01
はじめに
02
PROJECT 01
04
● 大学の建築フォーラム:アーカイヴとアウトリーチ
カルナラ!イベントシリーズ 12 18 20
● 学問・文化プラットフォームとしての寺院:泉岳寺と禅の文化 [活動情報]
PROJECT 02
コミュニティをつなぐ・情報を伝える(連携と発信) 22 23
●「ウェブサイトによる国際発信」 ワーキング・グループ ● 留学生モニター座談会:アカデミック・イベントの多言語対応
28
[コラム] 大学発教育プログラムにおけるアクセシビリティ向上に関する取り組み
33
[活動情報]
34
PROJECT 03
36
● ドキュメンタリー 映像プロジェクト
文化を可視化する(コンテンツ制作) 37
[活動情報]
38
PROJECT 04
40
● カルチュラル・コミュニケーターになろう!
カルチュラル・コミュニケーターを育てる(人材育成) 44 47 48
● 文化の発信を担う人材育成について:Tokyo Art Research Lab ヒアリング [活動情報]
PROJECT 05
プロジェクトを育てる(プロジェクト運営とモデル構築) 50 52
● 文化プロジェクトの情報発信:Tokyo Art Beat ヒアリング ●「 都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト:第2回全体会レポート
54
[活動情報]
55
Introduction
56
Project 01: CulNarra! Event Series
58
Project 02: Connect Communities and Promote Communication
60
Project 03: Visualise Culture
62
Project 04: Produce Cultural Communicators
64
Project 05: Develop the Project
港
区は過去から現在にいたる豊かな文化資源を蓄積する都市だ。 過去に目を向ければ、江戸と京都を繋ぐ東海道は国道一号線
としていまも町を走り、高輪では高輪大木戸を見ることができる。 またこ の地域は、 大名屋敷と寺院の町としても知られていた。徳川将軍家代々 の霊廟をもつ増上寺や、 赤穂義士を弔う泉岳寺など、 江戸時代からの寺 院が多く活動する一方、 かつての大名屋敷は、徳川家の屋敷跡に立つ 迎賓館、 あるいは松平家の屋敷跡に立つ慶應義塾など、新たな役割と 機能を得ていまを生きている。 豊かな史跡を有する港区は、 同時に現代の文化芸術の集積地でもあ る。僅か20 ㎢ほどのエリアに、 12,000ヵ所を超えるアート・スペースが集 まり、 日々あたらしい創造を試みている。 つまり港区は、歴史や伝統文化 に関心がある人々と、現代の芸術文化に関心がある人々の双方を惹き つける、 幅広い文化資源を擁する都市と考えることができる。 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトは、 過去と現在を往還す るダイナミックな都市文化を多様なコミュニティが享受する環境の実現を 目指して、 「学術成果を活用し、 都市文化の過去と現在をつなぐ物語 (ナ ラティヴ) を提示する」 「多様なコミュニティ、 とりわけ国際コミュニティと連 携する」 「活動を担う人材を育成する」 という三課題に取り組んでいる。 こ のように書くと非常に理解しづらいが、 プロジェクトの標語はシンプルだ。 Disclose Culture and Research、 つまり、 文化と学術を社会に対して開 いてゆく活動が都市のカルチュラル・ナラティヴだ。 2019年3月現在、NH K放送博物館/放送文化研究所 [放送文化] 、 (公財)味の素食の文化センター[食文化] 、虎屋文庫 [和菓子文化] 、 Japan Cultural Research Institute[現代美術・文化アーカイヴ] 、 泉岳寺 [禅文化] 、増上寺 [江戸の寺院文化] 、草月会 [いけばなと前衛 芸術] 、 慶應義塾大学アート・センター [現代芸術] の9機関をメンバーと し、 学術活動を背景とした多彩な専門性をもつチームを編成している。 今年度の活動は、 都市文化を紹介するイベントの開催、 国際的な情報 発信のためのプラットフォーム構築、 コンテンツ制作、人材育成プログラ ムの開発、 プロジェクトの運営とモデル化という五事業からなる。本報告 書では、 それぞれの活動を 「カルナラ!イベントシリーズ」 「コミュニティをつ なぐ・情報を伝える (連携と発信) 「 」文化を可視化する (コンテンツ制作) 」 「カルチュラル・コミュニケーターを育てる (人材育成) 「 」プロジェクトを 育てる (プロジェクト運営とモデル構築) 」 と題してレポートしている。報告
INTRODUCTION
書の編集にあたっては、 外部のライターを一部起用し、 雑誌のような誌面 を作ることで、 様々なコミュニティに活動を伝えることを狙った。 また、 プロ ジェクトが制作したコンテンツは、 ウェブサイトやSNSといったオンライン メディアでも積極的に公開している。 是非ご覧いただきたい。
カルナラ!
イベントシリーズ
01 PROJECT
2
「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 は、学術
催、三田キャンパスの建築を公開した。建築
成果の前景化を軸に今昔の文化資源を相互
見学の機会を提供するだけではなく、 フォー
につなぎ、文化の物語 (カルチュラル・ナラティ
ラムで語られた活動の一つの実現例を示す
ヴ)を結像することを目指している。 このコン
場ともなった。
セプトを具体的に表現し社会に届けるための
もう一つのイベントは、禅の学問と文化を
一つの装置がカルナラ!イベントシリーズだ。
テーマとする 「学問・文化プラットフォームと
プロジェクトメンバーの多様性を活かし、現
しての寺院:泉岳寺と禅の文化」。曹洞宗江戸
代美術・寺院・禅・建築・放送・生け花・食・和
三学寮に数えられ、禅の学問と文化を深め伝
菓子といった幅広い主題をフィールドに、港
える役割を担ってきた泉岳寺を舞台に、泉岳
区で展開する都市文化をその歴史的・文化的
寺の歴史、禅寺の塔頭文化、禅に関わる造形
文脈とともに紹介する講演会、展覧会、 ガイド
美術についてのレクチャーを開催した。講師
ツアー、 ワークショップなどの開催を計画して
は、牟田賢明氏(泉岳寺知客兼受処主事) と
いる。
堀川貴司氏 (慶應義塾大学附属研究所 斯道
本年度は建築と禅の文化に焦点をあて、2 つのイベントを企画した。
文庫 教授) 。泉岳寺は、一般には赤穂義士の 墓で知られ、 境内には赤穂義士関係の文化財 を多数展示する赤穂義士記念館もある。 しか
築フォーラム:アーカイヴとアウトリーチ」。国
し今回の講演では、禅の文化や学問の拠点と
内外の建築資料アーカイヴの活動や大学に
しての泉岳寺の姿に焦点をあてた。
おける建築物の公開に関する取り組みを、 レ
泉岳寺の歴史については、2012年に駒
クチャーとケース・スタディを通じて共有し議
澤大学教授小泉雅弘氏が 「幕末維新期の泉
論するフォーラムだ。慶應義塾大学、明治学
岳寺」 と題した講演を行っている。 今回は学術
院大学、学習院大学の担当者に登壇を依頼
成果の再活用の試みとして、小泉氏の許可を
し、 それぞれの大学において建築物の公開が
得て、過去の講演記録の書き起こしを元にレ
どのように実践されているか、 またその試みが
ジュメを編集し、参考文献を参加者の閲覧に
どう地域に開かれているかを共有した。 また、
供した。
より大きな枠組みとして建築資料アーカイヴ
今回のイベントシリーズでは、新しい形での
の活動を取り上げ、近現代建築資料館より建
言語サポート (英語) の提供にも取り組んだ。
築資料アーカイヴの活動や展示について紹介
言語サポートの概要については、宮北剛己の
をいただいた。
コラム (p.28) を参照。
PROJECT 01
建築をテーマとするイベントは 「大学の建
また、 フォーラムの開催に合わせて 「慶應 義塾三田キャンパス 建築プロムナード」 を開
3
Report 01 大学の建築フォーラム: アーカイヴとアウトリーチ 日時: 2018年10月20日 場所: 慶應義塾大学三田キャンパス レポート: 三浦真紀
学生たちが文化祭の準備に勤しむ時期、
もの建て替え計画が進むのを目の当たりに
大学の建築に焦点をあてたセッションが慶應
して、建築の撮影、関連する図面や資料の調
義塾大学三田キャンパスで開催された。国内
査、記録化を開始したという。元は病棟だった
外の建築資料アーカイヴの活動や、大学にお
信濃町キャンパスの 「別館」 という建物は、撮
ける建築物の公開に関する取り組みを、 レク
影時には引っ越し直後で、 まるで抜け殻のよ
チャーとケース・スタディを通じて共有した。
うに見えた。 その教訓を生かして、以降建物を
スライドで建築や建築資料の貴重な写真が
撮影するときは、人の気配のあるうちに撮影
多数紹介されたほか、外国人や障がいを持つ
をしたという。
人に届けるために、機械による日本語の文字
通常、建築は竣工時を完成とみなす。 しか
起こしと英訳をスクリーンに表示する試みが
し、 アート・センターでは、 プロジェクトを始め
なされた。この言語サポートについて詳しく
るにあたり、記録すべきものは何か改めて考
は、28ページの報告を参照のこと。
えたという。学校という建築は学生が学び、 人々が仕事をする生活の場。 だから、 このプロ
【レクチャー1】
ジェクトでは、竣工時を建築誕生の時として、
「学校と記憶
その後の建築が辿った歴史を記録することを
ー慶應義塾の建築プロジェクトを中心に」
目指しているという。
慶應義塾大学アート・センター
「慶應義塾の建築プロジェクト」では記録
渡部葉子
撮 影、資 料 調 査、図 面のデジタル化などの アーカイヴ活動、発信活動、 アウトリーチを重
4
「慶應義塾の建築プロジェクト」は2008
視し、 力を入れている。特に重視するのは、在
年開始。大学が創立150周年を迎え、いくつ
校生へのアプローチだ。 「建築プロムナード」
は、学生に大学の建物を 「建築」 とし て見てもらう機会を作ろうと、2015 年から開始。在校生、職員だけでなく 多くの来訪者があり、 大学を地域に開 く機会となっている。 年間に撮影した10の建築を扱った。10のう
ルーム」展とワークショップは、 このプロジェク
ち8つはすでに取り壊され、現存するのは戦
トの最初のアウトリーチ活動だ。
前の建物である北里記念館と予防医学校舎
同展は旧ノグチ・ルームの初めての特別公
のみ。開催場所が大学のキャンバスであり、病
開を含む展示企画で、美術史学専攻の学生
院でもあったことから、 この展示は大きな反
が来館者への解説を担当。 この活動を通して
響を呼んだ。
谷口について学び、ノグチ・ルームの成り立
他にも2012年には日吉寄宿舎のリノベー
ちや歴史に触れ、現況を体験した。 また、 プロ
ションを受け、建築の保存と利用・使用につ
の建築写真家と一緒に幼稚舎の生徒たちが
いて考えるシンポジウム及び寄宿舎の見学ツ
撮った建築写真を展示したのも、 この展覧会
アーを開催。 翌2013年には三田キャンパスで
の特徴だった。幼稚舎の生徒たちの写真は、 「谷口吉郎と日吉寄宿舎」展を開催。竣工時 288人の生徒=建築ユーザーの眼を通した
の図面や記録写真と共に記念アルバム、各寮
建築の姿を描き出すものだ。
が発行した雑誌や記録などを展示し、寄宿舎
谷口吉郎は、戦災に遭った三田キャンパス
生活の有り様も紹介した。 また時代の変遷に
の復興を任された建築家だ。かつては谷口の
伴って変化する建築の歴史も提示した。
建築がいくつも建っていたが、今は三田の大
「学校建築は記憶の集積する優れた器で
学キャンパスに一つも残っていない。信濃町
あり、夥しい数の人々にとっての記憶のスイッ
キャンパスからも今進行中のリニューアルによ
チでもある」 と、渡部氏は語る。あくまでユー
り姿を消す予定だ。建築を主題とする展覧会
ザー視点に立ったアーカイヴとアウトリーチ
や公開イベントは、学生が現況を知り、歴史
活動は、次世代への宝物と言えるだろう。
PROJECT 01
2009年に開催した 「谷口吉郎とノグチ・
的建物の継承を考える良い機会となっている ようだ。 2017-18年には信濃町キャンパスにて、展 覧会「信濃町往来 建築今昔」 を開催。 この10
5
Report 01
【レクチャー2】
博物館や美術館の資料と異なり、対象となる
「近現代建築アーカイブズの保存と活用
建築家や建築物の資料を包括的に保存する
ー文化庁国立近現代建築資料館と国内外
ことが特徴だという。
の事例から」
日本の公的な動きとしては、2002年に建
文化庁 国立近現代建築資料館
築博物館が設立。2013年に初の国立の建
藤本貴子
築資料専門機関として近現代建築資料館が 設立された。 当初は散逸する資料の緊急避難
そもそも近現代建築アーカイブズとは何
的な意図が強かったが、 今は重要な建築資料
か。国際公文書評議会によれば、 アーカイブ
を広く受け入れている。同館は13の資料群を
ズとは長期的価値により保存される、人間活
収集・保管しており、2018年7月時点での収
動の副産物、 記録物を指す。 具体的には文書、
蔵図面総数は約113,000点。この他に写真
ウェブサイトやメールを含む現地資料、写真、
や文書も多数。大規模な資料には坂倉準三、
フィルム、録音記録など。建築アーカイブズ
吉沢隆正、大髙正人の資料などがある。
に何が含まれるかは、各収蔵機関の収集方
大髙正人の資料を例に、アーカイブズ資
針や、何が残されているかによって変わる。図
料の整理の流れが披露された。具体的には
面、 スケッチ、写真、ポジフィルム、報告書、手
図面、 スケッチ、写真、 スライド、図面を撮った
書きのメモ、雑誌、模型、家具、建築具材など。
アパ チャーカード、都市計画の報告書、事務 所書類、雑誌、映像・音声フィルムなどを所蔵 する。2013年に最初の調査が行われ、その 後資料館に資料を搬送し、調査を行なって きた。搬入した資料は基本的に燻蒸し、保存 状態がよければトラップの使用やモニタリン グを行った上で収蔵庫に移動する。湾曲した 図面などはフラットニング作業後番号を付与 し、場合によってはデジタル化も行う。 フィル ム資料は劣化の危険があるため、保存用の 中性紙箱にガス吸着シートと共に収納し、 温 湿度管理がされている収蔵庫のドライキャビ ネットに、雑多な文書類は保存用箱に入れ替
6
Report 01
えて保管する。国際公文書館会議が定めた記
【レクチャー3】
述の国際標準に則って目録を作成する。この
「歴史的建造物が語るキャンパス
資料をもとに、2016 -17年、展覧 会 「建築と
~文化財三棟 (インブリー館・記念館・
社会を結ぶ 大髙正人の方法」 が開かれた。
チャペル) を中心に~」
大学で建築資料を活用している事例として
明治学院歴史資料館 桑折美智代
は、京都工芸繊維大学美術工芸資料館の例 がある。 同館は村野藤吾の図面資料を所蔵す
まず文化財のバックボーンである明治学院
る。1996年に遺族から寄贈されたもので、
大学の歴史が語られた。同学はプロテスタン
25,000点に及ぶ。 これらの資料は整理作業
トのミッションスクールであり、1856年、 ア
が続けられ、15回に及ぶ展覧会が開催され
メリカ人の宣教医師J.C.ヘボン博士が妻ク
た。展示は大学院生が準備・設営・運営を担
ララと来日。1863年に横浜の自宅で 「ヘボ
当、学部生は展示品となる建築模型を制作し
ン塾」を開設したのが淵源だ。その後築地へ
ている。
移転、1886年に明治学院となり白金に移転
海外では大学が近現代建築資料をアー
した。
れる。 ロンドンの全国建築学会付属建築学校 (通称AAスクール)、コロンビア大学のエイ
インブリー館
ヴリー図書館、 カリフォルニア大学の環境デ
学校で教鞭をとる宣教師たちが築地居住
ザインアーカイブズなど、大学が果たす役割
地から通うのは大変だと、校内に住居を構え
が大きい。教育的な観点だけでなく、建築文
た。元は4棟あり、現存する1棟がインブリー
化の地域拠点にもなっている。
館。1889年頃に木造2階建てアメリカ住宅
日本には眠っている建築資料が多くあり、
様式で建設され、W.インブリー博士が長年
大学が自校の建築や資料を文化資源として
住んだことから、名付けられた。国内に現存す
活用する取り組みが増えていくことを期待し
る最古の宣教師館の1つで、 日本における西
ている。 また建築資料館のような機関がハブ
洋風住宅の変遷を知るうえでの基準作と位
組織となって大学の活動の手助けになればと
置づけられている。
も考えているという。建築資料をアーカイブズ
その後、移築、解体修復工事を経て、屋根
化することの重要性、その意義を考えさせら
を除き創建当初の姿に復元。バルコニーを復
れた。
活し、暖炉の煙突もついた。修復工事では、
PROJECT 01
カイブズとして保存・活用する例が多数見ら
7
外壁下見板の内側に創建時の厚紙が発見さ
もに修理・保存が決定、移設される。1979
れ、そこに描かれた図面や道具箱の絵は、日
年に 「港区指定有形文化財」、2002年東京
本人大工が建設に携わっていたことを示す貴
都「特に景観上重要な歴史的建造物等」 に指
重な資料となった。現在は学院牧師室、歴史
定。現在は1階に小チャペルと歴史資料館の
資料館事務室、会議室として使用されている。
展示室があり、一般も無料で見学可能だ。か
1998年に国の重要文化財の指定を受けた。
つて図書館だった2階の部屋は会議室や事 務室として使用されている。図書館を利用し
明治学院記念館
た学生に島崎藤村がおり、小説「桜の実の熟 する時」 には図書館の描写がある。
正門を入って右手、1階が煉瓦造り、2階 が木造の建物。1890年に神学部の校舎及 び図書館として建てられたアメリカ・ネオゴ
8
明治学院礼拝堂(チャペル)
シック様式の建築物。設計者は不明だが、当
学院のシンボルである礼拝堂 (チャペル)
時教鞭を執っていたH.M.ランディス宣教師
は、アメリカ人 建 築 家ウィリアム・メレル・
ではないかといわれている。建設当初は1階
ヴォーリズによって1916年に建てられたイ
2階とも総赤煉瓦、屋根は一部スレート葺き
ギリス・ゴシック様式の建物。1923年の関
とフランス瓦葺きだったが、1894年の明治
東大震災で被災し、補修としてバットレス (外
東京地震で被災し、2階部分を木造に改築。
部の控え壁) を取り付けた。学生数の増加に
1914年には学内火災の類焼で塔が焼失、
伴って1931年に袖廊の拡張を行った結果、
1923年の関東大震災で2階の煙突が倒壊し
現在の十字架型となった。2006年から約2
た。現在では煉瓦と木造の連携構造、スキッ
年間保存修理工事。内部では正面講壇の復
プスタイルが美しい建物となっている。解体
元、煉瓦積外壁構造補強、パイプオルガン設
の危機もあったが、1963年国道1号線拡張
置工事が実施された。1989年 「港区指定有
に伴う用地買収に伴い東京都が建物移築費
形文化財」、2002年東京都「特に景観上重
を負担することになり、翌年インブリー館とと
要な歴史的建造物等」 に指定された。
Report 01
池が現存し、豊島区の緑地の3分の1を占め
一般公開としては、東京文化財ウィーク (毎
る。 キャンパスプランは久留正道が手がけた。
年11月初旬に、普段は非公開の文化財三棟
敷地の北西に教室、本館、図書館などの校舎
を一般公開) 、学生によるガイドツアーを年2
群、南西に運動場・柔剣道場など運動施設、
回開催。 チャペルコンサート (年に数回チャペ
東に寮、食堂、教官官舎などを配置し、教育施
ルでパイプオルガンのコンサートを開催)、 ク
設ゾーンと居住ゾーンを明確に区別。正門の
リスマス音楽礼拝などがある。
正面に建物を構えることで生じる圧迫感を軽
学内での公開活用には、明治学院の東村
減するために緑地や広場などの空間を設け、
山中学校1年生の見学会(文化財三棟)、明
その奥に図書館と向い合わせて本館、正堂と
治学院高等学校1年生の歴史資料館展示室
図書館が置かれた。 当時の建物はほとんど木
見学、大学での授業協力 (文化財三棟見学)、
造で、学習院のモットーである質実剛健にふ
チャペルアワー、入学式・卒業式などの式典、
さわしかった。関東大震災や戦火により建物
パイプオルガン講座、関係者のチャペルでの
は新築、移築、改築、取り壊しを経ているが、
挙式などがある。
現在も明治・大正・昭和・平成と時代を映す
貴重な文化財を保存し、研究教育の場とし
建築物が点在している。
て活用し、未来につなぐことが責務とのこと。 歴史的な建築を大切にする同学の姿勢が、豊 かな学生生活を育むことを実感した。
現存する登録有形文化財7棟
PROJECT 01
これらの建築物の活用・公開の実例として、
2009年、学内の7つの建物が国登録有形 【レクチャー4】
文化財に登録され、保存活動が認識されるよ
「学習院大学目白キャンパスの歴史ある建物
うになった。7棟とは、厩舎、正門、総寮部(乃
の保存と活用」
木館)、旧図書館(北別館)、旧皇族寮(東別
学習院大学史料館
館)、旧理科特別教場 (南1号館) 、旧中等科
冨田ゆり、 丸山美季
教場 (西1号館)。それぞれ写真とともに解説 された。
学習院は1877年の開校後、神田錦町、虎
戦前は学習院では馬術が必須だったため
ノ門、四谷に移り、1908年に目白へ移転し
厩舎があり、現在では馬術部が利用。正門は
現在に至っている。現在、 目白キャンパスは目
4本の煉瓦造りの門柱と木製の扉で構成され
白通りの南に位置し、敷地内には雑木林や
た同学の顔だ。かつて全寮制だったところか
9
Report 01
ら総寮部があり、元は寮の事務棟と購買部と
キャンパス内の建造物について見直す必要性
して建てられた。学習院院長だった乃木希典
を感じ、1999年に建物調査を依頼したことを
は院長官舎には住まず、学生と同じ生活をし
契機に、 歴史的建造物が持つ 「記憶」 を後世へ
たいと寮の事務棟の一室に寝起きしたことか
と継承するため展示や広報活動を開始した。
ら乃木館とも呼ばれている。旧図書館は敷地 の中心に作られたT字型の建物で、 のちにL字 型となった古建築の代表作。三島由紀夫や柳
守れなかったピラミッド校舎
宗悦が利用したことで知られている。旧皇族
残念ながら守れなかった建物が、大学のシ
寮は皇族学生専用の寮。現在、耐震復元工事
ンボルとして親しまれていた前川國男設計の
中だが、以前は教室として使われており、今上
中央教室。広場の中心にピラミッド型の大教
陛下や皇太子殿下も学んだ。旧理科特別教
室棟を置き、その周囲に校舎群を配置した。
場は鉄筋コンクリートの建物。 ネオゴシック様
設計時、ダイナミックなデザインに反対の声
式で玄関ポーチがあり、窓枠はアール・デコの
もあったが、 「少しばかりデッカイ庭石が据え
デザイン。出窓式のドラフトチャンバーが6箇
られたとお考えいただければ良いかと存じま
所設置された珍しい例だ。旧中等科教場もネ
す」 と前川が答えたというエピソードも!空間
オゴシック様式で、 ステンドグラスの窓、大理
構成を活かした前川のプランは賞賛され、当
石の納戸、 シャンデリアなど重厚な内装が特
時の建築雑誌などに度々掲載された。特にピ
徴の英会話教室があった。
ラミッド校舎は教室として、 また式典などの公
このような歴史的な建造物であっても、 把手
式行事や舞台としても利用されていた。 しかし
や蝶番などが壊れると新しい部材にするなど、
学生数の増加などの諸事情により、 この校舎
古く不便なものは新しく便利なものに変えられ
群は解体された。それに際して、解体過程の
ることが多い。 そこで、 学習院大学史料館では、
定点撮影、廃棄部材の保存、 さよならイベント として見学会や講演会などを実施、記録写真 集を刊行した。
建築物を守り、伝える ここで史料館が行ってきた活動が紹介され た。「キャンパスまるごとミュージアムツアー」
10
Report 01
では、学習院の歴史を説明しながら、敷地内
限られるので、会議用のテーブルにしたりと活
に分 散している建 造 物や石 碑、自然を1時
用する」 「学内であの椅子はかなり古いだろう
間ほど案内する。アーカイブズとしては、 『学
と興味を持つ人もいるが、記録がないから不
習院 目白の学び舎:学習院の歴史ある建築』
明のまま。 しかし気にする人がいるのは良いこ
『学習院南1号館:再生した旧理科教場』を
と」 「気がついたら壊れされているケースがあ
刊行。このような活動で、在学生が歴史ある
り、最近では解体のスケジュールを聞いて、第
キャンパスへの愛着を持つようになったとい
一段階としてとりあえず撮影に行く。 かなり大
う。また学内の開放は一般の人々にもキャン
きな部材も取りに行き、 とりあえず取っておい
パスの魅力を伝え、開かれた大学を目指す取
て後でどうするかを考える」など、答えから各
り組みが徐々に社会にも浸透している。
校担当者の奮闘の様子が垣間見られる。
維持、保存しながら、魅力的なキャンパスの空
の資料すべてを残すのか、選別しているか」 と
間を守り、 次世代へ継承する使命を担う、 との
いう質問には、 「すべてを残すわけにはいかな
こと。伝統と革新が混在したキャンパスは学
いので選択は必要だろう。アーカイブズはす
校の魅力に直結する。理想のキャンパスのあ
べて整理が終わることは未来永劫ない。 アク
り方を見た気がした。
セスされるものはよく整理される。 ともかく資
PROJECT 01
今後も校舎として歴史的建造物を活用し、 「何を残すのかに悩んでいる。壊された建物
料が存在することを発信すれば、必要のある 質疑応答
人が整理の一端を担ってくれると考えている。 アーカイブズはユーザーが育てる」 と、 アーカ
最初に登壇者がレクチャーを聞いた感想
イブズの本質を突いた答えが印象的だった。
を述べ、互いに刺激になった様子が伺えた。
大学の建築の重要性を認識するとともに、
質疑応答で、参加者から、 「学校で資料を集め
歴史的建築を継承したいと考える担当者たち
る方法を教えて欲しい」 の問いには、 「 学内で
の熱い思いがこの活動を支えていることを肌
建物が壊されるとわかると、 台車を持ってどん
で感じた。
な部材でも拾いに行く。ただ収納スペースは
11
Report 02 学問・文化プラットフォームとしての寺院: 泉岳寺と禅の文化 日時: 2018年11月18日 場所: 泉岳寺 レポート: 三浦真紀
紅葉が美しい時期、泉岳寺の講堂でレク
では、本堂、庫裏、書院などが消失し、70年
チャーが開催された。参加者はのべ63名。午
かけて再建した。
前中にはお寺のガイドツアーがあり、場の空
泉岳寺は曹洞宗の江戸三学寮のひとつで
気感に触れながら話を聞くことができた。
あり、学僧が全国から江戸に集まり勉強す る、今でいう大学の役割を果たしていた。江戸
泉岳寺の歴史
集い、寮舎で寄宿していた。赤穂義士のお葬
まず、 泉岳寺の牟田賢明氏が泉岳寺の歴史
式の際はその学僧160名が参加して、 お墓に
と学寮について説明を行った。
埋葬したと言われている。
泉岳寺は約400年前、1612年に徳川家
明治初期の廃仏毀釈により、 いったん学僧
康が今川義元の菩提を弔うために創建。元は
はいなくなるが、2004年頃、泉岳寺学寮を
桜田門の外、今の警視庁のあたりからホテル
復興したいと現住職が構想。今は毎週土曜
オークラにかけて、広い敷地にあったと言わ
日、一般の方々に向けて仏教の勉強、曹洞宗
れている。 それが寛永の大火(1641) で焼失。
学を中心とした学寮公開講座を開催し、曹洞
その後、 現在の高輪に再建された。 浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけられ る赤 穂 事 件 が1701年 に起こり、1702年 12月14日に赤穂義士が吉良邸に討ち入り。 1703年2月8日に義士たちは切腹し、泉岳寺 の墓に埋葬された。明治初期になると廃仏毀 釈の余波を受けて疲弊。1945年5月の空襲
12
時代には、160人から200人近くの学僧が
宗の学寮という大事な役目を果たしている。
名のほかに、その山の名が通称として用いら れた。では 「五」は何か。中国の禅宗は6世紀
次に慶應義塾大学附属研究所斯道文庫教
以降しだいに勢力を伸ばし、12世紀になる
授・堀川貴司氏が、禅宗の寺院の学問と文化
と、支配者階級との結びつきを深めていく。 そ
をテーマに講演した。
の結果、首都の杭 州(臨 安)、その近くの貿易
こうしゅう りんあん
にんぽー みんしゅう
都市である寧 波(明 州)にあった五つの有力 金閣と銀閣
寺院が選ばれ、国家の保護を受けるとともに、 皇帝と国家の安泰を祈願することを義務づけ られ、 またその住持は皇帝によって任命され
寺の金閣と慈照寺の銀閣。鹿苑寺はもともと
ることとなった。 この制度が鎌倉時代に日本
三代将軍足利義満の別荘「北山殿」 として作
に導入され、室町時代に完成したのが、 日本
られ、彼の死後、遺言によって寺院となった。
の五山だ。
一方、慈照寺は八代将軍足利義政の隠居所
日本における禅宗の誕生は鎌倉時代。禅
「東山殿」 だが、 こちらも死後に寺院に改めら
宗では師匠から弟子へと直接教えを伝えるこ
れた。日本の文化の歴史のなかで、義満の時
とを重視するので、中国人の禅僧が日本に来
代を 「北山文化」、義政のそれを 「東山文化」
る、 あるいは日本人の禅僧が中国に留学する
と呼んできたのはこの二つがそれぞれの文化
か、 どちらかの手段によって教えを継承する
の中心地だったから。注目すべきは、両者は
必要がある。さまざまな流派に分かれていた
禅宗寺院であり、 しかも五山の一つ相国寺の
中国の禅宗が、 この二つの手段によって次々
塔 頭(附属寺院) である点。 まず室町時代の
と日本にもたらされた。
文化の中心に禅宗が存在し、最高権力者で
道元(1200 - 53)が開いた曹洞宗の布教
あった将軍が大事に保護していた。金閣・銀
が北陸地方に限定されていたのに対し、栄西
閣はその象徴と言えるだろう。「五山」 と 「塔
(1141-1215)の開いた臨 済 宗は、栄 西 以
たっちゅう
頭」 は今回のキーワードだ。
PROJECT 01
室町時代を象徴する建物といえば、鹿苑
後も留学僧・来日僧が多く、それらの人々が 権力者と結びつき、 日本の中心地に大寺院を
五山とは
建立していく。最新の中国文化を移入する場 となった禅宗寺院を、 中国に倣い、文化・経済
五山の 「山」 とは寺院を指す。中国の禅宗寺
両面において権力を支えるものとして位置付
院は多く山の中に開かれたため、正式の寺院
けようとしたのが五山だ。
13
Report 02
13世紀の鎌倉幕府、建武の新政の後醍醐
から出発した寺院が相国寺の塔頭になってい
天皇も五山を定めようとしたが、本格的には
るのも、 そのような深い関係があるからだ。
室町幕府によって行われ、様々な変遷の後、
江戸時代に入ると、徳川家康によって僧録
三代将軍足利義満の時代にほぼ現在の形に
司は南禅寺の塔頭金地院に移される。幕府と
なった。
の連絡のため、同じ名前の塔頭が江戸にも作
じっさつ
五山の下には京都を中心に十刹、 その下に
られた。現在も芝公園にある金地院だ。
全国各地に諸山というランク付けをされた寺 院が置かれた。 なお、京都大徳寺・妙心寺のよ うに、同じ臨済宗の大寺院でも五山の枠外に りん か
あるものを 「林下」 と呼び、曹洞宗の本山であ
塔頭とは、 「塔」 に接尾語の 「頭」 が付いた熟
る永平寺・総持寺などがある。 これらも中世に
語で、意味は 「塔」 と同じ。「塔」 とはサンスク
おける禅宗文化の担い手だった。
リット語のストゥーパを似た発音の漢字に置
室町幕府にとって最も重要な寺院は相国
き換えた 「卒塔婆」 の省略形で、本来は釈迦の
寺。三代将軍足利義満は、南北に分かれてい
遺骨である仏舎利収めた塚や建物を指す。 こ
た朝廷の合一、有力守護大名の討伐など争
の意味が次第に広がり、僧侶の墓を指すよう
乱を平定するとともに、朝廷の内部において
にもなった。特に禅宗は、人から人へ直接教
も地位を確立し、武家・公家両方の権力を統
えを受け継いでいくことを重視する。師匠の
合。明や朝鮮との外交関係を確立させ、貿易
死後、 その墓を塔として大事にし、弟子たちが
による利益を幕府の財源にした。権力の象徴
その塔を守るためにその側に建物を建てたの
として、京都の中心部に明徳3年(1392)相
が塔頭だ。日本では、住持を退いた後の隠居
国寺を完成。壮大な伽藍を誇り、特に七重塔
所として生前から塔頭を建設する習慣が早く
は寺塔としては日本史上最も高いものだった
から行われたため、室町時代になると五山寺
とか。 この中の鹿苑院という塔頭には、五山全
院にはそれぞれ数十もの塔頭が存在するよう
体を統括する僧 録司という幕府の役所も置
になる。
かれ、住持の人事を担当した。
本来、禅宗寺院においては、住持およびそ
相国寺は幕府の宗教政策の一部を担う公
の身の回りの世話をする侍者以外の修行僧
的な存在であるとともに、将軍家の葬儀・法
は、僧堂という建物で共同生活するのが決ま
要なども行う、将軍家の菩提寺という役割も
りだった。 しかし塔頭が増えてくると、それぞ
果たした。鹿苑寺・慈照寺という、将軍の私邸
れの塔頭で修行僧を抱えるようになる。修行
そうろくす
じゅうじ
14
塔頭とは
そ
と
ば
を終えた僧はそこから他の寺院の住持となる などキャリアを重ね、最後に五山寺院の住持 を終えると、 もとの塔頭に戻ってくる。時代が 下ると新たな隠居所が必要になり、塔頭のな かにさらに小さな塔頭を作った。 このような塔
建仁寺のなかで特に重要な塔頭が、14
頭の附属施設を寮舎と呼ぶ。
世紀から現在に至るまで、書物を中心に貴
塔頭や寮舎の建設や維持にはお金がかか
重な文化財を伝えている両足院。龍 山徳 見
り、それぞれに大名や貴族、大商人など特定
(1284-1358) は、現在の千葉県の武士千葉
の後援者が付くことが多く、彼らは経済的な
氏の出身で、鎌倉五山で修行した後中国に渡
支援だけでなく、 自分の家の子弟を禅僧とし
り、45年間滞在。その間に中国の禅宗寺院
て送り込むこともあった。
の住持も務めた。帰国後は建仁寺・南禅寺・
りょうしゃ
りゅうざん とっけん
ぎ どう しゅうしん
天龍寺の住持を歴任。建仁寺では義堂周信・ ぜっかい ちゅうしん
建仁寺の塔頭
絶海中津の五山文学を代表する二人の僧に 学問的な指導を行い、建仁寺の学問的伝統 の出発点となった。彼の死後、二人の弟子が
最も古い禅宗寺院。建仁2年(1202)、鎌倉
建仁寺の住持を務め、 引退後それぞれ塔頭を
幕府第2代将軍源頼家の支援により、栄西が
開いた。一庵一麟の開いた霊源院と、無等以
開いた。相国寺が室町幕府と深く結びつき、
倫の開いた知足院だ。
いちあん いちりん
む とう い
PROJECT 01
京都五山のひとつ、建仁寺は京都における
りん
政治の面でも大きな役割を果たしていたのに
霊源院には、龍山と同じ千葉氏の一族であ
対し、建仁寺は文学活動が盛んで、優れた詩
る、美濃(現在の岐阜県) の東氏の子弟が多く
人や学者を多く輩出した。京都では禅宗寺院
入っている。建仁寺の学問や文学において最
の特徴を 「○○づら」 (づら=顔の意味) とい
も重要な人物のひとり、江 西 龍 派や、15世
う言い方、 いわばあだ名で表したが、 相国寺は
紀半ばに中国に使節として派遣された九 淵
「声明づら」 と呼ばれた。声明とは、儀式の時
龍 琛、少年時代の一休宗純の学問の師匠で
とう し
こうせい りゅう は
きゅうえん
りゅう ちん
ぼ てつ りゅう はん
に禅僧たちが歌う歌のこと。将軍家の菩提寺
ある慕 哲 龍 攀などがここで活躍した。一方、
として、葬式や法事を頻繁に行う特徴を捉え
知足院には、龍山が帰国の時、中国から連れ
た呼び名だ。それに対して建仁寺は 「学問づ
てきた林 浄因の子孫が多く入っている。 この
ら」 、勉強ばかりしているという、少し皮肉めい
家は奈良で饅頭屋を営み、その子孫が現在
た呼び名がついている。
も和菓子の老舗、塩瀬総本家として続いてい
りんじょういん
15
ぶんりん じゅいく
りん し
る。無等の弟子である文 林寿 郁も林 氏 出身 で、彼は建仁寺住持引退後、知足院から分か
塔頭の条件
れて新たな塔頭である両足院を開いた。
このような歴史から、塔頭が続くには、経済
天文21年(1552) 、建仁寺のほとんどが火
的な面と学問的な面との両方が必要だとわか
事で焼けると、知足院は両足院に吸収合併さ
る。学問面で言うと、優れた能力の持ち主が
れる。また、霊源院も経済的に苦しくなり、両
師匠の学問を継承していくことが大事だが、
足院の管理下に置かれた。 こうして両足院は、
その支えになるのは書物だ。中国から輸入さ
二つの塔頭の学問や文学を継承し、建仁寺に
れたもの、 日本で出版されたもの、写本でしか
おける最も重要な塔頭となった。
流通していないものを入手し、 または自分た
江戸時代には、京都の有力商人である大村
ちの手で写して、学問的な情報を蓄積してい
家が両足院のパトロンとなった。屋号を白木
くことが、次の世代に学問を伝えていくため
屋といい、江戸に呉服屋を開き、明治以降は
にも欠かせない営みだった。 しかし、書物の入
各地に百貨店を開いた。東京では現在のコレ
手にはお金が必要。ヒト・モノ・カネの三つが
ド日本橋の場所にあったことは、 よく知られて
揃ってこそ、塔頭は長く存続していくわけだ。
いる。 そういう援助も得て、 引き続き学問的な
両足院の場合、その前身の塔頭には、美
蓄積を続けていく。
濃の東氏と奈良の林氏から継続的に子弟が
江戸時代、幕府と正式な外交関係があった
入っている。東氏は地方の武士だが、和歌の
国はオランダと朝鮮の二カ国だが、そのうち
世界でも 「古今伝授」 という 『古今和歌集』の
の朝鮮とは対馬を通じて外交文書のやりとり
秘伝を継承する人物を出すほど、文化的教養
をしていた。 そこで幕府は、京都五山の禅僧の
を持つ家だった。林氏も、医学・書道・音楽・茶
なかから優れた人材を選んで対馬に派遣し、
の湯などに才能を発揮した人々が多い。彼ら
文書の作成に当たらせた。両足院からは4人
は、人的・経済的に禅宗寺院を支えることで、
の僧侶が計7回派遣されている。
室町時代の文化を維持発展させるのに貢献 したのだ。
16
Report 02
現在、両足院は季節ごとに拝観日を設け
学問と文化を継承する
て、建物や庭を公開。座禅やヨガ、あるいは 講演会・展覧会などの催しも開催している。
研究を目的に作られ、毎年定期的に両足院の
慶應義塾大学では、イギリスに本部がある
蔵書の調査を行っている。その際、歴代の住
FutureLearnという、インターネットを通じ
持たちが、常に蔵書を充実させる努力を惜し
て大学の授業を世界に公開する組織に参加
まなかったことを痛感するという。16世紀か
して、オリジナルの番組を制作しており、そこ
ら19世紀にかけて、 その時々の住持が入手し
で斯道文庫の教員が中心となって、 日本の古
たり写したりした書物が積み重なり、現在の
い書物や文化を紹介する番組が二つ作られ
両足院の蔵書が形成されている。蔵書の中に
た。その一つ 「書物から見た日本と中国の文
は、塔頭の中で漢詩の会が開かれ、住持と修
化交流」 では、 冒頭のイントロダクションを両
行僧たちが一緒に詠んだ作品が記録されて
足院で撮影したという。 ここでその一部、調査
いるものがある。また様々な書物から特定の
の様子の映像が紹介され、両足院の建物、保
テーマに関する記事を抜き書きした写本、 い
存されている古い書物など、禅宗寺院の塔頭
わばデータベースのような書物も伝わってい
の雰囲気が伝わってきた。冬などは、板敷きの
る。そういう書物の場合、最初に作った住持
廊下や縁側を歩くと、靴下をはいていても足
から次の住持へと書物が引き継がれていく過
が凍るように冷たく感じるという。調査をしな
程で内容の増補が行われる。中には、三代に
がら修行僧たちの昔の生活に思いを馳せるこ
わたって増補されているものもあり、筆跡から
ともあるそうだ。
PROJECT 01
堀川氏の所属する斯道文庫は古い書物の
書いた人を 推定するの
禅宗の学問や文化は、塔頭という生活空
もその書物
間において育まれ、経済的・人的に支援する
の成立年代
人々がいて、戦乱や社会の変化に耐えなが
や成立事情
ら、現在まで伝えられてきた。 まだ一般には知
を知る上で
られていない塔頭の文化は、学問の学び方と
重要なこと
いう点でも興味深い。 この文化を次世代に受
だ。
け継ぐ必要性を感じた。
17
Report 1
活動情報
Oct.17,20 慶應義塾三田キャンパス 建築プロムナード(慶應義塾大学) 慶應義塾大学三田キャンパスの演説館、 旧ノグチ・ルームを特別公開し、建築および野外彫刻の見学ガ イドツアーを開催。 参加者:のべ514名/場所:慶應義塾大学三田キャンパス 【建築ガイドツアー】 2018年10月17日 (水)13:30 –15:00 参加者:30名 2018年10月20日 (土)10:30 –12:00 参加者:25名 講師:森山緑(慶應義塾大学アート・センター 所員)
2
Oct.20 大学の建築フォーラム:アーカイヴとアウトリーチ(慶應義塾大学) 国内外の建築資料アーカイヴの活動や、大学における建築物の公開に関する取り組みを、 レクチャーと ケース・スタディを通じて共有し、議論するフォーラム。実例を示す関連企画として 「慶應義塾三田キャン パス建築プロムナード」 を同日に開催。 参加者:57名/場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎 517番教室/言語:日・英 レクチャー(14:00 -) 渡部葉子 (慶應義塾大学アート・センター 教授/キュレーター) 「学校と記憶ー慶應義塾の建築プロジェクトを中心に」 藤本貴子 (文化庁 国立近現代建築資料館 建築資料調査官) 「近現代建築アーカイブズの保存と活用―文化庁国立近現代建築資料館と海外の事例から」 ケース・スタディ(15:15 -) 明治学院大学 (桑折美智代/明治学院歴史資料館) 「歴史的建造物が語るキャンパス ~文化財三棟(インブリー館・記念館・チャペル) を中心に~」 学習院大学(冨田ゆり、丸山美季/学習院大学史料館) 「学習院大学目白キャンパスの歴史ある建築の保存と活用」
3
Nov.18 学問・文化プラットフォームとしての寺院:泉岳寺と禅の文化(泉岳寺) 曹洞宗の江戸三学寮に数えられ、禅の学問と文化のプラットフォームとしての役割を担ってきた泉岳寺 を舞台に、泉岳寺の歴史、禅寺の塔頭文化、禅に関わる造形美術を紹介する講演会を開催。 参加者:のべ63名/場所:泉岳寺 10:00 -11:30 ガイドツアー: 「泉岳寺の境内にみる歴史と文化」 講師:牟田賢明 (泉岳寺知客兼受処主事)/言語:日本語 13:00 -14:30 講演: 「禅宗寺院の学問と文化」 講師:堀川貴司 (慶應義塾大学附属研究所 斯道文庫 教授)、牟田賢明/言語:日・英
18
PHOTO REPORT
PROJECT 01 19
コミュニティをつなぐ・ 情報を伝える
(連携と発信)
02 PROJECT
20
地域の多様な文化資源を顕在化させ、 さま
ングの中心に据えた。本年度はスペイン大使
ざまなコミュニティにその情報を伝えていくた
館、 アルゼンチン大使館、 オランダ大使館の担
めに、本年度は、 とくに国際コミュニティと地
当者にヒアリングを行っている。
域文化のつなぎかた、 ウェブサイトを通じた
ウェブサイトプロトタイプ版の構築にも取
情報発信の方法の検討と、地域の文化機関と
り組んだ。まず、ワーキンググループにおい
の連携強化に取り組んだ。
て、プロジェクトがウェブサイトを通じて何
国際コミュニティと地域文化の連結につい
を・どのように発信していくのか、先行事例を
ては、まず慶應義塾大学の留学生を出発点
参照しながら検討した。ウェブサイトのユー
に据えて、大学における留学生の動向調査
ザー像を 「地域の文化について知り、得た知
を行った。留学生によるインスタグラム取材・
識をもとにみずから語ろうとする人」 と設定
編集チーム 「慶應インスタクルー」 のコーディ
し、 レファレンス機能に重きを置いたプロトタ
ネータや、留学生向けプログラムの担当者に、
イプを設 計。SNSアカウント (Instagram,
留学生を巻き込んだ企画を展開する際に注
facebook, twitter)の試験運用も開始した
意している点や留学生の傾向についてヒアリ ングした。 また、泉岳寺講演会 「泉岳寺と禅の文化」
(アカウント名:@culnarra) 。 また、地域内のつながりを拡大するため、港 区で活動するチームと連携の可能性について ディスカッションする機会を持った。国際文化
した留学生モニターによる座談会を開催。言
会館とは建築領域での共同イベント開催、六
語サポートへの感想や改善点を共有すると
本木アートナイトとは人材育成プログラムや
ともに、留学生や在住者といった国際的なコ
コンテンツ発信における連携、東京海洋大学
ミュニティから参加を得るための方法につい
マリンサイエンスミュージアムとは海や海洋
て議論した。
文化をテーマとした領域横断的なイベントの
非常に多くの大使館が立地するという港区
PROJECT 02
終了後、講演会に参加し言語サポートを利用
企画について協議した。
の特性を活かして、大使館へのヒアリングも 実施。 当初は、在住者コミュニティへの文化イ ベント等の情報提供を主な話題と考えていた が、事前調査を進める中で、地域の日本文化 と大使館が文化事業などを通じてもたらす多 様な文化とを接続することが文化資源の国 際発信に繋がるという認識を得て、文化分野 における大使館の活動と地域の連携をヒアリ
21
Report 01 「ウェブサイトによる国際発信」 ワーキング・グループ 日時: 2019年9月25日 場所: THE BASE 麹町 出席者:
AHACRAFT株式会社/久保田健瑛(司会) AHACRAFT株式会社 アーティスト/早川貴泰 株式会社電通 第4CRプランニング局/大江智之 合同会社AMANE /阿児雄之 慶應義塾大学アート・センター/本間友
レポート: 三浦真紀
この日のお題は 「文化資源の国際発信を可
知ったことをちょっとした自慢も含めて広めた
能にする、 しかもサスティナブルに運用できる
い人も恥をかかない。参照されやすい」 と、早
ウェブサイトを作りたい」。時間は90分。 司会
速、大学のウェブサイトである意味が明確に
は久保田。
なった。同時に、 出典の源泉であるコンテンツ
まずアイディアをたくさん出すワークショッ
ホルダーがいて、 インフルエンサーもいるが、
プから。 「今、 あなたの心配事」 を3分間、書け
その間をつなぐ編集が抜けているという、作
るだけ多く書いて発表する。人の悩み事を聞
り手側の問題提起も。「重い情報や長い論文
くのは興味深く、知らない相手の仕事や日々
を一気にネットに上げても誰も読まない。浅
の暮らし、関心事がわかり距離も縮む。空気
すぎてもがっかりする。ある程度編集された
がほぐれたところで、本題へ。ウェブサイトの
ものを出して、 そこから奥深く入ってもらう必
最終目標は訪問者が増えて、専門家向けのラ
要がある」 と、 ウェブサイトに編集者が必要だ
イブラリーやアーカイブまで辿り着く動線を
という意見が出された。
作ることだ。 そこで、観光客を増やす仕事につ いての例が出た。 まず現地でリサーチするが、
22
その際、 どこで調べたら深い情報が得られる
わかりやすく論文をデフォルメする 利点と弊害
のか、 パッとわかると嬉しいとのこと。 ネット上
話題は、一般が多用するまとめサイトに。 サ
には 「NAVERまとめ」 くらいしかないが、 出典
イトの多くは出典がないため信用性はない。
が不明。「大学が調べているという後ろ盾、
一方で、 よく利用されるニュースサイトでは、
出典が重要」 「後ろ盾のある情報なら、 自分が
冒頭に3行ほど簡潔な結論があり、 より知りた
感染症を起こして、SNSに書き込み、落合陽
い。 「論文の主旨が噛み砕かれた3行のツイー
一がバーっと広まる」研究を一般にわかりや
トみたいな形で置いてあると、参照しやすい
すくデフォルメすると、人気が出て世に広まり
のではないか」世の中に出てくる情報がどんど
良い効果がある反面、研究が雑になるという
ん短くなる今、 自分の研究を短歌や俳句のよ
弊害も。「自分の研究を大掴みに、夢をまぶ
うにまとめるのは現実的なアイディアだと全
しながらデフォルメを繰り返すと、研究者は細
員が納得。一方で、学術書や論文が一般から
かい仕事に戻れなくなる」 と研究の質を懸念
は遠い存在だという話も。「学術書は真面目
する意見が出た。ウェブサイトでも、 コンテン
で権威的、一部の特権階級しか読み解けない
ツホルダーが自分の気持ちを乗せすぎると、
と認識されている。値段、装丁、書店、出版社
本当に何を伝えたいのかがわからなくなる。
など読みたい人を排除する雰囲気もある。一
“枝葉末節に神が宿る”と言われるように、枝
般の人もアカデミック怖いと構えがち」 「論文
葉末節の面白さとのバランス感覚が必要にな
のテイを取っていると読みづらい。NAVER
る。その点、第三者である編集者が入るのは
まとめの方が読みやすい、 となってしまう」そ
理想だろうという結論に落ち着いた。
PROJECT 02
い人は下まで読むスタイルで、食いつきやす
こで一般に人気沸騰の研究者・落合陽一が 話題にのぼった。講演会では難しい話を一般 がわかりやすいように噛み砕いて喋り、内容
編集者、ユーザー、サイトの切り口を探る
は一貫して未来の話。落合の講演を聞いた人
ここで、具体的に編集者にはどのような人
は、 ワクワクして会社に帰ると、 自分が一歩進
が理想か、 どのように人材を募るかに話題が
んだ気持ちになれるという。
移った。 この領域に愛情のあるかつて研究者
「ちょっと調べたことのある人なら既知の事実
の卵だった人を探す、 クラウドソーシング的な
でも、一般ユーザーは触れたことがないので、
仕組みを用意してコンテンツホルダーが投稿
こんなに日本の未来は進んでいる!と一気に
する内容をまとめる仕事として腕の良い編集
23
Report 01
者を募る、など。 「逆に、編集者がアカデミッ
イト全体の切り口に論点が移った。コンテン
クな情報をキュレーションして発表するチャ
ツホルダーの物語を一方的に提供するだけ
ンスにもなる」 と、才能を駆使できる魅力的な
では広がりが望めない。ユーザーからの反応
仕事になるとの見方も。 つぎに、 コンテンツを
なしに情報を出していくだけは、 コンテンツホ
利用するユーザーをどう絞るのかに議論は発
ルダーは疲れてしまう。本当の面白さは双方
展し、具体的なユーザーになりうる人を2分
向でやり取りをすること。「コンテンツホル
間でブレインストーミングした。
ダーが知らない、ユーザーが知っていること に関するフィードバックがくると、 コンテンツ
【ユーザー案】日本への旅行者、留学生、作
ホルダーも活動に対してモチベーションが上
家、 コンテンツホルダー、雑誌、テレビ、広告、
がり、 サスティナビリティにもつながるのでは
旅行代理店、教科書、勉強したいグループ、
ないか」 と、双方向の重要性が浮かび上がっ
研究者、漫画家、 アーティスト、国際協力隊、
た。「我々のコンテンツを受け取った人がそ
youtuber、芸能人、映画監督、ゲームプラン
れを再生産に回しているのか、見えると良い」
ナー、脚本家、自治会、公務員、自由研究、大
の発言に、再生産はいいキーワードだと同意
学生、 メーカーのコンセプター、歴史オタク、
する声が。二次加工して文化資源に還元する
アートコレクター、旅行本、徳川家マニア、 ドラ
ケースとして、実際にCGデータを無料公開し
マ撮影、 教師、親
て世界中の人に使わせる、大英博物館が収蔵 品の3Dモデルのデータを作り、誰でもダウン
多種多様なユーザーが挙がったところで、サ
ロード可能にすることで子供が大貴族の腕輪 を3Dプリンターで作って遊んでいるなどの実 例があがった。 …と、更にウェブサイトの可能性が広がっ たところで90分が終了。 話し合いが進むにつれユニークなアイディ アが多数出て、最初はおぼろげな輪郭のみ だったウェブサイトが結構な具体性を増した ように思える。 この先、実現に向けての歩みが 楽しみだ。
24
Report 01
PROJECT 02
ウェブサイトデザインスタディ
25
Report 02 留学生モニター座談会: アカデミック・イベントの多言語対応 レポート: 三浦真紀
泉岳寺講演会 「泉岳寺と禅の文化」終了
デオに直接字幕が入っていると良い、字幕が
後、10名の留学生が今回の講演について語
文章の途中で切れてしまうと追いづらい、講
り合った。
演のスライド自体に英語のキーワードが入っ
まず、輪になって自己紹介を兼ねたゲーム
ている方がよい、講演の英訳全文は事前にも
から。前に紹介された人全員の名前を言って
らえる方がよい、字幕は逐語訳である必要は
から、自分の名前を言う。後にいけばいくほ
なく、短いサマリーの方が追いやすい、専門用
ど、覚えなければいけない名前が増えるので
語の定義は必要など。
大変!しかし、 さすが優秀な留学生たち、最後
質疑応答での字幕の追いやすさについて
の人までスラスラと名前を言えて、聞いている
は、字幕の時差があるので実際のディスカッ
人も繰り返し聞くことで名前を覚える。 このエ
ションから取り残された印象を受けた、質疑
クササイズですっかり場の空気が和んだ。
応答の時は簡単なまとめを入れつつ同時通
次に学生たちに今回の講演会に関する質
訳が入ると参加しやすいと、時差の問題で疎
問をいくつか投げかけた。 すると、率直かつ積
外感を感じた学生が多かったようだ。
極的、有意義な意見がビシバシ飛び交い、聞
講演の内容のわかりやすさを問うと、配布
いているほうは感心するばかり。
のプリント、講演、発表者のジェスチャー、 スラ イド、字幕など、タイミングが調和・統合して
「わかりやすい」言語サポートとは?
26
いるとより追いやすくなるとのこと。 まだまだ、 言語環境については改善の余地が見られる
まず、字幕の追いやすさについて。 まあまあ
気がした。
から追いにくいと言う意見が多かった。その
参加者はやはり日本の文化や禅、宗教に
理由として、字幕に時差があること (次へ移る
興味を持っている学生が多く、 こういった日
のが速い時と、かなり遅れる時がある)、 スラ
本の文化について知るチャンスは大歓迎のよ
イドと字幕のスクリーンが離れているので映
う。講演会で最も楽しめたことを聞くと、歴史
像が流れる時は画面を両方追うのが大変、 ビ
的な面と現代とのつながりがわかったこと、
寺院という場でリアルな雰囲気を味わいなが らお坊さんや専門家から寺院に関することを
る、 もっと映像資料や実物を交えた講演だと
聞くことができた、他の聴衆と講演に参加す
なおよい、建築と儀礼の関連なども知りたい、
ることでコミュニティーに参加している実感
定期的にイベントがシリーズ化されていると
があった、など。合間の時間には庭や赤穂義
友人にも紹介しやすい、 など。
士のお墓を散策し、空気感に浸ることで、講演
より広く情報を流した方がよいと意見する
の内容がリアルに感じられる人も多かったよ
学生も多く、美術関連の授業やサークルで
うだ。言語サポートがあることで、 こういった場
宣伝する、学生寮のエレベーター付近でポス
に参加しやすく楽しめると言う意見もあった。
ターを目にしたがポスターやニュースレター で文化的なイベントとして紹介する、 など普段
多様な人々に参加してもらうためには? —留学生の提案
の学生生活でのアピール方法を具体的な提 案が目を引いた。 またSNSでシェアする、インスタグラムで
てもらうためにはどうしたら良いのか。 この質
#eventsintokyo #internationalstudents
問には、学生たちが自らの体験を通して様々
などのハッシュタグを付けてイメージとともに
な意見が出され、 活発な議論が交わされた。
情報拡散するとよい、Facebookのイベント
普及のためのアイディアを募ると、大学の
ページやTwitterも有効と、 ネットを使った普
授業から寺院での行事への橋渡しがあるとよ
及を勧める学生も多かった。なんやかんや口
い、専門家の知識をもとにより深く内容を理
コミがいちばん広まると言う学生も。 「友だ
解することのできる貴重な機会だとアピール
ちを連れてきて!」 と呼びかけるという、率直
する、単に文化について学ぶだけでなく観光
な方法もあった。
ガイドに書かれていない学術的な知識も得ら
笑ったのは、授業で追加の単位がもらえる
れることに価値がある、 など。講演内容はアカ
ようにするという、学生ならではのちゃっかり
デミックに感じたが、 日本文化に対する知識
した意見。それが実現すれば、確かに学生た
も好奇心を持ちながら、 とても真摯に勉強し
ちはこぞって参加するに違いない。おみやげ
ている様が伺えて感心してしまった。
グッズを配るという、 これまた可愛らしいアイ
他にも、寺院でのイベントに招待することで
ディアに笑いが湧いた。
留学生をはじめ海外からの訪問者がコミュニ
今や、 日本文化への興味と関心、思い入れ
ティーの一部であると感じることができる、実
は海外の人のほうが深いのかもしれない…。
際の場で学ぶことができるとより興味が深ま
そんなことをリアルに感じた座談会だった。
PROJECT 02
では、 この講演会により多くの人々が参加し
27
コ ラ ム
大学発教育プログラムにおける アクセシビリティ向上に 関する取り組み
慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ 統合研究センター 研究員 宮北 剛己
2018年度、都市のカルチュラル・ナラティヴプロジェクトが実施した以下の2つのイ ベントにおいて、 アクセシビリティプログラムを試行した。[図1]
「大学の建築フォーラム:アーカイヴとアウトリーチ」 [*1] (2018年10月20日、 慶應義塾大学三田キャンパス)
2)レクチャー 「学問・文化プラットフォームとしての寺院: [*2] (2018年11月18日、泉岳寺) 泉岳寺と禅の文化」
1) では、 コミュニケーションアプリ 「UDトーク[*3]」 を用いて、 予め翻訳 (英語) された原稿のリアルタイム字幕表示ならびに 音声認識・自動翻訳を活用した言語サポートをおこなった。 2) では、独自に開発したソフトウェアを活用して、予め翻訳 (英語) された原稿のリアルタイム字幕表示ならびにスライ ド表示による逐次翻訳形式での質疑応答サポートをおこなった。 本テキストでは、 アクセシビリティプログラムの狙い、使用した技術、留学生や実施 者からのフィードバック、今後の展開の可能性についてレポートする。 狙い それぞれの多様性を認め合い、 あらゆる人々が参画しえるインクルーシブな社会を [*4] 目指す 「社会的包摂 (social inclusion) 」 の重要性は語られて久しい。 日本にお
いても、2020年のオリンピック・パラリンピック開催を契機に、 インクルーシブな社会 を実現するための概念として 「アクセシビリティ[*5]」 が注目されている。 アクセシビリティと一口に言えども 「現在(…)法律、設計基準、実務は世界中ばら ばら[*6]」 であり、 また、定める範囲もパリアフリー環境や情報通信方式・デザイン、
28
[ 図1] ( 上 )「 大 学の建 築フォーラム」( 下 )「 泉 岳 寺と 禅の文 化 」
1)レクチャー・トークセッション
支援サービスなど多岐に及ぶが、 ここでは高等教育機関(大学)発のアカデミック イベントをフィールドに、受講生/学習者の多様なニーズを満たすための教育アプ ローチとしてアクセシビリティプログラムを実践・導入した。 前述した社会的包摂に伴い、近年は 高等教育・学術研究においても地域 との協働[*7]やグローバル化[*8]が進 んでおり、慶應義塾大学をはじめ日本 の大学の多くは、社会に開かれた大 学として、多様な価値観や社会・文化 的背景を持った人々にも広く門戸を開 放している。 しかし、 こうした状況にあり ながら、 多様性への理解や対応、 教育 面でのサポートが率先して行われてい る事例はまだ少ない[*9,10]。 そこで本 プログラムでは、障がいを抱えている 人々や日本語を解さない留学生等で PROJECT 02
も大学提供のアカデミックイベントに参 加・受講ができることをサブテーマに 設定し、ICTを活用した言語サポート を基軸に、 アクセシブルな学習環境を 構築し、 その有用性を検証した。 使用した技術 1) 「大学の建築フォーラム」 では、100を超える教育機関で導入されているコミュ ニケーションアプリ 「UDトーク」 を用いることで、発話者のプレゼンテーション内 容に合わせて左手1スクリーンに適宜リアルタイムで字幕画面(日本語・英語を併 記) を表示した[*11,12]。本稿では技術的な詳細は省略するが、通信ネットワークに
認識は、2人体制で編集) した[*13]。 また、 イベント後半の c) 日本語発話者同士の トークセッションの間は、UDトークを使用せずに、 ドキュメント作成・共有アプリ のGoogleドキュメント[*14]を使用し、3人体制で逐次翻訳を実施、 トーク内容を要
COLUMN
日本語発話者による司会の最中には、音声認識機能を活用して出力・表示(誤
コ ラ ム
は学内のWi-Fi環境を利用し、主な使用場面として、a) 日本語発話者によるレク チャーの最中は、予め翻訳(英語) された内容をPCから1行ずつ出力・表示し、b)
29
約した内容(英語のみ) を表示した。 2) 「泉岳寺と禅の文化」では、1) とは異なり、 イベントが学外かつ常設のWi-Fi
コ ラ ム
環境がない会場での実施となったことから、 チーム内で独自に開発したソフトウェ ア[*15]を活用して、言語サポートを行った。会場内には臨時で2スクリーンを設置 し、右手1スクリーンに適宜リアルタイムで字幕画面 (英語文のみ) を表示した[*16]。 通信ネットワークはモバイルWi-Fiルーターを利用し、主な使用場面として、d) 日 本語発話者によるレクチャーの最中は、予め翻訳(英語) された内容をPCからひ とまとまりの発言ごとに (発言・速度に合 わせてインターバルをあけて)出力・表示 し、e)質 疑 応 答 の 際には、1)と同じく Googleドキュメントも併用し、3人体制で 逐次翻訳を実施、質疑応答を要約した内 容(英語のみ) をスクリーンに表示した。 フィードバックセッションの内容 本プログラムの有用性を検証するために、 2イベントの終了後、2018年12月19日に は関係者全員[*17]が集まり意見を交換するフィードバックセッションを行なった。 当日は、各イベントの参加者・受講生のアンケートやヒアリング結果を踏まえて反 省・修正点を洗い出し、今後の展開について方向性が取りまとめられた。以下、 そ の要旨を記す。
●多様な選択肢の提供と集合知の創発 今回のイベントに参加した一般聴講生・留学生の日本語理解力は様々であり、 各々のレベル (日本語をどこまで解するか)や要求(何をどこまで期待しているの か) は様々であった。今回は、 どちらのイベントにおいてもスライドを活用した 「リア ルタイムの字幕表示」一択となったが、今後は参加者の趣向や求めに応じて、サ ポート内容を適応させていく必要がある。 例えば、 日本語を学びたい人々と日本語 を学ぶ必要がないと思う人々が混在している場合、 どのようにサポートをするのが 良いのか。 それぞれの欲求 (ニーズ) に対するより深い理解と多様な選択肢を提供 していくことが大切な要素となる。 またその一方、本プログラムを日本語メインのイベントに対して行う限り、 日本語を
30
解する人々にとってはアクセシビリティに関する案内や英語字幕は不要な情報とな る。時にはスライドが2つもあると混乱する、 といった苦情に繋がってしまうことから 、 そうした人々に対する施策も考慮しなければならない。実社会ではいまだイ
[*18]
ンクルーシブやアクセシビリティといった考え・概念が浸透していないなかで、 どの ように多数と少数を交えた取り組みを展開していくことができるか。必ずしも少数 の人々に寄せるのではなく、 どう集合知を生み出していけるかが重要となる。
●理論と実践を通じた全学的なコミュニティの構築 今回の取り組みでは、字幕や音声(聞き取り)入力を通じた言語サポートが基軸 となったが、 そもそも通訳という取り組みと翻訳という取り組みでは、方法論が全 く異なる。 また、 どちらの場合であっても、言語学等の理論に関わる専門知識が大 きく関わり、 さらには担い手の理解力や表現力など、複雑な要素が絡み合う。特に 今回のようなアカデミックイベントでは、学術的な観点から英語での呼称が定まっ ていない場合も多く、一義的に訳語が決まる語彙・表現と様々な解釈を許容する 語彙・表現の活用等に工夫や経験が求められる。 これらは絶対的な規範のない取り組みとなり、実地・経験から学んでいくことも多 PROJECT 02
いことから、今後は (広義の) ファシリテーター育成のために、理論の習得と現場 での実践の両輪を通じて、質を確保していくことが不可欠となる。 そのためにも、 今回は大学院や研究機関が中心となってプログラムが運営されたが、今後は大 学の学部から大学院、研究機関に至るまでを包含した全学的な取り組み/コ ミュニティとして、本プログラムを推進していくことが望ましい[*19]。
●大学発プログラムとしての意義と在り方 大学という高等教育機関が本プログラムを提供することの意義のひとつに、研 究・教育データの活用(の促進)がある。昨今、学術雑誌を中心としたオープン データ・アクセス[*20]やオープンサイエンス[*21]が推進され、大学がもつ知の共有
から学ぶべき手法・方法論はあるが、大学が「主体」 となり、 どのようにアクセシビリ ティを提供できるのか—広く公共に寄与する、 というオープンなビジョンを源泉に、 利用可能性を促進していく必要がある。
COLUMN
化、 ひいてはコミュニティの形成には繋がることは難しい。勿論、 プロフェッショナル
コ ラ ム
や研究成果の幅広い活用が新たな潮流となっている。他方、 プロフェッショナルと して専門的な訓練を受けた企業・団体の場合は、培ったノウハウの蓄積や共有
31
今後の展開の可能性(技術や運営方法)
コ ラ ム
人口の約8%が外国人住民となり、 また、 その国籍は130か国にも及ぶ港区の国 際性[*22]。 その国際性をアクセシビリティの観点からどのように受け入れ、支援し、 そして広めていくことができるか。本稿で紹介したアクセシビリティプログラム全体と しては、今回のように字幕を主とした言語サポートだけでなく、音声・スライド・ハン ドアウト・クラウド翻訳・多人数同時翻訳など、様々なフォーマット/アプローチを採 用して実証実験をおこない、 「プログラムのモデル化」 を推進していく予定である。 純粋な意味合いでの通訳ではなく、翻訳でもない、新しいかたちの教育アプロー チとして本プログラムをどのようにモデル化できるのか、実験の実施、 データの収集 や解析を通じて、要件を明らかにしていきたい。 また昨今では、人工知能 (AI)やディープラーニング (深層学習) を取り入れた翻 訳サービス[*23]の活用も進んでいる中で、技術だけでなく制度 (運営方法)の設 計も重要な要素となるだろう。 広義の 「信頼性 (reliability) 」 と信頼に足る 「クオリティ (quality) 」 、 そして活動を継続/持続していくための 「持続可能性 (sustainability) 」 をどのように構築していくべきか、技術だけでは補えない部分についても、前述し たような、全学的な取り組みの実現を図りながら推進していきたい。
COLUMN
32
コ ラ ム
【註】 1 http://www.art-c.keio.ac.jp/news-events/event-archive/architecture-forum-2018/ 2 http:// www.art-c.keio.ac.jp/news-events/event-archive/cunary-sengakuji/ 3 音声認識・多言語翻訳機能 付コミュニケーションアプリ: UDトーク http://udtalk.jp/ 4 World Bank (2013), “Inclusion Matters: The Foundation for Shared Prosperity” 5 アクセシビリティガイド:オリンピック・パラリンピック 大 会のインクルーシブなアプローチ (2013.6.)http://www.jsad.or.jp/paralympic/what/pdf/ipc_ accessibility_guide_ja2.pdf 6 Ibid., 14. 7 文部科学省ホームページ (2012) 「開かれた大学づくり」 http://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/daigaku/index.htm 8 内閣府 (2018) 「平成30年版 子供・ 若者白書(全体版):第1節 グローバル社会で活躍する人材の育成、第6章 創造的な未来を切り拓く子供・ 若者の応援(第1節)」https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/s6_1.html 9 堀 内喜代美 (2015) 「 募集要項から見る日本留学のアクセシビリティ―英語学位プログラム拡大と留学生受 入れの関係性をめぐる考察―」 (留学生教育 第20号)10 井上諭一 (2016.3) 「障害者差別解消法と大学 に求められる対応」 (大学時報 第367号)11 図1を参照。12 スクリーンへの表示以外に加え、 オプション としてUDトーク (アプリ) をインストールしてQRコードを読み取ることで、各参加者のスマートフォンでも字幕 (テキスト) を閲覧できるようにした。13 使用場面 a) および b)ではそれぞれ実験的に、 自動翻訳された日 /英テキストを同時に表示した。14 https://www.google.com/intl/ja_jp/docs/about/ 15 予め字 幕ファイル (csv形式) を登録しておくと、 ブラウザ環境で (CGIプログラムを実行することで)字幕の出力・表示 (追記修正なども可) が可能なソフトウェア。16 図1参照。17 慶應義塾大学アート・センター:本間友 (所 員) 、市川佳世子 (プロジェクト・マネージャー) 、慶應義塾大学メディアデザイン研究科:大川恵子 (教授) 、 有馬俊(後期博士課程)、慶應義塾大学出版会:安井元規、DMC研究センター:宮北剛己、以上6名 18 こうした提言は言語サポートを利用した参加者からも多く寄せられており、視線の移動 (ビデオと字幕) 、字 幕との距離、 ハンドアウトと字幕と講演者のバランス、字幕を追うことと講演を聞くことのバランスなど、UX (ユーザエクスペリエンス)の観点から展開方法を再検討する必要がある。19 慶應義塾では2018年4月 に 「協生環境推進室」 が設置され、 ワーク・ライフ・バランス、 バリアフリー、 ダイバーシティに関する事業推進 を全塾的な取り組みとして推進していくとしている。20 Open Knowledge Japan http://okfn.jp/tag/ open-definition/ 21 内閣府 第5期科学技術基本計画 (2016.1.) http://www8.cao.go.jp/cstp/ kihonkeikaku/5honbun.pdf 22 港区ホームページ 「国際化推進施策の取組み紹介 」https://www. city.minato.tokyo.jp/kokusaika/kakushu/index.html 23 日本 経 済 新 聞 朝 刊 (2018.6.24.) 「AIが 打ち破る言葉の壁―分野の枠超え、 同時通訳も視野」
Report
活動情報
1
Aug.3,22 留学生の文化活動参加に関するヒアリング(慶應義塾大学)
2
Sep.25 ウェブサイトワーキンググループ 第1回(THE BASE 麹町)
3
4
6
プロジェクトがウェブサイトを通じて何を・どのように発信していくのか、先行事例を参照しながら検討す るため、 デザイン思考を取り入れたディスカッションを実施。
Nov.18 留学生座談会(フィードバックセッション) (泉岳寺) 泉岳寺講演会 「泉岳寺と禅の文化」 で言語サポートを利用した留学生による座談会を開催。言語サポー トへの感想、改善点を共有するとともに、国際的なコミュニティの参加を得るための方法についてディス カッションを実施。
Nov.22 連携にむけた打ち合わせ:国際文化会館(国際文化会館) 前川國男、坂倉準三、吉村順三が共同設計したことで知られる国際文化会館の担当者と、主として建築 の領域における連携に向けた打合せを実施。
Dec.5 / 2019 Jan.16 連携に向けた打ち合わせ:六本木アートナイト(慶應義塾大学) 2019年で10回目の開催を迎える六本木アートナイトと、人材育成ワークショップやコンテンツ発信にお ける連携の実現に向けたミーティングを実施。
2019 Jan.10 連携にむけた打ち合わせ: 東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム(東京海洋大学)
PROJECT 02
5
留学生によるインスタグラム取材・編集チーム 「慶應インスタクルー」 をコーディネートする、趙俊顕(慶應 義塾大学 入学センター) と廣田純子(慶應義塾大学 学生部 国際交流支援グループ) に、大学における 留学生の活動や留学生向け企画の現状についてヒアリング。
海や海洋文化をテーマとした領域横断的なコラボレーションの実現に向けて、東京海洋大学マリンサイ エンスミュージアムとミーティング。
7
Jan.28 ウェブサイトワーキンググループ 第2回(THE BASE 麹町) ウェブサイトで発信されたコンテンツの適切な再利用を促すための仕組みについて検討。
8
Mar.11 スペイン大使館ヒアリング(電話ヒアリング)
9
Mar.15 アルゼンチン共和国大使館ヒアリング(アルゼンチン共和国大使館)
10
文化交流に関する大使館における取組について、 スペイン大使館文化部茶谷泉氏に電話でのヒアリング。
文化交流に関する大使館における取組、大使館が地域の文化機関に期待すること、連携の方法につい て、 アルゼンチン共和国大使館文化部柏倉恵美子氏にヒアリング。
Mar.26 オランダ大使館ヒアリング(オランダ大使館) 文化交流に関する大使館における取組、大使館が地域の文化機関に期待すること、連携の方法につい て、 オランダ大使館文化担当バス・ヴァルクス氏にヒアリング。
33
文化を可視化する
(コンテンツ制作)
03 PROJECT
34
既存の学術成果を活用しながら地域の文
人や家族、留学生であれば母国の人々に伝え
化資源を多様なコミュニティに伝えるために
ることを意識した執筆を依頼した。人材育成
は、 どのようなコンテンツを準備するべきか。
プログラムとの連携はサスティナブルなコン
本年度のプロジェクトは、 まずテキストと映像
テンツ制作を実現するためにも重要であり、
の2種を想定し、 それぞれに必要なコンテンツ
今後も継続して取り組みたい。
を検討するところからスタートした。
地域文化を紹介する映像については、 当初 はモバイルでの閲覧を想定し5分という短い
討する中で、 すでに高い関心を集めている文
尺での制作を想定した。 しかしその後の調査
化資源(たとえば増上寺の徳川家霊廟など)
によって、 モバイルでの動画視聴のボリューム
にも意外に英文解説が用意されていない例
ゾーンが「10 〜30 分」 であり( NT Tドコモ モバイル
があることが明らかになった。 また、展覧会や
社会研究所「動画視聴の実態調査 N o. 3[2018 - 04 - 16] 」 ) 、
講演会などのイベントで特集的に取り上げら
5分ではCM的に捉えられ文化資源の物語
れたコンテンツが多言語化される一方で、文
が伝わらない可能性があることが分かった。
化資源や関連する活動の基本的な情報の翻
そのため、文化機関に取材した10 〜15分程
訳が進まない例も確認された。そのため、本
度のドキュメンタリー映像として企画を改め
年度は多言語発信の必要性の高いテキスト
て設定した。 プロジェクトメンバーの保有する
と基礎情報の翻訳に注力した。
コンテンツからスタートして、現代美術、和菓
若年層への普及を視野にいれ、人材育成
子、禅という大きなテーマに繋がってゆく構
プログラムに参加した学生とともに新たなテ
成で、若手の映像作家に監督を依頼した。 こ
キストを執筆することも試みた。作成された
の試みを通じてコンテンツクリエーターの間
テキストはブログおよびInstagram上で公
に地域の文化資源に対する関心が広まること
開している。 コンテンツ制作にあたっては、顧
も期待している。
客価値連鎖分析(Customer Value Chain
また、 イベントシリーズでの成果を広く活用
Analysis) を通じて、文化情報が社会の中で
するため、 「泉岳寺と禅の文化」 での堀川貴司
どのように伝達されていくかを検討したが、
氏による講演をバイリンガルコンテンツ化し
人から人へと伝わってゆくメディア (いわゆる
公開している。
PROJECT 03
テキストについてプロジェクトメンバーと検
「口コミ」 )の強さを改めて認識した。これは ウェブサイトのワーキンググループでの検討 結果とも一致する。そのため学生との共同執 筆にあたっては、公共性を保ちながらも、漠然 と 「一般の人」に伝えるのではなく、 自分の知
35
Report ドキュメンタリー 映像プロジェクト 地域文化資源を紹介する短編ドキュメンタ リーは3作品だ。現代美術やそのアーカイヴ を巡る活動を、40年間竹芝で作家や人々と 関わり続けてきたギャラリーの移転に仮託し て紹介した藤川史人の作品。和菓子の歴史や 文化に関する膨大な資料を蓄積するアーカ イヴを、 そこに働く人々の声を介して紹介した 阿部理沙の作品。そして、赤穂義士の墓があ ることで知られる泉岳寺の、文化財を継承し 地域に開かれた寺院としての側面にフォーカ スした大川景子の作品だ。若手の映像作家た ちのコーディネイトは、 自身も映像作家である 新部貴弘が担当した。
●藤川史人 武 蔵 野 美 術 大 学 映 像 学 科 卒。映 像 作 家。気に入った土 地に一定期間暮らしそこで生活する人々と映画制作を行 う。監督作に、多良間島の伝統的な結婚式を取り上げた 「Caminando Muchas Lunas」 (10) 、広 島 県 三 次 市 で 地域住民と交流しながら完成させた 「いさなとり」 (15)、 アン デスで暮らす人々の記録 「Supa Layme」 (19) 、 ほか過日来 (12)、彼の地(15) など。 ●阿部理沙 映画監督。日本大学芸術学部映画学科監督コースを卒業 後、映画・テレビ・CMなど幅広い映像演出を手掛けている。 近年の監督作品として、短篇映画 「山村てれび氏」 (15)は、 ぴあフィルムフェスティバル入選、Fresh Wave 国際短編 映画祭(香港)などで上映。2017年秋よりTOKYO MXに て放送されたドラマ「C lub SLA Z Y E xt ra i nvi t ation ~ Malachite」 の監督をつとめた。http://www.abefilm.info
展 示 用 映 像を 英 語 化
●大川景子 石川県生まれ。映像作家。監督作にインドネシアから来た技 能実習生の日常を描いた 『高浪アパート』 (06)、米国生まれ の日本文学作家、 リービ英雄のドキュメンタリー映画 「異境 の中の故郷」 (13)。スタッフとして参加した作品に諏訪敦彦 監督『ユキとニナ』 (09) 、筒井武文監督 『自由なファンシィ』 (14)、中島良監督『兄友』 (18) 、杉田協士監督 『ひかりの歌』 (18)等。昨年より立教大学にて非常勤講師。 ●新部貴弘 鎌倉材木座海岸にて漁業を営む二人の女性の二年半を描い た 「桃と小桃とこもも丸」 を大学在学時に監督。第16回ゆふ いん文化記録映画祭松川賞ほか受賞多数。 メイキングスタッ フとして参加した作品に西川美和監督「永い言い訳」 (16) な どがある。昨年から女子美術大学非常勤講師を勤める。
【 翻 訳テキスト一覧】(カッコ内は担当したプロジェクトメンバー) 赤穂義士人物伝(泉岳寺) 、和菓子の資料とアーカイヴ紹介(虎屋文庫)、日 本 文 化アーカイヴプロジェクトの活 動 紹 介 (Japan Cultural Research Institute)、徳川将軍家霊廟解説(増上寺)、生け花の概要(草月会)、暗黒舞踏 に関するエッセイ (慶應義塾大学アート・センター) 、 ビデオアートを巡る活動に ついてのインタビュー記事 (慶應義塾大学アート・センター)、食文化に関する 石毛直道のエッセイ (味の素食の文化センター)
36
Report
活動情報
1
2018 August 地域文化紹介映像: 企画の検討とテーマ設定 映像の企画を改めて検討。文化機関に取材した短編ドキュ メンタリー映像を製作することとし、文化機関への取材可 能性の打診と、 映像のテーマの調整を行った。
2
Sep.21 文化資源ドキュメンタリー映像: キックオフミーティング 短編ドキュメンタリー映像を担当する監督が一同に会する ミーティングを開催。参加者:大川景子、阿部理沙、藤川史 人、新部貴弘。
3
Oct. 3,22 文化資源紹介テキスト作成・翻訳検討
Oct.2
4
PROJECT 03
地域の文化資源を紹介するためのコンテンツについて、 プ ロジェクトメンバーと検討。既存のテキストの中から多言語 発信の必要性の高いテキストを選定。新規作成のテキスト は、若年層への普及を図るため、一部を学生に執筆させる アイデアが出た。
美術ギャラリー/アーカイヴに関する 短編ドキュメンタリー 取材開始 Oct.11
5
和菓子関連資料に関する短編ドキュメンタリー 取材開始 Oct.12
6
禅寺の文化に関する短編ドキュメンタリー 取材開始 2019 March
ブログ
7
短編ドキュメンタリー、 文化資源紹介テキスト翻訳完成
37
カルチュラル・ コミュニケーターを 育てる(人材育成)
04 PROJECT
38
地域の文化を多様なコミュニティに伝える
/ CCWS) 」 と題した。 プログラムの実践につ
ためには、言うまでもないことだがその活動
いては、市川佳世子によるコラム (p.40) に詳
を担うための人材が必要だ。現在は、美術館・
しい。
博物館といったコンテンツホールダーとして
CCWSでは、 プロトタイプ版ということで
の文化機関、出版社などの企業、 アートNPO
様々な試みが行われた。多様なバックグラウ
などのコミュニティがそれを担っている。 これ
ンドを持つ学生を集めるため、国際学生寮や
らの主体による発信を支えていくために、 「都
留学生が多く履修する講座でのチラシ配布、
市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトで
国際交流系の学生サークルへの情報提供を
は、 プロジェクトメンバーに総合大学が含まれ
行ったほか、大学周辺の飲食店にもチラシ掲
ていることを活かした人材育成プログラムの
出を依頼し、地域におけるプログラム周知も
開発を試みている。
試みた。その結果、様々な学部(文・法・商・経 済・環境情報学部、文学・商学・政策メディア
として、 アート・プロジェクトに関わる人材育
研究科)から幅広い学年(学部1年生から博
育成を進めるTARL(Tokyo Art Research
士課程まで)の学生たちが各国(アメリカ、イ
Lab) にヒアリングを行った。TARLのプログ
ンドネシア、 オーストラリア、 オランダ、韓国、中
ラムのうち 「アートプロジェクトを言葉にして
国、 日本、 フランス、 ポーランド、 モロッコ) より
伝えよう」 「アートプロジェクトの今を共有す
参加した。
る」の2企画について、 プログラムが想定する
プログラムの内容についても、文化機関へ
人材像や育成の効果、 ダイバーシティ&アクセ
の取材に加え、鳥谷真佐子氏(慶應義塾大
シビリティの確保、 プログラム自体の普及活
学システムデザイン・マネジメント研究科 特
動、実施にあたっての課題等について伺い、 す
任講師)を講師に迎え、 システム思考とデザ
でに行われている取り組みに対してこのプロ
イン思考を取り入れたワークショップ形式の
ジェクトがどのように接続できるのかを検討
講義を行ったり、文化機関への取材の前後に
した。
チューターによるミーティングやライティング
ヒアリング内容の検 討を踏まえ、本プロ ジェクトでは、まず慶應義塾大学の学生を
PROJECT 04
プログラムの開発にあたっては、先行事例
セッションを開催したりと、 アクティブ・ラーニ ングを念頭においた構成を試みている。
対象にプロトタイピングを行った。育成する 人材像は 「文化的体験の価値や魅力を広く 循環させることのできる人材」 と設定し、 「カ ルチュラル・コミュニケーター・ワークショップ (Cultural Communicator Workshop
39
Report 01 カルチュラル・コミュニケーターになろう! 市川佳世子 (慶應義塾大学アート・センター プロジェクト・マネージャー)
毎日通っている大学のある港区。身近なは
て、 ( 公財)味の素食の文化センター、NHK
ずの地域の歴史や文化を知り、文化機関に足
放送博物館/ NHK放送文化研究所、 (株)虎
を運び、 その体験を文章にして、 国際的な視野
屋 虎屋文庫を見学・取材に訪れた。第3部の
で発信する。 カルチュラル・コミュニケーター・
発信編では、 プロジェクト・マガジン、 ブログ、
ワ ー クショップ Cultural Communicator
SNSの三つの発信媒体ごとのグループに分か
Workshop 2018( 以 下CCWS’18)は、文
れて、 それぞれの執筆テーマを共有し、話し合
化的体験の価値や魅力を広く循環させること
いや追加調査をもとに草稿をまとめ、 修正を重
のできる人材を育成するため、 まずは慶應義
ねた原稿を公開した。
塾大学の学生を対象に開催された。 参加者募集:コミュニケーションの始まり ワークショップ概要
国際コミュニケーションに必要なスキルの
CCWS’18は三部構成のワークショップで、
習得を目指すからには、それを実践する機会
第1部 「ガイダンスとデザイン思考トレーニン
の提供は必須だった。国内の学生と留学生を
グ」 ( 思考編) 、第2部 「文化機関訪問・調査」
バランス良く集めるため、教職員や学生の協
(取材編) 、第3部 「活動成果の発信」 ( 発信
力を得て、留学生が多く集まる場所 (国際セ
編) の順に展開した。 第1部の思考編では慶應
ンターの受付やグローバルラウンジ、学生寮、
義塾大学システムデザイン・マネジメント研究
図書館)や授業 (美術史、社会学、Arts/Art
科の鳥谷真佐子さんを講師にお招きし、 「どの
Workshop) 、 国際交流に関心のあるサークル
ような目的・方法で国際発信を行なうのか?」 (国際関係会、英字新聞三田キャンパスなど)
40
をテーマに、 システム×デザイン思考の手法を
を通じて情報を広めた。 また、 質問はラインでも
用いて、 グループ・ディスカッションを行なった。
受け付けた。文化×国際発信という内容のイン
第2部の取材編では三つのグループに分かれ
ターンの目新しさや、 大学が主催する企画とい
う安心感もあって、 あらゆる学部 (文・法・商・経 済・環境情報学部、 文学・商学・政策メディア研 究科) から幅広い学年 (学部1年生から博士課 程まで) の学生たちが各国 (アメリカ、 インドネシ ア、 オーストラリア、 オランダ、 韓国、 中国、 日本、 フ ランス、 ポーランド、 モロッコ) から参集した。
多言語コミュニケーション 日本語力に不安があるがぜひ参加したいと コミュニケーションを図ることが紛争解決や世
ド資料は日英のバイリンガル化を徹底し、 各イ
界平和にも繋がる、 という目的が可視化されて
ベントではチューターが英語通訳のサポート
いったのは感慨深かった。
を提供した。 また、全参加者に対して、多言語
次に、顧客価値連鎖分析を通じて今回の活
で進行することへの理解を求め、各自の得意
動に関わる様々な人や機関と、 その間を循環
[註
言語で発信することを前提として共有した
する様々な価値を洗い出した。 俯瞰的に見たと
1]
。学生たちは戸惑いを感じつつも、言語の壁
きに、 まずは身近な友人や家族に話す、 という
にとらわれることなく意見交換することの大切
口コミの威力を思いがけず再認識することに
さや豊かさを実感できたようだ。
なった。国際発信に関しても、母国に帰った留
PROJECT 04
いう要望に応えるため、 連絡のメールやスライ
学生が身近な人に留学先での文化的体験を 国際コミュニケーションの目的と方法
話すことで、付加価値のある情報が説得力を もって伝わる可能性が見えた。
第1部の思考編では、二つの手法を用い
学生たちはワークを通じて、広い視野で考
たグループ・ワークを行なった
。まず、バ
え、 多様な意見をインプットすること、 考えを可
リュー・グラフを作成し、国際発信のより上位
視化して整理し、共有していくことの大切さを
の目的を探った。 発信のみにこだわらず双方向
学んだ。 また、 ワークショップ形式だったため、
のコミュニケーションの中でお互いの文化につ
学年の上下を気にせず、 リラックスした雰囲気
いて知ることは、多様性の理解を生み、武力衝
の中で自分の意見を出し、対等に話し合いを
突を避けるためにも大事であることや、 対等な
進めることができたようだ。
[註2]
41
Report 01
文化機関の見学と取材 第2部の文化機関訪問に先立ち、学生たち は各自で下調べをして、 グループ内で質問事項 を取りまとめて事前に先方に伝えた。 それぞれ
送文化のつながりや、普段何気なく視聴して
の文化機関の担当者には、 なるべく学生の関
いるテレビ番組制作の裏側に膨大な量の研
心に合わせて見学と取材のプログラムを組ん
究と情報活用のためのアーカイブが存在する
でいただけた。普段なかなか触れる機会のな
こと、 そして展示を通じた研究のアウトプット
い資料を間近で見る機会のみならず、専門家
のあり方について考えを深めることができた。
と対話する中で、 さらなる調査の糸口を得る機
虎屋文庫では、虎屋の歴史や和菓子につい
会となった。
て話を伺い、一般には非公開の文庫内を案内
味の素食の文化センターでは、企業の寄付
していただいた。 虎屋と和菓子に関する様々な
を受けた公益法人として、 社会に広く貢献する
資料が収集・保存された収蔵庫と、 その資料を
ため、 食文化の研究支援や理解の普及活動が
活用して研究が進められている現場を見学し、
行われている。 食に関する図書を幅広く取り揃
老舗企業の活動が文庫の活動に支えられてい
えるライブラリーと、 日本の食文化の歴史を精
ることや、 文庫が企業と協力して和菓子の文化
巧な食品サンプルなどを通して視覚的に体験
や魅力を国内外に伝える活動に取り組まれて
できる展示室を案内していただき、 普段は公開
いることが良く理解できた。
されていない錦絵を見せていただいた。 身近な 食文化について改めて良く知る機会となった。 NHK放送博物館では、放送文化の歴史や
42
より良いコミュニケーションのための フィードバック
博物館の成り
第3部の発信編では、学生たちはそれぞれ
立ちの経緯に
取材と見学をふまえてテーマを深め、 執筆準備
つ いて 伺 い、
を進めた。発信媒体はマガジン、 ブログ、SNS
常設展示と企
と異なるものの、伝えたい内容を文章にして、
画展示を案内
改善していく作業はいずれも同じだ。 まず準備
していただい
した草稿に対して文化機関の担当者やチュー
た。愛 宕 山と
ターからフィードバックを得る[註3]。それに応
いう場所と放
じて追加調査を行ない、様々な視点を取り入
Report 01
れて、 文章を練り直していく。 話し合いと編集を
今回のような参加型学習を促すワークショッ
重ねてから文章を公開するプロセスは、SNS
プを授業という形でも実現していきたい。
を通じて誰もが気軽に発信できてしまう今の 時代だからこそ重要になる。大学の授業の中 でも普段からもっと実践を重ねるべきだろう。
カルチュラル・コミュニケーター というモデル
また、新しい媒体での発信に関しては、 むし
CCWS’18に参加した学生たちは、言語の
ろ学生から学ぶことも多くあった。 ブログ記事
壁を乗り越えてコミュニケーションを取ること
では親しみやすい文章を工夫して書いてくれ
やグループで作業することの難しさを実感し
た学生も多く、様々な文体や視点が持ち込ま
ながらも、 その中で生み出せるものの豊かさを
れた。 インスタグラムを使用した文化情報の発
実践の中で学んだ。 身近な文化を知る。 体験す
信に関しては、 フランスからの留学生が向こう
る。その内容を伝えるために人と繋がる。 カル
でのインターン経験をもとにガイドラインを制
チュラル・コミュニケーターは、 社会のあらゆる
作してくれた。
場面で活用できるスキルを備えるモデルを提 供するのではないか。
ワークショップの手法は参加者の主体的な参 加を促し、学びを共有する豊かな場を生み出 すため、新しい参加型の授業や社会教育のあ り方を考える上で注目される[註4]。そのような 場づくりには、 ファシリテーションが要となる[註 。 大学教員は知識の伝達者から学習のファシ
5]
リテーターへと変わっていく必要がある。高度 にグローバル化が進み複雑化してきた現代社 会に対応するために、創造的な思考力や問題 解決能力を備えた人材の育成は急務であり、 そのためには体験の中で知識や学びを深める ような参加型の学習が必須となる[註6]。 大学が 学生を社会に送り出す架け橋となるためにも、
1 大学での多言語による研究教育活動のモデルとなったのは、筆 者が2018年度スイス政府奨学生として滞在したフリブール大学 (www.unifr.ch) 。仏独の二か国語が公式言語であるフリブール州 の大学では、講座ごとに主たる講義言語が決まっているが、学生は 各自得意な方の言語での発言を認められている。 2 詳しくはプロジェクト・マガジン 「ARTEFACT02」 に掲載される阿 児雄之の報告を参照のこと。 3 フィードバックは学習を促 進するために重 要。G. Light et al., Learning and Teaching in Higher Education: The Reflective Professional (Los Angeles, 2009, 2nd edition, first published 2001), p. 216. 4 中野民夫『ワークショップ―新しい学びと創造の場―』 ( 岩波書 店、2001年) など。 5 中野民夫 『ファシリテーション革命―参加型の場づくりの技法―』 (岩波書店、2003年) など。 6 L. S. Watts and P. Blessinger eds, Creative Learning in Higher Education: International Perspectives and Approaches (New York, 2017), pp. 18 - 20.
PROJECT 04
参加型の学習とワークショップの可能性
【註】
Report 02 文化の発信を担う人材育成について: Tokyo Art Research Lab ヒアリング 日時: 2018年11月7日 場所: アーツカウンシル東京
レポート: 三浦真紀
文化の発信を担う人材育成プログラムを
を行い、 同時にアートプロジェクトでの課題や
開発しようとしている 「都市のカルチュラル・
必要とされるツールの開発や研究を手がけて
ナラティヴ」 プロジェクト。 アート・カルチャー
いる。「東京アートポイント計画」 とTARLは
分野の人材育成プロジェクトとして、 先行する
連動し、実践の現場で出た課題をTARLで研
活動に、Tokyo Art Research Lab(TARL)
究する、逆にスクールで学んだ人々がアート
がある。その実践について、公益財団法人東
ポイント計画の現場に携わることもある。学
京都歴史文化財団アーツカウンシル東京の
びと実践・研究開発の場があることで、街中の
坂本有理氏に話を聞いた。
アートプロジェクトを生み出す人材と環境を 整えるのが目的だ。
3つの事業を展開
現在、アーツカウンシル東京では都内で
44
スクールで人材育成
「 東 京 ア ートポ イント 計 画 」 「Tokyo Art
育成する人材はプロデューサーやディレク
Research Lab(TARL)」、被災地支援として
ターなどの企画者ではなく、事務局として運
「Art Support Tohoku-Tokyo」と、3つの
営に携わる人や周辺のサポーターをイメージ
事業をメインに展開している。
している。よくアーティストを呼べばアートプ
「 東 京アートポイント計 画 」は今 年10年
ロジェクトができると勘違いされるが、芸術祭
目。都内のアートNPOとアートプロジェクト
などのアートプロジェクトは一度開催されて
を実施することを通して、 アートNPOの育成・
終われば解散となり単発で終わるケースも多
支援、文化創造拠点の形成を目指す。一方、
い。長く運営に関わる事務局が存在すること
「TARL」はアートプロジェクトの担い手育成
で、 ノウハウが蓄積されて根付くと考えている。
のための学びの場。 スクールの形で人材育成
スクールの受講生はアートプロジェクトに
あることも躊躇させる原因だ。2000年代初
んどだ。TARLでできることは限られるが、裾
頭はアートマージメントがブームで、就職氷
野は広がっており、同級生ができるというコ
河期ということもあり、安定した雇用なんて幻
ミュニティ作りでも成果を上げている。
想だとアートプロジェクトに流れる若者も多
スクールの特徴で目を見張ったのは、 ノウ
かった。 それから10年が経ち、 アートプロジェ
ハウやハウツーをあまり教えない点だ。文化
クトが特別ではなくなった今、働き方も多様
の担い手に一番必要なのは、 自らが問いを掲
化している。実際、芸大でアートマネージメン
げて、 どう向き合うのかを考える力。そのため
トを学んだ学生の就職先は一般企業が多い
インプットしてアウトプットする基礎力を重要
そうだ。
視している。現場ではテーマが変わるとハウ
とはいえ、毎年、受講後にキャリアチェン
ツーは役立たない。問いを持つ、考える力を
ジをする受講生も何人かいる。就職だけでな
重視して、価値観を揺さぶる、未知なものに
く、例えば社会人で日々上司から理不尽を言
出会うなど、抽象的な講座が主になっている。
われて辛かったが、柔軟に対応できるように
アートプロジェクトは効率性を求めず、無駄と
なったというエピソードもある。 アートに関わ
思われる迂回をしながらみんなで作り上げて
ることで、柔軟性を身につけて各自の生活で
いく、先が見えないことにどうチャレンジする
学びが生かされているのは確かだ。
かが大事。 もちろん問いを立てた上で、実施す
2014年 度から 「 思 考と技 術の対 話の学
るにはマネージメントスキルと合体させる必
校」 を開催。現場で必要となる視座、思考力、
要はあるだろう。
技 術力、対 話力などの基 礎を3年 間かけて
PROJECT 04
興味はあるが、実践経験はない社会人がほと
学ぶという。この受講生がNPOを立ち上げ スクール受講後の進路
たり、東京アートポイント計画の現場に入る ケースもある。注目したいのは、社会人で土日
スクールの受講生が仕事としてアートの現
だけ現場をサポートし、ボランティアより深く
場に携わることについては、 これからの課題だ
企画にコミットする人々が育ったこと。彼らは
という。学ぶには受講料がかかり、 またアート
芸術祭など様々な現場に顔を出し、周辺を支
プロジェクトは発展途上中で安定性のある労
えるサポーターコミュニティとなっている。
働環境ではない。現場の多くはNPOを立ち上
そんな周辺の人々のポテンシャルを生かす
げ、様々な助成金を獲得して活動しているが、
ために、昨年は 「紡ぐ人材」 の育成に取り組ん
助成金には単年度縛りがあり、非正規雇用で
だ。マネージメント、準備、実施、次に繋げる
45
Report 02
TARLの発行物の一部
活動に加えて、自分たちの活動を言語化、可 視化してアートプロジェクトの普及を目指す。 アートプロジェクトは作品だけでなく、作品が 成立するまでの過程や人との関わりに価値が ある。 ちょっと離れた距離から現場を見て、 こ こが面白い、 あそこが面白いとストーリーを拾 いガイドツアーをしたり、作品紹介のツール を作っても面白いのではないか。 しかしそのた めにはアートプロジェクトが何かを捉えるの
のスタディに現在5組のチームが半年かけて
が重要で、 まずはベースとなる経験が必要に
取り組んでいる。アーティストや事務局代表
なる。
をナビゲーターとして、約10人の参加者とと もに会議。 チームによってテーマは異なり、勉
実践の場、 レクチャー、 ディスカッション
46
強、 リサーチ、 調査、 実験などもお任せ。 新たな プロジェクトが立ち上がるためのヒントや手
今年度のTARLは3本柱で構成される。 「東
がかりを探しているという。 プロセスの記録を
京プロジェクトスタディ」はアートプロジェク
取り、毎回何に取り組み、生まれたのか、 どん
トを新たに立ち上げたい人がスキルを養う、
なディスカッションがなされたかを最終的に
実践的なプロジェクト型の学びの場。「レク
冊子にまとめる予定だ。たどり着いた先では
チャーシリーズ」は基礎的で、 アートプロジェ
なく、 スタディの過程やプロジェクトを生み出
クトって何?アートプロジェクトに興味を持っ
す際の向き合い方を重視している。またチー
たが次の一歩を踏みだし方がわからない人な
ム作りやコミュニティ作りも意識し、5組のグ
ど幅広い人に向けたレクチャー。「ディスカッ
ループを横断的に出会わせる試みも考えてい
ションシリーズ」 はさらにアートプロジェクトと
るらしい。
隣接した活動を組み合わせて、今までアート
この他、 アートマネージメントや発信のスキ
プロジェクトに関わっていないが接点を見い
ルを身につけたスクールの受講者たちに大学
だしたい人たちを対象としているという。
のイベントで手腕を発揮してもらうなどの提
また、 プロジェクトとしてはいかに骨太な文
案や、 アクセシビリティ、 アーカイヴについてな
化事業を立ち上げるかが重要となる。その立
ど活発な議論がなされ、刺激的なヒアリング
ち上げの部分、 プロジェクトの核を掴むため
となった。
Report 1
活動情報
Nov.7 Tokyo Art Research Labヒアリング(アーツカウンシル東京) 文化に関わる人材育成の先行事例として、 とくに 「アートプロジェクトを言葉にして伝えよう」 「アートプロ ジェクトの今を共有する」 の2企画についてヒアリングを実施。
2
Nov.14,26 CCWS ’18 第1部「ガイダンスとデザイン思考トレーニング」 ワークショップ
3
Nov.22,30 / Dec.4,6,12 CCWS ’18 第2部「文化機関訪問・調査」 ミーティング
鳥谷真佐子 (慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 特任講師) を講師に迎え、 システム思 考とデザイン思考を取り入れたワークショップ形式の講義を開催。10の国と国と地域より、 40名が参加。
取材の切り口を設定し、質問・調査事項を明確にするため、訪問・調査前の事前ミーティングをグループ ごとに実施。
Nov.26 / Dec.3,7,10,17,28 CCWS ’18 第2部「文化機関訪問・調査」訪問 (虎屋文庫、NHK放送博物館、味の素食の文化センター)
5
Dec.11 / Jan. 21,24 / Feb. 13,14 CCWS ’18 第3部「活動成果の発信」ライティング・セッション
6
7
学生が提出したドラフトを元に、取材先機関によるファクトチェックを行いながら、記事をブラッシュアッ プするライティングセッションを開催。
PROJECT 04
4
2019 Jan. 9,11 CCWS ’18 第3部「活動成果の発信」SNSミーティング SNS(Instagram)担当学生チームとのミーティング。 フランスの美術館で、SNS担当インターンの経験 を持つ留学生からの事例紹介を元に、SNSでの発信計画を作成。
Feb. / Mar. SNS(Instagram)・ブログ(Medium)運用開始(@culnarra)
47
プロジェクトを 育てる
(プロジェクト運営とモデル構築)
05 PROJECT
48
「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェ
などが話題となった。 また、掲載コンテンツの
クトでは、学術情報を軸に、柔軟で多様な文
Creative Commons の対応について共働
化機関の連携を実現するモデルを構築し、将
する可能性についても検討された。
来的には、地域や担い手となる組織の種類や
また、港区が主催するシンポジウム等にお
規模が異なっても共有・実践可能なミニマム・
いて、 プロジェクトの紹介を積極的に行った。
セットを定義することを目指している。
港区内で文化芸術に関わる活動を行う主体
モデル構築のための調査として、今年度は
で構成された 「港区文化芸術ネットワーク会
「 大 学と地 域 文 化 団 体の連 携 」 「 文 化プロ
議」にて 「都市のカルチュラル・ナラティヴと
ジェクトの情報発信」の2つのテーマを設定
ARTEFACT:リサーチをキーワードとする文
しモデル構築検討会議を開催した。大学と
化ネットワーク」 と題して活動を報告したほ
地域文化団体との連携については、企業-地
か、港区が主催するシンポジウム 「世界に開
域 (ローカル)-国際 (グローバル)と3つの
かれた 《文化の港》を目指して」のトークセッ
コミュニティを繋ぐコミュニティスペースを
ションにて、 プロジェクトの事例紹介と、区内
運 営するSHIBAURA HOUSEの伊 東 勝 氏
で活動する文化団体とのディスカッションを
を迎えてミーティングを実施。SHIBAURA
行った。 プロジェクト運営については、 プロジェクト
の関わりについて伺う中で、双方の専門性を
メンバー間での情報共有の仕組みにまだ工
ソフト・ハードの両面で交換できるような企画
夫の余地がありそうだ。 プロジェクトは、中核
を検討してはどうか、 というアイデアもでた。
館における定例企画会議、 プロジェクトメン
特にハード面でのコラボレーションはユニー
バー全員が出席する全体会議と、 メーリング
クベニューとの親和性も高く、今後具体的に
リストでの連絡によって運営されている。 プロ
検討していきたいと考えている。
ジェクトの実施に関わる基本的な情報共有
文化プロジェクトの情報発信については、
PROJECT 05
HOUSEの活動、地域コミュニティや大使館と
は達成されているが、 ちょっとしたアイデアや
東京のアートイベント情報のプラットフォーム
ノウハウの共有など、 よりカジュアルなコミュ
として機能しているTokyo Art Beat(TAB)
ニケーションを生み出すための仕掛けを用意
諸岡なつき氏に依頼し、地域文化資源の情
できないか、 今後検討してゆきたい。
報やプロジェクトの活動発信に関するモデ ルについて検討を行った。 ミーティングでは、 TABの編集体制や編集方針、 バイリンガルで の情報提供について、 また寺院などいわゆる 公開施設ではない場所でのイベントの扱い
49
Report 01 文化プロジェクトの情報発信: Tokyo Art Beat ヒアリング 日時: 2019年2月28日 場所: Tokyo Art Beat(NPO法人GADAGO) 市川佳世子 (慶應義塾大学アート・センター プロジェクト・マネージャー)
地域文化資源の情報や、 プロジェクトの活
人が対象。一時的に訪れる人に向けても書い
動発信を効果的に行うにはどうすれば良いか。
て欲しいと言うリクエストもあるが、観光情報
モデル構築のヒントを得るため、東京と関東
はエリアが絞られてしまうからだ。
近郊のアート・デザインに特化した日本最大の
ユーザーの視点に立ち、可能な限り幅広く
バイリンガル・アート情報メディアTokyo Art
アート、デザイン、建築、 メディア、音楽、舞台、
Beat(NPO法人GADAGO) の諸岡なつきさ
ファッションに関するイベントをカバーする
んにお話を伺った。
TABは、 独立した非営利団体であるため、 常に 中立を心がけている。規模の大小に関わらず
Tokyo Art Beatの活動内容と方針
画展やプロジェクト・ベースのもの、 そしてアー
Tokyo Art Beat(TAB) の運営スタッフは、
ティスト・ランのものが多い。 また、立ち上げた
本部の常勤2名、翻訳2名、 そして補助数名と
プラットフォームやアーティストの応援も重視
いう少数精鋭のチームで、 バイリンガル・中立・
している。
網羅的という編集方針を取る。 日本のアート・イベント情報を海外の人々に も届けることを目的に始まったTABは、全ての サービスを日本語と英語で提供している。 情報 が錯綜しないように、 日本語と英語のチャネル は徹底して分けられている。 英語での情報発信 は、基本的には東京在住の土地勘のある外国
50
面白いイベントや場所を取り上げる。 ゆえに企
Tokyo Art Beat ウェブサイト http://www.tokyoartbeat.com/
プロジェクト・ベースのイベントの 紹介の工夫 TABではイベントの紹介をする際、 自分たち の大事にしたいものを開いていくために、必ず 編集した情報を出している。開催場所がお寺 や自宅など公開施設ではない場合は、位置や 時期を載せないこともあるそうだ。 また、 チケットぴあなど、他のプラットフォー
「Tokyo Art-goer Research 2016 東京のアートイベント 情報の現在とこれから」 ( 2016) Tokyo Art Beat では、 ウェブサイトの運営だけではなくリサー チも行っている。2016年には、公益財団法人 テルモ生命科学芸 術財団の助成をうけて、東京でのアート関連イベント情報の流通 とその鑑賞体験への影響に関する調査報告をまとめた。
ムとの連携も図っている。最近ではエスパス・ ルイ・ヴィトンの依頼を受けて、 子どもを対象に
対応も重要となる。バイリンガルで編集され
バイリンガルで、 アート鑑賞とコラージュを通
た情報は、学術的価値も増す。情報公開を強
じた学びのワークショップを企画した。
化していくためには開発費が必要となるた め、学術連携してより公的な資金を投入して いくなど、 ファンドレイジングも鍵となってくる だろう。
質の良い情報を提供し続けるには、情報発 信のための人材育成も大事になってくる。イ
文化プロジェクトの効果的な情報発信と
ベント情報の執筆と編集には、伝わる書き方
は、価値ある文化資源を見出し、独自の切り
の指導のみならず、 リサーチや開発、 またアー
口で情報を編集することで、更なる文化的価
ティストを育てるという視点の導入も必要と
値創造のプロセスに参加していくことなので
なるため、時間がかかる。大学在学時にある
はないだろうか。そして、情報へのアクセシビ
程度の訓練ができると理想的だろう。
リティを高め、幅広いオーディエンスとの共有
TABは必然的にイベント情報の一部として
を図ることで、文化プロジェクトへの多様な参
多くのイメージを蓄積することになる。 イメー
加者や、 サポーターを国内外に増やしていけ
ジの著作権は基本的には主催者側に帰属し
るようなプラットフォームの構築が必要とな
ているが、再利用したいユーザーからの問い
る。そのような活動を担う人材の育成は、文
合わせにはTABが対応している。コンテンツ
化を通じてインクルーシヴなコミュニティ作り
の蓄積・再利用を促進するためには、 イベント
に貢献していく人材を創出することにもつな
情報のアーカイブ化やCreative Commons
がるだろう。
PROJECT 05
より効果的なイベント情報発信のために
51
Report 02 「 都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト 第2回全体会レポート 日時: 2019年2月6日 場所: 慶應義塾大学三田キャンパス インフォメーションプラザ2階会議室 出席者: 味の素食の文化センター/小林顕彦 NHK放送博物館/熊野裕二 NHK放送文化研究所/村上聖一
Japan Cultural Research Institute /藤井由有子 草月会/米田竜介、 磯部昌子 増上寺/小篠健樹 (松永博超 代理) 虎屋文庫/丸山良、 中山圭子 慶應義塾大学アート・センター/内藤正人、 渡部葉子、 後藤文子、 本間友、 松谷芙美
*オブザーバー 国際文化会館/前田愛美、 池田純子 (書面参加 泉岳寺/牟田賢明) 司会進行: 渡部葉子
52
初回よりも和やかな雰囲気がただような
UDトークに関しては、 国際文化会館の前田氏
か、今年度2回目の全体会が開催された。実
より、詳しい仕組みについて質問があり、国際
行委員長内藤正人の挨拶の後、議題に入る
文化会館でも試行してみたい旨コメントを得
前にあらためて自己紹介を行った。
た。
まず本間が、2018年度の活動の報告を行
コンテンツ制作、人材育成プログラムにつ
い、各出席者がコメントを寄せた。 「大学の建
いては、協力を得た各組織のメンバーより、
築フォーラム:アーカイヴとアウトリーチ」 「学
様々な感想、改善点への指摘があった。通常
問・文化プラットフォームとしての寺院:泉岳寺
業務の繁忙期と重なってしまい、スケジュー
と禅の文化」 においては、多言語化、耳の不自
ル調整や、映像監督の希望に応じられなかっ
由な方への対応として、UDトークという試み
たので、 どれだけ早めに準備できるかが課題
を行った。同時通訳ではない言語サポートの
であるという指摘があった。ガイドツアーに
あり方として試行したが、講演者が語尾を明
対応した学芸員にとって拘束時間がハードで
瞭にするなど、 自動通訳に適した話し方を心
あった、また組織内でのコミュニケーション
がける、講演原稿を事前に用意するなど、講
不足を感じたなど、人手の不足、準備期間や
演者側の歩み寄りが必要であると感じた。一
アート・センター側の説明の不足が反省点と
方、耳の不自由な方への対策としては、充分
してあがった。特に、人材育成プログラムにお
機能すると実感した。 また、 イベント後に、 出席
いては、 ガイドツアーをして終わりでは、通常
した留学生からフィードバックをもらい、外国
のギャラリートークとさほど変わらないので、
人が参加しやすい運営のための参考とした。
プロジェクトとしての検討や発展が必要であ
を楽しみにするコメントが多数あった。若手
指摘もあがった。 また、専門家ではない人(学
監督による映像制作は、監督らの熱心な交渉
生、留学生)へ説明するにあたって、齟齬や誤
が、各組織にとって、 これまで無かった取り組
解はつきものであり、 フィードバックが重要と
みへの契機になった。 また、監督らもお互いに
の意見があった。そのため、特に人材育成プ
情報交換をしながら制作に取り組み、有意義
ログラムについてフィードバックセッションを
な経験となったとのことであった。
各組織メンバーとアート・センターで行うこと
後半では、2019年度の事業計画を確認
が決まった。 また、読者に正しい情報を提供し
した。公共性の高い翻訳事業やコンテンツ制
ながら、人材育成プログラムの一貫であるこ
作は継続しながら、特に準備不足や人手不足
とを活かすために、学生が執筆した記事に対
の指摘があがったことを改善するため、一つ
し、各組織のスタッフが、補足として、 レファレ
一つ丁寧に取り組めるようブラッシュアップす
ンスやコメントを併記する案が提案された。
ることが求められた。 また、 グループ内での連
一方で、 日常業務に追われ、なかなか踏み
携不足が課題としてあがった。 司会進行の渡
出せなかった物事に取り組むきっかけとなっ
部より、 「カルナラはゆるやかな繋がりが利点
たなど、 このプロジェクトによって得られた成
でもある。大学あり、企業体あり、それぞれだ
果も大いにあった。ホームページの英語版の
が、文化財を社会還元している点では同じ。 う
作成や、展示室の解説映像のテロップの翻
まく響き合えれば良い。」 とコメントがあった
訳、 中国語パンフレットの制作など、翻訳事業
とおり、来年度のプロジェクトの目標として、
は、 目に見える形の成果が得られ手ごたえが
グループ内で無理なく連携し、面白く、楽しく
ある。 また、 ドキュメンタリー映像の制作では、
取り組むためのノウハウを共有することなど
日常業務を改めて説明し、記録することで、新
を、改めて確認した。
PROJECT 05
るなど、今後のプロジェクトの展開に関する
鮮な経験が出来、良い機会となったと、完成
53
Report
活動情報
1
2018 Jul.26 プロジェクト企画会議
2
Aug.1 第1回全体会議(慶應義塾大学)
3
4
本年度事業のキックオフミーティング。 プロジェクトメンバーの出席のもと、本年度の事業計画、各メン バーの役割分担について確認。
Oct.23 港区文化芸術ネットワーク会議におけるプロジェクト紹介 (SHIBAURA HOUSE) 港区内で、文化芸術に関わる活動を行う多種多様な主体をメンバーとする 「港区文化芸術ネットワーク 会議」 にて 「都市のカルチュラル・ナラティヴとARTEFACT:リサーチをキーワードとする文化ネットワー ク」 と題して、 プロジェクトの活動を報告した。
Oct.25 プロジェクト企画会議 Nov.4
5
港区主催シンポジウムにおけるプロジェクト紹介 (港区立男女平等参画センター・リーブラ) 港区が主催するシンポジウム 「世界に開かれた 《文化の港》 を目指して」 のトークセッションにて、 プロジェ クトの事例紹介、 区内で活動する文化団体とのディスカッションを行った。
6
Dec.25 モデル構築検討会議(大学と地域文化団体との連携): SHIBAURA HOUSE(SHIBAURA HOUSE) 大学の活動と、地域で行われている活動を接続するモデルを検討するため、SHIBAURA HOUSE代 表の伊東勝氏に依頼し会議を開催した。SHIBAURA HOUSE の活動、地域コミュニティや大使館 との関わり、今後の活動予定について伺い、大学を含む他組織との連携の可能性について検討した。
7
2019 Feb.6 第2回全体会議(慶應義塾大学)
8
Feb.7 プロジェクト企画/報告会議 Feb.28
9
モデル構築検討会議(文化プロジェクトの情報発信) : Tokyo Art Beat(NPO法人GADAGO) 地域文化資源の情報や、 プロジェクトの活動発信に関するモデルを構築するため、東京のアートイベント 情報のプラットフォームとして機能しているTokyo Art Beat(特定非営利活動法人 GADAGO)諸岡 なつき氏に依頼し、検討会議を開催した。
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Cultural Narrative of a City INTRODUCTION Minato City has embraced a rich culture, both in the past and in recent times. Much of the historical Tokaido Road which connected Edo (Tokyo) and Kyoto has survived as the National Route One on the island of Honshu. In Takanawa today there is the ruin of the Takanawa-Okido, which once served as one of the significant toll stations in Edo. The area used to be known for its numerous stately homes for Daimyo (feudal lords) and for its temples. There are a number of surviving temples from the Edo era, including the Zojoji Temple which the mausoleum of Tokugawa Shoguns is situated within, as well as the Sengakuji Temple where the forty-seven Ronin of the Ako incident were laid to rest. Former Daimyo’s estates have also been given new roles and functions. For example the state guest house Akasaka Palace has been built on the former Tokugawa residence, or the Keio University which stands on the former Matsudaira residence. In addition to such a rich historical heritage Minato City also boasts a high concentration of contemporary cultural arts activities. There are more than 12,000 art centres and galleries in an area of less than 20km2, which allows creativity to flourish and grow. In conclusion, Minato City is a city with rich cultural resources that attract both those who are interested in history and traditional culture as well as those interested in contemporary art culture. The ‘Cultural Narrative of a City’ project aims to create an environment where diverse communities enjoy the dynamics of an urban culture that travels back and forth through time. With this in mind the project tries to tackle the following three themes: -Presentation of the ‘Narrative’ connecting the past and present of the urban culture, based on scholarly research
-Collaboration with diverse communities, especially with different members of the international community’ -Developing proactive talents This may sound like a lot but the project’s motto is in fact simple – Disclose Culture and Reseach. Our interpretation of ‘the Cultural Narrative of a City’ is about making culture and research accessible to everyone. 2018 saw a group of nine institutions form a team of expertise with various academic backgrounds. These included NHK Museum of Broadcasting/ NHK Broadcasting Culture Research Institute (Broadcasting), Ajinomoto Foundation For Dietary Culture (Food), Toraya Bunko (Japanese Confectionery), Japan Cultural Research Institute (Contemporary Art and Gallery Archive), Sengakuji Temple (Zen), Zojoji Temple (Edo Temple), Sogetsu (Ikebana and Avant-Garde Art) and Keio University Art Center (Contemporary Art). This year’s activities consist of five projects. These include holding an event introducing urban culture, establishing a platform for global dissemination of the information, content production, the professional development programmes and the project management and modeling. Each project is reported here under the following chapters: ‘Culnarra! Event Series’, ‘Connect Communities and Promote Communication’, ‘Visualise Culture (Content Production)’, ‘Produce Cultural communicators (Professional Development)’ and ‘Develop the Project (Management and Modeling of the Project)’. We have also asked guest writers to take a magazine-style approach to share our activities to our various different communities. Go online to visit our website and social networking sites for further information on our projects. 55
01 PROJECT
The aims of the ‘Cultural Narrative of the City’ are to connect past and present cultural resources based on the foregrounding of academic achievements and to form an image of cultural narrative. The Culnarra! event series is one method being used to specifically express and deliver this concept to society. A series of events is held that draws upon the diversity of project members, e.g. lectures, exhibitions, guided tours and workshops on a wide range of subjects such as contemporary art, temples, Zen, architecture, broadcasting, ikebana (Japanese flower arrangement), food and Japanese confectionery, with the aim of introducing the urban culture developed in Minato City and its historical and cultural context. Two events were organised for this fiscal year with a focus on architecture and the Zen culture. The architecture-themed event was entitled ‘University Architecture Forum: Archive and Outreach’. Through lectures and case studies, it shares and discusses activi-
CulNarra! Event Series 56
ties in architectural archives from both Japan and abroad, as well as initiatives taken by universities to facilitate the public viewing of their buildings. We asked representatives from Keio, Meiji Gakuin and Gakushuin Universities to give speeches and share how the public viewing of buildings was being practised at their universities and how their initiatives were being made open to the community. In addition, we selected activities in architectural archives as a larger framework and worked with the National Archives of Modern Architecture to introduce architectural archives from Japan and abroad. Furthermore, the ‘Keio University Mita Campus Architecture Open Day’ was held at the same time as the forum, to open up the architecture of the Mita campus to public. Members of the public had the opportunity to see architecture and the event also served to demonstrate the implementation of one of the activities mentioned in the forum. Another event was entitled ‘The temple as a study and culture platform: Sengakuji
Oriental Classics). Sengakuji is generally known for being the site of Ako Gishi warrior graves. The precincts also contain the Ako Gishi Memorial Hall, which exhibits a large number of cultural assets related to the Ako Gishi. On this occasion, however, the lectures focused on the image of Sengakuji as a base for Zen culture and study. Regarding the history of Sengakuji, Prof. Masahiro Koizumi from Komazawa University gave a lecture in 2012 entitled
‘Sengakuji during the Bakumatsu-Meiji Restoration Period’. In an attempt to reutilise past academic achievements, with the permission of Prof. Koizumi, we edited handouts based on the transcripts of past lectures and provided participants with references for them to browse. During this event series, we also worked on providing a new form of language support (English). See the column by Goki Miyakita for an overview of the language support (p.28).
PROJECT 01
and the Zen culture’, based on the theme of Zen study and culture. Lectures on the history of Sengakuji, the sub-temple culture of Zen temples and Zen-related figurative art were given at Sengakuji, which was one of the three principal temples of the Soto sect in Edo period and has played a role in deepening and conveying Zen study and culture. The lecturers were Mr Kenmyo Muta (Head receptionist monk at Sengakuji) and Prof. Takashi Horikawa (Keio Institute of
Report Keio University Mita Campus Architecture Open Day
1 (Keio University)
Oct.17,20
We had an architecture and open-air sculpture guide tour, which included opening to the public the two important cultural heritage sites; “Enzetu-kan” and Ex Noguchi Room.
Forum for Architecture of Universities:
2 Archive and Outreach (Keio University)
Oct.20
We had a forum to share and discuss activities for preserving architectural archives in Japan and other countries, as well as activities to share architectural knowledge in universities with the public through lectures and case studies. “Keio University Mita Campus Architecture Open Day” was held on the same day to demonstrate the example of opening up the university’s architecture department.
Temple as a Scholarship and Cultural Platform:
3 Sengakuji and Zen in Japanese Culture (Sengakuji)
Nov.18
We had a lecture at Sengakuji in order to introduce the history of Sengakuji, the sub-temple culture of Zen temples, and the Zen arts. Sengakuji is one of the three biggest temples of the Soto Sect in the Edo period and has played an important role as a scholarship and cultural platform.
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02 PROJECT
In order to elicit the diverse cultural resources in a local community and convey the information to various communities, our focus during this fiscal year was on ways of connecting the international community and local culture, an examination of the design in which information can be transmitted via websites and a strengthening of collaboration with local cultural institutions. In terms of the connection between the international community and local culture, we first surveyed trends among international students at universities, beginning with international students at Keio University. We interviewed the coordinators of the ‘Keio Insta Crew’, an Instagram story coverage/editing team run by international students, as well as those in charge of the programmes for international students on the points they pay attention to when organising events that involve such students, in addition to the trends among international students. Furthermore, following the lectures given at Sengakuji, a round-table discussion was held with those international
students who had participated in the lectures and made use of the language support. They shared their opinions on the language support and areas for improvement and discussed ways of gaining participation from international communities such as international students and residents. Interviews were also conducted with embassies, taking advantage of the fact that many embassies are located in Minato City. We initially considered setting the provision of information to the resident community as the main topic. However, as we progressed with the preliminary survey, we recognised that connecting Japanese local culture to the diverse cultures brought by embassies through, for example, cultural projects would lead to the international transmission of cultural resources. Therefore, the interviews centred around the activities carried out by the embassies in the cultural field and collaboration by communities. During this fiscal year, interviews were conducted with representatives from the Spain, Argentine and Netherlands Embassies.
Connect Communities and Promote Communication ( Collaboration and Transmission ) 58
We also built a prototype of a website. In the working group, we first examined what and how the project should transmit via its website while referring to precedent cases. We then defined our website user as ‘someone who wants to learn and talk about local culture based on the obtained knowledge’ and designed the prototype with a focus on the reference function. We also
began the trial operation of SNS accounts (Instagram, Facebook, Twitter / account name: @ culnarra). Moreover, in order to enhance connections within the local community, we were able to discuss potential collaborations with different teams based in Minato City. These included the International House of Japan with regard to hosting a joint event in the architec-
tural domain; Roppongi Art Night about collaborating on human resources development programmes and the transmission of content; and the Museum of Marine Science, Tokyo University of Marine Science and Technology about organising a cross-disciplinary event with the theme of the ocean and ocean culture.
Report 1 Interviews on international students’ engagements to cultural activities (Keio University)
Aug.3,22
We interviewed Junhyon Jo (Keio University Admission Center), leader of “Keio Insta Crew”, as well as Junko Hirota (Keio University International Center) about the activities and projects that involve international students. “Keio Insta Crew” is an Instagram news and editorial team joined by international students.
2 The first website working group (THE BASE Kojimachi)
Sep.25
3 International student round-table discussion (feedback session) (Sengakuji)
Nov.18
4 Meeting for future collaboration:
Nov.22
A design-thinking discussion was held to consider what our project should offer through a website and how it should be provided, taking into account previous cases.
International House of Japan (International House of Japan (IHJ))
PROJECT 02
After the Sengakuji lecture, we held a discussion with international students who attended the lecture using our language support programme. We shared their feedback about the language support and suggestions for improvement. We also discussed how participation of members from the international community could be achieved.
A meeting was held with the staff at IHJ whose architecture was jointly designed by Kunio Maekawa, Junzo Sakakura, and Junzo Yoshimura. The main topic was about collaboration in the field of architecture.
5 Meeting for future collaboration: Roppongi Art Night ( Keio University)
Dec.5 / 2019 Jan.16
We held a meeting with Roppongi Art Night (who will have their 10th anniversary in 2019) to discuss the idea of collaborating on professional development workshops or content distribution.
6 Meeting for future collaboration: Museum of Marine Science, Tokyo University of
Marine Science and Technology (Tokyo University of Marine Science and Technology)
2019 Jan.10
We held a meeting with the Tokyo University of Marine Science and Technology to discuss cross-disciplinary collaboration with the theme of the sea and maritime culture.
7 The second website working group (THE BASE Kojimachi)
Jan.28
8 Interview with the Embassy of Spain in Tokyo, Japan (telephone interview)
Mar.11
9 Interview with the Embassy of the Argentine Republica in Japan
Mar.15
We considered the design and the need to promote the proper reuse of the data provided on our website.
We interviewed Izumi Chatani from the Culture section of the Spanish Embassy in Tokyo to discuss how they engage in cultural exchange, what they expect from local cultural institutions, and how they cooperate with them.
(Embassy of the Argentine Republica in Japan)
We interviewed Emiko Kashikura at the culture and tourism section of the Embassy of the Argentine Republica in Japan about how they engage in cultural exchange, what they expect from local cultural institutions, and how they cooperate with them.
10 Interview with the Netherlands Embassy of Japan (Netherlands Embassy of Japan)
Mar.26
We interviewed Bas Valckx, Culture Officer of the Netherlands Embassy of Japan, about how they engage in culture exchange, what they expect the local cultural institutions, and how they cooperate with them.
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03 PROJECT
What kind of content should be prepared to convey local cultural resources to diverse communities while also making use of existing academic achievements? The project for this fiscal year initially considered the dual forms of text and footage and began by examining the necessary content for each. When discussing text with project members, it was surprising to discover there were some cases in which no English explanation was available for certain cultural resources that attract a great deal of attention (e.g. the Mausoleum of the Tokugawa family at Zojoji). In addition, while some of the content featured at events such as exhibitions and lectures has been translated into multiple languages, we identified some cases where no progress had been made in the translation of basic information on cultural resources and related activities. Therefore, in this fiscal year, we focused on translating texts and basic information that are highly necessary for
Visualise Culture ( Content Production ) 60
multilingual transmission. With the aim of disseminating information to the young generation, we also attempted to write a new text with students who had participated in the professional development programme. The text we created has been published on blogs and Instagram. In producing the content, we examined, through Customer Value Chain Analysis, how cultural information is transmitted in society and recognised again the power of the media in the transfer of information from one person to another (socalled ‘word of mouth’). This was consistent with the results of the examination by the website working group. Therefore, in terms of co-authoring with students, we asked them to maintain publicness while being aware of communicating with their acquaintances, family members and people in their home country if they were international students, rather than communicating vaguely to the general public. Since collaboration with professional development pro-
grammes is also important for achieving sustainable content production, we will continue to work on it in the future. For the footage introducing local culture, our initial assumption was that it would be viewed on a mobile device and we therefore decided on the production of only a short, five-minute piece of footage. However, the results of a subsequent survey revealed ‘10 to 30 minutes’ to be the typical duration of video footage watched on a mobile device (‘Video Watching Survey No. 3 [201804-16]’ by NTT DOCOMO Mobile Society Research Institute),
along with the fact that a five-minute
video may be perceived as an advert and the narrative of cultural resources might not be conveyed. We therefore revised our plan to focus on a 10–15-minute documentary film based on the interviews with cultural institutions. We asked young film artists to direct the film, which opened with the contents owned by the project members, linking them to the big themes of contemporary art, Japanese confectionery and Zen. Through these efforts, we hope that content creators will also become interested in local cultural resources. Moreover, in order to make
extensive use of the results of the event series, we have taken the content of the lecture by Takashi Horikawa at ‘Sengakuji and the Zen culture’, made it bilingual and publicised it.
Films to introduce local cultures:
1 rearrangement of the plan and topic setting
August
PROJECT 03
Report We reconsidered the film project and decided to make short documentaries on local cultural resources, based on research on cultural institutions. We asked the project members whether they could accept the research and rearranged the topic of the movie.
2 Documentary film on local cultural resources: Kickoff meeting
Sep.21
We had a meeting with the film directors in charge of the short documentaries, which included Keiko Okawa, Risa Abe, Fumito Fujikawa and Takahiro Niibe.
3 Writing and translating texts on culture resources
October
We discussed content to introduce local cultural resources with our project members, and selected some existing texts in need of being translated into multiple languages. We decided to involve students in writing new texts in order to promote cultural resources to the younger generation.
Started research for the documentary film
4 (art galleries and archives, Japanese confectionary, Zen temples)
Oct.2,11,12
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04 PROJECT
In order to convey a local culture to diverse communities, it is essential to have human resources to carry out the activities. Currently, the cultural institutions, e.g. art galleries/ museums, businesses such as publishers, and communities such as art NPOs, all play a role. To support transmission by these actors, the ‘Cultural Narrative of the City’ project aims to create a professional development programme by taking advantage of the fact that the project members include a university. In developing a programme, we interviewed TARL (Tokyo Art Research Lab), which promotes art-related human resources development, as a precedent case. Regarding TARL’s two programmes of ‘Let’s convey art projects in words’ and ‘Share the present of art projects’, we enquired as to the image of human resources assumed by the programmes, the effectiveness of the development, the securing of diversity and accessibility, the dissemination of the programmes themselves and the challenges involved in imple-
Produce Cultural Communicators ( Professional Development ) 62
menting them. We then examined how this project could be connected to the existing activities. The project carried out prototyping for Keio University students based on the examined interview content. The image of human resources to be developed was set as ‘human resources capable of widely circulating the value and attractiveness of cultural experiences’, while the programme was entitled the ‘Cultural Communicator Workshop (CCWS)’. Please refer to the column by Kayoko Ichikawa (pp.40-43) for details of the programme’s implementation. Various attempts were made as the CCWS was in a prototyping phase this year. In order to acquire students with diverse backgrounds, we distributed flyers at international student residences and on the courses that many international students take, in addition to providing information to international exchange student-groups. We also asked restaurants near the university to display flyers in a bid to publicise the
programme in the community. As a result, students from various faculties (Faculties of Letters, Law, Business and Commerce, Economics, and Environment and Information Studies, as well as the Letters, Business and Commerce, and Media and Governance Graduate Schools) and with a wide range of grades (from firstyear undergraduate to doctoral courses) participated from different countries and areas
(US, Indonesia, Australia, the Netherlands, South Korea, China, Japan, France, Poland, Morocco). In terms of the programme content, we aim for a structure with active learning in mind. For example, in addition to interviews with cultural institutions, we invited Dr Masako Toriya (Project Senior Assistant Professor, Graduate School of System Design Management, Keio University) to
give a lecture in the form of a workshop incorporating both system and design thinking. We also held tutorial-style meetings and writing sessions before and after interviews with cultural institutions.
Report 1 Started PR for Cultural Communicators Workshop (CCWS ’18)
Oct.29 Nov.7
2 Interview with Tokyo Art Research Lab (Arts Council Tokyo)
Nov.14,26
3 CCWS’18 Part 1 “System and Design Thinking Workshop”
Dr Masako Toriya from Keio Graduate School of System Design and Management lead a systemdesign thinking workshop. Participants came from a total of ten different countries/areas.
CCWS’18 Part 2
4 “Visits and Research at Cultural Institutions” meeting
Nov.22,30 / Dec.4,6,12
PROJECT 04
We interviewed Tokyo Art Research Lab about their two projects “Let’s Put Art Projects into Words” and “Sharing Art Projects Today”, which were chosen as leading cases of professional development programmes in the cultural field.
We delivered preparatory group meetings prior to visits in order to set out the viewpoints for research and clarify the purpose of visits.
CCWS’18 Part 2
Nov.26 / Dec.3,7,10,17,28
5 “Visits and Research at Cultural Institutions”
(Toraya Archives, NHK Museum of Broadcasting, Ajinomoto Foundation for Dietary Culture)
CCWS’18 Part 3
Dec.11 / 2019 Jan.21,24 / Feb.13,14
6 “Writing Up and Editing Articles for Publication” writing sessions
We had a writing session to work on the students’ drafts in relation to the feedback from tutors and research staff at the cultural institutions we visited.
CCWS’18 part 3
7 “Writing Up and Editing Articles for Publication” SNS meeting
2019 Jan.9,11
We had a meeting with the student group in charge of SNS (Instagram) and discussed a plan to provide content through SNS based on the case study of an international student who had done an SNS internship at an art museum in France.
8 Started posting to Instagram and blog (Medium)
February - March
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05 PROJECT
In the ‘Cultural Narrative of the City’ project, we will build a model for collaboration that enables flexible and diverse collaboration between cultural institutions based on academic information. It aims in the future to define a minimum set that can be shared and implemented even if the type or size of the community or organisation in charge is different. As a survey for constructing a model, we set the two themes for this fiscal year of ‘Collaboration between university and local culture groups’ and ‘The transmission of information on cultural projects’ and held a meeting to discuss model construction. In terms of collaboration between the university and local cultural groups, a meeting was held with Mr Masaru Ito from SHIBAURA HOUSE, which operates a community space connecting businesses with local and global communities. In discussing the activities carried out by SHIBAURA HOUSE and the relationship with local communities and embassies, we had the idea to consider a project that would facilitate the exchange of the software and hardware expertise of
both parties. In particular, collaboration on hardware is highly compatible with unique venues and we therefore intend to consider it more specifically in the future. Regarding the transmission of information on cultural projects, we asked Ms Natsuki Morooka from Tokyo Art Beat (TAB), which serves as a platform for information on art events in Tokyo, to examine a model for the transmission of information on local cultural resources and project activities. Our discussion at the meeting included topics such as TAB’s editorial system and policy, the provision of bilingual information and the handling of events in semiclosed places such as temples. In addition, we discussed the possibility of collaborating on dealing with Creative Commons for publicised content. We also actively introduced the project on different occasions, including at a symposium sponsored by Minato City. At the ‘Minato City Cultural Art Network Conference’, which was composed of bodies that carry out activities related to cultural arts in Minato City, we reported our activities under the title of ‘Cultural Narrative
Develop the Project ( Project Management and Model Construction ) 64
of the City and ARTEFACT: Cultural Network with focus on “Research”. At a talk session in a symposium entitled ‘Aiming the “Port of Culture” Open to the World’ hosted by Minato City, we introduced a case study of the project and held a discussion with cultural groups based in the city. In terms of the project management, scope remains for shaping the mechanism used to share information among
project members. The project is carried out via regular planning meetings at the secretary organization (Keio University Art Center), general meetings attended by all project members and communication based on a mailing list. Despite achieving the sharing
of basic information related to the implementation of the project, we will consider the possibility of developing a mechanism to encourage more casual communication, such as the sharing of more trivial ideas and know-how.
Report 1 Regular Meeting
Jul.26 / Oct.25 Aug.1
We had a kickoff meeting for the year with all the project members, which included confirming the annual plan as well as doing the assignments for each member.
Introduced the project in the Minato City Art and Culture Network Meeting
3 (SHIBAURA HOUSE)
Oct.23
We introduced our project activities under the title, “Cultural Narrative of a City and ARTEFACT : Culture Network with focus on ‘Research’ “ in the Minato City Art and Culture Network Meeting, which has a variety of members who are engaged in projects related to art and culture.
PROJECT 05
2 The first general meeting (Keio University)
Nov.4
Introduced the project in the symposium hosted by Minato City
4 (Minato City Gender Equality Center Libra)
We introduced our project activities and had a discussion with cultural groups in Minato City. This took place in a session at the symposium titled “Minato City as The Port of Culture Open to the world”.
Dec.25
Meeting for project modeling (collaboration between
5 local cultural groups and the university): SHIBAURA HOUSE (SHIBAURA HOUSE)
We had a meeting with Masaru Ito, a representative of SHIBAURA HOUSE, in order to consider models to connect university activities with local activities. We interviewed him about the activities of SHIBAURA HOUSE, the relationship with the local community and embassies in Minato City, their future plans and the possibility to collaborate with other organisations including universities.
6 The second general meeting (Keio University)
2019 Feb.6
7 Regular meeting (project summary) Meeting for project modeling (distributing information of the cultural project):
8 Tokyo Art Beat (Not-for-profit Organisation GADAGO))
Feb.7 Feb.28
We met with Moroka Natsuki of Tokyo Art Beat, a platform that provides information regarding art events in Tokyo, in order to consider a model to distribute information regarding local cultural resources and the activities of the project.
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都市のカルチュラル ・ナラティヴ ' 18
CULTURAL NARRATIVE OF A CITY '18
執筆
Written by Yu Homma, Fumi Matsuya, Kayoko
本間友、松谷芙美、市川佳世子、宮北剛己、三浦真紀
Ichikawa, Goki Miyakita and Maki Miura
編集
Edited by the Cultural Narrative of a City Project
「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクト
( Yu Homma, Kayoko Ichikawa and Fumi Matsuya)
(本間友・市川佳世子・松谷芙美)
Designed by Hazuki Sasaki デザイン 佐々木葉月
Assisted by Ritsuko Shino, Goki Miyakita and 協力 篠律子、宮北剛己、横田朱美(泉岳寺 写真撮影)
Akemi Yokota (photographs of Sengakuji)
発行
Published by the Cultural Narrative of a City
「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクト実行委員会
Project and Keio University Art Center
慶應義塾大学アート・センター
2-15-45, Mita, Minato-ku, Tokyo, 108-8345, Japan
108-8345 東京都港区三田2 -15 - 45
+81-3-5427-1621
Tel. 03 - 5427-16 21 Fax. 03 -5427-1620
http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact
http: //art-c.keio.ac.jp /-/artefact
cunary@art-c.keio.ac.jp
cunary@art-c.keio.ac.jp 助成
Supported by the Agency for Cultural Affairs,
平成30年度 文化庁 地域の美術館・歴史博物館を中
Government of Japan in the fiscal 2018
核としたクラスター形成事業「都市のカルチュラル・ナラ
“Cultural Narrative of a City in Minato: Activation of Local
ティヴ in 港区:大学ミュージアムを核とする地域文化
Cultural Resources through University Museum Initiative”
資源の連携・国際発信・人材育成事業」 2019年3月28日
28 March 2019
表紙写真: 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクト Instagram(@culnarra) より
Cover photo: Instagram of the Cultural Narrative of a City(@culnarra)