Cyclocross Photo-zine "Strings" season 2015-2016

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全神経を集中させ見つめるのはただ一点、

第1コーナーの入り口。

そこに誰よりも先に飛び込むために五感を研ぎ澄まし、

スタートの合図を待つ。

目の前に張られたコーステープの向こう側にいる

フォトグラファーなど、

視界には入らない。


ヘッドフォンでお気に入りの

アーティストの曲を聴きながら、

頭の中では試走で覚えた

コースのライン取りを何度もトレース。

同じ会場のどこかでウォーミングアップしている

ラ イ バ ル た ち と ど ん な 展 開 す る の か ――

ひたすらイメージして、プランを立てる。




BEFORE


THE RACE








IN


THE RACE


頑張っているのを、

全力を尽くすのを十分承知していても

「 が ん ば れ ー ! 」「 出 し 切 れ ー ! 」 と 叫 ん で し ま う の だ 。

持てるもの全てをかけ走る君の姿を目の前にすると、

そう叫ばずにはいられないのだ。


仲間の声が聞こえるか?

愛する者の祈りは届いているか?

彼ら、彼女らは、君のために

鳴り響くカウベルの音にかき消されぬよう、

声を張りあげ君を応援しているのだ。










JCX SERIES


茨城/小貝川リバーサイドパーク

#01

JCX


スタッフによって刈り取られ

た河川敷特有の茎の太い枯れ

草 は、 想 像 以 上 に ラ イ ダ ー の

連 休、 宇 都 宮 シ ク ロ

脚に負荷をかける。

月の

クロスエキシビジョンから

3

グっと来た。

シーズン開幕にこの濃さは

ト グ ラ フ ァ ー も 多 い は ず だ。

のライダー、ギャラリー、フォ

日間シクロクロスレース漬け

3

10


年連続JCXシリーズ開幕

とげる。

ドなコースへと見事な変貌を

る頃には水も引け、ハイスピー

と こ ろ が、 レ ー ス の 準 備 に 入

も水没してしまう。

強い台風の影響により無残に

催 が 近 づ く 季 節 に は、 勢 力 の

戦 の 会 場 と な っ た こ こ は、 開

2


関西/マイアミランド

#02

JCX



前 日 の 試 走 は 暖 か く、 会 場 の 名称から安易に想像してしま い が ち な 気 候 だ っ た が、 レ ー ス当日は強風。 湖面に波を立てて吹きつけて くる風は冷たく凶暴そのもの。 冷めたい風はライダーから体 温 を 奪 い 取 り、 湖 畔 に 広 が る 砂浜は容赦なくその脚を削る。 少しでも硬いラインを見切る な ら、 水 辺 ぎ り ぎ り の ラ イ ン を選択せざるを得ない。時折、 波が打ち寄せ水しぶきが体に 跳 ね る。 こ の 砂 は、 こ の 先 続 くJCXシリーズのごく一部 でしかないのだ。

#


東北/猪苗代湖天神浜

#03

JCX



月になると朝の気温が一気に下がっ

スを高速化させた。

アミランドよりも乗車率は高く、レー

まっており、湖畔のセクションもマイ

う 砂 の 質。 防 風 林 の 中 の 砂 は 固 く 締

前週のマイアミランドとはまったく違

がした。

シーズンが加速度的に濃厚になる予感

を刺す空気の冷たさは、シクロクロス

た。猪苗代湖の湖畔で感じたキンと肌

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関西/マキノ高原

#04

JCX



メタセコイヤの並木は、賑わう観光客

を静かに眺め、

しなやかに伸びた芝

は、その先のレース会

場を覆いつくす。

なだらかな傾斜にセッ

ティングされたコース

は、ライダーにひたすら踏み続けるこ

とを要求する。もっと踏め、もっと踏

めと。

漕がずとも、どんどん加速する下り勾

配の先には、高速コーナーが待ち構え

る。タイヤのグリップをどこまで信じ

てバイクを倒しこめるのか、勇気を試

された。


Rapha SUPERCROSS NOBEYAMA

#05/6

JCX


かなりスキャンダラスな話題だった。

滝沢牧場には泥がなかった――これは

あまりの晴天続きのせいで、この年の

も 多 い の で は な い だ ろ う か。 し か し、

用のスタッドレスタイヤに交換した人

野辺山に向かうために車のタイヤを冬

は例年通り早々と売り切れた。

に 1 0 0 0 人 を 超 え、 名 物 の「 泥 T 」

クロス。2日間での出走ライダーは悠

と呼んでも過言ではない野辺山シクロ

もはや国内最大のシクロクロスの祭典

#




東海/ワイルドネイチャープラザ

#07

JCX


チャンスを与える。

ル に ア ド バ ン テ ー ジ を 与 え、 後 続 に

たった一度の過ちは、先行するライバ

ちをあせらせる。そしてミスを誘発。

フォームはバイクを進めなくし、気持

フ ォ ー ム が 前 の め り に な り、 そ の

い 取 る。 疲 れ て く る と ラ イ デ ィ ン グ

砂は間違いなくライダーの体力を奪

いるようだ。

に、 『日本のコクサイデ』と言われて

砂の下りセクションなどがあるため

砂の多さに圧倒される。

砂、砂、砂――100%砂。あまりの

#


湘南/中井中央公園

#08

JCX


#



走ることを諦めさせてしまうほどの長

い階段。

どこまで乗って登って行けるのか自分

を試したくなるキャンバー。

一瞬の迷いが即座にクラッシュに繋が

る固い砂のフラットコーナー。そして

勇気を試される高速ダウンヒル。

ここには不思議と全部揃っている。獲

得標高を考えたらJCXシリーズでは

一番。その割には1周のラップタイム

が恐ろしく早く、女子は8周、男子は

周もさせられた。

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宇都宮/道の駅ろまんちっく村

#09

JCX


で見るワー YOUTUBE

はみんな知っている。それが宇都宮だ。

チームのブリッツェン所属選手の名前

ロクロスレースは知らなくても、地元

ルドカップかのように錯覚する。シク

さ は、 ま る で

キャンバーセクションに集う観衆の多

宮にはある。

がこうだったらいいのに……」が宇都

「国内のすべてのシクロクロスレース

係者の人だかり。

スタート直前の選手に群がるプレス関

る観客の人数。

スタートやゴールのコース脇に詰め寄

いる。

宇都宮は自転車レースが街に浸透して

#




中国/広島中央森林公園

#10

JCX


#


年ぶりの大寒波がやってくる」

時には気象条件に左右される時があ る。「

呼んでも良かろう。

き た 者 は、 会 場 に 着 い た 時 点 で 勝 者 と

……。 な ん の 確 証 も な い ま ま 遠 征 し て

も道路が通行止めになってしまったら

帰 り の 便 は 飛 ぶ の だ ろ う か ……。 も し

組のタイヤの跡が数本のみ。

場 に 向 か う 道 路 に は、 ホ テ ル か ら 自 走

が 鳴 り 響 く。 う っ す ら と 雪 が 積 も り 会

時折離着陸する旅客機のエンジンの音

コ ー ス は 強 風 を 遮 る も の が 一 切 な く、

広島空港に隣接する公園に設定された

た。

象情報サイトではそう警戒を促してい

「最低でも3日分の食料の確保を」気

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東京/ CYCLOCROSS TOKYO

#11

JCX


#




ここの砂はどこの砂とも似ていない。

JCXシリーズを締めくくる最後の砂

は、さらさらとして歩くことすら困ら

せる。

春の知らせを運んできた嵐は、コース

に気まぐれな魔法をかけた。

初日、乗車困難な区間が長かった乾い

た砂地は、アスファルトの様に硬くさ

せ、軽快に乗れたはずの森林セクショ

ンをヌタヌタの泥と化した――。

過去最高の観客動員の中、若き女王は

圧倒的な実力差を見せつけ、ナショナ

ルチャンプとシリーズチャンプの二人

は見せ場を作り、日本一華やかなレー

スを演出し盛り上げた。





AFTER


THE RACE










自分の求める結果を得られず、

呆然と座り込むライダーもいる。

ハンドルにもたれ掛かり、

トップチューブを眺めて静かに涙を流す。

悔しさのあまり怒りに任せて

バイクを放り出すことも。

フ ィ ニ ッ シ ュ ラ イ ン の 向 こ う に は ――

光と影が同居する。


フィニッシュラインを通過し

レースを終えると、

数十分前に肩をぶつけ合いながら

スタートした者同士は、

ただシクロクロスが好きというだけの

自転車仲間に戻る。

眩しそうにお互いの健闘を

握手で称えあう。

勝利を仲間に祝ってもらう者もいれば、






BI KE P


メカニックによって完璧に整備され 綺麗に磨き上げられたバイクは、 整然とバイクラックに並べ掛けられ、静かに決戦の時を待つ。 これから向かう戦いの場がドライであっても、泥であっても、砂であっても、 己の輝きを最大限放ち、存在を静かに熱くアピールしている。 ウォーミングアップが終わりスタートを待つ間も、 ライダーの身体を支え静かに待つ。 目指すのはホールショットか、誰よりも先にラップを重ねゴールすることか……。 その思いはライダーとシンクロしているはずだ。

PO RN




COU R S E P O RN






芝、泥、砂、コースは誰をも拒まない。 時折、雨や雪、 そして冷たい風をトッピングして ライダーを迎え入れる。 「さぁ走ってごらんなさい」 そんな母なる大地の声が ファインダー越しに聞こえる。 前日試走がドライだとしても、 レース当日も 同じコンディションとは限らない。 ひょっとしたら大雨かもしれない。 そんなときはこう考えよう。 1 度で 2 度美味しいと。 せっかく遠くまで レースしに来たのだから、 楽しまなきゃ損だ。 それに過酷なレースほど 終わった後の 爽快感は大きいはず。


このレースにはファンライドを 目的に来るライダーは一人もい ない。全員が年に一度のビッグ チャンスを掴もうとすべてを懸 けてやってくる。少しぐらい故 障していても無理をしてまで合 わ せ て く る ―― そ ん な レ ー ス だ 。 前夜激しく降り注いだ雨は強烈 なスパイスとなり、コースの味 付けを変えた。前日試走の時に 通過できたコーナーを乗れなく してしまい、下りの細かいター ンのブレーキングコントロール をシビアにする。 パワーもテクニックも必要とさ れたこの年のコースは、まさに 日本一を決めるにふさわしい コースだった。

N AT I O N A CHAMPIO


AL IONSHIP




GOAL SCEN


AL ENE


だからゴールは可能な限り派手に決めよう。 両手を広げて空を抱きかかえてもよし、 拳で何度も空を突き上げるもよい。 決してシレッとして通過してはいけない。

G OA L


SC E N E

ひとつのクラスにたった一人にしか許されない勝利の瞬間。 フィニッシュライン正面に陣取るフォトグラファーたちは、 その瞬間を逃すまいと ひたすらシャッターボタンを押し続ける。








EDITOR’S NOTE シクロクロスレースを撮り始めてから 5 年。 シーズンが始まる前から「このシーズンはちゃんと形に残そう」と決意していた。 自分の存在価値を確かめたいとか、 そんな挑戦的なことではない。 日本の自転車業界は広そうで、とても狭い。 ことレース関係になるとなおさら狭い。 誰かを通して必ず繋がっていると言っても過言ではなかろう。 5 年間現場に通って感じた。 シクロクロスは、特別に人間関係が強い。 無機質ではない何かで繋がっている。 目に見えないその繋いでいるものを表現するために、 この Photo-zine には“Strings”と名付けた。

決して自分の写真に自信があるわけではない。 型遅れの機材だし、カメラ、写真に対して ちゃんとした知識を持っているわけでもない。 常に自分に対して「オマエ、その写真撮れるのか?」と 問いかけながら撮影している。 『その写真』が撮れているかどうかは見る側の判断に委ねるしかないが、 ここに掲載した写真は、 現場の雰囲気をリアルに伝えられそうなショットをセレクトした。 シクロクロス、写真に関係なく“繋がり”から いろんな方々に手伝ってもらうことにより、 やっと形にすることができた。 ――出会ったすべての人々に感謝の気持ちを込めて――


E

CREDIT P h o t o a n d Te x t : S a t o s h i O d a Te x t E d i t i n g : S h i z u k a K u r i m o t o D e s i g n : Ta m i h i t o W a t a n a b e __ S p e c i a l T h a n k s __ W a k a Ta k e d a Noy'z Design Alisa Okazaki Masahiro "Kossy" Koshiyama







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