ミ ュ ン ヘ ン 文 化 地 区 構 想 2 0 1 4
[ U r b a n i s m ]
Waro Kishi Studio ¦ 2014 Instructor : Waro Kishi Location : Munich, Germany Total Floor Area : ―㎡ Main Use : Museum
Subject - W ar o K i s h i
[ 歴 史と接続する建築 ] 建築や都市には、それぞ れ に 光 と 闇 を 内 包 し た 歴 史 が あ る 。 我々がこれから新たに構 想 す る 建 築 物 は 、 そ う し た 歴 史 に ど の よ う に 対 峙 し 、 継 承 し て ゆ く こ と が で き る だ ろ う か 。 本課題では時代の奔流を 生 き 抜 こ う と し て い る 都 市 ミ ュ ン ヘ ン の 文 化 的 地 区 の 美 術 館 計 画 の 課 題 を 通 し て 、 こ の こ と を 問うてみたい。
解題:レオ・フォン・ク レ ン ツ ェ の 設 計 し た ア ル テ ・ ピ ナ コ テ ー ク と い う 新 古 典 主 義 建 築 の 歴 史 的 意 味 を 批 判 的 に 読 み 解き、自らの制作への適用を試みる。
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Munich Project 2014
Urbanism | 2014
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時間的文脈 ― 歴史
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敷地に建つ美術館、アルテ・ピナコテークは 19 世 紀はじめに建築家レオ・フォン・クレンツェによって 設計された新古典主義建築である。 バロック・ロココの複雑な形態への反動から始まっ た建築形態の浄化運動。その果てに再び見出された古 代ギリシャの建築様式は近代合理主義社会のなかで矛 盾を孕んだ役割を担うことになった。すなわち歴史様 式から脱出するための歴史様式である。 19 世紀、バイエルン公国国王ルートヴィヒⅠ世は、 バイエルンを美術大国とするためにこの美術館を建造 させた。国力に劣るバイエルンに美術の力によって存 在感を与えようとしたのだ。こうして作られた世界で も最古の公共美術館に『テンピの聖母』をはじめとす る絵画が市民のために展示された。 2
時代の巡り合わせのために、この建築は新古典主義 の 様 式 で 覆 わ れ、国 家 の 威 容 を 表 象 す る こ と と な っ た。古代ギリシャの様式が遠く離れたミュンヘンにお いて国家を称揚する役割を担ったのだ。 20 世紀にミュンヘンに台頭したナチスドイツは近 代建築を嫌い、独自の新古典主義を採用した。次々に ミュンヘンに建ち現れたそれらの建築は、今もなお市 内に点在している。 第二次世界大戦が終結した時、アルテ・ピナコテー 1.
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建設当時のアルテ・ピナコテーク . 2. 爆撃によってアルテ・ピナコテークは
クは爆撃によって半壊していた。ナチスドイツは崩壊 し、新古典主義は終わりを告げた。市民のための時代 が、やっと始まったのだ。
半壊した . 3. ハンス・デルガストによって修復・改 築が施され、再び美術館として使わ れている.
半壊していたアルテ・ピナコテークは建築家、ハン ス・デルガストによって修復・改築された。立面にあっ た付け柱や窓周りの装飾は抽象化され、簡素に置き換 えられた。
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Munich Project 2014
地理的文脈 ― 都市
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敷地はミュンヘンの中心地から少し離れた区画であ り、アルテ・ピナコテークをはじめとして多くの美術 館と大学が隣接している文化地区である。 美術館は絵画・近代・鉱物・彫刻などに関するもの であり、大学は音大と工科大である。 しかし、斜めに広がる美術館群の立地とアルテ・ピ ナコテークの存在によって一帯の連続性が幾分損なわ れている。 従 来 の ミ ュ ン ヘ ン の 街 並 み の 形 成 過 程 は 明 快 で あ る。街路に正対する建築によって区画を囲い、ロの字 型の建築を形作る。ロの内側には樹木を植え、親密な スケールの庭を作り出している。そのため、街路に対 しては閉じ、内側へは開いた構成となっている。 5
一方、新古典主義建築はギリシャの様式を採用して いる。それはつまり、その建築が 神殿 として振舞 うということである。具体的には、周囲の建物よりも はるかに巨大なスケールを持ち、敷地の中で孤立し、 周辺の様式との間に齟齬を来たしている。人のための 建築ではなく、神のための建築である。 アルテ・ピナコテークは周辺の文脈を完全に無視し て君臨している。ミュンヘンとは地理的にも関係の無 いギリシャの様式が、周辺の土着のあり方を捻じ曲げ て服従させようとしている。ミュンヘンの本来持って いたスケールは新古典主義建築の巨大なスケールに飲 み込まれようとしている。
4. アルテ・ピナコテークを中心とする文
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化施設群 .
直接手を加えずとも、目の前に建っているというだ
5. アルテ・ピナコテークは区画内に単体
けでアルテ・ピナコテークの影響を受けずにはいられ
で建っている .
ない。アルテ・ピナコテークは、場を従属させる強い
ミュンヘンの標準的な街区のあり方 .
引力を備えている。良くも悪くも、その力を無視して
6. 街路に対して壁を連続して区画を囲 い込む .
新たな建築を計画することはできない。
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神殿の解体 ギリシャの神殿 であるアルテ・ピナコテークは歴 史的にも地理的にも、ミュンヘンの文脈にそぐわない 建築である。ミュンヘン本来のスケールや街のあり方 を取り戻すためにはこの 神殿 を解体する必要があ る。こ の 建 築 を 取 り 壊 す の で は な く、新 た な 建 築 に よって場を調停し、周囲へ建築の象徴性を霧散させる ことを考えた。
大きさによる象徴性 アルテ・ピナコテークは巨大な建築である。長手方 向に 150m あり、敷地の広さも含めて、大きさそれ 自体が象徴性を与えている。 新たに設計する建築がその大きさに引きずられない ように気を付けながら、比較的小さな5つの建築を設 計する。
寸法体系による象徴性 アルテ・ピナコテークの寸法体系は人間を圧倒する 大きさであり、周辺の建築の 2 倍以上になる。 この周辺との間のギャップを埋める寸法体系を新た な建築に与える。
対称性・正面性・中心性による象徴性 アルテピナコテークは敷地区画の中央に鎮座してお り、その対称性や正面性を補強している。静的に安定 した配置と建築形態は、周囲に馴染むことを拒否して いる。 敷地区画を分断し、アルテ・ピナコテークを区画の 端に寄せる。新たな建築を動的な構成に基づいて配置 し、静的な関係を解消する。このとき、アルテ・ピナ コテークは「ひとつの建築」から「建築群のひとつ」 へと変化する。 アルテ・ピナコテークへ向かう道を中央からずらし た場所に設ける。正面性を崩すとともに、建築群の動
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的な関係を強化する。 新たな建築によって生まれた3つの広場は以前の広 大な広場よりも親密性を増す。小さく区分けされた空 間はミュンヘン本来のスケールへと近づく。 開かれた関係性は周囲の建築物とも新たな関係を取 り結び、周囲の文化施設を繋ぎ止める。全体の中央に は 何も無い場所 としてごく浅い水盤を設けた。
歴史に接続する建築 歴史に接続すること。それは同時に、未来に接続さ れること、でもある。この5つの建築は個々ではアル テ・ピ ナ コ テ ー ク に 到 底 敵 わ ず、全 体 で 比 べ た 時 に やっと少し耐えることができるようになる程度のもの である。この場所にはこの先にも、新しい建築が建て られていくことになるだろう。その時に作られる建築 のための余地を残しておくこと、空間の強度を下げて おくこと。この、次に繋げていくという立場を取るこ とが今回の計画の核であり、この課題に対する回答で ある。
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元の区画境界線
VIEW 3
3. 絵画・写真美術館
1. ギャラリー・スタジオ
元の区画境界線
VIEW 1
演劇の広場 屋外でイベントが行われる 都市の中の劇場空間としての広場
創造の広場 屋外にまで広がる ワークショップスペース
水盤の広場
としての広場
新たな建築によって水盤が 新しい中心となった広場
5. 音楽・パフォーマンス ・映像美術館
VIEW 2 元の区画境界線
4. 彫刻美術館
アルテ・ピナコテーク
2. アーカイブ・事務
元の区画境界線
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100M
配置計画・建築計画 5 つ の 新 し い 建 築、2 つ の 新 し い 道 の 計 画 に よ っ て、3つの広場が再構成される。それまでの広大なも のから、ややスケールを下げられたこれらの広場はそ の周りの建築と対応して性格付けが施される。 Museum [Photographs / Drawings]
一 方 で、新 し く 計 画 さ れ る 建 築 は そ の 広 場 へ フ ァ
Gallery / Studio / Workshop
サードを向けるように設計され、足元は広場と交流す るように調整される。古典の基壇に対する表現として Museum [Sculptures]
の軽やかな足元は 現代的な 古典の参照である。
Archive / Office / Reparation / Research
ファサード、構造、構成、こうした要素要素をアル テ・ピナコテークを参照しつつ設計した。近代が手に 入れた抽象性と工業性によって翻訳しつつ、組まれた
Museum [Videos / Performance / Music]
構造フレームに、周辺環境からサンプリングした外壁 素 材 を 嵌 め 込 ん だ。建 築 的 抽 象 性 を ア ル テ・ピ ナ コ テークに求め、建物的具象性を周辺環境に求めること で、環境の調停が可能になると考えたためである。 5つの建築はどれも強く方向性を持つように計画し た。吹き抜けであったり、長い動線であったりする中 央の空間はアルテ・ピナコテークの形態を意識してい る。同時に、配置計画によって広場を巻き込むような 動的な関係を築き、アルテ・ピナコテークから周辺へ の流れを形成する。
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North Elevation
West Elevation
South Elevation
East Elevation
Section A
Section B
Archive / Reparation / Research
All drawings follow this scale
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12 First Floor Plan
Ground Floor Plan
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18 Second Floor Plan
Third and Forth Floor Plan
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B
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Fifth Floor Plan
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Roof Plan A
1 エ ン ト ラ ン ス ホ ー ル 2 カ フ ェ テ リ ア 3 開 架 書 庫 4 カ ウ ン タ ー デ ス ク 5 事 務 室 6 EV ホ ー ル 7 倉 庫 8 ロ ッ カ ー 9 搬 入 / 荷 捌 き 10 機 械 室 11 電 気 室 12 職 員 入 口 13 デ ィ ベ ー ト ル ー ム 14 個 室 15 美 術 館 事 務 室 16 図 書 館 事 務 室 17 閉 架 書 庫 18 倉 庫 19 美 術 研 究 室 20 資 材 室 21 写 真 室 22 保 存 科 学 室 23A 乾 燥 室 24 燻 蒸 室 25 前 室 26 荷 解 き 作 業 場 27 修 復 作 業 室 28 収 蔵 庫 29 学 芸 員 室 30 会 議 室
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East Elevation
North Elevation
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Section A
Section B
Gallery / Studio / Workshop
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Ground Floor Plan
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First Floor Plan
B
Roof Plan
A
1エントランスホール 2レンタルスペース 3倉庫 4機械室 5電気室 6ギャラリー 7展示壁収納
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North Elevation
West Elevation
South Elevation
East Elevation
Section A
Section B
Museum [Sculptures]
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Ground Floor Plan
First Floor Plan
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Second Floor Plan
Third Floor Plan
A
1エントランス 2クローク 3チケット 4カフェテリア 5ショップ 6事務室
Roof Plan B
7機械室 8電気室 9搬入口 10 展示室 A 11 倉庫 12 展示室B 13 展示室 C
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South Elevation
East Elevation
North Elevation
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Section A
Section B
Museum [Photographs / Drawings]
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First Floor Plan
Ground Floor Plan
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B
9
9
Second Floor Plan
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Roof Plan A 1エントランス 2展示室 C 3チケット 4倉庫 5搬入口 6クローク 7展示室への EV 8展示室B 9収蔵庫 10 展示室 A
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West Elevation
South Elevation
East Elevation
North Elevation
Section A
Section B
Museum [Videos / Performance / Music]
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Ground Floor Plan
First Floor Plan
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Second Floor Plan
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Third Floor Plan
1エントランス 2ホールホワイエ 3クローク B
4チケット 5ステージ 6ピアノ庫 7搬入口 8倉庫 9楽屋 10 展示室 A 11 ステージ 12 展示室B
Roof Plan A
13 展示室 C 14 展示室 D
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