Séminaire CECRL / JF Standard for Japanese Language Education

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ヨーロッパの日本語教育の現状

CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性

2010 年度 CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修 論集

国際交流基金パリ日本文化会館


ヨーロッパの日本語教育の現状 CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性 発行日:2011 年 2 月 編集・発行:国際交流基金パリ日本文化会館


はじめに

3

第 1 部「現状と課題:研修から見えてきたもの」1 1-1 CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修

6

-研修概要と研修デザイン- 近藤裕美子(国際交流基金パリ日本文化会館)

1-2 JF 日本語教育スタンダードワークショップ

15

島田徳子(国際交流基金日本語国際センター)

1-3 CEFR テーマ別グループディスカッション

21

近藤裕美子(国際交流基金パリ日本文化会館)

1-4 欧州における CEFR の利用

32

-今後の課題と展望- 福島青史(国際交流基金ブダペスト日本文化センター)

第 2 部「各国・各機関における実践の事例と今後の課題」2 <カリキュラム・コースデザイン・評価> 2-1 CEFR 導入の試みの第一歩

40

古川彰子(レディング大学、英国)

2-2 CEFR と学習目標

48

-ロンドン大学 SOAS における一例- 田中和美(ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院 SOAS、英国)

2-3 CEFR の基準に沿ったカリキュラム作成

56

-ベルガモ、ファルコーネ言語系高等学校のケース- 田中久仁子(国立ベルガモ大学、イタリア)

2-4 継承日本語教育における CEFR による評価と JF スタンダード フックス‐清水美千代(バーゼル日本語学校 /NSH バーゼル教育センター、スイス)

1 2

所属先は、2010 年 7 月研修実施時現在 所属先は、2010 年 7 月研修実施時現在

67


<ポートフォリオ> 2-5 アイルランド中等教育用 ELP の日本語版作成・導入プロジェクト

75

織田智恵(アイルランド)

2-6 自律学習育成を目指したポートフォリオ学習

85

-ポートフォリオ活用の利点及び問題点・課題、ポートフォリオ作成を 目指した試み- 小木曽左枝子(カーディフ大学、英国)

2-7 コースデザインと評価

100

-ポートフォリオを授業に取り入れる- スルツベルゲル‐三木佐和子(チューリッヒ大学日本学科 /ベルン州立ブルグドルフ高校、スイス)

<授業実践> 2-8 Can-do 記述を導入した選択読解授業における試み

118

吉岡慶子(ライデン大学、オランダ)

2-9 「みんなの日本語」を使った CEFR 授業実践報告

124

-既存の教科書を使っての CEFR の試み- 鈴木裕子(マドリード・コンプルテンセ大学現代言語センター スペイン)

<開発・研究プロジェクト> 2-10 CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発

135

齋藤あずさ(国際交流基金ローマ日本文化会館、イタリア)

2-11 ハンガリー教材作成プロジェクト

141

松浦依子(日本-ハンガリー協力フォーラム教材作成プロジェクト チーム、ハンガリー)

2-12 CEFR B1 能力・言語活動を考えるプロジェクト

153

櫻井直子(ルーヴァン・カトリック大学、ベルギー) 東伴子(グルノーブル・スタンダール大学、フランス)

<教師研修> 2-13 CEFR 実践のための教師研修を考える

164

-教師のための「CanDo セルフチェック体験」を例に- 奥村三菜子(ボン大学、ドイツ)

巻末資料 研修参加者による「CEFR 関連研究プロジェクト報告書・論文一覧」

182


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

はじめに 本論集は、2010 年 7 月フランス東部アルザス地方にあるアルザス・欧州日本学研究所で 開催された「2010 年度 CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修」 (主催:パリ日本文化会 館、アルザス欧州日本学研究所)の研修内容、および研修参加者による、Common European Framework of Reference for Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠組み:CEFR)に基づい た各教育現場での日本語教育実践に関する報告をまとめたものである。 近年、国による違いはあるものの、ヨーロッパ各国で CEFR の日本語教育への文脈化が 徐々に進んでいる。ヨーロッパ日本語教師会のシンポジウムや各国日本語教師会のセミナ ー、研修会などで CEFR がテーマとして取り上げられる機会も増えてきた。それにともな い、ヨーロッパ在住の日本語教育関係者の CEFR への関心も高まっている。一方、各国の、 あるいは各機関の日本語教育現場における CEFR がどのように浸透しつつあるのか、また その過程で生じる課題にはどのようなものがあるのかについて、包括的にとらえる機会、 文脈化の試みの中で生まれた知見や問題を共有する機会は、これまで十分にあったとは言 えないだろう。 ヨーロッパの言語教育の動向や各国の日本語教育への CEFR の影響に関しては、ヨーロ ッパ日本語教師会・国際交流基金(2005)『ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』にまとめられている。この報告書は、 当時のヨーロッパの日本語教育の現状を調査し、CEFR の日本語教育に及ぼす影響や効果 に関する展望をまとめたものである。それは、ヨーロッパのみならず、世界の日本語教育 全体に CEFR を紹介するという貴重な役割を果たした一書である。当時のヨーロッパにお ける言語教育の動向と各国の言語教育・日本語教育の現状がまとめられており、今後のヨ ーロッパの日本語教育の発展への期待に言及されている。 上記の報告書が刊行されてから 5 年が経過したが、その後、ヨーロッパ各地の日本語教 育現場で徐々に CEFR が浸透し、CEFR に基づいた日本語教育実践の様々な試みが進めら れてきている。したがって、今現在、各地で実践されている、この現在進行形の試みと課 題を一度整理し、課題を共有しておくことは、今後のヨーロッパの日本語教育に何らかの 示唆を与えるものになるのではないだろうか。 また、折しも 2010 年には、国際交流基金が 2005 年から開発を進めてきた JF 日本語教 育スタンダードが「JF 日本語教育スタンダード 2010」という形で公開された。「相互理解 のための日本語」を理念とし、課題遂行能力と異文化理解能力の育成を目指した JF 日本語 教育スタンダードが、CEFR を参考にして開発されてきたことは周知のとおりである。し たがって、CEFR の日本語教育への文脈化を進めていく上で JF 日本語教育スタンダードが どのように活用できるのかという命題は、ヨーロッパの日本語教育関係者にとって大きな 関心事と言えよう。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

そこで、この二つの点、 「ヨーロッパにおける CEFR に基づいた日本語教育実践の現状の 把握と共有」 、そして「JF 日本語教育スタンダードの活用の可能性」をテーマにした研修を 企画してはどうだろうか、また、それを研修参加者間で共有するだけでなく、一つの形に まとめ、 CEFR に基づいた日本語教育実践としてヨーロッパから発信してはどうだろうか。 これが CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修という形で実現し、本論集作成へとつながっ たのである。つまり、本論集は、ヨーロッパにおける CEFR の日本語教育実践の試みを 2010 年現在の進行形の形で記し、現段階での課題や展望、JF 日本語教育スタンダードの活用の 可能性についてまとめたものである。 ここで少し本論集の構成について触れたい。本論集は大きく二部に分かれる。第一部は CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修にフォーカスをあてたもので、研修内容と研修の成 果・研修を通して見えてきた課題についてまとめている。本研修が何を目指し、どのよう なものであったのか、また研修を通して何が生まれ、どのような課題が見出されたのか。 これらについて、研修企画者、およびファシリテーター2 名が執筆したものを掲載した。 続く第二部では、14 人の参加者が各現場で進めている CEFR に基づいた日本語教育実践 の報告、13 事例を集めている。この 13 の事例は、 「カリキュラム・評価への導入」 「ポート フォリオ」 「授業実践」 「開発・研究プロジェクト」 「教師研修」という 5 つのテーマに分け て提示されている。もちろん、これらの事例はヨーロッパで実践されているものの一部で あるが、このテーマを一見しただけでも、いかに様々な形で CEFR の文脈化が試みられて いるかが推察できるだろう。そして一つひとつの事例、一人ひとりの実践の試みから、CEFR を日本語教育に取り入れていくことの難しさや課題、意義や可能性など、様々な側面が垣 間見られるだろう。加えて、JF 日本語教育スタンダードをどのように活用できるかという 可能性や問題点を検討するきっかけも提示される。これらは、一事例でありながらも、同 時にヨーロッパの日本語教育に共通するものである。したがって、同様の実践を行ってい る機関、あるいはこれから試みようと考えている日本語教育関係者にも十分参考になるも のではないだろうか。 本論集が、今後、CEFR に基づいた日本語教育やJF日本語教育スタンダードを活用し た日本語教育の実践を進めていく上で、何らかの示唆を与えるものになることを期待した い。また、日々奮闘している日本語教育関係者にとって何らかの一助になれば幸いである。 最後になるが、アルザス・欧州日本学研究所の方々を始め、2010 年度 CEFR-JF 日本語 教育スタンダード研修実施にご協力いただいた全ての関係者、論集作成に携わった執筆者 一人ひとりに心より感謝申し上げる。

2011 年 1 月 編者:国際交流基金パリ日本文化会館

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第1部 現状と課題:研修から見えてきたもの


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

1-1

CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修 -研修概要と研修デザイン- 近藤

裕美子

1. はじめに 「CEFR-JF 日本語教育スタンダード研修」は、 「欧州日本語教師研修会1(以下、アルザス研 修)]の 2010 年度の研修として開催された。2006 年から実施しているこの研修会は、ヨー ロッパ各国で日本語教育に携わっている教師を対象とした合宿型の研修であり、研修目的 として、各参加者の日本語教授能力の向上とヨーロッパに共通する日本語教育の課題につ いて協働で取り組んでいくためのネットワークを形成することを目指してきている。 2010 年度の研修は、これまで研修とは異なり2、CEFR と JF 日本語教育スタンダード(以 下、JF スタンダード)に特化した研修であった。本稿では、研修の概要と研修デザインにつ いて述べる。

2. 研修の概要 2.1 研修会場・日時・研修時間 本研修は、フランス東部のアルザス地方に位置する、アルザス・欧州日本学研究所(Centre Européen d’Etudes Japonaises d’Alsace:CEEJA)を会場として、2010 年 7 月 5 日(月)~7 月 9 日(金)の 5 日間の日程で開催された。参加者、講師ともに研修所に宿泊し、全日参加が義務 付けられている合宿型研修である。 総研修時間は、22.5 時間3であった。

2.2 研修実施の背景と目的 アルザス研修では 2008 年度から、ヨーロッパ各国の日本語教育に共通する課題・テーマ として、CEFR を研修の柱の一つとして取りあげてきたが、参加者の反応からも CEFR に関 心が年々高まっているのが感じられた。また、ヨーロッパ日本語教師会のシンポジウムの 口頭発表や各国日本語教師会のセミナーなどでも CEFR をテーマにしたものが散見される ようになってきた。そこで、合宿型研修で、参加者間の情報共有やネットワーク形成の機 会として適しているアルザス研修の機会を利用し、ヨーロッパの日本語教育における CEFR の現状と課題の共有をテーマとした研修を実施してはどうかという企画が上がった。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

一方、2010 年 3 月に「JF 日本語教育スタンダード 2010」が公開されたが、ヨーロッパで は、2009 年に試行版が公開された当初から JF スタンダードに関心が寄せられており、その 開発過程で CEFR を参照した JF スタンダードについて理解を深めることは、CEFR に基づ いた日本語教育実践を進めていく上で有益ではないかという期待があった。 以上の状況から、 CEFR と JF スタンダードをテーマにした研修を実施することとなった。 それは、CEFR に基づいた日本語教育実践を参加者間で共有するとともに、JF スタンダード に関する知識を深め、今後の課題を検討する場・機会を提供することを狙ったものである。 研修目的は、以下の三点である。 ① ヨーロッパ各国の日本語教育現場での CEFR の活用状況、および活用していく上 での問題点を共有することで、各参加者同士が各々の教育実践を進めていく上で の有益な示唆を得る機会を提供する。 ② ①を踏まえ、CEFR を日本語教育に文脈化していく上で、協働で取り組んでいく ための土台となるネットワークを作る。 ③ 「JF 日本語教育スタンダード 2010」に関しての情報を提供し、CEFR を日本語教 育現場で実践していく上で、JF 日本語教育スタンダードがどのように活用できる かを検討する機会を設ける。

2.3 研修参加者とファシリテーター 2.3.1 参加者 実際に CEFR に関する日本語教育実践を試みているヨーロッパ在住の日本語教師 14 名が 参加した。(稿末資料 2 を参照のこと。)

2.3.2 ファシリテーター 本研修は、参加者各自が行っている実践や持っている情報を共有し、CEFR に基づいた日 本語教育を実践していく上での課題や可能性を検討するという、参加者主体の研修である。 したがって、各セッションの担当者は、情報提供を主とした講師の立場ではなく、ファシ リテーター4として関わった。ファシリテーターは 6 名。国際交流基金日本語国際センター の専任講師、および在ヨーロッパの国際交流基金海外拠点に属している日本語教育派遣専 門家である。

3. 研修デザイン 3.1

研修の流れ

2.2 で述べた研修目的に基づいて、

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

①「情報の発散と共有」: 各参加者が CEFR に関する実践報告を行って情報を共有し、その上で JF スタン ダードのワークショップを体験する。 ②「課題の整理と構造化」 : CEFR に基づいた日本語教育実践の課題を明確化する。 ③ 「アクションプランの具体化」 ① ②を踏まえ、各自の実践をさらに発展させるためのアクションプラン・実践 のための方向づけを行う。 という三段階の大きな流れで研修をデザインした。(稿末資料 3)

3.2 各セッションの目的と内容 以下、各セッションの目的と内容について述べる。(資料 4「研修スケジュール」参照)

3.2.1 実践報告(セッション B、270 分) <目的> 各参加者が、所属機関での CEFR の取り組み状況や CEFR に関するプロジェクトの実践 状況、課題として感じていることを共有する。 <内容> 一人につき 10-15 分間の発表を行った。13 組5の発表は、 「ELP、評価関連」 「教材関連」 「コースデザイン関連+共同プロジェクト」の 3 グループに分け、1 つのグループ(4~5 組)の発表をまとめて行い、発表の後、質疑応答(15-30 分)を行った。

3.2.2 JF 日本語教育スタンダード(セッション C・D、360 分)6 <目的> JF スタンダードに関する理解を深めるとともに、すでに CEFR を参照した言語政策や言 語教育の実践が進められているヨーロッパにおいて、CEFR の日本語教育への文脈化のた めに JF スタンダードがどのように活用できるか、その可能性を考える。 <内容> 「知識編」 (180 分)と「実践編」 (180 分) 。知識編では、JF スタンダードの基本的な概 念や考え方をについてレクチャーやワークショップを通して理解を深めた。また実践編で は、具体的な活用方法に関するワークショップや JF スタンダードに関するディスカッショ ンを行った。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

3.2.3 JF テーマ別グループディスカッション(セッション E、180 分)7 <目的> 各参加者が、それぞれ関心のあるテーマについて議論を深め、CEFR に基づいた日本語教 育実践の問題点を全体で整理・共有する。 <内容> 事前に参加者から収集した「関心のあるテーマ」に関する情報をもとに 4 つのグループ (各グループ 3~5 人)を作り、話し合いを行った。

3.2.4 アクションプラン作成と発表(セッション F・G、360 分) <目的> 研修中に得られたこと(アイディアや情報、気づき)を反映させながら、今後のアクシ ョンプランをまとめる。またアクションプランを発表し、それをもとに他の参加者と議論 することで、CEFR に基づいた日本語教育を実践していく上での課題と今後の方向性をより 明確にする。 <内容> 当初は、ポスター発表の形で計画をしていたが、参加者側の要望で、セッション B の実 践報告の際の進め方のように、テーマごとにある程度まとめて全体を前に発表し、議論を 行うという方法に急きょ変更した。 3.2.5 研修のまとめ(セッション H、90 分)8 <目的> 研修中に得られた情報やディスカッションで出てきたものを全体で振り返ることで、研 修の成果を確認し、今後の課題・展望を全体で共有する。 <内容> マインドマップにまとめられた「研修のまとめ」と「今後の課題」をもとに確認した。

4. おわりに 本研修では、CEFR という、ヨーロッパの言語教育・学習・評価「共通のものさし」につ いての様々な実践やアイディアの共有の場、参加者にとっての学びの場となることを意識 して研修をデザインした。現時点での現場での実践を把握・共有し、課題をある程度整理 できたことは、一定の評価に値するだろう。しかしながら、研修の実施がゴールではなく、 それ自体で完結するのではない。一人ひとりの参加者、個々の実践にとってはあくまでも 一つの通過点である。通過点にどのような意義があったのかは、今後の CEFR に基づいた 日本語教育実践がどのような形で進められていくか、JF スタンダードがどのように活用さ

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

れていくかに委ねられていると言える。

<注> 1 2006 年から毎年夏、フランス東部のアルザス地方で実施している。 2 20062007 年度の研修は日本語教授法を中心、2008-2009 年度の研修は教授法と CEFR をテーマにした研 修を実施した。 3 7 月 7 日(水)午後の欧州評議会訪問時間を除く。 4 堀・加留部(2010)によれば、ファシリテーターの働きは 2 つ。参加者の主体的な学習を支援すること と参加者同士の相互作用を促進すること。 5 参加者は 14 名であるが、2 人で共同プロジェクトを行っている組が一組あったので、発表は 13 組。 6 JF スタンダードワークショップについては、次節(本論集 1-2)に詳しい。 7 テーマ別グループディスカッションついては、本論集 1-3 参照のこと。 8 研修のまとめについては、本論集 1-4 参照のこと。

<参考文献> 近藤裕美子(2009)「在欧州日本語教師のための広域研修-欧州日本語教師研修会実施報告」 『日本語教育紀要5号』、165-172、国際交流基金 堀公俊・加藤彰(2008) 『ワークショップ・デザイン』、日本経済新聞出版社 堀公俊・加留部貴行(2010)『教育研修ファシリテーター』、日本経済新聞出版社

- 10 -


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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料 2>

研修参加者、講師・ファシリテーター

リスト 1

<参加者:14 名> 国 アイルランド

氏名

所属機関

織田智恵

----

イタリア

田中久仁子

国立ベルガモ大学 外国語外国文学学科

イタリア

齋藤あずさ

国際交流基金 ローマ日本文化会館

英国

田中和美

ロンドン大学 SOAS

英国

小木曽左枝子

カーディフ大学 カーディフ日本研究センター

英国

古川彰子

レイディング大学

オランダ

吉岡慶子

ライデン大学 人文学部 日本語学科

スイス

スルツベルゲル‐三木佐和子

チューリッヒ大学 東洋学部 日本学科

スイス

フックス‐清水美千代

バーゼル日本語学校

鈴木裕子

マドリード・コンプルテンセ大学付属 現代言語高等センター

奥村三菜子

ボン大学 東洋アジア学研究所 東洋アジア言語部門 日本語科

ハンガリー

松浦依子

日本・ハンガリー協力フォーラム 日本語教科書プロジェクトチーム

ベルギー

櫻井直子

ルーヴァン・カトリック大学

フランス

東伴子

グルノーブル第 3・スタンダール大学 外国語学部 東洋言語学科

スペイン ドイツ

現代言語研究所

<講師・ファシリテーター:6 名> 国

現所属機関

日本

島田徳子

国際交流基金 日本語国際センター

英国

宇田川洋子

国際交流基金 ロンドン日本文化センター

室屋春光

国際交流基金 ローマ日本文化会館

三矢真由美

国際交流基金 ケルン日本文化会館

福島青史

国際交流基金 ブダペスト日本文化センター

近藤裕美子

国際交流基金 パリ日本文化会館

イタリア ドイツ ハンガリー フランス

1

氏名

「研修のしおり」をもとに作成。所属先は 2010 年 7 月研修実施時のもの。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料 3>

研修デザインフローチャート A; オリエンテーション B; 口頭発表「実践報告」 各参加者が所属機関での CEFR の取り組み状況や CEFR に関するプロジ

発散・共有

ェクトの実践状況を紹介し、参加者間で共有する。 各発表 10-15 分を予定。3~5の発表を1ユニットとし、各ユニットの 後に質疑応答の時間を設ける。 発表内容は事前課題として準備。

C、D: 講義・ワークショップ 「JF 日本語教育スタンダード」 JF 日本語教育スタンダードに関する理解を深めるとと もに、すでに CEFR を参照した言語政策や言語教育の実 践が進められている欧州において、CEFR の日本語教育 への文脈化のために JF 日本語教育スタンダードがどのよ うに活用できるか、その可能性を考える。

E; CEFR:テーマ別グループディスカッション A のセッションを踏まえて、CEFR 実践のための課題について議論を深 めながら、問題点を整理し、共有する。

整理・構造化

ディスカッションのテーマは、各発表者の口頭発表のキーワードと関連 付けて、設定。

欧州評議会訪問

F、G; アクションプラン作成とポスター発表 B~Eのセッションを踏まえ、今後のアクションプランをポスターにまと めて掲示する。このセッションの目的は他者に分かるようにまとめるという プロセスを通して、アイディアやイメージを具体化する点にある。 アクションプランの内容は、Bで発表した現在の実践をさらに改良、深め たものでも、C、D,Eを踏まえて新しく考えたプランやプロジェクトでも よい。

H; まとめと振り返り 研修中の実践報告やでディスカッションで上がった議題のまとめ、今後の アクションプランのまとめ。

具体化


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料 4>

研修スケジュール 7月4日

7月5日

7月6日

7月7日

7月8日

7月9日

(日)

(月)

(火)

(水)

(木)

(金)

朝食

朝食

朝食

朝食

朝食

C

E

F

H

JF

グループディス

アクション

まとめと

スタンダード 1

カッション

プラン

論集について

(島田)

(近藤)

作成

(福島)

8:00- 朝食 9:00

A オリエン

9:00- 1 時間目

テーション

10:30

(近藤)

(室屋)

B 11:00- 2 時間目

実践報告 1

12:30 (宇田川)

12:30

12:10

11:30 12:00

昼食 解 散 昼食

12:30- 昼食

昼食

13:20

昼食

14:00 13:45

【CEEJA 発】

B

D

実践報告 2

JF

(宇田川)

スタンダード 2

欧州評議会

(島田)

訪問

14:00- 3 時間目 15:30

【15:00- 18:30 予定】 B

G

アクション プラン 発表

16:00- 4 時間目

実践報告 3

(三矢) 17:00

17:30 (宇田川)

17:30- 自由時間 19:00 18:30

20:00

レセプション

【CEEJA 着】

19:00- 夕食 20:00

夕食 集 合 顔合わせ

20:30-

夕食

CEEJA 施設説明

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夕食


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

1-2

JF 日本語教育スタンダードワークショップ 島田

徳子

1. ワークショップの概要と本稿の目的 JF 日本語教育スタンダード(以下、 「JF スタンダード」 )のワークショップは、5日間の 研修期間の2日目の終日を使って行われた。本ワークショップの目的は、すでに CEFR を 参照した言語政策や言語教育の実践が進められている欧州において、CEFR の日本語教育 への文脈化のために JF 日本語教育スタンダードがどのように活用できるか、その可能性を 考えることであった。 午前のセッション C では、まず JF スタンダードの概要説明を行った。そして、講義とグ ループワークを通じて、JF スタンダードを理解するために必要となる知識として、「JF ス タンダードの木」 「6つのレベル」 「Can-do」に対する理解を深めた。午後のセッション D では、午前の内容をふまえ、 「MY Can-do 作成体験」「Can-do を活用したコースの目標設 定と評価基準作成方法の紹介」 「みんなの Can-do サイトの活用方法の紹介」を行い、最後 に全体で JF スタンダードについてディスカッションを行った。 本稿では、ワークショップ終了時の全体ディスカッション時の参加者のコメントと事後 アンケートの結果からワークショップに対する参加者の評価について報告し、ワークショ ップの成果と課題について述べることとする。

2. ワークショップに対する参加者の評価 2.1 ワークショップ終了時の参加者のコメント ワークショップ終了後の全体ディスカッションにおいて、参加者から得たコメントは次 の通りである。参加者のコメントから、CEFR の理念や内容に基づいて作成した JF スタン ダードであるが、ヨーロッパの文脈とは異なる JF スタンダードの理念や今後の発展の方向 性をわかりやすく示していくことが期待されていることがわかる。 ・ CEFR と JF スタンダードの関係が理解できた。 ・ JF スタンダードがあることで、CEFR を現場に導入しやすくなる。 ・ 「2010 に理念とビジョンが書かれていない」 ・ 試行版と JF スタンダード 2010 の内容にはギャップがある。理念はどこにいった のか? ・ 一番大切な部分がなく、マニュアルっぽい。マニュアルとしてはわかりやすい。

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・ どうしてこういうことをやる必要があるかということを、きちんと理念として書い てもらわないと、何のためにやるのかがわからないため、現場の先生を説得するこ とが難しい。 ・ JF スタンダードや CEFR などを普及するには、教師の「意識を変えること」と「知 識を与えること」を時間とお金をかけてやっていく必要がある。 ・ CEFR を作ったヨーロッパとは異なる状況において、JF は、あるいは日本では、 JF スタンダードをどうしていくのか。日本の先生方へのワークショップなども計画 されているのか。 ・ ツールだというのはわかるが、何のためにそのツールを使うのか、CEFR と同様に 決してそれが楽な道ではないかもしれないのに、あえてそれを使うというには、そ れを使う意義や意味があるはずだ。

2.2 事後アンケートの結果 ワークショップ終了後、JF スタンダードに関する事後アンケートを実施した。事後アン ケートは、 「JF スタンダードの木」と「Can-do」に対する 15 の評価項目に対して「5:と てもよくあてはまる、4:あてはまる、3:どちらともいえない、2:あてはまらない、1: まったくあてはまらない」の5件法で回答する部分と、 「JF スタンダードをどのような目的 で使える、使いたいと思っているか」 「JF スタンダードに関するご意見、ご感想、今後期待 すること」を自由記述で回答する部分の2つから成る。以下、事後アンケートの結果につ いて報告する。

2.2.1 JF スタンダードの木、Can-do に対する評価 表1は、事後アンケートの「JF スタンダードの木」と「Can-do」に対する評価を集計し たものである。概ね肯定的な評価であるが(全体平均:4.20) 、「JF スタンダードの木」に 対する評価は「JFスタンダードの木を使うと、コミュニケーション言語活動の多様な広 がりを理解しやすくなる」という項目に対する評価が最も高く(平均:4.71) 、 「Can-do」 に対する評価は「Can-do を使うと、実生活のコミュニケーションを想定した目標を立てや すい」という項目に対する評価が最も高かった(平均:4.50) 。一方、 「JF スタンダードの 木」や「Can-do」の「方略・テクスト・言語能力」に関する項目において評価が低い傾向 が見られた。 言語活動については CEFR が提供している Can-do に加えて JF が独自に開発した JF Can-do を提供しているのに対し、言語能力・方略・テクストに関しては『JF スタンダー ド 2010』の段階では CEFR の Can-do をそのまま提供しているのが現状である。言語能力・ 方略・テクストに関して、JF スタンダードが日本語の独自性を今後どのように実現してい くかは大きな課題であるため、今回の事後アンケートの結果は JF スタンダードの現状に合

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った妥当な評価だと言える。

表1 事後アンケート集計結果(Q1) 5: とてもよくあてはまる 4: あてはまる 3: どちらともいえない 2: あてはまらない 1: まったくあてはまらない

平均 n=15

設問 「JFスタンダードの木」を使うと、コミュニケーション言語能力とコミュニケーション 1 言語活動の関係をとらえやすくなる。

4.64

「JFスタンダードの木」を使うと、コミュニケーション言語活動の多様な広がりを 2 理解しやすくなる。

4.71

「JFスタンダードの木」を使うと、コミュニケーション言語能力の構成要素として、 3 どのような能力があるか理解しやすくなる。

4.21

「JFスタンダードの木」を使うと、コミュニケーション言語活動(受容・産出・やりと 4 り)に必要な方略として、どのような方略があるか理解しやすくなる。

3.71

「JFスタンダードの木」を使うと、あるコミュニケーション言語活動を効果的にお 5 こなうために必要な方略は何かが明確になる。

3.36

「JFスタンダードの木」を使うと、受容・産出・やりとりなどの活動に分けられない 6 中間的な活動(テキスト)があると認識できる。

3.86

Q1-Q6(JFスタンダードの木) 平均 「Can-do」を使うと、日本語の熟達度をCEFRの6レベルで客観的に把握するこ 7 とができる。 8 9 10 11 12

「Can-do」を使うと、他の人や他の機関と熟達度や目標を共有できるようにな る。 「Can-do」を使うと、学習の目標を明確にすることができる。 「Can-do」を使うと、実生活のコミュニケーションを想定した目標を立てやすい。 「Can-do」を使うと、目標を達成するために必要な能力や方略についてとらえや すくなる。 「Can-do」を使うと、目標と評価があっているかどうかわかりやすくなる。

「Can-do」を使うと、学習成果を測る為に必要な能力や方略についてとらえや 13 すくなる。 14 15

「Can-do」を使うと、学習の成果を測るための「自己評価チェックリスト」を作り やすくなる。 「Can-do」を使うと、学習の成果を測るためのテストを作りやすくなる。

4.08 4.14 4.43 4.36 4.50 4.07 4.43 4.29 4.07 4.14

Q7-Q15(Can-do) 平均

4.27

Q1-Q15(全体) 平均

4.20

2.2.2 JF スタンダードをどのような目的で使える、使いたいと思っているか 事後アンケートの自由記述欄の記述を分類整理した結果、次のような内容が、JF スタン

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ダードの活用方法として挙げられていた。 ・シラバス・コースデザイン ・カリキュラム・シラバスの見直し ・授業設計 バランスのとれた授業設計、タスクやアクティビティのデザイン、目標の明確化 授業のふり返りと改善のためのツール ・評価 評価の見直し、目標と評価の一貫性 学習者のレベル測定 オーラルテストの可能性検討、独自テストの開発 客観的な説明が可能 ・自己評価 コース前のサーベイ、自己評価の学習者と教師の共有、自己評価やポートフォリオの 可能性検討 ・自律的学習 学習の動機付け/学習促進、学習者自信の目標設定 ・他機関との連携・説明 日本へ送り出す際の報告書作成、他大学との連携 ・共有 評価やシラバス作成を共有、教師間の共通言語、他言語と熟達度のものさしを共有 ・教材開発 ・教師研修 使いこなすには勉強が必要、言語活動一般について理解を深めるためのツール ・多様な学習者のニーズ JF スタンダードを使って、学習者のニーズや目標をモニターし、よりきめ細かな指導 が可能、学生へのフィードバックに使える

2.2.3 JF スタンダードに関する意見・感想・今後期待すること 事後アンケートの自由記述欄の記述を分類整理した結果、次のような内容が、JF スタン ダードに関する意見・感想・今後期待することとして挙げられていた。 (1) JF スタンダード 2010 の理念や基本姿勢への言及 ・JF スタンダード 2010 は、理念に関する記述が不足している ・理論的背景、言語政策の一環、外国語教育の位置づけについて冊子で言及すべき ・開発に尽力したメンバー名を掲載してほしい(基金のメンバーとして公にしてほしい) ・日本語も他の外国語の一つとして扱われることを望む ・一般能力をどのように扱うかを枠組みあるいは具体例で示してほしい

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(2) セミナー・ワークショップの実施、現場サポートの必要性 ・ワークショップ受講が必須、勉強会の実施、一般向けワークショップの実施 ・Can-do の選択や、MY Can-do の作成に対する不安 ・調査研究、実践研究等へのアドバイスやサポート ・現在開発中の教材との関わりが不安 (3) Can-do の充実 ・CEFR Can-do の記述に関するコメント ・能力 Can-do、方略 Can-do の充実、日本語の独自性に配慮した Can-do の開発と提供 ・仲介活動に関する Can-do の提供 欧州では重要な言語活動であるため、ドイツ語プロファイルの翻訳を参照できるとあ りがたい ・漢字・表記に対する配慮(コメント多数) ・日本語や日本語使用の特徴への配慮(コメント多数) ・ヨーロッパのスタンダードに左右されて、日本語で必要なものを忘れるべきではない (4) 教科書の提供 ・現場で役立つものの開発と提供(教科書、補助教材、テスト) ・教材の具体例 (5) 日本語能力試験や既存教材との連関 ・よく使われている教科書と JF スタンダードの関連 ・JF スタンダードの 6 レベルが JLPT に結びつくといい (6) ポートフォリオの具体例の提示 ・ポートフォリオについての活用事例の提供 ・JF スタンダードの具体的な使用例 (7) Can-do サイトをより使いやすく ・Can-do を検索するときのチェックフィルターに「言語使用者」も追加してほしい

3. ワークショップの成果と課題 本ワークショップは、CEFR が誕生したヨーロッパにおいて、JF スタンダードのワーク ショップを実施できるよい機会となった。CEFR を熟知した参加者との対話は、CEFR と JF スタンダードの関係性や差異について再確認する機会となった。研修中の参加者の反応 および事後アンケートの結果から、参加者が JF スタンダードの目的や内容などに対する理 解を深め、立場や状況に応じて今後 JF スタンダードをどのように活用したらよいかを考え るための材料を提供できたのではないかと考える。また、JF スタンダードの今後の充実と いった観点からは、現在の JF スタンダードに不足している点や今後継続して開発していか なければならない点などについて、研修参加者との対話を通してより明らかに把握するこ

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とができた。特に、日本語や日本語使用の特徴をどのように盛り込んでいくか、その方向 性を検討する必要がある。そのためには、先行研究の知見を生かし、JF 外の調査研究プロ ジェクトのメンバーとの意見交換や協働作業が必須となるだろう。

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1-3

テーマ別グループディスカッション 近藤

裕美子

1. はじめに グループディスカッションは、5 日間の研修の中日、第 3 日目に行われた。研修前半のイ ンプット・情報の共有が中心のセッション(各参加者の実践報告と JF 日本語教育スタンダ ードに関するワークショップ)と研修後半のアウトプット(アクションプラン)をつなぐ 位置づけである。関心のあるテーマについて様々な視点から話しあうことで、議論を深め、 ポイントや課題を明確にすることを目的としたセッションである。 本稿では、テーマ別グループディスカッションの進め方について触れ、そこで話し合わ れた内容について考察する。

2. セッションの進め方 本セッションでは、事前に参加者から収集したディスカッションの希望テーマに関する アンケートをもとに、4 グループ(3~5 人)に分かれて話し合いを行った。グループワー クの手順は、下記のとおりである。 ① テーマに関して思いつくキーワードを各人が付箋に書く(5 分) ② カード式分類法でまとめながらグループでそのテーマについて議論を深める (60 分) ③ 発表準備(5 分) ④ 各グループの発表・全体共有 これを一連の流れとし、全部で 2 回行った。

3. グループディスカッションのテーマ のべ 8 つのグループのディスカッションを行ったが、テーマは、以下の 5 種である。 ① 読み書き・文字表記(2 グループ) ② ポートフォリオ ③ 実践につなげる研究プロジェクト(2 グループ) ④ 教師研修、教師間の連携 ⑤ 教材

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上記のテーマは、第一日目の実践報告(セッション B、本論集 1-1、2.2.1)の際のカテ ゴリー( 「ELP、評価関連」 「教材関連」 「コースデザイン関連+共同プロジェクト」 )と一部 重なる部分もあるが、より具体的で幅広いテーマについて話し合いが行われた。

4. 考察 各グループで話し合われた内容は、議論の過程で生まれた成果物(キーワード・マップ、 稿末資料)を参照いただきたい。以下、キーワードマップに基づいて、テーマごとの議論 のポイントを簡単にまとめた。 ①読み書き・文字表記 ・非ヨーロッパ言語を学習する際の CEFR のレベルとの関連性 ・読み漢字と書き漢字の設定 ・テキストの選定 ・読解や作文、漢字の指導法 ・学習ストラテジー ・自律学習と評価 ②実践につなげる研究プロジェクト ・プロジェクト実施に必要な構成要素:リソース(人) 、目的、内容、方法・手順、 成果、プロジェクトのテーマ設定の視点、必要なもの(お金・時間) ・プロジェクト実施の前提として検討しておくべき課題 ・プロジェクト実施の流れ ③ポートフォリオ ・開発のための前提条件や前提となる課題 ・開発中に考慮すべき留意点 ・使用に関しての課題 ・ポートフォリオを含めた評価全体の問題 ④教師研修、教師間の連携 ・研修デザイン(研修の対象、目的・目標、意義、研修形態)の検討 ・ 「CEFR の理念」-「知識」-「現場での実践」の三者の関連性 ⇒研修テーマ、研修形態 ・実施のための問題点(時間や資金) ・研修のフィードバック

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

⑤教材 ・既存の教材の問題点や課題 ・教材のビジョン、内容に関するアイディア ・教材作成上の課題 ・教材作成後のフォローアップのアイディア(教師研修等) これらのポイントやキーワードマップは、CEFR を日本語教育現場で具現化していく過程 で現場の教師が課題としていることを明示している。 また、各グループの議論は、テーマも具体的に話し合われた内容(成果物)も異なるが、 全体として、それぞれのテーマに関して「現状認識」 「課題の整理、ポイントの明確化」 「今 後のアクションプランのアイディア、実現のために必要な項目」が押さえられている。加 えて、各キーワードの相関関係、因果関係が線や矢印で結ばれ、図式化されている。 つまり、このグループディスカッションの議論を通じて、CEFR に基づいた教育実践を進 めていく上での課題やポイントが、よりホーリスティックに、かつ具体的で明確にとらえ られたと言えるのではないだろうか。そしてそれは、研修後半のアクションプラン、最終 日の研修のまとめと CEFR に基づいた日本語教育の実践を行っていくための、今後の課題 (本論集 1-4)へと繋がっている。

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<稿末資料>

セッションE

テーマ別グループディスカッション成果物

1.読み書き・文字表記(1)

三木・小木曽・齋藤・櫻井

漢字語彙指導法 レベル設定 ・漢字レベル/語彙レベルの関連性

読解 ・読み授業と書き授業の連携 ・テキスト難易度の設定 ・多読の行い方

・問題のバリエーション -漢字の効果的な指導法はあるか。 -小テストは効果があるか。

・学習対象者によっての漢字選択 ・レベル A1、A2、B1、B2 に振り分け る漢字の範囲は?

・漢字を 短期→長期記憶へ -他授業との連携

CDS ストラテジー

読み漢字 書き漢字 ・漢字の「書ける」と「読む」

・ポートフォリオ ・漢字、読解のストラテジー指

・学習到達目標と行動目標の違い

導はどうすればいいか。

・読む、書くことがアルファベット言語を

・漢字を学習するためのストラ

母語とする学習者にとって難しいので、

テジーとなる漢字や部首の学

「Can-do」チェックリストの作り方が難しい

習行動と目標のつながり

・文字(特に漢字)を考えると「Can-do」で 何をもってできるかの判断が難しい

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-特に「書く・書ける」の学習範囲は?

・読み漢字、書き漢字分け


2.読み書き・文字表記(2)

吉岡、鈴木、松浦、東 読解 ・読解の中の漢字指導

・学習者のニーズと CEFR に合わせた読

・モチベーション -日本語上達以外のモチベーション?

解授業とは?

モチベーション

どれを? ・CEFR に合わせた漢字とは何か

・Can-do に即した漢字

・教材・テキストの選び ・漢字の教え方とは?

-ヨーロッパで出会う漢字とは? 漢字

どんな?

テキスト

方(基準) ・CEFR での漢字タスク

たもの

・コミュニカティブな日本語

・漢字提示の順序

・古典、漢文 -いつ、どこで? ・翻訳の教え方

-直したいがこだわらなくて

どのレベルを?

・スペシャリスト用読解

・実践的な目標での読解 ・書き順、時の崩れ ・CEFR での漢字指導

・生教材⇔教材化され

発展

評価

いい?

・読解と関連して要約や訳

・どこまで分かれば「理解し

・CEFR の漢字レベル別

た」と言えるか。

の学生に漢字がどのくら い入れられるのか ・各国に合わせたトピックとは? ・どの漢字を教えるか

・場面ごとの漢字とは?

作文

-低いレベルでは?

・漢字の扱い

-高いレベルでは?

-意味、読み、書き 自律学習

・辞書活用法

・自律学習で何ができるか

・自立性を促進する教え方

・授業で何ができるか

・学生のペア評価

・読解授業とのつながり

困った・・・ ・ルビの問題 -どの時点までルビ をふるか

・WEB 利用

ッパの漢字の温度差

が大変 -読み書きの取り入れ方

・差が激しいときどうするか -日本(中国、韓国)とヨーロ

-学生の自由記述→先生

・ポートフォリオ活用 - 25 - ・JF スタンダードでは期待!

・書くと読むの漢字の差 ・書けない、読めないが理 解できる漢字の扱い ・どこまで直すか -ポジティブに直せるか ・手書きの必要性 -PC で書く

どうやって?


3.ポートフォリオ

奥村・小木曽・古川・織田

開発

使用に関して

・政治的意志

開発途上

・開発を誰がするか ・ポートフォリオ学習・評価の機関

学生

・使用する側

・学生トレーニング

・使用する際の導入方法

での取り入れ (教師が取り入れたくても、機関

・教師側

物理的問題

が積極的ではない)

・時間的制約 ・教師のトレーニング研修

・効果的な使い方 -使う時間が授業で

・目的、対象が無数

・教師養成

・現場によって目的別 ・教師間コンセンサス

・教師数 ・学生数

限られている

・人数の多いクラスの

・学生が日本語に費や

場合どうするのか

せる時間

-時間は限られている

・教師の時間的制約 ・誰のものか

・邪魔、重い、なくす 外

・フォーマット形式

-特に教師全員が

継続性

パートの場合

場所

-ファイルの形

中 身

・チェックリストの作成

・自己評価で楽観的な学生と悲観的な学生の扱い

・「読むこと」「書くこと」の自己評価

・教育機関評価基準との折り合い

チェックリストの作成 ・わかりやすい自己評価チェックリ ストの作成が難しい ・チェックリストの上位項目、下位 項目の混在 ・漢字の問題

・試験 ・ポートフォリオの評価はそんなに簡単ではない ・大学入学資格試験との折り合い ・評価 -ピア評価、自己評価、教師評価 ・自己評価の仕方が難しい - 26 - -自己評価がきちんとできる学習者にするためのトレーニング

評価


福島、斎藤、田中(和)、櫻井

4. 実践を研究につなげるプロジェクト(1)

リソース だれ ・人的リソース -リーダー、アドミ(管理) -メンバーの選択 -アドバイザー

目的 ・テーマの共通理解 -共通目的意識 ・情報の共有 -コミュニケーション ・お互いの利点、利益

・調査

・計画

-読み書き A-B

・プロセス

-異文化

・トレーニング -実践する人と

-中等向け短期コース

・資金 ・時間

-発表、出版など

-ヨーロッパ場面

-仲介 CDS

視点

・教材

・教師

-漢字

・学習者

-ストラテジー

・研究者

-漫画、アニメ、ドラマ、

・政策

社会学、日本語

- 27 -

成果 ・発信の方法

・調査

・コースデザイン

・スポンサー

・準備

-ニーズ(接触場面)

・人とのつながり

もの

どうやって

研究する人の気持ち ・協同チーム


フックス、古川、東

5. 実践を研究につなげるプロジェクト(2)

アプローチ②

・CEFR 応用の前にもっと明 確化しないと! ・CEFR の取り入れに「主 観」「経験」以外のものが ないか

CEFR

・方法論の可能性

どのようにしてできたか

-ビデオアンケート? ・共同作業に適したテーマ ・methodology

かかるか

レベルの明確化と共有

・ある学生のビデオを見

・各国、各機関の判定基

て、各国の教師が判定

準を比較する

する

・各国の判定基準と学習

・先生の

者のビデオ等を比較、

think-aloud protocol

・どのようなテーマで研究

の取り入れにヒントがで

師の解釈イメージを調べる

調査(現状)

・問題点を絞り込む

-研究の積み重ねで CEFR

よって成り立っているなら、教

先生方の持つイメージ

アプローチ①

・CEFR 解釈はバイヤスが

ができるか

もし教師の経験などの合意に

プロジェクト以前の問題

調査する。

・学習者(特定の)ビデオ ・どこに大きな違いがあるか →どこがあいまいかが分かる?

等をそれぞれの教師が

・まずは書いたもの? -話したことはより

判断する

ばらばらだろうから、調 べる価値あり?

きる ・トピック選び

・各レベルの社会言語学的能力 これから

・言語的能力、社会言語学的能 力を A1A2 etc…

具体例 ・CEFR 評価における問題点 ・教材作成プロジェクト ・CEFR 評価のためのチェック リスト ・レベル判定 -例)B1とはどんなレベルか ・CEFR 評価のためのチェック リスト

流れ ・理論と実践のつながり -CEFR→理論→現場 JFSTD ・色々な個別の基礎研究を合わ せると CEFR が見えてくる

・実験などをする場合の対象 -学生・教師の確保 ・どのように取り組むか考える

・現場→理論 CEFR -プロジェクト、研究→ 現場での応用・還元

・グループ組織作り

・先行研究がどの程度あるのか

・プロジェクトを広く紹介する方法 (出版、セミナーetc) - 28 -


田中、三木スルツベルゲル、フックス

6. 教師研修・教師間の連携:「欧州での教師養成」

フィードバック

形式

・教師間のつながり

目標

・教師、参加者のレベル差

-ネットワークをはかる

・CEFR に関する知識

-学習対象(小中等高等教育、成人)の養

-報告書

・コア・プログラムの設計

・各国の教師研修の成果をシェアする

-ネイティブ、ノンネイティブ別の教師養成

・教材開発のための同じ興味のある

-新・経験の浅い教師の養成

分野での集まり

・CEFR の理念、CAN-DO の知識徹底化 ・CEFR を利用した学習者に対する教師の 意識革命

・教師研修の PP などのシェア

・教師研修会オンライン化 -スカイプなどの利用

・既存の教材、ツールの使用法 ・Can-do を利用した授業の実例

問題 ・場所

・講師

・機材

・期間

・お金(資金)

・専門家派遣(JF?資金)

-養成コース開催への教師/講師の派遣 ・支援期間

・国際交流基金

- 29 -


7. 教師研修・教師間の連携

奥村、織田、田中(和)

リソース 資金などのリソース

人 流れ

対する機関からの金銭的

だれが先導するのか

・今、何が本当に必要

そのため作った時間に

目的

対象 コースコーディネータ用研修

かを見極める

現場教師用研修 (まず、明日から取り組めること)

時間

・機関内の教師の知識 浸透

(JF) ・地域、国内、機関内 の教師 意識改革、知識 ・意識の一本化(共有)

問題点

CEFR?

疑問点

・養成の方法の見直し 教師用マテリアル

他機関との 共有

何を JF スタンダード?

・相互研修(ピア?)

・機関と現場教師の間つなぎ?

・ワークショップ

・実践型研修

・理念研修

・ボトムアップ型研修

-集まれば良いということではない

どの様に ・現場でのスキル以上に教師が

CEFR 理念 知識

全体の中でどこにいるかを はっきりさせる ・体験型研修

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実践

・トップダウン型研修

・機関内の教師の協同 体制 ・現地法人の教師との ギャップ ・教師個々人のニーズ ・教師のやる気

教師のための スターターキット(?)


鈴木、吉岡、田中(久)、福島、松浦

8. 教材 ・他のヨーロッパ言語の ・ヨーロッパ全体でのプロジェクト

・教材が尐ない

既存教材の分析

CEFR に即した教科書のデジタル版 授業内にとどまらず、 学習が続くためにはど

・各機関のニーズに合わせ作る

・プロジェクトとして、まず何を CEFR 独習者向けの教

には金と時間がかかる

始めたらよいか

困った・・・

材はどういうものか

・縛りが多い

んな工夫が必要?

-出版社、理念、スポンサー、

ウン!?

カリキュラム、使いやすさ

紙ではなく、オンライン / デ ジ タル 化 して 自 律

教科書指針

学習に向く教材開発?

・Can-do を中心とした教材を新

・CEF レベルに合わせた教材とは?

→各国でアレンジ

・自国の場面だけでいいの?

たにつくる(会話教材?)

・CEFR に即した教科書のトピックス ・異文化交流(交流紹介)のタスク

・一国一冊ではなく、ヨーロッパ

・シラバス部分 A1 の言語構造部

で部分的にでもシェアできる教

分はヨーロッパでシェアできな

材の開発

いか

・コミュニケーション 5 つ の言語活動タスク

-異文化を取り入れたいが、どう 教材化すればいいか

・表現文法の見直し

・タスク 特に漢字

-話し言葉/書き言葉

-漢字の教材とは?

>文法項目

-表記の問題

・日本の場面だけでいいの?

・教材におけるタスクと

教材なのか

・写真・イラスト集め

評価が合っているか

・補助教材 -CD/DVD ・指導書

・(自己)評価をどうするか ・Can-do とディスコースが -言語と同時に(異)文化関係を挿 入していけるか

うま く関 係付け ら れて

・著作権の問題

いるのか分からない。

・事務手続き大変

困った・・・

・プレゼンテーション

できた!

・誰にあわせでどこで使う

・教師に CEFR 教材の意図が伝わるか? -教材の使い方 ・教師ワークショップ、トレーニング - 31 -

・既存教材ツールの利用 (JF スタンダード等) ・各国教師の共同作業


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

1-4

欧州における CEFR の利用 -今後の課題と展望- 福島

青史

1. はじめに 2010 年の欧州日本語教師研修会(アルザス研修)では、欧州の日本語教育における CEFR の実践報告や問題点について紹介・議論がなされたが(本論集 1-1、1-3 を参照)、本稿では 研修中の議論から明らかになった今後の課題・展望について記す。これらの課題は複合的 であり、重複する点もあるが「欧州の日本語教育で CEFR を利用する」という文脈の課題・ 問題群として捉えてほしい。また、この課題はアルザス研修参加者が解決すべきものとし て挙げられているわけではなく、広く欧州の日本語教育が共有する課題であり、各々の現 場、あるいは共同で取り組んでいければと思う。

2. 課題・問題群の記述 本稿で記述する課題・問題群は、アルザス研修中に議論された内容、発言などを、筆者 がマインドマップの形でメモをしたものが元になっている(マインドマップは稿末資料: pp35-36 を参照) 。項目には大きく分けて「調査・開発」が必要なものと、 「応用・実践」に 関わるものがあり、前者は今後、解明すべき「問題群」に近く、後者は実践の「課題」と も解釈できる。以下、各項目で特筆すべき点につき述べ、最後に今後の行動計画について 記す。

3. 「調査・開発」が必要なもの 「調査・開発」が必要なものは「欧州の日本語教育で CEFR を利用する」という文脈に おいて明らかにしなければならない「問題群」としてある。問題群は「日本語教育(言語 能力) 」と、 「新開拓分野」の二つに分かれる。前者の問題の多くは言語学、言語教育の文 脈において非ヨーロッパ言語である「日本語」の文脈化に関わる問題が多く、後者は今ま で言語教育が扱わなかった分野で、CEFR が新たに導入した能力・技能、メディアなどに関 わる問題である。

- 32 -


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

3.1 日本語教育(言語能力) 3.1.1 言語行動=欧州での日本語使用場面 言語行動における問題群は「欧州での日本語使用実態」の記述を要求する。例えば、カ リキュラムを作る際、学習者がどのような場面、どのようなテーマで日本語を使用するの かという点を明らかにしなければシラバスが立てられない。それぞれの現場で状況が違う ので一般化はできないが、欧州における日本語使用場面の技能別言語活動、そのタスクや 実際のディスコース、ストラテジーなどを記述し共有すれば、行動中心主義的なシラバス 作成に有効であろう。

3.1.2 言語能力=日本語の特殊性 言語能力とは日本語の構造や表記の問題群であり、3.1.1 の言語行動において提出された 言語行動について、必要な言語的知識を記述していくことになる。このアプローチで議論 になったのは漢字の問題である。例えば、CEFR における「読む」「書く」分野の能力記述 から、漢字を選択することは不可能であり、ガイドラインが必要である。また、コンピュ ータを使って「書く」 、辞書を用いて「読む」といったメディアを媒介させることも、実際 の言語使用の現場を考慮すると考えたほうがいいだろう。 語彙、文法についても言語行動との関連で再構成する必要がある。例えば同じ「自己紹 介する」という行動においても A1 と A2 では違う語彙、文法を使用する。これら行動・タ スクからレベルに応じた語彙・文法・表現などを記述していくことも課題となる。

3.1.3 評価=ELP との関連で 評価については主に ELP との関連で日本語教育についてもポートフォリオ評価が早晩導 入されるだろう。よつて、ポートフォリオの開発、実践方法などの共有は有効だろう。欧 州評議会においても、2009 年の Platform や Autobiography of Intercultural Encounters など、異 文化間教育が重視され、ポートフォリオの使用に期待がかかる中で、自律学習支援のため の利用とともに異文化間体験としての利用も今後の開発が期待できるだろう。

3.2 新開拓分野 3.2.1 一般的能力 CEFR において言語コミュニケーション能力と並び「言語使用者の能力」とされる能力で あり、異文化間能力、学習能力、実存的能力などがあげられる。アルザス研修においても 日本語教育を「文化教育」との関連で取り上げる機関も多く、欧州の日本語教育が今後開 発可能な分野である。 「異文化間教育」も「文化教育」も「言語教育」の付属物のような扱

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いであることが多いが、一つの能力として位置付けることで、「言語教育」が主となるコー スとは違ったコース目標、カリキュラム、教材などの開発が必要となる。

3.2.2 継承語としての日本語教育 欧州には国際結婚による家族も多く、継承語としての日本語教育に対する潜在的需要は 高い。特に認知発達や人格形成時にある子どもの教育において、継承語はアイデンティテ ィ形成の面で重要な役割を果たす。このような言語のありかたは「複言語主義」教育の一 環としての日本語教育として非常に意味のあるものであり、教育方法の開発や社会的ネッ トワーキングなど今後の課題は大きい。

3.2.3 マンガ・アニメ・ドラマ・歌 いわゆるサブカルチャーとしてのコンテンツを日本語教育の中にどう取り込むか。日本 語教育をことばの教育としてのみ捉えると、周縁化してしまうこれらのコンテンツは、日 本語教育を学習能力、発見能力、実存的能力、異文化間理解能力の育成としてとらえるこ とにより前景化する。ただ、このコンテンツも未だ副次的なものと見られているので、方 法論の開発が必要である。

3.2.4 仲介技能 CEFR において受容、産出、やりとりと並ぶ活動としてある仲介技能であるが、CEFR で の扱いは他に比べて極めて薄い。しかし、欧州における日本語教育を考えた時、言語の仲 介(翻訳・通訳) 、文化間の仲介は極めて実践的な課題である。CEFR は日本学・日本研究 を主専攻とする高等教育機関での導入という分野では報告が少ないが、「文献研究」には仲 介技能が必須技能であり、専門教育と語学教育との橋渡し的な機能を果たす可能性がある。 また、欧州には外国語ができる日本語教師が人材としてあることを考慮すると、元来別分 野と考えられている「通訳・翻訳」と「日本語教育」の融合も期待できるだろう。

3.2.5 CEFR 参照の日本語教科書 教科書の編纂は 3.1、3.2 で指摘した課題を一つ一つクリアしながら、積み上げられてい くものである。対象はだれか、目標とする育成能力は何か(言語能力、異文化間能力、ア イデンティティ教育など) 、シラバス、カリキュラム、行動中心主義の漢字・文法・語彙の 選定など、教科書作成に掛かる課題が多い。よって、上記問題群の解明と共有が多様性の 高い教科書作成を可能にする。

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4. 応用・実践に関わるもの 応用・実践にかかわるものとは、本研修で報告にあった実践例や、実践から得た改善点 である。実践報告については本論集 1-1、1-3 や各個人の報告に詳細があるので、ここでは 課題のみ記す。

4.1. CEFR のツール CEFR はその扱う範囲の広範さや、記述の抽象性などからユーザーフレンドリーではない と指摘され、様々なガイドが作成されている。CEFR 理解、使用のためのノウハウは共有さ れるといいだろう。また、日本語による用語集などの編纂も効果的だろう。

4.2. 教師研修 現在、欧州の日本語教育現場において CEFR が広く使われているとは言えない。理由と して、CEFR の理解不足により、どのように使えばいいのかが分からないということもあろ う。特に、伝統的な教授スタイルを持つ機関の教師や、すでにカリキュラムが決まってい て、コースデザインなどに参加できない教師にとって、言語や言語使用者のありかたから 始める CEFR をどう使用していいのか分からないのが現状であろう。ただ、CEFR もツール であるので、毎日のクラスにおいても使用可能であり、様々な使い方ができる。このため、 対象者別(ネイティブ・ノンネイティブ、コースコーディネータ、現場教師など)、内容別 (ビギナー研修、応用研修、特定機関・目的の研修)などが必要となってくる。また、CEFR に拒絶反応のある機関に対しては、CEFR は前面に出さないように、コースデザイン、教授 法、プロフィシエンシーをテーマにした研修も可能だろう。

4.3. JF 日本語教育スタンダード(JFSTD) 2010 年に出版された JFSTD2010 について、欧州においては多くは CEFR との関連で議論 され、使用されるものと思われる。そのためには CEFR と JFSTD の違いを明確にし、その 有用性をアピールする必要がある。CEFR の理解について「スタンダードの木」は有用であ るし、CEFR のディスクリプタ使用についても「みんなの『Can-Do』サイト」のデータベー スは利用できるだろう。

5. 今後の計画 上記の課題達成のため、実行可能な行動計画を述べる。この行動も誰がイニシアティブ をとるというものではなく、欧州全体で検討し、学校、地域、各国、EU など、様々なレベ ルで考えてほしい。

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5.1

知識・技術

CEFR の知識・技能に掛かることについては、研修やワークショップの実施などを通して 学習していく。これら研修・ワークショップもヨーロッパのネットワークを通じて、相互 参加の励行や成果の共有などを積極的に進める。また、シンポジウム、論集などを通して、 その成果を積極的に発信することも重要である。

5.2 行動のためのインフラ 研修や論集などの実施には物理的(人材・時間・資金)な問題がある。よってできるだ けネットワークを利用し、リソースの共有を図り事業の効率化しなければならない。その ためにはヨーロッパ日本語教師会、各国教師会、さくらネットワーク(国際交流基金)な ど、既存のネットワークをネットワークし、その中で目的に応じた実構成、機動性のある チームを作り成果を上げていく。また、日本語教育が複言語主義教育の一環としてあるよ う、母語教育、他の外国語教育、マイノリティー言語など他の言語教育との共同、また地 理、歴史、音楽、美術など他教科での日本語の利用など、欧州評議会の Platform にあるよ うな総合的なことばの学習の一環としての日本語の意義を高めていくことも欧州における 日本語教育の意義であろう。そのためには、日本語教育に限定されない分野とのネットワ ークは必須であろう。

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<稿末資料 1>

セッションH

マインドマップ「研修のまとめ」

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<稿末資料 2>

セッションH

マインドマップ「今後の計画」

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第2部 各国・各機関における実践の事例と 今後の課題


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-1

CEFR 導入の試みの第一歩 古川

彰子

要旨 CEFR 導入は英国の大学ではまだ進んでいないが、セミナーや研究会、ワークショップなど で数多くの参加者間の意見交換があったことなどを考慮すると、関心度は比較的高いと言える であろう。本稿では、レディング大学での CEFR に基づく標準化への動きと日本語への対応を 紹介したいと思う 1。具体的には、 「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照表 (CEFR) 自 己評価表」(Council of Europe: 2001, 2004) を基盤とする、選択科目の日本語コースの修了証の ‘Can-do’の作成過程と問題点、そして、これからの課題について述べる。‘Can-do’作成中に見え てきた問題は、主に現実性とのギャップに関するものであった。標準化の中で、日本語の特徴 を再び考慮する必要性が明らかになってきたが、まさに JF 日本語教育スタンダードがこれから の方向付けのヒントを与えてくれるのではないかと思う。CEFR や JF 日本語教育スタンダード を導入するには、まず最初に module description を見直しておくことがもちろん不可欠だが、既 存のコースや教材がある場合は、CEFR や JF 日本語教育スタンダードからと、既存のコースか らの、両方向からの出発が必要になってくると思われる。これから同じような試みをする大学 で も 、 似 た よ う な 問 題 が 生 じ る こ と も あ り 得 る と 思 う が 、 国 際 交 流 基 金 、 BATJ (British Association for Teaching Japanese as a Foreign Language) などを中心に、これからネットワークを 広げ、意見交換、情報交換をしていくことが望まれる。

【キーワード】

CEFR、標準化、‘Can-do’、現実性、JF 日本語教育スタンダード

1. はじめに 英国の大学では CEFR の日本語教育への導入はまだまだこれからだと言える。しかし、 2010 年 7 月 3 日に国際交流基金ロンドン日本文化センターとの共催で行われた BATJ セミ ナー「JF 日本語教育スタンダード」 、BATJ CEFR 研究会及び 2010 年 9 月 3 日・4 日にレデ ィング大学で行われた BATJ 年次大会でのワークショップ、 「JF 日本語教育スタンダードと 英国での活用について」への多くの参加者数などを考えると、CEFR 及び JF 日本語教育ス タンダードへの関心はこれからも深まっていくと思われる。英国での CEFR の導入、JF 日 本語教育スタンダードの普及はこれから国際交流基金や BATJ が中心になって進めていか なければならない。 今回はこのような「まだまだこれから」という現状の中で、筆者がレディング大学で試 みている CEFR の日本語教育への導入についての最初の段階の現状報告と、これからの方 向について述べたいと思う。正直なところ、まだ手をつけたばかりであることと、以下に 述べるいろいろな制約から、ほとんど進んでいない試みの变述になることを前もって断っ

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ておきたい。CEFR 導入の過程で見えてきたことを紹介することによって、これから同じ ような試みをする大学の日本語教育関係者の参考になれば幸いである。

2. レディング大学での日本語教育 現在レディング大学では日本語は選択科目である Institution-wide Language Programme (IWLP) で教えられている。IWLP では、日本語の他に、アラビア語・イタリア語・ギリシ ャ語・スペイン語・ドイツ語・フランス語・北京語及び Erasmus の学生のための英語が教 えられている。1998 年にはレベル 1 が 2 クラスしかなかった IWLP 日本語も、現在はレベ ル 1(5 クラス)からレベル 3 まであり、学生数もスペイン語・フランス語に続くほどの数 に伸びている。授業は 19 週間行われるが、ローマ字表記のイタリア語・英語・スペイン語・ ドイツ語・フランス語は週 3 時間、他の言語は、読み書きのサポートを増やす目的で、週 4 時間となっている。IWLP は 1 学年に履修すべき 120 単位中の 20 単位の科目である。

3. 標準化への動き 3.1

背景

コースデザインの過程では、それぞれの言語の責任者が module description を作成し、全 員参加のミーティングなどで言語間の調整をする。最初は日本語はヨーロッパの言語と違 うので、評価方法を含め、ある程度柔軟な対応が許されていたが、最近は、標準化へのプ レッシャーがかけられるようになってきている。ここで問題となるのは、同じ 20 単位の科 目であるからには言語間に大きな差があってはいけないという大学側の事情と、言語によ って違いがあるのだから標準化には限度があるという教師側の事情が絡みあっているとい うことである。大学側からすれば、当然、フランス語を履修した学生も、日本語を履修し た学生も、単位数が同じ科目を終えた学生が成し遂げたことが大きく違っては公平ではな いということになる。一方教える側からすると、構造的にも、社会言語学的、語用論的に も違う言語を同じように扱うのには限度があるということになる。現在、この 2 つの主張 についての妥協案を試行錯誤しているところである。まるで、標準化の方向に引っ張られ たあとで、言語別の対応という、もと来た方向に逆戻りしかけているかのようであるが、 これからどの方向に持っていくかを決めなければならない、大切な段階に達していると言 える。標準化への動きが最初に表面化した具体例の 1 つは 2008-2009 年度に作成されたコ ース修了証の裏に載せる‘Can-do’であるが、次にこの修了証について簡単に述べる。

3.2

コース修了証の‘Can-do’

学年末に学生に渡す修了証の裏には各レベルを終えた学生が出来るようになった項目

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を挙げた‘Can-do’の記述がある。これは、 「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照 表 (CEFR) 自己評価表」に基づいて作られたものである。まず最初に行われたのは、IWLP で教えられている言語がヨーロッパの、アルファベット又はギリシャ文字を使うイタリア 語・スペイン語・ドイツ語・フランス語・ギリシャ語と、アルファベットとはかけ離れた 文字を使う日本語・アラビア語・北京語との 2 分化である。ギリシャ語に関してはどちら に入れるかという議論が出てきたが、一定の数のギリシャ文字を覚えればあとはアルファ ベットと同じ扱いにできるだろうということと、学生も数学などで、ギリシャ文字には多 少馴染みがあるのではないかということで、アルファベットを使う言語のグループに入れ られた。これが適切なのかどうかという問題はともかく、このような教師間の議論が、教 師の意識を高めることにつながったという点では有意義であったと言える。ただ、 「アルフ ァベットを使う言語」対「その他の言語」という対立になってしまっては、日本語・アラ ビア語・北京語間の違いが反映されず、危険が残る。この問題に関する議論はこれから進 めていく必要があるのは言うまでもない。最初の段階として、文字に関する記述(第 4 部 5 節を参照)を日本語・アラビア語・北京語の‘Can-do’に加えることと、教科書に合わせて 記述を少し変えることまでしかできていないのが現状である。これは、第 3 部 1 節で述べ た理由から、学部にあまりヨーロッパの言語の‘Can-do’と変えないでほしいと指示された ことを考慮してのことでもある。

4.「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠 (CEFR) 自己評価表」の日本語 版2 作成上の問題点 4.1

コース修了証の‘Can-do’

上記のように、コース修了証の裏には、「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参 照表 (CEFR) 自己評価表」に手を加えたものが印刷されている。これは本来は学生が自己 評価するに当たって使われる表ではあるが、それぞれのレベルの目標とできることが簡潔 に述べられていること、将来の雇用主などに「私は・・・ができます。」といった形で提示 できることなどの利点がある。ただ、ヨーロッパの言語版を基に日本語(及びアラビア語 と北京語)版を作成するに当たって、以下に述べるような、いくつかの問題点が出てきた。 ここでは IWLP 日本語、レベル 1(Japanese for Busy People 1, Revised 3 rd Edition 使用)に関 して述べる。

4.2

それぞれのレベルに描かれている学生と現実との差

CEFR であれ、JF 日本語教育スタンダードであれ、教育現場に普及させるには、それが 現実を反映しているものでなければ取り入れにくいものとなってしまうであろう。現実性 という点では、CEFR や JF 日本語スタンダードを更に細かく見ていく必要性が感じられる

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問題も出てきた。まず気づいたのは、コース修了証 (‘Can-do’) のそれぞれのレベルに描か れている学生と現実との違いである。レディング大学の IWLP コース修了証の‘Can-do’は、 「そのレベルの終わりに達した典型的な学生が出来ることを記述したものである。」という ことになっているが、自分の教えた学生を思い起こしながら記述を見てみると、描かれて いるのは「典型的な学生」よりかなり下であるという印象をまず受けた。例えば、 「理解す ること・聞くこと」には「はっきりとゆっくりと話してもらえれば、自分、家族、すぐ周 りの具体的なものに関する聞き慣れた語やごく基本的な表現を聞き取れる。」との記述があ るが、 「典型的な学生」が聞いて理解できるものは語や表現に限られていない。実際、教え られているのは、ほとんどが文であり、それがまだできる段階に達していないとは言えな いであろう。また、 「話すこと・やりとり」には「相手がゆっくり話し、繰り返したり、言 い換えたりしてくれて、また自分が言いたいことを表現するのに助け船を出してくれるな ら、簡単なやり取りをすることができる。直接必要なことやごく身近な話題についての簡 単な質問なら、聞いたり答えたりできる。」と書かれているが、「典型的な学生」が言い換 えや助け船をどの程度必要としているのかという疑問が残る。いずれにせよ、まず、 「典型 的な学生」という表現の意味を明らかにすることが必要だと思える。何をもって「典型的」 とするのかという問題、「典型的な学生」が、記述されていることができるのか(現実)、 記述されていることができる学生が「典型的な学生」だといえるのか(理想)という議論 の堂々巡りという問題があるからだ。これは、記述されているのは「できること」(現実) なのか「できるはずなこと」 (理想)なのかということにも繋がる。「できること」である のなら、 「この学生は(最低)以下のことができます。」ということになろうが、 「できるは ずなこと」なら、 「典型的な学生」の变述に終わっていて、 「この学生は・・・ができます。」 といった一種の保証のようなものにはならないであろう。 更に、A1、A2 などのそれぞれのレベルには变述があるが、実際、コース終了後に各学 生ができるようになったことは同じレベル内でも当然個人差がある。例えば、80 点取って 修了した学生と 40 点で何とか落第を逃れた学生とではできることがかなり違ってくるの は言うまでもない。ここでも、それぞれのレベルを終了した学生を「典型的」の一言でま とめることへの疑問が残る。特に良い成績を修めた学生で、自分は「ここに記述されてい るよりもできる。」と思っている学生もいなくはないようだ。修了証が就職希望の会社など に提示される可能性があることを考えると、これは無視できない問題であろう。だた、今 の段階では、個人差をどのように CEFR で表すことが可能なのかは不明である。

4.3

一般的な能力と具体的な状況

「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照表 (CEFR) 自己評価表」の日本語版の 作成に取りかかる上で、ひとつひとつの記述を具体的に見ていくと、まず、いくつかの項 目で、一般的な能力に関する記述と具体的な状況などに関する記述が混在していることに

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気がつく。 「理解すること・読むこと」に記述されている「例えば、掲示やポスター、カタ ログの中のよく知っている名前、単語、単純な文を理解できる。」という文の中の「名前、 単語、単純な文を理解できる。」の部分はより一般的なことだが、「掲示やポスター、カタ ログ」というところは具体化されている。 「書くこと・書くこと」のカテゴリー、 (「新年の 挨拶など短い簡単な葉書を書くことができる。例えばホテルの宿帳に名前、国籍や住所と いった個人のデータを書き込むことができる。」は、他のほとんどのカテゴリーよりかなり 具体的になっている。具体的であること自体は問題ではないかもしれないが、具体的であ ればあるほど、授業で使われている教科書との食い違いや、日本語の場合には当てはまら なくなる問題などに繋がっていく。以下に、この 2 点について具体的に述べる。

4.4

実際使っている教材、教え方などとの食い違い

CEFR を導入するに当たって、ひとつの壁となったのが、実際使っている教材、教え方 などとの関連性である。これから CEFR や JF 日本語スタンダードを使って、始めからコー スデザインをしたり、教科書を作成するのなら、比較的手を付けやすそうだが、CEFR・JF 日本語スタンダード導入より前に確立されたコースがある場合、しかもそのコースを大き く変更する理由のない場合は、どうしたらいいのかという問題が出てくる。CEFR の各カ テゴリーを簡単に IWLP 日本語、レベル 1 で使われている教科書である Japanese for Busy People Vol. 1 Revised 3rd Edition と比較してみたところ、以下の点が気になった。 第 4 部 2 節で、 「理解すること・聞くこと」のカテゴリーの「はっきりとゆっくりと話し てもらえれば、自分、家族、すぐ周りの具体的なものに関する聞き慣れた語やごく基本的 な表現を聞き取れる。 」という变述は、語や表現に限られていて、文の理解が入っていない ので、現実を反映していないと述べたが、教科書に出てくるのも、決して「語や(ごく基 本的な)表現」に限られておらず、ほとんどが文である。更に、Japanese for Busy People Vol. 1 Revised 3rd Edition の CD はかなり速い速度で話されている。学生はそれでも慣れればそ れなりにできるようになると言える。よって、「はっきりとゆっくりと話してもらえれば」 という表現も再考してみる必要があるかもしれない。一方、 「理解すること・読むこと」に は、 「例えば、掲示やポスター、カタログの中のよく知っている名前、単語、単純な文を理 解できる。」と書かれているが、「掲示やポスター、カタログ」は教科書に出てこないし、 「書くこと・書くこと」の「新年の挨拶など短い簡単な葉書を書くことができる。例えば ホテルの宿帳に名前、国籍や住所といった個人のデータを書き込むことができる。」という 变述の中の「新年の挨拶など短い簡単な葉書」も教科書では扱われていない。以上は教科 書だけでなく、他の教材、教師の教え方なども考慮すべきことであるが、CEFR を現存の 教科書を変えることなく取り入れる場合のひとつの解決法としては、CEFR の一般的な能 力の变述の部分を共通項目として取り入れ、具体例を教科書に合わせて変えていくことも 考えられよう。 「理解すること・読むこと」の「例えば、掲示やポスター、カタログの中の

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よく知っている名前、単語、単純な文を理解できる。」という变述を例にすれば、「よく知 っている名前、単語、単純な文を理解できる。」というところを残し、「掲示やポスター、 カタログ」という具体例を教科書に出てくるものに変えるか、可能なら、レベルにあった 掲示やポスター、カタログを追加して教えれば、取り入れやすくなる。他にも CEFR と教 科書との食い違いはあるだろうが、ある言語を初めて学ぶ学習者を対象にしている以上、 それほど大きな食い違いは出てこないのではないかとも思われる。この点は詳しく調べる 必要があるというのは言うまでもない。すでに使う教材が決まっている場合は両方向から のアプローチが必要になるであろう。つまり、CEFR や JF 日本語スタンダードを基にしつ つ、今使っている教科書を CEFR や JF 日本語スタンダードに照らし合わせることから始め るのが現実的であろう。

4.5

ヨーロッパの言語と日本語との違いが反映されていないことによる問題

最後に日本語の特徴などに起因する問題について触れておく。アルザス・セミナーでも 度々有意義な議論、意見交換があったが、ひらがな、カタカナ、漢字などに関するレベル 付けや‘Can-do’、自己評価表の記述がないという問題がある。その結果、IWLP の修了証の 文字の読み書きに関する記述も現段階では曖昧なものとなっていて、ごく簡単に、 「ひらが な、カタカナ、及び、少数のごく基本的な漢字が読める・書ける」という文を入れるまで にしか至っていない。表記のレベル付け、‘Can-do’、自己評価表などに関しては、これか らいろいろな教育機関の共同プロジェクトが期待されるところである。 文字表記の問題以外では、 「理解すること・読むこと」の「例えば、掲示やポスター、カ タログの中のよく知っている名前、単語、単純な文を理解できる。」という变述が気になっ た。掲示を例にとってみても、 「禁煙」など、日本で実際に使われているものはそのまま(漢 字表記)だと漢字圏の学生でない限り、A1 には難しすぎる。ポスターやカタログも実物だ と、よほど簡単なものを探さない限り、かなり難解になるのではないだろうか。 「書くこと・ 書くこと」は「新年の挨拶など短い簡単な葉書を書くことができる。例えばホテルの宿帳 に名前、国籍や住所といった個人のデータを書き込むことができる。」となっているが、住 所などは実際には日本人は漢字で書く3。よって、これも実際に使われているものを重視す るのなら、A1 には難しすぎると言えよう。いずれにせよ、ヨーロッパの言語などでは初歩 と言える活動も、日本語の場合は必ずしもそうとは言えないものがあるように思える。も ちろん、ここで考えられるのは何をもって「読める」、「書ける」とするかという問題であ る。本来漢字で書かれているものをひらがな(振り仮名つき)で読めたり書けたりすれば いいのか、現実を重視して、漢字で読めて初めて「読める」とするのか、これは CEFR の 变述よりもっと根本的な問題となる。 以上、「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照表 (CEFR) 自己評価表」の日本 語版の作成過程で生じてきた問題を述べた。この日本語版は、現時点では、主に教科書に

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あわせて最低限の変更をし、文字について短い記述を加えたまでに留まっている。

5. 今後について 当たり前のことではあるが、修了証を作成する前に module description の中のコースの目 的、learning outcomes などを‘Can-do’を基に書き直しておくことが理想的である。ただ、こ れには大学側から来る依頼のタイミングの問題があり、module description も出来上がり、 授業も始まってから、修了証用の变述を CEFR と module description を基に作ってほしいと いう要請が出ることは、他の大学でも起こり得るだろう。CEFR 導入の可能性が出てきた 時点で、またはその前に、出来るだけ早く CEFR を視野に入れた module description の見直 しをしておけば、この問題はある程度緩和できるであろう。それができなかった場合は、 順序は逆になっても、設定されている learning outcomes と、実際に学生が出来るようにな ったことを CEFR に照らし合わせて、両方向からアプローチするのも現実を反映させると いう意味でよい結果につながり得ると思う。 また、教材も、CEFR や JF 日本語教育スタンダードに基づいて選んだり、作成したりで きるとは限らないし、実際には‘Can-do’作成の前にすでに使われている教科書があるのが 一般的だと言えるので、これから、教科書と‘Can-do’との関係などのガイドラインができ たら、CEFR や JF 日本語教育スタンダードも普及させやすくなるのではないだろうか。 まだまだ課題は多く、道のりは長い。最初に述べたように、この論文はレディング大学 で CEFR を取り入れることになり、既にヨーロッパの言語で使うことになった修了証の記 述の日本語版を作成するようにとの指示を受けた時の対応について述べたものである。初 めての試みであること、前例、情報量が限られていたことなどから、いろいろな疑問点、 問題点に突き当たったが、将来、同じような立場に置かれることになった大学でも、同じ ような問題が起こってくるかもしれない。そのような大学と情報交換できたら幸いである。 さらに、CEFR を取り入れていない機関の日本語教育関係者とのネットワークや他の言語 の教育関係者とのネットワークも必要である。第 3 部 1 節で、レディング大学では「標準 化の方向に引っ張られたあとで、言語別の対応という、もと来た方向に逆戻りしかけてい るかのようである」と述べたが、まさに、JF 日本語教育スタンダードが仲介になって、逆 戻りを、来た道をそのまま戻るのではなく、向上へと繋がる方向へとナビゲートしてくれ るのではないかと期待している。もちろん、これは受身で待っているものではなく、現場 の教師が、JF 日本語教育スタンダードの知識を深め、疑問点を投げかけ、提案をし、大学 側とも交渉していく必要があると思う。まずは、国際交流基金のセミナーや、BATJ CEFR 研究会の活動から始められたらと思う。そして同時に、ヨーロッパ各国やその他の国々の 日本語教育関係者とのネットワークを拡張、強化していきたいと思う。

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<注> 1 本稿は、レディング大学での CEFR 導入の筆者の試みについて述べたものである。力の及ばない点もあ ると思うが、これは筆者の責任であり、大学を批判するものではないことを断っておく。 2 ここで言う「日本語版」は、「学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照表 (CEFR) 自己評価表」 の日本語訳ではなく、IWLP 日本語の修了証用に手を加えたもののことである。 3 学生の自国の住所なら、アルファベットなどの場合もあるだろうし、そもそも旅館ならともかく、ホテ ルなら日本語でなく、英語などでも書けるようになっているのではないだろうか。ここにも現実性の 問題が見られる。

<参考文献> 国際交流基金 (2010) 『JF 日本語教育スタンダード 2010』 国際交流基金 http://jfstandard.jp/pdf/jfs2010_all.pdf 吉島茂・大橋理枝他

訳編

(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照

枞』、朝日出版社 AJALT (2006) Japanese for Busy People Vol. 1 Revised 3 rd Edition, Tokyo: Kodansha. Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages:

Learning, teaching, assessment, Cambridge: Cambridge University Press.

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2-2

CEFR と学習目標 -ロンドン大学 SOAS における一例- 田中

和美

要旨 英国では、高等教育質保証機構が学問領域別学位水準を定めているが、2007 年の改訂版で、 語学専攻の学士(BA)の学位水準として「CEFR レベルで最低 C1、通常 C2 レベル」と制定し ている。そのような状況下、SOAS で 4 年間の日本語専攻課程を修了した学生の日本語能力は、 CEFR レベルではどの程度かという疑問から発し、到達目標を CEFR レベル C1 で表すことが適 当かどうかについての調査を行った。4 年次の学生に C1 チェックリストと CEFR 自己評価表を コース開始時と終了時に記入してもらい、分析した。その結果、C1 に到達できる技能、また到 達する学生もあることが判明し、学位の到達目標として C1 を定めるのは適当であると考える。

【キーワード】 CEFR チェックリスト、CEFR 自己評価表、学位水準、到達目標、自己評価

1. はじめに 1.1

プロジェクトの目的

ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(以下 SOAS)は Centre of Excellence in the Teaching and Learning of Languages (CETL)として言語教育・学習に関する様々なプロジェク トを推進してきた。 筆者が個人で 2007 年から進めていた CEFR を現場に取り込むことに関 する調査研究も、2009 年度 CETL のプロジェクトとして大学の支援を受けることになった。 このプロジェクトの目的は、次の 3 点である。 ① 日本留学をより有効なものにするためのニーズ調査 ② 学位水準を CEFR 基準で C1 レベルを目標とすることが適当かどうかの調査 ③ CEFR 基準を用いて学習目標を制定することが適当かどうかの調査 ニーズ調査①の結果および、③の 2 年生を対象に行ったチェックリストを学習目標とし 1

て定めることに関しては、既に発表してあるので 、本稿では、4 年生の場合を取り上げ② について報告する。

1.2

背景

英国では、さまざまな公的な評価基準や質保障のための規定がある。大学の学位に関して も高等教育質保証機構が学問領域別学位水準を制定している。2007 年の改訂版には、語学

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専攻の学位水準として「CEFR レベルで最低 C1、通常 C2 レベル」と制定している。改定 される前は、単に「CEFR 基準を参照すること」とだけ述べられていたのだが、このよう に明示され、SOAS でもようやく CEFR レベルを用いようという動きが生じた。英国は、 欧州大陸とは異なり、統一された CEFR レベルを取り入れる動きはない。SOAS において は、日本語と並び中国語が CEFR レベルを取り入れる意図を示した。 しかしながら CEFR レベルを取り入れることを考えるにあたり、まずは、CEFRC1 レベ ルが現実的に達成されうるものか、SOAS の日本語教育課程が提供できるものかという点 を明らかにする必要があると思われた。この学位水準に関して高等教育質保証機構当局に 「日本語のような言語についても C1 レベルが適応されるのか」と問い合わせたところ、 C1 は厳密な基準ではなく、各機関でこの学位水準を目標とし、できるだけ近づくようにと いう見解であった。 SOAS の日本語教育には、日本語専攻と選択科目がある。日本語専攻の学生は、1 年次 と 2 年次に日本語集中コースを受講し、3 年次に日本留学をする。その後 4 年次を SOAS で勉学し、卒業する。卒業時までに、最大 400 時間程度、日本語を外国語として教室で学 習できる。 表1:SOAS における外国語としての日本語コース(日本語専攻課程) 学年

コース名

週コマ数 x 週

合計コマ数

1

J1:Elementary Japanese

10

220

どちらか必須

J1:Accelerated Elementary Japanese

7

x

22

154

2

J2: Japanese

8

x

22

176

2

x

11

22

3

x

22

66

必須

J2: Japanese Readings 4

選択

Advanced Practical Japanese

選択

x

22

484 コマ x50 分=403 時間

2.方法 調査は、筆者が作成したチェックリストと CEFR 自己評価表を用いた。チェックリスト は、Overall Structures of all CEFR Scales ならびにスイス版チェックリストを元に作成した。 従来の授業内容を反映した項目を選択し、表現を工夫し、現場に即するものの作成を試み た。また、チェック項目を 20 までとし、回答者が負担に思わないよう、さらに、実際に授 業でカバーする/できるものを選択した。チェックリストは、巻末の資料を参照されたい。 対象とした 4 年次の学生は、選択科目である「Advanced Practical Japanese」というコー スの履修者である。このコースの目的は、 「環境問題、グローバル化などの現代社会事情を

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テーマとし、小論文執筆、口頭発表、討論、要約などの活動を行なう。聴く、話す、書く 力の養成を図り、社会に出てからの日本語運用能力を身につける」ことである。2009-2010 年度「Advanced Practical Japanese」を履修している 4 年次の学生を対象として、次の二つ の調査を行った。すべての調査に加わった有効回答者数は 14 である。 ・学習目標として、C1 チェックリストをコース開始時と終了時に記入 ・修了時の到達度を見るために CEFR 自己評価表をコース開始時と終了時に記入 これらのアンケート調査で、学習者がどのレベルにいると自己評価しているのか、コー ス開始時と終了時で変化があったかを見た。さらに、コースのレベルを CEFR 基準でどの ように表せるかを確認した。

3.結果 SOAS の 4 年間の日本語専攻課程を修了した学生の日本語能力は、CEFR レベルではど の程度か、どの CEFR レベルを到達目標として掲げられるのか、という疑問から発し、上 記②の調査目的、学位水準を CEFR レベル C1 で表すことが適当かどうかについての調査 結果を述べる。まず、学生が C11レベルをどう捉えているかをみるために、4 年次のコー ス開始時と終了時に C1 チェックリストを各自に記入してもらった。その変化をみたもの がグラフ 1 である。回答者数は少ないが、傾向はみられる。 グラフ 1:4 年次 C1 チェックリスト、コース開始時(左)とコース終了時(右)の変化

Year 4 checklist C1 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0

Oct-09

40.0 May-10

30.0 20.0 10.0 0.0 1

2

3

4

5

6

7

8

9 10 11 12 13 14 15 16

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チェックリスト項目の内訳は、1~4 番が Spoken Interaction、5~8 番が Spoken Production、 9~12 番が Listening、13~14 番が Communication Strategies、15~16 番が Working with Text である。2 番、4 番、8 番を除いて、すべてコース終了時のほうが高いという結果である。 これは、コース終了時に、チェックリストの項目が「できる」と答えた学生が多かったと いうことである。コース終了時には、全体にみて 1 番、5 番、8 番を除いて、50%以上の学 生がそれぞれの項目が「できる」と答え、C1 のレベルに達成している割合が多数を占めて いることがわかる。ちなみに、4 番のチェックリストは「説得力を持って、主張を展開で きる」で、8 番は「特に努力せずに自然に反応できる」という項目である。 次に、CEFR 自己評価表についての結果をみてみたい。調査目的は、C1 が到達目標とし て妥当であるかどうかを見ることであったので、コース終了時の結果に焦点を当てる。資 料 1 のグラフ 2~7 にあるように、おおむね C1 が各自の日本語能力に当たるとしている。 グラフ 2 があらわすように、聴く力において一番ばらつきが大きく、B1 としたものが多か った。4 年次にもなると、聴く力の育成の難しさを反映したものと言える。 以上、二つのアンケート調査の結果として、C1 に到達できる技能、また学生も多数ある ことが判明し、学位の到達目標として C1 を定めるのは適当であると考える。なお、これ らのチェックリスト項目を実際に到達したかどうかの評価は、コースにおいて次のように している。話す力に関しては、学生は執筆した小論文についてのプレゼンテーションを行 い、質疑応答もする。最終筆記試験は、コースで取り上げたあるトピックについて 15 分ほ どの長さの講演を聴き取り、質問に答える。さらに、そのトピックに関する文章を要約し、 最後は、トピックに関して自分の意見を書くことが課される。対象となった 4 年生は最終 試験に全員合格した。

4.まとめ 本調査は、SOAS で行っている日本語教育課程が、CEFR レベルでどの程度なのかを把 握することが目的であり、CEFR レベルに合わせて実践を試みるというものではない。既 存の学習項目、学習目標、教授方法などが CEFR レベルとすり合わせた時、どの程度整合 性があるかを調べたものである。 4 年次の学生の調査結果から、SOAS において高等教育質保証機構の求める学位水準の CEFR レベル C1 を達成目標として掲げることは可能であることが判明した。言語活動、言 語領域、言語技能、テーマなどすべての面で C1 記述を網羅し達成するのは現実的ではな い。大学の専攻課程として、コース目標と学習者のニーズを含んだ部分において、C1 レベ ルに達成していることは証明された。 調査を通して、問題点として出てきたのは、自己評価の妥当性とチェックリストの記述 文の表現である。自己評価は、自律学習とも関連し、CEFR が重視している面である。よ り信頼性を持つ調査のためには、自己評価の後に個別インタビューなどでフォローアップ

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するべきであろう。今後は、自己評価を自律学習の中で取り入れていくなど、学習者にと ってより身近な方法としていくことも考えられる。チェックリストに関しては、学習者に とってより分かりやすい記述をするとともに、CEFR の用語を「共通言語」として提示し ていくのも良いのではないかと思う。チェックリストを学習目標として使用することはす でに例が多くある。学習目標を示す時にクラスで話し合うことも可能であろうし、各授業 で学習目標を提示しながら進めていけば、自ずとチェックリストの記述文が明確になるの ではなかろうか。

<注> 1

2009「CEFR 基準を用いて学習目標を制定する-話すと聴く技能に関するチェックリスト-」第 12 回 BATJ 大会発表、および 2008「CEFR を用いた学習目標-コミュニケーション能力育成のための試 案-」第 7 回国際日本語教育大会発表。

<参考サイト> Structured Overview of all CEFR Scales http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/documents/All%20scales%20CEFR.DOC スイス版 Checklist

http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/documents/appendix2.pdf

Subject Benchmark Statements (Languages and Related Studies) http://www.qaa.ac.uk/academicinfrastructure/benchmark/honours/default.asp

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<稿末資料1> グラフ2:受容―聴く

グラフ3:受容―読む

Year 4 2010 May reception reading

Year 4 2010 May reception listening C2

C2 B1

B1

1 2 3 4

C1

5

B2

B2

C1

1 2 3 4 5 6

6

グラフ4:やり取り―話す

グラフ5:やり取り―書く

Year 4 2010 May interaction written B1

C1 B2

グラフ6:産出―話す

1 2 3 4 5 6

グラフ7:産出―書く

Year 4 2010 May production written C2

B1

B2 C1

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1 2 3 4 5 6


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<稿末資料 2>

Self-Assessment

Checklist Level C1

Based on Common European Framework of Languages name_______________________ date__________________

If you have over 80% of the points ticked, you have probably reached Level C1.

My objective

I Can do

Use this checklist to record what you think you can do (Column 1). Use Column 2 to mark those things that you cannot yet do which you feel are important for you (Column 2 = Objectives).

Spoken Interaction I can understand in detail speech on abstract and complex topics of a specialist nature beyond my field, though I may need to confirm occasional details 2 I can use language flexibly and effectively for social purposes, including emotional, allusive and joking usage. I can keep up with an animated conversation between native speakers 3 I can easily follow and contribute to complex interactions between third parties in group discussion on a wide range of general, professional or academic topics 4 I can express my ideas and opinions clearly and precisely, and can present and respond to complex lines of reasoning convincingly

1

2

Spoken Production I can give elaborate descriptions and narratives of complex subjects, developing particular points and rounding off with an appropriate conclusion 2 I can summarise orally extracts from new items, interviews or documentaries containing opinions, argument and discussion 3 I can give a clear, well-structured presentation of a complex subject, expanding and supporting points of view at some length with subsidiary points, reasons and relevant examples 4 I can handle interjections well, responding spontaneously and almost effortlessly

1

2

Listening 1 1 I can follow most lectures, talks, discussions and other forms of academic/professional presentations with relative ease 2 I can extract specific information from poor quality, audibly distorted public announcements e.g. in a station, sports stadium, etc 3 I can understand a wide range recorded an broadcast audio material, including some non-standard usage, and identify finer points of detail including implicit attitudes and relationships between speakers 4 I can understand a wide range of idiomatic expressions and colloquialisms, appreciating shifts in style and register

2

1

1

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Communication Strategies I can select a suitable phrase from a readily available range of discourse functions to preface my remarks appropriately in order to get the floor, or to gain time and keep the floor whilst thinking 2 I can backtrack when I encounter a difficulty and reformulate what I want to say without fully interrupting the flow of speech

1

2

Working with Text 1 I can take detailed notes during a lecture on topics in my field of interest, recording the information so accurately and so close to the original that the notes could also be useful to other people 2 I can summarise long, demanding texts

1

2

1

Adapted from the descriptors developed for the Common European Framework and the Portfolio in the Swiss National Science Foundation project: Schneider, Günther & North, Brian (2000): Fremdsprachen können – was heisst das? Chur/Zürich, Rüegger.

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2-3

CEFR の基準に沿ったカリキュラム作成 -ベルガモ、ファルコーネ言語系高等学校のケース- 田中 久仁子 要旨 北イタリアのベルガモ市内にある国立ファルコーネ言語系高校において本年度から始まった 日本語コース(3 年制及び 5 年制)について、コースが新設されるに至った経過、CEFR に沿っ たカリキュラムの作成、日本語に応用する際の問題点、日本文化ポートフォリオについて詳述 し、授業開始1ヵ月後のモニター結果について分析を試みる。

【キーワード】ファルコーネ高校、日本語コース、日本文化ポートフォリオ

1. はじめに 2010 年 9 月 13 日、 新年度の開始時からベルガモ市内の言語系高等学校ファルコーネ1で、 3 年制及び 5 年制の東洋語コースが新設され、授業が始まっている。これは中国語、日本 語、アラビア語のいわゆる東洋三言語を第三外国語として選択必修するコースである。日 本語は、9 月に 3 年生になった生徒 12 名を対象に 3 年間で計 450 時間、新入1年生 28 名 を対象に 5 年間で計 540 時間履修する2。このコースは 2007 年に始まった、ファルコーネ 高校とベルガモ大学外国語・外国文学科の共同開発プロジェクト Progetto Oriente3 の実現 であり、 イタリア国内では初の高校・大学一環式の東洋語教育のパイロットケースとなる。 ファルコーネを卒業する生徒の殆どが大学へ進学することを踏まえ、高校の 3 年間、ある いは 5 年間の東洋語学習をそのまま大学の学部 3 年間へ続けようというものである。

2. プロジェクトの背景 この東洋語コースは偶発的にファルコーネで始まったわけではなく、その前身、あるい はきっかけとして 2003 年から 5 年にわたって実施されたロンバルディア州学校局の東洋語 プロジェクトがあった。更にそれ以前、マリア・チェレステ西川 Maria Celeste Nishikawa が校長を勤めていたミラノ市内の高校で、午後の課外授業として日本語のコースが開かれ ていた。これはあくまでもチェレステ西川の個人的裁量によるものであったとはいえ、市 内の他校からの生徒も集め、多いときには 24,5 人のクラスが 6 年間続いていたとう土壌 があった。このチェレステ西川とロンバルディア州学校局の語学監査官ジゼッラ・ランジ ェ Gisella Langé 女史4との出会いが州のプロジェクト「ヨーロッパで中国語・日本語・アラ

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ビア語を話す」Parlare cinese, giapponese arabo in Europa5へと実を結んでいく。筆者自身は 1998 年からチェレステ西川の高校で課外授業の日本語を担当していた関係で、州のプロジ ェクトにもコースプランナーとして参加し、奇しくも現在勤務しているベルガモ大学がこ の度、ファルコーネ高校との共同プロジェクトを始めたため、続けて日本語コースの責任 者となり、ロンバルディアにおける高校日本語コースの誕生から、ここまでの成長をつぶ さに見守るという立場に恵まれた。 2003 年、ロンバルディア州学校局のオーガナイズによって始まった「ヨーロッパで中国 語・日本語・アラビア語を話す」というプロジェクトは初年度はコース開催費用を全て州 からの援助で賄うという形でロンバルディア全州で 86 コースが開講し、約 3400 人の高校 生が中国語、日本語、アラビア語を午後の課外授業で学び始めた。週 1 回、年間 30-36 時間という限られた時間内で、各国語の基礎、文化を教えるというものであった。初年度 と 2 年目は日本語の人気が高く、 一番多い年にはロンバルディア州内で 42 の日本語コース が開催されていた。しかし、2 年目に始まったいわゆる中国ブームのあおりで、3 年目から は数が減り始めた。その後は州からの援助が年々減尐していくという状況下で、3 言語と も規模の縮小を余儀なくされ、2008 年のプロジェクト終了時点では日本語コースは 20 だ った。学校によっては 2 年、3 年へと続けていくケースもあったが、基本的には 1 年単位 である。州のプロジェクトが終わった現在も自力で午後のコースを続けている高校は各所 にあり6、ある意味では東洋語の課外授業をもっていることがその高校の「売り」となって、 一つの定着を見たと言える。既に終了しているとはいえ、このプロジェクトはやはりロン バルディアにおける日本語教育のひとつの基盤となり得たと思われる。今回のファルコー ネのパイロットケースも明らかに州のプロジェクトを土台としており、その結果、あるい は結実のひとつとして位置づけられるものである。 一方、国立ベルガモ大学外国語・外国文学学科では 2001 年より日本語、アラビア語、数 年遅れて 2004 年からは中国語も加わり、いわゆる東洋三言語のコースが開設された。 昨年度からは 3 年制となり、昨年度の登録者が 70 名、本年度も 65 名の学生が日本語を学 んでいる。プロジェクトにはベルガモ県学校局局長、ファルコーネ側から校長以下 4 名の 教員、大学側からは当時の学部長、中国語、日本語、アラビア語の学科主任のほか、第二 言語語習得を専門とする教員 1 名が加わった。

3.ファルコーネ高校日本語コースの概要 3.1 習得言語の組み合わせと人数 Progetto Oriente が正式に発足した年のオープンデイで、進学希望の生徒およびその保護 者に向けたガイダンスを行い、2007-8 年度入学の生徒から、高校入学時に、第1外国語 の英語を除き、第 2、第 3 外国語を選択させた。初年度は中国語に人気が集中し、88 名、

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日本語が 28 名、アラビア語 16 名と大きな偏りを見せたため、2 年目には、中国語-ドイ ツ語、日本語-フランス語、アラビア語-スペイン語と言う具合に第 2、第 3 外国語を組 み合わせて選ばせている。これは一方でドイツ語を選ぶ生徒の激減、スペイン語に人気が 集中していることから、高校側としては組み合わせによりこの差を減らそうとしたためで ある。これに対して現実問題として、ドイツ語-中国語というカップリングは生徒の負担 が大きすぎるのではないか、とプロジェクト内でも批判の声があった。日本語は 28 名と、 1 クラスとしてやりやすい人数と思われたが、このうち 3 年まで残った生徒が半分以下の 12 名であった。また、初年度アラビア語希望者が 16 名と際立って尐なかったため、アラ ビア語-スペイン語のクラスは成立せず、数が多かった中国語に吸収され、中国語が 2 ク ラスになった。 表1 2010-2011 年度 東洋語クラスの人数内訳 クラス

習得言語

人数

週割り時間数

1H

英語-フランス語-日本語

28 名

日本語は週 3 時間(1 時間母語話者)

1I

英語-スペイン語-アラビア語

31 名

アラビア語は週 3 時間 (同上)

1L

英語-ドイツ語-中国語

27 名

中国語は週 3 時間 (同上)

3H

英語-フランス語-日本語

12 名

日本語は週 5 時間 (同上)

3I

英語-スペイン語-中国語

29 名

中国語は週 5 時間 (同上)

3L

英語-ドイツ語-中国語

22 名

中国語は週 5 時間 (同上)

3.2 時間数 3 年次から開始する生徒たちは 3 年次、4 年次、5 年次に年間約 150 時間、3 年で 450 時 間かけて日本語を学ぶ。週単位では週 5 時間、うち 4 時間がイタリア人講師、1時間がイ タリア人教師同席のもとに母語話者による会話という振り分けになっている。また1年次 から学ぶ生徒たちは 1 年次、2 年次が 90 時間、3 年次から 5 年次が 120 時間、計 540 時間 となる。1,2 年次では週 3 時間、うち1時間が日本語教師の授業(イタリア人教師も同席) に当てられている。プロジェクト内ではフランス語、ドイツ語、スペイン語と比較してよ り習得が困難と思われる東洋三言語に関して、4 年次、5 年次における母国語話者の会話の 時間を増やしたいというリクエストが出ているが、他の外国語と同じ枞内で決定されてい る母語話者の時間数を増やすことは容易ではないというのが、高校側の返答であった。今 後検討の対象となろう。

3.3 教師 新規採用の教師は大学側からの推薦、資格審査合格の者と高校側が州認定の資格者リス

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トから選定した者、既に午後の課外授業で教えていた者などが対象となった。日本語コー スに関してはイタリア人教師は現ベルガモ大学日本語科のチューターであり、ヴェネツィ ア大学日本語学科卒業、広島大学で 2 年滞日経験を持ち、現在ヴェネツィア大学日本語学 科博士課程に在籍中の大学院生が推薦され、採用された。この者は過去に同校の課外コー スでも日本語を教えていた。日本人教師は同じくベルガモ大学から、長い教師経験を持つ 語学演習担当教師が推薦され、共に採用されている。中国人教師のみ、州の学校局認定の 資格者リストから採用されている。現時点では日本語・アラビア語に関しては、州認定の 資格者リストは作られていない。

4.カリキュラム作成 当初は 3 年制のみのプロジェクトであり、この 3 年間のカリキュラムは、高校側に専門 の教員がいないため、大学側で用意し、それを基に高校側の教師が他の外国語のカリキュ ラムとの突合せを行いながら作成された。なお、5 年制のコースは 9 月に入って教育省か ら正式に発足許可が下りたため、現在では 3 年制のカリキュラムを使って授業が進められ ている。他の外国語のカリキュラムが CEFR に沿って作成されていることもあり、また、 これらの東洋語に関して十分な知識を持ち合わさない高校の他の教員、さらに父兄にとっ ても、他の欧州言語との比較が容易になり、わかりやすい手がかりとなるため、基本的に 到達目標は CEFR のレベルを使用した。しかし本質的には高校で習得される他のヨーロッ パ言語同様、課題遂行能力を重視しつつも、従来の文法中心システムから完全に脱却する ことは不可能である。日本語の場合は、州のプロジェクトで既に CEFR 準拠の 30 時間用カ リキュラム7を作成していたため、それを基にして大幅に拡大した。3 年終了時で、基礎文 法を網羅し、漢字約 500 字習得、旧能力試験 3 級合格という目標を掲げている。しかし年 間を通じて、他の言語、科目とのバランスも考慮しつつ、高校生がどの程度まで時間を日 本語に割けるのかがはっきり見えていないことから、漢字以外は到達目標をやや低めに設 定した。暫定的に初めの 3 年を一区切りとし、その後はモニタリングを通じてカリキュラ ムの訂正、変更をしていく予定である。

4.1 レベル 1 年次: A1 (min.)、

A2.1 (max.)

2 年次:

A2.1 (min.)、

A2 (max.)

3 年次:

A2 (min. )、

B1 (max.)

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表 2 各能力別到達目標 日本語

(第 3 外国語)

1 年次

2 年次

3 年次

聞くこと、話すこと(受容)

A1

A1– A2

A2– (B1)

聞くこと、話すこと(相互)

A1

A1– A2.1

A2– (B1)

聞くこと、話すこと(産出)

A1

A2.1

A2– (B1)

書くこと、読むこと(受容)

A1

A2.1

A2

書くこと、読むこと(産出・相互)

A1

A2.1-A2

A2

4.2 教科書 大学までの一環教育という目的から、教科書には教育出版社版の『学ぼう!日本語』を 選んだ。これは初級2冊、中級2冊、上級2冊、全6冊で構成されており、途中で教科書 を変更することなく、また内容的に重複することなく効率よく日本語を学ぶという方針で 編集されている。ただ、1冊修了に 200 時間が想定されているため、高校 3 年間の総時間 数 450 時間では、初級の 2 冊を余すことなく終えることが到達目標になる。実際にはテス ト、遠足、その他の行事などで、実質 450 時間の授業は見込めないため、単純計算で、幅 を持たせて 420 時間前後で 2 冊を終わるという計画である。文法事項のシラバスはフラン ス国民教育省が出している日本語教育、中等教育課程 Palier 1、 Palier 28を使用教科書に沿 って、一部変更し、漢字も基本的に使用教科書の語彙表から抜き出した。 更に、日本に関する読解教材、視聴覚教材を多く導入し既習の文法、漢字の定着を図る。 受容と産出のどちらに重点を置くか、正確さと流暢さなどのうちどれを重要視するかによ って授業やコースの中でのバランスのとり方はさまざまだが、これらはまた生徒たちの反 応を正確に把握した上で方向性を決めていくべきであろうと考えている。

5.日本語版カリキュラム作成上の問題点 CEFR 準拠のレベル分け、Can-do をふんだんに盛り込んだカリキュラムを作るにし ても、一方で岡、三好他(2008)が言うように、総合的な外国語能力をとらえるのに、 技能別フレームワークのみで十分な基準となり得るかという疑問が残る。CEFR で示され た到達度は実際の運用能力に関する到達度であって(岡・三好他 2008)そこに行き着くま での、あるいはそれを使えるようになるまでの言語構造的能力の到達度を示しているわけ ではない。特に中等教育レベルでは、はじめに表記(仮名、漢字)の習得に一定の時間を 要するし、それらが、完全に使いこなせるレベルに達するのは、文法や翻訳が言語に関す る能力の一部とみなされるのと同様、やはり一つの能力であると考えたい。CEFR の到達 度評価ではより現実生活に関連する実際の運用能力に重きが置かれているが、東洋語の場

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合、そこに至るまでのいわゆる言語構造的能力の育成、特に語彙の習得に尐なからず時間 がかかる。ヨーロッパ言語の場合に見られる音、あるいは表記上の類似性を一切持たない からである。ゼロスタートの生徒の日本語能力を CEFR あるいは JF スタンダードでどこま で正確に測り得るのか大きな疑問が残る。

5.1 時間配分に関して CEFR の枞組みでは各ステップに必要と思われる時間の目安が一切明記されていない。 これは、おそらく、CEFR が自身の語学レベルを判断するという性格のものであり、使用 する学生の個体差が大きいなどを考慮してのことであろうが、日本語の場合、他の言語に 比べて、段階による必須時間にかなりな違いがあるのではないかと思われる。教科書が従 来の文法積み上げ式のものであり、CEFR を意識して作られたものではないため、文法の 進行状況いかんで、また漢字導入によって幅が出るが、A1 から A2 に進むまでは文法は比 較的簡単で、シンタクスもまだこのレベルではそう難しくないので、カンのいい生徒なら かなり早く A2 レベルまで達するのではないか。しかし受容と産出のどちらに比重を置く かによっても A2 に達するまでに要する時間に大きく差が出るであろう。 更に A2 から B1 への落差はやや大きく、聞く、話すはできても、読む、書くが追いつか ないというケースは多いであろう。ここでも導入漢字数、その定着の良し悪しによって時 間が変わってくる。CEFR でも、A2、B1、B2 はそれぞれ枝分かれして、更に二つのステ ップを設けることもある。A1 と C1、C2 を除く途中の段階のステップアップはどの言語で あれ、難しいのかもしれないが、日本語の場合はその難しさの比重がより大きいような気 がされる。実際 JF 日本語教育スタンダードが提唱する 6 段階ステップアップの図9を見て もわかるが、途中の段階は他に比べて幅が広くとってある。これを高校での 3 年間、5 年 間に当てはめた場合、A2 から B1 への移行にどの程度の時間を割くべきなのか、他の科目 との兼ね合いもあり難しいところだと思われる。主要教科は受かっていても日本語だけ合 格点に達しない、あるいは反対に日本語だけはよくても他の主要教科が悪いなどの場合も 考慮していかねばならないであろう。クラス全体を持ち上げていくためにも、生徒の受け 入れ能力の差などとかみ合わせながらモニタリングしていく必要がある。

5.2 漢字の取り扱いに関して 日本語の場合、提示された文章中に使われている漢字が理解できないため、課題遂行が 妨げられるというケースは尐なからず起こり得る。つまり「読む」能力、 「書く」能力に関 しては、どの漢字をどのレベルでいくつまで教えるのか、が大きな問題となろう。 当初考えたのは Palier 1 に沿った漢字導入で、このシステムを使うと初級1の段階で 145 字が、また Palier 2 で 180 字を加えて 325 字が必修漢字に指定されている。 しかし、3 年間で 325 字というのはやや尐ないことから、われわれのプログラムでは漢

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字に限って、3 年制コースでは 1 年で 180 字、5 年制コースでは 100 字と、かなり冒険的に 数を増やしている。これはその後に続く大学での 3 年間の習得のためにはより多くの漢字 に慣れ親しんでおく必要があろうと思われるからである。 べースになる 100 字もしくは 150 字は教科書によってそう差がないが、その後、初級後 半になると使用する教科書によって、かなり提出漢字に差異が認められる。漢字を単体で 教えても意味がなく、当然文中の語彙として習得していく必要があるため、1 年の後半か らは熟語としての扱いになる。成果を見て、2 年目以降は、読めればよい漢字と書けなけ ればいけない漢字を別けていく。また漢字数そのものについても、3 年間(5 年間)で、習 得漢字 500 字という目標を立てているが、1 年目の様子をモニタリングして減らす必要が あれば、減らしていくことになる。 また、漢字に関しては好きな生徒と嫌いな生徒に二極分解する傾向があり、嫌いな生徒 にとってはこれが学習の最大の妨げとなる可能性も尐なくない。そこで、漢字学習はあま り生徒の自立性を尊重せず、教師側でノルマを決めて、学習を習慣付けてやる必要がある のではないかと思われる。ファルコーネの 2 コースでは毎週 8-10 字導入、数日後、ある いは次週にミニテストを習慣的に繰り返すことによって定着を図っていく方針である。試 験時に書けなければならない漢字は、現場の教師がリストの中から数を絞っていくことに なる。教科書に読み物が尐ないので、別立ての「読み物」教材を与え、漢字を読んで理解 する練習をプラスしていく。

6.異文化理解としての「日本文化ポートフォリオ」 CEFR が提唱する複言語能力や複文化の能力とはコミュニケーションのために複数の言 語を用いて異文化間の交流に参加できる能力のことをいい、一人ひとりが社会的存在とし て複数の言語に、すべて同じようにとは言わないまでも、習熟し、複数の文化での体験を 有する状態のことを言う、と定義されている。 言語学習は当然のことながら、 その言語を有する文化への理解、学習を土台としている。 言語と平行して日本文化全般について学ぶ機会を多く作り、異文化理解能力を高めていく 必要があろう。3 年制の生徒はすでに1,2 年次で日本の地理、歴史、文学などについての インプットが他教科のイタリア人教師によってなされている。5 年制の生徒には、今後の 文化指導の際に日本語教師の協力が不可欠となろう。クラス単位で行われる遠足、校外学 習の機会を活用することも考えられている。日本語のカリキュラムの中に文化理解を盛り 込んだ読解教材や視聴覚教材を採用していくことも必要であろう。例えば、交流基金開発 の『エリンが挑戦!にほんごできます』のような教材を取り入れることによって、日本の 高校事情、高校生をめぐる生活の一部を垣間見ることができる。こうした、ある意味お楽 しみの時間も挿入していくことも有効と思われる。 特に1年目は日本に関する総合的な興味を引き出すことが大きな目的のひとつである。

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今後、クラス単位で行われる校外学習などに先立って、自国(およびヨーロッパ)と日本 との文化交流を学習レベルで意識、あるいは体験させる形のもの、またそれぞれの学習が 有機的につながったものになるよう、学校側とも話し合っていきたい。自国と日本との文 化交流については、例えばイタリア国内の研修旅行ではジェノヴァ・キオッソーネ美術館 などが候補として挙げられよう。明治初期に日本政府から招聘されたエドアルド・キオッ ソーネ Edoardo Chiossone (1833-1898) 、ヴィンチェンツォ・ラグーザ Vincenzo Ragusa (1841-1927)、アントニオ・フォンタネージ Antonio Fontanesi (1818-1887) などを取り上げ、 歴史、美術史の範囲で彼らが日本の近代化に果たした役割を研究、発表させることが可能 であろう。 また、日本語専攻の生徒はフランス語も必修で取っているため、パリへの修学旅行とか らめて、パリのギメ博物館見学、ギメ E. E. Guimet (1836-1907) と日本文化、フランスにお けるジャポニズムへと自由研究を広げさせることもできる。またイタリア国内で随時行わ れる日本関係の展覧会へ引率するなどして、本で学ぶだけではなく、自分の目で見、感じ る文化を習得させていく可能性を探りたい。これらの成果を各生徒が日本文化ポートフォ リオとしてまとめ、卒業試験時の発表へとつなげていくこともできよう。これらのプラン は今後担当教師がコースプログラムの一環として高校へ提案していくことになる。

7.開始1ヵ月後の状況 コース開始後、特に新入 1 年生を対象にしてベルガモ大学からモニタリングのための調 査員が派遣されている。これは第二言語習得を専攻する上級コースの学生及びチューター であり、中国語、日本語、アラビア語のクラスの状況をきめ細かくレポートしている。こ の調査員の話では、日本語コースの学生は他の 2 言語に比べ、生徒が積極的に授業に参加 しているとのことであった。3 年制、5 年制の両クラスともに生徒は日本語の時間を楽しん でいる印象のようである。その理由として考えられるのは、日本から取り寄せる教科書が 全員に届くまでの時間を使って、イタリア人教師が表記(平仮名、片仮名)の導入と平行 して、様々な文化面の紹介を行った成果かと思われる。生徒たちがよく知っているマンガ やアニメ、歌などの他に、この先 3 年なり 5 年勉強していく言語とそれを支えてきた文化 全体への包括的な興味を喚起するため、又ごく身近なことから歴史的なことへと興味を広 げていくことができる土台作りと考えたためである。その間日本人教師は週1回の会話の 時間を使って、発音、挨拶、教室での表現などの定着を図った。 現場の教師からの報告では、3 年生は人数も尐なく、既にある程度外国語学習に慣れて いるという基礎もあり、吸収が早く授業はやりやすい。また作業、ペアワークなどにも積 極的に参加する。1 クラス 12 名なので、一人ひとりに目が行き届き、書きの指導などもき め細かにできる。しかし、3 年生(16-17 歳)と 1 年生(14-15 歳)の年齢による理解、 習得の差は尐なからずあり、とくに新入1年生のクラスはまだ学習に対する基本的な体勢

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が固まっておらず、出身中学の基礎学習レベルでの差が大きく出ている。週当たりの時間 数も尐なく、言語に関しては 3 年生に見られるほどのまとまりのある習得がむずかしいよ うである。約 6 週間経過した現在、生徒間にかなりの差が認められ、表記がまだ完全に定 着していない生徒も数人いる。現時点では 3 年制のプログラムを使っているが、早急に 5 年制のプログラムを設定しなおす必要がある。 両クラスともまだ日本語習得のためのリズムが教師側にも生徒側にも確立されておらず、 これからが本当の「挑戦」になるようである。

8.今後の展望 -まとめにかえて 企画段階では多分に理想に走り、かつ筆者自身の大学での経験から様々な類推をしてい たが、実際にクラスが始まってみると、生徒間に日本語の習得以前の学習態度、受容力の 大きな差が認められるなど、予想外の問題が噴出している。また企画側にいる筆者は、現 場で実際に生徒と向き合う機会がなく、今一つクラスの空気が掴めずにやや歯がゆい思い をしているのも事実である。 しかし幸いにしてプランナーと教師陣の関係が密であるため、 2 ヶ月ごとに高校の教師 2 名との話し合いによるモニタリングを行い、改善していく方針 である。 CEFR に関する知識、またその各国における応用例の研究も続けていかねばならない。 教材の妥当性、授業の進め方などについては、春に国際交流基金から発行が予定されてい る JF スタンダードに沿った初級用教科書の刊行が待たれる。補助教材としての利用が期待 される。また、アイルランド日本語教師会(JLTI)が開発中の中等教育日本語コースに European Language Portfolio (ELP)を導入するプロジェクト、『日本語ポートフォリオ』10に も大いに関心を寄せている。大枞だけを決めてスタートした日本語コースだが、今後、現 場の様々なニーズ、問題点などを考慮しつつ、生徒の学習意欲を最大限伸ばしていけるよ う柔軟な対処が必要であろう。 更に今後、長い経験を持つ欧州各国の高校日本語教育の実態を調査研究の上、コースの 責任者、教員とも連絡を取り合い、交流を図ることが重要かと思われる。教師には、教材、 教授法、評価法などに関する意見・情報交換の場を提供することができ、また生徒にとっ てもイタリア国内に止まらずヨーロッパの他の国々で日本語を学んでいる高校生との横の 交流を持つことは、学習意欲の向上を促し、日本語を媒介としての異文化理解の一端にも なり得ると確信する。去る 7 月に行われたアルザス日本語教師研修会で知り得た日本及び ヨーロッパ各国の最新情報をふんだんに取り入れ、二人の教師共々より充実したコースの 編成を目指す所存である。

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<注> 1 Istituto G. Falcone 学校に関する詳しい情報はサイト参照 2

http://liceofalcone.it

昨年度まで言語系高等学校における第 3 外国語は、高校 5 年間のうち 3 年生からの 3 年間履修を義 務づけられていたが、今年度から 1 年生から 5 年間履修するよう制度改革が行われた。

3

Progetto Orinete に関しては学校のサイトから、英語、イタリア語、スペイン語で参照可。

4

Gisella Langé 1986 年外国語・外国文化セクションの監査官に任ぜられ、ロンバルディア州を中心に 幅広く活躍中。1992 年よりストラスブール・ヨーロッパ評議会における種々の研究チームの一員と なり、現在言語ヨーロッパポートフォリオのイタリアにおける代表者を務める。言語、ポートフォ リオに関する著作多数。

5

州の学校局のサイト参照

http://www.istruzione.lombardia.it/protlo15519_10/

Parliamo cinese, giapponese, arabo in Europa 6

http://www.progettolingue.net/orientali/

本年度(2010-2011)は州内ですでに開始しているコースで総計 270 人の高校生が課外授業で日本 語を学んでいる。

7

http://www.progettolingue.net/orientali/wp-content/uploads/2008/11/lingua-giapponesebis.pdf 参照。イタリア語のみ

8

ftp://trf.education.gouv.fr/pub/edutel/bo/2007/32/MENE0760691A.pdf (2007)

9

JF 日本語教育スタンダード pp.10-11

10 大阪大学青木直子氏の考案による『日本語ポートフォリオ』

<参考文献> 青木直子(2007)「日本語ポートフォリオ」 http://www.let.osaka-u.ac.jp/ naoko/jlp. (2010 年 9 月 30 日) ------- (2007)「日本語ポートフォリオ 改訂版ユーザ-・ガイド」 http://www.let.osaka-u.ac.jp/~naoko/jlp/pdf/JLPUserGuide.pdf (2010 年 9 月 30 日) ------- (2010)「学習者オートノミー、自己主導型学習、日本語ポートフォリオ、アドバイジンセ ルフ・アクセス」日本語教育通信 岡秀雄・三好重仁他(2008)「CEFR japan 構築を目ざして」『第二言語習得研究を基盤とす る小、中、高、大の連携をはかる英語教育の先導的研究(平成 16 年度~平成 19 年度科学研 究費補助金

基盤研究(A)研究成果報告書)』

高田正俊「日本における『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞』の受 容について」 http://www.hi-net.zaq.ne.jp/msworld/master%27s-thesis.htm (2010 年 6 月 30 日) 吉島茂・大橋里枝他

編訳(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照

枞』朝日出版社

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ELP に関して: http://www.coe.int/t/dg4/portfolio/default.asp?l=e&m=/main_pages/welcome.html (2008 年 6 月 10 日) http://archivio.pubblica.istruzione.it/argomenti/portfolio/cose.shtml

(2008 年 6 月 10 日)

『JF 日本語スタンダード』に関して: http://www.jpf.go.jp/urawa/j_rsorcs/standard/index.html (2010 年 3 月 30 日) Palier に関して: PROGRAMMES DE L’ENSEIGNEMENT DE LANGUES VIVANTES ÉTRANGÈRES AU COLLÈGEJAPONAIS Palier1 ftp://trf.education.gouv.fr/pub/edutel/bo/2007/32/MENE0760691A.pdf (2008 年 3 月 10 日) Palier2 ftp://trf.education.gouv.fr/pub/edutel/bo/2007/hs7/hs7_japonais-vol3.pdf (2008 年 12 月 1 日)

<教科書> 日本語教育教材開発委員会

編(2005)『学ぼう!にほんご』初級 1, 2、専門教育出版

国際交流基金(2008)『エリンが挑戦!にほんごできます。』Vol. 1-3、凡人社11

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継承日本語教育における CEFR による評価と JF スタンダード フックス‐清水

美千代

要旨 スイスのバーゼル両州(バーゼルシュタット州とバーゼルランド州)では、主に移民融合政 策の一環として現在9年間の義務教育過程において、27 言語の継承語教育支援が行われている。 そうした中で、両州の教育庁は継承語教育の評価を、CEFR を基準として行う企画を立てた。 2008 年秋よりそのパイロットプロジェクトが開始され、バーゼル日本語学校もそのプロジェク トに参加した。プロジェクトに参加したのは5言語6教育機関であった。このプロジェクトに ついての報告をするとともに、その後の 2009 年の評価実施報告、さらに日本語教育の評価を CEFR によって行う際に問題となる点を挙げ、それをいかに解決していくかを新しく国際交流 基金によって構築された「JF 日本語教育スタンダード 2010」も踏まえて考察する。

【キーワード】継承日本語教育、CEFR、評価、JF 日本語教育スタンダード、スイス

1. はじめに スイスの国の正式名称は五つの言語で表されており、この五つは全て正式名称であるが、 その中でも一般的にはラテン語の「Confoederatio Helvetica」が使われることが多い。CH が スイスの国名の略語とされるゆえんである。これはスイスには公用語がドイツ語、フラン ス語、イタリア語、ロマンシュ語と4言語あり、その全ての言語使用の国民に公平であろ うとすると、このラテン語名が一番便利であるからだ。日本語では「スイス連邦共和国」 と訳され、その名の通りスイスは 26 州からなる連邦国家である。さらに、連邦政府には教 育関係省というものが全くなく、教育は各州がそれぞれの教育政策に基づいた教育制度を 敷いて行われている。言語教育も例外ではなく、各州で学習する言語や学習開始年なども 様々である。共通するのは義務教育が9年間であることぐらいであり、義務教育カリキュ ラムも 26 州様々である。 そういった中、移民融合政策の一環として、継承語教育を支援、推奨する州が増えてき ている。特に、外国人や移民人口の多い都市を持つ、バーセル、ベルン、ジュネーブ、チ ューリッヒの各州で盛んな活動が行われている。その一つが HSK 授業( Heimatlicher Sprache und Kultur Unterricht )と呼ばれる継承語教育推進事業である。 バーゼル日本語学校も、バーゼルシュタット州教育庁の継承語コースの一つとして組み 込まれており、校舎の無償貸与、教師への無償研修、教材コピー代の援助等を受け、日本 語教育を行っている。 この継承語コースの紹介は義務教育にある公立学校すべてになされ、

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HSK 授業の成績は学校の成績表とともに現地校の各クラスの担任から渡される。この継承 語教育の評価に関してバーゼル両州教育庁は 2008 年、新しい方針を立ち上げた。それは、 継承語教育において CEFR による評価、いわゆる A1、B1といった評価を行うという方針 である。これは、将来においては学校における諸外国語学習の評価も CEFR で行おうとい う意図が含まれている。 バーゼル日本語学校はこの CEFR で評価を行うというパイロットプロジェクトに参加し た。CEFR は欧州言語の共通枞組みであり、欧州言語でない日本語を CEFR で評価するに は色々な難しい側面がある。しかし、将来スイスおよび欧州で活躍していくであろう生徒 達の日本語能力の評価を CEFR でしないわけにはいかない。この HSK 授業の学習枞組み及 び CEFR を継承日本語教育の学習目標及び評価に今後いかに取り込んでいけるのか、多く の課題が私ども継承日本語教育に携わる教師の肩にかかっている。そうした中、本年新し く JF 日本語教育スタンダード 2010 が発表された。これが果たして CEFR を基準として日 本語教育をする私達にとって役立つものであるのかを考察する必要も出てきた。今回の CEFR を基準とした学習評価の実践を報告するとともに、今後の課題、展望を JF 日本語教 育スタンダードも踏まえながら考察していきたい。

2. バーゼル両州の継承語教育とバーゼル日本語学校 パイロットプロジェクト「CEFR による評価」の実践について記述する前に、まずここ で、バーゼル両州における継承語教育の状況、その政策と内容およびバーゼル日本語学校 について簡単に説明しておきたい。

2.1

バーゼル両州の継承語教育政策とその内容

1998 年、スイス各州教育庁代表者会議において、この会議から要請を受けた専門家によ る言語習得の研究調査の結果が報告された。それは、複言語、複文化社会を形成するため には、母語の擁護と教育が重要であるという報告であった。これを受け、1999 年、バーゼ ルシュタット州では移民及び外国人融合政策として、母語の教育が最も重要な政策の一つ とされた。 バーゼルシュタット州では、住民の 28%が外国籍を持つ外国人であり、義務教育を受け る全生徒の 45%が日常 2 カ国語あるいはそれ以上の言語を使用するという状況がある。さ らに、バーゼルシュタット州で使用されている住民の言語は約 60 言語にわたっている。こ のように移民及び外国人の多いバーゼルでは、移民融合政策の一環として子供達に公平な 教育の機会を与えるということが謳われている。複言語•複文化社会をめざすバーゼルは、 母語運用能力の向上が第二言語習得に重要な役割を果たすという近年の研究結果を踏まえ、 諸外国語を母語とする子供達の将来の有利性を考えるとともに子供達のアイデンティティ

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確立の支えとなる母語教育を奨励している。また、親子のコミュニケーションが親の母語 でなされることの大切さをうったえ、継承語は親子の絆となる言語であり,他の言語教育 とは違うという見解を示している。それは、ひいてはバーゼル現地校でのドイツ語教育に 良い影響を与えることでもあるとしている。 このような考え方からバーゼル両州の継承語教育推進政策の内容は以下のようなものと なっている。 •

政治的、宗教的にニュートラルな継承語教育機関への支援

2003 年秋より HSK 授業教師のための研修コースを開催

公立学校における生徒への複言語•複文化に関する教育

現地校教師への継承語教育に関する知識の紹介

保護者宛の継承語授業推薦書とその配布

全継承語授業のリスト作成と各学校への配布

継承語推進のための特別教育モデル作成と実践

継承語授業評価の現地校通信簿への記載

2.2

バーゼル日本語学校の概要

バーゼル日本語学校は、1985 年に日本人保護者グループにより非営利団体として創立さ れた。2003 年からはバーセルシュタット州の継承語教育コースの HSK 授業校となってい る。現在の生徒数は 2010 年 10 月現在、54 名で大半の生徒が欧州人と日本人を親とする子 供達である。両親が日本人である生徒もいる。小学校 1 年生から大学生までが 6 クラスに 分かれ、4 名の教師のもと日本語の学習に励んでいる。週1回、90 分授業を基本とし、年 間平均 36〜40 回の授業があるほか、新年会、遠足などの行事も行われている。義務教育修 了時に日本語能力試験 N2 に受かることを学習目標としており、9 年間学習した生徒は皆、 このレベルに至り、N1 に受かる生徒もある。

3. CEFR を基準とした評価実施までの過程 3.1

バーゼル両州の継承語教育機関で CEFR を基準とした評価を行うことになった理由

バーゼル両州の教育庁が継承語教育である HSK 授業の評価を CEFR で行う企画を立てた 理由の一つは、各言語教育機関のそれまでの様々な評価システムを改善し、全ての HSK 授業の評価を同じ評価基準で行い、統一性を持たせる。さらにもう一つは、バーゼルシュ ッタット州では 2010 年新学期から小学 2 年生で CEFR ポートフォリオの使用を義務とする 予定があり(現在既に行われている)、将来、外国語学習の評価が必然的に CEFR を基準と した評価になることから、実際にポートフォリオの使用が行われる前に継承語教育で試験 的にこの評価を行ってみようという考えがあった。

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3.2

パイロットプロジェクト「継承語教育における CEFR を基準とした評価」の実施

2008 年 6 月から 2009 年 2 月にかけて、試験的評価実施までの準備として 6 機関の全教 師を対象として研修が行われた。全 6 回、各回 2 時間半の研修があり、各回の研修後は次 回までに履修すべき課題が与えられた。履修要項は HSK 授業についての広範な知識や継承 語教育に関する知識の習得、CEFR に関する学習、スイスのドイツ語年少者用(義務教育 期間の生徒用)の CEFR 及びポートフォリオについての学習のほか、ポートフォリオを取 り入れた授業、チェックリストによる自己評価、発話•会話の評価に関する学習,生徒の社 会性に関する評価についても研修がなされた。 2009 年 2 月から5月にかけては、各継承語教育機関が評価実施までの企画作成と評価モ デルの作成が行われ、5月にはその発表が行われた。バーゼル日本語学校では、4 名の教 師が共同でバーゼル日本語学校の評価モデルを考察し企画した。そして、6 月にはこの企 画をもとに始めての CEFR による評価が行われた。

3.3

バーゼル日本語学校の試験的評価実施までの準備と評価実施の過程

バーゼル日本語学校の 4 名の教師が共同で行った CEFR を基準とした評価実施にいたる までの内容をここに述べたいと思う。 まず、最初に手がけたのは、スイスにおける年少者用 CEFR の翻訳であった。これは、7 才から 15 才までの義務教育生徒用の CEFR だが、まだ日本語に訳されていないことから、 これを日本語に翻訳することを始めに手がけた。4 名の教師が話し合いをしながら、かな りの時間をかけて翻訳をした。この年少者用枞組みは通常の成人用のレベル別と異なって いるのが顕著なところである。一般的といえる成人用は A1、A2、B1、B2、C1、C2 の 6 段階があり、A、B、C それぞれが 1、2 と二つの段階に分かれているのであるが、この年 少者用 CEFR は A1.1 、A1.2、A2.1、A2.2、B1.1、B1.2、B2 の 7 段階に分かれている。C レベルがないのは第二言語習得においては 15 才以前に C レベルになることは普通はない という観点から考慮された。この翻訳を通して、教師の CEFR に関する知識とその共有が 行われ、翻訳したということだけではなく、4 教師がこの CEFR を共有できたことにも大 きな意義があった。 第 2 番目には、スイス独語年少者用ポートフォリオ ESPⅠ(7 才〜11 才)のチェックリ ストの翻訳をした。これは特に 7、8 才児にとって独語のチェックリストを理解するには少 し難しい点があるので、保護者と一緒のチェックを考えてみたからである。この翻訳によ り、少なくとも独語の出来ない保護者にもチェックリストが読めることになった。 第 3 番目には、保護者への CEFR およびポートフォリオの紹介を行った。CEFR による 評価が行われることを報告するとともに、CEFR およびポートフォリオとは何か、また評 価のレベルとはどのようなレベルを表しているものなのかということを知ってもらうこと

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が必要であった。これは、今後随時行う必要のあることでもある。CEFR は難しいことを いっているわけではないのであるが、これを正しく理解するのはそれほど容易なことでは ない。 この後、チェックリストを使用しての生徒による自己評価を行った。この場合,小学一 年生の場合は保護者とともにチェックリストでチェックする方法がとられた。そのチェッ クの結果をもとに 4 教師が話し合いで評価をした。この話し合いは、教師間の共有する幅 が広がり、よい結果となった。

4. 評価実施の際の問題点と利点 4.1

評価実施の際に上がった問題点

実際に評価を始めて、色々な問題点にぶつかった。評価時期は既に決まっており、この 問題点を解決して評価をすることは至難の業であったので、今後の課題として考えること とし、暫定的な措置のもとに評価をせざるを得ない点もあった。以下に問題点をあげる。 (1)文字•敬語•男女言葉 CEFR はその名のごとくヨーロッパ言語を対象としている共通参照枞であるため、 日本語をこの参照枞で評価するには難しい点があった。それは、文字,敬語、男女 言葉の運用能力をどのように評価するということであった。時間的制約があったこ とから、文字に関していえば、読み書きの能力は、ひらがなとカタカナ表記の場合 のみと考えて評価した。又、敬語と男女言葉に関しては評価の対象としなかった。 (2) CEFR のわかりにくさ CEFR は欧州言語の共通参照枞組みという性格から、具体性に欠け理解するまで に時間がかかる。ある機関の全教師が共通の視座を持つまでに非常に時間を要する ことが分かった。ただ、その反面,理解の難しさから教師間での話し合いが必要に なり、対話を通して自分たちの評価を共有していくという現象があり、これがまさ に一つの機関で CEFR を基準として評価する場合に必要なものであると思う。 (3)時間のかかる評価 共通参照枞組みと切り離して考えることが出来ないポートフォリオを生徒達が理 解し、使用できるようになるまでにはある程度の時間がかかり、さらにポートフォ リオにあるチェックリストを通して生徒が自己評価する際に、生徒の年齢が低いほ ど自己評価が難しい。教師との話し合いが必要であり、これにもかなりの時間が必 要となる。継承語教育の少ない授業時間の中での CEFR による評価は時間を取られ ることが問題である。 (4)他の評価方法併用の必要性 数段階しかないレベルで評価する際、一年で大きなレベルの変化がない場合も多

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い。そのことを踏まえて、CEFR 評価と平行した各学期における評価が学習意欲を 高めるためにも必要となる。

4.2 CEFR 基準による評価の利点 (1) 偏らない言語学習および評価の可能性 言語運用能力の評価はとかく読解能力と作文能力に重点が置かれる傾向にあるが、 CEFR を基準とした評価の場合には五つの能力について、それぞれの評価を行うこ とから偏りのない評価が行われる。また、教師自身の授業も各能力を意識した授業 を行うことが必要になり、現在までの評価よりも各能力をはっきりと踏まえた評価 が行われることになる。読み書きの評価だけではなく口頭表現の能力さらには発表 能力の評価も意識的に行われることになる。 (2)絶対的評価の有利性 継承語各教育機関での評価は相対的であり、普遍性がない。今後、CEFR がヨー ロッパ全土の言語基準として広まっていくのは確実であり、ヨーロッパ内での人々 の移動がこれまで以上に頻繁になるであろう将来に向けて、ヨーロッパに住み継承 語を学ぶ生徒達がこの基準をもとに日本語能力を提示できることは大切である。 (3)生徒の学習態度の変化 チェックリストにより自己の言語能力をチェックしていくことから、自分自身で 客観的に自己の言語能力を考え、知ることにより、生徒の自覚、そして日本語学習 のモティベーションがたかまった。 (4)教師間での対話と共有を促す評価 CEFR による評価は各教育機関の教師間での対話、そして共有を促すものであり、 CEFR 基準にあった教師の共同による教材,テスト等の作成が将来において期待さ れる。

5.

CEFR を基準とした評価と JF 日本語教育スタンダードとの関わり

本年、2010 年に国際交流基金が発表した日本語教育の基準『JF 日本語教育スタンダード 2010』が実際にどのようなものであるのか、また、CEFR という言語共通参照枞組みとい うものが既に存在しているヨーロッパにおいて、このスタンダードをどのようにヨーロッ パでの日本語教育の中に取り込んでいけるのか、というのが昨年の同スタンダードの試行 版発刊以来の気になるテーマであった。 しかし、ヨーロッパで日本語を教える者にとっては幸いなことに、この JF スタンダード は CEFR を範として構築されていることである。そして、相互理解のための日本語教育が さらに発展し、国際相互理解が促進されることを願うということを視座として、日本語を

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多言語の一つとして位置づけている。CEFR と全く同じに、その参照枞組みは6つのレベ ルに分かれており、能力記述文である Can-do、そしてポートフォリオも同じようにある。 また CEFR と同じく、コミュニケーションとしての言語活動を中心とした行動中心主義的 なアプローチによる、学習者中心の自律的な言語学習を考えており、 「言語教育とは単なる 言語コミュニケーションスキルの習得を目標とするのではなく、社会的な存在としての人 間に必要な異文化理解能力、社会文化能力、学習能力などの一連の能力の養成を含むもの である。(JF 日本語教育スタンダード

−試行版−)」としている。

以上のように、JF スタンダードはまさに CEFR から生まれてきたものといえる。そうし たことから、これからの欧州での日本語教育において役立っていくものではないかと思う。 今後の JF スタンダードの更なる継続される構築過程において望むのは、先に「4.1

評価

実施の際に上がった問題点」にて述べた CEFR 評価で問題となった点の解決である。その 中でも、漢字、敬語、男女言葉をどのように参照枞レベルの中で処理していくのか。欧州 言語の評価にないこの漢字, 敬語,男女言葉というカテゴリーをいかに解決していくのか。 大きな課題が残る。

6. 今後の課題と抱負 バーゼル両州政府教育庁が決定した CEFR を基準とした言語能力評価は、問題点が全く ないわけではないが、今後のヨーロッパの言語教育の流れに沿うものであり、我々,ヨー ロッパにおける日本語教師は日本語の評価をいかに CEFR 評価にすりあわせていくかを考 察し、試行していかなければならない。その際、JF スタンダードを鑑みる必要も出て来た。 筆者にとっては、今回の CEFR を基準としたプロジェクトに参加し、ヨーロッパにおける 継承日本語教育の教師であり、実際に CEFR 基準で評価を始めた者として解決していかな ければならない課題が幾つかある。それを踏まえて以下の事項を今後の課題とし、将来の 継承日本語教育に寄与していきたいと思っている。 今後の課題は、まず、読みを含めた、漢字運用能力を評価する場合どのような位置づけ から評価をするのか、あるいはできるのかを考察し、漢字の運用能力を考えた継承日本語 教育(バーゼル日本語学校)の CEFR およびチェックリストとテストの作成がある。また、 CEFR の五つの能力を常に念頭においた授業及び教材作成、そしてテストの作成が急務で ある。教師としては CEFR および JF スタンダードをより理解し、時代にあった、生徒にと って利益となるような授業と評価の実行に努力し、保護者への CEFR に関する情報提供も 随時行っていかなければならない。さらには筆者のこれからの大きな課題として、CEFR および JF スタンダードを鑑みたヨーロッパにおける新しい継承日本語教育シラバスの作 成がある。今後、あせらず、しかしたゆまず、この課題の遂行に努力していきたい。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<参考文献> Council of Europe (2004) 吉島茂

大橋理枝

訳、編 『外国語の学習,教授、評価のためのヨーロッパ

共通参照枞』、朝日出版社 独立行政法人国際交流基金 (2010)『JF 日本語教育スタンダード 2010』

Silvia Bollhalder, (2010) Erziehungsdepartment des Kanton Basel-Stadt, Fachexpertin Herkunftssprachen Herkunftssprachenfördrung in Basel-Stadt Claudio Nodari, R. De Rosa (2003) Mehrsprachige Kinder – Ein Ratgeber für Eltern und andere Buzugpersone , Bern:

Haupt

Verlag Bildungsdirektion des Kanton Zürich Volksschulamt, sektor Interkulturelle Pädagogik (2003) Ramenlehrplan - Kurse in Heimatlicher Sprache und Kultur (HSK) – Verlag BildungsdirektionErziehungsdepartment des Kanton Basel-Stadt Ressort Schulen Fachstelle Sprachen (2005) Die Sprach – und Kulturbrücke – integrierte Erstsprachenförderung in Kanton Basel-Stadt –

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-5

アイルランド中等教育用 ELP の日本語版 作成・導入プロジェクト 織田

智恵

要旨 2001 年に CEFR が発表されてから約 10 年たった今、ようやっとアイルランドの言語教育界 に少しずつその影響が現れ始めた。2 言語国家である故なのか明確な言語教育政策が打ち出さ れないままに初等、中等教育での言語教育の見直しが現在進行中である。日本語が 2004 年に 中等教育に導入されたものの、未だカリキュラムの中に確固として繰り込まれていない。日本 語の学習者の数は年々増加してきてはいるが、高等教育への移行もスムーズとは言いがたい。 こう言った状況の中で日本語学習を根付かせ益々発展させる為には複言語主義/複文化主義 を謳う CEFR のツールとしての ELP を導入することが、日本語コースにとっては良い起爆剤に なるのではないだろうか。ELP 使用が学習者のみでなく、カリキュラム作成、教育現場、評価 に関わる人々にも影響があることは必至である。幸運なことにアイルランド中等教育用に主な ヨーロッパ言語で ELP が作成されていて、欧州評議会の認定も受けている。この ELP を基と して日本語版を作成、導入しようと言うのがこのプロジェクトである。

【キーワード】

Leaving Certificate Examination、PPLI、日本語 ELP、オンライン ELP

1. はじめに 1.1

このプロジェクトはアイルランド中等教育での日本語のクラスに ELP を導入しよう

と言うものである。

1.2 1.2.1

背景 アイルランドの言語教育の背景

アイルランドは2言語国家である。アイルランド語が国語そして第一公用語で、英語が 第2公用語である。しかし人口の極少数以外は英語を日常言語として使用している。 1 中等教育機関に関して言えば、英語とアイルランド語の提供が義務付けられている。2

の他の言語に関しては各校の自由に任せられていて外国語をカリキュラムに入れていない 学校もある。実情は殆どの学校が一つか二つの言語(伝統的にフランス語とドイツ語)を 提供してきた。これは国立大学入学条件に Leaving Certificate Examination(LC)3で外国語 を受験する事が必須の為であろう。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

1.2.2

日本語コースの開設

2000 年にアイルランド政府は National Development Plan て教育科学省5は中等教育での外国語教育の見直しを行った

2000-20064を発表、それを受け その結果、言語教育を強化し、

より発展させると共に言語の選択の幅を拡げることを決定、その実行機関として Post-Primary Languages Initiative(以後 PPLI)6を開設した。PPLI はイタリア語, スペイン語 そして日本語を導入、その促進の為の活動を開始した。その後 2004 年に日本語は LC の正 式科目となる。 2007 年には、新しい National Development Plan 07〜137が発表され、危ぶまれた PPLI の 存続が決まり、引き続き他言語の発展のサポートを続けている。日本語に関しては、今ま で通り Japanese Development Officer(JDO)として日本語教師を中等機関へ派遣8すると同 時に、日本語を主要な科目の一つとしてカリキュラムの中に組み込む為の対策を練り文部 科学省に働きかけていくことになった。 日本語を受験する学生の数は年々増加(2009 年 250 人)している。2009 年現在 32 の中 等教育機関で教えられ、学校で履修出来ない生徒対象に土曜日の特別クラスも提供されて いる。高校1年次には日本語・日本文化体験クラス、2 年−3 年次は LC のシラバスに沿っ たクラスが開講されている。

1.3

言語教育でのヨーロッパの枠組みとアイルランド

2007 年に欧州評議会とアイルランド教育科学省が共著、発表したアイルランドでの言語 教育政策に関する報告書 Language Education Policy Profile: Ireland9によると、 外国語教育に関しては(アイルランドでは)ヨーロッパの流れに乗っていない様に 見受けられる。他欧州国で見られる程には複言語主義がアイルランドでは顕著で はない。また欧州評議会が開発した CEFR や ELP が使用されていないのみなら ず、大多数の教師陣に知られてもいない様だ。 10 これが現状とは言え、次の様な動きも見られる。National Council of Curriculum and Assessment (NCCA)11は 2003 年に David Little に執筆を委託した Languages in the

Post-Primary Curriculum: a discussion paper 12を発表している。Little はその中の一つ の章(第 5 章)を Common European Framework for Languages(CEFR)と European Language Portfolio(ELP)に当て、結論の一つとして「学習者のオートノミーを育てる為 にも中等教育での言語学習の中に ELP を取り入れる有益性を考慮すべきだ」13と述べてい る。 その後 2005 年 4 月には同じ NCCA が Review of Languages in Post-Primary Education14を発 表し、”Linking with Development in Europe”という表題のセクションの中でアイルランドの

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

コンテキストから考える CEFR と ELP の使用の可能性を探る研究が今進行中だと述べてい る。それによると、ヨーロッパで展開されている最近の動きは今後アイルランドでも注目 すべきであり、特に ELP が目指すものは中等教育での言語教育の目標と一致している。今 後 ELP を活用できるのではないかと結論づけている。15 実際には Trinity College Dublin 内の Centre for Language and Communication Studies (CLCS)16が中等教育用の ELP17を 2001 年に開発し、欧州評議会の認定を受けている。 また 2007 年 12 月には National Qualifications Authority of Ireland(NQA) 18が Towards the Establishment of a Relationship between the Common European Framework of Reference for Languages and the National Framework of Qualifications 19を発表。これは CEFR とアイルラン ドの National Qualifications Framework そして European Qualifications Framework の 3 枞組み を対比させて言語枞組みの側面から連関性を探る試みであった。 この様にヨーロッパの動きは遅まきながらアイルランドの教育界に影響を及ぼし始めて いる。現在見直し中の中等教育での言語教育カリキュラムの中に CEFR/ELP が姿を見せる 日は近いのではないか。修正されたカリキュラムの発表が待たれる。

1.4

ELP を導入する背景

日本語 LC コースに ELP を導入しようと言う背景には、ロシア語を除く主立った言語(仏、 独、西、伊、アイルランド語)では最早前述のポートフォリオ 20が作成されていると言う 状況がある。また増加する日本語履修者が、高等教育機関で日本語学習を継続する際スム ーズで的確なレベルへの移動の補助として日本語 ELP が役に立つ。現在の所日本語を履修 できる高等教育機関は4校21のみなので、機関外での日本語学習継続の機会も多いと考え られる。その際にも ELP が持つ報告機能が本領を発揮するであろう。 また日本語学習者にとっては ELP の持つ教育的機能が特に重要な意味を持つ。アイルラ ンドの中等教育に属する学習者達が日本語環境に行く機会は残念ながら非常に少ない。他 ヨーロッパ言語の学習者が勉学、研究、就職のみならず短期間休暇でもその言語の話され ている国に行く可能性は多大である。このことが目標言語習得の観点からみると動機付け、 また習得環境として日本語の場合はマイナスと作用する可能性はある。だが言語習得を通 して学習者の成長を促す等の ELP が持つ教育的機能を推奨することでプラスへと転換出 来る。例えば学習の振り返りを通しての学習方法の意識化、それによって自分にあった学 習方法を発見し育成していく。自分で学習の目標を(シラバス内とは言え)設定し、学習 成果を確認しながら学習過程に意識を持つ事によって自分の学習を管理し、学習管理能力 を育て、オートノミーを持った学習者に育つ。このことは生涯教育に繋がるものとしてだ けではなく、他の分野の学習にも役立つという利点は見逃せない。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2. 実践結果・報告 このプロジェクトはまだ進行中のもので、結果を発表するに至らない。ここでは実践の計 画と手順その他を報告したい。

2.1

プロジェクトチーム

実践にあったて、まずプロジェクトチームを結成した。メンバーは以下の3グループから の参加者である。 ・Japanese Teachers of Ireland(JLTI)22アイルランド日本語教師会 ・PPLI(前述) ・アイルランド在勤の国際交流基金日本語教育専門家 プロジェクトの主体は JLTI にあるが、PPLI に所属していて非 JLTI 会員の教師も含める とアイルランド中等教育の日本語現場に携わる教師の殆どを含む事になる。

2.2

作業内容

2.2.1

ELP 作成

・既存のアイルランド中等教育用の他言語の ELP を参照し23、日本語のシラバス、教材を 基に内容を整理する ・パスポートは EU のものか、既存の ELP のものを使用する ・日本語のチェックリストを作成 ・その他の部分の日本語訳を作成 ・日本語ポートフォリオはデジタル化し、PPLI のサイトに載せる ・オンライン化された後、学生は自分の ELP のみに、教師は担当する学生全員の ELP に アクセス出来る様設定する

2.2.2

ELP 導入

・使用開始時を三者(教育機関、教師、作成グループ)で決定 ・教師対象の研修会を必要に応じて開催 ・使用開始時に必要に応じて学校へ出向き生徒への導入の手助け ・使用後は、教師と生徒へのケア

2.2.3

作業計画

使用開始時を 2011 年の新学年度からと目標をたてた。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2010 年 10 月

チェックリスト作成開始

2010 年 12 月

チェックリスト完成

2011 年 1 月-3 月

その他の部分の日本語訳

2011 年 3 月-4 月

まとめ

2011 年 5 月-7 月

デジタル化(専門家を雇う)

2011 年 4 月-9 月

教師の ELP ワークショップ

3. 評価、問題点 3.1

ELP の認定、版権に関して

このプロジェクトは既存の ELP を基に日本語版を作成、使用する為、基の ELP の出版 社と作者から許可を得る必要があった。これは両者からの快諾を得た。欧州評議会の認定 は取得済の ELP を使用する為、不必要となる。24

3.2

日本語用チェックリスト

既存の ELP には付録として英文の包括的チェックリストがあり、それを基に日本語に必 要な can-do statements(CDS)を新たに作成し、また日本語の学習には不適切な CDS を除去 してチェックリストを作成する。問題は、日本語 LC コースのシラバスをどの程度考慮に 入れるかである。当然シラバスとチェックリストが直結している事が理想だが、現在のシ ラバスを見ると量が膨大で現実的に学習可能な域を超えているのではないかとの疑問が起 こる。これは次に述べるレベルの問題にも関係している。

3.3

レベルの問題

アイルランドのカリキュラムによると、外国語で LC を取得すると B1(あるいは B2)に 到達したと認められる。現に他言語の ELP には A1 から B2までのチェックリストが収め られている。日本語コースの場合は、中等教育の後半のみ 25で提供されているので学習時 間が他言語と比べて半分以下しかないこと。他ヨーロッパ言語と比べると、文字、正書法 等を含め日本語学習にはより多くの時間が掛かることなどを考慮すると、日本語の LC で は A2 が到達可能なレベルであることは否めない。他言語と足並みを揃える事が出来ない 現状である。

3.4

オンライン ELP にする利点

・既存の ELP は紙のものである。横 26 センチ、縦 32 センチ、厚み 4.5 センチあり頑丈な ボール紙で出来たバインダーに挟まっている。中身のページも上質な紙を使用していて、

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

当然ながら重い。オンライン化する事で、重さの問題を解決できる。 ・ELP は授業中のみならず、思いついた時に使用したい。コンピューターへのアクセスさ えあればいつでも使用できる。 ・また既存の ELP は、ページ数が多く26使い勝手が悪い。オンライン ELP ではクリックす るだけで必要な箇所へ行くことができる。 ・最近の高校生はコンピューター上での作業は魅力こそあれ苦にならない。

3.5

導入にあったての教師の養成

ELP の導入が成功する為には、教師の ELP に関する理解がまず必要である。その為 2 回 のセミナーとワークショップを計画している。最初のセミナーで CEFR のレベルに関して の理解を深め、2 回目では ELP とは何か、その目的や効果的使用方法等を学ぶ機会を作り たい。

4. 今後の展開と課題 2009 年グラーツで行われた第 8 回 ELP セミナーで、 David Little は CEFR ではカリキュラ

ム作成、学習現場、評定の三者の関係が緊密であることを主張しており、この三者を結び つけるものは行動アプローチを表す CDS であると言っている。また CEFR を学習の現場に 取り入れるツールとしての ELP の導入、使用が効果的に行われる為には上記の三者の関係 が緊密であること、つまり次の 3 つの条件があることが望ましい27と述べている。 1. カリキュラムが(カリュキュラムそのものかカリキュラムが目指すコミュニカテ ィブ目標の解釈)が CDS で表示されていること 2. ELP の自己評価チェックリストがカリキュラム内の CDS と直結していること 3. 同じ CDS で表されているコミュニカティブタスクで構成されたテスト、試験を使 用し、その採点方式が基本的に ELP 内での自己評価のクライテリアと同じである こと これを見ると、カリキュラム、現場で使用されるチェックリスト、また評価に至る三者 が同じ CDS に基づいていることが理想とされている。アイルランド中等教育の言語教育で はこの三者が足並みを揃えているとは言いがたい。今後の大きな課題は、この三者の関係 をより緊密にする働きかけをしつつ、現場では成るべく使い勝手の良い ELP を提供、導入 していく事と言えよう。

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<注> 1

アイルランド国勢調査サイト

2

National Council for Curriculum and Assessment のサイト

3

State Examination Commission のサイト

4

National Development Plan のサイト

5

アイルランド教育科学省(現在は Department of Education and Skill と称する)http://www.education.ie/

6

PPLI のサイト

7

National Development Plan のサイト

8

1-2 の例外を除いては、日本語教師は PPLI から派遣されている

9

Council of Europe and Department of Education and Science.2007.

LC 実施の担当機関

http://www.languagesinitiative.ie/

10 Council of Europe. 2007. p.12.

筆者抄訳

11 NCCA サイト参照. 12 NCCA. 2003. 13 NCCA. 2003.p.33 14 NCCA. 2005. 15 NCCA. 2005. pp.53-61. 16 CLCS のサイト

http://www.tcd.ie/slscs/clcs/

17 ELP for Post-Primary Education

以下のサイトを参照

http://www.tcd.ie/slscs/clcs/research/featuredresearch_european_language_portfolio.php#models 18 National Qualifications Authority のサイトを参照 19 National Qualifications Authority. 2007. 20 ELP for Post-Primary Education 21 2010 年の時点ではアイルランド国立大学7校の中4校で日本語が単位獲得の科目なっている。1校が 今準備中。 22 JLTI のサイト http://www.jltireland.com/ 23 ELP for Post-Primary Education 24 2010 年以降は認定方式から登録方式へと移行する 25 日本語の場合は senior cycle つまり5年生と6年生の2年間のみ提供している 26 付録図1を参照 27 Little. 2009. pp. 1-9

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<参考文献> 吉島茂、大橋理枝(訳・編) (2004)『外国語教育Ⅱ-外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッ パ共通参照枠』、朝日出版社 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jgg/jggla/library/cef_ verzeichnis.html(2010年9月22日) Council of Europe(2000)European Language Portfolio (ELP): Principles and Guidelines. Strasbourg: Council of Europe. DGIV/EDU/LANG(2000)33 ------- (2001) Common European framework of References for Languages: Learning, Teaching, Assessment. Cambridge: Cambridge University Press Council of Europe & Department of Education and Science Ireland (2007) Language Education Policy Profile: Ireland. Strasbourg. Language Policy Division. Council of Europe Goullier, Francis (2006)

IGEN: Council of Europe Tools for Language Teaching Common European

Framework and Portfolios (European Version). Didier http://www.coe.int/t/dg4/linguistic/Source/Goullier_Outils_EN.pdf (2010 年 10 月 10 日) Little, David (2003) Languages in the Post-primary Curriculum-a discussion paper-. Dublin: National Council for Curriculum and Assessment of Ireland. www.ncca.ie/uploadedfiles/publications/languagesdiscussionpaper.pdf (2010 年 10 月 29 日) ------- (2004) De-Mystifying the European Language Portfolio. British Council www.britishcouncil.org/brussels-elp-colloquium-david-little.pdf (2010 年 10 月 15 日) ------- (2006) Languages in the Post-primary Curriculum: Time for a New Approach? SLSS http://english.slss.ie/languages.html(2010 年 10 月 15 日) -------

(2009) The European Language Portfolio: where pedagogy and assessment meet. (DGIV

LANG(2009)19) Graz. Council of Europe. Language Policy Division http: //www.coe.int/t/ dg4/portfolio/default.asp?l=e&m=/main_pages/welcome.html (2010 年 10 月 30 日) NCCA(2005) Review of Languages in Post-Primary Education. Dublin: National Council for Curriculum and Assessment of Ireland http://www.examinations.ie/index.php?l=en&mc=ca&sc=sb National Development Plan (2000) National Development Plan 2000-2006. Dublin. The Stationary Office ------- (2007) Transforming Ireland: National Development Plan 2007-2013. Dublin. The Stationary Office National Qualifications Authority of Ireland (2007) Towards the Establishment of a Relationship between the Common European Framework of Reference for Languages and the National Framework of Qualifications. Dublin. NQA. Schneider, G. & P. Lenz (2001) European Language Portfolio: Guide for Developers. Strasbourg: Council of Europe. http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/?L=E&M=/main_pages/ documents.html(2010 年 10 月 3 日)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<参考サイト> ヨーロッパ評議会のCEFに関するサイト http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/?L=E&M=/documents_intro/common_framework.html ヨーロッパ評議会の ELP に関するサイト http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/?L=E&M=/main_pages/portfolios.html アイルランド国勢調査サイト http://beyond2020.cso.ie/Census/TableViewer/tableView.aspx?ReportId=75654 National Council for Curriculum and Assessment のサイト http://www.ncca.ie/ National Qualifications Authority のサイト http://www.ncca.ie/ The State Examinations Commission http://www.examinations.ie/index.php?l=en&mc=ca&sc=sb アイルランド教育科学省 http://education.ie/

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料> 図1 ELP for Post-primary Education の構成 セクション

内容

ページ

欧州評議会とは

i

ELP とは

ii

説明

i

シンボルの説明

ii

言語学習、異文化体験の説明

iii

1. 本人のパスポート

1

2. 言語パスポート

2

3. 言語プロファイル

3

4. 自己評価表

4&5

5. 今までの言語学習と文化体験の記録

6,7,8

説明

i,ii,iii,iv,v

1. 私の学習目標と考え

1

2. 自己評価チェックリスト

2

3. 具体的な次の目標と学習の振り返り

3

4. 言語や文化で気付いたこと

4

5. コミュニケーションでつまずいた時の解決法

5

6. 私が使う学習方法

6

7. 文化体験

7

8. Heritage Language

8

説明

i,ii,iii

Passport

Biography

Dossier

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-6

自律学習育成を目指したポートフォリオ学習 —ポートフォリオ活用の利点及び問題点・課題、 ポートフォリオ作成を目指した試み— 小木曽

左枝子

要旨 本稿では筆者のヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio)の活用経験を もとに、ポートフォリオ活用の利点及び問題点・課題をまとめるとともに、ポートフォリオの 作成・活用について考える。また、現在筆者が実験的に自分の担当授業で試みているポートフ ォリオの一部になる自己評価チェックリストの作成、活用法についても紹介していく。

【キーワード】 ELP、自己評価チェックリスト、自律学習、内省学習、ポートフォリオ学習

1. はじめに ヨ ー ロ ッ パ 言 語 共 通 参 照 枞 組 み ( Common European Framework of Reference for Languages:以下 CEFR とする)を実際の学習の場に用いることができるヨーロッパ言語ポ ートフォリオ(European Language Portfolio:以下 ELP とする)は、欧州評議会の言語政策 を促進するために考案された教育的ツールであり、2001 年に CEFR が発表されて以来、数 多くの ELP が開発され、欧州評議会の認定を受けている。CEFR の包括的な能力評価基準 をもとに開発されている ELP は汎用性があり、ヨーロッパ言語に限らずどの言語にも適用 でき、日本語教育においても ELP 活用例が報告されてきている。 筆者もアイルランドで日本語教育に従事していた際、2001 年から 2006 年までの期間、 日本語学習における ELP 活用を試みていた(小木曽 2005b & 2006) 。最初に ELP を使うき っかけとなったのは、ダブリン大学トリニティカレッジ(Trinity College Dublin)教育学部 中等教育教員養成コース(Postgraduate Diploma in Education)における体験学習としてカリ キュラムに組み込まれている日本語初級コースであった。このコースは、中等教育でフラ ンス語やドイツ語等の語学教員を目指す学生を対象にしたもので、その目的は自己の日本 語学習を通して学習者の立場から言語学習について考えることであった。学生は ELP につ いて外国語教授法の授業で学んでおり、またアイルランドで中等教育用に開発された Authentik 発行の ELP を所有していたため、言語パスポート(Language Passport)の一部と 自己評価チェックリスト(My checklist of target skills)のレベル A1 を日本語に訳し、日本 語に翻訳されたものも併用する形で活用していくことになった。ELP を授業で活用してい

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

く際、難しさを感じた点は、このコースで教え始めた 2001 年当初は、まだ ELP 活用例が あまりなかったため、どのように授業で取り入れて行くか試行錯誤しなければならなかっ たことだ。ただ、ダブリン大学トリニティカレッジは、当初から CEFR 及び ELP に精通し ている教授陣が多く、同大学で行われていた ELP ネットワークサポートグループ(Ushioda & Ridley 2002)にも参加でき、ELP 活用に関する助言を得る機会に恵まれた環境だった。 そして、同大学の教授陣の1人から、当時筆者が教えていた高校でも ELP を使ってみるこ とを勧められ、移行学年(transition year)を対象とした日本語初級コースで Authentic 発行 の ELP 活用を試みた。 そして、2003 年より CercleS の ELP が日本語学習に用いられているアイルランド大学ダ ブリン校(University College Dublin) (Oda & Ogiso 2005)でも教えることになり、ELP 活 用に関わる機会が増え、また 2003 年から 2005 年に渡り行われたヨーロッパ日本語教師会 (AJE)の CEFR をめぐる動き及び日本語教育に及ぼす影響に関する調査プロジェクトに 関わり、さらに ELP 活用について考え、学ぶ機会が増えた。 その後、現在の所属に移ってからは、しばらく ELP 活用から離れていたが、JF 日本語教 育スタンダード 2010(以下 JF スタンダードとする)の発表も受け、自分の教師としての 内省も考え、 現在自分が担当している授業をどう改善できるかを、考えてみることにした。 その中で、自律学習促進のためにポートフォリオを活用することはやはり意義のあること ではないかと考え、過去の ELP 活用経験を振り返りながら、どうポートフォリオ学習を取 り入れていくことができるか考え、現在はその試みを始めた段階である。 本稿では、過去の ELP 活用経験を振り返りその利点及び問題点・課題をまとめた上で、 現在の所属機関における担当授業の一部で、今後どのようにポートフォリオの要素を取り 入れていくか、また 2010 年 9 月に始まった新年度より行っている試みについて論じる。現 在の所属機関では、CEFR 及び JF スタンダードがコースデザイン等に使われているわけで はなく、コース運営方針にポートフォリオ学習が取り入れているわけでもない。また、筆 者自身がカリキュラム編成やシラバス改訂等を行う立場にあるわけではなく、ここで論じ ることはあくまで一教師が現行のカリキュラム、シラバスの枞内で、CEFR 及び JF スタン ダードを使いポートフォリオ作成、活用を目指そうという一試みである。CEFR 及び JF ス タンダードをどう活用するかということは、同じ日本語教師でもその立場によって異なっ てくる。本稿での報告が筆者と同じような立場にある日本語教師の方にとって CEFR 及び JF スタンダードを活用する上での一助になれば幸いである。

2. ポートフォリオ(ELP)活用の利点及び問題点・課題 まず、先に述べたアイルランドでの ELP 活用経験から、ポートフォリオ(ELP)を学習 に取り入れる利点及びその問題点・課題を以下に簡単にまとめる。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2.1

ポートフォリオ(ELP)活用の利点

欧州評議会が認定する ELP は、教育的機能(pedagogical function)と報告的機能(reporting function)の 2 つの役割を担い、また、 「言語パスポート(Language Passport)」 、 「言語学習記 録(Language Biography) 」、 「資料集(Dossier) 」の 3 部構成からなることが原則とされてい るが、 これらの全てを限られた授業時間で活用していくのは難しい。 以下に挙げる利点は、 言語学習記録の自己評価チェックリスト(Self-assessment checklist)を中心に活用した筆者 の経験からの観察である。 1) チェックリストを使い、自己評価を行うことにより、学習者は技能別に目標言語で 現在何がどの程度できるかを考え、自己の学習を振り返ることができる。よって、 内省学習の促進につながる。 2) チェックリストを使った自己評価の結果から現在の学習状況を把握し、次の目標を 立てることができる。自己評価の結果から何をできるようにする必要があるか、ま たは何ができるようになりたいかを考え、自分自身の学習目標を設定し、その目標 を達成するための具体的な学習計画を立て実行し、またその学習目標が達成された か振り返るという過程を繰り返すことにより、自己の学習に責任を持ち、学習管理 ができる自律した学習者になることが期待できる。 3) 学習動機を内発的動機(intrinsic motivation)と外発的動機(extrinsic motivation)と いう観点から考えた際、チェックリストで自己評価を行うことにより、内発的動機 の促進が期待できる。自己評価チェックリストの能力記述文は「〜ができる」と肯 定的な言葉を使い書かれているので、言語を使って何かができる喜びや満足感を得 るために学習したいという内発的動機づけにつながる。 4) 日本語に翻訳されたチェックリスト(レベルにより学習者の第一言語を併記)を使 う場合は、日本語で書かれた文を読む、また日本語で記入するといった活動につな がり、ELP の使用自体が日本語学習になり得る。

2.2 ポートフォリオ(ELP)活用における問題点及び課題 2.1 で述べたように、ELP 使用には利点も多く、教育的観点から見ても学習を支える非 常に有効なツールである。しかし、ELP をただ学習者に配布し、記入するように指示する だけでは、その効果は期待できない。しかしながら、限られた時間(授業でクラス全体へ の指導として使える時間、チュートリアルなどの個別指導の時間)の中で、効果的な ELP 活用を実践していくのは難しいというのが現実ではないだろうか。以下は、筆者の経験か ら言える、ELP 使用において考えていかなければいけない重要な点である。

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1) 教師主導スタイルで学習を進めてきた学習者が多く、そのスタイルに慣れている学 習者の主体性を高め、支援スタイル(自己主導型学習)に変えていく必要がある。 ELP の有用性をよく理解した上で、自己の学習管理ができる自律した学習者の育成 を目指すことが重要である。 2) 自分ができることを過大評価する学習者もいれば、その反対に過小評価する学生も いる。適切な自己評価ができるようにするための指導をどのように行うか考える必 要がある。 3) ELP の 3 部構成の全てを記入することを負担に感じる学習者もいる。また、ポート フォリオ学習が評価の一部に入っておらず成績に関与していない場合、ELP を活用 していこうという動機に欠ける学習者もいる。 上記の 1)と 2)に関しては、時間とリソースが必要である。時間というのは、大きく 2 つに分ければ、まずは授業時間を利用して行える ELP の活用法に関する説明、指導及び記 入する際に留意すべき点を話し合う時間である。ELP の目的、機能、構成、使用法を学習 者が十分理解できていなければ、有効な ELP 活用を期待するのは難しい。また、自己評価 チェックリストを記入する際の最も難しい点は、何をもってできると言えるのかというこ とである。学習者が自分でできると考えることと実際にできることに差がある場合も多々 ある。よって、過大評価、過小評価といった自己評価に関する問題が出てくる。従って、 自己評価チェックリストの能力記述文に書かれていることができると言うには、具体的に どのようなことがどの程度できればいいのかということをクラス全体で話し合う時間を設 けることも大切ではないだろうか。そして、もう 1 つはチュートリアルといった個別指導 の時間を設け、アドバイジングを行うことである。アドバイジングとは「学習者が言葉の 学び方を学ぶのを助けること」 (青木 2010:3)であり、学習者が ELP を使い、目標設定、 学習計画を立て、それを実行し、評価するというサイクルを繰り返し行えるように自己学 習を支援していくことも非常に重要である。 リソースというのは物的リソースと人的リソース(桜美林大学日本語プログラム「グル ープさくら」 2007)の両方である。ELP を使い学習者が自分の立てた学習計画を実行す るためには、辞書や文法書、特定の技能を伸ばすための教科書・参考書及び視聴覚教材等 の学習リソース、そしてテレビ、DVD プレーヤー、コンピュータ等の機器も必要となり、 物的リソースというのは、これらを設置してあるセルフアクセス・センターの存在のこと である。また、 「リソースに自由にアクセスできる」 (青木 2010:5)ということは、学習 者の学習方法選択の幅を広げる。よって、ELP を使い、自己主導型の学習を進めていくた めには重要なポイントであると言える。また、セルフアクセス・センターのような物的リ ソースがあれば、それを学習者が有効に利用できるように、その管理及び運営をするため の人的リソースも必要となる。そして、効果的な ELP 活用を目指して、チュートリアルな

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どでアドバイジングを行っていくためにはそれができる教師といった人材も必要となる。 上記の 3)に挙げた動機に関する問題は、ポートフォリオ学習を評価の一部に入れ、成 績に関与させれば「報酬を与える」という外発的動機づけが働き改善できるかもしれない が、学習に好ましいとされる内発的動機づけを維持できるように支援していくこともアド バイジングにおいて重要な役割の一つである。 しかし、物的リソースも人的リソースも整っている環境が望めることは現実には稀であ り、またアドバイジングを行う人材も教師なら誰でもできるというわけではない。ELP を 活用しながらアドバイジングを行っていく場合は、まずその教師が CEFR 及び ELP に関す る知識があり、そしてアドバイザーとしての教師の役割(青木 2001、2010)、自律学習と はどういうことかということをよく理解した上で、学習者の自己学習を支援していく必要 がある。

3. 現在の試み:将来のポートフォリオ作成・活用に向けて 2 で述べたように、ELP のようなポートフォリオを学習に取り入れていくことは、その 利点も大きいが、また同時に活用にあたり理想的な環境を整えることが難しく、問題点及 び課題も多い。アイルランドにいた際は、機関で ELP の取り入れが行われている(アイル ランドダブリン校) 、または授業設計にある程度の自由がある(ダブリン大学トリニティカ レッジ教育学部、高校での移行年課程)という環境であったが、ポートフォリオ活用に対 する時間的制約は大きな問題として感じていた。ポートフォリオを使い、効果的な学習を 図るためには、先に述べたような時間が必要である。 上記のアイルランドでの ELP 活用経験は、どの機関でも日本語を選択科目として学習す る学生が対象であったが、現在の所属であるカーディフ大学日本研究センターの学生は、 日本語とビジネスまたは日本語とヨーロッパ言語という 2 科目専攻の形式で、授業時間数 も多く、授業の進行も早い。また、ポートフォリオ学習が取り入れられているわけでもな く、1 学年の授業に数人の教師が関わっている。アイルランドで ELP を活用していた授業 は総合日本語という形式で授業設計における自由の幅もあったが、カーディフ大学ではそ れぞれの担当授業で行うことが決まっており、自分の授業でポートフォリオ学習の要素を 何らかの形で取り入れたいと思いながらも、なかなか難しい状況であった。しかし、まず できることから始めなければと思い、現在の状況を振り返り、自分の担当授業の範囲内で 何ができるかを考えてみた。

3.1

カーディフ大学の 1 年時におけるある授業での試み

カーディフ大学の 1 年時の 1 週間の授業構成は、文法の講義(Grammar)が 2 時間、口頭 練習及び簡単な会話練習 (Oral Grammar Practice) が 4 時間、 聴解及び発展会話練習(Listening & Speaking)が 1 時間、漢字及び作文指導(Kanji & Writing)が 1 時間、読解(Reading)

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が 1 時間、テスト(Test & Review)が 1 時間で、計 10 時間である。本来ならば、これらの 授業全てに活かせる ELP のような既存のポートフォリオを採択する、もしくは独自のポー トフォリオを開発するということが理想ではあるが、それにはカリキュラム、シラバスの 改訂を伴い、かなりの時間と労力がかかるだけでなく、センターとしての学習指導方針に も影響を及ぼすことが想定され、実践に移すのは容易なことではない。従って、上記の授 業の中で筆者が担当する Oral Grammar Practice で、何らかの形でポートフォリオ学習の要 素を取り入れることができないかを考えてみた。

3.2

現在の授業状況における教師の内省

この Oral Grammar Practice を担当することになった当初、学生が授業の予習・復習に使 える自習教材が市販のものしかなく、この週 4 時間を占めるほぼ毎日ある Oral Grammar Practice の授業準備が不十分で、効率的な学習ができていない学生がいることが懸念事項だ った。コースで使用されている教科書は『みんなの日本語』で、1 週間に約 2 課のペース で授業は進む。学生の予習・復習の効率化を図るために、週 4 時間の各授業に必要な語彙 を曜日ごとに分けた語彙練習シート、また各授業で行う教科書の口頭練習を曜日別に記載 し、 授業に臨むにあたり何をどのくらいできるようにしてくる必要があるかを書いた Study Plan、そして各授業で行った学習項目の復習練習ができる Daily Revision Sheet など作成し た。これにより、学生の授業に臨む姿勢は改善されたが、これらは単なる学習リソースの 一部でしかなく、それを使って自分で学習できることが直接自律学習の育成にはつながる わけではない。 結局、毎日、授業があり学習が進んでいく中、具体的に日本語を使って何がどの程度で きるようになる必要があるかということが明確に提示されていないため、自分の学習目標、 学習計画を立て、それを実行し振り返るという「plan-do-see のサイクルを作る」(青木 2010:3)ことができない学生がいるのではないだろうか。また、何をもって「できる」か ということを学生が考えられる機会がないため、自分に必要なことが見えず試験前になっ て慌てる学生がいるのではないだろうか。自分の授業を振り返り、このように内省し、学 生の学習を支援するためには何が必要か、また何ができるかを考えてみた。そして、まず、 授業で行う活動と日本語でできるようになる必要があることの関連に透明性を与え、学生 が学習したことを振り返り、自分ができることとできるようにしなければならないことを 理解し、自分の学習目標、学習計画を立て、それを実行し評価していくというサイクルを 作る支援を授業の中でも実践していくことを試みようと考えた。

3.3

ポートフォリオ学習の要素を取り入れた授業の試み:計画

アイルランドでの経験におけるポートフォリオ活用の利点、問題点及び課題を念頭にお き、自分の担当授業の Oral Grammar Practice で現実的に何ができるかということを考える

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ことから始めた。カーディフ大学の学期は、前期(Autumn Semester)と後期(Spring Semester) の 2 期に分かれており、試験期間を除き 1 学期は 12 週である。Oral Grammar Practice の現 行のシラバスでは、前期は第 3 週と第 7 週、後期は第 5 週と第 8 週の最後の授業に復習の 時間が設けられている。今までは過去の学生の傾向から定着があまりよくない学習項目が シラバスに定められており、それを復習する形式の授業だった。2010 年度 9 月に始まった 今年度からその復習の時間を違う形で行うことをモジュールコーディネーターに許可をと り、ELP の構成で言えば「言語学習記録(Language Biography)」にあたるもの、JF スタン ダードの提案するポートフォリオの構成でいうと「自己評価チェックリスト」と「学習計 画とふり返り」 (国際交流基金 2010b:23)にあたるものを作成し、授業で活用することを 試みることにした。 学生に配布するものとしては、自己評価チェックリスト(self-assessment checklist)及び 目標設定、学習計画、そして計画実行後の評価が簡単に書き込めるシート(setting goals and thinking about learning)を用意することにした。作成方法は、自己評価チェックリストに関 しては、教科書、シラバスを参照しながら構造、機能、場面等を確認すると同時に、みん なの「Can-do」サイトでレベル、活動などを中心に該当する項目にチェックを入れ、能力 記述文(Can-do)を探すことから始めた。また、既存の ELP をいくつか見て、自己評価チ ェックリストの能力記述文だけでなく、フォーマットを決める際にも参考にした。 現在、作成が終わっているのは、前期の第 3 週(稿末資料 1 参照)と第 7 週(稿末資料 2 参照)に使用したものだけで、チェックリストの言語はまだ英語のみになっているが、 今後は日本語も併記していきたいと考えている。また、自己評価チェックリストに入れる 技能は、Oral Grammar Practice の授業用なので、 「話すこと」から「産出(spoken production) 」 と「やり取り(spoken interaction) 」に限定したが、実際には「聞くこと」など他の技能で もできるかどうか確認が必要な項目もある。これに関しては、今後再考していく必要があ る。また、第 3 週に配布したチェックリストは、教科書の範囲で言うと『みんなの日本語』 の第 1 課から第 4 課までで、初めての自己評価ということもあり、「産出」と「やりとり」 を分けずにまとめて簡略化したが、第 7 週に行った第 2 回の自己評価では「産出」と「や りとり」を分けてチェックリストを作成した。そして、A1、A2 といった CEFR にもとづ いたレベルを表示するかどうかは、現在進行中の学習状況を振り返る形成的評価が目的で あるので、現段階では提示せず、教科書のどの課に対応する能力記述文かがわかるように する形式をとった。ゼロ初級者としてスタートした最初の学期なので、今はこのような形 式でもいいが、次の学期からは CEFR の 6 つのレベルを技能別にその能力発達段階を示し た自己評価表(Self-Assessment Grid)も紹介し、ELP でいうと言語パスポートに入ってい る総括的評価の観点から見た自己評価も、学期開始時と学期終了時に行えたらと考えてい る。もう一つの目標設定、学習計画、そして計画実行後の評価が簡単に書き込めるシート (稿末資料 3 参照)であるが、これは既存の ELP をいくつか参照し、使えそうなページを 選び、現在はそれに多尐手を加えただけのものなので、今後学生の使用状況を観察した上

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で、改善を加えていく予定である。 自己評価チェックリストの作成を始め、難しさを感じた点は、現行のシラバスが能力記 述文を使い書かれているわけではなく、また機能として提示されているものにも具体性が 欠けているため、自己評価チェックリストに入れる項目の選択に非常に時間がかかること である。自分がシラバスを改訂できる立場にあるわけではないが、コースデザイン、シラ バス設定が CEFR、JF スタンダードの能力記述文を使い行われれば、自己評価チェックリ スト作成も多尐は楽になるのではないかと思われる。 また、みんなの「Can-do」サイトを使い、CEFR と JF スタンダードの能力記述文を検索 し、自己評価チェックリストに入れるものを選ぶ際、一般的な傾向として、CEFR のもの は汎用性があるが具体性に欠けるところもあり、JF スタンダードのものは、反対に具体性 はあるものの汎用性に欠けているところがあり、選択に悩む場合もある。例を挙げると、 『みんなの日本語』 第 3 課の学習目標の一つとして「値段を聞いて簡単な買い物ができる」 という項目があるが、これができるかどうか確認するための能力記述文を選択するにあた り、みんなの「Can-do」サイトを使った検索で該当するものは、CEFR のレベル A2.1 とし て「欲しい物を言い、値段を聞いて簡単な買い物ができる」、JF スタンダードのレベル A1 として「フリーマーケットなどで、客に品物の値段を聞かれて、答えることができる」及 び「フリーマーケットなどで、売っている人に品物の値段をたずね、答えを聞いて理解す ることができる」である。しかし、この検索結果から出てきた CEFR の能力記述文のレベ ルは A2.1 であるが、自分の学生はレベルとしては学習を始めたばかりの A1 と言える。ま た、JF スタンダードの能力記述文は、レベルは A1 ではあるが、 「フリーマーケット」と例 が具体的すぎ、授業でその状況を練習したわけではないので、適切とは言えない。よって、 『みんなの日本語』 第 2 課及び第 3 課で指示詞が学習項目にあることも考慮に入れた上で、 既存の ELP をいくつか参照し、レベル A1 のチェックリストにある「指差したり、ジェス チャーを使ったりして、簡単な買い物ができる」という能力記述文を採択した。 JF スタンダードの具体性のある能力記述文で、同じく『みんなの日本語』第 3 課の学習 内容に適したものに、 「デパートの案内所で、欲しい商品が何階にあるかたずね、ゆっくり はっきりと話されれば、答えを理解することができる」というのがある。これは授業で行 った活動に沿っており、多尐英語での言い回しを変える必要はあったが、有用な能力記述 文であった。汎用性がある能力記述文がいいか、具体性がある能力記述文がいいか、どち らがいいかということは、その用途によっても異なるので、使用目的によって、教師が変 更等も加えながら適宜対応していくことが重要ではないだろうか。

3.4

ポートフォリオ学習の要素を取り入れた授業の試み:実践

まだ始めたばかりの段階ではあるが、前期に行った 2 回の自己評価チェックリスト使用 の際には、まず自己評価チェックリストの記入方法を説明した上で、チェックリストの項 目ができると言えるには具体的にどのようなことができなければいかないかということを

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クラス全体でいくつかの項目を例として使い確認した。その後、ペアで質問し合う、状況 設定をして簡単なロールプレイしてみるなどの方法で、チェックリストにある項目全てに 渡りどの程度できるかを判断し、記入するように指示した。どの程度できるかは 3 段階に 分け、該当するマスに日付を記入する形式にした。そして、その記入した自己評価チェッ クリストを使い、自分ができるようにするべき項目に対する目標設定を行い、それをどう 学習していくか計画を立て、それをいつまでに実行するかという予定とどうやってできる ようになったか評価する方法を決めシートに書き込むという段階まで授業で行った。 学生数は計 36 名だが、2 つのグループに分かれ授業を行っているので、1 クラスの人数 は 18 名程度と対応が難しいクラスサイズではないが、やはり一人一人に目が届くわけでは ない。カーディフ大学では 1 年時から 4 年時まで、3 人の常勤日本人講師が個別指導(自 主学習を支援する Progress Meeting と呼ばれるチュートリアル)を担任制で行っているが、 Progress Meeting に行く際、自分の記入した自己評価チェックリストと目標設定、学習計画 等を書いたシートを持って行き、担当教員と自分の目標設定、学習計画などについて話す ように勧めている。 自己評価に関しては、できると言えるには具体的にどのようなことができなければいけ ないかをよく考える学生とそうでない学生、また過大評価する学生と過小評価する学生が いるので、授業内での対話を通し、さらに考える時間を持てるようにしていきたい。また、 自己評価を行い目標設定したあとに行う学習計画は、漠然とした内容で具体的な学習計画 が立てられていない学生も多い。これに関しては、Progress Meeting で自分の担当教員と話 すことにより具体的な計画が立てられるようになることを期待すると同時に、学生にとっ て計画が立てやすいシートに改善していく必要がある。そして、学生全員の自己評価チェ ックリストを見て、多くの学生が十分にできないと判断している項目に関しては授業での 練習方法を再考することを考えなければならない。学習者だけでなく、教師も「plan-do-see のサイクル」で内省し、授業を見直していくことが重要ではないだろうか。

4. 終わりに ポートフォリオ学習ということを考えた際、ヨーロッパという環境で学習している学習 者にとっては、欧州評議会が目指す複言語主義、複文化主義を促進し実現していくための 教育ツールとして開発されている数多くの ELP の中から自分の学習者に適したものを選 び、読むこと、書くことに関わる書記体系の違いから生じる問題に対処しながら、他の言 語と並行して日本語・日本文化学習の記録を行っていけるようにするのが理想かもしれな い。しかし、これが全ての学習者に必要なこととも言えず、またポートフォリオ学習自体、 先にも述べたように多くの利点もあるが、同時に効果的活用を目指すと様々な課題にも直 面する。 しかしながら、ポートフォリオを学習に取り入れることは、自律学習の育成をはじめ、

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教育的観点から考えると多くの利点がある。すぐにポートフォリオという形で使うことが できない場合は、ポートフォリオの構成要素になり得るものを尐しずつ作成し活用してい くという形でもいいのではないだろうか。JF スタンダードが発表され、そしてみんなの 「Can-do」サイトが始動し、ポートフォリオの構成要素になり得るものの作成も比較的容 易にできるようなった。これを機に、自分の学生に適した日本語ポートフォリオ作成を目 指していきたい。

<参考文献> 青木直子(2001) 「教師の役割」青木直子・尾崎明人・土岐哲編『日本語教育を学ぶ人のために』 pp.182-197、世界思想社 青木直子(2006)日本語ポートフォリオ 改訂版 http://www.let.osaka-u.ac.jp/%7Enaoko/jlp/(2010 年 10 月 30 日) 青木直子(2010) 「学習者オートノミー、自己主導型学習、日本語ポートフォリオ、セルフ・ア クセス」 、『日本語教育通信』第 38 回、国際交流基金 桜美林大学日本語プログラム「グループさくら」編著(2007)『自律を目指すことばの学習 – さくら先生のチュートリアル-』、凡人社 小木曽左枝子(2005a) 「ヨーロッパ言語ポートフォリオ」ヨーロッパ日本語教師会(AJE) ・ 国際交流基金『ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』、pp. 52-62、 国際交流基金

-------(2005b)「アイルランドの日本語教育における ELP 活用例」ヨーロッパ日本語教師会 (AJE)・国際交流基金『ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』、pp. 166-170、 国際交流基金

-------(2006)「アイルランドにおけるヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio: ELP)の日本語学習への活用例」 、『日本語教育通信』第 12 回、国際交流基金 織田智恵・小木曽左枝子(2007) 「アイルランドの大学におけるヨーロッパ言語ポートフォリオ の活用例」、 『ヨーロッパ日本語教育 11』 、pp.96-101 国際交流基金(2010a) 『JF 日本語教育スタンダード 2010』 、国際交流基金

-------(2010b)『JF 日本語教育スタンダード 2010 利用者ガイドブック』、国際交流基金 スリーエーネットワーク(1998)『みんなの日本語 初級 I 本冊』 、スリーエーネットワーク ヨーロッパ日本語教師会(AJE)・国際交流基金(2005)『ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』、国際交流基金 吉島茂・大橋理恵訳・編(2004) 『外国語の学習、教授、教師のためのヨーロッパ共通参照枞』、 朝日出版社 Authentik (2001) European Language Portfolio/Punann na dTeangacha Eorpacha. Version for use in Irish post-primary schools. Dublin: Authentik. Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment. Cambridge: Cambridge University Press. Council of Europe (2004) European Language Portfolio (ELP): Principles and guidelines with added explanatory notes (Version 1.0). Strasbourg: Council of Europe.

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http://www.coe.int/t/dg4/linguistic/Source/Guidelines_EN.pdf (2010 年 10 月 30 日) Dörnyei, Z. (2001) Teaching and Learning Motivation. Halrow: Longman. Lentz, P. & Schneider, G. (2004) A Bank of Descriptors for Self-Assessment in European Language Portfolio. Strasbourg: Council of Europe. http://commonweb.unifr.ch/pluriling/pub/cerleweb/portfolio/downloadable-docu/collection -of-ELP-descriptors-feb-04.pdf

(2010 年 10 月 30 日)

Little, D. (1991) Learner Autonomy 1: Definition, Issues and Problems. Dublin: Authentik. Little, D. & Perclová, R. (2001) The European Language Portfolio: Guide for teachers and teacher trainers. Strasbourg: Council of Europe. Little, D., Ridley, J. & Ushioda, E. (2002) Toward Greater Learner Autonomy in the Foreign Language Classroom. Dublin: Authentik. Oda, C. & Ogiso, S. (2005) Implementing the ELP in Japanese learning: Issues arising in the translation, the Proceedings from 8th CercleS Conference, Bratislava, the Slovak Republic, pp.49-56. Schneider, G. & Lenz, P. (2001) European Language Portfolio: Guide for developers. Strasbourg: Council of Europe. http://archive.ecml.at/mtp2/Elp_tt/Results/DM_layout/Reference%20Materials/English/ELP %20guide%20for%20developers-E.pdf(2010 年 10 月 30 日) Ushioda, E. (1996) Learner Autonomy 5: The Role of Motivation. Dublin: Authentik. Ushioda, E. & Ridley, J. (2002) Working with the European Language Portfolio in Irish post-primary schools: Report on an evaluation project. CLCS Occasional Paper No. 61. Dublin: CLCS, Trinity College Dublin.

<参考ウェブサイト> 国際交流基金(2010)みんなの「Can-do」サイト https://jfstandard.jp/cando/login/ja/render.do(2010 年 10 月 30 日) CercleS (n.d.) The CercleS ELP

http://www.cercles.org/en/main.html (2010 年 10 月 30 日)

Council of Europe (n.d.) European Language Portfolio http://www.coe.int/T/DG4/Portfolio/?L=E&M=/main_pages/portfolios.html (2010 年 10 月 30 日)

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<稿末資料 1>

自己評価チェックリスト「話すこと」:前期第 3 週(『みんなの日本語』

第 1 課〜第 4 課)

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<稿末資料 2>

自己評価チェックリスト「話すこと」:前期第 7 週(『みんなの日本語』

第 5 課〜第 10 課)

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<稿末資料 3>

目標設定、学習計画、計画実行後の評価を書き込むシート

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コースデザインと評価 -ポートフォーリオを授業に取り入れる- スルツベルゲル‐三木

佐和子

要旨 コースデザインを CEFR/JF 日本語教育スタンダード導入で試み、コースデザインをもう一度 新たに見直してみた。筆者が担当している高校の選択科目としての日本語は、学期末に渡され る通信簿に「選択科目日本語の授業に参加した」とクラス担任教師が記入するのみで、成績は 問われない。これでは生徒にとって学習の動機付けが低いので、学習評価ができる一策として ヨーロッパ言語ポートフォーリオ(European Language Portfolio; 以下「ELP」) の導入を試みた。 作文などの成果物の評価やポートフォリオの活用、またヨーロッパ言語と違いのある漢字学習 などを含めたコース一連を考慮していくのが今後の課題だと考えている。

【キーワード】

ポートフォリオ、日本語能力試験と Can-do、語彙漢字、 CEFR/JF スタンダードとコースデザインと評価

1. CEFR 利用の背景 2001 年に欧州評議会第一号に認定された ELP スイス版 1. 2000 が出版された。1999 年か らスイス版 ELP に携わっていた当校の英語高校教師が 2002 年の新学期に校長達の同意を 受けて、外国語担当教師らと、ELP 導入に関しての会議をもつようになった。そして 2002 年にこの高校は ELP 導入を決めた。その時の会議に筆者が参加したのが最初の ELP、つま り CEFR と近しくなった機会であった。この高校での ELP は Tertia(高校 1 年生)に半日 時間を当てた。まず講堂にて全校高校1年(約 160 人)を集めて教師がパワーポイントで 欧州評議会や CEFR, ELP について大まかな説明をおこない、続いて教師と学生が 3 つのグ ループに分かれ、教師は作業 1 種を担当し、同じ教室に待機して学生を迎え、学生の各グ ループは 3 種の作業を経験できるようにローテーションを組んで、教室を移動した。その 3 種は、共通参照レベルの自己評価表の切り抜き並べなおす作業を通して A1-C2 のレベル を知ることや、言語に関する遊び感覚のゲームでほかの外国語への認識を深めるのが目的 であった。この担当教師はこの半日 ELP 導入やその後のクラスでの効用や、外国語担当教 師会議の反応、および反省、今後について等を 2004 年に報告書に纏めている。その報告書 では、ELP 導入は即時効用がない、教師はあまり積極的ではない、クラスで導入するのに は時間が取られすぎる、と否定的であった。しかし、能力証明の将来的な一方法として教 師達も認める、としている。2005 年から 2009 年までこの半日 ELP 導入は続けられたが、

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現在のところ導入方法を検討中である。 これと平行に Examination Description が検討され、 当校の外国語担当教師達は B1/B2 レベルに的をあて、外国語教師達の問題集や実施された テスト、記述などが資料収集されるようになり、外国語教員室で誰もが見られるように置 かれてある。ベルン州ではフランス語は 5 年生から高校卒業までに 8 年間、英語は 7 年生 から 6 年間必須科目として学習する。2006 年から、この高校は Matura(マツーラ:高校卒 業試験、兼、大学入学資格試験)の試験結果を外国語としてのフランス語と英語を、この スイス版 1.2000 の Global Scale(概括的段階)と Examination Description に試験成績の目安 を記入して卒業生に渡す。これにより Global Scale に照らし合わせ自分成績をレベルで知 ることができる。スイスの成績評価は 1~6 点制で 6 点が一番良い、4 点以上が合格点。

SAMPLE

SAMPLE

選択科目の日本語教師としてクラスの高校生に日本語能力試験を受験することを勧め るが、このような Global Scale で試験 N1-N5 を A1-C2 で受験したレベルと成績を公的な分 析によって示される認定対照表のようなものができるとよいと思う。実際にスイスでは何 度も、例えば、 「3 級合格したのですが、共通参照レベルの A1-C2 のどれにあたりますか。 それを示した表があれば欲しいのです」だとか、 「日本語能力試験合格がホテル学校の成績 にクレジット計算で考慮されるのですが、共通参照レベルのどこに提示されるのか公式な 機関から出されている認定表のようなものが欲しいのですが、」「上司に日本語能力はどの ぐらいなのか、 試験合格級を共通参照レベルで示すことができる認定表はあるのか?」とい

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う質問がスイスの日本語能力試験コーディネーターのものとに寄せられる。アルザス研修 の際、基金としては常に共通参照レベルと日本語能力試験レベル記述に目を向けている、 新試験が実施され、何年かの実績が積み重なれば、それらを分析して何らかの結果をだせ るのではないか、と考えているという意見を伺った。これに期待したい。

2. コースデザイン JF 日本語教育スタンダードを利用してコースデザインを考慮してみた。コースの目標が すでに立っている場合の比較を試みると、次のようになった。 表1

コースデザイン例 1

《コース概要》 1)

2)

3)

4)

外国語生涯教育、大人を対象とした語学学校クラス 7 名(大学生 2 名日本留学経験者、日本人配偶者 2 名、日本文化に興味あり日本滞在通算 6 ヶ月以上 2 使用教材 名、日本の宗教に興味あり 1 名) 週 90 分 X 約 35 回(1 年)=約 52.5 時間 日本語中級 J301、副教材 J ブリッジ、Jp.im Sauseschritt (独語版)3 巻、あまり長くない新聞や Online ニュ ース記事等 テキスト(読む)やニュースなど聞いたこと(聞く) 学習目標 の概略を把握できる 日本の友人、知人と自由に連絡を取りたい。例えば、 具体的な言語活動 Skype、メイル、手紙のやりとり(書く・やり取り・ メモ) N2, N3 の日本語能力試験に合格希望(読む・理解・聞 く) テキストなど聞いたことの概略を把握できる 受容:⑤音声メディアを聞く JF スタンダードの木 ⑪テレビや映画を見る 言語活動のカテゴリーを確認す ⑦手紙やメイルを読む ⑨情報や要点を読み取る る 産出:12 話すこと全般⑬経験や物語を語る 母国話者とやりとりをする *右の の数字は JF スタン やりとり: インフォーマルな場面で論議する 23 ダードの木のカテゴリーの提示 30手紙やメールのやりとりをする 31申請書類や伝言を書く 数字 方略: 39メモやノートをとる 学習者、学習期間

レベルを確認

A2/B1.1/B1.2

(A1, A2, B1, B2, C1, C2)

1)2)3)4)によるコース概要内容を考慮することで次のわかりやすい Can-do 文に書きかえ られる。( 「活動 Can-do のレベル別特徴一覧」「みんなの Can-do サイト」参照)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

Can-doの記述内容=活動Can-do=条件+話題・場面+対象+行動 条件

話題・場面

対象

行動

聞き手が集中してきい てくれれば、アクセント とイントネーションに はかなり耳慣れない部 分もあるが

自分の関心事 で身近な話題 について

スカイプやメイ ル、手紙の相手に

複雑ではないが、順序だてて 詳細に述べることが出来る 要点を理解することが出来る

表2

コースデザイン例 2

《コース概要》 1)

学習者、学習期間 使用教材

2)

3)

4)

日本学専攻の大学生 28 人、週 100 分 X14 回(1 学期 間)3 学期目には Modul の1つ「文法、ドラマ、メ ディア」のそれぞれの担当講師がおり、学期末の成 績は 3 種の総合点が考慮され、平均点が出される。 筆者はメディア担当

あまり長くないテキストなど聞く、読むことにより 内容の概略を把握できる、必要な情報をとる、テキ ストのテーマについて自分の意見を書くことができ 具体的な言語活動 る 表現の正 確さ 受容:②母語話者同士の会話を聞く JF スタンダードの木 ⑤音声メディアをきく 言語活動のカテゴリーを確認 ⑦手紙やメイルを読む ⑨情報や要点を読み取る ⑪テレビや映画を見る 産出:12 話すこと全般 13 経験や物語を語る *右の の数字は JF スタン 17 書くこと全般 ⑱作文を書く ダードの木のカテゴリーの提 やりとり: 母国話者とやりとりをする 23インフォーマルな場面で論議する 示数字 30手紙やメールのやりとりをする 申請書類や伝言を書く 31 方略:33表現方法を考える 38 説明を求める 39 メモやノートをとる 40 要約したり書き写したりする 学習目標

レベルを確認 A2/B1 (A1, A2, B1, B2, C1, C2)

1)2)3)4)によるコース概要内容を考慮することで次のわかりやすい Can-do 文に書きかえ られる。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

Can-doの記述内容=活動Can-do=条件+話題・場面+対象+行動 ( 「活動 Can-do のレベル別特徴一覧」「みんなの Can-do サイト」参照) 条件

話題・場面

話が標準的 な発音では っきりして いれば

自分の専門 分野や興味 のある分野 で

対象

行動

ラジオの短いニュース、ゆ っくり、(はっきりと話さ れば)テレビ番組、日常の 資料(例:手紙、パンフレ ット、簡単な新聞記事)

-を理解することができる -から求人雑誌などの条件や仕事 内容など、就職活動のために必要な 情報を探し出すことができる -複雑ではないが、詳しく記述する ことができる

JF スタンダードの木に例 1 と例 2 の活動カテゴリーを当てはめ、黒い太線を入れてみると、 次の図のようになる。例 1 と例 2 のクラスのレベルはあまり変わらないし、枝ぶりの違いも大 きくないように見えるが、線を追ってみると目標の違いを見ることができる。これで目標にそ って、どの部分が足りているか、足りないのかを分析できる。 例 1 と例 2 のスダンダードの木を比較してみると以下のようになる。

図3

例 1 を書き込んだスタンダードの木 図 4

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例 2 を書き込んだスタンダードの木


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

3. 選択科目の日本語クラスで ELP を利用する スイス・ドイツ語圏にあるこの高校では言語ポートフォリオ、ELP スイス版 1. 2000 の 独語版を使用している。ELP は独語版であるが、学習者の資料には日本語訳版と 2 種を入 れる。在学中、学習者の ELP のファイルは日本語クラスの教室の棚に常時置いてある。そ の記入は学期始めと終わりの 2 回程度だが、特別の評価に値するものは、随時それに加え る。例えば、日本語弁論大会参加、日本語能力試験結果や、留学の際に日本のホストファ ミリーや担任教師などに記入してもらったチェックリスト、あるいはその間に書いた作文 や、 留学機関からの評価などを資料としてドシエーに残す。資料は日本語訳版を提示した。 留学前と留学後の日本語能力上達度は顕著であり、その能力を数字や文字で確認できる学 習者の喜びも大きく、さらに異文化の中で吸収するものも大きい。 (2 女子高校生の記入チ ックリスト

稿末資料 1, 2, 3, 4)

4. 今後の課題 学期が始まり授業を進めていくに従って当然のように宿題としての作文が提出されてく る。コースデザインの例 1 と例 2 で扱った 2 つのコースの違いは、生涯教育としての息の 長い、文化を大切にする日本語学習と、進学成績にかかわる日本学専攻である。書く勢い が違うのも当然であるが、いろいろな経験をかいた作文や発表の成果物にはコースの特徴 が現れ、それぞれ違った面白さがある。これらを JF スタンダードを利用して評価を試みつ つある。筆者自身の今までの評価の仕方との違いがまた見えてくるだろう。これに加えそ れぞれのコースで扱う教材・生教材のテキストから毎回漢字リストができる。その漢字語彙 の数はどんどん膨れ上がってくるが、どのレベルにどの漢字を提示できるかの分析も興味 がある。ここに列挙した項目は、 「スタンダードの木」の根元部分の能力カテゴリーにあた る。今後この言語活動カテゴリーの木の枝や葉の部分になるコースデザインと合わせ、 「ス タンダードの木」の上下全体を、つまりコース一連を考慮していきたいと考えている。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<参考文献リスト> 国際交流基金(2010)『JF日本語教育スタンダード

利用者ガイドブック』、国際交流基金

スルツベルゲル‐三木佐和子(2008)「CEFR/ELP 能力査定基準の日本語スキル査定への応用 を探る-A1 の漢字について」 『ヨーロッパ日本語教育 12』、pp.183-188、ヨーロッパ日本語教 師会 吉島茂・大橋里枝他

訳編 (2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』、

朝日出版社 ヨーロッパ日本語教師会(AJE) 国際交流基金 (2005)『ヨーロッパにおける日本語教育Common European Framework of Reference for Languages』、国際交流基金 Swiss Conference of Cantonal of Ministers of Education; European Language Portfolio Version for young people and adults, Schulverlag http://www.languageportfolio.ch/esp_e/esp15plus/i

ndex.htm(2010 年 8 月 16 日)

Das europäische Sprachenportfolio in der Schweiz (2004) Babylonia 2/04, Stiftung Sprachen und Kulturen Günther Schneider (1999) Wozu ein Sprachenportfolio? Schweizer Version, Universität Freiburg/ Schweiz http://www.unifr.ch/ids/Portfolio/html-texte/teil1-aufsatz-gu-sprachenportfolio.htm (2010 年 8 月 16 日) Europäisches Portfolio http://www.sprachenportfolio.ch/(2010 年 8 月 15 日)

<参考サイト> みんなの「Can-do」サイト

http://jfstandard.jp/(2010 年 8 月 16 日)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料1> 自己評価チェックリスト レベル A1 言語: にほんご

2008 年 1 月記入 日本語を始めて 5 ヶ月

名前(シルビア

あなたができると思うことを記録するために、このチェックリストを使って下さい(1 の欄)。他 の人(例: 先生)にも、あなたが何ができるかを評価してもらって下さい(2 の欄)。3 の欄は、あ なたがまだ出来ないけれど重要だと思う項目に印を付けて下さい(3 の欄 = 目標)。 また、先生とも相談して、リストにはないけれど、あなたができることや今のレベルで言語学習に 重要なことがあれば、それを項目に入れて下さい。

以下の印を使ってください 1&2 ✓

3 普通にできます

✓✓ 簡単にできます

!

私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A1 に達したと言えるでしょう。 聞くこと 少しずつ意味が分かるように、間を置いて、とてもゆっくり、はっきりとした発音 で話してもらえば、理解できます。 どこからどこまで行く、歩いていくまたは公共の乗り物で、といった簡単な指示が 理解できます。 はっきりとした発音で、ゆっくり話しかけられれば、質問・指示が理解でき、短く 簡単な指示に従うことができます。 数、値段、時間が理解できます。 読むこと 新聞の記事に出てくる人についての情報(住んでいる所、年齢など)が理解できま す。 公共行事の日程表やポスターから、コンサートや映画の情報を見つけ、その場所や 時間が確認できます。 個人情報(名前、名字、生年月日、国籍)を記入するために、質問事項(入国許可書、 ホテル宿帳)が十分理解できます。 日常よく見かける標識・掲示板に書かれている言葉、表現が理解できます(例: 「駅」、「駐車場」、「駐車禁止」、「禁煙」、「左側通行」)。 「印刷」、「保存」、「コピー」など、基本的なコンピュータ用語が理解できます。 短く、簡単に書かれている指示に従うことができます(例:どこからどこまでどう やって行く)。 絵はがき(例:旅先からの挨拶)に書かれている短く、簡単なメッセージが理解で きます。 日常生活で、友だちや同僚が書く簡単なメッセージ(例:「4 時に戻ります」)が理解 できます。 ひらがなを全部読むことができます カタカナを全部よむことができます 漢字 54 字をよむことができます

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

以下の印を使ってください 1&2 ✓

3 普通にできます

✓✓ 簡単にできます

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私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A1 に達したと言えるでしょう。 話すこと やり取り 誰かを紹介すること、簡単な挨拶、いとまごいの表現を使うことができます。 簡単なことであれば、質問をしたり、質問に答えたりすることができます。また、 現在必要なことや馴染みのある話題であれば、話を始めたり、話に応えたりするこ とができます。 自分の言いたいことを話し相手にゆっくり繰り返してもらったり、言い換えてもら ったりして、助けを出してもらえば、何とか意味を通じさせることができます。 指差したり、ジェスチャーを使ったりして、簡単な買い物ができます。 数字、数量、価格、時間を何とか使うことができます。 物を貸したり、借りたりすることができます。また、物をあげたり、もらったりす ることができます。 どこに住んでいるか、誰を知っているか、何を持っているかなどの質問をすること できます。また、ゆっくり、はっきりと話しかけられれば、同様の質問に答えるこ とができます。 「来週」、「先週の金曜日」、「11 月に」、「3 時」といった時の表現を使うこと ができます。 話すこと 表現 個人情報(住所、電話番号、国籍、年齢、家族、趣味)を伝えることができます。 自分の住んでいる所がどんな所か説明できます。 方略(ストラテジー) 相手が言っていることが分からないとき、分からないと伝えることができます。 相手にもう一度繰り返してほしいとき、頼むことができます。 相手にもっとゆっくり話してほしいとき、頼むことができます。 書くこと 必要な書類に個人情報(職業、年齢、住所、趣味)を記入することができます。 グリーティングカード(例:誕生日カード)を書くことができます。 はがきに簡単なメッセージを書くことができます(例:旅先からの挨拶)。 どこにいるか、どこで会うかなどのメッセージを書くことができます。 自分自身について(例:どこに住んでいるか、何をしているか)、簡単な表現を使 い、文を書くことができます。 ひらがなを全部書くことができます。 カタカナを全部かくことができます。 漢字 54 字を全部かくことができます。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料2>自己評価チェックリスト レベル A2 言語:日本語

2010 年 6 月 10 日記入

日本の高校留学 10 ヶ月後

名前(シルビア

あなたができると思うことを記録するために、このチェックリストを使って下さい(1 の欄)。他 の人(例: 先生)にも、あなたが何ができるかを評価してもらって下さい(2 の欄)。3 の欄は、あ なたがまだ出来ないけれど重要だと思う項目に印を付けて下さい(3 の欄 = 目標)。 また、先生とも相談して、リストにはないけれど、あなたができることや今のレベルで言語学習に 重要なことがあれば、それを項目に入れて下さい。

以下の印を使ってください 1&2 ✓

3 普通にできます

✓✓ 簡単にできます

!

私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A2 に達したと言えるでしょう。 聞くこと 簡単な日常会話で ゆっくり、はっきりとした発音で話してもらえば、理解できま す。 現在のことを扱ったテーマの会話で、ゆっくり、一般的に(だいたい?)はっきり 話してもらえば理解できます。 話すことがとても身近なこと(例えば、とてもやさしい情報で、人物や家族や仕 事、住んでいる所のこと)であれば、文や表現、言葉を理解できます。 短く、簡単ではっきりした伝達やアナウンスを大体理解できる。 短く、ゆっくり、はっきり話された録音で、予想可能な日常に関する内容であれば 主要な情報を取り出すことができる 映像から状況が大体理解できるならば、出来事や事故を伝えるテレビのニュース番 組の要点がわかる。 読むこと 数字や、主要人物名がはっきり記述され、視覚的な補助があれば、パンフレットや 簡単な新聞記事の重要な情報を取り出すことができる。 日常的話題が書いてあったり、たずねたりする簡単で個人的な手紙を理解できる。

1 ✓ ✓ ✓

知人や同僚からの簡単なメッセージ(たとえばフットボールの試合に行くときの待 ち合わせや、いつもより早く出勤するべきことなど)が理解できる。 余暇(フリータイム)や展覧会などのお知らせのビラから、必要な情報を取り出す ことができる。 新聞の中のたくさんの小さい広告から、特定の見出しを見つけ必要な情報を抜き出 すことができる。例えば住宅や車、コンピューターの大きさや値段についてなど。 機器の簡単な使用説明が理解できる。(例えば公衆電話) コンピュータープログラムの指示や簡単な支援テクスト(メニュー?)を理解する ことができる 簡単なことばで書かれていれば、日常よく扱われる事柄やよく知っている身近なテ

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ーマを理解できる。 約 300 字漢字を読むことができる(シルビア記入) A2 話すこと やり取り 郵便局や銀行で簡単な用をすますことができる。 バスや電車やタクシーなどの公共の交通機関について簡単な情報を得、切符を買う ことができる。 旅行に関しての簡単な情報を得ることができる 食べ物や飲み物を注文することができる。 欲しい物をいい、またその値段を聞いて、簡単な買い物ができる。 地図を見ながら道を聞いたり、道を教えることができる。 お元気ですかなどのご機嫌伺いや、新しい事柄に対するあいずちや、挨拶ができ る。 誰かを招待したり、招待されて受け答えができる。 詫びをいったり、また詫びられた時に受け答えができる。 自分の好き嫌いをいうことができる。 何をしたいか、どこに行きたいかを誰かと話し合ったり、いつどこで会うか約束を することができる。 仕事や余暇の過ごし方をたずねたり、同じような質問に対して、答えることができ る。 話すこと 表現 自分の家族や自分自身について言うことができる。 自分が住んでいる所の説明ができる。 ある事柄を短く簡単に伝達できる。 自分の経歴や現在の職業や過去の職歴について説明することができる。 趣味や興味のあることを簡単な表現で伝えることができる。 過去の活動や個人的な経験(例えば、先週の週末やこの前の休暇)について伝える ことができる。 方略(ストラテジー) 誰かに話しかけることができる。 理解したとき身振りで示すことができる

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

相手にもう一度話してほしいとき、簡単な言葉で頼むことができる。

質/言語的運用 すでに学習済みの言い回しを助け舟をだしてもらいながら、表現できる。 「そして」「しかし」「~から」のような簡単な接続表現を用いて単語をつなげ、 まとめることができる。 単純な文法構造を正しく使うことができる。 生活上の単純な要求に対応できるだけの語彙をもっている。 書くこと 短くて簡単なメモやメッセージを書くことができる。 いつ、どこで、どんな祭りや事故などがあったかを説明したり、言うことができ る。 自分の周りの環境、例えば、人や場所、仕事、学校、家族や趣味などについて記述 できる。 アンケートに自分の学歴、仕事、興味、得意分野などの情報を書き込むことができ る 自分の家族や学校、仕事、趣味の紹介を手紙に短く書くことができる。 簡単な言い出し(頭語)、挨拶、お礼やお願いの形を取り入れた短い手紙を書くこ とができる。 「そして」「しかし」「~から」「そのとき」などの接続詞でつなげた簡単な文が書 ける。 「最初に」「それから」「そのあとで」「その後」などの時の流れをあらわす接続 詞でつなげた文が書ける。 約 300 字の漢字を書くことができる(シルビア記入)

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A2 *スイスで開発されたチェックリスト(http://culture2.coe.int/portfolio//documents/ appendix2.pdf)を翻訳したもの。学習者用に日本語訳をほどこしたもので、実際に使っている。参考文 献、『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』訳・編吉島茂/大橋理枝(他)、 訳:Sulzberger-三木佐和子 訳協力:国際交流基金日本語センター専門講師/篠原摂子

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料3> 自己評価チェックリスト 言語: にほんご

レベル A1

2006 年 1 月記入 日本語を始めてから約5ヶ月

名前(リロ

あなたができると思うことを記録するために、このチェックリストを使って下さい(1 の欄)。他 の人(例: 先生)にも、あなたが何ができるかを評価してもらって下さい(2 の欄)。3 の欄は、あ なたがまだ出来ないけれど重要だと思う項目に印を付けて下さい(3 の欄 = 目標)。 また、先生とも相談して、リストにはないけれど、あなたができることや今のレベルで言語学習に 重要なことがあれば、それを項目に入れて下さい。

以下の印を使ってください 1&2 ✓

3 普通にできます

✓✓ 簡単にできます

!

私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A1 に達したと言えるでしょう。 聞くこと 少しずつ意味が分かるように、間を置いて、とてもゆっくり、はっきりとした発 音で話してもらえば、理解できます。 どこからどこまで行く、歩いていくまたは公共の乗り物で、といった簡単な指示 が理解できます。 はっきりとした発音で、ゆっくり話しかけられれば、質問・指示が理解でき、短 く簡単な指示に従うことができます。 数、値段、時間が理解できます。

読むこと 新聞の記事に出てくる人についての情報(住んでいる所、年齢など)が理解できま す。 公共行事の日程表やポスターから、コンサートや映画の情報を見つけ、その場所 や時間が確認できます。 個人情報(名前、名字、生年月日、国籍)を記入するために、質問事項(入国許可 書、ホテル宿帳)が十分理解できます。 日常よく見かける標識・掲示板に書かれている言葉、表現が理解できます(例: 「駅」、「駐車場」、「駐車禁止」、「禁煙」、「左側通行」)。 「印刷」、「保存」、「コピー」など、基本的なコンピュータ用語が理解できま す。 短く、簡単に書かれている指示に従うことができます(例:どこからどこまでどう やって行く)。 絵はがき(例:旅先からの挨拶)に書かれている短く、簡単なメッセージが理解で きます。 日常生活で、友だちや同僚が書く簡単なメッセージ(例:「4 時に戻ります」)が理解 できます。 ひらがなを全部読むことができます

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

カタカナを全部よむことができます 漢字 54 字をよむことができます

以下の印を使ってください 1&2 ✓

3 普通にできます

✓✓ 簡単にできます

!

私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A1 に達したと言えるでしょう。 話すこと やり取り 誰かを紹介すること、簡単な挨拶、いとまごいの表現を使うことができます。 簡単なことであれば、質問をしたり、質問に答えたりすることができます。また、 現在必要なことや馴染みのある話題であれば、話を始めたり、話に応えたりするこ とができます。 自分の言いたいことを話し相手にゆっくり繰り返してもらったり、言い換えてもら ったりして、助けを出してもらえば、何とか意味を通じさせることができます。 指差したり、ジェスチャーを使ったりして、簡単な買い物ができます。 数字、数量、価格、時間を何とか使うことができます。 物を貸したり、借りたりすることができます。また、物をあげたり、もらったりす ることができます。 どこに住んでいるか、誰を知っているか、何を持っているかなどの質問をすること できます。また、ゆっくり、はっきりと話しかけられれば、同様の質問に答えるこ とができます。 「来週」、「先週の金曜日」、「11 月に」、「3 時」といった時の表現を使うこと ができます。 話すこと 表現 個人情報(住所、電話番号、国籍、年齢、家族、趣味)を伝えることができます。 自分の住んでいる所がどんな所か説明できます。 方略(ストラテジー) 相手が言っていることが分からないとき、分からないと伝えることができます。 相手にもう一度繰り返してほしいとき、頼むことができます。 相手にもっとゆっくり話してほしいとき、頼むことができます。 書くこと 必要な書類に個人情報(職業、年齢、住所、趣味)を記入することができます。 グリーティングカード(例:誕生日カード)を書くことができます。 はがきに簡単なメッセージを書くことができます(例:旅先からの挨拶)。 どこにいるか、どこで会うかなどのメッセージを書くことができます。 自分自身について(例:どこに住んでいるか、何をしているか)、簡単な表現を使 い、文を書くことができます。 ひらがなを全部書くことができます。 カタカナを全部かくことができます。 漢字 54 字を全部かくことができます。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

*スイスで開発されたチェックリスト(http://culture2.coe.int/portfolio//documents/ appendix2.pdf)を翻訳したもの。学習者用に日本語訳をほどこしたもので、実際に使っている。参考文 *スイスで開発されたチェックリスト(http://culture2.coe.int/portfolio//documents/ 献、『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』訳・編吉島茂/大橋理枝(他)、 appendix2.pdf)を翻訳したもの。学習者用に日本語訳を施したもので、実際に使っている。 訳:Sulzberger-三木佐和子 訳協力:国際交流基金日本語センター専門講師/篠原摂子

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料4>自己評価チェックリスト レベル A2

言語:日本語

2007 年 2 月 30 日記入

日本の高校留学 5 ヶ月後

名前( リロ

あなたができると思うことを記録するために、このチェックリストを使って下さい(1 の欄)。他 の人(例: 先生)にも、あなたが何ができるかを評価してもらって下さい(2 の欄)。3 の欄は、あ なたがまだ出来ないけれど重要だと思う項目に印を付けて下さい(3 の欄 = 目標)。 また、先生とも相談して、リストにはないけれど、あなたができることや今のレベルで言語学習に 重要なことがあれば、それを項目に入れて下さい。

以下の印を使ってください 1&2 ✓

ホストファミリーのお母さんの記入 3

普通にできます

✓✓ 簡単にできます

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私の目標です

!! 私にとって一番重要です

印を付けた項目が全体の 80%以上になったら、

私 の 評 価

先 生 ・ 他 人 の 評 価

私 の 目 標

レベル A2 に達したと言えるでしょう。 聞くこと 簡単な日常会話で ゆっくり、はっきりとした発音で話してもらえば、理解できま す。 現在のことを扱ったテーマの会話で、ゆっくり、一般的に(だいたい?)はっきり 話してもらえば理解できます。 話すことがとても身近なこと(例えば、とてもやさしい情報で、人物や家族や仕 事、住んでいる所のこと)であれば、文や表現、言葉を理解できます。 短く、簡単ではっきりした伝達やアナウンスを大体理解できる。 短く、ゆっくり、はっきり話された録音で、予想可能な日常に関する内容であれば 主要な情報を取り出すことができる 映像から状況が大体理解できるならば、出来事や事故を伝えるテレビのニュース番 組の要点がわかる。 読むこと 数字や、主要人物名がはっきり記述され、視覚的な補助があれば、パンフレットや 簡単な新聞記事の重要な情報を取り出すことができる。 日常的話題が書いてあったり、たずねたりする簡単で個人的な手紙を理解できる。 知人や同僚からの簡単なメッセージ(たとえばフットボールの試合に行くときの待 ち合わせや、いつもより早く出勤するべきことなど)が理解できる。 余暇(フリータイム)や展覧会などのお知らせのビラから、必要な情報を取り出す ことができる。 新聞の中のたくさんの小さい広告から、特定の見出しを見つけ必要な情報を抜き出 すことができる。例えば住宅や車、コンピューターの大きさや値段についてなど。 機器の簡単な使用説明が理解できる。(例えば公衆電話)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

コンピュータープログラムの指示や簡単な支援テクスト(メニュー?)を理解する ことができる

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簡単なことばで書かれていれば、日常よく扱われる事柄やよく知っている身近なテ ーマを理解できる。

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A2 話すこと やり取り 郵便局や銀行で簡単な用をすますことができる。 バスや電車やタクシーなどの公共の交通機関について簡単な情報を得、切符を買う ことができる。 旅行に関しての簡単な情報を得ることができる 食べ物や飲み物を注文することができる。 欲しい物をいい、またその値段を聞いて、簡単な買い物ができる。 地図を見ながら道を聞いたり、道を教えることができる。 お元気ですかなどのご機嫌伺いや、新しい事柄に対するあいずちや、挨拶ができ る。 誰かを招待したり、招待されて受け答えができる。 詫びをいったり、また詫びられた時に受け答えができる。 自分の好き嫌いをいうことができる。 何をしたいか、どこに行きたいかを誰かと話し合ったり、いつどこで会うか約束を することができる。 仕事や余暇の過ごし方をたずねたり、同じような質問に対して、答えることができ る。 話すこと 表現 自分の家族や自分自身について言うことができる。 自分が住んでいる所の説明ができる。 ある事柄を短く簡単に伝達できる。 自分の経歴や現在の職業や過去の職歴について説明することができる。 趣味や興味のあることを簡単な表現で伝えることができる。 過去の活動や個人的な経験(例えば、先週の週末やこの前の休暇)について伝える ことができる。 方略(ストラテジー) 誰かに話しかけることができる。 理解したとき身振りで示すことができる

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

相手にもう一度話してほしいとき、簡単な言葉で頼むことができる。

質/言語的運用 すでに学習済みの言い回しを助け舟をだしてもらいながら、表現できる。 「そして」「しかし」「~から」のような簡単な接続表現を用いて単語をつなげ、 まとめることができる。 単純な文法構造を正しく使うことができる。 生活上の単純な要求に対応できるだけの語彙をもっている。 書くこと 短くて簡単なメモやメッセージを書くことができる。 いつ、どこで、どんな祭りや事故などがあったかを説明したり、言うことができ る。 自分の周りの環境、例えば、人や場所、仕事、学校、家族や趣味などについて記述 できる。 アンケートに自分の学歴、仕事、興味、得意分野などの情報を書き込むことができ る 自分の家族や学校、仕事、趣味の紹介を手紙に短く書くことができる。 簡単な言い出し(頭語)、挨拶、お礼やお願いの形を取り入れた短い手紙を書くこ とができる。 「そして」「しかし」「~から」「そのとき」などの接続詞でつなげた簡単な文が書 ける。 「最初に」「それから」「そのあとで」「その後」などの時の流れをあらわす接続 詞でつなげた文が書ける。

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A2 *スイスで開発されたチェックリスト(http://culture2.coe.int/portfolio//documents/ appendix2.pdf)を翻訳したもの。学習者用に日本語訳をほどこしたもので、実際に使っている。参 考文献、『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠』訳・編吉島茂/大橋理枝 (他)、訳:Sulzberger-三木佐和子 訳協力:国際交流基金日本語センター専門講師/篠原摂子

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-8

Can-do 記述を導入した選択読解授業における試み 吉岡

慶子

要旨 本稿は、CEFR を用いた読みの授業の実践報告である。欧州において、言語政策としての CEFR の浸透は目をみはる物がある。近年は、日本語教育においても同様の枠組みを用いることが大 学側から義務づけられつつある。しかし、実際には学生の言語能力の包括的な熟達度を示す基 準がないまま、CEFR に準じた B1、あるいは B2 という到達レベル設定のみが用いられている、 というのが現状である。 そのような状況の中で、3 年生を対象とした選択読解授業で can-do 記述を中心とした到達目 標を掲げる試みを行った。日本語のサーチエンジンをもちいたり、ダウンロードした日本語の 論文の要旨をまとめ、内容を議論し、リサーチペーパーを書く、といったような卒論執筆に役 立つ能力を身につけることを目標とした。Can-do 記述の使用は、学生にとって学習到達目標が 分かり易く、動機付けに役に立ったという利点がある反面、幾つかの課題も残された。

【キーワード】CERF 共通参照レベル、can-do 記述、読解授業、実践報告

1.

はじめに

1.1 1.1.1

概観 ライデン大学における CEFR と日本語教育

ヨーロッパの他の国々と同様、現在、オランダの多くの言語機関において、例示的能力 記述文(以下 can-do 記述)を用いた、欧州評議会による「言語のためのヨーロッパ共通参 照枠」 (以下 CEFR)が導入されている。ライデン大学においても、ヨーロッパ言語の教育 では早くから CEFR を用いて来た。最近では、その言語政策がヨーロッパ言語外の教育に も波及して来ている。日本語学科においても、CEFR に準じた学生の到達目標をたてるこ とが大学側から義務づけされつつある。 一方、教育現場では、どのように CEFR に準じて学部から大学院までの授業に統一性や 一貫性を持たせればよいか、という具体的な話は進んでいるとは言いがたい。それにはさ まざまな理由が考えられる。CEFR の基準のみでは評価がしにくい、学科や教師全体の理 解が得にくい、規定の教科書を使用している場合にどのように can-do 記述で評価をするの か具体的に分かりにくい、などいろいろある。そのため、現時点では、到達目標は CEFR に準じて設定してあるが、学生の言語能力の包括的な熟達度を示す基準はまだない。Can-do 記述に関しても、使えるところで使うというのが現状である。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

1.1.2

日本語教育の位置づけと特徴

ライデン大学の日本語学科は、現在、学生総数が 300 人あまりで欧州においても大規模 な学科となっている。日本研究という専門で学位が取れるのはオランダにおいては本学科 しかない、ということが学生数の多さの一つの理由であるかもしれない。BA-MA 制度の 導入により、現在は 3 年間で学士(BA)、その後 2 年間で修士(MA)が取得できる。学期 は 2 学期制で、各 12 週から 13 週の長さである。 学科の授業は一年生では「語学教育」が中心になるが、二年生以降は「語学教育」と「専 門分野教育」が平行して行われる。二年生後半からは、専門分野教育科目が増え、同時に 語学の授業数が減る。また、専門分野の各教科において時間が取られるため、学生の語学 学習にかける時間が減ってくる。これは、おそらく本校に限った事ではなく、高等教育に おける日本語教育の特徴と言えるかもしれない。 「語学教育」では、3 年生の 2 学期目には専門分野(文学、社会学、国際関係、言語学、 宗教学、歴史学他)に関する日本語で書かれた文献を読み、論文執筆に役立てることがで きる力をつけることを目指している。CEFR の基準に照らし合わせると、B2 の読解力レベ ルである。その他のスキルに関しては、日本研究を専門とする者として必要十分な能力を つけるという意味で CEFR の B1 を目指している。 上記のような目標により、授業構成は基本的に文法·講読中心である。よって、授業時間 数の割り振りも、スキル別にバランスよく配置されているというよりも、むしろ文法·読解 中心に構成されている。

2. 2.1

選択読解授業の概要 授業設置の背景

本稿で取り上げるのは、3 年生の選択授業としての読解における試みである。この授業 は、2009 年の秋から始まった新規のコースである。その背景には、それまでの語学教育に いくつかの課題があり、その解決策が必要だったということがある。課題となっていたの は、例えば 3 年生の語学教育の授業時間数が少ないという点である。BA-MA 導入と平行 して、語学の授業時間が減ったわけだが、学生からの要望として授業時間の増加を求める 声があがっていた。また、一般の授業では学生間に格差があり過ぎ、特に留学帰国後の学 生の間に、専門の文献を読みたいという要望があったことも理由である。合わせて、学生 側からだけでなく、専門分野の教育からもクラス設置の要請があった。学生が3年生の後 期に卒業論文を書く前に、日本語で書かれた教科に関する文章に触れる機会をもう少し増 やせないかという要望であった。 これらのニーズに答えるべく、内容的には専門教科に沿ったものにし、学生が論文執筆 に必要な能力を伸ばす授業にする、という教員間の共通認識のもとに授業設置が決定され

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

た。

2.2

特徴

授業の特徴は以下の通りである。まず、 「言葉を学ぶための読み」から「情報を得るため の読み」への移行を意識した読解授業であること。次に、母語を媒介語として用いる授業 であること。また、「専門教育」と「語学教育」の関連性を保つ授業であること。そして、 卒論執筆に役立つ能力を伸ばす事を中心に到達目標がたてられていることである。

2.3

CEFR の利用

上記(2.1 を参照)で述べたように、この授業は、学生が「できる」ようになる項目が 設定当初から明確に決められていた。授業の到達目標としたのは以下の通りである。 1) 専門分野に関する論文、文章をインターネットを用いて検索することができる 2) 文章の内容が自分の研究課題に沿っているかどうかが判断できる 3) 専門分野の文章の要旨が分かる 4) 同じ主題を扱った複数の文章の論旨の比較、検討ができる(ALTE1 Category C: Study Reading C1 を参照)

2.4 2.4.1

授業の概要 テキスト

以下は授業の概要である。テキストは市販の教科書を用いず、専門分野(8 分野)担当 の教員が選択した文章(本、雑誌から抜粋した文章、対談など)で構成した。専門用語が あっても比較的内容が把握し易い文章が対象となった。その他の資料として、インターネ ットの検索サイト情報や、テキストに関連する読み物が準備された。これらはブラックボ ードに掲載された 2。

2.4.2

授業の構成

週 2 時間 13 週の授業で 13 の文章を読む、という形を取った。テキストに用いた文章は、 9 頁から 15 頁ぐらいのものであった。毎週、授業の前に文章を読んで要約をし、事前に渡 された質問に答え、それを Blackboard に掲載することが課された。Blackboard の使用例を 図1に掲載した。この週、学生は国際関係についての文章を読んでいる。アップロードし たのは、その内容の要旨のまとめと、内容に関するコメントである。使用言語は、母語で あるオランダ語を用いている。 事前の予習は、Blackboard のディスカッションボードという機能を用いて、学生同士がお

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互いの要旨やコメントの内容を確認し合えるようにした。こうすることで学生同士のいい 意味での競争心が働き、クラスの中で「できる」学生同士は授業前にお互いのアップロー ドした内容を読み合わせていたようである。 授業では、その週に課された文章(あらかじめ読んである)を翻訳したり、事前にアッ プロードされた学生の要旨や、文章の内容について討議をしたりした。同じ主題に関する 図1

Blackboard 利用例

他の文章を読み、異なる意見や立場を比較分析するという授業も行った。中間試験は、授 業で読んだ文章の内容について質問に答えるという形であった。その他に、リサーチペー パー(2000-2500 字)が期末試験の代わりに設けられた。各自の専門に沿った研究テーマ を設け、日本語のサーチエンジンを用いて日本語の研究雑誌や著書から論文を最低二本選 んで、作者の立場や理論を分析した上でオランダ語で書き上げる、という内容であった。

2.4.3

教師、学生数、評価の割り振り

授業の内容を鑑み、日本語教育を専門とする教員のうちオランダ語の母語話者が授業を 担当した。選択授業であったにもかかわらず、43 名もの学生が登録した。しかし、内容も、 学生に対する要求度も高い授業であったためか、途中で止めた学生も多かった。結局、最 後まで授業に残った学生は 28 名であった。学生の評価の配分は、出席、Blackboard への参 加、教室内活動が 30%、中間試験が 30%、そして、リサーチペーパーが 40%であった。

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3.

選択読解授業に関する考察

この選択読解授業に関して、学生側からは高い評価がなされた。その理由として、学生 にとって自己評価がし易く、また、専門分野に役立つ知識を学習できたという満足感があ った、などが挙げられる。以上の点は、学習動機の向上にも繋がると考えられる。 その一方で、課題も多く残された。まず、何よりも教員の負担が大きいという点が挙げ られる。規定のテキストを使わず、専門分野の教員からの文章をテキストとしたため、準 備に非常に時間がかかった。さらに、学生が毎週 Blackboard に載せるコメントにも事前に 目を通しておかねばならず、担当した教員は 2 時間の授業に対して 10 時間から 15 時間の 準備時間が必要だった。加えて、学生がそれぞれの研究分野に沿った形でリサーチペーパ ーを書いたため、語学教員だけでは内容の確認ができず、専門分野の教員からのアドバイ スが必要となった。よって、担当教員は常に専門教員との連絡が必要であり、それも担当 教員の時間的負担となった。 評価において課題となったのは、「できる」の判断である。Can-do 記述を利用した到達 目標は分かり易い反面、何を基準に「できる」とするかが非常に分かりにくい。Can-do の do の部分は分かるが、can の部分は判断しにくい、と言い換えることもできるだろう。日 本語に即して考えた際、何ができれば「できる」と評価すればよいのか、という問いは判 断に困る部分である。特に、漢字の取り扱い、及び語彙の扱いは問題となった。

4.

CEFR 利用に関する今後の展望

CEFR の日本語への応用に関しては、既に多くの関心が寄せられているばかりか、研究 報告も増えている(伊東 2009、井之川 2006、塩澤、石司、島田 2010、谷部ほか 2008、根 岸 2006、山本 2008、など) 。そこでは、CEFR や can-do 記述をどのようにコース、カリキ ュラム、シラバスデザインや評価に適用していくかという議論が中心である。しかし、今 後 CEFR や can-do 記述を導入するに際し、これらが日本語の知識や、日本語の運営能力と どう関わるかを調べる研究も必要である。また、学習者の能力をスタンダードの基準に照 らし合わせた、実証的な研究も平行して進めていくことが大切になる。 一方、欧州においては『共通参照枠』という性格上、他の言語(特に、ヨーロッパ言語 以外の中国語、ロシア語、アラビア語など)の言語教育と連絡を取りながら CEFR 利用を 考えて行くことも今後の課題となるだろう。

5.

まとめ

CEFR は、もともとヨーロッパ言語を中心とした言語政策としての参照枠組みであった。 それが、今やヨーロッパという地域、および言語を越えてその汎用性が試されつつある。

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しかし、言語はそれぞれの特徴があり、学習者もその特徴に合わせた形で言語を学習して いく。CEFR の日本語への応用は、まだ始まったばかりである。CEFR という雛形を、い かに日本語の特徴や日本語学習者の特徴に合わせて作り替えていけるか。この問いに対す る様々な研究や実践の試みは、大きな潮流として、ゆっくりではあっても確実に日本語教 育そのものを変えていくと思われる。

<注> 1

ALTE (欧州言語テスト協会)のサイトを参照のこと(www.alte.org)。

2

ブラックボードとは、インターネット上で授業のスケジュールの管理、連絡、テスト、ディスカッシ ョンなどができるよう種々の機能を統合した教育ポータルサイトのことである (www.blackboard.com)。

<主要参考文献> 伊東祐郎 (2009)「日本語教育スタンダードをめぐる議論を終えて」萬美保・村上史展編『グロ ーバル化社会の日本語教育と日本文化』、pp. 64-71、ひつじ書房 井之川睦美 (2006)「日本語会話モジュールと CEFR の関連づけの試み」 『言語情報学研究報告』 14、pp. 105-120 Council of Europe、吉島茂・大橋理枝他

訳編 (2008)『外国語の学習、教授、評価のためのヨ

ーロッパ共通参照枠』初版第 2 刷、朝日出版社 塩澤真季・石司えり・島田徳子 (2010) 「言語能力の熟達度を表す Can-do 記述の分析—JF Can-do 作成のためのガイドライン策定に向けてー」『国際交流基金日本語教育紀要』6 号、 pp. 23-39 根岸雅史 (2006)「CEFR の日本人外国語学習者への適用可能性の向上に向けて」『言語情報学 研究報告』14、pp. 79-102 谷部弘子・山中信之・野口裕之・島田めぐみ・斉藤純男(2008)「交流提携大学間の日本語科目 対応づけから見えること」 『第 13 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム·報告·発表論文集』、 pp. 107-115 山本弘子(2008)「日本語学校から見た評価の観点の見直し―ヨーロッパ共通参照枠の視点か ら―」『日本語教育』136 号

pp. 38-48

Council of Europe. (2009). Relating Language Examination to the Common European Framework of

Reference for Languages: Learn ing, Teaching, Assessment (CEFR): A Manual. Council of Europe Language Policy Division.

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-9

「みんなの日本語」を使った CEFR 授業実践報告 -既存の教科書を使っての CEFR の試み- 鈴木

裕子

要旨 英語、ドイツ語などヨーロッパ言語は教科書が CEFR 対応になっているが、日本語において は CEFR 準拠の教科書はなかった。そこで、日本語の教科書として広く使われている『みんな の日本語初級 I』(以下、『みんなの日本語』)を使って、どこまで CEFR に即した授業を行える か、それを5年間に渡り機関で実践している。授業の基本にしているのは(1)コミュニケーショ ン能力の育成(2)学習者中心という二本の柱である。5 年間の成果としては、限られた日本語能 力の中でも何とかコミュニケーションを取ろうとする姿勢が学習者に見られるようになったこ とと、受身の授業から授業は自分たちが作るものという姿勢に変わり、所謂「お客様」と呼ば れる学習者がいなくなった。また、積極的な授業参加は学習者のモティベーションを持続させ、 コース半ばでの脱落者が著しく減った。 『みんなの日本語』を使ったのは一例であり、どのよう な教科書を使っても、コースデザイン、Can-do、教案が綿密に連携されていれば、CEFR 的な アプローチは可能だと思う。

【キーワード】CEFR 準拠の教科書、コミュニケーション能力、学習者中心、Can-do

1.

はじめに

1.1

背景 「CEFR をどのように日本語教育で実践していくか。」

5 年前、大学の語学センターから出された課題に、初めはヨーロッパ言語と体系の違う 日本語に CEFR を当てはめるのは無理だと拒否反応を起こしていた。しかし、何年日本語 を勉強しても、コミュニケーション能力、特に聞く、話す力に伸び悩んでいた学生たちを 見ていて、CEFR が今までの文型シラバス中心の日本語授業の打開策になってくれるので はと思い、取り組んでいくことに決めた。

1.2 1.2.1

実施にあたって 方針

まず、CEFR に即した授業を行うに当たって徹底させたのが、パウル・ルッシュ(2007) の言う「能力開発を行うのは学習者であり、教師ではない。教師の役割はモデレーターで あり、学習者の学習計画策定を支援すること。教師は学習者が自分に関する理解をさらに 深めることができるように手引きする。」(p.210)という学習者主体の授業方針である。授業

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のほとんどはペア、あるいはグループで行う。当初は受身の授業体制が見についていた学 生たちにとって、 「自分たちで行動中心のアプローチをして、問題点を解決していく」とい う方法は、かなり抵抗があった。また、同時にしゃべり過ぎない、教え過ぎない、学習者 の学習軌道修正に徹するという教師の姿勢は、私自身が大いに反省すべき点でもあった。

1.2.2

教科書

教科書は、英語、ドイツ語などヨーロッパ言語のように CEFR に基づく教科書がないた め、既存の『みんなの日本語』を使うことにした。

1.2.3

Can-do Statements

一課ごとに Can-do Statements を作り、各課を始める前に、その課で、具体的にどんなコミ ュニケーションができるようになるか、コミュニケーションのテーマを提示し、学習者の 意識を高め、課の終了時に学習者がもう一度 Can-do Statements で自己評価をしていく形を とった。コミュニケーションのテーマは『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ 共通参照枞』 (訳・編吉島 2004)の第 4 章言語使用と言語使用者/学習者の 2、コミュニケ ーションのテーマ(pp.53-54)を参考にした。 表1 1.個人に関する事柄 2.家と家庭、環境 3.日常生活 4.自由時間、娯楽 5.旅行 6.他人との関係 7.健康と身体管理

コミュニケーションのテーマ 8.教育 9.買い物 10.食べ物と飲み物 11.サービス 12.場所 13.言語 14.天気

( 『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞』第 4 章 pp.53-54 より) 『みんなの日本語』の各課でどのようなコミュニケーションが可能かまとめてみた。課 によっては複数のコミュニケーションが可能な場合もあるが、Can-do Statements では、多 くを求めず、各課で学習する目的を学習者がシンプルに理解し、目標として意識できるよ うに心掛けた。

2.

実践

授業は基本的にペア、グループで行う。一人だけで考えるのではなく、学習者同士がコ

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

ミュニケーションを取りながら、協力し合って問題を解決していくことを習慣化していっ た。 表 2『みんなの日本語』をコミュニケーションのテーマごとに分類

2.1

1

個人に関する事柄

1 課,31,38,42,50

2

家と家庭、環境

8,15,48

3

日常生活

5,7,13,26,45

4

自由時間、娯楽

6,9,18,27

5

旅行

12,20,35,37

6

他人との関係

2,14,21,24,39,41,43,47,49

7

健康と身体管理

17,19,36

8

教育

28,40

9

買い物

3,11

10

食べ物と飲み物

11,34

11

サービス

4,16,22,29,44,46

12

場所

10,23

13

言語

30,33

14

天気

25,32

テーマを予測する

各課の導入として、写真 1 や動画 2、映画の1シーン、イラストを使って、その課のテー マを予測し、新しい課へのイメージを膨らませていく。

2.2

会話を聞く(写真、イラスト etc )

各課の「会話」を聞く。これは日本語のコース初日から始める。日本語を何も知らない 学習者ははじめ面食らうが、たとえわからなくても、日本語の会話に慣れていくことが大 切だと思う。会話を聞く前にイラストや写真などを提示し、内容の手がかりとなるように する。2,3 回続けて聞いたあと、ペアで何の会話か予測する。その後、また 2,3 回聞いて、 今度はグループで、そして最後にはクラスで会話の内容を話し合っていく。この段階では 文法や意味を説明したりはしない。

2.3

Can-do を見て、その課の目的を知る

その課の Can-do を見て、どのようなコミュニケーションができるようになるのか、その

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目的を確かめる。A2 レベルからは、ペアで Can-do の到達目標を読むなど、授業活動とし て取り上げることもできる。

2.4

会話 (練習 C) を聞いて、新しい文型を見つける

短い会話(練習 C)を使って、何度も聞きながら、タスクを手掛かりにその課で学習す る新しい文型を探る。また新文型の法則を見つけていく。その後、短い会話をペアで何回 も練習する。

2.5

文型のまとめ(練習 A)

練習 C の 3 つの会話だけでは網羅できない文型もあるので、練習 A をまとめとして使う。 また、練習 C で見つけた新文型の確かめ、復習としても使える。

2.6

教室活動

コミュニケーション言語能力の課題(Can-do)達成のための教室活動を行う。教室活動 では、1 技能の課題達成だけでなく、複数の言語活動が同時にできるような教室活動を取 り入れる。その場合、CEFR のレベル別到達目標を必ず意識下において教室活動をアレン ジしていく。『みんなの日本語』の各課の最初にある「文型」「例文」は教室活動の教材と して、その CD を使ったディクテーションや並べ替えなど様々な形で生かすことができる。

2.7

宿題システム(練習 B)

練習 B は文型のパターン練習が主なので、学習者の自律学習へと繋げる。大学の WEB ページに Hot Potatoes3 やウェブ問題作成ツール 4 を利用して作った練習 B を載せ、自己採 点できるような簡単な宿題システムを作っている。宿題提出を要求する時には、手書きで、 スペイン語訳も意識させる。そうすることで、ただのパターン練習ではなく、漢字や語彙 の勉強にもなる。

2.8

もう一度、最初の会話を聞く

最後にもう一度、課のはじめに聞いた会話を聞き、どういう内容の会話だったか、お互 いに確かめていく。特にその課で出た新しい表現はどんな時に使うか、話し合う。

2.9

その課のテーマで会話、寸劇、プレゼン、ディベートを行う(Can-do を意識して)

その課の総まとめとして、テーマに合った会話、寸劇、プレゼン、ディベートを行う。 習った会話を基にしても、アレンジしても形式は自由、人数もペア、グループなどその都

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

度人数を変えていく。発表するにあたっては、Can-do の特に力を入れて練習した部分をク ラスメートに知らせ、相互評価をする。

2.10

Can-do 自己評価

各課の終わりに Can-do 自己評価を行う。去年から Can-do 表に目標だけではなく、新し く習った表現や文法を付け加えた。その結果、漠然とできるかできないかを評価するだけ でなく、このテーマのこのコミュニケーションではこんな表現や文法が生かされると改め て認識することができるようになった。

3. 3.1

結果 話す力の向上

今までは、たくさんの文型を勉強しても、それが実際のコミュニケーション場面とつな がらず、学習者はとっさの状況でどう話したらいいかわからないことが多かった。また、 スペイン語で考えた文を日本語に訳しているため、話すまでに時間がかかり、自分の言い たいことを表現できない悩みを抱えていた。この方法で練習をするようになってからは、 咄嗟の状況でも簡単な日本語で対応できるようになり、スペイン語と日本語を切り離して 考え、翻訳という形でなく、状況と反復練習を通して覚えたより自然な日本語で、コミュ ニケーションできるようになった。

3.2

聞く力の向上

日本語に触れる機会が授業以外ほとんどないため、会話を聞いていても、一つわからな い単語が出てくるとそこで聞くという行為がストップしてしまう傾向が学習者にあった。 しかし、この方法で、簡単な会話、長い会話、速度の速い会話などいろいろなタイプの会 話を数多く聞くことで、たとえわからない単語が出てきても、会話を全体で捉え、 何が話されているか、把握しようとする姿勢が学習者全般に見られるようになった。

3.3

Can-do の効果

Can-do Statements を使って、学習者に到達目標を意識させることは、目標に達すること ができた、できなかったに関わらず、この課で勉強したことは、こんな場面でのコミュニ ケーションに有効だと学習者に認識させることができる。また、学習者自身も学習の確認 や復習に Can-do

Statements を積極的に利用している。ただ、Can-do Statements と授業の

シラバスは一心同体で、学習者が納得のいく自己評価ができるようにするためには、綿密 な授業計画が必要であろう。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

『みんなの日本語』を使ったのはあくまで一例で、どんな教科書を使ってもコースデザ イン、Can-do、教案が連携していれば、CEFR 的な語学学習は可能だと思う。

4.

問題点

以上が実践報告だが、問題点としては、次の四点をあげたい。(1)『みんなの日本語』と いうテキスト自体が CEFR とは全く違った目的で作られているため、各課のコミュニケー ションのテーマを決めるのにも限界がある。(2) CEFR の提示しているコミュニケーション のテーマには「他人との関係」 「言語」などかなり抽象的なものが多いため、より具体的な テーマを検討していく必要がある。(3)「 CEFR の掲げる目標を取り入れた教科書を開発す るためには「タスク」が重要な役割を果たす」と言われているように、タスクの重要性を 痛感しながらも、Can-do

Statements と結びついたタスクを作っていく難しさを感じた。

特に、漢字学習に関するタスクは必要不可欠だと思う。 (4)Can-do の自己評価をするに あたっては、教師が自己評価の意義を熟知し、指導できる立場になくてはならないと思う。 例えば、スペイン人学習者について言えば、自己評価を過小評価する学習者が多く、その ままでは自己評価チェックが最大限に生かされない。自己評価とは何かを学習者に理解さ せ、習慣化させ、評価が次の目標へ繋がるよう励ましていくことが重要であった。

5.

今後の課題

CEFR に即した教科書とは一体どんなものなのか。それを探るために、語学センターの 各語学教師にインタビューをして、テキストの特徴、使用法などを聞いた。彼らの話を聞 き、意見を交換するうちに、日本で教える日本語とは一味違ったヨーロッパ発信の日本語 があってもいいのではと思うようになった。ヨーロッパ言語の教科書を参考にしながら、 各機関が自分たちの学習者に合わせて自由自在に使える CEFR 準拠の教科書、あるいは教 材集が必要だと思う。また、教科書を開発するためには、テーマを見直し、タスクを充実 させていくことが不可欠であろう。そのタスク作りのためには、まず機能文法から表現文 法をもう一度見直していく必要があると思う。

6. 6.1

アクションプラン A1 のテーマ(トピック)

CEFR 準拠の教科書と言っても、一朝一夕でできるものではない。スペイン教師会のプ ロジェクトとして、スペインの学習者に適した教科書、あるいは教材集を作るためには何 をしたらいいのか。アルザス研修後に持ち帰ったこの課題をプロジェクトに賛同してくれ

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た教師会メンバー(藤野、今枝)と話しあい、まず、英語、ドイツ語、フランス語、イタ リア語の A1 教科書からテーマを拾い出してみた。それが表 3 である。 対象者はスペインで一番学習者の多い大学生・社会人に絞り、時間は教科書一冊約 80 時間と設定。テーマは案として次のようなものが出た。

1.「あいさつ」

7.「旅行」

2.「わたしの家族」 8.「健康」 3.「毎日の生活」

9.「わたしのうち」

4.「買い物」

10.「日本の一年」

5.「招待」

11.「大切な人」

6.「趣味」

12.「一生」

表 3 ヨーロッパ言語教科書 A1 のテーマ例 英語

ドイツ語 5

“face2face”

“Optimal”

フランス語

6

“Forum”

イタリア語

7

“domani”8

1

人に会う

人々・言葉・国

自己紹介

お名前は?

2

家族紹介

外国の町

人と会う

出身は?

3

日々の生活

音楽

一日

電話を教えて

4

おでかけ

一日の生活-仕事-休日

招待

今どこ?

5

買い物

食べ物-飲み物-買物

バカンス

ローマで一泊

6

悪い時

外国語を学ぶ

買い物

今何時?

7

趣味

旅行

予定

何色?

8

旅行に行く

住まい

おでかけ

お仕事は?

9

仕事

招待-料理-食事

ウィークエンド

僕は元気、あなたは?

10

心とからだ

身体と健康

バル

11

未来・将来

私の一日

12

経験

天気と風景

家族で

6.2

テーマ別教材集

次に国外でよく使われている 7 冊の既存の日本語教科書から、同じテーマを扱った会話、 読解教材などを抜き出し、まとめてみた。その一部が表 4 である。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

表 4 テーマ別教材集 対象:大学生・社会人 時間:年間 80 時間 レベル:A1 み…『みんなの日本語』げ…『げんき』9J…”J bridge”10 大…『大地』11 エ…『エリンが挑戦』12N…”Nihongo Kantan”13 に…『にほんごこれだけ』 14 テーマ 1 あいさつ

Can-do (目標)

会話

語彙・漢字

文法

文化紹介

写真・表

教室活動・タスク

参考

-初めてのあいさつができる

み-p7 大-p1

名前・国籍

-私はカルロスです。ス

名刺交換エ

国籍・職

自己紹介(名前、国籍、 J-L.1

-自分のことについて話せる

げ-p11 J-p1

職業

ペイン人です。メキシコ

-p13

職業)

み-L.1

初めてのあいさつ

N-L1,2

N-p17 エ-p2

人じゃありません。学生 です。

2 わたしの

-自分の家族について話せる

J-p8

家族名称

私は5人家族です。

日本の家族

家族写真

家族の紹介

N-L.3

家族

-他人の家族について聞ける

げ-p26,132

助数詞~人、

兄弟は兄と妹、3 人です

サザエさん

家族名称

職業について話す

に-L.2

N-p64

~歳

これは私の家族です

だんご三兄

(表)

弟 N-p.63,78 3 毎日の生活

-自分の毎日の生活について

大-p19,25

一週間、朝、

-何時に起きますか

ラッシュ

時間を表

自分の時間割

読-み p53

話したり、聞いたりすること

げ-p114

昼、夜、週末

夜 9 時から 11 時まで勉

昼休み

す(表)

日本の時間と比べる

げ-L.4,11

ができる

J-p32

午前、午後、

強します。

週末

時間割

(朝食、昼食、夕食)

エ-L.5

エ-p98

時間

N-L.4 に-L.3

4 買い物

-物の値段を聞いて、わかる

げ p30,90,91

数字、助数詞

これはいくらですか。

スーパーの

コンビニ

店員と客のロールプレ

エ-L.6

-どれを見せてほしいか言う

み-p32

(一つ、一

どこのですか。

チラシ

(写真)

N-L.8

ことができる

エ-p74

個)、色

あの大きいのを見せて

コンビニ

バーゲン

(八百屋、魚屋、花屋、 に-L.15

-ほしいものの数を言うこと

N-p198,199

の広告

靴屋 etc.)

ができる

ください これを三つください。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

6.3 問題点 プロジェクトを進めて行くうちに何点かの問題点が浮上してきた。第一に A1 の到達目 標を 80 時間で達成できるのか、達成には尐なくとももう一年(80 時間)必要ではないだろ うか。それを立証するためにはもう一度、CEFR の A1 到達目標と場面シラバスに必要な A1 レベルの表現文法を見直していく必要があると思われる。第二にスペインで日本語を勉強す る学習者に特化した異文化コミュニケーションとはどのようなものかという問題である。 『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞』では異文化間技能、ノウ・ハ ウ(p.111)について次のように書かれている。 ・自分の出身文化と外国の文化とをお互いに関係づけることができる力 ・文化に対する高い感受性と、他文化の出身の人と接する時に使えるさまざまな方略を 知っていること、また、実際に使える力 ・自分自身の文化と外国文化との仲介役を務めることができる力量と、異文化間の誤解 や対立に対して効果的な解決ができること ・ステレオタイプに基づいた人間関係を乗り越えることができる力 高コンテクスト文化と言われる日本文化では命題、場面、談話によってそのモダリティ表現 や敬語の度合いが変わっていく。それは人間関係や状況の中で常に相手の立場を考える文化 的背景が大きく影響している。 「場・コンテクスト」をどう認識するかは日本語コミュニケ ーションの重要なポイントになる。このコンテクストにあわせた多彩な日本語にスペイン人 学習者が A1 レベルの早い時期から、無理なく、自然な形で接していくためにはどんなアプ ローチが考えられるのだろうか。

6.4 プロジェクトの今後 9 月に赴任した熊野日本語上級専門家を交えて、10 月 6 日に今後の方向性を話し合った。 来年には JF 日本語教育スタンダード準拠の教科書も出来上がるということなので、それも 考慮に入れて、スペイン日本語教師会の教科書プロジェクトとしては今後以下の三つの方向 でプロジェクトを進めていく。 (1)CEFRA1 の到達目標と表現文法の見直し (2)テーマごとの異文化コミュニケーションのタスク作成 (3)スペイン語文法解説書の作成 (2)のタスク作成ではインターネットを利用した”WebQuest”15 などを使って、自律学習に繋 がる環境を作って行きたい。また(3)のスペイン語版文法解説書は JF 日本語教育スタンダー ドの教科書にできるだけ準拠したものにして、教室でのコミュニケーション活動だけではカ

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

バーできない文法を彼らの母語スペイン語で解説し、日本語能力試験にも対応したものを目 指していければと思っている。 なお、現在、プロジェクトチームは 3 人だけだが、具体的な方向性が見えてきた時点で、 参加者を募り、スペイン教師、会全体のプロジェクトとしての意識を高めていきたい。

<注> 1

http://www.flickr.com/ (2010 年 10 月 12 日)

2

http://www.youtube.com/ (2010 年 10 月 12 日)

3

http://web.uvic.ca/hrd/hotpot/ (2010 年 10 月 12 日)

4

http://www.fureai.or.jp/~irie/webquiz/ (2010 年 10 月 12 日)

5

Redston,C.& Cunningham,G(2005)”face2face”,Cambridge University Press.

6

Müller,M,Rusch,P.&Scherling,T(2004)”Optimal”,Langenscheidt

7

Baylon,C(2000)”Forum”,Hachette.

8 Carlo Guastalla,Ciro Massimo Naddeo(2010)”domain”,Alma Edizioni 9 坂野永理・大野裕・坂根庸子・品川恭子(1999)『初級日本語げんき I』The Japan Times 10 小山悟(2007)『J.Bridge ジェイ・ブリッジ for Beginners Vol.1』凡人社 11 山崎佳子・石井怜子・佐々木薫・高橋美和子(2008)『大地』スリーエーネットワーク 12 国際交流基金(2007)『エリンが挑戦にほんごできます』国際交流基金 13

Ursula Zimmermann(2007)”Nihongo Kantan”The Department of Education and Science

14 庵功雄監修(2010)『にほんごこれだけ!』ココ出版 15

http://questgarden.com (2010 年 10 月 12 日) http://webquest.umds.ac.jp/ (2010 年 10 月 12 日)

<参考文献> 国際交流基金(2010)『JF 日本語教育スタンダード 2010』 、国際交流基金

国際交流基金(2010)『JF 日本語教育スタンダード 2010 利用者ガイドブック』、国際交流基金 スリーエーネットワーク(1998)『みんなの日本語初級本冊 I』 、スリーエーネットワーク パウル

ルッシュ(2007) 「”Profile deutsch”-多目的ツールを開発する」 『平成 17(2005)年度日本

語教育スタンダードの構築をめざす国際ラウンドテーブル会議録』第 3 回「第二部先行事例に 学ぶ」、p.210、

国際交流基金

吉島茂・大橋理枝(訳・編)(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞』、 朝日出版社 井出祥子(2006)『わきまえの語用論』 、大修館書店 井出祥子・平賀正子編(2009)『異文化とコミュニケーション』 、ひつじ書房 吉田暁監修/石井敏・岡部朗一・久米昭元(1996)『異文化コミュニケーション』 、有斐閣

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

島田徳子・リチャード

ハリソン(2001)『インターネットを利用した Constructivist タスク型教材

-”WebQuest”の紹介と実践-』 「日本語国際センター紀要第 11 号」国際交流基金 Breeze,Ruth(2007)ACLES:Actas del V Congreso de la Asociación de Centros de Lenguas en la Enseñanza superior,Universidad de Navarra

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-10

CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発 齋藤

あずさ

要旨 近年、欧州の日本語教育においてもヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)が普及しつつある。 欧州の言語と異なり表記体系が複雑な日本語では、CEFR の「読み」「書き」技能のレベルを判定 する際に、漢字の知識や運用力を考慮することが必須となる。しかし、CEFR のみならず『JF 日本語教育スタンダード 2010』 (独立法人国際交流基金 2010)においても、漢字の扱いは具体 的には提示されておらず、CEFR/JF 日本語教育スタンダードを使用したカリキュラムの設計や 学習者による自己評価などは難しいのが現状である。 そこで、CEFR の A1、A2、B1 レベルにおける 「読み」「書き」の技能の中で漢字の位置づけ を明確にした漢字タスク集を開発することを目的とし、本プロジェクトを立ち上げた。 タスク集の作成にあたり、まずレベルごとに「読み」と「書き」の Can-do statement (CDS) を検 討し、それぞれの目標を遂行するために必要な漢字を選択した。その際に、徳弘 2008 に示され た漢字の使用頻度・親密度・単語数も参考にした。 各レベルはタスク活動を中心とした約 10 のユニットから構成されており、 学習者のニーズ、 レベル、興味に応じて選択できるようになっている。各ユニットは、まず初めに CDS が明記さ れ、 「動機付け」、 「タスク」 、 「言葉と漢字の確認」、 「自己チェックリスト」の順に活動が配列さ れている。 学習者はこういった一連の活動を通して、漢字の「読み」と「書き」の技能においてど の学習段階にいるのかを自己診断できると同時に、学習した漢字を使って具体的にどんな活動 ができるかを認識することができるのではないかと考えている。

【キーワード】 CEFR、漢字の位置づけ、タスク、初級、読み書き技能

1. はじめに 本稿は、ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Langueges:以下 CEFR) における表記の取り扱いの問題に関心を持った在イタリア日本語 教師(稲垣厚子、小林玲子、筆者)が集まって漢字教材開発のプロジェクトチームを立ち 上げ、2010 年 7 月に行われた CEFR-JF 日本語スタンダード研修において筆者がその開発 教材に関して発表した報告に基づいている。

1.1 CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発について 1.1.1 背景 近年、欧州の日本語教育においても CEFR が普及しつつあることは、上記のような研修 会が開催されるようになったことからもわかる。しかし、ヨーロッパ言語と異なって表記

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

体系が複雑な日本語では、 「読み」と「書き」の技能レベルを判定する際に漢字の知識や運 用力を考慮することが必須となるため、CEFR の日本語教育への導入は容易ではない。 これまでにもヨーロッパの中等教育機関における日本語教育では漢字学習のために Can-Do-Statements(以下 CDS)をたてる試みはいくつかなされてきた(松尾 2006、など)。 しかし、それらはおおまかな学習到達目標を CDS の形で示してはいるものの、実際に漢字 を使用して何ができるかという行動目標やレベルに合わせた具体的な漢字リストを明記し たものではない。また、学生が実際にある漢字について「自分はこれができる」と確認で きる基準とはなりえていない。 こうした問題を解決するためには、学習者が漢字に関して実生活で直面するであろう場 面を考慮したタスクを設定し、学習者が実際にそのタスクを行ってみることが必要である と考えた。また、従来の漢字学習教材の多くは、漢字の読み書きの練習にとどまっており、 漢字を学習することで何ができるようになるのかという実生活との結びつきまでは配慮さ れていない。 当プロジェクトチームは以上のような点を考慮に入れ、実生活の場面に結びついた漢字 学習のための CDS を設定することによって、CEFR のレベルにあわせた漢字学習が可能に なる、との考えに基づいて本タスク集の開発を進めた。また、本タスク集では、各レベル に応じた学習漢字を具体的に列挙するとともに、 「読み」 「書き」技能における学習者の漢 字運用力のレベルを明示することによって、先にあげたような、先行漢字教材に不足して いる問題点を補うことができるのではないかと期待している。

1.1.2 目的 本プロジェクトの目的は、CEFR の「読み」と「書き」の技能における漢字学習のあり 方を CEFR 本来の趣旨に沿ったものにし、あわせて、ヨーロッパを中心とした海外の初級 日本語学習者を対象とする漢字タスク集を開発することである。ここでいうタスクとは、 単に漢字が読めたり書けたりすることを到達目標とするような練習ではなく、既習漢字を 実際に使用してコミュニケーションを行ったり、必要な情報を読み取ったりする課題遂行 型の活動である。こういった活動を通して、学習者は、どの漢字を学習することで実生活 で具体的に何ができるようになるのかを認識し、また CEFR の中で自分がどの学習段階に あるのかを自己診断することが可能となる。

2. タスク集の開発 2.1

対象

現在開発中のタスク集の対象者は、CEFR の A1、A2、B1 レベル(初級および中級前期) の日本語学習者で、学習者の地域はヨーロッパを中心とする海外を想定している。ヨーロ

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

ッパの日本語学習者に関わりのありそうな話題や場面という点を重視し、可能な限り海外 においてもあり得るであろう日本語や日本人との接触場面や、日本へ観光や短期日本語留 学に行く場面などを取り入れた。

2.2

構成

A1、A2、B1 の各レベルごとにタスク活動を中心としたユニットを設け、学習者のニー ズ、レベル、興味に応じてユニットが選択できるモジュール形式を取っている。巻末に漢 字のレベル別リストを掲載してあるので、学習した漢字からどんなタスクができるかとい う逆の方向からのタスク選択も可能である。 各ユニットの構成は、まず初めに CEFR に基づいた CDS が提示され、続いて「動機付け」 、 「タスク」 、 「言葉と漢字の確認」 、 「自己チェックリスト」の活動項目が順に配列されてい る。学習者はこの一連の活動をおこなうことによって、漢字の「読み」 「書き」技能におい てどの学習段階にいるのかを自己診断できると同時に、学習した漢字を使って具体的にど んな課題を遂行できるのかが認識できるようになっている。

2.3

漢字の選択

CEFR のレベルに合わせた漢字を選択する方法としては、従来のような形態的な難易度 によるよりも、そのタスクを遂行するためにどの漢字が必要かという現実的な選択を優先 した。まず、A1、A2、B1 の各レベルで「読み」 「書き」の CDS を詳しく検討し、その CDS の内容に沿った具体的なタスクを作成した。その上で、実際にそのタスクを行うために必 要な漢字を選出した。CDS を選びタスクを作成するにあたっては、CEFR に示されている 領域(私的領域・公的領域・職業領域・教育領域)や自己評価表(吉島 2004)を参考にし、 タスクを達成するのに必要だと思われる漢字を選択する際には、漢字の使用頻度、 親密度、 単語数(徳島 2009)も考慮にいれた。A1 レベルで採用した CDS は表1のとおりである。 本教材で取り扱う予定になっている A1 レベルの漢字数は約 60 字であるが、これは「漢 字 60 字を知っているので A1 レベルである」または「それ以上を知っているので A2 レベ ルである」というような目安ではない。また各レベルで提示した漢字そのものが、そのレ ベルの漢字であるという絶対基準ではなく、同じ漢字が二つ以上のレベルで取り上げられ ることもあれば、通常は初級段階で学習する漢字でも A1 レベルで選択されていないこと もある。これは本教材が、全ての漢字を一つ一つレベル分けしたものではなく、ここに出 てくる漢字は、各レベルで選ばれた CDS に沿った活動の課題を遂行するために必要とみな された漢字だからである。 漢字の学習にあたっては、レベルが上がるにつれて、学習者は社会的広がりを持ち、場 面や話題もより多様なものとなるため、初級段階に必要であると考えられる漢字を全て網 羅することは不可能であり、さらに、学習するべき漢字として一定数の漢字を規定してし

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

まうと、学習者個々の広がりを尊重できなくなってしまうという弊もある。 これまでの日本語教育においては漢字学習が単に漢字の読み書き能力の確認にとどまっ てしまっていた傾向があるのに対して、本教材は、学習者が社会に一歩踏み出した場面で 漢字をどのように利用できるのかを示し、また既習の漢字に加えてどのような漢字を学習 することで何ができるようになるのかを目安として提示することで、レベルの自己診断の 手助けになりえると考えている。 表1「A1 レベルの Can-do Statements」 Task No.

ユニットタイトル

(2010 年 10 月現在)

Can Do Statements ひらがなやカタカナで書かれたイラスト付きのメニューを読んで理解

A1-1

すしや

A1-2

せかいのくに

1

できる。

1

自分の出身(国・町)が書ける。

2

世界の国や町の名前を読んだり、書いたりできる。 ひらがなやカタカナで書かれた趣味やスポーツの名前を読むことがで

A1-3

しゅみ

趣味や好きなスポーツについて、短く書くことができる。

1

簡単なお祝いの言葉をいれたカード書くことができる。

1

簡単な年賀のあいさつを読んで理解できる。

2

モデルの形式を使って、干支入りの年賀はがきを書くことができる。

1

名刺を見て、名前、連絡先が分かる。

2

簡単な名刺を書くことができる。

1

和食レストランのメニューが読める

2

街で見かけたものの値段が分かる。

1

ホストファミリーの紹介文を読んで、理解できる。

2

自分の家族の紹介文を書くことができる。

1

簡単なメモを読んで理解できる。

2

簡単なメモを書くことができる。

1

掲示板を読んで、必要な情報を収集できる。

2

掲示板に「売ります」「買います」等の短い広告をだすことができる。

いつあいています

1

営業時間などの表示を読んで、理解できる。

2

営業時間などをメモしておしえることができる。

おいわいのカード

A1-5

ねんがじょう

A1-7

A1-8

A1-9

A1-10

A1-11

きる。

2 A1-4

A1-6

1

めいし

ねだん

かぞく

メモ

けいじばん

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

3. 今までの問題点とその改善案 3.1. 漢字を選択することに関する疑問 CEFR の「読み」 「書き」技能レベルの判定の際に問題となっていた漢字を、できるだけ CEFR の理念から離れることのないように解決していきたいと考えて着手した初級漢字タ スク集の開発であるが、そもそも文型・語彙・漢字をどれだけ知っているかというような 観点は CEFR の考え方と相反するものである。「このレベルは漢字数がいくつである」 「こ の漢字はこのレベルに相当する」というような規定が存在すれば、学習者や教師はそれを 目安としやすいだろうが、そのように規定してしまった時点で CEFR の理念からは遠ざか ってしまう。そのため、この漢字タスク集で選択した漢字の扱いは、あくまで「例」であ ること、タスクや「読み」 「書き」の技能と離して考えることはできないこと、また全ての 漢字を扱うことはできないことを念頭に置かなければならない。

3.2. 漢字の選択に関する問題点とその改善点 2.3.で記述したように、漢字を選択する際には、既存の漢字教材のように漢字を意味、部 首、成り立ち等で分類したわけではなく、実生活で「この漢字を知っていれば何ができる ようになるのか」または逆に「このタスクを行うためにはどんな漢字を知っていなければ ならないのか」を基準とした。そのため、従来であれば形態が簡単であるために学習の初 期段階で導入される漢字や、漢字の成り立ちを理解させるために有効な象形文字、また複 雑な漢字の部首となりうるような漢字(例えば、山・川・田・手など)などは、実生活で はあまり使用されることがないため、本タスク集にどのように取り入れるかが大きな問題 として残っていた。 今回の研修の場で、これまで CEFR に関する議論の中ではあまり言及されていなかった ように思われる「言語学習の中の行動目標」や、 『JF 日本語教育スタンダード 2010』の「コ ミュニケーション言語能力の獲得のための方略」の必要性が話し合われた。これらの話題 は「漢字学習をスムーズに行うためのストラテジーの獲得としてのタスク」に結びつくも のだというヒントを与えてくれた。それまでは「コミュニケーション言語活動」としての タスクだけを考えていたために取り入れることのできなかった漢字も、 「コミュニケーショ ン言語能力」を獲得するために必要なストラテジーを育成するタスクとして取り入れるこ とが可能であることが分かったのは大きな収穫だった。こうしたストラテジー育成タスク は、漢字の自律学習を促すタスクとなるため、今後各レベルに取り入れていきたいと思っ ている。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<参考文献> 大島弘子(2007) 「CEF(ヨーロッパ共通参照枠)の日本語教育への応用の可能性と難点」『フ

ランス日本語教育 No.3 第 7・8 回シンポジウム報告・発表論文集』、フランス日本語教師会 スルツベルゲルー三木佐和子(2008) 「CEFR/ELP

能力査定基準の日本語スキル査定への応用

を探る-A1 の漢字について-」、『ヨーロッパ日本語教育』12、 pp.183-187、ヨーロッパ日 本語教師会 独立行政法人国際交流基金(2010) 『JF 日本語教育スタンダード 2010』 、独立行政法人国際交流 基金 https://jfstandard.jp/top/ja/render.do (2010 年 10 月 5 日) 独立行政法人国際交流基金(2010) 『JF 日本語教育スタンダード 2010 利用者ガイドブック』、 独立行政法人国際交流基金 https://jfstandard.jp/top/ja/render.do

(2010 年 10 月 5 日)

徳弘康代(2009) 『日本語学習者のためのよく使う順漢字 2100』三省堂 松尾馨・饌田朱美(2006)「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠(CEF) の日本語教育における活用-ドイツ・ベルリン州の中等教育日本語ガイドラインの例―」 『世 界の日本語教育』16、pp. 155-167、国際交流基金. ヨーロッパ日本語教師会(2005) 『日本語教育国別事情調査

ヨーロッパにおける日本語教育と

Common European Framework of Reference for Languages』独立行政法人国際交流基金 http://www.jpf.go.jp/j/publish/japanese/euro/ 吉島茂・大橋理枝他

(2010 年 10 月 5 日)

訳編(2004) 『外国語教育 II-外国語の学習、教授、評価のためのヨーロ

ッパ共通参照枠』朝日出版社 http://www.dokkyo.net/~daf-kurs/library.html

(2010 年 10 月 5 日)

Tanaka, Kuniko (2008) LINGUA GIAPPONESE Materilali per docenti http://www.progettolingue.net/orientali/wp-content/uploads/2008/11/lingua-giapponesebis. pdf (2010 年 10 月 5 日) PROGRAMMES DE L’ENSEIGNEMENT DE LANGUES VIVANTES ETRANGRES AU VOLLEGE JAPONAIS http://trf.education.gouv.fr/pub/edutel/bo/2007/hs7/hs7_japonais-vol3.pdf (2009 年 1 月 23 日)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-11

ハンガリー教材作成プロジェクト 松浦

依子

要旨 国際交流基金ブダペスト日本文化センターでは、ハンガリー日本語教師会の協力の下、 ハンガリーにおける日本語学習者向けの日本語教材作成を行っている。教材作成にあたり ハンガリーにおいて①日本語教育が開発する能力は何か、②言語能力をどのように育成するの か、③言語能力以外の能力をどのように扱うのか、以上の三点を明らかにするため、 『Common European Framework of Reference for Languages(以後 CEFR)』と JF 日本語教育スタンダード(以 後 JFSTD)を利用した。本稿では、言語能力と同時に異文化コミュニケーション能力育成にも 重点をおいた教材の特徴とシラバス作成のプロセス、さらに CEFR と JFSTD 参照の利点と課題 について報告を行う。

【キーワード】教材作成、シラバス、社会文脈化、異文化コミュニケーション能力

1. はじめに 本稿の目的は、ハンガリーにおける日本語教材『できる』の特徴とシラバス作成の手順 を提示することである。教材開発にあたっては、Council of Europe(2001)の『Common European Framework of Reference for Languages(以後 CEFR) 』と JF 日本語教育スタンダー ド(以後 JFSTD)を利用した。したがって、教材作成に CEFR と JFSTD を参照した際の利 点と今後の課題についても報告を行う。

2.

背景

2.1 日本・ハンガリー協力フォーラム「教材作成」プロジェクトについて 2004 年 10 月、ハンガリーのジュルチャニー首相(当時)と日本の小泉首相(当時)の 会談にて、両国の関係を発展させるため日本・ハンガリー協力フォーラムが設置された。 国際交流基金ブダペスト日本文化センターは、ハンガリー日本語教師会(以後、教師会) の協力の下、2007 年度より日本・ハンガリー協力フォーラム日本語教育支援プロジェクト の実施を行っている。三本柱である「給与助成」 「教師研修」 「教材作成」プロジェクトの 内、 「教材作成」は 2007 年 9 月に教材作成編集委員会が発足し、本稿執筆時(2010 年 10 月)もプロジェクトは進行中である。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2.2 ハンガリーにおける言語教育 ハンガリーの言語教育政策は欧州評議会から強い影響を受けている。ハンガリー教育省 は 2002 年にCountry Reportを作成、2003 年にLanguage Education Policy Profileを欧州評議会 とともに発表した後、同年National Core Curriculumを改定し、公教育においてはCEFRに基 づき外国語教育を行うよう指導している。さらに、2005 年の大学入試制度の改革に伴い、 大学入学資格試験の外国語教科はすべて(日本語も含む)、CEFRを参照した試験へと変更 された。1

3. 問題の所在 多様化する海外の日本語教育では、日本ではなく現地での日本語教育の目的、関心、ニ ーズを踏まえた日本語教育の社会文脈化が必要となる。 (福島、イワノヴァ 2006)したが って、ハンガリーで教材を作成するにあたって、ハンガリーでの日本語教育の目的そのも のを明らかにする必要があった。そのため、まずはハンガリーにおいて「日本語教育が開 発する能力は何か」 、続いて「どのようにそれらの能力を育成するのか」を問うところから 始めた。 1. 日本語教育が開発する能力は何か 「日本語教育」が、世界中で社会活動を行うハンガリーの日本語学習者のどのよ うな能力を育成するのかを特定しなければならない。学習者の能力を包括的に知り、 そこから目標となる能力を選択する必要がある。 2. 言語能力をどのように育成するのか ここでの言語能力とは、言語知識だけではなく言語使用できる能力をさす。実際 に日本語を使って課題を遂行できるよう、現実的な場面を取り扱う必要がある。そ のためには、ハンガリーで日本語を使用する場面と言語活動についても明らかにし なければならない。 3. 言語能力以外の能力をどのように扱うのか ハンガリーにおいて日本語は非ヨーロッパ言語であり、ハンガリー社会において 言語共同体といえるほどの規模はない。しかしながら、ハンガリーでは日本語学習 者が年々増加しており 2、ハンガリーの日本語教育は言語の実利性を追及するニー ズによらないことがわかる。このような状況において、 「言語能力」の育成以外に、 日本語教育がどのような貢献ができるかを回答する必要がある。 以上、三点を明らかにするにあたり、本プロジェクトでは CEFR、JFSTD を活用した。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

4.

教科書の特徴

4.1 教科書で取り扱う能力 前章で述べたように、教材を作成するにあたり学習者の能力を包括的に知る必要があっ た。そのため、CEFR の第五章「言語使用者/学習者の能力」の項目を参照し、教科書で取 り扱う能力について編集委員会で検討を行った。 CEFR によると言語使用者の能力は、大きく「コミュニケーション言語能力」と「一般 的能力」の二つに分かれる。はじめに、 「コミュニケーション言語能力」においては、日本 語を使用して課題を遂行するために CEFR が提示するすべての能力「言語能力」 「社会言語 能力」 「言語運用能力」が不可欠であると確認された。次に「一般的能力」は、ハンガリー における日本語教育のように、実利性を中心としない言語教育の中では特に重要であると 判断し、本教材では「叙述的知識(社会文化的知識、異文化に対する知識) 」と「技能とノ ウハウ(異文化間技能とノウハウ) 」を中心に取り入れることにした。

4.2 教科書の理念 日本語教材『できる』 3 本教材は日本語教育の目的を、 「ことば」の能力に加え、日本語や日本文化の知識能力を 駆使し、異文化環境において異なる社会文化的背景を持つ人間が相互に対話を続けていく ために必要な意欲と寛容、知識と技能を育成することと考えている。すなわち日本語教育 が日本語日本文化を通しての異文化コミュニケーション能力と対話力を養成する人間教育 であるという理念に基づいている。

4.3 教科書の対象・レベル・構成 本教材は使用対象を中等教育以上の学習者とし、2 冊構成となっている。シラバスは CEFR の例示的能力記述文を参照しており、レベルは 1 冊目が A1~A2、2 冊目が B2 まで となっている。これは、ハンガリーの大学入学資格試験のレベル設定とも連動しており、 それぞれ中級試験、上級試験に対応する。そのため、文法と漢字は大学入学資格試験のシ ラバスを参照した。教科書には多くの写真とカラーイラストが採用されている。 この構成は Byram(1994:73)言語能力と異文化理解能力が複合的に作用し、獲得ができる 場所(「教室」 「フィールドワーク」 「自主学習」)にも対応している。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

表1 異文化クイズ 会話・テキスト

課の構成(1 冊目)

日本に関する叙述的知識、自他文化の相対化、批判的リテラシー育 成のためのクイズ(ウォーミングアップとして) 日本語による言語活動を通した社会活動のモデル ハンガリーと日本の両場面を扱う。 日本語の文法やことばを学ぶタスク

練習

ハンガリーに特有の語彙や場面も取り入れている。

Cando タスク お持ち帰りタスク コラム

学習目標が達成できたかを確認するタスク モデル会話・テキストをもとに、学習者が課題遂行に挑戦する。 教室外で行うタスク 図書館やインターネットでの調べ物など。 複数の人間(日本人、ハンガリー人)による体験談や意見 個人的な視点を取り込むことでステレオタイプ形成を防ぐ。

5. シラバス作成の手順 本章では、CEFR や JFSTD を参照しながら、どのようにシラバス作成(1 冊目)を行っ たのか、そのプロセスを示す。 5.1 「場面」と「言語活動」の洗い出し 図1

シラバス作成(ポストイット) 既存の教科書とハンガリーで日本語を学ん でいる学習者のアイデアを参考に、ポストイ ットに「アイデア」や「言語活動」を書き出 した。日本で出版されている『みんなの日本 語』や『げんき』には日本の場面しか登場し ないため、海外で出版された教科書『あきこ と友だち(タイ)』 『Mirai(オーストラリア)』 も参考にした。言語能力と一般的能力の教育 の統合を目指すには、学習者は異文化の中で

言語活動を通して社会参加をする活動が必要だと考え、言語活動はハンガリーの学習者が 日本語あるいは日本語話者と接触する場面を想定して選定された。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

5.2

「言語活動」を 14 の「場面」に分類

ハンガリーの大学入学資格試験は、外国語科目に共通して 9 つのテーマが設けられている。 表2

大学入学資格試験テーマ

1.個人的な事柄、家族

2.人間と社会

3.環境

4.学校

5.仕事の世界

6.生活様式

7.余暇、娯楽、文化

8.旅行、観光

9.科学技術

以上のテーマと既存の教科書、ポストイットのアイデアをもとに 14 の「場面」を設定し 「言語活動」を日本・ハンガリーの国別に整理を行った。 表3

シラバス作成(14 の場面)

郵便局・銀行

病院・薬局

デパート・店・市場

クラブ・文化施設

レストラン・カフェ

ホテル・空港

学校

公共交通機関

電話

会社

イベント・パーティ

観光地

5.3 「Cando リスト」作成 CEFR、JFSTD を参考にしながら、 「言語活動」を「領域」 「場面」 「相手」 「行動」 「Cando」 と細分類し、 「Cando(言語活動) 」の追加と整理を行った。 図2 領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域 私的領域

場面 イベント・パーティ イベント・パーティ イベント・パーティ イベント・パーティ イベント・パーティ 家・部屋 家・部屋 家・部屋 家・部屋 家・部屋 家・部屋 家・部屋

相手 友人 友人 友人 友人 友人 ホストファミリー、友人 ホストファミリー ホストファミリー ホストファミリー ホストファミリー ホストファミリー ホストファミリー

シラバス作成(Cando リスト)

行動 Cando 自己紹介する ハンガリー人と日本人の交流会に行って自分のことを話したり相手のことを聞いたりで 自己紹介する アニコンやJポップのライブに行って日本人に挨拶したり簡単なやりとりをしたりできる 情報の交換(会話) 日本に関する講演会やパーティの後、内容について質問できる 情報の交換(会話) 日本の祭りに行き、祭りについて簡単な説明がわかる 情報の交換(会話) 短い社交的なやりとりをすることができる(天気、家族の話など) 観光する 観光地の説明が理解できる 自己紹介する 自分の名前・所属・趣味などが言える 自己紹介する 相手の名前・所属・趣味などが聞いてわかる 自己紹介する 自分や相手に関して名前・所属・趣味などについて質問を受けたり、答えたりできる 自己紹介する(家族) 自分の家族について話せる 自己紹介する(家族) 自分や相手の家族について質問を受けたり、答えたりできる 場所・物について聞く(家・部屋)自分の家、部屋の説明ができる

<その他の参考資料> 日本語ポートフォリオ(大阪大学)/ 東京大学工学系研究科日本語教室 Can Do Statement 実 用 英 語 技 能 検 定 / ALTE(Association of Language Testers in Europe) DIALANG / ドイツ語プロファイル(“Profile Deutsch”) ケルン日本文化会館の日本語講座 Cando リスト

- 145 -

/


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

5.4 シラバス案作成 ハンガリーで 20 年以上の経験を持つベテラン教師が「場面」とストーリーを設定した後、 上記の Cando リストから「言語活動」を選択し、各課に当てはめる作業を行った。Cando 達成の際に必要となる文法項目も同時に組み合わせながらシラバス案を作成した。

5.5 シラバス改定 Cando項目を「領域別」 「技能別」「レベル別」に分類、データ分析し、シラバスのバラ ンス調整を行った。 4 図 3 シラバス作成(シラバス案) 1冊目 シラバス (2009年7月31日)

変更(赤)

語彙・表現(青)

ハンガリーの場面(緑色でマーク)

Cando

文法

場所

場面

第1課

1

日本 関西空港

アラピ・ゲルゲイが関西空港に到着。 ホストファミリー(母けいこと息子新一)に初めて会う

自己紹介

2

日本 関西空港

みやこ大学の職員や他の留学生に会って自己紹介をする

3

ハンガリー ドーラの高校

ゲルゲイの妹(ドーラ)の高校に転校してきた 田中れいかさん(しぶや高校2年)の自己紹介

趣味について聞いたり話したりできます +ひらがなが読めます、書けます

第2課

1

日本 木村家

木村さんの家に到着 玄関でホストファザーに挨拶 新一に家の中を案内してもらう。

家について説明ができます、わかります 場所について尋ねることができます

木村さんの家 訪問

2

日本 木村家

母に自分の部屋(2階、畳)を案内してもらう 台所で新一が飲んでいるものが何か尋ねる

3

ハンガリー アラピ家

アラピ家に日本人(父の仕事上の知り合い)が来る

1

日本 木村家の近所

新一とゲルゲイが家の近所を散歩する コンビニや銀行、すし屋などを見る

2

日本 家で

3

ハンガリー れいかの家

1

日本 文具屋

ゲルゲイが文房具屋で買い物をする

2

日本 ケーキ屋

ゲルゲイと新一がケーキ屋で買い物をする

3

ハンガリー スーパーの前

ドーラとれいかがお店に入ろうとするが 閉店してしまっていた

第5課

1

日本 大学に向かう 道

ゲルゲイがけんじと一緒に 大学へ向かう途中、先生に会って挨拶する

学校

2

日本 授業

日本語のクラスのオリエンテーションについて 説明をうける。わからないところを質問する

第3課 家の近所 家族の話

第4課 買い物

初めて会った人に自己紹介ができます 相手の自己紹介を聞くことができます

物について尋ねることができます 所有について尋ねることができます

ここ/そこ/あそこ/どこ、これ/それ/あれ/どれ、 この/その/あの/どの、だれの~ですか ~じゃありません [表現]いかがですか

家を訪問する(される)時のやりとりができます +カタカナが読めます、書けます

(物の位置や)場所について質問できます、 聞いてわかります / 日本での生活について簡単に 家の台所でゲルゲイと新一が母に食べ物がないか尋ねて 説明してもらったことを理解できます いる 家族の写真を見ながら、家族について話す。

~は~です。 ~の~ / ~も~ ~ですか/~ですね ~はなんですか

(場所)に~がある・いる /~は(場所)にある・いる 位置(上・下・右・左・横…)/~よ(終助詞) ありません(否定) 何か/何も、誰か/誰も、どこか/どこも [語彙]家族の名称

自分や自分の家族について話せます 買い物ができます 値段を聞いたり答えたりできます ※買い物ができます

数(~99999)、電話番号、値段、助数詞、時間 いくらですか、~をください、何時ですか、~から~まで

時間や期間(お店の営業時間など)を 聞いたり答えたりできます 他人の紹介ができます スケジュールについて理解できます

行く・来る・帰る<動詞四活用>、(場所)に/へ、 (乗り物)で、~といっしょに/ひとりで、 (期間)に(回数)、どこか/どこも [語彙]曜日、日付、期間

6. 利点と課題 6.1

CEFR、JFSTD を参照した利点

シラバスを作成する際に CEFR を参照した内容面での利点として、まず「理念を強く意 識できたこと」があげられる。言語能力と同時に異文化コミュニケーション能力を育成す

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

るという教材の理念・目標を掲げる際に、CEFR の理念は大変重要な役割を果たした。ま た、CEFR の行動中心主義の考え方では、学習者は言語能力を発達させる存在ではなく課 題を遂行する社会の成員とみなされている。本教材においても、学習者を社会の成員と定 め、言語能力が低くても社会参加が可能となるよう「方略」を扱ったり、日本語を使用し た社会参加の自然な場面として「仲介活動(通訳・翻訳) 」を積極的に取り入れたりしてい る。CEFR の能力や言語活動に関する多大な蓄積を参照することにより、教材で取り上げ る「能力や言語活動の幅が広げられた」ことも利点といえる。 作業面での利点としては、 「シラバス管理」と「シラバス共有」の2点があげられる。シ ラバス作成や編集の際に CEFR や JFSTD の枠組みを使用することで、場面と言語活動の分 類、技能とレベルの整理が容易になりシラバス管理がよりスムーズに行えた。また、教材 作成者の間でシラバス情報を共有する際にも、CEFR の Cando 記述が役立った。 本教材は 2007 年にシラバス作成を開始したため、JFSTD のみんなの「Can-do」サイト を使用することができなかった。これから教材作成、あるいはシラバス作成を行う場合に は、みんなの「Can-do」サイトにて、 「Can-do」データベースを利用した「Can-do」の取捨 選択や「MY Can-do」の作成が可能となる。

6.2 課題 内容面での課題として、教材の目標の一つである異文化の扱いがあげられる。CEFR、 JFSTD を参照し、異文化コミュニケーション能力という取り組むべき対象は明らかになっ たものの、どのように教材化すればいいのか具体的な形をつかむことができなかった。し たがって、異文化に関しては、Byram (1997)、Lazar(2007)などを参考に現在も模索を続 けている。 続いて、日本語の特殊性をどのように扱えばよいのかという課題が残った。特に、日本 語における「読み」 「書き」技能に関して、CEFR 参照レベルの解釈のままでレベル設定が 適切であるのか疑問が生じる。 (ハンガリーでは教育省のカリキュラムや大学入学資格試験 に、技能別のレベル設定は設けられていない。)真嶋(2006)は、このような文化による言 語や言語行動の違いについては CEFR にも述べられているように、その言語の専門家が取 り組み、議論していくことでしか、進展はありえないと述べている。 作業面においては、 「Cando 記述」に対する執筆者間のズレが課題となった。シラバスで 共有していた「Cando 記述」をもとに原稿を執筆する際、原稿の難易度や長さが執筆者に よって様々であった。しかし、執筆作業と編集作業を重ねる間に、この問題は解消されて いった。

7. おわりに 本稿では、ハンガリーで作成中の教科書『できる』の特徴とシラバス作成のプロセス、

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

そして、CEFR、JFSTD を参照した利点と課題について報告を行った。 CEFR 参照の教材を作成していると、言語使用の個別性を重視する「複言語主義の理念」 と固定したモデルを提示してしまいかねない「教材」との間にギャップを感じることがあ る。しかし、本教材では課題遂行の個別性を尊重するために Cando タスクを設けたり、異 文化のステレオタイプ化を防ぐために複数の視点や教室外活動(自律学習)を取り入れた りすることで、 「複言語主義」を志向する教材となるよう努力を行っている。こうした教材 の特性をどのように活かすのかについては教室内での実践が重要となるが、教材の活用法 については今後の課題としたい。

<注> 1 大学入学資格試験の試験基準は教師会が作成を行っている。 試験内容:「筆記試験」…読解、文法、聴解、書く

/ 「口頭試験」…話す

口答試験では、質疑応答の他に、ロールプレイ、主張(自分の意見を述べる)、議論(上級試験のみ) を扱っている。 2 国際交流基金が三年ごとに行う「海外日本語教育調査」では、ハンガリーにおける日本語学習者は 2003 年 1004 名、2006 年 1411 名、2009 年 1837 名と増加している。 3 日本語教材『できる』は、本稿執筆時(2010 年 10 月)も継続中のプロジェクトであり、今後変更され る可能性もある。 4 参考資料「ハンガリー教材『できる』一冊目シラバス」参照

<参考文献> 角田依子 (2009)「ハンガリーにおける日本語教材作成」『ハンガリー日本語教育シンポジウム 2008 論集』 、pp.32-36、ハンガリー日本語教師会・国際交流基金 佐藤紀子 (2005)「ハンガリー」 『ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of

Reference for Languages』、pp.131-148、ヨーロッパ日本語教師会・国際交流基金,

佐藤紀子・セーカーチアンナ (2009)「CEFR に基づく日本語教科書とは?-対話に基づく異文化 間コミュニケーション能力を養う日本語教育を目指して-」『第 13 回ヨーロッパ日本語教育 シンポジウム報告・発表論文集』、pp.211-218、ヨーロッパ日本語教師会 ハンガリー日本語教師会(2009)『日本語初級問題集』 、ハンガリー日本語教師会 ハンガリー日本語教師会(2009)『日本語中級問題集』 、ハンガリー日本語教師会 福島青史 (2009)「Language Education Policy Profile, Hungary 拡大言語政策論からの考察」 『ハン ガリー日本語教育シンポジウム 2008 論集』、pp.55-63、ハンガリー日本語教師会・国際交流基 金 福島青史・イワノヴァマリーナ (2006)「孤立環境における日本語教育の社会文脈化の試み-ウズ ベキタン・日本人材開発センターを例として-」 『国際交流基金日本語教育紀要第 2 号』、pp.49-64、 国際交流基金

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

真嶋潤子(2006) 「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEF)と言語教育現場の関連づけの一研究 -ある日本語コースの質的研究-」 『第 10 回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム報告・発表 論文集』 、pp.177-182、ヨーロッパ日本語教師会 Council of Europe (2001) Common European Framework of Reference for Languages:Learning, Teaching,Assessment,

Cambridge

Lazar, I., Huber-Kriegler, M., Lussier, D., Matei, G.S., and Peck, Ch.(2007)

Developing and assessing

intercultural communicative competence, A Guide for Language Teachers and Teacher Educators, European Centre for Modern Language Byram, M.(1997) Teaching and Assessing Intercultural Communicative Competence , Multilingual Matters LTD

<参考ホームページ> 英検 Can-do リスト http://www.eiken.or.jp/about/cando/cando.html(2010 年 10 月 29 日) 日本語ポートフォリオ http://www.let.osaka-u.ac.jp/~naoko/jlp/(2010 年 10 月 29 日) ALTE

http://www.alte.org/(2010 年 10 月 29 日)

DIALANG(Lancaster University) http://www.lancs.ac.uk/researchenterprise/dialang/about(2010 年 10 月 29 日) JF 日本語教育スタンダード http://jfstandard.jp(2010 年 10 月 29 日)

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

<稿末資料>

ハンガリー教材シラバス(1冊目)一部

話題

機能

国・場所

場面

CanDoStatement

文型

表現・語彙

ストラ

文法

テジー

語彙

Code

CEFR 記述

簡単な質問を聞いたり、答え 位置(上・

ら、町の様子

下・前・後 町

1

散歩しなが

情報交換

(日)

(場所)に~があります/ 家の近所を

3

います 住んでいる町に

ろ・右・左・ ~は(場所)にあります/

ついて話せます

中・外・そ います

を話す

ば・横・隣・ ~はどこにありますか 間)

たりすることができる。直接

・(場所)に ~が

必要なこと、もしくはごく身

あります/います

IS8近な話題についての簡単な

~は(場所)に

A1-2 ことを、自分から言ったり、

あります/います

相手の言ったことに反応で

・ありません/いま

きる。[吉島・大橋 2004]

せん(否定) ・どこか/どこも、

食べ物を探

もの もの、所在

2

台所で何か

情報交換

(日)

3

簡単な質問を聞いたり、答え

何か/何も、 どこか/

たりすることができる。直接 位置、

誰か/誰も

物の位置について

ありません/いません

どこも、

話せます

(否定)

何か/何も、

必要なこと、もしくはごく身 家族、

IS8-

場所

A1-2

・位置(上・下・前・

近な話題についての簡単な

後ろ・右・左・中・

ことを、自分から言ったり、

外・そば・横・隣・

相手の言ったことに反応で

間)

きる。[吉島・大橋 2004]

誰か/誰も

・家族名称

家族につい

家族

を見ながら、

情報交換

3

(ハ)

家族の写真

・~人

~人

・Xと/やY

IS8-

終助詞

・形容詞

A1-3

(か/ね/よ)

・終助詞(か/ね/よ)

~は(家族)がいます 自分や自分の家族 Xと/やY について話せます ~は(形容詞)ですね

3

て話す

自分自身や他人に関して、住

家族名称

まい、知人、所有物などにつ いて質問を受けたり、答えた りすることができる。[吉 島・大橋 2004]

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

値段、商品

話題

買い物をす

サービスを得る

文房具屋で

機能

1

(日)

国・場所

課 4

場面

CanDoStatement

文型

表現・語彙

ストラ

文法

テジー

語彙

Code

CEFR 記述

数字 聞返し 値段について話せ

欲しいものを言い、値段を聞

(~99999) ~はいくらですか。

ます

IS7え、すみ

いて簡単な買い物ができる。

助数詞(本、

A2.1-5 ません

枚、つ、冊)

[吉島・大橋 2004]

・助数詞 (本、枚、つ、冊)

ケーキ屋で 買い物をす る

サービスを得る

2

飲食店

(日)

4

・Nをください

~はありませんか 食

~をください。 いらっしゃ

べ 買い物ができます

~を(助数詞)ください。 いませ

それは

なんの~/どこ

間を聞く

サービスを得る

3

(ハ)

店の開店時

・~から~まで ・

曜日

数字 ~99999 曜日

量や数、値段などの情報を与 IS7えたり、取得することができ A2.1-4 る。[吉島・大橋 2004]

・否定疑問文

の~ですか。

4

時間

・なんの~/ どこの~

今、何時ですか? 時 時間について話せ

数や量、費用、時間を扱うこ IS7-

~は何時から/までです。 時間、曜日 間 ます

とができる。[吉島・大橋 A1-2

~から~まで

2004]

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

話題

機能

国・場所

場面

CanDoStatement

文型

表現・語彙

ストラ

文法

テジー

語彙

Code

CEFR 記述

簡単な質問を聞いたり、答え

に紹介する

人を紹介する

学校

1

友人を友人

情報交換

(日)

5

たりすることができる。直接 いいよ 必要なこと、もしくはごく身 友達の紹介ができ

こちらは~です。

どみ

ます

~からきました。

繰り返

IS8・

近な話題についての簡単な

行きます/来ま

A1-2 ことを、自分から言ったり、

す/帰ります

相手の言ったことに反応で

(動詞四活用)

きる。[吉島・大橋 2004]

・(場所)に/へ

エンテーシ ョン受け、質

内容、時間、場所

2

ラスのオリ

情報受容

(日) 学校

5

日本語のク

(時間・曜日・日付)に

(乗り物)で

~があります/~は(期

・(人)と/(人)と

当人に向かって、丁寧にゆっ 日付、 スケジュールにつ

間)に(回数)あります

いて理解できます

~は(曜日など)の~か

いっしょに、 日付、期間、

くりと話された指示なら理 RS4-

乗り物 ひとりで

解できる。短い簡単な説明な A1-1 ら理解できる。[吉島・大橋

らです/(場所)は~です

・日付

(時間・曜日・日付)に

・期間

~は~に行きます/来ま

・(時間・曜日・

問する

方法につい

交通手段

3

学校へ行く

情報交換

(ハ)

5

2004]

住まいや通学手段

(交通手段)で行きます/

について話せます

来ます/帰ります

自分自身や他人に関して、住

日付)に

す/帰ります

・(期間)に(回数)

まい、知人、所有物などにつ IS8いて質問を受けたり、答えた A1-3

て話す

りすることができる。[吉 (人)と/(人)といっし 島・大橋 2004] ょに、ひとりで

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

2-12

CEFR B1 言語活動・能力を考えるプロジェクト 櫻井 直子・東 伴子 要旨 本稿で紹介する「CEFR B1 言語活動・能力を考えるプロジェクト」(2010 年 3 月~進行中) は、独 自のアプローチで様々な観点から B1 レベルというものを捉えなおし、明確な共通理解を目指す、 ベルギーとフランスの教育機関の共同研究である。複数の国、機関が参加することにより、機関単 位の CEFR 文脈化にありがちなレベル設定に関する不確実さを解消する。CEFR を原典として常に 参照しつつ、B1 の学習者はどのように言語活動を行っているか (ビデオ観察と考察)、どのような 言語構造知識を学ぶのか (文法の機能的項目表作成)、どのような場で日本語を使用するのか (言語 活動アンケート) など、実際の言語使用・言語学習に基づいた活動を共同で進めている。このよう な多元的な方法によって B1 レベルの能力・言語活動を具体的に記述し、日本語教育のカリキュラ ム・教材作成に参照できる資料の構築を目指す。本稿は、このプロジェクトの経過報告と今後の活 動予定報告を通して、そこから出てきた様々なレベルでの考察を述べる。

【キーワード】CEFR B1 レベル、共同プロジェクト、言語活動、言語能力、カリキュラム

1. はじめに :プロジェクトのきっかけ 2001 年に欧州評議会から Common European Framework of reference for Languages : learning, teaching and assessment が出版されると、その理念である複言語主義・複文化主義に基づく言語 教育構築に向け、各言語圏の行政・教育機関で文脈化が始まった。教育の現場でも CEFR に基 づいたコース編成、カリキュラム、評価などを目指し、文脈化が進められた。ヨーロッパに おける日本語教育に関しては、日本語の「非欧州性」のため CEFR の文脈化は他のヨーロッパ 言語に比べ遅れ気味であるというのは事実だが、複数の言語教育を行っている機関では日本 語もその一環として CEFR 文脈化に取り組んでいるところが多い。 しかし CEFR 取り入れの実践において、B レベルを明確に把握することの難しさを感じる教 師は多いだろう。確かに A レベルは能力記述・判定が比較的的確に行えるのに対し、B レベ ルに入ると「できる・できない」の問題だけでなく、ストラテジーや各自の言語経験などさ まざまな要素が能力に関わってくるため、能力記述・判定共に複雑になる。また学習者のス キル別の能力(主に口頭と筆記)の差も全体の評価をより難しくさせているといえよう。学 習内容に関しても、ゼロ初級から出発する A レベルは、初級文法や基本的な言語活動を目安 として設定しやすいが、B に入ると、社会的言語活動の場も拡大し、カリキュラム設定が難し くなる。

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さらに、B レベルが明確に把握しにくいということから、各機関で B レベルと設定されてい るコースも、実際は同等レベルではないかもしれないという疑問がある。そのため共通点・ 相違点を持つ複数の機関が協働で CEFR の B レベル解明のために活動を行うことの意義は明 らかである。このような背景から、今回 B レベルを解明するためのベルギー・フランス共同 プロジェクトが立ち上がった。

2. プロジェクトの概要 2.1 参加機関 本プロジェクトは、ルーヴァン・カトリック大学 (ベルギー) とグルノーブル・スタンダー ル大学 (フランス) の共同プロジェクトである。それ以外に参加機関としてベルギーのブリュ ッセル商科大学、及び、成人教育機関 GLTT、CLT の三校がある。参加人数は 1 8 名 ( ベルギ ー9 名、フランス7名) である。参加機関を分類すると各国に同様の 2 つのグループがある。 一つは、高等教育機関における専攻科目としての日本語教育であり、ルーヴァン・カトリ ック大学文学部日本学科とグルノーブル・スタンダール大学外国語学部の日本語教育がそれ にあたる。しかし、コース内容は学生が日本語を専攻しているという共通点があるが、日本 語を専攻科目とするルーヴァン・カトリック大学と日本語は3つの専攻科目のひとつに位置 づけられるグルノーブル・スタンダール大学とでは、日本語の授業時間数にかなりの相違点 が見られる。 もう一つのグループは、専攻以外の日本語教育・複数の外国語教育の一環という位置づけ の機関である。フランス側は、グルノーブル・スタンダール大学の他の科目を専攻する学生 たちのための語学選択科目としての日本語コースがそれにあたり、現在 20 の外国語のひとつ として位置づけられ、他の言語と同様 CEFR 準拠のコースデザインが要請されている。一方、 ベルギー側では次のコースがその位置づけとなる。ブリュッセル商科大学バチュラーで第三 外国語の 1 つの選択科目として日本語が教えられているコース、および、成人教育機関 GLTT・CLT での 15 の外国語教育の一環として日本語が教えられているコースである。ブリ ュッセル商科大学では CEFR に基づいてレベル記述がなされ、GLTT・CLT では、CEFR 準拠 のカリキュラム設定が政令で決められており、さらに本格的な CEFR 準拠となっている。 しかし、言語使用に目を向ければ、両国の事情は異なる。多言語社会であるベルギーでは 日常生活において複数言語を使用する場面が多く、学習者にも複言語能力が求められるが、 フランスでは一般的にフランス語が中心となる単言語社会である。

2.2 目標 このように国境を越えた教育機関が共同で CEFR の B レベルとは何か‐ 学習者の言語行動、 言語能力、運用能力などを様々な角度から考察し、そのカリキュラムを構築するというのが

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

当プロジェクトの目的である。B レベルを明確に把握することにより、その前後の A レベル、 C レベルの設定にも確信を持つことができる。また、B の中では、B1 と B2 があるが、B1 は、 初級レベル(A)が終了したレベルであること、また、B1 と B1+に分けられることも多く、到達 に時間のかかる過程であることから考えて、B1 の解明が非常に重要であると思われた、そこ で、初年度である今年度は B1 レベルに着目し、特に口頭能力に関して考察を進めることとし た。さらに、この過程の学習者の言語行動、指導項目の特徴を把握することにより指導法の 提唱への可能性も考えている。

2.3 アプローチ 本プロジェクトは下記の 2 方向からのアプローチに基づいている。 ① ビデオ観察と原典読みあわせ、学習者の言語活動調査、日本語文法の機能的観点から の捉えなおしによる「B1 レベルとは何か」を考える基礎研究的活動 ② ①の活動から得た考察および教師の知見を基にしたカリキュラム作成 最初は、①の作業のビデオ観察・原典読み合わせを行い、B1 のレベルをある程度解明した 後にカリキュラムを作成しようと、両大学に分かれて活動を行った。しかしながら、その過 程で下記の点を認識した。 -ビデオに収録した学生が B1 と判定できる確信がない。 -ビデオに収録した言語活動は、非常に限られた言語場面、言語活動であるため、カリ キュラムの参考になる部分は少ない。 -B1 のカリキュラム作成はまったくのゼロからの出発ではなく、教師としての経験知も 寄与している。そのためビデオ分析の結果からのみカリキュラム作成を行うわけで はない。 -ビデオ観察は口頭能力に焦点を置いた作業だが、カリキュラム作成には総合的な能力 を同時に考察する必要が出てくる。 上述の点を踏まえ、①と平行して最終結果となるカリキュラムのイメージを持つ必要があ ること、カリキュラム作成のためには、ビデオ観察も CEFR を原典とした明確な観点からの観 察が必要であること、基礎研究として更に、言語活動調査、日本語文法の機能的観点が必要 であることを認識した。 以下、3 で①の「B1 レベルとは何か」の活動における読み合わせ・ビデオ観察について、 4 で②のカリキュラム作成活動、及び、言語行動調査・日本語文法研究の現状を報告する。

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

3.

B1 レベルとは何かを考える

3.1 CEFR の記述文の読み合わせ活動 3.1.1 CEFR 原典を読む この活動は、グループで原典の記述文読み合わせを行い、解釈に曖昧さが生じる点、疑問 に思う点などを話し合い、その作業を通して、記述文の理解を深めるのが目的である。共通 の原典として日本語版「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枞」(吉島・ 大橋訳)を使用することにしたが、フランス語版 (Division des Politiques linguistiques, Conseil de l’Europe, 2000)、英語版((Modern Language Division, Council of Europe, 2001)も頻繁に参照した。 訳語から来るニュアンスの違いも考慮に入れなければならないことが多いからである。例え ば日本語で「流暢に」と訳されていてもフランス語では avec aisance (余裕を持って)、 couramment (流暢に)と 2 つの言葉が使われていることがあり、そこから受けるイメージは同じ ではない。 能力記述文を具体的に解釈しなおす作業は三つの分野に分けられると言える。 ① 話の内容(「自分に近いこと」「社会的な話題」など) ② 表現の仕方(「的確に」「柔軟に」など) ③ 話し方やターンの取り方 (「滑らかに」「ときどきつっかえる」など) 能力記述文を何度も読み直したあとグループで話し合うことにより全体的に理解が深まっ た。ビデオ観察の作業と CEFR 記述再読の作業は常に両方向で行うことが大切である。

3.1.2 CEFR Can-do と JF Standard Can-do を読み合わせる CEFR 記述文を具体的に記述しなおし、カリキュラムに結び付ける作業上で参考になると思 われるのは 2010 年に公開された JF Standard である。そこで CEFR Can-do がどのような形で JF Can-do になっているのかその橋渡しの部分を調べ理解しておく必要があるのではないかと考 え、分科会で次の手順でグループワークを行った 1。各チームで CEFR の言語活動をひとつ選 びそれが JF Can-do でどのように記述されているかを綿密に調べた。その言語活動を教材化す るときの教室活動、指導項目も実験的に考えた。言語活動「経験や物語を語る」(産出)を例に 挙げ、その考察の一部を紹介しよう。CEFR Can-do (93-100) を JF Standard Can-do (53-60)と照ら し合わせると、そのうちの少なくとも次の 3 点、「事故など予測不能のできごと(96)」、「自 分が見た映画や本について語る(98)」、「夢や希望を語る(98)」は JF Standard に対応するもの がなかった。これらは通常クラスでよく行われている活動であるため JF Standard Can-do にな いのが意外であった。また JF Standard Can-do は具体的な記述が特徴的であるが、中には解釈 が難しい記述文もある。「現実や想像上の出来事を語る」(JF Standard Can-do 99 ) の「想像上」 がその一例である。また、時にはその具体性が日本の社会文化環境に大きく依存したものも 見られた。「お土産を渡しながら、休み中に行った場所や出来事などについて、まとまりの

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ある話を友人に語ることができる」の「お土産を渡しながら」の記述は、潜在的に異文化能 力に結び付いていると思われる。また JF Standard Can-do のほうが CEFR Can-do より質的に高い ものを要求していると考えられる記述もあった。「順序だてて」という直線的な語りだけで なく、JF Standard Can-do では「~と比べながら」、「理由などを簡単にあげながら」「~と関 連付けながら」などの記述が目立つからである。このように実際の教室活動を念頭において CEFR Can-do と JF Standard Can-do を読み合わせる作業を通して、カリキュラム構築へ向けて考 えなければならない点が明らかになった (infra. 4.)。

3.2 学生のビデオ観察と分析 このアプローチは当プロジェクトの特徴のひとつである。能力記述文から入るのではなく、 学習者の言語活動のデータ(ビデオ収録、産出資料)の綿密な観察、分析から入る。そこで 出てきた個別能力記述を CEFR のそれと照らし合わせ、「できる」ということはどういうこと なのかを再考し、CEFR 基準の理解を深めるというのが目的である. 作業は次の過程を踏んで行われた。 ① ビデオデータ、スクリプトを談話分析の手法に則って観察するという方法論につい て簡単に全員で共通の認識を持った。この手法は学習者の言語運用能力やストラテ ジーの研究によく利用されている(東・竹内 2008 ) 。 ② 各機関の学生の言語活動をビデオに収録したものを用意した。ルーヴァン大学では、 日本人ネイティブと B1 と判定できる学生の一対一 (うち 1 本は一対二)のインタビュ ーを 6 本録画収録し、グルノーブル大学では他のプロジェクトや授業中に録画したビ デオ 6 本 内容は、インタビュー、発表と質疑応答、模擬就職面接)を提供した。 ③ そのビデオを両機関で共有し、各機関で勉強会を開き、「学習者の目立つ点」をコ メント、意見交換しあった。最初は各機関の学生のレベル判定 (A2 か B1 かなど) に 注意が行ったが、その後、学習者の行動に焦点をあてた分析に移った。 ④ ビデオ観察の活動をどのように CEFR 記述と結び付けたらよいのか、その方向性がな かなか決まらなかったが、ビデオ観察からの B1 考察はやはり不可欠であるという結 論に行きつき、ビデオ観察と CEFR 記述再読の作業を両方向から何度も行った。その 結果、次のような考察、提案が出された。 -各学習者のレベルを判定するのが目的ではない。実際同一学習者でも場合によっ ては、産出は B1 だがやり取りは B2 ではないかと思われる人もいる。福島 (2009) が提案するように B1 の特徴的な言語行動を抽出する方法も有効であろう。 -B1 と判定される言語行動の代表的なものを一部ビデオから抜粋してそこで使われ たストラテジー、コミュニケーション上の問題を具体的に記述する。 -A2 と B1、B1 と B2 の境界線の部分に注目し、その特徴的な言語行動をビデオから の抜粋に基づき記述する。

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-以上の作業によって B1 の学生の指導内容、上達のための指導ポイント、重要と思 われる文法項目、語彙(接続語など)を浮き上がらせ、B2 レベルまで到達するため の学習事項なども明らかになるかもしれない。 - (作成中の)文法シラバス、言語活動表にその結果を反映できないだろうか。合同 研究会で、各分野の作業の成果を すり合わせてみる。 -抽象的な CEFR の記述に膨らみを持たせることができるであろう。また、CEFR 記 述の「不都合な点、不足面」が明らかにされるかもしれない。

4. カリキュラム作成に向けて 4.1 カリキュラムの作成:何から始めるか 上述のように、CEFR の読みあわせ、ビデオ観察での様々な意見交換を通して B1 レベルと は何かがイメージとして捉えられるようになった。当初は、ビデオ分析によるB1 レベルの解 明を行ってから、カリキュラム作成作業への取り組みに入ることを考えていたが、本稿 2.3 で 述べたように、実際に始めてみると、ビデオ分析とカリキュラム作成との結びつきが見えに くく、また、ビデオ分析のポイントが絞りにくかった。そのため、メンバーが出来上がり図 となるカリキュラムへの共通認識を持つ必要があるのではないかと考え、カリキュラムの試 作を行った。その際に、最も議論となったのは何から作り始めるのかという点であった。 まず、分科会では言語課題遂行の場面を基盤に考えることとして、CEFR 表 5「言語使用の 外的コンテクスト:能力記述文のカテゴリー(吉島・大橋訳、p48)」を参照して領域から試 みた。しかし、領域から作成すると、概念が広すぎ具体的な場面を絞り込むには、教師の個 人的経験・考え方から作り上げていくことになり、客観的に網羅できなかった。その次に、 折りしも新しく開設された JF みんなの Can‐ do サイトを活用することにした。 サイトから JF Can-do をダウンロードしそれを出発点として MY Can-do を作成する形で進めたが、JF Can-do の言語活動は場面設定が非常に具体的で、また、日本への異文化理解への依存性が高いもの が多く (supra. 3.1.2)、JF Can -do を参考にして欧州版を作成することは、結局ゼロから作成しな おすことと同じことになってしまい、振り出しに戻ってしまった。その次に、CEFR 4 章言語 活動別の CEFR Can-do に戻り作成を再度試みた。しかし、例示的な測定尺度の点(例:製品や サービスを得るための取引・情報の交換 p84-85)を言語活動目的と考えると内容がかなり限 定されているのに対して、言語活動内容(CEFR Can-do)が漠然としすぎているという状態か らの作成を強いられ、領域から作成したのと同じように言語活動をうまく設定できなかった。 このように紆余曲折を経た活動を通して、場面がある程度ゆるく、レベルに直接関係する 言語活動がある程度限定されているものからの作成が適切なのではないかと考えた。そこで、 CEFR に準じること、ある程度言語活動、指導項目を絞り込めるということから、14 のコミュ ニケーションのテーマから作成を試みることにした。これは、Threshold 1990 にあるもので、

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CEFR ではそれをコミュニケーションのテーマとしてそのまま引用している(吉島・大橋訳、 p53)。

4.2 作成の手順 コミュニケーションのテーマを出発点とした手順は次のように考えた。そしてこの手順に 沿って 2010 年 6 月 25-26 日に行ったグルノーブル・ベルギー合同会議で実際に作成を試みた。 活動報告を下記に簡単に挙げる。 1)コミュニケーションのテーマを 1 グループに 1 つ割り振る。 2)そのテーマに関するミッション 2(課題)を決める。 3)ミッション(課題)遂行に必要な活動を CEFR のグリッドに沿ってあげていく。その 際に、社会文化的能力・言語構造的能力にも留意する。 言語活動は、「日本で」バージョン「欧州で」バージョンの 2 つを考える。 4)カリキュラムのフレームを構築する。 5)グループワークの成果をこのフレームに記入する。 活動結果を 1)から 5)に沿って、一部、例示する。 1) 2) 各テーマに出てきたミッション(課題)は下記の通りだった。 Threshold テーマ グループ 1 健康 グループ 2 旅行 グループ 3 食べ物・飲み物 グループ 4 住居

日本でバージョン 最近落ち込んでいるので元気づけ る 日本人の友人と旅行をする ホームステー先での持ち寄りパー ティー 日本で新しいアパートを探す

欧州でバージョン 落ち込んでいる日本人の友人をな ぐさめる 日本から来たばかりの留学生と旅 行をする

日本人の駐在員、留学生の部屋探 しを手伝う

3) 言語活動リスト例の一部 グループ 3 テーマ:10.「食べ物と飲み物」 10.1 「内食」 ミッション:ホームステイ先で持ち寄りパーティーをする 場面・言語活動:「日本人宅(島根県)で」バージョン 言語活動 日にち・誰を呼ぶかを決めることができる 出会いの挨拶ができる 初対面・友人 「この間はどうも」 上下の話し方がある程度できる ホストファミリーのお母さんの友達 と話す 分からない言葉があれば聞くことができる例 方言 アゴ⇒トビウオ

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CEFR 対応ペー ジ p81 B1 p135 A2 p135 B1 p91 A2


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4) 5)

カリキュラムのフレームと上記 3)を当てはめたもの

フレーム作成に当たっては、CEFR の能力を網羅できることを目指し、特に仲介活動を含め ている。 テーマ:10.「食べ物・飲み物」 サブテーマ:10.1「内食 」 ミッション:ホームステイ先で持ち寄りパーティーをする 言語活動 CEFR4 章

日 can do 欧

産 受 出 産出 容 話 書く 聞 す く

指導項目 CEFR5 章 社会言 言語運 言語能力 語能力 用能力 や り 受容 と 読む り 口 頭

日にち・誰を 呼ぶかを決め 日 ることができ る

CEF RP8 1

出会いの挨拶 ができる

CEF Rp 135

や り と り 筆 記

仲 介 口 頭

仲 介 文法 筆 記

方 文化ノ 略 語彙 表現 ート 豆情報 漢字 p.135

~なら ~なく てはい けない この 間は どう も

前回の 会合を 最初に 参照

4.3 カリキュラム作成後の内省 カリキュラムを作成してみてどのような印象を持ったか話し合った結果、次のような意見 が出た。 ・教師の経験に基づくため、取り上げた言語活動が一般的かどうかわからなかった。 ・各テーマをグループに割り振って今後カリキュラムを作成した場合、結果として言語活 動が網羅的になるかどうかわからない。 ・指導項目を入れる際に、B1 の文法・語彙とは何か 定義する必要があったのではないか。 ・それぞれのグループが作ったカリキュラムが本当に同じレベルなのかどうかわからない。

5. 今後の活動計画-まとめに代えて 5.1 今までの活動の流れと反省 当初の目的であった B1 レベルを明確化する目的で、ビデオ観察からはじめたが、その考察 のポイントを絞るためにはメンバー全員が出来上がり図となるカリキュラムの共通認識を持

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つ必要があることを実感し、カリキュラム作成を平行して行った。しかし B1 レベルの言語活 動・文法の全体像はまだ解明できていないため、教師の経験的知見に頼らざるをえず、経験 の長い教師と浅い教師の間でそのようなアプローチ許容度のずれがみられた。やはり、複数 グループで作成し、できるだけ標準的なものを目指すのであれば B1 レベルをできるだけ客観 的に明確化し、B1 レベルであるという確証を目指す必要があり、基礎研究の必要性を再確認 した。基礎研究は短期で結果を出すことは難しいが、このようなプロジェクトでは考察ポイ ントを絞り、カリキュラム作成、指導項目に焦点をあてたアプローチの必要性を実感した。

5.2 この活動から確認したこと しかしながら、今回の一連の活動で次のことが確認でき、当初ビデオ観察を行った時より 具体的に必要な活動が見えてきた。 ・CEFR を原典として常に参照し、その考えに忠実であることの重要性 ・基礎研究・基礎調査と、教師の経験から来る知見が補完関係にある こと ・カリキュラムの青写真を作ることで、基礎研究・基礎調査の項目、カリキュラムと の関係が見えるようになった こと 様々な角度からの複数の作業を多面的に行う必要性が明らかになり、個人ではできないレ ベルの活動であるということから、共同プロジェクトとしての意義を再確認できた。

5.3 今後の活動 : 2011 年 3 月 第 1 回報告書までの活動予定 このプロジェクトは、最初の成果発表として 2011 年 3 月の報告書編纂を考えており、まず そこまでのアクションプランを立てている。CEFR は社会的存在である学習者の能力を「一般 的能力」と「コミュニケーション言語能力」の 2 つに分けているが、後者の B1 の能力とは何 かを明らかにしながらカリキュラム作成に臨むことにした。以下の作業はグループに分けて 行っているが、メーリングリストやTV会議を利用し、全員で意見交換をする機会を設け、 二カ国共同プロジェクトとしてのメリットを生かすように意識している。

5.3.1 言語構造的能力 カリキュラムに含めるべき指導項目を設定するために、B1 が学習すべき文法的項目が何か を考察した。その結果「自立的な言語使用者」を目指すこのレベルでは、新出項目が多く含 まれるのではなく、むしろ A レベルでの学習項目を「知っている」から「使うことができる」 に移行させるレベルではないかと考えた。つまり、A レベルでは、単文として 1 つ 1 つばらば らに学習したことを場面・文脈に応じて使い分けることができる。また、複文の中に複数の 文法項目を組み合わせ、より豊かな表現力の習得を目指す。さらに、まとまりのあるテキス トを産出するために文のつながりに必要な接続詞や表現も使用することができる。そこで、 B1 レベルだけを取り出して考えるよりほかのレベルも含め、総括的に考えたほうが有効なの

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ではないかと考え、現在、A1/A2・B1・B2・C1/C2 の4つの段階の文法マップを作成している。 分類の仕方は、Threshold 1990 の Language functions を参照しながら、機能別で分類している (JA van Ek &JLM Trim 1990)。第 1 項が 12 月中旬に完成する予定であり、その後、検証を重ね て最終版を作成していく。

5.3.2 言語運用能力 特にディスコース能力に焦点をあて、その部分の記述をビデオを見て具体的に記述、分析 し、B1 のレベルの能力に関するエッセンスを解明する。具体的には ①場面に応じた柔軟性 ②発話の順番 ③話題の展開 ④一貫性と結束性の、4 つの側面 (p.138~) に加え、2 つの質 的側面「話し言葉の流暢さ」、「变述の正確さ」(p.143)を取り上げる。ビデオから適切な 場面を抜粋し、同じ形に書きおこしを行い、それぞれがどのように展開しているかを考察す る。分析結果は、1 月中旬までにまとめる予定である。

5.3.3 言語行動調査 CEFR は、複言語主義を基盤に「言語学習と教育に従事する全てものに、その仕事を始める 前に、学習者側の必要性、動機、特徴、また学習教材について反省をめぐらすことを強く勧 める(吉島・大橋訳、pxiii)」「成人(学生や社会人)向けのコースでは、具体的な言語活動 や生活領域で機能することを目標としている(吉島・大橋訳、p.182)」としている。そこで、 カリキュラム作成時にも教師の経験的な知見だけでなく、学習者の実際の言語行動から場面 を考えることを目標にし、言語活動調査を行うことにした。 アンケートは、Threshold1990 3.The objective: extended characterisation (p12-19)の言語使用場面を 用い、縦軸を Threshold 1990 の場面、横軸を「この場面で使用した経験があるか・その頻度」 「この場面で日本語を使用したい」「この場面で日本語を使用する必要があるか」「この場 面で日本人を日本語で手伝ったことがあるか(仲介活動)」として行う。すでにオンライン のアンケートの試作版が完成しているので 11 月中にプロジェクトメンバーで確認し、12 月か らベルギー・グルノーブルで試験的に調査を行い、アンケートの内容を確認した上で、大規 模調査は 2011 年度に行う予定である。 その後はその結果を踏まえて、Threshold 1990 を参考に言語活動を考えていく。 最終的には上記の基礎研究を参考にして B1 レベルの教科書・コースシラバスを作成する際 に参考になるカリキュラムの形にまとめることを考えている。

<注> 1 この作業には JF みんなの「Can-do」サイトを利用した。 http://www.jfstandard.jp/cando/ 2

ここでいうミッションとは CEFR の挙げている課題である。授業中に教師が学生に課すタスクとの混同を

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避けるため、ミッションという用語をこの勉強会では用いた。

<参考文献> 東伴子・竹内泰子(2008)「学習者は留学を経てどう変わるか‐ フランス語母語話者学習者を対象と した留学前・留学後の中間言語の比較研究」、『ヨーロッパ日本語教育 12』、pp.112-118、ヨー ロッパ日本語教師会 福島青史 (2010)「CEFR 能力記述文のレベル別特徴とキーワード」『ヨーロッパ日本語教育 14』、 pp.132-139、ヨーロッパ日本語教師会 吉島茂・大橋理枝他 訳編 (2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ参照枞』、 朝日出版 Division des Politiques Linguistiques, Conseil de l’Europe (2000 Cadre européen commun de référence pour les langues, Didier Counsil of Europe (2001)Common Europen Framework of Reference for Languages:, Cambricge University press J.A. van EK & J.L.M. Trim (1990)Threshold 1990, Cambridge University

<謝辞> 本プロジェクトは、国際交流基金 平成 22(2010)年度さくらネットワークチーム日本語普及活動 助成を受けている。

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2-13

CEFR 実践のための教師研修を考える -教師のための「CanDo セルフチェック体験」を例に- 奥村

三菜子

要旨 CEFR 理念を現場実践に導くために教師研修の果たす役割は大きい。CEFR の文脈化には、 「能力記述文(Can-do-statements)」と「ヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio: ELP)」が欠かせないが、これらの意義は、既に CEFR 実践に関わっている教師に も十分に理解されていないことが多い。その理由の一つとして、教師自身に「『できること』 を自己評価」しながら言語学習を行なった経験がないということが挙げられる。ボン大学日 本語科では教師研修の一環として「CanDo セルフチェック体験」という試みを行なっている が、これは、教師一人ひとりが授業や指導に関する「マイ CanDo」を記述し、それを自己評 価するという活動である。教師自身が CanDo セルフチェックというものを体験することで、 学習者の CanDo セルフチェックのサポートに役立てること、また、教師間における CanDo・ 自己評価ということばや意義の理解と共有を目的としたものである。 CEFR 実践には新しい視点や態度が求められる。その獲得に最も効果的なのは自身の体験で あり、その体験の場の提供が CEFR 実践のための教師研修には必要であると考える。

【キーワード】CEFR、教師研修、体験、CanDo、自己評価

1.

はじめに 教育現場において、教育のメソッドやアプローチやフレームワークが効果的に働くか

どうかは、教師研修のあり方にかかっていると言っても過言ではない。このことは、 CEFR を現場に導入する場合にも例外ではなく、CEFR 実践のための教師研修のあり方を 考えることは今や重要課題の一つと言える。 CEFRの登場によって、ヨーロッパ地域では、対象言語が同じ教師だけでなく、対象言 語の異なる教師間でも同じことばを用いて語り合うことができるようになった1。様々な 垣根が取り払われたことによる情報交流や共同研究など、今後への期待は大きい。また、 CEFRの持つ包括性・汎用性の広さは、様々な教育機関や教師の個性を損なうことなく議 論が進められるという面においてもその貢献度は高い。 しかし一方で、CEFR の理念や各種用語が指し示す事柄が曖昧で具体性に欠けているた めに教師一人ひとりの理解や解釈に差異が生じ、共有が難しいといった指摘もあり、 CEFR の抽象度の高さは問題ともなっている。また、学習者を social agents と見なす CEFR 理念は、同時に教師も social agents の一人であるということを意味し、上意下達的

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な指導のあり方、ひいては教師の役割そのものを見直す必要も生じてくる。本稿では、 CEFR 理念(抽象)と CEFR 実践(具体)の橋渡しの役割を担う教師研修のあり方につい て、ボン大学日本語科での取り組みの一部を例に挙げながら考察していきたい。

2.

ボン大学日本語科における CEFR 実践の経緯

2.1 コース運営の変遷 ボン大学日本語科の CEFR 導入は、当局からの指示により CEFR のグローバルスケー ル(A1~C2)で言語能力レベルを示すこととなった 2004 年に始まる。その後、試験の 改訂を手始めに、シラバス・カリキュラムの改訂、共通タスクの整備、学生への CanDo 公開、そして、CanDo セルフチェックシートの導入へと、コースの CEFR 化を進めてき た(表 1)。こうした変遷を大きな流れの中で捉え直すと、常勤スタッフ主導で各種改訂 作業を行なっていた第一期(2004~07 年)、CEFR および CanDo を全面開示して常勤・ 非常勤の全スタッフが共に CEFR 実践に取り組んだ第二期(2008~09 年)、同じく全ス タッフの協働の中で自己評価(セルフチェック)のあり方や方法を検討中の第三期 (2010 年~)と、三つの時期に分けることができる。 注目すべきは、常勤講師主導であったコース運営が、徐々に非常勤講師も巻き込んだ スタッフ全員参加型へとその形を変えてきた点にある。講師一人ひとりが主体となって コース運営に積極的に携わるようになってきたことは、各授業において学習者主体のク ラス運営を行うこととも連関しており、相互補完的な作用を見せている。 ちなみに、現在、ボン大学日本語科(BA)は 1~6 セメスターの 3 年間のコースとなっ ており、学生数は 1 年生が約 180 名(6 クラス)、2 年生が約 100 名(4 クラス)、3 年生 が約 50 名(3 クラス)、講師数が 13 名の大規模コースである。

2.2 教師研修の変遷 教師研修に目を向けると、業務連絡が中心だった第一期の講師ミーティングが、2007 年頃から始まった相互授業見学の活発化を境に、第二期以降は CEFR や CanDo をテーマ にしたグループセッションの場へとミーティングの目的が変わり、第三期に入ると講師 間の自己内省・省察や問題解決の場としての役割も果たすようになってきた。 CEFR 理念を中心に据えたこのような研修会やグループセッションを積み重ねる中で、 授業における問題の解決のために、非常勤講師が常勤講師に「教えを請う」という当初 の態度が、第二期以降は誰かに教えを請う前に、まず「自分で考える」、そして「仲間 と考える」という姿勢へと習慣化が進んだ。すなわち、教師の「自律学習」と「協働学 習」の萌芽である。こうした学びは生涯学習を念頭に置いた CEFR の目標でもあり、こ のような教師の姿勢が授業実践における学習者への指導にも反映されるようになったこ

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とは言うまでもない。そして、これこそが CEFR が願う social agents としての自律的な学 習者の姿を教師自らが具現化しているとも言えよう。 表 1 ボン大学日本語科における CEFR 実践の経緯 大学組織

2004 年

2007 年

・チュートリアル制度導入

・聴解試験開始 ・翻訳問題削減 ・5 セメスター 言語科目開始 ・6 セメスター 言語科目開始 ・第一期 BA 生卒業 ・第一期 MA 生入学

・会話/作文試験 改訂 (採点基準策定) ・翻訳問題撤廃 ・文法試験改訂① ・漢字試験改訂① ・漢字試験改訂② ・中級試験改訂

2008 年 ・第一期 MA 生卒業

・文法試験改訂②

2009 年

・シラバス改訂 (機能シラバス導入)

・e ラーニングサイト開設

・中級目標の提示 ・シラバス準拠の 共通タスク整備 (以後継続)

・チュートリアル制度改編 ・ビジターセッション開始 ・教師間の授業見学 の活発化

・会話科目のシラバ スを CanDo に修正 ・文字読解科目の CanDo 策定 ・日本人ヘルプ型 CanDo の導入 ・アカデミック CanDo 導入 (プロジェクトワーク開始)

・CanDo 記述および CEFR 基準の公開 ・チュートリアル制度整備 ・教師研修開始 ・教師研修継続 ・不定期研修開始 (内外講師による) ・CanDo セルフチェックシート 導入 ・教師共通フィードバック シート導入 ・不定期研修継続

2010 年

3.

その他(含教師研 修)

・BA・MA 制度導入 ・CEFR 評価基準 導入 ・講義概要改訂

2005 年 2006 年

シラバス・ カリキュラム

試験

教師のための「CanDo セルフチェック体験」―教師研修の一例として―

以下、第三期以降、教師研修の一環として行なっている教師の「CanDo セルフチェッ ク体験」について紹介する。

3.1 背景 CEFR 理念を文脈化するものとして双璧を成すのが「能力記述文(Can-do-statements)」 と「ヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio: ELP)」である。この 二つは言語教育における評価に大きく作用するものであり、同時にシラバスや指導方法 の視点を決定づける役割も果たしている。これらが従来の評価方法と大きく異なるのは、 ①「できないこと」を減算的(subtractive)に評価するのではなく、「できること」を乗算

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的(additive)に評価するという点、②教師による評価ではなく、学習者自身が自らを評価 するという二点にある。そのためには、ポジティブかつ自律的な視点を持つことが必要 となる。しかし、我々教師自身、これまでに受けてきた言語教育の中で、このような視 点で言語を学んだ経験を持つ者は極めて少ない。そのような教師が CEFR を実践するの はあまりに困難である。このことは、CanDo セルフチェックシートが授業に導入される ようになった第三期以降、特に顕著となったことである。その事例について以下に三点 まとめてみる。

3.1.1 自己評価を指導できない教師たち CanDo セルフチェックシートの導入に伴い、多くの講師から次のような問題点が報告 され、その解決に悩む姿が目立つようになった。 ・自己評価の意義を理解せず、興味を示さない学生が多い。 ・教師のためのアンケートだと思っている学生がいる。 ・自己評価後、今後の課題や克服方法を思いつけない学生が多い。 最も大きな問題は、こうした学生に対し、教師がどのように対応してよいか分からない という点にある。その理由としては、前述のとおり、教師自身が CanDo 自己評価をした 経験を持たないということが挙げられ、そのため、自己評価の意義や方法を学生にうま く説明できず、それゆえアドバイスもできないのではないかと推測される。この問題の 解決のためには教師の体験知が求められ、またそれがセルフチェックシートの内容や実 施を見直す際にも役に立つと考えられる。

3.1.2 マイナス思考の強い教師たち CanDo とは「できること」を記述したものであり、CanDo セルフチェックでは「でき ること」の状態をチェックする。しかし、大多数の学生は(特に中級以降)「まだでき ないこと」への落胆と希求が勝り、すでに「できること」を軽視しがちである。CEFR で は様々な「コミュニケーション言語活動」の遂行における「方略(strategies)」を、言語 学習の進捗状況を知るための重要な尺度基盤である(吉島・大橋

訳編 2004:61)とし

ているが、この「方略」(事前計画=Pre-planning、モニタリング=Monitoring、修正行動 =Repair Action など)を駆使するためには「できること」の認識が必須となる。「できる こと」とその程度が認識できていなければ、事前計画もモニタリングも修正行動も不可 能だからである。これらのことから、教師は学習者にまず「できること」に対する気づ きを促進し、その上で、「まだできないこと」を克服するための動機付けを行なってい く必要がある。しかし、教師自身に「できること」を自己評価できる能力がなければ、 学習者の中にこのような態度を育成することは難しい。

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しかしながら、例えば講師からのフィードバックの多くは、授業での失敗に対する反 省であり、現行の共通フィードバックシート(後述)でも、「失敗ワースト 3」はすぐに 書けても、「成功トップ 3」は書けなかった/思い出すのに時間がかかったという講師が 複数名いた。失敗の反省は次なる改善のために大切であるが、成功例の中にこそ失敗を 改善するための解答やヒントが多く潜んでいることもまた事実である。さらに、失敗 (できなかったこと)を成功(できたこと)と比較対照することで自分の苦手なことと 得意なことが浮き彫りとなり、自分にふさわしい解決策を考えることもできるようにな る。教師自身がこうした体験を経ることによって初めて、学習者の CanDo セルフチェッ クに寄り添うことができるようになり、より良いサポートが可能になるのではないだろ うか。

3.1.3

共通言語の理解が不十分な教師たち

「CanDo」、「セルフチェック」と言っても、これらが指し示す内容や意義の理解に は個人差がある。実際、学生用 CanDo セルフチェックシートを配布して実施を開始した ところ、インフォメーション不足も手伝って、クラスによる取り組みのタイミング・方 法・結果は千差万別で、コースとして期待していた効果は得られなかった。また、講師 間の相互交流(講師研修会、授業見学、教務連絡など)においても互いの理解には齟齬 が見られ、CanDo やセルフチェックということばの使い方にかなりの個人差があること が分かってきた。このような状態が続けば、講師間のコミュニケーションはもちろんの こと、学生の学びにも悪影響をもたらすこととなる。一貫性のある CEFR 実践のために は、教師が用語を正しく理解し、それを互いに共有することが重要である。 以上のような背景から、まずは教師が CanDo および自己評価というものを体験的に知 る必要があると考え、教師の「CanDo セルフチェック体験」という試みを行う運びとな った。

3.2 目的 上述のような問題の解決を目指し、この試みには次の三つの目的 CanDo を設けた。 目的 1:CanDo 型自己評価の体験知の獲得 CanDo というのは「できること」を示すものであるということを体験的かつ主観的に 知ることができる。また、それを自分で評価する際に生じる迷いや喜びなどの感覚を 体験的に知ることができる。 目的 2:乗算的な評価態度の会得 「まだできないこと」を評価するのではなく、「できるようになったこと」を評価す る視点や態度が得られる。 目的 3:教師間における共通言語(ジャーゴン:jargon2)の理解促進

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CanDo および自己評価(セルフチェック)という用語を具体的に理解することができ、 また、その概念を教師間で共有することができる。

3.3 実践内容 3.3.1

「共通フィードバックシート」と「マイ CanDo チェックリスト」

ボン大学日本語科では、2006 年頃から毎学期終了時に講師およびチューターにフィー ドバックの提出を依頼してきた。しかし、フィードバックの視点はそれぞれ異なり、全 体で共有するには内容が広範囲にわたりすぎるという嫌いがあった。そこで 2009 年冬学 期より共通のフィードバックシートを用い、それに沿って記述してもらうこととした。 このフィードバックシートは「成功トップ 3」、「失敗ワースト 3」、「来学期の『マイ CanDo』(五つ以内)」、「自由記述欄」の四項目で構成されている(稿末資料 1)。記 述後のフィードバックシートは全ての講師間で共有され、講師研修の際の共通マテリア ルとしても使用されている。また、マイ CanDo は各自の「マイ CanDo チェックリスト」 として Excel ファイルに保存し、学期終了後に自己評価(3 段階のレベルチェックおよび 内省の記録)が行われている(稿末資料 2)。マイ CanDo は前の学期のものと同じでも、 新しいものを設けても構わないこととし、新しい CanDo は随時チェックリストに追加し ていく。それによって、自分の目標の変化や進捗状況が分かると同時に、自己評価の意 義も実感できるのではないかと期待される。なお、マイ CanDo の詳細については、稿末 資料 3 を参照されたい。 CanDo やセルフチェックに関する CEFR ワークショップでは、多くの場合、学習者が 使用する言語学習用のセルフチェックシート(ELP)を用いて疑似体験的にトレーニング を受けることが多いが、それではどうしても疑似の域を出ない。私たちがこのようなチ ェックリストを用いることにしたのは、言語教師にとっての重要課題である日々の指導 に関する CanDo セルフチェックを行うことで、CanDo や自己評価というものを自分の身 に引きつけて真剣に考えることができるようになると考えたからである。そして、こう した体験こそが、学習者の CanDo セルフチェックのサポートに大きく貢献するのではな いかと期待を寄せている。

3.3.2 講師研修会「グループセッション」 共通フィードバックシートが用いられるようになってから一年が経過し、その間に講 師研修会は二度行われている(2010 年 3 月、9 月)。いずれの研修会もグループセッシ ョンの形で実施しているが、それぞれのテーマは以下のとおりである。(稿末資料 4、5) ・2010 年 3 月:①グループワークを考える

②「マイ CanDo」宣言

・2010 年 9 月:①「自律学習」について考える

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②CEFR 能力記述文(CanDo)を知る


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この研修会では、各講師から提出された共通フィードバックシート(マイ CanDo を含む) をマテリアルとして使用している。自分以外の講師の視点や姿勢を知ることで「共通言 語の理解促進」に大きく作用すると同時に、コース全体のバイタリティの強化も図れる。 また、このような透明性のある相互交流がスタッフ全員参加型のコース運営を可能にし てきたとも言える。

3.4 今後の課題と展望 以上の実践は 2010 年 3 月に始まったばかりで、その効果や結果は未だ明確な形では現 れてはいない。しかし、共通フィードバックシートを用いるようになってから、フィー ドバックの焦点化が進み、講師研修会のグループセッションも活発化している。こうし た変化を客観的に捉えられるよう可視化するためには、以下のような課題が残されてい る。 ①「マイ CanDo チェックリスト」の継続および分析 ②講師一人ひとりへのインタビュー調査の実施とその分析 ③学生への CanDo セルフチェックの実施結果と教師の変化との関係の分析 CEFR の登場によって、ヨーロッパの言語教育には新しい視点や態度の獲得が求められ ている。これまでに考えたことも経験したこともなかったような教育観に戸惑いを感じ ている教師も少なくないはずである。だからこそ、自身の体験を通して理解を深めるの が最も効果的であると筆者は考える。本実践の継続および結果の集積・分析には時間が かかるが、教師の体験型研修の意義を明らかにすることで、各種教育機関における CEFR 実践のための教師研修の検討に貢献できればと考えている。

4.

CEFR 実践のための教師研修に必要なこと―結びにかえて―

松尾(2010:27)は教師の熟達化に関する研究の中で、一般的な熟達者を「手際の良 い熟達者(routine expert)」と「適応的熟達者(adaptive expert)」3に区別して論じてお り、教師は、「作業に習熟し、技能の遂行[中略]が際立って優れている」手際の良い 熟達者であるよりも、「課題状況の変化に柔軟に対応して適切な解を導くことのできる」 適応的熟達者であることが求められると述べている。 CEFR 以前の教師研修では、多くの場合、「何を教えるか」、「どのように教えるか」 が命題としてあり、言語学習を対象とした切り取られた言語形式や言語スキルの指導に 必要とされる知識および技能を育成・洗練することが目的とされてきた。すなわち、言 語/教授に習熟し、教授技能の遂行に優れた教師(手際の良い熟達者)の育成が研修の 目的であったと言えよう。

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しかし、CEFR 理念では、言語学習は一般的な言語使用に、言語学習者は一般的な言語 行動者に包括されており、それぞれを切り離した技能的側面のみを扱う教師研修だけで は CEFR を実践できる教師は育たない。言語教育観のパラダイムシフトが要求される CEFR 実践においては、柔軟性と自律的問題解決能力が備わった教師(適応的熟達者)が ますます強く求められており、それに伴う教師研修にもパラダイムの転換が迫られてい る。指導者からの一方向的な学びの場を、学習者との双方向的なコミュニケーションの 場へと再構築し、「学び」を学び手の元に返していく中で、social agents としての教師の 新たな役割や、その教師のための研修のあり方を考えていかなければならない。 折しも日本では JF 日本語教育スタンダードが公開され、「みんなの「Can-do」サイト」 や各種教材の整備が進められている。しかし、スタンダードを実際の教育現場に効果的 に反映させるためには何よりもまず指導者の研修が急務である。スタンダードの意義が 正しく理解され、それが共有されなければ、スタンダードの目的は達成されない。この ことは、教師研修の検討が後回しとなり、CEFR 文脈化に大きな遠回りを迫られることと なった CEFR 実践者の私たちの反省でもあり、メッセージでもある。

<注> 1

櫻井・近藤(2010:222)では、「従来、各教師が行なってきた研究・教育実践は同種の所属機関・ 同じ指導言語の教師と意見交換される傾向があったが、CEFR を通じて、全レベルの日本語教師、 または、指導言語に限らない全言語の言語教師と、言語教育理念、方法論を語り、知見を共有しあ う共通言語を得た」と述べられている。また、山本(2008:46)はグローバルな視点から「日本語 教育が CEFR 的文脈に加わることは、世界と日本が同じ文脈でつながることを意味する」と CEFR の意義を述べている。

2

教育機関内外における共通理解を図るためのジャーゴンについては、奥田(2010)に詳しい。

3

routine expert および adaptive expert の日本語訳は波多野・稲垣(1983)による。

<参考文献> 奥田純子(2010)「民間日本語教育機関での現職者研修」『日本語教育』144 号、pp. 49-60、 日本語教育学会 櫻井直子・近藤裕美子(2010)「CEFR 文脈化のための実践例を取り入れたワークショップ型 教師研修」『ヨーロッパ日本語教育』14、pp. 215-222、ヨーロッパ日本語教師会 波多野誼余夫・稲垣佳世子(1983)「文化と認知」、坂本昴

編『現代基礎心理学・第 7

巻:思考・知能・言語』東京大学出版会 松尾睦(2010)「教師の熟達化と経験学習」『日本語教育』144 号、pp. 26-37、日本語教育学 会

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山本弘子(2008)「日本語学校から見た評価の観点の見直し―ヨーロッパ共通参照枠の視点 から―」『日本語教育』136 号、pp. 38-48、日本語教育学会 吉島茂・大橋理枝他

訳編(2004)『外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参

照枠』朝日出版社

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<稿末資料 1> SS 10

ボン大学日本語科 教師共通フィードバックシート 例

講師・Tutor フィードバック

◆今学期の授業/Tutorium で「これはいけた!」と思うトップ3を思い出してみてくださ い。その理由や背景も思い出して書いてみてください。 1. 2. 3.

◆今学期の授業/Tutorium で「これは失敗した!」と思うワースト3を思い出してみてく ださい。その理由や背景も思い出して書いてみてください。 1. 2. 3.

◆来学期の「マイ CanDo」を 3~5 つ考えて書いてみてください。 (できるだけ具体的に) *もちろん、先学期末のマイ CanDo と重複があってもかまいません。 ・ ・ ・ ・ ・

◆その他、今学期のフィードバックを何でもご自由にお書きください。

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<稿末資料 2>

マイ CanDo チェックリスト(言語教育ポートフォリオ:日本語) 抜粋

講師名:××××

自己評価 記録日

記録

CanDo A

B

C

2010 年

・担当のゼメスターが、BMI~VMIII 全体のどこ

今学期は VMI(KK)と VMIII(KK)が担当だったが、ほぼ全てのゼメスターを担当した(2ゼメKK

3月

に位置するかということを意識して毎回の教案

だけが未経験)からか、やっと全てのゼメスターを通した流れが見えてきたようだ。前後のゼメス

8月

を作ることができる

ター、他科目(GL、VMI は+文法)との関連も考えながら教案作りができたと思う。ただ、自転車 操業で余裕がなかったり、それどころではなかった時もあったので、「毎回」ではなかった。

・全体での位置づけの意識に加え、ゼメスター

「各課の最重要 CanDo」を最優先した教案作り・授業運営で、自分の中で「今日は何をするべき

を通しての課の位置づけも考えて教案を作成

か」ということが明確になった。特に VMIKK は2回目ということもあり、経験的に「どこに時間をか

することができる;前の課の○○と現在の課の

けるべきか」がわかっていたので練りやすかった。しかしながら初めての VMIII KK では、予測で

××、そして次の課の△△ + KK・GL との

きないことが多かったため、70 点ぐらい。

連関性を考えた教案作りと授業運営ができる ・各タスクの意義を把握した上での教材・教案

上記同様、VMI では「タスクの意義」が見えていたので、前回担当した時のタスクシートを改善し

を作成することができる

たものを使用し、成功したものがいくつかあった(いまいちだったものもあり)。この CanDo は、来 学期にも持ち越し。

・グループワークやプロジェクトワークの問題

フィードバックと重なるが、VMIII KK では、各課に一つの目標 CanDo を設け、各課が終了する

点(やる学生とやらない学生の不平等、何が

ごとにセルフチェックシートに自分の評価と学んだことを書かせた作業を通して、ある程度「学び

学べるかが学生に不透明になることがある

を実感」できたのではないかと思っている。グループ・プロジェクトワークに関しては、友達同士で

etc.)を見つめ直して、学生が「何を学んだか」

グループを作らせたことで、授業外のグループ作業が比較的うまくいった印象を受けた。また、

が実感できるような授業作りができる

VMIII では、目標 CanDo が一本化されていたことで、学生もそれに向かって取り組んでいた様 子だったが、VMI ではこちらも全面的に明示していなかったせいもあり、目標 CanDo が薄れてし まっていた課があったと思う。今後の課題・・・。

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<稿末資料 3>「マイ CanDo」分類(2010 年 3 月) A

教育全体に関わる「考え方」

2. 学生の気持ちを忘れず、想像する力を磨く!学生がこの授業を受けて感じること、疑問・不安に思うことや教師に望むこ とを想像することを忘れない。 9. 「今日、授業に参加してよかった!」と思われる、意義のある授業を心がける。昨日よりも今日、何か一つでも多く身に ついたという満足感を与えて帰らせてあげたい。そのためには、私自身、その日の目標を掲げポイント授業を心がける。 15. 学生がどんなところを難しく感じているのか、ということに敏感になりたい。 16. 学生が自分の成長を感じられるような工夫をする。

指導に関わる「考え方」

B

1. 「今していること」の位置づけを意識して授業できる!「今の課題」だけではなく、前後に登場する文法や語彙、 漢字や登場人物の関係性などとの相互関係の中での位置づけを常に意識しながら取り組む。忙しくても、焦りそ うでも、緊張していても、今自分がどこに立っているか、学生達たちが迷っていないかを意識する。 4. 学生一人一人の発話に注意し、問題点も成長も敏感に感じ取れる!ペアワークやグループワークのときも、個人個 人の発話に注意し、学びにつながるアドバイスができるようになる。そのためにも、一人一人の発話数が多くな るような授業作りを心がける。 5. 担当のゼメスターが、全体のどこに位置するかということを意識して毎回の教案を作ることができる。 6. 全体での位置づけの意識に加え、ゼメスターを通しての課の位置づけも考えて教案を作成することができる;前の 課の○○と現在の課の××、そして次の課の△△+KK(口頭言語運用科目)・GL(文字言語運用科目)との連関 性を考えた教案作りと授業運営ができる。 7. 各タスクの意義を把握した上での教材・教案を作成することができる。17. 特に KK(口頭言語運用科目)の授業 では全ての学生が日本語で質問してこられるような環境を作りたい。 8. グループワークやプロジェクトワークの問題点(やる学生とやらない学生の不平等、何が学べるかが学生に不透明 になることがある etc.)を見つめ直して、学生が「何を学んだか」が実感できるような授業作りができる。

指導全体に関わる「方法」

C

10. 焦点を中核の学生に合わせながらも、特にできる学生とできない学生のフォローも考えていきたい。授業に ついてこられない学生には、自宅学習のコツを教えたり、つまらない思いをしている学生には、授業の内容 に沿いながらも難易度の高い課題を与える。 13. 効果的なグループ構成・編成方法、机の並びを工夫する。 14. 作品(アウトプット)の共有に心がける。 17. 特に KK(口頭言語運用科目)の授業では全ての学生が日本語で質問してこられるような環境を作りたい。

D

スキル別指導に関わる「方法」

22. 授業で扱うテキストのジャンルとそれに適した読解法をしっかり把握して授業したい。またそれが学生 にも伝わるように授業したい。 23. テキストを読解する前にテキストに出てくる単語の指導をすべきだと思うが、単語をどのように提示す るかについてもっと考えたい。 24. 作文指導の時間もアイデアもないが、それを改善したい。 18. ペアワークのパターンを増やしたりして、学生間での会話を今よりもっと弾ませるように工夫していき たい。

E

方法をつくりあげる個別「要素」

3. 落ち着いて、きれいで効果的な板書ができる! 行き当たりばったりでなく、分かりやすくきれいな板書ができる。 11. 学生の持つだろう疑問を予測して、あらゆる角度から文法を予習勉強する。 21. 書き順を教えるとき、学生が私語をしないよう指導したい。

その他

20. 健康に常に気をつける。12. 健康管理を怠らず、学生の若さを吸い取らせてもらいながら(!)元気いっぱい授業をする。 19. ワードをもっと使いこなせるように頑張る。


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<稿末資料 4>

ボン大学日本語科 講師研修会(2010 年 3 月)

●グループセッション:タスクシート

SS 10 講師全体ミーティング:勉強会

テーマ①:グループワークを考える  フィードバックを見ながら、以下の点について考えてみましょう。  最後に、グループ発表をしてもらいます。 (1 グループ 5 分以内)

1.

グループワークの長所 (長所を引き出している背景/根底には何があるのだろう?)

2.

グループワークの短所(問題の本質はどこにあるのだろう?)

3.

グループワークの短所の改善策(長所へと導けないだろうか?)

********************************************************

テーマ②: 「マイ CanDo」宣言  自分のマイ CanDo をグループのみんなに宣言しましょう。 ・現時点での自己評価は? ・評価方法は?(記録の取り方、振り返り方など) ・まず、何からスタートしてみる?

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<稿末資料 5>

ボン大学日本語科 講師研修会(2010 年 9 月)

●進行表抜粋

WS 10/11 講師全体ミーティング 第二部 講師研修会 3. シラバス確認・質問タイム【目安 9:30-10:00】

【9:30-12:00】

*BM1、BM3 を中心に確認と質疑を行います。 ☆宿題①:WS 10/11 のシラバスに必ず目を通してきてください。 担当箇所はもちろんですが、他の科目や学年についてもできるだけ目を通してきてくださ い。

4. グループセッション(1):「自律学習」について考える *みなさんが提出したフィードバックをもとに、「自律学習」について意見交換し ます。 ☆宿題②:「SS 10 フィードバック」に目を通してきてください。 自分のフィードバックとの共通点や相違点にも目をやると興味深い発見があるかもしれま せん。

5. グループセッション(2):CEFR 能力記述文(CanDo)を知る *CEFR が示す「コミュニケーション言語能力」に関する能力記述文に基づき、学 生達の能力や指導についてグループセッションを設けます。

●グループセッション(2):タスク

<タスク1> 各カテゴリーの能力記述文の C1, C2 を見て、自分の母語能力がどうであるかを話 し合ってみてください。 <タスク2> (A)~(F)とシラバスを見ながら、『げんき』を使った BM1, BM3 の具体的な活動内 容を挙げてみてください。 <タスク3> 「能力記述文」に基づくと、『げんき』を使った BM1, BM3 の指導で気をつけなけ ればならないことは何だと思いますか。前後のレベルも参照してください。 BM1=A1

BM2=A1~A2

BM3=A2

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VM1=A2~B1


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<稿末資料6>

ボン大学日本語科学生用セルフチェックシート(2 年後期・4 セメスター)

Vertiefungsmodul Japanisch I CEFR- Niveau A1-B1 „Selbständige Sprachverwendung“ „Kommunikationsmittel und kommunikative Strategien“ (K.K.) gar nicht

Ich kann… L3

★ jemanden um etwas bitten(頼む) 2010年

1 年前期 (L.6)

☆ 何かを頼む前に、理由が説明できる ☆ いろいろな頼み方が工夫できる ☆ 相手を考慮して依頼とお礼の手紙やメールが書ける

L4

★ jemanden um Erlaubnis bitten(許可をもらう) 1 年前期 (L.6)

2010年

☆ 丁寧に許可を求めることができる ☆ 許可がほしい理由をきちんと説明できる ☆ 許可願いの申請書が正しく書ける

L5

★ jemanden einladen(誘う) ★ eine Einladung absagen(断る) 2010年 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

L6

1 年前期 (L.3)

相手の意向や都合を聞きながら誘うことができる 待ち合わせ時間や場所を確かめながら話しが進められる 相手に失礼のないように、丁寧に誘いを断ることができる 誘いや断りの手紙やメールが書ける (手紙やメールで)必要に応じて「時候の挨拶」が使える

★ bei einem Besuch begrüßen(訪問する) ★ mich selbst vorstellen (紹介する) 2010年 ☆ ☆ ☆ ☆

L7

1 年前期 (L.3)

初出

1 年前期 (L.1)

人を訪問した時の挨拶ができる 自分のことや出身地について紹介できる【プレゼンテーション】 履歴書が書ける 自己 PR 文が書ける

★ Krankheitsbilder beschreiben(症状を伝える) 1 年後期 (L.12)

2010年 月 日 ☆ 病気やけがの様子が詳しく説明できる ☆ ☆ ☆ ☆

医者の説明や注意を聞いて、それが理解できる 問診表に記入できる 処方箋に書かれた薬の飲み方が理解できる ドイツ在住のドイツ語が分からない日本人がけがや病気で医者を訪れ る際に助けてあげることができる【日本人ヘルプ型タスク】

Arbeitsbereich Japanisch, AOAS, Universität Bonn

sehr gut


<稿末資料7>

ボン大学日本語科「アカデミック CanDo」セルフチェックシート 例

●A2-B1(2 年後期)

「私の生まれた町」プレゼンテーション

セルフチェックシート

町の名前:___________________________________

パワーポイント 見やすいパワーポイントが作れた ☆ 正しい日本語でパワーポイントが作れた ☆ 単語の説明ができた(dt. Übersetzung für Fachwörter) ☆

発表 正しく話せた ☆ わかりやすく話せた ☆ ていねいに話せた ☆

新しく勉強した言葉を3つ書いてください。

●B1-B2(3 年後期):プロジェクトワーク用

「アカデミックプレゼンテーション」採点シート Gruppe ___

テーマ:___________________________________ ✓を入れる

パワーポイント  最初に「発表の構成」が紹介できた  わかりやすいパワーポイントが作れた  日本語が正しいかどうか(漢字・文法・カタカナ)がチェックできた

/3

レジュメ    

キーワードでまとめられた グラフデータがのせられた 参考文献リストが作れた 単語リストが作れた

/4 発表

 データが説明できた  わかりやすく話せた(声の大きさ・発音・イントネーション)  正しく話せた(文法・表現)

/3

総合評価  原稿を読まずに前を向いて話せた  (質問があった場合)質問にきちんと対応できた

 チームワーク etc.

/5 - 179 -


<稿末資料8> ボン大学日本語科 「作文添削 CanDo」「日本人ヘルプ型 CanDo」

●自己添削力 CanDo (A2-B1):書く・読む セルフチェックポイント どれぐらいできると思いますか? Kompetenz-Selbsteinschätzung じょし

1 助詞

(Partikel)

hoch / mittel / niedrig

(Konjugationen)

hoch / mittel / niedrig

かつよう

2 活用 3 漢字 ご

hoch / mittel / niedrig

4 語彙

何を勉強しなくてはいけませんか? Lernbedarf (in Stichpunkten)

hoch / mittel / niedrig

(Vokabular)

ていねい

5 丁寧さ

(Höflichkeitsniveau) せつぞくし

6 接続詞

(Konjunktionen)

hoch / mittel / niedrig hoch / mittel / niedrig

●日本人ヘルプ型 CanDo:聞く・話す(やりとり・表現) A1-A2『げんき』 目標 CanDo

CanDo 達成に必要な項目

◎得た情報を伝えることができる

Ⅰ.「~そうです」 Ⅱ.「~って」

L17

主要練習 【日本人ヘルプ型タスク①】 ドイツ語が分からない日本人にドイツ のニュースを教えてあげる (まとめの練習 C 参照)

L19

◎目上の人や知らない人に敬語を使 って質問できる

Ⅰ.尊敬語

【日本人ヘルプ型タスク②】 ドイツに初めて来る日本人(例.東西 大学の山下先生)のお世話をしてあげ る (まとめの練習 B 参照)

A2-B1『新日本語の中級』 テーマ CanDo

目標 CanDo

症状を伝える L7

≪状況≫ドイツに住んでいるドイツ語が分か らない日本人が、けがや病気で医者にかか り、それに同行する。

◎病気やけがの様子を聞いて、それが理解できる ◎医者の説明や注意を聞いて、それを詳しく説明できる ◎問診表の記入の仕方を説明できる ◎処方箋に書かれた薬の飲み方を説明できる

B1-B2『新日本語の中級』 テーマ CanDo

L12

比較する

目標 CanDo

◎物事をいろいろな面から比較できる ◎比較して分かった違いや変化について考え、話 し合うことができる ◎グラフなどの資料から正しく情報が読み取れる

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CanDo 達成に必要な活動 ≪テーマ≫ドイツの今と昔 ☆日本人にドイツの変化を紹介する 活動1.公開プレゼンテーション 活動2.日本に ppt プレゼン送付


巻 末 資 料


ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

研修参加者による 「CEFR 関連の研究プロジェクト報告書・論文」一覧 研究プロジェクト報告書 ヨーロッパ日本語教師会・国際交流基金(2005) 『日本語教育事情調査:ヨーロッパにおける日本語 教育と Common European Framework of Reference for Languages』 、ヨーロッパ日本語教師会・国際 交流基金

※共同執筆::田中和美・大島弘子・小木曽左枝子・櫻井直子・佐藤紀子・ スルツベルゲル‐三木佐和子・松尾馨・吉岡慶子 http://www.jpf.go.jp/j/publish/japanese/euro/pdf/ceforfl.pdf

論文(発表年順) Oda, C. & Ogiso, S. (2005) Implementing the ELP in Japanese learning: issues arising in the translation, the Proceedings from 8th CercleS Conference, Bratislava, the Slovak Republic, pp.49-56 田中和美・櫻井直子・大島弘子・吉岡慶子・松尾馨・スルツベルゲル‐三木佐和子・佐藤紀子・小 木曽左枝子(2005)「ヨーロッパ言語教育における共通枠組み(CEF)の浸透」 『ヨーロッパ日本 語教育 9』 、pp.123-128、ヨーロッパ日本語教師会 小木曽左枝子・吉岡慶子・田中和美(2006) 「DIALANG:CEF を用いたオンライン言語能力診断テ スト」 『ヨーロッパ日本語教育 10』 、pp.128-133、ヨーロッパ日本語教師会 小木曽左枝子(2006) 「アイルランドにおけるヨーロッパ言語ポートフォリオ(European Language Portfolio: ELP)の日本語学習への活用例」 『国際交流基金海外日本語教育レポート第 12 回』 http://www.jpf.go.jp/j/japanese/survey/tsushin/report/012.html 櫻井直子(2006)「外国語学習のためのヨーロッパ共通参照枠組み:学習、教授、評価(CEF)を参 照したカリキュラム・試験評価の再編成と日本語授業への応用-ベルギー・ルーヴァン市現代言 語センターの例-」WEB 版『日本語教育実践研究フォーラム報告』 、日本語教育学会 織田智恵・小木曽左枝子(2007) 「アイルランドの大学におけるヨーロッパ言語ポートフォリオ活用 例」 『ヨーロッパ日本語教育 11』 、pp.96-101、ヨーロッパ日本語教師会 櫻井直子(2007)「ACTFL-OPI、及び、CEF(欧州言語共通枠組み)に基づく口頭試験の標準化」 『第 6 回 OPI 国際シンポジウム』予稿集、pp.97-102、関西 OPI 研究会 鈴木裕子(2007) 「スペインにおける CEFR を踏まえた初級日本語授業試案例実践報告」 『ヨーロッ パ日本語教育 11』 、pp90-95、ヨーロッパ日本語教師会 田中和美(2007) 「ヨーロッパの現状とイングランドの例:学習基準と文化・連結・コミュニティ」 『日 本語教育 133』 、pp.5-10 、日本語教育学会

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ヨーロッパの日本語教育の現状-CEFR に基づいた日本語教育実践と JF 日本語教育スタンダード活用の可能性-

奥村三菜子(2008) 「機能シラバスにおける「できること」とは何か」 『ヨーロッパ日本語教育 12』 、 pp98-104、ヨーロッパ日本語教師会 スルツベルゲル‐三木佐和子(2008) 「CEFR/ELP 能力査定基準の日本語スキル査定への応用を探 る―A1 の漢字について」 『ヨーロッパ日本語教育 12』 、 pp.183-188、ヨーロッパ日本語教師会 松浦依子(2009)「ハンガリーにおける日本語教材作成-CEFR 参照の試み-」 『ハンガリー日本語 教育シンポジウム 2008 論集』 、pp.32-36 奥村三菜子(2010) 「CEFR 実践と日本語学習ビリーフスおよびストラテジーの変化-BALLI, SILL の結果から-」 『日本語教育連絡会議 22』 齋藤あずさ・小林玲子・稲垣厚子(2010)「CEFR に基づいた初級漢字タスク集の開発」 『ヨーロッパ 日本語教育 14』 、p275、ヨーロッパ日本語教師会 櫻井直子(2010)「言語教育機関における CEFR 文脈化の意義-ベルギーの成人教育機関での実践例 からの考察-」 『複言語・複文化主義とは何か―ヨーロッパの理念から日本における受容・文脈 化へ』リテラシーズ、pp.65-78、くろしお出版 櫻井直子・近藤裕美子 (2010)「CEFR 文脈化のための実践例を取り入れたワークショップ型教師研 修」 『ヨーロッパ日本語教育 14』 、pp.215-222、ヨーロッパ日本語教師会 鈴木裕子(2010) 「CEFR に即した日本語授業の実践報告及びテキスト作りへの提案」 『ヨーロッパ 日本語教育 14』 、pp.178-185、ヨーロッパ日本語教師会 フックス‐清水美千代(2008) 「継承日本語教育における評価基準としての CEFR」 『ヨーロッパ日本語教育 14』 、ヨーロッパ日本語教師会 松浦依子・柳坪幸佳(2010) 「ハンガリーにおける教材作成-Cando タスクを中心として-」 『日本 語教育連絡会議論文集』Vol.22 、pp.162-166 http://renrakukaigi.kenkenpa.net/ronbun.html 奥村三菜子・辻香里(印刷中) 「言語教育観を共有するために-教育現場における「体験」の積み重 ねを通して-」 『ヨーロッパ日本語教育 15』 、ヨーロッパ日本語教師会 田中和美(2011 発行予定) 「ヨーロッパにおける CEFR と日本語教育」『教育 GP 世界的基準と なる日本語スタンダーズの構築 報告書』東京外国語大学留学生日本語教育センター編

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執筆者一覧

小木曽左枝子

カーディフ大学、英国

奥村三菜子

ボン大学、ドイツ

織田智恵

アイルランド

近藤裕美子

国際交流基金パリ日本文化会館、フランス

齋藤あずさ

国際交流基金ローマ日本文化会館、イタリア

櫻井直子

ルーヴァン・カトリック大学、ベルギー

島田徳子

国際交流基金日本語国際センター、日本

鈴木裕子

マドリード・コンプルテンセ大学現代言語センター、スペイン

スルツベルゲル‐ 三木佐和子

チューリッヒ大学日本学科/ベルン州立ブルグドルフ高校、スイス

田中和美

ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院、英国

田中久仁子

国立ベルガモ大学、イタリア

東伴子

グルノーブル・スタンダール大学、フランス

福島青史

国際交流基金ブダペスト日本文化センター、ハンガリー

フックス‐ 清水美千代

バーゼル日本語学校/NSH バーゼル教育センター、スイス

古川彰子

レディング大学、英国

松浦依子

日本-ハンガリー協力フォーラム教材作成プロジェクトチーム、ハンガリー

吉岡慶子

ライデン大学、オランダ

(所属先は、研修参加時 2010 年 7 月現在)


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