包括的自由貿易協定: 日本にとってのメリットとは?

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trade policy brief

包括的自由貿易協定: 日本にとってのメリットとは?

2020年1月

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)により、 日本の実質所得は2030年ま でに労働者1人当たり490米ドル増加すると見込まれる。 EU経済連携協定(EPA)により、 日 日本の実質所得は2030年までに労働者1人当たり160米ドル~330米ドル 増加すると見込まれる G20参加国が関税、物品貿易を制限する非関税措置、サービス貿易の障壁について、既存の取り決めを超え た野心的かつ包括的な改革を実施した場合、その経済効果は個々の成果を足し合わせた場合を遥かに上回 り、 日本のGDPは6%余り押し上げられると推計される。

論点について 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定 (CPTPP) と日EU経済連携協定(EPA)が発効し、日本は、国内外 で新たな経済的機会を広げる真の意味でのグローバルプレイヤ ーとしての地位を確立した。 この2つの協定の締約国として、 日本 は一挙に開かれた市場アクセスがもたらすメリットを輸出と輸 入の両面で享受している。各締約国のGDPは合計で27兆米ドル を超え、世界全体のGDPの3割強を占めるが、 この数字は新たな 日米貿易協定の実施によって、2倍近くまで伸びるであろう。 CPTPPによって、すでに多くの関税分類品目の関税が引き下げ られており、今後15年の間に関税分類品目の99%について関税 が撤廃されることになる。また、モノ・サービス・投資に対する規 制を含む国内政策に対するコミットメントは、今後、一段と重要 性を増すことになり、労働問題や環境問題などへの対応も始ま っている。 日EU・EPAについては、EUは最終的に関税分類品目の 99%、 日本は94%について関税を撤廃することになり、 これに向 けた関税の引き下げは、すでに多くの品目について実施されて いる。 以上をまとめると、2つの協定に基づくコミットメントが日本の消 費者と企業にもたらすメリットは、関税や国内政策による貿易制 限によって負担させられることが多い不必要な貿易コストの削 減ということになろう。CPTPPと日EU・EPAが締約国および非署名 国・企業に及ぼしている実際の影響について、最終的な判断には 時期尚早ではあるものの、事例証拠、初期データからは、締約国 間の貿易が堅調に推移していることが伺える。

CPTPPと日EU・EPAに期待すべき日本のメリ ットとは? 消費者にとってのメリットは、輸入品価格が低下することと、やが

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てそれが国内産品にも及ぶことである。価格が低下すれば、購買 力が上がり、実質所得は上昇し、需要を押し上げる。 また、選択の 幅が増えるというメリットもある。発効からまだ1年が経過してい ないが、協定に基づく当初のコミットメントによって、 日本のモノ の輸入量は増加しており、日本の消費者は、 これまでよりも低価 格で輸入品を購入することができる。 日本の企業にとってのメリットとして、海外市場へのアクセス拡大 と、それに伴う輸出増加が期待される。輸出が増えれば生産が拡 大し、企業の利益と従業員の賃金の両方が上昇する可能性があ る。 しかし、企業にとってのメリットは、何といってもグローバルに 分断されているバリューチェーンにおける貿易障壁の削減であ る。パーツや部品の貿易で摩擦が少なくなれば、サプライチェー ンを構築するコストはそれだけ下がるからだ。 この点において関 税の問題は重要であるが、それ以上に重要なのが、モノに影響 を及ぼす非関税措置(NTM) とサービス/投資の流れを妨げる 規制に伴う不必要な貿易コストの削減である。 CPTPPおよび日EU・EPAが完全に実施されると、日本の労働者1 人当たりの実質所得は、それぞれ490米ドルと330米ドルも増加 すると見込まれる。

括的自由貿易協定の重要性とは? OECDの分析によって、包括的に貿易コストの削減に取り組む国 が増えると、共有するメリットがそれだけ拡大することも明らか になった •

より多くの国が包括的改革に取り組むことで、市場機会は広 がり、特恵貿易協定によって不可避的に生じる貿易転換効 果は減少する。また、貿易の統合によって生産ネットワーク に専従する機会が広がることで、経済規模が大きい国・地域 のみならず小さい国・地域にもメリットがある。

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包括的自由貿易協定: 日本にとってのメリットとは? 包括的自由貿易協定のGDPへの影響(推計)

出所 :

OECD (2019).

OECDでは、G20参加国がモノの非関税措置に伴う不必要 な貿易コストを削減すると、国際貿易はG20参加国全体で 5.5%、世界全体で4%拡大すると推計している。

このシナリオによれば、日本が得られるメリットはG20の中 でも特に大きく、輸出入は約8%拡大する。自動車や電子機 器のバリューチェーンにおいて、中間製品の貿易の流動性 が高まることは、輸出全体の伸びを牽引する重要な要因で ある。 また、 日本のより価値の高い最終消費向け食品の輸出 も拡大するものと見込まれる。

G20参加国がモノに関する不必要な貿易コストを撤廃すれ ば、 日本のGDPは0.9%押し上げられることになるが、 これは G20全体で関税を撤廃した場合に予想される効果の3倍余 りである。

G20参加国がサービス貿易の障壁を欧州経済領域(EEA)構 成国の平均水準まで削減した場合、さらなる経済効果が実 現する可能性がある。 日本の場合にはサービス市場を開放 することにより、GDPはさらに0.8%押し上げられると思われ る。

モノとサービスの非関税措置に伴う貿易コストを削減し、残 りの関税も撤廃する包括的な改革を断行すれば、G20参加 国の貿易は20%余り拡大すると見込まれる。貿易の拡大は、 あらゆる地域の競争力と効率性に直接影響を及ぼし、生産 性・GDP・労働者の所得が上昇する。 関税とモノ・サービスに対する規制に同時に取り組む包括 的かつ野心的な貿易政策改革によって、経済効果は個々の 成果を足し合わせた場合を遥かに上回ることになる。日本 のメリットは特に大きく、GDPを6%押し上げるものと見込 まれる。

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Further reading • European Commission Directorate-General for Trade (2018), THE ECONOMIC IMPACT OF THE EU-JAPAN ECONOMIC PARTNERSHIP AGREEMENT, https://trade.ec.europa.eu/docl ib/ docs/2018/july/ tradoc_157115.pdf • Felbermayr, G., F. Kimura, T. Okubo & M. Steininger (2019), ‘Quantifying the EU-Japan Economic Partnership Agreement’, Journal of the Japanese and International Economies, forthcoming. https:// www.eurasiareview. com/25022019-the-eu-japan-economicpartnership-agreement-and-the-revitalisationof-international-economic-liberal-order-analysis • OECD (2018), “Market Opening, Growth and Employment”, OECD Trade Policy Papers, No. 214, OECD Publishing, Paris, https://doi. org/10.1787/8a34ce38- en • OECD (2019), Trade Policy and the Global Economy – Synopsis: The Case for Comprehensive Trade Policy Reform https:// issuu.com/oecd.publishing/docs/oecd-tradescenario-5-synopsis • Petri and Plummer (2019), China should join the new Trans-Pacific Partnership, Policy brief 19-1, Peterson Institute for International Economics. https://piie. com/system/files/documents/pb191.pdf

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