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インタビュー:渋谷の街、とどまらない人の流れ

渋谷の街、それも人の交差が 1 日数十万人にものぼる ハチ公前の交差点を取り続ける写真家がいる。 HDR 写真の騎手、丹沢正伸。 彼の写す東京の街はどこまでも暗く、 しかし、どこまでも暖かい。

僕がはまっていた ゲームの世界を描きたかった

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ゲームが好きだったんです。ファミコンとかプレイ ステーションとか。オンラインゲームにもはまってい て。そんなときに見つけたのが、ゲームの画面のよう な絵を写真から作れる、 Photomatix という HDR( ハ イダイナミックレンジ ) 作成用アプリでした。

この HDR に出合っていなかったら、僕はデジタル 一眼レフを使わなかったかもしれません。友だちや街 で見つけたものを撮るのであれば、コンデジで十分で したし。でも、そのゲームのような絵を作りたくて、 千葉の蘇我という町にあった、もうすぐ廃炉になると いう鉄工所の高炉を撮りに行くようになりました。

そのときに、すでに HDR に長いこと取り組んでいた方と知り合いになって、一緒に撮りに行くようにな りました。彼の HDR のテクニックや撮影の方法を目 で見て盗んでいましたね。昼から翌朝まで撮り続けた りとか、まるで修行のようでしたけれど ( 笑 )。

横浜、川崎、鹿島など、自分の足で行ける場所に通っ て工場を撮るようになったものその頃です。でも、自 分の中で HDR の手法をある程度極めたという達成感 を得たこともあって、次第に工場を撮らなくなりまし た。

「銀残し」の手法が渋谷の街の色にマッチした

工場から離れた理由のもう一つは「銀残し ( ブリー チバイパス )」という手法に出合ったことです。もと もとはフィルム写真の手法で、プリント作業の一部を端折ることで、彩度が低くコントラストが高い独特の 絵を作る手法なんですが、それをデジタルで再現する 方法を知ったんです。それを工場の写真でやろうとし てもテイストが合わなかった。僕が昔から撮っている 街の方が相性が良かったんです。

そんな風にして HDR と銀残しを組み合わせた写真 を作るようになりました。それがもっとも合ったのが、 渋谷の街です。上野も大好きな街なんですが、上野は この手法と今ひとつマッチしません。街の色が違うん ですね。渋谷の光の方が白っぽい。

僕の感覚では、上野は赤とかオレンジとか、黄色と か、色とりどりのイメージです。だから、銀残しの手 法でその色を抜いてしまうと面白くないんです。自分 の中で思っている上野の街ではなくなる。

人を残像のように写真に残そうと思ったのは、それ が僕にとっての渋谷という街のイメージだからです。ありえないくらいの人混みで、下町育ちの僕には常に アウェイな感じがするんです。だから僕は動かない街 並みと一体化して、周囲を動く人を俯瞰します。それ をただ客観的に、距離を置いて眺めるんです。

今の「そのまま」を 写真に記録したい

銀残しはカラーに比べると暗いイメージです。それ が今の世相に合っている気もしています。幸せな人が 少ない、人のために何かしようという人も少ない。

余裕がないのはファッションにも表れている気がし ています。これまでは◯◯じゃなければ嫌だという人、 ◯◯でいいやという人の2つに分類できたはずなんで すけど、それ以下の人が増えている気がします。人々 の心が貧困に向かっているのかもしれません。

例えば外に出かけるにしても、ちゃんとした格好を しなきゃ、という人も減っている気がします。インス タグラムなどで自分をよく見せようという人たちが増 えているのは、実際は良くないという人が増えている ということの裏返しなんだと思うんです。

僕はそんな時代をそのまま撮りたい。きれに見せた いとは思わないし、やはりそのままを残したいんです。

街は変ってゆくもの その経年変化が面白い

僕の好きな街は、時代によって違った文化が入って いました。「写ルンです」で上野を撮っていたころは、 イラン人がテレフォンカードを 10 枚 1000 円で売っ ていた時代です。当時の上野は僕の中で黒い街だった。 20 年経った今は、その時とは全く違うアジアのような街になりました。もちろん、戦後からずっと残って いる店もあります。僕が服をよく買う店は 1949 年か らそこにあるそうです。新旧の混在。それが魅力です。

秋葉原はオタクの街からオタクの街に変わりました ( 笑 )。父がテレビを買うのについていった街から、風 俗的な街に、です。

渋谷では、看板が歴史を物語っていると思います。 北野武さんの看板が最も印象に残っていますが、安室 奈美恵さんだったり僕の知らないミュージシャンだっ たり。僕の写真では、動いている人の忙しさはいつも 同じなのに、動かない看板だけがそのときどきで変化 していく。

こうやって話してきて気がついたんですけど、僕は 時間の経過とか、時代の移り変わりとか、どんどん変 化していくものに引かれるのかもしれません。それは 革ジャンだったりジーパンだったり、自分が身に着けるものにも言えますね。

革ジャンを買うときなどは、店員が着ているものを 触って、一年着続けるとこうなるのかと。そんなこと を考えて購入しています。路地や街の看板 … 経年変化 で味の出るものが面白いです。一人で喜んで撮ってい ます。

先日、久しぶりに映画「不夜城」を見たんですが、 その冒頭に金城武さんが出てくる長回しのシーンがあ るんです。舞台は新宿のゴールデン街なんですが、僕 の撮りたい街はこういうところだと、見ていて改めて うずうずしました。

日本にはゴールデン街と似たような街はたくさん あったともいますが、今はほとんど廃れてしましまし た。当時のままで元気な街は少ないですよね。だから 香港とか台湾とか。それこそアウェイの極致なんです が、そういう場所で自分が何を感じるかも確かめてみ たい気がします。

あとはスナップの原点に返りたいというのもありま す。飾り立てられたものではなく、カメラの向こう側 にいる人達の性格をうまく表情に引き出して、ありの ままを撮りたいですね。

丹沢正伸 ( たんざわ まさのぶ )

「工場風景」「配管のある風景」などをテーマに撮り、 2013 年に初の個展「配管のある風景」を開催。以後「東京の人 間模様」に注視し、東京の街並みと人々の静と動を対比さ せて捉える手法を追求、「 Tokyo Ghost Town 」というテー マとして撮影を続けている。

取材・文・構成:山本高裕

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