品 は 地 上 に 留 ま る の み な ら ず! 今 回 も ま た 、 渡 辺 は 独 自 の 作 品 進 化 論 を展開し、口先だけに留まらず。われわれに体感させるのだ。 興味ある新説進化論を感じる。面白い作家・渡辺に。 (佐々木、以下 S)
村山 之都 1969 年 北海道旭川市生まれ こ れ ま で 一 貫 し て 油 彩 で の 制 作 を 続 け て き た 村 山 は、 正 確 な 描 写 力 に 基 づ い た 写 実 と、 油 絵 の 具 の 質 感 と を 共 存 させることで、絵画のもつイリュージョン性と物質性との間に生じる揺らぎを浮き彫りにしている。 出品作は《We go(rreeppl l aay y )》と《レストハウス》。モニターの映像や画中画、奥行のある画面構成などによっ て、観賞者を巧みにイリュージョンの世界へと誘い込むが、油絵の具の荒いタッチが、それを阻止している。
k e n s y o k
10
e
n
s
y
(寺地、以下 T)
o
11
第 0 室 出品作家
竹中 里乃
祭
竹 中 の 出 品 作《 ど こ で も ひ と り テ ン ト 》 は 、 作 家 の 好 き な 赤 い チ ェ ッ ク の 服 で 組 み 立 て ら れ て て お り 、 一 人
ウサギのマスクがトレードマークの祭。本展で
がやっと入れるだけのスペースしかない。愛着ある素材で自分だけの空間を作り、自分自身と向き合うこと
は、川上大雅のミラーボールの下で和太鼓と語
を意図している。
りによるパフォーマンスをおこなった。アドリ
ま た、 こ の 作 品 は 折 り た た ん で 持 ち 歩 く こ と が で き 、 ど こ で も 自 分 の 殻 に 篭 る こ と が で き る 。 し か し 同 時 に、
ブで進行してゆく彼の独特の語り口は、ユーモ
自由に外の世界へ行き来することもできる。
ラスでどこか哀愁をも感じさせる。
内 観 す る た め の 空 間 と 外 界 と の か か わ り 方 を 提 示 し た 作 品 。( T )
後半では、鍼灸師という祭の職業に関連づけて、 低周波治療装置を用いた。エレキテルを発明し た平賀源内へのオマージュである。また、作家
河崎 辰成 1988 年 北海道札幌市生まれ
と観客とが手を繋いで電流を流すことで、ライ ブの一体感を、全員が文字通り肌で感じ合った。 (T)
郎 p a f o r m a n c e / 2011.3.19 [sat]
1980 年 北海道札幌市生まれ
太
普 段 か ら 親 し み や す い 作 品 づ く り を 目 指 し て い る 河 崎。 今 回 の 出 品 作 ≪ ベ イ ビ ー ズ ブ リ ー フ ≫ は 、 ア リ や 魚 な ど の 生 物 が 群 れ を な す 様 子 か ら 着 想 を 得 て い る。 床 に 多 数 並 べ ら れ た 赤 ん 坊 の フ ィ ギ ュ ア は 、 す べ て 同 じ 型 か ら 作 ら れ て い る が、 体 の 色 は そ れ ぞ れ 異 な り、 そ し て す べ て 違 う 柄 の ブ リ ー フ を は い て い る 。 河 崎 は こ の 作 品 に よ っ て、 画 一 的 な 印 象 を 受 け が ち な 現 代 人 で あ っ て も 、 そ れ ぞ れ 個 性 や 独 自 の 主 張 が あ る こ と を 表 現している。(T)
宮地 明人 1977 年 北海道岩見沢市生まれ 宮 地 は カ ト リ ッ ク で あ る が、 彼 は か つ て 学 ん だ 聖 書 の 内 容 に つ い て は 記 憶 に な い と 言 い、 ま た 制 作 の 上 で 直 接 キ リ ス ト 教 を 題 材 に す る こ と は な い。 し か し 彼 の 作 品 か ら は、 キ リ ス ト 教 か ら 影 響 を 受 け た と 思 わ れ る 要 素 が 断片的にみられる。 今 回 の 出 品 作 ≪ parado x ≫ ( 人 物 画 ) も 、 そ の 一 つ 。 ベ ッ ド の 上 で 眠 り こ む 、 白 い 服 の 女 性 。 そ の 上 に 、 白 と 黒 の 二 頭 の 羊 が 浮 か ぶ。 重 く の し か か り そ う な 羊 の 姿、 そ し て 女 性 の 体 に 今 に も 刺 さ ろ う と し て い る 杭 か ら は、女性が見ているのが悪 夢 で あ る と 連 想 さ せ る 。( T )
藤井 康子 1981 年 北海道稚内市生まれ 藤 井 は 人 物 や 風 景 を モ チ ー フ に し た リ ア リ ズ ム 絵 画 を 描 い て い る 。 彼 女 に と っ て リ ア リ ズ ム と は 、「 自 分 が 感 じ取ったものの力や存在感を描きだすこと」であると述べてい る 。 出 品 作《 輝 き を も と め て 》《 秘 め ご と 》 に は、 ど ち ら も 布 の 上 に 横 た わ る 女 性 が 描 か れ て い る 。 床 に 散 り ば め ら れ た 花 や 貝、 ア ク セ サ リ ー な ど の さ ま ざ ま な モ チ ー フ や、 皺 く ち ゃ に な っ た 布 、 そ し て 女 性 の ポ ー ズ や 視 線は、見る者にさまざまな憶測を呼び起こさせる。( T)
kensyo 1980 年 北海道苫小牧市生まれ 《 node,link & memo rie》 い ず こ を は か と 、 探 し て み る 。 肉 体 は 、 闇 の 中 に 実 在 す る メ ッ セ ー ジ の よ うに も思える。ステートメント( 声 明 書 )を 発 す る 声 が 闇 の 中 か ら 聞 こ え る の か 、そ れ と も 目 に 見 え る も の が 先か。 レーゾンデートル(存在理 由 )を 闇 が 問 う 。 闇 に 佇 む 肉 体 は メ タ フ ァ ー( 暗 喩 )な の か 、と 。 光 と 対 峙 す る 闇と、 作者が対話しているように 思 え た 。 我 わ れ の レ ー ゾ ン デ ー ト ル は い ず こ か と 。 ( S)
福森 崇広 1980 年 北海道苫小牧市生まれ 《nest》 必ずしも外見だけではわからない。例えば作家福森 が 自 ら の 作 品 に 用 い た 事 の あ る 鳥 。 日 常 の 場 面 で、 何 羽 も の 鳥 が 毎 日 の よ う に 飛 び 立 ち 鳴 い て い る が、 い つ も 同 じ 鳥 が 鳴 い て い る の か わ か ら な い 。 そ こ に は い つ も の「 何 か 」 で は な い も の が 映 る こ と も あ る。 鏡 面 や レ ン ズ 越 し は 一 見 し て リ ア ル な 光 景 を 映 す よ う で あ る が、 そ の 中 に も、 自 分 の 知 ら な い 出 来 事 が 反 映 さ れ る 場 合 が あ る の で は な い か 。 そ ん な こ と を 作 家 は 感じているようでも あ る 。 ( S)
12
13
カ ポ エ イ ラ 独 踊 / 2011.3.20 [sun]
カポエイラとは、舞踏と格闘技がミッ ク ス さ れ た よ う な ダ ン ス の こ と だ。 基本的に相手に触れず、相手に蹴り や攻撃を当ててしまうことは下手と されており、KICK のダンスは、カポ エイラを基盤としている。ダンスは 身体性が問われるメディアの一つで あるが、特に彼の作品は「身体—重 力」と関係が強い。カポエイラ特有 の格闘のような動きは、重力を利用 し、かつ反発している。近年、さま ざまな技術によって身体性が薄れて いる傾向にあるが、彼のダンスは「身 体—重力」という根本的な問題を再 認識させてくれるだろう。(K)
center tent
センターテント
KICK
センターテントは、各展示室をつなぐ中心的な役割を果たしている。展示室から展示室へ移動するには、この奇妙 な雰囲気が漂うセンターテントを通らなければならない。視界を遮るように反射した光が目の前でギラギラと輝き動い ている。ここでは、自分以外の他者とすれ違うときに、この異空間の特質に気づくことができる。
人とすれ違うことは、とても日常的だ。美術館内においても、よく起きる出来事である。そういったとき、すれ違う
他者はあくまで美術館の“観客”だ。たったそれだけの認識でしかない。しかし、このセンターテントの空間ですれ 違う他者は、単なる“観客”ではない。妖しげな光に照らされている他者は、あたかも彼らがサーカスの演者のように 見えないだろうか。彼らに気づかれないように注意しながら、そっと静かに視線を向けるのだ。
テントのなかをさまようあなたは、次にどの展示室へ進んでいくのか。他者という演者に誘われるままに、その展示 室へ向かうのも良いかもしれない。再びこのセンターテントへ戻ってくる頃、次はあなたが誰かにとっての演者になって いることだろう。
片山 実季
0 室 profile
14
15
川
上
Taiga
大
茂
雅
Kawakami
呂
G o s h i n
剛
伸
M o r o
センターテント 出品作家
川上 大雅 1980 年 北海道札幌市生まれ 多 忙 な 弁 護 士 業 務 の 傍 ら、 作 家 活 動 や、 ギ ャ ラ リ ー「s a l o n c o j i c a 」 の 運 営 も お こ な っ て い る 川 上。 セ ン タ ー テ ン ト の な か で も ひ と き わ 異 彩 を 放 っ て い た《pl anet 》 は、 ミ ラ ー ボ ー ル と チ ェ ー ン に よ る 構 成 に 、 光 を 当 て た インスタレーションである。ミラーボールに反射した光が、予測もしない動きをして目が離せない。 既 製 品 に ほ と ん ど 手 を 加 え ず、 そ の 数 を 増 や し た り 配 置 方 法 を 変 え た り す る こ と に よ っ て 、 物 の も つ 意 味 を 変 え ることをねらいとしている。(T)
モサパサ 1983 年 北海道旭川市生まれ 暗 闇 の 中 に い る キ ャ ラ ク タ ー は 愛 ら し く、 ま た 不 気 味 な 一 面 を 持 ち 合 わ せ て い る。 モ サ パ サ は、“ 不 条 理 ” を テ ー マ に し て い る と い う。 彼 女 の マ ン ガ 作 品 に は、 動 物 が 登 場 す る こ と が 多 く、 そ れ ら は 人 間 生 活 の 比 喩 と し て 扱 わ れている。不条理な目に合うキャラクターは、表情が乏しいことが多い。マンガの読者は、愛らしいキャラクター に 感 情 移 入 し、 大 き な シ ョ ッ ク を 受 け る で あ ろ う。 今 回 は、 展 示 と い う か た ち で 発 表 さ れ た が、HP で 是 非 マ ン ガを読んでいただきたい。 (片山、以下 K)
茂呂 剛伸 1978 年 北海道江別市生まれ 《ジャンベ太鼓演奏》 音はどこへ行くのだろう。心の中か、空の彼方か。目に見えるのは、楽器と奏でるひとなの に、いつまでも音の余韻が残るのはどうして。原始からの空の彼方に舞う星を見た時、原野の詩人になってしまっ たひとたちは、音を空に感じるからか。音はどこへ行くのかと考えてみるならば。思い描こう。音が空を舞う姿を。 音が心に打ち込まれる最中で。 (S)
モ M
16
サ o
s
パ a
p
a
サ s
a
17
呂
剛
伸
小
玉
尚
弘 ×星野道映 和 太 鼓 演 奏 / 2011.3.26 [sat]
ジ ャ ン ベ 太 鼓 演 奏 / 2011.3.21 [mon]
茂
音はどこへ行くのだろう。心の中 か、空の彼方か。目に見えるのは、 楽器と奏でるひとなのに、いつま でも音の余韻が残るのはどうし て。原始からの空の彼方に舞う星 を見た時、原野の詩人になってし まったひとたちは、音を空に感じ るからか。音はどこへ行くのかと 考えてみるならば。思い描こう。 音が空を舞う姿を。音が心に打ち 込まれる最中で。(S)
民俗芸能を体現するために、小玉は実際に農業や山仕事をおこなっているという。彼が選 んだ表現は、農村で生まれた芸能なのだ。足を一歩踏み入れる動作さえ、それは田んぼに 足を踏み入れる時のような動作でなくてはならない。小玉はそういった生活を実際に過ご し、その様子を録画し、ネット上で公開している。彼の活動は、『忘れられた日本人』(宮 本常一,岩波文庫 , 1984)を連想させる。それは、“日本人”という民俗を再認識するた めの実践なのだ。(K)
18
19
第 1 室:曲芸 佐
藤
史
S h i e
恵
S a t o
古く、ヨーロッパでは偉大な権威の象徴として、または永遠の美人の基準として、多くのポートレイト(肖像画)が 描かれてきた。けれど時代が進むにつれて、形ばかりの象徴的表現からポートレイトは徐々に開放されてゆき、作家 個人の内省や、モデルが持つ個性的な抒情など、それらの私的性格が画中の表現のために強まる傾向を見せた。
1
たとえば遠くに住む恋人の姿を自ら描き、それを見つめながら、今は会えない最愛の彼女へ、自室の机上で多くの手 紙を綴り送った 19 世紀イギリスの、コンスタブルのような画家もいた。ポートレイトはその時、画家の心を自由に、恋 人のもとへ羽ばたかせたのだろう。ポートレイトがテーマとするところ。それは思い出という失われた過去を表現とす るものばかりではないということだ。
作家やモデルのプライベートも内包されたポートレイト。それを見つめるわたくしたちに、画中の表現はどんなことを投 げかけてくれるのか。ポートレイトを目の前にして、画中のモデルと画家の間(ま)と、時を追いかけながら画中の表 現と接してみるのも、ファンタジックで面白い。 劇場の時は夕刻に迫った。このサーカスのファンタジーで、たゆたう水や普段は静かな人形たちも、ポートレイトの魅 力を奏でながら、これから夜を堪能する。この仄かな暗闇の中で、そんな演目の夢を見てみたい。 さあ開幕だ。ポートレイトの曲芸に、ノクターン(夜想曲)を覚えよう。 佐々木慶一
佐 M
藤 a
i
舞 S
a
t
o
21
鈴
木
秀
Hidetaka
尚
Suzuki
水
野
智
吉
Tomoyoshi Mizuno
北
田
I c h i k o
22
依
知
子
K i t a d a
谷
地
元
麗
子
Reiko Yachimoto
23
谷
地
元
麗
子
藤
Reiko Yachimoto
田
R y o k o
菊
谷
Satoshi
逹
史
々
Y u k a
上
Y o
M i k a m i
子
Kikuya
佐
三
遼
F u j i t a
木
ゆ
か
S a s a k i
曜
若
林
啓
Kei Wakabayashi
24
25
第 1 室 出品作家
第 1 室 出品作家
佐藤 史恵
三上 曜
1978 年 北海道幕別町生まれ
1990 年 北海道江別市生まれ
本 作 は、 薄 い ガ ー ゼ で で き た 円 筒 形 の ス ク リ ー ン と 水 に よ る イ ン ス タ レ ー シ ョ ン 。 ス ク リ ー ン の 上 部 に 配 置 さ れ
今回で未来展 2 回目の出品となる三上。< 人 > は、作家の自画像である。
た 水 槽 に 水 が 滴 り 落 ち た 瞬 間、 ス ク リ ー ン に 波 紋 が 投 影 さ れ る 。 円 筒 の 内 外 を 行 き 来 す る 観 賞 者 の 影 も ぼ ん や り
壁 の 前 に 立 ち、 目 を 伏 せ、 憮 然 と し た 表 情 を 浮 か べ て い る。 彼 は 作 品 の 前 に 立 つ 鑑 賞 者 と 視 線 を 合 わ せ る こ と が
と映し出され、水の波紋と人影 と が 、 ゆ ら ぎ な が ら 重 な っ た り 離 れ た り を 繰 り 返 す 。
な く、 ま た、 鑑 賞 者 に と っ て も、 彼 の 表 情 が 何 を 暗 示 し て い る の か 読 み 取 れ ず、 さ ま ざ ま な 憶 測 を め ぐ ら せ る よ
佐 藤 は、 ス ク リ ー ン を「 自 己( 波 紋 の 影 )」 を 認 識 す る た め の 装 置 で あ り、 ま た 自 分 と 世 界 と の 境 界 線 だ と 言 う。
う に な る。 こ の 点 に お い て 本 作 は、 現 代 社 会 に よ く み ら れ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 不 和 を 表 し て い る よ う に も 受
そこに映し出される光と影は、作 家 個 人 の み な ら ず 、観 る 者 の 持 つ 記 憶 を も 呼 び 覚 ま す こ と に 繋 が る だ ろ う 。(T)
け取れる。 (T)
佐藤 舞
菊谷 達史
1985 年 青森県青森市生まれ
1989 年 北海道稚内市生まれ
《屍》 鳥の羽音に耳を傾 け る 。神話の神々が、多 く の 種 の 生 き 物 た ち の 姿 で 描 か れ て い る よ う に 、そ の 羽 音 も ま た 、
作品の印象は、可愛いけれど怖い。まるで、現代社会の一部をアイコンのように描いている。描かれた
神 話 を 成 立 さ せ る の だ。 生 き 物 は 駆 け、 い な 鳴 き、 や が て 日 は 暮 れ 、 再 び 活 動 の 時 を 待 つ の か 、 あ る い は 闇 夜 を
人物は、普段の生活や町で見られる人間の特徴をアイロニカルに捉え、不気味な笑顔を浮かべている。
駆けるのか。作者・佐藤は動物たちを多角的に見つつ、より深く指 に 触 れ る の は 、 そ れ ら 太 古 の 琴 線 。 ( S )
菊 谷 の 作 品 は 、 人 間 の 内 部 に 存 在 し て い る “ 負 ”、 一 般 的 に “ 負 ” と し て 認 識 さ れ て い る 部 分 が 強 調 さ れている。しかし、こういった特徴にある種のキャラクター性を与えることによって、否定 / 肯定する の で は な く 、 人 間 の 新 し い 認 識 方 法 を 提 示 し て い る の か も し れ な い 。 (K)
鈴木 秀尚
藤田 遼子
1986 年 北海道帯広市生まれ
1990 年 北海道留萌市生まれ
《portrait》 肉 体 が 象 徴 す る も の 、 そ れ は 個 を 揺 る が す 大 き な 問 題 だ 。 レ ー ゾ ン デ ー ト ル ( 存 在 理 由 ) は 、 そ の
未来展初出品の藤田。<di ffusi on> は、 「拡散」の意。髪の長い裸婦が宙に浮き、逆さまになった状態で画面いっ
存在価値を問われながらも証明され、ついには作品化されてきた美術史の事実もある。その場合、証明は人物が
ぱいに描かれている。無理なポーズにみえるが、女性の表情はむしろ穏やかである。
描かれることでクリアされるが、作者・鈴木はあえてキャラクター(性格)を不透明にすることで、存在証明そ
藤 田 は こ の 作 品 で、 人 体 を 植 物 に 例 え よ う と し て い る。 彼 女 は、 意 思 に 関 係 な く 伸 び る 人 間 の 髪 と 、 水 や 養 分 を
のものを問うているのだろうか 。 ( S )
吸 い 上 げ る た め ど こ ま で も 伸 び て ゆ く 植 物 の 根 に、「 生 命 の た く ま し さ 」 と い う 共 通 点 を 見 出 だ し、 女 性 の 髪 を 植 物の根になぞらえて描いた。(T)
北田 依知子
佐々木 ゆか
1990 年 北海道旭川市生まれ
1988 年 北海道北見市生まれ
《 沈 黙 》 挑 発 的 な 格 好 の 女 性 群。 彼 女 た ち は 一 体 何 へ 視 線 を 向 け て い る の だ ろ う か 。 ジ ェ ン ダ ー 的 な 問 題 を 、 北
《 夜 煌 星 》 性 へ の 思 い を そ こ は か と 無 し に 描 き き っ た か に 見 え る、 そ の 軽 快 な 描 写 は、20 世 紀 初 頭 の ア メ リ カ
田 は 捉 え よ う と し て い る の だ ろ う か。 彼 女 が 描 く 女 性 は、 豊 満 な 肉 体 を 露 出 さ せ 、 強 い 眼 差 し を ど こ か へ 向 け て
芸 術 が 持 つ ブ ル ジ ョ ワ の 典 雅 さ を 想 定 し た よ う。 だ が、 作 者 の 佐 々 木 が く み 取 る の は 身 近 な 女 性 た ち の 日 常 で あ
い る 。 女 性 の 強 さ と し て 捉 え る こ と も で き る。 し か し、 そ れ と と も に ど こ か 弱 さ を 感 じ な い だ ろ う か 。 強 い 眼 差
る。 そ れ は 誰 し も が 知 る こ と の な い プ ラ イ ベ ー ト と、 ア ウ ト ド ア に 打 ち 出 さ れ た 女 性 た ち の 生 活 の 狭 間 に あ る、
し は 、 警 戒 を 意 味 し て い る よ う に も 思 う。 彼 女 た ち は、 弱 い が 自 立 し よ う と 姿 勢 を 見 せ て い る の だ 。 そ れ は 、 若
グ レ ー の 層 で あ る。 モ デ ル の 女 性 た ち が 営 む 生 活 を、 佐 々 木 は 自 ら が 触 れ よ う と す る。 そ こ に は 優 雅 な 夢 う つ つ
い作家である北田自身の姿勢と重なっているのかもしれない。( 片 山 )
を超えたタイトなダイレクトさがある。 (S)
水野 智吉
若林 啓
1969 年 北海道函館市生まれ
1989 年 北海道北広島市生まれ
漆 に 魅 せ ら れ た 水 野 は、 こ れ ま で 一 貫 し て 乾 漆 に よ る 人 物 像 を 制 作 し 続 け て い る 。 鋳 造 に よ る ブ ロ ン ズ 像 と 異 な
《rangda》 脅威を求めてみるならば、それは時に伝奇物語とロマンスにも似た抒情を見つけることだろう。作家・
り、 石 膏 型 に 自 ら の 手 で 漆 を 塗 り 重 ね て ゆ く 乾 漆 技 法 は 、 細 部 ま で 手 を 加 え る こ と が で き 、 ま た 繊 細 な 表 現 が 可
若 林 の 脅 威、 そ れ は 毎 日 の 日 々 の 中 で、 仄 か な 光 に 覚 え る も の の よ う で あ る。 か の 淡 い 光 、 作 家 が 通 常 の 世 界 か
能となるが、同時に扱う者の卓 越 し た 技 量 が 必 要 と な る 。
ら 抜 け き る 時、 そ れ は 造 形 に 託 さ れ る ト ワ イ ラ イ ト・ ゾ ー ン( 夕 暮 れ 時 ) の 白 み 。 日 常 の 終 わ り を 、 作 家 は ど の
出 品 作 ≪ あ の 風 を 呼 ぶ ≫ は、 彼 が 得 意 と す る 裸 婦 像 。 女 性 は わ ず か に 笑 み を 浮 か べ 、 両 手 を 広 げ て 左 足 を 半 歩 前
ようにイメージするのか。 (S)
へ踏み出し、風を全身で受け止 め る か の よ う な ポ ー ズ を し て い る 。( T )
谷地元 麗子 1980 年 北海道江別市生まれ 一 貫 し て 女 性 像 を 描 き 続 け て い る 谷 地 元 は、 人 物 以 外 に あ ま り 関 心 を も た な い と い う 。 ど ん な 人 間 に も 、 他 者 が 踏 み 込 め な い よ う な 側 面 が あ る が、 谷 地 元 は 人 間 の そ ん な 部 分 に 魅 力 を 感 じ 、 特 に 同 性 の 視 点 か ら 、 女 性 の 内 面 性やエロスを表現してゆきたいと語る。 本 展 の 出 品 作 は 2 点。 と も に 《 い つ か 見 た 夢 》 と 題 し 、 横 た わ る 女 性 が 描 か れ て い る。 女 性 の 姿 は 官 能 的 で 繊 細 に描かれながらも、その表情には気高さや力強さがあらわれている 。( T )
26
27
東 海 林 靖 志 ダ ン ス パ フ ォ ー マ ン ス / 2011.3.27 [sun]
三 味 線 演 奏 / 2011.3.26 [sat]
こ う の 紫 × OKI
美的な音色は必ずしも美術や音楽と言う区 分のもとに、感じ取られるわけではないが、 作家・こうの、彼女はその狭間を佇む。瞳
東海林は、「一線を越えてその時間を共有す
に映る美的なものは、音楽的感性により語
ること」を大切にしているという。彼が踊
られるからなのだろうか。この響きと初め
るダンスは、何かストーリーがあるわけで
て出会った時に、音色に造形的筆触を感じ
もなく、違和感があるだろう。しかし、動
る。それはいつかどこかで耳にしたもので
作の中には、普段我々が何気なくおこなう
なく、かつて視覚を介して精神に語られた
仕草にも似ている部分がある。同じ空間に
美術の物語である。さらに時として、それ
いる者は、異質 / 同質の連続を目の当たりし、
は物語を超えた視覚的な現実であった。 (S)
違和 / 共感を繰り返す。空間を共有するこ とによって、“自己と他者”という日常的な 問題を再認識させるのかもしれない。(K)
28
29
第 2 室:イリュージョン
2
ス ズ キ Natsuko
ナ ツ コ Suzuki
第 2 室へ進むと、賑やかな空間が広がっている。 「第 2 室:イリュージョン」には、ダイナミックで動的な要素が含
まれている作品を集めた。他の展示室と比べると、エネルギッシュな印象が強く、多種多様な表現が混在しているので、 この状況に違和感を抱く人もいるだろう。
サッポロ未来展は、若手作家によっておこなわれるグループ展である。展示される作品は、特定のテーマを設けて
制作されているわけではない。各々の作家がつくり出した作品は、次々と展示空間に組み込まれ、化学反応を起こし、 新たな何かが生まれるのだ。その“何か”とは、見る人の捉え方によって様々な可能性を秘めている。サッポロ未来 展の特徴のひとつである〈作品と作品の化学反応〉を、本展では特に強調するような展示形態をとった。
各作家の感覚や想像力によって生み出された作品が集まるこの展示室は、 「統一」というものは一切無視され混沌と
している。どのように見たら良いのか戸惑う人もいるかもしれない。そのような場合は、これらの作品群を一つの風景 として捉えてみてはいかがだろうか。イメージの集合体は、見る人のイメージが加えられることによってひとつの風景と
して完成することができる。そのプロセスがこの第 2 室のテーマである〈イリュージョン〉なのだ。多種多様な表現の 混在は、人々を惑わし、魅了し、多くの物語を想像させ、この風景は変化し続けるだろう。
片山 実季
伊
藤
N a o m i
直
美
I t o h
31
黒
岩
E r i k o
風
間
Y u h i
32
絵
里
子
K u r o i w a
雄
飛
K a z a m a
野
健
Takeshi
河
Kawano
大
浦
K a z u y o
和
代
O u r a
33
安
居
S a o r i
風
間
沙
織
Y a s u i
天
心
Tengshing Kazama
34
川
上
亜
里
子
Asako Kawakami
千
葉
Takahiro
隆
弘
Chiba
35
第 2 室 出品作家
スズキ ナツコ
7 年前の春、祖父が亡くなった。
1980 年 北海道札幌市生まれ
ぼくは火葬場で、祖父が灰になるまでの数十分間、煙 突から昇る煙を見つめていた。もう二度と会うことの
《 そ れ ぞ れ に わ か る 合 図 》《d r o p d r a w i n g 》 動 物 を モ チ ー フ に 作 品 を 作 り 続 け て い る ス ズ キ は 、 今 回 い く つ か
できない悲しみと共に、ぼくは、人間も物質であると
の 絵 を 並 べ た 作 品 を 発 表 し て い る。 柔 ら か い 色 合 い で 描 か れ た 絵 が、 無 造 作 に 置 か れ て い る 。 子 ど も の 頃 に 、 自
いう当たり前のような現実にショックを受けた。
分 だ け の 場 所 を 発 見 し た よ う な 感 覚 に 陥 る よ う で あ る。 描 か れ て い る モ チ ー フ は は っ き り と し た 輪 郭 が あ る わ け で は な い が、 鑑 賞 者 に さ ま ざ ま な イ メ ー ジ を 膨 ら ま せ る。 ス ズ キ は、「 思 い つ か な い ま ま つ く っ て い る 」 と い っ て
現在、米国のライフジェムとスイスのアルゴダンザの
いるが、無意識の中で彼女自身の世界があるのであろう。物語性の強い作品だ。 (K )
2 社が、遺灰からダイヤモンドを製造するサービスを 行っている。遺灰に高温高圧を加え、いわば死者を二 度 焼 き 、圧 縮 す る こ と で 、遺 族 は 故 人 の 身 体 の 一 部 ( で あったもの)をきわめて純度の高いかたちで所有する
伊藤 直美
ことができる。そのプロセスは「炭素の結晶化」の意 味を超えた、遺灰から故人の代用物(icon)的価値
1978 年 北海道札幌市生まれ
をもった新しい物質を創り出す、という現代の錬金術 に他ならない。
《 私 は 貴 方 を 高 嶺 の 花 と は 思 わ な い 》 は、 鉄 屑 に 埋 も れ た 花 が 一 輪 咲 い て い る。 日 常 生 活 の な か で よ く 目 に す る、
あのとき、煙となって空に散らばった祖父の遺灰は、 あらゆる塵や埃と混じり合いながら「雪」となって降 り積もった。
コ ン ク リ ー ト か ら 元 気 よ く 伸 び て い る タ ン ポ ポ を 連 想 さ せ る。 こ の 鉄 屑 の 世 界 は ど こ な の だ ろ う。 ひ ょ っ と す る と 未 来 の 世 界 か も し れ な い。 タ イ ト ル の テ キ ス ト は、 作 者 の 言 葉 で は な く、 そ こ に あ る 花 の 想 い か も し れ な い。 花は自分自身にこの言葉をつきつけることで、強くそこで生きていけるのだ。
その想像力が、ぼくの足を火葬場の眼前に広がる雪原 に踏み入れさせる。 代用物としての価値ならば、ダイヤモンドの輝きは一
黒岩 絵里子
体何を残してくれるのだろう。
1983 年 北海道札幌市生まれ 黒 岩 は、 抽 象 的 な も の を 描 き 続 け て い る。 時 に は 渦 の よ う な も の が 表 れ た り、 水 を 連 想 さ せ る よ う な も の を 描 い て い る。 そ れ は 目 を 閉 じ た 時 に 見 る、 瞼 の 裏 側 の 世 界 の よ う だ。 目 を 閉 じ る と、 光 の 加 減 や 意 識 の 変 化 に よ っ て、
吉
田
Hiroki
浩
そ れ は 流 動 し 続 け る。 心 象 風 景 と い っ て も 良 い の か も し れ な い。 彼 女 が 心 象 風 景 を 描 い て い る か は 分 か ら な い が、
気
そ う 捉 え る こ と も で き よ う。 色 は カ ラ フ ル で あ り、 時 に グ ロ テ ス ク で も あ る。 鑑 賞 者 が 見 る こ と に よ っ て 、 さ ら
Yoshida
に異なった風景へと変化し続けるだろう。 (K)
風間 雄飛 1982 年 北海道上川郡東川町生まれ 絵 を 描 く と い う 行 為 よ り、 刷 る と い う 行 為 の 方 が 相 応 し い。 風 間 が 制 作 テ ー マ に し て い る の は「 記 憶 」 だ。 曖 昧 で あ り、 一 瞬 で 別 の も の へ と 変 化 し て し ま う 記 憶。 風 間 が 捉 え た 一 瞬 の 記 憶 を い く つ か の パ タ ー ン へ と 分 割 し、 版 を 刷 る。 作 品 は、 彼 自 身 の 記 憶 で あ る が、 見 る 人 が 自 分 自 身 の 記 憶 と 重 な る こ と に よ っ て 流 動 的 に 変 化 し、 記 憶が共有されていく。 (K)
河野 健 1973 年 北海道苫小牧市生まれ 《 白 湯 》 家 族 を モ チ ー フ と し て い る が、 子 ど も へ 焦 点 を 絞 っ て い る。 一 見 子 ど も が 見 て い る 風 景 が 描 か れ て い る よ う に 思 う が、 そ れ は 父 親 と し て の 河 野 の 視 線 で あ る。 子 ど も を 観 察 す る こ と に よ っ て 、 そ れ は 家 族 の 団 欒 の 象 徴 で あ る と と も に、 家 族 の 危 う さ な ど を 捉 え て い る。 家 族 と い う 存 在 を さ ま ざ ま な 視 点 で 考 え さ せ る 作 品 で は な いだろうか。 (K)
大浦 和代 1980 年 北海道札幌市生まれ 今回の展覧会には、食をモチーフにした作品を出品したという。赤い色がとても印象的だ。タイトルは《j apanese food 200908》。人間にとって重要な営みの中に“食”がある。人間は、他の生命体を自分に取り込むことによっ て、自己を存在させている。そうしなければ、生きていけないのである。大浦の作品に登場するフレッシュな赤(ト マ ト の 赤 を 連 想 さ せ る が 定 か で は な い )、 そ れ は 生 き て い る 人 間 が 口 か ら 自 分 へ 取 り 込 む 赤 だ。 フ ァ ス ト フ ー ド が
松
隈
無
憂
樹
あふれている現代への危惧を表しているのかもしれない。 (K)
Muju Matsukuma
36
37
第 2 室 出品作家
安居 沙織
松 原 壮 志 朗 人 形 劇 / 2011.3.27 [sun]
1981 年 北海道深川市生まれ 描 か れ て い る の は、 よ く 祭 り で 売 ら れ て い る 金 魚 で あ る。 ビ ニ ー ル 袋 の 水 の 中 に 入 れ ら れ て い る 金 魚 だ。 画 面 に大きく描かれており、タ イ ト ル は 《 R ed A N D B lack》。 風 景 は 具 体 的 に 描 か れ て い な い が 、 祭 り の 灯 りに 照 ら さ れ た 金 魚 な の だ ろ う か。 安 居 は、 こ れ ま で 色 を テ ー マ に 作 品 を 描 い て き た。 彼 女 に と っ て、 祭 り の 金 魚 は印象深かったのだろう。記 憶 自 体 を 再 現 す る こ と は 困 難 だ が 、鮮 明 に 残 っ て い る 赤 と 黒 を よ く 再 現 し て いる。 彼女にとっての記憶とは、“ 色 ” な の か も し れ な い 。 ( K)
風間 天心 1979 年 北海道上川郡東川町生まれ 《mountain》 高 く そ び え る 作 家 の 被 造 物 と 真 上 の 惑 星 と 見 間 違 え て し ま い そ う な 巨 大 バ ル ー ン 。 そ の 目 下 の構造物は大気の動 き と と も に 、いつまでも同じ形を保たない 。空 は 動 き 、雲 は 流 れ て は 消 え る 。運 ば れ る 風 。 数ある宇宙の星の中 で 、自 然 が こ ん な に も 多 く の 表 情 で 出 迎 え て く れ る 惑 星 は ど こ か に あ る も の か 。 人 が 作 っ た 造 物、 そ こ に あ る フ ォ ル ム と 自 然 の 息 吹 が 出 会 う 時、 作 者 の た た ず む 、 広 大 な フ ィ ー ル ド に 、 な に か が 余 韻となって残る事だ ろ う 。 ( S)
暗闇の中で、最も印象深い思い出を思い返してみてはどうか。人形たちは 舞い踊る、そして雄弁に語る。心が宿った人形の行為が、私たちの体験し た思い出とシンクロする時、苦悩に苦しみながら、それでも懸命に動こう とする人形たちの、たわいもないおとぎの世界から、不思議と日常のリア ルな経験をむくむくと感じさせるのだから、人形の中に松原が入っている んじゃないかと、不思議な、それは不思議な人形たちなのである。(S)
川上 亜里子 1990 年 北海道えりも町生まれ 川 上 は、 北 海 道 の 厳 し い 自 然 と と も に 生 き、 諸 神 を 敬 う ア イ ヌ の 文 化 に 共 感 し、 制 作 の テ ー マ と し て い る。 出 品 作 の ひ と つ < ユ ク カ ム イ の 角 > は、 ア イ ヌ の 神 ア イ ヌ ラ ッ ク ル が、 鹿 の 神 ユ ク カ ム イ と 闘 っ た と い う 神 話 からインスピレーションを 受 け て い る 。 捕 え た 動 物 を、 神 の 仮 の 姿 と し て 崇 め、 そ の 肉・ 皮・ 骨 す べ て を 無 駄 に し な い ア イ ヌ。 川 上 は、 ユ ク カ ム イ の 角 が 現 代 ま で ど こ か で 大 切 に 奉 ら れ て い る だ ろ う と 想 定 し 、 超 自 然 的 で 崇 高 さ す ら 感 じ ら れ る 角 を 制 作 し た。 ( T)
千葉 隆弘 1976 年 北海道札幌市生まれ 千 葉 は、 社 会 へ の 疑 問 を 一 つ の 制 作 動 機 と し て お り、 昨 年 末 か ら 戦 車 を モ チ ー フ に し た 一 連 の 作 品 を 制 作 し 始 め た。 戦 車 は、 戦 争 や 戦 地 と い っ た ネ ガ テ ィ ヴ な イ メ ー ジ を 連 想 さ せ る。 し か し、 彼 が つ く っ た 戦 車 は、 必 ず し も そ う で は な い。 立 体 と ド ロ ー イ ン グ で 戦 車 を 表 し て い る が 、 そ の ほ と ん ど が 解 体 さ れ た 戦 車 で あ る 。 木 材 の 骨 格 が む き 出 し の 戦 車 が あ り、 ド ロ ー イ ン グ で 描 か れ て い る 戦 車 は カ ラ フ ル で 実 際 の 重 々 し い 戦 車 の イ メ ー ジ と 異 な る。 戦 車 と い う 存 在 を さ ま ざ ま な 方 法 で 解 体 す る こ と で 、 争 い の 終 焉 を 指 し 、 戦 車 の 新 し い 捉え方の可能性を提示している。 (K)
吉田 浩気 1986 年 北海道札幌市生まれ 《Dia mo n d Du s t》 小 さ な 心 を 示 そ う か。 そ れ は 愛 を 語 れ ぬ 心 の 内 だ。 ど こ で 想 い を 告 げ よ う か。 こ の 広 大 な フ ィ ー ル ド、 こ こ で 告 げ よ う。 大 き な 声 な ど 出 さ な く と も、 走 っ た 息 切 れ は 空 気 が 伝 え て く れ る だ ろ う。 作 者 は な に を 想 う。 広 大 さ の 中 で 唯 一 の も の。 真 白 な 雪 は ど こ も 一 緒 な の か? 作 者・ 吉 田 は、 そ の 場 に い る 者 へ 大 き く 語 っ て い る。 雪 は 郷 土 へ の 魂 と と も に 何 度 も あ り 続 け た、 冬 に 訪 れ る 異 邦 人 の 様。 幾 度 も 出 会 い、 別 れ 続けた冬の異邦人に祖父の 姿 を 見 る 。 彼 は 雪 と 、 ど こ で 語 り 合 っ た の だ ろ う か 。 ( S )
松隈 無憂樹 1985 年 東京都八王子市生まれ、札幌育ち 《 空 も 閉 じ 込 め る 奴 ら 》 “ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ” と“ 翻 弄 ” を テ ー マ に 制 作 さ れ た 作 品 は 、 絵 具 で 塗 り 重 ね ら れ た マ チ エ ー ル が 印 象 的 だ。 具 体 的 に 何 が 描 か れ て い る の か 分 か ら な い が 、 タ イ ト ル を 意 図 的 に 鑑 賞 者 を 翻 弄 さ せ る よ う に「 的 確 で は な い こ と 」 を 提 示 し て い る と い う 。 松 隈 が つ く っ た 作 品 や タ イ ト ル は 人 を 翻 弄 さ せ る。 な ぜ な ら、 作 品 を 読 み 解 く た め の 的 確 な こ と は 何 一 つ 提 示 さ れ て い た い か ら だ 。 人 は 、 常 に 何 か 答 えを得ようとするが、本当は的確な答えというものは存在しな い の か も し れ な い 。 ( K)
38
第 3 室:クライマックス
冨
田
哲
Tetsushi
司
Tomita
サーカスのクライマックスとして位置付けられた本章の作品は、感情やメッセージ性が強く表出されているのが特徴 である。ひとつひとつの作品が見る者に訴えかけ、ファンタジー、ユーモア、インパクト、感動などといった、さまざま な印象を与える。観賞者が芸術作品と対峙したとき、その見え方が人によって異なるのは言うまでもない。それは観 賞者個人の考え方やそれまでの体験などに基づいており、言いかえれば、作品と向き合うことは自分自身と向き合うこ とに他ならない。華やかなイリュージョンの後に深い思索の時を経て、観賞者はサーカスのテントから日常世界へと戻っ てゆくのである。 寺地 亜衣
3
問
谷
A k i
明
希
T o i y a
41
三
浦
T a k u y a
佐
藤
J i n k e i
42
卓
也
M i u r a
仁
敬
S a t o
加
藤
広
貴
H i r o k i
K a t o
山
啓
田
K e i k i
貴
Y a m a d a
43
池
田
光
Mitsuhiro
菊
44
弘
Ikeda
池
大
Yutaka
Kikuchi
菅
野
舞
M a i k o
吉
井
子
K a n n o
見
Michiko
知
子
Yoshii
45
第 3 室 出品作家
冨田 哲司 1977 年 北海道札幌市生まれ 出品作《Ariadne in Contemporary Maze》は、石膏像のアリアス ( アリアドネ ) と映像によるインスタレーション。ノー トパソコンのデスクトップには、同じデータが入った 1000 のフォルダでびっしりと埋め尽くされており、各フォルダ には「Ariadne」の名称で、1 から 1000 までの通し番号が入っている。乱雑に取り散らかったフォルダや文字は、デジ タルメディアによって表面的な視覚情報に惑わされ、オリジナルとコピーの判別ができなくなった、現代における美学上 の迷宮を表している。アリアドネは、ギリシャ神話では迷宮脱出への道を示したことで知られているが、その彼女がここ では、壁に投影された画面から背を向け涙を流している。視覚的メディアの台頭する現代社会への問いかけを示した作品。 (T)
問谷 明希 1980 年 北海道旭川市生まれ 問 谷 の 油 彩 画 は 一 見 し て 抽 象 画 の よ う で あ る が、 よ く 目 を 凝 ら し て み る と、 人 物 や 風 景、 静 物 な ど、 さ ま ざ ま な モチーフが浮かび上がってくる。 彼 女 は、 ど ん な に ち っ ぽ け で 単 純 な も の で も、 焦 点 を 当 て て み る と 光 る 瞬 間 が あ る と 語 っ て い る。 絵 画 の 中 の モ チ ー フ も そ れ ぞ れ は 素 朴 だ が、 淡 い 色 彩 を 重 ね る こ と に よ っ て 描 か れ る そ れ ら は、 観 て い る と 確 か に 光 を 当 て た ようにぼんやりと浮き彫りになる瞬間がある。 (T)
三浦 卓也 1978 年 北海道函館市生まれ 《 多 く の 物 語 を 語 る 》 懐 古 は 時 を 飛 び 越 し て 現 実 に 記 さ れ る。 煌 め き は 画 中 の 外 の ど こ か に 置 か れ、 そ れ は 瞳 に 映された。静寂は雄弁だ。すでに過ぎた日々ならば、いずこかを探して、それを示そう。 静寂の戸をほんの少しだけノックしてみたい。 (S)
川
上
亜
里
子
Asako Kawakami
佐藤 仁敬 1980 年 北海道滝川市生まれ 《 不 在 の 存 在 》 も し 世 界 が 再 構 築 さ れ、 そ の 全 て が 変 容 す る 日 が 来 る な ら ば、 そ の 変 動 を あ だ や 疎 か に し て、 日 常 を 過 ご せ る も の な の か。 馬 を 描 く 作 家 の 目 線 が、 四 角 四 面 の 世 界 か ら、 肉 体 の 静 寂 さ を 解 き 放 つ。 馬 は 変 容 す る 自 ら の 生 の 内 に、 死 と い う 虚 無 の 状 態 を 維 持 し て い る の か。 い や、 も し か し た ら そ の 馬 の 魅 力 は な お 絶 大 な る 久遠(くおん)なものと言うことなのか。象徴するものは、永遠の嘶きか。 (S)
加藤 広貴 1972 年 北海道苫小牧市生まれ 《 ピ ッ カ ピ カ の 月 夜 》 月 に 手 を 伸 ば そ う。 月 に は 兎 だ っ て い る し、 狂 気 の こ と を ル ナ シ ー( ル ナ は 月 ) と 呼 ん だ り も す る。 い ろ い ろ 月 夜 に 起 き て い る。 月 は 世 界 を 誘 惑 す る。 た ま た ま 太 陽 が 月 を 照 ら し て い る だ け で 、 月 の 女 神 は 太 陽 な ど な く て も 街 を 見 て い る。 人 間 は 月 に 近 づ こ う と し て、 鉄 塔 の 街 を 高 く 作 る 。 そ ん な 一 夜 を 感 じ さ せ た作者・加藤の夜想。 (S)
山田 啓貴 1978 年 北海道苫小牧市生まれ 《 海 岸 の 記 憶 》 こ の 絵 は 貴 い の だ と 思 う。 日 常 に 出 会 う 多 く の 諸 要 素 は 常 に 私 た ち に 語 り か け て く る。 け れ ど そ れ は 永 遠 だ ろ う か。 磯 の 香 り そ の 塩 か ら さ、 鼻 腔 を 通 り 匂 い が 当 事 者 に 伝 わ る。 そ れ は い み じ く も 語 り 難 い 不 明 瞭 な、 い つ の 日 か の 想 い か。 作 者・ 山 田 を も っ と 知 り た い。 彼 の 無 意 識 へ の ア プ ロ ー チ。 レ ミ ニ セ ン ス remi ni scence、記憶の再生。 (S)
波
田
K o j i
46
浩
司
H a t a
47
第 3 室 出品作家
池田 光弘
交
幻 想 的 な 風 景 と、 物 質 と し て キ ャ ン バ ス の 上 に 付 着 す る 油 絵 具 と が 混 在 す る こ と で、 絵 画 の な か に 独 自 の 世 界
透明のキャンバスに好きな絵を描いてもらいました。透明のキャンバスを
観 を 作 り 上 げ る 池 田。 本 展 の 出 品 作 ≪ untitled ≫ は、 写 実 的 に 描 い た 岩 の 上 に さ ま ざ ま な 色 の 絵 具 が 塗 り 重
た く さ ん 重 ね て ( レ イ ヤ ー )、 透 か せ て 見 な が ら 絵 を 描 く こ と が で き ま す 。
ね ら れ て お り、 そ の 層 が あ た か も 岩 の 中 心 部 に 堆 積 し て い る か の よ う に 見 え る。 印 象 派 を 思 わ せ る こ の 手 法 に よ っ て、 絵 具 の 鮮 や か な 色 彩 が 保 た れ る。 そ し て 絵 具 層 の 塗 り 重 ね に よ っ て 深 い 奥 行 が 生 ま れ、 観 る 者 の 視 線 を画面の中央へと引きつけ る 。 ( T )
菊地 大 1976 年 北海道苫小牧市生まれ 今 回 の 出 品 作 ≪ blast ≫ は、 菊 地 が「 大 人 積 み 木 」 と 呼 ん で い る シ リ ー ズ の 一 つ 。 粘 土 製 の ブ ロ ッ ク が 斜 方 へ 高 く 積 み 上 げ ら れ て い る。 展 示 室 の 空 間 を 分 断 す る か の よ う な 存 在 感 を 放 ち 、 ま た 同 時 に 緊 張 感 を も 感 じ さ せ る。 不 安 定 な 角 度 に 積 み 上 げ ら れ た ブ ロ ッ ク は、 さ ら に 上 方 へ 延 び 続 け よ う と し て い る の か 、 そ れ と も バランスを失い、今まさに倒壊する瞬間なのか。作品の解釈は 、 観 る 者 に ゆ だ ね ら れ る 。 ( T )
レ イ ア あ ー と / 2011.3.19 [sat] - 2011.3.27 [sun]
1978 年 北海道岩内町生まれ
流
菅野 舞子 1984 年 北海道小清水町生まれ 《 N0.1 WGS-84( 43.0 5 9 5 9 8 1 4 1 .330579)》 絵 画 や 立 体 、 写 真 、 映 像 と い っ た メ デ ィ ア は 、 時 に は 抽 象 的 な イ メ ー ジ を 鑑 賞 者 へ 与 え、 そ の イ メ ー ジ が 変 質 す る よ う な ア プ ロ ー チ を す る。 そ れ ら と 比 べ る と、 言 語 は、 明 確 な イ メ ー ジ を 他 者 と 共 有 す る た め に 一 般 的 に 使 用 さ れ て き た。 具 体 性 と い う 言 語 の 特 質 を、 あ え て 失 わ せ、 キ ー ワ ー ド と な る 言 葉 を 元 に 次 々 と 言 葉 を 連 想 さ せ て 関 係 を つ な げ て い く の が、 菅 野 の 作 品 だ。 本 に 書 い て あ る 質 問 や 提 案 に 鑑 賞 者 が 答 え を 書 き 込 み、 言 語 が 持 つ 曖 昧 さ や 抽 象 性 を 引 き 立 て、 一 般 的 な 言 語 と は異なったイメージ共有を 提 案 し て い る 。 ( K )
吉井 見知子 1979 年 北海道広尾郡大樹町生まれ 広尾郡大樹町生まれの吉井。故郷の大自然は、彼女にとって「 人 生 の 原 点 」 で あ る と い う 。 出 品 作 ≪ 龍 血 樹 ≫ は、 絵 画 と 天 井 か ら 吊 り 下 げ ら れ た 立 体 を 組 み 合 わ せ た 連 作 。「 龍 血 樹 」 と は 、 カ ナ リ ア 諸 島 原 産 の 巨 木 で、 地 球 上 で も っ と も 長 寿 の 木 で あ り 、 7000 ~8000 年 生 き る と さ れ て い る。 ま た、 血 の よ うに赤い樹液からその名がつけられた。 彼女は、悠久の時のなかで生き続ける神秘的な龍血樹に魅せら れ 、 本 作 の 制 作 に 至 っ た 。 ( T )
波田 浩司 1971 年 北海道江別市生まれ 波 田 は、 人 物 と 建 物 を 描 き 続 け て い る が、 そ れ は 一 体 何 を 意 味 し て い る の か。 現 代 社 会 で は、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 通 し て さ ま ざ ま な 国 や 人 種 を 超 え て イ メ ー ジ を 共 有 し て い る。 実 際 に 経 験 し て い な い こ と を、 ネ ッ ト か ら 具 体 的 な イ メ ー ジ を 引 き 出 す こ と に よ っ て 間 接 的 経 験 の 機 会 は 増 え、 身 体 性 が 失 わ れ つ つ あ る。 波 田 が 描 く 人 物 は、 湾 曲 し て 翼 が 生 え て い る。 身 体 性 の 喪 失、 そ し て 新 た な「 身 体 性 と 都 市 」 の 在 り 方 を 提 示 し て い る の か も しれない。( K)
48
49
招待作家
堀
一
K a z u h i r o
招待作家
浩 H o r i
高
松
和
樹
Kazuki Takamatsu
大
泉
Kazuhiro
棚
澤
佳
広
Oizumi
寛
Hirosi Tanasawa
京
岡
H i d e k i
50
英
樹
K y o o k a
北
本
真
隆
Masataka Kitamoto
51
屋外展示
「第 10 回サッポロ未来展」に参加した 51 人の作家は、それぞれ作風も活動の場も多種多様であるが、北海道出 身、または北海道にゆかりがあるという共通項をもっている。普段の活躍の場がどこであれ、彼らは北海道を自らの 原風景として大切にしており、そのことを多かれ少なかれ作品にも反映させている。北海道という土地を愛しつつも、 一定の土地に定住することにこだわりをもたず、どこへ行ってもたくましく生きてゆく姿は、さながらノマド(遊牧民) のようであり、または自らの芸を糧として各地を転々とする旅芸人の姿をも彷彿とさせる。 展覧会後、彼らはまたそれぞれの日常に戻ってゆく。しかし 1 年後には再び札幌に集まって、また新たなサーカスを 披露するだろう。 「サーカス」の語源はラテン語の「円(circulus) 」である。 「サッポロ未来展」は、北海道を原風景とする若手作家に とって「旅」の出発点であり、また同時に帰着点でもあるといえよう。 寺地 亜衣
風
間
天
心
Tengshing Kazama
52
53
サッポロ未来展 2002 ー
第1回展
ー 2010
札幌時計台ギャラリー 全室
2002.3.4 ∼ 3.9
第 2 回展
札幌時計台ギャラリー 全室
第6回展
札幌時計台ギャラリー 全室
2007.3.19 ∼ 3.24
2003.3.17 ∼ 3.22 ■ 出品作家
■ 出品作家
朝田 千佳子/石山 由貴子/伊藤
朝地 信介/石山 有貴子/伊藤
生野/長部 佳代子/柿本 礼子/
生野/柿本 礼子/風間 真悟/加
加藤 広貴/加藤 宏子/河野 健/
藤 広貴/河野 健/河野 紫/佐
河原 真理子/菊地 大/木村 紘子
久間 和子/佐藤 弘法/竹居田
/郷田 晴子/河野 紫/佐久間 和
圭子/田中 怜文/中川 治/中島
子/佐々木 永利子/佐藤 弘法/
涼沙/間 笑美/波田 浩司/秦
澤出 玲奈/鈴木 奈津子/高橋 優
朋子/平松 佳和/藤本 太志/堀
依/竹居田 圭子/多田 和史/田
口 静子/宮地 明人/村山 之都
中 怜文/千葉 隆弘/月田 有香/
/山田 啓貴/山本 陽子/渡辺
辻 由佳里/出戸 千秋/中川 ゆき
和弘/渡邊 慶子/渡辺 元佳
第 7 回 展 「THE
PRESENT」
■ 出品作家
■ 出品作家 青木 美歌/秋元 美穂/稲實 愛 子/風間 真悟/片山 実季/河野 健/菊地 博江/久津間 律子/こ うの 紫/小林 愛美/齋藤 麗/ 佐直 麻里子/佐藤 仁敬/佐藤 正和/高村 葉子/竹居田 圭子/ 田中 怜文/戸山 麻子/長屋 麻 衣子/西山 直樹/波田 浩司/平 野 可奈子/藤井 康子/三浦 卓 也/水野 智吉/宮澤 佑輔/宮地 明人/明円 光/村山 之都/谷地 元 麗子/渡辺 和弘/渡辺 元佳 ■ 招待作家 大泉 佳広/北本 真隆/京岡 英 樹/堀 一浩
乃/中島 涼沙/永良 雄亮/波田 浩司/秦朋 子/平松 佳和/堀江 千草/堀口 静子/前田 宗/三浦
札幌時計台ギャラリー 全室
2008.3.17 ∼ 3.22
青木 美歌/秋元 美穂/風間 真 悟/片山 実季/河野 健/ こう の 紫/齋藤 麗/佐藤 仁敬/高 村 葉子/竹居田 圭子/田中 怜 文/長屋 麻衣子/西山 直樹/波 田 浩司/平野 可奈子/福森 崇 広/藤田 有紀/水野 智吉/宮澤 佑輔/宮地 明人/明円 光/村山 之都/谷地元 麗子/吉田 浩気/ 渡辺 直翔/渡辺 元佳
卓也/村山 之都/安居 沙織/山 田 啓貴/山本 陽子/吉川 孝/渡 邊 慶子
第 2.1 回展
南幌町ふるさと物産館ビューロー
2003.8.5 ∼ 8.20
■ パネルトーク 3 月 18 日 ( 日 ) 北海道立近代美術館 講堂 主催 : サッポロ未来展実行委員会、北海道新聞社 共催 : 札幌時計台ギャラリー パネラー : 荒巻 義雄(作家、札幌時計台ギャラリー代表) 一井 建 二(月刊 美術の窓 編集長)※功刀 知子より変更 古家 昌伸(北海道新聞社 編集局文化部)佐藤 友 哉(北海道立近代美術館 副館長)田井 淳(独立美術協会 会員)波田 浩司(サッポロ未来展 代表) 司会 : 高橋 伸(独立美術協会 会員、札幌武蔵野美術学院 学院長)
第3回展
札幌時計台ギャラリー 全室
2004.3.15 ∼ 3.20
:miraiten[金沢]
金沢市民芸術村 アート工房
2008.4.8 ∼ 4.13
ギャラリー 点
■ 講演会 3 月 17 日 ( 月 ) 17:00 ~ 18:30 札幌時計台ギャラリー A 室 講師 吉田 豪介(美術評論家)
第 8 回 展 「LABORATORY」
札幌時計台ギャラリー 全室
2009.3.16 ∼ 3.21
■ 出品作家
■ 出品作家
■ 出品作家
■ 出品作家
伊藤 生野/柿本 礼子/風間 真悟
浅沼 さゆり/風間 真悟/加藤 広
井上 大輔/大泉 佳広/北本 真
秋元 美穂/稲實 愛子/海藤 慎
/加藤 広貴/河野 健/河野 紫/
貴/河野 健/河野 紫/齋藤 麗
隆/京岡 英樹/堀 一浩/ 渡辺
治/風間 真悟/河崎 辰成/ 河
田中 怜文/中川 治/中島 涼/沙
/鈴木 奈津子/竹居田 圭子/田
秀亮/
野 健/菊谷 達史/こうの 紫/
間 笑美/波田 浩司/秦 朋子/藤
中 怜文/中川 治/西山 直樹/
サッポロ未来展
佐藤 仁敬/佐藤 正和重孝/鈴木
本 太志/水野 智吉/宮地 明人/
間 笑美/波田 浩司/秦 朋子/
村山 之都/谷地元 麗子/山田 啓
藤本 太志/水野 智吉/宮地 明
/立岩 明日実/田中 怜文/波田
貴/山本 陽子/渡辺 和弘/渡邊
人/村山 之都/矢口 佳那/谷地
浩司/福森 崇広/藤田 有紀/水
慶子/渡辺 元佳
元 麗子/山田 啓貴/山本 陽子
野 智吉/宮下 倹/宮地 明人/
/渡辺 和弘/渡邊 慶子/渡辺
明円 光/村山 之都/谷地元 麗
元佳
子/吉田 浩気/渡辺 直翔/ 渡
「THE PRESENT」出品作家
秀尚/高村 葉子/ 竹居田 圭子
辺 元佳
■ お 絵 描 き ワ ー ク シ ョ ッ プ 3 月 1 5 日 ( 日 ) < 第 1 部 > 1 0 :3 0 ~ 1 3 :3 0 、< 第 2 部 > 1 4: 30 ~ 17: 30 さっぽろテレビ塔 2F(し ら か ば ) 参 加 費 :1 組 5 0 0 円 対 象 :6 -1 2 才と保護者 協力 : ターナー色彩 ■ 音 楽 × 映 像 in 時 計 台 3 月 2 0 日 ( 金 ) 開演 19: 00 ~ 終演 20: 00 さ っ ぽ ろ 時 計 台 2 F( 時 計 台 ホ ー ル ) 入 場 1000 円(第 8 回展図録購入で無料)
第4回展
札幌時計台ギャラリー 全室
2005.3.14 ∼ 3.19
第5回展
札幌時計台ギャラリー 全室
2006.3.20 ∼ 3.25
第 9 回 展 「Forum」
札幌時計台ギャラリー 全室
2010.3.15 ∼ 3.20
第 1 0 回 展 「ノマディックサーカス」
北海道立近代美術館
2011.3.19 ∼ 3.27
■ 出品作家
■ 出品作家
■ 出品作家
■ 出品作家
秋元 美穂/風間 真悟/河野 健/
秋元 美穂/稲實 愛子/風間 真
稲實 愛子/風間 真悟/カトウ タ
本誌目次 p.2 ~ 3 参照
久津間 律子/斉藤 麗/佐藤 正和
悟/片山 実季/河野 健/菊池
ツヤ/河崎 辰成/河野 健/菊
■ 招待作家
/高村 葉子/田中 怜文/戸山 麻
博江/久津間 律子/河野 紫/小
谷 達史/北田 依知子、佐々木 ゆ
大泉 佳広/北本 真隆/京岡 英
子/中川 治/長屋 麻衣子/西山
林 愛美/齋藤 麗/佐藤 正和/
か/佐藤 志帆/佐藤 仁敬/佐藤
樹/高松 和樹/棚澤 寛/
直樹/間 笑美/波田 浩/司秦 朋
高村 葉子/竹居田 圭子/田中
舞/鈴木 秀尚/竹居田 圭子/中
堀 一浩
子/平松 佳和/藤井 康子/船橋
怜文/西山 直樹/波田 浩司/平
川 治/波田 浩司/久山 春美/
彩/水野 智吉/宮地 明人/棟方
野 可奈子/平松 佳和/藤井 康
福森 崇広/前田 健浩/三上 曜
一沙/村山 之都/谷地元 麗子/
子/三浦 卓也/水野 智吉/宮澤
/宮地 明人/谷地元 麗子/渡辺
渡辺 和弘/渡邊 慶子/渡辺 元佳
佑輔/宮地 明人/棟方 一沙/村
元佳
山 之都/谷地元 麗子/山田 啓
■ 招待作家
貴/山本 陽子/渡辺 和弘/渡辺
高松 和樹、棚澤 寛
元佳
■レイヤあーと(参加型作品) 会場内 参加費 無料 ■ レイヤあーと(参加型作品) 札幌時計台ギャラリー G 室 参加費 : 無料 ■ ギャラリーツアー 15:00 ~ 16:00 3 月 16 日(火) 風間 真悟、波田 浩司、高松 和樹、棚澤 寛 3 月 18 日(木) 竹居田 圭子、福森 崇広、鈴木 秀尚 3 月 20 日(土) 佐藤 志帆、宮地 明人、谷地元 麗子
54
■ パフォーマンス 3 月 19 日 ( 土 ) 16:00 祭太郎 / パフォーマンス 3 月 20 日 ( 日 ) 16:00 KICK/ カポエイラ独踊 3 月 21 日 ( 月 ) 16:00 茂呂 剛伸 / ジャンベ太鼓演奏 3 月 26 日 ( 土 ) 14:00 小玉 尚弘 / 和太鼓演奏 16:00 松原 壮志朗 / 人形劇 3 月 27 日 ( 日 ) 14:00 東海林 靖志 / ダンスパフォーマンス 16:00 こうの 紫 / 三味線演奏
55
サッポロ未来展 10th“ノマディックサーカス”
[ 会場 ] 構成:渡辺元佳 制作:渡辺元佳、吉田浩気、中村朋美、藤田遼子 河崎辰成、長野真紀子、小杉侑以、若林啓
[ 図録 ] 編集:福森 崇広、風間 天心 執筆:片山 実季、佐々木 慶一、寺地 亜衣
写真:小牧 寿里 デザイン:DENJU DESIGN[成田 伝寿]
印刷:◯◯◯◯ 発行:サッポロ未来展実行委員会 2011 年 5 月 1 日
サッポロ未来展実行委員会事務局 代表 : 波田 浩司 〒 060-0032 札幌市中央区北 2 東 1-2 札幌武蔵野美術学院 内 Tel : 011- 251-7844 Fax : 011- 251-7848 E-mail : info@sapporomiraiten.com Website : www.sapporomiraiten.com
56
図録別冊