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839:生きようとする意志
from 839:生きようとする意志
生きようとする意志
The Will to Live
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アイリス・リチャード
昨年、貧困地区で支援プロジェクトを行っていた時、フリーのジャーナリストをしているベンソンという名前の若者に出会ったのですが、彼は私たちのウェブサイトのために、プロフェッショナルな写真を撮ってあげようと申し出てくれました。また別の時には、彼が人生の大半で味わってきた苦難が今でもマイナスの影響を与えているので、祈って欲しいと言ってきました。彼が話してくれたのは、次のような内容です。
ベンソンは、ビクトリア湖のケニア側の湖畔にある小さな村に住んでいた若い夫婦にとって、初めての子どもでした。気の毒なことに、母親がマラリアで死亡した時、一家の素朴で幸せな暮らしは悲しいものへと一変します。父親は、二人の子持ちの女性と再婚し、さらに、いくつかのアフリカの集落ではよくあるように、二人目の妻も迎えました。ベンソンはまだ6歳だったのですが、父親の最初の子であることから、義母たちから妬まれ、恨まれて、ネズミと呼ばれるほど嫌われました。
農作物が不作になった時、一家は首都へ引っ越し、キベラというスラム街の小さな小屋に住みました。父親はほとんど外にいて、必死に仕事を探しており、家では、ベンソンの食事や世話がいつも後回しにされました。また、義母たちからよく叩かれ、学校にも行かせてもらえず、家事をさせられたそうです。そこで10歳の時、家から逃げ出しました。
ベンソンは、放浪して回るストリートチルドレンの一行に加わったのですが、リーダー格にある者たちから物乞いを強制されました。世間から見捨てられた者として生活し、常にお腹をすかせ、ぞんざいに扱われ、のけ者にされていたので、絶望から逃避しようと接着剤を吸うようになったそうです。そんな悲惨な状態が3年間続いたため、栄養不良とトルエン中毒になり、希望をほぼ失いかけてしまいました。しかし、神はまだ彼の人生のために計画をお持ちだという、小さな信仰の火花が、心の奥深くできらめいているのを感じたのです。
幸い、父親が安定した職を得ることができ、ベンソンを探しに来て、家に連れ戻してくれました。かなり痩せて病弱になっていましたが、それでも生きようとする意思があったので、体調はまもなく回復しました。学校では、優しい教師が彼に目をかけ、余分に何時間も個人指導をしてくれたので、何年分もの勉強を取り戻すことができました。さらに、素晴らしい成績をおさめたことで、支援者がつき、高校へ通わせてもらえたのです。ベンソンの人生はついに好転したかに見えました。
しかし、この時までに、義母たちには11人の子どもがおり、彼に対する態度が良くなることはありませんでした。ベンソンは家での生活に耐えられなくなり、15歳の時に再び家出しました。
そして加わったダンスグループが、高校を卒業するまで、食事と小部屋の家賃を支払ってくれました。サッカーが大好きで、苦しい練習も厭わなかったので、国代表チームのメンバーにまでなりましたが、またもや人生の挫折が訪れました。脚を多発骨折してしまい、輝かしい将来の夢が砕け散ったのです。
神に腹を立て、人生に失望したベンソンは、仕事がなく幻滅した若者たちの一団に加わったのですが、こそ泥を働いて生活しているような人たちでした。不安な月日が流れ、何度も自殺が頭をよぎりましたが、心の中には、まだかすかな希望の光が残っていました。
海外からの写真家たちにスラムを案内した時、安物のカメラをもらったことで、写真が好きになり、自分の住む地域の過酷な生活をさまざまな角度から撮影し始めました。それでもまだ心配と不安と自責の念にさいなまれており、そこから抜け出したくてたまらなかったそうです。
そんな彼に、神は再び救命具を投げてくださいました。彼の才能が慈善団体に注目され、大学へ通えるよう支援してくれたので、新聞とジャーナリズムで学位を取得できたのです。ベンソンは、旅をしながらさらに学びを続けられるよう、フリーのジャーナリストになりました。彼の制作したさまざまなドキュメンタリーが幾つもの有名なTV局で放映されたことで、社会の隅に追いやられた人たちの窮状を描いて関心を高める機会を得ました。それが彼に、新たな人生の目的を与えたのです。
私たちの多くは、ベンソンほどの挫折や試練を味わったことはないかもしれません。それでも、これまでの人生で、神の愛と世話と保護の現れを経験してきたことは確かです。たとえば、心優しい見知らぬ人から助けてもらったとか、何らかの形で神が問題解決に介入してくださったことなどです。逆境は私たちの視界も信仰も曇らせますが、神は決して私たちを見捨てることがなく、人生の困難を味わっている間も、必ず支えてくださいます。
(アイリス・リチャードはカウンセラーで、1995年以来ケニアでコミュニティー活動およびボランティア活動を活発に行っています。)
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神は、その困難から大きな祝福が生まれるという具体的な計画があるのでない限り、いかなる問題も私たちに降りかかるのを許されない。― ピーター・マーシャル(1902-1949)
神の腕の中に潜り込みなさい。あなたが傷つき、孤独で孤立しているように感じる時は、神に優しく抱えて慰めていただき、まったくもって充分な神の力と愛に安らぎなさい。― ケイ・アーサー(1933-)