architecture portfolio

Page 1

portofolio s h i n i c h i

h i r a s e

meiji university 2014-2017


チ ェ コ の 言 語 学 者 ヤ ン ・ ム カ ジ ョ フ ス キ ー (1891-1975) は、 一 般 的 に 話 さ れ る 日 常 言 語 と 詩 的 言 語 の 相 違 に 関 し て 「前 景 化」 と い う 概 念 を 用 い て 説 明 し ま し た。

「 言 語 を 伝 達 の た め に 用 い る の で は な く、 表 現 行 為、 言 語 行 為 そ れ 自 体 を 前 面 に 押 し 出 す た め に 用 い る こ と が 詩 的 言 語 の 本 質 で あ る。」 こ の ポ ー ト フ ォ リ オ は、「 機 能 か ら 解 放 さ れ た 建 築 」 を 志 向 し た 卒 業 設 計、 言 語 論 を 援 用 す る こ と で 「空 間 の 詩 学」 を 目 指 し た 修 士 設 計 の 設 計 方 法 を 扱 っ た も の で す。

卒 業 設 計 は、 シ ン タ ッ ク ス に よ っ て 生 成 さ れ た 形 態 に 後 か ら 敷 地 と プ ロ グ ラ ム を 与 え る 設 計 過 程 の 実 験 を 行 い ま し た。 こ こ で 目 指 し た こ と は、 建 築 の 純 粋 性 で す。 建 築 の 純 粋 性 は 形 態 か ら 機 能 を 剥 ぎ 取 り、 純 粋 な 美 と し て 自 立 し た 価 値 を 認 め ま す。 機 能 は 社 会 や 時 代 に よ っ て 左 右 さ れ る 可 変 的 な 性 格 を も つ も の で す。 そ の よ う な 機 能 を 根 拠 に 設 計 す る の で は な く、 形 態 が 生 成 さ れ る 構 造 ( シ ン タ ッ ク ス ) を 根 拠 と す る こ と で、 人 が 空 間 の 中 で 主 体 的 に 機 能 を 発 見 し 参 加 で き る と 考 え ま し た。

修 士 設 計 の 主 題 は、 コ ン テ ク ス ト を 排 除 し て 形 態 の 美 し さ や 純 粋 性 を 追 求 す る の で は な く、 形態の自立した構造であるシンタックス ( 統辞 ) に場所 ( コンテクスト ) の変数を導入するこ と で す。 そ こ で、 自 立 し た 統 辞 に よ っ て 内 容 を 規 定 す る 言 語 が、 実 際 に 現 実 世 界 に 表 出 さ れ る 際 に コ ン テ ク ス ト を 参 照 す る こ と で、多 様 な 意 味 内 容 を 内 包 す る 言 語 構 造 に 着 目 し ま し た。 詩 の 概 念 は、 文 藝 批 評 の 分 野 に お い て、 統 辞 と コ ン テ ク ス ト の 二 項 対 立 の 関 係 か ら 導 き 出 さ れ て い ま す。 故 に、 形 態 を 生 成 す る 統 辞 に コ ン テ ク ス ト を 変 数 と し て 導 入 す る 設 計 方 法 は、 あ る 種 の 空 間 の 詩 学 を 導 く も の で あ る と 考 え ら れ ま す。

2


about 平瀬 真一 10.06.1992

education 2015 明治大学 卒業 2017 明治大学大学院博士前期課程 修了 skills

interest

vector works

黒石ほるぷ子ども館 菊竹清訓

adobe illustrator

代々木上原の住宅 篠原一男

adobe photoshop adobe in design

contents 卒 業 設 計 composition− 形 態 の シ ン タ ッ ク ス を 用 い た 設 計 方 法 に 関 す る 実 験 −

p4

修士設計 詩的言語の翻訳

p15

3


COMPOSITION シ ン タ ッ ク ス を 用 い た 設 計 手 法 に 関 す る 実 験

この卒業設計は形態のシンタックスを用いた設計手法

ここで提案する建築の主題は、テラーニを参照したア

に関する実験である。

イゼンマンの過程(フォルムの出現の原理を応用、発

機能主義的ではない純粋な形態を追求した P. アイゼ

展させる) を参照することで、「機能から解放された

ンマンは、G. テラーニが設計したファシスト党地方

建築」を設計することである。

本部 Casa del Fascio(1939) から機能と意味を剥ぎ取

形態から機能を剥ぎ取る理由が二つある。一つは、機

り、 形 態 の シ ン タ ッ ク ス と し て 説 明 で き る こ と を 示

能のために建築の比例や形態の美しさを犠牲にしては

した。そしてアイゼンマンは、Casa del Fascio から、

ならない。もう一つは、時代や社会の変化によって常

フォルムの出現の説明可能な原理、法則、構造を抽出

に機能は変化し続けていることである。シンタックス

し、 テ ラ ー ニ の 建 築 に 見 ら れ る 層 状 の 構 成 を House

によって生成された空間は、人が主体的に機能を発見

Ⅰ (1967) で応用し、それを House Ⅱ (1969) でグリッ

しうる空間であると考えられる。それは、人間主体的

ドの構成に発展させた。

でもあり、社会変化に対応できる建築である。

4


5


1/3

cube

1

3

2/3

2

1 1

3

plane

3 1

2

1 2

3

0.5

1

1

1 3

2

3

2

1

3

1

1

1.5

2

1

horizontal

1

1

2

1.5

1

1

1

1 1 3

1

1

1

1

1

1

1

1

2

1

1

space 20000

n- 500

3 8000

3 2

2

4000

vertical

n- 1000 n 3 2

純粋形態の生成 形態の生成方法は、 形態の構成を立方体とそれを囲う面、

の静的な 1:1、 黄金比に近似的な比例である 2:3 の比例を

立体グリッドに置き換えられた抽象空間に分解し、それぞ

用いる。そして、これらの形式はあるひとつの形態が分解

れのプロポーションを変形させていくものである。変形に

されたものである故、分解された三つの形式は同一な形態

用いるプロポーションの比例は、強い図像性を持つ正方形

へと重ね合わされることで統合される。

6

20000 16500 12500 8000 3200


敷地 南青山 対象敷地

敷地は青山霊園が立地する南青山一

外苑東通り

丁目を選定した。

環状3号線

南青山は戦前、陸軍歩兵第三連隊が 駐屯し、射撃場が存在していた。

青山葬儀所

戦後、射撃場は解体され、環状3号

乃木坂

線が射撃場跡地と交差するように開 通し射撃場跡地は二分された。

1900

1950

陸軍射撃場

2014

二分される射撃場跡地

色濃く残る射撃場跡地の痕跡

霊園のグリッド上に配置

射撃場の軸によって奥に移動

純粋形態の配置 敷地は、環状3号線がエッジとなり青山霊園と切り離され ている。そこで霊園のグリッドと射撃場跡地の軸線を重ね 合わせることで、霊園と接続する配置計画とした。 霊園のグリッドに沿って配置された建築は、射撃場跡地の 軸に引っ張られ敷地の角に追い遣られる。建築と霊園の間 にできた空白は、都市のオープンスペースとして利用され る一方、新たな霊園の延長としても機能する。

100m

7


3

2

空間分割 空間は分割されることで、個々に独自のプロポーション

純粋形態の空間は、二枚の交差された solid な垂直面と、

と性質が与えられる。そして、それぞれがある構造に基

水平面を侵食する L 字型の void を挿入することで分割

づいて互いに関係づけられることで、一つの空間が構成

される。solid と void の面の挿入は、それぞれ変形され

されると理解できる。

たグリッドを指標とすることで構成される。

8


9


EV EV 13

15

EV 06

16

17 17

18 18

32

31 32

03

14

05

31

GL+8800

05

12

21 21 EV

EV 01

EV EV 19 18

02

04

04

11 26 27

GL+0

22

22

23

23

GL+3200

GL+8000

01

エントランス

04

ミュージアムショップ

21

偉人館入り口

02

カフェ

05

ロビー

22

展示

03

トイレ

06

ロッカー

23

アーカイブ (open)

11

インフォメーション

17

チケットオフィス

26

所蔵庫

12

ラボ

18

荷物預かり室

31

ホワイエ

13

会議室

19

倉庫

32

礼拝室

14

アーカイブ (close)

15

機械・電気室

16

荷解き室

プログラム 納骨堂+ミュージアム プログラムは無縁仏の一時的な納骨堂と、青山霊園に眠

大久保利や志賀直哉など、幕末から現代まで各界で活躍

る偉人に関するミュージアムを提案する。

した偉人や、日本の近代化に貢献した外国人が多く眠っ

納骨堂は、少子高齢化と世帯構成がディンクスと単身者

ていることから、霊園を整備し公園化する計画が持ち上

が増加傾向であることから、将来的に無縁仏が増加する

がっている。そこで、ミュージアムの提案は近代日本の

ことは予測され、一時的に死者を供養する場所が必要で

歴史との関連を十分理解する貴重な人文資源を残すもの

あると考えた。

であり、資料館によって得られた収益の一部を霊園の維

ま た、 青 山 霊 園 は 都 心 の 中 で 自 然 豊 か な 場 所 で あ り、 持費に当てることができる。

第一期

第二期

第三期

1~4 年

1 ヶ月

永年

納骨

最後の供養

合葬 近い将来、無縁仏になることを考慮 し、他界→無縁仏→合葬までの過程を 設計する。他界から合葬までを一連の 流れにすることは、残された親族の負 担を軽減するだけでなく、無縁仏の改 葬後に残されてしまう墓の整理を不要 にし、墓地の整備に貢献する。

屋上に位置する開放的な納骨堂。

無縁仏が合葬を待つ場所。

壁に約 2000 の納骨が収められる。 最後に故人を供養する。

第一期から共に眠っていた 魂と合葬される。 10


EV EV 34

34

38

GL+15000

GL+13300 33

33

37 37

EV EV

EV

36

36

25

25

24

36

35 35

36

24 36 36

GL+16500

GL+12500

24

展示

35

ラウンジ

25

シアター

36

納骨墓地

33

応接間

37

無縁仏墓地

34

光庭

38

合葬墓地

scale1:500

3 墓地

3 応接室

ロビーのある中二階より、有料 3 礼拝室

2 ギャラリー

のギャラリーと納骨堂の動線は 分離される。また、納骨 堂 の 階高がギャラリーよりも 80cm 高くなっていることで、礼拝や 故人の供養に訪れた人と、ギャ

1 事務 ・設備

ラリーを見学に来た人の目線の 一致を緩和する。

0 コモン

ヴォイドによってロの字型になった平面は、射撃場跡地の軸線に よって、2つの L 字型平面と変形する。手前には、共用空間やギャ ラリーが配置され、奥に納骨堂や事務、設備などが配置される。

11


形式の重ね合わせによる矛盾

シンメトリー or アシンメトリー 柱のシンメトリーな配置や、中央のエントランスやアト リウムによって正面性が強調される。 一方、壁やプランのアシンメトリーな配置によって、シ ンメトリーとアシンメトリーが同時に知覚される。

二四五層構成 or

三層構成

真正面から見ると、3:2 に分割された二層構成、あるい は 四 層 構 成、 セ ッ ト バ ッ ク さ れ た 奧 の ス ラ ブ を 数 え る と、五層構成である。 一 方、 少 し 角 度 を つ け て 見 る と、 下 部 と 上 部 の 連 続 す る 壁 が 明 ら か に な り、 三 層 構 成 と し て も 知 覚 さ れ る。 kono 三層構成は、 最上階の墓地を訪れることで、 より いっそう強調される。

solid or

void

キューブ全体に着目すると、アトリウムはキューブから ソリッドとして抜き取られた残余空間である。 一方、2 つの L 字型ヴォリュームをキューブの断片と見 る と、 ア ト リ ウ ム は 2 つ の L 字 型 ヴ ォ リ ュ ー ム に よ っ て生じたヴォイドとして知覚される。

cube−solid or

grid+solid

30x30x30 のキューブをソリッドとすると、 全体のフォ ルムは垂直方向に 2/3 縮小され、コーナーのヴォリュー ムが削られたフォルムとして知覚される。 一 方、 フ ァ サ ー ド の 20x20 の 正 方 形 グ リ ッ ド に 着 目 す る と、 全 体 を 20x20x20 の 立 体 グ リ ッ ド と し て 認 知 で き、全体のフォルムは、立体グリッドに三方向からヴォ リュームが付随したフォルムとして知覚される。

12


西

南西

北西

北東

南東

2

3

3

1

1

1

2

0.5

3

2

1

1

1

1

0.5

scale1:400 13


14


詩 的 言 語 の 翻 訳

‘ 詩的 ’ という言葉は、建築や空間、音楽、映像を形容する際、

端を目指した。

しばし見受けられる言語の類推のひとつである。これら言語

本設計の特徴は言語論を援用し、言語構造を空間に翻訳する

以外のテクストに用いられる詩の類推は、精神及び身体的な

設計方法を提示した点にある。この言語構造の空間への翻訳

感覚を通して理解され、その本性が一体何であるのかは明確

は、言語の句構造規則である svo などの不規則生を持たない

に示すことは難しく、‘ 美しい ’ や ‘ 魅惑的 ’ といった類いの

規則を、均一のグリッド空間に翻訳し、そのグリッド空間に、

言葉と混合されて受け取られているようにも感じる。

移動・反復・重ね合わせ・欠き取り・刳り貫き・挿入といっ

そこで、自立した統辞とコンテクストの二項対立より導かれ

た変形操作をコンテクストとの関係の中で適応させたもので

る詩の概念を建築設計に援用し、建築空間における詩学の一

ある。

15


統辞とコンテクストの詩的機能 私たちは言語を利用する際、膨大な貯蔵庫の中から単語やフレーズを選択し、それを文法規則に従って 並べることで、文章や会話を成立させている。その時、この単語の前後関係であるコンテクストから詩 的機能が導き出されると考えられる。 このことに関して、ロシアの言語学者ローマン・ヤコブソン (1896-1982) は言語の詩的機能を次のよう に定義している。 「詩 的 機 能 は 等 価 の 原 理 を 選 択 ( 垂 直 ) の 軸 か ら 結 合 の 軸 ( 水 平 ) の 軸 へ 投 射 す る こ と で あ る」 ここで松尾芭蕉の一句を例にあげると、選択の軸は、例 えば「烏」という単語が、膨大な単語の貯蔵庫 ( パラディ グマティック ) の中から選択されたものであることを意 味し、 結合の軸は、 選択された「烏」 が音[k] や「枯 れ枝」や「秋の暮れ」が象徴するものと等価になるとい

枯れ枝に

烏のとまりたるや

秋の暮れ

松尾芭蕉

う原理に基づいて、時間的な継起 ( シンタグマティック )

[ka]

に沿って結合されることを意味する。

[黒ずんでいる] [黒い鳥]

[暗くなる時]

[対象]

建築空間における選択 ( 垂直 ) の軸とは、建築要素のス

[死の状態]

[( 年の ) 終焉]

[連想]

[ka]

[死の象徴]

[a] [k]

[音]

ケ ー ル や 材 質 で あ り、 そ れ ら を 空 間 的 時 間 的 な 継 起 に 沿って配列する ( 統辞 ) 結合の軸へ投射することで詩学 が導かれるといえる。

相対性詩的言語 右の図はメッセージを伝達する言語機構において、日常 言語と詩的言語の二項対立の図式を示したものである。 日常言語は、コードによって意味を規定することでメッ セージの伝達を保証する絶対的なものである。一方、詩

詩的言語

的言語はコンテクストを参照することでコードによって

コンテクスト

規定された意味とは異なる別の内容を生成し、日常言語 との対立関係より緊張や曖昧性といった詩の効果を有す るものである。 具体例をあげると、「海の風」 より「青

発信者

い風」 とした表現の方が詩的言語に近いことが言える。

メッセージの伝達過程

これは、「青い」 という言葉が、 コンテクストを参照す ることで、涼しい、冷たい、国によっては性的な、といっ

コード

たものを連想させ、青いというコードに規定された絶対

日常言語

的な意味と対立するためである。

16

受信者


生成文法 言語学者ノーム・チョムスキーの生成文法は、言語の構造を

ている。この不規則性を持たない言語規則 (svo) に変形とい

表層構造と深層構造に分解することで、単語の並び方の規則

う操作を介することで、全ての文章は単一の構造 (svo) に還

を示したものである。深層構造は、不規則性をもたない句構

元されるというのが生成文法の重要点である。

造規則と、それを変形させる変形規則の二段階の構造を有し

〈表層構造〉

Who do you love ?

表出された文章

you (do) love who .

〈句構造規則〉 文章の構造 (svo) に見られる不規則性を持たない規則

s

〈深層構造〉

v

o

〈変形規則〉 深層構造から表層構造に移行する際、適応される規則 Who do you (do) love who ?

建築設計への生成文法の援用 生 成 文 法 を 建 築 設 計 に 援 用 し た ピ ー タ ー・ ア イ ゼ ン マ ン

そして、句構造規則としてグリッドを採用し、そのグリッ

は、建築の知覚できるものを表層構造、その背後にあり精

ドに変形操作を投射していくことで形態を生成する機構を

神によって理解されるものを深層構造とした。

示した。

〈表層構造〉

表出された建築形態

テクスチャー・色彩・形

〈句構造規則〉

1)グリッドの設定

建築操作を投射するスクリーンとして機能

〈変形規則〉

2)内的な建築操作

移動・回転・シフト・欠き取り・レイヤー・ネガポジ etc

〈深層構造〉 傾斜・凹み・延長・移動 ・置換・正面性

建築設計への生成文法の援用は、コーリンロウの「理想的

ンテンタの変形型として読みとることを可能とする。

ヴィラの数学」で明らかとされた、コルビュジェとパラディ

またこの結果は、同一のグリッドから多様な形態が生成さ

オの統辞の類似性を、ヴィラ・ガルシュがヴィラ・マルコ

れることを明らかとしている。

マルコンテンタ/ガルシュ 1

マルコンテンタ/ガルシュ

マルコンテンタ/ガルシュ

ガルシュ

ガルシュ

1 1

2

1

2

2

1

2

1

2

2

1

2

1

2

2

1

2

1

2

0

原型

1 2

移動 ( 原型 ) 移動 ( グリッド )

3

移動 ( グリッド )

17

1.5 1.5

1.5

2

.5

1

2

1.5

1

1.5

1.5

2

1

1

1.5

2

.5

1

1.5

1

1

1

4

シフト ( グリッド )

5

重ね合わせ

2


戦前近代住宅の形態分析 - コンテクストによる統辞の変形 -

土浦亀城 自邸

谷口吉郎 自邸

前川國男 自邸

1935

1935

1942

生成文法を援用した設計方法は、コンテクストとは自立し

そこで、深層構造の変形操作に着目し、グリッドをコンテ

た方法であるため、統辞とコンテクストの関係から詩学を

クストの力によって変形させる設計方法を試行する。その

導くことはできないと考えられる。しかし、言語は自立し

足掛りとして、モデュールによって構成された戦前日本近

た統辞規則によってメッセージを生成し、表出する際にコ

代住宅から統辞をコンテクストと関連づけて抽出した。

ンテクストを参照することでメッセージの内容を揺さぶる

そして、設計者、コンテクストの異なる近代住宅から共通

ものであった。

の構造を抽出し設計方法として提示する。

構造の抽出に関して

日常空間 solid

非日常空間 void

外形による建築空間の定義

建築空間の二面性

空間を形成する建築要素、場の対象化

a. 異化 の方法

b. 接続の方法

空間認識に関して坂本一成は、無意識的に傍受される〈環

a. 異化の方法

境性〉と、積極的に図像に関わる〈対象性〉の二面性があ

空間同士の配列の中で序列を構成し、solid 空間と void 空

るとし、その対立と変換のうちに空間が成立すると説明し

間の差異を示すことで二つの空間の閾を定義する。

ている。

b. 接続の方法

こ の 空 間 の 二 面 性 は、 覆 い に よ っ て 囲 わ れ た 全 体 の 外 形

solid 空間、 及び、 全体の外形である外部と内部の境界面

を、機能的な生活の役割を担う日常空間と、それの対空間

を void 空間と接続し、 空間の中で副次的に囲うもの、 仕

であり生活の核となるような場を形成する非日常空間に異

切るものでしかなかったもの ( 壁や床 ) を、孔を開けるこ

化する過程で抽出される。

とによって意識的に対象化する。

18


戦前近代住宅の統辞の抽出(土浦亀城)

性 向 方 る よ に み 歪 の 形 地

1

1

b y1

y2

原型

0

1

移動 ( グリッド )

3

1

2

2

b

2

車庫

y1

奥 3

3

1

3

1.5

1.5

2

2100

1

2

2

y2

a

600

1

a

2

0.25 ”

蔵 原型は自らの方向性に加え、内部に蔵の方向 性を備える。

a

2

1

600

土浦亀城 自邸

1

1

1 0

土地の造成 土地の造成によって敷地は3つのレヴェル (0,600,2100)に分節される。

移動 ( 原型 )

2

a

街路からのアプローチ

0.5 0.5

性 0 向 方 の 差

3 2100

600

b

a 1

3

a

1

0

1

0

1200

1

600

600

3

重ね合わせ

4

移動 ( グリッド ) 欠き取り

谷口吉郎 自邸

a. 異化の方法 b. 接続の方法 19

5

挿入 (ヴォリューム ) 移動 ( グリッド )

前川國男 自邸


「サロン」から「リビング」へ 近代住宅に見られた異化の方法は、住宅の社会的な性質を 帯びた公的なサロン空間と、その他の私的な生活空間とを 分節する手法であった。しかし、戦前の「サロン」空間は 文化人や上流階級の社交場であったとされ、西洋文化への 憧憬が伺えるが、現代の住宅におけるサロンは「リビング」 という英語に置き換えられ、仲間内の社交を象徴する場か ら家族の団欒を象徴する場に移行したと思われる。 故に、近代住宅から抽出された構造を設計方法として援用 するにあたり、現代の新しい住宅及び住まい方の提案が必 要とされる。

ノマド・アパートメントの提案 ここで提案するノマド・アパートメントは、ノマドを暮ら 戦前日本近代住宅

すというライフスタイルそのものに拡張した住まい方の提

ノマド・アパートメント

1935-1945

2017-20??

サロン空間

ワークスタジオ

生活空間

住戸

案であり、住宅を所有するのではなく共有するためのプロ グラムである。 このノマド・アパートメントには都市の社交場として開か れた「ワークスタジオ」 が付随し、 知的生産の場となる。 知的生産の場に求められる性質は、快適性や美しさ、詩情 といった高い水準の空間の質である。

n

n

n

故に、ノマド・アパートメントは、戦前の近代住宅が社交

ldk

の場としての公的なサロン空間と、私的な生活空間によっ て構成されていたのと同様に、知的生産の場である公的な

bath

bath

ワークスタジオと、私的な住戸によって構成される。そし

ldk (salon)

work studio

scale 1:200

てこれら二つの領域を分節する異化する方法は、現代の集 合住宅において、公的なワークスタジオと私的な住戸を異

scale 1:400

化する方法に変換される。

20


仕立て屋のアパートメント

写真家のアパートメント

物書きのアパートメント

500m

ノマドアパートメントの展開エリア ノマドアパートメントは世界都市の各所に展開すること

東京都渋谷区神宮前に立地する三つのノマドアパートメン

で、 対象となる子供を持たない単身者及びディンクスが、

トを見る。これらのアパートメントは、写真家のための暗

家を所有せず複数人でノマドアパートメントを共有するも

室、物書きのためのライブラリー、仕立て屋のための作業

のである。

机を備えたそれぞれのワークスペースが設けられている。

21


写 真 家 の ア パ ー ト メ ン ト

北西立面:高低差による階層のズレが素直に立面に表現される。 22


+1000 +0 +0

-1000

-2000

敷地の特徴 1) 内部に 1m の高低差がある。 2) 袋 小 路 の 場 所 に 位 置 し 北 か ら の アプローチとなる。

100m

23


3. 南 面 の ヴ ォ リ ュ ー ム が 欠 き 取 ら れ 採 光 を 確 保 す る。

4. 分 離 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム。 共 通 す る 前 後 の 統 辞 と 道 路 か ら の 強 い 軸 線 が 両 者 を 接 続 す る。

6 .abba の 中 央 を 強 調 す る リ ズ ム が 前 面 か ら 反 復 さ れ る。 一 方 で 分 離 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 に は 共 通 す る A(2a) の 統 辞 が み ら れ る。 こ こ で は 反 復 さ れ る 統 辞 abba と AA の 統 辞 に よ る 相 違 と、 三 つ の ヴ ォ リ ュ ー ム の 相 違 が 見 ら れ る。

7 異 化 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 を 貫 通 す る 三 つ の 面 の 力 と 貫 通 し な い 一 つ の 面 の 力。 貫 通 し な い 面 に よ っ て、 前 方 と 後 方 の ヴ ォ リ ュ ー ム の 統 辞 に 差 異 が 図 ら れ る。

8.6 で み ら れ た y 軸 方 向 の 統 辞 か ら 移 動 す る こ と で、 上 部 の ヴ ォ リ ュ ー ム が solid な も の と し て 知 覚 さ れ る。

9. 上 部 に み ら れ る solid な ヴ ォ リ ュ ー ム は 延 長 さ れ、 ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 と な る 面 を 貫 通 す る。

1 2 3 4 5 6 7 8 9

24


c

c a 1.5

α 1.5 α a

1.5 a

a 0.5 a 5 b 1. a b

a

a 0.5 a 1.5

1.5

a

a

α

c c a 3/4

c

α

α

c

β

c

α

β

c

0.5 α α α

α

25

a

1.5

a

a

a


3

3

3

2

3

3

3

1

4 1

1 暗室 2 ギャラリー 3 住戸(6 室) 4 作業スペース scale 1/200

26

2f 4f 1f 3f


南西立面:地形による空間分節と 壁による分節。

scale1:200

27


ワークスタジオと階段室及び住戸 ヴォリュームの相互貫入。

scale1:200

壁面を背景とすることで、柱とス ラブの線の構成が強調される。

28


29


物 書 き の ア パ ー ト メ ン ト

ファサード面は柱からセットバックすることで浅いレイヤーが表出される。 30


-500 +0 +0

敷地の特徴 1) 敷地の三面が囲われている。 2) 青 山 通 り か ら 直 線 上 に ア プ ロ ー チすることが可能であり、これは強 い軸線として働く。

100m

31


3. 南 面 の ヴ ォ リ ュ ー ム が 欠 き 取 ら れ 採 光 を 確 保 す る。

4. 分 離 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム。 共 通 す る 前 後 の 統 辞 と 道 路 か ら の 強 い 軸 線 が 両 者 を 接 続 す る。

6 .abba の 中 央 を 強 調 す る リ ズ ム が 前 面 か ら 反 復 さ れ る。 一 方 で 分 離 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 に は 共 通 す る A(2a) の 統 辞 が み ら れ る。 こ こ で は 反 復 さ れ る 統 辞 abba と AA の 統 辞 に よ る 相 違 と、 三 つ の ヴ ォ リ ュ ー ム の 相 違 が 見 ら れ る。

7 異 化 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 を 貫 通 す る 三 つ の 面 の 力 と 貫 通 し な い 一 つ の 面 の 力。 貫 通 し な い 面 に よ っ て、 前 方 と 後 方 の ヴ ォ リ ュ ー ム の 統 辞 に 差 異 が 図 ら れ る。

8.6 で み ら れ た y 軸 方 向 の 統 辞 か ら 移 動 す る こ と で、 上 部 の ヴ ォ リ ュ ー ム が solid な も の と し て 知 覚 さ れ る。

9. 上 部 に み ら れ る solid な ヴ ォ リ ュ ー ム は 延 長 さ れ、 ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 と な る 面 を 貫 通 す る。

1 2 3 4 5 6 7 8 9

32


0

.5a

β α α

a

a

b

α

2α A a A b b a 3 a a A b

α

2

2

2

b

α

α α

α α

1

3

33

A

2.5

A

3A

2.5

A

A

2A

3A


4

2

3

1

1 3

34


3

3

3

1 テナント 2 カフェ 3

3 住戸(6 室) 4 ライブラリー scale 1/200 1f 2f 3f

Z 字型のヴォリューム。 または、向きを変えて反復さ れた三つのヴォリューム。 35


南東立面:void としての中庭のヴォリュームは内部まで貫入する。

scale1:200

36


北東立面:奥の空間に見られる動き と、対照をなす静的なファサード。

scale1:200

37


仕 立 て 屋 の ア パ ー ト メ ン ト

下部の構成:二つの solid なヴォリュームと低い壁に挟まれた void なヴォリューム。

38


+3000 +0

敷地の特徴 1) 道 路 の 形 状 に 沿 っ て お り、 幅 が 狭く細長い。 2) 敷 地 の 南 側 は 3m の 高 低 差 が あ り、3 階建ての建物が立ち並ぶ。

100m

39

+2000


3.solid と void が ヴ ォ リ ュ ー ム 単 位 で 反 復 さ れ、 空 間 の シ ー ク エ ン ス 及 び 道 路 の 景 観 に リ ズ ム が 与 え ら れ る。 こ の ヴ ォ イ ド に よ っ て 内 部 に 光 を 入 れ る。

4. 敷 地 の 形 状 よ り 統 辞 が 移 動 し ヴ ォ リ ュ ー ム の 分 節 が 表 出 さ れ る。

6. 分 節 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 閾 を 貫 通 す る 力 と 貫 通 し な い 力。

7. 閾 を 貫 通 す る 面 の 力 は 異 化 さ れ た ヴ ォ リ ュ ー ム の 面 を 移 動 さ せ る。 こ の 貫 通 す る 面 は 長 手 方 向 を 二 分 す る 面 と な る。

8. 後 方 上 部 の 道 路 側 の ヴ ォ リ ュ ー ム は 欠 き 取 ら れ、 前 面 の ヴ ォ リ ュ ー ム と 面 が 揃 う こ と で、solid な 直 方 体 の ヴ ォ リ ュ ー ム と し て 知 覚 さ れ る。

9. 直 方 体 の ヴ ォ リ ュ ー ム は 全 体 が 前 方 に 移 動 し、 南 中 央 の ヴ ォ リ ュ ー ム が 欠 き 取 ら れ る。

1 2 3 4 5 6 7 8 9

40


a 1.5

b

a

1/8

α

a

a

41

a

β α 7/8

a a

α 1/4

a

a

a

b b a

a

a

a

A

a

A

A

a

A

A

α


3

3

3

3 3

2

1

4

4

3

1 カフェ 2 ギャラリー 3 住戸(4 室) 4 作業スペース scale 1/200 1f 2f 3f

42


上部の直方体ヴォリュームは下部と ズラされることで浮遊する。

scale1:200

43


南東断面:壁面によって三分割された 静的な構成と、それを貫通する壁面。

scale1:200

44


45


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