建築における試作は、模型や図面を用いて建築物を建てるために作られ、多角的に検討する。しかし建築の検討をする際、試作は原寸大の模型でも、正確な図面でなくてもよい。一方デザインの検討では精確な寸法でかつ原寸での検討を求められるため、建築の検討方法はデザインにおけるプロトタイプとしては異質なものである。また建築におけるスタディ模型は設計者の目的や意図、傾向によって大きく意味合いが異なる場合がある。例えばスタディを作る際にスケールを確認するために作るのか、ディテールを確認するために作るのかなどスタディ模型をつくる目的は建築家によって様々である。そのためスタディ模型を一言で定義するには難しい。そこで本論文ではまず建築模型が模型全体でどこに位置づくかを明確にする。
また菊竹清訓(1928~2011)と丹下健三(1913~2005)における対談では丹下が作るスタディ模型に関して、「丹下先生のところでは、設計の際モデルでいろいろなスタディをされていますね。外国の建築家はみんなびっくりして、『あんなに大きな模型をいつもたくさんつくるのか』と、模型でスタディすることに非常に特殊な印象を受けているらしく、しばしばそういう質問を受けるのですが、私が知っている範囲ではサーリネンがずいぶん大きな模型をつくってやっており、ミースが原寸の模型を、部分的ですけどもつくってやっていた。しかし全体を模型でスタディするというのは非常に特徴的なスタディの方法じゃないかなと思います」(1)と述べている。この出来事は日本を代表する建築家である丹下の模型を見て、海外の建築家は非常に驚嘆していることを表している。また日本の建築家のスタディと海外の建築家のスタディが異なることを示している。このことからスタディ模型において特異性がある、日本の建築家に限定してスタディ模型を調査する。そのあとにスタディ模型が建築模型全体でどこに位置づくかを明確にした後に建築意匠に焦点を絞り、建築における試作とは何であるかを示す。