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インタビュー:現実と夢の交差を描く Future Traffic~写真家・KOUICHI HIRAYAMAさん

一度入り込むと抜け出すのも大変な都会の街並み。ラビリンスのようなその風景を捉え、解体して組み立て直す ―― 。そんなプロセスを踏み、どこにもな い世界を作る写真家がいる。

フューチャートラフィック

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―― 一見すると本当にありそうに見える夢の都市風景。写真を撮り始めてから夜の街並みを捉えることにこだわり続けてきた写真家、 KOUICHIHIRAYMA 氏は、どのようにして今のスタイルを見出したのだろうか。

一枚の写真との出会いから始まった夜景撮影

最初はコンデジで海を撮っていたんです。昔のザ・ビーチ ボーイズの直感で海を感じる曲や、フレンチハウス、ニュー ディスコ、シューゲイザー、チルウェイブなどの海と合う ジャンルの音楽が好きで、その世界観や色彩を写真で表現し たくて毎週のように海に通っていました。

そんなときにとあるギャラリーで、暗い山道を走る車の 光跡写真を見たんです。で、どうやって撮るんだろうと。 ちょうど、もっといい写真を撮りたいとデジタル一眼レフ (CANON EOS 60D) を手に入れた時期でもあったので、撮り 方もわからずに職場の近く、確か汐留から築地方面だったと 思いますけど、そこの夜景を撮りました。そして、その足で 銀座出入口の首都高で光跡写真にチャレンジ。それが、僕の 夜景写真の始まりです。

「 Timeless Gravity 」に込められた意味

撮った夜景をSNSに投稿し始めたのは2011 年ごろでした。 当時はTimeless Gravityというハンドルネームを使っていまし た。ファッションや音楽にも興味があったのですが、洋服や 音楽を作ることは時間がなければできない。アーティストと して表現する手段として写真をやりたいと思ったのが、活動 の始まりです。そのときに、海外ミュージシャンのように謎 めいている感じの名前がいいと思って作ったのが、 Timeless Gravityという名前でした。

Gravityは重力。アインシュタインなど科学に関することに 僕自身が興味を持っていた影響があります。 Gravityには「真 面目」という意味もあるんです ( 笑 )。そして、 Timelessは 僕が生涯目指したいと思っていることです。世の中にはタイ ムレスなもの、時代を超越して好まれる作品は必ずあって、 僕もそんなものを写真で表現したかったんです。

夜景の写真では、キヤノンのTS-E 17mm f/4Lというティル トシフト・レンズをメインに、便利ズームやAPS-Cサイズ用レ ンズを使っています。 TS-Eレンズはデジイチで撮り始めてす ぐに購入したレンズです。

このレンズを使い始めたのは、ある風景写真家との出会い がありました。横須賀でパームツリーの写真を撮っていたと きに話しかけてきた方が富士山を撮る方で、「蛇腹レンズっ て知ってる ? 風景写真を撮るなら蛇腹レンズを使いなさい」 と勧めてくれたんです。それを使ったら風景写真はやめられ なくなる、と。

蛇腹レンズは昔のフィルム中判や大判向けのものなので、 今のカメラ向けのティルトシフト・レンズを手に入れまし た。ものすごく高価でした。

心に響く夜景を「真っ直ぐ」に撮る

ティルトシフトレンズを使って最初に撮ったのも、職場の 近くの汐留でした。イタリア街を撮りました。まずはシフト 機能を使って、ビルがまっすぐ立っている写真を一枚。その 姿は「真面目」そのもので、それからはいかなるときも水平 は当たり前で、見落とされがちな「垂直」を意識して撮るよ うになりました。なんでも真っ直ぐにしたいんです ( 笑 )。

そして、その日には複数の写真をつないで撮る、いわゆ るスティッチングにも挑戦していました。 TS-Eレンズに付属 していたCD-ROMにスティッチングの機能が入っていたんで す。それが僕の背中を押してくれました。なるほど、デジタ ルデータは切ってつないでというのが当たり前なのか、と。 昔使っていたPCの音楽再生アプリケーションのスキンを、 PC 上で画像処理していたことがあったので、デジタル写真を加 工合成することに、最初から違和感はありませんでした。

夜景写真は東京や横浜のメジャースポットから撮り始めた んですが、そのうち、定番ではない、ほかで見ないものを探 すようになりました。新しい場所を探すのはGoogleマップを 使うことが多いですね。店やホテルとかならポータルサイト にアップされている写真を参考にするとか。誰も撮っていな いところは人より多く知っているかもしれませんが、珍しく ても心に響かない景色は撮らないようにしています。

現実と夢が交差する世界を描くこと

そして、唯一無二のものを世に残したいという思いが発展 して生まれたのが、未来の交通を表現したフューチャートラ フィックシリーズです。このシリーズは、 2016 年のMoscow International Foto Awards(MIFA) ノンプロ部門 建築カテ ゴリー 1 位と、 2018 年のInternational Photography Awards (IPA)、建築・都市風景 プロ部門で1 位を頂いています。 フューチャートラフィックシリーズには今、ジャンルが6つあ ります。スカイウェイ、ジャンクション、スペースウェイ、 テレポート、ギガシティ、ハイブリッドです。

唯一無二のものを追求するあまり、現実の景色だけでは満 足できなくなったのかもしれません。ファッションにしても 好きな人は既成品を切ったり、ボタンを付け替えたりして、 オリジナルなものを作ったりしますよね。だから僕は、写真 をデジタルで撮っている利点を生かそうと、現実をアレンジ することを考えるようになりました。現実と夢の世界です。

写真は思った以上に時間のかかるアートだった

ひとつの作品を作るには多いもので数十枚の写真を使いま す。作成するにはまずラフを作ります。これまでに撮りため た写真から使えるものを引き出してきて作るわけですが、足 りないパーツがあれば、それだけを撮りに行くこともありま す。画面の8 割くらいは使わない絵で、構図の隅っこに自分 の欲しいパーツが写っている写真とか。それだけ見たら、何 を撮っているんだという感じです ( 笑 )。

ラフの構図が決まったら、アドビ社のフォトショップを 使って完成させます。ひとつの作品で構想から完成まで、長 いもので3 、 4 週間くらいかかります。構図を考える時間 が一番長いですね。通勤中や仕事の休憩時間に歩きながら考 え、家ではエレクトロやクラシックな音楽を聴きながら作業 します。写真なら時間がかからないアート表現だと思ってい ましたが、いつのまにか時間がかかるようになっています。

今後ですけれども、同シリーズ作品を拡充させるととも に、幾何学的なものや、言語化できない領域の作品を作って いきたいと思っています。僕が考えるTimelessでクールな作 品を、これから生み出していければいいと思っています。

プロフィール KOUICHI HIRAYAMA

車の光跡写真を得意とする創作写真家。 2011 年から東京・横浜を走る車 の光跡と夜景写真を撮り始め、 2013 年 ~2014 年には東京都の高速道路が 交わる全てのジャンクションと国道 246 号線の撮影を制覇する。 2016 年 から創作と光跡写真で国際写真コンテストへ参加。週末は一変して都会を 離れ「海」と「ヤシの木」を求めて小旅行するライフワークも持つ。

取材・構成 : 山本 高裕

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