Interbrand 30th year initiative 05

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「日本ブランド」の未来を拓く オープンイノベーション

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July 2014



BRANDS HAVE THE POWER TO CHANGE JAPAN これからの日本ブランドの30年に向けて

05 そのイノベーションは、本当にブランド価値につながっているか?

「日本ブランド」の未来を拓く オープンイノベーション

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つ 2

ラ ン ド

Interbrand 30th Year Initiative 05

ま ま


求められるイノベーションのスピードに 「 日 本 ブ ラ ン ド 」は 追 い つ け る か

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世界有数の航空機メーカー、ボーイング 社のマックナーニ CEO は、最近折に触れ 「もっとアップルのようになりたい」と周 囲に漏らしているらしい。その真意はどこ にあるのか。  航空機業界と言えば、重厚長大産業の筆 頭であり、そのイノベーションのサイクル は 30 ~ 40 年と考えられてきた。しかし、 そのサイクルで次世代航空機を開発するだ けでは、これからの経営は立ち行かない。 まさしくアップルが iPhone や iPad で成 し遂げたように、今や航空機メーカーにさ え、技術イノベーションを顧客価値へ変換 することを、スピード感を持って実行する ことが問われているのである。マックナー ニ CEO のつぶやきは、まさに国境も業界 も越え、あらゆる企業にイノベーションの進 化とスピードアップが求められていることの 証左に他ならない。それは言うまでもなく 「日本ブランド」にとっても最重要課題である。 Interbrand 30th Year Initiative 05

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一方で、インターネットの普及を背景に、

ことが可能な時代であると言えよう。知識・

かつては大企業が社内研究を基盤として専

情報の流れが加速するのと同じ速度で競合

有してきた技術やイノベーションに関する

が現れ、競争が激化することで、新製品は

情報力の優位性がなくなりつつある。情報

瞬時に輝きを失い、コモディティ化されて

力という大きな参入障壁がなくなったこと

いく。

で、どのような業界でも新規や他業界から の参入が容易になった。たとえヒット商品

こうして製品ライフサイクルは短くなり、

を生みだしても、直ぐに誰かが似たような

企業は、息つく暇もなく次々と新しい価値

モノ、さらにはもっと良いモノを創り出す

を創造しなければならないプレッシャーに さらされている。このことは、企業内部 のリソースだけで取り組む従来の開発アプ ローチの限界を示している。時間とコスト が追いつかないのだ。

自社リソースの限 界 の 先 へ挑む、 共 創 型の 価 値 創 造という新 発 想  そこで発展してきたのが、社内リソー スだけに頼らず外部の協力を得て、イノ ベーションを模索する共創型の価値創造ア プローチである。情報力という参入障壁が 4

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消滅した今、逆にインターネット等、オー

く、そして多角的な視点でイノベーション

プンコミュニケーションの場を活かしてイ

を生み出しうる共創型の価値創造アプロー

ノベーションを進化させていく狙いである。

チは、この変化の激しい市場環境で、製品

開発プロセスをオープンにし、エンドユー

ライフサイクルの短命化、コモディティ化

ザーや異業種企業など、社内外を問わず広

の問題を乗り越えて、企業が生き残ってい

く技術やアイデアを集めて、新しい価値を

くためのカギとなる大きな可能性を秘めて

創り出していこうという動きは、既に世界

いる。

のあらゆる業種に広がっている。  そして、今や、特に消費者生活のデジタ  P&G はオープンイノベーションを仕組

ル化の本格化に伴って、この価値共創の原

み化した「コネクト+デベロップ」を、重

理に基づく新たな動きが、研究開発やオペ

要な経営戦略のひとつに位置づけ、個人か

レーションの領域のみならず、ブランディ

ら大企業、研究機関まで多岐にわたるパー

ングやマーケティングの領域においても急

トナーと、製品技術やパッケージ、ビジ

速に拡大しているのだ。

ネスモデルなどの幅広い領域で様々なイノ ベーションを生み出している。Xerox は、 クラウドソーシングを活用することで、長 年社内で解決できなかった技術的課題を、 従来の 10 分の 1 のコストで解決できた。  自社リソースの限界にとらわれず、素早 Interbrand 30th Year Initiative 05

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顧 客・消 費 者 の 行 動 変 化

2 顧客がブランドを進化させる時 代 ̶ S t a r b u cksのケーススタディ  共創型の価値創造アプローチの広がりは、 企業側の事情によるものだけではない。そ の動きの背景には、消費者行動の変化があ る。ソーシャルメディアの興隆とともに、 顧客はより深くブランドに関与するように なった。SNS やブログを通して、世界中の 不特定多数の人々と、ブランドについて意 見を交わせるようになった。お気に入りの ブランドについて、多くの人と語り合うこ とで、そのブランドへの理解は深まり、愛 着が生まれ、アイデアも広がる。企業が望 むと望まざるとにかかわらず、顧客の間で はブランドに関する様々な意見とアイデア が交わされており、企業と顧客が共創する 土壌が既にできているのだ。  “My Starbucks Idea” は、 顧 客 が Starbucks に関する様々なアイデアを投 6

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稿し、意見交換できるオンラインのプラッ

企業によって完成されたブランドが世の中

トフォームである。ここでは、日々多くの

に投入された時点から始まっていた。し

提案が投稿され、活発な意見交換が行われ

かし共創型の価値創造アプローチでは、顧

ている。誰かのアイデアに対して 1000 件

客体験はそれ以前から始まる。企業と一緒

を超えるコメントが寄せられるのも珍しい

に、ブランドを生み出すプロセスも体験す

こ と で は な い。Starbucks に と っ て My

るのだ。自らがブランド創造プロセスに関

Starbucks Idea は、自分たちが気づかな

わることで、要望をダイレクトに企業に伝

かった視点や発想が得られるだけでなく、

えられ、理想をカタチにできる。逆に、顧

顧客との関係性強化にも大きな役割を果た

客を巻き込むからこそ、企業は透明性を更

す場だ。Starbucks はそこで得た顧客の声

に強めて説明責任を果たすようになるだろ

を新たな商品やサービスに反映させている。

う。これも共創型の価値創造アプローチに よる顧客のメリットのひとつと言える。

このように、ブランディングにおける顧 客の役割は、これまでの受動的な立場から、 より能動的なものへと変化している。共創 型の価値創造アプローチが広がる背景には、 こうした顧客・消費者側の大きな変化があ ると言える。  共創型の価値創造アプローチには、顧客 側のメリットも大きい。従来の顧客体験は、 Interbrand 30th Year Initiative 05

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共 創で 生まれたブランド ̶ F I ATの ケーススタディ

至るまでの情報を全て公開し、世界 1 万 7000 名 以 上 の 人 々 か ら 1 万 1000 を 超 えるアイデアを集めた。こうしてできたコ

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世界初のクラウドソーシングカーとして

ンセプトカーは 2010 年のサンパウロモー

注目を集めた FIAT Mio も、こうした共創

ターショーのハイライトとして大きな話題

により開発された。FIAT は、誰でも気軽

となったが、なによりの成果は、開発プロ

に登録できるウェブサイトを立ち上げ、そ

セスをオープンにしたことで、世界中の多

こにデザインから安全性対策、エンジンに

くの人々に未来のクルマづくりに参加でき

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るというユニークな体験を提供できたこと だ。共に創り上げる体験をすることで、参 加者の間で一体感と愛着が醸成され、FIAT のブランド強化につながった。  共創型の価値創造アプローチは、イノ ベーションのためだけでなく、顧客の信頼 を醸成し、説得力ある評判形成を後押しす る強力なドライバーとなる。  しかし、共創型の価値創造の連続が、そ のままブランド価値向上につながるわけで はない。戦略的なブランディングの視点で 価値創造を捉えることを忘れてはいけない。 すべての共創型の価値創造を確実にブラン ド価値向上につなげるための視点を 2 つ強 調したい。

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活 用 の 視 点・1 ブランドが価値創造のコンパス

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共創型の価値創造アプローチにおいて、 恐らく最も重要な役割を果たすのが、ブラ ンドコンセプトである。より短いリード タイムで新しい価値創造を数多く重ねてい く過程で、本来の意義を見失わないように、 一連のイノベーションをつなぎ、意味づけ をするのがブランドである。短期的で場当 たり的な目的に流されないで、ブランドが どうあるために、この取り組みが必要なの か、という大局・長期的な視点にたった明 確な文脈を意識しなければならない。  たとえば、開発プロセスで顧客の意見を 真摯に聞いてみたが、かえって進むべき道 が見えなくなってしまったという経験はな いだろうか?共創型の価値創造は、外部 パートナーと対等に向き合い、縦横無尽な 視点でアイデアを発展させていくプロセス である。予測不可能な部分をはらみ、異質 なアイデアもすぐに排除しないで、考察の 対象にする度量の深さが要求される。した

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がって、大目標がしっかりと定まっていな

ランドコンセプトだ。Bold の場合、その

いと、コンパスを持たずに情報とアイデア

プロミスが羅針盤となって、大胆でありな

の大海原を漂うのに等しく、沢山の good

がら首尾一貫した革新を重ねることができ

ideas に飲まれて目的地を見失ってしまう

ているのである。

危険をはらんでいる。  一連のイノベーションをブランドの文脈  FMCG(Fast Moving Consumer

でつなぐことは、CRM の観点からも重要

Goods)と呼ばれる日用品市場では、その

である。市場の要請に応えて常に新しい価

名の通り、変化の速度が著しく早く、次か

値提案を続けるにしても、イノベーション

ら次へと新しい価値提案をし続けなければ、

の度にブランドの軸を変えていては、毎回

あっという間に市場から淘汰される。柔軟

新しいブランドを投入するのに等しい。相

剤入り洗剤カテゴリーでリーディングポ

当な広告宣伝をしなければ、十分に認知さ

ジションを維持している P&G の Bold も、

れず、顧客ロイヤリティも築きづらい。人

日本初の柔軟剤入りの洗剤に始まり、衣類

は未知のものには戸惑いを感じるものであ

が擦れる度に香りがするマジックビーズ入

る。そのため、価値提案が画期的であれば

り洗剤や、最近では、見た目に愛らしく指

あるほど、馴染みあるブランドの文脈の中

でつまんだ触感がユニークなジェルボール

でそれを提供される方が、顧客も安心して

型洗剤を発売するなど、絶え間ないイノ

新鮮な驚き、新しい魅力を楽しむことがで

ベーションを繰り返してきた。そのイノ

きるのだ。

ベーションの歴史を通して一貫しているの が、「洗濯を楽しい体験にする」というブ Interbrand 30th Year Initiative 05

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活 用 の 視 点・2 モノではなく体験を創造する

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共創型の価値創造アプローチをブランド 価値向上につなげるためのもう一つの視点 は、イノベーションの主眼を技術や製品と いったモノではなく、顧客体験の創造に置 くことである。  日本では今も技術・製品中心のイノベー ションが多いが、情報・知識の流通速度が 速い市場環境においては、技術や機能的な 特徴はコモディティ化しやすい。しかし、 顧客体験は、様々な情報と感性が複合的に 結びついて形成される無形価値であるため、 容易には模倣されない。ブランディングは、 そうした顧客体験を創出することである。 意図した顧客体験を具現化するために、あ らゆるタッチポイントを設計し、総合的に 管理することで、持続可能な競争優位性を 確立していくのである。  Apple が iPhone を生み出した時、彼ら が頭に描いていたのは、「新しい携帯電話

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を創ること」ではなく、インターネットで

マツの KOMTRAX は、同社のダンプカー

つながる世界が常に手のひらの中にあるこ

やショベルカーを GPS とコンピュータで

とで生まれる、「自由と可能性に満ちた新

制御管理するシステムで、機械の居場所

しいライフスタイル」であり、そのビジョ

を知るだけでなく、部品の交換時期の把握、

ンを形にするモノが iPhone であった。そ

エンジンの稼働状況から現場の生産性分析

して外部のデベロッパーが生み出す多彩な

などビジネスの効率を高める付加価値サー

アプリケーションが、Apple のビジョンを

ビスを顧客に提供する。コマツは、2001

鮮やかにカタチにしていく。iPhone とい

年当時は厳しい赤字状況であったにもかか

うオープンプラットフォームを核に、無限

わらず、コストがかかる KOMTRAX をコ

の広がりを内包するユニバースが誕生した。

マツの標準装備にした。KOMTRAX には

そこで実現される新しい顧客体験が世界中

作業現場の未来を変える画期的な価値があ

の人の心をとらえ、そして Apple は世界

ること、それがいかに顧客企業のビジネス

最強のブランドになった。つまり、彼らが

にインパクトをもたらすかを明確に理解し

生み出した価値の本質は、目新しい特徴を

ていたからだ。コマツは、優れた建設機械

持った製品ではなく、それにより提供され

の提供を超えて、建設現場の在り方を変え

た新しい顧客体験だったことを忘れてはな

る新しいパラダイムを創り出した。

らない。  優れた技術・製品は、顧客体験というユ  B2B の世界でも、技術・製品のその先に

ニバースの一要素であり、顧客体験そのも

ある顧客体験にイノベーションの主眼をお

のではない。価値創造プロセスの原点で、

くことが重要であることは変わりない。コ

どんな体験を提供したいのかを考え、それ Interbrand 30th Year Initiative 05

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を実現するためにどんな製品・サービスを 提供するのか、という文脈で共創を活かし たイノベーションを起こす。さらに、それ を様々なタッチポイントに反映することで 首尾一貫した顧客体験が具現化される。競 争基盤を製品そのものではなく、顧客体験 に置くことで、容易にはコモディティ化さ れない強いブランド構築につながるのである。

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結論 イノベーションのコンパスはブランドにある

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今日の競争環境では共創型の価値創造ア

は、オープンな組織となって、外部から画

プローチは必然であり、今後ますます広が

期的なアイデアが出された時に企業として

りをみせるだろう。リソースマネジメント

の度量・器の大きさを拡げて受け止めるこ

の効率化を図る企業側の動機だけでなく、

とが、今後の 30 年において、高い収益性

市場も共創を求めているのだ。そのプロセ

をもたらすビジネスを生み出す本質である。

スにおいては、ブランドをコンパスにして イノベーションを方向付け、そして体験レ

しかしながら、もし自社の組織が現状、

ベルの価値創造に視点をおくことが、共創

閉鎖的で官僚的だとの認識があるならば、

プロセスをブランド価値の向上に活かすた

改めて社内に目を向けてみるべきだろう。

めの鍵となる。

それは外部との共創に備えるためだけでは ない。部門ごとに囲い込まれているアイデ

最後にもう一つ、共創型の価値創造アプ

アやリソースを活用することも、オープン

ローチに不可欠な要素がある。それは、自

イノベーションに他ならないからだ。世の

らのマインドである。オープンなプロセス

中を変えてしまうような革新的アイデアは、

で外部と向き合い価値共創を進めるには、

意外と社内のどこかに眠っているかもしれ

自らがオープンな状態を、強制的にでも作

ないのだから。

り出さなければならない。閉鎖的な組織と は、一切の不確実性と「遊び」を許容でき ない組織である。不確実性(リスク)の所 在を突き詰めて分析した上で、大きな顧客 価値のコンセプトを想像+創造するために Interbrand 30th Year Initiative 05

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インターブランドジャパン 田中英富 Executive Strategy Director 木戸彩子 Senior Consultant-Strategy 田中剛志 Senior Designer 新井裕介 Consultant-Creative インターブランドについて インターブランドは、1974 年、ロンドンで設立された 世界最大のブランドコンサルティング会社である。世界 27 カ国、約 40 のオフィスを拠点に、グローバルでブランド の価値を創り、高め続ける支援を行う。インターブランド の「ブランド価値評価」は、ISO により世界で最初にブラ ンドの金銭的価値測定における世界標準として認められ、 グローバルのブランドランキングである “Best Global Brands” などのレポートを広く公表している。 インターブランドジャパンは、ロンドン、ニューヨーク に次ぐ、インターブランド第 3 の拠点として、1983 年、 東京に設立された。ブランド戦略構築をリードするコンサ ルタント、ブランドのネーミング、スローガン、メッセー ジング、ロゴ・パッケージ・空間・デジタルのデザインを 開発するクリエイターが在籍し、さまざまな企業・団体に 対して、トータルにブランディングサービスを提供している。 著書「ブランディング7つの原則」 (日本経済新聞出版社刊) http://interbrand.com/ja/


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