最期の場所 -地上、地下、その狭間-

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最期の場所 最期の場所

卒業設計

- 地上、地下、その狭間 -

卒業設計

- 地上、地下、その狭間 -


犯罪者は絶対的な他者ではない。 彼らは私やあなたと同じように それぞれが異なった境遇を生きてきたはずだ。 もし彼らと同じ境遇だったとして、一体誰が 「彼らと同じ過ちは犯さない」と断言できるだろうか? 彼らは「私、あるいはあなただったかもしれない人」であり、 両者を隔てる境界は 案外、不確かで捉えどころのないものかもしれない。 例えば、光のように。


森の中を歩いていたら、一つの塚を見つけたとする。

これを見た我々は厳粛な気持ちになり、その塚は「ここに何者かが葬られている」と語りかけてくる。

それが建築というものだ。

アドルフ・ロース


この施設は死刑囚が刑の執行前、最後の一年間を過 ごす施設である。 日本に置ける死刑執行は、当日の朝、執行の直前に 本人に告げられる。 その為、死ぬことが決まっていながらも「いつ殺さ れるかわからない」 という恐怖を抱えながら時を過ごすことが強いられ る。その死へのプレッシャーは時として、自らが犯 した罪と向き合う事を妨げるだろう。そこで、刑の 執行日をあらかじめ決め、その最後の一年間を自ら が犯した罪と向き合い死に向かう準備期間となる場 所が必要だと考えた。 一方、死刑制度そのものについて世界的な死刑廃止 の流れとは対照的に 日本の世論は大多数が死刑を肯定的に捉えている。 しかし、命を以て罪を償うということへの意味は全 ての人達で共有されているだろうか? 事態の表面だけをなぞって簡単に断罪してしまって いないだろうか? 死刑囚の存在も、死刑制度も、実態を認識できない まま我々は受け入れてしまっていないだろうか? 隠蔽され不過視の存在である死刑囚の存在を顕在化 し、死へと向かう他者に目を向けることで 罪と罰、生と死とは何かを問う場を提案する。

死刑囚の生活空間を地中に設け、その穿ったヴォイドと同 形・同量のボリュームを地上に出現させる。 このボリュームは、死刑囚の存在を想起させ、認識させる ための媒介となるだろう。 結果、出現する様々な高さのボリューム群。 高いものは地中に光を通す筒となり、 低いものは地形のように盛り上がる。 低いボリュームの中には地下空間と地上との間にもう一つ の空間が生まれる。この「半地下空間」は、地上に住まう 我々と地下に住まう死刑囚との中間領域となる。


地上 半地下 ―

地上

地下 ― 死刑囚 :面会室、説法室、刑壇

半地下

:展示室、面会室等

一般人

両者は互いにその姿を確認することは出来ないが、中間領域であ る半地下空間の空間性を共有することで、両者が精神的に歩み寄 ることが出来る空間を作る。そこは、死刑囚にとっては面会や説 法を受ける場所、我々にとっては死へと向かう他者に目を向ける ことで罪と罰、生と死とは何かを自問する場となるだろう。

地下


︻地上 土/量塊︼ ― 地中の土を持ち上げて出現したボリュームは、地下のボイ ドの形・大きさそのまま示す物体であり、地中に存在する 空間を可視化し、そこに住まう死刑囚の存在を喚起させる。

︻半地下 光/境界︼ ― 死刑囚との境界を表象する光。両者を隔てるものを分厚い コンクリートの塀ではなく、朧げな光という存在に置き換 えた空間をつくる。

︻地下 光/時間︼ ― 外部の情報が限定された地下空間に対して、トップライトか らの光は時刻や季節の情報を伝える一種の時計装置としての 役割を果たし、一年という定められた最期の時間を刻む。


敷地は日比谷公園・草地広場。  雑誌やテレビドラマの撮影でも度々使用される等、強い喚起 力を持つ土地である。東京の中心にこの施設を置くことで強く 喚起すると共に「合法的な殺人」である死刑の重大さを認識さ せる。  また、この周囲には国会議事堂、最高裁判所、法務省をはじ めとする官庁が集中する地区でもある。死刑囚との距離を物理 的に近づけることで、死刑制度に関わる諸機関、並びにそこに 属する人々にも死刑制度を実態のあるものとして認識させるこ とができる。 (特に死刑執行において最終的な権限を持ち、現行では印を押 すだけで刑の執行を確定する事のできる法務大臣の立会い、さ らには執行のボタンを法務大臣自ら押すことも可能になる。)

4.

1. 3.

1. 法務省

3. 国会議事堂

2.

2. 最高検察庁

4. 最高裁判所

▲ View from South-East


▲ View from North-East

配置図    縮尺 四千分の一

N



断 面 図     縮 尺 二 百 分 の 一



平 面 図 ー 地 上

N

縮 尺 二 百 分 の 一



都市の中に脈絡なく出現したヴォリューム群は、 死刑囚の存在を想起し 我々に認識させるための媒介となるだろう。




1. 一般用エントランス

2 . 3 .5 .

2. 執行確認室 3. 刑壇上部 4. ボタン室

1.

5. 立会室 6. 説法室

6.

7. 面会室 8. 待合室

9.

9. 主展示室 10,11. 小展示室 4.

7.

8.

1 0.

1 1.


平面図ー半地下    縮尺 二百分の一

N


a. b.

c.

半地下空間へのアプローチは狭く、我々は各々独りでそ

死刑囚の個室から伸びたヴォリュームの中では、彼らの下

こへ向かうことを強いられる。

へ届く光と同じ光を体験することになるだろう。


展示室には死刑囚の記した手記や絵画等が展示され、 彼らの考えに触れ、歩み寄ることが出来る。 GL ラインに沿ったスリットから差し込む光は 我々と死刑囚を隔てる境界線を可視化したものであり、 両者を隔てているものは本当は何なのか 我々に内省を促す空間となるだろう。

d. a.

d. 展示室

b. c.



一方、死刑囚にとって 空と光に最も近づく場所である半地下空間は、 自らの犯した罪を悔い、祈りを捧げる場所となるだろう。


1 2. 1 3.

12,13. 倉庫

2 2.

2 0.

14. 刑壇下部

2 3.

15. 遺体処置室 16. 待機室 17. 中央コントロール室

1 7.

18. 器具室 19. 運動場 2 1.

20. 厨房 2 5.

1 8. 1 5. 1 4. 1 6. 1 9.

21. 談話室 22. 浴室/便所 23. 医務室

2 4.

24. 図書室 25. 居房


平 面 図 ー 地 下

N

縮 尺 二 百 分 の 一


外界と遮断された地下空間に唯一差し込む光。 それは一日の中の時の流れと 季節の移り変わりを教えてくれるものとなるだろう。 最期の時が近づいてくるのを知らせてくれると共に。


地下から半地下の説法室と面会室へと至る、長く、ゆるやかな階段。 上空から差し込む光に向かって日々階段を登り続ける。 身体的な行為を通し、あるときは自らの罪と向き合いながら、 あるときはこれから訪れる死を受け入れながら最期の時までの時間を過ごす。

g.

f.

g.

h.

f. 大階段

h. 居房


i.

i.


最期の場所

犯罪者は絶対的な他者ではない。 彼らは私やあなたと同じように それぞれが異なった境遇を生きてきたはずだ。 もし彼らと同じ境遇だったとして、一体誰が 「彼らと同じ過ちは犯さない」と断言できるだろうか? 彼らは「私、あるいはあなただったかもしれない人」であり、 両者を隔てる境界は 案外、不確かで捉えどころのないものかもしれない。

たとえば光のように。


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