30th
Issue
YEAR
INITIATIVES
2014 SEP
WHAT’S U P BRO? E HAHE,ITS GAD ASA!! FOYO,,OL THATWAS SUPER C OOL MAN! 「日本ブランド」は
顧客との 絆を築けているか? 顧客との絆を築けているか? グローバルに向けた
コンテンツマーケティング戦略
30
th
YEAR
INITIATIVES
BRANDS HAVE THE POWER TO CHANGE JAPAN これからの日本ブランドの30年に向けて
Issue
07
「日本ブランド」は顧客との絆を築けているか? グローバルに向けたコンテンツマーケティング戦略
September 2014
01 マスマーケティングのノウハウの延長ではもはや対応できない
「コンテンツマーケティング」の時代。
2012 年 10 月、Google は YouTube の動画ランキングについて、クリック回数ではなく視聴 時間を重視するシステムに変更することを発表した。 この変更の狙いは、SEO( サーチエンジン最適化 ) 対策の巧拙に左右されることなく、 ユーザーから真に支持される魅力的な動画をランキング上位に表示することにある。 YouTube などの動画サイトで情報を見つけ、興味を持ち、 新たな情報をさらに Web 上で深く探り、そして関連する動画を探す。 このような行動を、誰もが当たり前のように繰り返す時代に、「日本ブランド」の多くは、コ ンテンツの内容よりもむしろ、アクセス数を競うことで、時代に対応し、 競合優位性をキープしてきたつもりになっていた。
It’ s time to change!
しかしその戦略は、視聴率を指標にしてきたマスメディアの同工異曲に過ぎない。 YouTube の動画ランキングシステムの変更は、多くの企業が、デジタルコミュニケーション においては、「視聴率=アクセス数」とは異なる指標を持たなければならないことに 気づく契機となったのかもしれない。 そんな中で注目されるようになってきた考え方が「コンテンツマーケティング」である。 「コンテンツ」とは、「Web などのデジタル上でコミュニケーションする手段」のことだが、 広義には、「ブランドの魅力を正しく伝えるためのコミュニケーション情報」と捉えられる。 では、「コンテンツ」を活用したマーケティングは、 なぜ今になって注目されているのだろうか。
Value of content.
02 ブランドと顧客の絆を深めるために極めて有効な
「コンテンツ」の価値。
Twitter や Facebook などのソーシャルメディアや、YouTube などの動画サイトは、従来一部 のマスメディアと企業が独占していた「多くの人にリーチできる」という情報発信やコンテン ツ制作の特権を、生活者の誰もが使えるインフラに変えてしまった。 この変化は、生活者にとって、マスメディア以外の情報接触の選択肢が増え、時間の使い方が 多様化することを意味する。マスメディアに流れる企業のメッセージをおとなしく一方的に受 け取って時間を浪費するよりも、生活者自身が望むものを探し、発信し、対話することに時間 を使うようになっているのだ。すでに生活者の多くは、企業が発信する情報も、一般の生活者 がアップロードする動画も等価に受け取り、等価に評価するリテラシーを急速に身に付けてい る。 企業側から見ると、この変化はブランドコミュニケーションを大きく飛躍させるチャンスと捉 えることができる。なぜなら、これからはユーザーベネフィットを語るコンテンツを通じて、 ブランドに対する生活者の共感を得ることが可能になるばかりか、コンテンツの中のストー リーを確かな情報として拡散させてくれる伝道師を育てることも可能になるからだ。これが、 「コンテンツマーケティング」が重要になってきている理由である。
価値観が多様化し、幅広い認知がブランドコミュニケーションにとって、必ずしも有効とは言 えなくなった現在、「コンテンツマーケティング」は、本質的で有益なコンテンツを提供する ことで、潜在顧客や新規顧客を、ロイヤリティを持った顧客に成長させる役割をより色濃く担 うようになった。幅広い生活者をターゲットとするマスマーケティングとは異なり、コンテン ツマーケティングの目的は、「興味や関心を持ってくれる顧客に対し、コンテンツを用いて、 ブランド体験を提供することで、ブランドが有する価値観を共有できる顧客を育て、絆を深め る」ことにある。 デジタル化の進展により、コンテンツの情報は、ソーシャルメディア上で拡散していく。機能 情報に留まらないブランド体験を届けてくれるコンテンツの重要性はますます高まっており、 先進的な企業は、既にコンテンツマーケティングを活用して、ブランドの強化に取り組んでい る。 「日本ブランド」がグローバルに成長するために、ブランド体験づくりをテーマと掲げるこの 重要性は第一回で既に述べた。では、グローバルに顧客に対して有益なコンテンツを提供しブ ランドに対するロイヤリティを持ってもらうために何をしていくべきか、いくつかのケースを 通して考えていきたい。
03
Case study, Nissan GT-R
商品自体をコンテンツに仕立てる −日産 GT-R のケーススタディ
日産のスポーツカー、スカイライン GT-R が、 「マイナス 21 秒ロマン」というキャッチコ
をたたき出してその高性能を証明して見せ たというエピソードもある。
ピーを用いてマスマーケティングを展開し たのは、今からほぼ 20 年前のことである。
毎年更新される GT-R のラップタイムや走行
ドイツ・ニュルブルクリンク・サーキット
動画、それをめぐる競合メーカーとの戦い
はその過酷さから一周のラップタイムがク
を、ファンや顧客は自発的に検索して接触
ルマの総合性能を反映すると言われ、世界
し、楽しみ、驚き、憧れを抱く。ニュルブ
的にスポーツカー開発の聖地として名高い。
ルクリンクでの GT-R のラップタイムは、言
前述のスカイライン GT-R のコピーは、この
語の壁を越えて理解できる上に、シンプル
ニュルブルクリンクでの旧モデルとのラッ
なメッセージゆえの王道感・本格感、また
プタイム差を示すことで、モデルチェンジ
20 年以上に及ぶ一貫性や伝統までを、世界
により更なる高性能を手に入れたことを、
中のファンに伝える役割を果たしている。
ターゲットに効果的にアピールするもので
日産 GT-R は、その商品と高い性能そのもの
あった。
を、どれだけ広告を打つよりも雄弁に伝え られるコンテンツとして仕立て、ファンや
ゴーン体制下で復活した「日産 GT-R」は、
顧 客 が こ の コ ン テ ン ツ に 触 れ る こ と で、
グローバルで一貫してマスマーケティング
GT-R に憧れ、ひいては日産への信頼を増し
を 行 っ て い な い。デ ビ ュ ー 前 か ら 各 地 に
ていく構造となっている。
GT-R の車両自体を出没させ、写真を撮らせ 拡散させることでファンの間での興味を引
伝統やエピソード、そして日産の情熱を含
き、2007 年の復活デビュー後は毎年ニュル
め、商品そのものに価値を語らせるコンテ
ブルクリンクに GT-R を持ち込み、現在まで
ンツが、言語の壁を超えた迫力あるメッセー
量産市販車としての最速ラップタイムを更 新し続けている。2008 年にはポルシェから GT-R のラップタイムに対して疑義が呈され たが、翌 2009 年にはこれを逆手にとって世 界中から多数のメディアを証人として招い た上で、前年以上のラップタイム
ジとなることを日産 GT-R のケースは教えて
くれている。そして、そのコンテンツはグ ローバルの顧客の心を捉え続けている。
Case study, B&Q
04 リアルとデジタルを跨ぐコンテンツを通じて
ブランドの価値を伝える − B&Q のケーススタディ 「ドリルを買う人は、ドリルが欲しい
ニングを開催。顧客は YouTube で学
のではない。穴を開けたいのだ」とい
んだ知見に基づき、練習の機会を得ら
う有名な格言がある。そこでまさに「穴
れる。
を開けたくなる」コンテンツを提供し
(3)Facebook ではエキスパートとの
て い る の が、ヨ ー ロ ッ パ 最 大 の DIY
Q&A セッションを設けて疑問の解決を
チェーンである「B&Q」である。その
サポート。
中身を見てみよう。
(4)コミュニティサイトでは、なんと DIY ツールの貸し借りを近所に住む顧
まず、デジタルマガジンでは DIY によっ
客同士が行う−リアルの世界でも顧客
てもたらされる新しくクリーンな生活
が繋がることを推奨しているのであ
空間を紹介し、ウェブサイトでは商品
る。
や店舗の情報だけでなく DIY について のサポートやアドバイスを提供してい る。だが、実際に DIY を始めるにはこ うしたベーシックな情報だけでは心許 ないだろう。そこで B&Q は次のよう な取り組みを展開している。 (1)より詳細に作業の手順を学習でき るよう、YouTube 上にハウツー動画を 提供。 (2)店舗では定期的なインストアトレー
これらの施策は、一見、商品の直接的 な販売促進に結びつかない。また、 ツー ルの貸し借りまでさせたのでは売上も 減少してしまうと懸念されると感じる 人も多いだろう。しかし実際には、前 述の取り組みによりDIYの新たな潜 在顧客が増え、さらにツールの貸し借 り、ひいては近所同士の交流を促進す ることによって DIY がより高頻度に行 われることをドライブさせている。
B&Q が提供するリアルとデジタルのコ ンテンツが、 「DIY は身近なことであり、 自分もできるんだ!」という意識を芽 生えさせているのだ。冒頭の表現を借 りるなら、 「ドリルが安いという理由 で訪れる場所」から「DIY を学ばせて くれることで穴を開けたくなる(結果、 ドリルを買う)場所」へ、顧客の B&Q に対する意識が変わったのである。そ の結果、B&Q の顧客数は増加し、売上 も増加しているという。
コンテンツマーケティングは有益なコ ンテンツを提供することで顧客にロイ ヤリティを持たせる役割を持つと先に 述べたが、その目的の実現のためには、 必ずしもデジタル領域に留まり続ける 必要はない。これら一連の施策は、リ アルとデジタルのコンテンツを跨ぎな がら、B&Q とその親会社であるキング フィッシャーグループがブランドの核 となる価値と規定している BETTER
HOMES, BETTER LIVES (あなたの家が 良くなるほど、あなたの生活も良いも のになる)を顧客に伝えている。 B&Q のケースは、顧客に有益な情報を コンテンツ化し、該当するブランドが 特定分野の専門家であることを丁寧に 伝えることの重要性を教えてくれる。 重要なのは、デジタル領域だけに留ま るのではなくリアル領域も跨いでコン テンツを創りあげることである。その 融合が、顧客の記憶に強く刻まれるブ ランド体験を生み出してくれるのだ。
紹介した 2 つのケースは、いずれもマスメディアに依存しない コンテンツマーケティングへの取り組みだ。 グローバル市場でのブランディングでは、文化や価値観の異なる顧客を対象とするため、 マスメディアを通じた全方位型のマーケティングが必ずしも有効でないのは 当然かもしれない。だからこそ、潜在顧客の興味・関心のレベルをアップする、 既存顧客のロイヤリティをさらに強固なものにしていくという コンテンツマーケティングの発想がブランディングの重要な要素となってくる。 この発想は、顧客の確かな信頼が不可欠な B2B の世界でも有効に機能する。 CRM ソリューションを中心としたクラウドコンピューティング・サービスを 展開する「セールスフォース・ドットコム」が運営する「Customer Success」という 顧客支援サイトは、製品やサービス情報に留まることなく、 イノベーションのトレンドやマーケティング、営業戦略などを紹介する 多様なコンテンツを多く発信している。 またリアル領域では、 「新しいカタチで顧客とつながる。世界最大のクラウドコンピューティング・イベント」 と称して、ロックコンサートと業界のショーが統合されたマーケッター向けの 大型イベント「Dreamforce」を筆頭に、パートナーや導入検討中の顧客に向けた 様々なセミナーをきめ細かに開催している。 商品・サービスに関連する情報はもちろん、顧客にとって有益な周辺情報、 そしてブランドの考え方やメリットを伝えるためのリアルな場というコンテンツを提供し、 顧客に信頼と身近さと魅力を感じさせるブランド体験を 創造しているのである。
I t ’ s sho w
0.5
ti m e !!
Data from Digital Trends for 2014
Mobile Customer experience Personnalisation Content marketing Multichannel campaign management Social Big date Marketing automation Video
0%
10%
20%
30%
Adobe がマーケターを対象に実施した調査(Digital Trends for 2014)では B2B マーケターの多くが最重要課題にコンテンツマーケティングの充実を挙げている。 B2B のような限られた顧客に対して深い関係を持つべき領域でこそ、 コンテンツマーケティングがその力を発揮することの証と言える。 ここで、ケースから得られた示唆を踏まえて、 「日本ブランド」が、コンテンツをブランディ ングに活用するための 3 つの要諦を提示したい。
コンテンツをブランディングに 活用するためのポイント
Point 1
TARGET コンテンツを届けるターゲットを明確にする
Point 2
STORY
共感を生み出すブランド体験を創り出すストーリーを練る
Point 3
OVERALL
統合的なコンテンツマーケティングを展開する
More detail in the next page...
Point 1
TARGET
コンテンツを届けるターゲットを 明確にする
情報接触の選択肢が無数にある現在、顧客は、複数の多様な情報と 出会いたいのではなく、自分に、あるいは自社に役立つ、 そして魅力を感じる情報を探し求めている。 顧客は1対1の情報を欲しているのだ。したがって、企業側は、 特定のターゲットに対し、自分たちのブランド(人格)が、 どのように役立ち、どのように魅力的なのかを伝えていくことが 重要なポイントとなる。したがって「日本ブランド」が 今なすべきことの第一歩は、誰に対して、 コンテンツを届けるのかという方針を明確にすることだ。 日産 GT-R は、ファンや顧客という 濃い 顧客をターゲットとし、 商品そのものを、価値を語るコンテンツに仕立てている。 その上で、シンプルで言語の壁を超えるコンテンツであることに こだわり、グローバルなターゲットに対して訴求を続けている。 ターゲットを明確にすることは、 マーケットを狭くすることにはつながらないのである。
Point 2
STORY
共感を生み出すブランド体験を創り出す ストーリーを練る
コンテンツの役割は、設定したターゲットとブランドの 強い絆を創り出すことにある。 そのためには説得力があり、かつ魅力的な「ストーリーづくり」が重要だ。 なぜなら、製品やサービスの品質の高さを訴えることに留まらない物語こそが、 ターゲットの感情に訴える力を持つからである。 魅力あるストーリーは、記憶に残るブランド体験をつくりあげ、 忘れられない感情を引き起こし、ブランドへの愛着を生み出す。 ブランドに興味・関心のある人に「ますます好きになってもらう」ための、 1対1のブランド体験を創り出す「ストーリーづくり」こそが コンテンツマーケティングにとって重要なポイントである。 日産 GT-R がファンや顧客に響く今までの伝統やエピソードをコンテンツの 原材料としたり、B&Q が顧客に有益な情報をコンテンツとして 提供し続けることは、まさに共感を生み、ターゲットとブランドの間に 強い絆を創り出していると言えよう。
Point 3
OVERALL
統合的なコンテンツマーケティングを展開する 紹介してきたケースは、ブランドを十分に表現したコンテンツマーケティングの 取り組みであるが、コミュニケーション、プロダクト、などと、はっきりと分類できない コンテンツが多いことにお気づきだろうか。B&Q やセールスフォース・ドットコムは、 店舗チャネルやイベントなどの「リアル領域」、コミュニティサイトやソーシャルメディア などの「デジタル領域」双方を跨ぎ、コンテンツとして配置している。 商品、チャネル、コミュニケーション、そして人(社員)のいずれもが顧客に対するコン テンツとなり得るものであり、コンテンツの領域は、コミュニケーションという限定され た領域ではなく、ボーダーレスであることを示唆している。
Products and services
People and behaviours
プロダクトとサービス
人々と行動
Brand Proposition Environment and channels 空間・環境とチャネル
ブランドプロポジション [ 目指す姿 ]
Communications コミュニケーション
図 : インターブランド「クアドラント・モデル」
一方向でのコンテンツづくりに留めるのではなく、 魅力的なストーリーに満ちたコンテンツづくりに さまざまな角度から挑戦しつつ、 中心にある「ブランドの核となる価値」を伝えられるように コンテンツを統合的に設計することが、 強いブランドを構築するために必要である。 「ブランド体験」が重要であることに疑う余地はない。 デジタル化により情報があふれている時代だからこそ 「コンテンツマーケティング」という発想に着目し、 さまざまな活動を進めていくことが、 今後のブランド強化に向けた 新たな手段となり得るのではないだろうか。
インターブランドジャパン 矢部宏行 Executive Strategy Director
天野洋介 Senior Consultant 勝呂和央 Senior Consultant
黒木英明 Director Client Services & Solutions 根来祐子 Designer
インターブランドについて インターブランドは、1974 年、ロンドンで設立された世
界最大のブランドコンサルティング会社である。世界 27
カ国、約 40 のオフィスを拠点に、 グローバルでブランド の価値を創り、高め続ける支援を行う。インターブランド
の「ブランド価値評価」は、ISO により世界で最初にブラン
ドの金銭的価値測定における世界標準として認められ、 グ ロ ー バ ル のブランドラン キング で ある Best Global Brands などのレポートを広く公表している。
インターブランドジャパンは、ロンドン、ニューヨークに次
ぐ、インターブランド第 3 の拠点として、1983 年、東京に設
立された。ブランド戦略構築をリードするコンサルタン
ト、 ブランドのネーミング、スローガン、メッセージング、ロ
ゴ・パッケージ・空間・デジタルのデザインを開発するクリ エイターが在籍し、さまざまな企業・団体に対して、 トータ ルにブランディングサービスを提供している。著書「ブラ
ンディング7つの原則」 (日本経済新聞出版社刊) http://interbrand.com/ja/