1
略歴 2000.2 東京都にて生まれる 2015.4
千葉県立船橋高校入学
2018.4 京都大学工学部建築学科入学
趣味 ギター・ピアノ・サッカー
2
建築を学び始めての最初の 3 年の記録
建築を学び始めて3年がたった。これから建築に関わるであろう時間の長さを考えればたった3年ともいえるだろう が、この3年は自分のアイデンティティを見つけていくうえではとても重要な3年間だったように思える。
自分が暮らしてきた環境、積み上げてきた価値観、自分の身に着けてきた能力、そういった自分を形成してきたもの、 形成された自分自身に建築というレンズを通して向き合った初めての経験はこれからの物の見方に大きな影響を与え るように思う。
このポートフォリオを作るにあたって、それぞれの課題に取り組んでいく中でどのようなことを考えたのかなるべく 正確に書き出すことに努めた。
3
Contents
4
文化コンプレックス
集合住宅
p6-29
p30-55
音楽堂
美術館
p56-73
p74-95
5
3 回後期第 2 課題
茶屋町メディアコンプレックス
6
課題文 建築とは極言すれば人々の集まる場所をつくることである。しかしながら現代において人々の 文化的志向性は多様化し、 断片化しているように見える。 またインターネット上のメディアの発達に伴って、人々のつながりはますます実空間上の場所を介さないものになってきて いる。 とはいえ、そのような時代だからこそ、異なる傾向を持った人同士が偶発的に出会い、様々な 形で同じ時を過ごせる場所 をつくることの重要性は高まっているのではないだろうか。 大阪の茶屋町は、劇場、映画館などの文化施設や大小さまざまなスケールの店舗が共存する魅力的な街である。本課題は、 茶屋町の只中にあって、街路性を取り込みながら立体的に展開する文化交流施設を設計するものである。 人々の集まる場として、小劇場、シネマ、アートブックを中心としたライブラリー、ギャラリー、スタジオ、研修室などを もつメディアコンプレックスをデザインする。 敷地は梅田芸術劇場、阪急電車の線路などに隣接する。 こうした条件を踏まえて、街の持つ魅 力やにぎわいを建物の中に取り込む工夫を凝らして設計すること。とりわけ、一階 レベルにお いて複数の通り抜けが可能なプランとする。 人々の集まりが持つ活気が湧き上がるような、生き生きとした提 案を期待している。
7
8
茶屋町 Stream stream とは、直訳すると『流れ』である。茶屋町付近は多くの人が行き交い、さまざまな流れを生み出している。 大小さまざまなフレームの重なり、貫入によってできる空間によって、その流れの中に溶け込みつつも、確かな居場所を与える利用 者の日常に寄り添った文化コンプレックスを設計することを目指した。 設計のプロセスとしてまず、細長い敷地に合わせて都市に湧き上がる賑わいを巻き込み、つないでいくメインストリームを通した。 そして、メインストリームに対して微妙に角度をとりながら少し小さなフレームを貫入させ空間を切り取ることにより新たなサブス トリームを作り出すとともに、機能を持つ空間を設け、滞留も作り出した。 こうしてできた内部とも外部とも取れる曖昧な空間、体験の連続、動と静両方の過ごし方の共存する都市の境界は新たな都市住民の 拠り所となるとともに文化の代謝を促すような文化的機能を果たす。
9
10
0.現状
道行く人らにとっての居場所、すなわち店を出てからの行為を受け止める ような場所がない。そのため店や施設自体がよくてもそれらが道路と一体 的に利用されておらず、店の中で行為が完結してしまっており、道路が点 と点を結ぶただの線になってしまっている。 そこで内部と外部の相互作用が盛んにおこなわれ、道行く人らにとっての 居場所となり、それがあらゆる文化的行為に興味を持つきっかけとなるよ うな場を考えた。 そしてそのような場を作るにあたって複雑な流れや淀みがあり、多くの動 植物の棲み処を持つような川のような場を作ることを目指した。
11
12
1.メインストリームを通す メインストリーム内にはギャラリー、ライブラリー、シアター、シネマの4つの機能が立体的に重ねら れながら配置されており、それらの空間的な境界は曖昧である。 そこに1つの大きな流れが加わることでそれらの機能と体験が人の動きとともに流れ出す。
13
14
2.サブストリームを作る サブストリームによって淀みができ、流れ出した人、あるいは流れ込んだ人を受け止める場になるとと もに内外の相互作用が活性化される。内か外かが曖昧な場は様々な行為を許容し、例えば内から外への 行為とみなせるワークショップ、講演を行う場や、内から外への行為とみなせる外部から食べ物や読み 物、 道具などを持ち込みそれらを使う場としての機能を果たす。このように内と外の間で行われるフィー ドバックを通して文化は常にアップデートされていく。
15
梅田芸術劇場
搬入口
搬入口
通常は図書の閲覧スペースなどとして利用されるが、 様々なイベントにも利用できる中間領域
B
倉庫 荷解室 EV
司書と利用者の交流の場
ステージ
ロフト スタジオ EV
従業員入口 事務作業室 図書案内
多目的スペース
搬入口 貸出カウンター
楽屋 多目的スペース 総合受付
ショップ アーティストホワイエ
WC
ホワイエ
楽屋
WC
A
WC スタディールーム WC 閲覧室 大スタジオ WC WC
外部とつながっている軒下のような中間領域
カフェ 閲覧室
飛び地のような場が街路を通る人を引き込む NU茶屋町
16
平面図 GL+2000 1/00
B
EV
ギャラリー事務室 EV
シアター
もぎり
ギャラリーへ
照明室
シアター事務 A
ホワイエ
音響室
外部とつながっている閲覧スペース
シネマ
平面図 GL+8000 1/600
17
フライタワー 収蔵庫 閉架書庫 ギャラリー
ギャラリー
平面図 GL+18000 1/800
フライタワー 収蔵庫 ギャラリー
屋外ギャラリー ギャラリー もぎりギャラリー順路 ギャラリー
シネマ
平面図 GL+13500 1/800 18
配置図 1/800
閉架書庫
ギャラリー
ギャラリー
平面図 GL+23000 1/800 19
ギャラリー
ライブラリー
20
シアター
ショップ
A-A' 断面図 21
22
B-B’ 断面図
南立面図
北立面図 23
北側道路
24
南側道路
25
26
27
28
29
3 回後期第 1 課題
集まって生きるかたち
課題文 新型コロナウイルスの感染が世界中を襲い,その対策として,各地で外を出歩くことや集まることに対する規制が行 われました.その中で,デジタルツールによるコミュニケーションが急速に浸透し,在宅勤務や教育のオンライン化, ネットショッピングや友人とのリモート飲み会など,オンライン上でできることの可能性が広く共有されました. この経験は,これまでのオフィスや学校,店舗,住宅などの空間を見直し,また,通勤や出張といった移動の意味を 考えるきっかけをもたらしました. しかし,人のいないまちには魅力がないことや,実空間に含まれる雑音のような情報が、多くの経験の共有に活きて いたことにも気づき,集まることの価値が再確認されました. ただ,以前の状況がすべてよいとは言えない,コロナ禍が過ぎても,同じ状況に戻ることはないのではないかと感じ ている人は多いでしょう. そうした中,集合住宅はどうあるべきなのでしょうか. 専有部がオンラインを通した仕事や教育の場として使われるということだけでなく,集合住宅全体が,オフィスや市場, 学校,病院のような側面を持ち,まちのようでもあるような,これからの都市を変えていくさまざまな可能性が考え られるかもしれません. もちろん,単に集まればいいということではないかもしれません.集まって生きることの意味を冷静に問い,これか らの価値観を見出すような集合住宅を提案してください.
32
マイパブリックスペース ー広げる領域、広がる居場所ー マイパブリックスペースとは、自分の住むハコの外にある居場所 一生懸命に時間をかけ手をかけて生まれた本当の居場所であるマイパブリックスペー スが他者のマイパブリックスペースと繋がりを持てば自然と交流が生まれ、彼らは真 の意味での隣人となる
33
コロナ禍で見えてきた課題と提案 コロナ禍を経て、自分の人とのつながり、生活圏について考えることとなった。人との接触が避けられる中で、新たな出会い は少なくなった。そして既存の繋がりの中でネットを介して交流することが多くなった。 インターネットを介した交流では偶発的な出会いは起こらず、また同じ空間を介していないことによる行動の制限などもある。 そもそも出会いとはなんだったのか。自分が世界を広げる、居場所を作る、広げるときには必ず何かきっかけや手がかりがあっ たはずだ。インターネット社会でも広大なインターネットの海においてつながりを作る時には、必ず何か趣味などの共通点、 あるいはプログラムが必要である。つまりインターネット社会もその点においては現実世界と変わらない。何も手がかりがな ければ大量の情報、人が存在していてもそれらは何の意味もなさない。 手がかりを通した能動的な個々の居場所の創出が必然的、偶発的なつながりを生み出し、共同体を生むと言えるのではないか。 加えて、居場所は継続的な働きかけを持って初めて成立すると言うこともこの期間を通して身にしみて感じた。 日々手をかけ、苦労を共にすることで愛着が湧き、つながりが強固になっていくと言うことは人間関係にも当てはまるが一般 的な場においても当てはまるであろう。 また、せっかく場を作っても継続的に手をかけなければ本当の意味で自分のものとして獲得できず、他の人の手に渡るという ことも人間関係と場の両方において当てはまる。 その点において、リモートワークやオンラインミーティングなどのインターネットを介したやり取りを一定の期間行ってきた 中で、ネットの世界ではは手をかけて居場所を強固なものにする手段に乏しく、実世界と乖離している部分も大きいため脆弱 なものになりがちであるということも再確認できたように思う。 このコロナ禍をへて人は集まって助け合って生きていることを再確認するとともに自分の居場所が社会の中にあることはとて も重要なことであると感じた。 この集合住宅では個々の住戸に住む人らが能動的、継続的に自分の居場所、すなわちマイパブリックスペースを作り出し、そ れが小さな社会のような、個々のつながり、あるいは大きな共同体としてのつながりを生み出すということを目指した。 一人一人が能動的にマイパブリックスペースを作っていけば、既存の核家族の枠組みを超えた繋がりもできるはずである。 さらに言えばこの考え方は今の日本の閉鎖的な核家族の形に対する集合住宅における個人のあり方の一つとしても位置付けら れるのではないか。 今こそ自分が自分らしくあるために、自らの居場所を自らの手で作っていこう。
34
35
日常におけるマイパブリックスペースの萌芽 普段の生活の中にも「マイパブリックスペース」のような空間は溢れている。 公的な場の中にある半私的な空間の例から、それを集合住宅に取り込むことを考えた。
自宅の前の道路を掃除する
36
よく遊ぶ公園の荷物を置く場所
学校の自分の机
集合住宅におけるマイパブリックスペースとは 「パブリックスペース」の一部を半私有化した場所であり、「パブリック」と「プライベート」の中間的な性格を持つ。 一人一人が既存の物理的、社会的手がかりをもとに広げていくことで集合住宅内に様々な「領域の重なり」が生まれる。
自分が世話をしたり管理をする
隣人も自由に出入りでき、通り道にもなる
他者の領域と重なることも
37
形態のプログラム 1818mm
1818mm
3120mm
38
909mm
909mm
909mm
①一単位1間 (1818mm) × 1 間 (1818mm) × 3120mm の 1080 個の 単位格⼦により全体の⾻組みを形成する。 ②東京都練⾺区の世帯人数構成に基づき各戸の人数を想定 し、一人用住居から五人用住居まで格⼦中にランダムに配置 する。 ③住居内部と外部に連続性を持たせ、プライベートを確保す るために各戸に中間領域となる縁側、⼟間をつくった。 39
面に対して斜材を入れると通り抜けることがかなり難しくな る。一方で、直方体に対して三次元的に斜材を入れた場合には 行動はある程度制限されるが通り抜けることができる。これを 〇
利用して住民がマイパブリックスペースを広げていくにあたっ てのトラブルを減らし、心理的ハードルを下げる。 〇
×
〇
△
〇
1 間× 1 間の⾻組みの単位における貫の有無により、マイパブ リックスペースを広げるということに対して制限がかけられ る。これをあらかじめ設計段階に組み込んでおくことにより、 住戸における最低限の日当たりとプライバシーが守られる。
× 〇
40
持ち運び可能な足場の設置
ぶどう棚の設置
構造体を利用した棚をつくる
梁にブランコをかける
プレハブ小屋をつくる
かけるプランターによる栽培
マイパブリックスペースには 個性も現れる。
仮設ステージでのアコースティックライブ
野菜を植え広げる 41
一人用住戸二階平面図
一人用住戸一階平面図
住戸の内部と外部は⼟間や縁側を通してつながっており、プ ライベートな部分は外部と距離を持っている。⼟間は様々な 用途に使え、ワークスペースとして使うこともできるが、趣 味などが外部とつながるきっかけ、すなわちマイパブリック
42
スペースを広げていくきっかけにもなりうる。
A-A' 断面図 43
全体平面図 GL+4150
44
住戸と住戸の間の⾻組みにまとわりつくようにマイパブリックスペースが現れる。 それは住戸と街の間の中間領域にあたり、周辺住民との接点にもなる。
神社 学校 住宅地 公園
住宅地
オフィス 住宅地
商業
オフィス
地下鉄駅
商業
45
マイパブリックスペースから始まる物語
趣味や興味などをもとにマイパブリックスペースを広げていくため、家族の枠を超えたつながりも生まれる。
仮設ステージでアコース
オンライン授業になり、一日の大半を家の中で過ごす
ティックライブをする
ようになった一人暮らしの大学一年生。他人と交流す 普段から気にかけていて、野菜のおす
る機会が欲しいがきっかけがなく一人で過ごす日々。
そわけをする。夫のサプライズ誕生日 パーティーの歌の伴奏のお願いをする。 ⼟間からシームレスにつながるキッチンでお 互いの国の料理を紹介し合う。また、他所に 引っ越すにあたり果樹を引き継いでもらった。 主婦 ギター好き大学生 ⾻組みを使って個展を 開催する。 一緒に筋トレ器具を DIY
親⼦
してシェアする。
老後を心配してこの集合
不定期でマイパブリック
住宅に呼び寄せ、住戸同
スペースに近所の⼦供た 夏休みの自由研究で
士を足場でつないだ。
朝顔の観察をする。
カメラ好き社会人
ちを集めて即席英会話教 室をする。
朝顔の写真を撮る。 朝顔の押し花を教えてもらう。 小学生 放し飼いスペースで遊ぶ。 おばあさん 朝顔の観察を手伝っ てくれる。
料理、お菓⼦作りを 教える。
猫 46
中学生
イギリス人 OL
マイパブリックスペースで筋トレをしている隣に 住む高校生を見かけた。運動不足解消のために自 分も混ぜてもらうことに。
47
教科書が増えたので本棚を作ろうと思った。筋トレを通して仲良 48
くなった高校生の⽗が DIY が得意だというので手伝ってもらう。
ご近所さんとしての関係が深まっていき、週末に高校生の家族か らバーベキューに誘ってもらう。マイパブリックスペースでの新 しい交流を通して、自分の「居場所」が住戸の外に広がっていく。 49
50
51
52
53
54
55
3 回前期第 2 課題
公園の中の音楽堂
課題文 音楽堂は音楽を聴くためだけに特別に設えられた空間である。しかし、そこを訪れ音楽に耳を傾け る人々の体験のなかでは、音楽堂の中での出来事だけが独立して存在しているわけではない。人々は その音楽に相応しく着飾り、連れ添い、出会い、会話を楽しみ、グラスを傾け、食べ、独特の開放感 に満ちた時間を楽しむ。そして、それら全体が、音楽堂に行くということなのである。 この音楽堂は都市の公園の中にある。音楽を介した豊かな時間を育む、人工と自然が入り混じる新 しい時代の音楽堂を提案してほしい。音の波紋が拡がるように、公園へ、都市へと拡がり、溶けてい くような音楽堂のありようを、描き出してみてほしい。
58
Gap in a forest in Kyoto ー都市の中心部で自然と音楽に向き合うー 自然と音楽は共に人間の本能的な部分を刺激するものであり、これらが共存する場所 が都市の中心部に存在することは心理的側面、環境的側面、教育的側面、文化的側面 などの面において都市の豊かさに大きく寄与する。そのような場は都市の中でイレ ギュラーな存在であり、ギャップと呼べるのではないだろうか。その他にも、自然と 人間の間、観客と演者の間、自然の営為であるギャップダイナミクスや人間関係の間 など、ギャップは様々なところに現れる。そこでギャップの存在を意識的に認知し、 生かすことによって自然、建築、音楽、人間がよい距離感、関係性を持つことができ る都市の森の中の音楽堂を提案する。
59
敷地
京都駅の西約 1 キロにある梅小路公園の中にあるいのちの森は、周りを住宅街や線路に囲まれる中で異質な存在、すなわちギャップである。梅小路公園の中でも特にこの森はただの 森とは違った気軽に足を運べる非日常空間となる可能性を秘めている。
京都水族館
梅小路小学校 市電広場
梅小路京都西駅
芝生広場
すざくゆめ広場
site 朱雀の庭
いのちの森
嵯峨野線
京都鉄道博物館
N 山陰本線 東海道新幹線
60
梅小路公園周辺
いのちの森における取り組み いのちの森は 1996 年にもとは草も木もない都市の貨物駅だっ た場所に、いきものの生息空間の再生を目指して作られた。現 在この森は無料で開放されておらず、都市の人々が日常的に直 接的な関わることができる環境になっているとは言えない。そ こで、ここ数年種の数の変化が安定し作られた当時に植樹され
ウンモンスズメ
エナガ
エノキ
カワセミ
コクワガタ
コナラ
ハギ
エノキ
た木々も力強く根を張るまでになっていることを踏まえ、人間 によるある程度の攪乱にも耐えうると考え、森の生態系のサイ クルに人間が入り込み、森が作り出す様々な場を音楽などを通 したコミュニケーションの場とすることを考えた。
いのちの森の開けた場所
いのちの森の小川と橋
いのちの森での観察会の様⼦
いのちの森遊歩道
うっそうとしたいのちの森
朱雀の庭からいのちの森へ
61
調査を重ねていく中でこの風景に思 わず息をのんだ。 そこは鬱蒼とした森の中で珍しく日 の光がよく当たる気持ちの良い場所 だった。
この風景から、森におけるギャップダイナミクスという語が
ギャップの成り立ち
中規模攪乱仮説ー攪乱の程度により種の多様性が変わる
思い浮かんだ。ギャップダイナミクスと中規模攪乱仮説をう
優占種による多種の競争的排 錯乱
まく利用すれば自然の破壊をしないだけでなく、種の多様性
除が起こり、陰樹などの優占 種が大部分を占めるようにな
を人間の手で確保していくことも可能である。森の中を歩い 小
てふと開けたところへと出た時の安心感、心地よさ。これに 音楽が加われば今までに体験したことのないような日常、非
新林が発達して林冠層が大型の樹木でおお
台風や地滑り、雪害などで数本の林冠木が
ギャップ下で若い個体がまとまって更新
日常が入り混じる不思議な空間ができるのではないか。
われる。林床は暗くなり、後継樹が更新し
倒れ、林冠層に大きな穴(ギャップ)が形
し、パッチ(種類やサイズがそろったまと
にくくなる。
成されることで、林床に強い光が到達する。
まり)をつくる。
62
り、種の多様性が低くなる。
中
種の多様性が高くなる。
大
ストレスに寛容性を持つ種の
地面は寝返りなどで攪乱され、種⼦が発芽、
みが存続し種の多様性が低く
生長しやすい環境が整えられる。
なる。
ギャップの本質 ギャップダイナミクスのみに絞らずギャップという語そのものに注目すると、これは体験、事象の中などに頻繁に現れていることに気づいた。このギャップは人の心を 突き動かす原動力となっているが、私たちはその心の動きが様々なギャップによるものだと意識することは少ない。ここでギャップの本質を一様、連続である場、事象 における部分的な途切れ、空白、隔たりと捉え、これらを意識的に設計の中に落とし込んでいくことを目指した。
ギャップの例 地面、壁などの裂け目、隙間
意見、年齢、立場などの大きな相違、隔たり
時間、空間の隔たり
ギャップダイナミクス(森林における部分的な破壊と遷移のサイクル)
63
音楽が奏でられる場は森の中でしかも地下にあるため
B’
に、それまでの日常的な風景は変わらずにあり続ける。 そのような日常の風景の中を歩いていた人は、森、そ して地下に入るとそこの雰囲気の違いと今までの日常 との物理的な距離感のギャップを強く感じる。
朱雀の庭 A
配置図 64
いのちの森
A’ B
0 5 10 20m
・ギャップダイナミクスの中に建築が入り込む ギャップダイナミクスにおける攪乱は、自然災害などが主だが、 人為的な攪乱(建築や侵入)によってもこのサイクルを活性化で きるのではないかと考えた。すなわち建築が植物に生きる場を与 え、多様性維持に貢献する、人間が植物に活動する場を与えても らうというようなことは可能であるはずであると考えた。森林の 理論は定式化されたものはなく、その強さも未だ未知である。最 初の時点では森のうちで地下に建築がある部分は約 16%である が、今後のフィードバックをもとに改変していくことでさらに建 自然にできたギャップに人間の活動の場を作る。
人工的人工的にギャップを作り、生態系のサイクルを活性化させる。
築と自然との関係性が密接になっていく。
・ギャップがもたらす距離感
地上と地下の距離感
木々によってできる距離感
森の中にあるギャップにいる人は、周りに木々があることによって外の遊歩道などからの音や視線が適 度にカットされているため、開放感と同時に守られているように感じる。練習室においては、入り口が 隠れていること、地上と地下で隔たりがあることで、互いに近い距離感で気にせずにのびのびと自らの 内をさらけ出すことができる。 練習室付近と遊歩道の距離感
65
B' B'
EV トイレ
トイレ
舞台 EV
ホワイエ 小ホール
A A トイレ
EV
トイレ
ホワイエ
ホワイエ
A'
B N
平面図 GL-17000
66
0
5
10
20m
B
平面図 GL-10000
A' 0
5
10
20m
N
B'
EV 楽屋 楽屋 楽屋
楽屋 EV 楽屋 楽屋 楽屋
倉庫
A
カウンター 事務室 倉庫 練習室 ホワイエ
EV
クローク
練習室
カフェスタンド
ライブラリー
練習室
B
平面図 GL-500
0
5
10
20m
N
練習室
A'
練習室
GL-500
67
ライブラリー ホワイエ 大ホール
舞台
奈落
A-A' 断面図
68
0
5
10
20m
3. 体験の中でのギャップ 大ホールの様⼦
急激な雰囲気の変化は本能を呼び覚ます
ステージ裏には水が流れている
人は鬱蒼とした森をさまよっているとき、日の光がよくあた るギャップにたどり着くと安心感を覚える。急に目の前に現 れる大きな穴に対しては恐怖心や緊張感を抱く。暗い洞窟の 中で出口の光の点を見つけたときは希望を抱く。このように、 急激な空間の雰囲気の変化、すなわち前後の体験のギャップ に対して人は本能的に様々な感情を抱く。音楽体験も自然体 験も、そのような本能的な感情や興味から能動的に関わって いくことが重要であり、このようなギャップを通すことで自 然とそのような感覚が研ぎ澄まされるはずである。
69
楽屋
楽屋
大ホール ホワイエ ホワイエ
舞台
B-B’断面図
70
0
5
10
20m
地下や地上の意匠は崖、地層、鍾乳洞、川、滝など自然の営為 からできる空間を意識したものにした。現代において、舗装さ れた道路など人間が生み出してきた構造物は地球と私たち人間 を切り離してしまっているものが多い。その地球と人間の間の ギャップを認識しなおす体験は本能に強く訴えかけるものにな り、音楽体験にも大きな影響を及ぼす。
南側ホワイエ
71
楽屋と朱雀の庭 演者はホールでの本番のために多くの時間をかけて練習し準備してお り、本番当日はただならぬ緊張感の中で過ごしているのに対して、観客 は期待感に胸を膨らましてそれまでの時を過ごすだろう。このように演 者と観客の本番当日の時の流れ方にはギャップがある。そこで、それぞ れのに合った空間と時間の流れ方を作るために、楽屋等を朱雀の庭の地 下に配置し、演者は心を整えられるようにし、森の中のアプローチで観 客は賑やかで楽しい気持ちで過ごせるようにした。
72
東側ホワイエ この音楽堂のホールとその周りを取り囲む空間は、大きな構成は崖や川など自然的なも ので成り立っており、それは長い時間をかけて徐々に風化浸食により変化していく。方 で地下にあることによって、それに実際に音楽ホール的な機能を持たせ、使っていくに あたってある程度自由に人間的なスケールで少しづつ穴を掘ったりして改変、破壊、修 正などをすることができる。この大きな時間の流れと短い時間の流れというギャップの 中でこの建築は徐々に複雑になっていく。このような変化より、大きな生物のように建 築自体が成長していると捉えることもできるだろう。
73
3 回前期第 1 課題
Con-tempo-rary Museum
74
課題文 今日における美術館、とりわけ現代美術館の役割は、かつてのような美術の殿堂としてのそれではない。 むしろ美術をめぐる同時代的な活動の結び目としての役割が問われており、 美術館におけるアクティビティーや機能も、より拡張されたものとなってきている。 Contemporary = Con( 一緒 )-tempo( 時間 )-rary とは、歴史上の現代を意味するというよりは、 同時代性、あるいは同時に存在することを意味していると考えられる。 このことの意義は、京都のような都市においてとりわけ大きい。 1200 年以上の歴史を持つこの都市には、様々な時代の、様々な出自を持つアートや建築、庭や街並みが、まさに共 存しているからである。 また、増え続ける観光客の存在によって、様々な国々のあらゆる年齢層の人々が入り混じる状況も生まれている。 敷地は鴨川に面した、京都の中心地にある。したがってここには自然と人工が共存してもいる。 この場所に、かつてなく様々なものやひとが混在する、Con-tempo-rary な美術館を計画してほしい。
75
76
中間領域に佇む 日本の人々の芸術に対する関心は欧米の国々と比較すると低いと言われている。 そこで人々が能動的に芸術、芸術活動に働きかけることを促すような建築とはどのようなものであるかを考え、美術館 の内部と外部、そして展示スペースとパブリックスペースが視覚的、空間的、身体的なつながりを持つ美術館を構想した。 敷地は木屋町通の飲み屋街、御池通の都市的な街路、鴨川と接点を持つ非常に特徴的な場所にある。 そこで鴨川とその河川敷より有機的な丘とヴォイドを、御池通の飲み屋街の建築より展示空間や収蔵空間となるホワイ トキューブ、御池通の流れより全体を覆う透明、半透明なファサードを取り込み、全体を構成した。 有機的な丘と無機的なキューブとそれらを取り囲むファサードとの間にはそれぞれの形状や特性の差異によって中間領 域が生まれる。これを効果的に活用することによって美術館が人々を能動的に芸術、芸術活動に働きかける際のインター フェースになり得るのではないか。
77
敷地周辺
御池通
木屋町通
木屋町通
78
鴨川
御池通
鴨川
-設計趣旨- 日本の人々の芸術に対する関心は欧米の国々と比較すると低いと言われている。そこで人々が能動的に芸術、芸術活動に働きかけることを促すような建築とはどのようなものであるかを考え、 美術館の内部と外部、そして展示スペースとパブリックスペースが視覚的、空間的、身体的なつながりを持つ美術館を構想した。 敷地は木屋町通の飲み屋街、御池通の都市的な街路、鴨川と接点を持つ非常に特徴的な場所にある。そこで鴨川とその河川敷より有機的な丘とヴォイドを、 御池通の飲み屋街の建築より展示空間や収蔵空間となるホワイトキューブ、御池通の流れより全体を覆う透明、半透明なファサードを取り込み、全体を構成した。 有機的な丘と無機的なキューブとそれらを取り囲むファサードとの間にはそれぞれの形状や特性の差異によって中間領域が生まれる。 これを効果的に活用することによって美術館が人々を能動的に芸術、芸術活動に働きかける際のインターフェースになり得るのではないか。
-ダイアグラムー
構成方法 構成
左の操作によって生まれる空間と相互の中間領域
御池通 御池通
丘と透明なファサードにより 開放的でゆったりとした空間ができる。
アトリウム 丘とスラブにより 空間が緩やかにつながる
丘を登りスムーズに内部に入ることができる
アトリウムと展示空間の間は 雰囲気を共有している
木屋町通
巨大で滑らかなファサードで 外部からはスクリーンのように 内部の様子が見える
木屋町通 半地下展示スペースでは 空間が緩急をつけて変化する
鴨川
展示室内部も 外部の環境の影響を受ける
鴨川
木屋町通側の建物と ホワイトキューブは 滑らかに接続している
展示空間
外部空間
展示室の間の空間では 外部を直接見ることができる
東断面図
79 0
2
5
10
80
81
82
83
84
85
86
87
木屋町通からのアプローチ 88
鴨川からのアプローチ 89
展示空間の間 90
アトリウム
地下展示室91
92
展示空間
地下展示空間
93
94
間空間
アトリウム
95