街の匂い、土の薫り - 京都山科半都半農計画 高山 夏奈 Kyoto Univ. Kanki lab.B4 2019 Diploma project
地下鉄東野駅
国道 1 号線(五条通)
東海道新幹線
京都外環状線
刑務官官舎
Site
おんもガーデン (岩屋神社神饌田)
京都刑務所 Site Background- 京都山科と山科刑務所 -
農協
山科青果市場
京都盆地の東、山科盆地は三方を山に囲まれ、古来より農業が 盛んだった。
山科区役所
新十条通 地下鉄椥辻駅
御所に野菜を納める禁中御料地となり、農
村として 1000 年以上を過ごし、明治を迎える。 1927 年、京都刑務所が現在の場所に移転。当時田園地帯だった
日本新薬 山科植物資料館
盆地の中心(京都盆地でいう御所の位置)に 11 万平米の刑務所が できた。 京都・大阪へのアクセスがよかったため、戦後の人口急増期にス プロール化し、人口が 20 年で3万人から13万人に急増した。 街全体で高齢化が進む今、そんな京都刑務所に移転計画が持ち上 がっている。
About ME
Skill
小学生の時、祇園祭の宵山の夜に訪れた新風館
Adobe illustrater
(リチャード・ロジャース +NTT ファシリティーズ)
Adobe Photoshop
に魅せられ、建築に興味を持つ。
Autodesk AutoCAD
趣味は温泉めぐりとほうじ茶を飲むこと。
ArchiCAD
身長が京都水族館のオオサンショウオより低い。
Sketch up Rhinoceros
History
高山 夏奈|Kana Takayama smallmouse.bigmouth@gmail.com
JW CAD
1997.8
京都生まれ
2009.4
京都府立洛北高校附属中学入学
2012.4
京都府立洛北高校入学
2016.4
京都大学工学部建築学科入学
2017.8
アルファヴィル一級建築士事務所にて 2 週間のオープンデスクに参加
2018.8 2019.3
Hand Drowing Model Making
Favorite
日本建築学会主催
Architects 山本 理顕 / Zaha Hadid
グローバル化人材育成プログラムに参加
Writers
恩田 陸
Artists
山口 晃
竹中工務店大阪本店でアルバイトを開始
2020.4 京都大学大学院工学研究科建築学専攻入学
Town
京都 / 尾道 / 城崎
農業複合施設 2019年 4 回生卒業設計 京都大学卒業設計展優秀賞 Diploma x K YOTO`20 出展作品 site: 京都・山科
土を耕す人を育むことで、最小化された住宅地の再編につなげる。 京都盆地の東、同じく三方を山に囲まれた山科盆地。
かつて農村だったこのまちは戦後の人口増に伴い一気にスプロール化、田畑や大きな農家住宅は最小限の大きさに分譲され、 現在に至るまで古く小さな家々が数多く残っており、空き家も増えつつある。
そんな山科の、京都盆地でいう御所の位置に残っている唯一の大規模区画、京都刑務所に移転計画が持ち上がっている。
しかし、これから人口が減少していく時代を迎えるのに、計画案にあるような大型ショッピングセンターや集合住宅は必要だろうか? この街に必要なのは、スプロールで小さくなりすぎた住宅の土地を持て余すことなく ゆっくりと、大きな土地に戻していくことではないだろうか。
もう一度、山科に住む人たちに土を耕すスキルを身につけてもらい、農地バンクという仕組みに取り込むことで 人口に見合った土地区画に直すという空き家問題への新たなアプローチを提案する。 どこかの家の晩御飯の匂いに、土の薫りが混じる半都半農の街を目指し、 農業学習・支援のための複合施設を設計する。
都市と農村の分離の時代 urban rural
人口増加の時代
人口減少の時代
土地の最小分譲
土地の再編を進めていく 住宅地
住宅地を集約
空き家
土地区画がどんどん小さくなっていく
空洞化すると区画を大きくできない
ある通り雨の日のドローイング 11万㎡の敷地に散らばる人たちが、 普段 作業場にしている大屋根やピロティに集まり、雨が止むのを待つ。
帰り道、晩御飯の匂いに交じって どこか懐かしい土の薫りが風にのってくる。
古い分譲住宅地。空き家になってしまったおとなりの土地を買って畑にした。 元々間口も 4 mそこそこでおおきくないんだもの。週末の土いじりや収穫の時を楽しみにする生活。 仕事から帰る夕暮れ時、土の薫りが晩御飯の匂いに交じって風にのる。
農地バンク 住宅地の再編成のためには、使われなくなった土地を生かしていくすべを考えなければならない。 放置された家や土地は、町の斑入り(葉の白い部分)となってしまう。 山科の住人を再び土を育むスキルのある人々に育て、空き家バンクならぬ「農地バンク」を活用し、使われなくなった土地を生かしていく。
空き家
一部の空き家しか利活用できない
CASE. 空き家バンク
CASE. 農地バンク
農地としてプールし , 土地を生かし続ける。
いくら継ぎ手を探しても 結局 解決しない
今後、大きな区画になり得る
借り手のいないときは果樹や花などを植える(ポケットパーク)
「半都半農」の生活
農業学習施設で
土を育むスキルを身に着ける。
Photo:1
連れ立ってウォーキング
塀と住人の不思議な関係 「刑務所は嫌われ者」という大衆の予想に反して、 近くに住む人たちは案外、 高さ 4.5 m、のべ 1.2km の塀と楽しく共存していきている。
彼らにとって、これは「刑務所の」塀でなく、ただの「塀」、 「よー知らんけど昔からいはるもん」であり、 生活の景色を作っている重要な要素だ。
Photo 2
Photo 1
Photo:2
直線 400 mの自転車練習コースに。
愛された塀から人を呼び込む 350
京都刑務所の塀は高さ 4500mm、一周 1.2km(東西 200 m南北 400 m)と 長大ではあるものの、鉄柵や電気柵などはなく、北・西側には官舎があって、 周辺の住人たちにとっては生活の景色の一部になっている。
4,500
この愛された塀を残して刑務所であった歴史性を残しつつ、 人通りの多い西側 / 市民農園側は操作を積極的に加えて賑やかな塀に、 住宅地である東側は建築のピロティや街路と呼応した開口を付けて 塀のつづく景色を残す場とする。
塀の断面図 S=1:100
pers
elevation
西側 塀からの抜けを感じて
S=1:200 東側 市民農園の塀の立面図
元農家 ×地
全体ダイアグラム
腐葉土のための林
ホール
貯水湖
総合倉庫
青果市場
×
野菜直売所
植物工場
研究農場
刑務所の入り口を利用した メインエントランス
Come in
View
塀への操作
塀で囲まれた、研究のための畑。
植物工場
オフィス
生
農学校 倉庫
研究所
先
市民セミナー
×
農学校
の
農村 町の の
×
他
空き地や街路から
農学校の農場
農協
市民農園
抜きがある。
畑のスケールを小さくして
作業スペース
モザイク画のような景色を作る。
the other
Market Study
学ぶための広い区画の畑。 広大さを感じる景色を作る。
ホームセンター
Civil
図書館 / レストラン 入り口
School
敷地、塀の形に呼応して ゾーニング
Children
道具のレンタル屋
Park ワークショップ
幼稚園
キッチン
倉庫
こどもの
こどもの
はたけ 田んぼ
貯水湖
the other
こども食堂
Market Study
こど も
全体配置図
NPO
法人
校 農学
x
×
公園
Civil
School Children Park
ゾーニングを仕切るように 建築を挿入
1 万㎡に散らばる人々の よりべとする。
プログラムの相関関係 YAMASHINA
建築部分のプログラムは大まかに分けて、
農地バンク
・市場
農家
・研究と農業企業系のオフィス
SITE
・農学校と就農 / 営農支援 ・子ども施設 ・図書館とレストラン
になる。 農協 / 農地バンク窓口
RE PROGRAM
O (就農・営農支援) C
近くにあって老朽化の進む農協や青物市場の移転、 近くの保育園の取り組む農業系ワークショップとの連携も
農業図書館
幼稚園
計画している。
こども 図書館
他にも、市外の農家が市場に出品したり、 近隣にある京都薬大や日本新薬の植物園と連携するなど、
こども
市民農園
ホームセンター
食堂
市民 セミナー
こども
農学校
内に閉じないようにプログラムを選択した。
農園
農業関連 メーカー
都市の持つ空き家問題(土地最小分譲問題)だけでなく、 農村部の農業の継ぎ手不足の問題にも答えていくために、 植物工場や研究所など農業全般のプログラムを入れる。
ホール
農学校 農場
研究所
市場 直売所
植物工場
研究農場
レストラン
京都薬大 * 円の大きさは面積に比例せず、交わり方を重視。
日本新薬
研究所
土と付き合う 建築
敷地中央の建築は農作業ができる広いピロティを持つ。 土地とのレベル差をどれくらいとるか、
レベル差がなく、土があがってしまいそうな場所は
テクスチャをどれにするかを検討し、土と付き合う建築を作る。
砂利にして靴裏の土が落ちるようにする。
砂利
オフィス
総合倉庫 コンクリート 金鏝仕上げ
φ=30mm
研究農園
作業場 農学校 倉庫
職員室
直売所 2
パン屋
農協 / 就農センター
青果市場
市民セミナー
ホール ホワイエ
植物工場 タイル 仕上げ
腐葉土づくりのための 広葉樹林群
直売所 1 エントランス
泥や洗い水のある場所は 水で流しやすいタイル仕上げ
道の駅 食糧庫
こどもたちの田んぼ
幼稚園
は
農学校研修農場 こどもたちの畑
素材はコンクリートだが、 微勾配のスロープで土のあがりを調整する。
レベル差をつけて 農作業や泥遊びができる場所をつくる。 農学校作業小屋
タイルばりの場所は水が貯まる仕組み。 幼稚園 お遊戯室
図書館 レストラン入口
子ども食堂 倉庫
道具屋 ホームセンター
ワークショップ キッチン 洗い場
味噌蔵
洗い場はレベルを下げて水を貯められる。
市民農園
S=1:1000 テクスチャと泥汚れの平面図
まずはたべることから。 最近できた農業施設にはスーパーよりも安い野菜が並んでいた。 どうやらここの農学校の生徒さんの作った野菜や、地元の農家さ ん、市民農園の野菜も売っているらしい。 直売所を見ていると、「そのキャベツ、私がつくったの!」と おばあちゃんが声をかけてくれた。
刑務所のエントランスを生かし、市場や道の駅のような直売所に。 施設内外で採れた野菜を販売し、住宅地の大きな食料庫としてま ずは住人の胃袋を掴む。
青果市場 敷地の 600m先にある老朽化した青果市場を移転 FL=GL+3600 ホールステージ
ホール 楽屋
倉庫
青果市場 FL=GL-200
S=1:500 Hall+Market Section
FL=GL+3200
FL=GL+2400
作業用倉庫 FL=GL+2400
ホール
道の駅
冷凍庫
ホワイエ
スタッフ ルーム
食糧庫
FL=GL+2400
直売所 2 EV
FL=GL+2200
GL+2000
GL+2600
GL+1800
直売所 1 FL=GL+2000
腐葉土づくりのための
倉庫 倉庫
倉庫
広葉樹林群
S=1:750 マーケット平面図
植物工場 FL=GL+2400
前室
FL=GL+2200
EV 溶媒 リサイクル所
食糧庫
包装室
FL=GL+2600
研究農場
GL+2200
エントランス GL+1000
研究農場と塀 エントランスを進むと、見覚えのある塀に窓があいていて 窓から研究農場が見える。 普段、人のいないところでひっそりと作られる研究の場を、 安全かつなるべく多くの人の目に触れる場に置くことで、 研究と生活をもっと近い存在にしていく。
S=1:600 研究分野 平面図
研究農場
研究農場
FL=GL+2200
GL+4000
植物工場 直売所
植物工場 オフィス GL+3000
FL=GL+2600
FL=GL+2800
農業系企業 オフィス FL=GL+3000
研究所 FL=GL+3000
農学校倉庫
研究所作業場
下足棚 FL=GL+2800
GL+2600
FL=GL+2600
農学校の畑
薬品棚 道具棚
FL=GL+2800
都会で働き、住宅地に住む人たちは初め、土の扱いがさっぱりわからないだろう。
土との親しみ方を学ぶ。
市民農園や農業バンクの窓口となる農協のそばに、テクスチャやレベルに気を付けた土間のような作業空間を設計し、 農学校の先生や農協を訪れる農家さんとコミュニケーションをとれるようにする。生業について、人はおしゃべりになるものだから。
医務室
農業系企業
FL=GL+2600
FL=GL+2800
オフィス FL=GL+3000
市民 セミナー 職員室 GL+2600
農学校倉庫 FL=GL+2600 GL+2000
下足棚 FL=GL+2800
作業場
GL+2200
FL=GL+2600
市民農園 FL=GL+2400
大型農業車両駐車場
GL+1800
FL=GL+2600
ATM
パン屋
FL=GL+2400
農学校の畑
FL=GL+2400
農協 就農センター FL=GL+2200
FL=GL+2000 GL+2000
S=1:500 農学校平面図
土が建築を這い上がるように。
都市農業を始めていくと、ベランダや屋内で土を育てていく人もいるはず。 テラスをはじめとして GL 以外にも土が扱える場を設計し、土が地面から這い上がるようにした。
農学校一般教室
農業系企業オフィス
週に何度か行われる授業。
実験用テラスのある、気持ちの良いオフィス。
農業実習生や就農予定の人がメイン
タキイ種苗など京都の農業メーカーから ベンチャーまで幅広く扱う。
市民セミナー 作業場の近くで行うことで 聞くつもりのない人も 耳を傾けてしまうような空間に
農学校の農場
市民農園 タイル張りの作業場。 コアの FL より下げることで汚れを上げにくくする。
基本的には建築部分と農地は 200 ㎜以上 高低差を付けてある
S=1:400 農学校断面図
市民農園と塀 敷地の中央を貫く 40 mの帯が建築部分のコアであるのと同様に、 塀は農場部分をサポートし、形成するコアになる。 外環状線に近い西側の塀は市民農園の真ん中で 利用者の農業生活をサポートしていく。
S=1:400 市民農園の塀 平面図
井戸端会議をもう一度 農業するための道具を借りれる道具屋さんの前には、 FL を下げたところに水場を設け、土の汚れを落とす場所を計画する。 少し前まで山科に残っていた、野菜洗い場を思い起こすように 井戸端を作る。
1F はこのほかに味噌づくりなどを行うワークショップキッチンなど、 土に近いプログラムを置き、2F にはレストラン・3F には農業図書館 といった、土のグラデーションを作りながら設計した。
育てて、採って、食べる。 敷地の一番南側、比較的車も少なく公園も付設されている部分には こどもたちのためのプログラム(幼稚園・児童館・子ども図書館)が入っている。 農学校の大人たちの手を借りながら、食育・土の力を学ぶ教育をおこなっていく。
山科の住人の多くは共働き世帯で、敷地周辺にも多数のこども園や保育園があり、そういったこども たちが集まって食事のできる子ども食堂をプロティに設計した。 レストランは土との分離を図って 2F に計画したが、こどもたちには自分たちで耕した畑のそばで、 土の薫りを感じながら食べてほしいという思いを込めて、ここに計画した。
FL=GL+1400
キッチン
GL=1000
時計台 FL=GL+600
FL=GL+400
味噌蔵
FL=GL+1600
幼稚園 お遊戯室
幼稚園
GL=-200
市民農園
GL=2400
倉庫
FL=GL+600
GL=200
児童館入口
FL=GL±0
こどもたちの畑
こどもたちの田んぼ
FL=GL+600
子ども食堂 基準 GL=0
FL=GL+200
こどもたちの畑
こどもたちの畑
GL=-1000
S=1:800 こども棟平面図
児童公園(元刑務所所有)
研究所 土汚れのおこる壁の素材はガルバリウム鋼板 土の色を反射して風景になじみつつ、
幼稚園教室
「かっこいい農業」の姿を作る。
縁側から靴を脱いで上がる仕組み。 屋上市民セミナー
すぐ近くに足洗い場を作る。
丘 塀に加えた操作の一つ。 全体を見渡す場所を持つことは 畑と街並みに愛着をもつことにつながる。
畑 自分の作った野菜なら食べてくれるかもしれない。
水田
土間の作業場
東側の塀の上から水路を回して水田に。 いきものが豊かな場所を作る。
S=1:700 南立面図
卒業設計 / 農業複合施設 私は山科に実家があり、部屋の窓から見えるお向かいの田んぼを見て育ちました。 駅もスーパーも近い都会的な場所である一方、学校帰りに 水路でザリガニを捕まえ、家の鉢植えにはカエルが冬眠しにくる生活です。お向かいが田んぼでなくなった夏の夜、あれほど煩かったカエルの合 唱が聞こえなくて悲しくなったことを設計しながら思い出しました。いま思い返せば、お向かいの田んぼのことや 小学生の時に自転車で走り回っ た道端の田んぼや畑がパステルカラーの建売住宅群になったときに感じた絶望が、設計の根底にあるのかもしれません。
今まで感じてきたものや洛中へのコンプレックスが絡み合ってできたこの作品は、結果的に人口減少していく街での空き家問題という社会問題 を解いた形になりますが、大変まわりくどいアプローチだと自覚しています。 元々、人口減少していく街の刑務所跡地に集合住宅やショッピングセンターをつくるのに「ちがうやろ!」と思って始めた計画でした。 (「京都盆地の真ん中が御所なら、山科盆地の真ん中には農地だろう」という直感から図面を書きだしました。) 設計していくうちに、刑務所だから嫌われるのではないこと、空き家問題は単に空き家を魅力的にリノベして継ぎ手をつくれば解決するはずな いということ、農業は田舎のものだけではなくむしろ消費地である住宅地にこそあるべきではないかという主張を自分の中に発見し、設計として まとめ上げました。
お向かいの畑。昔は全部田んぼだった。
Thank You For Viewing my Portfolio!!