蝶々の基礎知識 蝶々は昆虫綱チョウ目に属する。台湾本島において記録さ れた蝶は約370種、そのうち台湾特有種は約50種、保護指定種 は5種。台湾は土地が狭いので高密度で多様な種類を発見でき ることから「蝶の王国」との美名がある。現在観察できる蝶は アゲハチョウ科・シロチョウ科・タテハチョウ科・シジミチョ ウ科・セセリチョウ科という五大分類だ。 アゲハチョウ科
体型上もっとも大型の蝶。台湾では約31種記 録。飛行する姿態がとても優雅で印象深い。大多 数は全身が黒色系。後翅に一本だけ臀脈がある。 側面からみると腹部全体が露出している。赤色の 花を好み、蜜を吸う。少数ながら尾状突起のない 種がある。台湾の「国蝶」といわれる「台湾 尾 鳳蝶(フトオアゲハ)」はこのアゲハチョウ科の 仲間だ。
茂林バタフライウオッチングマップ
紫蝶幽谷について
ルリマダラへのマーキング
蝶の一生には四つのステップがある:卵期・幼虫期・蛹期・ 成虫(いわゆる蝶々と呼ばれる)期。こうした循環する変化を生 活史と呼び、蝶々はこうしたステップを踏んで美しく舞う蝶々に なる。これを完全変態の昆虫という。
秋に入ると台湾本島には東北の季節風が吹き始める。熱帯 を起源とするルリマダラは南下を始め北回帰線以南で越冬に入 る。これらルリマダラの群れが越冬する谷を『紫蝶幽谷』と呼 ぶが、実際に台湾の地図に『紫蝶谷』と記載された場所が屏東 県三地門郷馬児村にある。おそらく昔から一群の黒蝶が越冬す ることが知られていたのだろう。当地が地図上で唯一発見でき る『紫蝶谷』である。
1937年にカナダの動物学者Frederick Urquhart(1912-2002
台湾の蝶々の種類は約370種(離島を除く)。各種蝶々の生 活史の時間は長短さまざま。なかには一か月という短いものもあ る。生態公園でよくみられるのが台湾で体型最小のシロチョウ科 のクロテンシロチョウだ。卵期約4日、幼虫約12日、蛹期約6 日、成虫期約6日。彼らは一年に繰り返し世代を交代するので四 季を通じてその姿を発見できる。紫蝶幽谷のルリマダラの寿命は 6-8か月。蝶々の仲間ではもっとも長寿の一種で、一年に3-4世 代が変わる。
ホリシャルリマダラ
Papilio bianor thrasymedes シロチョウ科
蝶々の生活史
マルバネルリマダラ
ルリマダラ
ツマムラサキマダラ
体型は中型。台湾では約38種記録。大多数は 中・南部に棲息。全身が鮮やかな白色あるいは 黄色で、日当たりのいい草地で活動し花を見つ けて蜜を吸う。大部分の幼虫は豆科・十字花科 の植物を食することから「菜虫」と呼ばれる。 南台湾の「黄蝶翠谷」の蝶々はシロチョウ科の 仲間が多い。
Euploea tulliolus koxinga シジミチョウ科
世界の二大蝶々谷といえば、一つはオオカバマダラが群れ をつくるメキシコのミチョアカン州、そしてもう一か所が、台 湾南部の紫蝶幽谷である。現在茂林地区にある紫蝶幽谷は約10 か所。最大100万匹のマダラチョウが越冬するといわれ、まさ に谷は紫色の宝石に覆われる。
紫蝶幽谷が形成される条件:
1.北回帰線以南(台南・高雄・屏東・台東)。 2.海拔500メートル以下。 3.環境良好な森林に覆われている。 4.付近に枯れた渓谷がある。 5.谷が南あるいは東南・西南方向に開けている。
Eurema brigitta hainana タテハチョウ科
紫蝶幽谷は蝶々が越冬する谷という意味で、もともと一つ の地名ではない。越冬する仲間には四種のルリマダラと二種の 青斑蝶(Tirumala limniace)が発見されており、少なくとも六 種ある。
体型の差異が大きいが全体に中・大型の蝶に属す る。台湾では約130種記録。島内の各種陸域に幅 広く棲息。大多数のタテハチョウ科の仲間は前足 が特化し外観上四本足で活動しているように見え る。全身が多様な色彩に輝く。日当たりのいい荒 地や草原を好むが、一部は森林や竹林に潜み、 腐った果実や動物の死骸および樹液を求めるもの がある。南台湾の「紫蝶幽谷」の蝶々はタテハ チョウ科の仲間が多い。
ルリマダラの食草
)が初めて蝶々にマーキングをおこなった。弱々しく見える 蝶々の羽にいろいろな方法でマーキングを試みたという。 台湾のマーキングはアルコール成分を含まないマーカーで コードを書いて放つ。もし野外でこのコードをもったルリマダ ラを見かけたり、写真に撮ったりしたときは、茂林国家風景区 管理処にそのルリマダラの寿命や来歴を問い合わせることがで きる。
Malaisia scandens
撮影種: Euploea tulliolus koxinga
Ficus irisana
撮影種: Euploea eunice hobosoni
Ficus nervosa
Ficus virgata
Gymnema sylvestre
Ficus formosana
撮影種: Euploea eunice hobosoni
マーキングに使用されるコードは二つの英文字と日にちを 組み合わせたもの。例えば「ML1010」とあれば、MLは茂林 を表わし、1010は十月十日を意味する。マーキングは訓練を 受けた保護ボランティアのみが執行できる。蝶がマーキングに より傷付いたりしないように注意が必要だ。
撮影種: Euploea eunice hobosoni
撮影種: Euploea sylvester swinhoei
撮影種: Euploea mulciber barsine
台湾のルリマダラマーキング作業は十年の歴史がある。い ずれも愛蝶家によって継承されてきた。すべてはルリマダラ生 態保護の目的でおこなわれる。この作業を通じて我々はルリマ ダラの寿命が6-8か月であること、遥か台北まで飛んでいるこ とがわかった。
Cryptolepis sinensis
Ficus sarmentosa var. henryi
Trachelospermum gracilipes
撮影種: Euploea mulciber barsine
撮影種: Euploea mulciber barsine
撮影種: Euploea mulciber barsine
Tylophora ovata
Heterostemma brownii
Dregea formosana yamazaki
撮影種: Ideopsis similis, Parantica aglea maghaba
体型が小型の蝶々。小さな身体に多数の翅背がつ き灰色を呈することから「小灰蝶」と呼ばれる。 台湾では約110種記録。日当たりのいい原っぱで 花の蜜や露水を求める。中高海拔の森林で活動す る小灰蝶の仲間は色が鮮やかで空飛ぶ緑の宝石と 呼ばれたりする。大部分の小灰蝶の触角はグレー で後翅外縁にニセ目と尾状突起がある。
Marsdenia tinctoria
体型は中・小型。台湾で約60種記録。色が地味 で飛行速度が速く、早朝や夕方に活動するので蛾 によく間違えられる。幼虫は虫巣を築き、餌を求 めるとき以外は巣の中に籠ったまま蛹となる。少 数ながら農作物を害することもある。
Asclepias curassavica
撮影種: Parantica swinhoei
撮影種: Tirumala septentronis, Parantica aglea maghaba
撮影種: Tirumala limniace limniace
Marsdenia formosana
Parsonsia laevigata
撮影種: Parantica sita niphonica
撮影種: Idea leuconoe clara
Heliophorus lia matsumurae セセリチョウ科
撮影種: Danaus chrysippus, Danaus plexippus
Cynanchum formosanum 撮影種: Danaus genutia
Cerbera manghas
撮影種: Euploea phaenareta juvia fruhstorfer
Tagiades cohaerens
マダラチョウの特色 台湾産のマダラチョウは計15種(二種はすでに絶滅)。分 類上はタテハチョウ科のマダラチョウ亜科に属している。その 共通した特色は以下の通り: 群れをつくって越冬
ルリマダラは熱帯を起源とする蝶々なので冬季には南部の暖かい 谷に集まる。彼らの限界気温は摂氏4度。正常に活動できるのは15度 以上。現在世界で、メキシコのオオカバマダラの越冬谷(ミチョアカ ン州)と台湾の紫蝶幽谷が彼らの二大越冬地として知られる。
茂林国家風景区管理処 08-7992221
幼虫の食べる若草
ルリマダラのメスは単葉の寄主植物(食草)に産卵する。ルリマダラ の幼虫は主に寄主植物の若葉および若芽を食餌するが、ホリシャルリマダラ の幼虫は桑科の盤龍木、マルバネルリマダラの幼虫は桑科の蘿摩(ラマ シ)・ホソバムクイヌビワ・ムクイヌビワ・九丁榕(Ficus nervosa)といった ガジュマル系の植物、ルリマダラの幼虫はガガイモ科の羊角藤(Gymnema sylvestre)、ツマムラサキマダラの幼虫は桑科の珍珠蓮(Ficus sarmentosa var. henryi)・台湾天仙果(Ficus formosana)、夾竹桃科のテイカカズラ、ガガイ モ科の隱鱗藤(Cryptolepis sinensis)を好む。台湾においてすでに絶滅したオ オルリマダラの幼虫はミフクラギ、カバマダラの幼虫はトウワタを食してい たという。
仮死
ルリマダラは仮死をもって天敵から逃れることが知られてい る。多くの動物・昆虫は死んだものは食べない。ルリマダラはとき に仮死状態になったり、環境に溶け込む保護色をなしたり、一種の 錯覚を利用した方法を駆使して敵から身を守っている。 ルリマダラ保護研究者によってこの「仮死」は特別な意味を 持っている。マーキング作業がスムーズに進むという意外な効果が あるからだ。
黄金蛹
ルリマダラの蛹(サナギ)は束になってぶら下がり、コガネムシ のように金属の光沢を放つ。ホリシャルリマダラは銀あるいは緑色、 マルバネルリマダラは鏡面のような黄金あるいは緑色、ルリマダラは 帯のある黄金色、ツマムラサキマダラはオレンジ色、オオゴマダラは 透明感のある黄金色を呈する。 ルリマダラの蛹は樹葉の下あるいは小枝の上で陽光に光りながら 風に揺れている。この金属的な光が天敵の捕食者を寄せ付けない。
Maolin National Scenic Area Headquarter
901 屏東県三地門郷賽嘉村賽嘉巷 120 号
ルリマダラの蜜源植物
Ehretia resinosa
Duranta repens
Stachytarpheta jamaicensis
Mikania micrantha
Wendlandia uvariifolia
Schefflera octophylla
Premna serratifolia
Eupatorium clematideum
Sambucus formosana
Chromolaena odorata
Mangifera indica
Litsea hypophaea
Tournefortia sarmentosa
Leea guineensis
Pisonia aculeata
http://www.maolin-nsa.gov.tw 賽嘉遊客センター 宝來遊客センター
08-7992221 07-6881001
茂林遊客センター
07-6801525
紫蝶 3D 視聴館
07-6801681
瑪家遊客センター
08-7991663
高雄市政府観光局 07-7995678 高雄市茂林区役所 07-6801045
バタフライウオッチング注意事項 観察時の装備: 双眼鏡・蝶々図鑑・虫眼鏡・カメラ・観察ボックス・ノート・帽子
有毒
・運動靴・リュック
ルリマダラの幼虫は桑科・ガガイモ科および夾竹桃科など白い 樹液のある植物を食餌する。これらの植物の樹液には「奮心配醣 体」CGs(Cardiac glycosides)と呼ばれるアルカリ性の有毒物が 含まれる。彼らは摂食過程で中毒をおこさないばかりか体内に濃縮 して貯蔵することができ、そのため外敵である捕食者から護られて いる。
観察時の決まり: 1.教学・学術研究目的を除き勝手に蝶を採集しない。 2.許可なくルリマダラ越冬谷地に入らない(一部に私有地あり)。 3.ガイドの指導に従い撮影と観察をすること。 4.環境の清潔を保ち、ごみを遺棄したり物を投げたりしない。 5.車両で紫蝶幽谷を通る場合は減速する。
幻色
ルリマダラの羽の色は大きく腹面の化学色(色素色)および背 面の物理色(構造色)に分けられる。背面の物理色の鱗片は光線や 観察者の角度によって見える色が変わることから「幻色」と呼ばれ る。幻色の原理は光線が下鱗片の溝状の部分にあたって偏向・分散 現象を引き起こすからで、プリズムの原理に相似する。腹面の化学 色にはこの現象はない。
警戒色
ルリマダラ幼虫の寡食性の昆虫である。食餌する寄主植物はい ずれもガガイモ科・夾竹桃科および桑科で、これらの植物にはCGs (Cardiac glycosides)という毒素が含まれる。彼らは摂食過程で 中毒をおこさないばかりか、体内に蓄え、鮮やかな色を見せること で捕食者に接近を警告する。自らを猛毒だと「警戒色」を発するの である。
毛筆器
ルリマダラのオスは、大多数のアゲハチョウ・小灰蝶あるいは セセリチョウ科の仲間と同様に、翅膀特定部位に発香鱗による性標 を具える。発香鱗は一種のフェロモンによってメスをひきつける仕 組み。毛筆器(フェロモン排出装置)はマダラチョウ亜科のオスに おいて特化した器官で、発香鱗と同様の作用をする。 紫蝶幽谷のマダラチョウたちは毛筆器が発する匂いに導かれて 集結する。求愛が大きな目的だが、天敵を近づけないよう強烈な臭 気を発することもある。
蝶の実況サイト
http://goo.gl/v0FZWB
版権:茂林国家風景区管理処 執筆・撮影/廖金山 図絵/連偉志 標本写真/蘇錦平 高雄市茂林区紫斑蝶生態保育促進会 制作
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