Architecture Competition

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C O M P E T I T I O N R Y O H E I K I K U C H I Fictitious architectural ideas 2019 - 2022


菊池 凌平 Ryohei Kikuchi

経歴

神奈川県 川崎市 生まれ 神奈川県立多摩高校 卒業 首都大学東京 都市環境学部 建築都市コース 小林克弘研究室 卒業 東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 安田幸一研究室

趣味

サッカー観戦(プレミアリーグ)

受賞歴

2018.1 2019.1 2019.10 2020.2 2020.5 2020.11 2021.11 2021.12

02

2,3 年合同学内コンペ 7 位(1次審査 7 位) 2.3 年合同学内コンペ 4 位(1次審査 1 位) KIPA 第3回デザインコンペティション 2019「令和の交番」最優秀賞 首都大学東京卒業設計 学内審査会 2 位 (卒業設計賞) 首都大学東京卒業設計 学外審査会 1 位 (八雲本賞) JIA 卒業設計展東京予選 出展 第 47 回 日新工業建築設計競技「遊びのうえに暮らす」 2 等

KIPA 第4回デザインコンペティション 2021「待つを豊かにする空間」 佳作 第 48 回 日新工業建築設計競技「人間の家」 佳作 ユニオン造形文化財団 第 28 回ユニオン造形デザイン賞公募「ふるまいの共振」奨励賞


CONTENTS 01 境界線の庭 Essay : 01

自然と人間の分断を崩す

02 エキマチパーク Essay : 02

04

20

駐車場再考

03 〇〇ボックス

30

04 交番

歩道橋

40

05 踊り場で繋がる集合住宅

50

Essay : 03

階段の余白のこれから

06 ( 半透明 )n 住宅 Essay : 04

住宅の愛着と使いづらさ

07 カーテンインフラストラクチャー Essay : 05

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76

建築の映像性に関する考察

03


01 境界線の庭

2021.9 2021 年 日新工業建築設計競技 「人間の家」 佳作



第 48 回 日新工業建築設計競技 『人間の家』 昨年からのコロナ禍に生きる私たちは、感染拡大防止 策・感染予防が最優先となる社会の中で、行動にさま ざまな制約がかけられています。 生活が管理される中で、その必要性は理解しつつも抑 圧状態にあると言えるでしょう。特殊な状況下におい ては、多様性が削がれ、問われていたはずのさまざま な課題も影を潜めてしまう、忘却という名の淘汰が起 きているようにも思います。 ル・コルビュジエが著した『人間の家』(1942 年発表、 F・ド・ピエールフウと共著。鹿島出版会、1977 年) では、第二次世界大戦中の疎開先から、ナチスに破壊 されたパリの街をいかに再建するかという意欲的な都 市計画案が示されました。 私たちも、このコロナ禍において、その先にある本質 的でポジティブな提案を考え、投げかけることが大切 なのではないでしょうか。 そこで、今回のテーマを「人間の家」としました。 身の回りの設えや、街の理想的なあり方でもよいで しょうし、制度的な提案になるかもしれません。これ までの家の枠組みを大きく超えて、幅広く考えてみて ください。 みなさんの提案をお待ちしています。

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Essay : 01

自然と人間の分断を崩す 奴隷のような植物 私が住宅地を散歩していた時、ある公園で植栽が綺麗に剪定され壁のように形作られている姿を見た。 道路に面しているため、枝葉が車に当たらないよう安全面を配慮してこのような管理がなされているのだろう。公園 はこの東京という地におけるオアシスであるはずなのにも関わらず、この人間によって厳格に管理されいる植物の姿 に、「自然」を感じることはできなかった。 まるでこれでは植物が人間に飼いならされている奴隷である。なんだか不愉快な気持ちになりながら家路ついた。 ここには、人間と自然の間に明らかな線引きがあり、とても共生とは言えない状態が生まれている。 人間は植物や人間以外の動物などその他の環境を完全に切断・管理をしようとし、環境の中で今や神のような存在に なっているのだ。 しかし、人間は他の自然に比べ多少知能が高いだけであり、あくまで環境全体のたった一部である。決して支配者で はないはずだ。 人間以外の様々な環境と対等に立ち、つながりを持ちながら共生することが人間の正しい在り方であり、その共生す る空間こそ「人間の家」と呼べるのではないだろうか。

今回の提案である「境界線の庭」の敷地では、人間とその他の自然の間にフェンスというものが存在し、この対立関 係を具現化していた。私たちはフェンスを再編しその対立的な構図を少しでも緩めることで、人間が自然の一部とし て生きる「本来の人間と自然の関係」を具現化させることを目指している。 フェンスの下には水路が引かれ、女の子が小さなカニと戯れる。それをおじいちゃんが腰掛けながら見守る。フェン スからは草が垂れ下がり風で揺れる。 新たに生まれたこの空間では、そのような自然に触れる豊かな風景が生まれることを願っている。 09


フ ェ ン ス で 分 断 さ れ た ﹁ 自 然 ﹂ と ﹁ 人 間 ﹂

FENCE

FIELD 住 宅 の 間 に は 畑 が 存 在 し、 玉 ね ぎな ど を 栽 培している。 畑にはコンポストがあり、 微生 物が栄養価の高い土を作り出す。

STREAM この地域一帯は湧水地であり、 森側から住宅 地へ流れているが、 森の管理が行き届いて いないため、 地下化され存在が薄れている。

FOREST 急斜面に様々な草木が生い茂り、 様々な生 物が生息。 夏になると人が立ち入れないほど 草木が成長し、 無法地帯となっていた。

ROAD かつては森と住宅地の境界に道があったが、 現在は草木が生い茂り、 森へ向かって登って いく道は行き止まりとなってしまっている。

TOPOGRAPHY 森に向かって上がっていく地形。 森からは住 宅地、 そして長野の街並みが夕日とともに一 望できる。


分断された自然と人間 敷地は長野県長野市の狐池という地。 この地では豊かな水源に住み着く蛍や様々な種類の植物、 そして多くの畑に植えられている農作物が共生している。 またこの地は森と住宅地が南北に隣り合っている。 住宅地から森の方向へ複数の道が伸び、 森と住 宅地の境目にはその道同士を繋ぐ道が存在していた。 しかし、 その道は今や草が生い茂りとても人が通れる状態ではない。 かつては住民が協力をして草 刈りなどの管理をし、 道を使っていたが、 住民の入れ替わりによってそれも行われていない荒廃し た状態である。 この道が使えなくなることで、 住宅地から山へ伸びる道は行き止まりの道となり、 住民たちの動線的 な循環は途絶えていた。

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住宅街


提案部分

森と住宅地を隔てていたフェンスを 地域の庭として作り替える


現状

0

1

2

3

4

5

[m]

提案 そこで、 森と住宅地を隔てていたフェンスを再 編し、 両者の関係を再考する。 具体的には、 垂直に立っているフェンスを斜め に再構築する。 そうすることで、 フェンスとして の機能を担保しながら、 その下側に空間を生 むことができる。 14

フェンスの下には水路が引かれ、 女の子が小さなカニと戯れる。 そ


それをおじいちゃんが腰掛けながら見守る。 フェンスからは草が垂れ下がり風で揺れる。

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人間を含めた様々な Actor が 共生する世界の架け橋としての庭


この空間には人間以外にも様々な Actor が存在する。 残飯をコンポストに人間が入れに来る。 微生物がそこに訪れ、 分解する。 フェンスには日光を求め 蔦が巻きつく。 水路にはサワガニが佇み、 綺麗な水に蛍が集まる。 育てた玉ねぎはフェンスに干さ れる。 人間以外の様々な振る舞いが共存する庭となるのだ。


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様々な生物同士の 関わりを作り出すための空間 フェンスを再編することで生まれた空間は、 人間の道であり、 遊び場であり、 本を読む場 であり、 玉ねぎを干す場であり、 蔦ののびるガ イドであり、 夕日を眺める場であり、 湧水の水 路であり、 共用のコンポストであり、 鳥の止ま り木である。

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02 エキマチパーク

2021.10 第4回 KIPA 建築デザインコンペティション 「待つを豊かにする空間」 佳作



KIPA 第 4 回デザインコンペティション 2021 ビエンナーレ ツナグ+DESIGN|KIPA 『” WAITING” - 待つを豊かにする空間』 コロナ禍は私たちの生活を大きく変えました。その一 方で、これまで見過ごしていた、時間や場所の大切さ を教えられたかもしれません。日常のあらゆる場面、 例えばバス停や駅で、病院やお店でも、少しの時間で すが、もっと大切に豊かに過ごすことができないので しょうか。 ここで、我々は “WAITING” という行為に焦点を当 て、ー「待つ」を豊かにする空間ーを提案したいと思 います。「待つ」ことは、時間を浪費することではあ りません。コロナ禍を経験した若い世代から、新しい 生活様式における英知を期待したいと思います。皆さ んの新しいイメージで、豊かに過ごす場としての、新 しい “WAITING” スペースを創造し、ご提案願います。 あなたは、何を、どのように待ちますか?

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Essay : 02

駐車場再考 未来の駐車場 大学の学部時代、研究室で仲の良かった友人の卒業設計のテーマが「立体駐車場」だった。彼は建築の話をするたびに、 立体駐車場について語ってくれた。それをきっかけに駐車場という場所に興味を抱いた。 まず、立体駐車場には壁がない。そのため走る車たちがファサードになるダイナミックな建築なのである。羽田空港 の近くにある「クロノゲート」というクロネコヤマトの物流施設には、大きなランプがあり、そこを大型トラックが 上り下りする。その風景は非常にダイナミックで面白い。立体駐車場にも同じような面白さがある。 そして、駐車場には様々な未来のビジョンを描くことができる。現在の都市は、インフラ的中心である「駅」がその まま街の中心となっている。しかしモビリティが多様化している今、モビ リティの発着点・乗換点として、街の中心は駅から「Parking」に変わる のではないだろうか。 これは以前私が書いた未来の Parking の絵である。現在の立体駐車場から 形は大きく変わるのではないかと思う。 ・停める台数の効率性を第一優先とせず、様々な施設を複合させる。 ・停めるモビリティの種類が多くなり、勾配や車路幅に変化が生まれる。 ・壁がない特徴を生かして、立体公園のような開放的な場所になる。 などが大きな差として挙げられる。モビリティの多様化に伴い、建築の形 がどんどん変わって行くのではないだろうか。 駐車場は駅前を閑散とさせる悪役なのか 立体駐車場も含め、地方駅前は多くの駐車場が存在する。地方都市で生活する上で車は必要不可欠であり、また必ず しもコンパクトではない地方都市において、駅に駐車場は必須である。しかし現代の駐車場はとても寂しい。無機質 なコンクリートに白線が引かれるだけ。利用されている時間でさえ人の賑わいなどなく、まさに物置である。 このような寂しい施設が駅前に溢れかえってしまうのは果たして良いのだろうか。 私は今回提案したのは、駐車場に居場所を与え、街に彩りを加えることだ。カラフルな建物にしたのは、無機質な空 間に彩りを与えるためである。カラフルな建築が立ち並ぶ場所に、カラフルな車たちが止まり、人々が流れ、また滞 在する。地方駐車場という都市の余白をうまく利用し、駅前を彩っていくのだ。 また私たちが駐車場を選ぶとき、目的地に近いかつ安いという観点のみで選ばれる。現代の駐車場には場所性がない のである。しかし今回の提案のように居場所を付加させると、「ここに停めたい!」というような選択性が生まれるの ではないだろうか。普段どこに停めても大して変わらない駐車場に、少しだけ楽しみが生まれるだろう。 脳死的に空き地に駐車場を作るのではなく、未来の駐車場・少し楽しい駐車場を提案していくことで、閑散としてい る少しずつ街を少しずつ楽しくするきっかけを作ることができるのではないだろうか。 25


駐 車 場 で 閑 散 と し た 地 方 駅 前 を カ ラ フ ル に

閑散とした駅前空間 HO

ME

PA

RK

&R

IDE

OF

FIC

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地方の駅前空間には大きな駐車場が広がる。しかし、駐車場は 空車状態であり、そのため駐車場が広がる景色は何か寂しく、 駅前空間は閑散としてしまう。また地方駅は電車の待ち時間が 長いが、閑散とした駅前で待ちたいと思う人はいない。

駅の「駐車場」で待つ

WAIT

ING!

WAIT

ING!

現状

提案

そこで本提案では、駅前の駐車場を待つ空間に変える。 まばらに空いている現状である駐車枠に、4 種の待つための建築 を建てていく。電車の時間に合わせて家で待つのではなく、駐車 場に複合された様々な空間で待つことで、待つ体験を豊かにする。


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1. 高台 × 待つ

2. 植物 × 待つ

高さ 7,000mm の高台と駐車場 を複合。キャンチレバーにより 開放的な空間。出窓はソファベッ ドのようになり、景色を味わい ながら待つことができる。

ビニールハウスと駐車場を複合。 樹木の高さに合わせて室内は開 放的な天井高。ハンモックが設 けられ、空を見上げながら待つ ことができる。

地方都市という、良い景色を持 つ敷地のポテンシャルを生かす

螺旋階段により上へ。

高い開口からは鳥が訪れる。 ウッドデッキが敷かれる。

待ち方にバリエーションを! 本を読む スマホをいじる 仕事をする おしゃべりする 飲食する 寝る

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高台で 植物に囲まれて 足湯に浸かって 書斎で

4 種の建築は、それぞれ異なるシチュエーションを持つ。 人々が待つ時に行う「行為」は様々である。私はここ に様々な待つ「場所」を与え、待ち方にバリエーショ ンを持たせる。 待ちかたが増えることで、人々は多様な待ち方を楽し める。


3. 足湯 × 待つ

4. 書斎 × 待つ

足湯と駐車場を複合。駐車スペー スの天井高 2.1m から徐々に水 面に向かって屋根が捻りながら 落ちて行く。落ちた屋根には水 に反射した光がキラキラ輝く。

書斎と駐車場を複合。側面の棚 は構造体としても役割を果たし ている。ちょっとした資料作り やテスト前の最終チェックをし ながら待つことができる。

天井を水面に近づけることで、 水面の反射を天井面に映す。

複数人で話すことができる場に もなる。

「待ち」が「街」を豊かに! 閑散としていた駐車場に、待つための様々な建築がで きる。そこに様々な色の車が止まり、様々な人が様々 な時間帯に訪れ、滞在する。「待つ」という行為を駐車 場に付加するだけで、駅前空間を楽しげな風景に変え る。待つ “を” 豊かにする空間でもあり、待つ “が” 街 を豊かにする。

リモートワークのための空間に もなる。 棚の面を延長させたデスク

駐車場に 4 種類の 待ち方を与える 29


03 〇〇ボックス

2020.9 2020 年 日新工業建築設計競技 「遊びのうえに暮らす」 2等



第 47 回 日新工業建築設計競技 「遊びのうえに暮らす」 遊び」には、幼児のように戯れること、仲間と楽しく 過ごすこと、酒や賭博などに耽ること、仕事や勉強の 合間、物事にゆとりのあること、文学や芸術など世間 から遊離した美を求めること、機械などの部品の結合 にゆとりをもたせることなど、さまざまな意味があり ます。 ただ、いずれにしても、機能性や合理性を追い求め ることとはうらはらの、人間味あふれる行為で、生き るための根源のようなものと言えるでしょう。 ヨハン・ホイジンガが著した『ホモ・ルーデンス』( 中 公文庫、1973 年 ) では、 「文化は遊びのなかにおいて、 遊びとして発生し、展開してきた」「遊びが生活のな かで大きな意味を持っていること、それがある必然的 な使命を負っていること」「自然は……( 中略 )……緊 張、歓び、面白さというものをもった遊びを与えてく れた」と書かれています。 この人間活動の本質とも言える「遊び」から暮らしを 考えてください。 「遊び」を考えることで住むことの可能性が広がるで しょうし、これからの暮らしにヒントを与えてくれる でしょう。 みなさんの提案をお待ちしています。

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電話ボックスのような 〇〇ボックスを作る 町に溶け込んだ、 電話をするためのささやかな空間がある。 それは、目的から形が生まれた最小の建築である。 私たちは、電話ボックスのような 「〇〇ボックス」 を作り、 人々が暮らす町の上に散りばめていく。〇〇ボックスは、 都市の中で起こる人々のシーンを 切り取ったボックスであり、 そのシーンにフォーカスした特殊な形をしている。 それらは偶発的な出 会いを生み、 町をより豊かにする。 私たちの町が間味の溢れた遊びの場となるだろう。

居眠りボックス

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引き籠りボックス

ランチボックス

ドレスボックス

読書ボッ


ックス

大きさの決め方

都市に散りばめる

様々な使い方

寸法を参照

2300

2300

集めて使う

一人で使う

900

900

〇〇ボックスを町に散りばめて行く。 日々の生活の中で偶発的に〇〇ボックスに出会う。 誰かと使う

授乳ボックス

手洗いボックス

洗濯ボックス

キッチンボックス

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茶道ボックス

シアターボックス

フリマボックス

工房ボックス

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ボードゲームボックス

陶芸ボックス

お絵描きボックス

ワーキングボックス

礼拝ボ

ミュージッ


ボックス

ックボックス

合掌ボックス

お裾分けボックス

植物ボックス

マルシェボックス

サイエンスボックス

画廊ボックス

レコーディングボックス

Youtuber ボックス

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プレイルームボックス

待合ボックス

ちょい飲みボックス

郵便ボックス

蕎麦打ちボ

キャンプボックス

滝行ボックス

避難ボックス

釣りボックス

サウナボ

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ちボックス

日サロボックス

ボックス

足湯ボックス

接吻ボックス

PCR ボックス

クラブボックス

ボコボコボックス

燻製ボックス

幽霊ボックス

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04 交番 歩道橋 2019.11 第 3 回 KIPA 建築デザインコンペティション 「令和の交番」 最優秀賞



KIPA 第 3 回 デザインコンペティション 2019 ツナグ+DESIGN 「令和の交番(KOBAN)SPACE」 新元号と共に、新時代の幕開けです。来年には、東京オリンピッ クも開催され、ますます世界の中の日本は注目され、様々な 人々が行きかい、いろいろな接点、多くのふれあい、多様な 情報交換が期待されます。そのような日本の新時代に向けて、 新しい解釈の「交番 ; KOBAN 」SPACE を考えてみてくださ い。「交番」の歴史をひも解くと、日本独自の広囲な治安シス テムと考えられます。明治 7 年に東京警視庁に「交番所」が はじめて設けられ、警察官が警察署から特定の場所に出向い て、交替で立番をする形をとっていました。つまり「交替で 番をする所」ということから「交番所」となったものと言わ れます。この交番所はその後建物となり、そこで仕事をする 現在の形に変わりました。明治 21 年 10 月に「派出所」、「駐 在所」という名前で全国統一されましたが、警視庁創設当時 の「交番所」という名称がそのまま「交番」という呼び名で 残りました。現在では、「交番」という呼び名が国民間に定着 し、また「KOBAN」という国際語としてもそのまま通用す るほどになっています。ここで、我々は、新時代のふれあい = フレアイの場としての、交番システムに注目したいと思い ます。単なる治安の維持をはかる場所でなく、フレアイの場 として。 交 = 人と人が交わる場所、情報を発信し、吸収する場所 番 = 二つ組み合わせて一組となるもの。対 ( つい )。異なる もの 2 つが合わさって一つとなること。 KOBAN から → 新しい解釈の KO+BAN へ = 人々のふれあ いを促進する場所の提供。 増進する新地域システム・・・ みなさんの新しいイメージで、ふれあいの場としての新スペー スを創造しご提案願います。

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シェアブックスペースは、見晴ら しの良い気持ち良い空間となって おり、気軽に読書も楽しめる。

歩道橋の持つポテンシャル 歩道橋は道路において多くの人々の目に留める象徴性を持った建造物 のひとつである。また様々な人が行き交う通過機能を有し、高い位置 から街を見下ろすことができるなど多くのポテンシャルを持っている。 近年は減少傾向にある歩道橋だが、交番と組み合わせることでこのよ うな価値を生かし、人々が行き交う眺望が楽しめる新たな時代(=令和) の交番形態を提案する。 ①都市における象徴性

②眺望性

③通過機能

令和の触れ合いの場 = シェアする場 交番の機能に加え、歩道橋のポテンシャルを生かして人々が気軽に立 ち寄れる「シェアブックスペース」を付随させる。今後電子化が進み、 家で余るようになる「本」をシェアすることによって、本を介した新 しいつながりが生まれる。また交番の中で自由に貸し借りすることで、 安全にシェアすることができ、街中の見晴らしの良い場所から気軽に 読書を楽しむこともできる。

share 市民

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share

安全 Books

お巡りさん


シェアブックスペースの歩道橋の 梁せいを活かした段差空間は、蹴 上げが本棚となっている。

2000

500 0

1000

断面図

S=1/60

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機能の分散配置 交番の要素である” 事務室”” 応接室” を分解し、シェアスペースと共に橋 の上に3つのヴォリュームを分散配置する。また、それらの空間の一部を 欠くことで動線を確保し、雁行に配置させシークエンスに変化を持たせる。 欠いた空間は半外部空間を生み、内外の中間領域としてベンチや縁側など 人々の溜まり場を形成する。また、応接室は使わないときは市民のフリー スペースとして活用される。 事務室

応接室

シェアスペース

ボリュームを欠く

雁行させながら配置し、シークエンスに変化を持たせる

ボリュームが雁行配置された橋上は、内外ともにウッドデッキが敷かれ、ガラスが張 られることで、内外が緩やかにつながる。ウッドデッキの素材にはウリンを用い、橋 としての耐久性を担保しながら、温度上昇を防ぐ。

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デットスペースに

や休憩室として利


交番側はルーバーの奥行きを小さくし、内側か らの視野を確保する。

デスクの横は小上がりになり、市民が気軽 にお巡りさんと喋れる。

開口部には木のルーバーを設置し、外から の目線をカットする。

になりがちな階段下は、WC

利用。

1000 0

5000 2000

平面図

S=1/120


マイナス × マイナス = プラス

「交番」は昔のようなふれあいの機能を持たな い、今や街の端っこにある「脇役」 「歩道橋」も最近は減少傾向にある、街の「脇役」 そのようなマイナスとマイナスをかけること で、プラスにはできないだろうか。

交番と歩道橋のイメージの改善 交番は愛着が湧きにくい存在であり、かつただの通り道である歩道橋 は冷たく寂しいものである。そこに四角い木のフレームをアーケード の よ う に 配 す こ と で、温 か み の あ る イ メ ー ジ を 持 た せ る。ま た 2000mm 間隔のフレームは、間に棚や棒を介すことで、市民が植物や アートを飾れるスペースとなり、利用者が手を加えることができる余 白を与え、親しみのある交番を実現する。

道路の上という余った土地を有効活用しながら、都市

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市において冷たいイメージの歩道橋を、親しみのある場へと変える。周辺のマンションなどからの視線は、ルーバーや植栽によって切られる。

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05 踊り場で繋がる 集合住宅 2020.12 大東建託賃貸住宅コンペ 2020 「アフターコロナ の社会において、賃貸住宅はどう変わるか」




Essay : 03

階段の余白のこれから 1F に住む人は 5F を使わない 私は 5 階建てのマンションの 5 階に住んでいる。川崎という立地だが 5 階の共用廊下からはスカイツリーや東京タワー が望めるいい場所である。夏には各地の花火大会が見え、毎年のように共用廊下から見ている。 そのような眺望という良さをこのマンションは持っているにも関わらず、低層階に住んでいる人は普段その眺望を味 わうことは滅多にない。1F に住む人が 5F に上がってきても別に咎められたり注意されたりすることはない。なぜなら、 自分の専有部にたどり着くために 5F を通る必要がないからである。 せっかく大きな集合住宅に住んでいるのに、なぜその恩恵を受けられない人がいるのか。とても疑問ではないだろうか。 そこでこの計画では、縦導線に住戸がくっつきそれらを横導線がつなぐ構成とする。そうすることで自分の住戸まで たどり着くルートをたくさん作ることができる。すなわち、どのルート、どの場所も自分の専有部にたどり着くため の通路になりうる。1F に住んでいる人が 5F を通ってもいいようなアリバイを作ったのだ。 今まで集合住宅の住民は、大きな建物に住んでいるのにも関わらず小さな専有部しか使えないという現状だった。し かし、この「踊り場という居場所」と「自分の専有部までたどり着く経路」の 2 つを作ることで、集合住宅という大 きな建物を住民全員が使いこなすことができるようになるのだ。

すでに身近にある空間が変わること この集合住宅の踊り場は、一見スキップフロアをたくさん作っただけにも捉えられる。 しかし私が一番生みたいことは、「すでに身近にある” 既存” を” 更新” することで生まれる愛着」である。 この提案は最初に言った通り、法規的に必ず生まれてしまう踊り場という余白を捉え直すことで集合住宅全体が変わ るというものだ。恣意的にスキップを作るのではなく、既存の余白的概念を利用するのだ。 恣意性を除けることはもちろん、利用者にとってはいつも何気なく存在している余白が少し変わって違う見え方がす るので愛着に繋がりやすいと思う。 踊り場に興味を持ってから、街に存在する非常階段をよく見るようになった。すると、そのほとんどは費用を安く抑 えるために最低限の鉄骨部材を使って軽く作ってある。そのため、高所恐怖症の人にとっては怖いくらいの浮遊感が そこには生まれ、ある意味居心地の良さを獲得できている。現に、非常階段でタバコを吸う人が多いのはそのためで あろう。 今まで水平方向に広がっていった都市は行き場を失い、垂直方向に広がって行く。その時、階段がこれからの都市の 余白として人々の憩いの場にもなりうるであろう。

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踊り場は 集合住宅で唯一の 余白的空間

踊り場の居場所化 FL:5F FL:4.5F FL:4F FL:3.5F FL:3F FL:2.5F FL:2F FL:1.5F

踊り場=誰の家の前でもない空間

多様な踊り場を住戸間に形成

上下階を繋ぐ階段のなかでちょうど半階の高さにある踊り場という 場所は、集合住宅において「誰の家の前でもない共用部分」であり、 居心地が良さを持っている。 本提案では、複数の住戸を縫うようにして存在する縦階段の踊り場 を居場所化させる。それぞれの縦階段によって、様々な大きさの踊 り場が存在する。テーブルが置いてあり、ちょっとした勉強をした り、ソファに座って本を読んだり。この集合住宅全体が様々な居場 所が生まれる街のような様相を帯びる。 54


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大きな集合住宅、小さな専有部 集合住宅に住む人は、大 きな建物に住んでいるに も関わらず、使うのは小 さな自分の専有部とそこ までの動線のみだけであ る。大きな建物を使いこ なすことはできないだろ うか。

住民がどこを通って


ても帰れる仕組み 本提案では、専有部までの動線である縦 動線をたくさん作る。横動線やブリッジ でそれらを複数つなぐことにより、それ ぞれの専有部までの経路が増える。また、 縦動線内に居場所を作ることで、大きな 建物のどこにいても良い環境を作る。

帰るまでの経路を 複数作ることで 建物全体を使いこなす


非常階段 = 半屋外 の共用空間

非常階段は法規的に作られた空間であり、非常時以外は余白として存在す る。しかしこの階段は半屋外の共用空間であり、場所によっては眺めも良い。 この提案では、階段という半屋外空間を中心に暮らしが外へ開かれていく。 階段へ開かれた生活はさらに広がり、共用ブリッジ・共用廊下にも開かれ、 建物のファサードとなり町へ開かれる。

階段を介して、街へ様々な活動が溢れて行く。

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アトリエでは様々な 作品に出会う

踊り場で井戸端 会議が起こる

少し一服。 踊り場で吸うタバ コは美味しい

踊り場のソファ で読書する

踊り場で本と 出会う

踊り場で植物を 愛でる

0

500

1000

2000


住 戸 (

+ 縦 動 線 ︶ か ら ︑ 縦 動 線 ︵ + 住 戸 ︶ へ

横動線(大きな踊り場) ガーデン

大きな図書室

シェアキッチン

ギャラリー

アトリエ

談話室

教室

縦動線(EV+縦階段) 小さな離れ

縦階段

EV

住戸

7本の「住戸がくっつく縦階段」、3本の「EV」、そして 7 つの「大きな踊り場」からなる。 大きな踊り場は縦階段が貫通し、縦階段どうしの移動を可能にしながら、3本の EV のい ずれかが届き、スカイロビーのような役割も果たす。また縦階段同士は「共用動線のブリッ ジ」と「小さな離れと住戸を結ぶブリッジ」の 2 種類のブリッジでも結ばれる。ツリー 型から脱却した賃貸集合住宅は、街のような様相となる。


大きな踊り場 縦階段や EV を横に繋ぐ「大きな踊り場」を設ける。この大き な踊り場は縦階段から縦階段へ移動するための横動線であり、 住民たちは自分の住戸に辿り着くための経路を複数獲得できる。 設けられた 7 つの大きな踊り場は横動線のためだけではなく、 それぞれ用途を持つ。図書スペースやアトリエ、ギャラリーなど、 それらは住民たちの生活における +α的な用途を持ち、またこ の賃貸集合住宅内で広場的な役割を担う。

アトリエの大きな踊り場」。通りかかった人が作品に出会う。


私のブリッジ

公のブリッジ 縦動線同士には公と私のブリッジや大きな踊り場が駆け巡り、誰がどこに住んでいるかわからなくなる

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プライバシーとは どこに誰が住んでるか分からない 「迷路性」である。 公・私のブリッジ

本提案では、縦動線同士を「大きな踊り場」と多様なブリッ ジで結んでいる。2 つのボリュームで 1 つの住戸のものもあり、 そのため、ブリッジは共用廊下としてのブリッジと、住戸内 のブリッジの 2 種類がある。公・私の様々なブリッジがラン ダムにあることで、従来の単純な構成の集合住宅より、どこ に誰が住んでいるかわからなくなる。その迷路性が住民のプ ライバシー確保につながる。

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06 ( 半透明 )n 住宅

2021.5 第 8 回 POLUS 「リモートスタイルハウス」



第 8 回 POLUS 学生・建築デザインコンペティション 『リモートスタイルハウス』 コロナ禍で住宅に求められる機能は増しています。自 宅で過ごす時間が増え、リモートワークのためのス ペースを急ごしらえでしつらえた方も多いはず。 元来日本の住宅には多彩な機能や居場所がありました が徐々に nLDK にモデル化され、ライフスタイルは 変容してきました。フォーマルな座敷とインフォーマ ルな茶の間で区分されていた居間のかまえ方は近代化 を経て消えてしまいました。フォーマルな座敷は社会 との接点でもありました。そして土間のように日常の 作業だけでなく客人を向かい入れるプラスアルファの スペースも徐々に消えてしまってあまり見ることがで きなくなりました。 リモートスタイルになり、これまでの住宅と街のあり 方、ライフスタイルを見直す機会が訪れています。前 近代の住宅にはあった社会との接点、プラスアルファ の空間は実はリモートスタイルには都合が良い側面が あるかもしれません。しかし伝統的な住まいの形や街 の姿に単純に戻るわけにはいきません。 そこでインターネット時代の現代ならではの住宅と街 の新たなあり方、住宅地のコミュニティスペースや住 宅どうしの関係、ポストコロナを見据えた新しい集合 の仕方について考えてみましょう。新しい時代にふさ わしい住宅と街のあり方について提案してください。 みなさんのフレッシュで斬新なアイディアを期待して います。

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Essay : 04

住宅の愛着と使いづらさ 自分の部屋の「使いづらさ」 私は 2LDK のマンションに住んでおり、自分の部屋として 1 室の洋室を使っている。しかし、前の住民によるリフォー ムのせいで、少し部屋が使いずらい。 部屋に入って正面が大きな掃き出し窓、そして左右の両側全面に大きなクローゼットがある。このように、壁面が極 端に少ないため、机や布団の置き場所に困るのだ。 この使いづらい部屋を使いこなすため、私は机の配置などをとことん考えた。そして、いくつかの選択肢を経て、レ イアウトを決めた。そのため、今の配置は結構気に入っており、部屋に愛着すら湧いている。 さて、ここでふと思い返してみると、この自分の部屋がもっと使いやすかったら、私はこんなに自分の部屋のレイア ウトなどを考え抜いていたのだろうか。おそらく、最初に思いついた適当な配置で机やベッドをレイアウトし、何気 無く使っていただろう。しかし、この部屋が使いづらいがゆえに、部屋の使い方について深く考え、それが愛着に繋がっ たのだと思う。 不便益について 海外で道路から標識や信号を取り除いた社会実験が行われた。一見、標識や信号が取り除かれると、危なくて事故が 多発しそうに思える。しかし、結果はその逆であり、標識や信号がないがゆえに道路の利用者はより注意して走るよ うになり、結果的に事故が減ったのである。 このような、不便から得られる益のことを「不便益」と呼ぶ。これからの社会は、どんどん便利になっていくが、便 利がゆえに失うものもあり、逆に不便だからゆえに利益が出たり愛着が湧いたりすることもあるのである。 私の部屋への愛着も不便益から生まれたものだ。部屋が使いづらいがゆえに、とことん使い方を考え、それがどんど ん愛着に繋がっていくのである。 住宅の「愛着」と「使いづらさ」 私の半透明の壁がレイヤー状に重なる住宅は、おそらく不便が多く使いづらいであろう。隣の住戸との戸境壁すら半 透明なため、一番外のレイヤーからはお隣さんが見える。 ここで、この住宅に住むことを想像してほしい。おそらく、見せてもいい部分と見せたくない部分を考えるだろう。 そして、見せたくない部分にはカーテンをかけたり、家具をおいたりするだろう。 このように、半透明のレイヤーというスケルトンが、住民が家具の配置や生活について考えるきっかけを与えること ができる。という点が本提案で大切な部分だ。 近年、ハウスメーカーなどによる「使いやすい」「住みやすい」住宅が増えている。しかし、このような不便を取り除 く行為こそ、一般人の住宅、そして建築への興味の喪失につながるのではないだろうか。 住宅への愛着は、ちょっとした「使いづらさ」から生まれるのだ。 69


ベッドを1つ外の層に設置する。 朝には半透明の壁から朝日が入る。 仕事場から3枚壁を隔てた場所に設 置し、視覚的な距離を取る。

外から3層目を仕事場のように使う。 リビングなどの生活範囲から、離れす ぎず、近すぎない、 適度な距離を取る ことができる。

一番外の層は植物を置い たり、 庭のように使うことが できる。隣の住民とかすか に繋がるセミプライベート な場所となる。

壁は半透明のポリカーボネート板を使 用する。耐衝撃性や断熱性に優れる。

視線を遮りたい場所に棚などの什器 を置くことにより、privateな場所を住 民が作っていく。


半透明壁を重ねることで 距離感を選択できる住宅

背景

距離の選択性が欠けている

家族との繋がり

繋がり = 0

提案 透明

繋がり = 1

半透明な壁を重ねる 透明

度=0

度=0

.7

多層に重ねる

繋がり = 0.7

ステイホームによって、家族間や近隣住民との距離の取り方 の不自由さを実感した。 部屋のドアやカーテンを開けると家族や近隣との距離が近 すぎる。 かといって閉めれば繋がりはなくなる。 もっとゆるやか に、 自由に、家族や近隣との距離を選択することができない のか。

透明

.7

度=0

.7

繋がり = 0.7

n

本提案では、 すべての壁を半透明で作り、部屋ごとにわずか な繋がりをつくる。 そして、 その半透明の壁を多重に重ねるよ うにプランをつくる。 相互の空間の間に半透明の壁が複数あれば、 より繋がりは 薄くなる。壁の枚数によって家族間の距離、隣の住民との距 離を選択できる家となる。

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家族と距離を取る、近隣と距離を取る 本提案では、 半透明の壁を入れ子状に重ねていく 。住戸内では、1枚から最大6枚の半透明の壁を挟 んだ空間同士が存在し、 グラデーショナルに距離 を選択できる。 また、一番外の層は隣の住民と半 透明の壁1枚を介するのみなので、 セミプライベー トな空間として使われ、 中心の層に行くにつれてプ ライベート性が増す。

半透明の壁:最大6枚

semi-private

private

semi-private

「動線的距離」と「視線的距離」 扉が様々な 位置に配置

動線的距離

GAP

視覚的距離

各層を移動する時、扉を介して移動する。扉は一 直線に並ぶことなく配置されるため、 時には回り込 んで扉へ向かわなければならない。 「視線的には半 透明の壁を介して近いが、動線的には遠い」 という ことも起こりうる。 動線的距離と視線的距離のギャ ップが生まれることで、 バリエーショナルな距離の 取り方を生む建築となる。

構成ダイアグラム

❶ 敷地を7等分し、前面道路から 路地を延長させる。戸境壁を含 めた外壁を半透明にする。 72

❷入れ子状に半透明の壁を入れ る。幅は0.8m,1.2m,2m〜を設け ることで、 多様な空間を生む。

❸中心の層にいくにつれて天井高 を高くする。生まれたハイサイド ライトで採光・通風を行う。


リビングからの内観。 1枚隔てたダイニングは見えるが、 その奥の個室までは視線が通りにくい。

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道路から。 周辺には学校があり、 日が落ちると建物内の光が道に漏れ出す。 この建物は道を明るく照らす街の電灯としても機能する。

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内観。 奥のリビングが微かに見える。 右側の層は隣の住戸と近いセミプライベートな場所となり、 絵画を飾ったりできる。

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07 カーテン インフラ ストラクチャー 2021.12 公益財団法人ユニオン造形文化財団 第 28 回ユニオン造形デザイン賞公募 「ふるまいの共振」 奨励賞



公益財団法人ユニオン造形文化財団 第 28 回ユニオン造形デザイン賞公募 「ふるまいの共振」 「ふるまいの共振」をデザインして欲しい。そもそも建築とは、ある特 定のふるまいを集積させたものである。本を選び、読み、借りるふるま いを集積させれば図書館ができる。しかし、しばしば私たちの設計はふ るまいを深く見つめることなく、部屋や家具のレイアウトに終始してし まう。この課題は、建築を ふるまいとそこから立ち上がる感性の集積 として再定義するものである。ふるまいは、行為の模倣を意味する「振 り」と、反復を意味する「舞い」という文字からなる。赤ん坊が行為の 模倣と反復を通じ て共感を紡ぎ、共同体の一員となるように、ふるま いとは私たち集団の記憶と感情が折り畳まれた、言語化できない文化的 体系である。そこには、個人と集団の心理に届く設計の可能性がある。 今までの設計論では、人の心は主観的で定性化できないとして、積極的 に言及されてこなかった。しかし、行動主義心理学や認知心理学が明ら かにしたのは、人間は感情があって行動するという一般的 な理解の他 に、行動があることで感情や認知が生まれるという事実である。そこで 皆さんには是非、建築的な視点から人間を見つめ、ふるまいの観察を通 じて、人の感情を捉えてほしい。必要なのは、対象の動きを捉える微視 や動体視力なのである。今回の課題で求めたいのは、ふるまいを「共振」 させることだ。ある特定のふるまいが複数の身体に自然と起こるとき、 共感が生ま れる。宗教や祭礼の儀式、農村やギルドなどの共同体、芸 道や武道といった道と呼ばれる日本の伝統もまた、ふるまいの型とその 共 振 が 核 に あ る 。日 常 的 に も 、私 た ち は お じ ぎ や 会 釈 、 頷 き な ど の ふ る ま い を 共 に 重 ね 、「 つ ぶ や き 」や「 イ イ ネ 」と い っ た ふ る ま い をネットに重層させて、社会を紡いでいる。 社 会というもの を 、複 数 の 身 体 の 具 体 的 な 動 きとして 考 える と 、空 間 に で きることは 多 い 。そ れ は 、格 差 が 広 がり 、共 通 の 規 範 や 絶対的価値が失われた現代において、建築が再び社会に資 することのできる、大いなる可能性ではないか。提案は、都市や建築、 家具やプロダクトなど、どんなスケールのものでも良い。ふるまいも、 今まで誰も着目してこなかった些細な も の や 、コ ロ ナ 時 代 の 新 し い ふ る ま い で も 良 い 。そ れ を ど の よ う に 複 数 の 身 体 に 共 振 さ せ 、そ こ か ら ど の よう な 感 情 を 立 ち 上 げ 、共同体を 築くのか。身辺から立ち上がりながらも、大きく広がりのある提案を期 待している。

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Essay : 05

建築の映像性に関する考察 水盤の映像性 私は卒業論文にて、水盤の意匠的利用について研究をした。 水盤も建築の中で動的な要素であり、「不動産」と呼ばれる建築に動きを与える貴重なエレメントの 1 つである。 私は安藤忠雄氏が設計した京都の「陶板名画の庭」という建築を以前見に言ったことがある。彼の代名詞である RC の打放しコンクリートの立体的な組み合わせと、水盤を組み合わせた屋外のギャラリーである。 その日はとても天気が良く、京都の強い日差しが照りつけていたが、水に反射した光が RC の壁に映り、綺麗な模様 が映し出されていて心を打たれたことを覚えている。 ほんの些細な自然現象だが、ここに水盤の良さが濃縮されていた。時と場合によって建築の表情を変化させ、映像的 な側面を見せてくれる点がとても好きである。 建築の映像性 このような点から私は「建築の映像性」に興味がある。映像性とは静止画としての建築ではなく、長い、または短い 時間軸を持った概念であり、建築に欠かせない要素の一つである。近年は、新建築をはじめとする雑誌のメディアが 主流となり、静止画を媒介として建築を伝える場面が増えている。その時、建築の映像的な豊かさ、時間軸を持った 魅力の設計を怠り、軽視されてしまうのではないかと危惧している。 最初に、建築の映像性について、分類をしたいと思う。まず映像性は、その「時間の長さ」によっても 2 種類に分け られる。1 つ目は長い時間軸を持つ映像性であり、素材の経年劣化や、歴史の集積としての建築があげられる。2 つ 目は短い時間軸を持つ映像性であり、カーテンや水盤などの動くエレメントや、空間の連続的な体験が含まれる。 この、短い時間軸を持つ映像性はさらに「動くもの」の違いで 2 種類に分けられると考えられる。1 つ目は自分が空 間内を動くことで生まれる映像性。シークエンスなどはこの部類に属する。これを「主体的映像性」と名付ける。2 つ目は自分は動かないが自分以外のエレメ ントが動くようなことだ。例えば、水盤は些細な風だったり水滴が落ち波 紋のように広がったりと、映像的な場面が多く含まれる。これを、「エレメントの映像性」と名付ける。 私は、「エレメントの映像性」はこれまであまり建築で重要視されていなかったのではないかと思う。それには、紙な どの二次元の媒体では魅力を十分に表現しにくいものが多い点が原因であると考える。 しかし、そもそも建築は三次元、時間軸を入れると四次元のものである。また近年の技術の発展により、動画や VR などの二次元を超えた媒体で建築を伝えることが可能になり始めている。 透視図が開発されたルネサンス期、パースペクティブな建築空間が作られ建築に影響を与えたように、建築は古来か ら伝達媒体に大きな影響を与えられてきた。媒体の過渡期であるいま、建築の価値観が変わる契機なのかもしれない。

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カーテンには様々な ふるまいが内在しているのでは? 82


カーテンには多様な振る舞いが内在している? カーテンが風でふわっと揺れた時、その柔らかさに豊かさを覚えた経験は誰しも あるだろう。 私たちは普段、日差しや目線を遮るためにカーテンを使っている。しかしカーテ ンはその他にも様々な振る舞いを内在しているのではないだろうか? カーテンの持つポテンシャルを存分に引き出し、生活をより豊かにすることはで きないだろうか。

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振る舞いを 引き出すカーテン


カーテンにまつわる振る舞いについて 庇護 包まる

開ける

絡まり

隠れる

引っ掛ける めくる

媒介

遮蔽

なびく

映す

透ける

遮る

束ねる

人間からの振る舞い

伝う

自然からの振る舞い

カーテンにまつわる日常の振る舞いを改めて考えてみる。 すると、本来の「遮蔽」のために行う振る舞い以外にも、多様な振 る舞いを内在することがわかった。またそれらは人間だけでなく、 自然の振る舞いにも大きな影響を受けていた。

振る舞いを引き出すカーテンの素材 開 け る

め く る

束 ね る

包 ま る

隠 れ る

引 っ 掛 け る

伝 う

映 す

遮 る

透 け る

な び く

[庇護]

[絡まり]

[遮蔽]

[媒介]

ポリエステル

トリカットネット

塩ビ

メッシュシート

ゴアテックス

ステンレスメッシュ

帆布

タイベックシート

カーテンには大きく 4 種類の振る舞いがあることがわかった。 私たちはそれらの振る舞いに特化した「素材」を用いてカーテンを 作っていく。素材の多様化により、更に振る舞いを引き出すことが できるだろう。 85


集合住宅のテラスを新しい「カーテン レール」に代替する。 カーテンは室内ではなく、室外に出さ れる。日射による熱取得を抑えるとと もに、境界意識が緩くなることで生活 領域を外へ出していく。

「カーテンレール」 としてのテラス


700

450

カーテンレールを外へ。 振る舞いを伝達させる。

カーテン間は、室内側は人が 2 人すれ 違える寸法。室外側は風でカーテンが 揺れた時カーテン同士が当たる寸法。 人間と自然の両者の振る舞いに合わせ た幅となる。

カーテンレールは複数層に配置される。 その結果、カーテン間に多様な空間が 生まれる。

1100


カーテンが外へ出され、生活領域が広がる。

様々な振る舞いを内在するカーテンが、都市のファサードを彩っていく。

88

カーテンがふわっと揺れる。他の住戸の振る舞いがカーテンによって


て伝達される。

カーテンを通した 気配の紐帯。 カーテンの肥大化= 振る舞いを通じた共同体の生成

カーテンたちを肥大化させ、住戸をまたいでいく。 他住民の振る舞いが、カーテンという建築のエレメントを通じて伝わってくる。 カーテンを通して小さな共同意識を持ちながら暮らす集合住宅となるだろう。 89


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