1 minute read

1 章 モノのデザインからモノを通した社会のデザインへ

1.1| 序論

本プロジェクトは都市及び人間社会におけ る課題に対してプロダクトデザイン側からの 新たな公共的アプローチを行うための方法 を模索したものである。本稿では、大きく 3 つの章に分けて、プロジェクトについて 記述していく。第一章では都市においての プロダクトデザインの分析から、テーマ設 定の背景について、何を課題点として新た なアプローチを模索したかについて記述す る。都市において希薄化する地域の関係性・ コミュニティとそれがもたらす不寛容な社会 現象を課題として設定し、その複雑な課題 に対してプロダクトデザインとソーシャルデ ザインの手法を組み合わせデザインをする ことで、市民参加の環境を形成しながら漸 進的に社会課題の改善を探索する方法を描 くことをこのプロジェクトでは行った。二章 では実際にデザインした成果物の詳細と検 証の記録を交え説明する。 より具体的には、コミュニティの希薄化と いう課題に対して、都市において余剰とな る空間を菜園として書き換える為の装置と してオープンソースかつ DIY 可能なプラ ンターとコンポストのユニットをデザインし た。第三章ではデザインの実践を経て、成 果物を分析したのちに、公共物のデザイン と比較し新たなプロダクトデザインの可能性 として、社会を形作るプロダクトデザイン、 Social through product design[ モノを 通した社会のデザイン ] と言えるようなアプ ローチの可能性を考えた。「モノを通した 社会のデザイン」とはモノを使用する市民 の主体性によって彼ら自身の価値観を変化 させそれの波及によって社会に対しても影 響を与えるアプローチである。加えて、現 状そのようなデザインを実施する上での課 題点と可能性に関しても示す。

Advertisement

1.2| 研究テーマに関して

今回私が主題とするのは、都市におけるプ ロダクトデザインの新たな方法論の探索で ある。都市におけるプロダクトデザインは現 在多くが公共物のデザインに限定されてお り、その多くがある規定の用い方に決定さ れた一方的な機能の提供に留まっている。 例えば公園のベンチで不自然に座面が傾け られていたり、窮屈な位置に肘掛けがある ものを見たことはないだろうか?(Fig1) そ れは、実はホームレスや浮浪者が長く滞在 したり寝転がれないように設計された別名 「排除ベンチ」(Fig.2,3) と言われるもので ある。実際にこのようなデザインは長時間 の滞在を妨げ、公園の治安が見た目上守ら れているようにすることができる。しかし一 方でこのベンチはその他の公園の利用者も 長時間滞在できなかったり、しっかりと休 息できる体勢を作ることができないのであ る。結局のところ「社会で一番弱い層を「排 除」しようとすることは結局全ての人に住 みにくい社会を作ることなのである。(*1 )」プロダクトデザイン(デザイナー)は人 がどのように振る舞うかを観察し、その用 いられ方から機能を決定し確実にその機能 が働く形を作ることができる、だがその機 能が導く結果が本当に望ましいのかについ ても目を向けなければ公共におけるプロダ クトデザインは強きを助け、弱きを挫く為の 装置として作動してしまうのである。これが 公共におけるプロダクトデザインの問題点で ある。

Fig 1.

Fig 2.

Fig 4.

公共空間における、デザインとして建築・ 都市計画以外にもソーシャルデザインと言 われるものがある。ソーシャルデザインは 市民が主体となって社会全体的な課題に 対して取り組むアプローチである、例えば 大阪においてホームレスの生活問題と、放 置自転車の問題を掛け合わせて支援する Hubchari(Fig.4) というシェアサイクルのプ ロジェクトがある。当初はホームレスの人た ちの雇用創出と、放置自転車の再利用を目 的にそこから徐々に路上脱却支援や夜廻り 声かけなどへと展開されており、すぐにでき る活動から少しずつ社会課題のような大き な障壁に対して対処していくことがソーシャ ルデザインの特徴である。しかしこのような 社会課題へのアプローチは NPO・NGO の活動が多く、個人ではボランティアや奉仕 活動になってしまいあくまでライフスタイルと して行われるために広く社会にスケールさせ る手段が考えずらい。そこで私はプロダクト デザインとソーシャルデザインを組み合わせ ることで、互いの課題を補いあいながら効 果的なデザインを生み出すためのアプロー チが取れるようになるのではないだろうかと 考えた。

Fig 5.

Fig 6. Fig 7.

ところでさまざまな複雑な課題に対してのデ ザインアプローチは商業に前傾化したプロダ クトデザインの外側の世界では盛んに議論 されてきた分野でもある。例えば、2020 年 の春に中国から始まった Covid-19 による パンデミックと社会情勢の不安は 2020 年 12 月現在解決の目処は立っておらず経済や 文化活動など生活の広範囲に影響を与えて いる。このような不安定な社会においてデ ザインは主に二つの方向での活躍が考えら れる。一つ目は対処療法的な課題解決であ る、物資などが不足した医療現場への 3D プリントを活用したクリーンで安全なフェイス シールドの送付を目的とするFab safe wiki や Pandaid(Fig. 5)などの感染拡大を防 ぐための啓蒙活動がここにあたる。もう一 つがこれからの社会の変遷を思索するため の未来洞察やオルタナティブな価値観の提 示である、Speculative design(Fig.6)や Critical design (Fig.7) の手法にみられるよ うな現代社会の批評や未来の可能性を拡張 するようなデザイン手法がここに含まれる。 しかしこれらは二元的な方向性ではなく組 み合わせて扱うことも可能ではないだろう か、つまり対処療法的かつオルタナティブな 可能性の提案でもあるというようなデザイン 手法である。

現在そこに当てはまる概念は Tactical urbanismというデザインムーブメントなの ではないだろうか。Tactical Urbanismと は「Short-term Action for Long-term Change」- 短期的な活動による長期的な 変化 -(*2) を標榜する市民主導型の都市活 動である。このムーブメントの特徴は、市民 が行政とも関わりながら都市の問題を解決 したり、イベントやコミュニティを形成するこ とで、その他の都市の利用者へも影響を与 えながら市民による市民のための都市のデ ザインをデザイン思考的な実践を用いて行 うことである。(Fig.8) またこの名前の通り 戦術的であることを重要視しており、20 世 紀に行われていたようなトップダウンの戦略 的な都市計画へのカウンターとしての意義を 押し出している。Andres Duany は Tactical Urbanism を以下の 6 要素によって説明して いる。(*2)

1. 脱中心化 (decentralized) 2. ボトムアップ (bo om-up) 3. 極端な可動性 (extraordinarily agile) 4. ネットワーク(networked) 5. 低コスト (low-cost) 6.ローテク(low-tech)

このような条件は、20 世紀に都市建築家 が行う一意的な都市の戦略決定に対する抵 抗手段として考えられている。まさにその時 代においてミシェル・ド・セルトーは『日常 的実践のポイエティーク』で秩序の暴力が いかにして規律化のテクノロジーに変化して いくかを明らかにすることではなく、様々な 集団や個人が、これからも「監視」の網目 の中にとらわれ続けながら、そこで発揮す る創造性、そこここに散らばり、戦術的で ブリコラージュに長けたその創造性が一体 いかなる隠密形態をとっているのかを掘り起 こすことに着目した。(*3) 都市において、市 民という存在が主体性を保ちながら戦術的 な創造性を発揮することは都市という存在 を更新する術として有益であり、その方法 論はいまだに議論され続けている。本稿は 都市における戦術性の議論をモノを設計す る専門性をもったものから調査、検証した 結果であり次章以降は実際のプロジェクト の内容に関して言及していく。

This article is from: