国際連合憲章の前文
われら連合国の人民は、 われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の 惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳および価値と男 女及び大小各国の同権とに関する信念を改めて確認し、正義と条約そ の他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる 条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上と を促進すること、 並びに、このために、 寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平 和および安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場 合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって 確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際 機構を用いることを決意して、 これらの目的を達成するために、 われらの努力を結集することに決定した。 よって、われらの各自の政府は、 サン・フランシスコ市に会合し、 全権委任状を示してそれが良好妥当であると 認められた代表者を通じて、 この国際連合憲章に同意したので、 ここに国際連合という国際機構を設ける。
はじめに 3
はじめに
世界は現在国連にとって好ましい方向に進んでいる。多国間協調主義 がこの相互依存の、グローバル化の世界にあって唯一の取るべき道であ ることについて、より多くの人々や政府が理解するようになった。自由、 正義および紛争の平和的解決、生活水準の向上、平等と寛容および人権、 こうした価値はすべて新しい時代の礎石であり、国際連合はそれを擁護 してきた。グローバル化を成功させるには、こうした価値を至上だとす る認識が不可欠である。 事実、国際連合が活動しなければならない環境とは、まさに複雑かつ グローバルな課題に満ちた世界である。こうした課題は、いかなる国も 一国だけでは解決できない。テロリズムや組織犯罪は国境を越えて行わ れる。エイズのような病気は全地球的に蔓延し、人々の生命を奪い、経 済活動を台無しにする。気候変動や環境の悪化は大きな課題であるが、 単に将来の世代に関わるだけの問題ではない。不平等や貧困は、またた く間に全地域を巻き込む不安定な情勢や紛争の原因となる。 国際連合は、こうした傾向を是正するために必要な全世界的な加盟国、 グローバルな実施能力、普遍的な正当性を持つ唯一の機関である。国連 の舞台は、さもなければ政治指導者たちが望みもしなければ、また望ん でも不可能のような方法で、互いの接触を実現する。国連の公平さは、 世界のもっとも困難な場所においての交渉や活動を可能にする。東南ア ジアで発生した津波の場合のように、災害が発生すると、国連要員はす でにその地にあっていつでも対応できる。また、10万人以上の国連平和 維持要員が4大陸に駐留し、その任務を効果的に遂行している。彼らは、 いかなる国の公務員よりもはるかに少ない給料で働いている。
4
今日、国際連合はその理想の実現に努めている。これまでにかなりの 成果があった。世界が国際連合に解決を期待するは、そのためである。 私たちは、それに対し、作業のための新しい、よりよい方法を見つけな ければならない。私たちは約束をより完全に果たすための方法を見つけ なければならない。私たちは新しいアプローチやアイデアに対して閉鎖 的であってはならない。同時にこれまでの伝統的な方法による物事の進 め方について疑問を抱く勇気を持たなければならない。そして、なかん ずく、世界中の一般の人々が国連を信頼し、今まで以上にその活動に携 わるようにしなければならない。 この『国際連合の基礎知識』は、国連の世界的規模の活動についての 理解を広めることを目的としている。同時に読者の皆さんがその活動に 参加するようになることを期待している。経験豊かな外交官ばかりでは なく、関心ある普通の人々にとっても簡潔かつ貴重な参考文献となるよ う意図したものである。国連システム内で使用される沢山の略語を分か りやすく説明し、かつそれを国連や関連機関が日常的に行う活動と結び 付けている。本冊子は国連の改革の問題をはじめ、国連の平和維持活動 の変化から人権機関の見直しの問題まで取り上げている。その一方で、 これらの変革を進める勢力について理解するための手がかりも提供して いる。 この冊子を通して世界中の読者が国際連合、その活動、その価値観に より以上に共感を覚えるようになるものと信じる。同時に、この冊子が 今後の困難な日々における貴重な必携の書として役立つよう願っている。
国際連合事務総長 潘基文
目 次 国際連合の基礎知識 BASIC FACTS ABOUT THE UNITED NATIONS CONTENTS
国際連合憲章の前文
1
はじめに――国際連合事務総長の序文
3
国際連合ウェブサイト(ホームページ)
16
主な略語表
18
第Ⅰ部 第1章 国際連合:その機構 国際連合憲章
25
目的と原則
26
加 盟 国
27
公 用 語
28
国連の機構
28
会
28
安全保障理事会
31
経済社会理事会
34
信託統治理事会
36
国際司法裁判所
37
事 務 局
39
事務総長
39
国連の予算
45
国連ファミリー
49
国連事務局
50
地域委員会
65
国際刑事裁判所
68
国連プログラムおよびその他の機関
70
専門機関およびその他の政府間機関
88
総
第Ⅱ部 第2章 国際の平和と安全 安全保障理事会
115
総
会
116
紛争予防
118
平和創造
118
平和維持
121
強制措置
128
裁
128
軍事行動の承認
131
制
131
平和構築 選挙支援
132
開発による平和構築
134
平和のための国連行動
134 134
アフリカ 南部アフリカ
134
大湖地域
137
西アフリカ
145
東アフリカ
154
州
162
アジア・太平洋
166
米
東
166
アフガニスタン
174
イ ラ ク
178
インドとパキスタン
184
タジキスタン
186
カンボジア
187
ミャンマー
188
中
ネパール
189
ブーゲンビル/パプア・ニューギニア
190
東ティモール
191
ヨーロッパ
192
キプロス
192
グルジア
194
バルカン諸国
194
軍
縮
199
軍縮機関
200
大量破壊兵器
203
通常兵器、信頼醸成および透明性
209
宇宙空間の平和利用
214
最近の情勢
220
第3章 経済社会開発 開発活動の調整
224
経済開発
227
政府開発援助
228
世界の国々の開発促進
231
開発のための融資
234
安定のための融資
236
投資と開発
238
貿易と開発
240
農業開発
244
工業開発
247
労
働
248
国際航空
250
国際海運
251
電気通信
254
国際郵便サービス
256
知的所有権
257
グローバルな統計
259
公共行政
259
開発のための科学技術
260 261
社会開発 ミレニアム開発目標の達成
265
貧困の削減
268
飢餓との闘い
268
保
健
274
人間居住
280
教
283
育
調査と訓練
285
人口と開発
288
ジェンダーの平等と女性のエンパワーメント
291
子どもの権利の促進
294
社会への統合
298
家
族
298
若
者
299
高 齢 者
300
先住民問題
302
障 害 者
303
非市民社会:犯罪、不正薬物、テロリズム
305
科学、文化、コミュニケーション
311
持続可能な開発
316
アジェンダ21
317
持続可能な開発に関する世界首脳会議
321
持続可能な開発のための融資
321
環境のための行動
322
気候変動と地球の温暖化
326
小さな島々
332
持続可能な森林管理
333
砂漠化防止
334
生物の多様性、汚染、過剰漁業
336
海洋環境の保全
338
気象、気候、水
340
天然資源とエネルギー
342
原子力の安全
347
第4章 人 権 人権文書
353
国際人権章典
353
経済的、社会的、文化的権利
355
市民的、政治的権利
356
その他の条約
358
その他の人権基準
361
人権関係機関
363
人権理事会
363
国連人権高等弁務官
366
人権の促進と擁護
368
発展の権利
370
食糧の権利
372
労働の権利
372
差別との闘い
374
アパルトヘイト
374
人種主義
375
女性の権利
376
子どもの権利
378
少数者の権利
379
先 住 民
380
障害を持つ人々
382
移住労働者
384
司法の運営 将来の優先課題
385 386
第5章 人道援助 人道援助活動の調整
389
援助と保護の提供
393
難民の国際保護と援助
399
パレスチナ難民
402
第6章 国 際 法 紛争の司法的解決
406
国際法の発達と法典化
410
国際商取引法
412
環 境 法
414
海 洋 法
418
国際人道法
423
国際刑事裁判所
424
国際テロリズム
426
その他の法律問題
429
第7章 植民地の独立 国際信託統治制度
433
非自治地域
434
植民地と人民に独立を付与する宣言
436
ナミビア
437
東ティモール
439
西サハラ
441
第Ⅲ部/付録 国際連合憲章(英文/和文)
444
国連の主要機関構成国
512
国連加盟国と分担率
514
国連加盟国加盟年順序、1945年−2006年
521
平和維持活動:現在および過去
524
非植民地化
529
1.1960年独立付与宣言以降に独立を達成した 信託統治と非自治地域
529
2.1960年独立付与宣言以降に独立国家と統合 もしく連合関係となった従属地域 3.自決を達成した信託統治地域
531 532
国連の予算
534
国連の特別行事
536
日本にある国連関連機関
547
国連寄託図書館
552
国連機関・委員会など和英対照表
554
[囲みコラム] 第1章 国連憲章の改正
26
歴代事務総長
41
2005年世界サミットの成果
42
国際連合とノーベル平和賞
46
国際連合への支援
48
改革と再活性化:平和維持と軍縮
58
第2章 新たな平和構築構造
117
保護する責任
119
平和維持活動の指揮官は誰か
123
国連平和維持活動
124
政治・平和構築ミッション
129
暫定行政機構
133
アフリカ:国連の優先課題(平和と安全保障)
136
UNAMID:国連初の合同平和維持ミッション
158
石油と食糧:事実とフィクション
183
多国間軍縮・軍備規制協定
201
2国間協定
204
地雷との闘い
211
国連宇宙空間平和利用会議
217
第3章 グローバル化が恩恵をもたらすように
223
国連の優位性
225
国連開発資金国際会議
230
アフリカ:国連の優先課題(経済と社会)
232
対外直接投資と開発
239
公平な貿易の促進
243
1990年以降の主な世界会議
263
世界社会開発サミット
264
「ミレニアム宣言」の目標 ポリオのない世界、実現間近
269 273
マラリアと結核
276
国連、HIV /エイズと闘う
277
世界女性会議
292
「子どもにふさわしい世界」
296
文明の同盟
315
持続可能な開発首脳会議
318
人間の行動を変える
320
気候変動に関する統合報告書
330
第4章 普遍的権利の定義
354
国連民主主義基金
357
特別報告者と作業グループ
364
世界人権会議
367
技術協力計画
371
第5章 2004年12月のインド洋地震と津波
390
緊急救援活動の調整
392
戦時における子どもの保護
395
国連職員および人道要員の保護
397
自分の国で難民として
400
避難する人々
402
第6章 国際刑事裁判所(ICC)
425
第7章 「植民地と人民に独立を付与する宣言」が 適用される地域
435
[地図と図表] 第1章 国際連合機構図
52
世界の主要国連事務所
54
第2章 国連平和維持活動
126
政治・平和構築ミッション
130
第3章 開発途上国への対外直接投資の流れ、1990−2006年
241
供給源別一次エネルギー総供給、2002年
332
第4章 地域別女性の国会参加
377
第5章 津波被災者援助と復興
391
国際連合ウェブサイト(ホームページ)
国際連合:www.un.org 国連システム:www.unsystem.org
国連機関 国際貿易センター(UNCTAD/WTO):www.intracen.org 国連合同エイズ計画:www.unaids.org 国連児童基金(ユニセフ):www.unicef.org 国連貿易開発会議(UNCTAD):www.unctad.org 国連女性開発基金(UNIFEM):www.unifem.org 国連開発計画(UNDP):www.undp.org 国連環境計画(UNEP):www.unep.org 国連人権高等弁務官(UNHCHR):www.ohchr.org 国連難民高等弁務官(UNHCR):www.unhcr.org 国連人間居住計画(UN-HABITAT):www.unhabitat.org 国連軍縮研究所(UNIDIR):www.unidir.org 国連訓練調査研究所(UNITAR):www.unitar.org 国連国際婦人調査訓練研修所(UN-INSTRAW):www.un-instraw.org 国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI):www.unicri.it 国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS):www.unops.org 国連薬物犯罪事務所(UNODC):www.unodc.org 国連人口基金(UNFPA):www.unfpa.org 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA):www.un.org/unrwa 国連社会開発研究所(UNRISD):www.unrisd.org 国連システム・スタッフ・カレッジ(UNSSC):www.unssc.org 国連大学(UNU):www.unu.edu 国連ボランティア計画(UNV):www.unv.org 世界食糧計画(WFP):www.wfp.org
国連地域委員会 アフリカ経済委員会(ECA) :www.uneca.org アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP):www.unescap.org ヨーロッパ経済委員会(ECE):www.unece.org ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC):www.eclac.org 西アジア経済社会委員会(ESCWA):www.escwa.un.org
専門機関 国連食糧農業機関(FAO):www.fao.org 国際民間航空機関(ICAO) :www.icao.org 国際農業開発基金(IFAD):www.ifad.org 国際労働機関(ILO):www.ilo.org 国際海事機関(IMO):www.imo.org 国際通貨機関(IMF):www.imf.org 国際電気通信連合(ITU):www.itu.int 国連教育科学文化機関(UNESCO):www.unesco.org 国際工業開発機関(UNIDO):www.unido.org 万国郵便連合(UPU):www.upu.int 世界銀行グループ(The World Bank Group):www.worldbank.org 世界保健機関(WHO):www.who.int 世界知的所有権機関(WIPO):www.wipo.int 世界気象機関(WMO):www.wmo.ch 世界観光機関(UNWTO):www.world-tourism.org
関連機関 国際原子力機関(IAEA):www.iaea.org 化学兵器禁止機関(OPCW) :www.opcw.org 核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO):www.ctbto.org 世界貿易機関(WTO):www.wto.org
主な略語表
CEB(United Nations System Chief Executives Board for Coordination) 国連システム事務局長調整委員会 CTBTO(Preparatory Commision for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization)核実験禁止条約機関準備委員会 DESA(Department of Economic and Social Affairs)経済社会局 DGACM(Department for General Assembly and Conference Management) 総会・会議管理局 DM(Department of Management)管理局 DPA(Department of Political Affairs)政治局 DPI(Department of Public Information)広報局 DPKO(Department of Peacekeeping Operations)平和維持活動局 DFS(Department of Field Support)フィールド支援局 DSS(Department of Safety and Security)安全保安局 ECA(Economic Commission for Africa)アフリカ経済委員会 ECE(Economic Commission for Europe)ヨーロッパ経済委員会 ECLAC(Economic Commission for Latin America and the Caribbean) ラテンアメリカ・カリブ経済委員会 ECOSOC(Economic and Social Council)経済社会理事会 EOSG(Executive Office of the Secretary-General)事務総長室 ESCAP(Economic and Social Commission for Asia and the Pacific) アジア太平洋経済社会委員会 ESCWA(Economic and Social Commission for Western Asia) 西アジア経済社会委員会 FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)国連食糧農業機関 IAEA(International Atomic Energy Agency)国際原子力機関 IBRD (International Bank for Reconstruction and Development(World Bank Group)国際復興開発銀行(世界銀行グループ)
ICAO(International Civil Aviation Organization)国際民間航空機関 ICJ(International Court of Justice)国際司法裁判所 ICRC(International Committee of the Red Cross)赤十字国際委員会 ICSID(International Centre for Settlement of Investment Disputes) 国際投資紛争解決センター(世界銀行グループ) IDA(International Development Association [World Bank Group]) 国際開発協会(世界銀行グループ) IFAD(International Fund for Agricultural Development)国際農業開発基金 IFC(International Finance Corporation[World Bank Group]) 国際金融公社(世界銀行グループ) ILO(International Labour Organization)国際労働機関 IMF(International Monetary Fund)国際通貨基金 IMO(International Maritime Organization)国際海事機関 ITC(International Trade Center UNCTAD/WTO) UNCTAD/WTO 国際貿易センター ITU(International Telecommunication Union)国際電気通信連合 MIGA(Multilateral Investment Guarantee Agency(World Bank Group) 多国間投資保証機関(世界銀行グループ) NGLS(United Nations Non-Governmental Liaison Service) 国連 NGO 連絡サービス NGOs(Non-governmental organizations)非政府組織 OCHA(Office for the Coordination of Humanitarian Affairs) 国連人道問題調整事務所 OHCHR(Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights) 国連人権高等弁務官事務所 OIOS(Office of Internal Oversight Services)内部監査部 OLA(Office of Legal Affairs)法務部 OPCW(Organization for the Prohibition of Chemical Weapons)化学兵器禁止機関 PFII(Permanent Forum on Indigenous Issues) 先住民問題に関する常設フォーラム
UNAIDS(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS)国連合同エイズ計画 UNCTAD(United Nations Conference on Trade and Development) 国連貿易開発会議 UNDP(United Nations Development Programme)国連開発計画 UNEP(United Nations Environment Programme)国連環境計画 UNESCO(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization) 国連教育科学文化機関 UNFIP(United Nations Fund for International Partnerships) 国連国際パートナーシップ基金 UNFPA(United Nations Population Fund)国連人口基金 UN-HABITAT(United Nations Human Settlements Programme [UNHSP]) 国連人間居住計画 UNHCR(Office of the United Nations High Commissioner for Refugees) 国連難民高等弁務官事務所 UNICEF(United Nations Children's Fund:UNICEF)国連児童基金(ユニセフ) UNICRI(United Nations Interregional Crime and Justice Research Institute) 国連地域間犯罪司法研究所 UNIDIR(United Nations Institute for Disarmament Research)国連軍縮研究所 UNIDO(United Nations Industrial Development Organization)国連工業開発機関 UNIFEM(United Nations Development Fund for Women)国連女性開発基金 UN-INSTRAW(International Research and Training Institute for the Advancement of Women)国連国際婦人調査訓練研修所 UNITAR(United Nations Institute for Training and Research)国連訓練調査研修所 UNMOVIC(United Nations Monitoring, Verification and Inspection Commission) 国連監視検証査察委員会 UNODA(Office for Disarmament Affairs)軍縮部 UNODC(United Nations Office on Drugs and Crime)国連薬物犯罪事務所 UNOG(United Nations office at Geneva)国連ジュネーブ事務局 UN-OHRLLS(Office of the High Representative for the Least Developed Countries, Landlocked Developing Countries and Small Island Developing States)
後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼国開発途上国担当上級代表事 務所 UNON(United Nations Office at Nairobi)国連ナイロビ事務局 UNOPS(United Nations Office for Project Services) 国連プロジェクトサービス機関 UNOV(United Nations Office at Vienna)国連ウィーン事務局 UNOWA(Office of the Special Representative of the Secretary-General for West Africa)西アフリカ担当事務総長特別代表事務所 UNRISD(United Nations Research Institute for Social Development) 国連社会開発研究所 UNRWA(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East)国連パレスチナ難民救済事業機関 UNSSC(United Nations System Staff College) 国連システム・スタッフ・カレッジ UNU(United Nations University)国連大学 UNV(United Nations Volunteers)国連ボランティア計画 UNWTO(World Tourism Organization)世界観光機関 UPU(Universal Postal Union)万国郵便連合 WFP(World Food Programme)世界食糧計画 WHO(World Health Organization)世界保健機関 WIPO(World Intellectual Property Organization)世界知的所有権機関 WMO(World Meteorological Organization)世界気象機関 ―(World Tourism Organization)世界観光機関(UNWTO 参照) WTO(World Trade Organization)世界貿易機関
第Ⅰ部 第1章
国際連合:その機構 THE UNITED NATIONS ORGANIZATION
24
「国際連合(United Nations:連合国)」という名称は、アメリカのフラ ンクリン・D・ルーズベルト大統領が考え出したもので、26カ国政府の 代表が第2次世界大戦の続く限り枢軸国に対して共に戦い続けると誓っ た1942年1月1日の「連合国宣言(Declaration by United Nations)」の中で 初めて使われた。 各国が集まって最初に設立したのは、特定の事項について協力するた めの国際機関であった。国際電気通信連合(International Telecommunication Union) は1865年に万国電信連合(International Telegraph Union) として設
立され、万国郵便連合(Universal Postal Union)は1874年に設立された。 両機関とも現在は国際連合の専門機関となっている。 1899年、危機を平和的に解決し、戦争を防止し、かつ戦争の規則を法 典化する目的で最初の国際平和会議(International Peace Conference) が ハーグで開かれた。会議は「国際紛争の平和的処理に関する条約」を採 択し、常設仲裁裁判所を設置した。裁判所の作業が始まったのは1902年 であった。 国連の前身は「国際連盟(the League of Nations) である。国際連盟は、 第1次世界大戦中の同様の状況のもとに構想された機関で、1919年にベ ルサイユ条約のもとに「国際協力を促進し、平和安寧を完成する」目的 で設立された。国際連盟は第2次世界大戦を防止することに失敗し、そ の活動を停止した。 1945年、50カ国政府代表が国連憲章を起草する「国際機関に関する連 合国会議(United Nations Conference on International Organization)」に出席す るためサンフランシスコ市に会合した。これらの代表の審議の基礎と なったのが、中国、ソビエト連邦、イギリス、アメリカの代表が1944年
国際連合:その機構 25
8月から10月にかけてアメリカのダンバートン・オークスで作成した提 案であった。国連憲章は1945年6月26日に50カ国政府の代表によって署 名された。会議に代表を送っていなかったポーランドはその後に国連憲 章に署名し、原加盟国51カ国の一つとなった。 国際連合は、中国、フランス、ソビエト連邦、イギリス、アメリカお よびその他の署名国の過半数が批准した1945年10月24日に正式に発足し た。現在、10月24日は「国連デー(United Nations Day)」として毎年各国 において記念されている。
国際連合憲章 (www.un.org/aboutun/charter)
国連憲章は国連の基本文書で、加盟国の権利や義務を規定するととも に、国連の主要機関や手続きを定めている。また、国際条約としての国 連憲章は加盟国の主権平等から国際関係における武力行使の禁止にいた るまで、国際関係の主要原則を成文化している(第Ⅲ部の「国際連合憲 章」を参照) 。
憲章の前文 国連憲章の前文は、国連の創設に参加した国々のすべての人民が持つ 理想と共通の目的を次のように表明している。
「われら連合国の人民は、われらの一生のうち二度まで言語に絶す る悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権 と人間の尊厳および価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念を 改めて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊 重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社 会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、 並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に
26
国連憲章の改正 国連憲章の改正は、総会を構成する国の3分の2の多数で採択され、 かつ、安全保障理事会の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2に よって批准されて可能となる。これまで憲章の4つの条項が改正され、 そのうちの1つは2回にわたって改正された。 ・1965年の改正によって、安全保障理事会の理事国は11カ国から15カ 国に増え(第23条)、その決定に必要な賛成票は、手続き事項以外の 重要事項に関しては、5常任理事国の賛成票を含む7票から9票に増 やされた(第27条)。 ・1965年、経済社会理事会の理事国は18カ国から27カ国に増やす改正 が行われ、さらに1973年には理事国数が54カ国となった(第61条)。 ・1968年の改正によって、国連憲章を再審議する国連加盟国の全体会 議を開催するために安全保障理事会が必要とする賛成票は7票から9 票に増えた(第109条)。
平和に生活し、国際の平和および安全を維持するためにわれらの力を 合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受 諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発 達を促進するために国際機構を用いることを決意して、 これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決 定した。 よって、われらの各自の政府は、サンフランシスコ市に会合し、全 権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、 この国際連合憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機構を 設ける。 」
目的と原則 国連憲章が定める国連の目的は、次の通りである。 ・国際の平和と安全を維持すること。 ・人民の同権および自決の原則の尊重に基礎をおいて諸国間の友好関
国際連合:その機構 27
係を発展させること。 ・経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決 し、かつ人権および基本的自由の尊重を促進することについて協力 すること。 ・これらの共通の目的を達成するにあたって諸国の行動を調和するた めの中心となること。
国際連合は次の原則にしたがって行動しなければならない。 ・国連はすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。 ・すべての加盟国は憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなけ ればならない。 ・加盟国は、国際紛争を平和的手段によって国際の平和および安全な らびに正義を危うくしないように解決しなければならない。 ・加盟国はいかなる国に対しても武力による威嚇もしくは武力の行使 を慎まなければならない。 ・加盟国は、国連がこの憲章に従ってとるいかなる行動についてもあ らゆる援助を与え、かつ国連の防止行動または強制行動の対象と なっている国に対しては援助を慎まなければならない。 ・憲章のいかなる規定も本質的に国の国内管轄権内にある事項に干渉 する権限を国連に与えるものではない。
加盟国 国連への加盟は憲章に掲げる義務を受諾し、かつ国連によってこの義 務を履行する意思と能力があると認められるすべての平和愛好国に開放 されている(国連加盟国のリストについては付録「国連加盟国加盟年順序」 を参照のこと) 。
加盟は、安全保障理事会の勧告に基づいて総会が承認する。国連憲章 は国連の原則に違反する加盟国の資格停止と除名について規定している が、これまでそうした措置がとられたことはない。
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公用語 憲章が規定する国連の公用語は中国語、英語、フランス語、ロシア語、 スペイン語の5カ国語である。後にアラビア語が総会、安全保障理事会、 経済社会理事会の公用語に追加された。
国連の機構 国連憲章は国連の主要機関として総会、安全保障理事会、経済社会理 事会、信託統治理事会、国際司法裁判所、事務局の6つの機関を設けて いる。しかし、国連ファミリー全体はもっと大きく、その中には17の政 府間機関といくつかの計画(Programme)や機関が含まれる(本章の「国 連ファミリー」の項および図表「国際連合機構図」を参照)。
総 会(www.un.org/ga) General Assembly 総会は国連の主たる審議機関である。総会はすべての加盟国の代表か ら構成され、各国はそれぞれ1票の投票権を持つ。平和と安全保障、新 加盟国の承認、予算のような重要問題についての決定は3分の2の多数 を必要とする。その他の問題に関する決定は単純多数決で行われる。 任務と権限 憲章に定められた総会の任務と権限は以下のとおりである。 ・軍縮と軍備規制を律する原則も含め、国際の平和と安全を維持する ための協力に関する原則について審議し、勧告を行う。 ・国際の平和と安全に関するいかなる問題についても討議し、その紛 争もしくは事態が安全保障理事会によって審議されている場合を除 き、それについて勧告を行う。
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・憲章の範囲内にある問題もしくは国連の機関の権限と任務に影響を 及ぼす問題について討議し、やはり安全保障理事会の審議中である 場合を除き、勧告を行う。 ・政治的分野における国際協力や国際法の発達と法典化を促進し、す べての人のための人権と基本的自由を実現し、かつ経済、社会、教 育および保健の分野における国際協力を促進するために、研究を発 議し、勧告を行う。 ・その起因に関係なく、諸国間の友好関係を害するおそれのある事態 について、その平和的解決のための勧告を行う。 ・安全保障理事会および他の国連機関から報告を受け、これを審議す る。 ・国連の予算を審議し、承認するとともに、加盟国の分担金を割り当 てる。 ・安全保障理事会の非常任理事国、それに経済社会理事会および信託 統治理事会(必要な場合)の理事国のうち選挙によって選ばれる理 事国を選出する。また安全保障理事会とともに国際司法裁判所の裁 判官を選出するほか、安全保障理事会の勧告に基づいて事務総長を 任命する。 註――― *総会が1950年11月に採択した「平和のための結集」決議のもとに、 国際平和への脅威、平和の破壊および侵略行為が存在すると思われる にもかかわらず、常任理事国の全会一致の合意が得られないために安 全保障理事会が行動をとれない場合は、総会が代わって行動をとるこ とができる。総会には、平和の破壊あるいは侵略行為が発生した場合、 国際の平和と安全を維持または回復するために必要と見なせば、武力 の行使をも含む集団安全保障措置を加盟国に勧告するため、直ちにそ の問題を取り上げる権限が与えられている。
会 期 総会の通常会期は一般に、少なくとも1日の作業日を含む週を最初の 週として、その週から数えて毎年9月の第3週目の火曜日に開かれる。
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総会議長および21人の副議長、それに6つの主要委員会の議長の選挙は、 通常総会の始まる少なくとも3カ月前に行われる。総会議長が地理的に 公平に選出されるようにするため、毎年、アフリカ、アジア、東欧、ラ テン・アメリカとカリブ海域、西欧とその他の諸国の5つの地域グルー プから持ち回りで選ばれる。 さらに通常総会以外にも、安全保障理事会の要請、国連加盟国の過半 数、または加盟国の過半数の同意を得た1加盟国の要請があれば特別総 会が開催される。また、常任理事国、非常任理事国の別なく9カ国の賛 成を得た安全保障理事会の要請、加盟国の過半数、または加盟国の過半 数の同意を得た1加盟国の要請があった場合、24時間以内に緊急特別総 会を招集することもできる。 各通常総会の初めには、しばしば国家元首もしくは政府首脳による一 般討論が行われ、その中で各加盟国は緊急を要する国際問題について自 国の見解を表明する。その後、ほとんどの議題は以下の6つの主要委員 会で審議される。 ・第1委員会(軍縮と国際安全保障) ・第2委員会(経済と金融) ・第3委員会(社会、人道と文化) ・第4委員会(特別政治問題と非植民地化) ・第5委員会(行政と予算) ・第6委員会(法律) 議題によっては、主要委員会のいずれにも付託されることなく、本会 議だけで審議されるものもある。一般に、決議や決定は、主要委員会が 勧告したものも含め、12月に総会が休会に入る前に採択される。決議や 決定は投票もしくは無投票で採択される。 総会の決議や決定は、一般に出席し、投票する加盟国の単純過半数に よって採択される。国際の平和と安全の問題に関する勧告や主要機関の 理事国の選出など、重要な問題に関する決定は、3分の2の多数によっ て行われる。投票は記録による投票、挙手、もしくは1国ずつを口頭で 直接確認する点呼方式によって行われる。
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総会の決定は加盟国政府に対して法的拘束力を持つものではないが、 重要な国際問題に対する世界の世論の重みや国際社会の道徳的な権威を 備えている。 国連の通常の活動は主として総会が与える任務、すなわち総会が採択 する決議や決定に表明される加盟国多数の意志に基づいて行われる。こ の活動は次のように行われる。 ・軍縮、平和維持、開発、人権のような特定の問題について研究、報 告するために総会が設置する委員会やその他の機関によって。 ・総会が招請する国際会議によって。 ・国連事務局、すなわち事務総長とそのスタッフである国際公務員に よって。
安全保障理事会(www.un.org/Docs/sc) Security Council 国連憲章のもとに、国際の平和と安全に主要な責任を持つのが安全保 障理事会である。 理事会は15カ国で構成される。常任理事国5カ国――中国、フランス、 ロシア連邦、イギリス、アメリカ――と、総会が2年の任期で選ぶ非常 任理事国10カ国である。 各理事国は1票の投票権を持っている。手続き事項に関する決定は15 理事国のうち少なくとも9理事国の賛成投票によって行われる。実質事 項に関する決定には、5常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投 票が必要である。これがしばしば「拒否権」と呼ばれる「大国一致」の 原則である。もし常任理事国が1カ国でも決定に同意せず、反対投票を 投ずると、その行為は「拒否」する力を持ち、決議は否決される。 これまで、5常任理事国すべてがいろいろの折りに拒否権を行使して きた。常任理事国は、提案された決議を完全には支持できないが拒否権 によってそれを阻止することを望まない場合は、投票を棄権することが できる。それによって、必要とされる9票の賛成投票を得る事ができれ ば、その決議は採択される。
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国連憲章第25条のもとに、すべての国連加盟国は安全保障理事会の決 定を受諾し、履行することに同意している。国連の他の機関も加盟国に 対して勧告を行うが、加盟国が憲章のもとに履行する義務を持つ決定を 行う権限を持っているのは、安全保障理事会だけである。 任務と権限 国連憲章は、安全保障理事会の任務と権限について次のように定めて いる。 ・国連の原則と目的にしたがって国際の平和と安全を維持する。 ・軍備規制の方式を確立する計画を作成する。 ・紛争を平和的手段によって解決するよう紛争当事者に要請する。 ・国際的摩擦に導く恐れのあるすべての紛争もしくは事態を調査し、 そうした紛争について適当な調整の方法もしくは解決の条件を勧告 する。 ・平和に対する脅威もしくは侵略行為の存在を決定し、とるべき行動 を勧告する。 ・情勢の悪化を防止するために必要もしくは望ましいと思われる暫定 措置を順守するよう関係当事者に要請する。 ・理事会の決定を実施させるために、制裁など、兵力の使用を伴わな い措置を採るよう国連加盟国に要請する。 ・国際の平和と安全を維持、もしくは回復するために兵力の使用に訴 え、もしくはその使用を承認する。 ・地域的取り決めを通して現地紛争の平和的解決を奨励し、またその 権限のもとにとられる強制行動のためにそうした地域的取り決めを 利用する。 ・国連事務総長の任命を総会に勧告するほか、総会とともに国際司法 裁判所の裁判官を選出する。 ・法律的な問題に関して勧告的意見を国際司法裁判所に要請する。 ・新しい国の国連加盟の承認を総会に勧告する。
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安全保障理事会は継続して任務を行うことができるように組織されて おり、そのために各理事国の代表は国連本部に常駐していなければなら ない。理事会は国連本部以外の場所でも開催することができる。これま で、1972年にエチオピアのアジスアベバで、また1973年にパナマのパナ マ・シティーで、1990年にはスイスのジュネーブで開かれた。 平和への脅威に関する苦情を受けると、一般的にいって理事会が最初 にとる行動は、平和的手段によって合意に達するよう当事者に勧告する ことである。平和的解決のための原則を提示することもある。ある場合 には、理事会自身が調査や仲介を行う。使節団を派遣したり、特別代表 を任命したり、また事務総長にあっせんを要請することもある。 紛争が敵対行動に進んだ場合、理事会にとっての最大の関心事はそれ をできるだけ速やかに終わらせることである。理事会は、戦闘の拡大を 防ぐために停戦命令を出すこともある。 理事会はまた平和維持軍を派遣し、紛争地域の緊張緩和を図り、対立 する軍隊を引き離し、平和的解決の道を探れるように休戦状態を作り出 すこともする。さらに、国連憲章第7章の規定に基づいて、経済制裁や 武器の禁輸、金融制裁、渡航禁止、集団的軍事行動など、強制措置をと ることもできる。 制裁は、安全保障理事会にとって国際の平和と安全を促進するための 重要な道具である。現在行われている制裁は、「スマートさ」や的を 絞った制裁を特徴としている。武器の禁輸や金融制裁、渡航の禁止など で、国際社会が非難する政策の責任者に焦点を当てることによって、制 裁の対象とならない人々に対する影響を排除し、または最小限にとどめ る。こうすることによって、責任のない多くの人々や国際的な取引関係 が悪影響を受けないようにする(第2章を参照)。 理事会は旧ユーゴスラビアおよびルワンダで行われた人道に対する罪 を訴追するために2つの国際刑事裁判所を設置した。これら2つの裁判 所は理事会の補助機関である。また、2001年9月11日のアメリカにおけ る同時多発テロを受けて、反テロリズム委員会が理事会の補助機関とし て設置された。
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1994年以来、総会の作業グループが、理事国の公平な配分や理事国数 の拡大など、理事会の改革の問題を検討している。
経済社会理事会(www.un.org/ecosoc) Economic and Social Council 国連憲章は、国連ファミリーとして知られる国連や専門機関、その他 各種機関の経済社会活動を調整する主要な機関として経済社会理事会を 設置した。理事会は3年の任期で選ばれる54カ国で構成される。理事会 での表決は単純多数決で、各理事国は1票の投票権を持つ。 任務と権限 経済社会理事会の任務と権限は以下の通りである。 ・国際的な経済社会問題を審議し、かつ国連加盟国や国連システムに 宛てた政策勧告を作成するための中心的な場となる。 ・国際的な経済、社会、文化、教育、保健、その他の関連問題に関す る研究や報告を行い、または発議し、かつ必要な勧告を行う。 ・人権と基本的自由の尊重と順守を促進する。 ・経済、社会、その他の関連分野で主要な国際会議の準備と開催を行 い、こうした会議のフォローアップを調整し、促進する。 ・専門機関との協議および専門機関への勧告、また国連総会に対する 勧告を通して専門機関の活動を調整する。 その他の重要な役割として、国際的な経済社会問題の討議とその政策 勧告を通して、開発のための国際協力を促進し、かつ行動のための優先 順位を設定することがある。 会 期 経済社会理事会は、年間の作業計画を作成するために、短期の会期を 何回か開く。また、年間を通じて多くの準備会議や円卓会議、市民社会 メンバーとのパネル・ディスカッションなどを開催する。さらに、 ニューヨークとジュネーブとを交互に、4週間にわたる実質的な会期を
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7月に開催する。実質的な会期にはハイレベル会期も含まれ、閣僚やそ の他の政府高官が出席して重要な経済社会問題や人道問題を討議する。 理事会の年間を通じての活動はその補助機関や関連機関によって行われ る。 補助機関と関連機関 経済社会理事会には次のような補助機関がある。 ・8つの機能委員会――審議機関で、その責任と専門の分野における 問題について審議し、勧告を行う。統計委員会、人口開発委員会、 社会開発委員会、女性の地位委員会、麻薬委員会、犯罪防止刑事司 法委員会、開発のための科学技術委員会、持続可能な開発委員会、 である。 ・5つの地域委員会――アフリカ経済委員会(本部:エチオピアのア ジスアベバ) 、アジア太平洋経済社会委員会(本部:タイのバンコク)、
ヨーロッパ経済委員会(本部:スイスのジュネーブ)、ラテンアメリ カ・カリブ経済委員会(本部:チリのサンチアゴ)、西アジア経済社 会委員会(本部:レバノンのベイルート)。 ・3つの常設委員会――計画調整委員会、非政府組織委員会、政府間 機関交渉委員会。 ・開発プランニング、公共行政、税に関する国際協力、経済的、社会 的、文化的権利、エネルギーおよび持続可能な開発のような問題に 関する多くの専門家機関。 ・先住民問題に関する常設フォーラム、国連森林フォーラムなど、そ の他の機関。 理事会はまた、国連の計画機関(たとえば、国連開発計画、国連環境計 画、国連人口基金、国連人間居住計画、国連児童基金)や専門機関(たとえ ば、国連食糧農業機関、国際労働機関、国連教育科学文化機関、世界保健機 関など)と協力し、かつある程度これらの機関の活動を調整する。これ
らの機関はすべて経済社会理事会に報告し、またその実質的会期に対し て種々の勧告を行う。
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非政府組織との関係 国連憲章の規定のもとに、経済社会理事会は、その権限の範囲内の事 項に関心を寄せる非政府組織(NGO) と協議する。現在2,870以上の NGO が理事会と協議する地位を与えられている。理事会は、これらの 機関には見解を表明する機会を与えるのが当然であり、かつ NGO は理 事会の任務遂行に役立つ特別の経験や専門知識を持っている、と考えて いる。 理事会は NGO を3つのカテゴリーに分類している。カテゴリーⅠの 組織は理事会の活動の大部分に関係があるもの、カテゴリーⅡの NGO は理事会の特定の活動分野に特別の資格能力を持つもの、その他はロス ター(登録簿) に記載され、理事会の必要に応じて随時貢献する NGO である。 協議資格を持つ NGO は、理事会とその補助機関の会合にオブザー バーを派遣することができ、また理事会の作業に関連する事項について 書面による声明を提出することができる。また、相互に関心のある事項 について国連事務局と協議することができる。 近年、国連と提携 NGO との関係が非常に緊密になってきた。NGO はそのパートナーとして政策や計画についてこれまで以上に協議を受け るようになった。また、国連と市民社会を結びつける貴重な存在である とみなされている。NGO は世界中でその数を増してきている。現在、 NGO は国連憲章の目的達成を助けるため、国連諸機関と日夜共に働い ている。
信託統治理事会(www.un.org/documents/tc) Trusteeship Council 信託統治理事会は、国連加盟7カ国の統治下におかれた11の信託統治 地域の施政を国際的に監督し、かつ適切な措置をとって、これらの地域 が自治もしくは独立に向けた準備をできるようにすることを目的に、 1945年に国連憲章によって設立された。国連憲章のもとに、信託統治理
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事会は、信託統治地域の人民の政治的、経済的、社会的、教育的進歩に ついて施政国が提出する報告を調査、審議し、地域から請願を受けてそ れを審査し、かつ地域を視察するために特別使節団を派遣する権限を与 えられた。 1994年までに、すべての信託統治地域は単独の国家として、または近 隣の独立国家と合併するなどして自治もしくは独立を達成した。最後に 自治を達成したのは太平洋諸島信託統治地域(パラオ) で、パラオは 185番目の国連加盟国となった。 信託統治理事会は、安全保障理事会の5常任理事国、すなわち中国、 フランス、ロシア連邦、イギリス、アメリカのみで構成され、その作業 をすべて完了した。そのため理事会の手続き規則が改正され、今後、理 事会は必要に応じて開催されることになった。
国際司法裁判所(www.icj-cij.org) International Court of Justice 国際司法裁判所は国連の主要な司法機関で、オランダのハーグにおか れている。司法裁判所は国家間の法的紛争を解決し、国連とその専門機 関に勧告的意見を提供する。その規程は国連憲章と不可分の一体をなし ている。 国際司法裁判所は、国連の全加盟国を含む裁判所規程の当事国のすべ てに開放される。裁判所に係属する事件の当事者となり、裁判所に紛争 を提起できるのは国だけである。裁判所は個人や民間機関、国際機関に は開放されていない。 総会と安全保障理事会は共に、いかなる法律問題についても国際司法 裁判所に勧告的意見を求めることができる。国連のその他の機関や専門 機関は、総会が許可するときに限って、その機関の活動の範囲内におけ る法律問題について勧告的意見を求めることができる。 管轄権 国際司法裁判所の管轄権は、国が裁判所に付託するすべての問題、国
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連憲章もしくは発効中の条約や協定が規定するすべての事項に及ぶ。各 国は、裁判所に付託することを規定した条約または協定に署名すること によって、もしくはその旨を宣言することによって、事前に裁判所の管 轄権を義務として受け入れることができる。そうした義務的管轄権を受 諾する宣言は、しばしば特定の種類の紛争を除外するとの留保をつける ことがある。 裁判所規程の規定にしたがって、裁判所は付託される紛争を裁判する に当たっては次のものを適用する。 ・国際条約で、係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの。 ・法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習。 ・文明国が認めた法の一般原則。 ・法則決定の補助手段としての裁判上の判決および諸国のもっとも優 秀な国際法学者の学説。 裁判官の構成 国際司法裁判所は、総会と安全保障理事会が個別に投票して選出する 15人の裁判官から構成される。裁判官は国籍によってではなく、裁判官 自身の個人的な資格をもとに選出される。また選出にあたっては世界の 主要な法体系が代表されるように配慮される。同じ国から同時に2人の 裁判官を出すことはできない。裁判官の任期は9年で、再選も可能であ る。ただし、その任期中は他のいかなる職業にも従事することができな い。 裁判は一般的に本法廷の形で開かれるが、当事国の要請によっては 「特別裁判部」と呼ばれる小法廷での審理も可能である。裁判部で行わ れる判決は本法廷で行われる判決と同等と見なされる。裁判所はまた 「環境問題裁判部」を設置しているほか、毎年「簡易手続部」を設置す る。
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事務局(www.un.org/documents/st) Secretariat 国連事務局は世界の各地にある国連事務所で働く国際的な職員で構成 され、多岐にわたる国連の日常業務を遂行する。事務局は国連の他の主 要機関に役務を提供し、それらの機関が決定した計画や政策を実施する。 その長となるのが事務総長で、安全保障理事会の勧告に基づいて総会が 5年の任期で任命する。再選も可能である。 事務局が行う任務は国連が取り上げる問題と同じように多岐にわたり、 平和維持活動の管理から国際紛争の調停、経済的社会的動向の調査から 人権や持続可能な開発に関する研究報告の作成にまで及ぶ。また、国連 の活動を世界の報道機関に知らせるための情報提供も行う。世界的な関 心を呼ぶ問題について国際会議を開催し、各国の代表が行う演説や会議 文書を国連公用語へ通訳、翻訳する。 一年以上の契約を持つ事務局職員の数はおよそ25,530人で、そのうち 17,630人が通常予算以外の予算から給与が支払われている。短期契約職 員の数はおよそ30,500人で、182カ国から採用されている。これらの職 員および事務総長は、国際公務員としてその活動については国連に対し てのみ責任を負い、いかなる国の政府または国連以外のいかなる当局か らも指示を求めまた受けない、と誓約する。国連憲章のもとに、各加盟 国は事務総長とその職員の責任のもっぱら国際的な性格を尊重し、かつ 彼らに不適切な影響力を行使しないことを約束する。 国連の本部はニューヨークにあるが、アジスアベバ、バンコク、ベイ ルート、ジュネーブ、ナイロビ、サンチアゴ、ウィーンに主要な事務所 があるほか、世界の各地にも国連の事務所がある。
事務総長(www.un.org/sg) Secretary-General 外交官にして唱道者、公務員であると同時に最高経営責任者でもある 国連事務総長は、国連の理想の象徴であり、世界の人々、とくに貧しい
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者や弱い者の代弁者である。ガーナ出身のコフィー・アナン氏は2006年 12月31日に5年の任期を二期務めて退官し、後任として大韓民国出身の 潘基文氏が就任した。 国連憲章は事務総長を国連の「行政職員の長」であると規定している。 事務総長はその資格のもとに行動し、かつ安全保障理事会、総会、経済 社会理事会、その他の国連機関が事務総長に「委託するその他の任務」 を遂行する。憲章はまた、「国際の平和及び安全の維持を脅威すると認 める事項について安全保障理事会の注意を促す」権限も事務総長に与え ている。これらの指針は事務総長の権限を明確に定めているものの、か なりの幅広い行動を許している。事務総長が加盟国の関心事項を慎重に 考慮に入れなければ、その任務は失敗に終わるであろう。しかし同時に 事務総長は国連の価値と道徳的権威を掲げ、時には同じ加盟国に挑戦し、 彼らの意見に反対するという危険を冒しながらも平和のために発言し、 行動しなければならない。 こうした他に例を見ない緊張が常に事務総長の日常の職務に付きまと う。事務総長は国連機関の会議に出席し、世界の指導者や政府高官、市 民社会グループ代表、民間企業や個人と協議し、また加盟国の国民との 接触を続け、国連の課題となっている多くの国際的関心事項について理 解を深めるために世界歴訪の旅を続ける。毎年、事務総長は年次報告を 発表し、国連活動を総括し、将来の優先課題について概説する。 事務総長が果たすもっとも重要な役割の一つが、事務総長の「あっせ ん」である。これは、事務総長の独立性、公平さと誠実性を利用して、 国際紛争が発生、拡大、拡散するのを防ぐために、事務総長が公的にま たは私的にとる措置である。事務総長の「あっせん」はキプロス、東 ティモール、イラク、リビア、中東、ナイジェリア、西サハラなど、広 範な事態において行われてきた(事務総長の特別代表、個人代表、使節団 のリストについては、www.un.org/Depts/dpko/SRSG を参照)。
歴代の事務総長はまた、在職中の国連に課せられる時代の要求を考慮 に入れた活動も行ってきた。国連の平和維持に対する要求は空前の勢い で増えており、潘基文事務総長はそのペースに対応できるように基本的
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歴代事務総長 国連憲章のもとに、事務総長は安全保障理事会の勧告に基づいて総会 が任命する。潘基文事務総長の前任者は以下の通りである。1946年2 月から1952年11月の辞任まで在職したノルウェーのトリグブ・リー (Trygve Lie) 、1953年4月からアフリカの飛行機事故で殉職した1961年 9月まで在職したスウェーデンのダグ・ハマーショルド(Dag Hammarskjold) 、事務総長代行として任命された1961年11月(事務総長として 正式任命は1962年11月)から1971年12月まで在職したビルマ(現ミャ ンマー)のウ・タント(U Thant)、1972年1月から1981年12月まで在 職したオーストリアのクルト・ワルトハイム(Kurt Waldheim)、1982年 1月から1991年12月まで在職したペルーのハビエル・ペレス・デクエ ヤル(Javier Perez de Cuellar)、1992年1月から1996年12月まで在職し たエジプトのブトロス・ブトロス=ガーリ(Boutros Boutros=Ghali)、 1997年1月から2006年12月まで在職したガーナのコフィー・アナン (Kofi Annan)。
な構造改革を提案した。 その結果、国連総会は2007年6月、平和維持活動の日常の管理を担当 する「フィールド支援局(DFS)」の設置を承認した。これによって、 「平和維持活動局(DPKO)」は全体的な戦略、計画作成、展開を主要な 任務とすることになった(囲みコラム「改革と再活性化:平和維持と軍縮」 を参照)。
潘事務総長は気候変動の問題についてはとくに積極的に発言しており、 それは「現代の最重要課題」であると述べている。事務総長はまた、 スーダンにおける新しい、国連・AU 合同の平和維持ミッションの創設 を進め(第2章の UNAMID に関する囲みコラムを参照)、また、国連の軍 縮機関と事務総長室との関係をより緊密にする目的で、これまでの「軍 縮局」を新しく「国連軍縮部」とした。 潘事務総長の優先課題は、アフリカ、とくにスーダン情勢とダルフー ルの悲劇、中東情勢、核兵器の不拡散と軍縮、2000年のミレニアム・サ ミットで合意された開発目標の達成、気候変動、人権、国連改革である。
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2005年世界サミットの成果 国連本部で開かれた2005年9月の世界サミットにおいて、世界の指導 者は、さまざまなグローバルな課題に対処することに合意し、以下のよ うなコミットメントを行った。 ・開発 2015年までにミレニアム開発目標(MDGs)を達成すること; 貧困対策として2010年まで年間500億ドルを拠出すること;開発途上 国は2006年までに MDG 達成のための国内計画を採択すること;マラ リア対策、教育、保健を支援する即効性のあるイニシアチブを行うこ と;開発融資のために革新的な資金源を見出すこと;無償融資の増加 と長期債務の持続性を確保すること;重債務貧困国(HIPCs)が有す る公的な多国間、二国間のの債務を100パーセント削減すること;適 切と認められる場合、その他の低・中所得国に対して相当程度の債務 救済や債務再編を実施すること;貿易の自由化を約束し、世界貿易機 関のドーハ作業計画の開発面を実施すること。 ・テロリズム すべての国の政府は「実行者、実行場所、実行目的の如 何を問わず、いかなる形態および表明の」テロリズムも厳しく非難す ること;包括的なテロ防止条約を一年以内に成立させること;「核テ ロ条約」の早期発効を図ること;すべての国は、すべてのテロ防止条 約に加入し、実施すること;国際社会を強化し、テロリストを弱体化 するテロ防止戦略を策定すること。 ・平和構築、平和維持、平和創造 戦争から平和へと移行する国々を助 けるために、支援室と常設の基金を持つ「平和構築委員会」を設置す ること;国連平和維持活動のための常設の警察能力を備えること;事 務総長の調停、あっせん能力を強化すること。 ・保護責任 集団殺害、戦争犯罪、民族浄化および人道に対する罪から 人々を保護する集団的国際責任を明確に受け入れること;安全保障理 事会を通して時宜を得た、断固とした集団的行動を採る意思を表明す ること。 ・人権、民主主義および法の支配 国連の人権機関を強化すること;国 連人権高等弁務官事務所の予算を倍増すること;2006年中に「人権理 事会」を設置すること;民主主義が普遍的な価値であることを再確認 すること;「民主主義基金」の新設を歓迎すること;教育における不
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平等、財産の所有、女性や女児に対する暴力、刑事免責など、広範に 見られるジェンダーに基づく差別を撤廃すること。世界サミット開催 中に必要な批准国数が集まり、「腐敗防止条約」が発効した。 ・マネジメント改革 国連の監査能力を強化し、監査を他の機関にも拡 大すること;独立監査諮問委員会を設置すること;新設の倫理室をさ らに発展させること;5年以上経過したマンデートの見直しを図るこ と;国連の対応を改善するために予算、財政、人事に関する規則や政 策を徹底的に見直すこと;国連が今日の課題への取り組みにふさわし い人材を備えられるように一時的な早期退職勧奨制度を導入すること。 ・環境 気候変動が持つ深刻な課題を認識すること;「気候変動に関す る国連枠組み条約」を通して行動するとともに、小島嶼開発途上国の ような脆弱な国々を援助すること;あらゆる自然災害について全世界 的な早期警報システムを創設すること。 ・国際的な保健 予防、ケア、治療、サポートを通して HIV/エイズ、 結核、マラリアに対する対策を拡大し、同時に追加資金の動員をはか ること;新しい「国際保健規則」を全面的に実施することなど、感染 症と闘い、世界保健機関(WHO)の「世界的伝染病発生警戒・対応 ネットワーク(GOARN) 」を支援すること。 ・人道援助 「中央緊急回転基金」を改善し、災害発生時に救援援助が 信頼できる形で直ちに到着できるようにすること; 「国内避難民に関 する指針」を国内避難民を保護する重要な枠組みとして認識すること。 ・国連憲章 国連が非植民地化の歴史的役割を終えたことを認めて信託 統治理事会を解散させ、かつ時代遅れとなった国連憲章の「敵国条 項」を削除すること。 これらのコミットメントの多くはすでに実施されているが、実施中の コミットメントも多い(2005年世界サミットの成果文書の全文は、 www.un.org/summit2005 で閲覧できる)。
( 「事務総長としての私の優先課題」を参照、www.un.org/sg/priority.shtml) 。
また、前任者のコフィー・アナン氏が行ってきたことを継続させると 同時に、必要に応じて新たな行動を採っている。アナン氏は、グローバ ルな問題において国連が新しい時代の要求に応えられるように広範にわ
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たる改革に力を注いだ。アナン氏の10年に及ぶ在職中に「国連倫理室」 や「国連オンブズマン室」のような内部機関が設けられ、また、国連機 関としては「人権理事会」や「国連平和構築委員会」が新しく生まれた。 また、事務総長室に求められる膨大な任務の遂行を助ける「副事務総長 室」も設けられた。 アナン氏が2003年に設置した「アフリカ特別顧問室」は、アフリカの 開発を援助する国連諸機関の活動を調整する。「国連民主主義基金」は、 民主主義制度やプロセスを構築、強化し、かつ人権を促進するプロジェ クトに融資する。「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」は2002年以 来活動を続けている。2006年までに、この悲惨な病気と積極的に闘って いる136カ国のプロジェクトに対して71億ドルの資金援助を行った (www.theglobalfund.org 参照)。
アナン氏が1999年に提案した「グローバル・コンパクト」は、民間の 企業が人権、労働、環境の分野で普遍的に認められた9つの原則を推進 するもので、国連機関、政府、労働団体や非政府組織とともに行う。 2007年1月現在、参加者の数は3,800を超えた。それには2,900社を超え る企業、それに国際や国内の労働団体、開発途上国を中心とした100カ 国の何百という市民社会組織が含まれる。 アナン氏の提案はまた、世界の指導者による二つの主要会合の土台と なった。 「2000年ミレニアム・サミット」と5年後の見直しを行った 「2005年世界サミット」である。ミレニアム・サミットにおいては、全 会 一 致 で 採 択 さ れ た「 ミ レ ニ ア ム 宣 言 」 は「 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 (MDGs) 」など、一連の特定の目標や目的を定め、新しい世紀において
国連が進むべき方向を示した。世界サミットは、開発、安全保障、人権、 国連改革の領域で思い切った決定を行って今後取るべき措置を決めた (囲みコラム「2005年世界サミットの成果」を参照)。
副事務総長 カナダのルイーズ・フレシェット氏が1998年に初代副事 務総長に任命された。2006年にイギリスのマロック・ブラウン氏がその 後任となり、2007年1月、タンザニアのアーシャ=ローズ・ミギロ氏が 副事務総長に任命された。
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国連の予算 国連の通常予算は総会によって承認される。会計年度は2年間である。 予算は最初事務総長が提出し、行政予算問題諮問委員会がそれを審査す る。諮問委員会は個人の資格で務める16人の専門家で構成され、それぞ れの政府の指名に基づいて総会が選出する。各種の事業計画の予算は計 画調整委員会(総会が選出し、自国政府の見解を代表する34人の専門家で構 成)の審査を受ける。
2006−2007年の2年間の予算として38億ドルが承認された。これは 2004−2005年度予算に比べ実質的に名目だけの増加である。予算は政治 問題、国際司法と法律、開発のための国際協力、広報、人権、人道問題 などの分野における活動費用に当てられる。会計年度においては、新規 の活動による財政上の影響や事務総長による見積り額修正などによって、 総会による予算の調整が行われる。 通常予算の主な財源は加盟国による分担金で、分担金委員会の勧告に 基づいて総会が承認する分担率にしたがって加盟国が支払う。分担金委 員会は、行政予算委員会(総会第5委員会)の勧告に基づいて総会が選 出し、個人の資格で務める18人の専門家で構成される。 分担率を決める際の基本的な基準は、加盟国の支払能力である。これ は全世界の国民総生産に占める加盟国の割合を出し、それを国民1人あ たりの所得など、多くの要因を考慮に入れて調整して決定する。委員会 は、分担率を公正かつ正確なものにするために、3年ごとに最新の国民 所得統計に基づいて分担率の完全な見直しを行う。2000年、総会は、い かなる国にとっても国連予算に対する分担率は22パーセントを上限とす るとの決定を行った。 国連の全般的な財政状況はこの数年不安定であるが、これは多くの加 盟国がその分担金を期限までに全額支払わないことによる。国連がこれ までどうにか活動を続けてこられたのは、いくつかの国からの自発的拠 出金や運転資本基金(加盟国が分担金に比例した額を事前に支払うことに
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国際連合とノーベル平和賞 これまで、国際連合とその家族の一員である機関や組織、支援者が世 界平和の大義に対する貢献が認められ、しばしばノーベル平和賞を受賞 してきた。国連成立以来のノーベル平和賞受賞者は以下の通りである。 ・コーデル・ハル――国連創設に貢献した米国務長官(1945年) ・ジョン・ボイド・オール卿――国連食糧農業機関(FAO)創設時事務 局長(1949年) ・ラルフ・バンチ――国連信託統治局長および国連パレスチナ委員会首 席秘書官。また中東での調停官を務めた。(1950年) ・レオン・ジュオー――国際労働機関(ILO)創設者の一人(1951年) ・国連難民高等弁務官(UNHCR)事務所(1954年) ・レスター・ボウルズ・ピアソン――スエズ動乱を終わらせ、国連によ る中東問題の解決に貢献した。また1952年には総会議長を務めた。 (1957年) ・ダグ・ハマーショルド国連事務総長――死後に受賞した賞のうちの一 つ(1961年) ・国際連合児童基金(ユニセフ)(1965年) ・国際労働機関(ILO)(1969年) ・ショーン・マクブライド――国連ナミビア弁務官および人権の推進者 (1974年) ・国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(1981年) ・国連平和維持軍(1988年) ・国際連合とコフィー・アナン事務総長(2001年) ・国際原子力機関(IAEA)とモハメド・エルバラダイ事務局長(2005 年) ・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とアルバート・アーノルド (AI) ・ゴア・ジュニア元米副大統領(2007年) この他にも人類への貢献を求めて国連と緊密に、また共通の目的のた めにともに働いた多くのノーベル受賞者がいるが、そうした受賞者はこ のリストには含まれていない。
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なっている基金) 、また平和維持活動のための基金からの借用によって
賄ってきたからである。 2006年末現在、通常予算に対する加盟国の滞納額は3億6,200万ドル に達した。191の加盟国のうち、分担金を全額支払った国は134カ国で、 残りの57カ国は国連憲章によって義務付けられた国連への財政的義務を 果たさなかった。 通常予算に加え、加盟国は国際刑事裁判所の費用や、通常予算の分担 率を修正した率に従って割り当てられる平和維持活動の費用も分担する ことになっている。 平和維持活動の予算は、7月1日から1年間の予算として総会が承認 する。総会は、平和維持活動に適用される特別の分担率に従って費用を 割り当てる。この分担率は加盟国の経済的豊かさを考慮に入れて決定さ れる。安全保障理事会の常任理事国は、国際の平和と安全に対して特別 の責任を持つことから、より多くの費用を分担している。 国連平和維持活動の費用は1995年にピークとなり、その額は30億ドル にも達した。これは、とくにソマリアや旧ユーゴスラビアにおける活動 の費用を反映したものであった。その費用は1999年に8億8900万ドルに まで減少したものの、2001年までには再び25億ドルを超えた。コソボ、 東ティモール、シエラレオネ、コンゴ民主共和国、そしてエリトリアと エチオピアに対して主要なミッションが新たに承認されたからであった。 2005年7月以降、国連の平和維持活動の年間費用は2倍以上の増加と なった。これはコートジボアール、リベリア、ハイチ、スーダン、東 ティモールにおける新設のミッションやレバノンにおける活動の拡大に よるものである。2007年7月1日に始まる1年間の平和維持活動の承認 予算額はおよそ53億ドルであった。これには国連・アフリカ連合(AU) 合同のダルフール・ミッション予算は含まれていない。それにもかかわ らず、この額は世界の軍事費(年間軍事費1兆ドル)の1パーセントに も満たない。 分担金受領の遅れは、部隊や装備、後方支援を提供する加盟国への費 用の払い戻しに影響する。払い戻しの遅れは、不当な負担をこれらの
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国際連合への支援 国連ファミリーに所属するすべての機関は、国連憲章の高邁な理想を 実現する草の根団体や運動のエネルギーや熱意から大きな恩恵を受ける。 国連はまた、財界や労働団体、国際慈善団体など、市民社会のさまざま なメンバーとのパートナーシップからも恩恵を受ける。また多様な分野 で活躍する著名人からも支援を受ける。 ユニセフのために「Trick-or-Treat for UNICEF」を行う子どもたちから、 120カ国を越す国々にあるおよそ5,000のユネスコ・クラブの教育活動、 現場で活動する何千という NGO まで、世界中の人々がこの世界をより 良い場所に変えようとする国連を助けている。 国際連合協会 国連憲章の最初の言葉、「われら… 人民は」に触発 されて始まった自称「国連のための国民運動」で、国連が創設された一 年後の1946年に設立された。現在は100カ国以上の国連加盟国の中にあ り、何十万という人々のパワーとエネルギーを持って国連憲章の目標や 目的を支持するグローバルなネットワークに参加している(www.wfuna. org を参照)。 非政府組織 「国連協会世界連盟(WFUNA)」は、国連の大義を積極 的に支持する何千という非政府組織(NGO)のうちの一つに過ぎない。 そうした NGO の中には経済社会理事会と協議の地位にあるおよそ2,870 の NGO(www.un.org/esa/coordination/ngo)や国連広報局とのパートナー シップの下に強力な広報活動を進める1,660以上の NGO も含まれる (www.un.org/ngosection/index/asp)。 NGO は国連が扱う広範囲の問題に積極的に取り組んでいる。たとえ ば、平和構築、軍縮、宇宙空間問題、エイズ、マラリア予防、農業、食 糧援助、持続可能な開発、情報とコミュニケーション技術、防災、砂漠 化防止、人道活動、グローバルな薬物問題、環境などの問題である。こ うしたことは国連が実際にかかわっている問題のほんのわずかな例に過 ぎない(それぞれの章を参照)。 グローバル・コンパクト 参加者の数は3,800を越え、その中には 2,900社以上の企業、国際や国内の労働組合、100カ国にある何百という 市民社会組織が含まれる。これらの参加者は国連とともに人権、労働、 環境のような分野における普遍的に認められた原則を推進している (www.unglobalcompact.org を参照)。
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国連ピース・メッセンジャーおよび親善大使 国連の創設当初から世 界的に有名な俳優、スポーツ選手、その他の著名人が、よりよい世界の ために働く国連のためにその名前や名声を貸してきた。現在、9人が国 連ピース・メッセンジャーとして事務総長から任命され、また国連シス テム全体として156人の親善大使がそれぞれの機関から任命されている (www.un.org/sg/mop を参照)。 パブリック・チャリティ 「国連財団」は国連の活動を支援する多く のパブリック・チャリティのうちの一つで、国連の大義と活動を支持し て実業家であり、慈善家でもあるテッド・ターナー氏が行った10億ド ルの寄付によって創設された。この寄付は国連がこれまで受けた寄付の 中では最高の額であった(www.unfoundation.org を参照)。これを受けて、 国連財団の拠出を調整、媒介、監視する「国連国際パートナーシップ基 金(UNFIP)」が設けられた(www.un.org/unfip を参照)。
国々に強いることになる。2006年末現在の平和維持活動への滞納額は19 億ドルにも達した。さらに、国際刑事裁判所に対しては5,060万ドル近 くが滞納となっているほか、長い間延び延びになっている国連本部の改 修工事に対してもおよそ3,350万ドルの滞納が見られる。 国連の基金や諸計画――たとえば、国連児童基金(UNICEF) や国連 開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)――はそれぞれ個別 の予算を持っている。その資金の大部分は政府やユニセフの場合のよう に個人からの任意の拠出金である。国連の専門機関もまた、個別の予算 を持っており、各国の任意の拠出によって補足される。
国連ファミリー (www.unsystem.org)
国連ファミリー(「国連システム」)は国連事務局、国連の諸計画や基 金(たとえば国連開発計画や国連児童基金)、専門機関(たとえばユネスコ や世界保健機関など)および関連機関で構成される。基金や計画は総会
の補助機関である。専門機関は特別協定によって国連に結びついており、
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経済社会理事会および/もしくは総会に報告する。関連機関(国際原子 力機関(IAEA)や世界貿易機関(WTO)を含む)は、それぞれの専門の領
域で活動し、それ自身の管理機関と予算を持っている。これらの国連シ ステムの機関はすべて、経済社会活動のあらゆる分野で活動している。
国連システム事務局長調整委員会(United Nations System Chief Executives Board for Coordination: CEB)この CEB はこれまで行政調整委員会として
知られていたもので、国連システムの最高の調整機関である。事務総長 が議長を務め、そのメンバーは国連の基金、計画、専門機関、関連機関 など、28の機関の最高行政官である事務局長である。主な任務は、加盟 国の共通の目標を達成するために国連システムの活動の調和を図ること である。年に2回開かれ、その作業はハイレベル計画委員会とハイレベ ル管理委員会の支援を受ける。 28のメンバーは、国際連合、FAO、IAEA、ICAO、IFAD、ILO、IMF、 IMO、ITU、UNCTAD、UNDP、UNEP、UNESCO、UNFPA、UN-HABITAT、UNHCR、UNICEF、UNIDO、UNODC、UNRWA、UNWTO、UPU、 WFP、WHO、WIPO、WMO、世界銀行、WTO である(www.unsystemceb. org を参照) 。
国連事務局(www.un.org/documents/st) 国連事務局は以下に述べる局(Department) と部・室(Office) から構 成される。事務総長室は事務総長とその上級顧問で構成され、一般的な 政策を定め、総合的な指針を国連に与える。事務局本部はニューヨーク にあり、世界の各地域に国連の事務所がある。 活動の中心はジュネーブ、ウィーン、ナイロビである。セルゲイ・ア レクサンドロビッチ・オルゾニキーゼ(ロシア連邦)事務次長に率いら れる国連ジュネーブ事務局(UNOG)は、会議外交の中心であり、また 軍縮と人権を進めるためのフォーラムである(www.unog.ch を参照)。ア ントニオ・マリア・コスタ(イタリア)事務次長が率いる国連ウィーン
国際連合:その機構 51
事務局(UNOV)は、国際的な薬物乱用統制、犯罪防止と刑事司法、宇 宙空間の平和利用、それに国際商取引法に関する活動の本部となってい る(www.unvienna.org を参照)。国連ナイロビ事務局(UNON)はアンナ・ カジュムロ・ティバイジュカ事務次長によって率いられ、環境と人間居 住の分野における活動の中心である(www.unon.org を参照)。 内部監査部(www.un.org/Depts/oios) Office of Internal Oversight Services(OIOS) 事務次長 インガ=ブリット・アーレニウス氏(スウェーデン)
内部監査部は独立した、専門的な、時宜を得た内部監査、監視、監査、 評価、調査活動を行う。その目的は、責任ある資源の管理、説明責任と 透明性の文化、プログラム実績の改善をはかる「変化」の代理人となる ことである。内部監査部は、とくに次のことを行う。 ・包括的な内部の会計検査を行う。 ・国連の各種機関および部局について監査を行う。 ・事業計画や任務の実施の効率および効果を監視、評価する。 ・不正管理および不正行為に関する報告を調査する。 ・会計検査、評価、監査および審査の結果行われた勧告が実施されて いるかを監視する。 内部監査部は、事務総長の権限の下に行われるすべての国連活動をそ の対象とする。それにはニューヨークやジュネーブ、ナイロビ、ウィー ンにある国連事務局、5つの地域委員会、国連平和維持活動や人道援助 活動が含まれる。また、UNHCR、UNEP、UN-HABITAT、OHCHR のよ うに事務総長の権限の下にあるが独立して運営される各種の基金や計画 に対してもサービスを提供する。されに、 「国連砂漠化防止条約」や 「国連気候変動枠組条約」の事務局など、そのサービスを求める機関に 対しても援助を提供する。 OIOS の2006−2007年度予算は、すべての資金源も含め、およそ8,500 万ドルであった。毎年、200件以上の報告書を作成し、また内部管理の 改善や組織的な効率と効果への障害を取り除くことを目的とした1,500 件以上の勧告を発表する。1995年以来、コスト回避益、払い過ぎ金の回
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国際連合機構図(国連の主要機関) 信託統治理事会
安全保障理事会
総 会
補助機関
補助機関
●軍事参謀委員会 ●常設委員会及びアドホック機関 ●平和維持活動・ミッション ●反テロリズム ●旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所 (ICTY) ●ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)
●主要委員会 ●人権理事会 ●会期委員会 ●常設委員会及びアドホック 機関 ●その他の補助機関
諮問的補助機関 ●国連平和構築委員会(PBC)
計画と基金 ●国連貿易開発会議 (UNCTAD) 国際貿易センター(ITC) (UNCTAD/WTO) ●国連薬物統制計画 1 (UNDCP) ●国連環境計画(UNEP) ●国連児童基金(UNICEF)
●国連開発計画 (UNDP) 国際女性開発基金 (UNIFEM) 国連ボランティア計画 (UNV) 国連資本開発基金 (UNCDF) ●国連人口基金 (UNFPA)
●国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) ●世界食糧計画 (WFP) ●国連パレスチナ難民救済 2 事業機関 (UNRWA) ●国連人間居住計画 (UN-HABITAT)
●国連社会開発研究所 (UNRISD) ●国連軍縮研究所 2 (UNIDIR)
●国際婦人調査訓練研修所 (UN-INSTRAW)
調査訓練機関 ●国際地域間犯罪司法研究所 (UNICRI) ●国連訓練調査研修所 (UNITAR)
その他の国連機関 ●国連プロジェクトサービス機関 (UNOPS) ●国連大学(UNU)
●国連システム・スタッフ・カレッジ(UNSSC) ●国連合同エイズ計画(UNAIDS)
その他の信託基金 8 ●国際的パートナーシップの ための国連基金(UNFIP)
●国連民主主義基金(UNDEF)
注:主要機関からの太い線は直接の報告関係を示す。 ダッシュは、補助機関の関係にないことを示す。 1.国連薬物統制計画は国連薬物犯罪事務所の一部である。 2.UNRWA と UNIDIR は総会にのみ報告する。 3. 「国連倫理室」、「国連オンブズマン室」、「最高情報技術責任者」は事務総長に直接報告する。 4.特別の取り決めによって、フィールド支援担当事務次長は平和維持活動担当事務次長に直接報告する。 5.IAEA は安全保障理事会と総会へ報告する。 6.CTBTO 準備委員会と OPCW は総会に報告する。 7.専門機関は自治機関で、政府間レベルでは ECOSOC の調整機関を通して、また事務局間レベルで は事務局長調整委員会(CEB) を通して国連とともに、また他の専門機関とともに活動する。 8.UNFIP は国連副事務総長の主導の下にある自治的な信託基金である。UNDEF の諮問委員会は事務 総長に資金計画案を勧告し、その承認を受ける。
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経済社会理事会
国際司法裁判所
事務局
機能委員会
専門機関 7
各部局
●麻薬委員会 ●犯罪防止刑事司法委員会 ●開発のための科学技術委員会 ●持続可能開発委員会 ●女性の地位委員会 ●人口開発委員会 ●社会開発委員会 ●統計委員会
●国際労働機関(ILO) ●国際食糧農業機関(FAO) ●国連教育科学文化機関 (UNESCO) ●世界保健機関(WHO) ●世界銀行グループ 国際復興開発銀行 (IBRD) 国際開発協会 (IDA) 国際金融公社 (IFC) 多国間投資保証機関 (MIGA) 国際投資紛争解決 センター(ICSID) ●国際通貨基金(IMF) ●国際民間航空機関(ICAO) ●国際海事機関(IMO) ●国際電気通信連合(ITU) ●万国郵便連合(UPU) ●世界気象機関(WMO) ●世界知的所有権機関 (WIPO) ●国際農業開発基金(IFAD) ●国連工業開発機関 (UNIDO) ●世界観光機関(UNWTO)
3 ●事務総長室 (OSG) ●内部監査部 (OIOS) ●法務部 (OLA) ●政治局 (DPA) ●平和維持活動局(DPKO) 4 ●フィールド支援局(DFS) ●人道問題調整事務所 (OCHA) ●経済社会局 (DESA) ●総会・会議管理局 (DGACM) ●広報局 (DPI) ●管理局 (DM) ●後発開発途上国、内陸開発 途上国、小島嶼開発途上国 担当上級代表事務所 (UN-OHRLLS) ●国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR) ●国連薬物犯罪事務所 (UNODC) ●安全保安局 (DSS)
地域委員会 ●アフリカ経済委員(ECA) ●ヨーロッパ経済委員会 (ECE) ●ラテンアメリカ・カリブ経 済委員会 (ECLAC) ●アジア太平洋経済社会委員 会 (ESCAP) ●西アジア経済社会委員会 (ESCWA)
その他 ●先住民に関する常設 フォーラム ●国連森林フォーラム ●会期/常設委員会 ●専門家、アドホック及び関 連機関
●国連ジュネーブ事務所 (UNOG) ●国連ウィーン事務所 (UNOV) ●国連ナイロビ事務所 (UNON)
関連機関 ●世界貿易機関 (WTO) ●国際原子力機関 5 (IAEA) ●包括的核実験禁止条約機 関準備委員会 6 (CTBTO Prep.com) ●化学兵器禁止機関 6 (OPCW) 注:主要機関からの実線は直接の報告関係を示す。 点線は、補助機関の関係にないことを示す。
国連広報局発行 DPI/2470-07-49950-December 2007-3M
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世界の主要国連事務所 ロンドン ベルン ウィーン ニューヨーク モントリオール マドリッド パリ UNWTO ICAO UNESCO IMO UPU IAEA 国連本部 UNIDO UN-OHRLLS ハーグ UNDP UNODC ICJ UNFPA UNICEF
ローマ ベイルート 東京 FAO ESCWA UNU IFAD WFP
サントドミンゴ INSTRAW ワシントン IMF World Bank Group
サンチアゴ ECLAC
ジュネーブ ECE ILO ITU OHCHR UNCTAD UNHCR WHO WIPO ナイロビ アジスアベバ ガザ/アンマン バンコク WMO UNEP UNRWA ESCAP WTO UN-HABITAT ECA
地図番号 4218(E)Rev.1 国連/ 2008年 3 月
フィールド支援局カートグラフィック課
収、効率化、その他の重要な改善など、4億ドル以上の財政的影響を持 つ事項について勧告を行った(2007年6月30日現在)。 内部監査担当の事務次長は、再任のない5年一期のみを条件に国連事 務総長によって任命され、総会の承認を受ける。 法務部(http://untreaty.un.org/ola) Office of Legal Affairs(OLA) 事務次長/法律顧問 ニコラス・ミシェル氏(スイス)
法務部(OLA)は法律問題についてのサービスを提供する国連の中心 機関である。国際公法、国際私法の分野で事務総長と事務局内の部局、 国連の主要機関や補助機関に助言を与え、国際公法や海洋法、国際商取 引法に関係する法律関連の機関に実質的なサービスを提供するとともに、 その事務局としての機能も果たす。また、多国間条約の受託者という事 務総長に委託された任務を果たす。
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法務部は国際の平和と安全、国際連合の地位と特権免除、加盟国の委 任状や代表に関係した法律問題を取り上げる。また、国際条約、協定、 国連機関や会議の手続き規則、その他の法律文書の草案を作成するとと もに、国際私法や行政法の問題や国連の決議や規則について法的サービ スや助言を行う。 さらに、総会の第6委員会、国際法委員会、国際商取引法委員会、国 連海洋法条約によって設置された機関、国連行政裁判所、その他の法律 機関に事務局としてのサービスを提供する。また、国連憲章第102条に 従って条約の登録を受け、公表する事務局の責任を果たす。 法務部の最高責任者は、「法律顧問」として、法律問題に関する会合 や会議、それに裁判手続きや仲裁裁判に事務総長を代表して出席する。 また、国連の名のもとに発行される法律文書を確認する。国連システム の法律顧問の会議を招集し、会議では国連を代表する。 政治局(www.un.org/Depts/dpa) Department of Political Affairs(DPA) 事務次長 B. リン・パスコ氏(米国)
政治局(DPA)は、世界中の武力紛争を防止し、解決するとともに、 紛争後には平和を確立するという国連活動の中心的役割を果たす。その ために、政治局は以下のことを行う。 ・世界における政治的事態の発展を監視し、分析し、かつ評価する。 ・その管理と解決に国連が有効な役割を果たしうる潜在的紛争もしく は実際の紛争を明らかにする。 ・そうした事態にあっては適切な行動を事務総長に勧告し、承認され た政策を実施する。 ・予防外交、平和創造、平和維持および平和構築の領域で事務総長、 総会、安全保障理事会が決定した政治的な活動について事務総長を 補佐する。 ・加盟国から受けた選挙援助への要請について事務総長に助言を与え、 かつそうした要請に応えて承認された事業活動の調整を行う。 ・事務総長と加盟国との関係の政治的側面について事務総長に助言と
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支援を提供する。 ・安全保障理事会とその補助機関および「パレスチナ人民の固有の権 、非植民地化に関する24カ国特 利行使委員会(パレスチナ委員会)」 別委員会に役務を提供する。 政治局の長(政治問題担当事務次長) は、とくに紛争の平和的解決に 関連した協議や交渉を行い、また国連の選挙援助活動の中心となる。 軍縮部(http://disarmament.un.org) Office for Disarmament Affairs(UNODA) 軍縮上級代表 セルジオ・デ・ケロス・ドゥアルテ氏(ブラジル)
軍縮部は核軍縮と核拡散防止の実現を進め、かつ化学・生物兵器を含 むその他の大量破壊兵器に関する軍縮レジームの強化をはかる。また、 とくに現代の紛争でしばしば使用される小型武器の不正取引に関する 2001年行動計画の実施との関連で、通常兵器の分野での軍縮活動を促進 する。これには、武器の回収と貯蔵管理計画、元戦闘員の武装解除や復 員、市民社会への再統合などが含まれる。軍縮部はまた、対人地雷の使 用制限とそれに続く軍縮を目指した活動も進める。 軍縮部は総会とその第1委員会、軍縮委員会、ジュネーブ軍縮会議、 その他の機関の作業を通して、軍縮分野における規範設定活動に対して 実質的かつ行政的支援を提供する。また、軍事問題に関する対話、透明 性と信頼醸成措置など、予防的な軍縮措置を育成する。たとえば、国連 通常兵器登録制度や軍備支出に関する標準化された報告制度などである。 また、非核地帯、地域や小地域の透明性レジームなど、地域の軍縮活動 も奨励している。さらに、国連の軍縮活動に関する情報を提供し、軍縮 に関する教育計画を支援する。 2007年前半にこの機関は「軍縮局」から「軍縮部」になった。これは 国連の軍縮課題に新たな弾みを与えようとする事務総長の努力の一環と して行われた(囲みコラム「改革と再活性化:平和維持と軍縮」を参照)。
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平和維持活動局(www.un.org/Depts/dpko/dpko) Department of Peacekeeping Operations(DPKO) 事務次長 アラン・ル・ロイ氏(フランス)
平和維持活動局(DPKO)は、国連加盟国や事務総長が国際の平和と 安全を維持し、実現し、持続させるために行う活動を補佐する。した がって、加盟国が与える任務に従って、国連の平和維持活動を計画し、 準備し、実施する。とくに以下のことを行う。 ・将来予測される新しい平和維持活動に対応した計画を作成する。 ・加盟国との交渉を通して、任務の遂行に必要な文民や軍事・警察要 員、軍事部隊、それに装備や役務を調達する。 ・平和維持活動に対して政治的ガイダンスや行政指導、指示、支援を 提供する。 ・安全保障理事会決議の実施に関して紛争当事者と理事会メンバーと の接触を維持する。 ・すべての平和維持活動を指示、監督するために統合作戦チームを管 理する。 ・安全保障部門の改革、法の支配、軍縮、動員解除、元戦闘員の社会 への再統合など、重要な平和維持問題について安全保障理事会や加 盟国に助言する。 ・平和維持活動に関連して生じる政策問題や最善の慣行について分析 し、必要な政策や手続き、一般的な平和維持に関する原則を作成す る。 ・地雷除去に関するすべての国連活動を調整し、平和維持活動や緊急 事態における地雷除去活動を進め、支援する。 平和維持活動局の最高責任者(平和維持活動担当事務次長)は、事務総 長に代わって平和維持活動を指示し、そうした活動のための政策と指針 を作成し、平和維持活動や地雷除去活動に関連したすべての問題につい て事務総長に助言を与える(「平和維持活動局」で現在行われている変更に 関しては、 「フィールド支援局」および囲みコラム「改革と再活性化:平和維 持と軍縮」の項を参照)。
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改革と再活性化:平和維持と軍縮 就任して間もなく、潘基文事務総長は、世界において国連の使命を果 たせるように、その能力強化を目的とした多くの基本的改革を提案した。 その中には国連平和維持活動と軍縮に関する機関の再編成もあった。 総会宛の書簡で、事務総長は、「平和活動の数はこれまでになく多く、 現地には10万人近くの要員がその任にあたっている」ことに留意した。 2000年の改革は、DPKO が年に1回、新規の総合的ミッションを開始 できるようにする目的のものであった。しかし、「過去36カ月だけに 限っても9つのフィールド・ミッションの展開や拡大があり、現在さら に3つの追加ミッションが始まろうとしている」。 「来年中には、国連平和活動に従事する要員の数は40パーセント増加 するであろう」と事務総長は述べた。こうしたことから、事務総長は 「フィールド支援局」を新設し、平和維持活動を計画、展開、支援させ ることを提案した。 「平和維持活動局」には戦略的監視や作戦上の政治 的ガイダンスのような問題に集中させることにした。 2007年3月15日、総会はこの提案を支持し、2007年6月29日、新た な「フィールド支援局(DFS)」が正式に設置された。これによって現 地での活動により効果的な、一貫した、要求に迅速に対応する支援を提 供するとともに、より効率よく資源の管理ができるようになった。DFS を率いる事務次長は平和維持活動担当事務次長へ報告し、かつその指示 を受ける。これは指揮の統一を図り、責任の範囲を明確にするためであ る。この改革は12カ月にわたって段階的に行われる。 同じく3月15日、総会は「軍縮局」を「国連軍縮部(UNODA)」に 変えるとの事務総長の提案を支持した。最高責任者は「軍縮上級代表」 で、事務総長に対して責任を取る。改革は、1996年9月に総会が採択 した「包括的核実験禁止条約」発効への努力など、軍縮問題の関して新 たな進展を目指すことを意図したものである。
フィールド支援局(www.un.org/Depts/dpko/dpko/dfs.shtml) Department of Field Support(DFS) 事務次長 スサーナ・マルコーラ氏(アルゼンチン)
2007年6月29日、総会は「フィールド支援局」を正式に設置した。こ
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れはその年の初めに事務総長が提案したものであった。この改革は国連 の平和維持活動に対する要求が急増していることを受けて行われたもの で、国連が持つ平和維持活動の管理、維持能力を強化することを目的と した。 新しい取り決めの下では、DPKO は戦略的監視や実施上の政治的ガイ ダンスに責任を持つ一方、DFS は計画策定、展開、維持に責任を持つ。 DFS を創設することによって、総会は、また、その監視下に置かれる 16の展開中の平和維持活動のうちの13の活動の予算として42億5,000万 ドルという記録的な額の予算を承認した(注:UNTSO および UNMOGIP は国連の通常予算からまかなわれる。また当時はまだ UNAMID は設立されて いなかった) 。
指揮の統一を図るため、フィールド支援担当事務次長は平和維持活動 担当事務次長へ報告し、かつ指示を受ける。一つの局の事務次長が他の 局の事務次長に報告し、なおかつその指示を仰ぐという構造を承認する に当たって、総会は、この取り決めは例外的なもので、事務局の他の報 告関係の先例となるものではないとのべた(その背景については、囲みコ ラム「改革と再活性化:平和維持と軍縮」を参照)。
人道問題調整事務所(http://ochaonline.un.org) Office for the Coordination of Humanitarian Affairs(OCHA) 人道問題担当事務次長/緊急援助調整官 サー・ジョン・ホームズ氏 (イギリス)
人道問題調整事務所(OCHA)の任務は、災害や緊急事態の被災者の 苦しみを緩和するために、国内や国際のパートナーシップの下に、人道 活動を動員し、かつその調整を図ることである。 現地事務所や人道援助調整官、被災国チームとのネットワークを通じ て、OCHA は一貫した人道援助ができるようにする。また、人道援助 調整官や被災者への援助を行う国連機関の活動を支援して、ニーズの評 価、災害対策、人道援助計画の策定の調整を図る。 また、国連緊急援助調整官が率いる OCHA は援助を必要としている 人々の権利を擁護し、対策や防災を推進し、持続可能な解決ができるよ
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うに努める。 緊急援助調整官の主な任務は以下の通りである。 ・人道的な緊急事態時の対応を調整する。 ・既存の機関の任務に入らないような問題も含め、すべての人道問題 が取り上げられるようにする政策を展開する。 ・政治的な機関、とくに安全保障理事会が関係する人道問題について 唱道する。 世界各地で働く OCHA の職員数は1,064人。2007年度予算は1億5,900 万ドルで、その92パーセントが通常予算の枠外の予算でまかなわれる。 経済社会局(www.un.org/esa/desa) Department of Economic and Social Affairs(DESA) 事務次長 シャ・ツカン氏(中国)
経済社会局(DESA) には3つの大きな、互いに関連し合う活動分野 がある。 ・幅広い社会、経済、環境に関するデータや関連問題や傾向に関する 情報を集め、分析する。この分析された情報は国連の政策決定の際 や他の多くの利用者に役立つ。 ・DESA は、総会および経済社会理事会とその補助機関における交渉 を容易にする。また、加盟国やその他の参加者が、経済、社会、そ の他の関連領域におけるグローバルに関心のある問題についてコン センサスに達することが出来るように、支援する。 ・加盟国政府の要請を受けて、開発問題の解決に関する方法や手段に ついて助言を与える。それには、ミレニアム・サミット、モンテ レー開発資金国際会議、持続可能な開発に関する世界首脳会議、そ の他のグローバルな経済、社会、環境に関する会議やサミットで合 意された行動を実施するための国内計画や活動を発展させることな どが含まれる。 DESA の活動領域は、持続可能な開発、ジェンダーの問題と女性の地 位向上、開発政策の分析、人口、統計、公共行政と電子政府、社会政策 と開発に及ぶ。その活動には、先住民問題に関する常設フォーラム、国
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連情報通信技術特別委員会、国連森林フォーラムに対する支援活動があ る。DESA は非政府組織やその他の市民社会の代表と緊密に協力する。 総会・会議管理局(www.un.org/Depts/DGACM) Department of General Assembly and Conference Management(DGACM) 事務次長 S. ムハマッド・シャアバン氏(エジプト)
総会・会議管理局(DGACM) は、総会とその主要委員会および補助 機関、経済社会理事会とその委員会や他の補助機関、それに国連本部以 外で開かれる会議に技術的な支援や事務局としての支援を行う。国連本 部ですべての公式文書をアラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシ ア語、スペイン語で発行する責任を持ち、政府間会議に対しては、これ らの言葉による通訳のサービスを提供する。また、会議の要約や逐語的 な記録など、国連の公式記録も作成する。 この局の長である総会・会議管理担当事務次長は、ニューヨークの国 連本部やジュネーブ、ウィーン、ナイロビにある国連事務局のために、 会議管理政策を発展させ、調整する責任を持つ。また、総会とその一般 委員会や主要委員会の会期と作業について総会議長に助言する。 広報局 Department of Public Information(DPI) 事務次長 赤阪清隆氏(日本)
広報局(DPI)の使命は、国連の実質的な目的が実現されるように助 けることである。そのため国連の活動や関心事項を戦略的に世界の人々 に伝える。また、国連の目的達成を目指す活動を世界の人々が支援する よう奨励する。DPI は、周知活動、広報キャンペーン、特集記事資料、 ラジオ・テレビ番組、報道用記事資料、刊行物、ドキュメンタリー・ビ デオ、国連のメッセージを伝える特別行事など利用して広報活動を進め る一方、寄託図書館を設けて図書サービスや知識共有のサービスも提供 する。国連本部で働くスタッフに加え、世界の主要都市に55の広報セン ターがある。また、ブリュッセルには地域センター(BUNIC)があり、 8つの国連事務所には広報部が設けられている。 DPI の長はコミュニケーション・広報担当事務次長で、国連のコミュ
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ニケーションと広報の政策に責任を持つ。事務次長は、国連がその活動 に関する正確かつ調整のとれた情報をメディア、市民社会、一般の人々 に提供するようにしなければならない。 広報局は3つの部から構成される。「戦略的コミュニケーション部」 は、国連の優先課題に関する情報を周知させるためのコミュニケーショ ン戦略を発展させ、広報局内、および他の機関との間で戦略の実施につ いて調整を図る。とくにグローバルなメディアを対象として、主要な テーマ別問題についての広報資料を作成する。グローバルな国連広報セ ンター・ネットワーク(www.un.org/aroundworld/unics)に対して年間の活 動計画や運営上の支援を提供する。また、平和ミッションの広報部門に コミュニケーション・プランニングやバックストッピングを提供する。 「ニュース・メディア部」は、国連とその活動についてのニュースと 情報を世界のメディアに提供する(www.un.org/News を参照)。国連担当 のジャーナリストに広報支援を行い、またインターネット上の国連 ニュース・センターを通して常時6カ国語で国連に関するニュースを流 している。国連の会議や行事について新聞記事資料、生のテレビ番組用 資料、ラジオ番組や写真を作成し、提供する。また、国連についてのラ ジオ・ビデオ・ドキュメンタリーやニュース番組を制作し、配布する。 DPI はまた、事務総長スポークスマン室が行う毎日の記者会見や声明 発表(www.un.org/ossg) も担当する。スポークスマン室は、事務総長の メディア関連の活動を計画し、世界のメディアに対して国連の政策や活 動を説明する。スポークスマンは毎日、継続的に、事務総長の活動をは じめ、安全保障理事会やその他の主要機関、それに裁判所、各種機関、 基金や計画など、国連システム全体の活動についてジャーナリストに要 約する。スポークスマンは事務総長に対してのみ責任を持つ。 国 連 の 主 要 な 図 書 館、 ダ グ・ ハ マ ー シ ョ ル ド 図 書 館(www.un.org/ Depts/dhl) は「アウトリーチ部」の一部である。非政府組織(www.un. org/dpi/ngosection)や教育機関、広報用の出版物やサービスの販売を担当
する課(www.un.org/Pubs)などもこの部の中に入る。アウトリーチ部は 国連の優先課題について特別行事や展示会を組織し、開発途上国の
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ジャーナリストを対象とした研修計画を毎年実施する。また、国連の目 的をさらに推進するために民間部門や公的部門とのパートナーシップを 発展させる。国連本部でガイドによるツアーを実施し(www.un.org/tours)、 外部からの問い合わせに答え(www.un.org/geninfo/faq)、国連の問題につ いての講演者を派遣することも、この部の責任である。また、「国連年 鑑」や季刊誌「国連クロニクル」 、「国際連合の基礎知識」などを発行す る。 管理局 Department of Management(DM) 事務次長 アンジェラ・ケーン氏(ドイツ)
管理局(DM)は財政、人的資源、支援サービスの3つの領域におい て事務局のすべての部局に戦略的な政策指針や管理上の支援を提供する。 これらの活動は「計画プランニング・予算・会計部」 、「人的資源管理 部」 、 「中央支援サービス部」の3つの部の権限のもとにある。 管理局は、国連事務局における管理政策の改善と実施、事務局職員の 管理と研修、事業計画のプラニングと予算作成、財政資源と人的資源の 管理、技術革新に責任を持つ。また、総会の第5委員会(行政・予算) や計画調整委員会に対して技術的なサービスを提供する。 管理局の長は管理担当事務次長で、国連の中期計画や2カ年予算の編 成のさいには政策指針や指示を与え、調整活動を行う。また、管理に関 する問題で事務総長を代表し、事務局内の管理問題を監督する。また、 事務総長から委任された権限のもとに、事務局内で司法が効率的に運営 されるようにする。 安全保安局 Department of Safety and Security(DSS) 事務次長 サー・ディビッド・ベーンズ氏(英国)
安全保安局は、安全管理体制を統合、強化する目的で2005年1月総会 によって設置された。その任務は国連本部や主要な事務所、それに フィールドにおいて国連スタッフや活動、建物の安全や保安を図ること である。
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DSS はこれまであった3つの機関、すなわち「国連安全調整官室」、 それぞれの本部事務局にあった安全保安サービス、「平和維持活動局」 の文民保安部門を一つの管理組織の下にまとめたもので、安全保障上の 政策や基準の開発と実施、調整やコミュニケーション、順守、リスク評 価などに対して統一したアプローチを行う。 設立後の最初の2年間、DSS が特に力を入れたのは、アクセス制御 システムを改善し、安全保障上の危機管理に対してより分析的なアプ ローチを導入して、効果的な順守、評価の構造を作り上げることであっ た。これまで行われた成果としては、政策の大幅な合理化、保安要員や その他の要員の訓練の改善、さまざまな危機シナリオに対応するための 調整機構の開発などが挙げられる。そして、その「説明責任の枠組み」 は、事務総長から若手スタッフまで、国連システム内のすべてのスタッ フの安全保障上の責任を明確にしている。 DSS の長期目標は、安全保障上の考慮が国連システム全体の計画策 定や予算編成の際の不可欠な要因となるようにし、ホスト国当局との理 解と協力を改善し、かつ国連システム全体に「安全の文化」を創設する ことである。DSS の設置は国連の安全管理体制を大幅に強化した。 DSS はその体制の礎石であり、安全保障の問題がすべての国連活動 を計画、実施する際の主流となるようにする。この体制の開発は、「機 関間安全管理ネットワーク」によって行われる。このネットワークは年 に2回会合し、国連システム事務局長調整委員会(CEB)に参加するす べての国連機関に適用される安全保障政策を勧告する。 後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国担当上級代表事務所 Office of the High Representative for the Least Developed Countries, Landlocked Developing Countries and Small Island Developing States(UN-OHRLLS) (http://www.un.org/ohrlls) 事務次長/後発開発途上国・内陸開発途上国・小島嶼開発途上国担当 上級代表 チェイク・シディ・ディアラ氏(マリ)
「後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国担当上級代表 事務所」は、2001年12月に総会によって設置された。その目的は、 「2001−2010年の10年の後発途上国のための2001年ブリュッセル宣言
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と行動計画」の実施に必要な国際支援を動員することである。 UN-OHRLLS は、事務総長を助けて、「ブリュッセル行動計画」をは じめ、アルマティ宣言とその行動計画、「内陸国・通過途上国のための 通過輸送協力のための新グローバル・フレームワーク内における内陸開 発途上国のための特別なニーズに取り組んで」を含め、他の多くの関連 の国際的コミットメントを効果的に実施するために国際的な支援を動員 し、調整する。この行動計画は、2003年8月にカザフスタンのアルマ ティで開催された内陸開発途上国の固有の問題を解決するための最初の グルーバル会議で採択された。 この事務所はまた、1994年の小島嶼開発途上国の持続可能な開発に関 するグローバル会議で採択された「小島嶼開発途上国の持続可能な開発 のためのバルバドス行動計画」や2005年1月にモーリシャスで開催され た国際会議が採択したバルバドス行動計画の実施のための「モーリシャ ス戦略」を実施するための活動も行う。 UN-OHRLLS は、これらの行動計画を実施する国連システム内の活 動を調整し、また、経済社会理事会や総会がその進捗状況を評価するの を支援する。また、関連する国連機関、市民社会、メディア、学術団体、 各種財団とのパートナーシップの下に、これらの問題がグローバルに認 識されるように、広報、普及活動を行う。 また、2006年8月19日に開かれた総会の「後発開発途上国のための行 動計画実施のハイレベル中期再検討会議」の準備と調整を行った。
地域委員会 Regional commissions 国連の地域委員会は経済社会理事会へ報告し、その事務局は事務総長 の権限のもとにおかれる。任務は、それぞれの地域の経済開発を促進す る措置を発議し、域内諸国間の経済関係を強化することである。活動は 国連の通常予算によってまかなわれる。
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アフリカ経済委員会(www.uneca.org) Economic Commission for Africa(ECA) ECA は1958年に設置され、アフリカ大陸の経済社会部門の成長を促 す。とくに生産、貿易、通貨、社会基盤、制度の分野で、ECA 加盟53 カ国の経済協力と統合を強化する政策や戦略を促進する。また、経済社 会問題に関する情報と分析を発表し、食糧の安全保障と持続可能な開発 を促進し、開発管理を強化し、開発のための情報革命を利用し、地域の 協力と統合を促進する。とくに注意を払っていることは、女性が置かれ る状況を改善し、開発や政策決定への参加を高め、国家の発展における 女性とジェンダーの公平を確保することである。 事務局長:アブドゥリエ・ジャネ氏(ガンビア) 住所:PO Box 3001, Addis Ababa, Ethiopia 電話: (251-11) 551-7200 Fax:(251-11) 551-0365 E-mail: ecainfo@un.org ヨーロッパ経済委員会(www.unece.org) Economic Commission for Europe(ECE) 1947年に設置された ECE は、北米、ヨーロッパおよび中央アジアの 国々が経済協力を進めるためのフォーラムである。加盟国はイスラエル も含め、56カ国である。優先分野は経済分析、環境と人間居住、統計、 持続可能なエネルギー、貿易、工業と企業開発、木材および運輸である。 主に政策の分析と討論、それに条約や規則、基準の作成によって目標の 達成を図る。これらの文書の実施は、障害の除去や域内および他の国々 との貿易手続きの簡素化に役立つ。いくつかは環境の改善を目的として いる。委員会はまた、それが十分に実施されるように、とくに移行期に ある国々を中心に技術援助を行っている。 事務局長:マレク・ベルカ氏(ポーランド) 住所:Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-0-22) 917-1234 Fax: (41-0-22)917-0505 E-mail: info.ece@unece.org
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ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(www.eclac.cl, www.eclac.org) Economic Commission for Latin America and the Caribbean(ECLAC) ECLAC は1948年に設置され、域内の持続可能な経済社会開発を促進 するための政策を調整する。44加盟国と8準加盟国との共同で、域内お よび国内の開発プロセスの研究と分析を行う。また、国際的に合意され た開発目標を指針に、公共政策措置の提案、評価、フォローアップを行 い、かつ専門化された情報を提供する。 ECLAC――スペイン語の略語では CEPAL――は、農業開発、経済社 会プランニング、工業・技術・企業開発、国際貿易と地域統合および協 力、投資と融資、社会開発と公平、開発への女性の参加、天然資源とイ ンフラ整備、環境と人間居住、統計、行政管理、人口統計と人口政策な どについて国内、地域、国際の機関と協力する。 ECLAC の本部はチリのサンティアゴに在るが、小地域本部が中米を 対象としてメキシコ・シティに、またカリブ海域を対象としてトリニ ダード・トバゴのポート・オブ・スペインにある。また、ブエノスアイ レス、ブラジリア、モンテビデオ、ボゴタに国別の事務所があり、ワシ ントン DC には連絡事務所がある。 事務局長:アリシア・バルセナ・イバッラ氏(メキシコ) 住所:Avenida Dag Hammarskjold 3477, Casilla 179-D, Santiago, Chile 電話: (56-2) 210-2000, 471-2000 Fax:(56-2)208-0252, 1946 E-mail: secepal@cepal.org アジア太平洋経済社会委員会(www.unescap.org) Economic and Social Commission for Asia and the Pacific(ESCAP) ESCAP は1947年に設置され、域内の経済社会問題の解決に努める。 アジア太平洋地域のすべての国々を対象とした唯一の政府間フォーラム としてユニークな役割を果たしている。53の加盟国と9の準加盟国をも ち、域内人口は世界人口のおよそ60パーセントを占める。ESCAP は社 会経済開発について加盟国政府に技術的な支援を与える。そのため、政 府に対して直接の諮問サービスを行い、訓練や地域の経験を共有し、会 議や刊行物、加盟国間のネットワークを通して情報を提供する。
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また、経済成長を刺激するような計画やプロジェクトを実施し、経済 社会状態を改善し、近代社会の基礎造りを助ける。農業開発、農業機械 とエンジニアリング、統計、技術移転の4つのテーマに関する地域調査 訓練研修所を運営している。また、太平洋オペレーション・センターも ある。現在の優先分野は貧困の削減、グローバル化の管理、新たな社会 問題への対処である。 事務局長:ノーリーン・ヘイザー氏(シンガポール) 住所:United Nations Building, Rajadamnern Nok Avenue, Bangkok 10200, Thailand 電話: (66-2) 288-1234 Fax:(66-2) 288-1000 E-mail: escap-registry@un.org 西アジア経済社会委員会(www.escwa.org) Economic and Social Commission for Western Asia(ESCWA) ESCWA は、域内の経済協力と統合を促進することによって西アジア 諸国が共同で経済社会開発を進められるようにする目的で1973年に設置 された。13の加盟国から構成され、国連システムの中にあって域内の主 要かつ一般的な経済社会開発のためのフォーラムとなっている。事業活 動は経済開発、社会開発、農業、工業、天然資源、環境、運輸、通信、 統計に及んでいる。 事務局長:バデル・アルダファ氏(カタール) 住所:PO Box 11-8575, Riad el-Solh Square, Beirut, Lebanon 電話: (961-1)98-1301または1-212-9631, 9732(人工衛星、ニュー ヨーク経由) Fax:(961-1) 98-1510 E-mail: ホームページの「Contact Us」をクリック。
国際刑事裁判所 International tribunals 旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(www.un.org/icty) International Criminal Tribunal for the Former Yugoslavia(ICTY) 1993年に安全保障理事会によって設置された。1991年以降に旧ユー
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ゴスラビアで行われた重大な国際人道法違反者を訴追する任務を持つ。 14人の裁判官と訴訟のための27人の訴訟裁判官を持つ。27人の裁判官 のうち12人はいつでも利用できる。職員の数は81カ国出身の1,140人で ある。2006−2007年度予算は2億7,650ドルであった。 発足以来、160人が公式に起訴された。2007年2月現在、61人の被告 が裁判中で、そのうちの13人が上訴裁判部で裁判、6名が依然として手 配中である。これまで100人の被告が裁判を受け、そのうち48人が有罪 判決を受け、5人が無罪となった。11人が当事国へ移管され、36人が死 亡もしくは起訴が撤回された。 裁判長:ファウスト・ポカール裁判官(イタリア) 検察官:カルラ・デル・ポンテ氏(スイス) 書記:ハンス・ホルティウス氏(オランダ) 本部:Churchillplein 1, 2517 JW The Hague, the Netherlands 電話: (31-70)512-5000 Fax:(31-70) 512-5355 ルワンダ国際刑事裁判所(www.ictr.org) International Criminal Tribunal for Rwanda(ICTR) 1994年に安全保障理事会によって設置され、1994年にルワンダにおい て集団殺害および国際人道法の重大な違反を犯した人々や隣接諸国でそ うした行為を犯したルワンダ人を訴追することを任務とする。それぞれ 3人の裁判官から構成される3つの第一審裁判部と7人の裁判官からな る1つの上訴裁判部を持つ。上訴裁判部ではいかなる事件においても5 人の裁判官が出廷する。また、18人の訴訟裁判官を持ち、そのうち9人 がいつでも利用できる。職員の数は1,042人で、2006−2007年度予算は 2億6,980万ドルであった。 2007年1月現在、31人の被告に対して25件の判決を言い渡した。また、 28人の勾留者が公判中で、9人が裁判を待ち、7人が上訴中である。18 人の被告は依然として未拘束のままである。有罪の決定を受けた者の中 には、集団殺害時に首相であったジャン・カンバンダも含まれている。 彼は集団殺害のために逮捕され、その後有罪となった最初の政府首班で ある。
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裁判長:エリック・ミューセ裁判官(ノルウェー) 検察官:ハッサン・B・ジャロー氏(ガンビア) 書記:アダマ・ディエン氏(セネガル) 本部:Arusha International Conference Centre, PO Box 6016, Arusha, Tanzania 電話: (212) 963 2850 もしくは(255-27) 250-4369, 4372 Fax:(212) 963 2848 もしくは(255-27) 250-4000/4373
国連プログラムおよびその他の機関 国連貿易開発会議(www.unctad.org) United Nations Conference on Trade and Development(UNCTAD) 国連貿易開発会議(UNCTAD)は常設の政府間機関として、また総会 の補助機関として1964年に設置された。貿易、金融、技術、投資、持続 可能な開発の領域で開発とそれに関連する問題に対応する国連の中心的 な機関である。 その主な目標は、開発途上国や移行経済諸国が、開発、貧困削減、世 界経済への統合のための動力として貿易と投資を利用できるようにする ことである。そのために、調査研究、分析、技術協力を行い、政府間会 議を組織し、かつ市民社会や民間セクターなど、他の主要な開発関係者 との相互作用を促進する。 UNCTAD の最高の政策決定機関は4年ごとに開かれる閣僚会議であ る。会議では UNCTAD の192の加盟国(バチカンを含む)が国際的な経 済問題について討議し、また UNCTAD の活動計画を策定する。次回の 第12回 UNCTAD 総会は2008年4月にガーナのアクラで開催される予定 である。UNCTAD の執行機関は貿易開発理事会で、毎年通常会期を開 いて、事務局の作業の再検討を行う。 年間の活動予算はおよそ6,100万ドルで、国連の通常予算から出され る。UNCTAD の技術協力活動は通常予算外の資金でまかなわれ、その 額はおよそ3,100万ドルである。現在そうした技術協力活動は280件以上
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あり、およそ100カ国で実施されている。そのすべてが需要主導型であ る。事務局はジュネーブにあり、およそ400人の職員を持つ。主な刊行 物に、 「貿易開発報告」 、 「世界投資報告」 、「アフリカ経済開発報告」 、 「後発開発途上国報告」 、 「UNCTAD 統計ハンドブック」 、 「情報経済報告」、 「海上運輸レビュー」がある。 事務局長:スパチャイ・パニチャパック氏(タイ) 本部:Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-22)917-5809 Fax:(41-22) 917-0051 E-mail: info@unctad.org 国際貿易センター(www.intracen.org) International Trade Centre(ITC) 国際貿易センター(ITC)は、国連貿易開発会議(UNCTAD)と世界貿 易機関(WTO)の技術協力機関で、国際貿易の実務的な、企業指向の側 面を支援する。開発途上国や移行経済諸国、とくにその企業部門が輸出 を拡大し、かつ輸入業務を改善できるように支援する。 ITC の目標は、開発途上国と移行経済諸国を多国間の貿易システムの 中に統合すること、貿易開発戦略を策定し、実施するための努力を支援 すること、公私の主要な貿易支援サービスを強化すること、重要な部門 での貿易成果や機会を改善すること、企業共同体全体、そして特に中小 企業内における国際的な競合性を育成することである。 技術的な活動には、戦略的、作戦的市場調査、ビジネス諮問サービス、 貿易情報管理、輸出に関する研修、能力開発、特定した部門の製品と市 場開発、サービスの貿易、国際購買とサプライ・チェーンの管理などが 含まれる。 ITC の通常の活動経費は WTO と国連が平等に負担する。同センター はまた、受益国の要求に応えたプロジェクトも実施する。その経費は、 援助国政府や市民社会組織から受ける任意の拠出金でまかなう。2006年、 153カ国で2,530万ドル相当の技術援助を行った。本部職員の数はおよそ 210人である。その他、およそ800人のコンサルタントが世界の各地で働 いている。
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事務局長:パトリシア・フランシス氏(ジャマイカ) 本部:Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-22)730-0111 Fax:(41-22) 733-4439 E-mail: itcreg@intracen.org 国連薬物犯罪事務所(www.unodc.org) United Nations Office on Drugs and Crime(UNODC) 国連薬物犯罪事務所――旧称「薬物統制犯罪防止事務所(ODCCP)」 (1997年設立)――は、薬物の統制、犯罪防止、テロリズムの相互に関連
する問題に国連がよりよく対処できるようにする目的で設置された。同 事務所は薬物計画と犯罪計画とで構成される。 薬物計画は、国連の薬物統制活動を調整し、かつそうした活動の先導 を務める。そのため、薬物統制問題について技術的なアドバイスを加盟 国に与え、薬物乱用、押収、動向に関する統計を編纂し、法律文書の起 草を助け、司法担当官の研修を行う。また、薬物乱用の危険についての 教育を進め、薬物の生産、取引、薬物関連の犯罪防止に対する国際行動 を強化する。 犯罪計画は、犯罪防止と刑事司法に関する活動に責任を有する。加盟 国とともに、法の支配を強化し、安定し、かつ発展する刑事司法制度を 促進させることに務める。国境を越えた組織犯罪、人間と武器の不正取 引、金融犯罪、腐敗、テロリズムとの闘いに特別の注意を払っている。 UNODC の職員はおよそ450人で、世界の20の現地事務所、ニューヨー クとブリュッセルにある連絡事務所のネットワークを通して、国、地域、 グローバルのレベルで働いている。2006−2007年度予算は3億3,590万 ドルで、そのほとんどが任意の拠出金である。1億8,920万ドル(57パー セント) が薬物計画、7,470万ドル(22パーセント) が犯罪計画の予算で
ある。残りの7,200万ドル(21パーセント)は国連の通常予算からである。 事務局長:アントニオ・マリア・コスタ氏(イタリア) 本部:Vienna International Centre, Wagramerstrasse 5, PO Box 500, A-1400 Vienna, Austria 電話: (43-1) 26060-0 Fax:(43-1) 26060-5866
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E-mail: unodc@unodc.org 国連環境計画(www.unep.org) United Nations Environment Programme(UNEP) 国連環境計画(UNEP) は1972年に設立された。その目的は、各国の 政府と国民が将来の世代の生活の質を損なうことなく自らの生活の質を 改善できるように、環境の保全に指導的役割を果たし、かつパートナー シップを奨励することである。 環境分野における国連の主要な機関として、UNEP は地球規模の環境 課題を設定し、国連システム内にあって持続可能な開発の環境に関連し た活動を進め、グローバルな環境保全の権威ある唱道者となる。 UNEP の管理機関は「管理理事会」で、58カ国で構成され、毎年開か れる。UNEP の活動は各国政府の自発的拠出金で作られる「環境基金」 とその他の信託基金、国連の通常予算から出される小額の割り当て金に よってまかなわれる。2006−2007年度の予算は1億4,400万ドルであっ た。職員の数ははおよそ800人である。 事務局長:アヒム・シュタイナー氏(ドイツ) 本部:United Nations Avenue, Gigiri, PO Box 30552, Nairobi, Kenya 電話: (254-20) 762-1234 Fax:(254-20) 762-4489, 4490 E-mail: unepinfo@unep.org 国連開発計画(www.undp.org) United Nations Development Programme(UNDP) 国連開発計画(UNDP)は、国連のグローバルな開発ネットワークで ある。人々がよりよい生活を建設できるように変革を進め、国々と知識、 経験、資源とを結びつける。世界の166カ国で事業を進め、これらの 国々とともにグローバルおよび国内の開発問題を解決できるように努力 している。これらの国々は自国の能力開発に努めており、そのため UNDP やその多くの関連パートナー機関は必要な専門知識や技術を提供 している。 世界の指導者たちは「ミレニアム開発目標」の達成を誓った。その目 標の1つが2015年までに貧しい人々の数を半減させることである。UNDP
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は、これらの目標を達成するグローバルおよび国内の活動を結びつけ、 またその調整を行う。とくに注意を払っていることは、それぞれの国が 貧困の削減、危機の予防と復興、環境と持続可能な開発、HIV/エイズ 対応も含め、民主的な統治の問題に解決策を見出し、互いに共有できる ようにすることである。 UNDP はまた、 「国連資本開発基金(UNCDF)」 、「国連女性開発基金 (UNIFEM)」 、 「国連ボランティア計画(UNV)」を管理している。UNDP
の事業活動は、開発途上国、開発先進国を代表する36カ国が構成する 「執行理事会」が管理する。主な刊行物に毎年出版される「人間開発報 告」がある。 総裁:ケマル・デルビシュ氏(トルコ) 本部:1 UN Plaza, New York, NY 10017, USA 電話: (1-212) 906-5000 Fax:(1-212) 906-5364 E-mail: www.undp.org/comments/form.shmtl を通す。 国連女性開発基金(www.unifem.org) United Nations Development Fund for Women(UNIFEM) 国連女性開発基金(UNIFEM)は女性のエンパワーメント(よりよい社 会を築くための力をつけること)とジェンダーの平等を推進するとともに、
あらゆるレベルの開発プランニングと慣行に女性が参加できるようにす る。また、国連システムの中にあって、女性が持つニーズと関心を国、 地域、グローバルの重要問題に結びつける触媒としての役割も果たして いる。 1976年に設立されて以来、UNIFEM は女性の人権や政治的、経済的、 社会的エンパワーメントを促進する開発途上国のプロジェクトやイニシ アチブを支援してきた。活動は、女性の労働状態を改善する草の根運動 から公的な教育、ジェンダーの視点からみた新しい法律の構想にまで及 ぶ。また、 「女性に対する暴力撤廃のための国連信託基金」を管理する。 UNIFEM は UNDP からは独立した関係を持って活動する。その報告 はすべての地域の代表者から構成される協議委員会と UNDP の執行理 事会に行う。UNIFEM には、地域や国で UNIFEM を代表する14の小地
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域事務所と2つの国別プログラム事務所がある。2006年度予算はおよそ 5,700万ドルであった。 事務局長:イネス・アルベルディ氏(スペイン) 本部:304 East 45th Street, 15th floor, New York, NY 10017, USA 電話: (1-212) 906-6400 Fax:(1-212) 906-6705 E-mail: www.unifem.org/about/contact_general.php を通す。 国連ボランティア計画(www.unv.org) United Nations Volunteers(UNV) 国連ボランティア計画(UNV)は国連システムのボランティア部門を 担当し、およそ150カ国で平和、救援、開発のイニシアチブを支援して いる。1970年に総会によって設立され、国連開発計画(UNDP)の管理 の下にあり、UNDP/UNFPA の執行理事会へ報告する。UNDP の常駐事 務所を通してボランティアを派遣し、ボランティア主義の考えの普及に 努める。UNV は世界各国からのボランティアを中心とした機関として、 国連ファミリーの中でもユニークな存在である。またその国際的な事業 規模の大きさからみてもユニークである。UNV は、特定部門や地域社 会を対象とした開発プロジェクトや人道援助、人権や民主主義を促進す る活動に前途有望な男女を派遣する。 拡大し続けて8年目にあたる2005年、UNV は168カ国の国籍を持つ 8,400人のボランティアを144カ国に派遣した。国連ボランティアの70 パーセント近くが開発途上国の出身で、残りの30パーセントが先進工業 国からである。1971年以来、国連ボランティアとして働いた人の数は3 万人を超える。 採用にあたっての条件は、大学卒業と数年間の実務経験である。契約 期間は一般に2年で、人道援助、選挙、その他の場合はそれよりも短期 の契約である。ボランティアには、質素な生活を営める程度の生活費が 支給される。資金は UNDP やパートナーの国連機関、UNV 特別任意基 金への拠出金から出される。 事務局長:アド・デ・ラード氏(オランダ) 本部:Postfach 260 111, D-53153 Bonn, Germany
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電話: (49-228) 815-2000 Fax:(49-228) 815-2001 E-mail: information@unv.org 国連人口基金 United Nations Population Fund(UNFPA) 国連人口基金(UNFPA)は国連総会のイニシアチブのもとに1969年に 設立され、国際的な資金によって開発途上国と移行経済諸国に人口関連 の援助を行う最大の機関である。UNFPA は、国の要請を受けて、リプ ロダクティブ・ヘルスや個人の選択に基づく家族計画サービスの改善を はかり、かつ持続可能な開発にふさわしい人口政策を策定する。UNFPA は総会の補助機関で、執行理事会は UNDP と同じである。 UNFPA の活動はすべて自発的な拠出金によってまかなわれ、その額 は2006年には180カ国から3億88,930万ドルであった。それに加え、特 定の活動に指定された2億1,620万ドルの拠出も行われた。合計で6億 550万ドルに達し、これまでの記録を破る額であった。この援助のおよ そ61.5パーセントが安全に母親になることや家族計画、性の健康を含む リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康) のために使われた。 具体的には、青年期のリプロダクティブ・ヘルスへのアプローチを改善 し、産科フィスチュラ(産科ろうこう)など出産後の母親の障害を少な くし、HIV/エイズの問題に取り組む。緊急事態時には援助を提供する。 さらに UNFPA 援助の21.3パーセントは、人口と開発戦略に関係して いる。UNFPA は、開発と人口動態との間のバランスが保たれるように することを目指している。そのため、情報を提供し、政策に影響を与え、 人口プログラミングに関する国家能力の向上をはかる。残りは普及活動 に使われる。UNFPA は、ミレニアム宣言で行われた目標など、合意さ れた国際開発目標に関連した人口活動を進めるために資源や政治的コ ミットメントを動員する。UNFPA 職員の数は1,031人で、そのうちのお よそ77パーセントが154の国や地域で働いている。 事務局長:トラヤ・アーメド・オバイド氏(サウジアラビア) 本部:220 East 42nd Street, New York, NY 10017, USA 電話: (1-212) 297-5000; www.unfpa.org/help/contact/htm も参照。
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国連難民高等弁務官事務所(www.unhcr.ch) Office of the United Nations High Commissioner for Refugees(UNHCR) 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) は、1950年に総会が設立した。 その目的は、世界の難民の保護と難民問題の解決を目指す国際活動を先 導し、かつ調整することである。設立以来、UNHCR はおよそ5,000万人 の難民を助け、1954年と1981年と2度にわたってノーベル平和賞を受賞 した。 UNHCR のもっとも重要な任務は「国際的保護」として知られるもの で、庇護を求める権利や自己の意思に反して迫害を恐れる理由のある国 へ送還されない権利など、難民の基本的権利を尊重させることである。 UNHCR はまた、国際的な難民協定を促進し、政府の国際法順守を監視 し、かつ難民や避難民に食糧、飲料水、住居、医薬品などの援助物資を 提供する。UNHCR は、自発的な本国帰還、庇護を最初に求めた国への 統合、または第3国への再定住を通して難民のための長期的な解決をは かる。 2006年末までに、難民や帰国した人々、国内避難民など、およそ3,290 万人の人々の面倒を見た。2006年、今世紀に入って初めて難民の数は12 パーセント増え、1,000万人近くになった。原因の多くはイラクでの危 機によるものであった。2006年初め、UNHCR の6,500人以上のスタッフ が116カ国の263の事務所で働いていた。これに加え、796人の国連ボラ ンティアが70カ所の UNHCR 活動に参加した。UNHCR はまた、645の 国内、国際の NGO パートナーと1,050件に及ぶ協定を結んだ。 UNHCR は国連システムの他の機関や各種の政府機関、政府間機関と 協力する。その事業計画は UNHCR の執行委員会が承認する。2007年5 月現在、72カ国で構成されている。活動は任意の拠出金によってまかな われる。主に政府からの拠出であるが、個人や各種団体からの寄付もあ る。UNHCR は、基本的な行政コストとして限られた額の補助金を国連 の通常予算から受け取る。2006年は3,150万ドルであった。2006年の利 用可能な資金は、実際に必要な額より2億3,200万ドル少ない12億2,000 万ドルであった。
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高等弁務官:アントニオ・グテーレス氏(ポルトガル) 本部:Case Postale 2500, CH-1211 Geneva, Switzerland 電話: (41-22)739-8111; www.unhcr.org/contact/html も参照のこと。 国連児童基金(www.unicef.org) United Nations Children s Fund(UNICEF) 1946年の設立以来、国連児童基金(UNICEF) は緊急援助基金から開 発機関に発展した。今ではすべての子どもが持つ生存、保護、発展への 権利を保護することを任務とする。「子どもの権利に関する条約」が活 動の指針となっている。これは、世界でもっとも広く受け入れられてい る人権条約である。ユニセフは、子供の世話をし、彼らの権利を守るこ とが人類の進歩の礎石となるものと信じている。 ユニセフは、子どものための目標を達成するために各国政府、市民社 会、その他の国際機関とのパートナーシップの下に活動する。誕生から 青年期にいたるまで、子供の健康のあらゆる側面に関係する。一般的な 子どもの病気から子どもを守るために、すべての子どもが予防接種を受 けられるようにし、また母親が十分な栄養を摂取できるようにする。 HIV/エイズが若い人たちの間に蔓延するのを防ぎ、子どもや家族が感 染した場合は尊厳を持って生きてゆけるようにする。 ユニセフは少女や少年の質の高い教育にも力を入れている。子どもに 対する暴力や搾取、虐待を防ぎ、対処する。緊急事態においては子ども を保護する環境をつくるように主張する。そのすべての活動においてユ ニセフが一貫して奨励していることは、若者が自分たちの生活に影響を 与える決定について堂々と発言し、かつ参加することである。 ユニセフは36カ国の代表で構成される執行理事会によって管理される。 執行理事会はユニセフの政策や事業計画、予算を管理する。現在、8,200 人以上の職員が世界の157の国や地域で働いている。ユニセフの活動は すべて任意の拠出金によってまかなわれる。2006年の事業活動の支出総 額は、23臆4,000万ドルであった。その最大の支援者は政府(2006年度は 58パーセント) であるが、民間部門からも相当額の援助(7億9,900万ド ル)を受けている。また、先進工業国では、37の国内委員会を通してお
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よそ600万人の人々がユニセフの活動を支援している。 1965年、ユニセフはノーベル平和賞を受賞した。主な刊行物は「世界 子ども白書」で、毎年発行される。 事務局長:アン・ベネマン氏(米国) 本部:UNICEF House, 3 United Nations Plaza, New York, NY 10017, USA 電話: (1-212) 326-7000 Fax:(1-212) 888-7465 E-mail: www.unicef.org/about/contact.html を通す。 世界食糧計画(www.wfp.org) World Food Programme(WFP) 世界食糧計画(WFP)は世界最大の人道機関で、1963年に設立された。 すべて任意の拠出金によってまかなわれる。WFP は、自然、人為を問 わず、災害のもっとも脆弱な犠牲者に対して緊急の食糧援助を提供し、 これによってグローバルな飢餓との闘いを主導する。また、技術的知識 や後方支援知識、フィールドでの重要なプレゼンスとともに食糧を利用 して飢餓の根本原因を取り除くのを助ける。WFP はそのパートナーと ともに、最初のミレニアム開発目標である2015年までに飢餓人口の割合 を半減させる事に最善を尽くしている。 WFP は、もっとも貧しく恵まれない国で自立した共同体を建設する ために食糧援助や専門知識、資源を提供している。これらの国には地球 上の8億5,400万人の栄養不良の人々のほとんどが住む。たとえば、グ ローバルな学級給食を通して、WFP は毎年2,000万人の学童に食事を与 えている。緊急事態にあっては、戦争や内戦の犠牲者や干ばつ、洪水、 ハリケーン、地震の被災者に対して迅速かつ生命維持の救援物資を届け る。 2006年、WFP 資源の27パーセントが緊急援助に向けられ、46パーセ ントが緊急事態後の長期的な救援活動や復興活動にあてられた。全体と して、WFP は世界の緊急食糧援助の70パーセント近くを提供した。 WFP の職員の数は1万587人で、そのうちの92パーセントが現地で働 く。2006年には、陸路、海路、空路を通して、78カ国の8,780万人の人々
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に27億ドル相当の400万トンの食糧を届けた。 WFP の活動は36名で構成する執行理事会が管理する。理事会は年に 4回開かれる。 事務局長:ジョゼット・シーラン氏(米国) 本部:Via Cesare Giulio Viola 68、Parco dei Medici, 00148 Rome, Italy 電話: (39-06)6513-1 Fax:(39-06)6513-2840 E-mail: wfpinfo@wfp.org 国連パレスチナ難民救済事業機関(www.unrwa.org) United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East(UNRWA) 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) は、パレスチナ難民の ための救済事業を行うことを目的に、1949年に総会によって設立された。 パレスチナ難民問題の解決が未だに見られないことから、その活動期限 は定期的に更新されている。もっとも新しい決定では2008年6月30日ま で延長された。 UNRWA は当初、1948年のアラブ・イスラエル戦争によって家や生活 の糧を失った75万人のパレスチナ難民に緊急の救援援助を行っていた。 現在は教育、保健、救済、社会福祉など、主に基礎的なサービスを中東 に住む450万人の登録パレスチナ難民に提供している。その中には、ヨ ルダン、レバノン、シリア、それにガザ地区と西岸からなるイスラエル 占領のパレスチナ領土にある58カ所の難民キャンプに住むおよそ130万 人の難民が含まれる。また、占領されたパレスチナ領土やシリア、ヨル ダンで小規模金融や小規模企業貸付を行っている。 2000年9月以来、UNRWA は、現在の危機がガザや西岸に住むもっと も脆弱な難民に与える影響を軽減するために、緊急人道援助を行ってい る。また、2006年以来レバノンで紛争の影響を受けた難民の緊急のニー ズに応えている。それには、2007年に行われた5,500万ドルの北部「レ バノン緊急アピール」も含まれる。 UNRWA の活動は、ガザとヨルダンのアンマンにある UNRWA 本部の 監督と支援を受ける。UNRWA 事務局長は総会へ直接報告し、諮問委員
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会の援助を受ける。諮問委員会はオーストラリア、ベルギー、カナダ、 デンマーク、エジプト、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ヨルダン、 レバノン、オランダ、ノルウェー、サウジアラビア、スペイン、ス ウェーデン、スイス、シリア、トルコ、イギリス、アメリカから構成さ れる。欧州共同体、アラブ連盟、パレスチナ解放機関(PLO) はオブ ザーバーとして出席する。 UNRWA には2万8,000人の職員が働いている。そのほとんどがパレ スチナ難民である。総会が費用を負担する国際的に採用された113人の スタッフも働いている。UNRWA の通常の、また緊急の活動については、 ほとんどすべてが援助国の任意の拠出によってまかなわれる。ほとんど の拠出は現金で行われるが、5パーセントは物資で行われる。必要とす る難民に配給できるように、ほとんどが食糧の拠出である。UNRWA の 2006年度の予算支出は4億1,7100ドルであった。 事務局長:カレン・コーニング・アブザイド氏(米国) ・本部(ガザ):Gamal Abdul Nasser Street, Caza City 電話: (972-8) 6777-7333もしくは1-212-963-9571/9573(国連人工 衛星)
Fax:(972-8) 677-7555 ・本部(アンマン、ヨルダン):Bayader Wadi Seer, PO Box 140157, Amman 11814, Jordan 電話: (962-6) 582-6171/6176 Fax:(962-6) 582-6177 国連人権高等弁務官事務所(www.unhchr.org) Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights(OHCHR) 総会は1993年、国連の人権活動に主要な責任を持つ国連人権高等弁務 官のポストを新しく設けた。高等弁務官は、すべての人が市民的、文化 的、経済的、政治的、社会的権利を享受できるように促進かつ擁護する。 任務は人権高等弁務官事務所(OHCHR)を通して行われる。 OHCHR は国連のすべての人権活動の中心機関として行動する。総会 およびその他の政策決定機関の要請を受けて報告書を作成し、調査研究
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を行い、各国政府、国際機関、地域機関、非政府組織と協力して人権の 促進と擁護をはかる。また、国連の人権機関が開催する各種会議の事務 局もつとめる。職員の数はおよそ576人で、4つの部局に分かれる。 ・条約・理事会部――人権条約機関、人権理事会、拷問犠牲者のため の国連任意基金にサービスを提供する。各種の条約機関のために文 書を作成して提出し、選択手続きの下に提出されたコミュニケー ションを処理し、条約機関の会議で採択された勧告や決定のフォ ローアップを行う。また、条約機関の勧告を実施できるように国民 の能力を育成する。 ・特別手続き部――人権理事会の事実調査や調査機構を支援する。そ れには特別報告者、特別代表、テーマ別作業グループのようなテー マ別の機構も含まれる。世界の人権侵害を記録し、犠牲者の保護を 進め、かつ犠牲者の権利を保護することを目的とする。 ・研究・発展の権利部――発展の権利を促進、保護する責任をもつ。 そのため、調査研究を行い、「発展の権利作業グループ」を支援し、 開発活動において人権の主流化を図る。また、現在の形態の奴隷制 度に関する国連任意信託基金や先住民のための国連任意基金に役務 を提供する。 ・能力育成・フィールド活動部――政府の要請を受けて、人権に関連 した諮問サービスやその他の技術援助プロジェクトを発展させ、実 施し、監視し、評価する。また、人権事実調査団や調査の際に支援 を提供する。 OHCHR の2006−2007年度予算額は2億4,560万ドルで、そのうち8,560 万ドルは国連の通常予算から出され、残りの1億6,000万ドルは任意の 拠出金によるものであった。 高等弁務官:ナバメセム・ピレー氏(南アフリカ) 本部:Palais Wilson, 52 rue de Pâquis, CH-1201 Geneva, Switzerland 電話: (41-22)917-9000 Fax:(41-22) 917-9012 E-mail: InfoDesk@ohchr.org(“Subject”field に“Request for information” とタイプする)
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国連人間居住計画(www.unhabitat.org) United Nations Human Settlements Programme(UN-HABITAT) 国連人間居住計画(ハビタット)――以前は「国連人間居住センター」 として知られていた――は、持続可能な人間居住開発を促進する。その ため、周知活動、政策作成、人材育成、知識の啓発、政府と市民社会と のパートナーシップの強化を図る。 ハビタットは1978年に設立され、国連ファミリーの中にあって「ハビ タット・アジェンダ」を実施し、人間居住開発活動を調整する先導機関 である。すべての人に適切な住居を提供し、また持続可能な都市開発を 進めることが優先分野である。ハビタットはまた、2020年までに少なく とも1億人のスラム居住者の生活を改善し、また安全な飲料水を継続的 に利用できない人の数を2015年までに半減させるというミレニアム開発 目標を国際社会が達成できるように援助する。 人間居住計画は、政府、地方自治体、非政府組織、民間部門とのパー トナーシップを支援し、かつそのパートナーシップのもとに作業を進め る。技術的な計画やプロジェクトはスラム環境の改善、都市貧困者の削 減、災害後の再建、都市水道や衛生施設の提供、住居提供のための国内 財源の動員など、幅広い範囲の問題を取り上げている。こうした活動の ほとんどは他の2国間支援機関とのパートナーシップのもとに進められ る。 ハビタットの活動は、2年ごとに開かれる58カ国構成の管理理事会が 管理する。2006−2007年度の予算としておよそ1億6,630万ドルが承認 された。そのうちの1億5,130万ドル(91パーセント)がプログラム活動 のためのもので、残りの1,500万ドルが支援活動や政策決定機関に振り 向けられた。ハビタットは主要刊行物として世界の人間居住状況を概観 した「人間居住白書」と「世界の都市」を発行する。 事務局長:アンナ・カジュムロ・ティバイジュカ氏(タンザニア) 本部:PO Box 30030, Nairobi 00100, Kenya 電話: (254-20) 672-3120 Fax:(254-20) 762-3477 E-mail: infohabitat@unhabitat.org
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国連プロジェクトサービス機関(www.unops.org) United Nations Office for Project Services(UNOPS) 国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)は、危機後の情勢、開発途 上国、移行経済諸国を重点として、プロジェクト管理や調達サービスを 提供する。利用機関には国連の諸機関、国際金融機関、政府、非政府機 関などが含まれる。 利用機関の要請を受けて、UNOPS はさまざまな状況の下に行われる 大規模な、複合プロジェクトを打ち出し、その実施のために必要な人材、 道具、実務的なノウハウを提供する。とくに得意とする分野は建設、国 勢調査と選挙支援、環境の再生、基金監視、地雷除去である。現在、紛 争後のインフラ整備を行う国連主導機関に指定されている。 2006年の収入は5,340万ドルで、実施したプロジェクトの総額は7億 600万ドルであった。 事務局長:ヤン・マットソン氏(スウェーデン) 本部:Midtermolen 3, P.O.Box 2695, DK-2100 Copenhagen, Denmark 電話: (45-3) 546-7511 Fax:(45-3) 546-7501 Email: hq@unops.org 国際連合大学(www.unu.edu) United Nations University(UNU) 国際連合大学(UNU)は、調査研究、政策研究、機関および個人の能 力育成に従事し、国連の平和と進歩の目的を推進する知識の普及に努め る学者の国際的な共同体である。1973年に国連大学憲章が採択され、 1975年に活動を開始した。世界の各地に13の調査訓練センターや計画が あり、また14の国連大学提携機関から支援を受ける。その他にも何百と いう国連大学に協力する機関や個人が存在する。 国連大学の活動は政府、財団、企業、個人などからの拠出金でまかな われ、国連予算からの割り当てはない。大学の年間活動費は「国連大学 基金」の運用益を基本財源としている。国連大学の2006−2007年度予算 は8,800万ドルであった。2006年末現在、職員の数は68カ国出身の356人 で、そのうちの24パーセントが開発途上国出身であった。
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国連大学は毎年開かれる24人のメンバーからなる管理理事会の指示を 受ける。 学長:コンラッド・オスターヴァルダー教授(スイス) 本部:東京都渋谷区神宮前5丁目53-70(郵便番号 150-8925) 53-70 Jingumae 5-chome, Shibuya-ku, Tokyo 150-8925, Japan 電話: (81-3) 3499-2811 Fax:(81-3) 3499-2828 E-mail: mbox@hq.unu.edu 国連国際婦人調査訓練研修所(www.un-instraw.org) United Nations International Research and Training Institute for the Advancement of Women(UN-INSTRAW) 国連国際婦人調査訓練研修所(INSTRAW)は、第1回国連女性会議の 勧告を受けて1976年に設立された。女性の地位向上に貢献するために国 際のレベルでの政策研究と研修計画を促進かつ実施し、女性が開発プロ セスに積極的かつ平等に参加できるようにし、ジェンダーの問題につい ての認識を高め、かつジェンダーの平等を達成するための世界的規模の ネットワークを構築するというユニークな任務を持つ。 UN-INSTRAW は分析、学習、行動の継続的なサイクルを通して調査 研究、研修、知識管理の重要性を強調する。この方法で、調査研究は情 報の交換、政策の立案、研修・能力育成プログラムの策定に役立つ。 研修所は、ジェンダーと移住・送金・開発、ジェンダーと平和および 安全保障、統治と女性の政治参加について応用研究計画を進めている。 その目的は、調査研究の結果を利用してジェンダーに対応した政策やプ ログラムを策定することである。その際、得られた教訓を活かし、かつ 最善の慣行を取り入れる。そうしたアプローチによって、現存する課題 と新しく発生する問題の双方に対応できるような柔軟性が得られる。 所長:カルメン・モレノ氏(メキシコ) 本部:Calle Cesar Nicolas Penson 102-A, Santo Domingo, Dominican Republic 電話: (1-809) 685-2111 Fax:(1-809) 685-2117 E-mail: info@un-instraw.org
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国連地域間犯罪司法研究所(www.unicri.it) United Nations Interregional Crime and Justice Research Institute(UNICRI) 国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI) は、公正かつ効率的な司法制 度の発達を育成する目的で、情報を収集し、分析し、配布するとともに、 研修や技術協力を行う。 1968年に設置され、犯罪関連の問題についての理解を深め、国際的な 法律文書の基準を尊重するように支援し、司法共助や情報の交換と普及 を進め、国際法実施の協力を促進する。 UNICRI は加盟国が求める特定のニーズに応える活動を構築する。現 在優先的に行っている事業計画は、安全保障とテロリズム対策を含む犯 罪防止と刑事司法、国際刑事法、司法改革、少年司法、主要行事の安全、 腐敗、被害者の保護、組織犯罪、人身売買、偽造、サイバー犯罪、環境 に対する犯罪、薬物に関するものである。 研究所はこれらの分野において国際、国内のレベルで研修活動を計画、 実施している。同時に犯罪防止と刑事司法に関する国際ドキュメンテー ション・センターを通して情報の交換を進めている。 UNICRI の活動のすべて任意の拠出金によってまかなわれる。加盟国 や国際機関、地域機関、慈善団体や財団から支援を受ける。その他にも、 公的部門や門間部門の団体から財政、物資の拠出を受ける。 所長:サンドロ・カルバーニ氏(イタリア) 本部:Viale Maestri del Lavoro 10, 10127 Turin, Italy 電話: (39-011) 653-7111 Fax:(39-011) 631-3368 E-mail: information@unicri.it 国連訓練調査研修所(www.unitar.org) United Nations Institute for Training and Research(UNITAR) 国連調査訓練研修所(UNITAR) は、1965年に国連内における自治機 関として設置され、訓練と調査を通して国連の効率を高めることを任務 とする。UNITAR は、各国が21世紀の挑戦に応えられるように訓練と能 力育成を提供し、革新的な訓練と能力育成法に関する研究を行い、他の 国連機関や政府、非政府組織とのパートナーシップのもとに各国のニー
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ズを満たす訓練や能力育成活動を発展させ、実施する。 2006年、UNITAR は300回を超えるコースやセミナー、ワークショッ プを開催し、主に開発途上国や移行経済国から1万人以上の人々が参加 した。また、およそ3万人の研修性がインターネットによる学習コース に参加した。 UNITAR の活動は理事会が管理する。現在、費用はすべて自前で、政 府、政府間機関、財団、その他の政府以外の資金源からの任意の拠出金 による資金援助を受ける。活動はジュネーブにある UNITAR 本部、そ れにニューヨークや広島にある事務所を通して行われる。専門職員の数 はおよそ50人である。 事務局長:カルロス・ロペス氏(ギニアビサウ) 本部:International Environment House, Chemin des Anemones 11-13, CH-1219 Chatelaine, Geneva, Switzerland By mail: UNITAR, Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-22)917-8455 Fax:(41-22) 917-8047 国連社会開発研究所(www.unrisd.org) United Nations Research Institute for Social Development(UNRISD) 国連社会開発研究所(UNRISD) は、自治的な国連機関として1963年 に設立され、開発に影響を及ぼす開発問題の社会的側面について調査研 究を行う。開発政策と経済的、社会的変化が異なる社会層に及ぼす影響 などについて、各国の政府や開発機関、市民社会団体、学者がよりよく 理解できるようにする。 UNRISD の活動はすべて任意の拠出金に依存しており、年間の運営予 算はおよそ400万ドルである。2006年には280万ドル以上の拠出があり、 また特定のプロジェクトに対して130万ドルの拠出が行われた。11カ国 からなる理事会が予算と研究プログラムを承認する。 所長:タンディカ・ムカンダウィレ氏(スウェーデン) 本部:Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-0-22) 917-3020 Fax:(41-0-22) 917-0650 E-mail: info@unrisd.org
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国連軍縮研究所(www.unidir.org) United Nations Institute for Disarmament Research(UNIDIR) 1980年に設立された国連軍縮研究所(UNIDIR) は国連の中にあって 自治的な機関である。 軍縮と安全保障の問題について研究を行い、国際社会が軍縮について 考え、決定し、かつ軍縮を進めることができるように援助する。 研究プロジェクト、出版、小規模な会合、専門家ネットワークを通し て、UNIDIR は軍縮と安全保障の課題について独創的な思考と対話を進 める。その活動は多様な現実に即し、グローバル外交の複雑さから局地 的な慢性的緊張や暴力的対立にまで及ぶ。 研究所は現在および将来の安全保障の問題を研究し、戦術核兵器、難 民の安全保障、コンピューター戦争、地域信頼醸成措置、小型武器など、 さまざまな問題を取り上げる。専門家による会議や会合を開催し、研究 プロジェクトを実施し、各種の刊行物や報告書、論文、それに季刊誌 「軍縮フォーラム」を発行する。 UNIDIR の事業はほとんど政府や民間からの任意の拠出金でまかなわ れる。2006年には280万ドル近くの拠出があった。200万ドル以上が政府 から、50万ドル以上が一般からの拠出であった。少数の事務局職員を持 つが、訪問研究員や研究インターンによって補足される。 所長:パトリシア・ルイス博士(英国、アイルランド) 本部:Palais des Nations, CH-1211 Geneva 10, Switzerland 電話: (41-0-22) 917-3186または917-4263 Fax:(41-0-22) 917-0176 E-mail: unidir@unog.ch
専門機関およびその他の政府間機関 Specialized Agencies and Other Organizations 国際労働機関(www.ilo.org) International Labour Organization(ILO) 国際労働機関(ILO)は、社会正義と国際的に認められた人権と労働 の権利を推進する専門機関である。1919年に設立され、1946年に国連の
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最初の専門機関となった。 ILO は労働・生活条件を改善するための国際的な政策やプログラムを 作成し、これらの政策を実施する国内当局の指針となる国際労働基準を 設定する。また、政府がこれらの政策を効果的に実行できるように幅広 い技術協力を実施し、かつそうした努力を前進させるために必要な研修、 教育、調査研究を行う。 ILO は国際機関の中でもユニークな存在で、政策の作成にあたっては 労働者と使用者の代表が政府代表と平等の発言権を持つ。ILO は3つの 機関から構成される。 ・国際労働会議(総会)――毎年開かれ、政府、使用者、労働者の3 者代表が参加する。国際労働基準を設定するとともに、全世界に とって重要な社会問題や労働問題を討議するためのフォーラムにな る。 ・管理理事会――年に2回開かれ、ILO の活動に指示を与え、事業計 画と予算を作成し、ILO 基準が順守されていないとの苦情を審議す る。 ・国際労働事務局――ILO の恒久事務局である。 イタリアのトリノには「国際研修センター」があり、研究や調査を 行っている。ILO の「国際労働問題研究所」は研究ネットワーク、社会 政策フォーラム、講義やセミナー、客員研究員やインターンシップ計画、 出版事業などを通してその活動を行っている。 創立50周年を迎えた1969年に、ノーベル平和賞を受賞した。 職員や専門家の数はおよそ2,500人で、110カ国以上の国々の国籍を持 ち、本部や世界の40カ所のフィールド事務所で働いている。2006−2007 年度予算はおよそ5億9,430万ドルであった。 事務局長:ホアン・ソマビア氏(チリ) 本部:4, route des Morillons, CH-1211 Geneva 22, Switzerland 電話: (41-22)799-6111 Fax:(41-22) 798-8685 E-mail: ilo@ilo.org
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国連食糧農業機関(www.fao.org) Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO) 国連食糧農業機関(FAO)は、国連システムの中にあって農業、林業、 漁業および農村開発を進める先導機関である。貧困と飢餓をなくするこ とを目的に、農業開発や栄養状態の改善を促進し、かつ食糧安全保障を 目指す。すべての人が、活動的かつ健康な生活を営むために必要な食事 や食糧の好みに合った、十分かつ安全な、栄養価の高い食糧を実際に、 また経済的に入手できるようにする。 FAO は開発援助を行い、政策やプランニングに関する助言を政府に 与え、情報の収集、分析、普及をはかり、食糧と農業の問題を審議する 国際フォーラムとなる。特別計画のもとに緊急食糧危機に対応できるよ うに国を助け、必要に応じて救援物資を提供する。 2006年、FAO は総額4億1,000万ドルを超える1,600件以上のフィール ド・プロジェクトを実施した。そのうち、444件は緊急援助活動で、費 用は1億8,000万ドルを超えた。これは全事業計画45パーセントを占めた。 FAO の管理は、2年ごとに開かれる全加盟国代表参加の FAO 総会が 行う。総会の会期以外の期間は、理事会が FAO の執行機関として行動 する。理事会を構成する49カ国は、総会が選出する。FAO の職員の数 は3,600人で、本部や途上国で働いている。2006−2007年度の通常プロ グラム予算は、7億6,570万ドルであった。 毎年10月16日は「世界食糧ディー」で世界の各地で記念行事が行われ るが、これは、ケベック市で開かれた会議で FAO 創設が10月16日に決 まったをことを記念するものである。 事務局長:ジャック・ディウ博士(セネガル) 本部:Viale delle Terme di Caracalla, 00153 Rome, Italy 電話: (39-06)5705-1 Fax:(39-06)5705-3152 E-mail: FAO-HQ@fao.org
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国連教育科学文化機関(www.unesco.org) United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization(UNESCO) ユネスコ(UNESCO)は人類の知的、倫理的連帯感の上に築かれる恒 久平和を建設する目的で1946年に設立された。活動領域は教育、自然科 学、社会・人文科学、文化およびコミュニケーションに及ぶ。 ユネスコの活動は、平和の文化と人間開発および持続可能な開発を促 進することを目的とする。そのため、すべての人々が教育を受けられる ようにし、国際および政府間の科学計画を通して自然と社会科学の調査 を促進する。また、文化的アイデンティティの表明を支援し、世界の自 然遺産や文化遺産を保護し、情報の自由な流れと報道の自由を促進し、 かつ開発途上国のコミュニケーション能力を強化することに努める。 ユネスコには192の国内委員会があり、またおよそ4,000のユネスコ協 会やユネスコ・センター、ユネスコ・クラブの支援を受ける。また、 340の国際的な非政府組織とおよそ25の財団や同様の機関と公的な関係 を維持する。 ユネスコの管理機関はユネスコ総会で、192の加盟国で構成され、2 年ごとに開かれる。執行理事会は、総会が選ぶ58カ国で構成され、総会 が採択した事業計画の実施を監督する。 ユネスコの職員の数は170カ国出身の2,160人で、そのうちの680人が ユネスコのフィールド事務所で働いている。2006年−2007年度の通常予 算は6億1,000万ドルであった。 事務局長:松浦晃一郎氏(日本) 本部:7 place de Fontenoy, 75352 Paris 07-SP, France 電話: (33-0-1) 4568-1000 Fax:(33-0-1) 4567-1690 E-mail: bpi@unesco.org 世界保健機関(www.who.int) World Health Organization(WHO) 世界保健機関(WHO) は1948年に設立され、保健について国家間の 技術協力を促進し、病気を管理かつ撲滅する事業計画を実施し、生活の
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質の改善に努める。その目的は、すべての人が可能な最高レベルの健康 を達成できるようにすることである。 2006−2015年の10年のための戦略的方向は以下の通りである。すなわ ち、貧困削減のために健康に投資すること、個人およびグローバルな健 康安全保障を構築すること、国民全員の保険制度、ジェンダーの平等、 健康に関連した人権を促進すること、健康の決定要因に取り組むこと、 保健システムの公平な利用を強化すること、知識、科学、技術を利用す ること、統治、リーダーシップ、説明責任を強化すること、である。 WHO の管理機関は世界保健総会で、192の加盟国(クック諸島を含む) で構成され、毎年開かれる。その決定や政策を実施するのが執行理事会 で、政府が任命する34人の保健専門家で構成され、年に2回開かれる。 コンゴのブラザビル、アメリカのワシントン DC、エジプトのカイロ、 デンマークのコペンハーゲン、インドのニューデリー、フィリピンのマ ニラに地域事務所がある。3,500人の保健、その他の専門家と支援スタッ フを持つ。2006−2007年度の通常予算は33億ドルであった。 事務局長:陳馮富珍(マーガレット・チャン)氏(中国) 本部:20 Avenue Appia, CH-1211 Geneva 27, Switzerland 電話: (41-22)791-2111 Fax:(41-22) 791-3111 E-mail: inf@who.int 国際通貨基金(www.imf.org) International Monetary Fund(IMF) 国際通貨基金(IMF)は1944年のブレトンウッズ会議で設立され、以 下の事を行う。 ・国際通貨協力を容易にする。 ・為替の安定と秩序ある為替取り決めを促進する。 ・多角的支払い制度の樹立と外国為替制限の除去を援助する。 ・加盟国が国際収支不均衡を是正できるように、基金の一般資金を一 時的に利用させる。 IMF は「特別引き出し権(SDR)」の形で国際金融準備金を創設し、 加盟国に割り当てる権限を持っている。IMF の財源は主に185の加盟国
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の「割当額」からなる。現在、その額は2,167億 SDR もしくはおよそ 3,270億ドルである。割当額は、加盟国の相対的な経済力に基づいて作 成された方式によって決められる。 IMF の主な役割は、国際収支問題を抱える加盟国に一時的に信用を 供与することである。この財政援助によって、その国際サービスを再建 し、通貨の安定を図り、輸入の支払いを続け、力強い経済成長に必要な 条件を回復することができる。それに対し、IMF から借り入れる加盟 国は、国際収支の悪化の原因となっている問題を解決できるように政策 改革を実施することに同意する。IMF 加盟国による借り入れ限度額は その割当額に比例する。IMF はまた、低所得加盟国に対しては低利で 長期の融資も行う。 IMF の管理機関は総務会で、すべての加盟国によって代表され、毎 年開かれる。日常の作業は、24カ国で構成される理事会が行う。24名の 総務会メンバーで構成される国際通貨金融委員会が IMF の活動領域内 の問題について理事会に助言を与える。 IMF の職員の数は165カ国出身の2,720人で、その長は理事会が選出す る専務理事である。2007年4月に終わる会計年度の行政予算は、9億 1,190万ドルであった。 IMF は「世界経済概況」と「グローバル金融安定報告」を年に2回 発行する。その他各種の研究報告も発行する。 専務理事:ドミニク・ストロスカーン氏(フランス) 本部:700 19th Street NW, Washington, D.C. 20431, USA 電話: (1-202) 623-7300 Fax:(1-202) 623-6278 E-mail: publicaffairs@imf.org 世界銀行グループ(www.worldbankgroup.org) World Bank Group 世界銀行グループは5つの機関からなる。すなわち、国際復興開発銀 行(1945年設立)、国際金融公社(1956年設立)、国際開発協会(1960年設 立) 、多国間投資保証機関(1988年設立) と国際投資紛争解決センター (1966年設立)である。世界銀行グループと言った場合は5つの機関すべ
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てを意味するが、単に世界銀行といった場合は5機関のうちの2つの機 関、すなわち国際復興開発銀行と国際開発協会を意味する。 すべての機関に共通する目標は、貧しい国々の経済を強化することに よって世界の貧困を削減することである。経済成長と開発を促進するこ とによって、ミレニアム開発目標にそった形で、人々の生活水準を改善 することを目指している。世界銀行は、開発のための2つの柱に基づい てその融資活動と能力育成活動の方向付けを行っている。すなわち、投 資、雇用、持続可能な成長のための環境を整えること、貧しい人々に投 資し、彼らが開発に参加できるようにすることである。 世界銀行の加盟国は185カ国で、総務会を構成する。一般の運営はよ り小さなグループ、世界銀行総裁が議長を務める理事会に委託される。 職員の数はおよそ1万人で、本部や100カ国以上の国々にある事務所で 働いている。 2007年6月に終わる会計年度で、世界銀行グループは加盟国や加盟国 の民間企業に対して346億ドルに相当する融資、無償資金、エクイティ・ インベストメント、保証を行った。主な刊行物は毎年発行される「世界 開発報告」である。 総裁:ロバート・ゼーリック氏(米国) 本部:1818 H Street NW, Washington, D.C. 20433, USA 電話: (1-202) 473-1000 Fax:(1-202)477-6391 E-mail: pic@worldbank.org 国際復興開発銀行(www.worldbank.org) International Bank for Reconstruction and Development(IBRD) IBRD 協定は1944年にブレトンウッズ会議で作成され、1946年に業務 を開始した。世界銀行は中所得国や信用に足るより貧しい国々の貧困を 削減することを目的とする。そのために、融資や保証、それに分析や諮 問サービスのような融資以外の活動を通して持続可能な開発を促進する。 利潤の最大化に資するほどではないが、1948年以来、毎年純所得を得て いる。 世界銀行の加盟国は185カ国である。世界銀行はその資金のほとんど
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を国際資本市場で AAA 格付けの債券やその他の証券を販売することに よって得る。世界銀行に加盟する際に支払う資金が IBRD 基金に占める 割合は5パーセント以下であるが、世界銀行が設立されて以来、およそ 4,330億ドルの貸付けに活用されてきた。 2007年会計年度には、34カ国の112件の新規事業に対して128億ドルに 上る新規貸付けのコミットメントを行った。 国際開発協会(www.worldbank/org) International Development Association(IDA) IDA は、世界の最貧国に信用を供与して貧困を削減できるようにする。 利率ゼロの融資で、10年間の据え置き、償還期限は35年から40年である。 1960年に設立されて以来、IDA は1,810億ドルを無利子の信用の形で82 カ国の最貧国に供与した。それによっておよそ25億の人々が恩恵を受け た。2007年会計年度における IDA のコミットメントは119億ドルに達し た。これは前年度より25パーセントの増加で、IDA の歴史としては最高 の額である。このうちの最大の割合、およそ50パーセントがアフリカに 向けられた。世界の最貧国のうち39カ国が存在する地域である。 IDA 資源の多くは、援助国からの拠出金である。これらの拠出金は主 に豊かな IDA 加盟国から行われるが、そのなかには現在 IBRD の貸付 けを受けている国も含まれる。援助国は3年ごとに IDA の増資を求め られる。IDA の設立以来、14回の増資が行われた。2005年2月、援助国 代表(IDA 代理)は、IDA の第14次増資についての交渉を終え、策定さ れた計画とその融資ニーズのための枠組みに同意した。この増資によっ て、その後の3年間に、世界の最貧国に対するおよそ325億ドル相当の SDR コミットメントが可能になった。これは過去20年間における IDA 資源の最大の増資であった。 第15次増資に関する交渉が2007年3月にパリで始まった。討論される 主要議題の一つは、「多国間債務救済イニシアティブ」のよる債務の帳 消しの結果として、貧しい国に対する将来の財政支援が軽減されること のないようにすることである。 2007年会計年度において IDA は、64カ国の189件の新規事業に対して
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119億ドルの貸付を行った。加盟国は166カ国である。 国際金融公社(www.ifc.org) International Finance Corporation(IFC) IFC は世界銀行グループの民間部門を担当する機関で、開発途上世界 の民間プロジェクトを対象に融資と持分金融を行う最大の多国間金融機 関である。民間投資家とのパートナーシップのもとに、開発途上国の民 間企業やプロジェクトに融資を行い、かつ助言を与える。また、その諮 問活動を通して、政府が国内および海外の民間貯蓄と投資の流れを刺激 できるような環境を作れように援助する。 加盟国の生産的な民間企業と効率的な資本市場の成長を奨励すること によって経済開発を促進することに重点を置いている。IFC は、市場投 資家の役割を補完することができる場合に限って投資に参加する。また、 投資が利益をあげることを実証することによって開発途上世界に対する 投資を刺激かつ動員する。このように IFC は触媒の役割も果たす。 IFC は世界銀行グループに属するが、独立した別の機関で、179カ国 の加盟国を持つ。資金も世界銀行の資金とは異なる。1956年の設立以来、 自身の資金から640億ドル以上のコミットメントを行い、かつ140の開発 途上国の3,760社に対して270億ドルの協調融資を取り決めた。2007年会 計年度において、そのコミットメントは69カ国の299件のプロジェクト に対して自己勘定から82億ドル、協調融資で18億ドルに達した。世界的 にコミットしたポートフォリオは自己勘定に対して254億ドル、協調融 資参加者に対して550億ドルであった。 多国間投資保証機関(www.miga.org) Multilateral Investment Guarantee Agency(MIGA) MIGA は、通貨送金、収奪、戦争や国内争乱など、非営利的な危険 (すなわち、政治的リスク)から生じる損失に対する保険(保証)を外国
の民間投資家に提供することによって、開発途上国への投資を奨励する。 また、途上国が投資の機会に関する情報を広めることができるように、 技術援助も行う。 MIGA の授権資本は、171の加盟国が支払う。これまで開発途上国へ
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の資本流入を成功させてきた。2007年会計年度において、14億ドルの保 証を発行した。1988年の開業以来、MIGA は96カ国の開発途上国のプロ ジェクトに対して174億ドルに相当する900件近くの保証を発行し、時に は海外直接投資を容易にした。 国際投資紛争解決センター(www.worldbank.org/icsid) International Centre for Settlement of Investment Disputes(ICSID) ICSID は、調停もしくは仲裁によって、政府と民間の外国投資家との 投資紛争を解決するための便宜を提供する。ICSID は1966年の「国家と 他の国家の国民との投資紛争の解決に関する条約」のもとに設置された。 2007年5月現在、同条約の批准国は144カ国である。センターに対する 調停もしくは仲裁の付託は任意であるが、一旦当事者が仲裁に同意した 場合は、一方的にその同意を撤回することはできない。 ICSID は世界銀行と緊密な関係を有する自治機関であるが、加盟国は 世界銀行と同じである。その管理理事会は世界銀行の総裁が議長を務め、 1966年の条約を批准した各国の1人の代表で構成される。 国際民間航空機関(www.icao.int) International Civil Aviation Organization(ICAO) 国際民間航空機関(ICAO) は、世界の国際民間航空の安全かつ秩序 ある発展を促進する目的で1944年に設立された。国際民間航空の安全、 効率、定期運行や航空環境保全に必要な国際基準や規則を定める。また、 190の締約国間で行う民間航空協力を進めるフォーラムとしての役も務 める。 ICAO は全締約国の代表で構成される最高機関の総会 と、総会が選ぶ 36カ国の代表で構成される理事会を持つ。総会は少なくとも3年に1回 は開かれ、ICAO の政策を決め、とくに理事会に付託されなかった問題 を審議する。理事会は ICAO の執行機関で、総会が行った指示を実行す る。 2007年度予算は6,650万ドルであった。職員の数はおよそ700人である。 理事会議長:アサド・コタイテ博士(レバノン) 事務局長:タイエブ・チェリフ氏(アルジェリア)
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本部:999 University Street, Montreal, Quebec H3C 5H7, Canada 電話: (1-514) 954-8219 Fax:(1-594) 954-6077 E-mail: icaohq@icao.int 国際海事機関(www.imo.org) International Maritime Organization(IMO) 国際海事機関(IMO)は1959年に活動を開始した。国際貿易に従事す る船舶の安全を高め、かつ船舶による海洋汚染を防止することを目的と する。 IMO は、国際海運に影響を及ぼす技術的事項に関する規則や慣行を 作成するために協力し、最高水準の海上の安全と航行の効率を達成し、 また船舶による海洋汚染を防止かつ管理することによって海洋環境を保 全できるような機構を加盟国政府に提供する。 これまで40以上の条約と議定書、約1,000にのぼる規則や勧告が作成 され、世界中で実施されている。 1983年、IMO はスウェーデンのマルメに「世界海事大学」を設立した。 大学は上級レベルで海運に携わる行政官、教育者、その他に対して高等 訓練コースを提供する。マルタのベレッタにある「IMO 国際海事法研 修所」は、国際海事法に関する法律家を養成するために1989年に設置さ れた。1989年には「IMO 国際海事アカデミー」がイタリアのトリエス テに設立され、海事問題に関する多くの専門的な短期コースを提供して いる。 IMO の管理機関は「総会」で、167加盟国で構成され、2年ごとに開 かれる。総会は「理事会」を選出する。IMO の執行機関で、40カ国で 構成され、年に2回開かれる。 2006−2007年度の予算額は、4,970万ポンドであった。職員の数はお よそ300人である。 事務局長:エフティミオス・E・ミトロポロス氏(ギリシャ) 本部:4 Albert Embankment, London SE1 7SR, United Kingdom 電話: (44-0-207) 735-76 11 Fax:(44-0-207) 587-3210 E-mail:ホームページの「Contact Us」をクリック。
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国際電気通信連合(www.itu.int) International Telecommunication Union(ITU) 国際電気通信連合(ITU)は、政府と民間セクターがグローバルな電 気通信ネットワークとサービスを調整するための国際機関である。ITU は1865年に「万国電信連合」としてパリに設立され、1934年に現在の名 称となり、1947年に国連の専門機関となった。 ITU のすべての活動は、すべての人が容易に、手ごろな価格で情報通 信技術(ICT)を利用できるようにし、それによってすべての人々の経 済社会開発に大きく貢献すると目標を軸として展開されている。一つの 重要な優先事項は、ICT インフラを整備して開発先進国と開発途上国を 分けている情報格差を解消し、能力育成を促進し、「グローバル・サイ バーセキュリティ・アジェンダ(GCA)」を通してオンラインの安全を 高め、サイバースペースに対する信頼を高めることである。 ITU の活動は、世界的なベースで、電気通信サービスに必要なインフ ラ整備に利用される基準を発展させること、世界のあらゆる地域に無線 サービスを実現するために無線周波数スペクトルや衛星軌道の公平な管 理を促進すること、電気通信開発戦略を進める国を支援することなどに 及ぶ。また、とくに脆弱な経済のために自然災害からもっとも大きな被 害を受けやすい貧しい国のために、防災や災害軽減のための緊急通信を 強化することにも重点をおいている。 ITU は191の加盟国と750近くの連合員(学術・工業団体、公的運営体や 民間業者、放送局、地域・国際機関) によって構成される。管理機関は
「全権委員会議」で、4年ごとに開かれ、毎年開かれる46カ国構成の 「ITU 理事会」を選出する。 職員の数は80カ国出身の822人である(2006年1月現在)。2006−2007 年度予算は3億3,940万スイスフランであった。 事務局長:ハマドーン・トゥーレ氏(マリ) 本部:Place des Nations, CH-1211 Geneva 20, Switzerland 電話: (41-22)730-5111 Fax:(41 22) 733 7256 E-mail: itumail@itu.int
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万国郵便連合(www.upu.int) Universal Postal Union(UPU) 万国郵便連合(UPU)は専門的な機関で、国際郵便業務を規制する。 1874年のベルヌ条約によって設立され、1948年に国連の専門機関となっ た。 UPU は、郵便業務の再活性化に指導的な役割を果たす。191カ国の加 盟国を持ち、郵便業務に従事する機関間の協力を進める主要な機関であ る。助言を与え、紛争の調停をはかり、技術援助を提供する。主な目的 には、普遍的な郵便サービスを促進し、設備とサービスの近代化によっ て郵便物の増加を図り、かつ利用者のために郵便サービスの質を改善す ることなどがある。そうすることによって、UPU は世界のすべての人々 の間のコミュニケーションを促進、発展させるという基本的使命を達成 する。 「大会議」は UPU の最高機関である。5年ごとに開催され、郵便に関 する戦略的問題を取り上げ、一般的な活動計画を決める。第24回大会議 は2008年8月13日から9月3日までケニアのナイロビで開催される予定 である。 UPU の年間予算はおよそ3,700万スイスフラン(約3,040万ドル) で、 45カ国以上の国々出身のおよそ230人が UPU 国際局で働いている。 事務局長:エドゥアルド・ダイアン氏(フランス) 本部:Weltpoststrasse 4, Case Postale 3000, Berne 15, Switzerland 電話: (41-31)350-3111 Fax:(41-31) 350-3110 E-mail: info@upu.int 世界気象機関(www.wmo.ch) World Meteorological Organization(WMO) 世界気象機関(WMO)は1951年に国連の専門機関となり、大気の状態、 気象、淡水資源、気候、関連の環境問題について権威ある科学情報を提 供する。 国際協力を通して、グローバルな監視体制を発展させ、実施している。 また、グローバル、地域、国内のセンターのネットワークを作り、気象、
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気候、水文学的予報サービスを提供する。この情報システムによって、 気象情報の迅速な交換が可能となり、実際的な水文学活動も促進される。 WMO は気象、気候、大気、応用気象学、環境、水資源に関連した活 動計画を進める。これらの計画は、豪雨、強風、熱帯性サイクロン、洪 水、海面の急上昇、熱波、干ばつ、エルニーニョ、ラニーナなど、ほと んどの自然災害の対策や事前警報のための基礎を提供するものである。 また、生命と財産を救い、環境と気候に関する理解を改善する。WMO はまたオゾン層の破壊、地球の温暖化、水資源の減少など、重大な問題 に対しても注意を喚起してきた。 WMO の加盟国は188カ国で、その内訳は182の国と6の地域である。 そのすべてが気象・水文学機関を有している。管理機関は「世界気象会 議」で、4年ごとに開催される。37カ国の「執行理事会」は毎年開かれ る。 職員の数はおよそ300人で、2008−2011年度予算は2億2,690万スイス フランである。 事務局長:ミッシェル・ジャロウ氏(フランス) 本部:7 bis, avenue de la Paix, CH-1211 Geneva 2, Switzerland 電話: (41-22)730-8111 Fax:(41-22) 730-8181 E-mail: wmo@wmo.int 世界知的所有権機関(www.wipo.int) World Intellectual Property Organization(WIPO) 世界知的所有権機関(WIPO) は1970年に設立され、1974年に国連の 専門機関となった。その目的は、加盟184カ国間の協力を通して世界の 知的所有権を保護し、かつ知的所有権保護のために設立された同盟間の 行政上の協力を推進することである。主に、パリ同盟(正式には「工業 所有権に関する国際同盟」 )とベルヌ同盟(正式には「文学的および美術的 著作物の保護に関する国際同盟」)である。
WIPO の中心的活動は、2006−2007年度事業計画予算に述べられてい るように、知的所有権(IP)に関する国際法や基準を発展させること、 グローバルな知的所有権の保護サービスを実施すること、経済開発のた
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めに知的所有権を利用するよう奨励すること、知的所有権の理解を深め ること、知的所有権に関する問題について討議する場を提供すること、 である。 知的所有権は大別すると2つの分野に分けることができる。1つは工 業所有権で、主に発明、商標、工業デザイン、原産地表示である。もう 1つは著作権で、主に文学、音楽、美術、写真、視聴覚作品などである。 WIPO は工業所有権や著作権などに関する24の国際条約を管理している (www.wipo.int/treaties を参照)。
WIPO には3つの管理機関がある。1つは「一般総会」で、パリ同盟 およびベルヌ同盟の双方もしくはいずれかの加盟国である WIPO 加盟 国が出席し、2年ごとに開催される。2番目は「締約国会議」で、全加 盟国によって構成され、同じく2年ごとに開かれる。3番目は82カ国構 成の「調整委員会」で、毎年開かれる。 WIPO は主に自己資金からまかなわれる機関で、2006−2007年度予算 額は5億3,199万スイスフランである。その額のおよそ95パーセントは、 国際ファイル・システムや登録システムのユーザーに WIPO が提供す るサービスから生み出された。残りは、WIPO の仲裁や調停、刊行物の 販売、加盟国による比較的小額の拠出(0.5パーセント)による収入であ る。職員の数は、84カ国出身のおよそ920人である。 事務局長:カミル・イドリス博士(スーダン) 本部:34 chemin des Colombettes, PO Box 18, CH-1211 Geneva 20, Switzerland 電話: (41-22)338-9111 Fax:(41-22) 733-5428 E-mail: www.wipo.int/tools/en/contacts を利用する。 国際農業開発基金(www.ifad.org) International Fund for Agricultural Development(IFAD) 慢性的飢餓と栄養不良はほとんど例外なく極度の貧困を伴う。世界の 最貧人口の75パーセント――およそ10億の女性や子ども、男性――は、 農村地帯に住み、農業やそれに関連した活動で生計を立てている。 IFAD は国際的な融資機関で、開発途上国の農村地帯の貧困を根絶する
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ことを目的とする国連の専門機関の一つである。 IFAD は、165の加盟国から資源を動員し、世界の最貧社会の貧困削減 計画やプロジェクトに対する融資として、低利子の貸付やグラントを中 所得、低所得国に提供している。2007年、IFAD は、国際開発協会が発 展させたモデルに基づいて債務の持続可能性枠組みを採択した。これは 低い債務の持続可能性を持つ国々に貸付の代わりにグラントを提供する ものである。この枠組みは、世界最大の多国間融資諸機関が共同で行う 統合活動の一部で、基本的な財政援助がもっとも貧しい国々に対して不 当な財政的苦難をもたらすことのないようにするものである。 IFAD の事業にとってパートナーシップは欠かせない。その設立以来、 IFAD は政府や国際機関とのパートナーシップの下に活動してきた。農 民団体や非政府組織などの国内のパートナーとは強力な関係を築いてい る。国際開発共同体におけるパートナーは、国連機関、国際融資機関、 研究所、民間セクターなどである。 IFAD の活動は、政府からの任意の拠出金、特別拠出金、貸付けの返 済、投資所得などによってまかなわれる。1978年以来、IFAD は731件の プロジェクトや事業計画に対して95億ドルを超える額を投資した。それ に対して、パートナーは協調融資で161億ドルを拠出した。2006年末で、 IFAD は186件の進行中のプログラムやプロジェクトに対して、62億ドル の融資を行った。そのうち、IFAD が提供したのは29億ドルで、その パートナーはおよそ33億ドルを提供した。 IFAD の総務会は全加盟165カ国で構成され、毎年開かれる。執行理事 会は、18カ国の理事国と18人の代理理事国とで構成され、IFAD の日常 の業務を監督し、また貸付けや贈与を承認する。2006年末現在で、職員 の数は、436人であった。 総裁:レナルト・バージェ氏(スウェーデン) 本部:Via del Serafico 107, 00142 Rome, Italy 電話: (39-06)54-591 Fax:(39-06) 504-3463 E-mail: ifad@ifad.org
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国連工業開発機関(www.unido.org) United Nations Industrial Development Organization(UNIDO) 国連工業開発機関(UNIDO)は、工業開発と協力を促進する。1966年 に国連総会によって設立され、1985年に国連の専門機関となった。 UNIDO は、開発途上国と移行経済諸国の持続可能な工業開発を進め ることによって人々の生活状態を改善し、グローバルな繁栄を促進する。 また、政府、企業団体、民間工業セクターと協力し、工業のグローバル 化がもたらす問題を解決し、かつグローバル化がもたらす恩恵を広げる ことができるように、工業能力の向上をはかる。 その活動を支援するために、エンジニア、経済学者、技術・環境専門 家がウィーンの UNIDO 事務局で働き、また投資促進サービス事務所や 現地事務所で専門職員が働いている。これらの現地事務所の長は、現地 常駐代表を務める。 UNIDO の172加盟国は2年ごとに「総会」を開催し、予算と活動計画 を承認する。53カ国で構成される「工業開発理事会」は、活動計画と予 算の作成と実施に関する勧告を行う。 UNIDO の職員はおよそ650人で、本部や16の国別事務所、12の地域事 務所で働いている。それに加え、2,100人以上の国際、国内の専門家が 毎年特定のプロジェクトのために任用されている。2006年、UNIDO は 1億1,370万ドル相当の技術協力を実施した。そうした進行中の技術協 力は年末には4億9,460万ドル相当であった。 事務局長:カンデ・ユムケラー氏(シエラレオネ) 本部:Vienna International Centre, Wagramerstrasse 5, PO Box 300, A-1400 Vienna, Austria 電話: (43-1) 26026-0 Fax:(43-1) 269-2669 E-mail: unido@unido.org 国際原子力機関(www.iaea.org) International Atomic Energy Agency(IAEA) 国際原子力機関(IAEA) は、人類の利益ために原子力の平和利用を 進め、それが軍事目的に利用されないようにする。原子力の平和利用の
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ために科学・技術協力を進める世界の中心的政府間フォーラムである。 また、民間の原子力計画を対象に、原子力の保障措置の適用を監視する 国際査察官としての役割も果たす。また、核の安全と安全保障に関係し た問題について国際協力を進める国際活動の中心にある。 IAEA は国連の保護のもとに自治機関として1957年に設立され、加盟 国は144カ国である。加盟国のニーズに合わせて、技術援助を行う。国 自身が設定した優先順位に従って、持続可能な開発に原子力科学技術を 応用することが中心となる。たとえば、食糧と農業生産、人間の健康、 工業、水利管理、海洋環境の改善、発電、原子力の安全などの領域で技 術援助が行われる。 IAEA は、2国間協定や国際条約に従って不拡散義務を順守している かを監視し、検証する。すなわち、核物質や施設が軍事目的に転用され ないようにする。およそ200人以上の査察官が、IAEA の保障措置計画 の対象となる世界の900カ所以上の施設を定期的に査察している。 IAEA の管理機関は、全加盟国が出席して毎年開催される「総会」と 35カ国から構成される「理事会」である。理事会は年間を通じて定期的 に開かれる。職員の数は90カ国以上の国々出身の2,200人である。2007 年度の予算総額は2億8,360万ユーロであった。 「技術協力基金」に対す る追加の、任意拠出金の目標額は8,000万ドルであった。 事務局長:モハメド・エルバラダイ氏(エジプト) 本部:PO Box 100, Wagramerstrasse 5, A-1400 Vienna, Austria 電話: (43-1) 2600-0 Fax:(43-1) 2600-7 E-mail: official.mail@iaea.org 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(www.ctbto.org) Preparatory Commission for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization(CTBTO) 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会は、ニューヨークで 開催された署名国会議において1996年11月19日に設置された。署名国が 費用を負担する国際機関で、2つの機関から構成される。1つは「準備 委員会」として知られる全署名国で構成される本会議機関である。もう
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1つは、 「暫定技術事務局」である。準備委員会の主な任務は、条約が 想定するグローバルな検証体制を確立し、条約が発効するまでにそれを 運営できるようにすることである。 委員会は、行政予算に関する「作業グループA」、検証問題に関する 「作業グループB」 、そして財政、予算、関連の行政問題に関する「諮問 グループ」の3つの補助機関をもつ。2007年の予算は4,830万ドルおよ び44,860万ユーロであった。 事務局長:ティボル・トート氏(ハンガリー) 本部:Vienna International Centre, PO Box 1200, A-1400 Vienna, Austria 電話: (43-1) 26030-6200 Fax:(43-1)26030-5823 E-mail: info@ctbto.org 化学兵器禁止機関(www.opcw.org) Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons(OPCW) 「化学兵器の開発、生産、 化学兵器禁止機関(OPCW) の主な任務は、 貯蔵および使用の禁止並びに廃棄に関する条約」の実施を監視すること である。同条約は1997年4月29日に発効した。この条約は、厳しい国際 検証の下に、定められたスケジュールに従って、あらゆる種類の大量破 壊兵器を撤廃することを規定した最初の多国間軍縮・不拡散条約である。 OPCW は182の締約国で構成される。1997年以来、締約国は、検証の 下に、2万5,020トンの化学剤を廃棄した。これは、7万1,000トン(2007 年9月現在)以上に及ぶ申告済み全化学剤の35パーセント以上を占める。
それには申告された800万の軍需品の3分の1以上の破壊も含まれる。 条約の下に12の締約国が申告した65カ所の元化学兵器製造施設のうち、 93パーセント以上が破壊もしくは条約によって認められた目的のために 転用された。 CPCW の査察官は、80カ国の軍事・産業工場で3,000回以上の査察を 行った。これらの査察は、化学兵器生産施設が生産不能となり、破壊も しくは検証の下に認められた目的のための利用に転用されるようにする。 査察官はまた、化学兵器が破壊施設において査察官の立会いの下に破壊
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されたことも検証する。 すべての OPCW 締約国は、他の締約国が化学兵器を使用するとの威 嚇を受け、または化学兵器による攻撃を受けた際には、そうした国を援 助する義務を有する。そうした事態に対応するために、OPCW は、生 命を保護する国際的対応が迅速かつ効果的に行われるように調整し、か つ化学兵器が使用されたとの訴えを効率よく調査できるように、定期的 にその能力をテストし、その向上を図っている。OPCW はまた、化学 の平和利用を可能にするための幅広い国際協力計画を進めている。 OPCW 技術事務局はオランダのハーグにあり、およそ70カ国の国籍 を持つ500人以上のスタッフが働いている。2007年の予算は7,500万ユー ロであった。 事務局長:ロゲリオ・プフィルター氏(アルゼンチン) 本部:Johan de Wittlaan 32, 2517 JR, The Hague, Netherlands 電話: (31-70)416-3300 Fax:(31-70) 306-3535 E-mail: media@opcw.org 世界観光機関(www.unwto.org) World Tourism Organization(UNWTO) (OMT) 世界観光機関(WTO)は1925年に設立され、観光の分野における先導 的な国際機関である。観光政策を進めるためのグローバルなフォーラム であり、観光のノウハウを提供する実務的な機関でもある。150カ国の 加盟国、準加盟国として7地域、それに2のオブザーバー国から構成さ れる。また地方自治体や観光団体、それに航空会社やホテル業界、旅行 会社などの民間セクターの企業など、300以上の賛助加盟員をもつ。 WTO は、観光を振興し、発展させる任務を国連から委託された政府 間機関で、国連総会決議58/232によって、2003年12月23日に国連の専 門機関の一つになった。観光を通して経済成長と雇用創出を刺激し、観 光地の環境と遺産を保護する動機付けを提供し、諸国間の理解を促進す る。 WTO の最高機関は「総会」で、加盟国と準加盟国、賛助加盟員で構 成される。2年ごとに開催され、予算と活動計画を承認する。また、観
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光に関する主要問題について審議する。 「執行理事会」は WTO の管理 機関で、総会が選ぶ29カ国と常任理事国であるスペインの30カ国で構成 され、年に2回開かれる。アフリカ、米州、東アジア・太平洋、ヨー ロッパ、中東、南アジアの6地域委員会があり、年に少なくとも1回は 開かれる。 職員の数は90人で、2006−2007年度の予算はおよそ2,417万ユーロで あった。 事務局長:フランチェスコ・フランジアリ氏(フランス) 本部:Capitan Haya 42, 28020 Madrid, Spain 電話: (34-91)567-8100 Fax:(34-91) 571-3733 E-mail: omt@unwto.org 世界貿易機関(www.wto.org) World Trade Organization(WTO) 世界貿易機関(WTO)は、「関税と貿易に関する一般協定(ガット)」 に代わる機関として1995年に設立された。国家間の貿易を規制する多国 間規則を取り上げる唯一の国際機関である。国連の専門機関ではないが、 国連や国連機関とは緊密に協力する取り決めを結んでいる。 WTO の目的は、全加盟国が合意する多国間規則に基づくシステムの 中で貿易が円滑に行われるように助け、政府間の紛争を公平に解決し、 貿易に関する交渉のためのフォーラムを提供する。その中心にあるのが、 国際取引と貿易政策に関して基礎的な法規則を提供するおよそ60の WTO 協定である。これらの協定の基本的な原則は、無差別(「最恵国」 条項と国内待遇規定)、自由貿易、励みになる競争、後発途上国のための
特別規定である。WTO の目的の一つはすべての人に恩恵をもたらすよ うに漸進的に開放的な貿易を進めてゆくことである。 WTO は設立以来、電気通信、情報技術設備、金融サービスの市場開 放に向けた交渉を成功させたフォーラムとなってきた。また、370件近 くの貿易紛争の解決に関与し、世界貿易交渉の1986−1994年ウルグア イ・ラウンドで結ばれた協定の実施を引き続き監視している。2001年、 カタールのドーハで新しい多国間貿易交渉ラウンドが始まった。「ドー
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ハ開発アジェンダ」として知られる交渉である。この交渉ラウンドは現 在も続いている。 加盟国は151カ国である。管理機関は「閣僚会議」で、2年ごとに開 かれる。日常の作業を行うのが「一般理事会」である。2007年度予算は 1億8,200万スイスフランであった。職員の数はおよそ664人である。 事務局長:パスカル・ラミー氏(フランス) 本部:Centre William Rappard, Rue de Lausanne 154, CH-1211 Geneva 21, Switzerland 電話: (41-22)739-5111 Fax:(41-22) 731-4206 E-mail: enquiries@wto.org( ま ず、www.wto.org/english/info_e/cont_e.htm を開く)
第Ⅱ部 第2章
国際の平和と安全 INTERNATIONAL PEACE AND SECURITY
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国際連合の主要な目的の一つは、国際の平和と安全を維持することで ある。創設以来、国連は何回となく紛争が戦争へと拡大するのを防ぎ、 武力の行使に代えて交渉のテーブルへつくよう対立する当事者を説得し、 紛争が始まるとその平和の回復に努めて来た。この数十年、国連は、し ばしば安全保障理事会の行動を通して、数多くの紛争を終わらせること に成功してきた。安全保障理事会は、国際の平和と安全の問題に責任を 持つ主要な機関である。 1990年代、冷戦の終焉とともに、グローバルな安全保障環境は一新し た。国家間の戦争ではなく、国内紛争が注意を集めるようになった。 2001年9月11日の米同時多発テロは、国際テロリズムの挑戦を如実に物 語るものであった。その後の出来事によって、核兵器の拡散やその他の 非通常兵器がもたらす危険に対しても懸念が高まり、それが世界の人々 に暗い影を投げかけるようになった。 国連システムの各種機関は直ちにそれぞれの領域においてテロリズム に対抗する行動を開始した。9月28日、安全保障理事会は、国連憲章の 強制措置に関する規定のもとに、テロリズムへの財政援助を防ぎ、テロ リスト援助のために資金を集めることを犯罪とし、かつテロリストの金 融資産を直ちに凍結する幅広い内容の決議を採択した。同時にその実施 を監視する反テロリズム委員会を設置した。 国連はまた、これまで利用してきた道具を新しくし、その機能向上を はかった。平和維持活動が新しい挑戦に応えられるようにその能力を強 化し、地域機関の関与を増大させた。また、紛争後の平和構築の能力を 高めた。国内紛争は、国際社会の適切な対応のあり方について複雑な問 題を提起してきた。戦争の犠牲者である一般市民を援助する最善の方法
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とは何か、の問題も出てきた。「保護する責任」として知られる概念で ある(囲みコラムを参照)。 国内紛争に対処するために、安全保障理事会は、複雑かつ革新的な平 和維持活動を承認してきた。エルサルバドルやグアテマラにおいて、カ ンボジアやモザンビークにおいて、またシエラレオネやリベリア、タジ キスタンにおいて、国連は紛争を終わらせ、国民和解を促進するという 重要な役割を果たした。 しかし、その他の紛争、たとえば1990年代初めのソマリアやルワンダ、 旧ユーゴスラビアにおける紛争はしばしば民族間の暴力を特徴とし、安 全保障の問題に対処する国内的な権力構造を欠いていた。その結果、国 連の平和創造と平和維持活動は新たな挑戦を突きつけられることになっ た。 これらの紛争から生じる問題に直面し、安全保障理事会は1995年から 1997年にかけて新規の活動を承認しなかった。しかし間もなく、国連の 本来の役割が劇的に再確認されることになった。コンゴ民主共和国、中 央アフリカ共和国、東ティモール、コソボ、シエラレオネで危機が続発 し、安全保障理事会は、1990年代の終わりに5件の新しいミッションを 設立することになった。 1995年以降、理事会は28の平和維持ミッションを設立した。2000年の 国連エチオピア・エリトリア・ミッション(UNMEE)」 、2003年の「国 連リベリア・ミッション(UNMIL)」 、2004年の「国連コートジボワール 活動(UNOCI)」 、「国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)」 、 「国連 ブルンジ活動(ONUB)」、2005年の「国連スーダン・ミッション(UNMIS)」 、 2006年の「国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)」などである。 こうした新しいミッションの多くは、すでにその任務を完了している。 ごく最近では中央アフリカ共和国、ブルンジ、シエラレオネのミッショ ンが任務を終えた。 2007年7月31日、理事会は「ダルフール国連・アフリカ連合合同ミッ ション」を承認した。それは、「ダルフール和平合意」の実施を支援し、 かつスーダン政府の責任を損なうことなくその要員や文民を保護するた
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めに必要な行動を採る。UNAMID は2007年12月31日までにその任務を 実施することになった。 2007年9月25日、理事会は、スーダン、チャド、中央アフリカ共和国 間の国境周辺の情勢が国際の平和と安全への脅威を構成すると決定し、 欧州連合との協力で、「多面的プレゼンス」をチャドと中央アフリカ共 和国に設立することを承認した。これは、難民や避難民が自発的に、安 全かつ持続可能な帰還ができるように安全な状態を作り出す意図のもの であった。理事会は、「国連中央アフリカ共和国・チャド・ミッション (MINURCAT)」を多面的プレゼンスの一部とすることに決定した。
近年における経験から、国連はこれまでにもまして平和の構築に力を 入れるようになった。紛争管理の国家能力を強化して紛争へ発展し、ま たは再発するリスクを軽減し、持続可能な平和と発展の基礎を築く努力 である。経験からみて、恒久平和を創造するには、それぞれの国が経済 開発、社会正義、人権の尊重、よい統治を育成できるようにあらゆる資 源を活用しなければならない。 これらの任務を果たすにあたって、国連をおいてグローバルな正統性、 多国間の経験、能力、調整力、公平さを備えた機関はほかにない。コー トジボアールやコンゴ民主共和国、ハイチ、リベリア、コソボのような 国における複雑な活動に加え、国連は、アフガニスタン、ブルンジ、中 央アフリカ共和国、ギニアビサウ、イラク、シエラレオネ、東ティモー ルなど、他の多くの国において特別政治ミッションや平和構築支援事務 所を設置した。 平和構築委員会は2006年に活動を開始したが、国連の新しい政府間諮 問機関で、もっぱら国々が戦争から恒久平和へと移行するのを助けるこ とを任務とする。そのために、平和構築に関連するあらゆる主体、すな わち国際援助国、国際金融機関、国民政府、部隊派遣国、市民社会代表 を一堂に集め、紛争後の平和構築、復興のための統合戦略を提案し、初 期復興活動のための予測されうる融資や、中期、長期にわたる持続可能 な財政投資を確保できるように助ける。また、政治、軍隊、人道、開発 に関係する主体間の幅広い協力を必要とする問題について最善の慣行を
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発展させる。 「平和構築委員会」設立に関する総会と安全保障理事会の同時採択の 決議は、 「平和構築基金」と「平和構築支援事務局」の設置も決めてい た(囲みコラム「新たな平和構築構造」および www.un.org/peace/peacebuilding を参照) 。
安全保障理事会、総会および事務総長の3者全員が、平和と安全の育 成に大きな、相互補完的な役割を果たしている。国連の活動は紛争予防、 平和創造、平和維持、強制行動、平和構築の主要な領域に及ぶ。こうし たタイプの活動は重なり合う形で、または同時進行の形で進めなければ 効果がない(平和と安全の維持のための国連の役割については、www.un.org/ peace を参照)。
安全保障理事会 国連憲章――国際条約――は、平和的手段、すなわち国際の平和と安 全、正義を危うくしない方法で紛争を解決する義務を加盟国に課してい る。加盟国はいかなる国に対しても武力による威嚇または武力の行使を 控え、いかなる紛争も安全保障理事会に付託しなければならない。 安全保障理事会は、平和と安全を維持することに主要な責任を負う国 連の機関である。国連憲章のもとに、加盟国は理事会の決定を受諾し、 実施する義務を有する。その他の機関の勧告は、安全保障理事会が持つ 強制力を持たない。しかし、国際社会の意思の表れとして情勢に影響を 与えることはできる。 紛争に理事会の注意が喚起されると、理事会はまず紛争を平和的に解 決するよう当事国に勧告する。平和的解決のための勧告を当事者に行う こともできる。また、特別代表を任命し、事務総長にあっせんを求める こともある。場合によっては、理事会自身が調査や仲介を行う。 紛争が戦闘に発展すると、理事会は戦闘をできるだけ早く終わらせる ことに努める。理事会はしばしば停戦の指示を出し、それが敵対行為の
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拡大の防止に役立ってきた。和平プロセスを支援して、紛争地帯に監視 団や平和維持軍を展開させることもある。 国連憲章第7章のもとに、理事会はその決定を強制する権限を与えら れている。したがってその任務達成のために禁輸や制裁を実施し、武力 を行使することもできる。 ある場合には、理事会は、憲章第7章の規定に基づいて、加盟国の連 合軍や地域機関もしくは地域的取り決めによる軍事力の行使も承認する。 しかし、理事会がそうした行動をとるのは、紛争解決の平和的手段が使 い尽くされ、なおかつ平和への脅威、平和の破壊もしくは侵略行為が存 在すると決定した後である。 同じく憲章第7章のもとに、理事会は集団殺害も含め、国際人道法や 人権法を著しく侵害したと起訴された容疑者を訴追するために国際刑事 裁判所を設立した。最近設立された平和維持活動の多くは、国連憲章第 7章の下に承認されてきた。このことは、任務の遂行にあったって必要 があれば平和維持要員が武力を行使する可能性もあることを意味する。
総 会 国連憲章(第11条) は、 「国際の平和および安全の維持についての協 力に関する一般原則を審議」し、「加盟国もしくは安全保障理事会また はこの両者に対して勧告をする」権限を総会に与えている。総会は、困 難な問題についてコンセンサスを得るための手段を提供し、苦情の処理 と外交交渉の場を提供する。平和の維持を助長するために、総会はこれ まで軍縮、パレスチナ問題、またはアフガニスタン情勢のような問題に ついて特別総会または緊急特別総会を開いてきた。 総会はその第1委員会(軍縮と国際安全保障)と第4委員会(特別政治 問題と非植民地化)で平和と安全の問題を審議する。総会はこれまで平
和、紛争の平和的解決、国際協力に関する宣言を採択し、国家間の平和 的関係の促進に努めてきた。
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新たな平和構築構造 2006年6月の「国連平和構築委員会」の設置によって、平和構築委員 会、平和構築基金、平和構築支援事務所からなる新しい平和構築構造が 国連に導入された。これら3つの機関は共同で以下のことを行う。 ・平和構築戦略を策定、調整する。 ・国による平和構築努力のために国際的支援を集め、紛争の影響を受け た国の平和を持続させる。 ・戦争から恒久平和へと移行する国々を効果的に支援する。 「平和構築委員会(Peacebuilding Commission)」は31カ国で構成される 政府間機関で、関連するすべての主体を集めて、紛争後の平和構築と復 興のための統合戦略について助言し、提案する。その常設の組織委員会 は安全保障理事会、経済社会理事会、総会のメンバー国、それに国連 ミッションへの上位拠出国と軍事要員および文民警察の派遣上位国で構 成される。 平和構築構造の第二の柱は「平和構築基金(Peacebuilding Fund)」で、 紛争終結後の平和構築のための複数年に及ぶ常設の基金である。任意の 拠出金によるもので、平和構築活動を始めるに当たって必要となる資源 の即時提供を確保し、また、復興のための適切な融資の可能性を求める。 基金は平和構築のための当初の元金を提供することを意図したもので、 2007年9月現在で、当初の目標額、2億5,000万ドルに対し、1億8,400 万ドル近くのコミットメントを行った。 「平和構築支援事務局(Peacebuilding Support Office) 」は第三の柱で、 「平和構築基金」を管理し、事務総長の平和構築のための取り組みを支 援する。また、国連システムと委員会との間の仲立ちの役目も果たす。 任務は委員会の戦略策定を助け、国連システムに中でこれらの戦略が実 施されるようにする。
総会は1980年にコスタリカのサンホセに平和大学(University of Peace) を設立することを承認した。平和大学は平和に関連した問題について調 査研究し、その結果から得られた知識の普及をはかる国際機関である。 総会は、毎年9月21日を「国際平和デー(International Day of Peace)」 に指定している。
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紛争予防 争いが紛争へと拡大するのを防ぎ、かつ紛争の再発を防ぐための主要 な戦略が予防外交と予防軍縮である。 「予防外交(Preventive diplomacy)」とは、争いの発生を防ぐとともに、 現に存在する争いが紛争へと発展する前にその解決を図り、もしくは紛 争が発生した場合はその拡大を制限する行動である。それは仲介、調停 もしくは交渉の形をとって行われる。早期警報は予防のために不可欠な 要因で、国連は国際の平和と安全への脅威を探知するために世界の政治 的発展やその他の発展を慎重に見守り、安全保障理事会と事務総長が共 に予防行動をとれるようにしている。 事務総長の特使や特別代表は世界の各地で仲介や予防外交に従事して いる。ある紛争地域では、有能な特別代表がそこにいるというだけで緊 張の拡大を防ぐことができる。こうした作業はしばしば地域機関との緊 密な協力のもとに進められる。 予防外交を補完するのが「予防軍縮(Preventive disarmament)」で、紛 争の可能性のある地域で小型武器の数を削減する。エルサルバドル、シ エラレオネ、リベリア、その他で、総合的な和平合意の一環として戦闘 員の動員解除や彼らの武器回収と廃棄が行われた。昨日使われた武器を 廃棄することは、明日の戦争で使われるのを防ぐことである。
平和創造 平和創造は、外交手段を利用することによって紛争当事国の敵対行為 を中止させ、紛争の平和的解決について交渉するように仕向けることで ある。国連は各種の手段を提供することによって、紛争の封じ込めや解 決を図り、またその根本的な原因を解消させる。安全保障理事会は紛争
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保護する責任 人権がはなはだしく、しかも組織的かつ広範に侵害されている国に対 して国際社会は介入すべきであるか。この問題は1998年にコフィー・ア ナン事務総長によって提起され、幅広い討論が行われた。中央アフリカ、 バルカン諸国、その他で集団殺害、人道に対する罪、戦争犯罪が発生し たことを受けて、事務総長は、国際法の枠組みの中で、大量かつ組織的 な人権侵害から一般市民を守るための正統かつ普遍的な原則に国際社会 は合意すべきである、と主張した。それ以来、問題はもはやすべきか否 かの問題ではなく、こうした犯罪から一般市民を保護するためにいつ、 どのような形で国際社会は介入すべきか、の問題になってきた。 2005年世界サミットに集まった世界の指導者は、その包括的な「成果 文書」のなかで「保護する責任」について発言し、以下のように宣言し た。「各々の国家は、集団殺害、戦争犯罪、民族浄化および人道に対す る罪からその国の人々を保護する責任を負う。この責任は、適切かつ必 要な手段を通じ、扇動を含むこのような犯罪を予防することを伴う。わ れわれはこの責任を受け入れ、それに則って行動する。」 さらに以下のように明確に述べている。「国際社会もまた、国連を通 じ、(これらの犯罪から)人々を保護することを助けるために、憲章第 6章および8章にしたがって、適切な外交的、人道的およびその他の平 和的手段を用いる責任を負う。 「この文脈で、われわれは、仮に平和的手段が不十分であり、国家当 局が集団殺害、戦争犯罪、民族浄化および人道に対する罪から自国民を 保護することに明らかに失敗している場合は、適切な時期に断固とした 方法で、安全保障理事会を通じ、第7章を含む国連憲章に則り、個々の 状況に応じ、かつ適切であれば関係する地域機関とも協力しつつ、集団 的行動をとる用意がある。」 彼らはまた、国家がこうした犯罪から人々を保護する能力を構築でき るように支援し、また危機や紛争が勃発する緊張にさらされている国家 を援助する必要も強調した(2005年9月16日の総会決議60/1および戦 時における文民の保護を取り上げ、これらの原則を支持した2006年4月 28日の安全保障理事会決議1674を参照)。 こうした問題は「ダルフール国連・アフリカ連合合同ミッション (UNAMID)」のような、新しい国連ミッションの設立にも関係している。
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国連はまた、これまでの人権機関の強化を図り、2006年に総会の補助機 関として「人権理事会(Huaman Rights Council) 」を設立した。理事会は、 特定の人権侵害の問題を取り上げ、国連システムの中で人権活動の調整 とその主流化を図り、国際人権法の一層の発達について勧告することに なっている。 潘基文事務総長は、国連の中において保護する責任を「運用可能にす る」意向をしばしば表明している。そのために、2007年5月に「集団殺 害・大量虐殺防止特別顧問」にフランシス・デン氏を任命した。このポ ストはその後「事務総長特別代表」に格上げされた。そして2007年12月 12日、新たに設けられた「保護する権利特別顧問」のポストにエドワー ド・ラック氏を任命する意向を発表した。
解決の方法を勧告し、また事務総長に調停を要請する。事務総長は外交 的なイニシアチブをとって交渉の弾みを助長させ、維持する。 事務総長は個人として、また交渉や事実調査など特定の任務を持った 特使や使節を派遣することによって平和創造において中心的な役割を果 たす。国連憲章の規定のもとに、事務総長は国際の平和と安全を脅かす 恐れのある事項について安全保障理事会の注意を喚起することができる。 紛争の解決を助けるため、事務総長は調停のための「あっせん」を行 い、また「予防外交」を行使する。事務総長の公平無私は国連の大きな 資産の一つである。多くの場合、事務総長は平和への脅威を回避し、和 平合意を確保することに成功した。 たとえば、事務総長と事務総長特使の行動によって、グアテマラで36 年間も続いた内戦を終わらせることができた。コンゴ民主共和国では、 事務総長と特使は内戦を終わらせた2003年合意の交渉に力を貸した。タ ジキスタン、エルサルバドル、モザンビーク、ナミビアなどの例も、事 務総長が平和の創造者としてさまざまな形で関与してきたことを示して いる。ごく最近では、事務総長はスーダンのダルフール紛争の解決に重 要な役割を果たし、新しい形の平和維持ミッション、 「ダルフール国 連・AU 合同ミッション(UNAMID)」を誕生させた。
国際の平和と安全 121
平和維持 国連の平和維持活動は、国際の平和と安全を前進させるために国際社 会が利用しうる重要な道具である。国連平和維持活動の役割は1988年に 国際的に認められ、国連平和維持軍はその年のノーベル平和賞を受賞し た。 平和維持活動(peacekeeping)は国連憲章では明確に想定されていない が、1948年に中東へ派遣された「国連休戦監視機構(Uniteid Nations Truce Supervision Organization: UNTSO) 」がその先駆けとなった。それ以来、国
連は総計で63件の平和維持活動を設立した。そのうちの50件は1988年以 降に設立されものである。2007年10月1日現在、展開中の平和維持活動 は17であった(囲みコラムを参照)。 平和維持活動とその展開は、ホスト国政府および一般的にはその他の 紛争当事国による同意のもとに、安全保障理事会が承認する。平和維持 活動は伝統的には国家間の戦争終了後に主に停戦監視と兵力の引き離し という軍事的役割を持つモデルであった。今日では、軍事、警察、文民 など、多くの要素を持つ複雑なモデルに発展し、持続可能な平和の礎を 築くことが目的となった。 註――― *1950年の朝鮮に対する干渉は、国連の平和維持活動ではなかった。 1950年6月、アメリカと国連朝鮮委員会(United Nations Commission on Korea)は、韓国が北朝鮮軍隊の攻撃を受けた、と国連に通報した。安 全保障理事会は、攻撃を撃退し、平和と安全を回復するために必要な 援助を韓国に与えるよう国連加盟国に勧告した。7月、理事会は、軍 隊を提供する加盟国に対し、自国の軍隊を米国の統一司令部のもとに ゆだねるよう勧告した。16カ国が部隊を提供した。この軍隊は国連軍 (United Nations Command)として知られ、理事会によって国連旗を掲 げる権限を与えられた。しかし、これは国連の平和維持活動ではなく、 統一司令部のもとに行動する国際軍であった。ソ連は、国民党政府が
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国連で中国を代表していることに抗議して安全保障理事会を欠席して いたが、2常任理事国(ソ連と中国)が欠席していたとの理由で理事 会の決定を違法であると見なした。戦闘は休戦協定が署名された1953 年7月まで続いた。
近年、ある種の国連平和維持活動の展開を承認するとき、もしくは差 し迫った肉体的暴力の脅威にさらされる市民を保護するために武器の使 用も必要となるような任務を与える場合には、安全保障理事会が国連憲 章の第7章の強制措置規定を援用する慣行が導入された。伝統的には、 国連平和維持要員は自衛の場合のみ武器の使用を認められた。しかし、 第7章によるより「確固たる」任務の下では、たとえば、文民の保護の ためには武器の使用も認められる。 平和維持活動の軍事要員は加盟国が自発的に提供するもので、その費 用は加盟国が負担する。加盟国は、平和維持予算のもとに分担金を支払 う。部隊の派遣国は、その予算から標準的な比率に応じて派遣にかかっ た費用の払い戻しを受ける。 2006年7月に始まる会計年度の平和維持活動費は、およそ52億8,000 万ドルになると思われた。これはこれまでの国連平和維持活動費として は最高の額であるが、それでも世界の総軍事支出のおよそ0.5パーセン トにも満たない。活動は平和維持予算からまかなわれ、多くの国から派 遣された部隊が参加する。こうした「責任分担」は人的、財政的、政治 的な点から見て驚くほどの効率をもたらしている。 2007年11月1日現在、国連の平和維持活動には119カ国派遣の8万 2,237人の軍事・警察要員が従事していた。1948年以来、2,415人が平和 維持活動中に命を失った。 今日の紛争はいろいろな要因が複雑に絡み合っている。原因は本質的 には国内的なものである。しかし、国家または経済企業やその他の非国 家主体が国境を超えて関与するようになり、事態は複雑になる。アフリ カに見られる最近の紛争は、内戦と武器購入のための天然資源――主に ダイヤモンド――の違法輸出とが強く結びついていることを示している。 さらに、違法な武器の流れや薬物の取引、難民の流出、環境悪化などの
国際の平和と安全 123
平和維持活動の指揮官は誰か 平和維持活動は安全保障理事会が設立し、事務総長が指揮する。指揮 はしばしば特別代表を通して行われる。平和維持活動の性格によっては、 軍司令官(Force Commander)や主席軍事監視員(Chief Military Observer)が軍事面の責任者になることもある。 国連には自身の軍隊はない。それぞれの活動に必要な軍事要員、文民 要員は加盟国が提供する。平和維持要員は派遣国の軍服を着用する。平 和維持活動要員だと分かるのは、国連のブルー(青)のヘルメットもし くはベレー帽、それにバッジによってである。
ため、紛争は直ちに国際的な影響を持つようになる危険性も秘めている。 国連の活動は、その普遍性のゆえに、紛争解決の手段としてユニーク な正当性を持っている。その普遍性が活動に正当性を与え、ホスト国の 主権に対する影響を限定する。紛争国以外の国から派遣された平和維持 要員は紛争当事者間の話し合いを育む一方で、国際社会の注意を現地の 問題に振り向かせ、集団的な和平努力への扉を開かせる。さもなければ その扉は閉ざされたままである。 国連の活動を成功させるには、ある種の前提条件が必要である。この ことはますます明らかになってきた。その条件とは、戦闘する者の側に 紛争を平和的に解決したいとの真正の願望があること、安全保障理事会 からの明確な指示があること、国際社会による強力な政治的支援がある こと、そして活動の目的を達成するために必要な人的、物的資源が提供 されること、などである。もっとも重要なことは、平和維持は政治的プ ロセスを伴わなければならないことである。平和維持はそうしたプロセ スとなってはならないし、またなることもできないのである(国連平和 維持活動については、www.un.org/Depts/dpko/dpko を参照)。
国際社会は過去の活動から教訓を学び、多くの領域で国連の平和維持 活動能力を強化することに努めている。改革のための青写真は、事務総 長の平和活動に関するパネルから提供された。パネルの議長はラクダ ル・ブラヒミ大使が務め、報告は2000年に発表された。しかし、ブラヒ
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国連平和維持活動 ・国連休戦監視機構(United Nations Truce Supervision Organization: UNTSO)1948年設立。中東。(兵力:軍事152名、文民225名) ・国連インド・パキスタン軍事監視団(United Nations Military Observer Group in India and Pakistan: UNMOGIP)1949年設立。(軍事44名、文民 73名) ・国連キプロス平和維持軍(United Nations Peacekeeping Force in Cyprus: UNFICYP)1964年設立。(軍事872名、文民警察66名、文民145名) ・国連兵力引き離し監視軍(United Nations Disengagement Observer Force: UNDOF)1974年設立。シリア・ゴラン高原。 (軍事1,047名、文民140 名) ・国連レバノン暫定軍(United Nations Interim Force in Lebanon: UNIFIL) 1978年設立。(軍事12,341名、文民908名) ・国連西サハラ住民投票ミッション(United Nations Mission for the Referendum in Western Sahara: MINURSO)1991年設立。(軍事214名、警 察6名、文民247名、国連ボランティア24名) ・国連グルジア監視団(United Nations Observer Mission in Georgia: UNOMIG)1993年設立。(軍事134名、警察18名、文民282名、国連ボラ ンティア1名) ・国連コソボ暫定行政ミッション(United Nations Interim Administration Mission in Kosovo: UNMIK)1999年設立。(軍事40名、警察1,953名、 文民2,412名、国連ボランティア132名) ・国連コンゴ民主共和国監視団(United Nations Observer Mission in the Democratic Republic of the Congo: MONUC)1999年設立。(軍事17,359 名、警察1,049名、文民3,021名、国連ボランティア571名) ・国連エチオピア・エリトリア・ミッション(United Nations Mission in Ethiopia and Eritrea: UNMEE)2000年設立。(軍事503名、文民343名、 国連ボランティア63名) ・国連リベリア・ミッション(United Nations Mission in Liberia: UNMIL) 2003年設立。 (軍事:12,438名、警察:1,148名、文民1,453名、国連ボ ランティア238名) ・国連コートジボアール活動(United Nations Operation in Cote d’ Ivoire: UNOCI)2004年設立。(軍事:8,034名、警察:1,182名、文民:989名、
国際の平和と安全 125
国連ボランティア284名) ・国連ハイチ安定化ミッション(United Nations Stabilization Mission in Haiti: MINUSTAH)2004年設立。(軍事7,064名、文民警察1,923名、文 民1,663名、国連ボランティア199名) ・国連スーダンミッション(United Nations Mission in Sudan: UNMIS) 2005年設立。(軍事9,288名、警察664名、国連ボランティア250名) ・国連東ティモール統合ミッション(United Nations Integrated Mission in Timor Leste: UNMIT)2006年設立(軍事33名、文民警察1,546名、文 民1,134名、国連ボランティア124名) ・ダルフール国連・AU 合同ミッション(African Union United Nations Hybrid Operation in Darfur: UNAMID)2007年設立。(軍事7,509名、警 察1,704名、文民960名、国連ボランティア129名)(完全に展開された 場合:軍事19,555名、警察6,432名、文民5,034名、国連ボランティア 548名) ・国連中央アフリカ・チャドミッション(United Nations Mission in the Central African Republic and Chad: MINURCAT)2007年設立。(軍事14 名、警察71名、文民32名、国連ボランティア16名) (完全に展開され た場合:最大300名の警察と50名人軍事連絡将校および適切な数の文 民) *2008年4月1日現在。すべての平和維持活動のリストについては、第 III 部(付録)を参照。
ミ報告に基づく改革は、年に一つの新しい多分野にわたる平和ミッショ ンを設立できるようにすることを目的としていた。しかし、2007年2月 までの3年間に9つのフィールド・ミッションが開始もしくは拡大され た。同時にさらに二つのミッションが設立初期の段階にあった。 その結果、潘基文事務総長は国連平和維持機構の再編成を提案し、総 会が承認した。それは新たに「フィールド支援局(Department of Field Support: DFS) 」を創設することであった。DFS は2007年6月に総会に
よって正式に設置され、国連平和維持ミッションの策定、展開、持続に 責任を持つ。他方、 「平和維持活動局(Department of Peacekeeping Operations: DPKO) 」は戦略的監視や作戦上の政治的指針のような問題に重点的に取
り組む。これらの改革は一年間にわたって段階的に進められることに
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国連平和維持活動 MINURSO UNMIS 19912005-
UNMIK 1999-
UNOCI 2004MINUSTAH 2004-
UNMIL 2003-
UNFICYP 1964UNOMIG 1993-
MONUC 1999UNAMID 2007-
地図番号 4000(E)R34 国連 2007 年 8 月
UNIFIL 1978UNDOF 1974-
UNMOGIP 1949-
UNTSO 1948UNMEE 2000-
UNMIT 2006-
フィールド支援局 カートグラフィック課
なった。 フィールド支援担当事務次長は平和維持活動担当事務次長に対して責 任を持ち、かつその指示を受ける。これは国連平和維持活動の指揮の統 一を図るためである。 註――― *事務総長の詳細な提案は「平和維持活動を管理、持続させる国連能 力の強化に関する包括的報告(文書番号 A/61/858)」に載せられている。
平和維持活動はさまざまな形をとって行われ、異なる状況に応えて絶 えず発展を続けている。これまで長年にわたって行われてきた平和維持 活動の任務には次のようなものがある。 ・停戦の維持と兵力の引き離し――平和維持活動は当事者間の限られ た合意に基づいて派遣されるが、「熟考の機会」を提供することに よって、和平交渉に導く雰囲気を育む。
国際の平和と安全 127
・人道活動の保護――多くの紛争において、政治的目的達成の手段と して一般市民が計画的にその攻撃目標にされた。そうした情勢のも とでは、平和維持要員は市民の保護と人道援助活動支援の二つの任 務を求められる。しかし、そうした任務は平和維持要員を政治的に 困難な立場に追いやり、彼ら自身の安全が脅かされることにもなる。 ・包括的和平調停の実施――包括的な和平合意に基づいて展開される 複雑かつ多面的な平和維持活動で、人道的援助の提供、人権監視、 選挙監視、経済復興支援の調整など、多様な活動が求められる。 平和維持活動の役割のすべてを列挙することは不可能である。将来の 紛争は今後も複雑な挑戦を国際社会につきつけると思われる。それに効 果的に対応するには、平和の道具を積極的かつ独創的に利用することで ある。 地域・集団安全保障機関との協力 平和の実現に当たり、国連は国連 憲章第8章に規定される地域機関やその他の主体や機構との協力を深め ている。 たとえば、国連はハイチでは米州機構(OAS)、旧ユーゴスラビアや コンゴ民主共和国では欧州連合(EU)、リベリアやシエラレオネでは西 アフリカ経済共同体(ECOWAS)、西サハラや大湖地域、ダルフールで はアフリカ統一機構(OAU)と緊密に協力した。 註――― *アフリカ統一機構(OAU)は新しく独立したアフリカ諸国間の統一、 連帯、国際協力を促進する目的で1963年に設立されたが、2002年7月 10日、 ア フ リ カ 連 合(AU) と し て 再 発 足 し た。(www.african-union. org)本部はエチオピア、53カ国が加盟している。欧州連合(EU)を モデルとしている。(http://europa.eu)
国連軍事監視団はリベリア、シエラレオネ、グルジア、タジキスタン では地域機関の平和維持部隊と協力した。また、北大西洋条約機構 (NATO)の軍隊はコソボやアフガニスタンで国連要員とともに働いてい
る。 これは歓迎すべき発展である。これまでのところ、平和活動に対する
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グローバルな要求は国連も含め、いかなる主体であれ、単一の主体の能 力では応えられない。地域の主体は平和活動を策定、管理、維持する能 力を発展させるべく努力している。これは選択の幅を大きく広げるもの である。こうしたことによって、暴力的な内戦がもたらす複雑な挑戦に 対してより柔軟に対応できるシステムを発展させる新たな機会が作られ た。
強制措置 国連憲章第7章の規定のもとに、安全保障理事会は国際の平和と安全 を維持または回復するために強制措置をとることができる。強制措置は 経済制裁から国際的な軍事行動にまで多岐にわたる。 制 裁 安全保障理事会は、平和が脅かされ、外交努力が失敗に終わったとき には強制的な措置として義務的な制裁に訴えてきた。制裁の対象となっ たのはイラク、旧ユーゴスラビア、リビア、ハイチ、リベリア、ルワン 、 ダ、ソマリア、アンゴラの「アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)」 スーダン、シエラレオネ、ユーゴスラビア連邦共和国(コソボを含む)、 アフガニスタン、エチオピア、エリトリアである。制裁には包括的な経 済制裁や禁輸措置が含まれ、より具体的には武器禁輸、渡航禁止、金融 規制、外交関係の断絶などがある。 制裁の利用は武力の使用に訴えることなく、国家もしくは主体に圧力 をかけることによって、安全保障理事会が求める要求を受諾させること である。従って、制裁は、理事会の決定を実施させる重要な道具を理事 会に与える。国連の普遍的な性格からみて、制裁を決め、監視するには 国連がとくにふさわしい機関であるといえる。 同時に、多くの国や人道機関は、高齢者、障害者、難民、子供を持つ 母親など、社会の最大の弱者に制裁が不本意に与える悪影響について懸
国際の平和と安全 129
政治・平和構築ミッション ・国連ソマリア政治事務所(United Nations Political Office for Somalia: UNPOS)1995年設立。(文民28名) ・国連ギニアビサウ平和構築支援事務所(United Nations Peacebuilding Support Office in Guinea Bissau: UNOGBIS)1999年設立。(軍事顧問2 名、警察顧問1名、文民26名、国連ボランティア1名) ・国連中東特別調整官(United Nations Special Coordinator for the Middle East: UNSCO)1999年設立。(文民50名) ・国連中央アフリカ共和国平和構築事務所(United Nations Peacebuilding Office in the Central African Republic: BONUCA)2000年設立。(軍事顧 問5名、警察6名、文民79名、国連ボランティア3名) ・西アフリカ事務総長特別代表事務所(Office of the Special Representative of the Secretary General for West Africa)2001年設立。(文民17名) ・国連アフガニスタン支援ミッション(United Nations Assistance Mission in Afghanistan: UNAMA)2002年設立。(軍事監視員14名、警察3名、 文民1,291名、国連ボランティア35名) ・国連イラク支援ミッション(United Nations Assistance Mission for Iraq: UNAMI)2003年設立。イラク、ヨルダン、クウェートにベース。(軍 事224名、文民632名)(承認された兵力は1,014名) ・国連シエラレオネ統合事務所(United Nations Integrated Office in Sierra Leone: UNIOSIL)2006年設立。 (軍事監視員14名、警察21名、文民277 名、国連ボランティア23名) ・国連ブルンジ統合事務所(United Nations Integrated Office in Burundi: BINUB)2007年設立。 (軍事監視員8名、警察10名、文民358名、国 連ボランティア49名) ・国連ネパール政治ミッション(United Nations Political Mission inNepal: UNMIN)2007年設立。 (軍事監視員146名、警察4名、文民459名、国 連ボランティア247名) ・国連レバノン事務総長特別調整官(United Nations Special Coordinator of the Secretary General for Lebanon)2007年設立。(文民31名) ・国連中央アジア予防外交地域センター(United Nations Regional Centre for Preventive Diplomacy for Central Asia: UNRCCA)2007年 設 立。 (提 案された要員19名) *2008年4月1日現在。
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政治・平和構築ミッション UNOWA 2000-
BONUCA 2000UNPOS 1995-
UNSCO 1999UNAMI 2003-
UNIOSIL* BINUB* 20062007UNOGBIS 1999地位図番号 4147(E)Rev.29 国際連合 2008 年 3 月
*
UNRCCA 2007UNAMA* 2002-
UNMIN 2007-
Office of the United Nations Special Coordinator for Lebanon 2007(国連レバノン特別調整官事務所)
平和維持活動局が 指示、支援するミッション
フィールド支援局 カートグラフィック課
念を表明してきた。また、制裁が、被制裁国との貿易や経済関係を中断 しなければならない第3国の経済に及ぼす経済的、社会的、政治的な負 の影響についても懸念が表明されている。 制裁の方法と実施を改善する必要があることが、これまでにも増して 認識されるようになった。安全保障理事会の決議の中に人道的例外事項 を入れるとか、また制裁の対象をより明確にすることなどによって、制 裁の負の影響を緩和することができる。いわゆる「スマートな制裁」が 支持を得てきているが、これは国民一般ではなく、権力の座にある人々 に圧力を加えることによって人道援助の費用を削減しようとするもので ある。たとえば、「スマートな制裁」の例としては、金融資産の凍結や エリート階級の人々や最初に制裁の対象となる行動をとった主体の金融 取引を禁ずることなどがある。
国際の平和と安全 131
軍事行動の承認 平和創造の努力が失敗に終わった場合、国連憲章第7章の規定に基づ いて、加盟国によるより強力な行動が承認されることがある。安全保障 理事会は、これまでにも加盟国が紛争に対処できるように軍事行動も含 めた「すべての必要な措置」をとる権限を加盟国の連合に与えてきた。 たとえば、イラク侵攻後のクウェートの主権を回復するためにこの権限 が加盟国に与えられた(1991年)。そのほかにもソマリアで人道的な救 援活動を行うために必要な安全な環境を作りだし(1992年)、ルワンダ においては危険に曝されている一般市民を保護し(1994年)、ハイチで 民主的に選ばれた政府を回復し(1994年)、アルバニアでは人道的活動 を保護し(1997年)、また東ティモールでは平和と安全を回復するため に(1999年および2006年)、この権限が与えられた。 こうした行動を承認するのは安全保障理事会であるが、実際の行動は すべて参加国の管理のもとにおかれる。したがって、安全保障理事会が 設立し、事務総長の指揮のもとにおかれる平和維持活動とは異なる。
平和構築 国連にとって、平和構築とは戦争から平和への移行期にある国や地域 を支援する活動を意味する。それにはそうした意向を支援し、強化する ための活動やプログラムも含まれる。平和構築のプロセスは一般に元紛 争当事者が和平合意に署名することから始まる。国連の役割はその実施 を容易にすることである。国連は武器に訴えるのではなく、交渉によっ て問題の解決を図る。国連が継続して行うこうした外交的な役割も平和 構築の一環とみなすことができるかもしれない。 また、各種の援助も含まれる。たとえば、平和維持者としての軍隊の 展開、難民の本国帰還と社会への統合、選挙の実施、そして兵士の武装 解除や動員解除、社会復帰などである。平和構築の中心となるのは、新
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しい、正統な国家を建設することである。紛争を平和的に解決し、一般 市民を保護し、基本的人権の尊重を確保できる能力を持つ国家の建設で ある。 平和構築には世界銀行を初め、地域経済機関やその他の機関、非政府 組織(NGOs)、現地の市民グループなど、国連システム内のさまざまな 機関の行動が求められる。平和構築はカンボジア、エルサルバドル、グ アテマラ、モザンビーク、リベリア、ボスニア・ヘルツェゴビナとコソ ボ、そして最近ではアフガニスタンやブルンジ、イラク、シエラレオネ での国連活動で優れた役割を果たした。国家間の平和構築に関する最近 の例としては、国連エチオピア・エリトリア・ミッションをあげること ができる。 選挙支援 国連は1989年、ナミビアを独立に導いた選挙の全過程を監視すること によって新生面を切り開いた。それ以来、国連は関係国政府の要請に よって多くの国で選挙を援助して来た。たとえば、ニカラグア(1990年)、 アンゴラ(1992年)、カンボジア(1993年)、エルサルバドルと南アフリ カおよびモザンビーク(1994年)、東スラボニア(クロアチア)(1997年)、 中央アフリカ共和国(1998年および1999年)、アフガニスタン(2004年お よび2005年) 、イラクおよびリベリア(2005年)、ハイチとコンゴ民主共
和国(2006年)である。また、1993年にエリトリアの住民投票を監視し、 東ティモールにおいては、東ティモールとしての独立に導いた1999年の 国民協議および2001年と2002年の選挙を組織し、実施した。 国連関与の程度やタイプは関係国政府から受ける要請、和平合意の規 定、総会もしくは安全保障理事会が求める任務の内容によって異なる。 国連は単なる技術援助から実際の選挙の実施までさまざまな役割を果た してきた。国連が国際選挙監視要員の活動の調整を行うことも多い。選 挙監視要員の一般的な作業は、有権者の登録、選挙運動、投票所の組織 を監視することである。 1992年以来、国連は107カ国以上の国々でさまざまな形で選挙支援を
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暫定行政機構 国連が移行期の国の行政を助ける役割を果たすことが時々あった。紛 争後にその国の要請に応じて、国連はこの新しいタイプの平和構築活動 で幅広い任務を果たしてきた。時には、自立した政府を建設するために、 政府のすべての権力を受けることもあった。一方で、現地の政治指導者 や市民代表と共に働くこともあった。 そうした行政の役割の例としては、内戦が何年も続いたカンボジアで 1992年から1993年にかけて行われた活動がある。1991年の和平協定に規 定されていたように、安全保障理事会は「国連カンボジア暫定統治機構 (United Nations Transitional Authority in Cambodia)」を設立した。暫定機 構はカンボジアの行政の主要な部門の運営に携わった。1993年に行われ た選挙を受けて、その権力は新政府に移譲された。 行政責任を持ったもう一つの平和維持活動は「国連東スラボニア、バ ラニャおよび西スレム暫定機構(United Nations Transitional Administration in Eastern Slavonia, Baranja and Western Sirmium)」である。この暫定 機構は、この地域がクロアチアに平和的に統合されるのを助ける目的で 1996年から1998年まで展開された。 1999年、安全保障理事会は立法、行政、司法の権限を持った「国連コ ソボ暫定行政ミッション(United Nations Interim Administration Mission in Kosovo)」を設立した。ミッションはコソボの行政を行ってきたが、 その最終的地位を待ちながら、こうした機能をコソボ当局へ漸進的に移 譲している。 同じく1999年、安全保障理事会は立法権と行政権を持った「国連東 ティモール暫定行政機構(United Nations Transitional Administration in East Timor) 」を設立した。この機構は、社会サービスを発展させ、再建を助 け、国家構築能力の育成を支援する。この地域は2003年5月に東ティ モールとして独立した。
行った。たとえば、諮問サービス、後方支援、訓練、市民教育、コン ピューターの利用、短期の監視活動などである。政治局の選挙支援部が 国連システム内で選挙援助の中心となる(www.un.org/Depts/dpa/ead を参照)。 最近では、国連が請け負う和平交渉の主要な要素として、または平和
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維持活動や平和構築活動との関連で、選挙プロセスへの支援やガイダン スを選挙支援部に求めるケースが増えてきた。「国連開発計画」は、選 挙プロセスへ技術的な支援を行い、関係国が選挙制度を確立するのを助 け、現地で国連の選挙支援活動を調整する。国連人権高等弁務官事務所 は選挙担当官を養成し、選挙法や手続きの草案作成のための指針を確立 し、人権と選挙に関する広報活動を行う。 開発による平和構築 平和を強固にする国連活動の主な道具は、開発援助である。国連開発 計画(UNDP)、国連児童基金(ユニセフ)、世界食糧計画(WFP)、国連 難民高等弁務官事務所(UNHCR) など、国連の多くの機関が復興の段 階でさまざまな役割を果たす。こうしたことは避難民に機会を与え、国 家や地方の機関に対する信頼を回復させるために不可欠である。 国連は難民の帰還を助け、地雷を除去し、インフラを整備し、資源を 動員し、経済回復を助長する。戦争は開発の最悪の敵であるが、健全か つバランスのとれた開発は紛争防止の最善の策である。
平和のための国連行動 アフリカ 南部アフリカ 冷戦が終わりに近づきつつあった1980年代の終わりに、南部アフリカ を苦しめてきた戦争を終わらせるという国連の長年の努力がついに実を 結んだ。南アフリカのアパルトヘイト政権を衰退させたことが、こうし た努力の大きな成果であった。南アフリカの影響は国境に接する「前 線」国家にまで及び、さらにアンゴラやモザンビークの反政府勢力を支 えていた。 1988年、南アフリカは、ナミビアの独立を実現するために事務総長と
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協力することに同意した。1992年、モザンビーク政府とモザンビーク民 族抵抗運動(RENAMO)は、長年にわたって国家を疲弊させてきた内戦 を終わらせる和平合意に署名した。合意の一環として「国連モザンビー ク活動(United Nations Operation in Mozambique)」が1993年に展開され、停 戦、部隊の動員解除および1994年に行われた多党選挙を監視し、成功裏 に終了した。 アンゴラ アンゴラでは1975年にポルトガルから独立して以来、政 府と反政府勢力の「アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)」との間に断 続的ではあるが内戦が続き、国土は荒廃してしまった。国連は紛争を終 わらせることで重要な役割を果たした。事務総長や事務総長特使による 仲介、和平会談の開催、UNITA に対する安全保障理事会の武器と石油 の禁輸と UNITA の渡航禁止、国民選挙の監視などである。 安全保障理事会はアンゴラのために数回にわたって平和維持・政治 ミッションを設立した。最初の平和維持活動は1989年に派遣され、政府 支援のために派遣されたキューバ部隊がアンゴラから撤退するのを監視 した。1991年に派遣された2回目の平和維持活動は停戦を監視し、戦闘 員の動員解除を検証し、1992年の選挙を監視した。しかし、UNITA は 選挙の結果を拒否し、アンゴラは再び戦闘に入った。 事務総長特別代表のアリウヌ・ブロンダン・ベイェの仲介によって 1994年にルサカ合意が生まれ、もろさを抱えているものの平和が訪れた。 ルサカ合意は停戦と UNITA の政府と軍隊への統合を規定したもので あった。第3のミッションは、その合意を支援し、当事者が平和と国民 和解を達成できるように助けるものであった。 1997年、事務総長はアンゴラを訪問し、国民和解を進め、国民統合と 和解の政府の樹立に努めた。新政府は1997年4月に発足した。同じく 1997年、国連アンゴラ監視団(MONUA)が設立され、平和の回復を助け、 移行期の援助を行った。しかし、比較的平和な状態が4年続いたものの、 1998年には再び紛争が燃え上がり、一般市民に大きな犠牲を強いること になった。安全保障理事会は、ルサカ和平合意による義務を果たさな かった UNITA に対して制裁を強化した。
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アフリカ:国連の優先課題 アフリカは依然として国連が注意を払い、活動の大きな部分を占める 地域である。国連はアフリカの長引く対立や長期の紛争がもたらす挑戦 に革新的な方法で、しかも最高のレベルで対処してきた。2000年9月の ミレニアム宣言で、世界の指導者たちは、アフリカが平和と開発の問題 と取り組むことができるように特別の措置をとることなど、全面的支援 を与える決意を表明した。長年にわたるアフリカでの国連活動には、南 アフリカの反アパルトヘイト・キャンペーン、ナミビアの独立のための 積極的な支援、そしてアフリカ各地に展開されたおよそ25の平和維持活 動が含まれる。 これらの平和維持活動の中で、国連エチオピア・エリトリア・ミッ ションは両国間の平和を維持している。2003年以来展開されているコー トジボワールの国連軍は、内戦後の和平合意を支援している。2005年に 展開されたミッションは、北スーダンと南スーダンとの間の包括的和平 合意を支援している。コンゴ民主共和国では、平和維持ミッションがこ の巨大な国の統一を助け、2006年には独立以降初めての民主的な選挙が 行われた。リベリアでは、国連活動が14年に及ぶ内戦後の安定回復と国 民和解を助けている。そして、ダルフール、中央アフリカ共和国、チャ ドに対しては新しい平和維持活動が承認された。 1998年のアフリカの紛争原因に関する報告の中で、事務総長は、軍事 的解決ではなく政治的解決を求め、良い統治を受け入れ、人権、民主化、 責任ある公共行政を尊重し、経済成長をもたらす改革を行うようアフリ カ諸国に訴えた。それに続き、安全保障理事会は、アフリカにおける不 正な武器流入がもたらす不安定化、武器禁輸、紛争予防に関する決議を 採択した。そして2000年1月、アフリカに関して1カ月に及ぶシリーズ の会合を開き、紛争の解決、HIV/エイズ、難民と国内避難民、国連の 平和活動の問題を取り上げた。 事務総長とその特別代表、顧問、特使はアフリカに関する国連活動に 積極的に関与している。国連は引き続き「アフリカ連合」や「西アフリ カ諸国経済共同体(ECOWAS)」や「南部アフリカ開発共同体(SADC)」 のような小地域機関との緊密な協力のもとに活動を進めている。 2003年以来、アフリカ特別顧問室(OSAA)は、アフリカの開発と安 全保障に対する国際支援を強化し、国連システムによる支援の調整を改
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善することに努めている。また、アフリカに関して、とくにアフリカの 指導者が2001年に採択した戦略的枠組み、「アフリカ開発のための新 パートナーシップ(NEPAD)」に関してグローバルな審議を進めている (より以上の情報に関しては、www.un.org/africa/osaa を参照)。
1998年12月26日、国連のチャーター機が軍事作戦地域で墜落した。そ の1週間後、別の国連チャーター機が同じ地域で攻撃を受けて墜落した。 乗客15人と乗務員8人の全員が死亡した。理事会は、和平プロセス悪化 の主要責任は UNITA にあると繰り返した。1999年2月、MONUA の駐 留期限は更新されなかった。しかし、10月には「国連アンゴラ事務所 (UNOA) 」が設置され、平和を回復させる道を探り、人材育成、人道援
助、人権促進の任に当たる事務総長代表が任命された。 2002年2月22日、UNITA の創設者で指導者であったジョナス・サビ ンビが政府軍との戦闘中に死亡し、長年にわたって続いてきたアンゴラ の戦争も終焉した。UNITA と政府軍は3月に停戦に合意し、4月にル サカ議定書の残りの規定を実施する目的の了解覚書に署名した。 これによって国連の政治的なプレゼンスがわずかながら拡大された。 ルサカ議定書の残りの作業を完了させるのを支援する国連アンゴラ・ ミッション(UNMA)が設立された。UNMA はまた、選挙、人権の促進、 法の支配の普及、復員兵士の社会復帰支援、経済復興の促進など、政府 を援助することになった。 2002年12月までに、安全保障理事会は、それまで9年間にわたって UNITA に実施してきた制裁のすべてを解除した。ルサカ議定書の残り の作業も2003年早々にすべて終了した。UNMA は解散し、残りの活動 のすべては国連アンゴラ駐在調整官の事務所に移された。 大湖地域 ルワンダ ルワンダに対する国連の関与は1993年に始まった。その 年、ルワンダとウガンダは、両国の共通の国境地帯に国連軍事監視団を 派遣し、ルワンダ愛国戦線(RPF)がその地域を軍事目的に利用するの
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を防ぐよう国連に要請した。それを受けて、安全保障理事会は「国連ウ ガンダ・ルワンダ監視団(UNOMUR)を設立した。 1990年、主にフツ族政府とツチ族主導の RPF との間に戦闘が発生し た。RPF はウガンダから戦闘をしかけていた。1993年、暫定政府の樹 立と選挙の実施を規定した和平合意が結ばれた。ルワンダと RPF の要 」 請を受けて、安全保障理事会は1993年に「国連ルワンダ支援団(UNAMIR) を設立し、当事者の合意実施を助けることにした。しかし、1994年4月 初め、ルワンダ、ブルンジ両国大統領が乗った飛行機がロケット弾に よって撃墜され、二人とも死亡した。これが引き金となって、数週間に 及ぶ集中的かつ組織的な虐殺が行われた。ツチ族と穏健派のフツ族を対 象とした殺害は、フツ族支配の軍隊や民兵によって行われた。 UNAMIR は停戦の取り決めを試みたが失敗し、いくつかの国は一方 的にその部隊を撤退させた。安全保障理事会は UNAMIR の兵力を2,548 人から270人に削減した。しかし、こうした状況の中にあっても UNAMIR は何千というルワンダ人に庇護を与えることができた。5月、理 事会はルワンダに対する武器禁輸を決定し、UNAMIR の兵力を5,500人 に増強した。しかし、加盟国が部隊を提供できるようになるまでには6 カ月近くもかかった。7月、RPF 軍はルワンダを支配下におさめた。内 戦は終わり、国民を広く代表する政府が樹立された。 790万の人口のうち、およそ80万人が殺され、約200万人が他の国へ逃 れた。また、およそ200万人の人々が国内で避難民となった。国連の人 道援助へのアピールに応えて7億6,200万ドルが集まった。 1994年11月、安全保障理事会は集団殺害と戦争犯罪の容疑者を訴追す るルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)を設立した。2007年1月までに、裁 判所は90人を起訴、31人の被告に対して25件の判決を言い渡した。28人 の被収容者が裁判中で、9人が拘留中である。また、7人が控訴中で、 18人の容疑者は依然として未拘束である。ジャン・カンバンダ元大統領 は有罪として終身刑の判決を受けた。裁判所は2008年にその任務を終え ることになっている。 1996年、ルワンダの要請を受けて、理事会は UNAMIR の任務を終わ
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らせた。1999年、事務総長が委託した独立調査団は、集団殺害を中止で きなかった責任は国連事務局、安全保障理事会、加盟国の3者にある、 との結論を発表した。事務総長は国連が集団殺害を中止できなかったこ とに「深い良心の呵責」を感じるとのべ、国連は大量虐殺が二度と起こ らないようにするとの決意を繰り返した。 2003年、住民投票によって新憲法が採択された。大統領選挙ではポー ル・カガメが地すべり的な勝利を収め、1962年の独立以来初の複数多党 制下の議会選挙では、彼の「ルワンダ愛国戦線(RPF)」党が大勝利を 収めた。ルワンダの集団殺害10周年を記念して、総会は2004年4月7日 を「1994年のルワンダにおけるジェノサイドを考える国際デー」と指定 すると宣言した。 地域のレベルでは、内戦の終了に伴って、ルワンダのフツ族の多くは、 現在コンゴ民主共和国(DRC)として知られる東ザイールに避難した。 その中には集団殺害に関与した分子も含まれていた。これらの「集団殺 害者たち」はすぐに西ルワンダに対する攻撃を開始した。 その結果、ウガンダとルワンダはともにコンゴ民主共和国に干渉し、 1994年の集団殺害に責任がある元フツ族民兵(インテラハムウェ)の残 党とルワンダ軍(旧 FAR)に与えられている聖域に安全保障上の懸念を 表明した。国連、OAU、地域の集中的な外交活動によって、コンゴ民 主共和国のための1999年ルサカ停戦合意が署名された。それを受けて安 全保障理事会は国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)を設立した。 2002年7月、カガメ大統領とジョセフ・カビラ・コンゴ民主共和国大 統領はコンゴ民主共和国からのルワンダ部隊の撤退に合意した。また、 旧ルワンダ軍とインテラハムウェの解隊についても合意した。これは大 湖地域の平和と安全へ向かっての大きな転機となった。ルワンダは10月 7日に部隊の撤退を完了した。MONUC は自発的に2003年末までにおよ そ900人のルワンダ戦闘員とその家族を帰還させた。 ブルンジ 国連ブルンジ事務所は、ブルンジの危機の解決に積極的 にかかわってきた。ブルンジでは長年にわたって内部対立が続いていた。 1993年にクーデターが発生し、民主的に選ばれた最初の大統領(フツ族
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出身)をはじめ、6人の閣僚が殺害された。これが部族間闘争にまで発
展し、その後の3年間に少なくとも15万人が死んだ。 1996年、多数派のフツ族と少数派のツチ族との合意によって樹立され た政府と大統領が、ツチ族主導のクーデターによって退陣させられた。 安全保障理事会はクーデターを非難し、憲法に則って秩序を回復させる よう軍の指導者に要請した。近隣諸国はブルンジに経済制裁を行った。 しかし、主にツチ族を主体とした軍隊とフツ反政府軍との間の戦闘が激 化し、およそ50万の人々が強制的に「再編成キャンプ」へ移動させられ、 30万人がタンザニアへと脱出した。 ジュリアス・ニエレレ元タンザニア大統領の調停によって、1998年に フツ族とツチ族との政治的パートナーシップに基づく新しい暫定憲法が 作られた。2000年、ニエレレ氏の死亡に伴い、ネルソン・マンデラ元南 アフリカ大統領がブルンジの平和プロセスのまとめ役としての任を引き 継いだ。2001年11月に暫定政府が樹立され、次いで暫定国民議会と上院 が発足した。2003年初めまでに、3つの主要勢力グループとの停戦合意 が署名された。 2003年4月、アフリカ連合はアフリカ・ブルンジ・ミッション(AMIB) の展開を承認した。120人の軍事監視要員を含む、3,500人の部隊から構 成された。4月30日、暫定期間の上半期の終わりに、フツ人大統領とツ チ人副大統領は、行政権をツチ少数派からフツ多数派へ移譲させると 誓った。 しかし、7月末、ブルンジの首都ブジュンブラが攻撃を受けて混乱し ている最中に、議会の4人の議員が「民主防衛市民会議/民主防衛軍 (CNDD/FDD)」の反政府勢力によって誘拐された。政府軍とフツ族解放
党(Palipehutu) や解放国民軍(FNL) の勢力との衝突も報告された。ブ ルンジの17の州のうちの16州で散発的な戦闘や略奪、武力による山賊行 為が続いた。国連は幹部以外のスタッフをブジュンブラから撤退させた。 それにもかかわらず、ターボ・ムベキ南アフリカ大統領や他の地域の 指導者による努力が続けられ、2003年11月に、暫定政府と CNDD/FDD が「グローバル停戦合意」に署名するまでに至った。CNDD/FDD は暫
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定政府に参加した。安全保障理事会は、アルーシャ合意に参加していな (Rwasa)に対し、 かった唯一の反政府武装グループの「パリペフツ FNL」
合意に参加するよう訴えた。 25万人から30万人もの人々を死に追いやった10年に及ぶ内戦からつい に民主的なブルンジが生まれるであろうとの真の希望が生まれた。 AMIB の駐留はこれを可能にすることに重要な役割を果たした。しかし、 ミッションは資金と後方支援の欠如に苦しめられた。2004年10月31日ま でに国民立法選挙が予定されていることから、アフリカ連合は、AMIB に代わって国連がその任に就くよう要求した。 2004年5月、国連憲章の強制規定のもとに、安全保障理事会は、国連 ブルンジ活動(ONUB)の6月1日付けの展開を承認した。ONUB は当 初、駐留中の AMIB 部隊で構成されることにした。6月1日、2,000人 以上の AMIB 部隊が国連軍として「帽子をかぶり直した」 。 2005年2月、内戦後の憲法に関する住民投票が成功裏に行われ、それ に続いて6月には自治体選挙、そして8月には内戦終結後初の大統領と してピエール・ンクルンジザが選出された。2006年6月、政府と FNL が原則合意に署名した。それが9月には停戦合意となり、国連がその実 施を支援することになった。 2007年1月1日、ONUB に代わって小規模の「国連ブルンジ統合事 務所(BINUB)」が設立された。平和の強化プロセスを支援し、また、 国家機関の強化、警察官の養成、国家防衛隊の職業化、動員解除の終了 と元戦闘員の社会復帰、人権の擁護、司法および法律部門の改革、経済 成長の促進と貧困削減の分野で政府を支援することになった。 コンゴ民主共和国 1994年のルワンダでの集団殺害と新政府の樹立 に続いて、集団殺害に加わった分子も含め、およそ120万のフツ族系ル ワンダ人難民が東ザイールのキブ州へ逃げ込んだ。それはツチ族やその 他の人々も住む地域であった。1996年、この地域で反乱が始まった。 ローラン・デジレ・カビラを指導者とするザイールのツチ族が、モブ ツ・セセ・セコ大統領の親フツ軍に対して行った反乱であった。ルワン ダとウガンダの援助を受けたカビラ軍は1997年に首都キンシャサを制圧
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し、国名をコンゴ民主共和国(DRC)と改称した。 1998年、カビラ政府に対する反乱がキブで始まった。反乱軍は数週間 のうちに国土の大部分を占拠した。アンゴラ、チャド、ケニア、ナミビ ア、ジンバブエはカビラ大統領に軍事支援を約束したが、反政府勢力は 東部地域の占拠を維持した。ルワンダとウガンダは反政府運動の「コン ゴ民主主義運動(Congolese Rally for Democracy: RCD)」を支援した。安全 保障理事会は停戦と外国軍の撤退を求め、コンゴ民主共和国の内政に干 渉しないよう国々に要請した。 1999年7月、DRC はアンゴラ、ナミビア、ルワンダ、ウガンダ、ジ ンバブエとともに、ルサカ停戦合意に署名した。同合意はコンゴ国民間 の対話の開催も規定していた。RCD とコンゴ解放運動(Mouvement de Liberation du Congo)も8月にその合意に署名した。11月、理事会は、合
意の実施を助ける国連コンゴ民主共和国ミッション(United Nations Mission in the Democratic Republic of the Congo: MONUC)を設立した。
2001年1月16日、カビラ大統領が暗殺され、息子のジョセフ・カビラ が新大統領に就任した。 4月、安全保障理事会が設置した専門家パネルは、DRC の紛争は主 に同国の豊かな鉱物資源を外国軍が手に入れようとしたことによる、と 報告した。とくに5つの主要鉱物――ダイヤモンド、銅、コバルト、金 およびコルタン(携帯電話やラップトップ・パソコンに利用される電子チッ プの材料)――は、これらの軍隊がシステマチックな方法で開発してお
り、同時に多くの企業がこれらの資源と武器の交換を行い、また武器購 入の資金を入手できるように便宜をはかっていた。コンゴ民主共和国は 宝石や木材、ウラニウムの資源も豊富である。 5月、ジョセフ・カビラ大統領は、国内の政党に対する禁止を解除す ると発表し、10月には長く待たれていたコンゴ人同士の対話がアジスア ベバで始まった。 2002年7月、コンゴ民主共和国からのルワンダ部隊の撤退および旧ル ワンダ軍とインテラハムウェの解隊に関する合意が、コンゴ民主共和国 とルワンダの両国政府によって署名された(ルワンダの項を参照)。9月、
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同様の合意がコンゴ民主共和国とウガンダとの間にも結ばれた。しかし、 10月までには、コンゴ民主共和国の東部で戦闘が再発し、全国土の安定 が脅かされた。 2002年12月、紛争当事者は、国連と南アフリカの調停のもとに、暫定 政府の樹立に合意した。安全保障理事会は、MONUC を拡大して軍事要 員を8,700人に増やした。同時にその展開を東部にまで拡大した。しかし、 間もなく南キブ地域で戦闘が再発し、大量の難民が発生した。 ついに2003年5月、当事者がイツリ地域の停戦合意に署名した。 MONUC はブニアの巡回を続け、民族間の緊張を緩和するように努め、 現地の人々の恐怖をやわらげた。民族間の残忍な権力闘争は、組織的な レイプ、殺害、心理的拷問の形として「人食いの目撃」を特徴とした。 5月30日、安全保障理事会は、9月1日までの期限で、事態の安定化を 図る暫定緊急多国籍軍(Interim Emergency Multinational Force: IEMF) の展 開を承認した。 6月29日、政府と主要な反政府勢力は、軍事・安全保障取り決めに関 する合意に署名した。7月17日、カビラ大統領が率いる権力分担の国民 統一暫定政府がキンシャサに樹立され、4人の副大統領が就任した。理 事会は MONUC の兵力を1万800人まで増強した。理事会は、国連憲章 第7章のもとに、イツリ地域と南北両キブ州で任務を果たすために、武 力を含むあらゆる必要手段を講じる権限をミッションに与えた。9月5 日、IEMF はその安全に関する責任を MONUC へ引き渡した。 46年の歴史の中で初めての自由かつ公平な選挙が2006年7月30日に行 われた。500議席の国民議会の選出が行われた。10月29日の大統領選挙 とそれに続く法律問題の解決に続き、ジョセフ・カビラ大統領の当選が 発表された。選挙の全プロセスは、国連がこれまで援助してきた選挙の 中で一番複雑な選挙の一つであった。 国連は MONUC を通して積極的に関与して、北キブ州の中で、国家 軍と元反政府勢力将軍に忠実な部隊との間の対立の解決を目指した。 2007年11月、国連は DRC とルワンダ両国政府間の合意を可能にした。 それは、元フツ族民兵(インテラハムウェ)やルワンダ軍(元 FAR)を含
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み、東 DRC にとどまる不法な国内および海外からの武装グループが地 域にもたらす脅威を取り除くものであった。 中央アフリカ共和国 中央アフリカの紛争は、軍隊が1990年半ばに 一連の反乱を起こしたことによって発生した。元宗主国であるフランス の部隊、そして後にはアフリカ多国籍軍(MISAB)による介入に続き、 国 連は、1998年、 「国連中央アフリカ共和国ミッション(United Nations Mission for the Central African Republic: MINURCA) 」を設立した。首都バン
ギの治安を改善する任務を持った平和維持活動である。その後、国連は 選挙支援も行った。選挙は翌年行われた。2000年2月、MINURCA の撤 退を受けて、 「国連中央アフリカ共和国平和構築事務所(United Nations Peacebuilding Office in the Central African Republic: BONUCA)」が設置された。
しかし、不穏な状態が続いた。2001年5月、軍の将校によるクーデ ターが試みられたが、鎮圧された。2年後の2003年3月、フランソワ・ ボジゼ将軍がクーデターを起こして選挙によって選ばれたアンジュ・ フェリクス・パタセを追い出し、力によって権力の座に就いた。安全保 障理事会はクーデターを非難し、バンギ当局は早期選挙のための日程を 含め、国民対話の計画を作成しなければならない、と強調した。 6月の終わりまでに、国連事務総長は、新政権は国民対話のプロセス を想定していると報告した。それに続いて2005年3月に議会選挙、5月 には大統領選挙が行われた。最後の決選投票でボジゼ将軍が投票の64.6 パーセントを獲得して大統領に選ばれた。新しい国民議会は最初の通常 会期を2006年3月1日から5月30日まで開催した。 大湖地域に関する国際会議 大湖周辺諸国を巻き込んだ紛争の重要 な地域的側面に考慮し、安全保障理事会は、大湖地域に関する国際会議 の開催を呼びかけた。1994年にルワンダで集団殺害が行われたことも考 慮された。1990年代の終わりに大湖事務総長特別代表事務所が設置され た。同事務所はまた、アフリカ連合とともに、国際会議の合同事務局と なることになった。第1回大湖地域に関する国際会議は2004年11月にタ ンザニアのダルエスサラームで開催された。 2006年12月に再び開かれ、会議に参加した11カ国首脳は「大湖地域に
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おける安全、安定および開発に関する協定」に署名した。これによって 4年間にわたって続けられた外交プロセスが終了した。協定は11署名国、 すなわちアンゴラ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コンゴ、コンゴ民 主共和国、ケニア、ルワンダ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザン ビアの11カ国が、大湖地域が直面する重要な問題を集団で明らかにし、 その対応策を策定するための枠組みを規定したものである。 同時に地域の政治的フォローアップ・メカニズム、事務局長率いる事 務局(ブルンジのブジュンブラに設置)、復興開発特別基金が設置された。 2007年3月、安全保障理事会は、プロセスの主宰を地域諸国へ移し、大 湖地域特別代表の任務を終わらせた。 西アフリカ 西アフリカ事務総長特別代表事務所(Office of the Special Representative of the Secretary General for West Africa: UNOWA) (www.un.org/unowa) 国連
の機関間ミッションが2001年3月に西アフリカの11カ国を訪問した。 ミッションは、西アフリカ諸国が直面する重大かつ相互関連の政治的、 経済的、社会的問題は、国連とそのパートナーが参加する統合された小 地域戦略を通して解決すべきである、と勧告した。2001年11月、事務総 長は、そうした統合的アプローチを促進するために西アフリカ事務総長 特別代表事務所を設置することを決めた。事務所はセネガルのダカール におかれ、2002年9月に活動を開始した。 UNOWA は世界で最初の国連の地域平和構築事務所である。事務所は、 西アフリカ諸国においてあっせんの役割や特別の任務を果たし、小地域 機関との連絡を行い、小地域に重要な意味を持つ事態の動きについて国 連本部へ報告する。特別代表は、コートジボアールやリベリアなど、こ の地域の紛争の国際的解決に深くかかわってきた。 特別代表はまた、カメルーン・ナイジェリア混成委員会(Cameroon Nigeria Mixed Commission) の議長もかねている。これは、ナイジェリア、
カメルーン両国大統領の要請で事務総長が設置した委員会で、両国間の 国境に関して国際司法裁判所が行った判決を実施する際に生じるさまざ
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まな側面を取り上げることになっている。 カメルーンとナイジェリアの間には、チャド湖からバカシ湾に伸びる 全長1,600キロの陸上境界線に関する問題でしばらくの間緊張が高まっ ていた。海上境界線はギニア湾を通っていた。陸海の豊かな石油資源に 対する利権や現地住民の運命を左右する問題が含まれていた。ナイジェ リアは1,000平方キロのバカシ湾に軍事要員を展開させたことから、 1993年末には緊張は軍事対決にまで高まった。1994年、カメルーンは国 境紛争を国際司法裁判所に訴えた。 2002年10月10日、司法裁判所は判決を下し、混成委員会は12月に最初 の会合を開いた。その後は2カ月ごとに、カメルーンのヤウンデとナイ ジェリアのアブジャで交互に開かれた。その後華々しい成果がなかった が、2006年6月12日になって、事務総長の集中的な調停を受けて、両国 の大統領がバカシ半島に関する国境紛争を終わらせる協定に署名するに 至った。8月14日までにナイジェリアは部隊を完全に撤退させ、地域に 関する権限を正式にカメルーンへ移譲した。10月、事務総長は、混成委 員会の監視の下に共通の国境線の画定について着実な進歩が見られる、 との報告を行った。 コートジボアール 1999年12月、ロベール・ゲイが率いる将兵グ ループが、コートジボアール政府を転覆させた。2000年10月に新たな大 統 領 選 挙 が 予 定 さ れ た。 イ ボ ワ ー ル 人 民 戦 線(Front Populaire Ivorien: FPI)の党首ローラン・バグボに比べ自分の得票数が伸びないことを知っ
た ゲ イは、10月23日、一方的に勝利宣言を行った。共和主義者連合 (Rassemblement Democratique des Republicains: RDR)党首のアラサン・ウア
タラは、新しい、問題の多い憲法の規定によって選挙への立候補資格は 認められなかった。 アビジャンで何千人もの人々がゲイの行動に抗議してデモを行ったこ とから、バグボは自分が大統領だと宣言し、ゲイはアビジャンから逃亡 した。首都ではバグボ支持者、ウアタラ支持者、治安部隊の間で暴力的 な衝突が何回となく繰り返された。数百人に及ぶ人々が死んだ。事務総 長が後に設置した独立の調査委員会は、治安部隊がデモ隊の鎮圧に責任
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があり、殺害にかかわっていたとの結論を発表した。 セイドゥ・ガディアラ元首相の議長の下に国民和解のプロセスが始ま り、2002年8月、バグボ大統領は新しい、広く国民を代表する政府を樹 立した。しかし、緊張は続いた。そして9月19日、政府の政策を不服と する軍人がクーデターを起こし、国の北部を占拠した。このクーデター によって国は事実上分割されてしまった。政府は南部を支配し、反乱グ ループは北部と北東部を支配、別の2グループが西部を支配した。戦闘 によって多くの避難民が発生した。 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は平和維持軍を設立し、政府 と反政府勢力の一つが合意した停戦合意を監視するために展開された。 2003年1月11日、政府と残りの反政府グループとが停戦に合意した。 2003年1月15日から23日まで、政府と非政府軍はフランスのリナ・マ ルクーシで会談し、国民和解政府の樹立を決めた和平合意が達成された。 この合意を受けて、バグボ大統領は3月13日に国民和解政府を樹立し、 セイドゥ・ディアラは拡大された権限を持つ首相に任命された。5月3 Ivoire: 日、 「 コ ー ト ジ ボ ア ー ル 国 民 軍(Forces armies nationals de Cote d’ FANCI) 」と「新勢力(Forces Nouvelles)」――3つの反政府勢力で構成
――は全国土を対象とした停戦合意に署名した。 2003年5月13日、安全保障理事会は、国連コートジボアール・ミッ Ivoire: MINUCI)を設立した。76人 ション(United Nations Mission in Cote d’
の軍事連絡将校と文民部門で構成され、リナ・マルクーシ合意の実施を 助けることを任務とした。しかし、9月、 「新勢力」は、バグボが任命 した防衛相と国内治安担当相を拒否し、政府から引き上げた。また、バ グボ大統領は十分な権限を首相や国民和解政府に与えていないと抗議し た。再び緊張が高まった。 こうした状況に応えて、安全保障理事会は2004年2月27日、国連コー Ivoire: UNOCI)を4月 トジボアール活動(United Nations Operation in Cote d’
4日付で設立し、MINUCI と ECOWAS 軍の権限を UNOCI に移譲する よう事務総長に要請した。フランス軍は UNOCI を支援するに当たって は、必要なあらゆる手段をとることが認められた。UNOCI の承認され
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た最大兵力は、6,240人の軍事要員で、幅広い任務が与えられた。 事態は問題があるものの、好転の兆しが見られた。2005年4月、政府 と反政府グループの「新勢力」は両者間の前線から武器の撤去を開始し た。この地帯は UNOCI の平和維持要員と国連承認のフランス軍の監視 の下に置かれていた。6月、安全保障理事会は UNOCI を拡大し、同国 の情勢悪化を防止する任務を与えた。2005年10月、バグボ大統領は、ア フリカ連合が提案し、理事会が支持した強力な新暫定首相の任命に同意 した。 これは大きな突破口となった。バグボ大統領とギョーム・ソロ「新勢 力」事務局長は2007年3月4日に「ワガドゥグ合意」に署名した。合意 は、新暫定政府の樹立、自由かつ公正は大統領選挙、「新勢力」と国家 防衛治安部隊との統合、民兵の解隊、元戦闘員の武装解除、政府支配の 南部と反政府勢力支配の北部を分断するいわゆる信頼地帯を UNOCI が 監視するグリーン・ラインに代えることなどを求めた。 ソロ氏は首相となり、大統領選挙が行われるまでその座にあるが、大 統領選には出馬しないことになった。7月30日、武装解除のプロセスが 正式に始まった。その式典にはバグボ大統領とソロ首相がともに出席し、 返還された武器に火をつけた。11月、国内の主要政党が来るべき総選挙 のための善行規範を採択した。 リベリア 8年に及ぶ内戦の後の1997年、民主的に選ばれた政府が リベリアに樹立され、国連リベリア平和構築支援事務所(United Nations Peacebuilding Support Office in Liberia: UNOL)が設立された。しかし、1999
年、政府軍と「リベリア和解民主連合(Liberians United for Reconciliation and Democracy: LURD) 」との間に戦闘が始まった。2003年早々には西部
地域に新たな武装勢力、 「リベリア民主運動(Movement for Democracy in Liberia: MODEL) 」が生まれた。5月までに、反政府勢力は国土の60パー
セントを支配するまでになった。 6月4日、ECOWAS 主催の和平会談に出席するために当事者がガー ナのアクラに集まった。その場で国連支援のシエラレオネ特別裁判所は、 10年に及ぶ内戦におけるシエラレオネの戦争犯罪としてテイラー大統領
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を起訴したと発表した。テイラー大統領は和平プロセスから身を引いて もいいとのべた。2週間足らずで政府、LURD、MODEL は停戦合意に 署名した。それは、包括和平合意に達するために30日以内に対話を始め ることと、テイラー大統領を除く移行政府の樹立を求めたものであった。 しかし戦闘が続き、7月23日、反政府勢力はモンロビアに臼砲による 猛攻撃を加え、飢え、恐怖に駆られた何百人もの難民が安全を求めて国 連の敷地内になだれ込んだ。ECOWAS は先遣隊として1,000人から1,500 人の部隊を送ることに決めた。その到着を待って、アメリカと他の国々 の増援部隊が移動し、国連ミッション受け入れの準備をすることになっ た。 8月1日、安全保障理事会は、ECOWAS 多国籍軍を承認した。3日 後、国連は、2大隊の最初の大隊をリベリアの主要空港へ送った。戦闘 の小康状態を利用して、国連と他の救援機関は、戦争のために荒廃した モンロビアにあふれている何十万人もの絶望的な人々に食糧や医薬品を 届けた。 テイラー大統領は8月11日に辞任し、ナイジェリアに亡命した。副大 統領のモーゼス・ブラーが後を引き継ぎ、暫定政府の首班となった。数 日後、事務総長特別代表は、人道援助がその支配下にあるすべての地域 へ自由かつ妨害なくアクセスできるようにし、かつ国際援助要員の安全 を保証するとの署名合意を関係当事者から受け取った。彼らはまた、包 括的和平合意にも署名した。 2003年9月19日、安全保障理事会は、国連リベリア・ミッション (United Nations Mission in Liberia: UNMIL) を設立した。最大15,000人の軍
事要員と1,000人以上の文民警察官で構成され、10月1日に ECOWAS 軍 から任務を引き継ぎ、UNOL に取って代わることになった。その任務は、 停戦を監視すること、すべての戦闘員の DDRR、すなわち武装解除、動 員解除、社会復帰、帰還を援助すること、主要な政府施設や不可欠のイ ンフラの安全を確保すること、国連スタッフ、施設、文民を保護するこ と、人道援助や人権を援助すること、などであった。UNMIL はまた、 移行政府がその組織を堅固にする戦略を進め、2005年10月までに自由か
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つ公正な選挙を実施できるように支援することもその任務とされた。 予定通り、3,500人の ECOWAS 兵士は、帽子を国連のブルー・ヘル メットに変えた。2週間もしないうちに、当事者はモンロビアを「武器 のない地帯」と宣言した。10月14日、ジュデ・ブライアント議長が率い るリベリア移行政府が発足した。10月17日、ブラー元大統領は大量の武 器を国連平和維持要員に引き渡し、 「もう戦いは望まない」と言明した。 DDRR は12月1日に始まった。その後の12カ月間にわたって、10万 人近くのリベリア人が武器や弾薬、携行式ロケット弾、その他の武器を 引き渡した。2004年11月3日、リベリアの戦闘民兵はモンロビアの UNMIL 本部で行われた式典で正式に解隊された。2006年2月までに、 30万人以上の国内避難のリベリア人が自分たちの故郷の村へ帰った。 15年も続いた紛争の後に、リベリア国民は紛争後初めての選挙を行っ た。投票者の数は2005年10月12日には多大な数となり、そしてその後に 二人の対決者同士の決選投票で、エレン・ジョンソン=サーリーフが大 統領に選出された。59.4パーセントの得票であった。彼女は2006年1月 16日に就任し、自国の傷を癒すため「真実・和解委員会」を設立した。 まだ大きな課題が残るものの、リベリアは平和な国家に向かって着実 に進んでいる。それを受けて、理事会は、2007年9月20日、いろいろな ステージで活動する UNMIL のプレゼンスを縮小するとの潘基文事務総 長の提案を支持した。現在の1万5,200万人の軍事・警察要員を2010年 末までに9,750人に削減するというものであった。10月4日、事務総長は、 リベリアは国連平和構築基金援助の資格があると発表した。 ギニアビサウ ギニアビサウでは戦闘の期間が終わり、1999年2月、 国民統一政府が発足した。3月、国連は国連ギニアビサウ平和構築支援 (United Nations Peacebuilding Support Office in Guinea Bissau: UNOGBIS) 事務所
を設置した。平和と民主主義、法の支配を回復し、堅固にするための環 境を作り出し、自由かつ透明な選挙の組織を容易にするためであった。 しかし、5月、和平合意は破られ、反政府部隊はジョアン・ベルナル ド・ビエイラ大統領を追い出した。1999年11月と2000年1月の議会選挙、 大統領選挙に続き、暫定政府に代わって、クンバ・ヤラ新大統領のもと
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に文民政府が発足した。 UNOGBIS は移行期の新政府への援助を続けたが、国内の政情が不安 定なため平和の強化と経済復興は進まなかった。その結果、援助国もそ の援助を制限するようになり、社会的な緊張が高まった。2002年11月、 ヤラ大統領は国民議会を解散し、新たに次期政府成立までの「管理政 府」を発足させた。2003年5月に予定された議会選挙は、繰り返し延期 された。ついに2003年9月14日、彼は無血クーデターによって追放され た。 数カ月後、事務総長は安全保障理事会に報告し、民主的な選挙によっ て選ばれた大統領の解任は非難に値するにしても、解任は憲法上の規範 が繰り返し侵害されたために行われた、と述べた。軍事クーデターは 「耐えられない状況の結果」だったと述べ、紛争後の国の民主的に選ば れた政府が基本的な統治の原則から逸脱するのを防ぐ方法を勧告するよ う国際社会に要請した。 9月28日、政治的な暫定憲章が軍と政党と認められた24の政党のうち の23の政党によって署名された。それは、文民の暫定大統領と首相によ る民政の暫定政府、6カ月以内の議会選挙の実施、新しい代理人の宣誓 による就任後1年以内の大統領選挙の実施、を規定していた。10月6日、 すべての暫定機構が正常となり、経済学者かつ実業家のエンリケ・ペレ イラ・ローザが暫定大統領に宣誓就任した。 2004年3月、議会選挙が行われ、国際監視要員によって自由、公正か つ透明な選挙であったと認められた。2005年6月と9月、2回の平和的 な投票によってジョアン・ベルナルド・ニーノ・ビエイラが大統領に選 ばれた。しかし党の方針についての政治的緊張が続き、国民和解と主要 な政府機関の効果的な機能を困難にした。それでも、3つの主要政党が 署名した国家政治安定合意によって、マルティノ・ダファ・カビ首相に よる政権が2007年4月17日に成立した。潘基文事務総長は2008年に予定 される議会選挙の組織と監視を支援すると約束した。 シエラレオネ 1991年、革命統一戦線(RUF)が、シエラレオネ政 府の打倒を目指して戦いをしかけたが、1992年にシエラレオネ軍自体が
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政府を倒してしまった。1995年、事務総長は特使を任命した。事務総長 特使は、OAU と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)と共同歩調を取 りながら、紛争の解決と民政への復帰について交渉した。1996年に選挙 が行われ、軍は勝者であるアフマド・テジャン・カバーへ権限を移譲し た。RUF はこの選挙に参加しなかった。事務総長特使は、政府と RUF との間の1996年アビジャン和平合意の交渉に力を貸した。しかし、1997 年に別の軍事クーデターがあり、軍隊は RUF に参加し、新政権樹立ま での一時的な政府、 「ジャンタ」を樹立した。カバー大統領は亡命した。 安全保障理事会は石油と武器の禁輸を科し、同時に ECOWAS 監視団の 軍隊 ECOMOG を利用して、禁輸を実施する権限を ECOWAS に与えた。 1998年、ジャンタ支持者が ECOMOG を攻撃したが、その反撃によっ てジャンタは崩壊した。カバー大統領は復権し、安全保障理事会は禁輸 措置を解除した。6月、理事会は、治安と戦闘員の武装解除、治安部隊 の再編成を監視する「国連シエラレオネ監視団(United Nations Observer Mission in Sierra Leone: UNOMSIL) 」を設立した。UNOMSIL は非武装で
あったが ECOMOG の保護を受けて活動し、一般市民に対する残虐行為 や人権侵害があったことが実証された。 反政府同盟は間もなく国土の半分以上を支配下に収め、1999年1月に は、首都フリータウンのほとんどを制圧した。その月の後半、ECOMOG 部隊がフリータウンを再び奪還し、民政政府を再度樹立された。 この戦闘によって70万人の国内避難民と45万人が難民が生まれた。特別 代表は、西アフリカ諸国との協議のもとに、反政府勢力との対話を求め て外交活動を開始した。これらの交渉の結果、戦争を終わらせ、国民統 一の政府樹立を決めたロメ和平合意が7月に成立した。 安全保障理事会は10月に、UNOMSIL をもっと規模の大きな平和維持 活動、「国連シエラレオネ・ミッション(United Nations Mission in Sierra Leone: UNAMSIL) 」に代えるとともに、合意の実施とおよそ4万5,000人
の戦闘員の武装解除、動員解除、社会復帰を援助させることにした。 2000年2月、ECOMOG 部隊の撤退が発表されたことを受けて、理事会 は UNAMSIL の兵力を1万1,000人に増強した。しかし、4月になって
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元戦闘員が武装解除のために出てきた後に RUF が国連部隊を攻撃し、 4人の国連平和維持要員が殺され、500人近くの国連要員が RUF の人質 となった。 5月、英国部隊は、シエラレオネ政府との2国間協定に基づいて、首 都と空港を確保した。英国部隊はまた、RUF 指導者のフォデー・サン コウを捕らえるのを助け、彼は警官によって逮捕された。その月の終わ りまでに国連の人質のおよそ半数が釈放された。安全保障理事会は、国 内の平和の回復を助けるために UNAMSIL の兵力を1万3,000人に増強 した。7月、UNAMSIL は残りの人質を救出した。安全保障理事会は8 月、戦争犯罪の容疑者を裁く特別裁判所を設置する作業を開始した。 UNAMSIL は2001年11月には全国的な展開を完了し、1月には武装解 除も完了した。2002年5月の大統領選挙と議会選挙に続いて、UNAMSIL は、政府が平和を確実なものにすることができるように、政府の権 限を全国土に拡大し、元戦闘員の社会復帰を容易にし、国内の避難民や 帰還難民の定住を支援した。国内避難民の再定住は2002年12月に終了し、 およそ28万人のシエラレオネ難民の帰還は2004年7月に完了した。真実 和解委員会とシエラレオネ特別裁判所は、2002年半ばに活動を開始した。 UNAMSIL は3年間にわたって部隊の段階的削減を行い、2005年12月 に完全撤退した。そのとき、国内には安定しているとの感覚があり、ま た基本的サービスも改善されていた。2006年1月、UNAMSIL に代わっ て国連シエラレオネ統合事務所 (UN Integrated Office in Sierra Leone: UNIOSIL)が設立された。これは平和強化プロセスを支援するために設
立された最初の統合事務所であった(www.uniosil.org を参照)。 2006年4月、チャールズ・ティラー元リベリア大統領が戦争犯罪、人 道に対する罪、その他の違反行為など、訴因10項目について答弁するた めに特別裁判所に出廷した。6月、安全保障理事会は、テイラーをハー グで裁判するとの特別裁判所の要請を承認した。これは、彼のプレゼン スが「リベリアとシエラレオネの平和への脅威」となるとの理由であっ た。公判は2007年6月4日に始まったが、その後2008年1月まで延期と なった。有罪となれば、テイラーはイギリスで拘禁されることになる。
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シエラレオネの開発は、新しく設立された平和構築委員会がその最初 の活動報告で指摘しているように、ブルンジとともに大躍進を遂げた。 2007年3月1日、同委員会の勧告に基づいて、潘基文事務総長は国連平 和構築基金か3,500万ドルをシエラレオネに提供した。同基金は、紛争 から立ち直った国が平和を構築し、流血の再発を回避できるように援助 する目的で前年の10月に設立されたものである。 2007年6月20日、国連支援の特別裁判所は最初の評決を発表した。3 人の元反政府勢力指導者が戦争犯罪や人道に対する罪など、複数の訴因 によって有罪とされた。その中にはテロ行為、殺害、レイプ、15歳以下 の子どもたちの奴隷化や武装グループへの徴兵などが含まれた。ついで 彼らは45年から50年の禁固刑の判決を受けた。 7月10日、シエラレオネの大統領選挙と議会選挙の選挙運動が始まっ た。UNIOSIL はその参加として、投票や集計手続きに関する49人の地 区担当官を対象に研修を実施した。そこで学んだことは3万7,000人の 投票担当官に伝えられる。8月11日、投票は一般に平和裏に行われ、投 票率も高かった。大統領選挙決選投票で、全人民会議党のアーネスト・ バイ・コロマが54.6パーセントの得票で大統領に選出され、11月15日、 大統領に就任した。 東アフリカ スーダンとダルフール危機 スーダンは1956年1月1日の独立以来、 11年間を例外に、常に内戦の継続に耐えてきた。1983年に始まった段階 では、政府と南部の主要な反政府運動である「スーダン人民解放運動・ 軍」が資源や権力、国家における宗教の役割、自決の問題について戦っ ていた。 国連が支援した「政府間開発機構(IGAD)」が2002年にはじめたイニ シアチブによって、ケニアのマチャコスにおいて「マチャコス議定書」 の署名が行われた。2004年、 「アフリカ連合スーダン・ミッション(African Union Mission in the Sudan: AMIS)」が監視団として展開され、和平活動の
受け入れを準備する目的で国連スーダン先遣隊(United Nations Advance
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Mission in the Sudan: UNAMIS)が設立された。
2005年1月9日に南北包括和平合意(Comprehensive Peace Agreement: CPA)が署名されるまでに、200万人以上の人々が死に、400万の人々が
避難を余儀なくされ、およそ60万の人々が国外へ逃亡した。CPA は治 安の取り決め、首都での権力の配分、南部のある程度の自治、そして石 油資源も含め、経済資源のより公平な分配について決めていた。その規 定の下に、暫定機構が、国際監視団の監視を受けながら、6年半の統治 を行う。ついで、国連監視による住民投票を行って、南部スーダンの 人々がスーダンとの統合もしくは分離を決めることになっていた。 2005年3月24日、安全保障理事会は、国連スーダン・ミッション (United Nations Mission in the Sudan: UNMIS) を 設 立 し た。 そ の 任 務 は、
CPA の実施を支援し、人道的援助や難民、国内避難民の任意の帰還を 助け、かつその調整を図り、地雷除去について当事者を援助することで あった。また、人権の擁護と促進を行い、とくに弱者に特別の注意を払 いながら、文民を保護することも求められた。 同じ時期、アフリカ連合は AMIS を増強し、承認された兵力を6,171 人の軍事要員と1,560人の文民警察にすることに決めた。これは、 「より 安全な環境と信頼醸成措置を促進し、同時に文民と人道活動を保護す る」ためであった。 2005年9月、国民統一政府が樹立された。当事者は CPA の規定を尊 重しているものの、協力の精神、包括性、透明性は期待されたほど高く はなかった。ダルフール危機の継続もその実施に直接の悪い影響を与え ていた。 ダルフールのおける国連の役割 民族的、経済的、政治的緊張が少 ない資源に対する争いと結びつき、ダルフールでの暴力にさらに油を注 ぐことになった。2003年、政府は、スーダン解放運動(Sudan Liberation Movement/Army: SLA/A)と「正義と平等運動(Justice and Equality Movement: JEM) 」からの攻撃に対して、国軍を展開し、かつ現地の民兵を動員す
ると決定した。この決定によって暴力が未曾有のレベルまで高まった。 スーダン軍による無差別空爆やアラブ系遊牧民民兵組織ジャンジャ
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ウィードやその他の民兵による攻撃で、地域の村落は跡形もなく破壊さ れてしまった。一般市民が殺害され、女性や少女は強姦され、子どもた ちは誘拐され、食糧や井戸が破壊された。 2004年7月、アフリカ連合(AU) は、アブジャでスーダン国内の和 平会談で交渉を開始した。同時に、60人の軍事監視員と310人の保護部 隊をダルフールへ派遣し、4月に政府、SLM/A、JEM が署名した人道 的停戦合意の実施を監視させた。他方、国連と非政府組織は大規模な人 道活動を開始した。 2005年1月、安全保障理事会の要請によって設置された調査委員会は、 スーダン政府はダルフールで集団殺害政策を進めはしなかったが、その 軍隊やその民兵組織ジャンジャウィードは「一般市民の殺害、拷問、強 制的行方不明、村落の破壊、レイプやその他の性的暴力、略奪、強制退 去などを含め、無差別攻撃」を行った、と報告した。戦争犯罪や人道に 対する罪は集団殺害よりは悪質だとは言えないが、ダルフールの反政府 勢力は略奪や一般市民の殺害など、戦争犯罪とも言える行為に対して責 任を有すると結論した。 理事会は、ダルフールに関する委員会の調査書類を国連刑事裁判所 (International Criminal Court)へ送った。裁判所は2007年6月7日、戦争犯
罪と人道に反する罪として51件の訴因を持って二人の逮捕を要請した。 3年にわたる激しい内戦の後に、アフリカ連合の努力によって、2006 年5月5日、ダルフール和平合意(Darfur Peace Agreement)が署名された。 これは権力の配分、富の配分、包括的停戦、治安取り決めを取り上げた ものであった。全紛争当事者が出席したが、合意に署名したのは政府と SLM/A だけであった。 2006年8月31日、理事会は決議1706を採択し、UNMIS の任務を拡大 してダルフールへの展開を可能にし、スーダン国民統一政府の同意を求 めた。残念なことに、その決議に対する政府の方針は「非常に消極的」 だと、事務総長は9月に報告した。 11月、スーダン政府は、国連・AU 合同スーダン・ミッションの設立 に対して原則的に支持を表明した。数カ月に及ぶ交渉を経て、2007年7
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月31日、 安 全 保 障 理 事 会 は「 ダ ル フ ー ル 国 連・AU 合 同 ミ ッ シ ョ ン (African Union United Nations Hybrid Operation in Darfur: UNAMID)」を設立し、
ダルフール情勢を包括的に取り上げさせることにした。これは、国連が 関与する初の合同部隊で、これまでで最大の国連平和維持活動となった。 8月28日、潘基文国連事務総長はスーダン、チャド、リビアを早期に 歴訪すると発表した。これは、UNAMID 平和維持部隊の早期かつ効果 的展開を図り、人道的援助と開発援助の提供、和平交渉の弾みの維持を 助けることを目的としたものであった。「私の目標はこれまで行われた 進歩を固定し、この恐ろしいトラウマをいつか終わらせる」ことである、 と事務総長が述べた。 3週間後の9月25日、安全保障理事会は、欧州連合と共同で、チャド と中央アフリカ共和国に多面的なプレゼンスを設立することを承認した。 「国連中央アフリカ・チャド・ミッション(MINURCAT)」を含むプレゼ ンスであった。スーダン、チャド、中央アフリカ共和国間の国境周辺の 事態は国際の平和と安全への脅威を構成すると決定し、理事会は、難民 や避難民の自発的、安全かつ持続可能な帰還へ導くような治安状態を作 り出す目的でその決定を行った。 それより前の2007年1月、事務総長は元スウェーデン外相で総会議長 も勤めたヤン・エリアソンをダルフール事務総長特使に任命した。政治 的プロセスを活性化し、ダルフール紛争の平和的解決をもたらすためで あった。 任命を受けて、エリアソン氏は、サリム・アメド・サリム博士アフリ カ連合ダルフール特使とともに、新たな交渉の土台を準備した。二人は 政府関係者、各種の反政府勢力、地域の主体、その他の主要な利害関係 者と協議し、和平会談が包括的で、かつダルフール紛争の影響を受けた 人々の真の苦しみを取り除く合意となるように努めた。交渉は2007年10 月27日に始まり、2008年にも続けれらることになった。 ソマリア 1991年にシアド・バレ大統領の政権が打倒され、内戦状 態に突入して以来、680万のソマリア人は無政府状態の中で生活してき た。国土は敵対する部族の領地に分割され、国連の禁輸に違反して武器
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ダルフール国連・アフリカ連合合同ミッション 国連初の合同平和維持ミッション 2007年初めまでに、スーダンのダルフール地域の紛争によって、戦争 犯罪や人道に対する罪があったといわれるような状況の下で、20万以上 の人々が殺され、250万人以上が住む場所を失った。 国際刑事裁判所がこの問題の取り組みを始めたことを受けて、安全保 障理事会は、2007年7月31日、国連が参加する始めての合同部隊を設立 した。 「ダルフール国連・アフリカ連合合同ミッション(African Union United Nations Hybrid Operation in Darfur: UNAMID)である。それは国連 部隊と元アフリカ連合スーダン・ミッション(AMIS)を統合して、紛 争地域に平和をもたらす新たな包括的活動にするものである。 完全に展開されると、UNAMID はこれまでなかった最大規模の平和 維持活動となる。1万9,555名の軍事要員、3,772名の警察要員、それに 各組織最大140名からなる19の武装警察組織(合計2,660名)で構成され る。展開を急いでいるのは、できるだけ早期に、遅くとも2007年末まで に AMIS から UNAMID への権限を移譲し、その後できるだけ早く完全 な作戦能力と兵力を達成できるようにするためである。その任務は以下 の通りである。 ・ダルフール全土への人道援助アクセスを容易にする。 ・大きな暴力の脅威の下にある文民を保護する。 ・諸停戦合意の順守を検証する。 ・ダルフール和平合意の実施を助ける。 ・政治プロセスが包括的なものになるようにする。 ・和平プロセスを拡大、強化する国連−AU の調停を支援する。 ・経済復興と開発、および国内避難民や難民の持続可能な帰還のための 環境確保に貢献する。 ・ダルフールにおける人権と基本的自由の尊重と保護を促進する。 ・独立した司法と刑務所制度の強化に対する支援も含め、ダルフールに おいて法の支配を促進する。 ・スーダン当局とともに、法的枠組みの発展を助ける。 ・チャドおよび中央アフリカ共和国との国境の治安情勢について監視、 報告する。
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や弾薬、爆発物が国境を越えて自由に持ち込まれた。 事務総長開催の会談によって首都モガディシュで停戦が成立したとき、 安全保障理事会は、1992年4月、 「国連ソマリア活動(UNOSOM I)」を 設立し、停戦を監視すること、国連要員、装備、備品の保護と安全を提 供すること、人道援助の輸送を護衛することをその任務とした。しかし、 治安状態が悪化したことから、理事会は12月、人道援助の安全な輸送を 確保するために、 「統一タスク・フォース(UNITAF)」を設立する権限 を加盟国に与えた。1993年3月、理事会は UNOSOM II を設立して、平 和回復の UNITAF の努力を終了させることにした。しかし部族間の闘 争がエスカレートし、もはや守るべき平和がないことが確認された。 UNOSOM II は1995年3月に撤退した。 事務総長は4月に国連ソマリア政治事務所(UN Political Office for Somalia: UNPOS)を設置した。UNPOS は、ソマリア指導者、市民団体、関心あ
る国家や機関との接触を通して平和と和解を進められるように事務総長 を助ける。UNPOS はジブチのイニシアチブを支援した。そのイニシア チブによって2000年に「暫定国民政府」が樹立されたが、その権限につ いて南部のソマリア指導者や北東部の「プントランド」における地域政 権、北西部の「ソマリランド」が反対した。 註――― *「ソマリランド」は1991年に自ら独立共和国を宣言したが、国際社 会はこの自ら宣言した地位を承認していない。「プントランド」は自 治を宣言したが、独立は宣言していない。 「ソマリランド」と「プン トランド」の間には強いライバル意識がある。
2002年、政府間開発機構(IGAD) 主催の国民和解会議が開かれ、敵 対行為の停止と国民和解プロセスを規制する構造と原則に関する合意が 生まれた。そのプロセスが2004年1月に実を結び、ソマリアの指導者は 5年の期限で「暫定連邦政府」と275人の議員を持つ「暫定連邦議会」 に合意した。議員のうち、12パーセントを女性とした。 「プントランド」大統領のアブドゥラヒ・ユスフ・アーメドが2004年 10月にソマリア暫定連邦政府(TFG)の大統領に選出された。25人の大
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統領候補全員が彼を支持し、それぞれがその民兵の武装解除を行うと約 束した。しかし、2006年5月までには「平和の回復と反テロリズムのた めの同盟(Alliance for the Restoration of Peace and Counter Terrorism)とシャ リア法廷の重装備の民兵がモガディシュで戦闘状態に入った。 2006年6月、TFG と「イスラム法廷連合」が相互承認、対話の継続、 緊張を高める行動の自制を誓った。しかし、7月11日、事務総長特別代 表は、イスラム法廷の強硬派が和平プロセス、とくにバイドアに拠点を 置く暫定連邦機構にとって脅威となっているとのべた。7月20日、イス ラム法廷に忠実な勢力がバイドアからおよそ60キロの町まで前進した。 12月6日、安全保障理事会は、ソマリアで保護・訓練ミッションを設 立する権限を IGAD とアフリカ連合全加盟国に与えた。その任務には、 当事者による合意実施の進捗状態を監視すること、バイドアの治安を維 持すること、暫定連邦機構と政府のメンバーとインフラを保護すること、 自身の安全を守るための治安部隊の訓練をすること、ソマリア国家治安 部隊の再設立を支援することなどが含まれた。 モガディシュの激しい戦闘を避けて何十万人もの人々が逃げ出したこ とから、安全保障理事会は2007年2月20日、最初6カ月に限って、 「ア フリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)」として知られるより広 い活動を行う権限をアフリカ連合に与えた。AMISOM は、IGAD ミッ ションに代わるもので、任務遂行のために必要なあらゆる措置を採る権 限を与えられ、対話および国民和解のプロセスに係わる人々の安全な通 過と保護を支援し、暫定連邦機構を保護し、包括的なソマリア治安部隊 の再編成と訓練を行い、人道的援助の提供のための治安を確保すること になった。 8月20日、理事会は AMISOM の駐留期限をさらに6カ月延長し、国 連の活動をいつでもできるような対応計画を続けることを承認した。し かし、11月、潘基文事務総長は、政治情勢や治安情勢が著しく悪化して いることから、そうしたミッションの派遣は実際的でも実行可能でもな い、と報告した。他方、国連は引き続き TFG と反対勢力との間の対話 を奨励することや AMISOM の強化に力を入れてゆくことにした。
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人道的情勢に関しては、UNHCR が、最近の武力衝突で100万人が避 難民となり、そのうちの60万人がモガディシュから逃げ出した、と報告 した(UNPOS ホームページ、www.un-somalia.or を参照)。 エチオピアとエリトリア 1991年にエチオピアの軍事政権が崩壊す s Liberation Front: EPLF) ると、 「エリトリア人民解放戦線(Eritrean People’ 」
は暫定政府の樹立とエチオピアとの関係に対するエリトリア人民の願望 を決める住民投票を行うと発表した。住民投票委員会からの要請に応え て、総会は「国連エリトリア住民投票検証監視団(United Nations Observer Mission to Verify the Referendum in Eritrea: UNOVER)」を設立し、1993年の住
民投票の組織と実施を監視させることにした。有権者の99パーセントが 独立を支持し、その後間もなくエリトリアは独立宣言を行い、国連に加 盟した。 1998年5月、紛争中の国境地帯を巡ってエチオピアとエリトリアとの 間に戦闘が始まった。安全保障理事会は敵対行為の停止を要求し、国境 の画定と境界線について技術的な支援を申し出た。2000年6月、OAU 主催のもとに行われた近距離交渉に続き、敵対行為の停止に関する合意 がアルジェで行われた。 休戦協定の実施を助けるために、安全保障理事会は7月、 「国連エチ オ ピ ア・ エリトリ ア・ミッシ ョン(United Nations Mission in Ethiopia and Eritrea: UNMEE)」を設置し、それぞれの首都に連絡将校を展開させた。
国境地帯には軍事監視要員が展開された。9月、理事会は敵対行為の停 止を監視し、両国が合意した安全保障についてのコミットメントを順守 させるために、4,420人の軍事要員を展開させることを承認した。 平和維持要員の到着とともに、エチオピア、エリトリア両国軍が再展 開され、一時的な安全地帯が作られた。UNMEE は安全地帯を巡回し、 監視することになった。当事者は、アルジェリアの仲介のもとに、相違 点を解消する交渉を続け、2002年12月、軍事的対立の恒久的な中止と戦 争捕虜の釈放を決めた協定に署名した。協定はまた、関連する植民地時 代の条約や適用しうる国際法に従って、国境線の画定を行う独立委員会 の設置も求めていた。
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2002年4月、5人のメンバーで構成される中立の国境委員会は、国境 の画定に関する最終的かつ拘束力のある決定に達した。安全保障理事会 は、UNMEE の任務を調整し、画定作業に役立つ地雷除去と独立委員会 の現地事務所に対する行政的、後方支援を行わせることにした。 2003年、軍事情勢はおおむね安定していたが、エチオピアが境界委員 会の勧告を拒否したことから、和平プロセスの危機的状況が続いた。し ばらくの間、当事者は安全地帯を尊重していた。しかし、国境委員会の 決定の実施に進展がないことから、エリトリアは、事務総長の言う安全 地帯の「重大な違反行為」を始めた。同時に、国連ヘリコプターの飛行 禁止など、UNMEE の作業に対して「厳しい、屈辱的妨害」を行った。 その結果、UNMEE の承認された兵力は大幅に削減され、始まった時の 4,200人から2006年5月の2,300名へと削減され、2007年1月には1,700人 となった。 2007年11月1日、潘基文事務総長は、エリトリアが2,500人以上の部 隊と重軍装備品を暫定安全地帯へ移動させ、また両国はその共通の国境 線に沿って軍事演習を行ったことに留意し、最新の軍事的動きに深い懸 念を表明した。エチオピアは国境線画定の決定を受け入れたと述べたが、 国境線画定のための安全な状態は存在しないと主張している、と事務総 長は報告した。 11月13日、安全保障理事会は、2002年の境界線画定の決定を即時かつ 無条件に実施するよう両当事国に要請した。また、武力の行使を自制し、 平和的手段によって問題の解決を図り、その関係を正常化させるよう訴 えた。
米 州 国連は中米に平和をもたらした。それは、もっとも複雑かつ成功した 平和創造、平和維持の活動の一つであった。 国連が中米に関与するようになったのは1989年のことであった。コス タリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアの5
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カ国は、地域を苦しめてきた紛争を終わらせ、民主的な選挙を行い、民 主化と対話を求めるための合意が得られるように国連に援助を求めてき た。安全保障理事会は、「国連中米監視グループ(United Nations Observer Group in Central America: ONUCA)」を設置した。任務は、これらの国が不
正規軍や反政府勢力への援助を止め、自国領土を他国の攻撃のために利 用させないとのコミットメントが順守されているかを検証することで あった。 ニカラグア 中米5カ国はまた、ニカラグア反政府勢力の動員解除 計画を作成することにも合意した。ニカラグア政府は、国際および国連 の監視のもとに選挙を行うと発表した。「国連ニカラグア選挙検証監視 団 (United Nations Observation Mission for the Verification of Elections in Nicaragua: ONUVEN)」は、1990年選挙の準備と実施のすべてを監視した。
これは独立国家で行われた最初の国連監視の選挙であった。その成功に よって「コントラ」による自発的な動員解除の条件が作り出された。動 員解除は1990年、ONUCA の監視の下に行われた。 エルサルバドル エルサルバドルでは、事務総長と事務総長個人代 表が仲介した交渉が、1992年に和平合意という形で実を結んだ。これに よって12年に及び、7万5,000人の命を奪った紛争に終止符が打たれた。 「国連エルサルバドル監視団(United Nations Observer Mission in El Salvador: ONUSAL)」が、戦闘員の動員解除、人権に関するコミットメントの両
当事者の順守など、合意の実施を監視した。ONUSAL はまた、内戦の 真の原因を取り除くための改革、たとえば、司法改革や新しい文民警察 の 樹 立 な ど を 実 現 で き る よ う に 支 援 し た。 政 府 の 要 請 を 受 け て、 ONUSAL は1994年の選挙を監視した。ONUSAL の任務は1995年に終了 した。 グアテマラ 政府とグアテマラ民族革命連合(URNG)の要請のも とに、国連は1991年に内戦を終わらせる会談の支援を開始した。内戦は 30年も続き、20万人以上の人々が殺され、または行方不明となっていた。 1994年、当事者は、合意されたすべての協定を国連が検証し、かつ人権 使節団を設置すると規定した合意に達した。これを受けて、総会は「国
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連グアテマラ人権検証団(United Nations Human Rights Verification Mission in Guatemala: MINUGUA) 」を設置した。
1996年に休戦が実現し、当事者が和平合意に署名した。これによって 中米の最後の、もっとも長かった内戦が終わった。地域には36年ぶりに 平和が訪れた。MINUGUA は合意の順守を検証するために2004年11月 まで駐留を続けた。他方、国連の各種機関は、地域全体の紛争の社会的、 経済的原因を取り除く努力を続けた。 ハイチ ジャン=クロード・デュバリエ「終身大統領」が出国し、 一連の短命な政権が続いた後の1990年、ハイチの暫定政府は、その年に 予定された選挙の監視を国連に要請した。「国連ハイチ選挙検証監視団 (United Nations Observer Group for the Verification of the Elections in Haiti: ONUVEH)」が選挙の準備と実施を監視した。選挙ではジャン=ベルト
ラン・アリスティドが大統領に選ばれた。しかし、1991年の軍事クーデ ターによって民主的支配は終わり、大統領は亡命した。情勢の悪化に応 え て、 国 連 と OAS の 共 同 ミ ッ シ ョ ン「 国 際 ハ イ チ 文 民 ミ ッ シ ョ ン (International Civilian Mission in Haiti: MICIVIH)」が1993年にハイチへ派遣
された。任務は人権状況を監視し、かつ人権侵害を調査することであっ た。 憲法による支配を回復させるため、安全保障理事会は1993年にハイチ に対する石油と武器の輸出を禁止し、1994年には貿易の禁止を決めた。 続いて、理事会は民主政治の回復を助ける多国籍軍の設置を承認した。 多国籍軍が介入を始めようとしていたときに、米国とハイチの軍指導者 はより以上の暴力を回避することで合意に達し、米国主導の多国籍軍が 平和裏にハイチに展開された。アリスティド大統領が帰国し、禁輸措置 は解除された。1995年、国連平和維持活動が多国籍軍の任務を引き継ぎ、 政府が治安の安定を維持し、最初の文民警察を創設するのを助けた。 ハイチは2004年1月1日、建国200周年を祝った。しかし深刻な政治 的行き詰まりによってハイチの安定が脅かされた。親政府民兵と反政府 民兵との間に激しい衝突が生じ、暴力の激化が始まった。2月29日、ア リスティド大統領は、辞職したとの報道の中で、ハイチを出国した。辞
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表は安全保障理事会へ届けられた。 数時間後、理事会は、新しく就任したボニファース・アレクサンドル 大統領の援助要請を受けて決議1529を採択し、多国籍暫定軍(Multinational Interim Force: MIF) の即時展開を承認した。アメリカ主導の多国籍軍は
直ちにハイチへ展開された。4月30日、理事会は決議1542を採択し、前 の決議で想定されていた国連ハイチ安定化ミッション(United Nations Stabilization Mission in Haiti: MINUSTAH) を設立した。安全かつ安定した
環境の中で平和的な、憲法上の政治プロセスが続けられるよう支援する ことになった。 2005年3月、国連の動員解除プロセスが始まったことを受けて、軍隊 の325人の元兵士が武器を引き渡した。10月までに、300万人以上の人々 が投票に登録した。2006年2月7日の大統領選挙と議会選挙では、投票 率も高く、レネ・プレバル元大統領が新しい大統領に選出された。4月 の第二ラウンドの議会選挙で、27名の上院議員と83名の代理を選出した。 プレバル大統領は5月に就任した。 安全保障理事会は、2006年8月に MINUSTAH の任務を拡大し、包括 的な暴力削減計画へ方向を転換させるよう要請した。12月後半、国連平 和維持要員とハイチ国家警察隊は、首都における武装ギャングの一斉検 挙を開始し、2月末で完了した。3月27日までに、400人以上が逮捕さ れ、7月末でその数は850人に達した。 2007年8月のプレバル大統領との共同記者会見で、潘基文事務総長は、 法による支配を強化し、司法の改革と腐敗との闘いを進め、安全に関し て得られたものを強固にするようハイチに要請した。 2007年10月15日、安全保障理事会は、MINUSTAH の駐留期限をさら に1年延長した。その際、ミッションの軍事部門を縮小し、警察要員の 増加を図り、変化する状況に対応できるようにした。ギャングによる暴 力は大きく減ったものの、市民の不安は残った。それは、深い社会的、 経済的格差が続いたせいであった。西半球の最貧国として、ハイチの困 難は、経済的、社会的苦難によってさらに悪化している。
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アジア・太平洋 中 東
国連はその発足後間もない頃から中東問題にかかわってきた。国連は 平和的解決のための原則を作成し、各種の平和維持活動を派遣した。国 連は今でも根底にある政治問題の公正かつ恒久的、包括的解決を目指し て各種の支援を続けている。 問題の発端はパレスチナ人の地位の問題であった。1947年、パレスチ ナは、国際連盟の委任統治のもとにイギリスが施政する地域であった。 人口はおよそ200万人で、3分の2がアラブ人で、3分の1がユダヤ人 であった。総会は1947年、国連パレスチナ特別委員会が作成したパレス チナ分割計画を支持した。それは、アラブ人の国家とユダヤ人の国家を 作り、エルサレムを国際的地位のもとにおくというものであった。しか し、その計画はパレスチナ・アラブ人、アラブ諸国、その他の国によっ て拒否された。 1948年5月14日、イギリスはパレスチナに対する委任統治を終わらせ、 ユダヤ機関はイスラエル国家の建国を宣言した。その翌日、パレスチ ナ・アラブ人はアラブ諸国の援助を受けて新国家に対する戦争を開始し た。安全保障理事会が行った休戦要求を受けて戦闘が停止し、総会が任 命した調停官がその監視にあたった。調停官は「国連休戦監視機構 (United Nations Truce Supervision Organization: UNTSO)」として知られるよ
うになった軍事監視グループの援助を受けた。これは国連が設立した最 初の監視団である。 戦争の結果、およそ75万人のパレスチナ・アラブ人が家と生計を失い、 難民となった。これらの難民を援助するために、総会は1949年に「国連 パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East: UNRWA)」 を 設 置 し た。 そ れ 以 来 UN-
RWA は主要な援助提供者であると同時に、中東における安定の力と なってきた。
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中東問題の解決が見られないままに、アラブとイスラエルの対立が 1956年、1967年、1973年に再び戦争へと拡大した。そのつど加盟国は国 連の調停と平和維持活動を求めた。1956年戦争によって第一次国連緊急 軍(United Nations Emergency Force: UNEF I)が展開された。国連緊急軍は 軍隊の撤退を監視し、地域の平和と安定に貢献した。 1967年の戦争は、イスラエルとエジプト、ヨルダン、シリアとの間に 起こった。イスラエルはシナイ半島とガザ地区、東エルサレムを含むヨ ルダン川の西岸、シリアのゴラン高原の一部を占領した。安全保障理事 会は停戦を呼びかけ、ついでエジプト・イスラエル間の停戦を監視する 監視団を派遣した。 理事会は、決議242(1967) によって中東における公正かつ恒久的な 平和のために以下のような原則を定めた。すなわち、1967年戦争によっ て占領された地域からイスラエル軍が撤退すること、すべての要求およ び交戦状態を終結させ、かつこの地域におけるすべての国家の主権、領 土保全、政治的独立、および、武力による威嚇もしくは武力の使用から 解放された、安全かつ承認された国境線内において平和に生活する権利 を尊重し、承認すること、であった。決議はまた、 「難民問題の公正な 解決」の必要も確認した。 イスラエルとエジプト、シリア間の1973年戦争の後、安全保障理事会 は決議338(1973) を採択し、決議242の原則を再確認し、 「公正かつ恒 久的平和」の実現を目指した交渉を呼びかけた。これらの決議は中東の 包括的解決の基礎となっている。 1973年の停戦を監視するために、安全保障理事会は2つの平和維持軍 を設立した。そのうちの1つが国連兵力引き離し監視軍(United Nations Disengagement Observer Force: UNDOF) で、イスラエルとシリア間の兵力
引き離し協定の実施を監視する。UNDOF は現在もゴラン高原に駐留し ている。もう1つはシナイ半島に展開された第二次国連緊急軍(UNEF II)であった。
その後、総会は国連主催の中東に関する国際平和会議の開催を何回と なく呼びかけた。1974年、総会はオブザーバーとして総会の作業に参加
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するようパレスチナ解放機構(PLO)を招請した。1975年、総会はパレ スチナ人民の固有の権利行使に関する委員会(パレスチナ委員会)を設 置した。パレスチナ委員会は現在も総会の補助機関として、パレスチナ 人民の権利とパレスチナ問題の平和的解決を支援している。 アメリカの調停によるエジプト・イスラエルの2国間交渉の結果、 キャンプ・デービッド合意(1978年)とエジプト・イスラエル平和条約 (1979年) が生まれた。イスラエルはシナイ半島から撤退し、シナイ半
島はエジプトへ返還された。1994年にはイスラエルとヨルダンの間にも 平和条約が結ばれた。 レバノン 1975年4月から1990年10月まで、レバノンは内戦で引き 裂かれていた。当初、南部レバノンは一方にパレスチナ・グループ、他 方にイスラエル軍と現地レバノン人支持部隊との間の戦闘の舞台となっ ていた。パレスチナ・ゲリラがイスラエルを襲撃したことに対抗してイ スラエル軍が1978年に南部レバノンに侵攻したため、安全保障理事会は 決議425と426を採択し、イスラエルの南部レバノン撤退を要請し、国連 レバノン暫定軍(United Nations Interim Force in Lebanon: UNIFIL)を設立し た。暫定軍はイスラエル軍の撤退を確認し、国際の平和と安全を回復し、 かつレバノンがこの地に権威を回復できるように援助することを任務と した。 1982年、南部レバノンとイスラエル・レバノン国境地帯で激しい銃撃 戦が行われた。イスラエル軍はレバノン国内へ移動し、ついにはベイ ルートに達し、それを包囲した。イスラエルは1985年にレバノン国土の ほとんどから撤退したが、南部レバノンの一角を支配しつづけた。その 地域は UNIFIL の展開地域と一部重複しているが、イスラエル軍と支持 部隊は駐留を続けた。レバノン・グループとイスラエル、支持部隊との 戦闘が続いた。 2000年5月、イスラエル軍は1978年安全保障理事会決議に従って撤退 した。6月、事務総長は撤退が完了したことを検証した。イスラエルの 撤退を受けて、理事会は、レバノンの権限再確立についてレバノンを援 助するとの事務総長計画を承認した。ついで、理事会は、レバノンが南
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部全土に「効果的な権限を回復」させたことを称賛した。しかし、南部 レバノンからイスラエルの撤退をマークする「ブルー・ライン」に沿っ た情勢は不安定なものであった。 2005年2月14日、緊張がエスカレートし、ラフィク・ハリリ元レバノ ン首相が暗殺された。11月、安全保障理事会は暗殺の容疑者を裁く特別 法廷の設置を支持した。4月、国連はレバノンからシリアの軍隊、軍事 資産、情報活動の撤退を検証した。5月と6月、国連の援助の下で議会 選挙が行われた。 2005年から2006年かけて「ブルー・ライン」の重大な侵害が続いた。 イスラエル軍はレバノンの領空を侵犯し、ベイルートの上空を飛行する こともあった。他方、ヒズボラは、シリア領ゴラン高原のシャバア農場 のイスラエル防衛軍の陣地に迫撃砲やミサイル、ロケット弾を打ち込ん だ。これはイスラエルが1967年以来占領し、ヒズボラがレバノン領土だ と主張している地域であった。 二人のイスラエル兵が2006年7月12日にヒズボラの民兵に捕らえられ、 イスラエルは大規模な空爆によってそれに応えた。ヒズボラはイスラエ ル北部に対するロケット弾攻撃でそれに応戦した。戦闘が終わるまでに は、およそ1,200人――ほとんどが一般市民――が殺され、4,100人が負 傷した。イスラエル側にも40人以上のイスラエル市民と120人の兵士の 死者が出た。レバノン総人口の4分の1以上の人々が故郷を捨てなけれ ばならなかった。レバノンの物的損害は360万ドルに達したと推定され た。それには3万個の住宅は損害もしくは破壊されたことが含まれる。 安全保障理事会決議1701の規定に従って2006年8月14日に戦闘が終 わった。決議は敵対行為の即時停止とそれに続くレバノン部隊の展開を 求めた。それに加え、UNIFIL の平和維持プレゼンスを南部レバノンま で拡大することと同じ地域からのイスラエル軍の撤退も求めていた。決 議の漸進的実施に伴い、大量の国連援助がレバノンに運ばれた。他方、 ヨーロッパ諸国も再び国連平和維持活動に参加するようになった。イタ リア、フランス、ドイツ、スペインからの平和維持部隊がすでに駐留し ているガーナ、インド、インドネシアの部隊に加わった。
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UNIFIL が直面する重大な問題は、クラスター爆弾の不発弾が市民に 与える危険であった。34日戦争で100万個近い不発弾が南部レバノンに 残された。その密度はコソボやイラクの場合よりも高い。UNIFIL の地 雷除去活動では多くの平和維持要員が命を失った。 2007年3月、UNIFIL の兵力は1万5,000名の最大兵力に近かった。30 カ国から派遣された1万3,000人近くの隊員や水兵が陸上や海上を巡回 していた。地雷除去兵はすでに2万5,000個以上の爆発物を破壊した。 UNIFIL 平和維持要員は、医療や歯科の援助なども含め、毎日人道的活 動に従事した。 4月、レバノン・シリア国境を越えた武器禁輸の違反報告を懸念し、 安全保障理事会は、国境の監視を評価する独立ミッションを派遣するよ う事務総長に要請した。国境では監視が行われていなかった。事務総長 は事態改善の行動を提案した。 2007年に入って、レバノンは、事務総長の言う「衰弱させる政治危 機」に直面した。厄介な出来事が次から次へと起こった。パレスチナ難 民キャンプでファタハ・イスラムの戦闘員とレバノン治安部隊との戦闘 があった。これは1990年にレバノン内戦が終わって以来の最悪の国内戦 であった。ベイルート周辺での一連の爆発事件、これによって一人のレ バノン人議員と他の9人が殺された。UNIFIL 車列に対する爆弾攻撃、 これによって6人の平和維持員が殺された。カチューシャ・ロケット弾 が南部レバノンからイスラエルへ発射された。また、ほとんど毎日のよ うにイスラエルのレバノン領空侵犯があった。 事務総長は2007年7月に安全保障理事会へ報告し、武器禁輸の強化、 拉致されたイスラエル兵士とレバノン人捕虜の釈放、イスラエルの領空 侵犯の中止、シャバア農場に対する主権の問題など、いくつかの問題に ついて進展が必要だと強調した。 レバノン憲法の下に、大統領選挙が、現職大統領の任期が切れる11月 24日までに行われることになっていた。残念なことに、レバノンの政党 間に合意が見られず、国家元首のいない国となった(その後の発展につ いては、www.un.org/News を参照)。
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中東和平プロセス 1987年、パレスチナの独立と建国を求めて、パ レスチナ人による蜂起(インティファーダ)が西岸とガザ地区の被占領 地で始まった。1988年、パレスチナ民族評議会(PNC)はパレスチナ国 家の樹立を宣言し、国連総会はその宣言を承認した。総会は、そのオブ ザーバーとしての地位を損なうことなく、パレスチナ解放機構(PLO) を「パレスチナ」と呼ぶことに決定した。 1993年9月10日、マドリッドで行われた会談とノルウェーの仲介によ る交渉の結果、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)は1993年9月 10日に相互承認を行った。3日後、イスラエルとパレスチナ解放機構 (PLO)はワシントン DC において「暫定自治の取り決めに関する原則の
宣言」に署名した。国連は、ガザとジェリコの社会経済開発に関するタ スクフォースを設置し、国連援助の特別調整官を任命した。特別調整官 の任務は1999年に拡大され、中東和平プロセスに対するあっせんの援助 も含まれることになった。 ガザ地区とジェリコにおけるイスラエルからパレスチナ自治政府へ権 限の委譲は、1994年に始まった。1995年、イスラエルとパレスチナ解放 機構(PLO)は西岸におけるパレスチナ人民の自治に関する協定に署名 した。協定は、イスラエル軍の撤退と西岸における民生権限を、選出さ れたパレスチナ評議会へ委譲することを決めたものであった。1996年、 ヤセル・アラファト PLO 執行委員会議長が自治政府の議長に選ばれた。 1999年の暫定合意によって、西岸からイスラエル軍の再展開、捕虜に 関する合意、西岸とガザ間の安全な通行の開始、パレスチナの最終地位 などに関する交渉の道が再び開かれた。しかし、アメリカの調停のもと にキャンプ・デービッドで開かれたハイレベルの和平会談は、2002年7 月、結論に達することなく終わった。未解決の問題として残ったのは、 エルサレムの地位、パレスチナ難民問題の解決、安全保障、国境問題、 イスラエルの入植問題などであった。 9月、パレスチナの被占領地で新しい抗議と暴力の波が始まった。安 全保障理事会は、繰り返し暴力の中止を呼びかけ、イスラエルとパレス チナの2国家が安全かつ国際的に認められた国境線の中で共に生活する
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とのビジョンを確認した。しかし、2000年10月から2003年1月にかけて、 1万人近くの人々が紛争で生命を失った。 両当事者を交渉のテーブルにつかせるための国際的努力が行われたが、 それはアメリカ、国連、欧州連合、ロシア連邦の4者で構成される「カ ルテット」機構を通して行われることが多くなった。2003年4月、 「カ ルテット」は、2つの国家による恒久的解決へ導く「ロードマップ」 (行程表) を当事者に提示した。これは2005年までに紛争の解決を図る
ことを目的に、明確な段階と基準を持った計画で、両当事者による並行 かつ相互の手段を求めていた。それはまた、シリア・イスラエル、レバ ノン・イスラエルの問題も含め、中東紛争の包括的解決も想定していた。 理事会は決議1515(2003)でロードマップを支持し、両当事者はそれを 受諾した。 それにもかかわらず、2003年後半に暴力が急激に拡大した。国連中東 和平プロセス特別調整官は、いずれの側も他方の懸念に積極的に応えな かった、とのべた。イスラエルにとっては、安全保障とテロリスト攻撃 が関心事であるのに対し、パレスチナにとっては1967年戦争以前の境界 線に基づき、発展を続ける独立国家が関心事であった。パレスチナ人の 自爆テロが続いた。他方、イスラエルは西岸に「分離壁」の建設を強行 した。その後、総会の要請を受けて、国際司法裁判所は、分離壁の建設 は国際法に反するとの勧告的意見を述べた。 2004年2月、アリエル・シャロン・イスラエル首相は、イスラエルは ガザから軍隊と入植を撤退させると発表した。2004年11月、ヤーセル・ アラファト・パレスチナ暫定自治政府議長が死亡し、2005年1月、国連 の技術・後方支援の下で行われた選挙でマウムード・アッバスが後任に 選ばれた。2月、シャロン首相とアッバス議長がエジプトで直接会談し、 暴力停止の措置を発表した。6月にエルサレムで再び会談し9月までに イスラエルの撤退が完了した。ついに、交渉による解決に向けて真の進 展が見られると思われた。しかし、二つの出来事が政治的展望を変えて しまった。 2006年1月4日、シャロン首相は重い脳卒中にかかり、昏睡状態に
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陥った。そして、1月25日の議会選挙では、パレスチナ人民は強硬派の ハマスに投票し、ハマス派が第一党となった。カルテット、その他の訴 えにもかかわらず、ハマスはイスラエルの生存権を認めなかった。 4月15日に正式に首相に選出されたエフド・オルメルト首相の率いる イスラエル政府は、議長府も含め、全パレスチナ暫定自治政府はいまや テロリスト機関となった、との立場をとり、パレスチナの税収を凍結し た。年が進むにつれ、暴力がエスカレートし、ガザからイスラエルへの ロケット弾の発射やそれに対するイスラエルの大規模な報復攻撃が見ら れるようになった。 国際援助国はハマス主導の政府への財政支援に消極的となった。暴力 を放棄し、イスラエルの生存権を認め、これまで署名した合意を順守す ることを約束しないからであった。西岸やガザでの人道的状況がますま す深刻になった。5月、カルテットは、パレスチナ人民に援助を直接送 る暫定的なメカニズムを支持し、6月、それに関する欧州連合の提案を 国際的に支援するよう訴えた。 9月11日、アッバス議長は、PLO のプログラムと PLO がこれまで結 んだ合意を受け入れる統一政府の樹立についてハマスと原則的に合意が 成立したと国連事務総長に伝えた。国家統一政府に関する交渉が2007年 3月に終わった。 しかし5月に入って、ハマス戦闘員および「執行部隊」メンバーと暫 定自治政府治安部隊およびファタ武装グループとの間で衝突が繰り返さ れ、68人が死亡、200人以上が負傷した。ガザからイスラエル南部への ロケット弾攻撃が著しくエスカレートし、戦闘員やその施設を目標とし たイスラエルの空爆も続いた。 ジョージ・ブッシュ米大統領が2007年7月に中東に関する国際会議の 開催を呼びかけたことを受けて、11月27日からメリーランドのアナポリ スにおいて会議が開かれた。イスラエルとパレスチナとの間に合意が見 られ、 「積極的で、前進を続ける、継続的交渉に参加」し、2008年末ま でに協定を結ぶとの合意が表明された。そのために、運営委員会が共同 の作業プランを策定し、「すべての問題を取り上げる」交渉チームの作
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業を監視することになった(その後の発展については、www.un.org/News を参照)。
アフガニスタン アフガニスタンに対する国連の最新の関与は、1995年9月にまで遡る。 アフガニスタンの内戦で国土のほとんどを支配していた「タリバン」が、 首都カブールを制圧した。ブルハヌディン・ラバニ大統領は逃亡し、北 部だけを支配していた「北部同盟」に参加した。 その後長年にわたって、安全保障理事会は、アフガニスタン紛争がテ ロリズムと薬物取引の温床になるとの懸念を繰り返し表明した。1998年 8月7日、ケニアのナイロビ、タンザニアのダルエスサラームのアメリ カ大使館がテロ爆弾攻撃を受けて、何百人もが命を奪われた。理事会は、 決議1193で、アフガニスタンに依然としてテロリストがいることに懸念 を繰り返し述べた。12月8日の決議1214で、理事会は、国際テロリスト とその組織に隠れ場所と訓練を提供することをやめるようタリバンに要 求した。 理事会は、1999年10月15日、タリバンがこの要求に従わなかったとの べ、国連憲章の強制措置規定のもとに、幅広い制裁を実施することに決 めた。理事会は、決議1267で、オサマ・ビン・ラディンは大使館爆撃の 容疑者としてアメリカによって起訴されていることに留意し、法に照ら して裁けるように彼を適切な機関へ引き渡すようタリバン勢力に要求し た。タリバンは正当な政府として認められていなかった。 10月22日、理事会は、何千というアフガニスタン人以外の人々がタリ バン側に立って戦闘に従事しているとの報道に苦悩を表明した。理事会 は、一般の人々の強制的な移動、裁判によらない刑の執行、文民の権利 侵害と一方的拘束、女性や少女に対する暴力、無差別の爆撃などについ て、深い懸念を表明した。 タリバンの宗教的不寛容も、広く非難された。2001年3月、タリバン はバーミヤン渓谷でおよそ1,300年前に砂岩岩窟に彫られた2体の仏像 を爆破した。その中には世界で一番大きい仏像も含まれていた。5月、
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勅令によってヒンズー教の女性はイスラム教の女性と同様にベールをか ぶり、イスラム教徒以外の人々はすべて身元を示すラベルをつけるよう 要求された。8月、8人の国際援助要員が逮捕され、「キリスト教の布 教」との理由で裁判にかけられた。 彼らの裁判は9月11日に行われた。この日は、ビン・ラディンのアル カイダ組織がアメリカで民間航空機4機をハイジャックし、2機が ニューヨーク市の世界貿易センタービルに衝突し、1機は米首都の国防 総省に突っ込み、もう1機は、乗客の阻止によってペンシルバニアの平 地に墜落した日でもあった。この同時多発テロによっておよそ3,000人 の人々が犠牲となった。それに続いて、アメリカ政府はタリバンに最後 通告を行い、ビン・ラディンを引き渡してアフガニスタンのテロリスト 作戦を終わらせるか、大規模な軍事攻撃を受けるか、のいずれかを選択 するよう迫った。タリバンはビン・ラデンの引き渡しを拒否した。 10月7日、米英軍がタリバンの軍事目標やアフガニスタンでのビン・ ラディンの訓練キャンプにミサイル攻撃を行った。爆撃は2週間にわ たって続けられ、その後、米国地上軍の展開となった。12月、米国爆撃 の支援を受けて、アフガニスタン民兵が、パキスタンとの国境に近いア フガニスタン東部のトラボラのビン・ラディンとアルカイダの部隊の山 頂拠点と言われる地点に攻撃を開始した。 9月11日に続く数週間、安全保障理事会は、タリバン政権を代えよう とするアフガニスタン国民の努力を支持した。国連はまた、広く国民を 代表する、包括的な政府の樹立を目指して、アフガニスタン当事者間の 対話を進めた。国連がボンで開催したアフガニスタン政治指導者の会合 は、12月5日に終わった。会議では恒久的政府機構が樹立するまで行う 暫定的取り決めについいて合意が見られた。第一のステップとして、ア フガニスタン暫定行政機構(Afghan Interim Authority)が設立された。 2001年12月20日、安全保障理事会は、決議1386を採択し、国際治安援 助部隊(International Security Assistance Force: ISAF)の設立を承認した。暫 定行政機構を助けて、カブールとその周辺地域の治安維持にあたる。12 月22日、国際的に認められたラバニ大統領の政権は、ハミド・カルザイ
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議長が率いる新たなアフガニスタン暫定行政機構に権限を移譲し、最初 の ISAF 部隊が展開された。 2002年1月、国際アフガニスタン復興援助会議が東京で開かれ、45億 ドルを越す誓約が行われた。また、緊急ロヤ・ジルガを開いて暫定政権 の国家元首を選出し、主要閣僚人事を承認するとの発表が行われた。ロ ヤ・ジルガとはパシュトゥー語で「国民大会議」を意味し、部族の長老 が集まって問題の解決を図るための伝統的なフォーラムである。安全保 障理事会は、タリバン政権の崩壊の結果、アフガニスタン内に見られる 好ましい変化を歓迎した。新しい現実を反映させて制裁を調整し、アル カイダとその支持者を制裁の対象にした。 3月28日、理事会は、事務総長の勧告に従って、国連アフガニスタン 支援ミッション(United Nations Assistance Mission in Afghanistan: UNAMA) を設立した。UNAMA は、人権や法の支配、ジェンダーの問題など、ボ ン協定が国連に付託する任務を果たす。団長は事務総長特別代表で、国 民和解を促進し、暫定行政機構とその継承者と調整をはかりながらアフ ガニスタンの国連人道活動を管理する(2007年3月23日、理事会は、決議 1746を全会一致で採択し、UNAMA の駐留期限をさらに1年間延長した)。
2002年4月、緊急ロヤ・ジルガのメンバーを選出するプロセスが始 まった。9日間の国民大会議は6月11日、ザヒル・シャー元アフガニス タン国王によって開会が宣言された。元国王はハミド・カルザイを国家 の指導者として推選した。6月13日、カルザイ氏がアフガニスタンの国 家元首に選ばれ、今後2年間にわたって移行政府を率いることになった。 2004年1月4日、憲法制定ロヤ・ジルガは、アアフガニスタン憲法とし て採択された草案について合意に達した。 2004年10月、800万人以上のアフガニスタン人――有権投票者のうち の70パーセント、そのうちの40パーセントが女性であった――が投票に 行き、アフガニスタン史上初めて選挙による大統領としてハミド・カル ザイを選出した。2005年9月18日、選挙運動中に一連の死者を招くよう な攻撃があったものの、アフガニスタン国民は国民議会と暫定評議会の 選挙を行った。新しい議会は12月に発足した。
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薬物管理、復興、開発 1990年後半までに、アフガニスタンは世界 の不正アヘンの80パーセント近くを供給する国として悪名が高かった。 2007年までは、国連薬物犯罪事務所(UNODC) 報告によると、アフガ ニスタンの30億ドル相当のアヘンの取引は、世界の不正生産の90パーセ ント以上を占めるものであった。栽培は主に南部に集中しており、タリ バンもその薬物取引から利益を得ていた。政府の権限とプレゼンスが増 してきている中部や北部では、栽培が減少した。 2006年1月31日、ハイレベル・グループ会合がロンドンで開かれ、 「アフガニスタン・コンパクト」を発足させた。これは、民主主義制度 を強固なものにし、治安の強化を図り、不正な薬物取引を取り締まり、 経済を刺激し、法を執行し、アフガニスタン国民へ基礎的なサービスを 提供し、その人権を擁護する5カ年計画である。2月15日、安全保障理 事会は、アフガニスタン政府と国際社会とのパートナーシップのための 枠組みを提供するものとして「コンパクト」を全会一致で支持した。 しかし、治安の欠如が依然として開発への主な障害であった。2007年 の UNDP 報告によると、全人口の3分の1に当たる660万人のアフガニ スタン人が十分な食糧を得られず、5歳以下の児童の死亡率と出産時に 死亡する母親の割合は世界でもっとも高い国々の中に入った。 治安 2006年、1,000人の一般市民を含む4,400人のアフガニスタン 人が反政府武力行為に巻き込まれて死亡した。これは2005年に比べて2 倍の数字である。その年の終わりまでに、主に不安定な南部においてタ リバンの大規模な反政府活動があった。これは2001年のタリバンの崩壊 以来の最大の暴力行為であった。 2007年9月27日、理事会は暴力とテロリズムの拡大に懸念を表明し、 ISAF の駐留期限をさらに1年間延長した。こうした情勢について、潘 基文事務総長は、長期的に治安を持続させる鍵はアフガニスタン国家治 安部隊、とくにアフガニスタン国家警察の能力、自治、保全にある、と 述べた。
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イラク 1990年のイラクのクウェート侵攻に対する国連の対応、2003年のサダ ム・フセイン政権の崩壊に続く情勢、こうしたことは国連が国際の平和 と安全の回復を求める際に直面するさまざまな挑戦を物語っている。 安全保障理事会は、1990年8月2日の決議660および8月6日に決議 661によって、クウェート侵攻を直ちに非難し、イラクの撤退を要求し、 貿易と石油の禁輸を含む制裁をイラクに科した。 11月29日、安全保障理事会は、1991年1月15日をイラクが国連決議に 従うべき期限と定めるとともに、同地域に国際の平和と安全を回復する ために「必要なすべての手段」をとる権限を加盟国に与えた。1991年1 月16日、多国籍軍はイラクに対する攻撃を開始した。多国籍軍の行動は、 理事会から権限を与えられたものであったが、国連の指揮もしくは管理 のもとにおかれたものではなかった。イラク軍がクウェートから撤退し、 2月に戦争は終わった。1991年4月8日の決議687によって、安全保障 理事会は停戦の条件を設定した。 理事会はイラクの大量破壊兵器は廃棄されなければならないと決定し、 イ ラ ク の 武 装 解 除 を 検 証 す る 国 連 特 別 委 員 会(United Nations Special Commission: UNSCOM) を設置した。委員会は事前の通告なしに検証す
る権限を与えられた。同時に、UNSCOM の援助の下に、核の分野で同 様の検証作業を行うよう国際原子力機関 (International Atomic Energy Agency: IAEA)に要請した。理事会はまた、イラク・クウェート間の国
境線に沿って非武装化地帯を設けた。決議689によって、それを監視す る国連イラク・クウェート監視団(United Nations Iraq-Kuwait Observation Mission: UNIKOM)が設立された。
続いて、イラク・クウェート国境画定委員会 (Iraq Kuwait Boundary Demarcation Commission)が設置され、1994年、イラクは委員会が画定し
た国際国境線を受諾した。理事会はまた、国連補償委員会(United Nations Compensation Commission) を設置した。委員会は、イラクの石油の販売
から得られる収益の一部から、イラクのクウェート侵攻によって受けた
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損失や損害について、政府、国民、企業からの請求を処理し、補償を行 う。これまで、委員会は520億ドル相当の補償請求を受け、そのうち225 億ドルの補償が行われた。イラクは引き続き石油収益の5パーセントを 「補償基金」へ払い続けており、委員会はその支払い処理を続けている。 理事会は、経済制裁がイラク国民に与えている厳しい人道的影響を懸 念し、1995年12月17日、ある程度の救援を行う目的で、「石油と食糧の 交換計画」を創設した。この計画は、決議986の下に設置されたもので、 食糧や人道物資を購入するためにイラク政府が行う石油の販売を監視し、 同時に国内における食糧の配給を管理した。それは、イラクの推定人口、 2,700万人の60パーセントの人々にとっての唯一の生活維持のよりどこ ろとなった。 その査察の中で、UNSCOM と IAEA は、核兵器、化学兵器、生物兵 器の分野でイラクの大量の禁止兵器プログラムや能力を発見し、廃棄し た。1998年、イラクは指定さた兵器はもはや存在しないと宣言し、石油 禁輸を解除するよう理事会に求めた。UNSCOM は、イラクが決議687 を完全に順守しているとの証拠を欠いていると宣言した。10月、イラク は UNSCOM との協力を停止させた。最後のミッションは12月に行われ た。同じ月、アメリカとイギリスはイラク空爆を開始した。 1999年12月17日の決議1284によって、安全保障理事会は、UNSCOM に代わる新しい兵器監視機関として国連監視検証査察委員会(United Nations Monitoring, Verification and Inspection Commission: UNMOVIC) を設置
した。理事会は、イラクの UNMOVIC と IAEA との協力次第で経済制 裁を解除するとの意向を表明した。 2002年11月8日、理事会は決議1441を採択した。決議は、査察機構の 能力を高めると同時に、理事会決議を順守する最後の機会をイラクに与 えるものであった。11月27日、国連査察官はイラクに戻った。安全保障 理事会は、UNMOVIC のハンス・ブリクス委員長とモハメド・エルバラ ダイ IAEA 事務局長から繰り返し状況説明を受けたが、イラクの義務の 履行をいかに確保すべきかについては意見が二分されたままであった。 交渉が続く中、安全保障理事会の枠組みの外で、米国、英国、スペイ
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ンの3カ国は、2003年3月17日を完全武装解除の期限としてイラクに突 きつけた。大規模の軍事行動の可能性が高まったことから、事務総長は、 3月17日の国連国際スタッフの撤退とすべての国連活動の停止を命じた。 米国、英国主導による同盟軍の軍事行動は、3日後に始まった。 サダム・フセイン政権の崩壊に続き、安全保障理事会は、5月22日、 決議1483を採択し、政治的未来を自由に決定するイラク国民の権利を強 調した。また、国際的に求められた政府の樹立まで、同盟軍(暫定当 局)の権限、責任、義務を認めることにした。石油と食糧交換計画を修
正し、食糧と医薬品の配送の再開を承認した。国際制裁を解除し、イラ クで活動を再開するための法的根拠が国連に与えられた。 国連支援団 5月27日、事務総長はセルジオ・ビエイラ・デメロを 事務総長イラク特別代表に任命した。8月14日の決議1500によって、安 全保障理事会は、国連イラク支援団(United Nations AssistanceMission for Iraq: UNAMI)を設立した。その任務は人道復興援助を調整し、国際的に
認められた、主権を有するイラク政府の樹立に導く政治プロセスを支援 することであった。理事会は、そのための重要な一歩としてイラク統治 評議会の設立を歓迎した。 5日後の2003年8月19日、バグダッドの国連現地本部がテロ攻撃の目 標になり、22人が死に、150人以上が負傷した。死亡した人のうちの15 人が国連職員であった。その中には支援団団長のセルジオ・ビエイラ・ デメロも含まれていた。この攻撃を受けて、事務総長はバグダッド勤務 の国連国際要員のほとんどを引き上げさせる一方で、基本的な人道援助 を提供するイラク人を中心とした小規模のチームを残し、食糧の輸送、 給水、保健サービスなど、全国的な援助活動を続けさせた。 10月16日、安全保障理事会は、決議1511を採択して、統一指揮下に置 かれる多国籍軍の設立を承認した。多国籍軍はイラクの安全保障と安定 維持に貢献し、かつ UNAMI やイラク暫定政権の機構の安全を確保する ために必要なすべての措置をとる。11月15日、イラク統治評議会と連合 暫定施政当局(Coalition Provisional Authority: CPA)は、2004年6月30日の 主権回復に合意した。
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イラク統治評議会と連合暫定施政当局(CPA)から主権への移行につ いて国連援助の要請を受けて、事務総長は、2005年1月31日までに信頼 にたる選挙を実施するために何が必要かを評価する選挙支援チームを派 遣した。事務総長はまた、これらの取り決めついてイラク当局と作業を 進めるようラフダール・ブラヒミ事務総長イラク特別顧問に要請した。 ブラヒミ氏は2004年4月4日にイラクに到着し、イラク社会を横断す る各層との広範な協議を開始した。5月28日、イラク統治評議会はイラ クの首相にイヤド・アラウィを指名した。6月8日、安全保障理事会は 全会一致で決議1546を採択し、新しい暫定政府の成立を支持した。6月 28日、主権が連合暫定施政当局から新しいイラク暫定政府へ正式に移譲 された。 6月4日、イラク独立選挙委員会が設置された。その後の18カ月間に、 治安状態が非常に深刻であったにもかかわらず、委員会は、国連の支援 の下に、2回の国政選挙とイラク憲法についての国民投票を実施した。 2005年1月31日、何百万というイラク人が暫定国民議会の選挙に参加し た。しかし、イラクのスンニ派の多くが参加しなかったことが大きな懸 念であった。 暫定国民議会の最初の会合が2006年3月16日に開かれた。5月31日、 議長が、イラクの新憲法の起草とコンセンサス構築に関して国連の支援 を正式に要請した。10月15日、イラクの憲法草案が全国的な国民投票に よって採択された。投票率は高かったが、いくつかの派は草案に強い反 対を示した。事務総長は「治安状況にもかかわらず多数の人々が投票に 行った信じがたい勇気」を示したイラク国民を称賛した。 2005年12月15日、イラクの国民議会の選挙が行われた。すべての派の 何百万という人々が投票に参加し、何十万という監視員、機関、選挙運 動員が参加した。2006年6月8日までに、新しい政府が完全に成立した。 アシュラフ・カジ事務総長特別代表は、国民の対話と和解のためにイラ ク国民と政府を支援すると約束した。 新政府の最初のイニシアチブに「イラク国際コンパクト」があった。 国連とイラク政府を議長に、世界銀行の支援を受ける。コンパクトの目
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的は、今後5年間で、イラクが、明確に定義づけられた優先順位、ベン チマーク、相互コミットメントに従って、その国家ビジョンを達成でき るように、国際社会と多国間機関の援助を結集することであった。 しかし、決議1546による政治的移行のベンチマークは達成されたにも かかわらず、治安状況は悪化を続けた。このことが悲劇的に強調された のは、宗派間の闘争の波と2006年2月にサマラで起こったアルアスキリ ヤ寺院の爆撃に続く報復であった。2007年後半現在で、およそ220万人 のイラク人が国外へ逃げ出し、240万人近くの国内で避難民が存在した。 エジプトのシャルム・エルシェイクで2007年5月4日に開かれたイラ クと周辺国の拡大閣僚会議で、参加国はエネルギー、国境、治安、難民 と避難民など、共通の関心事に関する作業グループを設立した。国連は、 これらの作業グループに対して技術援助と専門知識の提供を求められた。 2007年7月にイスタンブールで開かれた拡大閣僚会議では、参加国は、 地域の対話プロセスを調整、支援するアドホクなメカニズムをバグダッ ドに設立することを支持した。支援メカニズムはイラク政府が先導し、 国連が強力な援助を提供する。 2007年半ば以降、治安状態は改善されてきているものの、女性や子ど もたちを含め、イラクの一般市民は依然としてテロ行為や道端に仕掛け られた爆弾、走行中の車からの銃撃、対立集団もしくは警官と暴徒との 銃撃戦、誘拐、軍事作戦、犯罪と警官の職権乱用などの犠牲となってい る。多国籍軍の管轄権の下に行われた軍事作戦で、イラクの治安・多国 籍軍が大量の人々を逮捕したことから、被収容者の数が急増した。日常 生活は惨めである。給水の停止や停電、子どもたちの栄養不良、かつて なかったほどの若者たちの非識字力が特徴となっている。 しかし、2007年には多くの明るい発展も見られた。3月3日、 「イラ ク国際コンパクト(International Compact with Iraq)」が正式に発足した。 世界の指導者がエジプトのシャルム・エルシェイクに集まり、債務の救 済も含め、イラクの平和と開発のための5カ年計画に対して、300億ド ルの財政コミットメントを誓約した。8月10日、安全保障理事会は決議 1770を採択して、UNAMI の任務を更新し、駐留期限を延長した。これ
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石油と食糧:事実とフィクション 1995年12月から2003年11月にかけて、国連の「石油と食糧」交換計画 はイラクのおよそ2,700万人の人々に人道的救援物資を提供することに 成功した。それはユニークな計画であった。莫大な規模と複雑さを抱え た独立した計画で、国民の60パーセントに相当する人々の唯一の生活を 支える手段であった。この計画の下に彼らの一日のカロリーの摂取量は 著しく増え、1996年から2002年までの期間では、イラク中部や南部にお いては5歳以下の子どもの栄養不良率は半分になった。この計画を設立 した安全保障理事会は、また、この計画の下に結ばれたすべての契約を 監視する委員会を設置した。 計画が終了したとき、その権限の下に行われた石油販売からの収入は、 利子や為替差益を含め、695億ドルであった。その額のうち、476億ドル が人道的活動のための資金として使われ、180億ドルは、1990年のイラ クのクウェート侵攻によって損害を受けた人々に支払われる資金として 国連補償委員会へ送られた。およそ5億ドルが UNSCOM と UNMOVIC の活動費に当てられた。これらの委員会は、イラクの兵器体系や物資を 監視し、また、イラク・クウェート休戦協定に規定されるすべての兵器 の破壊を監視した。 2004年、この計画の運営に腐敗や不適切な管理があったとの主張が表 面に出るようになった。それに応えて、当時のコフィー・アナン事務総 長は、ポール・ボルカー元米連邦準備制度理事会議長を独立調査委員会 の委員長に任命した。他の委員はリチャード・ゴールドストン南アフリ カ判事、スイスのマーク・ピース刑事法教授であった。委員会は交換計 画の徹底的かつ独立した調査を行うよう求められ、かつてなかったアク セスと国連の完全な協力が提供された。1年6カ月の調査の結果、委員 会は5つの暫定的な報告を発表した。それは、管理や監視の失敗に焦点 を当てながら、交換計画の全体像を描きだしたものであった。最終報告 は2005年10月に発表された。 それによると、石油・食糧監視機構の権限外で、およそ60カ国の2,200 社が不正な支払いに関与していた。国連職員が流用したとされる14万 7,000ドルとは対照的に、1990年8月から2003年3月までのイラク政府 の「不正収入」総額は109億ドルとアメリカ中央情報局(CIA)が推定 した。そのうちの80億ドルが安全保障理事会の理事国が認知し、時には
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許可した貿易議定書のもとに行われた輸出から得られた額であった。石 油・食糧メカニズムの権限外もしくは実際に発足する前に行われた密輸 額は、17億4,000万ドルと推定された。 交換計画の国連事務局管理に関しては、イラク・プログラム室(OIP) のトップによる不適切な管理があったと報告した。ボルカー委員会は、 OIP 元室長はその任期中に14万7,000ドルの賄賂を受け取ったと主張し た。彼はこの容疑を否定した。それにもかかわらず、事務総長は、彼の 訴追からの免除を即刻取り上げることを決めた。委員会はまた、事務総 長に関する申し立てをも調査し、事務総長は調達の決定に関与しなかっ たとの結論を発表した。 ボルカー報告の発表が行われて以来、いくつかの管理改革イニシアチ ブが採られ、倫理行為、内部監査、説明責任、それに透明性、財務情報 の開示、「内部告発者」の保護などが強化された。
によって、国連が国民和解、地域の対話、人口援助、人権のような重要 な領域でその役割を高める道が開かれた。それにもかかわらず、治安状 況によって国連のプレゼンスが制限されている。 そ れ よ り 先、2007年 6 月29日、 安 全 保 障 理 事 会 は、UNMOVIC と IAEA による「包括的貢献」に謝意を表明し、それぞれのイラクにおけ る任務を終了させた。 インドとパキスタン 国連は、カシミールをめぐる何十年にも及ぶインドとパキスタンの紛 争に積極的にかかわってきた。問題の発端は1940年代にまで遡る。当時、 ジャム・カシミール州は藩王国の一つであったが、分割計画と1947年の インド独立法とによって、インドまたはパキスタンへの帰属を自由に決 めることができるようになった。ジャム・カシミールの住民のほとんど はイスラム教徒であるが、藩王自身はヒンズー教であることから、イン ドへの帰属を決めた文書に署名した。 安全保障理事会は、パキスタンの支援と参加を得た部族民、その他が カシミールへ侵攻し、戦闘が続いているとの苦情をインドから受け、
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1948年に初めてこの問題を取り上げた。パキスタンはその申し立てを否 定し、ジャム・カシミールのインド帰属は違法であると宣言した。 理事会は、国連軍事監視団の利用も含め、戦闘を中止させる措置を勧 告した。理事会は国連インド・パキスタン委員会を設置した。委員会は 停戦と部隊の撤退に関する提案を行い、かつ住民投票によって問題の解 決をはかるよう勧告した。印パ双方が提案を受け入れたが、住民投票の 方式について合意に達することができなかった。1949年以来、両当事国 によって署名された停戦協定に基づいて、国連インド・パキスタン軍事 監視団(United Nations Military Observer Group in India and Pakistan: UNMOGIP) がジャム・カシミールで停戦ラインを監視している。 1972年の協定を受けて、両国は問題を平和的に解決するとの約束を 行ったが、緊張はそのまま続いた。行き詰まりを打開する希望が2003年 4月に生まれた。インド首相とパキスタン大統領は、2国間の関係を改 善する目的の一連の相互措置をとった。事務総長は、双方によって進め られている外交関係の正常化、鉄道、道路、航空網の連結、その他の信 頼醸成措置が、持続する対話の再開につながるようにとの希望を表明し た。 11月、パキスタンは、イスラム教の祭り、エイド・アルフィトルが始 まる11月25日から、ジャム・カシミールの実効的統治線にそって一方的 な停戦を実施すると申し出た。インドはそれに積極的に応えた。ついに は、これらの措置は、1月4日、5日とイスラマバードで開かれたアタ ル・ビラリ・バジパイ・インド首相とペルベズ・ムシャラフ・パキスタ ン大統領、ザハルラ・カーン・ジャマリ・パキスタン首相との首脳会談 へと発展するまでになった。 事務総長は2人の指導者を称賛し、両国間の関係の改善は、単に政治 的な緊張の緩和という点からだけではなく、経済的、社会的観点から見 ても、南アジア地域全体に大きな意味を持つものであるとのべた。事務 総長は、双方の側がその努力を続け、持続する、真剣な対話を促進する よう訴えた。そして、「平和の強力な表示と60年近くも引き裂かれてき た家族を再び結びつける機会」と事務総長が述べたように、停戦ライン
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を超えるバスの運行が2005年4月に開始した。 ごく最近では、2007年2月のデーリ・ラホール間の「フレンドシッ プ・エクスプレス」に対する攻撃によって、67人が死亡、20人が負傷し た。潘基文事務総長は、安全保障理事会も同調した声明の中で、テロリ ストによる爆撃を厳しく非難し、犯人の司法の裁きを訴えた。事務総長 はまた、インド、パキスタン両国の指導者が、爆撃に続いて、対話の道 を続けるとの決意を再確認したことに満足の意を表明した。 タジキスタン ソ連の崩壊に伴ってタジキスタンは1991年に独立した。しかしその後 まもなくタジキスタンは深刻な社会的、経済的危機に直面し、地域的、 政治的緊張が高まった。政教分離主義者と親イスラム教伝統主義者との 対立も激しくなり、ついに内戦が勃発するまでになった。5万人以上の 人々が殺された。1994年、事務総長特別代表の主催の下に行われた会談 を通して、停戦合意が生まれた。安全保障理事会は、停戦監視を目的に、 国連タジキスタン監視団(United Nations Mission of Observers in Tajikistan: UNMOT)を設立した。
1997年、国連主催の交渉によって和平合意が生まれた。UNMOT は、 独立国家共同体(CIS)の平和維持軍と欧州安保協力機構(OSCE)ミッ ションと緊密に協力しながら、和平合意の実施を支援した。タジキスタ ンの最初の多党議会選挙が2000年2月に行われた。UNMOT は5月に撤 退し、国連は平和を強固なものにし、かつ民主主義を促進する任務を持 つより小規模の「国連タジキスタン平和構築事務所(UN Tajikistan Office of Peacebuilding: UNTOP) を設置した。UNTOP は、2007年7月31日、そ
の作業を終えた。 UNTOP の閉鎖は中央アジアに対する国連の政治的援助の一章を終え たことを示すものであったが、2007年12月、「国連中央アジア予防外交 センター(United Nations Regional Centre for Preventive Diplomacy for Central Asia) 」の発足とともに新しい一章が始まった。トルクメニスタンの首都、
アシュガバトに本部を置き、地域の諸国政府が、テロリズム、薬物の取
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引、組織犯罪、環境の悪化など、数々の共通の課題や脅威などを平和裏 に、協力的に管理できるように助ける。 同センターは、国連と中央アジア5カ国との間の長年にわたる協議の 頂点を示すもので、多くの領域で各国政府を援助する。それには、紛争 を平和的に予防するための能力育成、対話の実現、特定のプロジェクト やイニシアチブに対する国際支援の触媒となる、ことなどがある。セン ターは、中央アジアにおける既存の国連プログラムや計画、それに地域 機関と緊密に協力する。 カンボジア 国連仲介の1991年パリ協定が実施される前は、カンボジアは内戦が深 く浸透し、どちらかといえば孤立した国家であった。1950年代にフラン スの植民地から解放されて以来、カンボジアは、1960年代と1970年代の ベトナム戦争の波及ばかりではなく、内戦による荒廃やポル・ポト派の 集団殺害全体主義支配に苦しんできた。1975年から1979年までの「ク メール・ルージュ」政権の下に、200万人近くの人々が殺害、病気もし くは飢餓のために死んでいった。多くがカンボジアの悪名高い「キリン グ・フィールド」で死んでいった。 1993年、国連カンボジア暫定統治機構(United Nations Transitional Authority in Cambodia: UNTAC) の援助の下に、カンボジアは最初の民主的選挙を
行った。それ以来、国連機関や計画は政府を助けて国民和解や開発を強 化した。国連人権高等弁務官事務所と事務総長特別代表は、カンボジア が人権を促進し、擁護するのを支援した。これは法の支配と民主的な発 展の柱石となるものであった。 2003年5月、クメール・ルージュ時代に犯した犯罪を訴追する特別裁 判所を設置し、運営することを国連が支援することについて国連とカン ボジア政府との間に合意が成立した。特別裁判所は2005年4月29日に設 立し、2006年7月に裁判官と検察官が就任した。2007年7月までに、両 者は内部規則について合意した。カンボジア裁判所の特別部は人道に対 する罪に対して最初の起訴を発表した。何人かは暫定的拘留を求められ
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た。 ミャンマー ミャンマーの軍事指導部が1990年の民主的選挙を無効にして以来、国 連は包括的な国民和解のプロセスを通して民主主義への復帰や人権状況 の改善を実現するための援助を申し出てきた。1993年、総会は、早急な 民主主義への回帰を訴え、そのプロセスについてミャンマー政府を支援 するよう事務総長に要請した。事務総長は、そのために「あっせん」を 利用しながら、すべての関連当事者との対話を行わせるために3代にわ たる特使を任命した。 総会は、1993年まで事務総長の「あっせん」の任務を毎年更新した。 この任務を通して、国連は4つの主要領域での進展を期待した。すなわ ち、政治犯の釈放、より包括的な政治プロセス、国境地帯での敵対行為 の停止、そして人道援助の提供のための環境作り、であった。 2004−2006年の期間には国連と政府との間にハイレベルの対話がな かったが、国連「あっせん」ミッションが2006年5月に再開し、イブラ ヒム・ガンバリ国連政務担当事務次長がミャンマーを訪問した。9月、 安全保障理事会は、ミャンマー情勢をその議題に入れ、ガンバリ氏は二 度目のミャンマー訪問を行った。 2007年5月、潘基文事務総長はミャンマー特別顧問にガンバリ氏を指 名した。9月、ミャンマーで危機的情勢が発生し、ガンバリ氏がミャン マーを訪問した。11月には再び政府の招請でミャンマーを訪れた。彼は ミャンマーの政府幹部と軟禁中の反政府勢力の指導者、ダウ・アウン・ サン・スウ・チーとその政党、国民民主連盟(NLD)に会った。特別顧 問は、また、ヨーロッパやアジアの国々も含め、関心ある主要な加盟国 と一連のハイレベルの協議を行った。10月、安全保障理事会は、議長声 明を発表し、事務総長の「あっせん」ミッションに対する「強力かつゆ るぎない支援」を表明した。 事務総長の「あっせん」の任務と平行して、人権員会は1992年に、 ミャンマーの人権状況について監視し、報告する特別報告者を任命した。
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その任務はその後人権理事会によって拡大された。政府の招請を受けて 特別報告者は2007年11月にミャンマーを訪れた。 ネパール 10年に及ぶ武力紛争は2006年11月に終わりを迎えた。政党の与党連合 と1996年以来この南アジアの国で武力闘争を続けてきたマオイスト反政 府勢力が包括的和平合意に署名したからであった。合意は、マオイスト と緩やかな調整の下に行われた大衆運動がネパールの独裁的な王政を終 わらせた6カ月後に実現した。こうした劇的な変化とその後において、 国連は重要な役割を果たした。ネパールの要請を受けて、国連は、人権 状況を改善し、かつ平和を堅固なものにできるようにネパールを支援し た。 ネパールにおける国連の活動が表に出てきたのは、国連人権高等弁務 官がネパールにかなり大きな事務所を設置した2005年のことであった。 同事務所は、停戦の行為規範が載せる人権のコミットメントや和平合意 が規定する人権規定を監視することで重要な役割を果たした。その報告 や声明を通して、同事務所は、自制を行使し、意図的に市民をターゲッ トとしないようネパール治安部隊やマオイストに積極的に求めてきた。 国連は数年にわたってネパールでの敵対行為を終わらせ、交渉による 政治的解決を図るよう政治的な努力を続けてきた。2006年7月、政府か ら国連援助の要請を受けて、事務総長は事前評価ミッションをネパール へ派遣した。8月、政府とマオイストは同一の書簡を事務総長に送り、 停戦の行為規範実施と制憲議会選挙を監視し、マオイスト戦闘員とその 武器を指定された野営地へ限定することを監視、検証する有資格の文民 要員を展開させるよう要請した。また、ネパール軍が兵舎に残り、武器 を使用しないように監視することも求めた。 2006年8月、事務総長は和平プロセスを支援する事務総長ネパール個 人代表としてイアン・マーティンを任命した。マーティン氏とそのチー ムは主要な要素について共通の土台を見出せるように当事者を助けた。 たとえば、制憲議会選挙の組織、武器と兵士の管理、和平プロセスにお
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ける国連の役割に関するコンセンサスの達成などであった。 11月、政府は国連援助に対する双方の側の要請を再度行った。事務総 長は、活動のコンセプトについて考えをまとめるために、技術評価ミッ ションをネパールへ派遣するよう安全保障理事会に要請した。そうした 活動には当事者が求める援助を提供する国連政治ミッションや35名の文 民監視要員や25名の選挙顧問の先遣なども含まれることになる。2007年 1月23日、理事会は決議1740を採択し、国連ネパール・ミッション (United Nations Mission in Nepal: UNMIN) を設立した。マーティン氏はつ
いで事務総長特別代表に任命された。 その設立以来、UNMIN はいろいろな分野で積極的に活動してきた。 その武器監視要員はマオイストの武器と戦闘員の登録を監視した。この プロセスは2007年末までに終わることになっている。UNMIN の選挙専 門家は、ネパール選挙委員会を援助し、制憲議会選挙の計画、準備、実 施について技術支援を提供した。UNMIN から独立した小さな国連選挙 監視チームは、選挙プロセスのあらゆる技術的側面についての見直しを 行い、選挙の実施についての報告を行った。他方、UNMIN の民生担当 官は、ミッションがカトマンズ以外の地域社会を参加させることができ るようにし、平和的な選挙が行われる環境を作り出すことを助けた。 2007年末、包括的和平合意のいくつかの面は実施困難であり、制憲議 会選挙がその年に2回も延期された。それにもかかわらず、ネパールは 平和への道に立っており、国連はそのプロセスへの支援を続けている。 ブーゲンビル/パプアニューギニア ブーゲンビル島の独立問題に関して10年に及ぶ武力紛争が続いている ことを受け、1998年初め、パプアニューギニア政府とブーゲンビルの指 導者との間に、和平プロセスの枠組みを決めたリンカーン和平合意が成 立した。その合意のもとに、オーストラリア、ニュージーランド、フィ ジー、バヌアツの監視員から構成される地域休戦監視チームが、「和平 監視グループ」となった。 リンカーン和平合意に従って、パプアニューギニア政府は、合意に対
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する安全保障理事会の支持と小規模の国連監視団の派遣を求め、それが 実現した。国連ブーゲンビル政治事務所(United Nations Political Office in Bougainville: UNPOB) が1998年8月1日に活動を開始した。これは南太
平洋における最初の国連政治ミッションであった。 UNPOB が便宜を図り、議長を務めた会談が2年以上も続いた後の 2001年8月30日、当事者は、武器の廃棄計画、自治、住民投票を決めた ブーゲンビル和平協定に署名した。UNPOB は武器廃棄計画の監視を 行った。廃棄計画の第二段階が終了し、UNPOB がそれを確認した。こ れによって、ブーゲンビル憲法の起草とブーゲンビル自治政府の選挙準 備のための道が開かれた。 2004年1月1日、ブーゲンビルの安定が増したことから、国連は UNPOB に代えてより小規模なミッション、国連ブーゲンビル監視団 (United Nations Observer Mission in Bougainville: UNOMB)を設立した。パプ
アニューギニアのブーゲンビル州で最初の自治政府のための選挙が2005 年5月20日から6月9日まで行われた。6月15日、大統領、下院も含め、 新たな自治政府が成立した。UNOMB の任務も完了した。 ブーゲンビルでの内戦はあまり知られていないが、残忍なものであっ た。1980年代から1990年代にかけておよそ1万5,000人がその犠牲となっ た。国連の活動は成功の成果をもたらしたが、交渉、調停、紛争の解決 に関わってきた。国連は、およそ200丁の武器を回収して廃棄し、当事 者が選挙前の期限に合意するよう奨励し、選挙の実施を可能にした。 東ティモール 2002年5月20日、以前従属地域であった東ティモールは独立を宣言し た。国連は長年にわたる自決のための戦いに積極的に関与してきた(第 7章を参照) 。ついで制憲議会が国民議会となり、9月27日、東ティモー
ルは国連の191番目の加盟国となった。 5月20日の独立宣言に続き、安全保障理事会は「国連東ティモール支 援団(United Nations Mission of Support in East Timor: UNMISET)を設立した。 誕生したばかりの国で中心となる行政機構を発展させ、暫定的な法の執
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行と治安を提供し、警察サービスを開発し、内外の安全の維持に貢献す る。2005年5月にその任務を完了し、UNMISET は国連東ティモール事 務所(United Nations Office in Timor Leste: UNOTIL)に代えられた。UNOTIL は、危機的な国家機関、警察と国境パトロール班の育成を支援、また民 主的統治のための訓練を提供し、人権順守を進めた。 しかし、2006年3月にティモール軍隊の600名近くの兵士が解雇され たことが引き金となって暴力行為が発生し、それが5月にはピークと なって、多数の犠牲者が出た。政府は、重要地点や施設を確保する国際 警察・軍事援助の展開を求め、安全保障理会はそれを支持した。事務総 長は危機を拡散させ、政治的解決を助ける特使を派遣した。政治関係当 事者の広範に及ぶ交渉の結果、7月に新政府が成立し、2007年5月に憲 法に従って選挙を行うことになった。 ついで安全保障理事会は2006年8月25日、新たな拡大された活動、 「国連東ティモール統合ミッション (United Nations Integrated Mission in Timor Leste: UNMIT)」を設立した。これは、 「安定を堅固なものにし、
民主的統治の文化を強化し、ティモール関係者間の対話を促進する」こ とで政府を支援する。それ以来、同国の安定はおおむね維持され、大統 領選挙と議会選挙が2007年5月8月にそれぞれ一般的に平穏な、安全な 環境の中で行われた。
ヨーロッパ キプロス 国連キプロス平和維持軍(United Nations Peacekeeping Force in Cyprus: UNFICYP)は、ギリシャ系住民とトルコ系住民との間の戦闘を防止し、
法と秩序の維持と回復、平常の状態への復帰に貢献するために1964年に 設置された。 1974年、ギリシャ系住民とギリシャ人分子がギリシャとキプロスの連 合を支持してクーデターを実行してトルコの軍事干渉を招き、キプロス 島は事実上2つの地区に分割された。1974年以来、UNFICYP は、1974
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年8月16日に発効した事実上の停戦を監視し、キプロス国家警備隊とト ルコ軍、トルコ系住民軍との間の緩衝地帯を維持してきた。政治的解決 が見られないことから、UNFICYP は現在も同島に駐留を続けている。 事務総長は包括的な解決を求めてあっせんを行い、1999年と2000年に 両指導者間の近接会談を主催した。それに続き、2002年1月からは集中 的な直接会談が行われた。11月、両住民間の相違を埋める目的で包括的 な提案を行った。しかし、再統一キプロスとして期限内(4月16日)に 欧州連合加入条約に署名できるように、双方の側で住民投票を行うとの 提案を提出することについて、両指導者の合意を得ることはできなかっ た。 会談は2003年3月に停止した。4月、トルコ系住民当局が閉鎖地点を 開き、30年ぶりにギリシャ系住民が北へ、トルコ系住民が南へ公に旅行 できるようになった。国連の技師が道路の補修工事を行ったことから、 安全保障理事会は、UNFICYP の文民警察部門を増やし、住民や車両が 安全かつ秩序正しく通行できるようにした。11月2日現在、およそ200 万人の往来が見られた。 事務総長は新しいイニシアチブを歓迎する一方で、それは包括的解決 に代わるものではないと強調した。2004年2月10日、ギリシャ系、トル コ系の両指導者は、ギリシャ、トルコ、イギリスの保証国とともに、事 務総長の詳細な提案に基づいてニューヨークで交渉を再開した。 6週間に及ぶ交渉の後、合意も間近だったので、事務総長は「キプロ ス問題の包括的解決」を図ることに乗り出した。それは、連邦政府に よって結ばれたギリシャ系キプロス人構成国家とトルコ系キプロス人構 成国家から構成される統一キプロス共和国の樹立を呼びかけたもので あった。4月26日、ギリシャ系住民の投票では76パーセントがその計画 に反対し、トルコ系住民の投票では65パーセントがそれを支持した。 両住民の承認が得られず、計画は挫折した。そして5月1日、キプロ スは分割され、軍事境界線をもつ島として欧州連合に加入した。 2006年7月8日、ギリシャ系、トルコ系の両指導者は、国連政務担当 事務次長とともに、直接会談を行った。その結果生まれた「原則セッ
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ト」と「決定」の中で、両指導者は、これまでの安全保障理事会決議に 規定されているように、二つの地帯、二つの共同体の連邦と政治的平等 に基づいてキプロスを統一することに合意した。また、それを達成する ためのプロセスにも合意した。彼らはまた、2007年9月5日に、事務総 長キプロス特別代表のキプロスの公邸で会談し、そのプロセスをできる だけ早く開始する必要に合意した。しかし、2007年11月現在、プロセス はまだ始まっていなかった。 グルジア アルハジア住民とグルジア人との間には何十年にもわたって緊張した 関係が続いてきた。アルハジア(グルジアの北西地域) の現地当局は 1990年にグルジアからの分離を改めて試み、それが1992年に一連の武力 衝突にまで発展した。グルジアは1991年に独立した。何百人もの人々が 死に、およそ3万の人々がロシア連邦へ逃げた。1993年に事務総長特使 が任命され、当事者間の調停を開始した。その年遅く、停戦合意が見ら れた。 安全保障理事会は停戦合意の実施を検証する国連グルジア監視団 (United Nations Observer Mission in Georgia: UNOMIG) を設立した。しかし
戦闘が再開され、内戦にまで発展した。1994年、当事者はモスクワで新 しい停戦協定に合意し、停戦は独立国家共同体(CIS)の平和維持軍に よって監視されることになった。UNOMIG は協定の履行と共に、CIS 軍の活動も監視することになった。 この数年、これまで任命された事務総長特別代表はそれぞれ交渉を続 け、安全保障理事会は包括的解決の必要を強調した。しかしもっとも重 要な政治的問題――グルジア国家内におけるアルハジアの地位――は、 いまだ解決されていない。 バルカン諸国 旧ユーゴスラビア ユーゴスラビア連邦共和国は国連の創設国の1つ であった。1991年、連邦内の2つの共和国、スロベニアとクロアチアが
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独立を宣言した。クロアチアに住むセルビア人はユーゴスラビア軍の支 援を受けてこの運動に反対し、セルビアとクロアチアとの間に戦争が始 まった。これに応えて、安全保障理事会は、ユーゴスラビアに対する武 器禁輸を決定し、事務総長は欧州共同体の和平努力を支援する個人特使 を任命した。 1992年、安全保障理事会は、解決のための条件を作り出すために、国 連保護軍(United Nations Protection Force: UNPROFOR) を設立し、当初ク ロアチアに展開させた。他方、戦争は同じく独立を宣言していたボスニ ア・ヘルツェゴビナへと拡大した。この動きはボスニアのクロアチア人 とイスラム教徒の支持を受けたが、ボスニアのセルビア人は反対した。 セルビアとクロアチアの軍隊が介入し、安全保障理事会はユーゴスラビ ア連邦共和国(セルビアとモンテネグロで構成)に対して経済制裁を実施 した。 戦争が激化し、第2次世界大戦以来のヨーロッパで最大の難民危機が 発生した。 「民族浄化」が広く報道されるようになり、安全保障理事会 は1993年、戦争犯罪を訴追する国際刑事裁判所を初めて創設した。理事 会はまた、いくつかの場所を戦闘から守るために「安全地域」と宣言し た。 UNPROFOR はボスニアでは人道援助の輸送を保護し、首都サラエボ やその他の「安全地域」を保護することに努めた。しかし、平和維持司 令部が3万5,000人の部隊を要求したにもかかわらず、安全保障理事会 が承認したのはわずか7,600人の部隊であった。サラエボに対する攻撃 を止めさせるため、北大西洋条約機構(NATO) は1994年、事務総長の 要請を受けて空爆を承認した。空爆に対抗して、ボスニアのセルビア人 勢力は400人の UNPROFOR 監視員を拘束し、 「人間の盾」として利用し た。 1995年、戦闘は激化した。クロアチアはセルビア人の住む地域に大攻 勢をしかけた。NATO は、ボスニアのセルビア人勢力によるサラエボ砲 撃に対して、大規模な空爆を加えてそれに応じた。ボスニアのセルビア 軍はスレブレニッツァとジェバの「安全地域」を占拠し、スレブレニッ
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ツァではおよそ7,000人の非武装の男子や少年を殺害した。第2次世界 大戦後にヨーロッパで起こった最悪の虐殺であった。1999年の報告の中 で、事務総長は、スレブレニッツァを頂点とした民族浄化キャンペーン に対する国連と加盟国の対処の誤りを認め、この悲劇は「われわれの歴 史に永遠に付きまとうであろう」と述べた。 1995年に米オハイオ州のデイトンで行われた会談で、ボスニア・ヘル ツェゴビナ、クロアチア、ユーゴスラビアの間に合意が見られ、42カ月 間続いた戦争は終わった。合意が確実に守られるようにするため、安全 保障理事会は、NATO 主導の実施部隊(Implementation Force: IFOR)の展 開を承認した。これは6万人の兵力を持つ多国籍軍であった。 理事会は、また、国連国際警察隊(United Nations International Police Task Force)を設立した。これはより規模の大きい国連ボスニア・ヘルツェゴ
ビナ・ミッション(United Nations Mission in Bosnia and Herzegovina: UNMIBH) に吸収された。ミッションは難民と避難民の帰還を可能にし、平和と安 全を育み、国の行政機構の整備を支援した。1996年、理事会は国連プレ ブラカ監視団(United Nations Mission of Observers in Prevlaka: UNMOP)を設 置し、プレブラカ半島の非武装化を監視させた。この半島はユーゴスラ ビアが獲得しようと争うクロアチアの戦略地域であった。UNMIBH と UNMOP は2002年末で任務を終了した。 コソボ 1989年、ユーゴスラビア連邦共和国はコソボの地方自治を無 効にした。コソボはユーゴスラビアの南部にある州で、歴史的にセルビ ア人にとって重要な地域であったが、住民の90パーセント以上が民族的 にアルバニア人であった。コソボのアルバニア人は同意せず、自治を求 めてセルビア国家機関や行政当局をボイコットした。 緊張が高まり、1996年、武力による独立を求めてコソボ解放軍(KLA) が表に出てきた。KLA は武装反逆を通して独立を求めていた。セルビ ア人役人やセルビア政権と協力するアルバニア人を対象に攻撃を開始し た。セルビア当局は大量逮捕の形でそれに応えた。1998年3月、セルビ ア人警察が表面上は KLA メンバーを探すとの口実で、ドレニカ地域を 一掃したため、戦闘が始まった。安全保障理事会はコソボも含め、ユー
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ゴスラビアに対する武器禁輸を決めたが、事態は悪化を続け、公然とし た戦争になるまでになった。 ついで1999年3月、ユーゴスラビアに警告を発し、かつセルビア人の コソボ攻撃を念頭に置きながら、NATO はユーゴスラビアに対する空爆 を開始した。事務総長は、外交が失敗に終わったことは悲劇であると述 べた。 「武力の行使が平和の追求において正当でありうる」時もあった が、そうしたいかなる決定においても安全保障理事会が関与しなければ ならない、と事務総長は強調した。 ユーゴスラビア軍は KLA に対して大攻撃を仕掛け、ユーゴスラビア はアルバニア系住民の大量国外追放を開始した。これによって未曾有の およそ85万人の難民が流出することになった。UNHCR と他の人道機関 は、アルバニアとマケドニア旧ユーゴスラビア共和国へ急行し、難民の 救援にあたった。 6月、ユーゴスラビアは8カ国グループ(西欧の先進工業国7カ国とロ シアで構成)提案の和平計画を受諾した。安全保障理事会は同計画を支
持し、敵対行為を抑制し、KLA の非武装化を図り、難民の帰還を可能 にさせる治安部隊を設置する権限を加盟国に与えた。理事会は、暫定的 な国際文民行政機関を設置し、コソボの人々が持続可能な自立と自治を 享受できるようにするよう事務総長に要請した。ユーゴスラビア軍は撤 退した。NATO は爆撃を停止し、5万人の多国籍「国際安全保障部隊 Kosovo Force(KFOR)」が治安確保のために到着した。 国連コソボ暫定行政ミッション (United Nations Interim Administration Mission in Kosovo: UNMIK)が直ちに設立された。その任務はその複雑性
や規模の点で未曾有のものであった。安全保障理事会は、すべての立法 権、行政権、司法の運営を含め、コソボとコソボ住民を統治する権限を UNMIK に与えた。 戦争中に逃げたおよそ85万の難民のうち少なくとも84万1,000人が帰 還した。まず行わなければならなかったことは、到来しつつある冬の極 寒から彼らを守ることであった。この目標は達成された。UNMIK の貢 献によって、平常生活が取り戻され、長期的な経済の再建の道が開かれ
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た。KLA は1990年9月までに全員武装解除され、市民社会へ社会復帰 した。停戦に続く数カ月の間に、合同委員会が、コソボからセルビアや モンテネグロへと逃れていっていたおよそ21万人の非アルバニア系コソ ボ住民を安全に帰還させた。残りの非アルバニア系少数者は、KFOR に 守られた孤立した飛び地に住んだ。 2001年4月、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所は、 「コソボのコソ ボ・アルバニア系住民に対する組織的攻撃」の間に人道に反する罪を犯 したとしてスロボダン・ミロシェビッチ元ユーゴスラビア大統領とその 他の4人を起訴した。弁護人が答弁書をほとんど終えたとき、ミロシェ ビッチは拘留中に自然死した。2006年3月11日であった。彼は、クロア チア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボでの集団殺害罪、人道に反す る罪、戦争犯罪など、66件の訴因で訴えられていた。 安全保障理事会は2001年9月に武器禁輸を解除した。11月、議会選挙 が行われ、120人の議員が選出された。また、最初の大統領と首相も選 ばれた。12月、UNMIK は、特定の責任の現地暫定機関への移譲が完了 した。しかし、治安、対外関係、少数者の権利の保護、エネルギーにつ いては、コソボの最終地位が決まるまで、UNMIK が管理することにし た。 2006年、事務総長特使のマルッティ・アハティサーリ元フィンランド 大統領は4回にわたる当事者間の直接交渉とセルビア、コソボのトップ 間の最初のハイレベル会合を行った。しかし、コソボのアルバニア系政 府とセルビアはまったく異なる意見であった。2007年2月、彼は「譲歩 提案」として最終的な地位計画を提出した。しかし、当事者は応じな かった。その後、彼はコソボに残された唯一の選択肢は独立であると報 告した。独立はセルビアが一貫して反対していた。 2007年8月、潘基文事務総長は、欧州連合、ロシア、米国の3カ国構 成のトロイカについての合意は、コソボの将来の地位に関する交渉をさ らに続けさせるものだとして、歓迎した(www.unmikonline.org を参照)。
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軍 縮 (http://disarmament.un.org:8080)
国連の誕生以来、多国間軍縮と軍備規制の目標が国際の平和と安全を 維持する活動の中心となってきた。国連が最大の優先度を与えたのは、 核兵器の削減とその究極的な廃絶、化学兵器の廃棄、生物兵器禁止の強 化であった。これらの兵器はすべて人類に対する最大の脅威である。こ の目的は今でも変わっていないが、政治的現実や国際情勢の変化を反映 して審議や交渉の規模は変わってきた。 国際社会は現在、過剰に供給され、かつ国際の安定を損なう小型武器 の拡散の問題により真剣に取り組んでいる。また大量の地雷敷設の問題 と闘うために資源の動員を図っている。これらの武器は社会の経済的、 社会的構造を脅かし、かつ女子や子どもを中心に、一般の市民を殺害し、 障害者とさせてきた。また、弾道弾ミサイル技術の拡散に関する規範を 多国間で交渉する必要、紛争終了後の爆発性戦争残存物、新しい情報・ 電気通信技術の発達が国際の安全保障に与える影響についても検討が始 まっている。 アメリカにおける2001年9月11日の悲劇とそれに続く多くの国で見ら れたテロ攻撃は、大量破壊兵器が非国家主体の手に落ちた場合の危険が いかに大きいかをはっきりと物語っていた。テロリストが化学兵器や生 物兵器、核兵器を取得し、使用していたら、惨害はもっと大きなものに なっていたであろう。こうした懸念を反映して、2002年の第57回総会は、 テロリストが大量破壊兵器とその運搬手段を取得することを防止する措 置に関する決議をはじめて採択した。 2004年、安全保障理事会は、大量破壊兵器がとくに非国家主体へ拡散 することの危険に関して初めて公式の決定を行った。国連憲章の強制措 置に関する規定の下に、理事会は全会一致で決議1540を採択し、核兵器、 化学兵器、生物兵器およびその運搬手段の開発、取得、製造、所有、輸 送もしくは利用を企図する非国家主体に対していかなる支援も控えるこ
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とをすべての加盟国に義務付けた。決議はすべての国に広範な義務を課 すもので、各国は関連物資の適切な管理も含め、核兵器、化学兵器、生 物兵器、およびその運搬手段の拡散を防止する国内措置を採らなければ ならない。 それに続き、総会は「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際 条約」を採択し、同条約は2005年9月に署名のために開放された。 実際の兵器の軍縮や協定順守の検証に関する役割に加え、国連は多国 間の軍縮にも重要な役割を果たしており、加盟国が新しい規範を確立し、 既存の協定を強化かつ堅固にできるように支援する。テロリストによる 大量破壊兵器の使用もしくはそれを使用するとの威嚇を抑制するもっと も効果的な手段の一つは、これらの兵器を禁止し、かつその拡散を防止 するためにすでに開発された多国間体制をさらに強化することである。
軍縮機関 国連憲章は、 「国際の平和及び安全の維持についての協力に関する一 般原則を、軍備縮小及び軍備規制を律する原則も含めて」審議する主な 責任を総会に与えている(国連憲章第11条)。総会には軍縮問題を取り上 げる2つの補助機関がある。1つは総会の第一委員会(軍縮と国際安全 保障)で、通常総会の会期中に開かれ、総会の軍縮問題に関する議題の
すべてを取り上げる。2つ目は、軍縮委員会(Disarmament Commission) で、特定の問題を取り上げる専門的な審議機関で、毎年3週間ほど開か れる。 ジュネーブ軍縮会議(Conference on Disarmament)は、軍縮協定につい て審議する唯一の多国間交渉の場である。会議は「化学兵器条約(Chemical Weapons Convention) 」や「包括的核実験禁止条約(Comprehensive NuclearTest Ban Treaty)」についての交渉を成功させた。国家の安全保障上の利
害に触れるような問題も取り上げる。そのため会議の作業はすべて厳格 なコンセンサスに基づいて進められる。会議は66カ国で構成され、総会 とはユニークな関係を維持している。軍縮会議は独自の手続き規則を持
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多国間軍縮・軍備規制協定 多国間会議や地域会議の交渉を通して締結された重要な国際軍縮・軍 備規制措置は、年代別に以下の通りである。 ・1959年「南極条約(Antarctic Treaty)」――南極大陸を非武装化し、い かなる兵器の実験も禁止する。 ・1963年「大気圏内、宇宙空間、水中における核兵器実験禁止条約 (Treaty Banning Nuclear Weapon Tests in the Atmosphere, in Outer Space and under Water)」――核実験を地下実験のみに限定する。 ・1967年「ラテンアメリカ・カリブにおける核兵器禁止条約=トラテロ ルコ条約(Treaty for the Prohibition of Nuclear Weapons in Latin America and the Caribbean)」――域内国による核兵器の実験、使用、貯蔵、ま たは取得を禁じる。 ・1967年「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国 家の活動を律する原則に関する条約(Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space, including the Moon and Other Celestial Bodies)」――宇宙空間は平和目的にのみ 利用するとの義務を課し、かつ宇宙空間における核兵器の設置と実験 を禁止する。 ・1968年「核兵器不拡散条約(Treaty on the Non Proliferation of Nuclear Weapons: NPT)」――非核兵器国は核兵器を取得しないことに同意す る代わりに、原子力技術へのアクセスを約束される。他方、核兵器国 は核軍備競争の中止と核軍縮について交渉し、かついかなる方法にお いても核兵器を非核兵器国へ移転しないことを誓う。 ・1971年「核兵器および他の大量破壊兵器の海底における設置の禁止に 関する条約(Treaty on the Prohibition of the Emplacement of Nuclear Weapons on the Sea Bed and the Ocean Floor and in the subsoil Thereof)」 ――海底および海床に核兵器もしくはいかなる大量破壊兵器の設置も 禁止する。 ・1972年「細菌(生物)兵器条約(Convention on Bacteriological(Biological)Weapons: BWC)」――生物兵器および毒素兵器の開発、生産お よび貯蔵を禁止し、そうした兵器と運搬手段を破壊することを規定す る。 ・1980年「特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Con-
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ventional Weapons: CCWC)」――過度の障害もしくは無差別の効果を 持つと想定される通常兵器を禁止する。議定書 I は、人体内に入った 場合に X 線で検出することのできない破片を利用する兵器を禁止す る。改定議定書 II(1995年)は、あるタイプの地雷、ブービートラッ プ、その他の類似の装置の使用を制限する。議定書 III は、目標に火 災を生じさせる意図を持つ焼夷兵器を禁止する。議定書 IV は、失明 をもたらすレーザー兵器の使用を禁止する。 ・1985年「南太平洋非核地帯条約=ラロトンガ条約(South Pacific Nuclear Free Zone Treaty)」――核爆発装置の配備、取得もしくは実験と 同地帯内における核廃棄物の投棄を禁止する。 ・1990年「欧州における通常兵器による武装軍隊に関する条約(Treaty on Conventional Armed Forces in Europe: CFE 条約)」――大西洋からウ ラル山脈までの地帯における各種の通常兵器の数を制限する。 ・1992年オープンスカイ条約(Open Skies Treaty)――締約国は、協力 と公開の原則に基づいて互いの領土の上空を飛行し、かつ観測できる。 いくつかの軍備管理条約の検証や他の監視メカニズムのために利用さ れてきた。 ・1993年「化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention: CWC)」 ――化学兵器の開発、生産、貯蔵および使用を禁止し、その廃棄を求 める。 ・1995年「東南アジア非核地帯条約=バンコク条約(Southeast Asia Nuclear Weapon Free Zone Treaty)」――条約の締約の領土における核兵 器の開発もしくは配備を禁止する。 ・1996年「アフリカ非核地帯条約=ペリンダバ条約(African Nuclear Free Zone Treaty) 」――アフリカ大陸における核兵器の開発もしくは 配備を禁止する。 ・1996年「包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty: CTBT)」――いかなる種類、いかなる環境における核実験も 世界的に禁止する。 ・1997年「対人地雷全面禁止条約(Mine Ban Convention)――対人地雷 の使用、貯蔵、生産および移転を禁止し、かつその破壊を規定する。 ・2005年「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(International Convention for the Suppression of Acts of Nuclear Terrorism: Nuclear Terrorism Convention)――核によるテロリズムの特定の行為を規定。
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広い範囲の攻撃対象を保護する目的を持ち、犯人の処罰を求め、国家 間の協力を促進する。 ・2006年「中央アジア非核地帯条約(Central Asia Nuclear Weapon Free Zone Treaty)――カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トル クメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5カ国で構成。 (これらの条約の批准状況については、http://disarmament.un.org/TreatyStatus. nst を参照)
ち、議題も自身で決める。しかし、総会の勧告を考慮に入れ、毎年総会 に報告する。しかし1997年以来、軍縮の優先順位について加盟国間のコ ンセンサスが得られず、実質的な作業計画に合意することができない状 態が続いている。 国連事務局にあって、軍縮部(Office for Disarmament Affairs: ODA)は、 軍縮問題に関する総会の決定を実施する。国連軍縮研究所(United Nations Institute for Disarmament Research: UNIDIR)は、軍縮と関連問題、とくに国
際安全保障問題について独立した研究を行う。軍縮諮問委員会(Advisory Board on Disarmament Matters)は、軍備制限や軍縮に関連した問題につい
て事務総長に助言を与え、UNIDIR 評議会として機能する。また、国連 軍縮広報計画(United Nations Disarmament Information Programme)の勧告の 実施について事務総長に助言する。
大量破壊兵器 核兵器 これまでの努力の結果、国際社会は数多くの軍縮協定を締結すること ができた。核兵器を削減し、核兵器の展開を特定の地域や環境(たとえ ば、宇宙空間、海床) から排除し、その拡散を制限し、核実験を終わら
せることを目的とした条約が結ばれた。こうした成果にもかかわらず、 核兵器とその拡散は依然として平和に対する主要な脅威であり、また国 際社会にとっての主要な挑戦である。 この領域での関心事項は、核兵器削減の必要、核不拡散体制の正当性
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2 国間協定 ・1972年「対弾道ミサイルシステムの制限に関する条約(1972 Treaty on the Limitation of Anti Ballistic Missile System: ABM 条約)」は、アメ リカとソ連の対弾道ミサイルシステム数をそれぞれ一基に制限した。 1997年のアメリカ・ロシア間の「デマケーション」協定は、 「戦略」 もしくは長距離射程 ABM と「非戦略」もしくは短距離射程 ABM と を区別している。前者は今でも禁止されているが、後者は禁止されて いない。 ・1987年「中距離および準中距離ミサイルの廃棄に関する米ソ間条約 (1987 United States Soviet Union Intermediate-and Shorter-Range Nuclear Forces Treaty: INF 条約)は、射程距離500キロから5500キロまでの地 上発射台を使用する弾道ミサイルおよび巡航ミサイルを含め、すべて のクラスのミサイルを廃棄する。1996年末までに、同条約の規定のも とに破壊を予定されたすべての兵器が廃棄された。 ・1991年「戦略攻撃兵器の削減および制限に関する米ソ間条約(1991 United States Soviet Union Strategic Arms Limitation and Reduction Treaty: START I)は、2001年までに、それぞれの側で長距離核運搬手段を 1,600、弾頭数を6,000に削減し、1991年の貯蔵レベルのおよそ30パー セント削減を達成することを目的とした。 ・1992年 START I リスボン議定書(1992 Lisbon Protocol to START I)は、 ロシア連邦、ベラルーシ、カザフスタンとウクライナはソ連の承継国 家として START I 条約を順守する義務を有すると決めた。ベラルー シとカザフスタン、ウクライナは非核兵器国として NPT を順守する ことになった。1996年までに、これら3カ国はすべての核兵器を自国 領土から撤去した。 ・1993年「戦略攻撃兵器の一層の削減および制限に関する米ソ間条約 (1993 Strategic Arms Limitation and Reduction Treaty II: START II)」は、 長距離核ミサイルの弾頭数を2003年までに3,500個までに削減するこ とを米ソに求め、かつ個別誘導複数目標弾頭(MIRV)を装備した大 陸間弾道ミサイル(ICBM)を廃棄した。1997年の協定によって、発 射システム――ミサイル・サイロ、爆撃機、潜水艦――の廃棄の期限 は2007年末まで延長された。 ・2002年5月24日、 「戦略攻撃能力削減に関する条約(Strategic Offensive
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Reductions Treaty: SORT)」が、ロシア連邦、アメリカの両国大統領に よって署名された。これは「モスクワ条約」としても知られる条約で、 両国はこの条約で、配備される戦略核弾頭のレベルを1,700発から 2,200発までの間の数に削減することに同意した。条約は2012年12月 まで有効である。その後は当事国の合意によって延長もしくは廃止さ れる。
の支持、弾道ミサイルやミサイル防衛システムの開発と拡散の防止など である。 核兵器に関する2国間条約 核兵器を封じ込める国際的な努力はい ろいろな場で続いているが、一般に理解されていることは、核兵器国に は安定した国際安全保障の環境を維持する特別の責任があるということ である。冷戦中および冷戦後、米ソ2大国は核戦争の脅威を大きく緩和 させたさまざまな協定について合意に達した。 核兵器および核不拡散に関する多国間協定 1968年の核兵器不拡散 に関する条約(NPT)は、多国間の軍縮条約の中でももっとも普遍的な 条約で、1968年に署名のために開放され、1970年に発効した。NPT は グローバルな核不拡散体制の柱石であって、核軍縮を進めるための重要 な基礎となるものである。NPT 締約国による2000年再検討会議は最終 文書を採択し、核兵器国はその中で「核兵器の全面的廃絶を達成する… 明確な約束」を行った。 会議では、核兵器能力についての透明性を高め、かつ安全保障政策に おいては核兵器の役割を縮小させるべきであることについて意見の一致 が見られた。2003年1月に朝鮮民主主義人民共和国は NTP から脱退す るとの決定を行った。このことは国際社会にとって大きな懸念となった。 そうした決定は NPT が33年前に発効して以来、初めてのことであった。 2005年の再検討会議では、参加国は実質的成果について合意に達するこ とができなかった。 NPT が課す義務の検証を受けるために、締約国は国際原子力機関 (IAEA)の保障措置を受け入れるよう求められている。2007年3月現在、
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保障措置協定は166カ国と結ばれていた。それには NPT に基づくおよそ 140件の包括的保障措置協定も含まれる。NPT に加え、トラテロルコ、 ラロトンガ、バンコク、ペリンダバの各条約も、IAEA の保障措置を適 用させるよう非核兵器国に求めている。 1996年の国連総会で加盟国の圧倒的多数が「包括的核実験禁止条約 (Comprehensive Nuclear-Test Ban Treaty: CTBT)」を採択した。条約はいかな
る場所においても核実験の爆発を禁止している。条約は1954年に初めて 提案されたが、条約の採択まで40年もかかった。この条約によって1963 年の部分的核実験禁止はすべての環境へ拡大されることになった。1996 年に署名のために開放されたが、まだ発効していない。条約の発効のた めに批准を必要とされ、付属文書 II にリストされた44カ国のうち、10 カ国は署名も批准も行っていない。 国連事務総長は、条約の受託者として、1999年、2001年、2003年、 2005年、2007年と、「CTBT 発効促進会議」を5回開催した。2007年9 月ウィーンで開かれた会議は、条約への普遍的加入を達成することの重 要性を強調し、発効を促進するための特定の措置を概説した宣言を採択 した。 ウィーンに設置された包括的核実験禁止条約機関(Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty Organization: CTBTO) 準備委員会には177の署名国が参加
し、また1997年に設立された暫定技術事務局では、CTBT が発効するま でに国際監視制度を発足させる準備が進められている。 「国連と CTBTO 準備委員会との関係を規制する協定」が2000年に署名された。 非核兵器地帯 1967年、ラテンアメリカ・カリブにおける核兵器禁 止条約(トラテロルコ条約)は、地球上の人間の住む地帯に初めて核兵 器のない地帯を設置した。これは地域的な軍備管理の分野で新しい運動 の先触れとなる発展であった。2002年、キューバが批准書を寄託した。 これによって、ラテンアメリカおよびカリブ海域の非核地帯は域内のす べての国を含むことになり、堅固になった。 それ以来、4つの非核地帯が南太平洋(ラロトンガ条約、1985年)、東 南アジア(バンコク条約、1995年)、アフリカ(ペリンダバ条約、1996年)、
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そして中央アジア(中央アジア非核兵器地帯条約、2006年)に設けられた。 中欧や南アジアに非核地帯を設置し、中東に非大量破壊兵器地帯を設置 する提案も出されている。1998年にモンゴルが非核国家を宣言し、総会 がそれを支持したことから、個々の国家を非核地帯とする概念も認めら れるようになった。 核拡散防止 国際原子力機関(IAEA) は、国際的な核拡散防止活 動のなかで顕著な役割を果たしている。IAEA は、民生の原子力計画を 対象とした保障措置を進め、かつ検証するという国際査察官の役目を果 たしている。 国家との協定のもとに、IAEA の査察官は定期的に原子力施設を訪問 し、核物質の存在に関する記録を検証し、IAEA 設置の計器や監視器具 を点検し、核物質在庫表を確認する。こうした安全保障措置のすべては、 関係国政府が平和目的のためにのみ原子力を利用するという公約を順守 しているかを独立した立場で、国際的に検証するためである。 2006年、155カ国(および中国の台湾) で発効している238件の保障措 置協定の実施を検証するために、IAEA 専門家が1,733件の保障措置の査 察を行った。その目的は、およそ70カ国以上のおよそ900の原子力施設 が保有する核物質が合法的な平和利用から軍事目的に転用されないよう にすることである。そうした年間の査察を通して、IAEA は国際の安全 保障に貢献し、武器の拡散防止と非核兵器世界の実現に努力している。 IAEA とはさまざまなタイプの保障措置協定を結ぶことができる。 NPT に関連した協定、既存保障措置協定の追加モデル議定書、トラテ ロルコ条約、ペリンダバ条約、ラロトンガ条約は、自国のすべての核燃 料サイクル活動を IAEA の保障措置のもとにおくよう非核兵器国に要請 している。その他の協定は単一の施設における保障措置を規定している。 NPT のもとにおける IAEA 保障措置は国際核不拡散体制と不可分の一 体をなすもので、条約の実施において不可欠の役割を果たしている。 化学・生物兵器の脅威の除去 「化学兵器禁止条約」(Chemical Weapons Convention: CWC) が1997年に
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発効したことによって、1925年に始まった作業は完了した。1925年は ジュネーブ議定書が初めて有毒ガス兵器の使用を禁止した年であった。 化学兵器禁止条約は、国際軍備管理史上初めて、締約国の条約上の義務 順守を監視する厳格な国際検証体制を創設した。これには化学施設に関 する情報の収集や通常の国際的な査察が含まれる。 そのためにオランダのハーグに化学兵器禁止機関(Organization for the Prohibition of Chemical Weapons: OCPW)が設置された。OPCW は2007年8
月までに、79の締約国の1,080の施設で3,000件の査察を行った。そうし た査察を通して、OPCW は、条約のもとに宣言された65の化学兵器生 産施設のうち、61施設が破壊もしくは平和目的に転用されたことを確認 した。 「化学兵器の運用を再検討する締約国会議」の第1回特別会期が、 2003年に開かれた。国連と OPCW との関係に関する協定は2000年に署 名された(www.opcw.org を参照)。 CWC とは異なり、1972年の「生物兵器禁止条約(Biological Weapons Convention: BWC) 」には検証機構についての規定はない。条約は1975年
に発効した。しかし、締約国は、信頼醸成措置の一環として、ハイリス クの生物学研究施設のような項目について詳細な情報の交換を行ってい る。第6回生物兵器条約締約国再検討会議は、2006年12月に開かれ、条 約の実施について締約国を助ける「実施支援班(Implementation Support Unit: ISU) 」を設置することに決定した。
核不拡散条約や化学兵器条約――それぞれ IAEA と OPCW の支援を 受ける――とは異なり、今までは生物兵器に関しては制度上の支援はな かった。この班は、国連軍縮部の一部として、2007年8月20日にジュ ネーブで活動を開始した。必要な資金は条約の締約国が負担する。 国際社会は、BWC や CWC の普遍化をはかるとともに、それを全面 的に実施し、かつ生物化学兵器の拡散を防止しなければならない。これ は国際社会に課せられた重要な任務である。さらに、総会決議に基づい て設置された政府専門家パネルがミサイルに関係したあらゆる問題を取 り上げている。
国際の平和と安全 209
通常兵器、信頼醸成および透明性 (http://disarmament.un.org/cab)
小型武器と実際的な軍縮 冷戦の終焉とともに、世界の多くの地で 国家内の紛争が続発するようになった。そうした紛争で選ばれたのが小 型武器であった。これらの兵器は紛争の原因ではないが、暴力を激化さ せ、子どもの兵士を利用させ、人道援助を妨げ、紛争後の復興や開発を 遅らせる。 現在世界の許可された銃器の数は少なくとも6億4,000万丁である。 これらのうち、おおよそ3分の2が市民社会の手の中にあり、2億2,500 万丁以上が軍隊や法の執行機関に所属する。ほとんどのその他のタイプ の小型武器についての推定は、難しい。これらの武器の合法的な取引額 は年間540億ドルを超え、不正取引額は年間10億ドル相当になるものと 信じられている。不正武器の拡散を防ぐことが、小型武器のあらゆる問 題を国際、地域、もしくは国内のレベルで取り締まるための第一歩であ る。 2001年、 「小型武器非合法取引のあらゆる側面に関する会議」が国連 で開催された。その結果生まれた行動計画の下で、参加国は以下のこと に合意した。すなわち、ライセンスを受けた製造業者は生産過程でそれ ぞれの武器に信頼にたるマーキングをつけること、その管理の下にある 武器の製造、所有、移転に関して包括的かつ正確な記録を保管すること、 そうした武器の非合法取引を特定し、追跡する協力を強化すること、押 収、没収、回収されたすべての小型武器は廃棄されると保証すること、 などである。 その結果は、政府の売買禁止活動が大幅に強化されたことであった。 行動計画採択後の5年間、140カ国近くが非合法の銃取引について報告 した。他方、全国家の3分の1が、法的に所有する権利を持たない人々 から銃を回収する努力を行った。また、国境を越える非合法武器の流れ を食い止める国家間、地域間の協力が強化された。2006年6月26日から 7月7日まで、政府、国際・地域機関、市民社会の代表、2,000人以上が、
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国連本部で開かれた2週間の会議に参加し、行動計画の実施を再検討し、 この問題に世界の注意を引くことに成功した。 違法な小型武器の無規制な拡散は、子どものための活動から健康、難 民、開発に関する活動に至るまで、国連活動の多くの側面に影響を与え る。こうしたことから、1998年に「小型武器に関する行動の調整」と呼 ばれるメカニズムが発足した。これは、国連システムが調整の取れた方 法で小型武器の規制の問題にあたることを保証するものである。小型武 器がもたらす惨害に対処する包括的な活動も市民社会によって始められ、 グローバルなレベルで小型武器に関する研究、調整された国内行動の促 進、武器の取引に関する国際条約の締結を求めるロビー活動などが行わ れている。 対人地雷 対人地雷がこれまで以上に世界各地に拡散し、無差別に 使用されていることが、特別の注意を集めてきた。1995年、特定通常兵 器使用禁止制限条約(いわゆる残忍兵器禁止条約)の再検討の結果、改定 議定書 II が生まれた。改定議定書は1998年12月3日に発効した。それ によって、地雷の使用、移転、型式(自己破壊および探知可能)に関する 制限が強化された。現在、86カ国がこの議定書による義務を負っている。 しかし、一部の国々は、重大な人道危機に対する対応が不十分だと考 え、満足しなかった。こうした「同じ考えの」国々は、あらゆる対人地 雷の全面禁止に関する協定について交渉を重ねた。「対人地雷の使用、 貯蔵、生産および移転の禁止ならびに廃棄に関する条約(Convention on the Prohibition of the Use, Stockpiling, Production and Transfer of Anti-personnel Mines and on Their Destruction) 」であった。同条約は1997年に署名のために開放
され、1999年3月1日に発効した。2007年8月現在、155カ国が締約国 となった。 2つの文書の実施が成功し、被災国では貯蔵されていた地雷は破壊さ れ、地雷の除去も行われて新しい犠牲者の数が少なくなった。「地雷監 視報告2006年」によると、2006年7月現在、同条約締約国のうちの138 カ国が対人地雷を貯蔵しておらず(www.icbl.org 参照)、また締約国は集 団で3,950万個の対人地雷を破壊したと思われる。
国際の平和と安全 211
地雷との闘い 1980年代以来、国連は78カ国以上の国々にばら撒かれた何百万という 対人地雷の問題に取り組んできた。毎年1万5,000人から2万人が地雷 によって殺されている。たとえ殺されないにしても重度の障害者となっ ている。こうした人々のほとんどが子どもたちや女性、高齢者である。 紛争が終わって数年、いや何十年も経っても地雷は一般市民に被害を与 えている。それにもかかわらず、地雷は戦争の兵器として使われ続けて いる。 法律の領域では、国連主催の「残忍な兵器禁止条約」(1980年)が 1996年に強化され、内戦における地雷の使用にも適用されるようになっ た。また、すべての地雷は探知可能でなければならないことになった。 1997年の歴史上画期的な「対人地雷の使用、貯蔵、生産および委譲の禁 止並びに廃棄に関する条約(Convention on the Prohibition of the Use, Stockpiling, Production and Transfer of Anti personnel Mines and on Their Destruction) 」が対人地雷の生産、使用、輸出を禁止した。 現場では、14の国連機関、計画、部局、基金が地雷関係の活動に積極 的に取り組んでいる。これらの機関は地雷や爆発性戦争残存物を見つけ 出して破壊している。また、犠牲者を支援し、地雷汚染地域で身の安全 を守る方法を教え、貯蔵された地雷を廃棄し、地雷禁止条約のような国 際協定への普遍的参加を奨励している。 国連地雷対策サービス部(United Nations Mine Action Service: UNMAS) は、国連諸機関によるすべての地雷関連の活動を調整する。政策と基準 を発展させ、地雷や不発弾がもたらす脅威について評価と監視を行い、 情報を収集して広め、資源を動員し、対人地雷のグローバルな禁止を支 援する普及活動を行う。また、人道的緊急事態や平和維持活動において 地雷対策活動を行う責任もある(www.mineaction.org を参照)。
爆発性戦争残存物(ERW) と対戦車地雷(MOTAPM) 対人地雷に ついては重要な措置が採られてきたものの、他の爆発性弾薬によって多 くの人々が死に、負傷している。こうした兵器は、不注意な接触もしく は意図的にいじることによって人々に危険をもたらす。とくに、危険性 がよく理解されていない場合がそうである。MOTAPM は、数は少ない
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がその被害は大きい。戦略地域に敷設されると、一個の地雷だけで道路 を閉鎖しなければならないほどの損害を与え、日常の活動を中断させて しまうほどの威力がある。たとえば除去防止のための装置や最低限の金 属内容など、他の性格を持つ MOTAPM との組み合わせで使用すると、 その人道上の影響はきわめて深刻となる。 「特定通常兵器使用禁止制限条約」締約国の政府専門家グループは、 紛争後の救済措置に関する文書について交渉している。これは爆発性戦 争残存物が原因となる危険を軽減するものである。また、無責任な使用 がもたらす危険を削減するもっともふさわしい方法を検討するために、 MOTAPM に関する問題も検討している。 通常兵器の登録 国家間の信頼醸成と安全に貢献するために、総会 は1992年、 「国連通常兵器移転登録制度」を設立した。この任意の報告 取り決めによって、参加国政府は7つのカテゴリーの主要通常兵器シス テムの輸出入に関する情報を提供する。潜水艦を含む軍艦、戦車、装甲 車、戦闘機、攻撃ヘリコプター、大口径大砲、それに短距離携帯式地対 空ミサイルやミサイル発射台である。 加盟国はまた、小型武器の移転、国内生産を通す調達、軍事目的の保 有についてのデータを提供することも求められている。国連はそうした データを集め、年に1回、公式文書として発行する。それは一般の人々 も入手することができるし、また国連のホームページを通しても入手で きる。これまで、170カ国以上の国々が、何回となく「登録」にデータ を提出した。 「登録」は主要通常兵器のグローバルな取引の95パーセン ト以上を掌握している推定される。 軍事費の透明性 軍事問題の透明性を促進するもう一つのグローバ ルなメカニズムは、1980年に導入された「国連軍事支出標準報告制度」 である。この任意の報告は、軍事要員、作戦と整備、調達と建設、調査 研究と開発に関する支出に関する報告を求める。これまで124カ国がこ の制度の下に軍事支出についての報告を行った。 宇宙空間における軍備競争の防止 宇宙空間に関連する問題は、2 つの異なるラインで国際の場で討議されてきた。1つは宇宙技術の平和
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目的の応用で、他の1つは宇宙空間における軍備競争の防止である。こ れらの問題は、総会や宇宙空間の平和利用委員会とその補助機関、ジュ ネーブ軍縮会議で審議されてきた。こうした討議から宇宙空間の利用の 平和的側面、軍事的側面に関する多くの国際協定が結ばれた。 宇宙空間の軍事化防止の重要性を反映し、第1回軍縮特別総会(1978 年)は、この問題に関する国際交渉を要請した。1982年以来、ジュネー
ブ軍縮会議は「宇宙空間における軍備競争の防止」を議題としてきたが、 多国間協定については交渉するまでには至っていない。これは、メン バー国の中で認識の相違が続いているからである。 軍縮と開発との関係 効果的な国際管理のもとに一般軍縮から放出 される資源を開発目的に利用する問題は、加盟国が長年にわたって討議 してきた問題である。1987年には軍縮と開発の関係に関する国際会議が 開かれた。2006年12月に決議61/53によって、総会は、軍縮・軍備制限 条約を通して得られた資源の一部を経済社会開発に振り向け、開発先進 国と開発途上国との格差を縮小させるよう国際社会に訴えた。 軍縮の地域的取り組み 国連は地域および小地域のレベルで行われ る軍縮イニシアチブを支援し、国家間の安全と信頼醸成措置を促進して いる。また、軍縮委員会が1993年に採択した軍縮の地域的取り組みのた めのガイドラインや勧告を実施できるように援助している。地域の軍縮 を進めるために、国連は政府機関や各種の取り決めと共同で作業を進め ている。たとえば、アフリカ連合、欧州・大西洋パートナーシップ理事 会(EAPC)、 ア ラ ブ 連 盟、 米 州 機 構(OAS)、 イ ス ラ ム 諸 国 会 議 機 構 (OIC) 、欧州安全保障協力機構(OSCE)、南東欧安定協定などである。
その他にも、国際、地域、ローカルの非政府組織などと協力している。 軍縮広報・教育活動 2002年、総会は軍縮・不拡散専門家グループ の報告を採択し、軍縮教育は平和教育に不可欠であり、市民が市民生活 に参加するための訓練の重要な側面を持っていることを再確認した。 2003年と2004年、国連は、「ハーグ平和アピール」とのパートナーシッ プのもとに、4カ国(アルバニア、カンボジア、ニジェール、ペルー) の 子供たちや若者を対象に、平和と小型武器に関する教育プロジェクトを
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進めた。 国連は「軍縮広報計画」の枠組みの中で軍縮に関する広報、教育活動 を行っている。その目的は、軍備管理と軍縮の分野における国連の活動 について国際社会や一般の人々の理解を深め、その支援を仰ぐことであ る。そのために、出版物の刊行、特別行事、会議、セミナー、パネル・ ディスカッション、展示会、軍縮問題に関する包括的なホームページな ど、多様な活動を行っている。「国連軍縮フェローシップ計画」は総会 が1978年に始めたもので、これまで150カ国の600人以上の担当官が研修 を受けた。研修を受けた人々の多くは現在、それぞれの国で軍縮担当の 地位についている。 軍縮におけるジェンダーの主流化 この数年で戦争行為の様相が変 わり、女性や少女が被害者として、また加害者として、ますます紛争の 影響を受けるようになった。国連は、武器の回収と廃棄、地雷除去、事 実調査の実施、また政策決定や和平プロセスへの参加など、軍縮のあら ゆる側面にジェンダーの視点が重要であることを理解させることに努め ている。たとえば、ジェンダーの視点から見た場合、小型武器の拡散は とくに女性にどのような影響を与え、どのような措置が必要かについて 討議されることになるであろう。
宇宙空間の平和利用 (www.unoosa.org)
国連は、宇宙空間が平和目的に利用され、かつ宇宙活動から得られた 恩恵をすべての国が共有できるようにする。宇宙空間の平和利用に関す る活動は、ソ連が1957年に最初の人工衛星、スプートニックを打ち上げ た直後に始まり、その後も宇宙技術の進歩に応じてその活動を行ってき た。国連は、国際宇宙法を発達させ、宇宙科学と技術における国際協力 を促進するなど、重要な役割を果たしてきた。 この分野での主要な政府間機関は、国連宇宙空間平和利用委員会 (United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space) である。委員
国際の平和と安全 215
会は、宇宙空間の平和利用における国際協力の範囲を再検討し、事業計 画を作成する。また、国連の技術協力を指示し、研究と情報の普及を奨 励し、国際宇宙法の発達に貢献する。1959年の総会によって設置され、 69カ国で構成される。多くの政府間機関や非政府機関が委員会でオブ ザーバーの地位を得ている。 委員会には2つの小委員会がある。 ・科学技術小委員会は、宇宙技術と調査研究について国際協力を進め る中心的機関である。 ・法律小委員会は、宇宙活動の急速な技術開発に付随する法的枠組み を発達させる。 宇宙空間平和利用委員会と小委員会は毎年開かれ、総会が付託する問 題、委員会に提出される報告書、加盟国が提起する問題を審議する。委 員会はコンセンサスに基づいて作業を進め、総会に対して勧告を行う。 法律文書 宇宙空間平和利用委員会と法律小委員会の作業を通して、総会は5つ の法律文書を採択した。現在、そのすべてが発効している。 ・1996年の「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用におけ る国家活動を律する原則に関する条約(一般に宇宙条約として知られ る)(Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space, including the Moon and Other Celestial Bodies: Outer Space Treaty) 」は、宇宙空間の探査は、発展の程度に関係なくすべ
ての国の利益のために行われなければならないと規定している。宇 宙空間は全人類に属するもので、すべての国が純粋に平和目的のた めのみに自由に探査し、利用することができる。しかし、国家の取 得の対象としてはならない。 ・1967年の「宇宙飛行士の救助と帰還、および宇宙空間に打ち上げら れた物体の返還に関する協定(救助協定)(Agreement on the Rescue of Astronauts, the Return of Astronauts and the Return of Objects Launched into Outer Space: Rescue Agreement)」は、宇宙船の事故あるいは緊急着陸
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の際の宇宙飛行士への援助を規定し、打ち上げ国の領土外で発見さ れた宇宙物体を打ち上げ国へ返還する際の手続きを定めている。 ・1971年の「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責 (Convention on International Liability 任に関する条約(宇宙損害責任条約) for Damage Caused by Space Objects: Liability Convention) 」は、打ち上げ
国は、その宇宙物体が地表面で引き起こした損害および飛行中の航 空機や他打ち上げ国の宇宙物体またはその中の人もしくは財産に対 して与えた損害に賠償責任を持つと規定している。 ・1974年の「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約(宇 宙物体登録条約)(Convention on Registration of Objects Launched into Outer Space: Registration Convention) 」は、打ち上げ国は宇宙物体の登録簿
を保管し、打ち上げられた物体に関する情報を国連に提供する、と 規定している。この条約のもとに、国連事務局の宇宙空間問題部が 宇宙空間に打ち上げられた物体に関する国連登録簿を保管している。 情報はすべて打ち上げ国および欧州宇宙機関(ESA)から提供され る。宇宙空間に打ち上げられた物体のオンライン・インデックスは、 宇宙空間問題部のホームページ(www.oosa.unvienna.org)で検索でき る。 ・1979年の「月その他の天体における国家活動を律する協定(月協 定) (Agreement Governing Activities of States on the Moon and Other Celestial Bodies: Moon Agreement) 」は、1966年条約に定められた月およびその
他の天体に関連した原則をさらに詳しく規定し、これらの天体にお ける天然資源の将来の探査および開発を規制する基礎を定めている。 総会は、委員会とその法律小委員会の作業に基づいて、宇宙活動の行 為に関する次のような一連の原則を採択した。 ・ 「国際直接テレビ放送のための国家による人工衛星の利用を律する 原則(1982年)」は、その利用は国際的な政治的、経済的、社会的、 文化的影響をもつものであることを認めた。そうした活動は情報と 知識の普及と交換を促進し、開発に貢献し、かつ不干渉の原則も含 め、国家の主権を尊重するものでなければならない。
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国連宇宙空間平和利用会議 国連はこれまで、3回の国連宇宙空間平和利用会議をウィーンで開催 した。第1回会議は1968年に開催され、宇宙研究と探査がもたらす具体 的な恩恵と非宇宙国、とくに開発途上国がどの程度の恩恵を享受できる かについて検討した。第2回会議(UNISPACE‘82)は、すべての国が ますます宇宙活動に関与するようになったことを反映し、宇宙科学技術 の現状についての評価を行い、宇宙技術を開発のためにどのように応用 できるかを検討した。また、国際宇宙協力のあり方についても討議した。 第3回会議(UNISPACE III)は1999年に開かれ、各国がとるべき広範 にわたる多様な行動を述べた。グローバルな環境を保全し、かつ天然資 源を管理すること、人間の安全保障と開発、福祉のために宇宙技術をよ り以上に利用すること、宇宙環境を保護すること、開発途上国による宇 宙科学とその恩恵へのアクセスを増大させること、とくに若い人々を対 象にした訓練と教育の機会を拡大すること、などが求められた。 UNISPACE III はまた、自然災害の軽減、救援、防災のためのグロー バル・システムの実施、識字率向上のための教育計画の改善と人工衛星 関連のインフラ整備、地球に近い宇宙物体に関連した活動の国際的な調 整、も求めた。若い専門家や大学生による「宇宙世代フォーラム」も開 かれ、会議の成功に貢献した。フォーラムには政府、政府間機関、市民 社会、そして初めて民間部門からの代表が参加した。 2004年、総会は、UNISPACE III 勧告の実施状況の5年後の再検討を 行った。総会決議によって承認された行動計画は、持続可能な開発のた めのグローバルな課題を支援するために、更なる宇宙空間の利用を求め た。また、調整されたグローバルな宇宙空間能力の育成、人間開発の ニーズを満たす特定の課題を支援するための宇宙空間の利用、全体的な 能力育成が求められた。 UNISPACE III の勧告は現在、各種のメカニズムによって実施されて いる。たとえば、その成果として、「国連防災緊急対応衛星情報プラッ トホーム(UN SPIDER)」や「衛星航法システムに関する国際委員会」 があげられる。
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・宇宙空間から地球資源の遠隔探査に関する原則(1986年)は、そう した活動は、天然資源に対するすべての国家と国民の主権を尊重し、 すべての国の利益のために行われるものとすると述べ、また他の 国々の権利や利益のために行われなければならない、と述べている。 遠隔探査は、環境の保全を図り、自然災害の影響を緩和するために 利用されるものである。 ・ 「宇宙空間における原子力源の利用に関する原則(1992年) は、宇 宙活動には原子力源が不可欠であるが、その利用は十分な安全評価 に基づいて行われなければならない、としている。また、原子力源 の安全な利用、宇宙物体の機能不良のために放射性物質が地球へ再 突入する危険についての通告について、ガイドラインを載せている。 ・ 「すべての国家、とくに開発途上国のための恩恵と利益のための宇 宙空間の探査と利用における国際協力に関する宣言(1996年)」は、 国家は、公平かつ相互に受け入れられることを条件に、国際宇宙協 力にどのように参加するかを自由に決定できる、と規定している。 また、そうした協力は関係諸国によってもっとも効果的かつ適切だ と考えられる方法で行われるべきである、と規定している。 宇宙空間問題部 ウィーンにある「国連宇宙空間問題部(United Nations Office for Outer Space Affairs) 」は、宇宙空間平和利用委員会とその小委員会の事務局を
務める。また、開発途上国が開発のために宇宙技術を利用できるように 援助する。 同部は、その「国際宇宙情報システム」を通して宇宙に関係する情報 を加盟国に提供し、 「宇宙空間に打ち上げれれた物体に関する国連登 録」を維持する。国連宇宙応用計画(United Nations Programme on Space Applications)を通して、宇宙科学と技術の利用を改善して、とくに開発
途上国を中心に、すべての国の経済社会開発に貢献する。また、パイ ロット・プロジェクトを行う加盟国に技術的な諮問サービスを提供し、 遠隔探査、通信衛星、気象衛星、衛星航法、基礎的な宇宙科学や宇宙法
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などについて訓練や研修計画を実施する。 宇宙空間問題部はまた、 「国際災害チャーター(International Charter, “Space and Major Disasters” ) 」の協力機関となっている。これは、国連の
諸機関が、災害の対応に必要な衛星画像を要求できる機構である。また、 「衛星航法システムに関する国際委員会(International Committee on Global Navigation Satellite Systems) 」の事務局も務める。これは非公式な機関で、
衛星ベースの位置決め、航法、時間調整、付加価値サービスを始め、全 地球的な衛星航法システムの適合性や相互運用性について協力を促進す る。同時にとくに開発途上国において、持続可能な開発を支援するため により以上に利用されるようにする。 宇宙ベースの災害管理 宇宙空間問題部は新たに設置された「国連 防災緊急対応衛星情報プラットフォーム(UN SPIDER)」を管理する。 UN SPIDER は2006年12月に総会が設置した機関で、すべての国や関連 の国際機関や地域機関が、災害管理サイクルを支援するあらゆるタイプ の宇宙ベースの情報やサービスを受けられるようにすることを目的とし ている。また、宇宙ベースの情報を利用した災害管理プランニング、リ スク削減、緊急対応に関する援助を受ける国の数を増やし、宇宙ベース の技術の利用に関する方針を策定する。 同部は、また、国連と提携する宇宙科学や技術教育のための地域セン ターや宇宙科学技術教育ネットワークに対して技術援助を行っている。 地域センターは、加盟国と共同で、ローカルのレベルで宇宙科学技術の 能力を育成する。また、宇宙科学技術を持続可能な開発のために利用で きるように、科学者や研究員の技能や知識を向上させる。現在、4つの 地域センターがある。インドにあるアジア・太平洋センター、モロッコ とナイジェリアにあるアフリカ地域センター、メキシコとブラジルにあ る合同ラテンアメリカ・カリブセンターである。 宇宙空間に関する機関間会合 宇宙技術とその応用が国連システム を通してますます多く利用されるようになった。宇宙空間問題部は「宇 宙空間活動に関する機関間会合」の事務局を務めている。これは1975年 以来毎年開かれ、国連諸機関間の宇宙関連の協力を強化し、活動の調整
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を図り、相乗効果を高め、あらたなイニシアチブを検討してきた。また、 国連システムの宇宙関連活動の調整に関する事務総長報告を作成し、 「世界の問題の宇宙解決:国連ファミリーは持続可能な開発のために宇 宙技術をいかに利用しているか」のような冊子を発行するなど、普及活 動用資料も発行している。 最近の情勢 こうしたタイプの刊行物に常に最新の情報を乗せ続けることは不可能 である。世界の政治や安全保障の動きは急速に変わりつつある。これら の領域やその他国連が関与するあらゆる領域における最新の情報を得た い場合は、国連のホームページ(www.un.org)、とくに国連ニュースの ホームページ(www.un.org/News)を利用してほしい。
第Ⅱ部 第3章
経済社会開発 Economic and Social Development
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ほとんどの人は国連を平和と安全の問題に結びつけて考えるが、実際 には国連の資源の大部分は「一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的 及び社会的の進歩及び発展の条件」を促進するという国連憲章が定めた 誓約の実行に振り向けられている。国連が開発のために行う努力は世界 の何百万という人々の生活や福祉に大きな影響を与えてきた。こうした 国連の努力を導いてきたのが、世界のすべての人々の経済的、社会的福 祉が確保されてはじめて恒久的な国際の平和と安全が達成されるとの信 念であった。 1945年以来地球規模で起こった経済的、社会的変革の多くは、国連の 活動からその方向性や形態に大きな影響を受けてきた。コンセンサス達 成のためのグローバルな中心機関として、国連は、各国の開発努力を支 援し、それに必要なグローバルな経済環境を育てる国際協力のための優 先順位や目標を設定してきた。 1990年代以来、国連は、一連のグローバル会議を開き、国際的な課題 についての重要な、新しい達成すべき目標を作成し、促進するための場 を提供してきた。国連は、女性の地位の向上、人権、持続可能な開発、 よい統治のような問題を開発のパラダイムに組み込む必要を説いてきた。 こうしたグローバルなコンセンサスは、1961年に始まった一連の「国 連開発のための10年」を通して表明されてきた。これらの幅広い政策や 目標に関する声明は、それぞれの10年でとくに関心の強い問題を強調す る一方で、社会的、経済的を問わず、開発のすべての面に進歩が必要で あり、かつ先進工業国と開発途上国との格差を埋めることが重要である ことを一貫して強調してきた。20世紀が終わる頃には、これらのコミッ トメントを統合された、調整の取れた方法で実施することに焦点が移っ
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グローバル化が恩恵をもたらすように 2000年9月の「ミレニアム宣言」において、世界の指導者は、グロー バル化がすべての人々にとってプラスの力となるようにすることが、国 際社会が直面する大きな挑戦であると強調した。グローバル化が成功す るには、人々が「自分たちもその一員である」と感じなければならない、 とコフィー・アナン事務総長は、ミレニアム・サミット宛ての報告の中 で述べた。 グローバル化がもたらす恩恵は明らかである、と事務総長は述べた。 より速い経済成長、より高い生活水準、新しい機会を国や個人にもたら すからである。しかし、これらの恩恵は平等に分配されていない。また、 グローバル市場はまだ共通の社会目標に基づく規則によって支えられて いない。そのため、反動が始まっている。 グローバルな企業は、グローバルな「企業市民」の概念を行動の指針 とし、かつ営業するいかなる地域においても良い慣行を実践しなければ ならない。公平な労働基準を促進し、人権の尊重や環境の保全に努めな ければならない。 国連について言えば、国連は「グローバル化が少数の人ではなくすべ ての人に恩恵をもたらし、かつ特権を持った人々だけではなく、世界の すべての人々が機会を与えられる」ようにしなければならない。国連は 「国家間の格差を解消」し、市民社会、民間セクター、議員、地方自治 体、学術団体、教育機関など、さらに多くの主体がグローバル化に参加 できるようにすることによって、 「変革のための連合」を作り出してゆ かなければならない。 とくに、アナン氏は「われわれは、われわれが行うすべてのものの中 心に人間をおかなければならない」と述べている。 「それが起こり始め たときに、グローバル化が真に包含的となり、すべての人がその機会を 共有できるようになるであろう。」 *「We the Peoples: the role of the United Nnations in the 21st centry(われら人 民:21世紀における国連の役割) 」 。United Nations, 2000, ISBN 92-1-100844-1, E.00.1.16. また、国連ホームページでも閲覧可能(www.un.org/millennium/sg/ report)。
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た。 2000年のミレニアム・サミットで、加盟国は広範に及ぶ「ミレニアム 開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」を採択した。宣言は一 連の特定の、達成可能な目標を掲げた。開発目標が目指していることは、 極度の貧困と飢餓を撲滅すること、普遍的な初等教育を達成すること、 ジェンダーの平等を推進し、女性の地位向上を図ること、幼児死亡率を 下げること、妊産婦の健康を改善すること、HIV/エイズ、マラリア、 その他の病気と闘うこと、環境の持続可能性を確保すること、開発のた めのグローバル・パートナーシップを推進すること、である。国際社会 は、2005年の世界サミットでこれらの目標に対するコミットメントを再 度確認した。世界サミットはミレニアム・サミットの成果を再検討し、 それをさらに進めることを目的に開かれたものであった。 経済社会問題に関する国際的な討議は、国境を超える多くの問題を解 決するにあたって、富める国と貧しい国の関心事が共通であることをま すます反映するようになった。難民人口、組織犯罪、薬物の取引、エイ ズのような問題は、グローバルな問題であって、行動の調整が必要であ る。ある地域における慢性的な貧困と失業は、移住や社会的崩壊、紛争 などを通して直ちに他の国々にも影響を及ぼす。同様に、グローバルな 経済の時代にあっては、一国の金融不安は直ちに他の国の市場でも感じ られる。 また、民主主義、人権、市民参加、良い統治、女性のエンパワーメン トが経済社会開発で果たす役割についてもコンセンサスが強まった(国 連と経済社会開発については、www.un.org/esa を参照)。
開発活動の調整 多くの分野で前進が見られたにもかかわらず、世界を特徴付けている のは依然として富と福祉における大きな格差である。貧困を削減し、国 内または国家間の不平等を是正することは、今日においてもなお国連の
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国連の優位性 国連システムは、世界で開発を進めることにおいてはユニークな強さ を持っている。 ・その普遍性――政策決定が行われるとき、すべての国が発言する権利 を持っている。 ・公平性――国連は特定の国家もしくは企業を代表するものではない。 したがって、国連の援助には紐がついていない。そのため、国とその 国民と特別の信頼関係を築くことができる。 ・グローバルなプレゼンス――国連は開発援助を行うために世界中に現 地事務所を持ち、世界最大のネットワークを確立している。 ・包括的任務――国連の活動は開発、安全、人道支援、人権、環境を網 羅する。 ・「連合国の人民」に対するコミットメント。
基本的な目標である。 国連システムは、さまざまな方法でその経済的、社会的目標の達成に 取り組んでいる。政策を策定し、開発計画について政府に助言を与え、 国際規範や基準を設定し、開発計画のために資金を動員する。国連の諸 機関や専門機関は教育、航空の安全、環境保全、労働条件など、さまざ まな領域で活動している。こうした活動を通して、国連は世界中の人々 の生活に深く係わっている。 2005年、国連システムは開発援助活動に137億ドルを費やした。それ に加え、136億ドルがグローバルな人道援助活動資金となった。その半 分がインド洋津波と南アジアの地震のためであった。 経済社会理事会(Economic and Social Council: ECOSOC)は、国連とその 実施機関の経済社会活動を調整する主要な機関である。理事会はまた、 国際的な経済社会問題を審議し、政策勧告を作成する中心的な場でもあ る(www.un.org/docs/ecosoc を参照)。 開発政策委員会(Committee for Development Policy)は、経済社会理事会 の下にあって、経済、社会、環境の問題に関する諮問機関としての役割 を果たす。委員会は個人の資格で務める24人の専門家で構成される。委
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員会はまた、 「後発開発途上国(LDC)」を指定する際の基準を定める。 国連の「後発開発途上国」の分類は、開発途上国の開発の異なる特徴や 段階に関する UNCTAD の初期の作業に基づいて、総会が1970年代に定 めた。 国連開発グループ(United Nations Development Group) は、事務局の関 係部局と開発に関連する活動を行う基金や機関から構成され、国連内に おける開発活動を管理、調整する(www.undg.org を参照)。このグループ は執行機関として、政策決定機関とそれぞれの実施機関との協力を強化 する。 「経済社会問題執行委員会(Executive Committee on Economic and Social Affairs)」は、地域委員会も含め、事務局の担当部局から構成され、
政策の策定と管理のための機関である(www.un.org/esa/ecesa を参照)。 国連経済社会局(Department of Economic and Social Affairs: DESA)は、国 連事務局内の部局の一つで、経済社会データを収集かつ分析し、政策分 析と調整を行い、経済社会の領域で実質的かつ技術的な援助を加盟国に 与える(www.un.org/esa/desa を参照)。こうした政府間プロセスへの実質 的支援によって、加盟国は規範と基準を設定し、現在および将来の地球 規模の挑戦に対して共通の行動路線をとることができる。したがって、 DESA は、グローバルな政策と国家の行動を結びつけ、また研究、政策、 援助活動との間を結びつける重要な機関である。 地域委員会(Regional commissions) はアフリカ、アジア太平洋、ヨー ロッパ、ラテンアメリカ・カリブ、西アジアの5つの地域に設けられて おり、経済社会情報の交換や政策分析を行っている(www.un.org/issues/ reg-comm.html を参照)。
各種の国連の開発機関(United Nations funds and programmes) は、関係 国で開発活動に携わっている。国連専門機関(United Nations specialized agencies) も同様に、国の開発事業に支援と援助を提供する。人的資源
や財政資源が限られていることから、各種国連機関の調整と協力を高め ることは、開発目標の達成に不可欠である。
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経済開発 世界ではこの数十年間で経済開発は大きく進んだ。しかし、富と繁栄 にはあまりにもばらつきが多く、経済的不均衡が世界のほとんどすべて の地域において社会問題と政治的不安定をさらに悪化させているように 見える。冷戦の終焉や加速する経済のグローバル化は、極度の貧困、債 務、低開発、貿易の不均衡など、頑迷な問題を解決するまでには至らな かった。 国連が創設された原則の一つは、世界のすべての人民の経済開発は政 治的、経済的、社会的安全保障を達成するためのもっとも確実な方法で あるとの確信であった。およそ30臆の人々、すなわち世界人口の半数近 くが1日2ドル以下で生活しなければならないということが、国連に とって最大の関心事である。そうした人々のほとんどがアフリカ、アジ ア、ラテン・アメリカやカリブに住んでいる。およそ7億8,100万人の 成人が読み書きができない。そのうちの3分の2が女性である。1億 1,700万人の子どもたちは学校へ行くことができない。12億人以上の人々 が安全な水を得ることができない。26億人の人々が適切な衛生施設を利 用できない。2006年末現在、世界全体でおよそ1億9,520万人の労働者 は失業し、「ワーキング・プア」――1日の収入が2ドル以下の人―― の数は、13億7,000万人に達した。 今後も人間の福祉、持続可能な開発、貧困の撲滅、公正な貿易政策、 対外債務の軽減を実現する政策が経済の拡大とグローバル化の指針とな らなければならない。国連はこうしたことを実現するための方法を見出 すことに専念する唯一の機関である。 国連は、マクロ経済政策の採択を求めている。それは、現在見られる 不均衡、とくに南北間の増大する格差を解消し、後発開発途上国の慢性 的な問題を解決し、中央計画経済から市場経済へと移行する国々の未曾 有のニーズを満たす政策である。世界のあらゆるところで、国連は貧困
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の削減と子どもたちの生存、環境保全、女性の進歩、人権を促進するた めに多くの援助計画を実施している。貧しい国の何百万の人々にとって、 こうした活動こそが国連なのである。
政府開発援助 その政策や貸付を通して、国連システムの融資機関は、総体的に、開 発途上国の経済に大きな影響力を持っている。このことがとくに言える のは、後発開発途上国(LDC)50カ国の場合である。これらの国は、極 度の貧困と膨大な債務のためにグローバルな成長と開発から取り残され、 いくつかの国連援助計画では優先的援助の対象となっている。アフリカ にはそうした国が34カ国もある。 小島嶼開発途上国、内陸開発途上国、移行経済諸国もまた、国際社会 の特別の注意を必要とする危機的な問題を抱えている。これらの国々も また、国連システムの援助計画や加盟国の政府開発援助(ODA)で優先 的に扱われている。 世界の31カ国が内陸開発途上国であるが、そのうちの16カ国が後発開 発途上国である。38カ国の小島嶼国のうち、10カ国が後発開発途上国で ある。 1970年、総会は政府開発援助の目標を国民総生産(GNP)の0.7パーセ ントと定めた。現在は国民総所得(GNI)として言及されている。その 後、経済協力開発機構(OECD) の開発援助委員会(DAC)――現在、 先進工業22カ国で構成――の集中的な努力によって、間発援助は目標の およそ半分のレベルになった。 1990年代、ODA は急激に減り、史上最低となった。減少はしたもの の、基礎的な社会サービスに対してより多くの援助が向けられ、1995年 の ODA の4パーセントから、2000年までには14パーセント(およそ40 億ドル)となった。そして、5分の4以上が、援助国で物資やサービス
を購入する必要のない、いわゆるひも付きでない援助であった。
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註――― * GDP とは、国民によって生み出された付加価値と生産の評価に含 まれない製品税(補助金を引く)を加えた合計額。GNI は GDP に海 外からの第一次所得(被雇用者の報酬および財産所得)の純受領高を 加えた額。
新しい世紀に入って ODA のレベルが回復し始めた。DAC 加盟国の間 では、ODA 総額は2006年年には GNI 合計額の0.30パーセントに上昇し、 1,039億ドルとなった。これまで、ODA 目標の0.7パーセントを達成し、 維持している国は、デンマーク、ルクセンブルグ、オランダ、ノル ウェー、スウェーデンの5カ国だけである。 2002年にメキシコのモンテレーで開かれた国連開発資金国際会議は、 第一歩として1990年代に減少した ODA を今後増加させるとのコミット メントを加盟国から引き出した。会議はまた、援助の重点を貧困削減、 教育、保健に向けるよう要請した(囲みコラムを参照)。 国連の開発援助は2つの資金源から供与される。1つは国連の専門機 関や各種基金、計画からの無償資金援助で、もう1つは世界銀行や国際 農業開発基金(IFAD)のような、国連システム内の融資機関による支援 である。 世界銀行は2007年会計年度で100カ国以上の開発途上国で247億ドルを 提供した。2006年末現在で、IFAD は、186件の進行中のプログラムやプ ロジェクトに対して投資コスト62億ドル相当の融資を行った。およそ29 億ドルを IFAD が提供し、33億ドルがそのパートナーから提供された。 さらに、国際通貨基金(IMF)は国際の通貨と金融システムの一層の発 展に努め、対話と政策に関する助言、技術援助、融資を行った。 国連の開発活動に対する資金は、2005年には155億4,000万ドルに達し た。2001年の85億5,000万ドルに比べ2倍近い額であった。国連諸機関、 基金、計画からの開発援助は、必要とする多くの国に振り向けられた。
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国連開発資金国際会議 (www.un.org/esa/ffd)
開発資金国際会議は、2002年3月18日から22日までメキシコのモンテ レーで開かれた。開発資金や開発の問題に関するこの国連主催の会議に は、50人の国家元首もしくは政府首脳、200人以上の閣僚、それに民間 部門、市民社会、主要な政府間金融、貿易、経済、通貨機関の代表が参 加した。 モンテレー会議は、政府、市民社会、ビジネス界、グローバルな経済 問題に関する機関のステークホルダーの4者による最初の意見交換の場 であった。会議の討論は12の個別のラウンドテーブルに分かれ、800人 以上が参加した。政府首脳、世界銀行総裁、国際通貨基金専務理事、世 界貿易機関事務局長、地域開発銀行総裁、それに財務相や貿易相、外相 などが共同議長を勤めた。会議の成果は、 「モンテレー・コンセンサ ス」として知られ、開発資金に対する新しいグローバルなアプローチを 提供した。 ついで、国連総会は、開発のための国際協力強化に関するハイレベル 対話を再組織して、モンテレー会議と関連問題をフォローアップするた めの政府間フォーカル・ポイントにすることに決定した。これは2003年 から奇数年に開かれ、関連のステークホルダーの参加を得て、会議の結 果の実施や国際通貨、金融、貿易機関による開発支援の一貫性について、 政策討論を行う。 総会はまた、経済社会理事会の代表、世界銀行および国際通貨基金の 理事会議長、世界貿易機関の適切な政府間機関の代表による会合を毎年 春に開くことを決めた。2002年4月の協議は拡大され、市民社会やビジ ネス界の代表とのラウンドテーブルも開かれた。 第4回世界貿易機関(WTO)閣僚会議は、2001年にカタールのドー ハで開催された、持続可能な開発を達成するための手段の問題に取り組 んだ。ついで WTO 閣僚会議は2003年にカンクンで、また2005年には香 港で開かれた。開発資金フォローアップ国際会議は2008年後半にドーハ で開かれることになった。
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世界の国々の開発促進 国連開発計画(United Nations Development Programme: UNDP) は開発途 上国の開発を担当する機関で、2015年までに世界の貧困を半分にするこ とを目指している。UNDP は健全な政策助言を行い、公平な経済成長を 生み出すような制度作りに努める。 UNDP は、166カ国に設置された現地事務所のネットワークを通して 人々の自立を助けている。中心課題は、それぞれの国が現在の挑戦に応 えてその解決を見出せるようにすることである。たとえば、貧困削減と ミレニアム開発目標の達成、HIV/エイズ対策の統治も含めた民主的な 統治、危機防止と復興、環境と持続可能な開発のような問題である。 UNDP はそれぞれの領域において、人権の擁護、とくに女性のエンパ ワーメントを支持している。UNDP は現場主義の機関で、職員の大多数 は助けを必要とする国々で働いている。 UNDP のコア活動資金の90パーセントが、世界の最貧者を抱える国々 へ振り向けられる。2005年、25億人――世界人口の40パーセント――が 1日2ドル以下の生活をし、およそ17億の人々が1ドル未満の生活で あった。その年の国連システムの開発援助活動における UNDP の支出 は36億5,000万ドルに増加した。UNDP への拠出は任意で、世界のほと んどすべての国から拠出を受ける。UNDP 管理の援助を受ける国も人員、 施設、設備、備品などの提供によって UNDP プロジェクトの費用を負 担する。 グローバルな開発援助資源から最大の効果を得るために、UNDP は、 国連の他の機関や世界銀行、国際通貨基金をふくむ国際金融機関の活動 を調整する。さらにそれに加え、UNDP はその国別や地域別の援助計画 を進めるにあたっては、開発途上国の人々や非政府組織の人々の専門知 識を活用する。UNDP 支援プロジェクトの75パーセントは現地の機関に よって実施される。
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アフリカ――国連の優先課題 国連は、国際社会の懸念を受けて、アフリカの危機的経済社会状態を 国連の優先的な関心事項としている。アフリカの開発を支援する決意を 確認するにあたって、国連はアフリカのために特別の計画を策定した。 それは、対外債務と返済問題を恒久的に解決し、海外からの直接投資を 増大させ、国の能力育成を向上させ、開発のための国内資源不足の問題 に対処し、アフリカ諸国を国際貿易に参入させ、そしてエイズと闘うこ とができるようにする計画であった。 総会は1996年に「アフリカに関する国連システム特別イニシアチブ (Special Initiative on Africa: UNSIA)」を発足させた。このイニシアチブ の も と に、ILO の「 ア フ リ カ の た め の 雇 用 計 画(Jobs for Africa Programme)」は、雇用を創出することによって、貧困と闘う国や地域の能 力を開発し、強化することを目指した。UNDP の「アフリカ2000年イニ シアチブ(Africa 2000 initiative)」は、持続可能な開発活動を進める農 村の女性を支援した。ユネスコやユニセフ、世界銀行が進める活動は、 小学校への就学が低い国々で初等教育の改善に努めた。 「特別イニシアチブ」は総会の再検討の結果2002年に終了した。それ に代わって「アフリカの開発のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa s Development: NEPAD)」が採択された。これはアフリ カ自身が発案し、主導するイニシアチブで、アフリカの開発のための国 際援助の枠組みとして2001年7月にアフリカ統一機構(現在のアフリカ 連合)が発足させたものであった(www.nepad.org を参照)。 国連は、「国連開発援助枠組み(UNDAF)」の活動やアフリカ経済委 員会の事業計画を通して、国、地域、グローバルのレベルで参加してい る。これは小地域および地域のレベルで調整や協力を強化するための枠 組みである。アフリカ特別顧問室は、国連システムや国際社会が行った 支援を報告し、 「新パートナーシップ」を支援するグローバルな活動を 調整する(www.un.org/africa/osaa を参照) 。 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、アフリカで HIV/エイズと闘う キャンペーンを強化した。キャンペーンのベースをできるだけ幅広いも のにするため、UNAIDS は「アフリカのエイズと闘う国際パートナー シップ」として知られる傘下グループのもとに、政府、地域機関、開発 機関、非政府組織、それに薬品会社を含む企業セクターと協同で活動を
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続けている。 事務総長と国連諸機関はアフリカの経済的障害を取り除くよう先進工 業国に要請し、重債務の救済を図り、アフリカの輸出を不利にする関税 を引き下げ、政府開発援助を増大させるよう訴えた。国連は、アフリカ 開発東京国際会議、重債務貧困国債務イニシアチブ、アフリカ工業化同 盟など、その他の開発事業との提携も進めている。
国のレベルでは、UNDP は国連の開発援助に対して統合されたアプ ローチを行うようにしている。いくつかの開発途上国では、UNDP の国 連開発援助枠組み(United Nations Development Assistance Framework: UNDAF) が設けられている。これは、UNDP の現地駐在代表が兼任する国連現地 常駐調整官の指導のもとに設置される国連チームで構成される。援助枠 組みは、政府が国連に提示する開発課題に対して調整の取れた対応を取 れるようにするものである。現地常駐調整官は、人為災害、自然災害、 複雑な緊急事態に際しては人道援助の調整官も務める。 UNDP は、正規の活動に加え、各種の特別の目的を持つ基金も管理し ている。国連資本開発基金(UN Capital Development Fund: UNCDF)は、後 発開発途上国で小口融資や現地の開発を進めるために、投資資本、能力 育成、技術諮問サービスの組み合わせを提供する。国連ボランティア計 画(United Nations Volunteers: UNV) は、効果的開発のためにボランティ ア活動を促進し、利用するための国連のフォーカル・ポイントである。 そして、国連女性開発基金(UN Deveelopment Fund for Women: UNIFEM) の目的は、開発プランニングと慣行のすべてのレベルで女性のエンパ ワーメントとジェンダーの平等を確保することである。 UNDP は、世界銀行と国連環境計画(UNEP) とともに地球環境ファ シリティ(Global Environment Facility)(www.gefweb.org を参照)の管理パー トナー機関の1つで、また国連合同エイズ計画(United Nations Programme on HIV/AIDS: UNAIDS)の共同スポンサー機関の1つである。
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開発のための融資 世界銀行は、国際復興開発銀行(International Bank for Reconstruction and Development: IBRD) と国際開発協会(International Development Association: IDA) から構成される。100カ国以上の開発途上国で活動し、これらの
国が貧困を削減できるように融資や技術的専門知識を提供する。現在の プロジェクト・ポートフォリオはラテンアメリカとカリブ、中東と北ア フリカ、ヨーロッパと中央アジア、東アジアと太平洋、アフリカ、南ア ジアに及んでいる。 世界銀行は、現在、ほとんどすべての部門や開発途上国で1,800件以 上のプロジェクトに関係している。その内容はさまざまで、ボスニア・ ヘルツェゴビナでのマイクロクレジットの提供やギニアでのエイズに対 する意識の向上からバングラデシュでの少女の教育支援、メキシコの保 健サービスの改善まで、また独立後の東ティモールの復興援助から地震 の被害を受けたグジャラトの再建を進めるインドへの援助にまで及ぶ。 世界銀行は世界最大の開発援助機関として、学校や保健所の建設、給 水や電力供給、病気との闘いや環境の保全などで、開発途上国政府を支 援する。こうしたことは、融資を通して行われる。融資は返済されなけ ればならない。開発途上国が世界銀行から借りるのは、資本ばかりでな く、技術援助や政策アドバイスも必要とするからである。 世界銀行の貸付けには2つのタイプがある。最初のタイプは、比較的 高所得の開発途上国を対象としたものである。これらの国は商業銀行か ら借りることもできるが、一般的に利率が高い。これらの国が世界銀行 から貸付けを受けるのは、商業銀行から借りる場合よりも返済期間が長 いからである。15年から20年で、元金の返済に先立ち、3年から5年の 猶予期間がある。資金を借りるのは、貧困の削減、社会サービスの提供、 環境保全、経済成長など、特定の事業に対して支援を受けるためである。 2007年会計年度において、34カ国の112件の新規プロジェクトを支援し て、総額128億ドルの貸付けが行われた。世界銀行は、AAA の信用格付
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けで、資金のほとんどは世界の金融市場で債券を販売して得る。 第2のタイプの貸付けは、最貧国に対して行われる。これらの国は一 般に国際金融市場では信用されず、また借りた金額に対して市場金利に 近い利率を返済することのできない国である。最貧国に対する貸付けは 世界銀行グループの機関の1つである国際開発協会(IDA)によって行 われる。IDA の基金のほとんどは、40カ国の豊かな加盟国からの拠出金 である。IDA は無償資金や信用を供与して、世界のもっとも貧しい国々 を援助する。これらの信用は実際には金利がつかず、返済期間も長く、 10年間の猶予期間を含め、35年から40年である。2007 年会計年度にお いて、64の低所得国の189件の新規プロジェクトに対して119億ドルの融 資を行った。IDA は、世界の最貧国に対して、世界でもっとも条件のゆ るい援助を行う機関である。 その規則のもとに、世界銀行が貸付けを行うことのできるのは政府だ けであるが、実際にはローカルの共同体、非政府組織(NGO)、民間企 業と緊密に協力し合いながら作業を進めている。そのプロジェクトは、 もっとも貧しい人々を援助することを意図したものである。開発を成功 させるには、政府や地域社会が自身の開発プロジェクトを持たなければ ならない。世界銀行は、銀行融資のプロジェクトの影響を受ける人々の 参加を強化するために、NGO や市民社会と緊密に協力するよう政府を 奨励している。借入国に事務所を持つ NGO は、これらのプロジェクト のおよそ半分のプロジェクトで協力している。 世界銀行は、安定した経済政策、健全な政府財政、そして公開された、 正直かつ説明責任のある統治を積極的に進めている。こうしたことを通 して民間部門を奨励している。世界銀行は多くの部門を支援しているが、 その中で民間部門への支援が急増してきている。金融、電力、電気通信、 情報技術、石油ガス、工業である。世界銀行は規則によって民間部門へ 直接貸付けを行うことは禁じられているが、世界銀行の姉妹機関――国 際金融公社(IFC)――は、民間部門の投資を促進するために存在する。 そのため、ハイリスクの部門や国を支援する。もう1つの姉妹機関、多 国間投資保証機関(MIGA)は、開発途上国へ投資または貸付けを行う
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人々に政治的リスク保険を提供する。 しかし世界銀行の活動は貸付けだけではない。世界銀行融資のプロ ジェクトに技術援助を行うことも日常的に行われている。総合的な国家 予算の規模、また、貸付けが行われた場合は、どのようにして農村に診 療所を設立するか、道路を建設するにはどのような設備が必要かなどに ついても助言を与える。世界銀行は、専門的な助言や訓練を提供する若 干のプロジェクトにも毎年資金援助を行っている。また、借り入れ国の 人々を対象に開発計画の策定や実施に関する研修も行っている。 世界銀行は、植林、汚染対策と土地管理、水や衛生と農業、天然資源 の保存などの領域で持続可能な開発プロジェクトを支援する。また、グ ローバル環境ファシリティ(Global Environment Facility: GEF)の主要な資 金提供者である。HIV/エイズ関連の事業に対する世界最大の長期的資 金提供者でもある。1988年以来、およそ40億ドルの援助を行った。また、 重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries: HIPC)イニシアチブに力を 入れており、これまで410億ドルに達する貧しい国の債務救済を行った。 2005年7月のサミットで、「主要8カ国」開発先進国は、主にアフリ カやラテンアメリカの世界の最貧国のいくつかの国が IDA, IMF, アフリ カ開発基金に負う債務の全面的な帳消しを提案した。その結果生まれた 「多国間債務救済イニシアチブ(Multilateral Debt Relief Initiative: MDRI)」 による債務救済はおよそ500億ドルと推定される。そのうち、IDA だけ でも370億ドルであった。IDA は2007年会計年度の開始とともにその実 施を始めた。
安定のための融資 多くの国は、国内もしくは国外の要因によって、自国の国際収支、財 政の安定、債務返済能力が大きく損なわれると、国連の専門機関の一つ である国際通貨基金(IMF)に助けを求める。IMF はこうした問題の解 決のために助言や政策勧告を行い、しばしば各種の政策やファシリティ (融資制度)のもとに、経済改革計画を支援して加盟国に資金を提供する。
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国際収支に失調をきたすと、加盟国は一般に IMF の財源を利用する。 そうした加盟国は、他の国の通貨もしくは特別引き出し権(Special Drawing Rights) の形で、自国通貨額に相当する額の準備資産を IMF か
ら「購入」するのである。IMF はこのローン運用に手数料を徴収し、加 盟国は特定の期間 IMF から自国通貨を再購入することによってローン を返済する。 IMF の主なファシリティは以下の通りである。 ・スタンドバイ取り決め(Stand-by arrangement):一時的もしくは周期 的な外貨不足に対して短期の国際収支援助を提供する。5年以内に 返済する。 ・拡大信用供与措置(Extended Fund Facility):中期の計画を支援する もので、マクロ経済および構造問題から生じる国際収支問題を解決 することを目的とする。10年以内に返済する。 ・貧困削減・成長ファシリティ(Poverty Reduction and Growth Facility: PRGF) :貧困削減の明確な目標を持った低所得加盟国を対象とした
譲許的なファシリティ。資格ある加盟国は3年の取り決めのもとに 自国割当額の140 パーセント(例外的な状況のもとでは最高185 パー セント)まで借りることができる。融資の年間金利は0.5パーセント
で、返済は5年半から始まり、支出後10年まである。2006年8月現 在、78カ国の低所得国がこの援助の対象であった。 ・外生ショック・ファシリティ(Exogenous Shocks Facility) 実施中の PRGF プログラムを持たない低所得国が、一次産品の価格変動(石 油を含む) 、自然災害、貿易を妨げるような周辺国の危機などの外
生ショックに直面したとき、そうした国を対象に PRGF タイプの支 援を提供する。 ・輸出変動補償融資制度(Compensatory Financing Facility):一時的な輸 出の落ち込みもしくは穀物輸入額急増を経験する加盟国に時宜にか なった融資を行う。 ・予防的クレジットライン(Contingent Credit Lines):健全な政策を進 めている加盟国が、危機の際に、迅速に融資を利用できるようにす
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ることによって危機の拡散を防止する。 ・補完的準備融資制度(Supplemental Reserve Facility):突然かつ破滅的 な市場信用の損失による大規模な短期融資の必要が生じた際の例外 的な国際収支の悪化を救うための財政援助。返済1年半以内である が、2年半まで延長できる。 健全な政策を進める重債務貧困国の債務救済のために、IMF と世界 銀行は「重債務貧困国イニシアチブ(HIPC)」の下に、その対外債務の 負担を持続可能なレベルまで緩和する特別の援助を有資格国に提供して いる。両機関は現在、HIPC イニシアチブを補足すために開発された 「マルチ債務救済イニシアチブ(Multilateral Debt Relief Initiative: MDRI)を 支援している。 サーベイランスは、IMF がそれぞれの加盟国の一般的な経済情勢と 政策を包括的に分析し、加盟国の為替政策を評価するためのプロセスで ある。IMF は、個々の国との年次協議によるサーベイランス、年に2 回の多国間サーベイランス、地域グループとの話し合いによる地域サー ベイランスを行っており、それ以外にも予備的取り決め、改善された監 視、プログラム・モニタリングを実施している。プログラム・モニタリ ングは、IMF 資源の利用がない場合でも IMF によるサーベイランスを 加盟国に提供するものである。 IMF は、財政および通貨政策の策定と実施、中央銀行もしくは国庫 のような機構の整備、統計データの収集と効果的活用など、加盟国に対 して幅広い領域の技術援助を行っている。また、ワシントン DC、ブラ ジリア、チュニス、大連(中国)、ウィーン、アブダビ、シンガポール にある IMF 研修所において加盟国の担当官の研修を行っている。
投資と開発 外国からの直接投資が劇的に拡大していることから、開発途上国はま すます自国経済を海外からの投資に開放するようになった。同時に他の 開発途上国へもより多く投資するようになった。FAO や UNDP、UNI-
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対外直接投資と開発 対外直接投資(FDI)は依然として世界経済の推進力となっている。 現在の投資ブームは、先進工業国と開発途上国の双方において多国籍企 業(TNCs)が中心的役割を果たしていることを物語っている。以下は UNCTAD の「2007年世界投資報告」によるものである。 ・3年連続で、FDI の流入は増え続け、2006年には38パーセントの増加 があり、1兆3,000億ドルに達した。 ・TNCs の世界は、およそ7万8000の親会社と78万の海外子会社からな り、2006年にはおよそ7,300万人の労働者を雇用した。子会社も4兆 ドル相当の商品およびサービスを輸出した。 ・TNCs の世界は引き続き欧州連合、日本、米国によって支配された。 世界の TNCs 上位100社は比較的安定し、ジェネラル・エレクトリッ ク、ボーダフォン、ジェネラル・モーターズが最大の海外資産を持っ ていた。上位100社の海外資産は2004年以来ほとんど変わっていない が、その海外販売や雇用は2005年にはおよそ10パーセントの増加で あった。 ・世界の最大の非金融100社に占める開発途上国の企業の数は、南の TNCs の一般的増加に伴って、2004年の5社から2005年の7社に増え た。 *「世界投資報告」は FDI におけるグローバル、地域、国の動向を中心に、 その開発への貢献を改善する新たな措置を取り上げている。
DO のように国連システムの各種機関が開発を監視、評価し、開発途上 国政府が投資を誘致できるように援助している。 世界銀行グループの2つの機関――国際金融公社と多国間投資保証機 関――が、開発途上国に対する投資を促進している。国際金融公社 (IFC)はその諮問サービス活動を通して、政府が、国内および国外の民
間の貯蓄および投資の流れを刺激するような環境を作れるように援助し ている。IFC は、投資は収益をもたらすことを証明することによって、 開発途上国に対する民間投資を刺激し、動員する。1956年の創設以来、 2002年会計年度現在で、IFC は自身の基金から640億ドル以上のコミッ トメントを行い、1956年の創設以来、開発途上140カ国のおよそ3,760社
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に対しておよそ270億ドルの協調融資をアレンジした。 多国間投資保証機関(MIGA)は、世界銀行に付属して投資保険を担 当する機関である。その目標は、投資家に長期的な政治危機保険を提供 し、開発途上国に対する生産目的の民間投資を容易にすることである。 すなわち、接収、送金、戦争、内乱の危機に対して保険を適用させる。 また、諮問サービスも提供している。MIGA は啓発活動を行い、投資の 機会に関する情報を流し、途上国の投資促進能力を高める技術援助も行 う。1988年の発足以来、96の開発途上国のプロジェクトに対して900件 の174億ドル以上相当の保証を発行し、また、その額の数倍額の海外直 接投資を可能にした。 国連貿易開発会議(UNCTAD)は、開発途上国や移行経済諸国が自国 への投資を促進し、かつ投資環境を改善できるように支援する。開発に 対するマイナス影響を最低限にし、同時にプラスの影響を最大限にする ためである。UNCTAD は、これらの国の政府が対外直接投資の政策上 の影響を理解し、ついでその政策を策定し、実施できるように支援する。 UNCTAD は投資、貿易、企業開発、技術的能力育成の間の関係をよ りよく理解できるように援助し、グローバルな海外直接投資の動向につ いて調査研究を行う。その結果は毎年「世界投資報告」 、 「投資政策レ ビュー」 、 「世界投資デレクトリー」やその他の研究論文で発表される。
貿易と開発 2007年、国連貿易開発会議(UNCTAD)の「2007年貿易・開発報告」 によると、2007年、世界貿易は5年間連続してその弾みを維持して、推 定による全体的な生産量の伸びは3.6パーセントであった。 とくに開発途上国は国民一人当たりの国内総生産(GDP)は2003年か ら2007年にかけて30パーセント近くも伸びた、と UNCTAD は報告した。 それに対し、開発先進国の伸びは10パーセントであった。東アジアと南 アジアでは、主に中国とインドの高成長のお陰で、これらの小地域では わずか14年でその国民一人当たりの GDP を二倍以上にすることができ
経済社会開発 241
開発途上国への対外直接投資(FDI)の流れ、 1990−2006年 10 億ドル 350
GDP パーセント 3.5 3.0
300 GDP パーセント (right scale)
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2.5 2.0
150
1.5
100
1.0
50
0.5
0
0.0
19
9 19 0 9 19 1 9 19 2 9 19 3 9 19 4 9 19 5 9 19 6 9 19 7 9 19 8 9 20 9 0 20 0 0 20 1 0 20 2 0 20 3 0 20 4 20 05 06 e
200
出典:世界銀行、「グローバル開発融資(2007 年)」 註:e=estimate (推定)
た。 アフリカでは2007年に6パーセント前後の成長を続けたが、ラテンア メリカや西アジアでは5パーセント近くになると思われた。このことは 「国連ミレニアム開発目標」への大きな進歩だとして希望を抱かせたが、 世界経済の不均衡は引き続き増大した。ある人はこれを深刻な問題だと 見なし、ある人は、ますます統合されたグローバルな経済の自然な、究 極的には無害な結果だと見なした。 すべての国をグローバルな貿易に参加させることが国連貿易開発会議 (United Nations Conference on Trade and Development: UNCTAD)の任務である。
UNCTAD は貿易、金融、技術、投資、持続可能な開発の分野で開発関 連の問題を取り上げる国連の中心機関で、開発途上国の貿易、投資、開 発の機会が最大になるように努める。また、これらの国が経済のグロー バル化から生じる問題に対処できるように助け、かつ世界経済に公平に 参加できるようにする。UNCTAD は、調査や政策分析、政府間の審議、 技術協力、市民社会や企業セクターとの相互作用などを通してこれらの 目標を達成する。
242
とくに UNCTAD は以下の事を行う。 ・グローバル経済の動向を調べ、それが開発に与える影響を評価する。 ・開発途上国、とくに後発開発途上国が国際貿易システムに参加し、 国際貿易交渉に積極的に関与するように支援する。 ・対外直接投資の流れのグローバルな傾向とそれが貿易、技術、開発 に及ぼす影響を調べる。 ・開発途上国が投資を誘致できるようにする。 ・開発途上国が企業と企業家精神を育成できるように援助する。 ・開発途上国と移行経済諸国が自国の貿易支援サービスの効率を改善 できるようにする。 UNCTAD の活動は、経済動向を明らかにし、グローバル化との関連 で貿易と開発の関係に関する思考と政策を形作るのを助ける。また、そ れによって、開発途上国が財貨、サービス、商品の国際貿易に効果的に 参加できるようにする。UNCTAD は、開発途上国のための特別かつ異 なる処遇の概念を進める主要機関の1つで、同時にその概念が「関税と 貿易に関する一般協定」およびその後の「世界貿易機関」のなかに組み 込まれるようにした重要な機関の1つである。また、国連システムの中 にあって貿易に関して後方支援を行う中心的機関である。取引コストを 削減し、輸送接続性を強化するために組織的、法律的、運用上の解決を 行って、開発途上国が世界の市場にアクセスできるようにする。 最近の UNCTAD の研究によると、「第二世代」の貿易中心のグロー バル化が現れてきており、経済的多極性を特徴とし、新興の南と南々と の貿易が重要な役割を果たしている。それにもかかわらず、UNCTAD は、 いくつかの国で見られる貧困の悪化と低開発が継続するスペクトルに断 固として取り組みつつも、現在の貿易の拡大とその変わりつつある地理 学を持続させるために、いかにして国際貿易システムの再編成をおこな うかについての問題を提起してきた。 UNCTAD は、通常の政府間討議や技術協力を通して、とくに中小企 業を中心に、企業開発を促進する。UNCTAD の技術協力活動は100カ国 以上の国の300件近くのプロジェクトに及び、そのための年間予算はお
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公平な貿易の促進 UNCTAD による政府間交渉、調査研究、技術援助によって以下のよ うな措置が生まれた。 ・一般特恵関税制度(Generalized Systems of Preferences)に関する協定 (1971年)――これによって毎年開発途上国から先進工業国への輸出 額700億ドル以上が特恵待遇を受けられるようになった。 ・開 発 途 上 国 間 に お け る「 グ ロ ー バ ル 特 恵 貿 易 制 度 に 関 す る 協 定 (Agreement on a Global System of Trade Preferences)」 (1989年) ・国際商品協定――ココア、砂糖、天然ゴム、ジュートおよびジュート 製品、熱帯木材、スズ、オリーブ油、小麦に関する協定を含む。 ・一次産品共通基金――これは国際緩衝在庫の運営と一次産品に関する 研究・開発プロジェクトを財政的に支援する。 ・総会は1980年、唯一の普遍的に適用される、任意の競争規範である多 国間合意公平原則および制限的商慣行管理規則を採択した。これは50 年ごとに再検討され、最近では2005年に再検討が行われた。 ・2007年、東アフリカ有機農産物基準(EAOS)の創設。EAOS は、欧 州連合に続く世界で2番目の有機農産物基準となる。 ・貿易分析と情報システム(TRAINS)。貿易、関税、非関税措置に関 するもっとも包括的な、公的に利用可能な国際データベース。
よそ3,100万ドルである。そのうちの37パーセントが後発途上国に向け られる。以下はそうした活動のいくつかの例である。 ・税関データの自動化システム(Automated System for Customs Data) ――最新の科学技術を利用して、政府が税関手続きと管理を近代化 できるようにする。現在このシステムは80カ国以上の国で利用され、 急速に税関自動化の国際基準になりつつある。また、経済ガバナン スを改善する道具でもある。 ・エンプレテック計画(EMPRETEC Programme) は、中小企業の開発 を促進する。情報ネットワークによって企業家がビジネス・データ ベースを利用できるようにする。 UNCTAD/WTO 国際貿易センター(International Trade Centre UNCTAD/
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WTO: ITC) 」は、貿易振興のために開発途上国と技術協力を進める国連
システムの中心機関である。開発途上国および移行経済諸国とともに貿 易振興計画を作成し、これらの国の輸出拡大と輸入業務の改善を図る (www.intracen.org を参照)。
ITC は以下の7つの重要な領域で活動する。すなわち、市場分析、ビ ジネス諮問サービス、貿易情報管理、輸出に関する研修、商品とマー ケット開発、サービス貿易、国際購買・供給チェーン管理である。 貿易振興のための技術協力プロジェクトは、ITC 専門家が現地の貿易 担当官との緊密な連絡のもとに実施している。国家プロジェクトは、同 国の輸出拡大と輸入業務の改善という幅広いパッケージの形を取ること が多い。
農業開発 地球上の人口の大多数は依然として農村地帯に住み、直接的または間 接的に農業によってその生計を立てている。この数十年の間に農村の貧 困が拡大し、深刻化したが、工業化を急ぐあまり、農業部門に対する投 資は十分でなかった。国連はさまざまな方法でこの不均衡を是正すべく 努めてきた。 国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO) 」は、農業、林業、漁業および農村開発のための先導機関である。
FAO は、広範な技術援助プロジェクトを通して具体的な援助を開発途 上国に行っている。とくに優先的に行っていることは、農村開発と持続 可能な農業を奨励することである。これは、天然資源の保存と管理を進 める一方で食糧の増産と食糧安全保障の強化をはかるもので、長期的な 戦略である。 持続可能な農業開発を進めるにあたって FAO が奨励していることは、 環境、社会、経済の要因を考慮に入れて開発プロジェクトを策定すると いう統合したアプローチである。たとえば、ある地域では、特別な作物 の組み合わせによって農業の生産性を改善し、農村住民に燃料用のまき
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を提供し、土壌を肥やし、浸食作用を緩和することができる。 FAO は常時およそ1,000件の現地プロジェクトを実施している。プロ ジェクトは総合的な土地管理プロジェクトから政府に対する林業計画や マーケティング戦略に関する政策やプランニングについての助言にまで 及ぶ。FAO は一般に以下にのべる3つの役割のうちいずれか1つの形 をとる。FAO 自身が事業計画を実施すること、他の機関に代わって事 業計画を実施すること、国家プロジェクトに対して助言や管理援助を提 供すること、の3つである。 FAO の投資センター(Investment Centre)は、開発途上国が農業開発や 農村開発に対する投資プロジェクトを策定するのを助ける。これは国際 融資機関とのパートナーシップのもとに行われる。毎年、同センターは、 100カ国前後の国々のおよそ140件の投資計画やプロジェクトのために 600回以上のフィールド・ミッションを派遣する。承認された投資提案 に対しておよそ30億ドルの資金コミットメントの動員を助けるために、 年におよそ2,500万ドルを費やす。そのうち FAO は900万ドルを負担する。 FAO の活動は土地と水資源の開発、農産物と畜産物の生産、林業、 漁業、経済・社会・食糧安全保障政策、投資、栄養、食品基準と食糧の 安全、第一次産品と貿易に及んでいる。たとえば、以下の通りである。 ・パキスタンでのプロジェクトは持続可能な作物の生産、作物生産の 多様化、回転基金の管理、農場サービスセンターを支援する。農民 は FAO プロジェクトに積極的に参加し、農村ベースのビジネス支 援サービスなど、農村での能力育成のための研修が行われる。 ・FAO はブラジルの「ゼロ飢餓計画」が発足して以来、重要な技術 的支援を同計画に提供してきた。この計画によって、2003年から 2005年にかけて、800万以上の家族の生活や栄養摂取が改善された。 さらに、 「食糧生産物購買計画」は、小規模農家の生産物の市場と 適正価格を確保することを目的としている。 ・ 「ンジャ・マルフク・ケニア」は、ケニア政府が進める10カ年計画 で、FAO がその成立を支援した。食糧の増産を図り、ケニアの慢 性的飢餓を削減することを目的とする。当初は、地域社会の能力育
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成、学校給食、天然資源の保護を支援した「食糧と労働」活動に焦 点が当てられ、5万世帯が参加した。2005年に始まったこの計画は、 2010年までに100万の農村家族を目標としている。 ・1976年の創設以来、FAO の「技術協力計画(TCP)」はおよそ8,800 件のプロジェクトに対して11億ドルの資金援助を行った。また、エ ドアルド・サウマ賞も管理する。これは TCP 融資のプロジェクト をとくに効果的に実施した国もしくは地域の機関をたたえて与えら れる賞である。 国際農業開発基金(International Fund for Agricultural Development: IFAD) は、農村に住む人々が貧困を克服できるようにする農業開発計画やプロ ジェクトに融資する。IFAD は、貧しい農村の人々の経済的向上と食糧 の安全を促進する計画やプロジェクトに融資や無償資金を提供する。 IFAD 支援のイニシアチブによって、こうした人々が生産的な農業を行 うために必要な土地、水、財政的資源、農業技術とサービスを受け、か つ収入を増やす一助となる市場や企業機会を利用できるようになる。 IFAD は貧困を削減する新たな、革新的なアプローチをテストし、知 識を広く共有し、加盟国や他のパートナーとともに働き、成功したアプ ローチを取り入れ、拡大する。また、貧しい農村の人々の知識、技能、 組織を構築する。 IFAD の援助を受ける者は世界でももっとも貧しい人々である。すな わち、小農、農村で土地を持たない人、遊牧民、漁民、先住民であり、 そしてすべての社会層を通して貧しい農村の女性である。IFAD の資源 の多くは、非常に緩やかな条件で貧しい国々に融資される。返済期間は 10年の猶予期間を含めて40年以上で、手数料は年に0.75パーセントであ る。2007年、IFAD は国際開発協会のモデルに基づいて債務持続可能性 の枠組みを採択した。これは、債務の持続可能性の低い国に対して、融 資の代わりに無償資金を提供するものである。 1977年の設立以来、IFAD は100カ国以上の国や独立した地域で731件 のプロジェクトに対して融資を行った。融資や無償資金の額は95億ドル に達し、3億人以上の貧しい農村の人々がその恩恵を受けた。さらに
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161億ドルの協調融資が行われた。90億ドルが政府や受益国の他の融資 機関から、71億ドルが二国間、多国間援助国や非政府機関など、外部の 共同出資者からであった。
工業開発 工業のグローバル化によって開発途上国と移行経済諸国はかつてな かった工業上の挑戦と機会とに遭遇することになった。国連工業開発機 関(United Nations Industrial Development Organization: UNIDO)は、これらの 国が新しいグローバルな環境の中で持続可能な工業開発を追及できるよ うに支援する国連の専門機関である。 UNIDO は加盟国の工業開発の努力を支援して、技術協力プログラム を策定し、実施する。優先的に取り上げているテーマは以下の通りであ る。 ・生産的な活動による貧困削減――とくに開発が進んでいない国で、 中小企業を通して工業を促進し、同時に雇用と所得の創出、制度的 な能力を育成する。 ・貿易の能力育成――国際市場の基準に従う能力も含め、生産と貿易 に関係する能力を育成できるように支援する。 ・環境とエネルギー――とくに農村地帯において工業エネルギーの効 率と再生可能なエネルギーを促進し、持続可能な工業開発に必要な 他の活動を支援する。 UNIDO は政府やビジネス団体、民間工業セクターを援助し、UNIDO の中心的な任務やテーマ上の優先事業を具体化したサービスを提供する。 工業ガバナンスと統計、投資と技術促進、工業の競合性と貿易、民間部 門の開発、農工業、持続可能なエネルギーと気候変動、オゾン層の破壊 物質に関するモントリオール議定書、環境管理である。 UNIDO はまた、グローバルなフォーラムとなって3つの優先テーマ の領域で工業関連の知識の普及をはかり、公共、民間の両部門のすべて の主体のためのプラットフォームを提供する。
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UNIDO の13の投資技術促進事務所は、先進工業国と開発途上国、移 行経済諸国とのビジネス・コンタクトを推進している。その費用はこの 事務所のホスト国が支払う。また、5つの投資促進ユニット、35の国内 クリーン生産センター、10の国際技術センターを持っている。本部は ウィーンにあり、その他開発途上43カ国に事務所がある。
労 働 開発の経済的、社会的側面に関心を持つのが国際労働機関(International Labour Organization: ILO)で、国連の専門機関の一つである。ILO は、国
連が創設される前にベルサイユ条約によって1919年に設立された機関で ある。ILO は長年にわたって職場における労働基準を設定し、その監視 を続けてきた。それによって、国際労働基準と指針の枠組みが作られる ようになり、世界のほとんどすべての国はそれを国内立法の中にとりい れている。 ILO を導く原則は、社会の安定と統合は、社会正義、とくに健全な職 場において公正な報酬を受けて労働する権利が達成されてはじめて持続 する、ということである。これまでの数十年、ILO は8時間労働、出産 保護、児童労働法、さらには安全な職場や平和な産業関係を促進する政 策など、これまでの重要な成果に大きく貢献してきた。 ILO が具体的に行っていることは以下の通りである。 ・基本的人権を促進し、労働・生活条件を改善し、雇用の機会を創出 する国際的な政策や計画を策定する。 ・その適用を監督するユニークなシステムとともに、国家当局が健全 な労働政策を実践する際の指針となる国際労働基準を創設する。 ・これらの政策を実効あるものにするために、受益国と共同で幅広い 技術協力計画を作成し、実施する。 ・これらの努力を前進させる訓練、教育、研究および広報活動を行う。 ディーセント・ワーク(権利と十分な収入が保証され、適切な社会的保 護のある生産的な仕事) ILO の主要目的は、すべての人がディーセン
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ト・ワークを得る機会を促進することである。国際労働会議(ILO 総 会)は、この主要目標を達成するために4つの具体的な目的を承認した。
・労働に関する基本原則と権利を促進し、実現する。 ・男女がともにディーセントな雇用と収入を確保できる機会を創出す る。 ・すべての人々のために社会保護の適用と効果を高める。 ・政府、労働者、企業の間の対話を強化する。 この目的を達成するために、ILO は児童労働の漸進的廃止、働く人々 の健康と安全、中小企業の育成、差別とジェンダーによる不平等の撤廃、 ILO 総会が1998年に採択した「労働の基本的原則と権利に関する ILO 宣言」の推進に力を入れている。 技術協力 ILO の技術協力は、雇用創出と労働者の保護を通して民 主化、貧困の撲滅をはかることにある。とくに、ILO は、加盟国がその 立法措置を発達させ、かつ ILO 基準を実践するための具体的措置をと れるように援助する。そのため、労働安全対策と保健、社会保障制度、 労働者の教育などに関する計画を支援する。プロジェクトは受益国、援 助国、ILO 間の緊密な協力のもとに実施される。そのために、ILO は世 界の各地や地域に事務所を設け、そのネットワークを確立している。 ILO はおよそ140の国や地域で技術協力計画を実施している。この10年 の間、技術協力のための予算は平均して年におよそ1億3,000万ドルで あった。 ILO の国際研修センター(International Training Centre)は、イタリアの トリノにあり、民間企業や公共企業の上級・中級管理職の人々、労働者 組織や経営者組織の指導者、政府の担当官や政策決定者を対象に研修を 行っている。毎年350以上のコースを提供し、170カ国のおよそ8,000人 が参加する。 ILO 国際労働研究所(International Institute for Labour Studies) は、ジュ ネーブにあり、ILO に関係する新しい問題について政策研究や公開討論 を進める。テーマは労働機関、経済成長、社会的公平との間の関係であ る。研究所は社会政策に関するグローバルな場として行動し、国際研究
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ネットワークを維持し、教育計画を実施している。
国際航空 2006年、21憶人以上のの乗客がおよそ2,400万回に及ぶフライトで旅 行し、3,900万トン近くの貨物が空輸された。国際航空を安全かつ秩序 正しく発展させることが、国連の専門機関の1つである国際民間航空機 関(International Civil Aviation Organization: ICAO)の管轄である。 ICAO の目的は、一般の人々が望む国際航空の安全、保安、効率、継 続性を満たし、それが環境の与える悪影響を最低限に抑えることである。 また、民間航空を規制する法律を強化する活動も行っている。 こうした目的の達成のために、ICAO は以下のことを行う。 ・航空機とその設備の設計と性能に適用される国際基準や勧告を採択 する。航空会社のパイロット、乗務員、航空管制官、地上要員およ び整備要員の行為、それに、国際空港における安全確保と出入国手 続きについての基準や勧告も採択する。 ・肉眼もしくは機器による飛行規則や国際航空に利用される航空図を 作成する。航空機の通信システム、周波数、安全手続きも ICAO の 責任である。 ・航空機の排出物を減少させ、騒音を制限することによって航空機が 環境に及ぼす影響を最小限にする。 ・税関、入国、公衆衛生、その他の手続きを標準化することによって 航空機、乗客、乗務員、手荷物、貨物、国境を越える郵便物の移動 を可能にする。 不法妨害行為が国際民間航空の安全と保安にとって重大な脅威となっ ている。ICAO は引き続きその防止のための政策や対策を進めている。 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロをうけて、ICAO は航空安全行 動計画を発足させた。それには、安全基準の実施を評価し、必要に応じ て是正措置を勧告する普遍的な監査計画も含まれる。 さらに、ICAO は開発途上国からの要請に応えて、航空運送システム
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の改善や航空要員の養成を支援している。いくつかの開発途上国では地 域訓練センターの設立を援助した。毎年、ICAO はおよそ100カ国の200 件以上の技術協力プロジェクトを支援している。プロジェクトには航空 財貨やサービスの調達も含まれ、その額は10万ドルから1億ドルにまで 及ぶ。ICAO 援助の基準は、ICAO の国際標準勧告方式に従って、安全 かつ効率ある国際航空の運行にあたって何を加盟国が必要としているか によって決まる。 ICAO は IMO や ITU、WMO のような国連の専門機関と緊密な協力の 下に活動する。国際航空運送協会(International Air Transport Association)、 国際空港協議会(Airports Council International)、国際航空パイロット協会 連盟(International Federation of Airline Pilot Associations)、その他の国際機関 が ICAO の多くの会議や会合に参加する。
国際海運 国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)が第1回総会を 開いた時の加盟国の数は、40カ国にも満たなかった。現在、加盟国の数 は167カ国となり、世界の商船(トン数)の98パーセント以上が IMO に よって開発された主要な国際海運条約に基づいて運行されている。 海事立法措置の採択が IMO のもっともよく知られた活動である。 IMO はこれまでおよそ40件の条約や議定書を採択した。そのほとんど が世界の海運事情の変化に合わせて改定される。また、海の安全、汚染 防止、その他の関連事項についておよそ1,000件の規則や勧告が採択さ れた。その後、国際海運の安全を確保し、船舶による海洋汚染を防止す るという IMO の目的に、海上における安全という任務が新たに加わっ た。現在取り上げられている主な環境上の関心事は、バラスト水や沈殿 物の中の有害な水性有機物の移動、船舶からの温暖化ガスの排出、船舶 のリサイクルの問題である。 当初、IMO の関心事項は、船舶の安全や海洋汚染防止に関する国際 条約やその他の立法措置を発達させることであった。今日、主要な関心
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事は、IMO の国際基準を実施させ、かつ既存の立法を今日の状況に合 うように改定し、規制枠組みのギャップを埋めることである。 現在発効中の海上の安全や船舶による海洋汚染防止に関する主な IMO 条約は、以下の通りである。 ・満載喫水線に関する国際条約(International Convention on Load Lines: LL, 1966年)
・海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(International Regulations for Preventing Collisions at Seas: COLREG, 1972年)
・安 全 な コ ン テ ナ に 関 す る 国 際 条 約(International Convention for Safe Containers: CSC, 1972年)
・船舶による汚染の防止のための国際条約(International Convention for the Prevention of Pollution from Ships: MARPOL, 1973年)とその修正に関
する1978年の議定書 ・海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea: SOLAS, 1974年)
・船員の訓練および資格証明ならびに当直の基準に関する国際条約 (International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers: STCW, 1978年)
・海上における捜索および救助に関する国際条約(International Convention on Maritime Search and Rescue: SAR, 1979年)
その他、危険物質の輸送や高速クラフトのような特定の問題を取り上 げた規則が数多く採択された。そのうちのいくつかは強制的なものであ る。国際安全管理(ISM) コードは、1994年の SOLAS の修正によって 強制的なものになった。これは船舶を運行し、所有するものに適用され る。1978年の船員の訓練と資格証明に関する条約の1995年の完全な改正 など、船員の資格基準についても特別の注意が払われてきた。これに よって、IMO は初めて条約の順守を監視することになった。 海上における生命の安全を守ることが、IMO の主要な目的の一つで ある。1999年、全世界海上遭難安全システム(Global Maritime Distress and Safety System) が完全に運用されるようになった。これによって、船員
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が無線で救助を要請する時間がなくてもメッセージは自動的に送信され るため、世界のいかなる海上においても遭難した船舶は、実質的に援助 を保証されるようになった。 IMO 条約の多くは損害に対する責任と補償の問題を取り上げている。 もっとも重要な条約に、「油による汚染損害についての民事責任に関す る 国 際 条 約(Internnational Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage: CLC, 1969年)の1992年議定書」と「国際油濁補償基金の設立に関す
る 国 際 条 約(International Convention on the Establishment of an International Fund for Compensation for Oil Pollution Damage: IOPC, 1971年) の1992年議定
書」がある。これらの二つの条約によって、油濁による損害は補償を受 けられるようになった。「乗客およびその手荷物の海上運搬に関するア テネ条約(Athens Convention relating to the Carriage of Passengers and their Luggages by Sea: PAL, 1974年) 」は、船舶による乗客に対する補償限度を規定
している。 2002年12月、「国際船舶および港湾施設保安コード(International Ship and Port Facility Security Code) 」を採択した。これは、テロ攻撃から海運
を保護する目的の新しい措置である。保安コードは「海上における人命 の安全のための国際条約(SOLAS)」の改正のもとに採択され、2004年 7月1日から義務的となった。2005年、IMO は「1988年海洋航行の安 全に対する不法行為の防止に関する条約(Convention for the Suppression of Unlawful Acts Against the Safety of Maritime Navigation, 1988年)の改正と関連
「議定書」を採択した。これによって、船舶もしくは乗船中の人が条約 に規定される犯罪を犯し、または過去に犯し、もしくはそうした犯罪に 関与するとの正当な理由を締約国がもつ場合は、他の締約国の国旗を掲 げる船舶を臨検する権利が認められた。 IMO の技術協力計画は、とくに開発途上国において、国際基準や規 則が実施されるように支援し、また政府の海運業が成功するように援助 することを目的とする。とくに訓練に力を入れており、スウェーデンの マルメに世界海事大学(World Maritime University)、マルタに国際海事法 研究所、イタリアのトリエステに国際海事アカデミーがある。
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電気通信 電気通信は、各種のサービスをグローバルに提供するためには不可欠 である。銀行業、観光業、運輸、情報産業など、すべて迅速かつ信頼し うるグローバルな電気通信を必要とする。グローバル化、規制緩和、再 編成、付加価値ネットワークサービス、インテリジェント・ネットワー ク、地域取り決めなど、このような傾向のもとにあって、電気通信部門 は現在、大変革を遂げつつある。そのため電気通信の性格は完全に変 わってしまった。初期の頃の電気通信は公共のための利用であったが、 今では商業や貿易と強く結びついている。2兆1,000億ドルのグローバ ルな電気通信市場は2008年の2兆5,000億ドル、2010年の3兆ドルへと 成長するものと予測される。 国際電気通信連合(International Telecommunication Union: ITU)は、1865 年まで遡ることのできる世界でもっとも古い政府間機関である。ITU は、 グローバルな電気通信ネットワークとサービスを提供するために公共部 門と民間部門の双方を調整する。 具体的に ITU が行っていることは以下の通りである。 ・各国の通信インフラをグローバルなネットワークに連結させるよう な基準を発展させ、データ通信、ファックス、電話を問わず、24時 間の情報交換を可能にする。 ・新しい技術をグローバルな電気通信ネットワークに統合し、イン ターネット、電子メール、マルチメディア、電子商取引のような新 しい応用方法を開発する。 ・無線周波数スペクトル帯と対地静止衛星軌道の割り当てを規制する 国際規則や条約を採択する。これはテレビ・ラジオ放送、携帯電話、 人工衛星による通信システム、航空・海上航行と安全システム、無 線コンピューターシステムなど、広範な設備によって利用される有 限の天然資源である。 ・開発途上国の電気通信サービスの拡大と改善に努める。そのために
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政策助言、技術援助、プロジェクト管理、訓練を提供し、また電気 通信行政、融資機関、民間組織との間のパートナーシップを育成す る。 ITU は、情報通信技術(ICT) のための国連の専門機関として、世界 情報社会サミット(World Summit on the Information Society)の主導管理機 関であった。サミットは2003年12月10日から12日までジュネーブで、 2005年11月16日から18日まではチュニスで開かれた。サミットでは「原 則宣言と行動計画」が採択された。それは、すべての人が情報と知識を 創り出し、アクセスでき、利用し、共有することができるような、人間 を中心とした包括的な、開発指向の情報社会を建設することを目的とし たものであった。 サミットの目標実施を先導するために、2007年10月にルワンダのキガ リで「コネクト・アフリカ・サミット(Connect Africa Summit)」が開催 された。サミットにはアフリカの ICT インフラへの投資を目的に政府、 民間セクター、融資機関が参加し、2012年までにアフリカのすべての都 市を結ぶ目標に総額550億ドルのコミットメントを行った。 今日、電気通信の環境は急速に変わりつつある。ITU へ加盟すること は、急速に進む世界の再編成に重要かつ価値ある貢献を行うユニークな 機会を政府や民間組織が得ることを意味する。ITU の加盟国は、世界の 最大の製造業や運送業からインターネット・プロトコル(IP) ネット ワーキングのような分野で働く小規模な、革新的な新しい企業まで、電 気通信と情報技術産業の双方を代表する。 191の加盟国に加え、ITU には科学・工業関係企業、公共および民間 の運航業や放送局、地域および国際の機関を代表するおよそ600の部門 別メンバーとおよそ140近くの準メンバーがある。政府と民間部門との 間の国際協力の原則に基づいて、ITU は、このますます重要性を増す産 業の将来に影響を与える多岐にわたる問題について協議し、コンセンサ スに達するためのグローバルなフォーラムである。
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国際郵便サービス 現在世界でおよそ550万人以上の郵便局員が毎年4,370億通の郵便物の 処理、郵送に携わっている。そのほかにも60億もの国際、国内の小包が ある。また、郵便サービスについて66万5,000回のアクセスがある。こ うしたサービスを規制する国連の専門機関が万国郵便連合(Universal Postal Union: UPU)である。
UPU は郵便物の相互交換のために単一の郵便地域を形成する。各加 盟国は、自国の郵便のために利用する最善の手段と同じ手段で他の国の 郵便物を郵送することに同意する。各国の郵政庁間の主要な協力の道具 として、UPU は国際郵便サービスの改善を図り、国際郵便のために共 通の単純な手続きを各国の郵便税関に提供し、最新の商品やサービスを 利用できるようにする。 UPU は好ましい郵便料金、最大最小の重さ、寸法の制限、それに郵 便書簡類の受け入れ条件などを設定する。それには優先および非優先の 郵便物、書簡、航空書簡、はがき、印刷物、小型小包などが含まれる。 UPU はまた、(1国もしくは複数の国を通過する郵便物のための)通過料金 や(郵便物が不均衡な場合の)ターミナル税の計算と徴収のための方法も 規定する。また、書留便や航空便、それに伝染性および放射性の物質の ように特別の注意を要する郵便物のための規則も確立する。 UPU のおかげで、新しい商品やサービスが国際郵便ネットワークの 中に統合されている。このようにして、世界のほとんどの人々が書留便 や郵便為替、国際返信用クーポン、小型小包、速達のようなサービスを 利用できるようになった。 UPU はある種の活動、たとえば加盟国郵政庁による電子データの相 互交換技術の応用やグローバルな規模による郵便業務の質の監視などで 強力な指導性を発揮してきた。 UPU は、各国の郵便業務の能率化を図る目的で数カ年におよぶ技術 援助プロジェクトも実施している。また、一連の研究、訓練のための
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フェローシップ、現地での訓練、管理、郵便業務の運営に関する研究を 行う開発コンサルタントのサービス提供など、短期のプロジェクトも実 施する。さらに、郵便部門への投資の必要を国際金融機関に認識させる 努力も行っている。 世界の郵政庁は郵政ビジネスの再活性化を目指して断固とした努力を 行っている。爆発的な成長を経験している通信市場の一部として、郵便 サービスは急速に変わる環境に適応し、より以上に自立し、自己資金調 達の機関となって、広範にわたるサービスを提供しなければならない。 UPU はこの再活性化の促進に指導的役割を果たしている。
知的所有権 書籍、フィーチャー・フィルム、芸術的パフォーマンス・メディア、 コンピューター・ソフトウェアなど、さまざまな形態の知的所有権は、 国際商取引との関連で重要な問題となってきた。現在、世界では何百万 という特許、商標、工業デザインが登録され、効力を有している。今日 の知識集約的経済では、知的所有権が富の創造と経済的、社会的、文化 的発展を促進するための道具となっている。 国連の専門機関の1つ、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)は、加盟国間の協力を通して世界の知的所有権を保
護し、知的所有権の法律的、行政的側面に関する国際条約を管理する。 知的所有権(IP)は大きく2つに分けることができる。1つは工業所有 権で、おもに発明、商標、工業デザイン、原産地表示などである。もう 1つは著作権で、おもに文学、音楽、絵画、写真、視聴覚作品である。 WIPO は知的所有権の重要な側面をカバーする24の条約を管理する。 そのうちのいくつかは1880年代にまでさかのぼることができる。国際 IP 制度の2つの柱は「工業所有権の保護に関するパリ条約(Paris Convention for the Protection of Industrial Property, 1883年) 」と「文学的および美
術的著作物の保護に関するベルヌ条約(Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works, 1886年)」である。ごく最近では、2006年「商
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標法に関するシンガポール条約(Singapore Treaty on the Law of Trademarks)」 を採択した。有名なマーク(1999年)、商標ライセンス(2000年)、イン ターネット上のマーク(2002年)のようなテーマに関する勧告を採択す るという WIPO の方針は、国際的な法的基準を設定する条約に基づく アプローチを補完するものである。 WIPO の仲裁・調停センター(Arbitration and Mediation Centre) は、世 界の個人や企業の紛争の解決を支援する。とくに、知的所有権に関係し た技術、エンターテイメント、その他の紛争が多い。また、一般に「サ イバー・スクワッティング」として知られる、インターネット上のドメ イン名の不法な登録や使用に関連する紛争についてのも主導的な紛争解 決機関となっている。たとえば、.com, .net, .org や .info のように、イン ターネットに特有のトップレベルのドメイン名やある種の国別コードの ドメイン名に対してもサービスを提供している。WIPO の紛争解決は、 裁判所での訴訟に比べて速く、かつ安い。オンラインで手続きをするた め、ドメイン名に関する事件の場合でも一般に2カ月以内で解決する。 WIPO は、加盟国がその知的所有権のインフラ、組織、人的資源を強 化できるように支援し、また、国際 IP 法の漸進的発達を促進する。ま た、新たな要請に対応する政策策定のフォーラムを提供し、伝統的知識、 民間伝承、生物の多様性、バイオ技術に関する知的所有権に関する国際 会議も主催する。 WIPO は、開発途上国がその経済的、社会的、文化的発展のために知 的所有権を戦略的に利用できるように支援する。国内法の起草や改定に 必要な法的、技術的助言や専門知識を提供する。また、政策決定者、担 当官、学生など、多くの受益者を対象に研修計画も実施する。WIPO の 研修の中心機関は、 「WIPO ワールドワイド・アカデミー」である(www. wipo.int/academy/en を参照) 。
また、複数の国で、単純かつ効率的に、かつコスト効率のいい方法で IP 権利を獲得するプロセスを容易にするサービスを産業や民間セク ターへ提供する。これには、「特許協力条約」、 「標章の国際登録に関す るマドリッド・システム」、 「工業意匠の国際登録に関するハーグ・シス
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テム」 、 「原産地名称の保護および国際登録に関するリスボン協定」 、「微 生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約」の下に行われるサー ビスが含まれる。こうしたサービスからの収入が WIPO 所得のおよそ 95パーセントを占めている。
グローバルな統計 政府、公共機関、民間セクターにとって、国および国際レベルの正確 かつ比較可能な統計は必要不可欠である。国連はその創設以来統計に関 する中心機関となってきた。 統計委員会(Statistical Commission)は、世界の公式統計の調和をはか る国連の政府間機関である。24カ国で構成され、各種統計の収集、編纂、 普及の方法や基準を開発する国連統計部(UN Statistics Division) の作業 を監督する。 統計部は、統計の編纂者と利用者に幅広いサービスを提供する。「統 計年鑑(Statistical Yearbook)」や「統計月報(Monthly Bulletin of Statistics)」、 「世界統計便覧(World Statistics Pocketbook)」 、公式の「国連ミレニアム開 発目標指数の公式データベース」 、「国連データポータル」など、統計部 の年鑑や統計要覧は、印刷やオンラインで幅広い横断的な情報を提供す る。また、人口・社会・住宅統計、国民所得、経済社会分類、エネル ギー、国際貿易、環境など、専門的な刊行物も出版されている。 統計部は、技術諮問サービス、訓練計画、各種の項目に関するワーク ショップの開催などを行い、開発途上国の国内能力の改善に努めている。 「国連データポータル」については http://data.un.org を参照。
公共行政 国の開発計画を成功させるにあたってもっとも重要な要素が、国の公 共部門であることには疑問の余地がない。グローバル化や情報革命、民 主化がもたらした新しい機会は、国家とその機能のあり方に劇的な影響
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を与えた。したがって、間断なく続く変化の環境にあって、公共部門を 管理することが国家の政策決定者、政策デベロッパー、公共行政官に とって大きな課題である。 国 連 は、 そ の 公 共 行 政・ 財 政 計 画(Programme in Public Administration and Finance)を通して、統治制度や行政機関を強化、改善、改革しよう
としている国々を支援している。この計画は、国連事務局の経済社会局 の 公 共 行 政 開 発 管 理 部(Division for Public Administration and Development Management)の管理のもとにあり、公共の経済、行政、財政の機構を含
む政府の統治が、効果的な、対応能力のある、貧しい者の立場に立った、 民主的な方法で機能するように援助する。また、適正な公共政策、効果 的公共行政、効率的なサービスの提供、変化への柔軟な対応を進める (www.unpan.org/dpepa.asp を参照)。
活動は、倫理改善の国内計画の策定、公共政策における透明性と説明 責任、地方自治体の能力強化と地方分権、公共サービスの実施改革、公 務員制度の改革、紛争後の統治および公共行政機関の再構築、公共セク ターにおける人的資源源開発と管理、統治のシステムや機関の再構築と 強化、開発のための情報通信技術の応用、一般参加型統治の促進などに ついて、開発途上国政府を援助することにまで及ぶ。 多くの活動は南南協力を育成する。そのため、南南協力の成功例を強 調し、最善の慣行の普及に努める。こうしたことは国連の公共行政財政 オンライン・ネットワークを通して行われる。この部はまた、ミレニア ム開発目標の達成のために、政府の活動やサービスの提供に情報技術を 利用することなど、システムや道具、技術、手続き、プロセスの導入を 援助する。
開発のための科学技術 国連は1960年代以来加盟国の開発のために科学技術の応用を促進して きた。43カ国構成の「開発のための科学技術委員会(Commission on Science and Technology for Development) 」は1992年に設置され、科学技術の問
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題とそれが開発に及ぼす影響を検討するとともに、開発途上国において 科学技術政策についての理解を促進し、国連システムの中で科学技術の 問題に関して勧告を作成する(www.unctad.org/cstd を参照)。 委員会は、世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society) に対する国連全体のフォローアップについて、母体である「経済
社会理事会」のためのフォーカルポイントとなる。2006−2007年会期の テーマは、 「人間中心の、開発指向の包括的情報社会の構築を促進す る」であった。委員会に対する実質的かつ事務局としての支援は、 UNCTAD が行っている。 UNCTAD はまた、技術能力育成、革新、開発途上国への技術の流れ に有利な政策を進めている。これらの国がその科学技術政策の見直しを 行うのを支援し、南南科学ネットワーク作りを促進し、情報技術に関す る技術援助を提供する。 FAO、IAEA、ILO、UNDP、UNIDO、WMO もそれぞれの機関に与え られた任務の範囲内で科学技術の問題に取り組んでいる。開発のための 科学はまた、ユネスコにとっても重要な活動の一つとなっている。
社会開発 経済開発と切り離せない関係にあるのが社会開発で、国連の創設以来、 社会開発は国連活動の柱石となってきた。国連が何十年にもわたって開 発の社会的側面を強調してきたのは、すべての人のためにより良い生活 を実現することが開発努力の中心に据えられるようにするためであった。 その初期の頃、国連は人口統計、保健、教育についてこれまでと違っ た新しい研究とデータの収集に着手した。それによって初めて地球規模 で社会指標に関する信頼にたるデータを編纂することができた。また、 記念建造物から言語まで、文化遺産の保護にも努めた。言語については、 急激な変化にとくに脆弱な社会層の懸念を反映させた。 国連は、すべての人の健康、教育、家族計画、住宅および衛生に関す
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る社会サービスを提供する政府の努力を率先して支援してきた。社会計 画のモデルを開発することに加え、国連は開発の経済的側面と社会的側 面の統合を図った。国連の政策や計画が常に強調してきたことは、開発 が持つ社会的、経済的、環境的、文化的要因は互いに関連し合っており、 そのうちの一つだけを切り離して追及することはできない、というもの であった。 グローバル化と自由化が社会開発の新たな挑戦となっている。グロー バル化の恩恵をより公平に分かち合うべきだとの願いが強まっている。 自由貿易と投資がもたらす果実を貧困削減、雇用創出、社会的統合の促 進に向けさせなければならない。 社会の領域における国連活動は「人間中心」のアプローチを取ってい る。これは開発戦略の中心に個人、家族、地域社会をおくものである。 国連は社会開発を新たに強調するようになった。これは一部、時には保 健、教育、人口のような社会問題、また時には女性、子ども、高齢者の ような社会層を犠牲にしながら経済、政治問題が国際的課題を独占する 傾向にあることを相殺しようとするものである。 多くの国連グローバル会議は、これらの問題に焦点を当ててきた。世 界社会開発サミット(コペンハーゲン、1995年)は、国際社会が貧困、失 業、社会の崩壊と闘い、21世紀のための社会的責任の新たな意識を創り 出すために集まった最初の会議であった。世界サミットの独創性はその 普遍性、その範囲、その倫理的基礎、そして国家の中で、また国家間で 育まれる新たな形態のパートナーシップにある。社会開発のためのコペ ンハーゲン宣言とその10項目のコミットメントは、グローバルなレベル での社会契約を意味するものである。 社会開発の多様な問題は、開発途上国、先進国の双方にとっての挑戦 である。程度の差こそあれ、すべての社会は失業、社会の崩壊、長引く 貧困の問題を抱えている。そして、強制移住の問題から薬物乱用、組織 犯罪、病気の蔓延など、ますます多くの社会問題が各国協調の国際行動 をとらない限り解決できない問題となってきている。 国連は総会と経済社会理事会(Economic and Social Council: ECOSOC)を
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1990年以降の主な世界会議 ・万人のための教育に関する世界会議、1990年(ジョムチェン、タイ) ・子どものための世界サミット、1990年(ニューヨーク) ・栄養に関する国際会議、1992年(ローマ) ・国連環境開発会議(UNCED) 、1992年(リオデジャネイロ) ・世界人権会議、1993年(ウィーン) ・国際人口開発会議、1994年(カイロ) ・小島嶼開発途上国の持続可能な開発に関するグローバル会議、1994年 (バルバドス) ・世界社会開発サミット、1995年(コペンハーゲン) ・第4回世界女性会議:平等、開発および平和のための行動、1995年 (北京) ・第2回国連人間居住会議(Habitat II)、1996年(イスタンブール) ・世界食糧サミット、1996年(ローマ) ・世界教育フォーラム、2000年(ダカール) ・第3回国連後発開発途上国会議、2001年(ブリュッセル) ・世界反人種主義会議、2001年(ダーバン) ・世界食糧サミット:5年後会合、2002年(ローマ) ・開発資金国際会議、2002年(モンテレー) ・第2回世界高齢者会議、2002年(マドリッド) ・持続可能な開発に関する世界首脳会議、2002年(ヨハネスブルク) ・内陸・通過開発途上国の通過輸送協力に関する閣僚会議、2003年(ア ルマティ) ・国連防災世界会議、2005年(神戸) ・世界情報社会サミット、2003年(ジュネーブ)および2005年(チュ ニス) 特別総会も開かれ、国連環境開発会議(1997年)、小島嶼開発途上国 (1999年)、人口と開発(1999年)、女性(2000年)、社会開発(2000年)、 人間居住(2002年)、子ども(2002年) 、ミレニアム宣言(2005年)、小 型武器(2006年)後の進捗状況について5年ごとに再検討を行った。ま た、HIV/エイズに関する特別総会も開かれた(2001年に開催、2006年 に再検討)。
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世界社会開発サミット 世界社会開発サミット(コペンハーゲン、1995年)は、国連が開催し た一連のグローバル会議の一つであった。グローバル会議は、加盟国の 協力と他の開発主体の参加によって国際的な課題をいろいろな角度から 検討し、国際社会が直面する重要な問題についての認識を高めることを 目的とした会議である。社会開発サミットでは、およそ117カ国の国家 元首や政府首脳が、さらに69カ国を代表する閣僚とともに、「社会開発 に関するコペンハーゲン宣言」と「行動計画」を採択した。 政府は、すべての国に共通な3つの中核的問題、すなわち貧困撲滅、 完全雇用の促進、とくに不利な立場にある人々の社会統合の促進を実現 することによって世界の重大な社会問題に対処すると誓った。サミット は、国家および国際の政策の最高優先課題の一つとして社会開発に対処 し、かつ人間を開発の中心におくという集団の決意を表明した。 5年後、国連の特別総会(ジュネーブ、2000年)は、これらの原則の 重要性を再確認し、それを進める新たなイニシアチブに合意した。それ には、雇用に関する調整された国際戦略、社会開発と貧困撲滅計画のた めの公共および民間の資金確保などが含まれる。そして国連史上初めて、 2015年までにもっとも貧しい人々の数を半減するというグローバルな貧 困削減の目標を初めて設定した。このテーマはその後、 「ミレニアム開 発目標」で取り上げられた。
通して社会開発の問題に取り組んでいる。この2つの機関が国連全体の 政策や優先事業を決め、かつ活動計画を承認する。総会の6主要委員会 の1つである社会、人道および文化委員会(Social, Humanitarian and Cultural Committee=第3委員会)は、社会部門に関連した議題を審議する。
経済社会理事会のもとで社会問題をとり上げる主要な政府間機関は社会 開発委員会(Commission for Social Development)である。46カ国で構成さ れ、社会政策や開発の社会的側面について ECOSOC と政府に助言を与 える。2007年会期のテーマは、 「すべての人のための完全雇用とディー セント・ワーク」であった。 事務局の中では経済社会局の社会政策開発部(Division for Social Policy
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and Development)がこれらの政府間機関に役務を提供し、調査研究、分
析、専門家によるガイダンスを提供する。国連全体としては、これ以外 にも社会開発のさまざまな側面を取り上げる多くの専門機関や基金、事 務所がある。
ミレニアム開発目標の達成 1990年、12億の人々――開発途上国人口の28パーセント――が極度の 貧困の中で生活していた。2002年までに、2006年ミレニアム開発目標報 告によると、その割合は19パーセントまで減少した。アジアの多くの国 で極度の貧困は少なくなった。1日1ドル未満で生活する人の数は、人 口10億の人々の4分の1近くまで下がった。しかし、南東ヨーロッパや 独立国家共同体の移行経済国ではその反対に貧困が実際に増えた。もっ とも最近のデータによると彼らの貧困率は再び下がっている。サハラ以 南のアフリカでは、貧困率はわずかながら低下したが、極度の貧困の中 で生活する人々の数は1億4,000人も増えた(www.undp.org/mdg を参照)。 毎日のニーズを満たすために必要な食糧を欠く人々の比率で測定した 場合、開発途上国で慢性的飢餓は減少しているものの、飢餓となる人々 の数を減らすほど状況はよくならなかった。2003年で飢餓人口は8,200 万人であった。小学校就学率は開発途上国で86パーセントの伸びを示し たが、地域によってばらつきがあり、ラテンアメリカ・カリブでは95 パーセント、サハラ以南のアフリカでは64パーセントであった。残念な ことに、世界で、小学校の就学年齢に達した少女の5人に1人は学校へ 行っていなかった。男子の場合は6人に1人であった。とくに懸念すべ きことは、サハラ以南のアフリカや南アジアでジェンダーの差が広がっ ていることで、世界の未就学児童のおよそ80パーセントがこの地域に住 んでいる。 女性の政治参加は1990年以来大幅に増えた。2005年に選出された議員 では5人に1人は女性であった。しかし、地域によって著しい格差が見 られた。もっとも力強い進歩を見せたのがラテンアメリカ・カリブで、
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現在議席の20パーセントを女性が占めている。子どもの生存予測は世界 のすべての地域で改善されたものの、2004年、5歳児未満の死亡児童の 数は1,050万人であった。ほとんどが予防可能な病気が原因であった。 低年齢児童のわずか20パーセントを占めるに過ぎないが、サハラ以南の アフリカでは全死亡幼児の半分を占めた。また、妊産婦の死亡率はすべ のて地域で改善されているが、サハラ以南のアフリカや南アジアでの妊 産婦死亡率はほとんど変わっていないように見える。ほとんどの死亡は この地域で起こっている。さらに、およそ2億人の女性が出産の間隔や 制限を望んでいるものの、避妊具を入手できない状態にある。 グローバルな HIV 感染率――このウイルスを持つ人の比率――は横 ばい状態にあり、新たな感染者数も減少した。国連合同エイズ計画 (UNAIDS)と世界保健機関(WHO)が発表した「2007年エイズ最新情報 (2007 AIDS Epidemic Update)」によると、それは HIV 対策の結果である。
エイズウイルス感染者の数は2001年の2,900万人から2007年の3,320万 人に増えた。継続して増加する一般人口の中で生存期間が長くなったと いうのがその要因である。2007年にはおよそ250万人が新たにウイルス の感染し、210万人がエイズ関連の病気で死んだ。 2001年以来、サハラ以南のアフリカでは、新たな HIV 感染は大幅に 減少した。それにもかかわらず、この地域はもっとも重度の感染地域で、 2007年には170万人が新たに感染したと思われる。HIV に感染した全人 口の3分の2(76パーセント)がサハラ以南のアフリカに住む。また、 エイズ関連の死亡の4分の3(76パーセント)がこの地域で発生した。 それでも、この地域を故郷とする人々は世界人口の10パーセント前後を 占めるに過ぎない。 女性の HIV 感染者の割合は過去数年の間比較的安定しているが、実 際の数は上昇している。HIV とともに生きる人々の総数が上昇してい るからである。UNAIDS の推定によると、世界の新たな HIV 感染者の 総数の半数が子どもや25歳未満の人々である。 環境の持続可能性に関する目標については、森林破壊が驚くほどの割 合で進んでいる(年におよそ1,300万ヘクタール)。しかし森林地帯の純損
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失は減速してきている。1日およそ200平方キロの純損失である。エネ ルギーはほとんどの地域でより効率よく使われるようになった。しかし、 グローバルに見た場合、CO2の排出は上昇を続けている。12億人の人々 は1990年から2004年までの間、衛生施設を利用できたが、開発途上国人 口の半数が基本的な衛生施設を欠いている。他方、安全な飲料水を利用 できる人々の比率は、1990年の71パーセントから2004年の80パーセント にまで上昇した。しかしながら、2007年には、史上初めて、世界人口の 大多数が都市域に住んでいるでいると思われる。その結果、あらたに大 きなスラム人口とそれに付随する問題が課題となる。 2007年11月1日、新しいオンラインの道具、「MDG モニター」が発 足した。世界のほとんどすべての国で、大きなカテゴリーごとに、ミレ ニアム開発目標の達成に向かっての進捗状況を実時間で追跡する。政策 立案者、開発関係者、ジャーナリスト、学生、その他のための道具とし て意図されたもので、双方向性の地図による進歩や特定の国の進歩を追 跡する。それによってそれぞれの国や成果について学び、最新のニュー スを調べることができる。また、世界の MDG に関する活動を続ける組 織を支援することも可能である。「MDG モニター」は、各種の国連機 関や Cisco やグーグルなどの民間部門からの支援とともに、UNDP がま とめた。On line の www.midgmonitor.org で閲覧できる。 ミレニアム開発目標を支援して、国連システムの国際金融機関が、貧 困撲滅の社会的側面に焦点をあてた数多くのプログラムに融資すること で中心的役割を果たしている。国際復興開発機関(IBRD) と国際開発 協会(IDA)で構成される世界銀行は、2007年会計年度において247億ド ルの融資を行った。そのプロジェクトにはモロッコのおける給水改革、 インドネシアの貧困解消、インドのエイズ対策、ボリビアの気候変動に 伴う排出量の削減、セネガルの農村地帯のインフラ整備、アフガニスタ ンの小学校就学の劇的改善、東ティモールの保健システムの再構築、中 所得国の経済成長の促進などに対する支援が含まれる。
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貧困の削減 国連システムは貧困削減の問題を国際課題のトップにおいており、 1997−2006年を「貧困撲滅のための国際の10年(International Decade for the Eradication of Poverty)」と宣言した。2000年のミレニアム宣言において、
世界の指導者は、1日1ドル未満で生活する人々の数を2015年までに半 数にすると決意し、また、貧困と病気と闘う目標を設定した。 この活動の中心的機関が国連開発計画(United Nations Development Programme: UNDP) である。貧困の解消はその主要な優先分野である。
UNDP は、貧困の原因となる広範な要因に対処できるように政府や市民 社会の能力を強化することに努めている。たとえば、食糧安全保障を強 化すること、雇用の機会を創出すること、人々が土地や融資、技術、訓 練、市場にアクセスできるようにすること、住居や基本サービスの提供 を改善すること、そして人々が自分たちの生活を形成する政治に参加で きるようにすること、などである。UNDP の中心となる貧困撲滅活動は、 貧しい人々のエンパワーメントを強めることである。
飢餓との闘い 食糧生産は1945年に国連が設立されて以来未曾有の割合で増加してき た。1990−1997年の期間、世界の飢餓人口の数は劇的に減少し、9億 5,900万人から7億9,100万人になった。しかし、その数は再び上昇し、 およそ8億5,400万人が十分な食糧を得ることができない。アメリカ、 カナダ、欧州連合の人口を合わせた数よりも多い。これは、今日の世界 ではすべての男女、子どもが健康かつ生産的な生活を営むに十分な食糧 があるにも係わらずである。慢性的飢餓状態にある人々のうち、8億 2,000万人が開発途上国に住んでいる。 飢餓と闘う国連機関のほとんどは、とくに農村地帯の貧しい人口層を 中心に、食糧安全保障を強化する目的の社会開発計画を進めている。そ
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貧困、病気、環境に関するミレニアム宣言の目標 2000年9月のミレニアム・サミットで世界の指導者たちは以下のよう な目標を達成すると公約した。 ・2015年までに、世界で所得が1日1ドル以下の人々の割合と安全な飲 料水を利用できない人々の割合を半減させる。 ・同じく2015年までに、世界の少年、少女が小学校を修了できるように するとともに、あらゆるレベルの教育に平等にアクセスできるように する。 ・現在のレベルから妊産婦死亡率を4分の3に、5歳未満の子どもの死 亡率を3分の2に引き下げる。 ・HIV/エイズ、マラリアおよびその他の重大な病気の蔓延を阻止し、 その後減少させる。 ・HIV/エイズによって孤児となった子どもたちに特別の援助を与える。 ・2020年までに、少なくとも1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善 する。 ・貧困、飢餓、病気と闘い、持続可能な開発を刺激する方法として、 ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントを促進する。 ・世界各地の若者に対し、彼らにふさわしい、かつ生産的な仕事を見つ けるための機会を与える戦略を開発、実施する。 ・医薬品業界に対し、開発途上国において不可欠な医薬品が必要とする すべての人々によって幅広く利用できるようにするよう奨励する。 ・開発と貧困撲滅を目指し、民間セクターおよび市民社会組織とのパー トナーシップを発展させる。 ・情報通信技術をはじめとする新技術の恩恵がすべての人に行きわたる ようにする。 ミレニアム宣言では、世界の指導者たちはまた、多くの環境問題につ いても以下のような行動をとることを決意した。 ・できれば2002年までに京都議定書を発効させ、求められている温室 効果ガスの排出削減に乗り出す。 ・ 「生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity)」お よび「とくにアフリカにおける 砂漠化防止に関する条約(Convention to Combat Desertification, especially in Africa)」の完全履行を急ぐ。 ・地域、国家、地方のレベルで水管理戦略を策定することによって、水
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資源の持続不能な開発を中止する。 ・自然災害と人災の数とそれらの影響を削減するための協力を強化す る。 ・ヒトゲノム情報への自由なアクセスを確保する。
の設立以来、国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO)は、貧困と飢餓を撲滅する活動を続け、そのため
に、農業開発や栄養の改善に努めてきた。また、すべての人が活動的か つ健康的な生活に必要な食事療法のニーズや食物の好みに合った十分か つ安全な、栄養価の高い食糧をいつでも実際に、経済的に入手できるよ うにする食糧安全保障の問題にも取り組んできた。 FAO の世界食糧安全保障委員会(Committee on World Food Security) は、 国際食糧安全保障状況について監視し、評価し、協議する。委員会は飢 餓と食糧不足の主要要因を分析し、食糧の利用の可能性と在庫を評価し、 食糧安全保障に関する政策を監視する。FAO もまた、その全地球情報 早期警報システム(Global Information and Early Warning System)」を通して、 気象衛星やその他の衛星による監視を中心とした広範な監視制度を実施 している。それを通して、食糧生産に影響を及ぼす状態を見守り、食糧 の供給に潜在的脅威が生じた場合はそれについての警戒を政府や援助国 に呼びかける。 FAO の「食糧安全保障特別計画(Special Programme for Food Security)」 は、2015年までに飢餓人口の割合を半減するとのミレニアム開発目標 (MDG) を達成するための最重要のイニシアチブである。100カ国以上
のプロジェクトを通して、飢餓、栄養不良、貧困の撲滅のための効果的 解決を促進する。それは、2つの方法で食糧安全保障を達成する。すな わち、特定の国家食糧安全保障計画を実施する国の政府を援助すること、 地域経済機関と共同で、貿易政策のような領域で食糧安全保障の達成の ために地域の状態を最大限に利用すること、である。 FAO が主催した世界食糧サミット(ローマ、1996年) で、186カ国が 「世界食糧安全保障に関する宣言と行動計画(Declaration and Plan of Action
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on World Food Security)」を承認した。これは2015年までに飢餓人口の割
合を半減させることを目指し、かつ普遍的な食糧安全保障を達成するた めの方法を概説している。「世界食糧サミット:5年後会合」(ローマ、 2002年) には、179カ国と欧州共同体(EC) が出席した。その中には73
人の国家元首または政府首脳またはその代理が含まれた。 サミットは全会一致で宣言を採択し、2015年までに飢餓人口をおよそ 4億人に半減させると誓った1996年サミットの誓約を履行するよう国際 社会に呼びかけた。すべての人権と基本的自由を尊重する重要性を再確 認し、国家食糧安全保障との関連で、適切な食糧への権利を漸進的に実 現することを支援するガイドラインを策定するよう FAO に要請した。 これらの任意のガイドラインは、「食糧の権利ガイドライン」としても 知られるが、2004年の FAO 理事会で採択された。 それにもかかわらず、FAO の飢餓報告、 「世界の食糧不安定事情(State of Food Insecurity in the World) 」によると、国際的な努力が行われたものの、
世界の食糧安全保障の目標を達成するほどの進歩はなかった。飢餓に関 するミレニアム開発目標は今後達成できる可能性はあるものの、それを 達成するには平和と安定、より大きな政治的意思、健全な政策と投資の 増大が必要であると FAO は強調した。 国際農業開発基金(International Fund for Agricultural Development: IFAD)」 は、世界のもっとも貧しい地域の農村の貧困と飢餓と闘うために開発資 金を提供する。 1日1ドル未満で生活する世界のもっとも貧しい人々の大多数は、開 発途上国の農村地帯に住んでいる。生活は農業やそれに関連した仕事に 依存している。開発援助がそれをもっとも必要としている人々に実際に 届くようにするために、IFAD は、貧しい農村の男女を開発に直接参加 させ、彼ら自身やその組織との共同で、自分たちの地域社会で経済的に 自立する機会を作り出せるようにする。 IFAD 支援のイニシアチブによって、農村の貧しい人々が土地や水、 資金源、技能や組織を利用できるようにする。これによって彼らは自身 の開発を主導し、自分たちの生活に係わる決定や政策に影響を与えるこ
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とができるようになる。 1978年の操業開始以来、IFAD は731件のプログラムやプロジェクトに 95億ドルの投資を行い、3億の農村の貧しい人々が恩恵を受けた。その パートナーは(2006年末までに)161億ドルの協調融資を行った。 世界食糧計画(World Food Programme: WFP) は、グローバルな飢餓と 闘う国連の機関で、第一線で活躍する機関である。2006年、WFP は400 万トンの食糧を78カ国の7,780万人の人々へ届けた。そのうちの87パー セントが女性や子どもたちであった。寄付の半分を現金で受け取り、 200万トンの食糧を調達することができた。そのうちの4分の3は開発 途上国から調達した。現地経済を強化する目的で、WFP は、他の国連 機関に比べ、開発途上国からより多くの財貨・サービスを購入する。 1962年に世界の飢餓問題に係わって以来、WFP の飢餓との戦いは、 緊急援助、救援と復興、開発援助、特別の活動に焦点を当ててきた。緊 急事態が発生すると、現地に最初に現れるのが WFP で、戦争や内戦、 干ばつ、洪水、地震、ハリケーン、作物の凶作、自然災害の被災者に食 糧を届ける。緊急事態が治まると、WFP は食糧を使って地域社会がそ の破綻した生活や生計を再建できるように支援する。 現在行われている国連の改革プロセスの下に、WFP はこれからも食 糧援助部門の責任を果たすことになる。また、後方支援に関しては先導 機関となり、緊急連絡については共同で進める。 食糧と食糧関連の援助は、飢餓と貧困の永遠のサイクルを打ち破る闘 いでもっとも効果的な武器の一つである。開発途上国の多くがこうした 状態に追い込まれている。WFP の開発プロジェクトは、学校給食のよ うなプログラムを通して、とくに母親や子どものための栄養に焦点を与 えている。2006年には2,400万の人々がこの恩恵を受けた。また、現在 および将来において、防災など、多くの領域で政府や国民を助けるため に、国内の能力やインフラの構築を進めている。 飢餓サイクルを打破するには、危機の根本原因を解決する長期的対策 を人道的対応に組み込まなければならない。こうした挑戦に応えるため、 WFP は、社会の弱者層に焦点を当てたプログラムを開発した。学校給
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ポリオのない世界、実現間近 1988年に「世界ポリオ撲滅イニシアチブ(Global Polio Eradication Initiative) 」が発足したとき、世界には35万人のポリオ患者がいた。そして、 五大陸の125カ国以上の国々で毎日1,000人以上の子どもたちがポリオに かかっていた。国内予防接種デーに何百万という5歳以下の子どもたち に予防接種を行うという共同キャンペーンによって、2005年にはその数 字を報告患者1,951人にまで引き下げることができた。99パーセント以 上の減少である。2006年には、ポリオが残っている国はアフガニスタン、 インド、ナイジェリア、パキスタンの4カ国だけであった。 今日、開発途上国では、予防接種を受けなければ肉体の麻痺があった であろうと思われる500万以上の人々がポリオの予防接種を受けたおか げで今日歩いている。何万という公衆衛生要員や何百万というボラン ティアが訓練を受けた。予防接種のための輸送・通信システムが強化さ れた。1988年以来、20億人以上の子どもたちが予防接種を受けた。2006 年、世界ポリオ撲滅イニシアチブのパートナーは、36カ国での187回の 予防接種キャンペーンで、3億7,500万人の子どもたちが予防接種を受 けた。 この運動が成功したのは、WHO、ユニセフ、アメリカ疾病管理予防 センター、ロータリー・インターナショナルの先導のもとに、かつて見 られなかったような保健のためのパートナーシップが生まれたからで あった。ロータリーは民間部門の最大の援助者として、これまでにすで に6億ドルをこの活動に寄付した。保健省、援助国政府、財団、企業、 各界の名士、慈善家、保健要員やボランティアもこのキャンペーンに参 加した(www.@p;operadocatopm.org を参照)。 いったん予防接種が不要になると、ポリオ撲滅による公衆衛生予算の 節約は年に15億ドルにもなると推定される。
食のような食糧・栄養プログラム、訓練のための食糧や労働のための食 糧などの生活支援プログラム、母と子の栄養のような世代間の飢餓循環 を打破するプログラム、エイズ感染者への栄養支援などである。 WFP の人道援助や開発プロジェクトはすべて任意の拠出金によって まかなわれる。WFP は独立した資金源を持っていないが、国連諸機関
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の中では最大の予算額を持っている。しかも、間接経費は最低のレベル である。主要な資金源は政府であるが、企業パートナーもかなりの拠出 を行っており、その額は増加している。また、現在3,200以上の NGO が WFP に協力している。食糧援助を本当に必要としている人々に届ける には彼らの草の根の、専門知識は不可欠である。
保 健 世界のほとんどの国で人々の寿命は延び、幼児死亡率が下がり、常時 治療が受けられるようになった。多くの人々が基礎的な保健サービスや 予防接種、きれいな飲料水や衛生施設を利用できるようになったのがそ の理由である。国連はこうした前進の多くに深く係わってきた。国連は とくに開発途上国において保健サービスを支援し、基本的な医薬品を届 け、都市の健全化を計り、緊急時に保健援助を提供し、感染症と闘って きた。ミレニアム宣言は、各国が栄養、安全な飲料水の利用、妊産婦と 子どもの健康、感染症の管理、基本的な医薬品の入手などの分野で2015 年までに達成すべき目標を掲げている。 感染症による病気や障害、死亡は大きな社会的、経済的影響を及ぼす。 鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など、新たな病気は、 流行病の対策を緊急にとる必要を物語っている。しかし、ほとんどの感 染症の原因と治療は知られており、ほとんどの場合病気や死亡は支払い 可能な費用で回避できる。主要な感染症は HIV/エイズ、マラリア、結 核(囲み記事を参照)である。その蔓延を防止し、減少させることが、 主要なミレニアム開発目標の一つである。 何十年もの間、国連システムは病気との闘いで最前線に立ってきた。 国連は健康問題の社会的側面に対処する政策やシステムを作り出してき た。国連児童基金(ユニセフ)は子どもと母親の健康に焦点を合わせ、 国連人口基金(UNFPA)はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖の健康) と家族計画の問題に取り組んでいる。病気に関するグローバルな活動を 調整する専門機関に世界保健機関(WHO)がある。WHO はすべての人
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の健康を実現するという野心的な目標を定め、誰でもがリプロダクティ ブ・ヘルスを利用できるようにし、パートナーシップを構築し、健全な ライフスタイルと環境を促進してきた。 WHO は各種の歴史的業績の推進力であった。たとえば、1980年の天 然痘根絶がある。これを達成するには10年のキャンペーンが必要であっ た。また、1994年には、他のパートナーとともに、米州から小児麻痺を 追放した。現在もポリオのない世界の実現に向けて努力を続けている。 もう1つの業績は、たばこの供給と消費を規制する画期的な公衆衛生 条約の採択であった。世界保健機関(WHO) の「たばこ規制枠組み条 約」はたばこの課税、喫煙防止と治療、不正取引、広告、スポンサー行 為とプロモーション、生産規制などについて規定している。枠組み条約 は2003年6月に WHO 加盟国の全会一致で採択され、2005年2月27日に 拘束力のある国際法となった。条約は、喫煙に関連した病気を削減する グローバルな戦略の一環として採択された。毎年、たばこの喫煙が原因 で500万人近くの人々が死んでいる。今行動を起こさなければ、2020年 までには喫煙に関連する年間死者の数は、1,000万人にも達するであろ う。その70パーセントは開発途上国で起こっている。 1980年から1995年にかけて、ユニセフと WHO との協同事業によって 6つの殺人病、すなわちポリオ、破傷風、はしか、百日咳、ジフテリア、 結核に対する予防接種率が5パーセントから80パーセントにまで引き上 げられた。これによって年におよそ250万人の子どもたちの命が救われ ることになった。同じようなイニシアチブに「ワクチンと予防接種の世 界同盟(Global Alliance for Vaccines and Immunization: GAVI) がある。これ は予防接種のサービスを、毎年52万1,000人の人々を死亡させる B 型肝 炎と毎年45万人の子どもたちの生命を奪う B 型ヘモフィリス・インフ ルエンザにまで拡大するものである。世界同盟はビル・アンド・メリン ダ・ゲーツ財団の初期基金をもとに1999年に発足し、WHO、ユニセフ、 世界銀行、民間セクターがパートナーとして参加している(www.gavialliance.org を参照) 。
メジナ中症の発生率は著しく減少した。新しい、より効果的な治療法
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マラリアと結核 WHO が進める「ロール・バック・マラリア(RBM)」イニシアチブ は1998年に開始し、2010年までにマラリアの世界的負担を50パーセント 削減する目標を持つ(www.rollbackmalaria.org を参照)。その設立パート ナー――UNDP、ユニセフ、世界銀行、世界保健機関――は、マラリア が死亡の主要原因とならず、また社会経済開発の障害にならないように する活動を進める。RBM パートナーシップは飛躍的に拡大し、マラリ ア流行国、二国間や多国間の開発パートナー、民間部門、非政府組織や 地域社会ベースの組織、財団、研究・学術機関も含まれるようになった。 毎年200万人が結核のために死ぬ。治療可能な病気である。「ストップ 結核グローバル・パートナーシップ(Global“Stop TB”Partnership)」は WHO が進めるイニシアチブで、500以上の国際機関、国、公的部門や 民間部門の援助機関、非政府組織や政府組織で構成する(www.stoptb. org を参照)。それが2001年に「ストップ結核グローバル計画(Global Plan to Stop Tuberculosis)」となった。 「直接監視下短期化学療法(Directly Observed Treatment, Short-course=DOTS)」として知られる保健戦略に 基づいた5カ年計画である。その間、グローバル計画は治療患者の数を 200万人から400万人と2倍にすることができた。そして、インドや中国 を含む、いくつかの「高負担国」は、病気の70パーセント発見という目 標に達成間近であった。2005年だけでも、 「ストップ結核」は65カ国に おいて240万人の患者を治療した。 「ストップ結核グローバル計画 2006年−2015年」は、1990年レベル と比較して、結核患者と死亡者の数を2015年までに半減させる目的を持 つ。また、5,000万人の患者を治療し、1,400万人の生命を救い、品質診 断と治療に公平にアクセスできるようにすることを目指す。2010年まで に、ケアの段階で、活動性結核の早急かつ正確な、安価に発見を可能に する診断テストを利用し、かつこの40年間で初めての新結核治療薬を紹 介できるようになることを期待している。また、2015年までに新しい、 安全な、効果的で、入手可能なワクチンが販売されることも期待してい る(www.stoptb.org/globalplan を参照)。 「エイズ、結核およびマラリアと闘うグローバルファンド(GlobalFund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)」は、こうした活動への主要な資 金提供者である(www.theglobalfund.org を参照)。
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国連、HIV/エイズと闘う (www.unaids.org)
エイズ関連の病気で死ぬ人々の数が減ってきた。これは一部には抗レ トロウィルス療法の延命効果が現れてきていることによる。国連合同エ イズ計画(UNAIDS)と世界保健機関(WHO)が作成した「2007年エ イズ最新情報(2007 AIDS Epidemic Update)」の中でこのように述べら れている。 世界のエイズ発生率――年毎の新たなエイズ感染の数――は、1990年 代がピークで、300万人を超えた。2007年、その数は250万人となった。 平均すると1日に6,800人が新たに感染したことになる。それにもかか わらず、エイズは世界の死亡原因の上位に入り、アフリカでは主要な死 亡原因となっている。 「紛れもなく、投資の見返りが現れだしている」、とピーター・ピオッ ト UNAIDS 事務局長が述べている。 「しかし、毎日6,800人が新たに感染 し、5,700人以上の人々がエイズによって死亡していることを考えると、 われわれは世界的にエイズの影響を大幅に軽減する努力をさらに拡大し なければならない。」 世界のエイズ対策の先導機関として、UNAIDS は75カ国で活動してい る。その優先事業は、リーダーシップとアドボカシー、情報開発、政策 コミットメントの効果の評価と国内対策、資源の動員、それにエイズ感 染者、市民社会、ハイリスク・グループ間のグローバル、地域、国の パートナーシップを促進することである。 UNAIDS は、エイズが常に国際政治の議題となるように努めている。 2001年のエイズに関する特別総会の開催では主要な役割を果たした。こ の特別総会は「HIV/エイズに関するコミットメント宣言(Declaration of Commitment on HIV/AIDS)」を全会一致で採択した。それは「世界エ イズキャンペーン」を管理する。このキャンペーンは、各国政府が、と くに宣言で行った約束についてその責任を果たせるようにするものであ る(http://worldaidscampaign.ifno を参照)。また、「女性とエイズに関す るグローバル連合(Global Coalition on Women and AIDS)も発足させた (http://womenandaids.unaids.org を参照)。 UNAIDS は1996年に活動を開始した。それ以来、UNAIDS は市民社会 の役割を促進し、民間部門を動員し、エイズとの闘いにメディアを係わ
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らせてきた。薬品会社と交渉して、開発途上国の医薬品の価格を下げ させ、開発途上国との共同で、これらの国が HIV 予防やケア、治療を 普遍的に受けられるように支援してきた。 UNAIDS は10の国連機関のよる合同の活動である。すなわち、国際 労 働 機 関(ILO)、 国 連 開 発 計 画(UNDP)、 国 連 教 育 科 学 文 化 機 関 (UNESCO)、国連人口基金(UNFPA)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、 国連児童基金(UNICEF)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、世界保健 機関(WHO)、世界食糧計画(WFP)と世界銀行(World Bank)である。 ま た、 「 世 界 エ イ ズ・ 結 核・ マ ラ リ ア 対 策 基 金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria) からも資金援助がある(www.theglobalfund/org を参照)。 2000年のミレニアム宣言の中で、世界の指導者は HIV/エイズの蔓 延を2015年までに食い止め、その後それを減少させ、かつエイズによっ て孤児になった子どもたちを援助するとの決意を表明した。
のお陰である。また、多薬品治療を自由に受けられるようになったお陰 で、ハンセン病も克服されつつある。オンコセルカ症は、以前の流行地 であった西アフリカの11カ国ではほとんど見られなくなった。これは何 百万の人々に恩恵を与える成果であった。WHO は公衆衛生問題として 象皮病の根絶を次の目標に定めている。 感染性の病気の領域で WHO が優先課題としていることは、グローバ ルなパートナーシップを通してマラリアや結核の影響を緩和すること、 グローバルな感染症の問題に対する監視、モニタリング、対応を強化す ること、集中的かつ定期的な予防管理を通して病気の影響を緩和するこ と、開発途上国が利用できるように新しい知識、介入方法、実施戦略、 研究能力を生み出すこと、である。WHO はプライマリー・ヘルスケア の促進、基本的な医薬品の提供、健全な都市の建設、健康的なライフス タイルや環境の促進においても重要な役割を担っている。また、エボラ 出血熱の発生のように、健康に関する緊急事態においても重要な役割を 果たしている。 2005年12月までの2年間で、WHO-UNAIDS のイニシアチブによって、 低中所得国において HIV/エイズの抗レトロウィルス療法を受ける人
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の数が増え、2003年末の40万人から2005年の130万人になった。WHO/ ユニセフの戦略によって、世界のはしかによる死亡者数が減り、1999年 の87万1,000人から2004年の45万4,000人まで減少した。48パーセントの 減少である。2004−2005年の間、WHO は130万枚の殺虫剤処理済ネッ トを購入して配布し、マラリアを媒介する蚊から250万人の人々を救っ た。何千万枚のネットは他のパートナーや国によっても調達され、配布 された。 健康に関する研究のための原動力 パートナーとともに健康につい ての研究を行いながら、WHO はとくに開発途上国における現状とニー ズに関するデータを集めている。これは遠く離れた熱帯林に見られる伝 染病を研究することから遺伝子研究の進歩を監視することにまで及ぶ。 WHO の熱帯病研究計画は、もっとも広く利用される薬品へのマラリア 寄生虫の抵抗力について研究し、熱帯性感染症の新しい治療薬や診断法 の開発を進めている。研究はまた、国家および国際の感染症監視体制を 改善したり、新しい病気の予防戦略を開発したりすることに役立つ。 基準の設定 WHO は生物学的物質と薬学的物質について国際基準 を設定する。WHO は、プライマリー・ヘルスケアの基本要因として 「必須医薬品」の概念を発展させてきた。 WHO は、各国と協力して、安全かつ効果の高い薬品をできる限りの 最低価格で提供し、かつそれがもっとも効果的な方法で利用されるよう に努めている。そのため、WHO はすべての健康問題の80パーセント以 上の予防もしくは治療のために不可欠だと考えられるおよそ数百種の薬 品とワクチンを載せた「モデル・リスト」を作成した。160カ国近くの 国がそのリストを自国の事情に合わせて利用している。リストは2年ご とに改定される。WHO はまた、加盟国、市民社会、薬品産業と協力し て、貧しい国や中所得国の優先的な健康問題の解決に必要な新しい必須 医薬品を開発するととともに、既存の必需医薬品の生産を続けさせてい る。 国連に与えられた国際的なアクセスを通して、WHO はグローバルな レベルで伝染性の病気に関する情報を収集し、健康および病気の比較統
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計を編纂し、安全な食糧や生物学的、薬学的製品の国際基準を設定する。 また、ガンを作り出すリスクのある汚染物質を明らかにし、普遍的に受 け入れられる HIV/エイズの予防や治療に関する指導書を作成した。
人間居住 1950年、ニューヨーク市は1,000万人以上の人口を抱える唯一の都市 であった。2005年までには、そうした「巨大都市」の数は20に増えた。 4都市を除くすべてが開発途上国の都市である。1950年、都市に住んで いたのは世界人口のわずか30パーセントに過ぎなかった。今日、65億の 世界人口のうち半数近くが町や都市に住んでいる。世界人口のうちの10 億人以上の人々がスラムに住んでいる。開発途上国では、都市人口の42 パーセント近くがスラムに住んでいる。 (United Nations Human Settlements Programme=UN-HABITAT) 国連人間居住計画
は、これまで国連人間居住センターとして知られていたが、国連システ ムの中にあってこうした状況に対応する国連の主導機関である(www. unhabitat.org を参照) 。任務は総会によって与えられ、すべての人に適切
な住居を提供することを目標に、社会的に、環境的に持続可能な町や都 市の建設を促進することである。そのために、60カ国において95件の技 術的なプログラムやプロジェクトを実施している。そのほとんどの国が 後発開発途上国である。2006−2007年度予算は1億6,630万ドルであった。 第2回国連人間居住会議(ハビタット II、イスタンブール、1996年)で、 「ハビタット・アジェンダ」について合意が見られた。これはグローバ ルな行動計画で、その中で各国政府は、すべての人に適切な住居を提供 し、かつ持続可能な都市開発を進めると公約した。UN-HABITAT はア ジェンダを実施し、その実施を評価し、グローバルな傾向や状態を監視 するための中心機関である。 UN-HABITAT は現在2つの大きグローバルなキャンペーンを進めて いる。 「都市統治のためのグローバル・キャンペーン」と「安定した土 地保有のためのグローバル・キャンペーン」である。
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・都市統治のためのグローバル・キャンペーン(Global Campaign on Urban Governance)多くの都市では不十分な統治や不適切な政策が都
市環境の劣化、貧困者の増加、低経済成長、社会的排除を招いてい る。このキャンペーンは、適切な都市統治を進めることができるよ うに地方行政の能力を高めることを目的としたもので、民主的に選 ばれ、説明責任を持つ地方自治体が、市民社会とのパートナーシッ プのもとに、都市問題に効率よく、かつ効果的に対応できるように する。 ・安定した土地保有のためのグローバル・キャンペーン(Global Campaign for Secure Tenure)このキャンペーンは、安定した土地の保有は
持続可能な居住戦略と住宅の権利の促進に不可欠であると確認して いる。キャンペーンは、都市の貧しい人々の住居の多くは自身で入 手したものであることを認め、こうした貧しい人々の権利や利益を 促進する居住戦略を陣頭に立って進め、居住政策を成功させるため に女性の権利と役割を促進することを目的としている。 各種の措置を通して、UN-HABITAT は広範な問題を取り上げ、特別 のプロジェクトの実施を援助している。世界銀行とともに、「都市同盟 (Cities Alliance)」として知られるスラム地区の改善イニシチアチブを進
めている(www.citiesalliance.org を参照)。その他、紛争後の土地管理と戦 争もしくは自然災害によって荒廃した国々の再建を目的とした計画を実 施し、また、女性の権利とジェンダーの問題が都市開発管理政策の中に 取り入れられるようにする事業も進めている。また、農村と都市との結 びつきの強化を図り、インフラ整備や公共サービスの充実を援助する。 その他、UN-HABITAT が進めている活動計画は以下の通りである。 ・最善の慣行と現地リーダーシップ計画(Best Practice and Local Leadership Programme)政府機関、地方自治体、市民社会組織のグローバル
なネットワークで、生活環境を改善するための最善の慣行を明らか にして、その普及を図り、学んだ教訓を政策開発や人材育成計画に 反映させる。 ・住宅の権利計画(Housing Rights Programme)UN-HABITAT と人権高
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等弁務官事務所(OHCHR) の合同のイニシアチブで、国家や他の 利害関係者がハビタット・アジェンダでのコミットメントを実施す るのを助け、国際文書に規定される適切な住宅の権利を完全かつ漸 進的に実現できるようにする。 ・持続可能な都市計画(Sustainable Cities Programme)UN-HABITAT と 国連環境計画(UNEP) の合同のイニシアチブで、各界の参加型方 式を利用することによって、都市環境プランニングと管理の能力を 向上させる。その姉妹計画、「アジェンダ21のローカル化」ととも に、現在、世界の30都市で活動を進めている。 ・アジェンダ21のローカル化(Localizing Agenda 21)1992年の地球サ ミットで採択された持続可能な開発のためのグローバルな行動計画 (アジェンダ21)を促進する。そのため、人間居住に関する部分を地
方レベルの行動に移し、特定の中規模都市における共同事業を奨励 する。 ・安全な都市計画(Safer Cities Programme)アフリカ諸国の市長の要請 を受けて1996年に開始した計画で、都市犯罪と暴力に適切に対処し、 究極的には防止するために、都市レベルでの戦略を促進する。 ・都市管理計画(Urban Management Programme)UN-HABITAT と国連開 発計画(UNDP)、その他の支援機関との合同活動。40を越す支援・ パートナー機関をもつこのネットワークは、58カ国の140都市をカ バーし、開発途上国の都市や町村が経済成長、社会開発、貧困撲滅 のために行う貢献を強化する。 ・水・衛生計画(Water and Sanitation Programme) 安全な飲料水の利用 を改善し、何百万人もの低所得都市住民へ適切な衛生施設を提供し、 その影響を測定する。また、 「安全な飲料水を継続的に利用できな い人々の割合を2015年までに半減する」とのミレニアム開発目標、 「基本的な衛生施設を利用できない人々の割合を2015年までに半減 する」との2002年の世界持続可能な開発に関する開発サミットの目 標を支援する。
経済社会開発 283
教 育 これまでの数十年間に教育の分野では長足の進歩があった。就学児童 の数は大幅に増加した。しかし、依然としておよそ7,700万人の子ども たちは初等教育を受けられず、また入学しても多くの子どもは貧困もし くは家庭内や社会のプレッシャーのため退学を余儀なくされている。膨 大な識字努力にかかわらず、少なくとも7億8,100万人の成人は読み書 きができない。そのうちのおよそ3分の2は女性である。「国連識字の 10年(2003年−2012年)」は、こうした緊急の問題に注意を喚起すること を目的としたものである。 調査によると、教育へのアクセスと社会指数との間に密接な関係があ ることが分かる。学校教育はとくに女性に対して特別の相乗効果を持っ ている。たとえば、教育を受けた女性は典型的により健康であり、子ど もの数が少なく、家計収入を増やす機会を多く持つ。そうした女性の子 どもは死亡率が低く、栄養状態も良く、おおむね他と比べて健康である。 少女や女性が国連全体で多くの教育計画の対象となっているのは、こう した理由からである。 国連システムの多くの機関は多種多様な教育・訓練計画の資金援助や 開発を行っている。それは伝統的な基礎教育から公共行政、農業、保健 サービスのような領域における人材育成のための技術訓練や人々に HIV/エイズ、薬物の乱用、人権、家族計画、その他多くの問題につい て教育する一般市民啓発キャンペーンにまで及ぶ。たとえば、ユニセフ は、年間事業費の20パーセントを女子の教育を中心とした教育事業に振 り向けている。 教育の領域での先導機関は国連教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: ユネスコ)である。ユネスコは他
のパートナー機関と共に、すべての子どもが子どもにやさしく、良質の 教育を行うように訓練された教師を持つ学校で学ぶことができるように する。
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ユネスコは、2000年にセネガルのダカールで開かれた世界教育フォー ラムで160カ国以上の国が採択した「行動の枠組み」に基づいて、2015 年までに普遍的な、良質の初等教育を達成するというもっとも野心的な 国連の機関間キャンペーンの事務局を務めている。この目標は2000年9 月の「ミレニアム宣言」の中で世界の指導者が再確認した。 フォーラムでは、各国政府は、少女とその他の働く子どもや戦争の影 響を受けた子どもたちに特別の注意を払いながら、すべての人のために 良質の教育を実現すると公約した。援助国や援助機関は、基礎教育の達 成に努めるいかなる国も資金不足のためにその事業を妨害されるような ことはないと誓約した。フォーラムは、史上最大かつもっとも包括的、 統計的に正確な教育の実績調査の結果開かれた。ここから、2年間の 「すべての人のための教育評価」と6回のハイレベルの地域会議が生ま れた。 ユネスコの教育部門は、あらゆるレベルで、すべての人に教育を提供 すること、特別のニーズと社会の主流から取り残された人々の成功、教 師の養成、労働人口の能力の育成、教育による成功、非公式生涯教育の 機会確保、教育および学習を向上させる技術の利用に焦点を当てている。 ユネスコのこうした活動は、「2000年ダカール行動枠組み」 、 「国連識 字の10年、2003−2012年」 、「国連持続可能な開発のための教育の10年、 2005−2014年」 、「教育・エイズに関する世界イニシアチブ」との関連で 進められている。また、ミレニアム開発目標の達成にも努め、すべての 少年、少女が初等教育を終えられるようにすること、できれば2005年ま でに、初等教育と中等教育との格差を解消すること、そして2015年まで にはすべてのレベルでこれらの目標を達成することを目指している。 170カ国の7,700校以上がユネスコの「共同学校プロジェクト」に参加 している。国際社会でともに生活することを学ぶにあたっては教育が果 たす役割は大きい。このプロジェクトはそうした教育の役割を高める方 法や手段を作り上げる国際的なネットワークである。また、90カ国以上 の国におよそ3,700のユネスコクラブやユネスコ・センター、ユネスコ 協会が設けられている。主に教師と学生で構成され、幅広い教育活動や
経済社会開発 285
文化活動を行っている。
調査と訓練 調査と訓練の形をとる学術活動は多くの専門的な国連機関によって行 われている。この活動の目的は、われわれが直面するグローバルな問題 についての理解を深め、かつ経済社会開発や平和と安全の維持のより技 術的な側面を担当する人材を育成することである。 国際連合大学(United Nations University: UNU) の使命は、調査研究と 人材の育成によって、国連や一般の人々、加盟国が関心を持つ緊急を要 する全地球的問題の解決に貢献することである。UNU は学者による国 際的な共同体で、国連と国際的なアカデミック共同体との架け橋であり、 国連システムのためのシンクタンクであり、とくに開発途上国の能力育 成に努める機関である。また、対話と新たな独創的なアイデアのための プラットホームにもなる。UNU は40以上の国連機関と世界の何百とい う連携研究機関と協力する。 UNU の学術活動は国連が関心を持つ特定の問題を取り上げる。現在 のテーマ別領域は5つある。平和と安全保障、良い統治、経済社会開発、 科学・技術・社会、そして環境と持続可能性、である。学術活動は東京 にある UNU センターや世界の各地に設けられている研究センターや研 修センターを通して行われる。これらの機関には次のものがある。 ・ 「人間と社会の開発のための国連大学食糧栄養プログラム」(UNU Food and Nutrition Programme for Human and Social Development)1975 年
にアメリカのニューヨーク州イサカとマサチューセッツ州ボストン に設置。食糧と栄養の能力育成に努める。 ・ 「国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラム」(UNU Geothermal Training Programme: UNU/GTP)1979年にアイスランドのレイキャ
ビクに設置され、地熱に関する研究、探査および開発を行う。 ・国 連 大 学 世 界 開 発 経 済 研 究 所(UNU World Institute for Development Economics Research: UNU/WIDER)1985年にフィンランドのヘルシン
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キに設置された。経済社会開発。 ・国連大学中南米バイオ技術プログラム(UNU Programme for Biotechnology in Latin America and the Caribbean: UNU/BIOLAC)1998年 に ベ ネ
ズエラのカラカスに設置。バイオ技術と社会。 ・国連大学マーストリヒト技術革新経済研究研修センター(UNU Maastricht Economic and Social Research and Training Centre on Innovation and Technology)1990年にオランダのマーストリヒトに設置。先端技
術が社会経済に及ぼす影響。 ・国連大学アフリカ天然資源研究所(UNU Institute for Natural Resources in Africa: UNU/INRA)1990年にガーナのアクラに設置。天然資源の
管理。 ・国連大学国際ソフトウェア技術研究所(UNU International Institute for Software Technology: UNU/IIST)1992年に中国のマカオに設置され、
開発のためのソフトウェア技術を研究する。 ・国 連 大 学 高 等 研 究 所(UNU Institute for Advanced Studies: UNU/IAS) 1995年に横浜設置。持続可能な開発のための経済構造改革。 ・国連大学国際リーダーシップ・アカデミー」(UNU International Leadership Academy: UNU/ILA)1995年にヨルダンのアンマンに設置。指
導者の育成。 ・国連大学水・環境・保健に関する国際ネットワーク」(UNU International Network on Water, Environment and Health: UNU/INWEH)1996年 に
カナダのオンタリオ州ハミルトンに設立。グローバルな水危機。 ・国 連 大 学 水 産 技 術 研 修 プ ロ グ ラ ム 」(UNU Fisheries Training Programme: UNU/FTP)1998年にアイスランドのレイキャビクに設置さ
れ、水産技術に関する研究と開発を行う。 ・国連大学地域統合比較研究・研修プログラム(UNU Programme on Comparative Regional Integration Studies: UNU/CRIS)2001年にベルギー
のブリュージュに設立。地域統合の比較研究に関するグローバル・ ネットワークを構築。 ・国 連 大 学 環 境 と 人 間 の 安 全 保 障 研 究 所(UNU Institute for Environ-
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mentand Human Security)2003年にドイツのボンに設立。環境と人間
の安全保障。 ・国連大学国際グローバル保健研究所(UNU International Institute for Global Health)2007年にマレーシアのクアラルンプールに設置。グ
ローバルな保健問題。 国連訓練調査研修所(United Nations Institute for Training and Research: UNITAR)は、訓練と調査を通して国連の効果を高めることを目的とする。
国連に派遣された外交官や国際問題の仕事に従事する国家公務員を対象 に多国間外交や国際協力についての研修や能力育成プログラムを実施す る。また、経済社会開発の分野の研修プログラムも実施している。 毎年、300件以上のの異なるフェローシップ、セミナー、ワークショッ プを実施し、1万人以上が参加している。インターネットによる E ラー ニング・コースではおよそ3万人が受講している。研修方法や知識シス テムに関する研究を行っている。それには能力育成、E ラーニング、 成人の訓練も含まれる。また、教材の開発も行っている。たとえば、遠 距離学習パッケージ、ワークブック、ソフトウェア、ビデオ研修パック などである。UNITAR の経費はすべて任意の拠出金によってまかなわれ る(www.unitar.org を参照)。 国連システム・スタッフ・カレッジ(United Nations System Staff College: UNSSC)は、国連システムを通して、リーダーシップや管理開発能力を
強化することを任務としている。国連システム内の協力を強化する機関 間横断の学習プログラムを開発、提供、調整し、国連機関間の運用有効 性を高め、国連システムと加盟国、非政府組織、市民社会との間の協力 を強化し、一貫した組織全体に及ぶ管理の文化を発展させ、維持する。 「国連システム学習・研修サービス」に加え、スタッフ・カレッジは、 管理とリーダーシップ、平和と安全保障、開発協力を中心とした3つの 主要プログラムを持っている。これらの活動のすべては、ミレニアム開 発目標と事務総長の改革課題を支援するように向けられている。スタッ フ・カレッジは、2002年1月に設立し、国連システムの中の機関である (www.unssc.org を参照)。
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国連社会開発研究所(United Nations Research Institute for Social Development: UNRISD)は、現代の開発問題の社会的側面について学際的な研究
を行う。活動は二つの中心的価値観によって導かれる。すなわち、すべ ての人は人間にふさわしい生活を営む権利を有していること、すべての 人はその生活に影響を及ぼす決定に平等の条件で参加することができる、 ということである。グローバルな研究者と機関のネットワークを通して、 同研究所は、開発政策やプロセスが異なる社会層にいかなる影響を与え るかについて、政府や開発機関、市民社会組織、学者がよりよく理解で きるようにする。対話を奨励し、国連システムの内外で政策討論に貢献 する。21世紀の最初の10年の研究テーマは、社会政策と開発、マーケッ ト・ビジネス・規制、ジェンダーと開発、市民社会と社会運動、民主主 義・統治・福祉、アイデンティティ・紛争・社会的一体性に及ぶ。
人口と開発 ほとんどの国で避妊具の利用が増えていることから出生率が大きく低 下している。それにもかかわらず、開発先進国、開発途上国を問わず、 ほとんどの国で人口は年におよそ1.14パーセントの割合で増え続けてい る、と国連が推定している。出生率が今後も低下し続けると想定すると しても、このままでは、世界人口は2007年7月の67億人から2050年の92 億人へと増加すると思われる。急激な人口増加は地球上の資源と環境に 大きな負担をかけ、しばしば開発努力を追い越してしまう。国連はさま ざまな方法で人口と開発との関係に取り組んできた。その際にはいつも 女性の権利と地位を向上させることの重要性が強調された。経済社会の 進歩に欠かせないと考えられるからである。 さらに、パターンが変わると、新たなニーズが作られる。たとえば、 世界の60歳以上の人の数は2007年の7億500万人から2050年には20億人 近くに増えると予想される。史上初めて高齢者の数が子ども数よりも多 くなる。2008年までに、史上初めて世界人口の半数が都市に住むことに なる。開発途上国に住む都市住民の2倍以上である。この比率が2019年
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には10対1の割合になると予想される。 この数十年、国連は多くの開発途上国で各種の援助活動を行ってきた。 国連の各種機関が共に協力して、国の統計局の設立や国勢調査の実施、 予測を行い、信頼しうるデータの提供に努めてきた。国連の数量的、か つ方法論的作業、とくに人口規模とその変化に関する権威ある人口推計 および予測は、その分野でのパイオニアとなるものであった。これに よって、国は事前に計画を作成し、人口政策を開発プランニングに組み 込ませ、健全な経済的、社会的決定を行えるようになった。 人口開発委員会(Commission on Population and Development)は、47カ国 の加盟国で構成され、人口の変化とそれが経済や社会に与える影響につ いて研究し、経済社会理事会に助言を与える。主要な責任は1994年の国 際人口開発会議で採択された行動計画の実施を再検討することである。 国連経済社会局(DESA)の人口部(Population Division)は同委員会の 事務局をつとめる。また、人口と開発に関する最新の、科学的に客観的 な情報を国際社会に提供する。人口のレベル、動向、推定、予測をはじ め、人口政策、人口と開発との関係などについて研究する。人口部は 「人口、資源、環境、開発データバンク」など、主要なデータベースを 維持している。これは CD-ROM で一般の人に提供されている。人口部 は、 「世界人口予測(World Population Prospects)」や「世界人口政策(World Population Policies)」など、広範な項目について報告を発表している。ま
た、インターネットを通して人口情報をグローバルなレベルで利用でき るように「人口情報ネットワーク(Population Information Network: POPIN) 」の調整を行っている。これは、人口情報を全世界で共有できるよ
うに、インターネットの利用を促進している(www.unpopulation.org を参 照) 。
国連人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA) は、国連システ ムの中にあって人口の分野で実際的な事業活動を先導する機関で、開発 途上国や移行経済諸国が自国の人口問題を解決できるように援助する。 また、加盟国政府が、個人の選択に基づくリプロダクティブ・ヘルス (性と生殖に関する健康)や家族計画のサービスを改善し、持続可能な開
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発に沿った人口政策を作成できるように援助する。さらに、人口問題に ついての認識を高め、それぞれの国のニーズに合った方法で人口問題に 対処できるように各国政府を援助する(www.unfpa.org を参照)。 ミッション・ステートメントによると、UNFPA は、 「健康な生活と平 等な機会を享受するすべての女性、男性、子どもの権利を促進する。」 UNFPA は、すべての国が政策とプログラムのために人口データを利用 して貧困を削減し、かつすべての妊娠が望まれたものであり、すべての 出産が安全であり、すべての若者が HIV/エイズから自由であり、す べての少女と女性は尊厳と尊敬を持って処遇されるようにすることを支 援する。このミッションを達成するに当たって、その主要な役割は、政 府や国連機関、非政府組織(NGOs) が実施する人口プロジェクトや計 画に財政援助を行うことである。 UNFPA の主な活動領域は以下の通りである。 ・母性保護、家族計画、性の健康を含むリプロダクティブ・ヘルス ――これは、人々が自らの望む数の家族を持ち、将来の設計を自由 に決められるように援助する。また、生命を救い、HIV/エイズ対 策を支援し、より遅く、より均衡のとれた人口増加に貢献する。 ・人口・開発戦略――各国が人口問題を考慮した政策を策定し、国民 の生活の質を改善する戦略を計画できるように助け、人口問題担当 の人材を育成する。 ・ジェンダーの平等――女性が尊厳を持ち、欠乏と恐怖からの自由の もとに生活し、その地域社会や国で開発を進め、貧困を削減する不 可欠の役割を果たせるようにする。 UNFPA は中絶に対してはいかなる支援も行っていない。むしろ、家 族計画を利用できるように援助することによって中絶を防止することに 努める。UNFPA はまた、青年期の性と生殖に関する健康の問題にも取 り組んでいる。そのため、10代の妊娠を防止し、フィスチュラの予防と 治療を進め、HIV/エイズや性感染症を予防し、妊娠中絶へ訴えないよ うにし、性と生殖に関する健康のためのサービスや情報を十分に得られ るようにする。
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両親が子どもの数や出産間隔を選べるようにすることは、リプロダク ティブ・ヘルスのもっとも重要な要素で、国際的に認められた基本的人 権である。近年家族計画を利用するカップルの数は劇的に増えているも のの、少なくとも3億5,000万のカップルは家族計画の方法を利用でき ない。 調査によると、より正確な情報や支払い可能なサービス、適切なカウ ンセリングが提供され、夫や親族、地域社会が理解を示していたならば、 さらに1億2,000万人の女性が現代的な家族計画方法を利用していたで あろう。UNFPA は政府、民間セクター、非政府組織とともに、家族計 画に対する人々のニーズを満たす活動を進めている。 UNFPA は、1994年の人口と開発に関する国際会議で採択された行動 計画を進める国連の主導機関である。その目標を達成するに当たって、 UNFPA はまた、ミレニアム開発目標を達成する世界的な共同努力に対 してリプロダクティブ・ヘルスと人口問題に関する専門知識を提供して いる。 ジェンダーの平等と女性のエンパワーメント 男女の平等を促進することと女性のエンパワーメントは、国連のもっ とも基本的な活動である。ジェンダーの平等は単に目標であるばかりで なく、ミレニアム開発目標も含め、他のすべての開発目標を達成するた めに不可欠の手段であると見られている。貧困と飢餓を撲滅し、普遍的 な初等教育とすべての人の健康を達成し、HIV/エイズと闘い、そして 持続可能な開発を容易にするためには、女性や男性のニーズ、優先順位、 貢献に組織的な注意を払う必要がある。国連は女性の人権を積極的に促 進し、武力紛争時や人身売買も含め、女性に対する暴力行為の被害を根 絶するために活動する。国連はまた、グローバルな規範や基準を採択し、 開発援助活動を通すことなども含め、国家レベルでの実施やフォロー アップを支援する。 女性の地位委員会(Commission on the Status of Women)は、経済社会理 事会のもとに、世界におけるジェンダーの平等に向けての進捗状況を監
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世界女性会議 国連会議は、国内の女性運動のエネルギーを基に、メキシコ・シティ (1975年)、コペンハーゲン(1980年)、ナイロビ(1985年)、北京(1995 年)で開かれ、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントに関する理 解を深め、コミットメントを高め、行動に活力を与えてきた。 第4回世界女性会議(北京、1995年)で、189カ国の政府代表は北京 宣言と行動綱領を採択した。これは、公的、私的生活のあらゆる領域で 差別と不平等をなくし、女性のエンパワーメントを確保する目的のもの であった。綱領は12のきわめて重要な関心領域を明らかにしている。 ・貧困が女性に与える慢性的かつ増大する負担。 ・教育の機会の不平等と不適切さ。 ・健康の差および保健サービスを受ける際の不平等と不適切な保健サー ビス。 ・女性に対する暴力。 ・紛争が女性に与える影響。 ・女性による経済構造および政策の策定と生産プロセスに対する不平等 な参加。 ・権限と政策決定における男女の不平等。 ・女性の地位向上を図る機構の不備。 ・国際的かつ国内的に認められた女性の人権に関する認識およびコミッ トメントの欠如。 ・社会に対する女性の貢献を周知させるマスメディアの動員不備。 ・天然資源の管理と環境保全に対する女性の貢献について適切な認識と 支援の欠如。 ・女児。 2000年に開かれた第23回特別総会は、北京宣言と行動綱領の5年後の 再検討を行った。加盟国は北京で行ったコミットメントを再確認し、さ らなるイニシアチブを誓約した。たとえば、あらゆる形態のドメステッ ク・バイオレンスを禁じる立法措置を強化し、早すぎる結婚や強制的な 結婚、女性性器切除のような有害な慣行を廃止する法律や政策を制定す ることにした。また、少女や少年に無償の義務教育を提供し、女性がよ り広く保健や予防計画にアクセスできるようにする目標も設定した。 2005年、女性の地位委員会は10年後の再検討を行い、その中で加盟国
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は北京宣言と行動綱領を再確認し、グローバルな政策と国レベルでの 実施との間の格差を埋める行動を加速させる決意を表明した。
視し、そのために第4回世界女性会議(北京、1995年)から生まれた行 動綱領実施の再検討を行う。委員会は、女性の権利を促進し、あらゆる 分野における差別と不平等を是正する一層の行動について勧告する。過 去60年間におけるこの45カ国委員会の主な貢献は、北京会議も含め、女 性に関する4回の会議の準備とフォローアップ、女性の権利に関する条 約「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(Convention on the Elimination of All Forms of discrimination against Women) 」の発展などが
ある。 女子差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Discrimination against Women: CEDAW) 「女子に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条約」
の順守状況を監視する。23人の専門家で構成される委員会で、締約国が 提出する報告に基づいて、条約の実施に関して、締約国と建設的な対話 を行う。その勧告は、女性の権利とこれらの権利を享受させる手段につ いての理解を深めることや、女性に対する差別の撤廃に貢献してきた。 経済社会局の女性の地位向上部(Division for the Advancement of Women) は、女性の地位委員会や経済社会理事会、総会を支援し、ジェンダーの 平等のためのグローバルな政策アジェンダを進め、国連のあらゆる領域 でジェンダーの視点の主流化を図る。 ジェンダー問題と女性の地位向上に関する事務総長特別顧問(Special Adviser of the Secretary-General on gender and advancement of women)は、事務
総長に助言を与える。ジェンダーの平等について国連の中でリーダー シップと調整の役割を果たし、その作業のあらゆる領域でジェンダーの 主流化を初め、国連内における女性の地位改善について助言や支援を提 供する。それにはジェンダーのバランスの達成も含まれる。特別顧問は、 上級レベルで、安全保障理事会も含め、女性、平和と安全保障に関する 政府間や専門家の機関を支援する。また、「女性とジェンダーの平等に 関する機関間ネットワーク」の議長も務める。これは国連組織のあらゆ
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る部局からのジェンダーの平等に関する顧問やフォーカルポイントとで 構成される。 事務局以外でも、国連ファミリーのすべての機関がその政策やプログ ラムに中で女性やジェンダーに関連した問題を取り上げている。ユニセ フの子どものための活動では女性がその中心である。国連人口基金 (UNFPA)の活動の多くも女性の健康やリプロダクティブ・ライツに関
するものである。国連開発計画(UNDP)、ユネスコ、世界食糧計画 (WFP)、国際労働機関(ILO)、その他の機関も女性やジェンダーの平等
の促進に焦点をあてた活動を進めている。同時に、その一般作業におい てジェンダーの視点を主流化させる。さらに、女性の問題だけに焦点を 当てた機関が2つある。国連女性開発基金(UNIFEM)と国際婦人調査 訓練研修所(UN-INSTRAW)である。 国連女性開発基金(United Nations Development Fund for Women: UNIFEM) は、女性のエンパワーメントとジェンダーの平等を育成する革新的プロ グラムや戦略に財政・技術援助を提供する。UNFEM は、4つの戦略的 領域に焦点を当ている。すなわち、女性の経済的安全保障と権利を強化 すること、女性に対する暴力を終わらせること、女性や少女の間の HIV /エイズ蔓延を減少させること、平時および戦時における民主的統治に おけるジェンダーの平等を達成することである(www.unifem.org を参照)。 国際婦人調査訓練研修所(International Research and Training Institute for the Advancement of Women: INSTRAW)は、国連加盟国、国際機関、学術団
体、市民社会、民間セクターとともに、ジェンダーの視点を持って行動 指向の研究を行う。その研究は、女性のエンパワーメントとジェンダー の平等を促進する。そのために、その政策やプログラムやプロジェクト にジェンダーの視点を取り入れる能力を強化する(www.un-instraw.org を 参照) 。
子どもの権利の促進 毎年1,100万人の子どもたちが5歳の誕生日を迎える前に死に、何千
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万人もの子どもたちが身体的に、精神的に障害をもって生きて行かなけ ればならない。生きて成長してゆくために必要なものを持たないからで ある。600万を超える死亡の多くは予防可能かつ治療の容易な病気が原 因である。その他は貧困、無知、差別、暴力の悪影響によるものである。 それはすべて家族、地域社会、国家、そして世界にとって計り知れない 損失である。 幼児期を過ぎても、若者の生命や福祉は依然として脅かされる。彼ら は脆弱である。教育を受け、参加し、危険から保護される権利など、彼 らの権利はしばしば否定されているからである。 1946年以来、国連児童基金(United Nations Children s Fund: UNICEF=ユ ニセフ) は、子どもたちの生存、保護、発達の権利を擁護する活動を
行っている。ユニセフは「子どもの権利に関する条約」と「女子に対す るあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の完全な実施を目指す。ユ ニセフは、政府、国際機関、市民社会、若者たちとのパートナーシップ のもとにすべての子どもたちに健康、教育、平等、保護を提供する。 191の国や地域での活動の中で、ユニセフは、地域社会が積極的に参加 できるように持続可能な、低費用のプログラムを進めている(www. unicef.org を参照) 。
ユニセフの現在の優先テーマは子どもたちの生存と発達、すべての子 どもたちの平等な教育、HIV/エイズの影響受けた子どもたちを保護す る環境の提供、暴力、虐待、搾取、戦争と自然災害である。これらの目 的は、ミレニアム開発目標や2002年の子ども特別総会の成果文書「子ど もにふさわしい世界(A World Fit for Children)」の中で表明された目的に も一致する。 国連児童基金は、誕生前から青年になるまで、子どもの健康のあらゆ る側面に広く係わっている。ユニセフは、妊産婦が出産前や分娩時に適 切なケアを受けられるようにし、家族が家庭で子どもの病気に対処でき るようにする。また、地域社会が最善の保健サービスを提供できるよう に指導する。ユニセフは、若い人たちが HIV/エイズに感染しないよ うにする情報を共有できるようにし、それによって HIV/エイズの危
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「子どもにふさわしい世界」 2002年5月8日から10日まで、7,000人以上の人々が、この10年間で もっとも重要な子どもに関する国際会議に参加した。子どもに関する国 連の特別総会である。特別総会は、1990年の「子どものための世界サ ミット」で行われた公約がどの程度達成されたかを検証し、子どもの権 利に対するグローバルなコミットメントの再活性化を図った。特別総会 は国連の歴史においても画期的な出来事であった。子どもの問題だけを 取り上げた最初の特別総会であり、また、子どもを正式の代表として参 加させたのも最初のことであった。 特別総会では、およそ180カ国が会議の成果文書「子どもにふさわし い世界(A World Fit for Children)」を正式に採択して閉幕した。世界の 子どものための、かつ子どもが参加する新しい課題として、今後10年間 に達成すべき21の具体的な目標が定められ、また以下の4つの重要な優 先分野が定められた。すなわち、健康な生活を促進すること、すべての 子どものために良質の教育を提供すること、虐待、搾取、暴力から子ど もを守ること、HIV/エイズと闘うこと、である。 成果文書の宣言によって、世界の指導者は、1990年の世界子どもサ ミットが定めた目標の未達成の課題を完了させ、その他の目標、とくに 国連ミレニアム宣言の目標を達成させることを公約した。また、 「子ど もの権利に関する条約」とその「選択的議定書」が定める法的な基準を 認め、すべての子どもの権利を促進し、かつ擁護する世界の指導者の義 務を再確認した。 行動計画は達成すべき3つの必要な成果を定めている。子どもがその 人生おいて可能な限りの最善の第一歩を踏み出せるようにすること、無 償かつ義務的初等教育を含む良質の基礎教育を受けられるようにするこ と、そして個々の能力を発展させることができるように子どもや青年に 十分な機会を与えること、である。また、家族を支援し、差別を撤廃し、 貧困を解消する必要も強調された。また、広範にわたる主体やパート ナーが重要な役割を果たすよう求められた。たとえば、子どもたち、両 親、家族と他の保護者、地方自治体、議会議員、NGO、民間セクター、 宗教・精神・文化・先住民の指導者、マスメディア、地域機関や国際機 関、そして子どもたちと働く人々である。 これらの目標を達成するために、行動計画は国内および国際のレベル
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での資源の動員を求めている。また、ローカルのパートナーシップの 開発も支援する。また、先進工業国がその国民総生産の0.7パーセント を政府開発援助(ODA)に割り当てるなど、グローバルな目標の追求 も支援する。さらに、20対20イニシアチブも支持している。これは、 開発途上国の予算の20パーセントと政府開発援助の20パーセントを基 礎的な社会サービスに振り向けるという開発途上国と先進工業国との 契約である。
機を軽減する。また、HIV/エイズで両親を失った子どもたちが、その 仲間たちと同じようなケアを受けられるようにする。そして、HIV/エ イズに感染した女性や子どもが尊厳を持って生きて行けるようにする。 ユニセフはまた、世界的に予防接種の実施を進め、ワクチンの購入や 配布から安全な接種までかかわる。現在では、1億人以上の子どもたち がもっとも一般的な病気の予防接種を受けている。これによって毎年25 万人の生命が救われている。推定によると、2003年の1年に行われた予 防接種だけでワクチンで予防可能な病気から200万人以上の死亡を防止 することができた。また、予防接種を受けていなければ成人になって発 生したかも知れない B 型肝炎による60万人の死亡も防ぐことができた。 ユニセフは、就学前から青年期までの子どもたちを教育するさまざま なイニシアチブを支援して、教員を動員し、子どもたちの登録を行い、 教育施設を準備し、カリキュラムを作成する。時には無から教育制度の 再建まで行う。また、子どもたちが、たとえ紛争時にあっても、遊び、 学ぶ機会を持てるようにする。スポーツとレクリエーションは子どもの 進歩にとって重要であるからである。ユニセフはまた、すべての子ども が出産時に登録され、彼もしくは彼女が保健サービスや教育を受けられ るようにする。妊産婦のために適切な栄養の摂取や誕生後は母乳育児を 奨励する。幼稚園や託児所での給水設備や衛生設備を改善する。 国連児童基金は、若者を保護する環境を作り出すのを援助する。子ど もの労働を禁じる立法措置を奨励し、女性性器切除を非難し、性的目的 や商業目的で子どもを搾取することを一層困難にする活動を進める。ユ ニセフは地雷認識キャンペーンを進め、子どもの兵士の動員解除を援助
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する。さらに、紛争のため生き別れになった両親と子どもが再会できる ように援助し、孤児となった子どもはケアと保護を受けられるようにす る。すべての子どもが予防接種を受ける間は紛争当事者が停戦に合意す るという「休戦の日」のアイデアを最初に進めたのはユニセフであった。
社会への統合(www.un.org/esa/socdev) 国連が特別の注意を必要とすると認めてきた社会グループがいくつか 存在する。若もの、高齢者、障害を持つ人々、少数者と先住民などであ る。彼らの関心は総会、経済社会理事会、社会開発委員会で取り上げら れてきた。これらのグループを対象とした具体的な活動は国連社会経済 局(DESA)のなかで実施される。 国連は社会的弱者の人権を定義付け、その擁護に力を貸してきた。ま た、これらの社会グループに関する行動のための国際規範や基準、勧告 を作成してきた。また、調査研究やデータの収集、それに理解や国際行 動を奨励する目的で、特別の「国際年」や「国際の10年」も宣言した。 家 族 国連は、家族は社会の基本単位である、と認識している。しかし、こ の50年間、その構造の変化によって家族は大きく変わった。少数世帯、 晩婚と遅い出産、離婚率の上昇とシングル・マザーやシングル・ファー ザーなどである。また、移住に見られるグローバルな傾向、人口の高齢 化現象、HIV/エイズの蔓延、グローバル化の影響もある。こうしたダ イナミックな力が、子どもの社会化や家族の中の若い人や高齢者の世話 のような機能を果たす家族の能力に明確な影響を与えてきた。 総会は1994年を「家族:変革する世界における資源と責任」をテーマ とした「国際家族年(International Year of the Family)」に指定し、開発に 関する国際的な対話の中で家族の問題を強調した。その結果、政府は家 族に関する国内行動計画を策定し、家族の問題に専念する省を設け、家 族指向の立法措置を採択した。総会はまた、1994年に国際家族会議を開
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催し、2004年には国際年の10周年を記念した。 国連システムの多くの機関が家族に関係した特定の活動を進めている。 国連はまた、毎年5月15日を「国際家族デー」として記念して世界中で さまざまな行事を行うよう奨励している。家族に関係した問題について の意識を高め、適切な行動をとるよう奨励することが目的である。 若 者(www.un.og/youth) 総会は若者、15歳から24歳までの人々と定義される若者を対象にいく つかの決議やキャンペーンを採択してきた。国連事務局は、若者の問題 についてのグローバルな認識を高め、若者の社会参加を増加させる目的 で、この問題に関連する具体的な活動や広報活動を監督してきた。 ・1965年、総会は「人民間の平和および相互尊重ならびに理解の理念 を青少年の間に促進する宣言(Declaration on the Promotion among Youth of the Ideals of Peace, Mutual Respect and Understanding between Peoples)」
を採択した。これは今日の世界における若者の役割の重要性を強調 したものであった。 ・20年後、総会は1985年を「国際青年年:参加、開発、平和(International Youth Year: Participation, Development, Peace)」に指定すると宣言し、
若ものに関連するプランニングのためのガイドラインと若者の雇用 に関するグローバルな長期戦略を採択した。国連はこれらのガイド ラインの実施を促進し、加盟国政府が若者に関する政策やプログラ ムを発展させることができるように援助してきた。 ・1995年、国連は「2000年およびそれ以降に向けた世界青年行動計画 (World Programme of Action for Youth to the Year 2000 and Beyond)」を採択
した。これは、若者の問題を取り上げ、彼らの社会参加の機会を増 やすための国際戦略であった。行動計画はまた、国連の主催のもと に「世界青年担当閣僚会議」を毎年定期的に開催することを求めた。 第1回世界会議は1998年にリスボンで開かれ、 「若者に関するリス ボン宣言(Lisbon Declaration on Youth)」を採択し、国内、地域、世界 のレベルで行うべき活動を勧告した。
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・1999年、総会は毎年8月12日を「世界青少年デー」として記念する と宣言し、 「世界青年行動計画」をよりよく認識してもらう1つの 方法として、この日を支援して広報活動を組織するよう勧告した。 ・政府は総会および他の国連会議への代表団の中に若者代表を定期的 に加える。 ・各種の国連フォーラムも、グローバル化が若者に与える社会的、経 済的影響を検討し、政策の影響に特別の注意を払う。 ミレニアム・サミットでは国家元首もしくは政府首脳は、そのミレニ アム宣言の中で、「適切で生産性のある仕事を若者に提供するための戦 略を策定し、実施する」決意を表明した。2001年、事務総長の「青少年 雇用ネットワーク」が設けられた。これは国連と国際労働機関(ILO)、 世界銀行との合同のイニシアチブで、サミットのコミットメントを行動 に移す(www.ilo.org/yen を参照)。 高齢者(www.un.org/esa/socdev/ageing) 世界は今人口転換の歴史的にユニークかつ不可逆の過程の真っただ中 にある。世界のいたるところに高齢人口をもたらす人口転換である。主 に出生率の低下の結果、60歳以上の人口比率は2007年から2050年までの 間に2倍になると予想される。その実際の数は3倍となって、2050年ま でには20億人に達すると推定される。ほとんどの国においては、80歳以 上の人口は、他のいかなる人口層よりも速く増加し、将来は4倍となり、 2007年の9,400万人から2050年の3億9,400万人になると思われる。 ヨーロッパと北米ではすでに人口の高齢化が進んでいる。現在、開発 途上国には全高齢者の64パーセントが住んでいるが、それが2050年まで には80パーセント近くにまで上昇すると思われる。しかし、これらの国 は沢山の、若い労働力の恩恵を受けることができるかもしれない。支援 人口の比率が増加を停止したことによってこの第一次「配当」がなくな るような国においてさえも、人口の継続する高齢化に伴い、第二次「配 当」を生み出すかもしれない。人々は長命を期待して、定年後の消費 ニーズをカバーする富を蓄積するからである。
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国際社会は、グローバルな高齢化のプロセスをより大きな開発という 文脈の中に統合し、より幅広い「ライフ・コース」の中で、社会全般的 な視点から政策を策定する必要を認めるようになった。最近のグローバ ルなイニシアチブや主要な国連会議から生まれた指針となる原則を踏ま えて、高齢者は開発への貢献者であるとますます強く見られるように なった。高齢者は自分自身やよりよい社会のために行動できる能力を備 えている。このことは、あらゆるレベルの政策やプログラムの中に織り 込まれなければならない。 グローバルな高齢化の課題や機会に応えて、国連はこれまでにもいく つかのイニシアチブをとってきた。 ・高齢者問題世界会議(World Assembly on Ageing, ウィーン、1982年)は、 「高齢化に関する国際行動計画(International Plan of Action on Ageing)」 を採択した。行動計画は雇用と所得の保障、健康と栄養、住宅、教 育、社会福祉の領域でとるべき行動を勧告した。行動計画は、広範 にわたる能力を持つが時には健康の世話が必要な多様かつ活動的な 人口グループであるとして高齢者を捕らえている。 ・高齢者のための国連原則(United Nations Principles for Older Persons)。 この原則は国連総会が1991年に採択したもので、自立、参加、介護、 自己実現、尊厳の5つの領域における高齢者の地位について普遍的 な基準を設定した。 ・高齢化に関する宣言(Proclamation on Ageing)。1992年、行動計画採 択10周年を記念して総会が開いた高齢者問題国際会議(International Conference on Ageing) が採択したもので、行動計画のさらなる実施
のための主要な指示を定めている。総会はまた1999年を国際高齢者 年(International Year of Older Persons)に指定すると宣言した。 ・1999年、国際年の実施状況を再検討するための国連総会が開かれた。 64カ国が総会で一般演説を行い、国際年の目的とそのテーマ「すべ ての世代のための社会をめざして」に対して幅広い支持を表明した。 ・第2回高齢者問題世界会議が2002年にマドリッドで開かれ、21世紀 のための高齢者に関する国際政策を策定した。会議は「高齢化に関
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す る マ ド リ ッ ド 国 際 行 動 計 画(Madrid International Plan of Action on Ageing) 」を採択した。それによって加盟国は高齢者と開発、高齢
に到るまでの健康と福祉の増進、望ましい、支援的な環境の整備と いう3つの優先すべき領域で行動を取るとのコミットメントを行っ た。 先住民問題(www.un.org/esa/socdev/unpfii) 世界のおよそ70カ国に3億7,000万人以上の先住民が住んでいる。彼 らはしばしば制度的な差別に直面し、政治力や経済力から除外されてい る。そのあまりにも多くの人がもっとも貧しく、読み書きができず、極 貧の生活を強いられている。先住民は戦争や環境災害のために避難民と なり、先祖の土地から移動させられ、また物理的、文化的生存に必要な 資源を奪われている。また、彼らの伝統的知識が彼らの同意や参加なし に販売され、特許がとられている。 先住民問題に関する常設フォーラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)は2000年7月に経済社会理事かによって設置された。経済社会開
発、文化、教育、環境、保健、人権に関連する先住民問題を審議する。 フォーラムは、専門的なアドバイスや勧告を理事会に行い、また理事会 を通して、国連の計画や基金、各種機関に助言や勧告を行う。フォーラ ムは先住民についての理解を深め、国連システムの中で先住民問題に関 連した活動の統合と調整を行い、先住民に関する情報を準備し、配布す る。 フォーラムは目標を定めた勧告を行い、それが触媒となって目に見え る成果が生まれることを期待している。また、ミレニアム開発目標が達 成されるような形で先住民問題が取り上げられるような方法にも取り組 んでいる。これは、実際に、多くの国では、先住民社会に注意を払うこ とが、2015年までにもっとも貧しい人々の数を半減させるという目標の 達成に直接貢献するからである。 さらに総会は2005−2015年を「第二次世界先住民の国際の10年」と宣 言した。そのおもな目的は以下の通りである。
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・非差別を促進し、法律、政策、資源、プログラム、プロジェクトの 策定、実施、評価のさいに先住民を取り入れる。 ・先住民のライフスタイル、伝統的土地や領土、文化的統合、集団的 権利、その他彼らの生活に影響を及ぼす決定に先住民を完全かつ効 果的に参加させる。 ・先住民の文化的、言語的多様性の尊重も含め、公平のビジョンから 離れた開発政策の再評価を行う。 ・とくに先住民の女性、子ども、若者を強調して、具体的なベンチ マークとともに、先住民の発展のために目標を定めた政策、プログ ラム、プロジェクト、予算を採択する。 ・先住民の保護と彼らの生活の改善を目的とする法律、政策、運営の 枠組みの実施においては、あらゆるレベルで強力な監視機構を開発 し、かつ説明責任を強化する。 2007年9月13日、総会は「先住民の権利に関する国連宣言(United Nations Declaration on the Rights on Indigenous Peoples) 」を採択した。宣言は
先住民の個人、集団としての権利を規定し、それには文化、アイデン ティティ、言語、雇用、健康、教育の権利も含まれている。宣言は、先 住民は自身の制度、文化、伝統を維持、強化し、自身のニーズと願望に 従って開発を進める権利を持つと強調している。また、先住民に対する 差別を禁じ、彼らに関係するあらゆる事項に関しても、その決定にあ たっては完全かつ効果的に参加できるようにする。同時に、先住民の特 色を維持し、経済社会開発に関する自身のビジョンを追求する権利も促 進する。 障害者(www.un.org/esa/socdev/enable) 障害を持つ人々はしばしば社会の主流からはずされる。差別はさまざ まな形態をとり、教育の機会を奪うような不公平な差別からもっと巧妙 な差別、物理的、社会的障害を設けることによって隔離や孤立を図るこ とまでさまざまである。社会もまた損害をこうむる。障害を持つ人々の 膨大な能力を失うことは、人類を貧しくすることになるからである。障
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害についての認識や概念を変えることは、社会のあらゆるレベルでの価 値観を変え、理解を深めることを意味する。 国連はその創設以来、障害を持った人々の地位を向上させ、彼らの生 活を改善するように努めてきた。そうした人々の福祉と権利に対する国 連の関心は、すべての人間の人権、基本的自由、平等に基づく国連創設 の原則に由来するものである。 1970年代、障害を持つ人々の人権の概念は、国際的に広く受け入れら れるようになった。1971年、総会は「精神薄弱者の権利に関する宣言 (Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons)」を採択し、1975年に
は「障害者の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of Disabled Persons) 」を採択した。1981年の国際障害者年(Internnattional Year of Disabled Persons) は「障害者に関する世界行動計画(World Progoramme of Action Concerning Disabled Persons)を採択させることになった。1983−1992年の
「国連障害者の10年(United Nations Decade of Disabled Persons)」の主要な 成果は、国連「障害者の機会均等に関する標準規則(Standard Rules on the Equialization of Opportunities for Persons with Disabilities)」の採択であった。
1992年、総会は12月3日を「国際障害者デー」に指定すると宣言した。 2006年12月13日、 「障害者の権利に関する条約(Convention on the rights of Persons with Disabilities) 」とその「選択議定書(Optional Protocol)」が総
会によって採択され、2007年3月30日、署名のために開放された。これ は総会のアドホック委員会の5年に及ぶ交渉の結果であった。条約は、 明確な、社会的側面を持つ人権文書で、障害を持つすべての人に適用さ れるあらゆるカテゴリーの人権や基本的自由を成文化している。2008年 5月3日に発効した。 条約は以下の原則に基づいている。固有の尊厳と個人の自立を尊重す ること、差別されないこと、社会に完全かつ効果的に参加し、同時に社 会に受け入れられること、人間の多様性の一部として障害者の差異を尊 重し、かつ障害者を受け入れること、機会の均等、施設およびサービス の利用を可能にすること、男女の平等、障害のある児童の発達しつつあ る能力を尊重し、またその同一性を保持する権利を尊重すること、であ
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る。 条約はとくに、権利が侵害されてきた領域、保護が強化されなければ ならない領域、そうした人が権利を行使できるようにするために適応が 必要な領域に焦点を当てている。条約は、国のレベルで条約の実施を監 視するためにその国の政府内に中央連絡先を設置するよう締約国に求め ている。また、一般に独立した人権機関の形をとった独立監視機構の設 置も求めている。 「障害者の権利委員会(Committee on the Rights of Persons with Disabilities)」 が条約の実施を監視する。委員会は個人の資格で職務を遂行する18人の 専門家で構成される。条約の「選択議定書」の下に、委員会は、締約国 による条約違反の犠牲者であると主張する個人もしくは管轄権を条件に 個人の集団からの、もしくはその代理からの通信を受け、審議する。
非市民社会:犯罪、不正薬物、テロリズム 国境を越える組織犯罪、違法薬物の取引、テロリズムは、国や地域の 運命を変えることのできる社会的、政治的、経済的力となった。公務員 の大規模な収賄、「犯罪多国籍企業」の増大、人身売買、それに大小を 問わず地域社会を威嚇し、経済開発を妨害するために利用するテロ行為、 こうした脅威には効果的な国際協力が欠かせない。国連は、良い統治、 社会の公正とすべての市民のための正義を脅かすこの脅威と戦い、グ ローバルな対応を指揮してきた。 ウィーンに置かれた国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime: UNODC)は、社会の「非市民的」要素と呼ばれてきた薬物の
取引、組織犯罪、国際テロリズムと闘うための国際的な活動を先導して いる。この事務所は、テロリズムとその防止の問題も取り上げる犯罪プ ログラムと薬物プログラムから構成される。21の現地事務所があり、 ニューヨークには連絡事務所がある。
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薬物の統制 世界で1億1,000万人以上の人々が少なくとも月に1回不正薬物を乱 用する。およそ2,500万人が中毒患者もしくは「問題を抱えた薬物使用 者」である。薬物の乱用は賃金の損失、保健費の高騰、家族の分裂、地 域社会の悪化をもたらす。とくに注射による薬物の使用は、世界の多く の地で HIV/エイズや肝炎の急激な蔓延の原因となっている。 薬物と犯罪、暴力の増加は直接結びついている。薬物のカルテルは政 府の機能を損ね、合法的なビジネスを腐敗させる。不正薬物から得た収 益はもっとも悲惨な紛争を継続させるための資金となっている。 財政的な代価も驚くほどの額である。警察力や司法制度、治療・社会 復帰計画を強化するためには莫大な費用がかかる。社会費用も同じく衝 撃的である。路上暴力、ギャングの戦い、恐怖、都市の退廃、だいなし にされた生活、こうしたことはどれ一つとってもその対策に莫大な費用 がかかる。 国連は多くのレベルでグローバルな薬物問題と取り組んできた。麻薬 委員会(Commission on Narcotic Drugs)は、経済社会理事会の機能委員会 の一つで、国際的な薬物統制に関する政府間の主要な政策を決定し、事 業活動の調整をはかる。53カ国で構成され、世界の薬物乱用や取引の問 題を分析し、国際的な薬物統制の強化策を提案する。また、国際薬物統 制条約や総会が採択した指針原則や措置の実施状況を監視する(www. unodc.org を参照) 。
国際麻薬統制委員会(International Narcotics Control Board: INCB)は、13 人のメンバーから構成される独立した準司法機関で、政府が国際的な薬 物統制条約を順守しているかを監視し、そのことに関して政府を援助す る。委員会は、薬物が医療上および学術上の目的だけに利用され、それ が不正な経路に流出しないようにする。また、薬物汚染国に調査団や技 術団を派遣し、また、とくに開発途上国からの薬物統制行政官を対象に 研修計画を実施する(www.incb.org を参照)。 国連主催のもとに採択された一連の条約は、薬物や向精神薬の生産と
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分配を管理し、薬物乱用と不正取引と闘い、その行動について国際機関 に報告することを政府に求めている。これらの条約には以下のものがあ る。 ・ 「麻薬に関する単一条約(Single Convention on Narcotic Drugs, 1961年)」 は、麻薬を医療、学術目的に限定するためにその生産、分配、所持、 使用、取引を制限し、ヘロインのような特定の麻薬に対して特別の 対策を講じるよう締約国に義務付けている。1972年の条約への議定 書は麻薬常習者の治療と社会復帰の必要を強調している。 ・ 「 向 精 神 薬 に 関 す る 条 約(Convention on Psychotropic Substances, 1971 年)」は、向精神薬に関する国際統制制度を確立している。薬物の
スペクトラムの多様化と拡大に対応して多くの合成薬物に対する統 制を導入している。 ・ 「麻薬および向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances, 1988年) 」は、資金の洗浄や前駆化学製品の転換などに関
する規定も含め、薬物の取引に対する包括的な対策を規定している。 薬物の取引防止における国際協力の主要な枠組みとして、条約は、 薬物の取引から得た収益と財産を追跡、凍結、没収し、事件を刑事 訴追に移送することを規定している。締約国は薬物に対する需要を 排除もしくは軽減させることを公約する。 UNODC は、その薬物プログラムを通して、国連によるすべての薬物 統制活動の先導を務める。薬物の生産、取引、乱用を悪化させるような 発展を防止し、政府が薬物統制機構や戦略を確立するのを支援する。ま た、薬物統制に関する技術援助を行うとともに、薬物統制条約の実施を 促進し、世界的な専門知識と情報を備えたセンターとなる。 グローバルな薬物問題に対する UNODC のアプローチは多面的であ る。NGO(非政府組織)や市民社会と協力する。乱用防止、治療、社会 復帰には地域ベースの計画が含まれる。不正作物に経済的に依存する 人々に新しい経済の機会を提供する。薬物取引を抑制するための訓練と 技術は、法の執行機関をより効果的にする。そして、ビジネス界や
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NGO に対する援助は、薬物に対する需要を削減する計画を策定できる ようにする。たとえば、以下の例をあげることができる。 ・ 「不正作物監視計画(Illicit Crops Monitoring Programme)」はアフガニ スタン、ボリビア、コロンビア、ラオス、モロッコ、ミャンマー、 ペルーで実施されており、人工衛星による調査、空中調査、現場で の評価などによって、関係国は不正作物の栽培地や傾向について広 範な状況を把握することができる。 ・ 「グローバル薬物乱用評価計画(Global Assessment Programme on Drug Abuse) 」は、世界の不正薬物消費に関する正確かつ最新の統計を提
供する。薬物乱用傾向を正しく把握することは、予防や治療、社会 復帰に関する最善の戦略を見出すために不可欠である。 ・ 「法律諮問計画(Legal Advisory Programme)」は、各国と共同で薬物 統制条約の実施に努める。そのため、立法措置の草案作りや司法要 員の育成に力を貸す。これまで160カ国以上の国々の2,400人以上の 裁判官、治安判事、検察官、上級法執行官、その他の主要担当官が この計画から恩恵を受けた。 1998年の世界の薬物対策に関する特別総会で、世界の国々の政府は、 戦略の円滑化をはかり、不正薬物の生産と消費を削減する活動を強化す ることを誓った。たとえば、薬物の需要を減らすキャンペーン、薬物の 生産に使用されうる物質の利用を制限すること、薬物の取引を効果的に 統制するために国家間の司法共助を改善すること、不正薬物の作物を撲 滅させるための努力を強化すること、などである。 犯罪防止 犯罪の規模はますます大きくなり、強大となり、巧妙となった。犯罪 は世界のいたるところで市民の安全を脅かし、国の経済社会開発を妨げ る。グローバル化は新しい形態の国際犯罪を作り出した。多国籍の犯罪 組織連合はその活動範囲を広げ、薬物や武器の取引から資金洗浄にまで 手を広げている。取引人は毎年何百万もの違法移住者と同じくらい各地 を移動し、総売上高は100億ドルにも達する。腐敗に犯された国への投
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資は、比較的腐敗の少ない国に比べて少なく、その結果として経済成長 の低下を招く。 犯 罪 防 止 刑 事 司 法 委 員 会(Commission on Crime Prevention and Criminal Justice)は、経済社会理事会の機能委員会の一つで、40カ国で構成され
る。委員会は犯罪防止と刑事司法に関する国際的な政策を作成し、活動 を調整する。 国連薬物犯罪事務所(UNODC) は犯罪防止、刑事司法、刑法の改正 に責任を持つ国連の事務所で、その犯罪プログラムを通して委員会が付 託した任務を果たす。とくに力を入れているのは、国境を越える組織犯 罪、腐敗、テロリズム、人間の売買との闘いである。その戦略は国際協 力と国際的な活動に対する援助という2つの柱に基づいている。また、 誠実性と法の尊重に基づく文化の育成に努め、犯罪と腐敗の防止とそれ との闘いに市民社会が参加するように助長する。 UNODC は、グローバルな犯罪に対処する新しい国際法律文書の発達 を支援する。たとえば、2000年9月に発効した「国連多国籍組織犯罪条 約(United Nations Convention againstTransnationalOrganized Crime)」とその3 つの議定書や2005年2月に発効した「腐敗の防止に関する国連条約 (United Nations Convention against Corruption)」がある。UNODC は現在これ
らの条約の批准を促進し、また条約の規定を実施できるように締約国を 支援している。 UNODC はまた、その刑事司法制度を近代化できるように政府の能力 を強化する技術援助を行っている。1999年、国連地域間犯罪司法研究所 (UNICR) と の 協 力 で、 「 グ ロ ー バ ル 腐 敗 撲 滅 計 画(Global Programme against Corruption) 」、 「 グ ロ ー バ ル 人 身 取 引 計 画(Global Programme in Trafficking in Human Beings) 」、 「グローバル組織犯罪研究(Global Study on Organized Crime) 」を発足させた。そして、UNODC の反組織犯罪法・執
行班は、締約国が、組織犯罪と闘うために、腐敗の防止に関する国連条 約に沿って、効果的、具体的措置を採るように援助する。 国連薬物犯罪事務所(UNODC) は、国連の基準や規範が国内犯罪や 国際犯罪との闘いに不可欠な人道にかなった、効果的な刑事司法制度の
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基石であるとして、それが実際の犯罪防止や刑事司法に運用されるよう に援助している。100カ国以上の国々が国内の立法措置や政策を策定す る際にこうした国連の基準を取り入れた。それに加え、同事務所は犯罪 と司法における新たな動向について分析し、データベースを開発し、グ ローバルな調査を発表し、情報を収集し、配布する。また、特定の国の ニーズを評価し、たとえばテロリズムの拡大に関するなど、早期警戒措 置を呼びかける。 「グローバル反テロリズム計画(Global Programme against Terrorism)」は、 2002年に始まった。国際テロリズムの防止と抑制に関する12の普遍的な 文書に加入し、それを実施している国々に法的な技術援助を提供する。 2003年1月、UNODC はその技術協力活動を拡大し、テロリズムに対 する法体制を強化した。反テロリズム文書の締約国となり、またそれを 実施している国に法的な技術援助を提供する。2003年から2006年の間に、 そうした技術支援を受けた国が行った文書の批准は353件にも達した。 2003年1月26日から2006年末までに、85カ国が最初の12の文書すべてを 批准した。さらに、異なるステージの採択で、およそ35カ国が新たなも しくは改定されたテロリズム対策立法を持っていた。さらに、およそ 100カ国において、テロリズムに対する法体制を実施する国の刑事司法 システムの能力は、4,600人の刑事司法担当官の研修を通して強化された。 「グローバル資金洗浄撲滅計画(Global Programme against Money Laundering)」は、国際金融制度を通して犯罪から得た収益を洗浄しようとする
犯罪人に直面する政府を援助する。洗浄される資金は年に500ドルから 1兆ドルにも達する。国際的な反資金洗浄組織との緊密な協力を保ちな がら、同計画は政府や法執行機関や金融機関情報部に反資金洗浄スキー ムを提供し、銀行・金融政策の改善について助言を与え、国の金融調査 サービスを援助する。 2007年初め、UNODC は「人身取引と闘うグローバルイニシアチブ (Global Initiative to Fight Human Trafficking: UN.GIFT)」を発足させた。これ
によってこの犯罪の対する世界的運動の転換期となるものと期待されて いる(www.ungift.org を参照)。
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国連地域間犯罪司法研究所(United Nations Interregional Crime and Justice Research Institute: UNICRI)」は、UNODC の犯罪プログラムと密接なつな
がりを持つ地域間研究機関である。犯罪防止と犯罪者の処遇に関する行 動指向の研究を行い、かつ奨励する。また、研究や情報の提供を行って 犯罪防止と管理に関する政策の改善にも貢献する(www.unicri.it を参照)。 総会が決定したように、犯罪防止・犯罪者の処遇に関する国連会議 (United Nations Congress on the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders) 」は5年ごとに開かれ、犯罪防止政策に関する情報を交換し、進歩
を促す場を提供している。会議には犯罪学者や行刑学者、上級警察官、 それに刑法や人権、社会復帰の分野の専門家が参加する。第11回国連犯 罪防止会議は、 「相乗効果と対応:犯罪防止と刑事司法における戦略的 同盟」をテーマに2005年4月にバンコクで開催された(www.unodc.org を 参照) 。
科学、文化、コミュニケーション 国連は、文化と科学の交流はコミュニケーションと共に国際の平和と 開発を前進させる道具であると考えている。教育を中心とした活動に加 え、国連教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: UNESCO=ユネスコ)は、持続可能な開発のための科学、文
化遺産や創造性などの文化の発展、それにコミュニケーションと情報の 3つの領域を中心に活動を続けている。 科 学 ユネスコの「開発のための科学」に関する主要な活動は、自然科学、 社会科学、人文科学における知識の向上と普及、共有を助長する。ユネ スコの国際および政府間の活動計画には「人間と生物圏計画」 、 「政府間 海洋委員会」 、 「社会変革計画の管理」、 「国際水文学計画」 、 「国際基礎科 学計画」、そして「国際地質対比計画」が含まれる。さらに、科学教育 や能力育成イニシアチブを通して、ユネスコは、開発途上国が持続可能
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な開発を実現できるように科学能力の育成を支援する。 クローン動物作成技術の進歩を受けて、ユネスコ加盟国は1997年に 「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言(Universal Declaration on the Human Genome and Human Rights)」を採択した。これは遺伝子研究の倫理面に関
する最初の国際文書である。世界宣言は、人間の遺伝子研究と慣行につ いて普遍的な倫理基準を定めている。倫理基準は、自己の研究を追求す る自由と、人権を守り、潜在的な乱用から人類を保護する必要とのバラ ンスを保たせたものである。ユネスコ総会は2003年「ヒト」遺伝情報に 関する国際宣言(Inteernational Declaration on Human Genetic Data)」を採択し、 2005年には「生命倫理と人権に関する世界宣言(Universal Declaration on Bioethics and Human Rights) 」を採択した。
社会科学と人文科学の分野では、ユネスコは哲学と社会科学の研究の 促進、人権と民主主義の促進と教育、あらゆる形態の差別撤廃、女性の 地位の改善、またエイズのような病気から起こる差別の問題の解決に重 点を置いている。 文化と発展 ユネスコの文化活動はこれまではあらゆる形態の文化遺産の保護と文 化間の対話の促進に専念してきた。1972年の「世界の文化遺産と自然遺 産の保護に関する条約(Convention on the Protection of the World Cultural and Natural Heritage) 」のもとに、184カ国が141カ国の851以上の優れた遺産
や遺跡を保護するための国際協力を誓った。 「世界遺産一覧表(World Heritage List) 」に登録された町や遺跡、自然環境である。1970年のユネ
スコ条約は、文化遺産の不正な輸入、輸出、移転を禁じた。 2003年、ユネスコ総会は「文化遺産の意図的破壊に関するユネスコ宣 言」を全会一致で採択した。おもに、2001年3月のアフガニスタンの バーミヤンの仏像が2001年3月に悲劇的に破壊されたことを受けて採択 された。ユネスコの「2003年無形文化遺産の保護に関する条約(2003 Convention for the Safeguarding of the Intangible Cultural Heritge) 」は、口承伝統、
習慣、言語、舞台芸術、儀式、祭り、伝統的知識、伝統工芸品、危機言
経済社会開発 313
語、言語の多様性の促進について規定している。2005年の「文化的表現 の多様性の保護および促進に関する条約」は、文化的財・サービスをア イデンティティと価値の手段だと認め、そうした文化的財・サービスの 創造、生産、配布、享受を強化することを求めている。とくに、開発途 上国における関連産業を持続させる必要が強調された。 ユネスコの活動は、すべての領域において、持続可能な開発に文化が 果たす役割を強化し、かつ社会的一体性、文化間対話と平和を構築する にあたってユネスコが果たす不可欠な役割を促進することを中心に進め られている。 コミュニケーションと情報 ユネスコは、報道の自由とメディアの多元性と独立を推進する世界の リーダーだと自認している。情報の自由な流れを促進し、開発途上国の コミュニケーション能力を強化する。加盟国のメディアに関する法律が 民主主義の基準に合うようにし、公共および民間のメディアで編集の独 立性が保たれるように支援する。報道の自由が侵害されたときは、ユネ スコ事務局長は外交チャンネルもしくは公的声明を通してそれに干渉す る。 ユネスコのイニシアチブによって、5月3日は「世界報道の自由の日 (World Press Freedom Day)」として記念される。そして、5月17日は「世
界情報社会デー(World Information Society Day)」に指定されている。これ は、基本的人権に基づいて「人間中心の、包括的、開発指向の情報社 会」を構築するとの世界情報社会サミット(ジュネーブ(2003年)とチュ ニス(2005年)で開催) のビジョンを想起するために設けられた記念日
である。 開発途上国のコミュニケーションのインフラ整備と人材育成を強化す るために、ユネスコは研修と技術的専門知識を提供し、また「国際コ ミュニケーション開発計画(International Programme for the Development of Communication: IPDC) 」を通して、国内および地域のメディア・プロジェ
クトの開発を支援する。この25年間、IPDC は139の開発途上国や移行
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経済国で1,000件を越すプロジェクトに5億9,000万ドル以上を動員した。 ユネスコは、デジタル・デバイドを解消するために、開発途上国が自 身の情報科学システムを設立し、グローバルな情報の流れにアクセスで きるように支援する。そのため、研修を実施し、科学機関と文化機関と を結び、それをインターネットに接続するコンピューター・ネットワー クを確立することに重点をおいている。 新しい情報通信技術(ICTs)は、これまでにない規模で情報を生産し、 発信し、受信する可能性を広げ、 「考えの自由な流れ」の原則を拡大し た。ユネスコは、できるだけ多くの人がこれらの技術がもたらす機会か ら恩恵を受けられるように努めている。さらにユネスコは、これらの技 術が社会や文化に与える影響やサイバースペースに関連した法律的、倫 理的問題に対する政策アプローチにも強い関心を持っている。 2006年4月、事務総長は「世界情報通信技術開発同盟(Global Alliance for Information and Communication Technologies and Development) 」の発足を承
認した。その目的は、情報通信技術(ICT)を開発活動のなかに採り入 れ、その促進を図ることである。そのために、開発における ICT の役 割に関する開かれた、包括的な、マルチステークホルダーによる、部門 横断的な政策対話を行うプラットフォームを提供する。 同同盟は、とくに健康、教育、性差別、若者、障害者、社会的に不利 な立場にある人々に焦点を当てつつ、貧困削減に貢献する経済成長シナ リオの中で、経済開発、貧困撲滅、雇用、起業において ICT が果たす 役割について、テーマ別のイベントを開催する。既存のイニシアチブや 組織を利用し、また情報通信技術(ICT) タスクフォース(2001−2005 年) の作業に基づいて活動する。ICT タスクフォースはこれまで、ICT
政策と統治、国家・地域 E 戦略、人材の養成と能力育成、低コスト接 (www.unicttaskforce.org 続アクセス、企業と企業家精神のような問題を取り上げた を参照) 。
同盟は政府、企業、市民社会、国際機関など、すべての関係者が自由 に参加できる分散型のネットワークである。最新のウェッブベースの共 同技術を広く活用して、実際の会議の必要性を最小限に抑える。また、
経済社会開発 315
文明の同盟 2005年7月14日、コフィー・アナン事務総長は新たなイニシアチブ、 「文明の同盟(Alliance of Civilizations)」の発足を発表した。これは、過 激派によってイスラム社会と西欧諸国との分裂がますます広がることへ の懸念に応えるものであった。 同同盟は、そうした勢力に対する同盟として設立され、宗教的信条と 伝統に対する相互尊重を推進し、あらゆる分野で強まる人類の相互依存 を再確認する。それは分裂をなくし、世界平和を脅かす偏見、誤認、誤 解、両極性を克服しようとするものである。 同盟に指針を与えることを目的で、著名人からなるハイレベル・グ ループが任命された。その中には、南アフリカ共和国のデズモンド・ツ ツ大主教のような著名な神学者、イギリスの作家カレン・アームストロ ング、アメリカのユダヤ教ラビのアーサー・シュネイア、トルコのメー メト・アイデン教授、それに、エジプトのアレキサンドリア図書館長の イスマイル・セラゲルディンなどが含まれる。アイディン氏とフェデリ コ・マヨール元ユネスコ事務局長が共同議長を務める。 ハイレベル・グループの最初の報告は2006年11月に発表された。イス ラム社会と西欧社会との関係を分析し、分裂を解消し、尊重の文化を育 てる目的で、教育、メディア、若者、移住の領域で幅広い勧告を行った。 また、上級代表の任命も勧告した。上級代表は、文化と政治の交差で生 じる危機を拡散し、中東和平プロセスを再開させる措置を採り、イスラ ム諸国における複数政党政治を奨励する。 2007年4月26日、藩基文事務総長は、初代の文明の同盟国連上級代表 として、ジョルジェ・サンパイオ元ポルトガル大統領を任命した。2008 年1月15日から16日まで、同盟の第1回年次フォーラムがマドリッドで 開かれる。ハイレベルの行動指向のフォーラムで、グローバルなレベル で文化横断の理解を促進するパートナーシップを発展させる。 文明の同盟はもともとスペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテ ロ首相によって提案されたが、トルコのレセプ・タイイプ・エルドガン 首相が共同提案者の一人となった。現在は、両国が引き続き共同提案国 として行動している(より以上の情報については、www.unaoc.org を参 照)。
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とくに開発途上国、メディア、学術団体、若者、女性団体など、非政府 組織からの関係者を積極的に参加させることによって、政策やパート ナーシップについての討論の参加者の輪を広げることも目的としている。 同盟の最初の会合は2006年6月19日、クアラルンプールで開催された。
持続可能な開発 (www.un.org/esa/sustdev/sdissues/sdissues.htm)
国連が創設されてからの最初の数十年は、環境問題が国際的な議題と なることはほとんどなかった。環境に関連した国連活動で強調されたの は天然資源の探査と利用であった。それと共に、とくに開発途上国が自 国の天然資源を管理できるようにすることも求められた。1960年代、海 洋汚染、とくに油のたれ流しの問題についていくつかの合意が見られた。 それ以来、グローバルな規模で環境の悪化を示す例が増え、国際社会は 開発が地球の生態系と人間の福祉に影響を与えることについて警報を拡 大させてきた。国連は環境問題ついての唱道者であり、かつ「持続可能 な開発」について指導的役割を果たしている。 経済開発と環境の劣化との関係が初めて国際的な議題となったのは、 1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議においてであっ た。会議の終了後、加盟国政府は国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP) を設置した。UNEP は今日環境に関する主導的
な機関として活動を続けている。 1973年、西アフリカの砂漠化防止活動の先頭に立つ機関として「スー ダン・サヘル事務所(United Nations Sudano-Sahelian Office: UNSO)が設置 さ れ た。 現 在 は UNDP の「 乾 燥 地 開 発 セ ン タ ー(Dryland Development Centre) 」となり、グローバルな任務を帯びるようになった。1996年に国
連砂漠化防止条約が発効した。この条約は正式には「深刻な干ばつ又は 砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するた め の 条 約(Convention to Combat Desertification in those Countries Experiencing Serious Drought and/or Desertification, Particularly in Africa(1994)」と呼ばれる
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条約で、その発効によって、この砂漠化防止の活動に新たな弾みが与え られた。それにもかかわらず、環境の劣化は大きな課題として残ってい る。 1980年代には、オゾン層の保護や有害廃棄物の取り締まりに関する条 約など、環境問題については画期的な交渉が加盟国の間で行われた。総 会が1983年に設置した「世界環境開発委員会(World Commission on Environment and Development)」の作業によって、新しいタイプの開発の必要
性が新たに緊急感と共に理解されるようになった。すべての開発が依存 する環境資源を保護する一方で、現在および将来の世代のために経済的 福祉をもたらすような開発である。委員会は1987年の総会に宛てた報告 のなかで、自由な経済成長だけに基づくアプローチに代わるものとして この新しい概念の「持続可能な開発」を提唱した。 総会はその報告を審議し、国連環境開発会議――地球サミットの開催 を要請した。 今日、環境を支え、持続させる必要についての認識は、国連のほとん どすべての活動に反映されている。国連と各国政府、NGO(非政府組織)、 学術団体、民間セクターとの間にダイナミックなパートナーシップが生 まれ、それによって環境問題に対する新しい知識や具体的な行動が生ま れている。国連は、環境の保全はすべての経済開発活動の一部とならな ければならないと主張している。環境が保護されない限り、開発は達成 されない。
アジェンダ21 「アジェンダ21」は地球サミットで採択された。これによって、地球 の安全な未来に向かって歴史的な第一歩が踏み出された。アジェンダ21 は、持続可能な開発のあらゆる領域における包括的な地球規模の行動計 画である。 アジェンダ21のなかでは、政府がとるべき行動のための詳細な青写真 が描かれている。それは、現在の持続不可能な経済成長モデルから成長
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持続可能な開発首脳会議 地球サミット(Earth Summit)としても知られる国連環境開発会議 (United Nations Conference on Environment and Development: UNCED、リ オデジャネイロ、1992年)で、環境の保全を図りながら経済社会開発を 進めることは、 「リオ原則」に基づく持続可能な開発にとっての基本で あるとの合意が見られた。そうした開発を達成するために、世界の指導 者たちは「アジェンダ21(Agenda 21)」を採択した。 アジェンダ21で、参加国政府は行動のための青写真を作成した。それ は、現在の持続不可能な経済成長モデルから、環境資源の保護と再生に 基づくモデルへと世界を動かしてゆくものであった。また、女性、労働 組合、農民、子どもと若者、先住民、科学界、地方自治体、企業、産業、 非政府組織(NGO)など、持続可能な開発を達成するために果たす主 要なグループの役割を強化する方法も勧告した。 1997年、国連総会は「アジェンダ21」の実施に関する特別総会(地球 サミット+5)を開催した。参加国は、「アジェンダ21」を実施する緊 急性を強調する一方で、持続可能な開発をいかに資金調達するかについ ては合意に達することができなかった。特別総会の最終文書は以下のよ うな勧告を行った。すなわち、気候変動をもたらす温室効果ガスの排出 を削減するために、法的に拘束力のある目標を採択すること、持続可能 な形態のエネルギーの生産、流通および利用に向かってより強力に進む こと、持続可能な開発のための前提条件として貧困撲滅に焦点を合わせ ること、であった。 持続可能な開発に関する世界首脳会議(World Summit on Sustainable Development, ヨハネスブルク、2002年)は、地球サミット以来達成され た進歩について検証した。首脳会議で採択された「ヨハネスブルク宣言 (Johannesburg Declaration)」と54ページの「実施計画(Plan of Implementation) 」には、公衆衛生、化学物質の利用と生産、漁業資源の維持と回 復、生物多様性の損失率の削減など、達成時期を定めた特定の目標に対 するコミットメントが含まれていた。アフリカや小島嶼開発途上国の特 別のニーズの問題もとくに取り上げられた。また、持続可能な生産と消 費のパターン、エネルギー、鉱業活動のような新しい問題も取り上げら れた。
経済社会開発 319
と開発に不可欠な環境資源を保護かつ更新させる経済活動へと世界を動 かして行くものである。行動領域には大気の保全、森林減少や土壌流失 および砂漠化との闘い、大気・水質汚染の防止、魚種枯渇の防止、有害 物質の安全管理などが含まれる。 アジェンダ21はまた、環境にストレスをもたらすような開発様式、た とえば、開発途上国における貧困と対外債務、持続不可能な生産と消費 の行動様式、人口問題、国際経済の構造なども取り上げている。行動計 画はまた、持続可能な開発の達成に貢献する主要なグループ、すなわち 女性、労働組合、農民、子どもと若者、先住民、科学団体、地方自治体、 企業、産業界、NGO(非政府組織)が果たす役割を強化する方法も勧告 している。 国連はアジェンダ21を実施する国内活動を支援するよう求められ、持 続可能な開発の概念をすべての関係政策や活動計画に反映させる措置を 取ってきた。所得創出プロジェクトはますます環境上の影響を考慮する ようになった。開発援助計画はますます女性を重視するようになり、女 性は商品、サービス、食糧の生産者として、また環境の世話人として中 心的な役割を与えられた。また、貧困撲滅と環境の質は不可分であると の認識のもとに、貧困撲滅の道徳的、社会的必要は一層の緊急性を与え られた。 アジェンダ21の実施を全面的に支援するために、総会は1992年に持続 可能な開発委員会(Commission on Sustainable Development) を設置した。 経済社会理事会の機能委員会の一つで、53カ国で構成される。アジェン ダ21や2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議の成果など、その 他の地球サミットで採択された合意の実施を監視する。政府、市民社会、 その他の国際機関と積極的かつ持続的な対話を続けて、持続可能な開発 に関連した重要問題を取り上げ、また国連内における環境や開発のため の活動の調整を援助するためのパートナーシップを構築する(www. un.org/esa/sustdev/csd/aboutCsd.htm を参照)。
国連経済社会局の持続可能な開発部(Division for Sustainable Development) は委員会の事務局を務め、 「アジェンダ21」、 「ヨハネスブルク実
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人間の行動を変える 世界的に持続可能な開発を達成するには生産と消費のパターンを変え なければならない。何をどのように生産し、どのくらい消費するかにつ いての考え方を変える必要がある。とくに先進工業国において、こうし たパターンを変える方法を探すことが地球サミットで初めて国際的な議 題となった。それ以来、持続可能な開発委員会は、国連内外の機関との 協力で、個人消費者、世帯、産業界、企業、政府の行動を変えるために、 率先して作業計画の作成に取り組んできた。そうした行動に、国連消費 者保護ガイドラインを拡大して、持続可能な消費の促進に関する項を新 たに設けることも含まれる。 2002年、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」は、そうした努力 の重要性を再確認した。首脳会議は、消費と生産の持続不能なパターン を変えることが不可欠であることを明らかにした。そして、その方向に 向かっての変化を加速させるコミットメントを改めて表明した。開発先 進国は、関連政策を発展させて実施し、より環境に負荷のない生産を促 進し、自覚の向上を図り、企業責任を向上させるのような措置を率先し て実施することになった。こうした問題に関する討議には、企業と産業 界、政府、消費者団体、国際機関、学術団体、NGO(非政府組織)な どが参加した。 単純によいビジネスとは、資源を少なく使い、廃棄物を少なくするビ ジネスである。それによって資金を節約し、高い利潤を生むことができ る。また、天然資源を保護し、汚染を少なくすることによって環境を保 全する。そうすることによって、われわれは将来の世代の享受と福祉の ために地球を持続させることができる。
施計画」 、それに「1994年小島嶼開発途上国の持続可能な開発に関する 行動計画」の実施の進捗状況を監視する。要請を受けて政策勧告を行い、 持続可能な開発に必要な能力を育成するために技術援助を行う。また、 分析・情報のサービスも提供する(www.un.org/esa/sustdev を参照)。
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持続可能な開発に関する世界首脳会議 持続可能な開発に関する世界首脳会議(World Summit on Sustainable Development)は、2002年8月26日から9月4日まで南アフリカのヨハネス
ブルクで開かれた。目的は1992年の地球サミット以降に行われた成果や 挑戦、新しい問題を検証することであった。首脳会議は「アジェンダ 21」の目標や約束、コミットメントを具体的な、目に見える行動に移す ための「実施」サミットと言うべき会議であった。 首脳会議では広範にわたる利益を代表する団体が参加した。2万2,000 人以上の人々が出席した。その中には100カ国以上の国家元首、NGO (非政府組織)や企業、その他の主要なグループを代表する8,000人以上
の人々、4,000人の報道関係者が含まれる。それと同時に行われた各種 の行事にも同数の人々が参加した。 加盟国は「持続可能な開発に関するヨハネスブルク宣言(Johannesburg Declaration on Sustainable Development) 」と行動の優先度を詳細に述べた54
ページの「実施計画(Plan of Implementation)」について合意した。首脳 会議は、持続可能な開発が国際的課題の中心要因であることを再確認し、 世界の緊急課題に対処するための具体的かつ持続可能な措置の道を切り 開き、経済社会開発と天然資源の保護との間の関連性を強調した。首脳 会議のユニークな成果は、国際的に合意されたコミットメントが、持続 可能な開発のための幅広い自発的なパートナーシップ・イニシアチブに よって補完されたことであった(事項の「持続可能な開発」を参照)。
持続可能な開発のための融資 地球サミットでは、アジェンダ21の実施のために必要な資金のほとん どをそれぞれの国の公的部門や民間部門から調達することで合意がみら れた。しかし、開発途上国の持続可能な開発努力を支援し、またグロー バルな環境を保全するには新規の、さらなる外部資金が必要だと考えら
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れた。 1991年に発足した地球環境ファシリティ(Global Environment Facility: GEF)は、グローバルな環境を保護し、地域社会において持続可能な生
活様式を進める開発途上国のプロジェクトに融資する。これまで、160 カ国の開発途上国や移行経済国の1,900件のプロジェクトに対して68億 ドルの無償資金を提供し、また受益国政府や国際開発機関、民間産業、 NGO から240億ドルの協調融資を生み出した。 援助国は4年ごとにファシリティの増資を行う。2006年の第4次増資 では、32カ国が2006年−2010年間のプロジェクトを資金援助するために 31億3,000万ドルの誓約を行った。GEF の基金は生物の多様性、気候変 動、残留性有機汚染物質などに関する条約の目標達成のための主要な手 段となっている(www.gefweb.org を参照)。 GEF プロジェクトはおもに国連開発計画、国連環境計画、世界銀行 によって実施されるが、生物の多様性の保存と持続可能な利用、全地球 的な気候変動の防止、国際水路の汚染防止、オゾン層の破壊防止、土壌 の劣化や干ばつ、ある種の残留性有機汚染物質の使用に取り組んだプロ ジェクトである。 以下の執行機関も GEF プロジェクトの管理と実施を担当している。 アフリカ開発銀行(www.afdb.org)、アジア開発銀行(www.adb.org)、欧州 復興開発銀行(www.ebrd.org)、米州開発銀行(www.iadb.org)、国際農業 開発基金(www.ifad.org) 国連食糧農業機関(www.fao.org)、国連工業開 発機関(www.unido.org)である。
環境のための行動 国連システム全体が多様な方法で環境の保全に取り組んでいる。この 領域での先導機関は国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP) である。UNEP は国連システムのなかで環境のための良心とな
るように創設され、世界の環境状況を評価し、国際協力を必要とする問 題を明らかにする。国際環境法の作成を助け、環境の保全が経済社会政
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策や国連システムの活動計画に反映されるようにする(www.unep.org を 参照) 。
UNEP のモットーは「開発のための環境」で、一国だけでは対処でき ないような問題の解決を支援する。また、コンセンサスを築き、国際的 合意を作り出すための場を提供する。そうすることによって、UNEP は、 企業や産業界、科学・学術団体、NGO、市民グループ、その他が持続 可能な開発により一層参加するように努める。 UNEP の任務の一つは、環境に関する科学知識と情報を普及させるこ とである。UNEP が地域やグローバルのレベルで促進し、調整してきた 研究や環境情報の編纂によってさまざまな環境状況に関する報告が生ま れた。 「グローバル環境概観」のような報告は、新たに発生する環境問 題についての世界的な認識を高めることに役立った。そうした報告のう ちのいくつかは環境条約に関する国際交渉の引き金となった(www. unep.org/geo を参照)。
UNEP はグローバル、地域のレベルで最善の科学的データと情報の収 集と普及を容易にし、かつその調整を行う。それは、水と環境に関する UNEP 協 力 セ ン タ ー(UNPE Collaborating Centre on Watere and the Environment www.ucc-water.org)、エネルギー・気候変動・持続可能な開発に関す
る UNEP リソ・センター(UNEP Risoe Centre on Energy, Climate Change and Sustainable Development, www.uneprisoe.org)、 「地球資源情報データベース (Global Resource Information Database: GRID www.unep.org/dewa/partneerships/ grid)」センター、それに「世界自然保護モニタリングセンター(World Conservation and Monitoring Centre www.unep-wcmc.org) 」など、卓越した研
究拠点のネットワークと通して行われる。このネットワークは今も広が りを見せている。 UNEP はその「地域海計画(Regional Seas Programme)」のもとに、海 洋と海域を保護し、環境上適正な方法による海洋資源の利用を促進して いる。現在この計画が実施されている国は140カ国以上にのぼる。この 計画は、13の条約もしくは行動計画を通して、共通の海洋資源や水資源 の保護を進めるものである。もっとも最近の条約はカスピ海を扱った
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「2003年テヘラン条約」である。この条約は2006年8月12日に発効した。 UNEP が事務局をつとめる地域条約および行動計画は、東アフリカ、 西・中央アフリカ、地中海、カリブ海、東アジア海および北西太平洋を 対象としている(www.unep.org/regionalseas を参照)。 沿岸部と海洋部は地表のおよそ70パーセントを占め、地球上の生命維 持に不可欠である。ほとんどの汚染は産業廃棄物、鉱業活動、農業活動、 動力車からの排出物に起因し、そのうちのいくつかは何千マイルも内陸 部に入ったところで発生する。UNEP 主催のもとに1995年に採択された 「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画(Global Programme of Action for the Protection of the Marine Environment from Land-based Activities) 」は、陸上の人間活動に起因する汚染から海洋、河口、沿岸部を
保護するための画期的な国際的活動を示すものである。行動計画は恐ら く海洋環境に対する最大の脅威、すなわち化学物質や汚染物資、下水が 海洋へ流れ込む問題を取り上げる機関で、ハーグに調整事務所がある (www.gpa.unep.org を参照) 。
パリには UNEP の技術産業経済部(Division of Technology, Industry and Economics)が設けられており、より安全できれいな、環境上適正な技術、
とくに都市管理と淡水管理を扱う技術の移転を容易にする活動を進めて いる。また、化学物資の適正な管理と安全な取り扱いを改善する能力を 育成できるように国を援助し、開発途上国や移行経済諸国のオゾン層破 壊物質の削減を支援する。さらに、環境や社会のコストを十分に統合す るよりよい、十分な情報に基づくエネルギーの選択を行えるように政策 決定者を援助し、政府や民間セクターと協力して、環境に対する配慮が 彼らの活動、慣行、生産、サービスに取り入れられるようにしている (www.unep.org/resources/business/DTIE を参照)。
UNEP 化学物質計画(UNEP Chemicals)――技術産業経済部の化学班 ――は、有害な化学物質に関する情報を国に提供し、化学物質を安全に 生産し、使用し、廃棄できる能力を育成できるように国を援助し、化学 物資のリスクを軽減もしくは排除するために必要な国際および地域の行 動を支援する(www.chem.unep.ch を参照)。
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FAO との協力で、UNEP は「国際貿易の対象となる特定の有害な化学 物質および駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続きに関 するロッテルダム条約(Rotterdam Convention on Prior Informed Consent Procedures for Certain Hazardous Chemicals and Pesticides in International Trade, 1998 年) 」についての交渉を可能にした。同条約のもとに、輸入国は受け取
りたい化学物質を決定し、かつ安全に管理できない化学物質は排除する 権限を与えられた(www.pic.int を参照)。 UNEP はまた、2001年に、 「残留性有機汚染物質に関するストックホ ルム条約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants)」の作成を容 易にした。これは、長期にわたって環境にそのまま残留し、地理的に広 く移動し、生命のある有機物の脂肪組織に蓄積し、人間や野生動物に とって有害である特定の化学物質の排出を削減および廃絶することを目 的とした法的に拘束のある条約である。これには高度の有害な駆除剤お よび容易に移動し、食糧連鎖に蓄積する工業用化学物質や副産物が含ま れる(www.pops.int を参照)。 これまで、UNEP はその他にもいろいろな国際協定の交渉の触媒の役 目を果たしてきた。これらの国際協定は地球に与えられる損害を食い止 め、もしくは転換させる国連の努力の礎石をなすものである(www. unep.org/dec を参照) 。歴史的な「モントリオール議定書(Montreal Protocol, 1987年) およびその後の改正(Amendments) は上空におけるオゾン
層の保存を求めたものである。「有害廃棄物の国境を越える移動および その処分の規制に関するバーゼル条約(Basel Convention on the Control of Hazardous Wastes and Their Disposal, 1989年)」は、有害廃棄物による汚染の
危険を減少させた。 「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species, 1973年)は、野生動植物の取
引を規制する上で果たした功績が広く認められている。UNEP はまた、 アフリカ諸国政府が「野生動植物の違法取引に対する協力執行活動に関 するルサカ協定(Lusaka Agreement on Cooperative Enforcement Operations Directed at Illegal Trade in Wild Fauna and Flora, 1994年)を締結するのを助けた。
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「生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity, 1992年)と 同 条 約 の「 バ イ オ セ ー フ テ ィ に 関 す る カ ル タ ヘ ナ 議 定 書(Cartagena Protocol on Biosafety, 2000年) は、地球上の多種にわたる動植物や微生物
を保存し、その持続可能かつ公平な利用を奨励している。UNEP はまた、 砂漠化や気候変動に関する条約の交渉や実施も支援している。
気候変動と地球の温暖化 産業時代の幕開けとともに、大気に「温室効果ガス」が着実に、そし て今では危険なまでに増えながら蓄積されてきた。これによって地球上 の温度が上昇を続けている。エネルギーを生み出すために化石燃料を燃 焼させたとき、森林を伐採して燃やしたとき、二酸化炭素が大気中に排 出される。そうした「温室効果ガス」――メタン、亜酸化窒素、その他 を含む――の蓄積は増大し、今では地球は巨大な、潜在的には破壊的な 影響に直面するまでになっている。 1988年、最善の研究が問題の深刻さを示し始めたとき、二つの国連機 関――国連環境計画(UNEP) と世界気象機関(WMO)――が集まって 「気候変動政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC) を設置した。これは気候変動に関する現在の知識を結集し、将来への方 向性を示すためのものであった。パネルは2,500人の優れた科学者や専 門家の世界的ネットワークとなり、問題に関する研究を再検討する。そ の結果は、問題に対して法的に拘束力のある、調整の取れたアプローチ を発展させることに弾みを与えた。その活動が認められ、同パネルは、 アルバート・アーノルド(AI) ゴア・ジュニア元米副大統領とともに 2007年ノーベル平和賞を受賞した(www.ipcc.ch を参照)。 世界の科学者の警告を心に留めて、世界の国々はリオデジャネイロに 集まり、 「1992年気候変動に関する国連枠組み条約(1992 United Nations Framework convention on Climate Change)」に署名した。現在、191カ国がこ
の国際条約に加入している。この条約によって、開発先進国は、大気中 に放出される二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出を2000年までに
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1990年のレベルまで引き下げることに同意した。これらの国は、二酸化 炭素の年間排出量の60パーセントを占めている。開発先進国はまた、開 発途上国が気候変動の課題に取り組むさいに必要な技術や情報をこれら の国に移転させることにも同意した(www.unfccc.int を参照)。 しかし、1995年、IPCC が提示した証拠は、たとえ1992年の目標が予 定通りに達成されたとしても、地球の温暖化とそれに付随する問題を防 止できないであろうことを明らかにした。その結果1977年、条約の批准 国は京都に集まり、法的に拘束力のある「議定書」に合意した。この議 定書の下に、開発先進国は、1990年のレベルを基準として、2008年から 2012年までの間に6種の温室効果ガスの総排出量を5.2パーセント削減 する。現在、 「議定書」の締約国は175カ国である。議定書はまた、排出 レベルを抑制する費用を削減する目的で、いくつかの革新的な「メカニ ズム」を設置した。 「京都議定書(Kyoto Protocol)」は、2005年2月16日に発効した。議定 書が規制する6種のガスのうち、二酸化炭素とメタン、亜酸化窒素は大 気中に自然に発生するものの、人間の活動がそのレベルを著しく増大さ せる。六フッ化硫黄は合成ガスで、大気に対して破壊的な影響を持つ (1キロで2万2,200キロの二酸化炭素に相当する)。ヒドロフルオロカーボ
ン(HFCs)やペルフルオロカーボン(PFCs)も合成ガスで、化学物質の 種類である。それぞれ1キロにつき、温室効果という観点から言えば、 二酸化炭素の数トンにも相当する。 国連が、気候変動がもたらす脅威に取り組むために初めて世論を動員 したとき、それは理論であって「証明されていない」と考える人が沢山 いた。わずかではあったが、科学的見解の相違もあった。予測モデルを 作成するために必要な方法はまだ完全ではなかった。しかし、2006年ま でに、すべてが変わってしまった。2007年初め、IPCC はこれまでで もっとも強い報告を発表した。 最新の気候モデルの利用、データの収集と分析、もっとも最新の、専 門家の審査を受けた科学論文を検討し、パネルは、90パーセントの確か さを持って、重大な地球温暖化が進行中で、なおかつ強まっていると報
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告した。それはある程度は人間の活動に起因するものである。さらに重 要なことは、その影響はすでに現われており、大きな是正措置が採られ なければそれはさらに悪化するであろう。 報告は40カ国の気候科学者や専門家が全員一致で同意し、また113カ 国政府が支持した。報告は、温室効果ガスが現在のペースで増え続ける ならば、世界の平均温度は今世紀末までに3度(摂氏)上昇することを 示している。 その結果、より極端な温度、熱波、新しい風のパターン、いくつかの 地域のより激しい干ばつ、豪雨域の拡大、氷河や北極氷原の溶解、世界 の海面水位の上昇が発生するであろう。そして、熱帯性サイクロン(台 風やハリケーン)は減少すると予測されるものの、その激しさは増すと
思われる。海水温度の上昇によって、最大風速が速まり、集中豪雨が多 くなる。 神戸で開かれた国連防災世界会議で168カ国の参加国が「兵庫行動枠 組み2005−2015」を採択した。それには気候が関連する災害によるリス クを削減する際に効果的だと思われる勧告も含まれている。しかし、究 極的には、唯一の効果的な道は、大気を持続可能なレベルまで回復させ、 かつ地球温暖化の流れを逆転させることである。 幸いなことに、そうする手段が概説されている。もし世界の国家と国 民がともにそれが起こるように努力するなら、目標は達成されるであろ う。 「気候変動条約」や「京都議定書」が期待する国家の行動に加え、 個人や自治体、非政府組織、その他の機関すべてが果たすべき役割があ る。たとえば、一つの UNEP キャンペーンは、二酸化炭素の蓄積を軽 減する目的で、2007年に10億本の植樹を奨励した。 2007年3月1日、国連はサンフランシスコ市、ベイエリア評議会、幅 広い企業とユニークなパートナ−シップを発足させた。「気候リーダー シップに関する原則(Principles on Climate Leadership)」イニシアチブで、 世界の企業や都市が地球の温暖化と闘うために採りうる行動モデルを提 供する。国連は、また、ニューヨーク市の「グリーン・イニシアチブ」 も歓迎した。これは、水、空気、土地のような自然資源に対する負担を
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軽減することを目的としている。 同じく2007年初め、国連財団とシグマ XI、科学研究協会、は「気候 変動に直面して:管理しがたいものを回避し、回避できないものを管理 する」というタイトルの報告書を刊行した。その結論は、国際社会は、 費用効率の高い政策や現在および将来の技術を活用することによって、 今後数十年間に温室効果ガスの排出を大幅に遅らせ、次いで削減するこ とできる、言うものであった。その政策勧告には、車両効率基準、燃料 税、効率車や代替燃料車の購入の支援などがあげられた。 報告は、建築基準法、設備や電化製品の基準、エネルギー効率投資の ための奨励金の提供や融資などを通して商業ビルや住宅の設計や効率を 改善するよう政策決定者に要請している。また、国連や関連の多国間機 関を通して、必要としている国に融資し、またエネルギー効率と新しい エネルギー技術を展開するよう国際社会に求めている。 2007年4月、気候変動の問題に取り組む国際的な協調行動が緊急に必 要なことを強調したこれまでにない動きの中で、国連安全保障理事会は、 エネルギー、安全保障、気候に関する公開討論を行った。その討論の場 で、藩基文事務総長は、「最新の科学的発見に沿って、また、経済社会 開発と両立できる、長期のグローバルな対応」を求めた。 2007年5月1日、事務総長は気候変動の問題を「われわれの時代の最 重要課題」だとのべて、それを優先事項の一つとし、3人の世界的著名 人を事務総長の気候変動特使に任命した。元ノルウェー首相および元世 界環境開発委員会議長のグロ・ハーレム・ブルントランド、元チリ大統 領で持続可能な開発のための事業を進める「民主主義と開発財団」の創 始者のリカルド・ラゴス・エスコバ、そして元総会議長で現在の韓国水 フォーラムの長であるハン・スイウン・ソオの3人である。 3人の特使は、世界の主要な政治家、とくに国家の指導者とこの問題 について話し合ってきた。彼らはまた、2007年9月24日の気候変動に関 する事務総長のハイレベルのイベントに先駆けて各種の提案を作成した。 ハイレベルの会合では、事務総長は、150カ国以上の国々の元首、その 他の政府高官とこの問題について話し合った。国連主催の「気候変動に
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気候変動に関する統合報告書 2007年11月17日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「統合 報告書(Synthesis Report)」を公表した。これは、2007年に発表された 3冊の報告書に載せられた豊かな情報を統合し、編集したものである。 その中に以下のような観測があった。 ・気候システムの温暖化は疑問の余地がない。大気や海洋の温度が上昇、 広範にわたる雪氷の融解、グローバルな平均海面水位の上昇が観測さ れていることから明白である。温度の上昇は地球全体に広がっており、 緯度の高い地域ほど高い。 ・産業革命以降、人間活動による世界の温室効果ガスの排出量は増加し 続けており、1970年から2004年までの間に70パーセントの増加があっ た。現在の気候変動の緩和政策および関係する持続可能な開発に関す る実践においても、世界の温室効果ガスの排出量は、今後数十年にわ たって増加し続けるとの、多くの意見の一致と多くの証拠がある。 ・温室効果ガスを現在の、もしくはそれ以上の速度で排出し続けるなら、 一層の温暖化の原因となり、21世紀中に世界の気候システムに多くの 変化を引き起こすであろう。人為起源の温暖化は、突然のあるいは非 可逆的な影響を引き起こす可能性がある。 ・気候変動が特異で脆弱なシステム(たとえば、極地や山岳社会、生態 系など)に与える影響については、新たな、より強力な証拠がある。 温度の上昇につれて、悪影響のレベルが増加する。 ・干ばつ、熱波、洪水は、それらがもたらす悪影響と同様に、増加する という予測にはより高い確信度がある。 ・開発途上国ばかりではなく、開発先進国においても、貧しい人々や高 齢者のような特定のグループの脆弱性がさらに大きくなるとの証拠が 増している。さらに、低緯度で開発の進んでいない地域は一般により 大きなリスクに直面する。たとえば乾燥地や巨大なデルタ地域であ る。…温暖化による海面上昇は避けられない。 ・緩和行動を促すインセンティブを作り出すために、多種多様な政策及 び手法が各国政府にとって利用可能である。…気候変動枠組み条約お よび京都議定書の注目すべき功績は、世界的な気候問題への対応の確 立、一連の国内政策の推進、国際的な炭素市場の創設、さらに将来の 緩和努力の基礎となる可能性がある新しい組織メカニズムを構築した
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ことである。このことについて多くの意見の一致と多くの証拠もある。 (完全な報告については、www.unfccc.int を参照)
関する枠組み条約締約国会議」は、2007年12月3日から14日までインド ネシアのバリで開催された。 2007年9月、 「気候変動に関する国連枠組み条約」事務局と UNEP は、 京都議定書の「クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM) 」を支援するウェッブサイトを発足させた。CDM の下に、開発
途上国の温室効果ガスの排出量を削減し、持続可能な開発に貢献するプ ロジェクトは、認証排出量削減クレジット(CERs)を受け取る。先進工 業国は、「議定書」による排出量削減コミットメントの一部をカバーす るために排出量削減クレジットを購入できる(www.cdmbazaar.net を参照)。 オゾン層の破壊 オゾン層は地表10キロメートル以上の成層圏にある 薄いガスの層で、太陽の有害紫外線から地球の表面を保護する。1970年 半ば、冷蔵庫、エアコン、工業用洗浄に使用されるクロロフルオロカー ボン(CHCs) など、ある種の人工化学物質が大気のオゾンを破壊し、 オゾン層を枯渇させていることが分かった。このことは国際的な懸念事 となった。紫外線に長時間さらすことは皮膚ガンや白内障、人間の免疫 システムの抑制の原因となり、また植物や藻、食糧連鎖、地球規模の生 態系に予測できないような損害を与えると知られているからであった。 この課題に応えて、UNEP は、歴史的意義のある「オゾン層の保護に 関するウィーン条約(Vienna Convention for the Protection of the Ozone Layer, 1985年) 」とモントリオール議定書(Montrial Protocol, 1987年)」とその
「改正(Amendments)」についての交渉を助け、現在はその運営にあたっ ている。これらの協定のもとに、開発先進国は、オゾン層を破壊する化 学物質であるクロロフルオロカーボンの生産と販売を禁止した。開発途 上国は2010年までにその生産を停止しなければならない。その他のオゾ ン層破壊物質を段階的に削減して行くスケジュールも立てられている。 「モントリオール議定書はうまく機能している。 」これは、国連環境計 画(UNEP) のオゾン事務局が2006年に発表したオゾン層の破壊に関す
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供給源別一次エネルギー総供給、 2002 年
ガス 20.9% 石油 35.8% 原子力 6.8%
石炭 23.0%
可燃、再生、 廃棄物 10.8%
水力 2.2%
地熱/太陽/風力 0.5% 出典:国際エネルギー機関、2005 年 ユネスコ第 2 回世界水報告、2006 年
る科学的な評価である。下層大気や成層圏におけるオゾン層破壊物質が 減少しているとの明らかな証拠があり、また期待される大気中の「オゾ ン層回復」の初期兆候も見られる。「モントリオール議定書」順守を続 けなければ、オゾン層の回復が遅れるばかりか、妨げられてしまう可能 性がある、と評価は留意している。しかし、もし締約国が2006年後直ち にオゾン層破壊物質の排出を中止するならば、プロセスは15年早まり、 2035年までにはオゾン層が1980年前のレベルにまで回復するであろう (www.ozon.unep.org を参照) 。
こうした重要な環境問題に取り組む国連の活動をさらに知りたい場合 は、国連のホームページ、「Gateway to the UN System s Work on Climate Change 」(www.un.org/climatechange)を参照。
小さな島々 世界におよそ50の小島嶼開発途上国や地域がある。多くの共通した不 利な問題や脆弱性を抱えている。その生態学的な脆弱性、限られた天然
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資源、市場からの孤立は、グローバル化がもたらす恩恵を受ける能力を 限定し、かつこれらの国や地域の経済社会開発の大きな障害となってい る。持続可能な開発はこれらの島嶼国や国際社会全体にとってユニーク な挑戦となっている。1992年の地球サミット以来、これらの国や島は 「環境と開発にとって特殊なケース」とみなされてきた。 「小島嶼開発途上国の持続可能な開発に関するグローバル会議(Global conference on the Sustainable Development of Small Island Developing States) 、バ
ルバドス、1994年」で、これらの国のために持続可能な開発を進めるた めにあらゆるレベルで採るべき政策や行動、措置を定めた「行動計画」 が採択された。2005年1月、バルバドス行動計画の10年目の再検討を行 う国際会議がモーリシャスで開かれ、国際社会は、将来の実施のための 幅広い勧告を承認した。 モーリシャス戦略は、気候の変化と海面水位の上昇、自然災害と環境 災害、廃棄物の管理、沿岸・海洋・淡水・土地・エネルギー・観光・生 物多様性の資源、運輸と通信、科学と技術、グローバル化と貿易の自由、 持続可能な生産と消費、能力育成、持続可能な開発のための教育、保健、 文化、知識管理、政策決定のための情報などの問題を取り上げている。
持続可能な森林管理 林産物の国際貿易高は年間2,700億ドルに達するが、16億人の人々が 生活を森林に頼っている。先住民の知識の基盤として、森林は大きな社 会文化の恩恵をもたらす。そして生態系として、森林は気候の変動の影 響を緩和し、生物の多様性を保護する。それにもかかわらず毎年およそ 1,300万ヘクタールの森林が失われ、森林破壊が続いている。これは地 球温暖化に貢献する世界の温室効果ガス排出量の20パーセントに相当す る。世界の森林とその土壌は1兆トン以上の炭素を蓄えている。大気中 の炭素の2倍である。 毎日、世界で、およそ350平方キロメートルの森林が失われている。 持続不能な形の木材のための伐採、森林の農地への転換、不健全な土地
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管理、そして人間の居住地の建設などがおもな理由である。森林地帯の 損失のもっとも一般的な理由である。国連は、1992年の地球サミット以 来、持続可能な森林管理の活動の最前線に立ってきた。地球サミットで は森林原則について非拘束性の声明を採択した。 1995年から2000年にかけて、 「森林に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Forests)」と「森林に関する政府間フォーラム(Intergovernmental Forum on Forests) 」が国連の持続可能な開発委員会のもとに設置さ
れ、森林政策の開発のための主要な政府間フォーラムとなった。2002年 10月、経済社会理事会は国連森林フォーラム(United Nations Forum on Forests)を設置した。ハイレベルの政府間機関で、持続可能な森林管理
のための長期的政治コミットメントを強化するすることを目的としてい る。 2007年4月、15年間に及ぶ交渉の末、フォーラムは国際森林政策と協 力に関して画期的な協定を採択した。拘束力のない文書であるが、森林 管理のための基準を設定している。この文書が森林破壊防止に大きな影 響を持ち、森林の劣化を防止し、持続可能な生計を維持し、すべての森 林依存の人々の貧困を削減することになるものと期待されている。また、 同文書は、2009年までに、森林管理のために任意の世界融資メカニズム の採択を各国に呼びかけている。 経済社会理事会の招請の下に、関係する国際機関の長は14人のメン バーの「森林に関する協力パートナーシップ(Collaborative Partnership on Forests)」を形成した。これは、 「森林に関する国連フォーラム」の目標
を支援して、協力と調整を強化し、世界の持続可能な森林管理を実施で きるようにすることを目的とする。これらの目標を達成する努力を強化 するために、総会は、2006年12月、2011年を「国際森林年(International Year of Forests) 」に指定した。
砂漠化防止 砂漠は厳しい乾燥環境で、人はほとんど住んでいない。乾燥地は地上
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の陸地の41パーセントを占め、少ない降水量と高い蒸発力が特徴である。 そこは20億人もの人々の故郷である。その中には世界の貧しい人々の半 数が含まれている。これらの人々のうちの18億人が開発途上国に住み、 人間の福祉や開発の指数では世界の残りの人々よりもはるかに遅れてい る。 砂漠化とは「乾燥、半乾燥、乾燥半湿潤地域における、気候変動およ び人間の活動も含む種々の要因に起因する土地の劣化」として定義され る。乾燥地における土地の劣化とは、乾燥地の生物学的もしくは経済的 生産性の低下もしくは損失として定義される。そのおもな原因は過剰耕 作、家畜の過剰放牧、森林の破壊と貧弱な灌がい施設、人間の活動であ る。UNEP の推定によると、それは地球上の表面の3分の1に影響を及 ぼし、10億人の人々が110カ国以上の国々に住んでいる。サハラ砂漠以 南のアフリカは、国土の66パーセントが砂漠もしくは乾燥地で、とくに リスクが高い。 砂漠化や干ばつの結果としては、食糧安全保障の欠如、飢餓、貧困が あげられる。それに起因する社会的、経済的、政治的緊張は、対立を生 み出し、一層の貧困化と土地の劣化を進める原因となる。世界の砂漠化 の拡大によって、何百万という人々が新たに住宅と生計とを求めなけれ ばならなくなる。 「深刻な干ばつまたは砂漠化に直面している国(とくにアフリカの国) における砂漠化防止のための国際連合条約(United Nations Convention to Combat Desertification in those Countries Experiencing Serious Drought and/or Desertification, Particularly in Africa) 」は、この問題を解決しようとする条約
である。土地の回復、土地の生産性の改善、土地と水資源の保存と管理 に焦点を当てている。条約は、現地の人々が自分たちで土地の劣化を転 換できるようにする環境作りに重点をおいている。また、被災国が国家 行動計画を作成する際の基準を載せるとともに、行動計画の作成と実施 にあたっては NGO にかつてなかった大きな役割を与えている。条約は 1996年に発効し、192カ国が締約国となっている。 国連の多くの機関が砂漠化防止の活動を支援している。UNDP はナイ
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ロビにある「砂漠地域開発センター」を通して砂漠化防止の活動に資金 援助を行っている(www.undp.org/drylands を参照)。IFAD は、砂漠地域の 開発を支援して、この27年間に35億ドル以上の融資を行った。世界銀行 は傷つきやすい乾燥地を保護し、持続可能なベースで農業の生産性を増 大させる目的のプログラムを策定し、資金援助を行っている。FAO は、 持続可能な農業開発を進めることができるように具体的支援を政府に提 供している。そして、UNEP は地域の行動計画、データの評価、能力の 育成、問題についての周知などを支援している。 問題について一般の人々の意識を高めるため、総会は2006年を「砂漠 と砂漠化に関する国際年」と指定し、各国、国際機関、市民社会に積極 的参加を呼びかけた(www.iydd.org を参照)。
生物の多様性、汚染、過剰漁業 生物の多様性――植物や動物の種の多様性――は、人類の生存に不可 欠である。動植物の種の多様性を保護かつ保存することが「国連生物の 多 様 性 に 関 す る 条 約(United Nations Convention on Biological Diversity)、 1992年」の目的である。条約の締約国は190カ国である。条約は生物の 多様性を保存し、その持続可能な開発を確保し、遺伝資源の利用がもた らす恩恵を公正かつ公平に共有することを締約国に義務付けている。そ の「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(Cartagena Protocol on Biosafety) 」が、2003年に発効した。これは、遺伝子改変による有機物を
安全に利用させることを目的とした議定書である。143カ国が加入して いる(www.cbd.int を参照)。 絶滅の危機にさらされている種の保護は、1973年の「絶滅のおそれの ある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species) 」に規定されている。条約の運営は UNEP が
行っている。172の締約国は定期的に会合し、割当て制もしくは全面禁 止によって保護すべき動植物や象牙のような商品のリストを更新してい る。1979年の「移動性の野生動物種の保護に関するボン条約(Bonn Co-
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nention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals)」とそれに関
連する一連の協定は、陸生動物類、海洋動物類、鳥類の移動性動物種と その生息地を保護することを目的としている。条約には104カ国が加入 している(www.cms.int を参照)。 ユネスコの「人間と生物圏計画」は、自然科学と社会科学の領域内で、 生物学的多様性の持続可能な利用と保存および人間とその環境との関係 の改善のための基礎を発展させる。同計画は、生物圏保護区を持続可能 な開発のための生きた実験所として利用し、学際的な研究、実証、研修 を奨励している。 酸性雨 工業の製造過程で排出される二酸化硫黄が原因である。 「酸性雨」は1979年の「長距離越境大気汚染条約(Convention on LongRange Transboundary Air Pollution) 」のお陰で、ヨーロッパの多くの国や北
米で大巾に減った。条約には51カ国が加入しており、国連ヨーロッパ経 済委員会が運営に当たっている。その適用範囲は8件の議定書によって 拡大され、地上レベルのオゾン、残留性有機汚染物質、重金属、硫黄排 出量の一層の削減、揮発性有機化合物、窒素酸化物のような問題を取り 上げている(www.unece.org/env/lrtap を参照)。 有害廃棄物と化学物質 毎年国境を越える300万トンの有害廃棄物 を規制するために、加盟国は1989年に「有害廃棄物の国境を越える移動 およびその処分の規制に関するバーゼル条約(Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal) 」に
ついて交渉した。UNEP が運営するこの条約には、170カ国が加入して いる。1995年に強化され、安全な処分技術を持たないことの多い開発途 上国へ有害廃棄物を輸出することが禁じられた。1999年、 「バーゼル損 害賠償責任議定書(Basel Protocol on Liability and Compensation)」が採択さ れた。これは、有害廃棄物の違法な投棄もしくは事故による漏出に対し て誰が財政的な責任を有するかを扱ったものである(www.basel.int を参 照) 。
公海漁業 商業的に価値のある漁業資源の多くの種は乱獲のために 枯渇寸前の状態にある。また公海上で違法な、規制を受けない、未報告
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の漁業が多発している。こうしたことから、海洋の広い海域を回遊し、 または1カ国以上の排他的経済水域を回遊する魚種を保存し、持続可能 な規制を行うための措置が求められるようになった。1995年の「複数の 水域にまたがる魚類及び高度回遊性魚類資源に関する国連協定(United Nations Agreement on Straddling Fish Stocks and Highly Migratory Fish Stocks)」
は、2001年12月に発効した。長期的な保存と持続可能な利用を確保する ことを目的に、これらの魚類を保存、規制するためのレジームを規定し ている。締約国は欧州共同体を含めて、67カ国である(海洋法に関する ホームページ、www.un.org/Depts/los を参照) 。
海洋環境の保全 海洋は地球の表面積の3分の2を占めており、それを保護することが 国連の主要関心事項の一つとなってきた。UNEP は、とくに海洋環境の 保全をはかるために世界の注意を海洋や海域へ向けさせる多様な活動を 行ってきた。国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)は、 船舶に起因する海洋汚染を防止し、国際海運の安全を向上させる国連の 専門機関である。世界の海運業は劇的に拡大したにもかかわらず、船舶 からの油濁汚染は1980年代にはおよそ60パーセントも削減され、その後 も減少し続けた。これは、一部、廃棄物の処分管理の方法が改善された ことや、一部、各種条約による規制が厳しくなったことによる(世界海 洋油濁汚染情報ゲートウェー http://oils.gps.unep.org を参照)。
先駆者的な存在の「油による海水の油濁防止に関する国際条約(International Convention for the Prevention of Pollution of the Sea by Oil)」は1954年に
採択され、IMO が1959年にその責任を受け継いだ。1960年代後半、多 くの大型タンカーの事故が発生し、さらなる行動がとられることになっ た。それ以来、IMO は数多くの対策を講じ、海上での事故と石油の漏 出を防止し、その影響を最小限にくい止め、また陸上での活動から生じ た廃棄物の海洋投棄による汚染も含め、海洋汚染と闘ってきた。 主な条約に、 「油による汚染を伴う事故の場合における公海上の措置
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に関する国際条約(International Convention Relating to Intervention on the High Seas in Cases of Oil Pollution Casualties, 1969年)」 、 「廃棄物その他の物の投棄
による海洋汚染の防止に関する条約(Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matters: LC, 1972年) 」、 「油による汚
染に係わる準備、対応及び協力に関する国際条約(International Convention on Oil Pollution Preparedness, Response and Cooperation: OPRC, 1990年) 」が
ある。 IMO はまた、石油タンクの清掃やエンジン室の廃棄物の処理――ト ン数から見て事故よりも大きな脅威――のような日常の作業による環境 への脅威の問題とも取り組んでいる。こうした措置でもっとも重要なの が、1978年の議定書(MARPOL 73/78) によって改正された1995年の 「船舶による汚染の防止のための国際条約(International Convention for the Prevention of Pollution from Ships)」である。この条約は事故および作業に
よる油による汚染ばかりでなく、化学物質、包装された貨物、下水や食 物のごみによる汚染もその対象としている。そして、1997年に採択され た新たな付属文書は、船舶による大気汚染防止の問題を取り上げている。 1992年に条約の改正が採択され、二重船体構造もしくは衝突または座礁 の際に貨物を同等に保護する設計を取り入れることをすべての新規タン カーに義務付けた。規則は、一重船体構造のタンカーを2010年までに段 階的に廃止し、例外的にある種のタンカーは2015年までとした。 IMO の2つの条約――「油による汚染損害についての民事責任に関 する国際条約(International Convention on Civil Liabilities for Oil Pollution Damage: CLC) 」と「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関
する国際条約(International Convention on the Establishment of an International Fund for Oil Pollution Damage: FUND)」――は汚染の結果財政的な損害をこ
うむった人に補償する制度を確立している。2つの条約はそれぞれ1969 年と1971年に採択され、1992年に改正された。これによって油による汚 染の被災者が以前よりも簡単に、かつ迅速に補償を受け取れるように なった。
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気象、気候、水 気象の予測から気候変動の調査研究、熱帯性暴風雨の予報まで、世界 気象機関(World Meteorological Organization: IMO) は、気象、気候、水文 学的環境や大気環境に関する正確な情報を適時提供するグローバルな活 動を調整する。利用者は一般市民、政府、それに航空業や海運業、エネ ルギー生産のような産業部門である。WMO のプログラムと活動は生命 と財産の安全、持続可能な経済社会開発、環境の保全に貢献する(www. wmo.int を参照) 。
国連の枠組みの中にあって、WMO は地球の大気や気候に関して権威 ある科学的見解を提供する。WMO は、気象観測、水文観測、その他の 観測を行う観測網を確立し、運営するための国際協力を進める。気象情 報の迅速な交換、気象観測の標準化、観測結果や統計の統一発表を促進 する。また、航空、海運、農業、その他気象に左右される経済社会活動 に気象学を応用させる活動も推進し、実務的な水利資源の開発を促進す る。さらに研究や研修を奨励する。 WMO 活動の根幹をなすのが「世界気象計画(World Weather Watch)」で、 分単位で世界の気象に関して最新の情報を提供する。これは、加盟国が 16の人工衛星、3,000機の航空機、1万カ所の地上観測所、7,300の船舶 観測所、そして自動観測装置を持った100の停泊ブイおよび600の漂流ブ イをもって行う観測システムと電気通信網を通して行われる。得られた データ、分析、予報は毎日、自由かつ制限を受けることなく、WMO セ ンターと各国の気象台との間で交換される。その結果、20年前には信頼 できる予報は2日間であったが、今日では5日間の信頼できる予報も可 能である。 気象の標準化、規則、観測法、通信に関する複雑な協定が国際的に確 立されたのは、WMO を通してであった。「熱帯低気圧計画(Tropical Cyclone Programme) 」は、熱帯サイクロンの影響を受ける50カ国以上の国々
が予報と警報システム、災害準備態勢を改善することによって、破壊と
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生命の損失を最小限に食い止めることができるように援助する。WMO の「自然災害防止と軽減計画(Natural Disaster Prevention and Mitigation Programme)」は、WMO の各種の活動がこの領域に統合されるようにし、
民間防衛機関も含め、国際、地域、国の機関の関連活動の調整をはかる。 とくに、リスク評価、早期警報システム、能力育成に関した活動である。 また、災害時の救援活動に必要な科学技術支援も提供する。 「世界気候計画(World Climate Programme)」は気候に関するデータを収 集して保存し、加盟国政府が変動する気候に対応できるように援助する。 そうした情報は、気候変動を取り入れて経済社会プランニングを策定し、 また気候変動に関する理解を改善することに役立つ。また、急迫する気 候の変化(たとえば、エルニーニョやラニーナのような現象)や数ヵ月後 の影響について、また人間の活動に影響をおよぼす自然、人為を問わず、 変化を探知し、政府に警告する。気候の変動に関する入手可能なすべて の情報を評価できるようにする目的で、WMO と UNEP は1988年に「気 候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC) 」を設置した。
「大気研究・環境計画(Atmospheric Research and Environment Programme)」 は大気の構造と成分、雲の物理と化学、気象修正、熱帯気象学、天気予 報に関する研究活動を調整する。また、加盟国が研究プロジェクトを実 施し、科学情報を普及させ、研究成果を予報やその他の技術に応用する のを助ける。とくに、 「地球大気観測(Global Atmospheric Watch)」のもと に、グローバルおよび地域の観測所や人工衛星のネットワークをつくり、 大気中の温室効果ガスの水準、オゾン層、放射性同位元素、その他の大 気中のガスや粒子を評価している。 「気象応用計画(Applications of Meteorology Programme)」は、国が気象 学を応用して生命と財産を守り、社会経済開発を進めるのを援助する。 また、公共の気象サービスの改善、海および空の旅の安全強化、砂漠化 の影響緩和、農業と水、エネルギー、その他の資源の管理の改善にも力 を貸している。たとえば、農業の場合、気象に関する即座の助言によっ て、干ばつや害虫、病気による損失をかなり減らすことができる。
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「水文・水資源計画(Hydrology and Water Resources Programme)」は、地 球上の水資源を評価、管理、保存するのを助ける。また、水資源を評価 し、水文に関するネットワークとサービスを発展させるための国際協力 を促進する。これには、データの収集と処理、水文予報と警報、計画立 案のための気象データと水文データの供給などが含まれる。たとえば、 この計画の実施によって、いくつかの国が共有する河川流域内での協力 が可能となり、また洪水になりがちな地帯では特別の予報を受けること によって人命や財産を守ることができる。 WMO の「宇宙計画(Space Programme)」は、「世界気象観測」計画の 「グローバル観測システム」やその他の WMO 支援のプログラムや関連 観測システムの発展に貢献させる目的で設置された。そのため、改善さ れたデータや成果、サービスを継続的に提供し、それが世界中で有意義 に 利 用 さ れ る よ う に す る。 「 教 育 訓 練 計 画(Education and Training Programme) 」は、コース、セミナー、会議、カリキュラムの開発、新しい
技術や教材の導入によって科学知識の普及を奨励する。また、研修セン ターを支援する。上級研修コースには毎年世界中から何百人もの専門家 が参加する。 「技術協力計画(Technical Cooperation Programme)」は、開発途上国が技 術に関する専門知識と必要な設備を得て、自国の気象、水文業務を改善 できるように援助する。また、技術をはじめ、気象・水文知識や情報の 移転もはかる。 「地域計画(Regional Programme)」は地域的性格の事業や 活動の実施を支援する。支援は世界中に設けられている WMO の4カ 所の地域事務所や6カ所の小地域事務所を通して行われる。
天然資源とエネルギー 国連は長年にわたって天然資源の管理について加盟国政府を援助して きた。1952年にはすでに、開発途上国は「自国の天然資源の使用を自由 に決定する権利」を有し、自国の国家利益と合致する経済開発計画を実 現するためにこれらの資源が使われなければならない、と国連総会は宣
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言した。 経済社会理事会の機関で、政府指名の24人の専門家で構成される開発 のためのエネルギー・天然資源委員会(Committee on Energy and Natural Resources for Development)は、持続可能な開発委員会(Commission on Sustainable Development)との協力で、経済社会理事会および政府のために政
策と戦略に関するガイドラインを作成する。そのエネルギー小グループ (Sub-group on Energy)はエネルギー開発の傾向や問題を取り上げ、国連
システムによるエネルギー活動の調整をはかる。他方、水資源小グルー プ(Sub-group on Water Resources)は、土地と水資源の管理に関する問題 を審議する。 水資源 10億の人々が十分な給水を受けられないと推定される。1 キロの範囲内に毎日一人当たり20リットルの水を供給する水源がない。 そうした水源には水道、公共の配水塔、ボアホール(掘削孔)、保護さ れた堀井戸、保護された泉、雨水貯留タンクなどが含まれる。 人間の生活や商業、農業のニーズを満たすために世界の水資源に対す る需要は急増している。国連は長年にわたって水資源の危機の問題に取 り組んできた。1997年の「国連水会議(United Nations Water Conference)」、 1981−1990年の「国際飲料水の供給と衛生の10年(International Drinking Water Supply and Sanitation Decade)」 、1992年の「水と環境に関する国際会
議(International Conference on Water and the Environment)」 、1992年の「地球 サミット(Earth Summit)」 、こうしたことはすべてこの重要不可欠な資 源に焦点を合わせたものであった。とくに、この「10年」によって、開 発途上国の13億人の人々が安全な飲料水を入手できるようになった。 不適切な給水の原因は、水の非効率的な利用、汚染による水質の劣化、 地下水の過剰利用などである。それを是正するには、とくに需要と供給、 量と質に特別の注意を払いながら、少ない淡水資源のよりよい管理が不 可欠である。国連システムの活動は、もろく、限られた淡水資源の持続 可能な開発に焦点を当てている。この資源は、人口増加、汚染、農業用、 工業用の需要によってますます早急な対応が迫られている(www.unep. org/themes/freshwater を参照)。
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人間の健康、発達、福祉の多くの面にとって水は欠かせない。こうし たことから、すべての人のために、ミレニアム開発目標が水に関連した 特定の目標を掲げることになった。これらの目標は、極度の貧困と飢餓 の撲滅、初等教育の完全普及の達成、ジェンダーの平等の推進と女性の エンパワーメント、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エ イズ、マラリア、その他の病気の蔓延防止、環境の持続可能性の確保、 開発のためのグローバルなパートナーシップの推進に関連している。 淡水資源の合理的開発の重要性についての国民意識を高めるために、 総 会 は2003年 を「 国 連 国 際 淡 水 年(Unaited Nations International Year of Freshwater)に指定した。同じく2003年、国連システム全体の調整機関で
あ る 国 連 シ ス テ ム 事 務 局 長 調 整 委 員 会(CEB) は、 「 国 連 − 水(UNWater) 」を設置した。これは、 「ミレニアム宣言」と2002年の「持続可
能な開発に関する世界首脳会議」の水に関連した目標を達成するために 国連システムが行う活動を調整する機関である(www.unwater.org および www.un.org/issues/m-water.html を参照)。
ミレニアム開発目標の水に関連した目標を達成するグローバルな活動 をさらに強化する目的で、総会は、「国際アフリカの10年、命の水、 2005−2015年(International Decade for Africa,“Water for Life,”2005−2015)」 を指定した。この「10年」は2005年3月22日に始まった。この日は現在 「世界水の日(World Water Day)」として記念されている。2006年、ユネ スコと「UN-Water」 、その国内パートナーは、3年ごとに発行される国 連の報告書、 「世界水開発報告」を発表した。これは、世界の淡水資源 に影響を与えるデータや動向を分析したものである(www.un.org/waterforlifedecade および www.unesco.org/water/wwap/partners/index.shtml を参照)。
その報告によると、現在行われているグローバルな活動は、「安全な 飲料水を継続的に利用できない人々の割合を2015年までに半減する」と いうミレニアム開発目標の達成を目指している。 衛生施設 「世界水開発報告2006年」は、26臆の人々が基本的な衛 生施設を利用できないと推定している。これらの人々は公共下水道もし くは汚水処理タンク、簡易水洗便所、単純なおとし便所、または換気扇
経済社会開発 345
の着いた改善されたおとし便所などを利用できない。 この問題に取り組むために、持続可能は開発に関する世界首脳会議で 採択された「ヨハネスブルグ実施計画(Johannesburg Plan of Implementation)」は、以下のような目標を掲げた。学校を含め、公共施設での衛生
施設を改善すること、安全は衛生習慣を普及させること、入手可能で、 社会的、文化的に受け入れ可能な技術と習慣を促進すること、衛生施設 を水資源管理戦略に統合すること、革新的なパートナーシップおよび資 金供与のメカニズムを開発すること、そして既存の情報ネットワークを 強化すること、である。 飲料水に関する国際社会の目標の達成にはかなりの進歩が見られたも のの、衛生施設に関しては目標に達しなかった。 「世界水開発報告2006 年」によると、「基本的な衛生施設を利用できない人々の割合を2015年 までに半減する」とのヨハネスブルグ目標を達成するには、かなりのイ ンプットと努力が必要である。この問題に対する国民の意識を高め、効 果的な政策を実施するよう政府を奨励することも必要である。また、衛 生施設・健康・教育キャンペーンを通して公衆衛生や衛生習慣を改善し、 変化させるよう地域社会を動員することも重要である。このため、総会 は2008年を「国際衛生年(International Year of Sanitation)」に指定した。 エネルギー およそ16億の人々が電力を利用できない。24億の人々 が料理や暖房のための現代の燃料を利用できない。それでも、適切な供 給量のエネルギーは、経済成長と貧困の撲滅にとって不可欠である。そ の一方で、従来のエネルギー・システムが環境や健康に与える影響は深 刻な懸念事となっている。さらに、一人当たりのエネルギー需要が増加 しており、これが世界人口の増加とあいまって、現在のエネルギー・シ ステムでは持続できないほどの消費レベルに達している。 エネルギーに関する国連システムの活動は、さまざまな方法、すなわ ち教育や研修、能力育成を通して、また政策改革を援助することによっ て、またエネルギー・サービスを提供することによって開発途上国を支 援している。しかし、汚染がかなり少ない再生可能なエネルギー源へ向 かう努力が行われているものの、需要の増加が実際の供給能力を上回っ
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てしまう。エネルギーの効率を改善し、また、持続可能な開発への過程 で、よりクリーンな化石燃料技術へ向かうためには、なお一層の努力が 必要である。 国連システムは、とくにミレニアム開発目標の達成を支援する目的で、 この課題に取り組んできた。2004年、国連システム事務局長調整委員会 は「国連−エネルギー(UN-Energy)」を設置した。これはエネルギーの 分野における機関間の主要な機関である。その任務は、持続可能は開発 に関する国際首脳会議に対する国連システムの対応の一貫性を確保し、 また、首脳会議のエネルギーに関連した決定を実施するために、民間セ クターや非政府組織の主要は主体をその活動に効果的に従事させること である(http://esa.un.org/un-energy および www.un.org/esa/progareas/sustdev.html を参照)。
技術協力 国連は水資源、鉱物資源、エネルギーの分野で積極的な 技術協力活動を進めている。また、小島嶼開発途上国に関連した技術協 力も積極的に進めている。水資源や鉱物資源に関しては、環境の保全、 投資の促進、立法措置、持続可能な開発の必要を強調した技術協力や諮 問サービスを行っている。エネルギーについては、エネルギーへのアク セス、エネルギー部門の改革、エネルギーの効率、再生エネルギー、農 村地帯のエネルギー、きれいな石油燃料技術、輸送のためのエネルギー などが取り上げられている。 過去20年間に国連およびその家族機関が実施した水利資源や鉱物資源、 エネルギーに関係した技術協力と投資前プロジェクトは数百件に上り、 予算総額は数億ドルにも達している。受入国も職員、施設、現地での必 要経費の負担などの形で、これに相当する額の資金を提供した。その結 果、毎年数百件の現地プロジェクトが開発途上国の天然資源の持続可能 な開発を助けている。これは、国の能力を強化し、より一層の投資を刺 激するプロジェクトを通して行われる。
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原子力の安全 今日、439基の原子炉が世界の電力のほぼ16パーセントを生産する。 9カ国では、エネルギー生産の40パーセント強が原子力によるものであ る。国連ファミリーの中の一機関である国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)が原子力の安全かつ平和目的の利用を促進
している。また、原子力技術を利用して持続可能な開発をはかる国際的 な活動でも重要な役割を果たしている。現在、地球の温暖化の原因とな る二酸化炭素の排出を削減する目的で、エネルギーの選択肢に関する討 論が行われている。IAEA は、温室効果ガスやその他の有害なガスを排 出することのないエネルギー源として、原子力の利点を強調してきた。 IAEA は、原子力の分野で科学技術協力を進める世界の中心的な政府 間フォーラムである。また、情報を交換し、原子力の安全に関するガイ ドラインと規範を作成するためのフォーカル・ポイントとなっている。 同時に、政府の要請を受けて、原子炉の安全性を高め、事故のリスクを 回避させる方法について政府に助言を与える。 原子力を利用した事業が増大し、一般市民の目も原子力の安全面に向 けられるようになった。そのため、原子力の安全の領域における IAEA の責任も大きくなった。IAEA は放射線の有害な影響から健康を守るた めの基準を設定し、また放射線放出物資の安全な輸送など、特定のタイ プの運営に関する規則や慣行規範を発表する。また、「原子力事故また は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約(Convention on Assistance in the Case of a Nuclear Accident or Radiological Emergency)、1986年」
や「原子力事故の早期通報に関する条約(Convention on Early Notification of a Nuiclear Accident)、1986年」のもとに、放射線事故が発生した場合は、
加盟国に緊急援助を行う。IAEA が受託機関となっているその他の条約 には、 「核物質の防護に関する条約(Convention on Physical Protection of Nuclear Material) 、1987年」 、 「原子力損害に対する民事責任に関するウィー
ン条約(Vienna Convention on Civil Liability for Nuclear Damage)、1963年」 、
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「原子力の安全に関する条約(Convention on Nuclear Safety)、1994年」 、そ れにグローバルな規模で安全の問題を初めて取り上げた「使用済み燃料 管理の安全と放射性廃棄物管理の安全に関する共同条約(Joint Convention on the Safety of Spent Fuel Management and on the Safety of Radioactive Waste Management)、1997年」がある(www.iaea.org/Publications/Documents/Conventions/index.html を参照)。
IAEA の技術協力プログラムは国内プロジェクト、専門家の派遣、原 子力技術の平和利用に関する研修の形をとって行われる。こうしたこと によって、水、保健、栄養、医薬品、食糧生産の重要な領域で必要な援 助を受けることができる。たとえば、突然変異を利用して生産能力を高 めることができる。放射線技術の利用によって2,000件以上の新しい作 物品種が開発され、食糧生産が改善された。もう一つの例は同位体水文 学の利用で、それによって地下帯水層の地図を作成し、陸水や地下水を 管理することができる。また、汚染を探知して規制し、ダムの漏水や安 全を監視することもできる。これは安全な飲料水の利用を改善すること につながる。さらにもう一つの例として医学的な治療を挙げることがで きる。これに関しては、IAEA は放射線療法設備を提供し、また、開発 途上国や移行経済国でがん患者の安全な治療を行えるように医療スタッ フの訓練を行っている。 IAEA はウィーンにある「国際原子力情報システム(International Nuclear Information System: INIS)」を通して原子力に関係する科学技術のほ
とんどすべての側面に関する情報を収集し、普及させている。ユネスコ との協力で、IAEA はイタリアのトリエステにある国際理論物理学セン タ ー(International Centre for Theoretical Physics)(www.ictp.trieste.it を 参 照 ) を運営するほか、いくつかの研究所も運営している。IAEA は、国連食 糧農業機関(FAO)とは食糧と農業の分野における原子力の利用に関す る研究を行い、世界保健機関(WHO) とは医療および生物学における 放射線の利用について研究している。モナコにある IAEA の海洋環境研 究所(Marine Environment Laboratory) は、国連環境計画(UNEP) やユネ スコと共に世界的規模の海洋汚染に関する研究を行っている(www.
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naweb.iea.org/naml を参照) 。
「放射線の影響に関する国連科学委員会(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)」は、1955年に設置され
た別の機関で、電離放射線の水準やその影響に関する評価を行い、報告 する。世界の国々の政府や機関は、放射線の危険を評価する際の科学的 基礎として委員会の報告を取り入れている。また、放射線の防護や安全 基準を設定し、放射線を規制する際にも委員会の報告が取り入れられる。
第Ⅱ部 第4章
人 権 Human Rights
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国連の偉大な業績の一つは、人権法の包括的な機構を創設したことで ある。普遍的かつ国際的に保護されるべき人権の法典で、すべての国が 同意し、すべての人が願望することのできる権利の法典である。国連は 経済的、社会的、文化的権利をはじめ、政治的、市民的権利など、国際 的に受け入れられる幅広い権利の定義を行ってきた。同時に、これらの 権利を促進し、擁護するとともに、政府がその責任を果たせるように援 助する機構を作り上げた。 この法体系の基礎をなすのが、総会が1945年と1948年にそれぞれ採択 した国連憲章と世界人権宣言である。それ以来、国連は漸次人権法の拡 大をはかり、今では女性、子ども、障害者、少数者、移住労働者、その 他の脆弱な立場にある人々のための特定の基準を網羅するまでになった。 こうした人々は、それまでの長い間多くの社会で一般的であった差別的 措置から自分自身を守る権利を持つようになった。 権利は、新生面を開くような総会の決定によって拡大されてきた。こ うした決定を通して、権利が持つ普遍性、不可分性、開発と民主主義の 相互関連性が漸次確立されてきた。教育キャンペーンを通して、世界の 人々は自分自身の持つ固有の権利を知るようになった。その一方で、国 連の研修計画や技術指導のもとに、多くの国の司法制度や刑法制度が向 上した。人権規約の順守を監視する国連機構は、加盟国の間で驚くほど の一体性と重要性を持つまでになった。 国連は、世界のすべての人が持つすべての権利を擁護、促進するため にさまざまな活動を進めてきた。国連人権高等弁務官はそうした国連の 活動を強化し、調整する。事務総長は、人権を中心テーマとして平和と 安全、開発、人道援助、経済社会問題の主要な領域における国連の活動
人 権 353
を進めることにした。ほとんどすべての国連機関と専門機関は程度の差 こそあれ人権擁護の活動に関係している(国連と人権については、www. un.org/rights を参照) 。
人権文書 国連が創設された1945年のサンフランシスコ会議で、女性、労働組合、 民族組織、宗教団体を代表するおよそ40の非政府組織(NGOs) が、お もに小国の代表団と力を合わせ、他の国が提案した言葉よりもさらに明 確な言葉で人権を定義づけるよう強く求めた。この断固としたロビー活 動が、国連憲章(United Nations Charter)に人権に関するいくつかの規定 を含めさせる結果となった。これによって、1945年以降の時代における 国際的な立法の基礎が築かれることになった。 憲章の前文は「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国 の同権とに関する信念」をはっきりと再確認している。憲章第1条は、 国連の主要任務の一つとして「人種、性、言語又は宗教による差別なく、 すべての者のために人権及び基本的自由を尊重する」ように助長奨励す ることを定めている。別の規定は、国連との協力で、人権の普遍的尊重 を達成する行動を取ることを各国に義務付けている。
国際人権章典 国連が創設されて3年後、総会は現代人権法の柱石となった世界人権 宣言(Universal Declaration of Human Rights)を「すべての人民にとって達 成すべき共通の基準」として採択した。世界人権宣言は1948年の12月10 日に採択された。それ以来この日は人権デー(Human Rights Day)として 世界中で記念されている。人権宣言の30条は、すべての国のすべての人 が享受すべき基本的な市民的、文化的、経済的、政治的および社会的権 利を規定している(囲みコラムを参照)。
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普遍的権利の定義 世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)は、何十年にも わたって作り出されてきた広範な人権法の集大成である。 人権宣言の第1条と2条は「すべての人間は、生まれながらにして尊 厳と権利とについて平等である」と述べ、「人種、皮膚の色、性、言語、 宗教、政治その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その 他の地位によるいかなる差別を受けることなく」世界人権宣言に掲げる すべての権利と自由とを享受できると規定している。 第3条から21条まではすべての人間が享有すべき市民的、政治的権利 を規定している。 ・生存、自由、身体の安全に対する権利 ・奴隷および苦役からの自由 ・拷問又は残虐な、非人道的もしくは屈辱的な取り扱いもしくは刑罰か らの自由 ・法のもとに人間として認められる権利、司法的な救済を受ける権利、 恣意的逮捕、拘禁または追放からの自由、独立の公平な裁判所による 公正な裁判と公開の審理を受ける権利、有罪の立証があるまでは無罪 と推定される権利 ・自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、恣意的に干渉されな い権利、名誉または信用に対して攻撃を受けない権利、そうした攻撃 に対する法の保護を受ける権利 ・移動の自由、避難する権利、国籍を持つ権利 ・婚姻し、家族を形成する権利、財産を所有する権利 ・思想、良心および宗教の自由、意見と表現の権利 ・平和的集会と結社の自由に対する権利 ・政治に参加し、等しく公務につく権利 第22条から27条までは、すべての人間が享有する経済的、社会的、文 化的権利を定めている。 ・社会保障を受ける権利 ・働く権利、同等の勤労に対し同等の報酬を受ける権利、労働組合を組 織し、これに参加する権利 ・休息および余暇を持つ権利 ・健康と福祉に十分な生活水準を保持する権利
人 権 355
・教育を受ける権利 ・社会の文化生活に参加する権利 最後の第28条から30条までは、すべての者はこの宣言に規定する権利 および自由が完全に実現される社会的および国際的秩序についての権利 を有し、これらの権利が制限されるのは、他の者の権利および自由の正 当な承認および尊重を確保することならびに民主的社会における道徳、 公の秩序および一般的福祉の正当な要求を満たすことを専ら目的として 法律によって定められている場合のみであり、またすべての者は自分の 住む社会に対して義務を負う、と規定している。
世界人権宣言の規定は広く受け入れられ、また国家の行為を図る尺度 としても利用されている。このことから、世界人権宣言は多くの学者に よって一般に国際慣習法の重みを持つものだと考えられている。多くの 新しく独立した国は、基本法もしくは憲法の中で世界人権宣言を引用し、 またはその規定を組み込んでいる。 国連主催のもとに交渉された人権協定でもっとも幅広い拘束力を持つ のが2つの国際人権規約、すなわち「経済的、社会的、文化的権利に関 する国際規約」と「市民的、政治的権利に関する国際規約」である。 1966年に総会が採択したこれら2つの規約は、世界人権宣言の規定を一 歩前進させて法的に拘束力のあるコミットメントに変えると同時に、委 員会が締約国の順守を監視することを決めている。 世界人権宣言は、2つの国際人権規約、 「市民的、政治的権利に関す る国際規約への選択議定書」とともに、国際人権章典(International Bill of Human Rights)を構成する。
経済的、社会的、文化的権利 経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)は1976年に発効し、156カ国が加入
している。この規約が促進、擁護する人権には以下の権利が含まれる。 ・公正かつ好ましい条件のもとで働く権利。
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・社会保障、適切な生活水準、到達可能な最高水準の身体、精神の健 康を享受する権利。 ・教育を受ける権利、文化的自由と科学進歩の恩恵を享受する権利。 国際規約は、これらの権利はいかなる差別も受けることなしに実現さ れなければならないと規定している。また、規定をどのように実施して いるかを検証するために経済的、社会的、文化的委員会(Committee on Economic, Social and Cultural Rights)が経済社会理事会によって設置された。
この委員会は18人の専門家から構成され、特別の手続きに従って提出さ れる報告を検討し、関係国政府の代表と報告の内容について話し合う。 委員会は、個々の報告の検討結果に基づいて締約国に必要な勧告を行う。 また、人権もしくは分野横断的テーマについての意味や規約の規定を実 施するために締約国に求められる措置について概説するよう求める一般 的なコメントを採択する(www.ohchr.org/english/bodies/cescr を参照)。
市民的、政治的権利 市民的、政治的権利に関する国際規約(International Covenant on Civil and Political Rights) とその第一選択議定書(First Optional Protocol) はともに
1976年に発効した。締約国の数は160カ国である。 ・規約は移動の自由、法の前の平等、公正な裁判と無実と推定される 権利、思想および良心と宗教の自由、意見と表現の自由、平和的な 集会、結社の自由と公務および選挙への参加、少数民族の権利の保 護などを規定している。 ・また、恣意的な生命の剥奪、拷問および残虐な品位を傷つけるよう な取り扱いおよび刑罰、奴隷と強制労働、恣意的逮捕もしくは抑留 および私生活への恣意的干渉、戦争の宣伝、人種的もしくは宗教的 憎悪の唱道を禁止している。 規約には2つの選択議定書がある。「第一選択議定書(First Optional Protocol, 1966年) 」は、許容性の基準を満たす個人に請願の権利を与えて
い る。 締 約 国 は109カ 国 で あ る。「 第 二 選 択 議 定 書(Second Optional
人 権 357
国連民主主義基金 国連憲章は民主主義と民主主義的価値観の重要性を強調している。世 界人権宣言とそれに続く多くの宣言、条約、規約はこれらの価値に対す る国連のビジョンとコミットメントを表明している。 「市民的、政治的 権利に関する国際条約」では、とくに、締約国は選挙、表現の自由、結 社と集会、その他の民主主義的原則について拘束力のある義務を負って いる。 1990年代、世界のさまざまな地域で起こった変化によって、民主主義 がこの10年の重要なテーマとなった。国連システムは、民主化のプロセ スを支援して実際の援助活動を増大させた。1992年には事務局の中に選 挙支援部が設けられ、2000年には、民主的統治が国連開発計画(UND) の開発協力計画の中心となった。 このプロセスを続けて、コフィー・アナン事務総長は、2005年7月、 国連民主主義基金(UN Democracy Fund(UNDEF)を創設した。その目 的は、民主的な制度を強固、強化し、民主的統治を可能にするプロジェ クトを援助し、それによって世界のすべての地に民主主義を実現するこ とである。同時に、それを補完するものとして国連がこれまで行ってき た選挙、人権、市民社会の支援、多元的メディア、法の支配に関する活 動を続ける。 ユニセフは、民主主義という単一のテーマを掲げた活動は行わないが、 2005年の「世界サミット」の成果文書に表明された見解を反映させた活 動を進める。成果文書によると、「民主主義は、政治、経済、社会、文 化制度や人生のあらゆる局面での完全な参加を決定するために人々が自 由に表現した意思に基づく普遍的な価値である。」 民主主義基金は2006年3月に諮問委員会の第1回会合が開かれ、正式 に発足した(より以上の情報については、www.un.org/democracyfund を参照)。
Protocol, 1989年) は、死刑廃止の実質的義務を確立したもので、現在60
カ国が加入している。 国際規約は18人の委員で構成する人権委員会(Human Rights Committee) を設置した。規約人権委員会は、規約の規定を実施するために取った措 置について締約国が定期的に提出する報告を審議する。第一選択議定書
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の締約国については、規約人権委員会は、規約に規定される権利が侵害 されたと主張する個人からの通報を審議する。個人からの通報は非公開 の会合で審議される。個人からの書簡およびその他の文書は秘密扱いで ある。しかし、委員会の審議結果は公表され、委員会は総会宛て年次報 告の中に記載される(www.ohcr.org/english/bodies/hrc を参照)。
その他の条約 世界人権宣言からインスピレーションを受けて、広範な問題について およそ80件の条約や宣言が国連の枠組みの中で締結された(www.ohchr. org/english/law を参照) 。こうした条約の中で最初に結ばれたのが集団殺
害罪に関する条約と難民の地位に関する条約であった。 ・ 「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide, 1948年) 」は、第2次世界大戦
中の残虐行為に対する直接の対応として採択されたもので、集団殺 害罪は、国民的、人種的、民族的、または宗教的な集団を破壊する 意図を持って行われる行為であると定義付け、それを犯した者は法 に照らして処罰することを国家に義務付けている。140カ国が加入 している。 ・「難民の地位に関する条約(Convention Relating to the Status of Refugees, 1951年) 」は、難民の権利、とくに迫害の恐れのある国へ強制的に
送還されない権利を定めており、また労働、教育、公的援助よび社 会保障の権利や旅行文書の権利など、日常生活のいろいろな側面に ついて規定している。締約国の数は144カ国である。 「難民の地位に 関する議定書(Protocol Relating to the Status of Refugees, 1967年)」は、 条約は本来第2次世界大戦による難民を対象にしたものであったが、 この議定書によって条約の適用は普遍的なものになり、戦後に生じ た難民にも適用できるようになった。議定書にはおなじく144カ国 が加入している。 前述の2つの条約も含め、7つの主要な人権条約については、締約国
人 権 359
の順守状況が監視を受ける(www.ohchr.org/english/bodies/hr を参照)。国家 がこれらの条約に加入するということは、自国の人権立法や措置につい て独立した専門家機関が再検討することに同意することを意味する。 ・ 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination, 1966 年)」は、もっとも広く批准された条約の一つで、締約国の数は173
カ国である。人種的相違に基づくいかなる人種的優越の政策も正当 化されることはなく、科学的に誤りであり、道徳的および法律的に 非難すべきものであるとの前文で始まり、「人種差別」についての 定義を行い、法律および慣行の双方においてそうした差別を撤廃す る措置を締約国に義務付けている。条約のもとに監視機関、人種差 別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)が 設置されており、締約国からの報告を審議し、また締約国が条約の 選択手続きを受諾している場合は、条約の侵害を主張する個人から の請願も審議する。 ・ 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women, 1979年) 」
の締約国数は185カ国で、法の前における女性の平等を保証し、政 治的・公的活動、国籍、教育、雇用、保健、結婚、家族における女 性への差別を撤廃する措置を規定している。条約は、その実施状況 を監視し、締約国からの報告を検討する機関として女子差別撤廃委 員会(Committee on the Elimination of Discrimination against Women)を設 置した。条約の選択議定書(Optional Protocol, 1999年)は、個人が条 約侵害についての申し立てを委員会に提出することを認めている。 88カ国が加入している。 ・ 「拷問およびその他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取 扱いまたは刑罰を禁止する条約(Convention against Torture and Other Inhuman or Degrading Treatment or Punishment, 1984年)」は、拷問は国際
的犯罪であると定義し、締約国は拷問防止に責任を持つと主張し、 犯罪実行者を処罰することを締約国に求めている。締約国の数は
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166カ国である。拷問を正当化するいかなる例外も認めず、また命 令による行為であったとする拷問者の弁解は認めない。締約国は 144カ国である。拷問禁止委員会(Committee against Torture) は条約 によって設置された監視機関で、締約国からの報告を検討し、また 拷問の慣行が制度化されていると信じる国に関して調査を行う。条 約の選択議定書(2002年)によって「防止小委員会」が設置された。 委員会は、国内の防止機関との協力で、国内の拘禁施設を査察する。 ・ 「子どもの権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child, 1989 年)」は、とくに子どもの社会的な脆弱性を認め、一つの包括的な
法典の中にあらゆるカテゴリーの子どもの人権を擁護する規定をま とめている。条約は差別のないことを保証し、子どもにとって最善 の利益がすべての行動の指針とならなければならないと述べている。 難民の子ども、障害児、または少数者の一員である子どもに特別の 注意が払われている。条約は子どもの生存、発展、保護および参加 を保障しなければならない。条約はもっとも広く批准されており、 193カ国が加入している。条約によって設置された子どもの権利委 員会(Committee on the Rights of the Child)は条約の実施状況を監視し、 締約国が提出する報告を検討する。 ・ 「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約 (International Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of Their Families, 1990年)」は、基本的権利と原則
の定義を行い、かつ移住のプロセスを通して、合法もしくは非合法 を問わず、移住労働者を保護する措置についての定義を行っている。 条約は2003年に発効し、37カ国が加入している。その監視機関は移 住労働者委員会(Committee on Migrant Workers)である。 最近発効した強制的失踪と障害者に関する条約も、発効しだい締約国 の監視の対象となる。 ・ 「すべての人の強制的失踪からの保護に関する国際条約(International Convention for the Protection of All Persons from Enforced Disappearances, 2006年)」は、強制的失踪の慣行を禁止し、かつそうした行為を国
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内法のもとに犯罪とするよう締約国に求めている。また、強制的失 踪行為の犠牲者および家族は失踪の状況と失踪者の運命を知り、か つ補償を請求する権利を有する。条約は20カ国の批准を受けて発効 する。2007年2月6日に署名のために開放され、現在61カ国が署名 し、最初の批准を待っている。強制的失踪委員会(Committee on Enforced Disappearances)が監視機関として設置される。
・ 「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities, 2006年) 」は、雇用、教育、保健サービス、運輸、司法へ
のアクセスなど、生活のすべての領域において世界の6億人の障害 者に対する差別を非合法だとして禁止する。2007年3月30日に署名 のために開放され、現在101カ国が署名し、発効に必要な20カ国の うち、2カ国が批准した。障害者の権利委員会(Committee on rights of Persons with Disabilities) が監視機関として設置される。条約の選
択議定書は、個人が、すべての国内救済措置を尽くした場合にはそ の委員会に訴えることができるとしている。現在、55カ国が署名し、 1カ国が批准した。発効には20カ国の批准が必要である。 世界人権宣言やその他の国連文書はまた、「欧州人権条約(European Convention on Human Rights)」 、「米州人権条約 (American Convention on Human Rights) 」、 「人および人民の権利に関するアフリカ憲章(African Charter of Human and Peoples Rights) 」など、いくつかの地域的な人権協定
の成立にも貢献した。
その他の人権基準 これらの条約に加え、国連はその他にも人権擁護に関する多くの基準 や規則を採択してきた。これらの「宣言」や「行動綱領」 、 「原則」は、 国家が締約国となる条約ではない。しかし、影響力は大きい。単に国に よって注意深く起草されたばかりではなく、コンセンサスによって採択 されているからである。もっとも重要なものの中には以下の宣言がある。 ・ 「宗教および信念に基づくあらゆる形態の不寛容および差別の撤廃
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に関する宣言(Declaration on the Elimination of all Forms of Intolerance and of Discrimination Based on Religion and Belief, 1981年)」は、すべての人
の思想、良心および宗教の自由に関する権利、宗教またはその他の 信念を理由にした差別を受けない権利を確認している。 ・ 「発展の権利に関する宣言(Declaration on the Rights to Development)」 は、この権利は「奪うことのできない人権である。この権利に基づ き、すべての個人および人民は、あらゆる人権および基本的自由が 完全に実現されうるような経済的、社会的、文化的および政治的発 展に参加し、貢献し、ならびにこれを享受する権利を有する」と宣 言した。さらに、「発展のための機会の平等は、国民および国民を 構成する個人の双方の特権である」と述べている。 ・ 「民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する人々の 権利に関する宣言 (Declaration on the Rights of Persons Belonging to National or Ethnic, Religious and Linguistic Minorities, 1992年) 」は、少数
者は自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し、自己の 言語を使用し、かつ自国も含め、いかなる国からも出国し、かつ自 国へ帰国する権利を有すると宣言している。宣言は、これらの権利 を促進し、擁護する行動をとるよう各国に要請している。 ・ 「人権擁護者に関する宣言(Declaration on Human Rights Defenders, 1998 年) 」は、世界の人権擁護活動家の活動を認め、促進し、かつ保護
するよう求めている。宣言は、国家および国際のレベルで、個人的 にまたは他との共同で、人権を促進しかつ擁護し、ならびに人権侵 害に反対する平和的な活動に参加するすべての人の権利について述 べている。国家は、暴力、威嚇、報復、圧力、その他の恣意的行動 から人権擁護者を守るためにあらゆる必要措置を取るよう求められ ている。 その他の条約以外の重要な基準には「被拘禁者取扱いのための標準最 低規則(Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners, 1957年)」 、 「司 法部の独立に関する基本原則(Basic Principles on the Independence of the Judiciary, 1985年)」 、 「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者
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の保護のための諸原則(Body of Principles for the Protection of All Persons under Any Form of Detention or Imprisonment, 1988年)」 、 「すべての人の強制的失踪
からの保護に関する宣言(Declaration on the Protection of All Persons from Enforced Disappearance, 1992年)」などがある。
人権関係機関 人権理事会 人権を促進かつ擁護する主要な国連機関は、人権理事会(Human Rights Council)である。理事会は、60年間に及んで活動してきた「人権委員会 (Commission on Human Rights)」の成果をさらに積み重ねるために、人権
委員会に代わるものとして2006年3月15日に総会によって設置された。 理事会は、総合的な政策ガイダンスを提供し、人権問題に関する研究を 行い、新しい国際規範を発展させ、世界のいたるところで人権順守を監 視する。国連における人権のための主要な政府間政策決定機関として、 理事会は世界のいかなる地域の人権状況をも審議し、また国家、非政府 組織(NGOs)、その他の組織から送られる情報を検討する権限を与えら れている(www.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil を参照)。 理事会は、人権についての関心事項を発表する場を国家や政府間組織、 NGOs に提供する。人権委員会の場合は、メンバー国53カ国は地域グ ループによって提出され、わずか28票の得票で選出された。しかし、人 権理事会の場合は、47理事国は総会で秘密投票によって選出され、総会 の192票の過半数を得なければならない。任期は3年で、連続して2期 以上は務めることができない。 すべての理事国は、人権の促進と擁護で最高の基準を掲げ、理事会と 全面的に協力しなければならない。理事国は、自らが施行する基準を 守っているかを証明するために、世界共通の定期的な再検討を受ける。 重大かつ組織的な人権侵害があれば、総会の出席し、投票する加盟国の
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特別報告者と作業グループ 人権に関する特別報告者と作業グループは人権擁護の最前線に立って、 人権侵害を調査し、「特別手続き」に従って個々のケースや緊急事態に 介入する。人権専門家は独立しており、個人の資格で務める。任期は最 高6年で、報酬は受けない。そうした専門家の数は年々に増えている。 現在、38件以上の特別手続きによる任務がある。 人権理事会と国連総会へ宛てた報告を作成するに当たって、これらの 専門家は入手可能なあらゆる情報を利用する。個人からの苦情や NGO からの情報も含まれる。また、最高のレベルで政府に仲裁を求める「緊 急行動手続き」を実施する。多くの調査研究は現地で行われる。当局と 被害者の双方に会い、現場での証拠を集める。報告は公表され、それに よって人権侵害が広く報じられ、かつ人権擁護に対する政府の責任が強 調されることになる。 これらの専門家は、特定の国における人権状況や世界的な人権侵害に ついて調査し、監視し、公表する。 ・特定の国の特別報告者、独立した専門家、代表――現在、ブルンジ、 カンボジア、朝鮮民主主義人民共和国、コンゴ民主共和国、ハイチ、 リベリア、ミャンマー、パレスチナの被占領地、ソマリア、スーダン に関して報告が行われている。 ・テーマ別特別報告者、代表、作業グループ――現在、適切な住居、ア フリカ系の人々、恣意的拘束、子どもの売買、教育、強制的もしくは 不本意な失踪、略式裁判による刑の執行、極度の貧困、食糧の権利、 意見および表現の自由、宗教もしくは信条の自由、身体的および精神 的健康、人権の擁護者、司法の独立、先住民、国内避難民、外国人傭 兵、移住者、少数者問題、人種主義と人種差別、経済改革政策と対外 債務、テロリズム、拷問、有害かつ危険な製品や廃棄物の違法移動お よび投棄、人身売買、多国籍企業、女子に対する暴力などの問題につ いて報告している。
3分の2の投票で理事国として資格が停止となる。 毎年6週間の会期を開いていた人権委員会とは異なり、人権理事会は、 人権の危機が発生した場合はいつでも開かれる。また、10週間以上の会 期を年に最低3回は開催する。さらに、理事国の3分の1の支持で、特
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別緊急会期をいつでも開催することができる。 人権委員会の任務で人権理事会が引き継ぐ任務には、特別の手続きや テーマ別の作業グループ、「人権促進保護小委員会(Sub commission on the Promotion and Protection of Human Rights) 」 、正式な苦情手続きなどがあ
る。国家や NGOs は関係する状況についての情報を人権理事会に提出 できる。政府はしばしば答弁書を提出する。それに応えて、理事会は、 専門家グループもしくは事実調査グループを任命し、現地訪問を組織し、 政府との話し合いを進め、援助を提供し、人権侵害が発見されるとそれ を非難する。 特定の状況が十分に深刻だと信じられるときは、理事会は、独立した 専門家グループ(作業グループ)もしくは個人(特別報告者/代表もしく は代表)による調査を命じる。これらの専門家から受理した情報に基づ
いて、理事会は必要な変更を行うよう関係国政府に要請する(囲みコラ ム「特別報告者と作業グループ」を参照)。
人権促進保護小委員会(Subcommission on the Promotion and Protection of Human Rights, 旧称「差別防止と少数者の保護に関する小委員会」 は、以前
の人権委員会によって1947年に設置された。政府の代表としてではなく、 個人の資格で働く26人の専門家で構成され、毎年開かれる。当初は差別 と少数者の保護の問題に専念していたが、その後関心事項は大きく拡大 され、幅広い人権問題を取り上げるようになった。小委員会は、とくに 法的規則に関する研究など、多くの研究を行い、人権理事会に勧告を行 う。NGO も小委員会の作業に参加する。小委員会は2009年に人権理事 会諮問委員会にとって代えられる(www.ohchr.org/english/bodies/subcom を 参照) 。
総会は、設置されて5年後の2009年に理事会の作業と機能との再検討 を行うことになっている。そのとき、人権理事会の地位を国連の主要機 関へ格上げする合意に達する可能性がある。
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国連人権高等弁務官 国連人権高等弁務官(United Nations High Commissioner for Human Rights) は、国連の人権活動に主要な責任を持つ。任期は4年で、多くの任務を まかされている。すべての人がすべての人権を効果的に享受できるよう にし、人権のための国際協力を進め、国連システムの中にあって人権に 関する行動を活性化し、かつ調整し、新しい人権基準の発展を援助し、 人権条約の批准を促進する。高等弁務官はまた、重大な人権侵害に対応 し、人権侵害防止のための行動を取ることも求められる。 2004年2月25日、国連総会はカナダのルイーズ・アルブールを国連人 権高等弁務官に任命することを承認した。アルブール氏は1996年10月か ら1999年9月まで旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所およびルワンダ国際 刑事裁判所の主任検察官を勤めた。在任期間は両裁判所で集中的な活動 が続いた時期であった。氏の人権高等弁務官としての4年の任期は、6 月にカナダ最高裁判所からの退官後の7月1日から始まる。彼女の前任 者のセルジオ・ビエイラ・デメロ氏(ブラジル)は、バグダッドの国連 現地本部に対する2003年8月19日の攻撃で死亡した。彼は国連イラク・ ミッションの団長でもあった。暫定的に、ベルトランド・ラムチャラン 氏(ガイアナ)が高等弁務官代行を務めていた。 事務総長の指示と権限の下に、高等弁務官はその活動を人権理事会に 報告し、また経済社会理事会を通して総会へ報告する。人権が尊重され るようにし、かつ人権侵害を防止する目的で政府との話し合いを行う。 国連システムの中にあって、高等弁務官は国連の人権機関の効果と効率 を高めるために、国連人権関連機関の強化と円滑化を進める。 人権高等弁務官事務所(Office of the High Commissioner for Human Rights: OHCHR) は、国連の人権活動の中心機関である。人権理事会、条約に
よって設けられた機関(条約の順守状況を監視する専門家委員会)、その他 の人権機関の事務局を務める。また、人権に関するフィールド活動を行 い、諮問サービスや技術援助を提供する。国連の通常予算に加え、その
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世界人権会議 第2回世界人権会議(ウィーン、1993年)は、人権の普遍性と中心的 役割を再確認した。 会議は、国家主権、普遍性、NGO(非政府組織)の役割、それに国 際人権基準の適用における公平性および非選択性など、多くの問題に緊 張があることを明らかにした。 「ウィーン宣言」と「行動計画」のなか で、171カ国は、人権は「国際共同体の正当な関心事項」となったと宣 言し、「すべての人権は普遍的であり、不可分かつ相互に依存し、相互 に関連し合っている」とのべた。 宣言は、「国および地域の特殊性、並びにさまざまな歴史的、文化的 および宗教的背景の重要性を考慮に入れなければならないが、すべての 人権および基本的自由の促進および保護は、政治的、経済的、文化的体 制のいかんにかかわらず国家の義務である」とのべている。 「民主主義、発展ならびに人権および基本的自由の尊重は、相互に依 存し、かつ補強しあうものである」と宣言は述べ、発展への普遍的な権 利と発展と人権は不可分な関係にあることを再確認した。
活動のいくつかは任意の拠出金や信託基金によってまかなわれる(www. ohcr.org を参照)。
高等弁務官は国連児童基金(ユニセフ)、国連教育科学文化機関(ユネ スコ) 、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、国連ボ
ランティア計画(UNV)のような人権に関係する国連機関との協力と調 整を制度化する具体的措置をとってきた。同様に、高等弁務官事務所は、 国連事務局のさまざまな部局との緊密な協力のもとで平和と安全の領域 でも活動を行う。また、弁務官事務所は、人道的な緊急事態に対する国 際的な対応を監視する機関間常設委員会のメンバーでもある。 教育と広報 国連にとって教育は基本的な人権であり、人権促進のた めのもっとも効果的な道具の一つである。人権教育は、公式、非公式の 場を問わず、革新的な教授法や知識の普及、態度の修正を求めることで 普遍的な人権の文化を助長することを目的とする。「国連人権教育の10 年(1995−2004年)(United Nations Decade for Human Rights Education, 1995−
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2004)」では、人権に関するグローバルな認識を高め、普遍的な人権の
文化を育成するための特別の努力が行われた。多くの国は、学校のカリ キュラムの中に人権問題を取り入れ、また国の行動計画を採択し、人権 教育を促進している。
人権の促進と擁護 人権の促進と擁護に関する国連の役割と範囲は、現在も拡大を続けて いる。その中心的な任務は、国連憲章がその名のもとに書かれている 「連合国の人民」の尊厳が十分に尊重されるようにすることである。国 連は国際的な機構を通して、以下のような多くの前線で活動を続けてい る。 ・グローバルな良心として――国連は各国によって受け入れられる行 動の国際基準を確立する場を設定し、人権基準を損ねかねない慣行 に国際社会の注意を喚起してきた。そして総会は、広範な宣言や条 約を通して、人権の原則の普遍性を強調してきた。 ・立法者として――国連はこれまで例を見ないほどの国際法の法典化 の推進力となってきた。女子、子ども、受刑者、被拘留者、精神的 障害者に関係する人権、それにジェノサイドや人種差別、拷問のよ うな人権侵害が、今や国際法の主要な特徴となっている。これまで の国際法は、わずかな例外を除いて、ほとんどが国家間の関係に関 するものであった。 ・監視者として――国連は、単に人権の定義を行うだけではなく、そ れが実際に擁護されるようにする活動で中心的な役割を果たす。 「市民的、政治的権利に関する国際規約」と「経済的、社会的、文 化的権利に関する国際規約」(双方とも1966年に採択)は、締約国が いかにしてその公約を果たしているかを監視する権限を国際機関に 与えた最初の条約例である。条約によって設置された機関や特別報 告者、人権理事会の作業グループは、それぞれ国際規準の順守を監
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視し、かつ人権侵害の申し立てを調査する手続きや機構を持ってい る。特定の事件に関するこれらの機関の決定は道徳的な重さを持つ もので、それに公然と反抗する政府はほとんどいない。 ・中枢として――人権高等弁務官事務所(OHCHR) は人権侵害を訴 える通報を団体や個人から受け取る。その数は年に平均しておよそ 10万件にも及ぶ。OHCHR は、条約や決議によって確立された実施 手続きを考慮に入れて、これらの通報を国連の適切な機関や機構に 付託する。緊急の介入が必要な場合は、ファックス(番号:41 22 917 9022) もしくは E mail(tb petitions.hchr@unog.ch) で通報するこ
とができる。 ・擁護者として――特別報告者もしくは作業ループの議長が重大な人 権侵害、たとえば拷問もしくは裁判手続きに基づかない刑の執行が 起こりそうだとの通報を受けた場合、彼もしくは彼女はまず関係国 へ緊急メッセージを送って説明を求め、かつ人権侵害を主張する犠 牲者の権利を保証するよう訴える。 ・調査研究員として――国連は人権法の発達と適用にとって不可欠な データを編纂する。国連の諸機関の要請のもとに OHCHR が作成し た研究や報告は、人権の尊重を高める新しい政策や慣行、機構を示 している。 ・アピールの場として――「市民的、政治的権利に関する国際規約の 第一選択議定書」 、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条 約」 、 「拷問禁止条約」、 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に 関する条約の選択議定書」の規定のもとに、利用しうるすべての国 内救済手段を尽くした場合、個人がアピールの手続きを受諾した国 家に対して人権侵害の申し立てを行うことができる。さらに、人権 理事会は、毎年 NGO や個人が提出する数多くの申し立てを聴取し ている。 ・事実調査員として――人権理事会はある種の権利乱用事件や特定の 国における人権侵害を監視し、報告する制度を設けている。この政 治的に微妙であり、かつ人道的な、そして時には危険を伴う任務を
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負わされているのが、特別報告者(Special Rapporteurs) もしくは特 別代表(Special Representatives)、作業グループ(Working Groups) で ある。彼らは事実を集め、現地グループや政府当局と連絡を取り、 政府の許可が得られれば現場を訪問し、いかにして人権の尊重を強 化するかについて勧告する。 ・慎重な外交官として――事務総長と人権高等弁務官は被拘禁者の釈 放や死刑の減刑、その他の問題など、人権に関する懸念を加盟国に 伝える。重大な人権侵害を防止するため人権理事会が人権状況に介 入し、もしくはその状況を調査する専門家を派遣するよう事務総長 に要請することもある。事務総長はその「あっせん」のなかでそう した静かな外交を進め、国連の正当な懸念を伝えて権利の乱用の停 止を求める。
発展の権利 開発のための機会均等の原則は、国連憲章や世界人権宣言にはっきり と認められている。1986年、総会は「発展の権利に関する宣言(Declaration on the Right to Development) 」を採択し、この権利は不可譲の権利である
と宣言し、転換期を画することになった。この権利のもとに、それぞれ の個人とすべての人民は経済的、社会的、文化的、政治的発展に参加し、 それに貢献し、かつそれを享受する権利を有する。 発展の権利は1993年の第二回世界人権会議のウィーン宣言でも高い優 先度を与えられ、また、2000年ミレニアム宣言など、その他の主要な国 連サミットや会議の成果の中でも取り上げられた。1998年、人権委員会 は、この問題に対処する2つの機構を設置した。すなわち、進歩状況を 監視し、障害を分析し、発展の権利を実施するための戦略を開発する作 業グループと、発展の権利の実施状況について報告する発展の権利に関 する独立した専門家である。
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技術協力計画 人権がもっとも良く擁護されるのはそれが地域の文化に根ざしたとき である。このことから、国連は国、地域のレベルで人権を促進かつ擁護 する努力を強化している。国際的な人権規範が国家の立法措置に反映さ れ、国内機関によって支援されない限り、そうした規範が普遍的に受け 入れられない。 国レベルでの多くの障害によって人権の普遍的な享受が依然として阻 まれている。インフラ不備のために自国民の人権を効果的に促進かつ擁 護することができない加盟国もある。こうしたことはとくに悲惨な内戦 からまさに立ちあがろうとしている国々に多い。 加盟国政府に対する国連の諮問サービスと技術協力計画は、民主主義、 開発、人権を促進し、かつ国内の法律や慣行に人権を取り入れることが できるように、国家の能力を育成することを目的としている。 「人権の ための技術協力計画(Programme of Technical Cooperation for Human Rights)」は、人権高等弁務官事務所の監督のもとに幅広いプロジェク トを管理している。その費用はおもに「人権分野における技術協力のた めの任意基金」からの資金でまかなわれる。2006年末現在、将来の割り 当て分として1,310万ドルの所得があった。 技術協力計画は、国際人権文書の批准を奨励し、その実施を支援する。 その中核となる領域が4つある。司法の運営、人権教育、国内制度、国 内行動計画である。また、経済的、社会的、文化的権利、発展の権利、 人種主義、先住民の権利、女子と子どもの売買、女性の権利、そして子 どもの権利などに特別の注意が払われている。 人権高等弁務官事務所(OHCHR)は地域戦略を進め、それを通して 政府間協力を育成し、経験を共有し、共通の政策やプログラムを発展さ せるようにしている。OHCHR の地域事務所は、国レベルの要求に応え るリソース・センターとなっている。国連の改革計画は人権を国連シス テムの活動の分野横断的な要素だと見なしているが、OHCHR はその国 連改革の線に沿って人権基準の統合を支援している。また、人権の視点 から見た評価やプランニング、政策や方法論の開発も支援している。
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食糧の権利 発展の権利と密接に結びついているのが食糧の権利である。国連食糧 農業機関(FAO)がとくに重視している権利である。その権利を支援し て、FAO 理事会は、2004年、「国家食糧安全保障との関連で適切な食糧 の権利の漸進的実現を支援する任意のガイドライン」を採択した。この 「食糧の権利ガイドライン」は、すべての人が尊厳を持って食事をし、 またそれができない人がいる場合はそうした人々のためのセーフティー ネットを確立できるような環境を作るに当たって、政府が検討しうる一 連の行動を載せている。ガイドラインはまた、政府の説明責任を強化す る措置も勧告している。同時に、食糧と農業に係わる機関の活動に人権 の側面を統合することも奨励している。
労働の権利 国際労働機関(International Labour Organization: ILO)は国連の専門機関 の一つで、労働の権利の定義を行い、それを保護する任務を与えられて いる。その三者会議である国際労働総会(International Labour Conference) ――政府、使用者、労働者の3者の代表で構成――はこれまで、労働生 活のすべての側面に関して187件の条約と198件の勧告を採択した。これ によって国際労働基準体系が構築された。ILO の勧告は政策や立法措置、 慣行に対するガイダンスを提供するものであるが、その条約は批准する 国に対して拘束力のある義務を作り出す(www.ilo.org/ilolex を参照)。 これまで労働行政、産業関係、雇用政策、労働条件、社会保障、職業 の安全や保健に関する条約や勧告が採択されてきた。いくつかの条約は 職場において基本的な人権の確保することを求め、またいくつかの他の 条約は女子や子どもの雇用、それに移住労働者や障害者など特別の範疇 に入る人々の雇用などの問題を取り上げている(ILO の国際労働基準に関 する情報については、www.ilo/org/public/english/standards/norm/subject を参照)。
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ILO は、条約が国内の法律や慣行に反映されるようにする監視手続き をもつ。一つは独立した専門家による客観的な評価に基づくもので、他 は ILO の3者機関が行う個々の調査に基づくものである。結社の自由 の侵害に関する苦情を調査する特別の手続きもある(www.ilo.org/public/ english/standards/norm/applying を参照) 。
ILO はこれまで多くの画期的な条約を採択してきた。 ・強制労働に関する条約(Convention on Forced Labour, 1930年)――あ らゆる形態の強制労働や義務的労働の使用を廃止するよう求めてい る。 ・結社の自由および団結権の保護に関する条約(On Freedom of Association and Protection of the Rights to Organization, 1948年)――事前の許可を受
けることなく団体を設立し、加入する労働者および使用者の権利を 定めている。また、そうした団体が自由に機能できることも保障し ている。 ・団結権および団体交渉権についての原則の適用に関する条約(On Right to Organize and Collective Bargaining, 1949年)――反組合的な差別
に対する保護、労働者団体および使用者団体の保護、団体交渉を保 護する措置、などを規定している。 ・同 一 労 働 同 一 報 酬 に 関 す る 条 約(On Equal Remuneration, 1951年 ) ――同一価値の労働に対する同一の報酬と給付を求めている。 ・雇用および職業における差別に関する条約(On Discrimination, 1958 年)――機会および待遇の平等を促進し、人種、皮ふの色、性、宗
教、政治的意見、国民的出身又は社会的出身に基づく職場における 差別を撤廃する国内政策を求める。 ・最低年齢に関する条約(On Minimum Age, 1973年)――児童労働の廃 止を目的に、雇用のための最低年齢は義務教育の卒業年齢以下で あってはならないと規定している。 ・最悪の形態の児童労働に関する条約(On Worst Forms of Child Labour, 1999年)――子どもの奴隷、債務による束縛、売春とポルノ、危険
な労働、紛争のための強制的徴兵を禁じている。
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国連総会も移住労働者の権利を保護する数多くの措置を取った。
差別との闘い アパルトヘイト 国連は世界の大きな不正行為を終わらせることができる。このことを 実証した最善の成功例の一つが、南アフリカのアパルトヘイト支配を廃 止させた際の国連の役割である。実際に国連はその創設期からアパルト ヘイトの問題と闘ってきた。アパルトヘイトとは、南アフリカが実施し た、法によって定められた人種隔離と差別の制度である。 1994年、新しく選出された南ア大統領、ネルソン・マンデラが国連総 会で演説した時、49年にも及ぶ国連の歴史の中で、多数を占めるアフリ カ人から選ばれた南アフリカの国家元首が国連総会で演説するのは初め てのことである、と指摘した。アパルトヘイトが征服されたことを歓迎 し、マンデラ大統領は、「その歴史的変化が訪れたのは、人道に対する アパルトヘイト罪の排除にかかわってきた国連の多大な努力によるもの であった」と述べた。 1966年、アパルトヘイトは国連憲章および世界人権宣言と相容れない 「人道に対する罪」として国連から非難された。アパルトヘイトは1948 年から1994年のアパルトヘイト廃止まで国連総会の議題となってきた。 ・1950年代、総会は国連憲章の原則に照らしてアパルトヘイトを放棄 するよう南アフリカ政府に繰り返し訴えた。 ・1962年、総会は南アフリカの人種差別政策についての検討を続ける 目的で、国連反アパルトヘイト特別委員会(United Nations Special Committee against Apartheid)を設置した。その後、特別委員会はアパ
ルトヘイト撤廃を求める国際社会の包括的行動計画を実施する中心 的な機関となった。 ・1963年、安全保障理事会は南アフリカに対して任意の武器禁輸を発 動させた。 ・1970年から1974年にかけて、総会は通常総会に対する南アフリカの
人 権 375
委任状を拒否した。この禁止によって、南アフリカは1994年のアパ ルトヘイトの廃止まで総会の審議に参加しなかった。 ・1971年、総会は南アフリカとのスポーツ交流をボイコットするよう 呼びかけた。これは南アフリカ国内および海外の世論に大きな影響 を与え続けた。 ・1973年、総会は「アパルトヘイト犯罪の抑圧及び処罰に関する国際 条約(International Convention on the Suppression and Punishment of the Crime of Apartheid)」を採択した。
・1977年、安全保障理事会は、南アフリカの近隣諸国に対する侵略と その潜在的核開発能力は国際の平和と安全に対する脅威を構成する と決定し、武器禁輸を強制的なものとした。これは、理事会が加盟 国に対して強制措置をとった最初の例であった。 ・1985年には 「スポーツにおける反アパルトヘイト国際条約(International Convention against Apartheid in Sports)」を採択した。
・同じく1985年、南アフリカ政府が非常事態を宣言して抑圧をエスカ レートさせたため、安全保障理事会は初めて国連憲章第7章の下に、 南アフリカに対する経済制裁を実施するよう加盟国政府に要請した。 1990年、南アフリカ政府と主要政党との間に国民和平合意(National Peace Accord)が結ばれた。これによって、アパルトヘイト政府から非人
種主義に基づく民主主義への移行が可能となった。この移行は国連の全 面的な支持を受けることになった。1992年に採択された2つの安全保障 理事会決議は、移行を容易にした国際社会の関与を強調した。 和平合意の枠組みを強化するために、安全保障理事会は1992年に国連 南アフリカ監視団(United Nations Observer Mission in South Africa: UNOMSA) を展開させた。UNOMSA は、非人種主義の民主主義政府の樹立に導い た1994年の選挙を監視した。新政府の発足と最初の非人種主義に基づく 民主主義憲法の採択をもって、アパルトヘイト制度は終わった。 人種主義 1963年、総会は「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する宣言(United
376
Nations Declaration on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination) 」を
採択した。宣言は、すべての人は基本的には平等であるとのべ、人種、 皮ふの色もしくは種族的出身に基づく人間間の差別は世界人権宣言に掲 げる人権の侵害であり、国家間および人民間の友好的かつ平和的関係に 対して障害となることを確認した。 2年後、総会は「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約 (International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination) 」
を採択した。これによって、締約国は、人種差別を防止し、処罰するた めに立法、司法、行政、その他の措置を取ることが義務付けられた。 1993年、総会は「第3次人種主義および人種差別と闘う10年(Third Decade to Combat Racism and Racial Discrimination, 1993−2003年)」を宣言し、
新しい形態の人種差別主義と闘うためにとくに法律、行政措置、教育お よび広報による措置をとるよう加盟国に要請した。 同じく1993年、人権委員会は、現代的形態の人種主義、人種差別、外 国人排斥および関連する不寛容に関する特別報告者を任命した。その任 務は、現代的な形態の人種主義、人種差別、黒人・アラブ人およびイス ラム教徒に対するあらゆる形態の差別、外国人排斥、反ユダヤ主義およ び関連する不寛容に関する事件をはじめ、そうした問題解決のために政 府がとった措置について調査することである。 総会の決定により、第3回人種主義、人種差別、外国人排斥および関 連する不寛容に関する世界会議 (World conference against Racism, Racial Discrimination, Xenophobia and Related Intolerance) が2001年に南アフリカで
開催された。会議ではとくに、防止、教育、保護の措置も含め、実際的 な人種主義撤廃の措置の問題が取り上げられ、ダーバン宣言と行動計画 が採択された。これまでにも同種の会議は1978年と1983年にジュネーブ で開催されている。ダーバン行動計画の見直しを行うダーバン再検討会 議が、2009年に開かれる予定である。 女性の権利 1945年に国連が創設されて以来、女性の平等という問題は重要な国連
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地域別女性の国会参加 40
40 36
1997 年 1 月
全国会議員に占める 女性議員の割合(%)
35
2006 年 5 月
30 25 21
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17
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出典:ユニセフ「世界子ども白書 2007 年」。データは列国議会同盟の 「国会における女性」 に関するデータベースから引用(www.ipu.org/wmn-e/calssif.htm を参照)。
活動の一つとなってきた。女性の権利の促進と擁護や女性に対するあら ゆる形態の差別と暴力の撤廃のためのグローバルな闘いの中で、国連は 常に主導的な役割を果たしてきた。また、女性が経済社会開発や政策決 定など、公的な活動に完全かつ平等にアクセスし、かつ参加の機会を与 えられるように国連は努力を続けててきた(www.un.org/womenwatch およ び www.un.org/womenwatch/daw を参照) 。
女性の地位委員会(Commission on the Status of Women)は、女性の平等 と差別撤廃のための国際的なガイドラインや法律を作成してきた。その 顕著な例が1979年の「女子に対するあらゆる形態の差別撤廃に関する条 約 (Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women) 」と1999年の同条約の「選択議定書(Optional Protocol)」である。
また、1993年に総会が採択した「女性に対するあらゆる形態の暴力撤廃 に関する宣言(Declaration on the Elimination of All Forms of Violence against Women) 」も作成した。宣言は、暴力とは家庭内もしくは地域社会で起
こり、国家によって容認されてきた身体的、性的、心理的暴力である、
378
と明確な定義を行った。 女子に対する差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Discrimination against Women)は23人の独立した専門家で構成され、締約国による条約
の実施状況を監視する。委員会は、男女間の平等の原則に対する進歩状 況を評価するために、締約国が提出する報告を検討する。また、個人か らの通報を検討し、条約の選択議定書の規定のもとに照会を行う。 子どもの権利 毎年何百万という子どもたちが栄養不良や病気のために死んでいる。 その他数え切れないほどの子どもたちが戦争、自然災害、HIV/エイズ、 それに最悪の形態の暴力、搾取、虐待の犠牲となっている。何百万とい う子どもたち、とくに少女は良質の教育を受けられない。国連児童基金 (United Nations Children’ s Fund: ユニセフ)は子どもの権利を唱道する唯一
の国連機関で、「子どもの権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child) 」に対するグローバルな公約を持続させることに努めている。
子どもの権利条約は子どもに対する行動の普遍的な倫理的原則と国際的 な行動基準を定めたものである。 総会は2000年、条約に対する2つの選択議定書(Optional Protocols)を 採択した。1つは18歳未満の子どもを軍隊に徴兵することや武力紛争に 参加させることを禁じている。もう1つは子どもの売買、売春、ポルノ の禁止や処罰を強化したものである。 子どもの権利委員会(Committee on the Rights of the Child)は条約によっ て設置された委員会で、定期的に開かれて締約国の義務の履行を監視す る。委員会は、条約が掲げる子どもの権利をいかにして実現するかの方 法について政府や総会に提案や勧告を行う。 子どもの労働の問題に関しては、国連の求めていることは、子どもの 身体的、精神的発達を損ねるような労働搾取や危険な労働から子どもを 守り、子どもが良質の教育、栄養、保健サービスを受けられるようにし、 そして長期的には子どもの労働を漸進的に無くしてしまうことである。 ・ 「国際児童労働撤廃計画(International Programme on the Elimination of
人 権 379
Child Labour) 」は、国際労働機関(ILO)が発案した活動で、技術協
力を通して啓発活動や行動の動員を図る。ILO が直接行っている活 動には、子どもの労働防止、子どもの労働者の両親にディーセント な仕事を紹介するなどの代替措置の提供、子どもの社会復帰、教育、 職業訓練などがある。 ・ユニセフは、性の奴隷や家事労働者など、非常に危険な状態の中で 働く子どもたちに教育、カウンセリング、ケアなどを提供する活動 を支援し、子どもの権利の侵害についてはその救済を積極的に進め ている。 ・総会はストリート・チルドレンの問題を早急に解決するよう各国政 府に訴えてきた。これらの子どもたちは犯罪や薬物の乱用、暴力、 売春にこれまで以上に関係し、その影響を受けるようになってきて いる。 ・人権促進保護小委員会は、軍隊に子どもを採用もしくは徴兵するこ とをやめるよう求めてきた。事務総長の子どもと武力紛争特別代表 (Special Representative for Children and Armed Conflict) は、紛争中の子
どもの保護に努めている。 ・人権理事会は、子どもの売買、売春およびポルノに関する特別報告 者から報告を受ける。 ・事務総長の2006年の研究は、子どもに対する暴力の特質、範囲、原 因を具体的に説明し、その防止と対応策を勧告した。この研究は、 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連児童基金(ユニセフ)、 世界保健機関(WHO) の支持のもとに事務総長が任命した独立し た専門家、パウロ・セルギオ・ピンヘイロ教授の指導のもとに作成 された。 少数者の権利 世界のおよそ10億人の人々が少数者グループに属する。その多くは差 別や追放の対象となり、しばしば武力紛争の犠牲者となっている。民族 的、種族的、宗教的かつ言語的グループの願望を満たすことは、基本的
380
人権の保護を強化することであり、文化的多様性を保護してそれを受け 入れることである。また、それは社会全体の安定を強化することにもつ ながる。 国連はその創設期から少数者の権利を人権の重要な課題として取り上 げてきた。少数者の人権擁護は「市民的、政治的権利に関する国際規 約」の第27条や国連のすべての人権法の根本をなす「無差別の原則」の なかで保障されている。 総会が1992年に採択した「民族的又は種族的、宗教的および言語的少 数者に属する人々の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of Persons Belonging to National or Ethnic, Religious and Linguistic Minorities)は、国連の
人権課題に新たな刺激を与えるものであった。1995年、人権委員会は、 その小委員会が少数者に関する作業グループを設置するのを承認した。 これは少数者の代表が利用できる唯一の場である。作業グループは少数 者社会に入り、彼らが国連の会議に出席し、自分たちの関心事について 発言できるようにする。少数者の状態を救済する提案を行うこともある。 作業グループは少数者の権利の促進と擁護を改善するために具体的な措 置を勧告するなど、少数者の問題の解決をはかる任務も与えられている。 先住民 少数者の中でももっとも不利な立場に置かれているグループの一つと 考えられているのが先住民である。国連はこれまでにもましてこの問題 を取り上げるようになった。先住民はまた「最初の住民」、部族民、ア ボリジニー、オートクトンとも呼ばれる。現在少なくとも5,000の先住 民集団が存在し、住民の数は3億7,00万人を数え、5大陸の70カ国以上 の国々に住んでいる。多くの先住民は政策決定プロセスから除外され、 ぎりぎりの生活を強いられ、搾取され、社会に強制的に同化させられて きた。また自分の権利を主張すると弾圧、拷問、殺害の対象となった。 彼らは迫害を恐れてしばしば難民となり、時には自己のアイデンティ ティーを隠し、言語や伝統的な慣習を捨てなければならなかった。 1982年、人権小委員会は先住民に関する作業グループを設置した。作
人 権 381
業グループは先住民の権利に関する進展を検討し、先住民の権利に関す る国際的な基準の普及をはかった。また、「先住民の権利に関する宣言 (Declaration on the Rights of Indigenous Peoples)」の草案を作成した。
1992年、地球サミットは先住民の集団の声に耳を傾けた。先住民は彼 らの土地、領土、環境が悪化していることに懸念を表明した。国連開発 計画(UNDP)、ユニセフ、国際農業開発基金(IFAD)、ユネスコ、世界 銀行、世界保健機関(WHO) など、国連のさまざまな機関が先住民の 健康や識字力を改善し、また彼らの先祖伝来の土地や領土の悪化と闘う ための事業計画を実施した。ついで総会は、1993年を「世界の先住民の s Indigenous People)」と宣言し、1995 国際年(International Year of the World’ s −2004年を「世界の先住民の国際の10年(International Decade of the World’ Indigenous People)」に指定した。
こうした先住民問題に対する関心が強まっていることを受けて、2000 年、経済社会理事会の補助機関として「先住民問題に関する常設フォー ラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)」が設置された。フォーラムは 政府代表の専門家8名と先住民代表の専門家8名の計16人の専門家で構 成される。先住民問題について経済社会理事会に助言し、国連活動を調 整し、また経済社会開発、文化、教育、環境、保健、人権など、先住民 の関心事項について審議する。さらに、「先住民問題に関する機関間支 援グループ」が、政府間システム全体で先住民に関連した活動を進める よう奨励する(www.un.org/esa/socdev/unpfii を参照)。 「国際の10年」が終盤に近づいたため、総会は「第2次世界の先住民 s の国際の10年、2005−2015年 (Second International Decade of the World’ Indigenous People, 2005−2015)」を宣言した。以下の5つの重要な目的を
掲げている。 ・非差別およびあらゆるレベルにおける法律、政策、資源、プログラ ムとプロジェクトの策定、実施、評価に先住民の参加を促進する。 ・先住民の生活様式、伝統的土地、文化的一貫性、もしくは生活のい かなる側面に対しても直接もしくは間接に影響を及ぼす決定に全面 的に参加することを促進する。
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・先住民の文化的および言語的多様性の尊重も含め、公平のビジョン を支持して、開発優先度の見直しを行う。 ・とくに女性、子ども、若者を強調して、特定のベンチマークととも に、先住民の発展のために目標を定めたプログラム、政策、プロ ジェクト、予算を採択する。 ・先住民の保護とその生活の改善のための法律、政策、運営の枠組み の実施に関し、あらゆるレベルで強力な監視機構を促進し、かつ説 明責任を高める。 2006年6月29日、人権理事会は、「先住民の権利に関する宣言」を採 択し、総会にその宣言採択を勧告した。宣言は2007年9月13日に採択さ れた。 新たな「先住民の権利に関する国連宣言(United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples)」は、文化、アイデンティティ、言語、雇
用、健康、教育に対する権利を含め、先住民の個人および集団の権利を 規定している。宣言は、先住民の制度、文化、伝統を維持、強化し、か つニーズと願望に従って開発を進める先住民の権利を強調した。また、 先住民に対する差別を禁止し、先住民に関係するすべての事項について 完全かつ効果的に参加できるようにする。それには、固有の生活様式を 守り、かつ経済社会開発に対する自身のビジョンを追及する権利も含め られる。 障害を持つ人々 およそ6億5,000万人は、何らかの形の身体的、精神的もしくは感覚 的な障害に苦しんでいる。これは世界人口の10パーセントを占める数字 で、そのうちの80パーセンの人々が開発途上国に住んでいる(www. un.org/disabilities/convention/facts.shmtl を参照) 。
障害を持つ人々はしばしば社会の主流からはずされる。差別はいろい ろな形態を取り、教育の機会を拒否することからもっと巧妙な差別、た とえば物理的、社会的障害をつくって隔離と孤立をはかることまでさま ざまである。社会も損害を受ける。障害を持つ人々の膨大な潜在能力が
人 権 383
失われ、人類が貧困化するからである。障害についての認識や概念を変 えることは、社会のあらゆるレベルで価値観を変え、理解を深めること を意味する。 国連はその創設期から障害を持つ人々の地位を向上させ、彼らの生活 を改善することに努めてきた。障害を持つ人々の福祉と権利に対する国 連の関心は、すべての人間の人権、基本的自由、平等に基づく国連創設 の原則に由来する。 1970年代、障害を持つ人々の人権の概念は国際的に広く受け入れられ るようになった。総会は1971年に「精神薄弱者の権利に関する宣言 (Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons)」を採択し、1975年に
は「障害者の権利に関する宣言 (Declaration on the Rights of Disabled Persons) 」を採択した。これは平等な処遇と各種サービスの利用を可能
する基準を定め、障害者の社会的統合を加速させることを目的としたも のであった。 1981年の国際障害者年(International Year of Disabled Persons) は「障害 者に関する世界行動計画(World Programme of Action Concerning Disabled Persons) 」を総会に採択させる原動力となった。これは障害を持つ人々
の人権を促進するための政策枠組みである。行動計画は国際協力のため の目標を2つ定めた。機会の平等と障害者の社会生活と開発への完全参 加である。 1983−1992年の「国連障害者の10年(United Nations Decade of Disabled Persons, 1983−1992)」の主な成果は、総会が1993年に採択した「障害者
の機会均等に関する標準規則 (Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities) 」であった。この規則は政策決定
の際の道具となり、また技術経済協力のための基礎となるものである。 特別報告者がこれらの規則の実施を監視し、経済社会理事会の補助機関 である「社会開発委員会」に毎年報告する。 精神障害を持つ人々を保護する新しい基準、「精神障害者の保護と健 康看護の改善原則(Principles for the Protection of Persons with Mental Illness and the Improvement of Health Care)」が1991年に総会によって採択された。
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1994年、総会は「すべての人のための社会」を目標に、世界行動計画の 実施をさらに進める長期的な戦略を承認した。1997年には総会は優先す べき政策課題として容易な利用、雇用、社会サービス、社会的安全ネッ トを定めた。 2001年、総会は、障害者の権利と尊厳を保護し、促進する包括的な国 際条約を起草する作業を開始した。5年におよぶ交渉の後の2006年12月 13日、 「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」が採択された。条約は2007年3月30日に署名のために開放
された(内容については、この章の前のほう、「その他の条約」を参照)。 国連活動 障害者問題に関する多くのデータが示していることは、幅 広い人権の枠組みの中で、また国の開発との文脈の中で、障害者問題に 取り組まなければならないということである。国連は政府や非政府組織、 学術団体、専門的な団体と共同で障害者問題に関する啓発活動を進め、 また政府が人権の視点から障害を持つ人々の問題に取り組めるように国 の能力育成に努めている。そうすることによって、国連は障害者の問題 がミレニアム開発目標(MDGs)など、国際的な開発課題の中に組みこ まれるようにしている。 障害者のための行動に対して一般の支持が高まってきた。機会の均等 化を図るために情報サービスや啓蒙活動、行政機構を改善する必要が強 まった。国連は、国々がその総合的な開発計画の中で障害者対策を進め られるように、国家能力を強化する援助を行うことが多くなった(www. un.org/disabilities および www.ohchr.org/english/issues/disability を参照)。
移住労働者 仕事を求めて国境を越える人々の数が増加している。このことから、 移住労働者に対する差別を撤廃する目的で新しい人権条約が承認された。 1990年、10年にわたる交渉の末に、 「すべての移住労働者とその家族の 権利の保護に関する国際条約(International Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of Their Families)」が総会によって
採択された。
人 権 385
条約は、 ・適法状態、非適法状態を問わず、すべての移住労働者とその家族の 権利を網羅している。 ・移住労働者を集団で追放すること、もしくは彼らの身分を証明する 文書や労働許可書、パスポートを破棄することを違法とする。 ・移住労働者はその国の労働者と同一の報酬、社会福祉、医療サービ スを受け、労働組合に加入もしくは参加し、また雇用の終了に伴っ ては所得や貯蓄を送金し、個人の身の回り品を移転させる権利を有 する。 ・移住労働者の子どもは、出生と国籍の登録および教育を受ける権利 を有する。 条約は2003年7月1日に発効した。締約国は、移住労働者委員会 (Committee on Migrant Workers)を通して条約の実施状況を監視する。
司法の運営 国連は司法手続きの際の人権擁護を強化するために数多くの手段を講 じてきた。個人が国家当局の取調べを受けるとき、逮捕され、拘留され、 起訴され、審理され、拘禁されるとき、こうした場合は常に人権の保護 に相当の考慮を払って法の適用をはからなければならない。 国連はこれまで国内立法のモデルとして役立つような基準や規範を発 展させてきた。たとえば、被拘禁者の処遇、拘留された青少年の保護、 警官による火器の使用、法執行官の行為、弁護士および検察官の役割、 司法の独立などに関するものである。これらの基準の多くは「国連犯罪 防止刑事司法委員会 (United Nations Commission on Crime Prevention and Criminal Justice)」と「国際犯罪防止センター(Centre for International Crime Prevention)」を通して発展してきた。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR) は、立法者、裁判官、弁護士、 法執行官、刑務所職員、軍人を対象に人権に関する研修を中心に技術援
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助を行っている。 将来の優先課題 国連の活動にもかかわらず、依然として大量の、広範にわたる人権侵 害が続いている。世界人権宣言が採択されて60年、さまざまな人権侵害 が世界のニュースを支配しつづけてきた。少なくともその背景の一部と して人権意識が高まったことや、問題の領域における監視機能が向上し たことが挙げられる。こうしたことには、とくに子どもに対する虐待、 女性に対する暴力、それにごく最近まで伝統的な基準から許容されてき た行為などが含まれる。 事実、人権を推進かつ保護する措置はこれまでに比べより強力となり、 ますます社会正義、経済開発、民主主義のための闘いに結び付けられる ようになった。人権問題は今、国連のすべての政策やプログラムにおい て部門横断的なテーマとなっている。国連人権高等弁務官の積極的な行 動は、国連のパートナーの中での協力や調整の向上とあいまって、国連 システムは人権のために闘う強力な能力を持つものであることをはっき りと実証した。
第Ⅱ部 第5章
人道援助 Humanitarian Action
388
第2次世界大戦における荒廃と大量の避難民に続いてヨーロッパで始 まった人道的救援活動を初めて調整して以来、国際社会は、国家当局だ けでは対処できない自然災害や人為的災害に対する対応を国連に求めて きた。国連は緊急援助と長期援助の主要な提供者となり、政府や救援機 関による救援活動の触媒となり、緊急事態の被害者に代わって発言する 唱道者となった。 紛争や自然災害によって住む家を失う市民は後を絶たない。2006年末 現在で、およそ1,280万人の人々が自国内で避難民となり、さらに990万 人が国外へ逃亡し、難民となった。 ほとんどが気象に関係したものであるが、毎年自然災害によって2億 人の人々が被害をこうむる。国連開発計画(UNDP)の報告によると、 自然災害の94パーセントがサイクロン、洪水、地震、干ばつによるもの である。それ以外にも熱波や山火事も人間に被害をもたらしている。自 然災害で死亡する人々のうち、圧倒的多数の98.2パーセントの人々が開 発途上国に住んでいる。このことは、貧困、人口増加、環境の悪化がい かに人間の苦しみを増幅させるかを示している。 註――― *「災害リスクの削減:開発への挑戦」、UNDP 危機予防復興局、2004 年
新たな紛争が続発し、自然災害による人的、財政的損失も拡大してい る。こうしたことから、国連は2つのことを行っている。一つは、国連 は主にその実施機関を通して被災者の緊急救援活動を行うことで、他は、 そうした緊急事態が発生しないようにより効果的な戦略を進めることで ある。
人道援助 389
災害が発生すると、国連とその機関はまず緊急人道援助物資を輸送す る。たとえば、2006年、世界食糧計画(WFP)は、78カ国で8,800万人近 くの人々に食糧援助を行った。それには世界の難民や国内避難民も含ま れる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) は、何百万人という難民 や国内避難民に国際的な保護や援助を提供した。緊急援助活動をまかな うために、国連人道問題調整事務所(OCHA) は機関間のアピールを 行って、人道援助のために30億ドルの資金を集めた。 人道早期警報システム(HEWS)や国連国際防災戦略(ISDR)のよう な手段を通して、国連は発生の防止や被害の緩和に努めている(HEWS については、www.hewsweb.org を、ISDR については www.unisdr.org を参照)。
さらに、国連食糧農業機関(FAO)は間近にせまる飢餓やその他の食 糧、農業の懸念事項を監視する一方で、世界気象機関(WMO) は熱帯 サイクロンの予報や干ばつの監視を続けている。国連開発計画(UNDP) は、災害の多い国が災害対策やその他の準備措置を開発できるように援 助している(国連と人道援助活動については、www.un.org/ha を参照)。
人道援助活動の調整 1990年代以降、内戦が頻度、規模において急増し、大規模な人道的危 機の原因となった。複雑な政治的、軍事的環境の中で多数の命が失われ、 大量の避難民が生まれ、社会も広範な損害を被った。こうした「複雑な 緊急事態」に対処するために、国連は迅速かつ効果的に対応するための 能力を向上させた。 1991年、総会は機関間常設委員会を設置し、人道的危機に対する国際 社 会 の 対 応 を 調 整 さ せ る こ と に し た。 国 連 緊 急 援 助 調 整 官(United Nations Emergency Relief Coordinator)はこうした活動における国連の中心
的存在で、人道的緊急事態に関しては国連全体の主席政策顧問であり、 調整官であり、また唱道者である。緊急援助調整官はまた人道問題調整 事務所(Office for the Coordination of Humanitarian Affairs: OCHA)の長も務
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2004年12月のインド洋地震と津波 2004年12月26日、日曜日の早朝、マグニチュード9.0という巨大な地 震がインドネシアのスマトラ北部の西海岸を襲った。それによって高さ 10メートルの津波が発生し、時速800キロの速さでインド洋を横断した。 それは現代史でも未曾有の規模の津波であった。津波はインド、イン ドネシア、スリランカ、タイ、モルディブ、ミャンマー、セイシェル、 ソマリアの海岸を破壊し、場所によっては2,000マイルも内陸部まで浸 水した。遠く離れた南アフリカでも死者が出た。インドネシアだけで死 者の半数以上を占めた。1年後の集計によると、死者18万1,516人、12 カ国の行方不明者数4万9,936人であった。170万人以上の人々が住居を 失い、食糧や水、医薬品を必要とした人々の数は500万人から600万人ま で達した。 国連システムは、直ちに行動に移った。それぞれの被災国で国連の活 動がすでに行われていたことから、大規模かつ迅速な国連の対応によっ て、生存者は十分な食糧、住宅、治療を受けられ、それによって第二次 災害、病気や飢餓の発生を食い止めることができた。2005年1月5日、 9億7,700万ドルの緊急資金拠出アピールが行われた。これは、およそ 40の国連機関や NGO が行っている広範な人道援助を続けるためのもの であった。たとえば、農業、支援サービス、経済の復興とインフラ整備、 教育、家族の住宅、地雷除去、治安、人権擁護と法の支配、それに飲料 水や衛生施設などであった。
める。OCHA は、単一の機関の能力と任務を超える人道的危機に際して、 各種機関が行う援助活動を調整する(www.ochaonline.un.org を参照)。 複雑な緊急事態に対しては政府や非政府組織(NGO)、国連の諸機関 など、多くの主体が同時に対応しようとする。OCHA はこれらの主体 と協力して、それぞれの主体が全体の活動に迅速かつ効果的に貢献でき るようにする一貫した救援の枠組みをつくる。 緊急事態が発生すると、OCHA は国際的な救援活動の調整を行う。 国連本部やフィールドで加盟国や機関間常設委員会(IASC)のメンバー と協議し、活動の優先順位を決め、また、被災国における活動の調整に 対して支援を提供する。
人道援助 391
国連システムの活動:津波被災者援助と復興 教育、科学、文化 ・UNESCO
国連ボランティア ・UNV 人権 ・UNHCHR
人口 ・UNFPA
海事 ・IMO
子ども ・UNICEF
気象 ・WMO 難民 ・UNHCR
Berlin Paris London Genève Madrid Roma
Washington 融資 ・World Bank
防災 ・ISDR 保健 ・WHO 労働 ・ ILO
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出典:国連ニュースサービス
たとえば、OCHA には、24時間の監視警戒態勢に支援される緊急対 応能力が備わっている。自然災害や突発性の緊急事態が発生すると、12 時間から24時間以内に国連災害評価調整チームを派遣し、情報を収集し、 ニーズを評価し、国際援助を調整することができる。また、適切な場合 は、人道的緊急事態に対応するために、軍隊を効果的に利用できるよう にする。 OCHA はまた、地域事務所や現地事務所、国連人道援助調整官、災 害発生国チームのネットワークを通して作業を進める。人道調整官が現 地での救援活動の一貫性を保つ総合的な責任を負っている。また、ニー ズの評価や災害対策プランニング、救援計画の策定を調整し、それに よって人道調整官や援助を行う実施機関を支援する。 さらに、IASC パートナーや人道調整官を助けて、機関間の統合ア ピールを行って資源の動員を図る。援助国会議を開催し、フォローアッ プの取り決めを行い、そのアピールに対する拠出金の状況を監視し、援 助国やその他に最新の動きを知らせるために状況報告を発表する。1992
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緊急救援活動の調整 機関間常設委員会(IASC)が国連内外のすべての主要な人道機関を 招集して会合を開く。国連緊急援助調整官が議長を務める。 IASC は人道政策を発展させ、人道援助のさまざまな側面について明 確な責任の分担に決め、対応のずれを明らかにしてそれを是正し、人道 原則の効果的適用を進める(www.humanitarianinfo.org/iasc を参照)。 人道援助に対する「クラスター・アプローチ」は、高い水準の予測可 能性、説明責任、パートナーシップを確保することによって人道対応を 強化しようとするものである。いかなる主要な新規もしくは既存の緊急 事態も以下のクラスターという観点から対応される。それぞれのクラス ターは先導機関もしくは先導諸機関を持ち、さまざまな国連内外のパー トナーを持つ。 農業(FAO)、キャンプの調整と管理(UNHCR は紛争による避難民、 IMO は自然災害による移住者) 、早期復興(UNDP)、教育(ユニセフと セーブ・ザ・チルドレン世界連盟)、緊急シェルター(UNHCR は紛争 による避難民、国際赤十字社・赤新月社連盟が災害)、緊急電気通信 (OCHA、電気通信サービスはユニセフと WFP)、健康(WHO) 、後方 支援(WFP) 、栄養(ユニセフ)、プロテクション(UNHCR)、水、衛 生施設、衛生(ユニセフ)。 (より以上の情報については、www.humanitarianreform.org を参照)
年以来、OCHA は、244件の統合アピールや「緊急」アピールを行って、 緊急援助用に300億ドルの拠出を受けた。 OCHAの「国連中央緊急対応基金 (Central Emergency Response Fund: CERF) 」は、緊急事態に即時に対応できるように、改善された融資機構
として2006年3月に発足した。この基金が設立されたのは、一連の非常 に破壊的な自然災害、2004年12月の津波や南アジアの地震、かつてな かったほどのハリケーン・シーズン、フィリピンの大規模の地すべりな どが発生したことを受けてのことであった。こうした災害はほとんど何 の予告もなしに発生し、迅速な緊急救援や復興の対応を迫られた。 2006年、CERF は35カ国の340件のプロジェクトに対し、2億5,000万 ドルを超えるコミットメントを行った。その3分の2は、スーダンやレ
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バノンのような迅速な対応を必要とする緊急事態のためであり、残りは コンゴ民主共和国やチャドのように、資金が十分でない緊急事態で優先 的に取り組む必要のある事業のためであった。12月に開かれたハイレベ ル会議において、51カ国の援助国が2007年の活動のために3億4,000万 ドルの誓約を行った。 OCHA はまた、人道社会のパートナーとともに政策についてコンセ ンサスを作るとともに、実際の救援活動から生じる特定の人道問題など を明らかにする。また、既存の人道機関の任務のあいまいな問題など、 主要な人道問題が解決されるように努める。 人道問題を啓発することによって、OCHA は無言の危機犠牲者に代 わって発言し、人道社会の見解や懸念が復興と平和の建設への総合的な 努力の中に反映されるようにする。また、人道規範や原則がより以上に 尊重されるようにするとともに、被災者へのアクセスや制裁の人道上の 影響、対人地雷、小型武器の自由な拡散のような特定の問題に注意を喚 起する。 人道擁護、政策決定、緊急調整を支援して、OCHA は強固なオンラ インを確立した。現在、 「ReliefWeb」の管理を行っている。これは世界 でももっとも重要なウェッブ・サイトで、世界の緊急事態についてもっ とも新しい情報を提供する。また、IRIN のホストも務めている。これは、 人道社会を対象にサハラ以南のアフリカ、中東、中央アジアについて正 確かつ公平な報告と分析を提供するニュース・サービスである(www. irinnews.org を参照) 。
援助と保護の提供 主に国連児童基金(ユニセフ)、世界食糧計画(WFP)、国連難民高等 弁務官(UNHCR) の3つの国連機関が、人道危機の際に保護と援助を 提供する。 子どもと女性は難民と避難民の多数を占める。厳しい緊急事態の際は、
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s Fund: ユニセフ)が他の救援機関と 国連児童基金(United Nations Children’
協力して水と衛生施設のような基礎サービスの再建を助け、学校を再開 させ、予防接種や医薬品、その他を家や土地を失った人々へ提供する。 ユニセフはまた一貫して、子どもの保護のためにより効果的な行動を とるよう政府や交戦当事者に要請する。紛争地帯では、子どもの予防接 種のようなサービスを提供できるように停戦について交渉することもあ る。そのため、ユニセフは戦争地帯で「平和地帯としての子ども(children as zones of peace) 」の概念を打ち出し、また「休戦の日(days of tranquility) 」
や「平和の回廊(corridors of peace)」を創設した。精神的外傷に苦しむ 子供のために特別援助計画を実施し、また親族からはぐれた子どもたち が両親や近親者と再会できるようにすることも行っている。2006年、ユ ニセフは53件の緊急事態に関連した人道援助で5億300万ドル以上の援 助を行った。 世界食糧計画(World Food Programme: WFP) は、難民や国内避難民も 含め、自然災害や人為的災害の何百万という被災者を対象に迅速、効率 的かつ自立を促す救援活動を開始する。WFP の財政的、人的資源のほ とんどがそうした危機のために使われる。10年前、WFP が提供した食 糧援助3トンのうちの2トンが、人々の自立を助けることに使われた。 今日、状況はすっかり変わり、WFP 資源の8割近くが人道危機の犠牲 者のために使われている。2006年、そのことは6,340万人に対する援助 を意味した。国内避難民、難民、エイズによって両親を失い孤児になっ た子どもたち、紛争や洪水、干ばつのような自然災害の犠牲者などで あった。援助は37件の短期緊急援助活動、53件の長期救済復興活動、35 件の特別活動を通して行われた。 戦争または災害が発生すると、WFP は緊急救援活動を持って迅速に 対応し、生活や生計の建て直しを目的に円滑かつ効果的な復興のための 活動を開始する。WFP はまた、UNHCR が管理するすべての大規模な 難民給食活動のために食糧や資金を動員する責任も負っている(人道危 機における UNHCR の役割については、以下の「難民の国際的保護と援助」 の項を参照) 。
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戦時における子どもの保護 今日、世界の30以上の紛争状態に中で、25万人以上の18歳未満の若者 が残忍にも兵士として搾取されている。7、8歳の少女や少年もいる。 戦争や内戦で200万人の子どもたちが殺され、600万人が重傷を負うか生 涯の障害者になった。何千人もの少女たちは暴行やその他の性的な暴力 や搾取の対象となっている。少年たちや少女たちは未曾有の規模で自宅 から誘拐されている。その他にも多くの子どもたちが戦争によって孤児 となり、また両親から引き離された。 こうした悲劇をなくするために、安全保障理事会は、子どもを兵士と して利用することを終わらせ、かつ紛争から子どもを守るために一層の 努力を行うよう要請した。平和維持活動は子どもの保護をその任務の一 つとしている。コンゴ民主共和国やコートジボアールへ派遣された平和 維持活動のように、いくつかのミッションには子どもの保護に関する文 民の専門家も含まれている。 紛争中に子どもを保護するための規範や基準の枠組みは、長年にわ たって培われてきた。たとえば以下の通りである。 ・国際刑事裁判所ローマ規程――15歳未満の子どもを徴募もしくは入隊 させること、または敵対行為に直接に参加させることを戦争犯罪に分 類している。 ・子どもの権利に関する条約の選択議定書――強制的徴募および敵対行 為の直接参加の年齢制限を18歳とし、かつ任意の徴募のための最低年 齢を16歳に引き上げるよう締約国に要請している。 ・6件の安全保障理事会決議――紛争時における子どもの保護に関する 決議1261(1999年)、1314(2000年)、1379(2001年)、1460(2003年)、 1539(2004年)と1612(2005年)。 ・紛争時における子どもの保護に関する決議。 ・ILO 条約182――子どもの兵士を最悪の形態の児童労働であると定義 づけ、強制的かつ義務的徴募のための最低年齢を18歳と定めた。 ・ジュネーブ諸条約と追加議定書――子どもは特別の尊重の対象であり、 武力紛争時にはいかなる形態の暴行からも保護されなければならない と規定している。また、「必要とする援助とケア」を提供しなければ ならない。 事務総長の「子どもと武力紛争」特別代表は、1997年以来、グローバ
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ルな意識を高め、かつ政府や市民社会の政治的支援を動員することに努 めている。特別代表は、戦時における子どもの権利の侵害に関する監 視・報告メカニズムを強化し、子どもの福祉を和平の議題に載せること や紛争後の復興計画の中心に子どものニーズを持っていくことなど、重 要な措置の主要な唱道者である。 特別代表は、戦争地帯へ出かけて行き、紛争中や紛争後の状況の中で 子どもの保護と福祉を守るという重要なコミットメントを政府や反政府 勢力に求め、またそのコミットメントを得てきた。それに加え、ユニセ フは長年にわたって政府や反政府勢力とともに子どもの兵士の動員解除 や家族との再会、社会への統合の促進に努めている。
開発途上国の農村人口は災害に対してもっとも脆弱である。これらの 農村のほとんどがその食糧安全保障と生計を農業に依存している。した がって、農業、家畜業、漁業、林業についての国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations: FAO) の専門知識は、緊急
救援や復興にとって不可欠である。 FAO は、防災、災害の緩和、準備、対応について国々を援助している。 FAO の「 全 地 球 情 報・ 早 期 警 報 シ ス テ ム(Global Information and Early Warning System) 」は、世界の食糧情勢に関する最新の情報を定期的に提
供するものである(www.fao.org/giews を参照)。また、WFP とともに、人 為的災害や自然災害ために食糧の供給が不安定な国の食糧事情について の評価も行う。これらの評価に基づいて、緊急食糧援助作戦が作成され、 FAO と WFP によって承認される。 災害後や複合緊急事態における FAO の活動は、農業生活の保護と復 興を中心に進められる。FAO は、現地の農業生産を回復させ、それに よって食糧援助やその他の形の援助から抜け出し、自立を高め、救援や 有害な対処方法の必要を軽減させることを目指す。 世界保健機関(World Health Organization: WHO)の援助プログラムは、 緊急事態や災害の被災者の保健に関するニーズを評価することに焦点を 合わせ、保健に関する情報を提供し、調整や計画策定を支援する。 WHO は栄養や伝染病の監視、感染症(HIV/エイズを含む)の予防、予
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国連職員および人道要員の保護 現地における国連職員やその他の人道関係者は引き続き攻撃の対象と なっている。この数年、紛争地帯で働く国連職員は殺され、拉致され、 拘留された。国連職員に対する暴力には強奪、襲撃、レープなども含ま れる。 国際社会の代表としての国連職員の知名度が高いことから、攻撃の対 象になりやすい。そのためかなりのリスクを常に負わされている。この ことは2003年8月19日、衝撃的なまでに現実のものとなった。この日、 バグダッドの国連現地本部が爆弾攻撃を受け、22人が死亡し、150人以 上が負傷した。国連ミッションの団長としてイラクに赴任していたセル ジオ・ビエイラ・デメロ国連人権高等弁務官も死亡した職員の一人で あった。それはまさに国連の文民職員を目標とした細心の注意を持って 準備された、残忍な攻撃であった。国連の58年の歴史の中で初めてのこ とであった。 国連職員の保護と人道要員の安全に関する総会あての年次報告の中で、 潘基文事務総長は、2007年9月、人道要員が引き続き人質事件の目標と なっている気がかりな傾向や紛争地帯、とくに国連平和維持活動や平和 構築活動が行われている地域の国連要員に対する意図的な威嚇、それに 国連や人道機関の現地採用職員の脆弱性について深く懸念していると述 べた。 「国連要員および関連要員の安全と保護に関する主要な責任はホスト 国政府にある」ことに留意するとともに、事務総長は、緊急時対策、情 報交換、リスク評価、刑事免責など、国連とホスト国との間の安全に関 する協力の重要性を強調した。 すべての国は、現地採用の国連要員や関連要員に対する攻撃もしくは その他の威嚇を国際的に十分に調査しておらず、また、実行者を国際法 および国内法のもとに責任をとらせていない。事務総長はこうしたこと に留意し、「人道要員および国連要員の保護に関する国際的に合意され た原則を引き続き順守している」国の政府や国家機関、地方当局、担当 官を称賛した。 1994年の「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約(Convention on the Safety of United Nations and Associated Personnel)は、国連職員の 安全を確保し、殺害や誘拐の予防対策をとることを国連が活動する国の
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政府に義務付けている。 *事務総長報告は、オンラインで「国連公式文書システム(http://documents. org)に入り、文書番号 A/62/324を探すと、読むことができる。
防接種、基本的な薬品や医療器具の管理、性と生殖の健康と精神の健康 などの領域で緊急援助計画を実施する。WHO はポリオを撲滅し、緊急 事態発生の国において結核やマラリアの発生を食い止めるために特別の 努力を行っている。 国連人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA) もまた、災害が 発生すると迅速に行動する。混乱時には妊娠に関係した死亡や性的暴力 が急増する。リプロダクティブ・ヘルス・サービスがしばしば利用でき なくなる。若い人々はエイズ・ウィルスへの感染や性的搾取に脆弱とな る。そして、多くの女性は家族計画サービスを受けられなくなる。緊急 事態においては、UNFPA は、危機にある地域社会のリプロダクティ ブ・ヘルスを保護し、これらの地域社会が危機的段階から再建の段階へ と移れるように援助する。 国連開発計画(United Nations Development Programme: UNDP) は、自然 災害の緩和、予防、事前対策などの活動を調整することに責任を持って いる。復興計画の策定援助や援助資金の動員などを UNDP に要請する 政府も多い。UNDP と人道機関はともに、復興および移行期や長期の開 発に対する関心が救援活動の中に統合されるようにする。UNDP はまた、 元戦闘員の動員解除、包括的な地雷除去、難民や国内避難民の帰還と再 統合、政府機関の復旧などの計画を支援する。 提供された資源が最大限に活用されるように、それぞれのプロジェク トは地方自治体や政府の担当官との協議の下に進められる。この地域社 会に根ざしたアプローチのもとに、何十万という戦争や国内動乱の被害 者に緊急かつ恒久的な援助を行うことができた。現在、紛争の傷跡を残 した多くの地域社会で訓練計画や信用制度、インフラ整備が進められ、 それによって生活水準の改善が行われている。
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難民の国際保護と援助 2006年末現在、国連難民高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Refugees: UNHCR) は、戦争や迫害から逃れたおよ
そ3,300万人の人々に国際的な保護と援助を提供した。そのうちの990万 人が難民で、1,280万人が国内避難民、580万人が無国籍者、260万人が 帰還難民、200万人近くが庇護を求める者や UNHCR が関心を持つ人々 であった。 UNHCR は戦後の歴史の中で発生した主要な緊急事態のいくつかにお いて主導的な人道機関の一つであった。たとえば、第二次世界大戦後の ヨーロッパでは最大の難民を生み出したバルカンで、湾岸戦争の余波の 中で、アフリカの大湖地域で、コソボや東ティモールからの大量出国に おいて、アフガニスタンの帰還作戦において、そしてより最近ではイラ クからの難民の集団脱出において、UNHCR は主導的な人道機関として の役割を果たした。 難民とは、人種、宗教、国籍、政治的意見もしくは特定の社会的集団 の構成員であることを理由に迫害の恐れのあるという十分な理由のある 恐怖を有するために自国からのがれ、かつ自国へ帰ることができず、ま たそれを望まない者であると定義されている。 難民の法的地位は2つの国際条約、すなわち1951年の「難民の地位に 関する条約(Convention relating to the Status of Refugees)」と1967年の「議 定書(Protocol)」に定義づけられている。難民の権利や義務も規定され ている。147カ国が条約と議定書のいずれか、もしくは双方に加入して いる。 UNHCR のもっとも重要な任務は難民の国際保護である。庇護を求め ることができることなど、難民の基本的な人権が尊重されるようにし、 かついかなる者も迫害を恐れる理由のある国へ強制的に送還させられる ことがないようにする。その他、以下のような援助を行う。
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自分の国で難民として 国内避難民(internally displaced persons: IDPs)とは、戦争や一般化し た暴力、人権侵害もしくは自然および人為の災害を避けるために自分の 故郷から逃げ出さざるをえなかった人々で、かつ国境線を超えなかった 人々のことである。内戦によって世界の各地で大量の国内避難民が生ま れた。現在、国内避難民の数は1,280万人と推定され、難民の数よりも 多い。 難民は一般に第二の国で安全な場所や食糧、住居を得ることができる。 彼らははっきりとした国際法や条約によって保護され、UNHCR やその 他の機関の援助を受ける。しかし、国内避難民の場合、進行中の紛争の 中に閉じ込められ、交戦当事者の意のなすままである。救援は運任せで、 不可能な場合もある。 それにもかかわらず、国内避難民も難民と同様に即時の保護と援助を 必要としている。帰還や再定住など、長期的な解決も必要である。UNHCR はいろいろな地域や国でそうした人々への援助を求められるよう になった。たとえば、コロンビア、コートジボアール、コンゴ民主共和 国、イラク、レバノン、スリランカ、東ティモール、ウガンダ、その他 である。難民の地位というよりは、人道的ニーズに基づく援助の提供で ある。しかし、手ごわい仕事である。 いかなる国連機関も単独で国内避難民を保護、援助する任務も資源も 持たない。そのため、機関間常設委員会(IASC)は、2005年に、それ ぞれの機関が人道危機に応えて資源をプールする協調モデルを開発した (www.humanitarianreform.org を参照)。 この新しい「クラスター・アプローチ」のもとに、UNHCR は、2006 年1月1日、保護、緊急シェルター、キャンプの調整と管理に関係する クラスターにリーダーシップ、責任、説明責任を持つことになった。 自然災害による事態の場合、シェルターについては国際赤十字社・赤 新月社連盟(IFRC)と、キャンプについては国際移住機関(IOM)と、 保護については国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)および国連児童 基金(ユニセフ)と先導を共有する。
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・大量の難民の移動を含む大規模な緊急事態の際の援助 ・教育、保健、住居のような分野における通常の援助 ・難民の自立とホスト国への統合を促進する援助 ・自発的な帰還 ・自国へ帰還できない難民で、最初に庇護を求めた国で保護の問題に 直面している難民のための第3国での再定住 UNHCR の任務は難民を保護かつ援助することであるが、難民のよう な状況のもとで生活するより広い範囲の人々を援助するよう求められる ことがますます多くなった。たとえば、自国内で避難している人々、一 旦帰還すると UNHCR のモニタリングと援助を必要とするような元難民、 無国籍者、自国外で一時的な保護を受けるが難民としての完全な法的地 位に当てはまらない人々である。現在、難民の数は UNHCR が関心を寄 せる人々の第二の最大グループである。 庇護を求める人々とは自国を出国し、他の国で難民として認定される よう申請したが、まだ結論が出ていない人々である。2006年末現在、こ のカテゴリーに入る73万8,000人の人々を援助した。庇護を求める人の おもな目的地は南アフリカであった。ついで、アメリカ、ケニア、フラ ンス、イギリス、スウェーデン、カナダと続いた。2006年にはおよそ3 万4,200人のイラク人が70カ国以上の国々で庇護を求めた。この数はソ マリアの方がわずかながら多く、4万5,600人のソマリア人が庇護を求 めていた。 ほとんどの難民は状況が許し次第すぐにでも帰還することを望む。 2006年末現在、帰還難民として UNHCR の援助を受けていた人の数は 260万人で、実際に帰還した人の数は、70万人以上であった。難民の3 つの主要な恒久的な解決方針は、1)安全かつ尊厳のもとでの母国への 自発的帰還、2)可能ならば、庇護の国への統合、3)第3国への再定 住。自発的な帰還は、一般に好ましい選択肢だと見なされている。 しかし、多数の人々が急に帰還すれば、脆弱な経済社会基盤は早急に 対応できなくなる。帰還難民が帰国後に自分たちの生活を再建できるよ うにするため、UNHCR は各種の機関とともに、社会への再統合をはか
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避難する人々 UNHCR が関心を持つ人々の数
総数:3,290万人 (地域別)
アフリカ 980万人 アジア 1,500万人 ヨーロッパ 340万人 ラテンアメリカ・カリブ 350万人 北アメリカ 110万人 大洋州 8.6万人 430万人以上のパレスチナ人は UNRWA の援助を受けており、この表 の中には含まれていない。しかし、イラクやリビアのように UNRWA の活動地域外のパレスチナ人は UNHCR の関心事となっている。 *2007年1月1日現在の難民、庇護を求める者、帰還者、国内避難民、そ の他を含む。 出典:UNHCR
る。このためには、必要としている人々に対する緊急援助、荒廃してし まった地域のための開発計画、そして雇用創出が必要である。 平和、安定、安全保障、人権尊重、持続可能な開発、こうしたことす べてを結びつけることが難民問題の恒久的な解決に不可欠である。
パレスチナ難民 国連パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East: UNRWA)は、1950年以来、教育、保健、
救済、社会的サービスをパレスチナ難民に提供してきた。総会は、1948 年のアラブ・イスラエル戦争で住居や生計を失ったおよそ75万人のパレ スチナ難民を緊急に救済するために UNRWA を設立した。2006年末現在、
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UNRWA はヨルダン、レバノン、シリア・アラブ共和国、パレスチナの 被占領地(西岸とガザ地区で構成)に住む450万人以上の登録パレスチナ 難民に基本サービスを提供した。 UNRWA の人道的役割は度重なる紛争によって拡大されてきた。たと えば、レバノンの内戦、1987−1993年のパレスチナ人の蜂起(インティ ファーダ)、2000年9月に始まった2度目のイスラエル/パレスチナ間
の暴力行為の発生、2006年と2007年のレバノンにおける対立、である。 UNRUWA の最大の活動領域は教育で、通常予算の60パーセント近く を占め、また職員の72パーセントが教育活動に携わっている。2006/ 2007年では666の小学校や中学校でおよそ48万5,000人以上の生徒が学び、 8つの UNRWA 職業訓練センターでは5,700人以上が研修を受けた。 UNRWA の128の保健センター・ネットワークは2006年7月から2007年 6月までに900万人以上の外来患者の治療にあたった。また、難民キャ ンプに住む130万人以上の難民に対して環境保健サービスを提供した。 2006年、自立できないおよそ25万人のもっとも貧しい難民は、食糧や 住居の提供など、特別の生活保護手当てを受けた。他方、被占領パレス チナ、シリア、ヨルダンにおける零細企業や中小企業に対して、所得創 出計画は2006年に1,530万ドルに相当する1万4,023件の小口融資を行っ た。 2006年には特別の生活保護手当てを受けたのはおよそ25万人であった が、それは最低基準の栄養と住居を提供し、貧困撲滅計画を通して彼ら の自立を促すためのものであった。西岸やガザ地区の所得創出計画は中 小企業や小規模企業に対して1億3,110万ドルに相当する12万6,474件の 融資を行った。 1993年、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との間の合意が見 られ、それに続いてパレスチナの被占領地にパレスチナ自治政府が樹立 されたことを受けて、UNRWA は和平合意による恩恵が地方レベルでも 受 け ら れ る よ う に「 和 平 実 施 計 画1993−1999年(Peace Implementation Programme)」を発足させた。UNRWA の継続的な援助によって、インフ
ラが整備され、雇用が創出され、社会経済状態が改善された。2007年6
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月現在、1,000件近くの UNRWA プロジェクトは、4億6,110万ドルの拠 出や誓約を受けた。 国際社会は、UNRWA は中東情勢を安定させる要因であると見なして いる。難民自身も UNRWA の事業はパレスチナ難民問題を解決すると いう国際社会のコミットメントの象徴であると見ている。
第Ⅱ部 第6章
国 際 法 International Law
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国連のもっとも知られた業績の中に、経済社会開発や国際の平和と安 全を促進するうえで中心的役割を果たす国際法――条約や規約、基準 ――の発達に貢献したことがある。国連がもたらした条約の多くは、国 家間の関係を規制する法律の基礎となっている。この領域における国連 の活動は常に注目を浴びるものではないが、世界のあらゆる地にあって 人々の日常の生活に影響を与えている。 国連憲章は、仲裁や司法的解決など、平和的手段による国際紛争の解 決(第33条)を助け、 「国際法の漸進的発達と法典化」(第13条)を奨励 するよう国連に求めている。これまで国連は、広範にわたる国家間の共 通の関心事項を取り上げ、批准する国家を法的に拘束する500件以上の 多国間協定の締結に力を貸してきた。 国連の法律活動は、問題の国際的側面を取り上げ、多くの領域で新生 面を開拓してきた。活動の最前線に立ち、たとえば、環境を保全し、移 住労働に関する規則を作り、薬物の取引を抑制し、テロリズムと闘うた めの法的枠組みを提供してきた。この作業は今日でも続いている。人権 法や国際人道法など、国際法が広範に及ぶ問題で中心的な役割を果たす ようになった(国連と国際法については www.un.org/law を参照。国連法務部 については http://untreaty.un.org/ola を参照)。
紛争の司法的解決 紛争の解決に責任を持つ国連の主要機関は、国際司法裁判所(International Court of Justice)である。一般に世界法廷としても知られるこの裁判所は、
国 際 法 407
1946年に創設された。2007年10月現在で、司法裁判所は、国家が提訴し た紛争に対して93件の判決を行い、権限のある国連機関からの要請に応 えて25件の勧告的意見を発表した。ほとんどの事件は本法廷で取り上げ られたが、1981年以降、6件の事件が当事国の要請で特別裁判部(小法 廷)へ付託された(裁判所のホームページ、www.icj-cij.org を参照)。
その判決の中で、司法裁判所は、経済的権利、航行の権利、武力の不 行使、国家の内政への不干渉、外交関係、人質、庇護の権利と国籍など、 さまざまな国際紛争に関する事件を取り上げた。国家がそうした紛争を 司法裁判所に持ちこむのは、法に基づく問題の公平な解決を求めるから である。国境や海洋境界線、領土権のような問題を平和的に解決し、そ れによってしばしば紛争の拡大防止に貢献した。 典型的な領土権に関する事件では、裁判所は2002年、石油資源の豊富 なバカシ半島に関するカメルーン対ナイジェリアの主権をめぐる紛争を 解決し、次いで両国間の国境と海洋境界線の問題も解決した。その年の 初め、裁判所はセレベス海の2つの島に関するインドネシア対マレーシ アの主権紛争を取り上げ、マレーシアの主権を認めてその紛争を解決し た。2001年には、カタール対バーレーンの海事・領土紛争を終わらせた。 それは両国間の緊張した関係の原因となっていた。 1999年、裁判所はボツワナ対ナミビアの微妙な国境紛争を双方に受け 入れられるような形で解決した。1992年、裁判所はエルサルバドル対ホ ンジュラスの紛争を解決した。この紛争は一世紀近くも続いたもので、 1969年には短期間であったが残虐な戦争にまで発展した紛争であった。 1994年、裁判所は、リビアとチャドが共同で提訴した紛争を取り上げ、 領土の分割はリビア、フランス間の1955年条約によって画定されもので あるとの判決を行った。その結果、リビアはチャドとの南部国境線に 沿った地帯から軍隊を撤退させた。 紛争や政治的動乱を背景に多くの事件が裁判所に付託された。1980年、 アメリカは在テヘラン大使館の占拠と職員の抑留に関する事件を裁判所 に訴えた。裁判所は、イランは人質を釈放し、大使館を返還し、損害を 賠償しなければならないとの判決を行った。しかし、裁判所が賠償額を
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定める前に、両国間の合意によって訴えは撤回された。1989年、イラン は、米軍艦によるイラン航空機の撃墜を非難し、アメリカがイランに賠 償金を支払う責任があると認めるよう裁判所に要請した。賠償金に関す る解決がみられ、1996年に本事件は終結した。 1986年、アメリカがニカラグアの反政府勢力「コントラ」を支援して いるとしてニカラグアがアメリカを訴えた。裁判所は、コントラを支援 し、ニカラグア港の外に機雷を敷設したことは、集団的自衛権に基づく 行為だと正当化し得ない行為であり、アメリカは他国の内政に干渉せず、 他の国に対して武力を行使せず、他国の主権を侵害しないという国際的 な法的義務に違反した、との判決を行った。しかし、1991年、賠償額が 決定される前に、ニカラグアは事件の取下げを要請した。 1992年、リビアは「ロカビー」事件について2つの事件を提訴した。 1988年、スコットランドのロカビー上空で起きたパンナム機103便の爆 破事件に関連し、「民間航空の安全に対する不法行為の防止に関する条 約(Convention for the Suppression of Unlawful Acts against the Safety of Civil Aviation)」の適用についての解釈に関するもので、1件はイギリスに対
して、もう1件はアメリカに対して行われた。2003年9月、当事者間の 合意により、両事件とも裁判所の事件表から取り除かれた。 1993年、ボスニア・ヘルツェゴビナは、「集団殺害罪の防止および処 罰に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide)」の適用に関してユーゴスラビア連邦共和国(現在、セルビア 共和国)を裁判所に訴えた。それは、おもに1995年7月13日から16日に
かけて、スレブレニツァで起こった大虐殺に関するものであった。司法 裁判所は、2007年2月26日の判決で、虐殺は連邦共和国の指示に基づい て、またはその実効的支配下のもとに、もしくは事前の知識を持って行 われたことは立証されなかった、と述べた。したがって、国際法のもと では連邦共和国はジェノサイド行為を行わなかった。 しかし、被告国の当局は、VRS 部隊(スルプスカ共和国軍)がいった ん「スレブレニツァ飛び地」の占有を決定した場合にはジェノサイド行 為の危険があることに気づかないはずはなかった、との判断を示した。
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それにもかかわらず、被告国は、そうする権限がないと主張して、スレ ブレニカの虐殺を防止する措置はなにも取らなかった。VRS 部隊に対 する影響力は周知の事実であり、連邦共和国の主張は認められない。 従って、集団殺害の防止のためにいかなる措置も取るという条約の下の 義務に違反した。 1996年、米戦艦によるイランの石油掘削用プラットフォームの破壊に 関する事件で、裁判所には管轄権がないとするアメリカの主張を退けた。 2003年11月、裁判所は、アメリカの行動は国家安全保障上必要であった として正当化させるものではないとの判決を行った。しかし、これらの 行動は商業の自由に関する義務の違反を構成するものではないとして、 イランの賠償要求は求められなかった。また、アメリカの同様の請求も 認めなかった。 経済的権利に関する事件も多く提訴される。1995年、カナダと欧州連 合との間の漁業管轄権に関する紛争との関連で、カナダが公海上でスペ インのトロール船を拿捕したことから、スペインはカナダを訴えた。環 境保全に関する事件は、ドナウ川の共同ダム建設に関して結ばれた1997 年条約の有効性に関する紛争で、ハンガリーとスロバキアによって提訴 された。1997年、裁判所は、双方が法的義務に違反しているとして、 1997年条約を履行するよう両国に要請した。 2007年10月8日、カリブ海の海洋画定に関する2国間の法律問題に関 してニカラグアがホンジュラスを訴えた事件について、司法裁判所は判 決を下した。司法裁判所は、ホンジュラスがいくつかの係争中の島嶼 (ボベル・ケイ、サバンナ・ケイ、ポート・ロイヤル・ケイ、サウス・ケイの 4島)に対して主権を有するとの判決を行い、境界線の開始点と単一の
境界線を決定した。裁判所は、裁判所によって決定されたように、ホン ジュラスとニカラグア間の陸上境界線の現開始点と両国間の海上境界線 の現終点との間の境界線のコースに合意する目的で誠実に交渉するよう 両当事国に指示した。 1970年代以降、裁判所に提訴される司法事件の数は大幅に増えた。当 時は裁判所の事件表には1、2件の事件しか載っていなかった。しかし、
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この10年でその数は20件を超えるまでになった。2006年末現在、審理中 の事件は14件で、そのうちの2件については具体的な審理が行われてい る。 裁判所の勧告的意見は、たとえば、国連加盟の承認、国連勤務中に受 けた損害の賠償、西サハラの領土的地位、ある種の平和維持活動の費用、 ごく最近では国連人権報告者の地位に関するものであった。総会と世界 保健機関の要請で1996年に与えられた2つの勧告的意見は、核兵器によ る威嚇もしくはその使用の合法性に関するものであった。 安全保障理事会の要請で出された1971年の勧告的意見の中で、裁判所 は、南アフリカがナミビアに居座ることは違法で、南アフリカはその行 政を引き上げ、同地域の占領を終わらせ、ナミビアの究極的独立への道 を整えなければならない、と述べた。
国際法の発達と法典化 国際法委員会(International Law Commission) は1947年、国際法の漸進 的発達と法典化を促進する目的で総会によって設置された。委員会は、 総会が5年の任期で選ぶ34人の委員で構成され、毎年開かれる。集団的 には、各委員は世界の主要な法体系を代表し、自国政府の代表としてで はなく個人の資格の専門家として務める。委員会の作業は、国家間の関 係を規制する国際法の広範な事項を取り上げる(www.un.org/law/ilc を参 照) 。
委員会の作業のほとんどは、国際法のさまざまな側面に関して草案を 作成することである。いくつかの項目は委員会自身が選ぶが、他は総会 から委員会に付託される。委員会がある項目についての作業を終了する と、総会が全権大使による国際会議を開き、草案を条約の形にする。条 約は、締約国になるように諸国家に開放される。締約国になることは、 条約の規定に拘束されることに正式に同意することを意味する。これら の条約のいくつかは、国家間の関係を規制する法律の根本的な基礎を形
国 際 法 411
成している。以下はその例である。 ・国際水路の非航行利用に関する条約(Convention on the Non navigational Use of International Watercourses)――総会が1997年に採択したもので、
2カ国以上の国が利用する水路の公平かつ合理的な利用を定めてい る。 ・国と国際機関との間又は国際機関相互の間の条約法に関する条約 (Convention on the Law of Treaties between States and International Organizations or between International Organizations)――1986年にウィー
ンで開かれた会議で採択された。 ・国家の財産、公文書および債務に関する国家承継に関する条約 (Convention on the Succession of States in Respect of State Property, Archives and Debts)――1983年にウィーンで開かれた会議で採択。
・外交官も含む国際的に保護される者に対する犯罪の防止および処罰 に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of Crimes against Internationally Protected Persons, including Diplomatic Agents)―― 総 会 が
1973年に採択。 ・条約法に関する条約(Convention on the Law of Treaties)――1969年に ウィーンで開かれた会議で採択。 ・外交関係に関する条約(Convention on Diplomatic Relations, 1961年)お よび領事関係に関する条約(Convention on Consular Relations, 1963年) ――ウィーンで開かれた会議で採択。 1999年、国際法委員会は国家の解体もしくは領土の分離などの際に無 国籍者にならないようにする宣言案を採択した。国家の責任が1949年の 第一回会期からの主要な研究課題となってきた。2001年、委員会は「国 際違法行為に対する国家の責任」に関する条項案を採択して、この問題 に関する研究を終了した。同じく2001年、委員会は、危険な活動から生 じる越境損害の防止に関する条項案を採択した。 2006年、委員会は、外交的保護に関する条項草案セット、危険な活動 から生じる越境損害における負担の分配に関する原則案、法的義務を創 設し得る国の一方的宣言に適用される基本原則を採択した。また、第一
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読を終えた越境滞水層の法律に関する条項草案セットも採択した。そし て、研究グループの報告と結論に留意して、「国際法のフラグメンテー ション:国際法の多様化と拡大から生じる困難」の議題に関する審議を 終えた。 その他、委員会が現在取り上げている問題には、条約の留保、武力紛 争が条約に及ぼす影響、国際機関の責任、外国人の追放、引渡しまたは 訴追の義務、共有天然資源などがある。
国際商取引法 国連国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade law: UNCITRAL)は、国際商取引法の調和を図るために条約やモデル法、
規則、法的指針を発達させ、それによって世界の取引を円滑にする。委 員会は1966年に総会によって設置され、世界の地理的地域と主要な経 済・法律体制を代表する60カ国から構成される。UNCITRAL は、国際 商取引法の分野では国連システムの中心的な法律機関である。国連法務 部の国際商取引法課が委員会の事務局をつとめる(www.uncitral.org を参 照) 。
過去41年の歴史の中で、委員会は広く受け入れられる法律を発展させ てきた。それは法律のさまざまな分野で画期的だと見なされている。た とえば、1976年の「UNCITRAL 仲裁規則(UNCITRAL Arbitration Rules)」、 1980年の「UNCITRAL 商事調停規則(UNCITRAL Conciliation Rules)」、 1980年の「国際的動産売買契約に関する国連条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)」 、1985年の「国際商事仲裁に
関する UNCITRAL モデル法 (UNCITRAL Model Law on International Commercial Arbitration) 」、1994年の「物品、工事およびサービスの調達に
関する UNCITRAL モデル法(UNCITRAL Model Law on Procurement of Goods, Construction and Services) 」、1996年の「仲裁手続きの組織に関する UNCI-
TRAL 覚書(UNCITRAL Notes on Organizing Arbitral Proceedings)」 、1996 年
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の「電子商業に関するモデル法(Model Law on Electronic Commerce)」 、 1997年 の「 国 境 を 越 え た 支 払 い 不 能 に 関 す る UNCITRAL モ デ ル 法 (UNCITRAL Model Law on Cross Border Insolvency)」などがあげられる。
その他、UNCITRAL が発展させた注目すべき文書には、1974年の「動 産の国際的売買における制限期間に関する条約(Convention on the Limitation Period in the International Sale of Goods)」 、1978年の「国連海上物品運送条
約=ハンブルグ規則(United Nations Convention on the Carriage of Goods by Sea: Hamburg Rules) 」 、1988年の「国際為替手形および国際約束手形に関
する国連条約(United Nations Convention on International Bills of Exchange and International Promissory Notes) 」、1988年の「国際的工業施設建設供給契約
に関する UNCITRAL 法律ガイド(UNCITRAL Legal Guide on Drawing Up International Contracts for the Construction of Industrial Works)」 、1991年の「国
際商取引における運送ターミナル・オペレーターの法的責任に関する国 連条約(United Nations Convention on the Liability of Operators of Transport Terminals in International Trade)」 、1992年の「国際見返り貿易業務に関する
UNCITRAL 法律ガイド(UNCITRAL Legal Guide on International Countertrade Transactions)」 、1995年の「独立保証及びスタンドバイ信用状に関する国
連条約(United Nations Convention on Independent Guarantees and Standby Letters of Credit) 」 、2000年の「民間融資インフラ整備プロジェクトに関する
UNCITRAL 立 法 ガ イ ド(UNCITRAL Legislative Guide on Privately Financed Infrastructure Projects) 」 、2001年の「国際取引における受取勘定の譲渡に
関する国連条約(United Nations Convention on the Assignment of Receivables in International Trade)」 、2001年の「電子署名に関する UNCITRAL モデル法 (UNCITRAL Model Law on Electronic Signatures)」 、2002年の「国際商事調停
に関する UNCITRAL モデル法 (UNCITRAL Model Law on International Commercial Conciliation) 」 、2003年の「民間融資のインフラ整備プロジェ
クトに関する UNCITRAL モデル立法規定(UNCITRAL Model Legislative Provisions on Privately Financed Infrastructure Projects) 」などがある。
最近採択された文書には、2004年の「倒産法に関する UNCITRAL 立 法ガイド(UNCITRAL Legislative Guide on Insolvency Law)」 、2005年の「国
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際契約における電子通信の使用に関する国連条約(United Nations Convention on the Use of Electronic Communications in International Contracts) 」、2006年 の
改定「UNCITRAL 国際商事仲裁モデル法(revised UNCITRAL Model Law on International Commercial Arbitration)」 、UNCITRAL が2006年に採択した
「1958年外国仲裁判断の承認および執行に関する条約(Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards) 」の第 II 条(第2項)
および第 VII 条(第1項)の解釈に関する勧告がある。 現在委員会が進めている作業には、国際海上物品運送に関する文書草 案、担保付取引に関する立法ガイド案がある。また、企業グループにお ける支払不能の問題、調達に関する UNCITRAL モデル法、UNCITRAL 仲裁規則、それに UNCITRAL に関する判例法(CLOUT)などもある。
環境法 国連は国際環境法の先駆者としてその発達に積極的に取り組んできた。 これまで、世界各地の環境保全に貢献した多くの主要な条約が生まれた。 国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)は、こうした 条約の多くを管理している。残りの条約は、条約によって設置された事 務局など、別の機関によって管理されている(www.unep.org/dec および www.unep.org/law を参照) 。
・1971年の「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地帯に関する 条約 (Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat, 1971年)」は、その管轄権のもとにある湿地帯を賢
明に利用することを締約国に義務付けている。国連教育科学文化機 関(ユネスコ)は条約の普及を進めている。 ・1972年の「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約 (Convention concerning the Protection of the World Cultural and Natural Heritage, 1972年)」は、ユニークな自然遺産および文化遺産を保護す
る義務を締約国に与えている。同様にユネスコによって促進されて
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いる。 ・ 「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 (Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora, 1973年) 」は、特定の野生動植物が生存できるように、割り当
てや全面禁止を通してその種もしくは標本の国際取引を規制する。 ・ 「移動性の野生動物種の保護に関するボン条約(Bonn Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals, 1979年) 」とそれと結び
ついた一連の地域協定や特定の動物種に関する協定は移動性の陸生 動物類、海洋動物類、鳥類とその生息地を保存することを目的とし ている。 (Convention on Long ・ 「長距離越境大気汚染に関する条約(酸性雨条約) range Transboundary Air Pollution: Acid Rain Convention, 1979年)」とその
諸議定書は、国連ヨーロッパ経済委員会(ECE)の主催のもとに交 渉されたもので、ヨーロッパおよび北米での大気汚染を規制し、か つ軽減させることを規定している。 ・ 「海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea, 1982年) 」は、多くの海事問題について包括的に規定してい
る。それには商船および軍艦の通航の権利、沿岸国の保護と海洋環 境、生物資源および非生物資源への権利、海洋の科学的研究などが 含まれる。 ・ 「オゾン層の保護に関するウィーン条約(Vienna Convention on the Ozone Layer, 1985年)」 、 「モントリオール議定書(Montreal Protocol, 1987年)」
およびその改正(Amendments)は、太陽の有害な紫外線から生命を 守るオゾン層の破壊を減少させる措置を求めている。 ・ 「有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規制に関する バーゼル条約(Basel Convention on the Control of Transboundary Movement of Hazardous Wastes and their Disposal, 1989年)とその改正は、国境を越
えて危険な廃棄物を運搬、投棄することを減らし、有害廃棄物の発 生を最小限に抑え、できるだけ発生源に近いところで環境上適正な 方法で管理することを締約国に義務付けている。締約国は1999年に
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議定書を採択し、有害廃棄物の国境を越えた移動から生じる責任と 補償を決めた。 ・ 「モントリオール議定書の実施のための多国間基金(Multilateral Fund for the Implementation of the Montreal Protocol, 1991年)」は、オゾン破壊
物質の国民一人当たりの年間消費と生産が0.3キロ以下の開発途上 国のモントリオール議定書締約国――議定書第5条適用国――が、 その規制措置を順守できるように援助するために設置された。多国 間基金に対する「議定書第5条」非適用国の拠出は、国連の分担率 に応じて決められる。 ・ 「バルト海および北海の小型鯨類の保存に関する協定(Agreement on the Conservation of Small Cetaceans of the Baltic and North Seas, 1991年) 」は、
移動性動物種に関する条約のもとに締結されたもので、小型鯨類の 好ましい保存状態を達成、維持するために締約国間の緊密な協力を 促進することを目的とする。締約国は、生息地の保存と管理、調査 と研究、汚染の削減、広報活動を行う義務を有する。 ・生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity, 1992年) は、生物の多様性を保存し、その構成要素の持続可能な利用を促進 し、かつ遺伝資源の利用から生じる利益が公平に配分されるように する。その「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(Cartagena Protocol on Biosafety, 2000年) 」は、現代のバイオ技術による遺伝子組
み換え生物(LMOs) がもたらすかもしれない危機から生物の多様 性を保護する目的をもつ。議定書は、意図的に環境に持ち込まれる LMO の最初の輸入に同意する前に、情報に基づく決定を行えるよ うに、事前に書面による通告と情報を提供する通報手続きを定めて いる。 ・気候変動に関する枠組み条約(Framework Convention on Climate Change, 1992年)は、地球の温暖化とその他の大気問題の原因となる温室効
果ガスの排出量を削減することを締約国に義務付けている。その京 都議定書(Kyoto Protocol, 1997年)は、気候変動に対する国際的な対 応を強化し、2008−2012年間に法的に拘束力のある排出目標を達成
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するよう先進工業国に要請している。議定書はまた、先進工業国が いかにしてその排出削減を行い、測定するかについて柔軟な取り組 みを認めるいくつかの機構を設けている。 ・ 「深刻な干ばつまたは砂漠化に直面している国(とくにアフリカの 国 ) に お け る 砂 漠 化 防 止 の た め の 国 際 連 合 条 約(United Nations Convention to Combat Desertification in Those Countries Experiencing Serious Drought and/or Desertification, Particularly in Africa, 1994年)」は、砂漠化
防止と干ばつの影響を緩和させる国際協力を促進する。 ・ 「黒海、地中海および接続大西洋海域における鯨類の保存に関する 協定 (Agreement on the Conservation of Cetaceans in the Black Sea, Mediterranean Sea and Contiguous Atlantic area, 1996年)」は、地中海や黒
海における鯨類に対する脅威を軽減することを目的としている。締 約国は、計画的な捕鯨を禁止する立法措置など、具体的な鯨類保存 計画を実施し、偶発的な捕鯨を最低限にし、保護海域を設けること が求められている。 ・ 「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質および駆除剤につい ての事前の情報に基づく同意の手続きに関するロッテルダム条約 (Rotterdam Convention on the Prior Informed Consent Procedure for Certain Hazardous Chemicals and Pesticides in International Trade, 1998年)は、有害
な化学物質もしくは駆除剤が健康および環境に及ぼす危険について の情報を輸入国へ提供することをその物質の輸出国に義務づけてい る。 ・ 「 残 留 性 有 機 汚 染 物 質 に 関 す る ス ト ッ ク ホ ル ム 条 約(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants, 2001年)」は、DDT や PCB、
ダイオキシンなど、ある種の高度に有害で、かつ高度に移動性が あって、食糧連鎖に蓄積するような駆除剤、工業用化学物資、副産 物の排出量を削減もしくは排除することを目的としている。 ・ASEAN 越境煙霧汚染に関する協定、2002年(ASEAN Agreement on Transboundary Haze Pollution) 」は、1997年と1998年に東南アジアを悩
ませた森林火災による息の詰まるようなスモッグの再発防止を目的
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としたものである。協定は、森林火災とその結果の煙霧汚染の監視、 評価、防止、準備、国家緊急対応、それに援助の提供を締約国に義 務付けている。1997−98年の森林火災によって生物多様性の宝庫で あるインドネシアの森林の1,000万ヘクタールが破壊され、2,000人 以上の人々が極度に高いレベルの危険な大気汚染にさらされた。 UNEP 地域海計画(UNEP Regional Seas Progoramme) は、13地域の140 カ国の参加国が、海洋環境や沿岸環境の持続可能な管理と利用を通して、 世界の海洋や沿岸部の加速する劣化に対処できるように助ける。ほとん どの場合、特定の問題に関する地域条約やそれに付随する議定書の形に よる強力な法的枠組みに基づいて行う。国連のパートナーには国連開発 計画(UNDP)、国連食糧農業機関(FAO)、ユネスコの国際海洋委員会、 国際海事機関(IMO)、国際原子力機関(IAEA)が入っている。
海洋法 「海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea) 」は、もっとも包括的な国際法の文書の一つである。その320の
条項と9の付属書は世界の海洋と沿岸国のためのすべてを包含した法体 系を構成し、海洋におけるすべての活動やその資源の利用を規制してい る。それには航行と上空飛行、鉱物資源の探査と開発、生物資源の保存 と管理、海洋環境の保護と保存、海洋科学研究が含まれている。その中 核となっている概念は、海洋に関するすべての問題は密接に関連しあっ ており、全体としての取り組みが必要であるということである。条約は、 一つの文書の中で、海洋の利用に関する伝統的な規則を法典化している ばかりでなく、最近になって現れてきた関心事項を規制する新しい規則 も組み入れている。海洋法条約はユニークな条約で、しばしば「海の憲 法」と呼ばれている(www.un.org/Depts/los を参照)。 海洋におけるいかなる活動も海洋法条約の規定に従って進められなけ ればならないことは、今では一般に受け入れられている。その理由は、
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条約がほとんど普遍的に受け入れられていることによる。2007年9月現 在、条約には、欧州共同体も含め、155カ国が加入し、その他の国々も 加入の手続きを進めている。ほとんどすべての国が条約の規定を認め、 実施している。 条約の影響 締約国は、国内および国際の立法措置を通して、また関連の政策決定 を通して、海洋法条約はこの分野における卓越した国際的な法律文書で あるとして、一貫してその権威を主張してきた。その明白な権威は条約 の主要条項のいくつかはほとんど普遍的に受け入れられていることでも 分かる。たとえば、12カイリの領海の巾、200カイリまでの「排他的経 済水域」に対する沿岸国の主権的権利と管轄権、また、200カイリまで の距離まで伸びる大陸棚もしくは、ある条件の下では、その制限を越え る大陸棚に対する主権的権利などである。同時に、領海における無害通 航、国際航行に使用されている海峡の通過通航、群島航路帯通過通行、 排他的経済水域における航行の自由、こうした権利を確立することに よって安定した航行が可能となった。 海洋法条約のほとんど普遍的な受諾が可能となったのは、「国連海洋 法条約第11部の実施に関する協定(Agreement Relating to the Implementation of Part XI of the Convention) 」が1994年に総会によって採択され、主に先進
工業国の署名を妨げてきた海底に関するある種の障害が取り除かれたか らであった。この第11部協定も今では広く受け入れられ、2007年9月現 在の加入国は、130カ国であった。 条約はまた、その管轄権の行使において、海洋の科学的調査を規制し、 認可し、実施する沿岸国の権利と海洋環境の汚染の防止、緩和、規制す る義務、それに沿岸国の排他的経済水域の生物海洋資源の開発に参加す る内陸国の権利について規定している。こうした規定も認められてきた。 さらに、条約は、海洋における権利と義務の再定義を求める将来の文書 についても、枠組みと基礎を提供するものとしても認められている。 この点に関して、1995年の「複数の水域にまたがる魚類および高度回
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遊性魚類資源に関する協定(Agreement on Straddling Fish Stocks and Highly Migratory Fish Stocks)」は、魚種資源の保存と管理のための法的レジーム
を設立し、海洋法条約のこれらの魚種資源に関連する規定を実施してい る。同協定は、魚種資源の長期的、持続可能性を確保し、その最善の利 用を促進する措置を取るための協力を加盟国に求めている。協定は、漁 業管理に対する予防的かつ生態系学的アプローチの適用および入手しう る最善の科学的証拠に基づく保存、管理措置の採用について規制してい る。締約国はまた、国家管轄権の下にある海域および隣接の公海におけ るこれらの魚種資源にかんする措置の適合性を達成するために協力する よう求められた。2007年9月現在、協定の加入国は67カ国であった。 条約のもとに設置された機関 海洋法条約のもとには、海洋法のさまざまな側面を取り扱う3つの機 関が設けられている。 国際海底機構(International Seabed Authority) は、管轄権以遠の国際海 底地域にある深海底鉱物資源に関係した活動の組織や管理を規制する機 関である。1994年に発足し、ジャマイカのキングストンに置かれている (www.isa.org.jm を参照)。
2002年、海底機構は、この鉱区(国の管轄権以遠の海底並びに海床およ びその底土層と定義)における多金属性団塊の探査と開発に関する規則
を採択した。 開発契約の標準的条項を載せた規則の採択に続き、深海底における多 金属性団塊の開発のための最初の15年契約が2001年に登録された先行投 資者によって署名された。The State Enterprise Yuzhmorgeologiya(ロシア 連邦) 、the Interoceanmetal Joint Organization(ブルガリア、キューバ、チェ コ共和国、ポーランド、ロシア連邦、スロバキア共和国で構成される共同事 業体) 、韓国、中国海洋資源研究開発協会(China Ocean Mineral Research and Development Association: COMRA)、フランス国立海洋開発研究所 (Institut francais de recherché pour l’ exloitaton de la mer: IFREMER)/フランス etude et la recherché des nodules: 団塊研究調査協会(Associaition francaise pour l’
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AFERNOD) 、深海資源開発株式会社(DORD 日本)、インド海洋開発局 (Department of Ocean Development)であった。2006年、海底機構とドイツ
を代表する「地球科学および天然資源連邦研究所(Federal Institute for Geosciences and Natural Resources) 」との間に、契約が署名された。
先行投資者とは国営企業もしくは多国籍の共同事業体で、条約の採択 前に鉱区で探査活動を行って経済的に開発可能な多金属性団塊の埋蔵区 域の位置を決定し、エンタープライズ(事業体)を例外として、採鉱の 許可について他の申請者よりも優遇扱いをされる者である。エンタープ ライズ(事業体)は国際海底機構の下に設立された機関で、条約に述べ られているように深海底で活動を行う。また、採取された鉱物の輸送、 精錬および販売も行う。企業の機能は現在、海底機構の法律技術委員会 によって実施されている。 国際海洋法裁判所(International Tribunal for the Law of the Sea)」は、条約 の解釈もしくは適用から生じる紛争を解決するために設立され、1996年 に活動を開始した(www.itlos.org を参照)。締約国が選ぶ21人の裁判官か ら構成され、ドイツのハンブルグにおかれている。2001年、裁判所は訴 訟を起こす最初の申請を受け取った。 2007年9月現在、15件の紛争が裁判所に付託された。事件のほとんど は条約に違反して逮捕されたとする船員や船舶の早急な釈放を求めたも のであった。いくつかの事件は生物資源の保存に関するものであった。 たとえば、ニュージーランド対日本およびオーストラリア対日本のクロ マグロの資源量に関する事件である。また、ある事件は、アイルランド 対イギリスの事件のように、陸にある発生源からの汚染防止に関する事 件で、使用済み核燃料を再処理して「ウラン・プルトニュウム混合酸化 物燃料(MOX 燃料)」として知られる新しい燃料を作るための工場から 出る汚染を訴えたものであった。これら15件の事件のうち、まだ裁判所 の訴訟事件一覧表に載っているのがチリ対欧州共同体の事件で、南東太 平洋におけるメカジキの資源量に関する事件である。 大陸棚の限界に関する委員会(Commission on the Limits of the Continental Shelf)は、沿岸国の陸地の海面下部分がその海岸線から200海里を超え
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て伸びている場合、大陸棚の外側の限界を設定することに関して、海洋 法条約の実施を支援する。条約は、領海の基線から200海里までを大陸 棚を構成する最低限の法的な幅としている。条約の第76条の下に、大陸 棚が200海里を越えるような場合は、沿岸国は、特定の科学的、技術的 方式によって申請し、それによって法律上の大陸棚の外側の限界線を設 定することができる。 委員会の第一回会期は1997年に国連本部で開かれた。条約の締約国に よって選ばれる21人の委員は個人の資格でつとめ、地質学、地球物理学、 水路学、測地学の専門家である。委員会は2001年12月に締約国であるロ シア連邦から最初の情報を受けた。それ以来(2007年9月現在)、ブラジ ル、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランド、ノルウェー、 フランス、そしてフランス、アイルランド、スペイン、イギリスが共同 で、そうした情報を提出した。 締約国会議と総会プロセス 条約は締約国会議の定期的な開催を規定していないが、事務総長が毎 年主催する締約国会議が関心ある問題を審議する場となっている。これ は、海洋法裁判所の裁判官や委員会のメンバーの選出とか予算や行政問 題のように、本来の行政に関する問題に加えて審議される。同様に、事 務総長は、国連公海漁業実施協定が2001年に発効して以来、その実施を 監視するために締約国による非公式の年次協議を開催し、2006年5月に は協定の効果を評価するために再検討会議を開催した。 総会は海洋問題や海洋法に関連する事項についての監視機能を果たし ている。2000年、総会は開放型の非公式協議プロセスを設置し、これに よって毎年この分野での進展を再検討できるようになった。協議プロセ スは毎年開かれ、政府や機関の調整や協力が必要な領域を明らかにする とともに、特定の問題について総会に提案する。たとえば、航行の安全 や脆弱な海洋生態系などである。協議プロセスは3年の予定で設置され たが、かなりの成果を挙げていることからさらに3年間延長された。 2004年、総会はまた、国家管轄権以遠の海域における海洋生物の多様
国 際 法 423
性の保護と持続可能な利用に関する問題を研究する自由な、非公式の、 アドホックな作業グループを設置した。作業グループは2006年に会合を 開いたが、2008年にも会合の予定である。
国際人道法 国際人道法は戦争の手段や方法を規制する原則や規則、それに文民、 病人や負傷した戦闘員、戦争捕虜のような人々の人道的保護を扱ったも のである。主要な文書に、赤十字国際委員会の主催のもとに採択された 1949年 の「 戦 争 犠 牲 者 の 保 護 の た め の ジ ュ ネ ー ブ 諸 条 約(Geneva Conventions for the Protection of War Victims) 」 と 2 つ の1977年 追 加 議 定 書 (1977 Additional Protocols)がある(www.icrc.org を参照) 。
国連は国際人道法の発達に先導的な役割を果たしてきた。安全保障理 事会は武力紛争時における文民の保護、人権の促進、戦時における子ど もの保護にますます関与するようになった。旧ユーゴスラビアとルワン ダの国際刑事裁判所の設置は、説明責任の確保に貢献しているばかりで なく、人道法の強化と正しい認識の向上にも貢献している。このことは、 シエラレオネ特別裁判所やカンボジア国内裁判所に設置された特別法廷 など、国連の支援を受けて設置された裁判所にも当てはまる。 総会は、国連の政治的な場として、多くの国際条約の作成に貢献して きた。たとえば、1948年の「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約 (Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide)」 、1968
年の「戦争犯罪および人道に対する罪に対する時効不適用に関する条約 (Convention on the Non applicability of Statutory Limitations to War Crimes and Crimes against Humanity)」 、1980年の「過度の傷害を与え又は無差別に効
果を及ぼすことがあると認められる通常兵器の使用の禁止又は制限に関 する条約 (Convention on Prohibition and Restrictions on the use of Certain Conventional Weapons which may be deemed to be Excessively Injurious or to have Indiscriminate Effects)」と5つの議定書(Protocols)、それに総会が1973年
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に採択した「戦争犯罪及び人道に対する罪の犯罪人の捜索、逮捕、引渡 しおよび処罰における国際協力に関する原則(Principles of International Cooperation in the Detection, Arrest, Extradition and Punishment of Persons Guilty of War Crimes and Crimes against Humanity) 」などがある。
総会はまた、1998年に国際刑事裁判所ローマ規程(Rome Statute of the International Criminal Court) を採択した外交官会議を開催した(囲みコラ ムを参照) 。この画期的出来事に先立ち、刑事裁判所準備委員会は、集
団殺害、戦争犯罪、人道に対する罪について「犯罪の構成要件」をまと めた。これは国際人道にとっての大きな貢献であった。
国際刑事裁判所 旧ユーゴスラビアやルワンダで国際人道法の大規模な違反があったこ とから、安全保障理事会は人道法の違反に責任を有する者を訴追するた めに2つの国際刑事裁判所を設立した。両裁判所は、強制措置を規定す る国連憲章第7章のもとに設立された安全保障理事会の補助機関である。 ・旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(International Criminal Tribunal for the Former Yugoslavia)は、1993年に設立され、4つの裁判部(3つの 第一審裁判部と1つの上訴裁判部) 、検察官、書記局から構成される。
その規程のもとに、裁判所は4つの種類の犯罪行為を訴追できる。 ジュネーブ諸条約の重大な違反、戦争の法律もしくは慣習の侵害、 集団殺害、そして人道に対する罪、である。裁判所はオランダの ハーグにおかれている(www.un.org/icty を参照)。 ・ルワンダ国際刑事裁判所(International Criminal Tribunal for Rwanda)は、 1994年に設立され、4つの裁判部(3つの第一審裁判部と1つの上訴 裁判部) 、検察官、書記局から構成される。1998年、裁判所は国際
裁判所による初めての集団殺害の有罪判決を行った。所在地はタン ザニアのアルーシャで、検察官室はルワンダのキガリに置かれてい る(www.ictr.org を参照)。
国 際 法 425
国際刑事裁判所(ICC) (www.icc-cpi.int)
人道に対する罪を訴追する常設の国際裁判所を設立する考えは、1948 年の集団殺害罪条約の採択との関連ではじめて国連で審議された。しか し、加盟国間の見解の相違から長年にわたって進展が見られなかった。 1992年、国連総会は裁判所の規程草案を作成するよう国際法委員会に指 示した。カンボジアや旧ユーゴスラビア、ルワンで虐殺が起こったこと から、緊急に裁判所を設立する必要がでてきたからであった。 「国際刑事裁判所ローマ規程(www.un.org/law/icc)は、1998年7月17 日、ローまで開かれた全権大使会議で採択された。国際刑事裁判所は ローマ規程によって設立され、集団殺害罪、戦争犯罪、人道に対する罪 を犯した個人を訴追する管轄権を有している。また、侵略の罪の定義に ついて合意が見られれば、侵略の罪に対しても管轄権を持つことになる。 ローマ規程は2002年7月1日に発効した。2007年1月1日現在、締約国 は104カ国であった。 裁判官は18人で、締約国が9年に限定された任期で選出する。ただし、 裁判もしくは上訴がすでに始まっている場合は、それが終了するまでそ の任に就く。いかなる場合でも同じ国から2人の裁判官を選出できない。 裁判長はフィリップ・キルシュ裁判官(カナダ)で、検察官はルイス・ モレノ・オカンポ氏 (アルゼンチン)、書記はブルーノ・カタラ氏(フ ランス)である。 裁判所はオランダのハーグにおかれている。2006年の歳出は6,470万 ユーロであった。2007年8月現在、訴訟事件一覧表は、スーダンのダル フール地域における戦争犯罪や人道に対する罪の訴訟など、4件の事件 を載せている。
シエラレオネ特別裁判所(Special Court for Sierra Leone) は、独立した 司法機関で、シエラレオネ政府と国連との協定に基づいて2002年1月に 設置された。特別裁判所は、人道に対する罪、戦争犯罪、その他国際人 道法の重大な違反、それに1996年11月30日以来シエラレオネの領土内に おいてシエラレオネの関連法に反して犯した犯罪に最大の責任のある 人々を訴追する。裁判所の所在地はシエラレオネのフリータウンである。
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検察官と書記は国連事務総長が任命する。事務総長とシエラレオネ政府 はともに裁判所と上訴裁判部双方の裁判官を任命する(www.sc-sl.org を 参照) 。
カンボジア国内裁判所内設置の特別法廷(Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia)は、カンボジアの国内司法制度の中に属している。
この特別法廷は、1975年4月17日から1979年1月6日までの間におよそ 170万人もの人々を殺害したことなど、集団殺害罪および人類に対する 罪を犯したとされる元クメール・ルージュを裁くために設置された。国 内17人、国際12人の裁判官や検察官のもとに、特別法廷は、また、1949 年のジュネーブ諸条約、それに、殺人、拷問、宗教的迫害、戦時におけ る文化遺産の破壊、外交官の保護に関するウィーン条約の違反、それに 特別法廷を設置しカンボジアの法律が定義づけるその他の犯罪に責任あ る人々も裁く任務も与えられている(www.eccc.gov.kh を参照)。
国際テロリズム 国連は、法律、政治の双方のレベルで、一貫してテロリズムの問題と 取り組んできた。 法的な面では、国連とその関連機関――国際民間航空機関(ICAO)、 国際海事機関(IMO)、国際原子力機関(IAEA) など――は、テロリズ ムに対する基本的な法律文書を構成する国際的な協定ネットワークを発 展させてきた。たとえば、以下の通りである。 (Convention ・航空機内において行われた犯罪その他の行為に関する条約 on Offences and Certain Other Acts Committed on Board Aircraft) 。1963年に
東京で採択。 ・航空機の不法な奪取の防止に関する条約(Convention for the Suppression of Unlawful Seizure of Aircraft) 。1970年、ハーグ。
・民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(Convention for the Suppression of Unlawful Acts against the Safety of Civil Aviation)。
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1971年、モントリオール。 ・外交官も含む国際的に保護される人々に対する犯罪の防止および処 罰に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of Crimes against Internationally Protected Persons, including Diplomatic Agents)。1973
年、ニューヨーク。 ・核物質の防護に関する条約 (Convention on the Physical Protection of Nuclear Material)。1980年、ウィーン。
・国際空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書(Protocol for the Suppression of Unlawful Acts of Violence at Airports Serving International Civil Aviation) 。1998年、モントリオール。
・海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(Convention for the Suppression of Unlawful Acts against the Safety of Maritime Navigation)。
1988年、ローマ。 ・大陸棚上に位置する固定平底船の安全に対する不法行為の防止に関 する議定書(Protocol for the Suppression of Unlawful Acts against the Safety of Fixed Platforms located on the Continental Shelf)。1988年、ローマ。
・プ ラ ス チ ッ ク 爆 薬 探 知 に 関 す る 条 約(Convention on the Marking of Plastic Explosives for the Purpose of Detection)。1991年、モントリオール。
総会は以下の5つの条約を作成した。 ・人質をとる行為に関する国際条約(International Convention against the Taking of Hostage, 1979年)――この条約のもとに、締約国は人質行為
を適切な刑罰を持って処罰することに同意する。また、その領土内 においてある種の活動を禁止し、情報を交換し、あらゆる刑事手続 きもしくは犯罪人引渡しの手続きを可能にすることに同意する。締 約国が容疑者を引き渡さないときは、その国は訴追のために当該事 件を自国当局に付託しなければならない。 ・国際連合要員および関連要員の安全に関する条約(Convention on the Safety of United Nations and Associated Personnel, 1994年)――フィール
ドで働く国連要員に対する攻撃が多発し死傷者が出ていることから 総会が1993年に採択した。
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・テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約(International Convention for the Suppression of Terrorist Bombings, 1997年)――犯人引
渡しを要求する国家に引渡しを行わない場合は、締約国が犯人を訴 追する義務を負い、テロリスト爆撃の捜査の対象となった者たちに 「安全な避難所」を提供しない。 ・テロリズム資金供与の防止に関する国際条約(International Convention for the Suppression of the Financing of Terrorism, 1999年)――テロリスト
活動に資金を提供したと起訴された人の訴追もしくは引渡しを締約 国に義務づけ、同時に疑わしい取引を明らかにする措置をとるよう 銀行に要請している。22カ国の批准で発効する。 ・核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(International Convention for the Suppression of Acts of Nuclear Terrorism, 2005年)――テ
ロリズム行為、目標、危機の情勢および危機後の情勢など、幅広く 網羅している。また、共犯も含め、そうした行為に実行もしくは参 加するとの威嚇および試みもカバーしている。条約は犯人の訴追も しくは引渡しを規定しており、2007年7月7日に発効した。 1994年、総会は「国際テロリズム対策宣言(Declaration on Measures to Eliminate International Terrorism) を採択し、1996年には「1994年宣言補足
宣言(Declaration to supplement the 1994 Declaration)」を採択し、総会は、 どこで誰が行おうと、いかなるテロリズム行為や慣行も犯罪であり、正 当化できないとして厳しく非難した。総会は、国際テロリズムをなくす るために国、国際のレベルで対策を講じるよう各国に訴えた。 総会が1996年に設置したアドホク委員会は、現在、既存の条約が取り 残した部分を埋めるために、国際反テロリズムに関する包括的な条約に ついての交渉を進めている。 2001年9月28日、アメリカで起こった9月11日の同時多発テロを受け て、安全保障理事会は、反テロリズム委員会(Counter Terrorism Committee) を設置した。その任務の一つとして、委員会は、理事会決議1373(2001 年)の実施状況を監視する。決議は加盟国にある種の義務を負わせてい
る。その中には、実行への援助も含め、テロリズムに関連した活動の犯
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罪化、テロリストに対する資金供与や安全な隠れ家の提供の否定、テロ リスト・グループに関する情報の提供などが含まれる。 2006年9月19日、総会による9月8日に全会一致の採択に続いて、 「国連グローバル反テロリズム戦略(United Nations Global Counter-terrorism Strategy)が打ち上げられた。いかなる形態のテロリズムも受け入れるこ
とも、正当化することもできないとの基本的な確信に基づいて、戦略は、 国家、地域、国際のレベルでとるべきさまざまなテロ対策措置を概説し ている(www.un.org/terrorism を参照)。 国連の対テロ活動についてより以上の情報が必要な場合は、「UN News Service」のページ「News Focus」の「terrorism」を項をクリック すると入手できる(www.un.org/News/dh/infocus を参照)。
その他の法律問題 総会はその他の問題についても各種の法律文書を採択してきた。たと えば、 「傭兵の徴募、使用、資金供与および訓練を禁止する国際条約 (International Convention against the Recruitment, Use, Financing and Training of Mercenaries, 1989年) 」 、「あらゆる形態の抑留または拘禁のもとにあるす
べての者の保護のための諸原則(Body of Principles for the Protection of All Persons under Any Form of Detention or Imprisonment, 1988年)」 、国際関係にお
ける武力による威嚇又は武力の使用を自制する原則の効果の向上に関す る宣言(Declaration on the Enhancement of the Effectiveness of the Principle of Refraining from the Threat or Use of Force in International Relations, 1987年)」があ
る。 総会は、1974年に総会が設置した国連憲章および国連の役割強化に関 する特別委員会(Special Committee on the Charter of the United Nations and on the Strengthening of the Role of the Organization)の勧告をうけて数多くの国
際文書を採択した。たとえば、1995年の「国家間の紛争の調停のための 国連モデル規則(United Nations Model Rules for the Conciliation of Disputes
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between States)、1994年の「国際の平和と安全の維持における国連と地域
取り決めまたは地域機関との協力の強化に関する宣言(Declaration on the Enhancement of Cooperation between the United Nations and Regional Arrangements or Agencies in the Maintenance of International Peace and Security)、1991年の「国
際の平和と安全の維持の分野における国連の事実調査に関する宣言 (Declaration on Fact finding by the United Nations in the Field of the Maintenance of International Peace and Security)、1988年の「国際の平和と安全を脅かす恐
れのある紛争および情勢の防止および排除並びにこの分野における国連 の役割に関する宣言(Declaration on the Prevention and Removal of Disputes and Situations which May Threaten International Peace and Security and on the Role of the United Nations in this Field)、1982年の「国際紛争の平和的解決に関
する宣言(Declaration on the Peaceful Settlement of International Disputes)など がある。 国連憲章第102条のもとに、加盟国が加入するすべての国際協定は国 連事務局に登録され、公表されなければならない。国連法務部(Office of Legal Affairs)は、条約の登録、公表に責任を持つ。法務部は「国連条
約シリーズ(United Nations Treaty Series)」を発行し、6万件以上の条約 やそれに関連した情報を載せている。また、法務部は、多国間条約の受 託者としての事務総長の任務も果たす。その役割の中で、法務部はその 刊行物「事務総長に寄託された多国間条約(Multilateral Treaties Deposited with the Secretary General)」に加盟国から寄託された530件以上の主要な
条約を載せている。この情報は電子フォーマットで毎日更新され、イン ターネット上の「国連条約集(United Nations Treaty Collections)」のなか で見ることができる(http://untreaty.un.org を参照)。
第Ⅱ部 第7章
植民地の独立 DECOLONIZATION
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国際連合が1945年に創設されて以来、かつて植民地支配もしくは信託 統治取り決めのもとにあった100カ国近くの国々が独立し、主権国家と なって国連に加盟した。さらに、その他にも多くの地域が、他の独立国 家との政治的連合もしくは他の国家との統合によって自治を達成した。 国連は、従属人民の願望を鼓舞するとともに、彼らの独立達成を早める ための目標や基準を設定し、この歴史的変革に不可欠の役割を果たして きた。国連の使節団は、独立へと導く選挙の監視も行った。1956年と 1968年にトーゴランド、1961年に西サモア、1989年にナミビアである。 そしてごく最近では東ティモールの住民投票でも選挙監視を行った。 国連の非植民地化の努力は、「人民の同権および自決」を謳った国連 憲章の原則および従属人民の利益を規定した憲章第11章、第12章、第13 章の3つの章に基づくものである。1960年以降は、国連総会が採択した 植民地と人民に独立を付与する宣言 (Declaration on the Granting of Independence to Colonial Countries and People) も指針としている。 「非植民
地化宣言」としても知られるこの宣言のもとに、加盟国は植民地主義を 早急に終わらせる必要があることを宣言した。国連はまた、非自治地域 の完全自治に関して3つの選択肢を定めた1960年12月15日の総会決議 1541(XV)もその指針としている。 非植民地化に向かって大きな進展が見られたものの、およそ100万の 人々がいまだに植民地支配のもとに生活している。国連は、残った非自 治地域で自決を達成できるように支援を続けている(www.un.org/depts/ dpi/decolonization を参照)。
植民地の独立 433
国際信託統治制度 国連憲章第12章のもとに、国連は施政国との個々の協定によって信託 統治制度のもとにおかれた信託統治地域の監督を行うために「国際信託 統治制度(International Trusteeship System)」を設けた。 この制度が適用されるのは、1)第1次大戦後に国際連盟によって委 任統治のもとにおかれた地域、2)第2次世界大戦の結果「敵国」から 分離された地域、3)その施政に責任を持つ国家によってこの制度のも とに自主的におかれた地域、である。この制度の目標は、地域住民の政 治的、経済的、社会的進歩を促進し、かつ自治または自決に向かっての 住民の発達を促進することであった。 信託統治理事会(Trusteeship Council) は、国連憲章第13章のもとに、 信託統治地域の施政を監督するとともに、これらの地域が憲章に掲げら れた目標を達成できるように、その施政に責任を有する国の政府に適切 な措置を取らせるために設置された。 国連の創設当初、11の地域が国際信託統治制度の下におかれた(第Ⅲ 部の「非植民地化」の項を参照) 。今日、すべての地域が独立国家となる
か、または自発的にある国家と連合することによって自治を達成した。 その最後の地域は、アメリカの施政下にあった太平洋諸島信託統治地 域(パラオ)であった。パラオが1993年の住民投票によってアメリカと の自由な連合を選んだことを受けて、安全保障理事会は1994年にその地 域に対する国連信託統治協定を終結させた。パラオは1994年に独立国家 となり、同年185番目の国として国連に加盟した。議題に残る地域が無 くなり、信託統治理事会はその歴史的任務を完了した。
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非自治地域 国連憲章はまた、国際信託統治制度のもとにおかれなかった他の非自 治地域の問題も取り上げている。 国連憲章第11章の「非自治地域に関する宣言」は、人民がまだ完全に 自治を達成するに至っていない地域を施政する加盟国は、「この地域の 住民の利益が至上のものである」という原則を承認し、かつこの地域の 住民の福祉を増進する義務を「神聖な信託」として受諾する、と規定し ている。 この目的のために、施政国は、人民の政治的、経済的、社会的および 教育的進歩を確保することに加え、彼らが自治と民主的な政治制度を発 達させることができるように援助する。施政国はその施政下にある地域 の経済的、社会的、教育的状態に関する情報を定期的に事務総長に送付 する義務を有する。 1946年、オーストラリア、ベルギー、デンマーク、フランス、オラン ダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカの8加盟国は、その施政下 にあって非自治地域と見なす地域の一覧表を提出した。これらの地域は 合わせて72地域に達したが、そのうちの8つの地域は1959年までに独立 を達成した。1963年、総会は1960年の非植民地化宣言の適用を受けるべ き64地域の改定リストを承認した。現在、フランス、ニュージーランド、 イギリス、アメリカの4施政国のもとに、16地域が非自治地域として 残っている。(反対側のページの表を参照)。 2005年 8 月、 ト ケ ラ ウ の 国 民 議 会(General Fono) が、 ト ケ ラ ウ と ニュージーランドとの自由連合についての条約草案を承認し、11月まで に憲法草案も承認した。2006年2月、自治に関する住民投票が行われた。 登録したトケラウ人の60パーセントがニュージーランドとの自由連合に 賛成したが、必要とされる3分の2の多数には達しなかった。2回目の 住民投票が2007年10月20日から24日まで行われたが、トケラウがニュー
植民地の独立 435
「植民地と人民に独立を付与する宣言」が 適用される地域(2007年現在) (地 域) (施政国)
アフリカ 1
西サハラ アジア・太平洋 米領サモア アメリカ グアム アメリカ 2
ニューカレドニア フランス ピトケアン諸島 イギリス トケラウ ニュージーランド 大西洋、カリブ海および地中海 アンギラ イギリス バミューダ イギリス 英領バージン諸島 イギリス ケイマン諸島 イギリス 3
フォークランド諸島(マルビナス) イギリス ジブラルタル イギリス モントセラト イギリス セント・ヘレナ イギリス タークス・カイコス諸島 イギリス 米領バージン諸島 アメリカ ――――――― 註1 1976年2月26日、スペインは、同日付けでサハラ地域に対する施政 を終了させたと事務総長に通告し、またサハラのために樹立された 暫定統治機関への参加を停止したので、地域の施政に関していかな る国際的な責任も免除されるものと考えることを記録にとどめるよ う要請した。1990年、総会は、西サハラの問題は西サハラの人民が 解決すべき非植民地化の問題であることを再確認した。 註2 1986年12月2日、総会は、ニューカレドニアは非自治地域であると 決定した。 註3 フォークランド諸島(マルビナス)の対する主権に関してアルゼン チン政府とイギリス政府との間に紛争が存在する。
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ジーランドとの自由連合によって自治を達成するために必要な3分の2 の多数を獲得できなかった。投票された692票のうち、446票が自治に賛 成した。必要な多数には16票が足りなかった。
植民地と人民に独立を付与する宣言 植民地人民による自決への願望が高まり、かつ国際社会の間にも憲章 の原則の適用が遅すぎるとの認識が広まったことから、総会は、1960年 12月14日、 「植民地と人民に独立を付与する宣言(Declaration on the Granting of Independence to Colonial Countries and Peoples)」を採択した(決議1514(XV))。
宣言は、外国による人民の征服、支配および搾取は基本的人権を否認 するもので、国連憲章に違反し、世界平和と協力の促進にとっての障害 であるとのべ、さらに「信託統治地域、非自治地域またはいまだ独立を 達成していないその他のすべての地域において、これらの地域の人民が 完全な独立と自由を享受しうるようにするため、なんらの条件または留 保もつけず、人種、信条または皮ふの色によるいかなる差別もなしに、 彼らが自由に表明する意思および希望にしたがって、すべての権力をこ れらの人民に委譲するため、速やかな措置がとられなければならない」 と述べている。 同じく1960年、総会は決議1541(XV)を採択し、 「独立国家との自由 な連合」 、 「独立国家への統合」および「独立」の3つは、完全な自治を 達成する正当な政治的地位の選択肢であることを承認した。 総会は、1961年、宣言の適用を調査し、かつその実施について勧告す る特別委員会を設置した。一般に24カ国特別委員会(Special Committee of 24)あるいは非植民地化特別委員会(Special Committee on decolonization)
と呼ばれているが、正式なタイトルは「植民地と人民に独立を付与する 宣言履行特別委員会(Special Committee on the Situation with Regard to the Implementation of the Declaration on the Granting of Independence to Colonial Countries and Peoples)」である。特別委員会は毎年開かれ、請願者や地域
植民地の独立 437
の代表の聴取を行い、地域へ現地調査団を派遣し、地域の政治的、社会 的、経済的および教育的状況に関して年次セミナーを開催する。 宣言の採択以来、8,000万人以上の人々が住むおよそ60の旧植民地が 独立を通して自決を達成し、主権国家として国連に加盟した(第Ⅲ部の 表を参照) 。
総会は、非自治地域の人民が自決と独立への権利を完全に行使できる ようにあらゆる必要措置をとるよう施政国に要請してきた。また、残っ ている軍事基地を地域から撤去し、外国企業その他が宣言履行の障害と ならないようにするよう施政国に要請した。 これに関連し、ニュージーランドはトケラウについて委員会に協力を 続けた。フランスは、ニューカレドニアの将来に関する協定に署名した ことに続いて、1999年からは委員会へ協力を開始した。この数年、アメ リカとイギリスの2つの施政国が正式には委員会の作業に参加していな い。アメリカは、施政国としての役割は認識しており、国連憲章による 責任は今後も果たして行くと主張している。イギリスは、その施政下に ある地域のほとんどは独立を選択したが、少数の地域はイギリスとの連 合を続けることを望んでいると述べた。 「国際植民地主義撤廃の10年(International Decade for the Eradication of colonialism, 1991−2000年) 」の終了に当たり、総会は2001−2010年を「第
2次国際植民地主義撤廃の10年(Second International Decade for the Eradication of Colonialism)に指定し、完全な非植民地化を達成するために努力を倍
加するよう加盟国に要請した。 西サハラなど、ある特定の地域に関しては、総会は、国連憲章と宣言 の目的にしたがって非植民地化を達成するよう事務総長に要請している。
ナミビア 国連は1990年のナミビアの独立を助けた。これは、平和的移行を実現 するにはいかに複雑な努力が必要であるかを明らかにした国連の歴史で もあった。
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「南西アフリカ」として知られていたナミビアは、一度は国際連盟の 委任統治制度のもとにおかれたアフリカの地域であった。総会は1946年 に、その地域を国際信託統治制度のもとにおくよう南アフリカに要請し た。しかし、南アフリカはそれを拒否し、1949年には、国際連盟の消滅 とともに委任統治も終わったと主張し、今後は同地域に関する情報を送 付しないと国連に通告した。 総会は1966年、南アフリカはその義務を果たさなかったと述べ、委任 統治を終了させ、同地域を「国連南西アフリカ理事会(United Nations Council for South West Africa) 」のもとに置いた。1968年、理事会は「国連
ナミビア理事会(United Nations Council for Namibia)」と改称された。 1976年、安全保障理事会は、国連の監視のもとに行われるナミビアの 選挙を受け入れるよう南アフリカに要求した。総会は、独立に関する協 議にはナミビア人民の唯一の代表である南西アフリカ人民機構 (SWAPO)を参加させなければならないと主張した。
1978年、カナダ、フランス、ドイツ連邦共和国、イギリス、アメリカ の5カ国は、国連主催による制憲議会選挙を行うことを規定した解決案 を安全保障理事会に提出した。理事会は、この提案を実施すべきだとの 事務総長の勧告を支持し、ナミビア特別代表を任命するよう事務総長に 要請するとともに、 「国連独立移行支援グループ(United Nations Transition Assistance Group: UNTAG)」を設置した。
事務総長と事務総長特別代表による何年にもわたる交渉やアメリカの 仲介の結果、南部アフリカの平和を達成するための1988年合意が生まれ た。この合意のもとに、南アフリカは、事務総長に協力し、選挙によっ てナミビアの独立を達成させることに同意した。 ナミビアを独立に導いた活動は1989年4月に始まった。UNTAG はナ ミ ビ ア 当 局 が 実 施 し た す べ て の 選 挙 プ ロ セ ス を 監 視 か つ 管 理 し、 SWAPO と南アフリカとの停戦と全軍隊の動員解除を監視した。また、 現地警察のモニタリングなど、選挙プロセスの円滑化を図った。 制憲議会のための選挙では、SWAPO が勝利を収めた。マルッティ・ アハティサーリ事務総長特別代表は、選挙は「自由かつ公正」に行われ
植民地の独立 439
たと宣言した。選挙の後、南アフリカは残りの軍隊を引き上げた。制憲 議会によって新憲法が起草され、1990年2月に承認された。SWAPO 指 導者のサム・ヌジョマが5年の任期で大統領に選出された。3月、ナミ ビアは独立し、事務総長がナミビアの初代大統領の就任宣誓式を執り 行った。4月、ナミビアは国連に加盟した。
東ティモール もう一つの国連の成功物語は、東ティモールを独立へと導いたプロセ スである。国連が1999年に実施したインドネシアへの残留か、独立かを 問う住民投票で東ティモール人民は独立への移行を選び、大規模な国連 活動が展開され、東ティモールの独立移行を監督した。 ティモール島はオーストラリアの北、インドネシア共和国を形成する 群島の南中央部に位置する。同島の西側はかつてオランダの植民地で、 インドネシアが独立を達成したときにインドネシアの一部となった。東 ティモールはポルトガルの植民地であった。 1960年、総会は、東ティモールを非自治地域のリストに載せた。1974 年、ポルトガルは、自決への権利を認め、東ティモールの地位を決める 暫定政府と人民議会を設立しようとした。しかし、1975年に入って新し くできた政党間で内戦が発生した。ポルトガルは事態の収拾を図れない と述べて撤退した。一方の東ティモール側は別の国家としての独立を宣 言し、他方は独立とインドネシアとの統合を宣言した。 12月、インドネシア軍が東ティモールに上陸し、 「暫定政府」が樹立 された。ポルトガルはインドネシアとの関係を断絶し、問題を安全保障 理事会に訴えた。理事会は軍隊を撤退させるようインドネシアに要請し、 東ティモール人民の自決への権利を尊重するようすべての国に訴えた。 「暫定政府」は1976年に議会のための選挙を行った。議会が開催される とインドネシアとの統合を求めた。インドネシアはその決定を支持する 法令を公布し、独立支持派は武力抵抗を開始した。1983年、事務総長は インドネシアとポルトガルとの会談を開始した。しかし、事務総長の
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あっせんを通して合意が成立したのは1999年5月になってからのことで あった。これによって人民協議の道が開かれた。 こうした合 意に基 づいて、国連東ティモール・ミッション(United Nations Mission in East Timor: UNAMET)が有権者の登録や公式の投票を組
織し、実施した。しかし、1999年8月30日、45万人の登録有権者のうち のおよそ78.5パーセントがインドネシア残留による自治達成に反対した。 独立に反対する民兵団が組織的な破壊と暴力のキャンペーンを展開し、 多くの人々が殺害された。そのため20万人以上の東ティモール人が国外 へ逃亡した。 集中的な会談の結果、インドネシアは国連承認の多国籍軍を展開させ ることに同意した。そして1999年9月、安全保障理事会は、国連憲章第 7章のもとに、東ティモール国際軍 (International Force in East Timor: INTERFET)の派遣を承認した。INTERFET は平和と安全を回復させた。
平和が回復したことを受けて、安全保障理事会は、1999年10月、東 ティモールの独立までに移行期に全面的な行政と立法の権限を持つ国連 東ティモール暫定行政機構(United Nations Transitional Administration in East Timor: UNTAET) を設立した。2001年8月30日、東ティモールの有権投
票者の91パーセント以上が88人の制憲議会議員を選ぶために投票所へ向 かった。制憲議会は新憲法を起草して採択し、将来の選挙と完全な独立 への移行のための枠組みを作ることになっていた。 2002年3月22日、制憲議会は初めての憲法の公布に署名した。4月14 日、大統領選挙によって、シャナナ・グスマンが82.7パーセントを得票 して大統領に選出された。そして、2002年5月20日、東ティモールは独 立を達成した。制憲議会は国民議会となり、国名をティモール・レステ に改称した。9月27日、国連の191番目の加盟国となった。 東ティモールの非植民地化の成功に続き、国連は引き続き独立国家、 東ティモールを支援し、民主主義的な制度を堅固なものにし、かつその 社会経済開発を支援している。(東ティモールにおける国連活動については、 第2章の「平和のための国連行動」を参照のこと。)
植民地の独立 441
西サハラ 国連は1963年以来西サハラに関する紛争にかかわってきた。西サハラ はモロッコ、モーリタニア、アルジェリアと国境を接するアフリカ北西 の沿岸部にある地域である。 西サハラは1884年にスペインの植民地となった。1963年、モロッコと モーリタニアの両国が西サハラに対する領有権を主張した。国際司法裁 判所は、総会の要請で行った1975年の勧告的意見の中で、モロッコおよ びモーリタニアのいずれも西サハラに対して領土権を有しないとして、 その要求を退けた。 1976年のスペインの撤退に伴い、西サハラを「再統合した」モロッコ とアルジェリアが支援する「西サハラ民族解放戦線(ポリサリオ)」との 間に戦闘が発生した。国連はそれ以来西サハラ問題の解決を探ってきた (この章の「囲みコラム」の脚注を参照)。
1979年、アフリカ統一機構(OAU)は、地域の人民が自決への権利を 行使できるように住民投票の実施を呼びかけた。1982年までに、OAU 加盟26カ国が、ポリサリオが1976年に宣言した「サハラウィ・アラブ民 主共和国(SADR)」を承認した。SADR が1984年の OAU 首脳会議に出 席したため、モロッコは OAU から脱退した。 事務総長と OAU 議長は共同であっせんに乗りだし、その結果1988年 の解決提案が生まれた。それは停戦と独立か、それともモロッコとの統 合かを選ぶか、そのための住民投票を提案したものであった。両当事者 は原則としてこの提案に合意した。 1991年4月29日の決議690によって、安全保障理事会は、西サハラ人 民の自決のための住民投票を組織し、実施することについて事務総長特 別代表を援助する「国連西サハラ住民投票ミッション(United Nations Mission for the Referendum in Western Sahara: MINURSO)」を設立した。1974
年にスペインが行った国勢調査で18歳以上として記載されたすべての西 サハラ人は、地域内外のどの地に住んでいようと、投票権を与えられる
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ことになった。有権者確認委員会が国勢調査のリストを新しくし、有権 者の資格を決定する。西サハラ以外の地に住む難民については、国連難 民高等弁務官事務所(UNHCR) の援助を受けて有権資格の確認を行う ことになった。 1991年9月6日、停戦が発効し、その後は MINURSO の軍事監視要 員が監視を行っている。重要な違反行為は見られない。 しかし、当事者は依然として解決プランの実施について意見を異にし た。とくに、住民投票のための有権者に関してそうであった。1997年、 妥協案が事務総長西サハラ特使のジェームズ・A・ベーカー3世氏から 出された。有権者確認プロセスは1999年12月に終了した。それにもかか わらず、協議や交渉が続いたものの計画の実施に対する合意は見られな かった。2004年4月、モロッコは特使によって出された提案を初め、解 決計画自体を拒否した。ベーカー氏は6月に個人特使に任命された。 こう着状態が続いたが、ポリサリオ戦線が2005年8月に残りのすべて のモロッコ人捕虜を全員釈放するなど、その後、いくつかの明るい進展 も見られた。アルジェリアのティンドウフの難民キャンプに住む西サハ ラ難民と西サハラ地域の親戚との間の「家族訪問」計画も実現した。こ れは UNHCR の主催によるもので、中には30年ぶりに会う人もいた。 2007年4月、事務総長の新たな個人特使のペーター・ヴァン・ワルサ ムは、行き詰まりの無期限延長か、それとも直接交渉か、二つの選択肢 があるとの意見を述べた。安全保障理事会は、前提条件のない誠実な交 渉を要請した。ついで、ヴァン・ワルサム特使は、2007年6月と8月に、 ニューヨークのグリーンツリーで当事者間の会合を開いた。この会合に は周辺国も出席した。2回目の会合では、当事者は、コミュニケを発表 して、現状維持は容認できないとして、誠実に交渉を続けるとに合意し たと発表した。
第Ⅲ部 付 録 APPENDICES
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CHARTER of the UNITED NATIONS INTRODUCTORY NOTE The Charter of the United Nations was signed on 26 June 1945, in San Francisco, at the conclusion of the United Nations Conference on International Organization, and came into force on 24 October 1945. The Statute of the International Court of Justice is an integral part of the Charter. Amendments to Articles 23, 27 and 61 of the Charter were adopted by the General Assembly on 17 December 1963 and came into force on 31 August 1965. A further amendment to Article 61 was adopted by the General Assembly on 20 December 1971, and came into force on 24 September 1973. An amendment to Article 109, adopted by the General Assembly on 20 December 1965, came into force on 12 June 1968. The amendment to Article 23 enlarged the membership of the Security Council from eleven to fifteen. The amended Article 27 provides that decisions of the Security Council on procedural matters shall be made by an affirmative vote of nine members (formerly seven) and on all other matters by an affirmative vote of nine members (formerly seven), including the concurring votes of the five permanent members of the Security Council. The amendment to Article 61, which entered into force on 31 August 1965, enlarged the membership of the Economic and Social Council from eighteen to twenty seven. The subsequent amendment to that Article, which entered into force on 24 September 1973, further increased the membership of the Council from twenty seven to fifty four.
国際連合憲章 445
国際連合憲章
序 国際連合憲章は、国際機構に関する連合国会議の最終日の、1945年6月26日 にサンフランシスコにおいて調印され、1945年10月24日に発効した。国際司法 裁判所規程は国連憲章と不可分の一体をなす。 国連憲章第23条、第27条および第61条の改正は、1963年12月17日に総会に よって採択され、1965年8月31日に発効した。1971年12月20日、総会は再び第 61条の改正を決議、1973年9月24日発効した。1965年12月20日に総会が採択し た第109条の改正は、1968年6月12日発効した。 第23条の改正によって、安全保障理事会の理事国は11から15カ国に増えた。 第27条の改正によって、手続き事項に関する安全保障理事会の表決は9理事国 (改正以前は7)の賛成投票によって行われ、その他のすべての事項に関する 表決は、5常任理事国を含む9理事国(改正以前は7)の賛成投票によって行 われる。 1965年8月31日発効した第61条の改正によって、経済社会理事会の理事国数 は18から27に増加した。1973年9月24日発効した2回目の61条改正により、同 理事会理事国数はさらに、54に増えた。
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The amendment to Article 109, which relates to the first paragraph of that Article, provides that a General Conference of Member States for the purpose of reviewing the Charter may be held at a date and place to be fixed by a two thirds vote of the members of the General Assembly and by a vote of any nine members (formerly seven) of the Security Council. Paragraph 3 of Article 109, which deals with the consideration of a possible review conference during the tenth regular session of the General Assembly, has been retained in its original form in its reference to a “vote, of any seven members of the Security Council�, the paragraph having been acted upon in 1955 by the General Assembly, at its tenth regular session, and by the Security Council.
国際連合憲章 447
第109条1項の改正によって、国連憲章を再審議するための国連加盟国の全 体会議は、総会構成国の3分の2の多数と安全保障理事会のいずれかの9理事 国(改正前は7)の投票によって決定される日と場所で開催されることになっ た。但し、第10通常総会中に開かれる憲章改正会議の審議に関する109条3項 中の「安全保障理事会の7理事国の投票」という部分は改正されなかった。 1955年の第10総会及び安全保障理事会によって、この項が発動された。
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CHARTER OF THE UNITED NATIONS
WE THE PEOPLES OF THE UNITED NATIONS DETERMINED to save succeeding generations from the scourge of war, which twice in our lifetime has brought untold sorrow to mankind, and to reaffirm faith in fundamental human rights, in the dignity and worth of the human person, in the equal rights of men and women and of nations large and small, and to establish conditions under which justice and respect for the obligations arising from treaties and other sources of international law can be maintained, and to promote social progress and better standards of life in larger freedom,
AND FOR THESE ENDS to practice tolerance and live together in peace with one another as good neighbours, and to unite our strength to maintain international peace and security, and to ensure, by the acceptance of principles and the institution of methods, that armed force shall not be used, save in the common interest, and to employ international machinery for the promotion of the economic and social advancement of all peoples,
HAVE RESOLVED TO COMBINE OUR EFFORTS TO ACCOMPLISH THESE AIMS Accordingly, our respective Governments, through representatives assembled in the city of San Francisco, who have exhibited their full powers found to be in good and due form, have agreed to the present Charter of the United Nations and do hereby establish an international organization to be known as the United Nations.
国際連合憲章 449
国際連合憲章
われら連合国の人民は、 われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害 から将来の世代を救い、 基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念 をあらためて確認し、 正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することが できる条件を確立し、 一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること 並びに、このために、 寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互いに平和に生活し、 国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、 共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定 によって確保し、 すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いるこ とを決意して、 これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。 よって、われらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に会合し、全権委任 状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、この国際連合 憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機構を設ける。
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CHAPTER I
PURPOSES AND PRINCIPLES Article 1 The Purposes of the United Nations are: 1. To maintain international peace and security, and to that end: to take effective collective measures for the prevention and removal of threats to the peace, and for the suppression of acts of aggression or other breaches of the peace, and to bring about by peaceful means, and in conformity with the principles of justice and international law, adjustment or settlement of international disputes or situations which might lead to a breach of the peace; 2. To develop friendly relations among nations based on respect for the principle of equal rights and self determination of peoples, and to take other appropriate measures to strengthen universal peace; 3. To achieve international co operation in solving international problems of an economic, social, cultural, or humanitarian character, and in promoting and encouraging respect for human rights and for fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language, or religion; and 4. To be a centre for harmonizing the actions of nations in the attainment of these common ends. Article 2 The Organization and its Members, in pursuit of the Purposes stated in Article 1, shall act in accordance with the following Principles. 1. The Organization is based on the principle of the sovereign equality of all its Members. 2. All Members, in order to ensure to all of them the rights and benefits resulting from membership, shall fulfill in good faith the obligations assumed by them in accordance with the present Charter. 3. All Members shall settle their international disputes by peaceful means in such a manner that international peace and security, and justice, are not endangered. 4. All Members shall refrain in their international relations from the threat or use of force against the territorial integrity or political independence of any state, or in any other manner inconsistent with the Purposes of the United Nations.
国際連合憲章 451
第1章 目的及び原則 第1条 国際連合の目的は、次のとおりである。 1
国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防 止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置 をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調 整または解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現 すること。
2
人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展さ せること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3
経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決するこ とについて、並びに人種、性、言語または宗教による差別なくすべての者の ために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国 際協力を達成すること。
4
これらの共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和するための中心と なること。
第2条 この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次 の原則に従って行動しなければならない。 1
この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2
すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべ てに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなけ ればならない。
3
すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安 全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行 使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連 合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
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5. All Members shall give the United Nations every assistance in any action it takes in accordance with the present Charter, and shall refrain from giving assistance to any state against which the United Nations is taking preventive or enforcement action. 6. The Organization shall ensure that states which are not Members of the United Nations act in accordance with these Principles so far as may be necessary for the maintenance of international peace and security. 7. Nothing contained in the present Charter shall authorize the United Nations to intervene in matters which are essentially within the domestic jurisdiction of any state or shall require the Members to submit such matters to settlement under the present Charter; but this principle shall not prejudice the application of enforcement measures under Chapter Vll.
CHAPTER II
MEMBERSHIP Article 3 The original Members of the United Nations shall be the states which, having participated in the United Nations Conference on International Organization at San Francisco, or having previously signed the Declaration by United Nations of 1 January 1942, sign the present Charter and ratify it in accordance with Article 110. Article 4 1. Membership in the United Nations is open to all other peace loving states which accept the obligations contained in the present Charter and, in the judgment of the Organization, are able and willing to carry out these obligations. 2. The admission of any such state to membership in the United Nations will be effected by a decision of the General Assembly upon the recommendation of the Security Council. Article 5 A Member of the United Nations against which preventive or enforcement action has been taken by the Security Council may be suspended from the exercise of the rights and privileges of membership by the General Assembly upon the recommendation of the Security Council. The exercise of these rights and privileges may be restored by the Security Council.
国際連合憲章 453
5
すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動につい ても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行 動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければなら ない。
6
この機構は、国際連合加盟国ではない国が、国際の平和及び安全の維持に 必要な限り、これらの原則に従って行動することを確保しなければならない。
7
この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事 項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの 憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、こ の原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。
第2章 加盟国の地位 第3条 国際連合の原加盟国は、サン・フランシスコにおける国際機構に関する連合 国会議に参加した国又はさきに1942年1月1日の連合国宣言に署名した国で、 この憲章に署名し、且つ、第110条に従ってこれを批准するものをいう。 第4条 1
国際連合における加盟国の地位は、この憲章に掲げる義務を受託し、且つ、 この機構によってこの義務を履行する能力及び意思があると認められる他の すべての平和愛好国に開放されている。
2
前記の国が国際連合加盟国となることの承認は、安全保障理事会の勧告に 基いて、総会の決定によって行われる。
第5条 安全保障理事会の防止行動または強制行動の対象となった国際連合加盟国に 対しては、総会が、安全保障理事会の勧告に基づいて、加盟国としての権利及 び特権の行使を停止することができる。これらの権利及び特権の行使は、安全 保障理事会が回復することができる。
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Article 6 A Member of the United Nations which has persistently violated the Principles contained in the present Charter may be expelled from the Organization by the General Assembly upon the recommendation of the Security Council.
CHAPTER III
ORGANS Article 7 1. There are established as the principal organs of the United Nations: a General Assembly, a Security Council, an Economic and Social Council, a Trusteeship Council, an International Court of Justice, and a Secretariat. 2. Such subsidiary organs as may be found necessary may be established in accordance with the present Charter. Article 8 The United Nations shall place no restrictions on the eligibility of men and women to participate in any capacity and under conditions of equality in its principal and subsidiary organs.
CHAPTER IV Composition
THE GENERAL ASSEMBLY
Article 9 1. The General Assembly shall consist of all the Members of the United Nations. 2. Each Member shall have not more than five representatives in the General Assembly. Functions and Powers Article 10 The General Assembly may discuss any questions or any matters within the scope of the present Charter or relating to the powers and functions of any organs provided for in the present Charter, and, except as provided in Article 12, may make recommendations to the
国際連合憲章 455
第6条 この憲章に掲げる原則に執拗に違反した国際連合加盟国は、総会が、安全保 障理事会の勧告に基づいて、この機構から除名することができる。
第3章 機 関 第7条 1
国際連合の主要機関として、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信 託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局を設ける。
2
必要と認められる補助機関は、この憲章に従って設けることができる。
第8条 国際連合は、その主要機関及び補助機関に男女がいかなる地位にも平等の条 件で参加する資格があることについて、いかなる制限も設けてはならない。
第4章 総 会 構 成 第9条 1
総会は、すべての国際連合加盟国で構成する。
2
各加盟国は、総会において5人以下の代表者を有するものとする。
任務及び権限 第10条 総会は、この憲章の範囲内にある問題若しくは事項又はこの憲章に規定する 機関の権限及び任務に関する問題若しくは事項を討議し、並びに、第12条に規 定する場合を除く外、このような問題又は事項について国際連合加盟国若しく は安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をすることができる。
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Members of the United Nations or to the Security Council or to both on any such questions or matters. Article 11 1. The General Assembly may consider the general principles of co operation in the maintenance of international peace and security, including the principles governing disarmament and the regulation of armaments, and may make recommendations with regard to such principles to the Members or to the Security Council or to both. 2. The General Assembly may discuss any questions relating to the maintenance of international peace and security brought before it by any Member of the United Nations, or by the Security Council, or by a state which is not a Member of the United Nations in accordance with Article 35, paragraph 2, and, except as provided in Article 12, may make recommendations with regard to any such questions to the state or states concerned or to the Security Council or to both. Any such question on which action is necessary shall be referred to the Security Council by the General Assembly either before or after discussion. 3. The General Assembly may call the attention of the Security Council to situations which are likely to endanger international peace and security. 4. The powers of the General Assembly set forth in this Article shall not limit the general scope of Article 10. Article 12 1. While the Security Council is exercising in respect of any dispute or situation the functions assigned to it in the present Charter, the General Assembly shall not make any recommendation with regard to that dispute or situation unless the Security Council so requests. 2. The Secretary General, with the consent of the Security Council, shall notify the General Assembly at each session of any matters relative to the maintenance of international peace and security which are being dealt with by the Security Council and shall similarly notify the General Assembly, or the Members of the United Nations if the General Assembly is not in session, immediately the Security Council ceases to deal with such matters. Article 13 1. The General Assembly shall initiate studies and make recommendations for the purpose of:
国際連合憲章 457
第11条 1
総会は、国際の平和及び安全の維持についての協力に関する一般原則を、 軍備縮小及び軍備規制を律する原則も含めて、審議し、並びにこのような原 則について加盟国若しくは安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をする ことができる。
2
総会は、国際連合加盟国若しくは安全保障理事会によって、又は第35条2 に従い国際連合加盟国でない国によって総会に付託される国際の平和及び安 全の維持に関するいかなる問題も討議し、並びに、第12条に規定する場合を 除く外、このような問題について、1若しくは2以上の関係国又は安全保障
理事会あるいはこの両者に対して勧告をすることができる。このような問題 で行動を必要とするものは、討議の前または後に、総会によって安全保障理 事会に付託されなければならない。 3
総会は、国際の平和及び安全を危くする虞のある事態について、安全保障 理事会の注意を促すことができる。
4
本条に掲げる総会の権限は、第10条の一般的範囲を制限するものではない。
第12条 1
安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争また は事態について遂行している間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限 り、この紛争又は事態について、いかなる勧告もしてはならない。
2
事務総長は、国際の平和及び安全の維持に関する事項で安全保障理事会が 取り扱っているものを、その同意を得て、会期ごとに総会に対して通告しな ければならない。事務総長は、安全保障理事会がその事項を取り扱うことを やめた場合にも、直ちに、総会又は、総会が開会中でないときは、国際連合 加盟国に対して同様に通告しなければならない。
第13条 1
総会は、次の目的のために研究を発議し、及び勧告をする。
458
a. promoting international co operation in the political field and encouraging the progressive development of international law and its codification; b. promoting international co operation in the economic, social, cultural, educational, and health fields, and assisting in the realization of human rights and fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language, or religion. 2. The further responsibilities, functions and powers of the General Assembly with respect to matters mentioned in paragraph 1 (b) above are set forth in Chapters IX and X. Article 14 Subject to the provisions of Article 12, the General Assembly may recommend measures for the peaceful adjustment of any situation, regardless of origin, which it deems likely to impair the general welfare or friendly relations among nations, including situations resulting from a violation of the provisions of the present Charter setting forth the Purposes and Principles of the United Nations. Article 15 1. The General Assembly shall receive and consider annual and special reports from the Security Council; these reports shall include an account of the measures that the Security Council has decided upon or taken to maintain international peace and security. 2. The General Assembly shall receive and consider reports from the other organs of the United Nations. Article 16 The General Assembly shall perform such functions with respect to the international trusteeship system as are assigned to it under Chapters XII and XIII, including the approval of the trusteeship agreements for areas not designated as strategic. Article 17 1. The General Assembly shall consider and approve the budget of the Organization. 2. The expenses of the Organization shall be borne by the Members as apportioned by the General Assembly. 3. The General Assembly shall consider and approve any financial and budgetary arrangements with specialized agencies referred to in Article 57 and shall examine the administrative budgets of such specialized agencies with a view to making recommendations to the agencies concerned.
国際連合憲章 459
a
政治的分野において国際協力を促進すること並びに国際法の斬新的発達 及び法典化を奨励すること。
b
経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野において国際協力を促 進すること並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のた めに人権及び基本的自由を実現するように援助すること。
2
前記の1bに掲げる事項に関する総会の他の責任、任務及び権限は、第9 章及び第10章に掲げる。
第14条 第12条の規定を留保して、総会は、起因にかかわりなく、一般的福祉または 諸国間の友好関係を害する虞があると認めるいかなる事態についても、これを 平和的に調整するための措置を勧告することができる。この事態には、国際連 合の目的及び原則を定めるこの憲章の規定の違反から生ずる事態が含まれる。 第15条 1
総会は、安全保障理事会から年次報告及び特別報告を受け、これを審議す る。この報告は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を維持するために決 定し、又はとった措置の説明を含まなければならない。
2
総会は、国際連合の他の機関から報告を受け、これを審議する。
第16条 総会は、第12章及び第13章に基いて与えられる国際信託統治制度に関する任 務を遂行する。この任務には、戦略地区として指定されない地区に関する信託 統治協定の承認が含まれる。 第17条 1
総会は、この機構の予算を審議し、且つ、承認する。
2
この機構の経費は、総会によって割り当てられるところに従って、加盟国 が負担する。
3
総会は、第57条に掲げる専門機関との財政上及び予算上の取極を審議し、 且つ、承認し、並びに、当該専門機関に勧告をする目的で、この専門機関の 行政的予算を検査する。
460
Voting Article 18 1. Each member of the General Assembly shall have one vote. 2. Decisions of the General Assembly on important questions shall be made by a two thirds majority of the members present and voting. These questions shall include: recommendations with respect to the maintenance of international peace and security, the election of the non permanent members of the Security Council, the election of the members of the Economic and Social Council, the election of members of the Trusteeship Council in accordance with paragraph 1 (c) of Article 86, the admission of new Members to the United Nations, the suspension of the rights and privileges of membership, the expulsion of Members, questions relating to the operation of the trusteeship system, and budgetary questions. 3. Decisions on other questions, including the determination of additional categories of questions to be decided by a two thirds majority, shall be made by a majority of the members present and voting. Article 19 A Member of the United Nations which is in arrears in the payment of its financial contributions to the Organization shall have no vote in the General Assembly if the amount of its arrears equals or exceeds the amount of the contributions due from it for the preceding two full years. The General Assembly may, nevertheless, permit such a Member to vote if it is satisfied that the failure to pay is due to conditions beyond the control of the Member. Procedure Article 20 The General Assembly shall meet in regular annual sessions and in such special sessions as occasion may require. Special sessions shall be convoked by the Secretary General at the request of the Security Council or of a majority of the Members of the United Nations. Article 21 The General Assembly shall adopt its own rules of procedure. It shall elect its President for each session. Article 22 The General Assembly may establish such subsidiary organs as it deems necessary for the performance of its functions.
国際連合憲章 461
表 決 第18条 1
総会の各構成国は、1個の投票権を有する。
2
重要問題に関する総会の決定は、出席し且つ投票する構成国の3分の2の
多数によって行われる。重要問題には、国際の平和及び安全の維持に関する 勧告、安全保障理事会の非常任理事国の選挙、経済社会理事会の理事国の選 挙、第86条1 cによる信託統治理事会の理事国の選挙、新加盟国の国際連合 への加盟の承認、加盟国としての権利及び特権の停止、加盟国の除名、信託 統治制度の運用に関する問題並びに予算問題が含まれる。 3
その他の問題に関する決定は、3分の2の多数によって決定されるべき問 題の新たな部類の決定を含めて、出席し且つ投票する構成国の過半数によっ て行われる。
第19条 この機構に対する分担金の支払が延滞している国際連合加盟国は、その延滞 金の額がその時までの満2年間にその国から支払われるべきであった分担金の 額に等しいか又はこれをこえるときは、総会で投票権を有しない。但し、総会 は、支払いの不履行がこのような加盟国にとってやむを得ない事情によると認 めるときは、その加盟国に投票を許すことができる。
手 続 第20条 総会は、年次通常会期として、また、必要がある場合に特別会期として会合 する。特別会期は、安全保障理事会の要請又は国際連合加盟国の過半数の要請 があったとき、事務総長が招集する。 第21条 総会は、その手続規則を採択する。総会は、その議長を会期ごとに選挙する。 第22条 総会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる。
462
CHAPTER V
THE SECURITY COUNCIL Composition Article 23 1. The Security Council shall consist of fifteen Members of the United Nations. The Republic of China, France, the Union of Soviet Socialist Republics, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, and the United States of America shall be permanent members of the Security Council. The General Assembly shall elect ten other Members of the United Nations to be non permanent members of the Security Council, due regard being specially paid, in the first instance to the contribution of Members of the United Nations to the maintenance of international peace and security and to the other purposes of the Organization, and also to equitable geographical distribution. 2. The non permanent members of the Security Council shall be elected for a term of two years. In the first election of the non permanent members after the increase of the membership of the Security Council from eleven to fifteen, two of the four additional members shall be chosen for a term of one year. A retiring member shall not be eligible for immediate re election. 3. Each member of the Security Council shall have one representative. Functions and Powers Article 24 1. In order to ensure prompt and effective action by the United Nations, its Members confer on the Security Council primary responsibility for the maintenance of international peace and security, and agree that in carrying out its duties under this responsibility the Security Council acts on their behalf. 2. In discharging these duties the Security Council shall act in accordance with the Purposes and Principles of the United Nations. The specific powers granted to the Security Council for the discharge of these duties are laid down in Chapters VI, VII, VIII, and XII. 3. The Security Council shall submit annual and, when necessary, special reports to the General Assembly for its consideration.
国際連合憲章 463
第5章 安全保障理事会 構 成 第23条 1
安全保障理事会は、15の国際連合加盟国で構成する。中華民国、フランス、 ソヴィエト社会主義共和国連邦、グレート・ブリテン及び北部アイルランド 連合王国及びアメリカ合衆国は、安全保障理事会の常任理事国となる。総会 は、第一に国際の平和及び安全の維持とこの機構のその他の目的とに対する 国際連合加盟国の貢献に、更に衡平な地理的分配に特に妥当な考慮を払って、 安全保障理事会の非常任理事国となる他の10の国際連合加盟国を選挙する。
2
安全保障理事会の非常任理事国は、2年の任期で選挙される。安全保障理 事会の理事国の定数が11から15に増加された後の第1回の非常任理事国の選 挙では、追加の4理事国のうち2理事国は、1年の任期で選ばれる。退任理 事国は、引き続いて再選される資格はない。
3
安全保障理事会の各理事国は、1人の代表を有する。
任務及び権限 第24条 1
国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国 際の平和及び安全の維持に関する主要な責任を安全保障理事会に負わせるも のとし、且つ、安全保障理事会がこの責任に基く義務を果すに当って加盟国 に代って行動することに同意する。
2
前記の義務を果すに当たっては、安全保障理事会は、国際連合の目的及び 原則に従って行動しなければならない。この義務を果たすために安全保障理 事会に与えられる特定の権限は、第6章、第7章、第8章及び第12章で定め
る。 3
安全保障理事会は、年次報告を、また、必要があるときは特別報告を総会 に審議のため提出しなければならない。
464
Article 25 The Members of the United Nations agree to accept and carry out the decisions of the Security Council in accordance with the present Charter. Article 26 In order to promote the establishment and maintenance of international peace and security with the least diversion for armaments of the world’s human and economic resources, the Security Council shall be responsible for formulating, with the assistance of the Military Staff Committee referred to in Article 47, plans to be submitted to the Members of the United Nations for the establishment of a system for the regulation of armaments. Voting Article 27 1. Each member of the Security Council shall have one vote. 2. Decisions of the Security Council on procedural matters shall be made by an affirmative vote of nine members. 3. Decisions of the Security Council on all other matters shall be made by an affirmative vote of nine members including the concurring votes of the permanent members; provided that, in decisions under Chapter VI, and under paragraph 3 of Article 52, a party to a dispute shall abstain from voting. Procedure Article 28 1. The Security Council shall be so organized as to be able to function continuously. Each member of the Security Council shall for this purpose be represented at all times at the seat of the Organization. 2. The Security Council shall hold periodic meetings at which each of its members may, if it so desires, be represented by a member of the government or by some other specially designated representative. 3. The Security Council may hold meetings at such places other than the seat of the Organization as in its judgment will best facilitate its work.
国際連合憲章 465
第25条 国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履 行することに同意する。 第26条 世界の人的及び経済的資源を軍備のために転用することを最も少くして国際 の平和及び安全の確立及び維持を促進する目的で、安全保障理事会は、軍備規 制の方式を確立するため国際連合加盟国に提出される計画を、第47条に掲げる 軍事参謀委員会の援助を得て、作成する責任を負う。
表 決 第27条 1
安全保障理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2
手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって 行われる。
3
その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同 意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。但し、第6章及び第52
条3に基く決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。
手 続 第28条 1
安全保障理事会は、継続して任務を行うことができるように組織する。こ のために、安全保障理事会の各理事国は、この機構の所在地に常に代表者を おかなければならない。
2
安全保障理事会は、定期会議を開く。この会議においては、各理事国は、 希望すれば、閣員または特に指名する他の代表者によって代表されることが できる。
3
安全保障理事会は、その事業を最も容易にすると認めるこの機構の所在地 以外の場所で、会議を開くことができる。
466
Article 29 The Security Council may establish such subsidiary organs as it deems necessary for the performance of its functions. Article 30 The Security Council shall adopt its own rules of procedure, including the method of selecting its President. Article 31 Any Member of the United Nations which is not a member of the Security Council may participate, without vote, in the discussion of any question brought before the Security Council whenever the latter considers that the interests of that Member are specially affected. Article 32 Any Member of the United Nations which is not a member of the Security Council or any state which is not a Member of the United Nations, if it is a party to a dispute under consideration by the Security Council, shall be invited to participate, without vote, in the discussion relating to the dispute. The Security Council shall lay down such conditions as it deems just for the participation of a state which is not a Member of the United Nations.
CHAPTER VI
PACIFIC SETTLEMENT OF DISPUTES Article 33 1. The parties to any dispute, the continuance of which is likely to endanger the maintenance of international peace and security, shall, first of all, seek a solution by negotiation, enquiry, mediation, conciliation, arbitration, judicial settlement, resort to regional agencies or arrangements, or other peaceful means of their own choice. 2. The Security Council shall, when it deems necessary, call upon the parties to settle their dispute by such means.
国際連合憲章 467
第29条 安全保障理事会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることが できる。 第30条 安全保障理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。 第31条 安全保障理事会の理事国でない国際連合加盟国は、安全保障理事会に付託さ れた問題について、理事会がこの加盟国の利害に特に影響があると認めるとき はいつでも、この問題の討議に投票権なしで参加することができる。 第32条 安全保障理事会の理事国でない国際連合加盟国又は国際連合加盟国でない国 は、安全保障理事会の審議中の紛争の当事者であるときは、この紛争に関する 討議に投票権なしで参加するように勧誘されなければならない。安全保障理事 会は、国際連合加盟国でない国の参加のために公正と認める条件を定める。
第6章 紛争の平和的解決 第33条 1
いかなる紛争でも継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞のある ものについては、その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲 裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ 平和的手段による解決を求めなければならない。
2
安全保障理事会は、必要と認めるときは、当事者に対して、その紛争を前 記の手段によって解決するように要請する。
468
Article 34 The Security Council may investigate any dispute, or any situation which might lead to international friction or give rise to a dispute, in order to determine whether the continuance of the dispute or situation is likely to endanger the maintenance of international peace and security. Article 35 1. Any Member of the United Nations may bring any dispute, or any situation of the nature referred to in Article 34, to the attention of the Security Council or of the General Assembly. 2. A state which is not a Member of the United Nations may bring to the attention of the Security Council or of the General Assembly any dispute to which it is a party if it accepts in advance, for the purposes of the dispute, the obligations of pacific settlement provided in the present Charter. 3. The proceedings of the General Assembly in respect of matters brought to its attention under this Article will be subject to the provisions of Articles 11 and 12. Article 36 1. The Security Council may, at any stage of a dispute of the nature referred to in Article 33 or of a situation of like nature, recommend appropriate procedures or methods of adjustment. 2. The Security Council should take into consideration any procedures for the settlement of the dispute which have already been adopted by the parties. 3. In making recommendations under this Article the Security Council should also take into consideration that legal disputes should as a general rule be referred by the parties to the International Court of Justice in accordance with the provisions of the Statute of the Court. Article 37 1. Should the parties to a dispute of the nature referred to in Article 33 fail to settle it by the means indicated in that Article, they shall refer it to the Security Council. 2. If the Security Council deems that the continuance of the dispute is in fact likely to endanger the maintenance of international peace and security, it shall decide whether to take action under Article 36 or to recommend such terms of settlement as it may consider appropriate.
国際連合憲章 469
第34条 安全保障理事会は、いかなる紛争についても、国際的摩擦に導き又は紛争を 発生させる虞のあるいかなる事態についても、その紛争または事態の継続が国 際の平和及び安全の維持を危うくする虞があるかどうかを決定するために調査 することができる。 第35条 1
国際連合加盟国は、いかなる紛争についても、第34条に掲げる性質のいか なる事態についても、安全保障理事会又は総会の注意を促すことができる。
2
国際連合加盟国でない国は、自国が当事者であるいかなる紛争についても、 この憲章に定める平和的解決の義務をこの紛争についてあらかじめ受諾すれ ば、安全保障理事会又は総会の注意を促すことができる。
3
本条に基いて注意を促された事項に関する総会の手続は、第11条及び第12 条の規定に従うものとする。
第36条 1
安全保障理事会は、第33条に掲げる性質の紛争又は同様の性質の事態のい かなる段階においても、適当な調整の手続又は方法を勧告することができる。
2
安全保障理事会は、当事者が既に採用した紛争解決の手続を考慮に入れな ければならない。
3
本条に基いて勧告をするに当っては、安全保障理事会は、法律的紛争が国 際司法裁判所規程の規定に従い当事者によって原則として同裁判所に付託さ れなければならないことも考慮に入れなければならない。
第37条 1
第33条に掲げる性質の紛争の当事者は、同条に示す手段によってこの紛争 を解決することができなかったときは、これを安全保障理事会に付託しなけ ればならない。
2
安全保障理事会は、紛争の継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする 虞が実際にあると認めるときは、第36条に基く行動をとるか、適当と認める 解決条件を勧告するかのいずれかを決定しなければならない。
470
Article 38 Without prejudice to the provisions of Articles 33 to 37, the Security Council may, if all the parties to any dispute so request, make recommendations to the parties with a view to a pacific settlement of the dispute.
CHAPTER VII
ACTION WITH RESPECT TO THREATS TO THE PEACE, BREACHES OF THE PEACE, AND ACTS OF AGGRESSION Article 39 The Security Council shall determine the existence of any threat to the peace, breach of the peace, or act of aggression and shall make recommendations, or decide what measures shall be taken in accordance with Articles 41 and 42, to maintain or restore international peace and security. Article 40 In order to prevent an aggravation of the situation, the Security Council may, before making the recommendations or deciding upon the measures provided for in Article 39, call upon the parties concerned to comply with such provisional measures as it deems necessary or desirable. Such provisional measures shall be without prejudice to the rights, claims, or position of the parties concerned. The Security Council shall duly take account of failure to comply with such provisional measures. Article 41 The Security Council may decide what measures not involving the use of armed force are to be employed to give effect to its decisions, and it may call upon the Members of the United Nations to apply such measures. These may include complete or partial interruption of economic relations and of rail, sea, air, postal, telegraphic, radio, and other means of communication, and the severance of diplomatic relations.
国際連合憲章 471
第38条 第33条から第37条までの規定にかかわらず、安全保障理事会は、いかなる紛 争についても、すべての紛争当事者が要請すれば、その平和的解決のためにこ の当事者に対して勧告をすることができる。
第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び
侵略行為に関する行動 第39条 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決 定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、 又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。 第40条 事態の悪化を防ぐため、第39条の規定により勧告をし、又は措置を決定する 前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関 係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求 権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当時者がこの暫定 措置に従わなかったときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。 第41条 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいか なる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するよ うに国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、 航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の 中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。
472
Article 42 Should the Security Council consider that measures provided for in Article 41 would be inadequate or have proved to be inadequate, it may take such action by air, sea, or land forces as may be necessary to maintain or restore international peace and security. Such action may include demonstrations, blockade, and other operations by air, sea, or land forces of Members of the United Nations. Article 43 1. All Members of the United Nations, in order to contribute to the maintenance of international peace and security, undertake to make available to the Security Council, on its call and in accordance with a special agreement or agreements, armed forces, assistance, and facilities, including rights of passage, necessary for the purpose of maintaining international peace and security. 2. Such agreement or agreements shall govern the numbers and types of forces, their degree of readiness and general location, and the nature of the facilities and assistance to be provided. 3. The agreement or agreements shall be negotiated as soon as possible on the initiative of the Security Council. They shall be concluded between the Security Council and Members or between the Security Council and groups of Members and shall be subject to ratification by the signatory states in accordance with their respective constitutional processes. Article 44 When the Security Council has decided to use force it shall, before calling upon a Member not represented on it to provide armed forces in fulfilment of the obligations assumed under Article 43, invite that Member, if the Member so desires, to participate in the decisions of the Security Council concerning the employment of contingents of that Member’s armed forces. Article 45 In order to enable the United Nations to take urgent military measures, Members shall hold immediately available national air force contingents for combined international enforcement action. The strength and degree of readiness of these contingents and plans for their combined action shall be determined within the limits laid down in the special agreement or agreements referred to in Article 43, by the Security Council with the assistance of the Military Staff Committee.
国際連合憲章 473
第42条 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不 充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に 必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連 合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことがで きる。 第43条 1
国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、 安全保障理事会の要請に基き且つ1又は2以上の特別協定に従って、国際の 平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用さ せることを約束する。この便益には、通過の権利が含まれる。
2
前記の協定は、兵力の数及び種類、その出動準備程度及び一般的配置並び に提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
3
前記の協定は、安全保障理事会の発議によって、なるべくすみやかに交渉 する。この協定は、安全保障理事会と加盟国との間又は安全保障理事会と加 盟国群との間に締結され、且つ、署名国によって各自の憲法上の手続に従っ て批准されなければならない。
第44条 安全保障理事会は、兵力を用いることに決定したときは、理事会に代表され ていない加盟国に対して第43条に基いて負った義務の履行として兵力を提供す るように要請する前に、その加盟国が希望すれば、その加盟国の兵力中の割当 部隊の使用に関する安全保障理事会の決定に参加するようにその加盟国を勧誘 しなければならない。 第45条 国際連合が緊急の軍事措置をとることができるようにするために、加盟国は、 合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供することがで きるように保持しなければならない。これらの割当部隊の数量及び出動準備程 度並びにその合同行動の計画は、第43条に掲げる1又は2以上の特別協定の定 める範囲内で、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が決定する。
474
Article 46 Plans for the application of armed force shall be made by the Security Council with the assistance of the Military Staff Committee. Article 47 1. There shall be established a Military Staff Committee to advise and assist the Security Council on all questions relating to the Security Council’s military requirements for the maintenance of international peace and security, the employment and command of forces placed at its disposal, the regulation of armaments, and possible disarmament. 2. The Military Staff Committee shall consist of the Chiefs of Staff of the permanent members of the Security Council or their representatives. Any Member of the United Nations not permanently represented on the Committee shall be invited by the Committee to be associated with it when the efficient discharge of the Committee’s responsibilities requires the participation of that Member in its work. 3. The Military Staff Committee shall be responsible under the Security Council for the strategic direction of any armed forces placed at the disposal of the Security Council. Questions relating to the command of such forces shall be worked out subsequently. 4. The Military Staff Committee, with the authorization of the Security Council and after consultation with appropriate regional agencies, may establish regional sub committees. Article 48 1. The action required to carry out the decisions of the Security Council for the maintenance of international peace and security shall be taken by all the Members of the United Nations or by some of them, as the Security Council may determine. 2. Such decisions shall be carried out by the Members of the United Nations directly and through their action in the appropriate international agencies of which they are members. Article 49 The Members of the United Nations shall join in affording mutual assistance in carrying out the measures decided upon by the Security Council.
国際連合憲章 475
第46条 兵力使用の計画は、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が作成する。 第47条 1
国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の軍事的要求、理事会 の自由に任された兵力の使用及び指揮、軍備規制並びに可能な軍備縮小に関 するすべての問題について理事会に助言及び援助を与えるために、軍事参謀 委員会を設ける。
2
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国の参謀総長又はその代表 者で構成する。この委員会に常任委員として代表されていない国際連合加盟 国は、委員会の責任の有効な遂行のため委員会の事業へのその国の参加が必 要であるときは、委員会によってこれと提携するように勧誘されなければな らない。
3
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の下で、理事会の自由に任された兵力 の戦略的指導について責任を負う。この兵力の指揮に関する問題は、後に解 決する。
4
軍事参謀委員会は、安全保障理事会の許可を得て、且つ、適当な地域的機 関と協議した後に、地域的小委員会を設けることができる。
第48条 1
国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の決定を履行するのに 必要な行動は、安全保障理事会が定めるところに従って国際連合加盟国の全 部または一部によってとられる。
2
前記の決定は、国際連合加盟国によって直接に、また、国際連合加盟国が 参加している適当な国際機関におけるこの加盟国の行動によって履行される。
第49条 国際連合加盟国は、安全保障理事会が決定した措置を履行するに当って、共 同して相互援助を与えなければならない。
476
Article 50 If preventive or enforcement measures against any state are taken by the Security Council, any other state, whether a Member of the United Nations or not, which finds itself confronted with special economic problems arising from the carrying out of those measures shall have the right to consult the Security Council with regard to a solution of those problems. Article 51 Nothing in the present Charter shall impair the inherent right of individual or collective self defence if an armed attack occurs against a Member of the United Nations, until the Security Council has taken measures necessary to maintain international peace and security. Measures taken by Members in the exercise of this right of self defence shall be immediately reported to the Security Council and shall not in any way affect the authority and responsibility of the Security Council under the present Charter to take at any time such action as it deems necessary in order to maintain or restore international peace and security.
CHAPTER VIII
REGIONAL ARRANGEMENTS Article 52 1. Nothing in the present Charter precludes the existence of regional arrangements or agencies for dealing with such matters relating to the maintenance of international peace and security as are appropriate for regional action provided that such arrangements or agencies and their activities are consistent with the Purposes and Principles of the United Nations. 2. The Members of the United Nations entering into such arrangements or constituting such agencies shall make every effort to achieve pacific settlement of local disputes through such regional arrangements or by such regional agencies before referring them to the Security Council. 3. The Security Council shall encourage the development of pacific settlement of local disputes through such regional arrangements or by such regional agencies either on the initiative of the states concerned or by reference from the Security Council. 4. This Article in no way impairs the application of Articles 34
国際連合憲章 477
第50条 安全保障理事会がある国に対して防止措置又は強制措置をとったときは、他 の国でこの措置の履行から生ずる特別の経済問題に自国が当面したと認めるも のは、国際連合加盟国であるかどうかを問わず、この問題の解決について安全 保障理事会と協議する権利を有する。 第51条 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場 合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまで の間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権 の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなけれ ばならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持 または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び 責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
第8章 地域的取極 第52条 1
この憲章のいかなる規定も、国際の平和及び安全の維持に関する事項で地 域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在す ることを妨げるものではない。但し、この取極又は機関及びその行動が国際 連合の目的及び原則と一致することを条件とする。
2
前記の取極を締結し、又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は、地方 的紛争を安全保障理事会に付託する前に、この地域的取極または地域的機関 によってこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければなら ない。
3
安全保障理事会は、関係国の発意に基くものであるか安全保障理事会から の付託によるものであるかを問わず、前記の地域的取極又は地域的機関によ る地方的紛争の平和的解決の発達を奨励しなければならない。
4
本条は、第34条及び第35条の適用をなんら害するものではない。
478
and 35. Article 53 1. The Security Council shall, where appropriate, utilize such regional arrangements or agencies for enforcement action under its authority. But no enforcement action shall be taken under regional arrangements or by regional agencies without the authorization of the Security Council, with the exception of measures against any enemy state, as defined in paragraph 2 of this Article, provided for pursuant to Article 107 or in regional arrangements directed against renewal of aggressive policy on the part of any such state, until such time as the Organization may, on request of the Governments concerned, be charged with the responsibility for preventing further aggression by such a state. 2. The term enemy state as used in paragraph 1 of this Article applies to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory of the present Charter. Article 54 The Security Council shall at all times be kept fully informed of activities undertaken or in contemplation under regional arrangements or by regional agencies for the maintenance of international peace and security.
CHAPTER IX
INTERNATIONAL ECONOMIC AND SOCIAL CO OPERATION Article 55 With a view to the creation of conditions of stability and well being which are necessary for peaceful and friendly relations among nations based on respect for the principle of equal rights and self determination of peoples, the United Nations shall promote: a. higher standards of living, full employment, and conditions of economic and social progress and development; b. solutions of international economic, social, health, and related problems; and international cultural and educational cooperation; and c. universal respect for, and observance of, human rights and fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language, or religion.
国際連合憲章 479
第53条 1
安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合 には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制 行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的 機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれ かに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における 侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の 要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うと きまで例外とする。
2
本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれか の署名国の敵国であった国に適用される。
第54条 安全保障理事会は、国際の平和及び安全の維持のために地域的取極に基いて 又は地域的機関によって開始され又は企図されている活動について、常に充分 に通報されていなければならない。
第9章 経済的及び社会的国際協力 第55条 人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の平和的且つ友好的関 係に必要な安定及び福祉の条件を創造するために、国際連合は、次のことを促 進しなければならない。 a
一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の 条件
b
経済的、社会的及び保健的国際問題と関係国際問題の解決並びに文化的 及び教育的国際協力
c
人種、性、言語または宗教による差別のないすべての者のための人権及 び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守
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Article 56 All Members pledge themselves to take joint and separate action in co operation with the Organization for the achievement of the purposes set forth in Article 55. Article 57 1. The various specialized agencies, established by intergovernmental agreement and having wide international responsibilities, as defined in their basic instruments, in economic, social, cultural, educational, health, and related fields, shall be brought into relationship with the United Nations in accordance with the provisions of Article 63. 2. Such agencies thus brought into relationship with the United Nations are hereinafter referred to as specialized agencies. Article 58 The Organization shall make recommendations for the co ordination of the policies and activities of the specialized agencies. Article 59 The Organization shall, where appropriate, initiate negotiations among the states concerned for the creation of any new specialized agencies required for the accomplishment of the purposes set forth in Article 55. Article 60 Responsibility for the discharge of the functions of the Organization set forth in this Chapter shall be vested in the General Assembly and, under the authority of the General Assembly, in the Economic and Social Council, which shall have for this purpose the powers set forth in Chapter X.
CHAPTER X
THE ECONOMIC AND SOCIAL COUNCIL Composition Article 61 1. The Economic and Social Council shall consist of fifty four Members of the United Nations elected by the General Assembly.
国際連合憲章 481
第56条 すべての加盟国は、第55条に掲げる目的を達成するために、この機構と協力 して、共同及び個別の行動をとることを誓約する。 第57条 1
政府間の協定によって設けられる各種の専門機関で、経済的、社会的、文 化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野においてその基本的文書で定め るところにより広い国際的責任を有するものは、第63条の規定に従って国際 連合と連携関係をもたされなければならない。
2
こうして国際連合と連携関係をもたされる前記の機関は、以下専門機関と いう。
第58条 この機構は、専門機関の政策及び活動を調整するために勧告をする。 第59条 この機構は、適当な場合には、第55条に掲げる目的の達成に必要な新たな専 門機関を設けるために関係国間の交渉を発議する。 第60条 この章に掲げるこの機構の任務を果たす責任は、総会及び、総会の権威の下 に、経済社会理事会に課せられる。理事会は、このために第10章に掲げる権限 を有する。
第10章 経済社会理事会 構 成 第61条 1
経済社会理事会は、総会によって選挙される54の国際連合加盟国で構成す る。
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2. Subject to the provisions of paragraph 3, eighteen members of the Economic and Social Council shall be elected each year for a term of three years. A retiring member shall be eligible for immediate re election. 3. At the first election after the increase in the membership of the Economic and Social Council from twenty seven to fifty four members, in addition to the members elected in place of the nine members whose term of office expires at the end of that year, twenty seven additional members shall be elected. Of these twenty seven additional members, the term of office of nine members so elected shall expire at the end of one year, and of nine other members at the end of two years, in accordance with arrangements made by the General Assembly. 4. Each member of the Economic and Social Council shall have one representative. Functions and Powers Article 62 1. The Economic and Social Council may make or initiate studies and reports with respect to international economic, social, cultural, educational, health, and related matters and may make recommendations with respect to any such matters to the General Assembly to the Members of the United Nations, and to the specialized agencies concerned. 2. It may make recommendations for the purpose of promoting respect for, and observance of, human rights and fundamental freedoms for all. 3. It may prepare draft conventions for submission to the General Assembly, with respect to matters falling within its competence. 4. It may call, in accordance with the rules prescribed by the United Nations, international conferences on matters falling within its competence. Article 63 1. The Economic and Social Council may enter into agreements with any of the agencies referred to in Article 57, defining the terms on which the agency concerned shall be brought into relationship with the United Nations. Such agreements shall be subject to approval by the General Assembly. 2. It may co ordinate the activities of the specialized agencies through consultation with and recommendations to such agencies and through recommendations to the General Assembly and to the Mem-
国際連合憲章 483
2
3の規定を留保して、経済社会理事会の18理事国は、3年の任期で毎年選 挙される。退任理事国は、引き続いて再選される資格がある。
3
経済社会理事会の理事国の定数が27から54に増加された後の第1回の選挙 では、その年の終わりに任期が終了する9理事国に代って選挙される理事国 に加えて、更に27理事国が選挙される。このようにして選挙された追加の27 理事国のうち9理事国の任期は1年の終りに、他の9理事国の任期は2年の 終りに、総会の定めるところに従って終了する。
4
経済社会理事会の各理事国は、1人の代表者を有する。
任務及び権限 第62条 1
経済社会理事会は、経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的国際事項 並びに関係国際事項に関する研究及び報告を行い、または発議し、並びにこ れらの事項に関して総会、国際連合加盟国及び関係専門機関に勧告をするこ とができる。
2
理事会は、すべての者のための人権及び基本的自由の尊重及び遵守を助長 するために、勧告をすることができる。
3
理事会は、その権限に属する事項について、総会に提出するための条約案 を作成することができる。
4
理事会は、国際連合の定める規則に従って、その権限に属する事項につい て国際会議を招集することができる。
第63条 1
経済社会理事会は、第57条に掲げる機関のいずれとの間にも、その機関が 国際連合と連携関係をもたされるについての条件を定める協定を締結するこ とができる。この協定は、総会の承認を受けなければならない。
2
理事会は、専門機関との協議及び専門機関に対する勧告並びに総会及び国 際連合加盟国に対する勧告によって、専門機関の活動を調整することができ る。
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bers of the United Nations. Article 64 1. The Economic and Social Council may take appropriate steps to obtain regular reports from the specialized agencies. It may make arrangements with the Members of the United Nations and with the specialized agencies to obtain reports on the steps taken to give effect to its own recommendations and to recommendations on matters falling within its competence made by the General Assembly. 2. It may communicate its observations on these reports to the General Assembly. Article 65 The Economic and Social Council may furnish information to the Security Council and shall assist the Security Council upon its request. Article 66 1. The Economic and Social Council shall perform such functions as fall within its competence in connection with the carrying out of the recommendations of the General Assembly. 2. It may, with the approval of the General Assembly, perform services at the request of Members of the United Nations and at the request of specialized agencies. 3. It shall perform such other functions as are specified elsewhere in the present Charter or as may be assigned to it by the General Assembly. Voting Article 67 1. Each member of the Economic and Social Council shall have one vote. 2. Decisions of the Economic and Social Council shall be made by a majority of the members present and voting. Procedure Article 68 The Economic and Social Council shall set up commissions in economic and social fields and for the promotion of human rights, and such other commissions as may be required for the performance of its functions.
国際連合憲章 485
第64条 1
経済社会理事会は、専門機関から定期報告を受けるために、適当な措置を とることができる。理事会は、理事会の勧告と理事会の権限に属する事項に 関する総会の勧告とを実施するためにとれれた措置について報告を受けるた め、国際連合加盟国及び専門機関と取極を行うことができる。
2
理事会は、前記の報告に関するその意見を総会に通報することができる。
第65条 経済社会理事会は、安全保障理事会に情報を提供することができる。経済社 会理事会は、また、安全保障理事会の要請があったときは、これを援助しなけ ればならない。 第66条 1
経済社会理事会は、総会の勧告の履行に関して、自己の権限に属する任務 を遂行しなければならない。
2
理事会は、国際連合加盟国の要請があったとき、又は専門機関の要請が あったときは、総会の承認を得て役務を提供することができる。
3
理事会は、この憲章の他の箇所に定められ、または総会によって自己に与 えられるその他の任務を遂行しなければならない。
表 決 第67条 1
経済社会理事会の各理事国は、1個の投票権を有する。
2
経済社会理事会の決定は、出席し且つ投票する理事国の過半数によって行 われる。
手 続 第68条 経済社会理事会は、経済的及び社会的分野における委員会、人権の伸張に関 する委員会並びに自己の任務の遂行に必要なその他の委員会を設ける。
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Article 69 The Economic and Social Council shall invite any Member of the United Nations to participate, without vote, in its deliberations on any matter of particular concern to that Member. Article 70 The Economic and Social Council may make arrangements for representatives of the specialized agencies to participate, without vote, in its deliberations and in those of the commissions established by it, and for its representatives to participate in the deliberations of the specialized agencies. Article 71 The Economic and Social Council may make suitable arrangements for consultation with non governmental organizations which are concerned with matters within its competence. Such arrangements may be made with international organizations and, where appropriate, with national organizations after consultation with the Member of the United Nations concerned. Article 72 1. The Economic and Social Council shall adopt its own rules of procedure, including the method of selecting its President. 2. The Economic and Social Council shall meet as required in accordance with its rules, which shall include provision for the convening of meetings on the request of a majority of its members.
国際連合憲章 487
第69条 経済社会理事会は、いずれの国際連合加盟国に対しても、その加盟国に特に 関係のある事項についての審議に投票権なしで参加するように勧誘しなければ ならない。 第70条 経済社会理事会は、専門機関の代表者が理事会の審議及び理事会の設ける委 員会の審議に投票権なしで参加するための取極並びに理事会の代表者が専門機 関の審議に参加するための取極を行うことができる。 第71条 経済社会理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議する ために、適当な取極を行うことができる。この取極は、国際団体との間に、ま た、適当な場合には、関係のある国際連合加盟国と協議した後に国内団体との 間に行うことができる。 第72条 1
経済社会理事会は、議長を選定する方法を含むその手続規則を採択する。
2
経済社会理事会は、その規則に従って必要があるときに会合する。この規 則は、理事国の過半数の要請による会議招集の規定を含まなければならない。
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CHAPTER XI
DECLARATION REGARDING NON SELF GOVERNING TERRITORIES Article 73 Members of the United Nations which have or assume responsibilities for the administration of territories whose peoples have not yet attained a full measure of self government recognize the principle that the interests of the inhabitants of these territories are paramount, and accept as a sacred trust the obligation to promote to the utmost, within the system of international peace and security established by the present Charter, the well being of the inhabitants of these territories, and, to this end: a. to ensure, with due respect for the culture of the peoples concerned, their political, economic, social, and educational advancement, their just treatment, and their protection against abuses; b. to develop self government, to take due account of the political aspirations of the peoples, and to assist them in the progressive development of their free political institutions, according to the particular circumstances of each territory and its peoples and their varying stages of advancement; c. to further international peace and security; d. to promote constructive measures of development, to encourage research, and to co operate with one another and, when and where appropriate, with specialized international bodies with a view to the practical achievement of the social, economic, and scientific purposes set forth in this Article; and e. to transmit regularly to the Secretary General for information purposes, subject to such limitation as security and constitutional considerations may require, statistical and other information of a technical nature relating to economic, social, and educational conditions in the territories for which they are respectively responsible other than those territories to which Chapters XII and XIII apply.
国際連合憲章 489
第11章 非自治地域に関する宣言 第73条 人民がまだ完全に自治を行うに至っていない地域の施政を行う責任を有し、 又は引き受ける国際連合加盟国は、この地域の住民の利益が至上のものである という原則を承認し、且つ、この地域の住民の福祉をこの憲章の確立する国際 の平和及び安全の制度内で最高度まで増進する義務並びにそのために次のこと を行う義務を神聖な信託として受託する。 a
関係人民の文化を充分に尊重して、この人民の政治的、経済的、社会的 及び教育的進歩、公正な待遇並びに虐待からの保護を確保すること。
b
各地域及びその人民の特殊事情並びに人民の進歩の異なる段階に応じて、 自治を発達させ、人民の政治的願望に妥当な考慮を払い、且つ、人民の自 由な政治制度の斬新的発達について人民を援助すること。
c
国際の平和及び安全を増進すること。
d
本条に掲げる社会的、経済的及び科学的目的を実際に達成するために、 建設的な発展措置を促進し、研究を奨励し、且つ、相互に及び適当な場合 には専門国際団体と協力すること。
e
第12章及び第13章の適用を受ける地域を除く外、前記の加盟国がそれぞ れ責任を負う地域における経済的、社会的及び教育的状態に関する専門的 性質の統計その他の資料を、安全保障及び憲法上の考慮から必要な制限に 従うことを条件として、情報用として事務総長に定期的に送付すること。
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Article 74 Members of the United Nations also agree that their policy in respect of the territories to which this Chapter applies, no less than in respect of their metropolitan areas, must be based on the general principle of good neighbourliness, due account being taken of the interests and well being of the rest of the world, in social, economic, and commercial matters.
CHAPTER XII
INTERNATIONAL TRUSTEESHIP SYSTEM Article 75 The United Nations shall establish under its authority an international trusteeship system for the administration and supervision of such territories as may be placed thereunder by subsequent individual agreements. These territories are hereinafter referred to as trust territories. Article 76 The basic objectives of the trusteeship system, in accordance with the Purposes of the United Nations laid down in Article 1 of the present Charter, shall be: a. to further international peace and security; b. to promote the political, economic, social, and educational advancement of the inhabitants of the trust territories, and their progressive development towards self government or independence as may be appropriate to the particular circumstances of each territory and its peoples and the freely expressed wishes of the peoples concerned, and as may be provided by the terms of each trusteeship agreement; c. to encourage respect for human rights and for fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language, or religion, and to encourage recognition of the interdependence of the peoples of the world; and d. to ensure equal treatment in social, economic, and commercial matters for all Members of the United Nations and their nationals, and also equal treatment for the latter in the administration of justice, without prejudice to the attainment of the foregoing objectives and subject to the provisions of Article 80.
国際連合憲章 491
第74条 国際連合加盟国は、また、本章の適用を受ける地域に関するその政策を、そ の本土に関する政策と同様に、世界の他の地域の利益及び福祉に妥当な考慮を 払った上で、社会的、経済的及び商業的事項に関して善隣主義の一般原則に基 かせなければならないことに同意する。
第12章 国際信託統治制度 第75条 国際連合は、その権威の下に、国際信託統治制度を設ける。この制度は、今 後の個々の協定によってこの制度の下におかれる地域の施政及び監督を目的と する。この地域は、以下信託統治地域という。 第76条 信託統治制度の基本目的は、この憲章の第1条に掲げる国際連合の目的に 従って、次のとおりとする。 a
国際の平和及び安全を増進すること。
b
信託統治地域の住民の政治的、経済的、社会的及び教育的進歩を促進す ること。各地域及びその人民の特殊事情並びに関係人民が自由に表明する 願望に適合するように、且つ、各信託統治協定の条項が規定するところに 従って、自治または独立に向っての住民の漸進的発達を促進すること。
c
人種、性、言語または宗教による差別なくすべての者のために人権及び 基本的自由を尊重するように奨励し、且つ、世界の人民の相互依存の認識 を助長すること。
d
前記の目的の達成を妨げることなく、且つ、第80条の規定を留保して、 すべての国際連合加盟国及びその国民のために社会的、経済的及び商業的 事項について平等の待遇を確保し、また、その国民のために司法上で平等 の待遇を確保すること。
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Article 77 1. The trusteeship system shall apply to such territories in the following categories as may be placed thereunder by means of trusteeship agreements: a. territories now held under mandate; b. territories which may be detached from enemy states as a result of the Second World War; and c. territories voluntarily placed under the system by states responsible for their administration. 2. It will be a matter for subsequent agreement as to which territories in the foregoing categories will be brought under the trusteeship system and upon what terms. Article 78 The trusteeship system shall not apply to territories which have become Members of the United Nations, relationship among which shall be based on respect for the principle of sovereign equality. Article 79 The terms of trusteeship for each territory to be placed under the trusteeship system, including any alteration or amendment, shall be agreed upon by the states directly concerned, including the mandatory power in the case of territories held under mandate by a Member of the United Nations, and shall be approved as provided for in Articles 83 and 85. Article 80 1. Except as may be agreed upon in individual trusteeship agreements, made under Articles 77, 79, and 81, placing each territory under the trusteeship system, and until such agreements have been concluded, nothing in this Chapter shall be construed in or of itself to alter in any manner the rights whatsoever of any states or any peoples or the terms of existing international instruments to which Members of the United Nations may respectively be parties. 2. Paragraph 1 of this Article shall not be interpreted as giving grounds for delay or postponement of the negotiation and conclusion of agreements for placing mandated and other territories under the trusteeship system as provided for in Article 77.
国際連合憲章 493
第77条 1
信託統治制度は、次の種類の地域で信託統治協定によってこの制度の下に おかれるものに適用する。 a
現に委任統治の下にある地域
b
第二次世界大戦の結果として敵国から分離される地域
c
施政について責任を負う国によって自発的にこの制度の下におかれる地 域
2
前記の種類のうちのいずれの地域がいかなる条件で信託統治制度の下にお かれるかについては、今後の協定で定める。
第78条 国際連合加盟国の間の関係は、主権平等の原則の尊重を基礎とするから、信 託統治制度は、加盟国となった地域には適用しない。 第79条 信託統治制度の下におかれる各地域に関する信託統治の条項は、いかなる変 更又は改正も含めて、直接関係国によって協定され、且つ、第83条及び第85条 に規定するところに従って承認されなければならない。この直接関係国は、国 際連合加盟国の委任統治の下にある地域の場合には、受任国を含む。 第80条 1
第77条、第79条及び第81条に基いて締結され、各地域を信託統治制度の下 におく個個の信託統治協定において協定されるところを除き、また、このよ うな協定が締結される時まで、本章の規定は、いずれの国又はいずれの人民 のいかなる権利をも、また、国際連合加盟国がそれぞれ当事国となっている 現存の国際文書の条項をも、直接又は間接にどのようにも変更するものと解 釈してはならない。
2
本条1は、第77条に規定するところに従って委任統治地域及びその他の地 域を信託統治制度の下におくための協定の交渉及び締結の遅滞又は延期に対 して、根拠を与えるものと解釈してはならない。
494
Article 81 The trusteeship agreement shall in each case include the terms under which the trust territory will be administered and designate the authority which will exercise the administration of the trust territory. Such authority, hereinafter called the administering authority, may be one or more states or the Organization itself. Article 82 There may be designated, in any trusteeship agreement, a strategic area or areas which may include part or all of the trust territory to which the agreement applies, without prejudice to any special agreement or agreements made under Article 43. Article 83 1. All functions of the United Nations relating to strategic areas, including the approval of the terms of the trusteeship agreements and of their alteration or amendment shall be exercised by the Security Council. 2. The basic objectives set forth in Article 76 shall be applicable to the people of each strategic area. 3. The Security Council shall, subject to the provisions of the trusteeship agreements and without prejudice to security considerations, avail itself of the assistance of the Trusteeship Council to perform those functions of the United Nations under the trusteeship system relating to political, economic, social, and educational matters in the strategic areas. Article 84 It shall be the duty of the administering authority to ensure that the trust territory shall play its part in the maintenance of international peace and security. To this end the administering authority may make use of volunteer forces, facilities, and assistance from the trust territory in carrying out the obligations towards the Security Council undertaken in this regard by the administering authority, as well as for local defence and the maintenance of law and order within the trust territory. Article 85 1. The functions of the United Nations with regard to trusteeship agreements for all areas not designated as strategic, including the approval of the terms of the trusteeship agreements and of their alteration or amendment, shall be exercised by the General Assembly.