ゴルフ場ターフ管理 様々な作業の意義を知る
バン・クライン ターフ先進技術研究所 農学博士
Toro U. Asia 2007
ミネソタ
アイオワ
米国の農業地帯 アイオワ州の出身
バン・クライン 教育背景: 学士 森林学(アイオワ州立大学) 修士 造園設計(アイオワ州立大学) 博士 園芸学(芝草科学;ミネソタ大学)
グリーンキーパーの 第一の仕事って…??? クオリティーの高いプレーイング環境を維持すること。 … クオリティーの高いターフを育てること
すなわち根本的に 農学にかかわる 課題である。 キーパーの仕事には多くの側面があるが、つまるところ 良いターフを作れる かで評価が決まる。他のすべてはこの目標を達成する手段である。
現代のグリーンキーパーは: • 芝草と土壌の管理について深い 知識をもった 農学専門家 でな ければならない。 • 予算の計画管理ができる ビジ ネスマネージャ でなければ ならない。 • 組織を率いる力、 人の管理者 でなければならない。 • クラブのメンバーや経営陣とのよ き 意思疎通者 でなければな らない。 • クラブの経営陣やメンバーに対 する 教育者 でなければならな い。
• 環境へのよき理解者 でなけ ればならない。
ターフは生態系である… • • • •
ターフには成長周期がある 環境の変化 – 天候 – に敏感である 手入れをしてから反応がでるまでに時間がかかる 防除の必要な天敵が存在する – 病気 , 雑草 , 害虫
ターフ管理は3つの要素の組み合わせ: • 植物科学 • 土壌科学 • 病理学と昆虫学(病気と害虫の科学)
ターフの実態は植物・土壌系である ターフ管理作業の多くは、実際には 土壌の管理作業である。健康な土 壌が健康なターフを育てるのだ。
CO2
光合成
O2
植物がエネルギーを作り出す方法である 生き物を支えるすべてのエネルギーが、光合成を 通じて生物圏に入ってくる 大気中の炭素を固定する化学過程である CO2 + H20 + 光エネルギー
(CH2O) + O2
ターフでの光合成を妨げる要素: • 低刈り • 水と温度のストレス • 土壌の固結 • 栄養不良 • 日陰 H2O
ストレスとなるものは何でも
CO2 O2
CO2
O2
O2
呼吸 呼吸 は、光合成で作り出したエネルギー(糖分)を、 成長 、維持、傷からの回復、そして繁殖のために消費する過程 である。 光合成 燃料(糖分)を生産 呼吸 燃料を燃やす
O2 CO2
CO2
O2
成長 は、ターフの活力維持、品質、ストレスからの回復の ために重要である。芝草は、成長によって芝のすりきれ、 刈り込み、病気などのストレスを克服する。
燃料生産(光合成)と燃料消費(呼吸を媒介としての 成長)のよいバランスを維持することが管理の目的で ある。
呼吸過多を助長する要素 • • • • • •
チッソ肥料のやりすぎ 刈り込みなどによる傷 真夏の過酷な作業(エアレーション、バーチカット) 通行(踏みつけ) 病気 夏バテしやすい環境
植物の生理学 (植物体内部での)エネルギー生産とエネルギー消費の良いバランスを維持し てやることが、ターフの質を長期的に高く維持するコツ… ..
植物が 生産する エネルギー
植物が 消費する エネルギー
年間成長サイクル 寒地型( C3 )芝草 相対的な成長
• • • • •
4月
ケンタッキー・ブルーグラス スズメノカタビラ ベントグラス ペレニアルライグラス フェスク
10月
葉茎の成長
根の成長
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
Relative Growth
暖地型( C4 )芝草 • • • •
Jan
8月
9月
10 月
葉茎の成長
バミューダグラス ゾイシアグラス(日本芝) シーショア・パスパラム セント・オーガスチン
11 月
12 月
4月
10月
根の成長
Feb
Mar
Apr
May
June
July
Aug
Sept
Oct
Nov
Dec
土壌 • ターフ管理は植物管理であると同時に土の管理である。 • 健康な土壌に健康なターフが育つ。
さまざまな土質 組成によって : • • • •
• • • •
固結や 通気や 通水性・保水性や 沃度が異なる
100%
40% 30% 20% 10%
(と有機質)の土壌
固結しやすい 通水性や排水性が悪い 保水力が大きい 肥沃度が高い
40%
Clay Silty Clay
Sandy Clay
Sandy Clay Loam
• • • •
30%
70%
50%
粘土質
20%
80%
% 粘土
固結しにくい 通水性・排水性が高い 保水力が低い 肥沃度が低い
10%
90%
60%
砂の多い土壌
Clay Loam
50% %
Silty Clay Loam
シルト
60% 70% 80%
Loam
Sandy Loam Loamy Sand Sand
Silt Loam
90% Silt
100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10%
% 砂
100%
砂
シルト
粘土 & 有機質
土質 不均一性 ゴルフ場の土は一様でないことが 非 常に多く、それが管理を難しく複雑な ものにしている。
Sand
Silt
Clay
ターフ管理作業のいろいろ:
刈り込み & グルーミング 病虫害防除 散水 施肥 エアレーション 目土散布
ターフ管理作業のいろいろ: 病害防除 雑草防除 虫害防除 冠部 サッチ
施肥 散水
刈り込み グルーミング 目土散布 バーチカット エアレーション
土壌 (根圏)
排水
ターフ管理作業のいろいろ: 作業頻度でみると 刈り込み 毎日 グルーミング 散水 7-14 日
施肥 目土散布 病害防除
必要に応じて 雑草防除 虫害防除 シーズンに 1-4 回 バーチカット エアレーション 排水
刈り込み
• 最も目につく管理作業 • きちんと手入れされているという印象を出すために一番重要な作業
刈り込みがターフに与える影響
刈り込みはストレスである 刈り込み(=葉を取られる)は植物に何の利益ももたらさな 鋭利な刃 ―い葉の組織を取り除いて光合成を減らす ― 根の量を減らし、根の深さを浅くする ― 傷ついた組織は脱水しやすく、菌にも感染しやすい
鈍い刃
刈り込みはターフのクオリティを上げ + る芝草の密度を高める
+
葉を細くしてきめの細かいターフを作る
鋭利な刃で刈 ることが絶対に 必要 !!!
グルーミング & ブラシ掛け • 芝目を減らす • 葉を立たせてクリーンなカットを実現し、より均一なプレー面を作る • ほふく茎を切断する
芝目
ベントグラスのほふく茎
コアリング
コアリングはターフ管理のなかで一番重要な耕種作業である !!! CO2
CO2
O2 O2 2. 固結をやわらげる 1. ルートゾーンから有機物を 除去する
6. 層状化をやわらげる
7. ルートゾーンの土 質を改善する(目土 散布との組合わせ)
H2O
3. ガス交換を促進する 4. 排水を改善する
8. 新根の成長を促 進させる
5. サッチを減らす
9. オーバーシードや更新の 助けとなる
エアレーションはガス交換促進の ために真夏のストレス期にも行わ れる:
• クワッド・タイン
• 水噴射エアレーション • スライシングや • スパイキング
長いタインによる深耕
• 通常のエアレーションによって作られた地
~10 cm
下の固結層(カルチベーション・パン)を、 深耕によって破壊する。
「カルチベーション・パン」
エアレーション 4月
5月
6月
Flowering & seed production
コアリング 太いタイン
の時期 7月
8月
むくタイン , スライシン グ 水噴射エアレー
ション 細いタイン
9月
10 月
コアリング 太いタイン
夏のエアレーションはガス交換を助けつつターフを傷つけないことが大切
目砂の散布
• サッチの分解・抑制に効果 • ルートゾーンに砂成分を補給 • 盛り土グリーンではこれを繰り返して土質を転換し固結と排水を改善 • •
する グリーン表面を滑らかにする 根の成長を促進する
珪砂 洗い砂 90:10 混合
(洗い砂 + 10% ピートモス)
スピンタイプ
目土散布 2 つの方法
軽い頻繁な 目土散布( 7-14 日間隔)を、 成長期を通じて行うことがグリーンでは普通 に
ドロップタイプ
厚まき コアリングの穴を埋め戻すため に行われる
フェアウェイでの目土散布も一般化しつつある
施肥 (栄養管理)
肥料のタイプ 1 )顆粒 & 液肥 2 )即効性(可溶性) & 遅効性
顆粒剤の利点 • 量を多く、回数を少なくできる • 調合の必要がない • 遅効性肥料はすぐ手に入る
液肥の利点 • 量の調整がしやすく、頻繁な少量投与( スプーンフィーディング)に有利 • 少量でも均一に撒ける • 一部の粒剤に見られるような分離の問 題がない • 取り扱いが容易(濃縮液)
葉身分析:典型的な数値
微量栄養素
主栄養素
必須 栄養素
N P K S Ca Mg Fe Zn Mn Cu B Mo Cl
合計 C H + O
ベントグラス バミューダグラス (n = 30)
(n = 88)
5.11 % 0.52 2.05 0.66 0.48 0.25
4.34 % 0.46 1.25 0.49 0.47 0.16
353.90 ppm * 227.58 ppm 73.30 66.80 91.93 107.47 29.83 20.69 5.10 5.59 4.67 2.49 9.07 % 49.37 % 41.56 %
7.17 % 50.99 % 41.84 % * 10,000 ppm = 1%
N, P , K はターフに肥料として投与する 栄養素の中で最も重要 Ca, Mg, Mn, Fe もサンド土壌では不足 しがちとなる
*
成長 色出し ストレス耐性
N N, Fe, Mg, S K, Ca
土壌の 沃度の違い
有機物 粘土 砂
2.0% 0.8% 96.5%
6.3% 7.8% 84.9%
どんな施肥をすべきか:暖地型草種の場合 Relative Growth
暖地型( C4 )草種 葉茎の成長
4月
• • • • •
バミューダグラス ゾイシアグラス(日本芝) センティピードグラス シーショアパスパラム セントオーガスチングラス
根の成長
1月
• • • • • • • • •
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月 11 月
12 月
休眠から目覚める時期の N 投与を避ける。 芝草は光合成を増やすために葉茎の成長に専念している。 根はじっくりと回復を図っている。 早い時期に過度な N 投与を行うと根の成長を遅らせる。 また、早い時期に葉を太らせてしまうと遅霜などで大きな害がでる。 第一回目の N 投与の目安は緑化から 30 日後。 N に対して P と K が強化されているスタータータイプの肥料がよい。 真夏の成長期にはたっぷりと N を与える。 晩夏と秋には K を与えて低温への耐性を高める。
10 月
どんな施肥をすべきか:暖地型草種の場合 相対的な成長度
寒地型( C3 )草種
April
• • • • •
ケンタッキーブルーグラス スズメノカタビラ ベントグラス ペレニアルライグラス フェスク October
葉茎の成長 根の成長
Jan
Feb
Mar
Apr
5月
June July
Aug
Sept Oct
Nov
Dec
• 春の N 過多を避ける。 • 葉の成長のために根の成長が犠牲にされ、夏のストレスを乗り切るのに必要なエネ ルギーの貯蓄ができなくなる。 • 真夏のストレス期に向かって K の投与を行う。 • P の投与は土壌分析の結果をみて行い、必要以上にならないようにする。 • 真夏の間は N の少量頻繁な散布によって成長力を維持する。 • 真夏の色落ちを防止するために Fe を投与するのも良い。 • 葉の成長が鈍り根の発達が活発な晩夏および秋には十分な量の N 投与を行う。 • N の年間投与量の ≈ 60 % を秋に行う。 • 晩秋の N 投与には可溶性の剤を使う。
散水 と 水管理
水やりは、アメリカのゴルフ場スーパーインテンデントが一番心 配している二つのうちの一つ 何が気になるか: 1. 用水の確保: 水資源保全の必要性 2. 水質の問題: 塩水を使う灌漑
水蒸気
発散 • 植物が吸収して消費する水の 99% まで は大気中に放出される • この発散の流れに乗って土壌中の栄養分 が葉に運ばれ、また植物の体が冷やされる
芝草は大量の水を必要とする 真夏の典型的な用水量
H2O H2O
H2O
H2O
土壌中の水分
• • • •
ティフウェイ(バミューダ) メイヤー(ゾイシア) ペンクロス(クリーピングベントグラス) メリオン(ケンタッキーブルーグラス)
5-7 mm/day 6-8 5-10 5-7
水やりの目標:
• 時間をあけた深い水やりがよい。ルートゾーン全体をぬらし、土が十分乾くま で次の水やりを行わない
... *• 根のトレーニング 時間間隔をあけた深い水やりは根を深いところまで成長させ水の「獲得力」を高める。 • 根は土壌の浅い層からまず吸水し、その後、徐々に深い部分へと水を求めてゆく。 • 根のトレーニングは根が勢いよく成長する春が好適期。水やりをできるだけ後ろに引き伸ばし、たっぷり散水 したら、今度は土が十分に乾くまで水やりを控える。
時間をおいた深い水や り
vs.
少量ずつの頻繁な水や り
… *• ターフへの条件付け「堅い」ターフ作り しおれる直前まで水やりを控えて、「堅い」環境で育てたターフはストレスに強い。
水のやりすぎが引き起こすさまざまな問題
根が浅くなる 水っぽい組織になる 病害が出やすい 固結しやすい コケの発生 藻類の発生 ブラックレイヤー
ターフの病害
• • • •
病気を引き起こすのは菌類 天候条件と強い関連性(高温多湿) 病原菌はいつでも存在 致命的な病気(ピシウムなど)や慢性的な病気(ダラースポット)など
ターフの病害
病害の程度は「管理」程度に比例する (手間をかける場所=病害が出やすい) • 庭の芝生よりもゴルフ場ターフが病気に罹りやすい • ラフよりもグリーンの方が病気に罹りやすい
Tee
ラフ:一番病気になりにくい フェアウェイ:中程度 グリーン:一番弱い 刈高
グリーン フェアウェイ ラフ
固結
散水
栄養
/ -3/16”
high
high
3-5 lb. N
1 2
/ - 3/4”
mod.
mod. - high
2-3 lb. N
2”-3”
low
none - mod.
1-2 lb. N
1 8
病害
病害の好適条件 環境的条件 • • • • • • •
水分が多い(ぬれている) 湿度が高い 露がいつまでもある 温度 通気が悪い 日照が悪い 土が若い(造成後間もないグリーンで微生物バラ ンスが確立していない)
耕種的条件 病害の防除: • 耕種的手法 • 殺菌剤 予防散布 & 治療散布
• チッソ過多による水っぽい植物組織(ピシウム、 ブラウンパッチ) • チッソ不足(ダラースポット) • 散水過多 • 排水不良 • サッチ過多 • 低刈り • 頻繁な刈り込み • ひどい傷(切れ味の悪い刃、通行)
雑草
カタビラのターフに発生したハコベ… ..
雑草とは? 生えて欲しくないものはみな雑草… .. ベントグラスへのカタビラの侵入… ..
ゾイシアグラスに発生したメヒシバ… .. 雑草が侵入するには冠部にすきまが必要(資源なければ侵入できず) 雑草防除 • 勢いのあるターフを育てる • 除草剤
ターフの害虫 • 虫による直接の被害 • 虫を食べる動物がターフを荒らす被害
地虫類
• 虫は見えにくいので雑草よりも厄介 • 虫害の多くは幼虫によるもの • 現在の殺虫剤は有効期間が短い:正確な散布が重要
ケラ
カミアリ
シバツトガ
ネキリムシ
おしまい