オブジェクトディスコ展トーク概括
東京藝大美術学部総合工房棟四階建築科FM 2017年10月31日 東京大学工学部建築学科四年
楊 光耀 Kohyoh Yang
オブジェクトディスコにおける地図の読まれ方・描かれ方 ~地球儀のようなミラーボール~
オブジェクトディスコを初めて見に行った時、それはまるでモノたちからなる地図のようであった。それは、なにもそこ本当 に地図が見えているという訳ではなくて、地図とは、モノとモノが見えない無数の関係性によってつながっている、その関係 性(地)とモノ(図)がまんべんなく散りばめられた様相である。(註1)それらは、到底全てを読み出すことはできない。しか し、オブジェクトディスコは、設計されたものでもある。ならば、設計する側から、読むことと書くことを一体に考えることで、そ の地図の読み書きはある程度の自由さを可能のするものになるのではないか? その前に、地図といえば、実際によく使われる具体性の高い地図から、簡略化された抽象度の高い地図まで様々な種類 がある。それらを作成するために地理学があるが、地理学においては、特に後者の地図の作成のために、geographical semiologyー地理的記号学(註2)と言われる手法を用いて地図を作成する。ここでは、地形に現れる、特質ー属性を記号化 して、地形がどのように形成されるかという要因と、様々な地形を生み出しうるための地形の基本形としての基底とが、ここ では掛け合わされて行列をなすことで、可視化される。属性に着目し、それらを可視化することによって、地図製作を可能に している。このことは、もしかすると建築設計においても、何かしらの有効な地図を与えてくれるのではないか? ********** ここで、属性という言葉が出てきたので、2017年10月31日のイベント・トークにおいて提示された質問を振り返りながら、話 を進めていく。 『何かと何かを揃えることはデザインの最も基本的な一手です。オブジェクト同士のある性質が「揃っている」という状態 は、他属性の揃ってない「ずれ」を顕在化させます。意味を伴わない可読性を持つ「ずれ」は、オブジェクト自体に固着した意 味を解きほぐす効果がありそうです。「OD」は各操作を情報の運用として考えることで場所性の多元化を試みていますが、 それは他者からの介入可能性、ある種の公共性担保に繋がると考えられますか?』(永田・楊への質問) まず、はじめに属性間の「ずれ」の顕在化とあるが、これには質問文にもあるように、まず属性が二つ以上あって初めて顕 在化される。最初に提示した命題は、いかに読むことと書くことであったので、ここから、そもそも建築において属性はいか にして読解され、記述されてきたか、について考えてみたい。 近代建築史を辿っていくと、建築における都市の調査や地図の作成や属性の抽出について盛んに議論が行われていた 時代があった。1950年代にイタリアに始まり、日本で本格的に導入されたのは1960・1970年代である。(註3)特に、その中 でも最も広範囲な調査を行った実例として、建築家の原広司の集落調査が挙げられる。(註4) 原広司が行ったことは、各集落間に固有の属性を見出し、それらを、数学的なモデルによって書き出すことであった。具体 的にそれがどのような手法で行われていたか、調査年度を経るたびにその手法は統合化されていく。まず、初期の頃は、 各集落において、いくつかのモデルが想定されて、そのモデルによって見出された属性について、その1つの属性の有無に よって「+」と「-」の二項よって表されていた。(註5-1)やがて、属性と属性は掛け合わされて行列によって記述されるように なる。(註5-2)そして行列は高階化し、そこに含まれる属性も多くなる。ここで属性の属性という複合化が生まれる。(註5-3) (以後、複属性と呼ぶ。)もちろん、建築ましてや集落は1つの属性によって表すことのできるものではないから、こうした属