大阪府下における第四次メダカ調査中間報告

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大 阪府 に於けるメダカの生息と メダカの遺伝子型分布 の実態に関する検討 ―第一∼三次大阪府メダカー斉調査結果と第四次メダカ遺伝子型分布調査に関する中間報告―

ピ、 林美正 北坂正晃 有本文彦 上田収 香月利明 河田航路 田丸八良 1、

1、

2、

1、

2、

1、

1、

1、

2

鳥居美宏 平井規央 石井実

1:NPO法 人シエア 自然大学校調査研 究部門水辺環境調査会 2:大 阪府 立大学大学院生命環境科学研 究科

は じめに

布図 の形で公表 して きた。 これ ら調査過程 を通 じ、

)は 、 日本列島、朝鮮半島、

調査 員 は、人為 的に増殖放流 された黄色変異体 であ

台湾 お よび中国の平野部 の広域 に分布す る淡水魚 で

る ヒメ ダカや、他地域 由来 と推測 させ るメダカ移植

あ る。 日本 国内 では、古 くか ら青森 を北 限 とし本州

放流 の事例や記録 に遭遇す ることになった。水辺環

か ら沖縄 を南 限 とす る琉 球諸 島 まで の広範囲 にその 生息が報告 されて い る。近 年、 メダカが生 息す る田 んぼの乾 田化や用水路 ・小川 な どの コンクリー ト化

境調査会 として も、大阪府 における遺伝 的攪乱 の実 態 を解 明す る必 要性 を痛感 じつつ 、事 ある ご とに、 生物 多様性保全 。遺伝 的攪乱防止 の観点 か ら、異 な

による水辺環境 の変化 や農業用化成 品多用 による生

る遺伝子型 を持 つ他地域 のメダカや人為 的 に養殖 さ

息地 の減少が指摘 され るようにな り、 1999年 に、環 境 省 によ リメダカは絶滅危惧 Ⅱ類 に分類 。公表 され

れた ヒメ ダカなどの放流 の禁止 を訴 えて きた。

メダカ

αs滋 ′ (0′ ァ′ ″α

るに至 った。 さ らに2003年 版環境省 レッ ドデ ー タブ ックでは、外来生物 による在来生物へ の影響 と共 に、

1.大 阪府 に於 けるメダカの生息状況

殊 にメダカの「遺伝学的地理変異」 の観点 か ら、 多 くの地域 で メダカ保護 を標榜 して行 われて い る増殖

1)第 一∼三次調査 における メ ダカとカダヤ シの

放流 に警鐘 を鳴 らし、無差別放流 に よる遺伝 的特徴

確認場所 が明 らか に減少 して い るのに反 し、

の攪乱 を起 こす危険性 を指摘 して い る (環 境省 レッ ドデ ー タブ ック,2003)。

カダヤ シでは、急激 な生息範 囲 の拡大が認 め

生 息分布 の変化 を見 ると、 メダカで は、生息

られた。 (図 1参 照)

こ うした情勢 を踏 まえてNPO法 人 シエ ア 自然大学 校調査研究部 門水辺環境調査会 (以 下、水辺環境調 査会 )で は、2000年 に大阪府 における第一 次 メダカ

2)第 一 ∼三次調査 にお ける市 町村 別 のメダカ と

ー 斉調査 を、2004年 に第二 次 一 斉調査 を、2008年 に

す通 り、前項 と同様 な傾 向 が見 られた (図 2

は第 三 次調査 を実施 し、大阪府下 に於 け るメダカの 生息 分布状況 を網羅的 ・ 時系列 的に まとめ、生息分

参照)。

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カダヤ シの生 息分布 の変化 を見 る と、 図に示


図1 第一次・第二次。 第二次調査に於けるメダカ・ヵダヤシ生息分布の変化 (環 境省基準地域第3次 メッシュ)

優占種判定 回【ョ:メ ダカのみ 助■■:ヵ ダヤシのみ 貴色 。 。 第 一次 第 二 次 第三次調査 に於 けるメダカ・カダヤシの市町村別生息 分布

:メ

ダカのみ

2.メ ダカの系統地理 学的背景 メ ダカ遺伝子 解析 の現状 を報告す るに先立 ち、 日 本 にお ける メ ダカ属 の系統 と分布 の現況 と最近 の知 見 につ いて触れる。

1)こ れ まで、 日本 の野生 メ ダカは、 ァイソザ ィ ムやDNAを 指標 とした遺伝学的研究 によ り、

● :ヵ ダャシのみ

:混 棲

◎ :両 者混棲

北 日本 集団 と南 日本集 団に大別 され、南 日本 集 団 は、 さ らに本州 で7つ の 地域 型 に細 分化 されて きた (Takehana et al"2CX13な ど)。 因 み に、 本来大阪府 に生 息す るメダカは、瀬 戸 内型 に属す る とされてい る。

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北 九 lll型

四国型

東九州型

Takehana et al(2003)な どをもとに作図 青の点線の範囲は南 日本集団

, “

北 日本集団は、1800万 年前 に南 日本集団 と共 通 の 祖 先 か ら分 岐 した と い う説 もあ り (Sedamarga et al.,2009)、

さらに、北 日本

′ αs sα たα々 ガ 軒日名 は未発 集団 は、新種 0り そ ““ 表)と して記載された (Asai et al.,2011)。 した がって、日本 のメ効 属 は、2種 と考えられている。

新種 Oryzね s saね レυm″ (従 来のメダカ北 日本集団)の タイプ産地である 福井県中池見湿地 (写 真左)と 湿地内で見 られた群れ (写 真右)

3.遺 伝子解析調査の概要 1)目 的 (1)大 阪府全域 のメダカの ミ トコン ドリアDNAに よる遺伝子型 (ハ プ ロ タイプ)の 分布 マ ップ :

環境科学研 究科 (以 下、大阪府立大学 )に 於 い て、Takehana et」 .(2003)に 基 づ き、各 個体 を北 日本型 と南 日本型、更 に南 日本型 に 含 まれる瀬戸内型 と東 日本型、四国型、山陰型、 北九州型 などの遺伝子型 に分類 した。

を作 る。

(2)大 阪府 に於 け るメダカの遺伝 的多様性 と系統 地理学的情報 を明 らかにす る。

(3)水 辺 の生 き物 の生物多様性保全お よび遺伝子 型撹乱 の 回避 と啓蒙活動 に資す る。

2)方 法 と材料 (1)遺 伝子解析 の方法

(2)サ ンプルの採取場所及 び採取個体数

:

水辺環境調査会 で2010∼ 2011年 に採集 した標 本 は、31市 町村84ケ 所 333個 体 であ り、生息 環境別 では、水 田2ヶ 所 12個 体、水路22ヶ 所 92 個体、河川25ケ 所81個 体、 ため池34ヶ 所 16個 体、 ビオ トープlヶ 所 3個 体 であった。

:

;大 阪府立大学大学 院生命


3)解 析 の途中経過

を除 き、た とえ水槽 内 で飼育 したメダカを同

:

31市 町村で採取 した84ケ 所333個 体及 び大阪府立大

じ水域に放流することさえ控えるべ きであろう。 即 ち、 自然界 では本来淘汰 され るべ き個体 も

学 が独 自で野外採取 した71個 体合計404個 体 の うち、 これ までに28市 町村53ケ 所202個 体及 びペ ッ トシ ョッ

過保護 な環境下では生 き残 り、そ の弱 い個体

プで購入 した6個 体 のメダカの遺伝子解析が完了 した。

が次世代の子孫を残す可能性があるからである。

そ の地域分 布 は、最終的に、大阪府立大学 の解析作 業完了 と投稿論文掲載 を待 って、水辺環境調査会 と してメダカ調査報告第 4報 の形で発表する運びとなる。 これ まで大阪府立大 学 で実 施 した遺伝子 解析 の途 中

4.ま とめにかえて

経過 は、以 下 の通 りである。

解析対象 メダカ個体群 の約2割 に外来 ハ プ ロ タイプの

(1) 野外 で採集 された404個 体 の 内遺伝子解析 の終

これ まで の ミ トコン ドリアDNA解 析 の結果 では、 メダカが混在 し、個体採 取場所別 では、その約6割 で 外来 ハ プ ロ タイプの混入が認め られ、 遺伝 的攪乱が

わったのは202個 体。

起 る可 能性 を示唆す る実態が明 らか になって い る。

内約暗 Jは 在来ハ プロ タイプの瀬戸内型であ り、 他地域 か ら持 ち込 まれた と思 われる外来 ハ プ

外見上 は 同 じメダカで も、 同 じ生息場所 で在 来ハ プ ロ タイプ と外来 ハ プ ロ タイプが 混在 し、交雑すれば

ロ タイプの東 日本型、四国型、 山陰型、北 九

更 に遺伝 的攪乱が加速す る可能性がある。

州型 は約 2割 で あ った。 ペ ッ トシ ョップで購 入 したメダカは在来 ハ プ ロ タイプ と外来 ハ プ ロタイプ北 日本型 であった。

(′

鳥居他,欄

遺伝子解析 を終 わった53ケ 所 中34ケ 所 で外来 ハ プ ロ タイプの混入が確認 された。 (解 析 の

今 回 の解析 は採取個体数 の約 50%で あ り、更 に解 析が進 めば大阪 に於 ける遺伝 的攪乱 の実態が更 に明 確 になる可能性があ る。 今後 は市 町村 別 の遺伝子型 の分布 を詳 らかに し考察 を加 えた第4次 メダカ生息状 況報告 (第 4報 )を 上梓 した い と考 えてい る。

終 わった28市 町村 中 外 来ハ プ ロ タイプを確 認 したのは池田市・箕面市 。茨木市 ・枚方市・ 交野市・寝屋川市・守国市・四条畷市 。大阪市・

放流 のほか、他地域 の メダカの販売や、大量飼育 さ

堺市・和泉市・柏原市・河内長野市の13市 )(鳥

れた メ ダカ、例 えば ヒメ ダカ、 な どの安易 な放流、

居他 ,未 発表)。

管理の杜撰なビオ トープか らの逸出などが推測される。

全例解析 には、 なお 日時 を要す るが、外来 ハ プ ロ タイプ混入 の諸 因 として、 善意 による外来 メ ダカの

生息水系別には、在来ハ プ ロ タイプは淀川約7

外来生物法の制定により外来生物に対する関心は徐 々

割、大和川約8割 、石津川全部、大津川約9割 、

に高 まっては来て い るが、 メダカで も本来 の生 息地

男里川全部であった。大阪中央部で は、 他地 域か ら混入 され外来ハ プ ロ タイプが多 い。

によって遺伝子型が異 なる ことを認識 し、地域 ごと に天 変地変 に対す る適応 能力 を持 っている個体群 の

(4) 生息 環境 別 には、 河川、公園池、水路、農業

遺伝子 を攪乱 させ ることが ない よ うに、 さらなる啓

池 のい ず れ も、在 来 ハ プ ロ タイプが8割 以上

蒙運動 に発展 させ たい と考 える次第である。

占めていた。公 園池 は繁殖 に適 す るが、 放流 による外来ハ プロタイプの混入が起 こ りやすい。

以上

都市部 を流 れ る河川や流域部 の広 い地域 ほ ど 外来 ハ プ ロ タイプの混入が多 い。農業池では

引用文献

在来 ハ プ ロ タイプが保存 され るが、 開発等 で

Asai,T et al(2011)IChthyol.Explor Freshwaters 22:

生 息地 の消失が起 こ りやす い。 (鳥 居他 ,未

289-299

外来型 ハ プ ロ タイプのメダカが 混入 =遺 伝 的

美正他 (2001)大 阪府 に於 ける メダカ生 息状況報告 ―平 成 12年 度生息調査結 果 ―Estrela(92)財 )統 計情報研 究 開 発 セ ンター

攪乱 は、 厳 に避 けねばな らない。 自然界 で メ

NPO法 人 シニ ア 自然大学校 (2005)メ

発表)

ダカの個 体群 は水域 や地域 ご とに気候や病気 を含めた天 敵 に適応 して きた歴史があ る と考 えられる力ヽ そのような個体を、人間の都合で、 異 なる地域 に放流 して、遺 伝 的 な背景 を攪乱 すべ きで ない。 よほ ど個体数が減少 した場合

ダカの生息状 況報 告 ―第二 次 メダカー 斉調査 -2005.10 NPO法 人 シニ ア 自然大学校 (2010)メ ダカの生 息状 況報 告 ―第 三 次 メダカー 斉調査 -2010.4

Setiamarga, D. et al (2009)Bi01 Lett doi 101098/ rsb1 009.0419

Takehana,Y et al(2003)Zoological Science 20: 1279-1291

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