Travelista - Anthelope Canyon

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アンテロープ・キャニオン ~神が創り出した空間 した空間~ 空間~

アメリカ国内にもう一つの国があることを、どれだけの人が知っているだろう。 私もこの地に来るまで知らずにいた。「ナバホ・ネイション」先住民族である ナバホ族の国だ。ユタ・アリゾナ・ニューメキシコ3州に渡る広大な土地の中 には、あの有名なモニュメント・バレーも属している。 そのナバホ族が管理する土地に、近年多数の観光客が訪れる「アンテロー プ・キャニオン(Anthelope Canyon)」と呼ばれる渓谷がある。私が初め てその渓谷内の写真をガイドブックで見た時の衝撃は、すさまじいものだっ た。美しい流れを持つ岩が、黄・赤・紫の3色に輝いている。どうすればこん な写真が撮れるのだろう?私は一度でいいからこの土地を訪れて、こんな 写真を撮ってみたいと願ったものだ。それが、こんなに早く叶うとは。 アリゾナ州ペイジという街は不思議な街だ。街の入り口から何故か10を超 す教会が通りの片側に並んでいる。こんな通りは滅多にあるものではない。 ペイジの街の中心部にアンテロープ・キャニオンへ行くツアーを催行してい る会社が何社かあり、アンテロープ・キャニオンへ行くにはこのペイジの街 からのツアーに参加するのがてっとり早い。今回は Anthelope Canyon Tours の催行する11:30出発の90分のツアーだ。 お昼時のこの時間帯が一番混むらしい。トラックの荷台にしつらえた椅子に 15~16名ぐらいが座り、この日は100名ほどだった。街を抜け、車で10 分もすればもうそこは赤茶けた岩山と砂と風と青空しかない場所になる。 「アンテロープ・キャニオン」は「アッパー」と「ロウアー」の二つがあり、我々 が目指す目的地は主に観光客が行きやすい「アッパー」だ。(「ロウアー」は、 階段を上り、岩山の裂け目から降りていかなくてはならないが、その点「アッ パー」はそのまま歩いていける平坦な場所にある) アッパー・アンテロープ・キャニオンは、ある日羊を追っていたナバホ族の少 女が発見したと言われている。この付近の土地はナバホ砂岩(サンドストー ン)と呼ばれる比較的軟らかい地層で、それが何百年もの雨と風により、内 部が刳り抜かれ、通路ができ、内部の岩肌はまるで水が流れた跡のような 美しい曲線が浮きあがっているのだ。 ガイドのキャロリーンが運転する車は、一番遅くに到着した。後で気づいた のだが、100名もの観光客が一気に押し寄せるのだから、混雑を回避する ためガイドのキャロリーンが気を利かせて時間をずらしてくれたのだった。


道中は砂が舞っていて、髪の中や、口の中にも砂が入り込んでいたが、私 はまったく気にならなかった。私にとっては憧れの場所、渓谷の入り口を見 た瞬間から、ワクワク感を抑えられなかった。 わずか150メートルしかない短い通路、一度向こう側に出て、再び元来た 道を戻る、という単純なものだが、場所によっては人ひとりしか通れないほ どの狭い部分もあり、観光客や三脚を持った写真家など、通路はごった返し ているため、中に入ると結構な時間がかかる。 岩山の切れ目が入った入口付近は、ある程度の広さがある。だが上を見上 げれば、空はほとんど見えない。また時折、砂が降ってくる。段々中へ入っ て行くと、暗くなり、時折太陽の光が渓谷内に入り始めてきた。みんな我先 にとカメラを構える。ガイドのキャロリーンが気を利かせて砂を巻き上げ、光 線を浮き立たせようとする。写真を見ると、まるでスモークを焚いたかのよう だ

「アッパー」の最大の魅力は、春から秋にかけての昼時、渓谷の頭上に太 陽が昇ると、岩の隙間から太陽光が入り、渓谷内をスポットライトのように照 らす幻想的な景色が見れることにある。そのため多くの写真家(アマチュア やプロも含め)、観光客がスポットライトが入るその瞬間を撮りたいと、この 時間帯に集中するのだ。 渓谷内部はこの世のものとは思えない、まさに神が創り上げた空間だった。 一筋の光が、まるで天国からの光に思える。砂岩に彫られたカーテンのドレ ープのような、はっきりした、美しい曲線、流れは、神の手によるものだ。幻 想的で、魔法でも使ったような空間。ほんの40~50分の滞在だったが、光 を一瞬も逃しまいと、無我夢中でカメラのシャッターを押していた。 太陽光は岩肌を照らし、風と水によって彫り抜かれた美しい曲線を鮮やか に魅せる。逆に光が入らない暗い部分も、想像力を掻き立てる魅力がある。 私が初めて衝撃を受けた写真は実は「ロウアー」の写真だったが、「アッパ


ー」にもあれと同じようなところがあるかもしれない。あの写真と同じようなものを撮りたいと必死にシャッタ ーを押すも、ブレまくって仕方がない。200枚を超える写真を撮ったが、いくつかの写真は(ほとんどはカ メラのおかげだが)素人の私でもなんとか岩肌の微妙な光加減、色加減を残すことができた。

そして、この神が創り上げた空間で、偶然と呼ぶにはあまりにも不思議な光景に出会った。思わぬものが カメラに写っていたのだ。光が射したその一瞬、浮かび上がる子供の姿。撮っていた自分が度肝を抜か れてしまった。頭上の光が地表や側面に映し出す不思議な形。まるで天のサインのようだ。岩山の切れ 目から覗く青空が奇妙な生物の形に見える。自然の造形が創り出す様々な神秘を目の当たりにして、夢 のような時間を過ごさせてもらった。 たまたまこの日が快晴で、太陽が頭上にあったから、という偶然に導かれ、あの瞬間にしか見ることので きない光、形、色、陰影に深い感銘を受けた。もしも貴方がアリゾナ州に行くことがあったら、是非ここへ 訪れてほしい。この渓谷内に立った時、貴方は自然の神秘を目の当たりにする、またとない機会を得るだ ろう。そしてかけがえのない体験は、貴方の想像力を刺激する。アンテロープ・キャニオンはまさに、神が 創り上げた空間だ。


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