冬 号 2013
韓国の文化と芸術
特 集 冬号m2013 n o . n4o . 2 sum er 2012vo l.vo20 l. 26
焼 酎 あ れ こ れ 詩人の焼酎夢想 世界一売れる蒸留酒 盗まれる記憶、創られる記憶
焼酎あれこれ 韓国の飲酒文化
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v o l. 20 n o. 4
ISSN 1225-4592
発行人
柳現錫
編集理事
全南鎭
編集 金熒允編集会社
編集長
金鍾徳
ソウル市麻浦区西橋洞384-13
監修者
嘉原和代
Tel : 82-2-335-4741
編集諮問委員 裵炳雨
Elisabeth Chabanol
韓敬九
金華榮
金文煥
金英那
高美錫
宋惠眞
宋永萬
Werner Sasse
Fax : 82-2-335-4743 www.gegd.co.kr 印刷 三星文化印刷 ソウル市城東区聖水2街274-34 Tel : 82-2-469-0361~5 Fax : 82-2-461-6798
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式見解ではありません。 1987年8月8日文化観光部-1033で登 録された季刊誌『Koreana』はアラビア語、 インドネシア語、英語、スペイン語、 中国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語 でも発刊されています。
6086)で転載許可を申請してください。 『Koreana』の記事を引用したり、非営利目 的で使用する場合にも『Koreana『からの 転載であることが分かるようにクレジッ トを明示してください。
韓国の文化と芸術 冬号 2013
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檀園キム・ホンド(金弘道、1745~ 1806年頃) 『 船上観梅図』、紙本淡彩 (紙に淡い彩色)、164×76cm、18世 紀後半~19世紀初期(朝鮮時代)
安東焼酎と禁酒文化 1992年の真夏日、慶尚北道安東の趙玉花女史の家では、庭先から車道にまで 人々が長い列をなしていた。人々はうだるような暑さの中で、伝説的・伝統的 なセラミック蒸留器から抽出される新鮮な焼酎を購入する機会を待っていた。
な祝い膳を再現したレプリカである。 儒教的伝統を尊重することで有名な内陸部の小都市安東は、13世紀にベース キャンプを設置していたモンゴル軍の影響下で蒸留酒を造るようになったとい
その最初の訪問から20年後の今年の10月、コリアナの特集チームと共に、再
う。モンゴル軍は中東への進出の際に高アルコール蒸留酒を取りいれたといわ
び趙家を訪問した。かつての女史の小さな蒸留所は息子夫婦が経営する活気あ
れる。「焼酎あれこれ」というテーマが信者に禁酒を要求するイスラムの教義に
ふれるビジネスになっていた。御年90歳を少し越えた趙玉花女史はめっきり衰
相反するということで、今季の『コリアナ』アラビア語版に特集が掲載できない
弱していたが、未だに女史からは、故郷でフェミニストとして社会運動に長ら
のはいかにも残念である。しかし、アルコールは韓国文化に不可欠な側面があ
く従事してきた女家長のオーラが醸し出されていた。国の人間文化財である趙
り、それを扱うことは読者の皆さんに韓国の文化と芸術を紹介するコリアナの
玉花女史は、長い歳月に渡って検証された品質と評判を維持するために努力を
目的に沿ったテーマであると理解している。異文化や生活様式に対する国際社
惜しまなかった。また同社は韓国の様々な伝統酒と料理を展示するすばらしい
会のより深い理解と慣用を期待するものである。
博物館も運営している。最も目を引く展示は、1999年4月に安東を訪れた英国
日本語版編集長
の女王エリザベス2世の73歳の誕生日を迎えて、趙玉花女史がととのえた豪華
金鍾徳
特集 焼酎あれこれ
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特集1
焼酎、その情緒的背景のひとこま
李昌起
特集2
焼酎という酒
芮鍾碩
特集3
私と焼酎
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ベン・ジャクソン
特集4
韓国人の飲酒文化
趙聖基
特集5
焼酎のつまみ
芮鍾碩
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アート・レビュー
新羅:韓国の黄金王国
李昭玲
オン・ザ・ロード
非武装地帯の美術展 - 地への愛着と戦争の記憶 金裕卿 鉄原という都市-緊張と平和が共存する「鉄の三角地帯」 キム・ダン
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遠くの目
芸術を通した魂の交流を目指して-日中韓コラボレーション演劇「祝/言」 小島寛之 エンタテインメント
ポン・ジュンホ流のディストピア寓話「雪国列車」 金泳辰
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グルメを楽しむ
北風と太陽と雪とが織りなす極上グルメ「ファンテ」 芮鍾碩 ライフスタイル
所有の新しい概念、「共有経済」
李珍朱
韓国文学の旅
ドジな人間の人生を記憶する一つの方式 バラの木の食器棚 李賢洙
姜知希
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特集1 焼酎あれこれ
焼酎、その情緒的背景のひとこま 現在、少なくとも酒に関する限り、韓国において明確な階級の差はないと思われる。焼酎は全ての国民をつなぐ酒だ。 その背景には、産業化時代の都市労働者の楽観が含まれていて、そんな「焼酎精神」は、企業の独特な「会食文化」へと 発展した。 イ・チャンギ(李昌起、詩人、文学評論家)
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76年の熱かった夏の太陽が秋の日差しに変わる頃、私は縁側にごろりと横になって新聞の連載小説を 読んでいた。そうするうちに、多くの人がこの世を成り行き任せに生きているのではないかという疑
問が、ふと頭をかすめた。そもそも大人というのは、人生とは何か、どう生きるのが望ましいのかを理解して 生きている存在だと信じていた私にとって、そうした知覚は、耐えがたい混乱の中で限りない渇きと無気力感 を抱かせた。高校2年生のときの話だ。 だが、その重々しい実存の痛みは、程なく癒しのエクスタシーももたらした。何日か過ぎた後、作文の時間 だった。その日、作文の先生は、教科書にない一編の詩を黒板に書いた。「若き詩人よ、咳をしよう/目に向かっ て咳をしよう/目に見ろと、安心して安心して/咳をしよう」。キム・スヨン(金洙暎)の『目』というその詩は、見 習うことなどないと思われた暗鬱な時代に、私の魂に響いた最初のメッセージだった。そして、そうした不眠 の夜にラジオから流れてきた一編の詩は、しばらくの間忘れていた最初のロマンの記憶を呼び覚ました。「一杯、 酒を飲んで」で始まり、「酒の瓶から星が降る/心に傷を負った星は、私の胸で軽く砕ける」に続くパク・インファ ン(朴寅煥)の詩『木馬と淑女』だ。私は、酒と詩を出口として、ためらうことなく求道を始めた。
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韓国の文化と芸術
私と焼酎 私にとって酒を飲むことは、この古臭い世の中と対峙する新しい戦士の出現を知らせる胸高鳴る太鼓の音で あり、すべての人間が恐れて逆らえなかったものへの全面的な宣戦布告であり、さらにはその全てのものから 自由になることを夢見た純潔な青年のもがきだった。その儀式に使われた「ミサの酒」が青い瓶にカエルの商標 がついた25度の焼酎だった。焼酎は感覚的で、精神的で、奇抜で、幻想的で、非実用的で、反社会的であり、 革命的な顔をして私の魂に入り込んできだ。とある日には、ひけらかすように2合入りの焼酎を一気に空けた こともある。人間らしく生きるために。 詩人の語り口をまねて、分かったような分からないような放言を繰り返していると、付き従う者が一人二人 と現れ始めた。私たちの儀式は、日が沈む頃に始まって闇と共に深まった。集まりが繰り返されるうちに、参加 」 と呼んだ。しかし、すぐに異教徒の逆 者が増えていった。主催側は、その集まりを 「饗宴 (Plato’ s Symposium) 襲が始まった。私たちは「校内飲酒」という屈辱的な嫌疑によって学校からまとめて停学になり、おまけに「愛の 鞭」 という名の拷問に耐えなければならなかった。しかし、その翌年の冬、ありったけの資金を全てつぎ込んで、 これ見よがしに市内の広報館で大規模な詩画展を開き、豪気に私たちの決意を世に知らしめた。その詩画展を最 後に、私は家を出ると宣言して飛び出した。ミトンの手袋をした愛しい恋人をターミナルに残して…。 1979年10月26日、パク・チョンヒ(朴正煕)大統領の暗殺事件が起きたとき、私は肉体と精神がボロボロの状 態で、友人のむさくるしい一人暮らしの部屋で発見された。そして、その年の冬、何とか這いつくばるように 軍に入隊することで、私の流れ星はこの地上から完全に消え去った。
父と焼酎 黄海道が故郷の父は、朝鮮戦争のときに家族を残して一人で南に渡ってきた避難民だ。 89歳の父は、今でも 元気なときには晩酌に焼酎を傾けるほどの酒好きだ。酒に関する限り、我慢したり待ったりするという美徳は 最初からなかったのか、注がれた酒はグイッとすぐさま空けた。名節(旧暦の盆や正月)には父と酌み交わすこ ともあるが、そんな父に私は困ってしまう。私が酒を半分だけ飲んで、そっとグラスを下ろそうものなら、す ぐに大声が飛んでくる。「一口にもならない小さな焼酎のグラスを、飲み干すも飲み干さないもあるものか」と。 避難民に酒好きというイメージが重なって、父が北に残してきた家族のことを考えながら酒でうさを晴らす うちに、酒飲みになったと想像したのなら、それは誤解だ。そんなことがなかったとは言えないが、父が焼酎 をよく飲むようになったのは1970年代からだ。技術者を何人か雇って自動車に関する仕事をしていた父は、事 ほのかな明かりで道行く人 を手招きする道端の屋台
業が傾くと焼酎への依存度が急激に高まった。今でも父は、事業が傾いたのは運が悪かったからだと信じてい る。だが私の見る限り、自動車が新しい産業分野として台頭し、各分野について体系的に学んだ専門技術者が 必要になったからだ。つまり、頑固な発明家タイプのエンジニアの時代から、体系的な知識を備えた専門エン ジニアの時代に変わったのだ。酔いが回ると、真夜中に家族を呼び集めて、国の将来と人の道理について一席 ぶつという酒癖も、どこかで習ってきた。
産業戦士と焼酎 朝鮮戦争直後の世界で最も貧しかった国から、現在の世界第8位の貿易大国になるまで、その基礎となった 韓国の産業化は1970年代に入って本格化した。産業化の主役は、並外れた教育熱で戦後の経済難を乗り越えて、 大学を出た若いエリートだった。だが、その動力源になったのは、仕事を求めて故郷から都会に集まってきた 普通の若者だった。彼らの優れた(しかし安い)労働力が、韓国の産業化を推し進めた最高の競争力だった。 そうした労働者の疲れた体と故郷を離れて暮らすうさを晴らしてくれたのが、帰り道に飲む一杯の酒だっ た。産業化時代のイギリスの労働者が、ワインやビールの代わりにアルコール度数の高いブランデーを楽しん Koreana ı 冬号 2013
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だように、食欲がわく上に3杯も飲めばある程度酔いが回る焼酎は、マッコリ(どぶろく)よりも人気があった。 苦味の中に後引く甘味は、生活の疲れを癒してねぎらうのに十分で、少ないお金で酔うこともできた。ひとこ とで言えば、焼酎は時代のニーズに応えて完璧に最適化された酒だった。
楽観の酒、団結の酒 酒に酔った人の様子は東西古今どこも似通っているが、韓国人の飲酒習慣の特徴は、節制よりも泥酔に近 い。「適当に」よりも「最後まで」飲む。独特なのは、その泥酔の底辺にある情緒が、逃避や劣等感・敗北感でな く、おかしなほど堂々としていて楽観的な点だ。「ネズミの穴にも日の差す日がある(「待てば海路の日和あり」 の意)」という韓国のことわざや「生きていれば、いつかは明るい日が来るだろう」という歌詞が、飲み屋を訪れ る人たちの一般的な心の背景にあったのだ。たとえ今は現実の隅に追いやられていても、その敗北を心から受 け入れることはなかった。敗北は一時的なもので、いつかまた中心に立つ日を夢見て待ったのだ。焼酎は、そ んな偽りの敗北者が肩を抱き合う慰めの酒だった。 「孤独な酒」は、めったに見られない光景だ。酒が人間の集団性と団結力を高めるという仮説を証明するかの ように、激情的だ。独特な会食文化は、ここに由来する。会食(「会飲」の方が適切だろうが)からの離脱は、団 結への拒否のように受け止められる。もちろん興奮が収まった翌日には、そんなことなかったかのように全て 忘れてしまうが…。多くは二次会から三次会へと続く非生産的で浪費的な「酒席文化」が、産業化の時代には生 産性を高める肯定的な企業文化だったと信じている。
労働も焼酎も変身 「焼酎の変身」という言葉が、ジャーナリズムをにぎわしたのは、1995年に一人当たりのGDPが1万ドルに 達した後だろうか。「変身」の焦点はアルコール度数だ。焼酎は、1998年にアルコール度数が23度に引き下げら れた後、22度(2001年)、21度(2004年)と低くなり続け、今では19.5度が主流だ。度数が低くなって、飲み干し た後の「カーッ」という酒好きの声も消えた。「柔らかい焼酎」への変化は「ウェルビーイング文化」の影響と考え られたり、若者や女性の嗜好に合わせた結果だとも解釈されている。フルーツの香りを付けた様々なカクテル 焼酎の登場が、その一例だ。 私は、そうした変化の根本的な理由が、労働の質と性格の変化にあると考える。一方的に与えられた目標を 勤勉さと誠実さで達成した産業化時代の肉体的労働は、一人当たりのGDP1万ドルでピークに達した。その次に やってきたいわゆる情報化の時代になると、労働はすでに金銭的補償を得るための辛いものではなく、自己実現 の手段だと認識され始めた。自分の適性に合わせて職業を選び、自らの能力によって社会的な地位が決まり、人 の幸せもその中にあるという見方が広がった。その代わり、自分の能力を立証するために大競争に勝たなければ ならず、失敗すれば直ちに他の人に取って代わられた。おのずと目的のない享楽や何もしない自由は排除され、 労働以外の時間は残りの時間でなく、新しいイノベーションを準備する時間にならざるを得なかった。
「孤独な酒」は、めったに見られない光景だ。酒が人間の集団性と団結力を高めるという 仮説を証明するかのように、激情的だ。独特な会食文化は、ここに由来する。多くは 二次会から三次会へと続く非生産的で浪費的な「酒席文化」が、産業化の時代には生産 性を高める肯定的な企業文化だったと信じている。 6
韓国の文化と芸術
酒の席では、様々な徳談(幸せ や成功を祈る言葉)を大きな声 で唱和して乾杯する。 だが、乾杯の本当の意味は「さ あ、もっと酔っ払おう」という お互いへの激励ではないだろう か。
ここで焼酎の記号化が進み始めた。酒の本質である酔うことから次第に離れて、対話を促して関係を改善す る飲み物、食欲を刺激する飲み物、あるいは他の提喩(synecdoche)がその位置を占め始めたのだ。これは、自 動車の本質が速度から安全と富の顕示へと変わった現象に似ている。形式的にグラスを合わせて乾杯するのに、 あえてアルコール度数が高い必要はない。飲み過ぎは、明日の競争の障害になるだけだ。「避けられなければ楽 しめ」と叫ぶ近頃の世代の話だ。その点で紙パック入りの焼酎は、移動中にも飲むために作られた積極的な商品 でなく、華やかなりし「焼酎の思い出」を呼び起こす記念品のように見える。進歩派の先端に立っていた詩人パ ク・ノヘ(朴労解)が『労働の夜明け』で歌った「戦争のような夜勤を終えて」 「激しい汗のしずく、血の涙の底で/ 息づいているおれたちの愛、おれたちの怒り/希望と団結のために/夜明けのキリキリ痛む胸に、冷たい焼酎を 流し込む」その気持ちをだ。 「宴は終わった/酒は無くなり、人々は一人二人財布を忘れず、ついに彼も帰ったけれど/最後の勘定を終え、 めいめい靴を探して履き、帰ったけれど/うっすらと私は知っている/ここに、一人誰かが終わりまで残り/主人 の代わりにお膳を片付け/すべてを思い出しながら、熱い涙を流すだろうことを」。チェ・ヨンミ(崔泳美) 『三十、 宴は終わった』より。 果てない渇きと焼けた胸の上に焼酎を勢いよく流し込み、若者の激情を吐き出していた私の全盛期も、そう して過ぎ去っていった。新しく作られた舞台には、グローバルな見慣れないスローガンが騒々しい。いつかは 彼らも、彼らなりの方法で仕事をして、愛して、夢を見て、親しく焼酎のグラスを傾けていた時代を懐かしが るだろう。(翻訳:坂野慎治) Koreana ı 冬号 2013
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1~3「安東焼酎」の技能保有者チョ・オクファ(趙 玉花)氏の息子で技能履修生のキム・ヨンバク(金 然博)氏とその妻で技能候補者のペ・ギョンファ 氏が、伝統的な酒の発酵促進剤・麹を作る様子。 まず、乾かして砕いた小麦に水を加えて手で混 ぜる。(1)からむしの布を敷いた円形の麹の型 に、混ぜた材料を入れて押し固める。(2)その 上に布を二重に敷いて、足袋を履いて踏む。4 日 陰にござを敷いて、蒸し器で蒸したご飯を広げ て冷ます。(冷ましたご飯に砕いた麹と水を混ぜ て酒のかめで発酵させると、蒸留前のもろみに なる)5 釜にもろみを入れて、その上に中央がく びれた蒸留器と冷却器を載せる。もろみが沸騰 すると、蒸留された焼酎が流れ出す。
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特集2 焼酎あれこれ
焼酎という酒 食事のときも野外に遊びに行くときも登場する酒、旅行かばんにも欠か せない酒、韓国人の好きな緑色の小さな瓶に入った焼酎とは、どんな酒 なのだろうか。 イェ・ジョンソク(芮鍾碩、漢陽大学校経営学部教授、食文化評論家)| 写真 : 安洪范
韓
国の人たちが去年飲んだ焼酎は、実に34億本以上。成人一人当たりに換算する と、平均88.4本も飲んだことになり、1カ月にすると7.4本ずつ飲んだ計算にな
る。酒を飲まない人まで含んだ計算なので、本当に途方もなく飲みまくったわけだ。 最近のある調査によると、韓国人の65%が「酒といえば真っ先に思い浮かぶのは焼酎」 と答えている。ここまで来れば、焼酎を韓国の「国民酒」と呼んでも、異議を唱える人 はいないだろう。
焼酎の伝来 焼酎の歴史は、迂余曲折を経てきた。焼酎は、韓国固有の酒でなく、戦争のさなか に侵略者から伝えられたものだ。高麗時代の13世紀初め、モンゴル軍が朝鮮半島に攻 め込んできたとき、一緒に入ってきたのが焼酎だ。モンゴル軍は、韓国の人たちが見 たこともない強い蒸留酒を飲んでいた。それが朝鮮半島で焼酎として定着したのだ。 それまでは主に清酒、法酒(清酒の一種)、マッコリ(どぶろく)などの発酵酒しか飲ん でいなかった。 焼酎をモンゴル語で「アラキ(阿剌吉)」といい、アラビア語で蒸留酒を意味する「ア ラク(araq)」から来ている。焼酎は、アラビアで発達した蒸留酒がモンゴルと満州を経 て、韓国に根付いたものだ。一説によると、チンギス・ハーンが西域遠征の際にアラ ビアのアラクをモンゴルに持ち帰り、それを孫で元の初代皇帝フビライ・ハーンが日 本への遠征の際に韓国に伝えたという。つまり、焼酎の伝播は戦争によって行われた わけだ。当時モンゴル軍の駐屯地だった開城、安東、済州島などが、韓国の焼酎の名 産地だという点も、そうした歴史を物語っている。 モンゴル軍が退いた後、焼酎は高麗の上流層に大いに流行った。焼酎は、大切な穀 物を原料とするので一般の人たちには縁がなく、特権層だけが手にできたようだ。彼 らは大量の焼酎を飲んでいたのか、『高麗史』によると高麗の第32代王・禑王(在位1374 ~1388年)が「人々は倹約を知らず、焼酎や絹、金 や玉の器に財を費やしているため、 今後一切禁ずる」という指示を1375年に出したという。しかし、王のそうした命令もあ まり効果がなかったのか、『高麗史節要』には「元帥・金縝が焼酎におぼれて本分を果た Koreana ı 冬号 2013
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さず、倡妓や部下の将を集めて昼も夜も焼酎を飲むので、兵士らがその一団を焼酒徒 と呼んだ」という内容も見られる。 朝鮮時代になっても焼酎を飲み過ぎる習慣は相変わらずだったようで、朝鮮の第9 代王・成宗の在位期間(1469~1494年)の歴史を記した『成宗実録』には、司諌(王へ諫 言する官吏)の趙孝仝が王に「世宗王の時代には、士大夫の家で焼酎をまれに飲んだが、 今では普通の宴会でも全て飲んでおり浪費が甚だしいため、どうか全て禁止してほし い」と進言する内容がある。焼酎は薬用にも使われていたようで、朝鮮の第6代王・端 宗(在位1452~1455年)について記した『端宗実録』には、体が弱く幼い端宗に臣下が焼 酎を薬として飲むように勧める記録も見られる。 17世紀初めの『芝峰類説』にも「焼酎は 薬として用いるので、たくさん飲まずに小さな杯で飲むため、ならわしとして小さな 杯を焼酎杯と呼ぶようになった」と出ている。
昔ながらの蒸留焼酎の受難 そのようにして、焼酎は韓国社会に根付いていった。朝鮮時代には、多くの家庭で 「家醸酒」を作っており、当時の様々な文献に蒸留式の焼酎の作り方が記されている。 地方ごとに「甘紅露」 「竹瀝膏」 「梨薑膏」 「三亥焼酎」など、それぞれ独特の酒造法と名前 を持つ有名な焼酎が作られて名声を得ていた。だが、実質的な日本の支配下にあった 1909年に初めて酒税法が制定され、1916年には朝鮮総督府が酒税令を強化・公布する と、家醸酒と朝鮮人資本を中心とする小規模な酒類製造業は大きく衰退する。日本の 支配下で搾取のための制度が施行されたことで、地方の伝統的な酒は途絶え、朝鮮の 酒類産業は大規模な日本資本を中心に再編された。 1916年には焼酎製造業者が2万 8000を超えていたが、1933年頃には430にまで大幅に減っている。 1934年には家庭で の酒造の免許制度が完全に廃止され、家で作る家醸酒は消え去ってしまった。その結 果、朝鮮総督府の酒税収入は大きく増えて、1918年の酒税徴収額は1909年に比べて12 倍にも増え、1933年には朝鮮の全税額の33%が酒税という結果を生んだ。その過程で、 朝鮮式の蒸留器と伝統的な麹で作った焼酎は次第に姿を消し、日本式の酒造用蒸し器 と黒麹で作った焼酎が主流になっていく。 幾多の困難の中、かろうじて命脈を保ってきた昔ながらの蒸留焼酎は、1965年に史 上最大の困難に直面する。韓国政府が食糧確保のために「糧穀管理法」を制定し、酒造 への穀物使用を禁止したので、米から作る伝統的な蒸留式の焼酎は歴史から消えてし まったのだ。蒸留焼酎の後釜には、サツマイモ、糖蜜、タピオカなどから連続式蒸留 で得たアルコールを薄めた希薄式焼酎が納まり、韓国の酒好きをとりこにしている。
昔ながらの蒸留焼酎は、紆余曲折の末に歴史から消えてしまったが、希釈式焼酎は、手 ごろな値段と独特の味で、短期間に庶民から愛される酒として脚光を浴びるようになる。 10
韓国の文化と芸術
1 1 真露焼酎・利川工場の製品検査ライン。この工場だけで1日に450万本の焼酎が生産されている。2 真露焼酎・利川工場の展示室入口には、60年間生産されてきた様々 な真露焼酎が展示されている。一番手前の中央にある木の板に載せられた茶色の瓶が、1924年に初めて作られたもの 2
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1-5「梨薑酒」は、伝統的な 方法で作った蒸留焼酎に 梨、生姜、桂皮、薑黄を漬 けて3カ月熟成させた後、 韓紙を敷いたざるで濾した もの。写真は、梨薑酒の技 能保有者チョ・ジョンヒョ ン(趙鼎衡)氏
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希薄式焼酎のメーカーは1960年代には乱立していたが、1973年に韓国政府が「1道 1社政策」を導入して各道に一つずつと制限したため、10の焼酎会社が残って今日に 至っている。そうした措置は、各地方に代表的な焼酎ブランドを誕生させる決定的な 契機になった。希薄式焼酎は、昔ながらの蒸留焼酎のような高級イメージはないが、 手ごろな値段と独特の味で、短期間に庶民が心から愛する酒として脚光を浴びるよう になる。
世界で最も多く売れた蒸留酒 韓国の希薄式焼酎の歴史は、アルコール度数の変化の歴史でもある。希薄式焼酎が 普及し始めた1960年代、焼酎のアルコール度数は30度だった。その後、1973年に25度 に引き下げられてから四半世紀の間、変化はなかった。だが、世界的な低度数ブーム と健康志向の世相を反映して1990年代後半に23度の焼酎が登場すると、焼酎業界は低 度数競争に集中していく。そうするうちに22度が出たかと思えば21度に下がり、2006 年には希薄式焼酎の下限と思われていた20度もついに下回って、今では15.5度まで登 場している。以前の概念では焼酎と呼ぶのもはばかられるほど「弱い酒」になってし まったのだ。 最近になって、度数の低い焼酎が不満な一部の酒好きを狙い、度数を少し上げた 焼酎も発売されている。だが、弱い焼酎という流れは、これからも続く見通しだ。度 数の低い焼酎が女性にも市場を広げて、商品のネーミングも変わってきた。もともと 韓国の焼酎のブランドは「真露」 「鏡月」 「舞鶴」のように難しくて堅苦しい漢字の名前を 使っていた。ところが、真露が1998年に柔らかいハングルの商品名「チャミスル(「真の 露」の意)」を発売して大きな成功を収めると、競合企業も「チョウムチョロム(「初 めてのように」の意)」や「チョウンデイ(「良い日」の意)」などを発売して流れに乗 り、そうした傾向は焼酎業界のトレンドになった。 焼酎が韓国の「国民酒」に成長するまで、添加物の有害性に関する問題も絶え なかった。焼酎を愛する人たちは、焼酎の味をよく「甘い」と表現するが、実 際に韓国の希薄式焼酎には甘味料が入っている。これまで焼酎に加えられ た甘味料としては、サッカリン、アスパルテーム、ステビオシドなどが有 害性について問題視されてきたが、焼酎メーカーは有害でないと答えてき た。しかし、一部の消費者はそうした説明を信じておらず、この問題 は今後メーカー側が解決すべきだろう。 このように波瀾に富んだ経緯を経て、希薄式焼酎は韓国社会に 根付いてきた。今では再び米で焼酎を作れるようになり、過去 に名声を博した伝統の銘酒が復活した。だが、手ごろな値段 で舌に絡まるような希薄式焼酎に慣らされた消費者を取り戻す には力不足だった。希薄式焼酎は、すでに韓国の文化であり、世 4
界的な酒でもある。酒類専門紙『ドリンクス・インターナショナル』 の2011年の統計によると、韓国の代表的な焼酎ブランド「チャミスル」 は、世界で最も多く売れた蒸留酒(スピリッツ)の部門で1位になり、「チョ ウムチョロム」は3位にランクインしている。(翻訳:坂野慎治)
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特集3 焼酎あれこれ
私と焼酎 自分の誕生の瞬間、初めて息をした瞬間を覚えていないのと同じように、私は焼酎を初めて口 にした瞬間を覚えていない。誰と一緒だったのか、どこで飲んだのか、一気に飲み干したのか、 あるいは戸惑いながら一口だけ飲んだのか、何について話したのか、何を食べたのか、そして、 どうやって家に帰ったのかも覚えていない。その後、幾度となく焼酎を傾けたときも同じだ。 ベン・ジャクソン(フリーライター)| 写真 : 安洪范
私
が初めて焼酎を味わったのは、おそらくバックパッカーだった頃だ。そのときは、韓国の全てのものが 目新しくて興味津々だった。きっとテーブルの中央の熱い鉄板で韓国人の好きなサムギョプサル(豚バ
ラ焼き肉)が焼けていき、その間に焼酎のグラスが満たされたのだろう。焼酎は、これといった味も匂いもなく 色もなかった。アルコール度数が19度ほどの焼酎は、西洋のワインよりも多少強いが、ウィスキーや中国のパ イカル(白酒)には、はるかに及ばない。小さなグラスで焼酎を飲み干すとき、喉が焼けるようなこともなく、 空っぽの胃に柔らかく吸収されていった。
焼酎との初対面 それから焼酎をよく飲むようになった。あるときは流行に乗ってナシやブドウのジュースが混ざったフルー ツ焼酎を飲んだり、あるときは決して合わない他の飲み物と奇妙に混ざり合った様子を見ながら飲むこともあっ た。後者は、味よりも演出のために組み合わせたものだった。だが、エメラルドグリーンの焼酎の瓶から小さ なグラスに注いで飲む、そのすっきりした「一杯」は、廃れてしまう流行ではない。その存在感は変わることが ない。おそらく若者も高齢者も男性も女性も関係なく、全ての韓国人が大量に消費して楽しむものの一つが、 焼酎だろう。韓国の代表的な酒といえる。 他の外国人と同じように、私もすぐに韓国の飲酒作法を理解した。自分のグラスは自分で注がず、常に他の 人の空いたグラスを満たすこと。年配の人に酒を注いだり注いでもらう場合、両手ですること。ボディーラン ゲージも重要だ。例えば、年配の人の前では、上半身を横に向けて食べたり飲んだりするのが原則だ。だが、 外国人がそうすると、ほとんど韓国の人は驚いて面白がり、そうする必要はないと言ってくれる。そのため今 では、そうした作法もある程度融通を利かせて行っている。
焼酎作法 飲酒作法の中でもいくつかは、何年経っても気付かなかった。例えば、すぐに飲みたくないときでも、注が れたグラスは、一度口をつけてから下ろすこと。年配の人が酒を注いでくれるときは(グラスを少し上げた方が 礼儀正しいという通念とは反対に)、グラスを少し下げて低くするべきだという点などだ。私がそうしたことに 気付かなかったのは、多くの人が指摘するほど重要だと考えていなかったからだろう。そうした作法を守れば 点数を稼げるが、しなかったからといって気分を害することもなさそうだ。 焼酎の瓶とグラスの形、音、味やフィーリングも、時間が経つほどに慣れていった。そして、焼酎を飲み過 ぎたとき、横になってもヘリコプターの翼に縛られているような独特のむかむかする感覚にも、翌日、会社で 何かネジでも外れたような状態で、床から少し浮いているように一日が過ぎていくことにも慣れた。
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韓国の文化と芸術
大衆的な緑色の瓶の焼酎よりも 強い喉越しを望む人は、白(25 度)や黒(41度)の陶磁器の瓶に 入った「ファヨ(火堯)」を飲む。
泥酔、そして記憶の空白 焼酎の重要な機能の一つは、緊張から逃れること、さらに時には窮屈な社会的制約や評価、均衡から完全に抜 け出すことだ (焼酎が舌で味わうためにゆっくり楽しむ酒ではなく、酔うための酒だということを否定する人は、 ほとんどいないだろう) 。もちろん酔っていないときには、そうした要素が韓国人を結束させて、集団的なレベル で国の発展を成功させたのだが…。焼酎を飲むことが、最も体系的で強力に実践されている集団は、韓国の財閥企 業といえよう。その財閥企業は軍隊以外で最も上下関係が厳しく、窮屈な規律があるということも偶然ではない。 熱心に働いて熱心に遊ぶ、そんな大企業で働いたことのない私は、伝説のように伝えられている暴飲の花咲 く飲酒文化を経験したとはいえない。だが、私は抑制された何かを突き破って、気を晴らすために焼酎を「乱用」 した。ところが、これは一方的な関係でなかった。焼酎も私を「乱用」した。焼酎と私は、緊張の緩和から騒々 しく浮つき、判断力の低下から眠りに落ちるという無礼、そして記憶の喪失という循環を何度も繰り返した。 一般的にどんな集まりでも、参加者が焼酎を2~3杯飲んだ頃、最も楽しい雰囲気になる。うわべをつくろ う制約やまじめな雰囲気は消え去り、誰もがおかしな冗談を言って、他の人の冗談にもよく笑う。さらに何杯 か飲めば、顔が赤くなる。冬の夜の集まりには、ぬくもりが最高だ。窒息しそうな湿っぽい夏なら、酒が進む ほど汗が出て、脱水状態の悪酔いの中で目覚めることを覚悟しなければいけない。 そこから何杯か空けると、テーブルは緑色の瓶でいっぱいになり、参加者はさらにリラックスして姿勢が崩れ
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る。壁にもたれたり、片足のひざを立てたりする。焼酎の酔いがさらに回ると、ばかばかしい話を始める。ます ます酔ってくると、翌日の朝この上なく恥ずかしくなり後悔するような携帯メールを送り始める (そのため、焼酎
値段は手ごろだが、どんな場 にもよく合う焼酎
はスマートフォン時代に合わない酒だ。私も同じような理由で、とても困ったことになり、言い訳したり泣き付 いたりしたことがある) 。 ここで個人的に焼酎に関する悲惨なエピソードを紹介したいが、一つ問題がある。恥ずかしい行動をするほど たくさん飲むと、記憶も飛んでしまうのだ。その結果は、まさに悲惨だ。 「深夜1時から6時まで」 または 「夜11時 から朝8時まで」 の時間が、私の記憶から完全に消えたという事実に気付いたとき、私はほとんどパニックに陥る。 犯罪の科学捜査に出てくるように通話記録や酒から覚めた場所を手掛かりに、ぼんやりとだが大まかな輪郭を描 くことはできる。だが、空白の大部分は埋められない。 これが、私が焼酎と関係を持った様子におおかた共通するパターンだ。焼酎を飲むことは、表面的には特別 な韓国文化の経験だったが、酔うのは、他の酒や他の国でも全て似たような経験だ。酒で感じる楽しみと冒険 は、まったく同じだ。 ここでひとこと言っておくと、焼酎については誇張されたり完全に誤った伝説が伝えられている。軍事独裁 の時代、政府が焼酎の値段を安く保とうと努力した。米が不足して酒造が不法だったとき、捨てられたジャガ イモの皮で焼酎を作った。焼酎メーカーがさらに多くの女性を引き付けようと、次第に焼酎のアルコール度数 を低くしてきた、などだ。ある話は事実をねじ曲げ、ある話はとんでもない主張のように思われる。
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韓国の文化と芸術
焼酎を飲むことは、表面的には特別な韓国文化の経験だったが、酔うのは、他の酒や他の国 でも全て似たような経験だ。酒で感じる楽しみと冒険は、まったく同じだ。
プレミアム焼酎 以上のような経験を私に与えてくれた焼酎は毎日、数百万本が生産・消費される、ありふれた銘柄のものだ。 焼酎はアルコール度数がおよそ19~20度で、地域によって味や甘味に多少の差はあっても、商標以外は全て 同じく緑色の瓶で売られている。ソウルで最もよく見る焼酎は「チャミスル(「真の露」の意)」で、大手酒造メー カーの真露が作っている。 最近、韓国の焼酎工場や酒造場を回る中で、利川にある真露の工場を訪ねる機会があった。そこでは、1日 に450万本の焼酎が生産されている。よどみなく流れる製造ラインでは、金属の焼酎タンク、連なるパイプ、川 のように流れる緑色の瓶などが完全に機械化されていて、ダンスでもするかように動いていた。そのとき私は いつものように二日酔いで、それを眺めるのはあまり気分の良い経験ではなかった。 だが、その取材旅行で、アルコール度数がはるかに高い3種類の焼酎と出会えた。アルコール度数17度、25 度、41度と3種類が生産されているプレミアム焼酎「ファヨ(火堯)」は、伝統的な巨大な陶器で3~6カ月熟成 される。 45度の「安東焼酎」は、安東市の伝統酒公認製造者であるチョ・オクファ氏が作っている。そして「梨 薑酒」は、梨、生姜、薑黄(きょうおう)、桂皮、蜜を入れた伝統的な酒だ。長い間忘れられていた韓国の伝統的 な酒をよみがえらせたことで有名なチョ・ジョンヒョン氏が作っている。それらの酒は、チャミスルよりもア ルコール度数がはるかに高く、喉が焼けるようだ。優雅なデザインのため、毎日飲む焼酎とは違って贈り物に 向いている。 全国に散らばっている数十人の酒造家のうち何人かと出会えたのは、とても興味深いことだった。彼らは、 想像を絶する逆境にもめげず、華やかなりし過去の飲酒文化の途絶えた手掛かりを探すため、不毛の地で何年 も過ごした人たちだ。彼らは、大きな歴史の空白を自分らの直観とインスピレーションで埋めながら、再発見・ 再解釈・再発明・再創造した。そのうち何人かは、ポップミュージックやテレビドラマ、その他のジャンルで 多くの国をすでに酔わせている韓流ブームに乗って、海外市場の攻略を狙っている。 安東焼酎の伝統的な酒造方法を目にして、酔いの源泉のために、どれほど長い時間が注がれているのか改め て思い知らされた。酒造に使われる米と小麦は、それ自体がすでに何カ月も手塩にかけた結果であり、重要な 基本的食糧だ。酒造の過程も、何杯かの酒を生産するために、途方もない時間・集中・努力・専門性を要する。 チャミスルのように機械化によって大量生産される安価な焼酎は、すでにそうした過程を経ていない。だが、 韓国人とイギリス人が過去だけでなく現在も、依然として酒造に身を捧げて酒を愛しているという共通点が、 うれしく思われる。
友か、敵か 韓国人や韓国に住む外国人にとって、焼酎はあらゆる経験をさせてくれる。ある韓国人は、次のように言う。 。焼酎は、酔いに溶けた私の記憶の中に、生き生きと 「幸せなときも、悲しいときも、退屈なときも焼酎を飲む」 した、だが色のない記憶のかけらだけを残す。その記憶は、時には数カ月の間消えていたと思ったら、ある日い きなり平然と現れる。焼酎は、潤滑油であり溶剤でもあり、興奮剤であり鎮静剤でもある。焼酎は現在、そうし た全ての面でなくてはならない韓国文化の一部であり、過去と出会う手掛かりでもある。 (翻訳:坂野慎治) Koreana ı 冬号 2013
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特集4 焼酎あれこれ
英語の「Liquor」は韓国語で 「スル」。その文字を使って、 酒を飲む人の顔を描いた イラスト(キム・デウ作)
韓国人の飲酒文化 好きだから飲み、ストレス解消のために飲み、うれしいときにも飲み、悲しいときにも飲む酒。 一杯から始まって、酔うほど飲む酒。それが焼酎。様々な統計から韓国人の飲酒の特徴を 見てみよう。 チョ・ソンギ(趙聖基、飲酒文化研究家)
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韓国の文化と芸術
国人の飲酒文化は、人情あふれ愉快でノリの良い韓国人の自
健福祉省の2011年の「国民健康統計」によると、最近1カ月の間に1
由奔放さや躍動性と密接な関連がある。来客を心からもてな
杯以上酒を飲んだ割合を示す「月間飲酒率」は、男性で77.6%、女性
し、酒を酌み交わして酔っ払ってこそ酒の席が終わる習慣は、生活に
で44.2%と調査された。以前の統計に比べて、男性の飲酒率は多少下
深く根付いている。
がっているが、女性の飲酒率は上がり続けている。
韓
家々で祭祀が終わった後、先祖に供えた酒を子孫が分け合って飲
焼酎を飲む理由は、ほとんどが「親交」と「ストレス解消」で、「酔う
む際、父親や伯父は、未成年の息子や甥に酒を勧めることがよくある。
ために」という回答は3%程度に過ぎない。そのため、飲酒者のうち
酒で関係を築く独特の文化だ。
アルコール依存症の割合は2.2%と、10年前の4.3%から減っている。
朝早く運動のために集まったスポーツ同好会の人たちが、運動を
だが、長時間に渡って一気飲みを続けた場合、それによる暴力や各種
終えて食事をしながら酒を飲む。そんな行動をすぐに理解できる外国
事故も少なくないため、アルコール依存とアルコール乱用の合計を意
人は、極めて少数だろう。
味する「アルコール使用障害」は4.4%になっている。
アメリカでは1999年にカリフォルニア州、続いて2002年にニュー ヨーク州で、蒸留酒の販売免許のない一般のレストランで、蒸留酒の
爆弾酒、100日酒
焼酎を販売できるように許可する特別法が制定された。バー文化が日
最近では、200mlのグラスに焼酎1杯とビールを入れた「ソメク
常的な西欧とは違い、食堂で食事をしながら酒を飲む韓国人の晩酌
(焼麦)」と呼ばれる爆弾酒がトレンドだ。韓国を旅行する外国人に韓
文化が理解されたということだ。特に韓国の代表的な料理のプルコギ
国の友人ができたなら、爆弾酒の洗礼を受ける公算が強い。すでに
(牛焼き肉)やサムギョプサル(豚バラ焼き肉)を食べながら焼酎を傾け
韓国の飲酒文化の象徴になっているからだ。ソメクが登場する前は、
ることを、固有の文化と認めたのだ。
ビールにウィスキーを入れていたので、アルコール度数はさらに高 かった。ソメクも、酒に弱い人が何杯も飲み続ければ、突然つぶれて
どれほど飲むのか、なぜ飲むのか
しまうこともある。
相当数の韓国人は「酒は、円満な対人関係のために欠かせない
韓国は、1週間に1回以上、暴飲する人が飲酒者の4人に1人の
(71.8%)」と考え、「男なら酒が飲めないといけない(65.8%)」と考え
割合で、毎日暴飲する人も5%以上いる。暴飲とは、一度の酒席で男
ている。中学校と高校の教師のうち32.5%が「生徒の少量の飲酒は構
性なら6~7杯以上、女性なら3~4杯以上飲むことをいう(焼酎、
わない」という反応を見せているのも、酒の効用に対する肯定的な態
ビール、ウィスキーの標準グラスに入っている純アルコール量は約8
度から来ている。「誰でも自由に酒を飲む権利がある」という点に、
gで、ほとんど差がない)。正確には、血中アルコール濃度が0.08%を
81.5%が同意している(チョ・ソンギ、韓国の飲酒実態調査、韓国酒
超えると、暴飲とみなされる。
類産業協会、2013)。 半世紀前まで農業国だった韓国では、働きながらアルコール度数
「暴飲文化」は、一般的に産業化と都市化によるストレスの大きさ と関連が強いと考えられている。韓国人も数十年間、世界的に生産
の低い(6%)発酵酒・マッコリ(どぶろく)を主に飲んでいた。「農酒」
性の高い国で暮らしてきたため、ストレスが大きい。だが、暴飲の
のマッコリが労働成果の向上に役立つという当時の考えが、製造業の
習慣は、非常に古い歴史的なルーツがある。紀元前3世紀の古代の
成長期に焼酎へと受け継がれた。
文献には、秋の刈り入れが終わった後、祭天の行事の際に何日も続
焼酎は韓国内で2012年に、15歳以上の人口基準で一人当たり約31
けて飲酒・歌舞を楽しんだとされている。飲酒によって天と通じ、
リットル消費された。一人当たり1年に88本ほど飲んだ計算だ。飲
仲間と楽しむ機会を得たのだろうが、飲み過ぎや暴飲につながった
酒者の80%が付き合いで飲む(social drinker)ことを考えると、過飲
可能性が高い。
といえる20%の人が飲む量は、はるかに多いと推定される。 最も多く消費されるのは、360m l入りの緑色のガラス瓶に詰め
若者の間でいつからか大学入試の100日前に酒を飲まないと、受験 に失敗するといわれるようになった。強迫観念から飲む「100日酒」と
られたアルコール度数19%ほどの焼酎だ。この無色透明な液体を、
いう高校3年生の特異な文化だ。もちろん暴飲につながることは、そ
普通は50mlの小さなグラスで何度かに分けて飲むが、一杯を一口
れほど多くないと見るべきだろう。
で飲み干すことが多い。特に最初の一杯は、一気に飲むことが多 い。 焼酎は、幅広いコミュニケーションとストレス解消の道具だ。保 Koreana ı 冬号 2013
大学入学後に先輩と後輩が初めて顔を合わせるオリエンテーショ ンで、焼酎を大きなどんぶりに注いで一気に飲む一種の「儀式」を行う こともある。時おり報道される大学生の飲酒死亡事故の原因だ。
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酔うまで勧める 大都市・中小都市ごとに抽出した15歳以上64歳以下の男女2000人 を対象にした韓国飲酒文化研究センターの2007年の標本調査による
とになり、それが繰り返されて誰もが酔っ払う。調査の結果、飲酒 者の75%が回し飲みを習慣的にしているという。女性も61.4%がそ う答えている。
と、会社員は士気を高めるために周期的に行う会食で、上司から酒を
会社の会食や友達との飲み会などがある日、会社員は一晩に2
強要されることが多い(57%)という。韓国の会社員は、酒によるコ
回以上(さらには3~4回まで)酒を飲む場合が、半数を超えると
ミュニケーションで困難を乗り越え、上司が強要する酒で会社への忠
調査されている。男性は55%ほど、女性も35%程度が、そう答え
誠心を高め、結局は生産性も高まると考えることが多い。そのときに
ている。その結果、飲み過ぎ、さらには暴飲につながる。酒を飲
飲む酒は、ほとんどが焼酎だ。
むとき思った以上に飲み過ぎたことがあると答えた人は77%に達
会食では爆弾酒に加えて、回し飲みもほぼ日常的に行われてい
する。
る。グラスを受け取っても、飲み干した後そのグラスで酒を勧めな
ここ10年間、男性の飲酒率は多少下がっているが、女性の飲酒率
いと、会社の仲間は不満に思うだろう。それが、韓国人の一般的な
は急速に上がっている。先日、高校の女子生徒の飲酒率が男子生徒よ
性分だ。そのため、グラスを受け取れば、またそのグラスを返すこ
り高いという調査結果が発表され、韓国社会に衝撃を与えた。成人女
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韓国の文化と芸術
性の飲酒者は10年前より10%増え、女性の暴飲率も30%ほどになる。
見るべきだろう。グローバル時代の焼酎は、外国の穀物と韓国の製造
その結果、女性の高危険飲酒率(1回の平均飲酒量が男性は7杯、女
技術が出会った「ハイブリッド焼酎」なのだ。
性は5杯以上で、飲酒頻度が週2回以上の人の割合)は10%に迫って
飲み過ぎや暴飲の末、けんかになることもあるが、酔いが覚めた
いる。幸い、妊娠中の女性の飲酒率は減っているが、女性5人のうち
翌朝には、ほとんどが笑って仲直りするのも韓国人の飲酒文化の特徴
一人の割合で、いまだに胎児性アルコール症候群について十分な知識
だ。それは長い伝統でもあり、お隣の中国では、そうした点を「理解
を持っていない。
できない」と古書でも述べている。 一人で飲まずに一緒に飲んで、互いに勧め合って飲みすぎてしま
ハイブリッド焼酎
う焼酎。飲んだ後の二日酔いで遅刻や欠勤をしても「仕方がない」と寛
伝統的な方法で作られる一部の焼酎は、韓国産の穀物だけを使っ
大な処分をする上司の行動は、外国人の目線では理解しづらいだろ
ている。だが、その他の一般的な焼酎は、ほとんどが南米や東南アジ
う。そうした全てのことは、韓国に焼酎があるからこそ見られるので
アから輸入した穀物を発酵・蒸留したアルコールを原料としている。
はないだろうか。(翻訳:坂野慎治)
そのため、大量生産されている韓国の焼酎は、すでに「世界の焼酎」と
イ・サングォン『帰り道』、キャンバスにミクストメディア(混合技法)、116.5×45cm、2011 Koreana ı 冬号 2013
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特集5 焼酎あれこれ
韓
国の人たちは、酒を飲むとき必ずつまみ(アンジュ)を添える。朝鮮時代の酒幕(飲み屋)では、旅 人が1~2杯、酒を飲んでいくことが多かったが、そんなときも無料のつまみが1~2皿出たと
いう。アルコール度数の高い焼酎は、特にたくさんのつまみと一緒に飲む。「カン焼酎を飲むと胃腸を壊 す」という言葉があるが、その「カン焼酎」とは、つまみもなしに飲む焼酎を意味する。さらには「つまみを 食べないと婿に恵まれない」ということわざもある。つまみもなく酒だけを飲むと、すぐに酔ってしまうの で気を付けろという昔の言葉だ。西洋のワインのように食事と一緒に焼酎を飲むこともあるが、そんなと きも韓国の人たちは「先酒後麺」といって、まずつまみと一緒に酒を飲んでから食事をする習慣がある。
酒を呼ぶつまみ 西洋の人たちには、つまみという概念自体が理解しづらいかもしれない。実際に、酒を飲むときにつ まみを食べる習慣がなく、つまみと完全に一致する英単語を見付けるのも簡単ではない。「munchies」や 「snack」、「side dish」のような言葉はあるが、つまみとはニュアンスに差がある。つまみは食事とは明らか に違うが、そうかといってスナックのように必ずしも軽い食べ物を意味しない。おなかを満たす食べ物で はなく、酒の味を引き立てる食べ物という表現が正確だろう。しかし、酒の席で何皿かのつまみに酒を飲 むことで、食事の代わりになることも多い。そのため、つまみは、酒の味を引き立てつつ食事を兼ねる食 べ物と表現してもいいだろう。中国にはつまみと似た意味の「チュチャイ(酒菜)」や「チュシャオ(酒肴)」の ような単語があり、日本でも「肴」などの単語が使われていることから、つまみは東洋でだけ身近な存在な のかもしれない。ともかく「つまみだけ見ても、酒のことが自ずと頭に浮かぶ」という昔の言葉もあるよう に、つまみは酒を呼ぶ食べ物といえよう。
マルンアンジュ、チンアンジュ 焼酎は、ほとんどの韓国料理とよく合う。どんな食べ物にもよく合うため、他の酒に比べて歴史が短い ながら「国民酒」として愛されているのかもしれない。焼酎のつまみには、スルメ、スケトウダラやカワハ ギなどの乾物やナッツ類など「マルンアンジュ(乾き物)」もあるが、チゲやチョンゴル(鍋料理)、煮物、豆 腐などスープや水気のある「チンアンジュ」もある。マルンアンジュを好む人もいるが、焼酎は一般的にチ ンアンジュと一緒に飲むことが多い。 牛肉や豚肉をゆでたスユクは、代表的な焼酎のチンアンジュで、祝い事や葬儀の来客をもてなす酒の膳 に欠かせない。ノビアニは、高句麗時代のメクチョク(貊炙)に由来する韓国固有の料理で、プルコギ(牛焼
焼酎のつまみ ビールならいざ知らず、焼酎をつまみなしで飲むのは非常に珍しい。おいしい料理が焼酎を呼ぶことも ある。例えば、旬の魚の便りは、会社員にとって帰りの「一杯」の立派な理由になる。焼酎のつまみは、 数え切れないほど多い。 イェ・ジョンソク(芮鍾碩、漢陽大学校経営学部教授、食文化評論家)| 写真 : 安洪范
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韓国の文化と芸術
安くておなかも膨れる「豆腐キムチ」は、 最も手軽な焼酎のつまみ
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韓国の若い会社員は、最も好きな焼酎のつまみとして、サムギョプサル(豚バラ 焼き肉)を挙げるだろう。強い焼酎とよく合う脂っこいつまみとして1970年代後 半に脚光を浴び、現在まで最高の焼酎のつまみになっている。
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韓国の文化と芸術
き肉)となって今に伝えられている。今も昔もスユクに次ぐ焼酎のつまみだ。緑豆の粉を水でといて様々な 野菜を入れ、お好み焼きのように焼いて、薬味入りの醤油だれにつけて食べるピンデトク(チヂミの一種) は、以前は「貧しい人の餅」という意味の「ピンジャ(貧者)トク」と呼ばれたほど、庶民にもなじみの深いつ まみだ。トクサンジョクは、細長く切った餅、牛肉、キノコなどを味付けして、串に刺して焼いた料理で、 名節(旧暦の盆や正月)の供え物として、つまみとして昔から愛されてきた。 スープのあるつまみの代表は、スルクク(酒の汁)だ。ソルロンタン(牛のスープ)、スンデクク(腸詰の スープ)、ヘジャンクク(酔い覚ましのスープ)など、クッパ(スープご飯)を出す店なら、どこでも注文でき るつまみで、よく「焼酎の友」と呼ばれる。食事用のクッパは、スープにご飯が入っているが、スルククを 注文すれば、ご飯の代わりにソンジ(血の煮こごり)、内臓、肉などの具をたくさん入れてくれる。韓国の 酒好きにとって、このスルククさえ一杯あれば、焼酎を何本か空けるくらい簡単なことだ。
旬のつまみ 旬にしか食べられない新鮮な素材で作ったつまみは、酒好きにとって「一杯やるしかない」立派な理由 になる。韓国料理の基本的な哲学は「時食」だ。旬の素材で作った料理を最高のものとしている。そんな原 則は、つまみも例外ではない。魚にしても季節によって味が違う。例えば「春メイタガレイ、秋コノシロ」 という言葉がある。春にはメイタガレイがおいしく、秋にはコノシロがおいしいという意味だ。旬になっ て地方の名産地で祭りが開かれる頃、産地に行けない酒好きは、そのつまみを出す飲み屋に集まる。冬な らスケトウダラのチゲをつまみに焼酎を傾け、春ならメイタガレイだけでなくイイダコの店も大人気だ。 夏はニベが旬で、刺身、メウンタン(辛口スープ)、ジョン(卵の付け焼き)は、全て「一杯」を呼ぶ料理だ。 昔から「ご飯を包んで食べれば、田畑を全て売る」といわれるニベの皮、かむほどに歯ごたえが良い浮き袋 は、グルメをとりこにする最高のつまみだ。スズキの刺身やスタミナの象徴・ウナギも、夏ならではのつ まみだ。
人気のつまみ第1位は「サムギョプサル」 最近の調査によると、韓国の若い会社員は、会食で最も多く飲む酒が焼酎で、最も好きなつまみはサム ギョプサル(豚バラ焼き肉)だ。 サムギョプサルは最近、最高の焼酎のつまみとして脚光を浴びているが、その歴史は思いのほか長く ない。韓国は高麗時代、宗教的な理由から肉食が禁止されていた。その後、朝鮮時代に肉食が解禁された が、供給不足と牛肉を好む世相から豚肉はそれほど人気がなかった。だが、韓国政府が1970年代に企業型 の養豚事業を進め、豚肉の供給が大幅に増えると、それに合わせて消費も大きく伸び始めた。その影響で、 1970年代後半からサムギョプサルが大流行したのだ。生活が苦しかった時代の栄養食であり、強い焼酎と よく合う脂っこいつまみとして脚光を浴び、現在まで最高の焼酎のつまみになっている。 若い会社員は、サムギョプサル以外にもフライドチキン、刺身、牛焼き肉、豚カルビ、豚足、カムジャ タン(豚の背骨とジャガイモの鍋)、チヂミ、コプチャン(牛の小腸)などを会食のメニューに挙げている。 その他にも焼酎のつまみは多い。ユッケ、チョクピョン(牛足の煮こごり)、魚卵、パジョン(ネギ入りチヂ ミ)、タッカルビ(鶏肉の炒め物)、鶏の砂肝、プデチゲ(ソーセージ・ハム入り鍋)、トゥルチギ(豚肉の炒 め物)、貝のスープ、タコの炒め物、タコ、タマゴ焼き、トトリムク(ドングリのゼリー)、メミルムク(そ こんがり焼けた豚バラ肉と野菜。韓 国の若い会社員は、会食のときに最 も多く飲む酒として焼酎、最も好き なつまみとしてサムギョプサル(豚 バラ焼き肉)を挙げる。 Koreana ı 冬号 2013
ば粉のゼリー)、各種ジョンなど、数え上げたら切りがないほどだ。数々のつまみと一緒に焼酎を飲めば、 韓国の飲酒文化を体感できるだろう。もしソウルを訪れるのなら、東大門の広蔵市場の食べ物屋が並ぶ通 りで、庶民に愛されている多彩な焼酎のつまみを体験してみることをお勧めしたい。(翻訳:坂野慎治)
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アート・レビュー
金銅弥勒菩薩半跏思惟像 国宝83号 高さ93.5cm 国立中央博物館所蔵
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韓国の文化と芸術
新羅
韓国の黄金王国
韓国の古代王国新羅(BC57~AD935)の芸術を紹介する、海外で初めての 単独展覧会がニューヨークのメトロポリタン美術館で大々的に開催され ている。メトロポリタン美術館及び作品を貸与した国立中央博物館と慶 州国立博物館の三者間の、5年に及ぶ協力事業の結実であるこの展覧会は 2014年2月23日まで行われる。これは学問的な成果だけでなく努力の賜物 だと言える。 イ・ソヨン(李昭玲、ニューヨークメトロポリタン美術館 キュレーター)
韓
国から貸与された130余点の作品で構成された今回の展覧会で紹介されている 幻惑的な宝物は、華やかな王族の宝物から外国から流入した品々、そして精巧
な仏像にいたるまで実に多様だ。これらは古代の韓国人たちが近隣諸国はもちろん、 遠い国々とも活発な交流を行いながら成し遂げた卓越した文化の結晶である。今回展 示されている作品の大部分は国宝級の宝物だ。
企画の出発点 今回の展覧会の最初のアイデアは2008年に遡る。メトロポリタン美術館の展示 キュレーターで中国の仏教美術と陶磁器の専門家であるデニス・パトリィ・ライディ (Denise Patry Leidy)が慶州国立博物館を訪問した時のことだ。慶州国立博物館のキュ レーターの一人が「メトロポリタンで新羅に関する展覧会を開いたらどうですか?」と 尋ねた。この何気ない一言が2013年秋のニューヨークでの画期的な展覧会につながる とは、当時は誰も予想さえしなかった。 旅行から帰った後、私とデニスは新羅に焦点を合わせた展覧会の開催の意義や魅力 について何度も討論を重ね、結局このプロジェクトを実行に移すことにした。最初は 5、6世紀の新羅の古墳から出土した金製の遺物に焦点を当てた小規模な展示を考え ていた。しかしプロジェクトの企画から時間が経つにつれ「旧新羅」から「統一新羅」ま で、つまりAD400年から800年までの王の墓から発掘された遺物と仏像を含めた、より 複合的な視点による企画展にすることになった。この時期は韓国の古代王国の文化的 な復興期にあたる。展示は新羅が韓半島内で、そして韓半島を越えて指導的な位置と 影響を行使するコスモポリタン国家に成長していく過程を物語るものだ。メトロポロ タン美術館は慶州国立博物館とソウル国立中央博物館を行き来しながら協力を求め、 K or e a n a ı 冬 号 2 0 1 3
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結局三つの博物館の共催という最も理想的な形に落ち着いた。 コンセプトの広がりと展示の規模が大きくなると、今度はメトロポリタン美術館側でも韓国館 ではなくもっと多くの観客を収容できる大きなスペースの1階の特別館で開催しようということに なり、美術館内部での説得作業が始まった。特別館はギリシャ・ローマ展示館と隣接しており、利 点が多かった。なぜなら私たちはこの展覧会を通して、古代の新羅王国が包括的にはユーラシア文 化と連結していたことを伝えたかったからであり、この文化の源泉が部分的にはローマ帝国にまで 追跡できたからだ。
三つのパートで構成されている展示 展示場の入口では、床から天井まで曲線を描いた壁一面の大きなスクリーンに皇南大塚が映し 出されて、観覧客を迎え入れる。皇南大塚は5世紀の新羅の古墳の中でも最も大きく重要な墓だ。 ギリシャ・ローマ展示館からも見える、この映像は人々を魅了し観覧客を新羅の古代世界へと案内 する。このライブ映像の中では遠くに車が走り、鳥がスクリーンを横切って飛び立ち、木の葉と枝 が風にゆれている。映像を通じて観覧客はソラボル(徐羅伐)と言われた王国の昔の首都である慶 州に移動し、墓の周囲を歩いているような気分を体験できる。墓の作られた時代には王族とエリー ト集団の墓だったこの巨大な土の塊は、棺の納められている地表面の木の部屋の周囲に石を積み重 ね、その上に土を盛ったものだが、当時は政治的な権威と文化的な荘厳さのシンボルだった。 展示の最初のパートは5~6世紀の古墳に埋蔵されていた宝物を展示しており、皇南大塚から発 掘された光り輝く金冠と腰帯、そしてその他の華やかな遺物は今回の展示の白眉だ。皇南大塚は径 80mの2墳を南北に並列した長径が120mに達する古墳で、王と女王が一緒に埋蔵された夫婦合葬墓 だ。そしてその中からは質と量ともに見事な、驚くほど多くの宝物が見つかった。この最初のセク ションに展示されている新羅の墓から発掘された遺物は、輝く金やガラスでできた玉の宝石と粘土 や貴重な金属でできている高杯 (写真5と6) 、そして装飾が施された刀や馬具など実に多種多様だ。
1 新羅展の案内のかかるメトロポリタン 美術館の正門 2 皇南大塚北墳出土 金製腰 帯 国宝192号 長さ120cm 帯の飾りの 長さ22.5~77.5cm 国立慶州博物館所蔵 3 普門夫婦塚出土 金製耳飾 国宝90号 長さ8.6cm/重さ57.1g(左)長さ8.75cm/ 重さ58.7g(右) 国立中央博物館所蔵
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このような遺品がそれぞれ、あるいはグループごとに示されているストー リー性は多面的で興味深い。これらの存在は新羅の人々の来世に対する祈 願と信仰を証明している。そして形態的にはこれらの埋蔵品は新羅王国を 越えてユーラシア・ステップ地帯の遊牧文化との関係を示唆している。 2つ目のパートは、外国から流入した珍しい品々と外来文物のイメージ を通して新羅文化の国際的な性格にスポットをあてている。中国と地中海 の間の地域で作られた、誰もが賞賛を惜しまないような品格のある品々が 新羅の墓の中に納められていた。その中にはローマ式のガラスの器(写真 7)、ガラスや石榴石で細工された美しい金製の短剣と鞘、そして非凡な
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形状と動物の模様が表面に浮きでた小さな銀の器などが見られる。その他 にも中国の唐の国から由来した釉薬がたっぷりかかった三彩の陶磁器や磁器などがある。このよう な文物がどのように韓半島に流入したのかという問題は学者たちの間でも依然として意見が分かれ るという。確実なことは新羅が北方のステップ地域だけでなくシルクロードの膨大な貿易路に合流 していたという点だ。例えば、新羅が西アジアと接触していたという事実は目と鼻が大きく、顔が
1 皇南大塚北墳出土 金冠 国宝191号 高さ27.5cm 飾りの長さ13~30.3cm 国 立中央博物館所蔵 2 統一新羅時代の石窟 寺刹の石窟庵石窟(国宝24号)の映像を鑑 賞する観覧客 3 展示室の入口から観覧客 を新羅の世界に導く皇南大塚のデジタル プロジェクション
髭だらけの外国人を描写した墓の人物像で確認できる。 三つ目の最後のパートは仏教芸術に焦点をあてている。仏教はもともと南アジアから来ており、 新羅では527年に公認された。仏教を受け入れたことで葬礼文化に変化がおきた。火葬と小さな石 部屋(石室墳)が一般化されたのだ。それに展示の最初のパートで見たような個人を装飾するのに使 われた材料である金がここでは仏像と舎利函に使用されている。小さな金製の座仏像が代表的な例 だ。今回の展覧会のために選ばれた仏教芸術品は6~9世紀の間に作られ、全アジア的な源泉を具 現しているものだが、新羅でこの時期に流行したスタイルと図像、そして教理がどのようなもの だったかを示している。例えば、四天王寺から出土した四天王の姿が描かれた四天王像塼がその代 表的な例だ。また仏教芸術部門のハイライトは国宝83号の有名な金銅弥勒菩薩半跏思惟像で、優雅
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観客はまず皇南大塚の華麗な金冠と腰帯を半透明の綿布ごし に覗き見ることになる。そしてコーナーを回ると華麗な王の 遺品が目に飛び込んでくる。月池の底のタイルは浅めの陳列 用ガラスケースに入れられ床の上に展示されている。観客は 周囲を見て周り、足元を見ながらそれらが元来どんな姿をし ていたかが想像できるようになっている。
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でシンプルに表現された魅力的な仏像だ。また有名な石窟庵の仏像に似た鋳鉄で作られた仏像は非 常に印象深く、今回の展示の最後を飾っている。
作品の個性を生かした展示
1 慶州九黄洞金製如来坐像 国宝79号 高さ12.2cm 国立中央博物館所蔵 2 慶州 鶏林路 宝剣 宝物635号 長さ36cm 国立慶州博物館所蔵 3 皇南大塚北墳出土 金製高杯 宝物626号 高さ10cm 口の直径10cm 国立慶州博物館所蔵
親しみやすく注目を浴びるような展示にするという企画意図に合わせて、私たちはより大きな 脈絡を提供する為にデジタルメディアを作品展示に応用することにした。そしてそのために三星を 展示の主スポンサーにすることに成功した。展示に息吹を与える為に技術を使ってはいけない理由 などあるだろうか? デジタルで再現したのは、皇南大塚の建築を3Dアニメーションで見せた映 像と1970年代の発掘現場の様子だ。古墳から出土した華やかな耳飾りを見せるインタラクティブ 展示や粒子化のような金製造技術を見せる映像もある。展示された外来の流入物品の製造場所と推 測される地域を表示するデジタル地図もあり、展覧会の最後には東アジアに残存するもっとも重要 な仏教記念物の一つであり、世界文化遺産でもある石窟庵の建築工程を示す3Dアニメーションも 見られる。幸い、展覧会を訪れた人々は一様にこれらのデジタルメディアが完璧に展示とマッチし 芸術の理解と鑑賞の助けになると言っている。 どんなに補助資料が多くてもシステマチックな装置がなければ作品を生かすことはできない。 美術館の才能豊かな展示デザイナーのマイクル・レプソン(Michael Lapthorn)が作品の配置を計画 するのに多くのアドバイスをくれ、設置の過程では美学的だけではなく実用的な側面からも多くの 助言をしてくれた。私たちはドラマチックでありながら優雅な展示を求め、荘厳な展示とともに親 密な観覧を、そして予想を超えるような、それでいて自ずと悟りに導かれる驚きを提供したいと考 えた。そんな願いが具現化され、作品をさらに生き生きとしたものにしているいくつかの例をご紹 介しよう。観客はまず皇南大塚の華麗な金冠と腰帯を半透明の綿布ごしに覗き見ることになる。そ してコーナーを回ると華麗な王の遺品がその目に飛び込んでくる。月池の底のタイルは浅めの陳列 用ガラスケースに入れられ床の上に展示されている。観客は周囲を見て周り、足元を見ながらそれ らが元来どんな姿をしていたか想像できるようになっている。 半跏思惟像は親密さが感じられる小さな空間に配置され観客が仏教芸術展示室に向かう通路の 最後でようやく目にすることができる。
新羅とメトロポリタン美術館の出会い 一年前のある満月の夜、私は慶州の石窟庵の前に立っていた。隣にはメトロポリ タン美術館の館長と慶州国立博物館の展示担当部署の副院長と職員がいた。私 たちは想像どおりに新羅の展覧会が実を結ぶだろうと確信していた。そして そのときから、展覧会が開催される直前まで作品の貸与をめぐり思っても見 なかったドラマが起きた。金銅弥勒菩薩半跏思惟像の門外に出ることが問題 となった。幸い、このスター的芸術品は結局、ニューヨーク旅行の許可を得る ことができた。すべての作品がメトロポリタン美術館に無事到着し、最後の作品が 陳列用のガラスケースに設置されたとき、スタッフ全員が深い安堵のため息をついた。 他の展示と同様に「新羅:韓国の黄金の王国」展も韓国とアメリカの多くの人々の協力と 献身のおかげで開催にこぎつける事が出来た。私たちは韓国の二つの国立博物館と韓国政府 に無限の感謝を贈る。そして、これから数ヶ月の間、メトロポリタン美術館は新羅王国の壮 麗さを全世界から来た観覧客と共に共有できるだろう。(翻訳:金明順) 3 K or e a n a ı 冬 号 2 0 1 3
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オン・ザ・ロード
非武装地帯の美術展 地への愛着と戦争の記憶 韓国(朝鮮)戦争は過去60年間、DMZ(非武装地帯) という遺物を残し、個人の記憶や意識だけでなく、地元住民や共同体、 ひいては韓国全体に影響を及ぼしてきた。鉄原はその歴史を最も鮮やかに秘めた地であることから、〈リアルDMZプロ ジェクト〉というタイトルの美術展示の舞台となった。 チョルウォン
キム・ユギョン(金裕卿、ジャーナリスト)| 写真 : 安洪范
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非
武装地帯で展示会をする?休戦協定から60年が過ぎて、軍事地域の一角が芸術の舞 台に変貌した。昨年に続いて2回目の、鉄原ではかなり大規模な展示会が開かれた。
〈リアルDMZプロジェクト2013: ボーダーライン〉というタイトルの今年の展示会(2013.7.27~ 9.22)は、鉄原安保観光コースを回りながら、写真、絵画、映像、オブジェなど、20余点の作 品に出合うユニークな経験となった。 11か国12名のアーチストが非武装地帯のもつ意味を今 日の視線で再解釈した作品を眺めながら、観覧客は重武装した軍事地域を各々それぞれの鑑 賞方法で楽しんだ。芸術監督のソンジェーアートセンターのキム・ソンジョン館長は、「リア ルDMZプロジェクトは、朝鮮半島のDMZが我々の生活と文化に与えた様々な問題を人文学的・ 芸術的に探求するプロジェクト」と定義した。
非武装地帯と渡り鳥 ソウル都心からここまで車で走ってくる道中も、6.25戦争にまつわる記憶といえば、道路 際に立つ「ヨンヒ104高地」という名のバス停留所すら見過ごすほどに、ごく日常的なものに過 ぎなかった。しかし鉄原に近づくにつれて、軍事地域として非武装地帯の性格を表す施設がだ んだん多くなっていった。その一つが渡り鳥に関するものだった。この地域の野生鳥獣を保護 するためのその建物は、戦後の歳月の流れを物語っていた。実は何よりも鉄原に美術展を見に 行くということ自体がそうであった。 「ここで軍事問題ではなく文化的関心が集まったことを歓迎する」という鉄原郡首の挨拶に も同じ思いが込められていた。時間の流れは軍事地域の一角を観光、ひいては芸術の舞台に変 化させた。今年で二回目のこのDMZ美術展に参加した作家たちはみんな戦後世代であるが、戦 争の記憶が風化することはなかった。美術展示会はそこに咲いた一輪の花なのだ。 韓国(朝鮮)戦争の中でもっとも戦闘が多かった江原道鉄原は、今も緊張感が漂う軍事都市 であると同時に農業が主な産業の小さな町である。住民の多くは民間統制線内に広がる平野に 出入りしながら農業を営んでいる。壊れた労働党舎の建物などは、今や登録文化財に指定され ている。また、漢灘江ではラフティングとバンジージャンプなどのスポーツも楽しむことがで きる。 訪問客にここでの暮らしぶりを説明するぺク・スヒョン(白寿鉉)さんは、「住民が最もも大 鉄原DMZの国境地域でで開かれる「リアル・ DMZ・プロジェクト2013」と平行して開催した ソウルアートソンジェセンター特別展、 「フロム・ザー・ノース(From the North) 」に 展示されたぺク・スンウ作 〈ブローアップ (Blow up)〉。2005年に北朝鮮を訪問した彼が、検閲 によって切り取られた写真の切れ端を拡大し た 「思いがけない場面」である。デジタル・ピ グメント・プリント(digital pigment print) 。 265 x 504 cm(40 pieces set)、2005~2007
事にしているものは、彼らがこれまで住んできて、今も住んでいる土地、作物が育つ田畑であ る」と語った。地雷の埋まっていた田畑を耕しているのだ。理念を論ずる前に、土地への強い 信念と愛着が彼らの生きる力になっている。 今回の展示会に出展された作品は、南北が対峙する現場に対する作家たちのさまざまな視 点を表現している。現代美術に不慣れな人には、何が美術で何が現実なのか混乱を招くかもし れないが、美術を通して歴史の蓄積を体感するに違いない。 ジェッシ・ジョンス(Jesse Jone、アイルランド)が、「鉄の三角戦跡地」である観光事業所 の講堂で披露したパフォーマンス〈心霊的統一プロジェクト〉は、伽耶琴の旋律が流れる神秘的 な雰囲気の中で、タロット占いで時局を解析しようとする内容だった。観客が投げかける質問 にタロット占いの結果で答えるこのイベントは、真剣に政局について話し合う会見場のよう だった。「統一はできるのか」、「キム・ジョンウン体制は持続するのか」、「武力衝突は起こる のか」、「核兵器は使用されるのか」、「金剛山観光は再開されるのか」という観客の質問に対し て、カードが裏返され、カードが大きな画面に写る。彼はその画面を見ながら次のように解釈
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ウォルジョンリ
月井里駅前の平和文化広場には、互いに響きあって静止したかのようなイメージを醸す作品 がある。錆びた汽車、人気のない駅、岩、それらが孤独の中で調和して非武装地帯における 60年間の静寂を物語っている。
した。「統一は簡単ではなく、現在の問題だけでも非常に厳しい。結
る月井里駅には、古物になった汽車が横たわっている。ずいぶん前に
局対話を通じて疎通することになる。金剛山観光は双方の目的が同じ
その汽車を初めて見た時は、汽車の全容が見えて印象的だった。ここ
だから再会されるだろう」と。
ではあの時から、止まってしまった汽車の方が展示品よりもっとアー
その内容は時局を診断する専門家の解説のように聞こえた。舞台
トのように見える。しかし、現在は汽車の先頭は遠く前にあって、胴
を注視していた観客の中で笑う人は一人もいなかった。非武装地帯の
体のほとんどが覆い隠されて汽車の姿はほとんど見えない。汽車の
現実の前では、誰もが真剣になってしまう。
通わない駅は映画のセット場みたいだ。ポール・カジャンダー(Paul Kajander、カナダ)は植民地時代にここにあった氷の倉庫で、断絶の
汽車が通わない駅 民間統制線内に入って農作業を行ったり、軍事地帯で工事をする
概念を体の動作や声で表現するパフォーマンスを小中学生たちと一緒 に行った後、その写真と音響をがらんとしたこの駅に展示した。
人々の姿を精巧なカメラのファインダーを通して表現したユン・スヨ
駅前の平和文化広場には、お互いが相まって静寂のイメージを創
ン(韓国)さんは、作品を撮るためにここを出入りしながら「初めは怖
り出す作品があった。広い広場の一角に高さ7m、幅10mの白の合板
かったが、その静かで平和な日常に驚き、自分もその一部に溶け込み
に黒く「百年の孤独(One Hundred Years of Solitude)」と、文学作品の
たかった」と話していた。
タイトルを書いたヒーマン・チョン(Heman Chong、シンガポール)
田植えの途中、一休みする農夫の写真は、北朝鮮の地である五聖
の作品が建っている。その前の広い地上には鉄原の田畑から運んでき
山が向かいに見える場所に掲示板のように設置された。チョンソン部
た大きな玄武岩の岩が数十個も置いてあった。ク・ジョンア(韓国)の
隊の古いスローガンが書かれた昔の詰め所の脇には、渡り鳥が多く飛
〈一色拡張(Consciousness Dilatation)〉というオブジェである。錆び
んでくるという田畑が広がり、幾つもの教会の一里塚が乱立する交差
た汽車、人けのない駅、岩、孤独。そのイメージが相まって非武装地
点が目につく。その時間帯には行き来する住民の姿はない。民間統制
帯における過去60年の静寂を説明している。
線が閉ざされて家に帰る時間にならないと住民の姿は見えない。写真
地元の住民らは「我々の田畑にあった岩をここに運んで、掲示板に
に写った農夫が「顔が隠れて見えないが、あれが私だよ」などと近所の
なにかを書いたのが美術作品?」といぶかっているが、そこから発散さ
人々に話しかけている。後々には、地元住民よりは安保観光で訪れる
れるエネルギーは激しさを秘めた美しさを表している。広場の一角に
多くの人々がこの作品を目にすることになるだろう。
は銃を掲げた軍人たちが立っていた。この地域の実際の風景は孤独な
DMZ平和文化館には映画のような戦争の場面を撮ったチョン・ヨ
静寂が物語る美術作品と強烈に対比し、かえって非現実的に見えた。
ンデゥさんの写真〈対極旗を翻しながら – Bカメラ(Brotherhood of War - B Camera)〉、非武装地帯の風景を巨大な理念的幻影としてと
「私自信が鉄原の端くれ」
らえ、コラージュの技法で表現したファン・セジュンさんの油絵〈環
モノレールに乗って昇った鉄原平和展望台では、外国人アーチス
状線(Tour)〉、軍事文化の面影を人物と施設をつかって鋭く表現した
トのユニークな感覚が発揮された作品に出合った。ファレティン・オ
オ・ヒョングンの写真〈やろう、やれる、陸軍歩兵学校(Let’s Try We Can Do It、the Army Infantry School)〉などが展示されていた。「でき なければできるようにしろ」という軍の掛け声を岩にペイントで描い た写真の中の光景を見て、一瞬笑いかけて表情がこわばった。その掛 け声が悪戯ではないことに気づいたためだ。 「鉄馬は走りたい」という言葉で知られる京元線鉄道の最北端にあ
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1 北朝鮮の大規模なマスゲームであるアリランを表現したノ・スンテク作〈赤 い枠(Red House)# I-13〉、アーカイバル・ピグメント・プリント(archival pigment print)、100 x 140 cm、2005 2 DMZ平和文化館に掛けられているファ ン・セジュン作〈環状線 (Tour)〉。キャンバスにオイル。162 x 920cm、2012。 平和への希望と冷戦に対する怖さを表現した。3 駅としての機能を失って久し い月井里駅は、「リアル・DMZ・プロジェクト」 が開かれる間、写真の展示空間 として活用される。 韓国の文化と芸術
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レンリ(Fahrettin Orenli、トルコ)のビデオ映像〈地の感情、ポスト成 形手術による切開(The Emotion of Land、THE CUT by Post Cosmetic Surgery)〉という目蓋の成形手術を撮ったビデオ作品である。彼は韓
1 労働党舎前のキム・リャンの設置作品〈私の聖なるシェルター(My Saintly Shelter) 〉、2012。白の鉄製構造物は鉄原地域で稲作の際に苗板を重ねて運ぶ 道具をリサイクルしたものである。2 冬場の鉄原は鶴にとって憩いの場であ る。 3 京義線鉄道の最北端にある月井里駅に横たわっている列車。戦争当時、 爆撃で壊れた列車の錆び付いた骨組みがここに保存されている。
国の近代化が成形手術のように不自然で、南北関係も同じであると見 たのだ。 ここの壁一面には土地に対する強い愛着の原点を描いた〈鉄原の野
国道3号線に面する鉄原農産物検査所も展示空間として使われた。鉄
原(Rice Fields in Cheorwon)〉などの油絵作品がかかっていた。キム・
原で生産される農産物の品質を検査する場所だったが、北朝鮮政権下
ソンギョンは今回参加した作家の中で、唯一鉄原で生まれて鉄原で活
では共産主義に反対する人々を洗い出して取り調べた場所として悪名
動している画家だ。「ここが大好きで美術大学を卒業して戻ってきま
高かった場所である。今回、展示会以前は閉鎖されていた建物に入る
した」という彼は、ソイ山の頂上から見下ろした鉄原の整理されてい
ことができたのは幸運だった。ここにイ・ジュヨンは〈旧鉄原第2金
ない地雷畑や、耕作地になった田畑の創り出す線を非武装地帯の美し
融組合建物模型〉を記念碑のように建てた。実際の金融組合は空爆で
さとして受け入れた。彼は幼い時から労働党舎の建物を出入りした
廃墟と化し、現在はその跡地だけが残っている。
り、野原を走り回ったりしながら遊んだ。今や酸化して錆び付いた軍 事施設、砲弾の殻、汽車の線路までがすべて絵画の素材になっている。 夕日を背景に描いた自画像を指しながら彼は「自分を鉄原の端くれだ と思う」と話していた。 渡り鳥を観察する道で、韓国(朝鮮)戦争当時、重要な道路だった
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ソイ山ドゥレ道 鉄原はコンサート・ホールや美術展示場などはない、芸術の不毛 地である。しかし、芸術の生命力は強い。金剛山に向かう道の要であ るこの地で、朝鮮時代の画家チョン・ソンが絵を描いた。キム・ソン 韓国の文化と芸術
ギョンは鉄原の美術家の立場で「今回
韓国(朝鮮)戦争の際、高地占領
の展示会が鉄原の住民たちには、暗
を巡って5万発の爆弾が落とされた
黙のうちに自分の故郷に向けられた
サプスル峰(ドンソン貯水池)からソ
視線はこんなにも多様であるという
イ山(労働党舎前)-ハルミ峰(孤石亭
事実に、インパクトを与えるだろう」
周辺)につながる峰は、朝鮮時代に
と語った。アーチストたちにとって
はソウルに入る烽火の軸線上にある
もこの美術展は非武装地帯を見守る
高地だった。ここに居住していた力
方法に関する課題を投げかける重要
持ちの義賊イム・コッジョンの名は
なきっかけになったはずだ。
「イム・コッジョン・ガーデン」とい
20世紀末、国全体にその名を馳せ
うレストランの名前として伝わる。
たアイドル・グループの「ソ・デジと
2
アイドゥル」は、鉄原の労働党舎で 「渤
鉄原は海抜200mに位置した火山 地帯であると同時に広々とした平野
海を夢見ながら」という歌のミュージック・ビデオを撮影した。おそ
に恵まれたところだ。雨上がりに一対の虹が田畑の向こうに見える
らく労働党舎が芸術活動の舞台となった最初の試みであっただろう。
場所でもある。労働党舎のすぐ前にあるソイ山には観光用のドゥレ道
ソプラノ歌手、チョウ・スミ(曺秀美)が放送局の日曜音楽会に出演し
「地雷花道」ができた。その名前を聞いただけで、ここが激しい戦闘が
て、ここ労働党舎で歌った時、多くの住民たちは照明に照らされて美
繰り広げられたところであったことが分かる。そしてここは、農民た
しく映える労働党舎を始めて見た。戦争中に数多くの人が死んでいっ
ちが通う安全な道であり、山花の咲く美しい地でもある。
た、もの悲しく見えるこの建物の前を通り過ぎた軍部隊は、どこから
解説者のぺク・スヒョンさんは、「夏の終わる頃、野原の風景は本
攻撃を受けるかも分からない恐怖心を払拭するために、ここを狙って
当に美しいです。また来たいと思いません?」と語りかけた。私が「北
銃を撃ち放ったといわれる。
朝鮮ではここで美術展が開かれることを知っているでしょうか」と訊
現在ここでは鉄原遺跡地を通るマラソン大会も開かれている。文 化芸術のパワーが戦争の悪夢を癒すのである。
くと、「とっくに知っているでしょう。ここは傍受地域だから」と答え た。(翻訳:趙祥恩)
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鉄原という都市 緊張と平和が共存する 「鉄の三角地帯」 キム・ダン(オマイニュース編集局長)| 写真 : 安洪范
鉄原の平和展望台からの眺め。非武装地帯の向こう側に北朝鮮が見える。
原は地理的に朝鮮半島の東西と南北が交錯する中心部に
鉄
旧ソ連が地図の上に物差しで引いて決めた38度の分割線は、停
位置する。 1945年の開放後、南北に分断されるまでは、
戦とともに西部戦線は南側に下がり、東部戦線は北側に上がり
鉄原は京原線(ソウル-元山)鉄道の通る物流と交通の要所だっ
休戦となった。開放直後、38度線の以南にあった開城が戦後、
た。開放直後、朝鮮半島に駐留したアメリカと旧ソ連が北緯38
北朝鮮の地になってしまい、韓国にとっては「未収復地区」とな
度線を基準に南北を分けた時、鉄原は旧ソ連の軍政の管轄下に
り、一方38度線以北だった鉄原は韓国の「収復地区」になった。
あって、北側の江原道の道庁のあるところだった。現在、観光
現在鉄原郡は韓国と朝鮮民主主義人民共和国双方の行政区域に
商品になった労働党舎などのロシア風の建物が建っている所以
またがる分断された郡である。
である。
朝鮮戦争当時、ソウルを占領するために北朝鮮軍の奇襲攻 撃は4つの軸線を基本に展開された。中でも最っとも主力攻撃
分断された郡
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ルートは鉄原-議政府-ソウルを結ぶ軸線であったが、助攻ルー
北朝鮮-中国軍と韓国-米軍/国連軍は朝鮮戦争(1950.
トは開城-汶山-ソウルの軸線だった。北朝鮮軍は第1ルートを
6.25~1953.7.27)の終戦間際に、一寸の地でも多く確保する
通って、三日でソウルに入城した。ところが、米軍の反撃と中
ために、熾烈な戦闘を繰り広げていた。その結果、アメリカと
国軍の介入で戦争が長期化し、中部戦線の心臓部に通じるいわ
韓国の文化と芸術
ゆる「鉄の三角地帯」 (北緯38度の北側の平康を頂点にして、鉄
人、女性22991人)である。他の農村地域の郡と同じく鉄原の
原と金化を結ぶ三角地帯で、我軍の攻撃には不利で、敵の防御
人口も減少傾向にある。
には最適の地形的特徴からつけられた名)ではもっとも熾烈な戦
しかし、境界線に接する軍事地域であるため、鉄原には正確
闘が繰り広げられた。そのため、鉄原と聞いたら人々は真っ先
な規模は明らかにできないが、鉄原の人口よりも多くの軍人が
に「鉄の三角地」を思い浮かべる。
駐屯している。鉄原には白骨部隊(第3師団)を中心に勝利部隊
「鉄の三角地」で起きた戦闘の中でもっとも熾烈を極めたのは
(第15師団)、青星部隊(第6師団)、だるま部隊(第8機械化歩
白馬高地の戦闘だ。白馬高地戦闘戦跡碑によると、鉄原平野が
兵師団)などが駐屯していて、また一部の部隊の訓練場なども
一望できるこの海抜395mの頂上で十日間繰広げられた戦闘は、
散在する。最近、芸能人らが部隊に入隊して1週間兵営生活を
砲弾の破片や死体の山で膝のあたりまで埋もれるほど激しかっ
体験する「本物の男」というバラエティ番組が人気を得ているが、
た。十日間で頂上の主は24回も変わり、その過程で14000人
白骨部隊はネチズン(ネット市民)が芸能人に勧める「転入部隊
もの軍人が死んだり負傷した。落とされた砲弾は30万発を超え
トップ」となったこともある。
た。
白骨部隊は国軍の日と深い関係がある。この部隊は1950年 10月1日、初めて38度線を突破して北へ進んだ。イ・スンマ
住民より軍人が多い所
ン大統領はその日を記念して1956年10月1日を「国軍の日」と
北朝鮮は開城を得た代わりに鉄原を失った。当時、キム・イ
して制定した。この部隊の伝統を受け継いで一部の連隊は有事
ルソンが鉄原平野を失って三日も泣いたと伝わる。収復地区は
の際に38度線の最前線に配備された突破連隊として編制されて
アメリカにとっては第2次世界大戦後、初めて占領した共産圏
いる。
の地であった。戦略的要所であるだけに、停戦後も南北は鉄原
「平和、生態、生命」
地域に主力部隊を集中的に配備した。北側は朝鮮戦争の際、ソ
部隊周辺の道路に立つ凄まじい白骨のモニュメントには今も
ウル占領に功績のあった師団を「未収復地区」である鉄原地域に 配備した。 1953年10月1日に創設された南側の第5軍団は、
敵に向けられた物々しいスローガンが書かれている。しかし、
戦闘経験のある第3師団と第6師団で対抗した。
緊張感を平和に変えようとする韓国政府DMZ世界平和公園事業
南北は敵対行為の再発を防ぐために、休戦ライン(軍事境界
が発表された後、鉄原は京畿道坡州とともに有力な候補地とし
線)を基準に南北に2㎞ずつ後退した地点に沿って鉄柵線を張っ
て浮上している。実はその前から鉄原郡の軍政ビジョンは「平
て、その中をDMZ(非武装地帯)と設定した。南側ではさらに南
和・生態・生命の国土中心」だった。特に平和のイメージやブラ ンド創出を軍政における最重要目
方限界線の南側に10㎞範囲で 民間人の立ち入りを統制するた めに、民統ライン(民間人統制 線)という境界が設定された。 我々がよく「休戦ライン155 マイル」と呼ぶDMZの全体の面 積の1/3が鉄原郡に含まれる。 つまり、鉄原郡には民間人が自
MDL DMZ CCL Border line area
黄海北道 黄海南道
鉄原 月井里駅 京畿道
第二トンネル
と、鉄原の人口は2013年6月 末現在、47588人(男性24597
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インフラ構築と平和をモチーフに した文化観光コンテンツの発掘に 取り組んでいる。 2012年から「時間が止まった分
江原道
断の現場で芸術で取り崩す境界」
ソウル 北朝鮮
を掲げて始まった「リアルDZプ ロジェクト」は、鉄原が「DMZの故
由に出入りできない地域が多い わけだ。鉄原郡の統計による
標に掲げ、平和拠点地域としての
鉄原 韓国
郷」であることを前面に押し出し た代表的な例である。(翻訳:趙 祥恩)
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韓国の文化と芸術
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Quick and Easy Tourist Information Korea Tourism Organization has launched useful applications for tablet PCs and mobile phones.
K-Books ●Various print publications have been combined into a single application! You’re only one touch away from all the tourist information on Korea you may need ●Includes more than 30 different English publications ●For iOS and Android devices How to Download? Search “K-books” in App Store or Google Play Or scan QR code below
Koreana ı 冬号 2013
Korea - Illustrated Booklet ●This interactive book application features a great combination of high quality photos, music and video clips ●For iOS and Android devices How to Download? Search “tour2korea” in App Store or Google Play Or scan QR code below
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遠くの目
芸術を通した魂の交流を目指して 日中韓コラボレーション演劇「祝/言」 日本にとって重要な隣国である韓国、中国とは、演劇に関する交流のチャンネ ルもいろいろ存在するが、実は、日中韓三国で、ひとつの作品作りを行うとい う機会は過去にあまり例がなかった。 こじま・ひろゆき(小島寛之、日本国際交流基金ソウル文化センター所長)
「(日本と韓国は)海で繋がってるじゃないか、そう 思いました。空はもっと広く繋がってるじゃないか」 国際交流基金と青森県立美術館がイニシアティブを
言うまでもなく東日本大震災は日本人に消し難い衝 撃を与えた未曽有の出来事である。同時に、大災害と
取り、韓国、中国のアーティストとのコラボレーショ
人間や社会、生と死といった問題は、日本のみならず、
ンにより作り上げた演劇作品「祝/言」の中で、韓国人
韓国、中国、そして人類に普遍的に通じる問題でもあ
の花嫁を迎えることになった日本人花婿の父が結婚式
る。今回の作品は、日本の東北地方を襲った大震災を、
の前日、集まった親戚や友人の前で御礼の言葉ととも
真正面からとりあげた数少ない作品であり、東北の演
に、自らの思いを語った言葉の一節である。彼の挨拶
劇人の苦しみと再生に向けた熱い思いが込められてい
が終わり、みなの暖かい拍手がわき起こったその瞬間、
る。さらに、韓国、中国のアーティストの参加により、
耳をつんざくような大きな衝撃音とともに舞台は暗転
地域や民族、国境、言葉の違いを超え、より根源的な
し、点滅する閃光とサイレン音がそれに続く。その混
問いを投げかけるものとなった。日本にとって重要 な
乱の中、一人の男が舞台の中央に登場し、唸るような
隣国である韓国、中国とは、演劇に関する交流のチャ
鳴き声を上げながら、悲しみのソロダンスを踊る。
ンネルもいろいろ存在するが、実は、日中韓三国で、
舞台は、日本の東北地方の三陸沿岸のホテルのロ ビー。時は2011年3月11日。日本人と韓国人のカップル
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いる。
ひとつの作品作りを行うという機会は過去にあまり例 がなかった。
が家族や友達に囲まれ、まさに結婚式を挙げようとす
今回の作品づくりは地震で大きな被害を受けた東北
るその前日、地震と津波が襲い 、全てを流し去ってし
地方の演劇人が中心になっている。脚本と演出を担当
まう。残された者は死者達に思いを馳せながら、生き
した青森県立美術館の長谷川孝治氏(舞台芸術総監督)
る意味を懸命に見出し、新しい一歩を踏み出して行こ
は、作品の意図について、「魂は理性から少し離れたと
うとする。生と死、人と人のつながりを巡る話である。
ころにあり、それは中国も韓国も日本も同じだと思う。
「祝言」は日本語で結婚式を表し、2つの漢字の間にス
中国人、韓国人、日本人から中国、韓国、日本を取っ
ラッシュが入っているのは、津波により結婚式が破壊
たら「人」が残る。人と人の交流、すなわち、魂の交流
され、みなが傷と痛みを負ったということを意味して
を描きたかった。」と説明する。 3.11大地震の直後、想 韓国の文化と芸術
演劇「祝/言」とポスター
像を絶する惨状を前にして多くの日本の表現者、アー
の台詞を言ったり、日本人が韓国語の台詞を言ったり
ティストは言葉を失った。長谷川氏も例外ではなかっ
する場面もある。稽古の際には演出家が日本語で行う
たと言う。今回の作品は、言葉によって表現できない
指示を役者、スタッフに正確に伝えるため演劇に理解
深い精神世界、感情を表すために音楽や舞踊も非常に
の深い韓国語、中国語の通訳を頼み、三カ国語が飛び
重要な役割を果たしている。
交う現場となった。
音楽を担当したのは、韓国の伝統音楽の若手グルー
この作品は、2013年10月11日の青森公演を皮切り
プ、アンサンブル・シナウィだ。牙箏(アジェン)、伽
に、10月から11月にかけて、韓国の大田、ソウル、全州、
耶琴(カヤグム)、打楽器、ピアノ、ヴォーカルの5人か
中国の上海を経て、日本の仙台、東京で上演された。
らなるこのグループは、時に優しく、時に激しく音楽
来年1月には最後の公演地となる中国の北京で上演され
を奏で、力強く美しい演奏により観客に感動を与えた。
る予定である。青森での初日公演では、最後にはスタ
韓国からはアンサンブル・シナウィの他に女優のキム・
ンディングオベーションが起こり、アーテ ィストがそ
ソナ氏、イ・ヨンスク氏、ダンサーのチョン・ヨンド
れにこたえ、観客とともに踊りだすというエンディン
ウ氏の3人が参加した。そのうち、韓国人花嫁役を演じ
グになった。
た女優のキム・ソナ氏は、「韓国人、中国人、日本人違
今回、私は韓国の3都市で行われた8公演のうち、4
う国から集まっても結局同じ人間ということ。今回の
公演を劇場で直接鑑賞したが、本当に演劇は生き物で
演劇は人間、愛、自然がテーマになっている。 」と語る。
あることを改めて痛感した。もちろん内容は同じだが、
3カ国のコラボレーションは、言語、文化 の違いな
回を追うごとに少しずつ変化、進化していく。この演
どから決して容易いものではなかった。やはり最も難
劇は、日本、韓国、中国を巡回公演し、各国の観客の
しかったのは言語の問題である。舞台では、日本語、
目にさらされ、その反応を吸収することで、より魂が
韓国語、中国語の3カ国が用いられ、観客の理解を助け
込められていくように感じる。演劇「祝/言」が、日中
るために字幕が投影される。台詞のニュアンスをでき
韓の3カ国のアーティストの絆を深めるとともに、それ
るだけ忠実に各国語に訳すのに苦心した。役者は、必
ぞれの国の観客の心も繋ぐ契機になれば、たいへんに
ずしも母語を使用するわけではなく、中国人が日本語
嬉しく思う。
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エンタテインメント
ポン・ジュンホ流の ディストピア寓話
「雪国列車」 「ローカルなものがグローバルなもの」と「グローバルスタンダード、つまりハリウッド映画のような映画を制作しないと 生き残れない」という二つの路線がここ数年間、衝突し続けてきた。では、韓国映画史上もっとも多額の制作費のかかっ た〈雪国列車〉の場合は? ローカルなものと、グローバルなものとのバランスがとれた普遍性のある作品なのかどうか、論 議は未だ終わっていない 。 キム・ヨンジン(金泳辰、映画評論家、明知大学校映画ミュージカル学部 映画専攻副教授)
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韓国の文化と芸術
ポン・ジュノ監督の最新作〈雪国列 車〉の一場面。ソン・ガンホが演じ たアナキスト、サムグン・ミンスは この映画の深層に流れるメッセージ を伝える人物である。
こ
こ数年間、韓国の映画界を率いる監督たちは韓国を離れていた。電話をかけてみると、彼らはそれ ぞれ、アメリカのL.Aやニューヨーク、或いは東欧のチェコなどで作業中であるというメッセージを
よこした。
世界市場を狙う? やがて彼らは、西洋の俳優たちが出演する新しい映画を披露した。パク・チャンウク(朴賛郁)監督は フォックス・サーチライトで、〈ストーカー(Stoker)〉を制作した。フォックス・サーチライトはフォック スの子会社で、主にアカデミー賞を狙った芸術映画を制作するスタジオだが、監督の墓場として悪名高い ところである。キム・ジウン(金知雲)監督はライオンズゲートで、〈ラスト・スタンド(The Last Stand)〉 を制作した。ライオンズゲートも中小規模のスタジオであり、比較的充実したラインナップを誇るスタジ オである。 しかし、映画の興行の結果は芳しくなかった。一千万ドルの制作費が投入された〈ストーカー〉は、韓 国とアメリカで制作費の半分も回収できなかった。制作費2千万ドルかけた〈ラスト・スタンド〉の成績も あまり変わりがなかった。性的スキャンダルでアメリカでの人気が地に落ちたアーノルド・シュワルツェ ネッガーの復帰作という点が裏目に出た。ただし、評論家の評価は悪くなく、二人の監督は現在ハリウッ ドで新しい映画を準備している。〈ラスト・スタンド〉はDVDとブルーレイディスクが売り出された後、そ の評価が見直されている。 アメリカでの興行の失敗よりも、パク・チャンウクとキム・ジウンの両監督にとってさらに厳しい現実 は、彼らのハリウッド映画が韓国の観客の関心を得られなかったことだ。〈ストーカー〉にムン・グンヨン やイ・ビョンホンが出演していたなら、韓国でも話題になったはずだ。アルフレッド・ヒッチコック監督 の映画を連想させるこの残酷なドラマはアメリカが背景であるため、今の韓国の観客には抽象的な寓話と して受け止められたのだ。キム・ジウン監督の〈ラスト・スタンド〉は西部劇映画のストーリーを現代化し た作品であり、彼はこれまでに 〈グッド・バッド・ウィアード(The Good、The Bad、The Weird) (2008)と 〉 いう韓国風の西部劇映画を制作したことがある。彼は世界市場を狙ってこの新しい映画をハリウッドで制 作したが、普遍性の拡大という名分を興行的証明できずじまいだった。
憂慮の眼差しで見られたSFドラマ パク・チャンウクとキム・ジウンがハリウッドの資本でハリウッド映画を制作している間、ポン・ジュ ンホ(奉俊昊)監督はチェコ共和国でハリウッドの俳優とスタッフらが参加する多国籍制作方式で大作、〈雪 国列車:Snowpiercer〉を撮影していた。 430億ウォンの制作費(約4千万ドル)が投入されたこの映画は、 韓国のCJエンターテインメントが一番多く投資した韓国資本の映画だが、主な俳優とスタッフが外国人と いう、完全なハリウッド方式をベースに海外で撮影した作品である。出演陣としてはクリス・エヴァンス (Chris Evans)、ティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)、エド・ハリス(Ed Harris) 、ジョン・ハート(John Hurt)など、大勢の西欧の俳優が加わった。韓国の俳優ソン・ガンホ(Song Gang-ho)とコ・アソン(高我星) がたまに話す韓国語の台詞を除けば、ドラマもほぼ英語で進められる。 この映画は2014年から17年後を背景にしたSFドラマで、氷河期を迎えて滅びた地球上を当てもなく走り 続ける列車の中で繰り広げられる下層階級と支配階級間の対決を描いた映画だ。韓国で初めて 〈雪国列車〉 の プレス試写会が開かれた後、記者と評論家たちの間では、この映画が暗く芸術的過ぎて、韓国的ローカル色 がまったく反映されていないため、興行の成功は厳しいのではないかという観測が強かった。やや厳しい評 論家たちはSNSを通して、真面目に否定的な意見を伝えた。 Koreana ı 冬号 2013
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ところが、いざ蓋を開けてみると、マスコミの予測は杞憂に過ぎなかった。映画に対する評価は分かれ たものの、観客の反応が分かれたことがかえって大々的なマーケティング攻めとあいまって、観客の好奇 心をそそる結果となった。韓国での〈雪国列車〉の興行成績は約640億ウォン(6千万ドル)を計上した。韓 国での全国観客動員数は930余万人だった。国内市場で損益分岐点を超えて収益を上げたが、10月にフラ ンス、11月に台湾での公開に続いて、2014年2月には日本での公開を予定している。また、日程は確定し ていないが、北米での配給はワインスタイン・カンパニーが当たる予定だ。今は無きミラマックスで1990 年代にアカデミー映画賞を受賞した芸術映画を制作・配給してその名を知らしめたハ-ヴェイ・ワインス タインは、韓国で公開された〈雪国列車〉の上映時間を20分以上も短く編集することを要求し、ポン・ジュ ンホ監督がそれを受け入れたという噂が聞こえている。この映画が海外市場でどのような成績をあげるか はまだ未知数だ。
ポン・ジュンホ流のアンハッピーエンド 興行成功とは裏腹にポン・ジュンホ監督は今年10月始めに開かれた釜山国際映画祭に出席して、二度 と大作は演出しないと公言した。彼は大作の制作規模によるプレッシャーを受けたくなく、彼の以前の映
1 1 フランスのドーヴィルで開かれた2013ドーヴィル・アメリカン映画祭に出席した「メイソン総理」役のティルダ-・ スウィントン。〈雪国列車〉は今年、この映画祭の閉幕作として上映された。2 映画に登場する幼稚園室では子供たち にウォールフォードの慈悲とリーダーシップ、神聖なエンジンに象徴される雪国列車のイデオロギーを投入すること で体制を維持しようとする。
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韓国の文化と芸術
画のように、細かいところまで気を使う小規模のストーリー中心の映画を撮りたいと話した。〈雪国列車〉 の制作者であるパク・チャンウクの話によると、彼が〈ストーカー〉の撮影を終えて、去昨年4月にチェコ のプラハにある〈雪国列車〉のセット場を訪れた時、ポン・ジュンホ監督はまるでSF恐怖映画に出てくる ゾンビのような格好だったという。撮影の最終段階になって、肉体的・精神的にすっかり疲れ果てて、ス タッフや俳優らに向かってうまくカットのサインすらだせない状態だったという。にもかかわらず、韓国 的ローカル色とグローバルな普遍性の間でバランスをとったポン・ジュンホの叙事とテーマ意識は〈雪国列 車〉にもよく表れている。 ポン・ジュンホ監督はこれまで制作してきた映画を通じて、西欧におけるジャンルの文法を韓国の地形 に合わせて、ちょっとだけいじって展開するという大胆な想像力を発揮した。彼の代表作である〈殺人の追 (2003)は、田舎の刑事たちが、連続殺人犯の逮捕に失敗してしまうストーリー 憶(Memories of Murder)〉 である。韓国の観客は未曾有のアンハッピーエンド、犯人逮捕に失敗して戸惑っている主人公の刑事の顔 がクローズアップされて終わるこの映画の結末に打たれた。それは事件の展開とともに解決に向けて一定 の軌跡をたどるハリウッドの刑事映画とは異なる結末だったが、韓国の現実に最適の結末であったためだ。 その他の作品も同じである。思いのほか規模の小さい怪物が登場して暴れる、〈グエムル-漢江の怪物-
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2
(The Host)〉 (2006)で観客の脳裏に焼きついたのは、ソウルに慣れ親しんだ市民に、斬新で新鮮に写るハン ガンの風景から受ける深い印象だった。一方〈母なる証明(Mother)〉 (2009)〉で、韓国の母親の典型として 大衆に認知されている俳優のキム・ヘジャは、息子の無罪を証明するために行動にでたが、かえって息子 の犯罪を隠蔽しようとして狂気や恐怖に巻き込まれていく中年女性を演じた。そして、彼女の演技を見つ める韓国の観客らも一緒にパニック状態に陥った。
リーダーシップを探求する作品? 〈雪国列車〉にはポン・ジュンホ特有のローカル色があまり表れていない。にもかかわらず、この映画が 韓国の観客に高く支持されたのは、ポン・ジュンホの知性が韓国社会におけるある種の雷管に触れたとこ ろがあったのだろう。この映画は列車の後方車両に住む最下級のリーダー、カーティスが反乱を起こし、 先頭車両にいる指導者、ウォールフォードを殺すために前進する内容である。カーティスの影響を受けた 賢者ギリアムはカーティスに対して反乱は無意味であり、水の供給車両で進撃を中止するようアドバイス するが、カーティスは最前列の車両まで進撃した後、どういうわけか、倫理的なジレンマに悩むことになる。 多くの評論家たちがこの映画を階級闘争の話しをしているものと理解したが、一部の評論家らの意見は異 なる。 特にこの映画でもっとも優れた演技を見せたティルダ・スウィントンは、〈雪国列車〉が「リーダーシッ プを探求する作品」だと評した。反乱を起こすリーダーのカーティスと賢者のギリアム、弱肉強食の秩序を 認める指導者のウィルフォードらとは違って、映画のソン・ガンホが演じるアナキストのナムグン・ミン スの新しいリーダーシップをこの映画が熱く受け入れているということだ。ナムグン・ミンスは列車の中 で繰り広げられる争いには関心がなく、専ら幻覚物質を手に入れることにだけ血眼になっている薬物中毒 者だが、彼の見る幻覚の中の世の中がポン・ジュノの「第3のビジョン」であり、彼が幻覚の状態であるこ とを考えれば、映画のハッピーエンドの結末も現実ではない夢であると主張する大胆な評論家もいる。 過去の作品でポン・ジュノ監督は閉所恐怖症を引き起こす空間にこだわっていた。〈殺人の追憶〉に出る 畔の排水溝、(〈グエムル-漢江の怪物-〉での排水溝、〈母なる証明〉の背景になった村で悲劇的結末の秘密 が潜んでいる空間は、ポン・ジュノ監督が明るくきれいで広い所よりは、人が注目しない空間で暮らしの 秘密を引き出すユニークな趣向があることが分かる。〈雪国列車〉の汽車は、彼にとっては最高の映画的玩 具に相違いなく、現実の悲劇を縮めた空間である。映画の中でティルダ・スウィントンが演じたメイスン 総理は列車の先頭車両を狙う最語尾の下級クラスの人々に秩序とバランスを強調しながら、各クラスはそ れぞれの位置を固守すべきだと訴える。彼らがそれぞれの位置から離れた時、世の中は混乱するのだ! 前の作品と同じく、ポン・ジュノ監督は 〈雪国列車〉 の結末を通じて、観客が予想できるナラティブとテー マを超える。このディストピア寓話の結末は、与野党が消耗的な争いを繰り広げる韓国の政治的現実を普段 から経験している韓国の観客にはかなり受けた。ソン・ガンホはこの映画の深層に隠れているメッセージを 伝える俳優である。彼の演ずるナムグン・ミンスは何事にも本腰をいれず幻覚剤に酔っている人物で、と てもリーダーにはなれないキャラクターだが、人間的な魅力がある人物だ。彼は階級間の対立には関心がな い。支配勢力が変わるだけで、同じシステムの中で繰り返される現実からの脱出を夢見る。 〈雪国列車〉 のエ ンディングはどこか 〈グエムル-漢江の怪物-〉 に似ている。 〈グエムル-漢江の怪物-〉 のエンディングでソ ン・ガンホが演じる主人公は、怪物に娘を奪われ失った代わりにホームレスの少年を息子として迎え入れる。 彼は、寝ても覚めても怪物がハンガンに再び現れるのではないかといらいらしながらも、少年には温かいご 飯を食べさせる。 〈雪国列車〉 のエンディングも変わらない。観客の予想通りにはいかなかっただが、ポン・ ジュノ風のビジョンを提示している。
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チョコ・プラハの〈雪国列車〉セット 場のポン・ジュノ監督。今回の海外 プロジェクトを通して、グローバル・ キャスティングと、大規模な予算 (4千万ドル)を運用する彼の能力が 確認されたと評価された。 韓国の文化と芸術
韓国の映画界では「ローカルなものがグローバルのもの」と「グローバルスタンダード、つまりハリ ウッド映画のような映画を制作しないと生き残れない」という二つの路線がここ数年間対立し続けてき た。パク・チャンウク、キム・ジウン、ポン・ジュノの三監督は韓国では興行と芸術性を同時に獲得 した大衆的な監督だったが、海外での評判は異なるものだった。例えばポン・ジュノ監督の〈グエムル -漢江の怪物-〉は韓国では興行新記録を打ち立てたが、外国では少数の芸術映画館でしか上映されな かった。それでは、韓国映画史上もっとも多額の制作費をかけた〈雪国列車〉は? ローカルなものと、グ ローバルなものとのバランスのとれた普遍性のある作品なのかどうか、論議は未だ終わっていない。 (翻訳:趙祥恩) Koreana ı 冬号 2013
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グルメを楽しむ
北風と太陽と雪とが 織りなす極上グルメ 「ファンテ」 日本ではスケソウダラと呼ばれるミョンテ(明太)、この魚を冬の間中、自然冷凍と解凍を繰り返す凍結乾燥 で加工したのが黄金色の極上グルメ・ファンテ(黄太)だ。凍結乾燥の過程は非常に手間がかかるものだが、 出来上がったものは家庭で保存しやすく、調理しやすい便利な食材となる。ファンテのへジャンクッ(汁物) はまさに酒好きには欠かせない、二日酔いの朝の酔い覚ましの必需品だ。 イェ・ジョンソク(芮鍾碩、漢陽大学経営学部教授、飲食文化評論家)| 写真 : 安洪范
韓
国におけるミョンテ(明太)の一人当たりの年間消費量は、際立っていて、イカ、サバ、太刀魚などの大衆魚 を押さえて、圧倒的な1位を占める「国民的な魚」だと言える。しかしその形態は、生魚よりは大部分が乾燥
させたり凍らせた状態で販売されている。またミョンテほど多様な名前で呼ばれる魚も珍しい。それは地方ごとに 捕獲方法も加工方式も違い、それに従い呼び名も違うからだ。基本的には捕まえたばかりの鮮魚をセンテ(生太)と 呼び、表面が乾いたくらいの半乾燥させたものをコタリ、凍らせたものをトンテ(凍太)、しっかりと乾燥させたも のをプゴ(北魚)、冬場の冷たい北風にあてて夜は凍らせ、昼間は解凍するという繰り返しを何ヶ月も続けたものを ファンテ(黄太)と言う。プゴというのは通常、京畿道より南の地方で乾燥させたミョンテのことを指す言葉だが、 18世紀末の語彙集 『才物譜』には「北方の海(北海)で捕れるからプゴ(北魚)と言う」 との説明がある。 プゴは呪術的な用途にもよく使われる。例えば新しく店を開店したり、会社を開業する時に商売繁盛を祈って行 うコサ(告祀)の儀式の供え物としてこのプゴが使われ、コサが済むと玄関の門の上にぶら下げる。また建物を建て るときも棟上式の儀式に供えられたプゴを、柱や梁の上に棟木を上げる際には糸束と一緒に棟木に括りつける。江 原道の海岸地方では船の告祀の際にプゴを供えると共に、さらに船員の数だけプゴを海に投げ入れて厄除けと豊漁 を祈願する。
自然な凍結乾燥 凍結と乾燥を繰り返すミョンテ加工方法の極めつけがファンテだ。ファンテは乾燥させたミョンテという点では プゴの親戚でもある。しかしプゴが主に海辺で乾燥させたものであるのに対して、ファンテは内臓を取り除いたミョ ンテを真冬に内陸部の山間地方に運び、冷たい北風の中で冷凍と解凍を数十回も繰り返すという過程を経たものだ。 12月初冬から翌年の4月初めまでおよそ4ヶ月の間、夜は氷点下15度以下の厳寒の中でカチンカチンに凍らせ、昼は 陽にあてて表面を少し解凍させるという状態を繰り返したものだ。いわば4ヶ月かけて徐々にファンテに変身して いくのだ。乾燥した後も見た目は太っており、艶があり、身は黄金色でさらさらしているのが特徴で、調理すると ソフトで深い味がにじみ出てくる。 ミョンテをファンテにする作業場をトクジャンという。丸太をつないで作ったミョンテの干し場であるトクジャ ンは朝晩の寒暖の差が大きいほど良いという凍結乾燥の条件に合わせて、寒さの厳しい豪雪地帯に設置される。凍 結乾燥法は植民地時代にミョンテの主産地だった咸鏡南道の新浦に昔から伝わってきた方法だ。朝鮮戦争以後、咸
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韓国の文化と芸術
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1 ファンテ(黄太)ヘジャンクックの材料 ファンテを裂いたもの 卵 長ネギ 豆腐 大根 2 加熱した鍋にごま油をひき、水につけてもどしたファンテ、ニンニクの みじん切り、薄く切った大根を入れて炒めてから、カタクチイワシでとった出し汁を注いで煮立てる。 3 煮立ったらとき卵を入れる。 4 ファンテヘジャンクックは二 日酔いの朝には最高の酔い覚ましの料理だ。
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凍結乾燥させる過程でタンパク質の量が倍になるファンテ(黄太) は、牛乳や豆腐に比べてもはるかに多くのタンパク質を含んでいる だけでなく、脂肪やコレステロールの含有量は極めて少ないとい う、まさに高タンパクの健康食品だ。
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韓国の文化と芸術
鏡道から避難してきた人々が休戦ライン付近の束草などの地に定着し、その頃から故郷と気候条件が似ている彌矢 嶺、大関嶺一帯の山間部にトクジャンを作り、ファンテを生産し始めた。それが現在、これらの地域がファンテの 名産地となった由来だ。ファンテを作る過程は傍目には簡単そうに見えるが、トクジャンを運営する人々はファン テが食卓に上るまで30回以上も手をかけなければならないと言う。
ファンテ料理 ファンテはへジャンクック (汁物) 、チム (蒸し物) 、ジョンゴル (鍋物) 、クイ (焼き物) など多様な料理に使われる。 ファンテをさっと炙ったファンテクイは香ばしい香りと味が特徴で、唐辛子粉などの調味料をかけて蒸したピリリと 辛いファンテチムは、ご飯のおかずや酒の肴として好まれている。凍結乾燥させる過程でタンパク質の量が倍になる ファンテ (黄太) は、牛乳や豆腐に比べてもはるかに多くのタンパク質を含んでいるだけでなく、脂肪やコレステロー ルの含有量は極めて少ないという、まさに高タンパクの健康食品だ。 ファンテへジャンクック(プゴクック:ファンテで料理をしても慣用的にプゴクックという名前がよく使われて いる)はまさに酒好きには欠かせない、二日酔いの朝の酔い覚ましの必需品だ。作り方は、骨と皮を取り除いたファ ンテを細かく裂いてから水につけて戻す(加工包装されたファンテチェを利用してもよい)加熱した鍋にごま油をい れて、みじん切りにしたニンニク、薄く切った大根と一緒に炒める。チョソンカンジャン(韓国式の薄口醤油)で薄 く味をつけてから水を入れて煮立てる。煮立ったら大豆モヤシと指の長さに切ったネギを入れて蓋をしてもう一度 煮立てると、さっぱりとしながらもコクのある味になり、溶き卵を落とせば栄養的にも十分なものになる。ざっく り手で割った豆腐を入れても良い。コショウや唐辛子粉で風味を加える。煮ながら塩で味を整える。もっとさっぱ りした味が好みなら、薄口醤油で下味をつけずに、煮立ったら塩だけで味をつけることをお勧めする。昆布でだし をとった汁に煮干と玉ねぎを入れた煮出し汁を使っても、より深い味がでる。ファンテにはメチオニンをはじめと するアミノ酸が多量に含まれており、実際に酒を飲んだ翌日の肝臓の機能回復にも役立つという。 ファンテを使った伝統的なお惣菜としてはファンテポプラギがある。これはファンテを麺棒などで叩いて小骨と 骨を取り除いた後、身の部分を手で細く裂いたり、サジではがして手のひらでこすって柔らかくしてから醤油、砂糖、 ごま塩、ごま油などであえて味をつけたものだ。ポプラギをあえるときに唐辛子粉を入れればほんのり紅くなり見 た目も良い。塩で味付けすれば黄金色そのものを味わえ、醤油で味をつければ褐色になる。この三品を揃えて出す 「三色ファンテポプラギ」は伝統的な惣菜料理だ。
真冬のトクジャン旅行 ファンテトクジャンは風光の良い山間部の村の丘陵地にあるので、トクジャン見物は冬の異色な景観が見られ、 近くにあるスキー場でスキーを楽しむこともできるので冬の休暇にうってつけだ。数十万匹のファンテを乾燥さ せているトクジャンの光景は、まさに壮観という言葉がふさわしい。また、近くの食堂ではファンテ料理を味わう こともできる。麟蹄龍垈里のヨンパウィ食堂と大関嶺横渓のファンテ会館はトクジャンで有名な二つの村で昔から ファンテ料理を提供してきた有名な食堂だ。 一つ残念なことは、最近になり韓国近海ではミョンテ(スケトウダラ)が捕れなくなったということだ。現在、市 場で売られているミョンテは大部分がロシア産だ。地球温暖化の影響で海水の温度が上昇し、冷たい水にすむミョ ンテは国内の海域では見られなくなった。 1980年代初めには15万トンもあった近海でのミョンテ漁獲量が最近では 年間で1トンにも満たない。韓国に搬入されるミョンテの大部分がロシアのベーリング海の近くで捕れるものなの で、北方の海で生まれるミョンテを、北魚と名づけたという先祖の慧眼には敬意を表すべきだろう。ロシア産のミョ ンテでも江原道の山間の北風と豪雪に当ればファンテに生まれ変わるのだから、それだけでも幸いだと思いたい。 (翻訳:金明順) Koreana ı 冬号 2013
江原道平昌のファンテの トクジャン
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ライフスタイル
CR OW D
G IN D N U F
所有の新しい概念 「共有経済」 少ないお金で社会的価値の実現に貢献できる「善意の投資」、すなわち「クラウドファンディング」が 活気づいている。さらに一歩進んだ形で知識や才能、情報を分かち合って、その価値をさらに高める様々な 「共有経済」の活動もインターネットを中心に急速に広まっている。 イ・ジンジュ(李珍朱、フリーライター)
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韓国の文化と芸術
ジ
ャンル文学専門の小規模出版社「ブック・スピア」のキム・ホ
資金繰りのために行って損失を出せば、収束できなくなる可能性もあ
ンミン代表は去年の夏、「読者ファンド」を試み、成功させた。
るとして、慎重に対応する必要があると強調した。
日本の推理小説作家の宮部みゆき(読者たちがつけた愛称は「みみ女 史」)の作品『あんじゅう』を出版する前のことだった。大手出版社とは 違って、広告費がなかったキム代表は、熱心な読者たちの力を借りる
文化界のクラウドファンディング クラウドファンディングとは資金不足な個人やベンチャー企業、
ことにした。1年間に1万5千冊以上売れれば、投資額の10%を還
アーチストたちが独自のプロジェクトを公開して、一般大衆の参加を
元することにしたのだ。名づけて「元気玉プロジェクト」は大成功だっ
得て資金を調達する方法を指す。主にSNS(コミュニティ型のWebサ
た。 11日間で5千万ウォンも集まったのだ。 112人の読者が小額で10
イト)を介して行われるため「ソーシャルファンド」とも言われる。
万ウォンから最高額200万ウォンまで、ファンディングに参加した。
文化芸術分野でクラウドファンディングをリードしてきたのは映
元気玉というプロジェクト名は、日本の漫画「ドラゴン・ボール」から
画部門だ。済州道の悲劇である4・3事件を素材にし、サンダンス映画
取った。主人公の孫悟空が周囲に分散されている気を少しずつ集めて
祭で審査委員大賞を受賞した映画〈ジスル〉、韓国領土であるのに、日
巨大なエネルギーの塊である「元気玉」を作って敵を倒すというよう
本が「紛争地域」として国際問題化している独島に関するドキュメンタ
に、少しずつ集まった読者からのお金で大事を成し遂げるという意味
リー〈あの島〉、サムスン電子の半導体工場で起きた白血病の被害者の
である。
声を盛り込んだ〈もう一つの家族〉などのように、歴史的、社会的、政 治・外交的に敏感な素材を取り扱った低予算の映画が主に取り入れる
読者ファンドの成功 普段から、独自のイベントで読者とのコミュニケーションに取り 組んできたキム代表は、このプロジェクトの以前にもロイヤルティの
方法である。多額の投資を受けにくい状況であるため、制作コストを 調達する一方で、広報・マーケティングの方法としても活用している のだ。
ある読者層を「働かせて」きた。彼のプロジェクトに自ら集まった熱心
社会的メッセージを投げかけようとするイベントの場合も、クラ
な読者たちは、配送を控えた新刊を箱詰めし、包装するという単純な
ウドファンディングを募金やマーケティングの手段として利用してい
作業も先を競って行う。出版社にクリスマス・ツリーやバレンタイン
る。障害によって4本の指だけでピアノを演奏するイ・ヒアさんの
デーのチョコレートを送ってくるほど、反応は熱い。 キム代表は今年の夏、2回目のブック・ファンディングを行った。
「ヒーリング・コンサート」、従軍慰安婦を経験したお婆さんたちが心 理治療の過程で製作した押し花作品をパターン化したA4用紙の二倍
今回も「ミミ女史」の『陰踏み』の販売が目的だった。販売目標は3万部
程度の包装紙、20点で構成された 「デコレーション・ブック」などがそ
で、ファンドの目標額を7千万ウォンを掲げたが、最終日に読者の問
の例である。ソーシャル・ベンチャー「ヒウム・ザー・クラシック」は 2
い合わせの電話が殺到したという。目標額に満たない場合、不足分を
今年3月、「デコレーション・ブック」の製作費300万ウォンを目標に
補いたいという内容だった。結局、最終日だけで1700万ウォンが集
クラウドファンディングを始めたが、2~3週で1038万ウォンが集
まり、計8千万ウォンが集まった。参加した読者は102名。キム代表
まって話題になったこともある。
の成功が出版界で話題になってから、クラウドファンディングを出版 マーケティングに生かそうとする出版社が増えている。
私好みの品物を買う
キム代表は「“ブック・ファンド”はお金より関係を集めることであ
大量生産された製品に対し、個人の好みにターゲットを絞った限
る」としながら「積極的で安定的な読者チャンネルを確保できること
定製品への関心が高まるにつれて、自分が使いたい品物のデザインを
が最大な成果だ」と説明した。ジャンル文学(訳注:純粋文学に対し、
あらかじめ検索して、気に入った製品に投資する様々な試みが行われ
ファンタジー・推理・ロマンスなど、読者の興味を引く素材をあつ
ている。例えば、「才能先物買い型」クラウドファンディングという、
かったジャンルの小説)の特徴から、知的でオタク的趣向を持った専
アイデアを視覚化できる映画やデザイン分野が有望である。有名デザ
門職の読者層が多いが、ブック・ファンド・イベントを通じて、彼ら
イナーのデザインを先に公開し、ニーズのある消費者から投資を受け
の「実体」が確認できたのだ。経済的には余裕があるが、時間がなくて
て限定生産するファッションサイト「クラッカー(crack-er.com)」もそ
イベントにはなかなか参加できない彼らにとって、「振り込み」するだ
の一つである。デザイナーとしては消費者の反応を事前にチェックす
けで参加できる今回のイベントで存在感をアピールしたのだ。しかし
るテストベッドの役割を果たしているため、才能や時間の無駄を省く
キム代表は、読者と信頼関係を築いていない零細の出版社が、当面の
効果もある。
Koreana ı 冬号 2013
57
プラットフォーム・サービスの数々 クラウドファンディングの活性化とともに、プロジェクトの提案
才能や経験も分かち合う 知識や経験、智恵も共有の対象である。韓国型の共有経済ベン
者と投資家をつなぐプラットフォーム・サービスも注目されている。
チャー企業家の第1世代といえるハン・サンヨプ(韓常曄)さんのつく
現在、15余りのプラットフォームが設けられているが、文化芸術界
る「ウィズドム」が代表的だ。彼のサイトには共有したいノウハウや経
のプラットフォームとしては、韓国芸術総合学校の映画科を休学し
験のある人がコミュニティを開設すると、その情報がほしい人々が集
ているヨム・ジェスンさんがつくった「タンブルバッグ(tumblbug.
まる。ハン代表は「良い家柄や一流大学、恵まれた職場などに所属し
com)」が代表的だ。上記の映画〈ジスル〉のオ・ミョル監督もタンブ
ていないと得られなかった情報を、その集団に属していない残りの9
ルバッグの恩恵を受けた。済州道の文化人らと住民たちが持ち寄っ
割の人々と低価格で分かち合いたい」という目標を立ててこの事業を
た7千万ウォンの制作費と道からの補助
考えた。名の知れたスピーカーの講演と
金が撮影後半に底をつくと、音楽制作費
は違って、実生活に密着したお隣さんの
用として1千万ウォンをタンブルバッグ
話である点が魅力的だ。
が後援してくれて、成功を収めたのであ
検証もされていない人に、誰がお金を
る。
払って学ぼうと思うだろうか?ところが、
監督を目指しながら資金繰りに苦労
ハン代表は 「リピ-ターのお客さんが4割
していた2011年に、自らこのプラット
にのぼる」 と言いながらデーターを見せて
フォーム・サービスを立ち上げたとい
くれた。1年7か月の間に、サービスを
うヨム・ジェスン代表は、今年9月ま
購入した1万人以上の顧客の中で公式に
1
でに進められたプロジェクトは810余
払い戻しを要求したのはたった2件だっ
件、成功確率は75%程度だと話してく
たという。 「人間は基本的に善良である」 、
れた。タンブルバッグには映画にとど
「人類は共有DNAを持っている」 、 「価値の
まらず、ゲーム、公演、レコード、漫画、
ない人生はない」という彼の確信は、少
本、カレンダー製作に至るまで、文化
なくともウィズドムの中では効力を発揮
に関するアイディアが紹介されている。
している。ハン代表はこれを「産業化の
サイトに掲載された提案の内容を見て、
前に、隣同士で信頼を基に暮らしていた
ネチズン(ネット市民)たちが気に入っ
ドゥレやプムアッイ (訳注:農村社会の共
2
たプロジェクトに1000ウォン以上を カードや口座振り込みなどで後援する 仕組みになっている。サイト名の「タン ブルバッグ(糞転がし)」は、小額の資金 を増やして創作の基金にしたいという 思いから名づけた。参加者に元金を返
同労働体) などの伝統的な村文化が復活し 1 ソーシャル・ベンチャー 「フィウム・ザー・クラシック」 が発表した、従軍慰安婦を経験したお婆さんたちが心理治 療の過程で作った押し花作品をパターンにした「デコレー ション・ブック」。社会的メッセージを伝えるためのイベ ントにもクラウド・ファンディングが活用される。 2 ワウ・ブック・フェスティバルのブックスピアーのブー ス。ブックスピアー出版社は読者を対象にしたブック・ ファンディングを出版マーケティングにタイアップさせて 出版界から注目された。
したり、利益をお金で補償することは
たものだ」 と説明した。 ウィズドムに掲載された実例を見てみ よう。メインページには「コーヒークラ ス」 のバナー広告が見られる。江南駅のあ るカフェーで 「本物のコーヒーの味を教え る」 コーヒークラスが開かれるという内容
ない。素朴な記念品をあげたり、映画のエンディングクレジットに
の公告だ。場所の利用料、材料費、お茶代などを含めて参加費は2時
後援者の名前を挙げるなど、象徴的な補償に限っている。ヨム代表
間で2万ウォン。スターバックスで4杯のコーヒーが飲める値段だ。
は「株式投資や収益性だけを目標にすれば、マネーゲームに陥りや
開設した人はWBC (ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ) に国家
すいから」と説明する。
(韓国バリスタ・ 代表として出場して金賞を受賞したジャッキー、KBC
タンブルバッグではもしもの事態から投資家たちを保護するため
チャンピオンシップ)の優勝者、ジェニー、そして1500か所以上のカ
に、最初にかかげた目標人員を達成するまでは、振込みを保留する。
フェを訪ねたという創業コンサルタントのレオの3人である。出席人
ある時点で目標とした人数に達すれば、約束した金額が自動的に振り
数を15人に制限したので、ウィズ・ドマー (講演者) とウィズ・ドミ (聴
込まれるというシステムが、このサイトの信頼度を高めた。
衆) が1:5の比率で対話できる。
58
韓国の文化と芸術
純粋でない意図をもって自分の身分を隠して会合を率いることを
馬山が地元である。
防ぐために、ウィズドムは「情報公開」を原則とする。開設した人の
ユニークなアイデアが目に付くサイトは他にも多い。読まれるこ
メール・アドレスやSNSアドレスなど、公開できる範囲内のほとんど
となく積んである本を一か所に集めて、宅配費用だけを払って私設図
の情報を公開して、利用者自らが検証できるようにしたのだ。もしも
書館のように利用してもらう「国民図書館本棚(bookoob.co.kr)」や企
のトラブルを防止するために、二人だけの対面は絶対勧めない。
業の面接や卒業写真の撮影の時にしか着ないスーツを貸してくれる
平凡な人々が経験と知識を分かち合うというアイデアは、ソウル 市蘆原区が始めた「人間図書館」プロジェクトからも確認できる。誰で
「オープン・クローゼット・プロジェクト(theopencloset.net)」などは 特に目を引く。
もこの図書館に自分を「人間本」として登録しておけば、会員たちがそ
市民運動家出身のパク・ウォンスン市長率いるソウル市は、共有
の人を1時間の間「貸出」して話を聞くことができる。費用も無料。お
経済の実践現場の先頭に立っている。咋年9月、「共有年ソウル」を打
かずの作り方。自動車の整備、スマートフォンの使い方に至るまで、
ち出して、駐車場、空き部屋、本、自動車、服など、20種類の共有事
あれこれのノウハウが気軽に聞ける。この地域で国会議員に当選した
業分野を選定したのに続いて、共有団体と企業を財政的・行政的に支
アン・チョルス(無所属)さんも最近、人間本として登録した。アン議
援する条例まで制定して成立させた。今年4月には27の共有団体と
員のように認知度が高く、貸出の希望者が集まる場合は、広い場所を
企業を指定して、その中から12か所に2億ウォンを支援した。オン
借りて特別講演会を開くこともある。図書館側によると、これまでに
ライン「共有ハブ(sharehub.kr)」も開設した。ソウル市社会革新科共 有経済担当のキム・ジヨン主務官は「共有
共有したいノウハウや経験を持った人が「ウィズドーム」に “集い”を開設すれば、その情報を求めて人々が集まる。「良
経済の核心は人」と話し、「過去のアナバダ (訳注:節約して、分かち合って、譲り受 けて使って、リサイクルするという意味の
い家柄や一流大学、恵まれた職場に所属しなければ得られ
ハングルの頭文字をとって作った造語)運
なかった様々な情報を、その集団に所属していない9割の
動との違いは、人と人をつなげて新しい共
人々と低価格で共有できるように取り組む」という趣旨でこ
有生態系をつくること」と付け加えた。
のプロジェクトを思いついたと、同サイトの代表者は語る。
共有経済の課題 共有経済の前提条件である信頼は、社会
1000人を超える市民が人間図書館を利用し、特別講演には2000人以
的資本の中でも高価なものだ。長い間、地道に蓄積されたものがなけ
上の人々が参加したという。
れば、制度的なインフラの裏付けが必要になる。善意で部屋を貸した いという人が詐欺師ではないかまず検証が必要になり、部屋を借りる
空き部屋、カーシェアリング 資本や才能にとどまらず、「物」そのものを「シェア」する動きも広 まっている。空き部屋を貸す 「コザザ (kozaza.com) 」 や、30分または1時
人々が強盗でないという事実を証明しなければならない。大家に適当 な税金を払わせる一方、物がなくなっていれば補償する策も設けられ るべきだ。
間単位で車を貸す 「ソカー (socar.kr) 」 などのビジネスも続々現れている。
お金のやり取りが行われるクラウドファンディングの場合は、寄
自分の物を見知らぬ人に貸したり、人の物を借りて使ったりする
付と微妙な綱引きがカギを握っている。韓国政府は咋年5月に「ベン
ことに対する抵抗感もずいぶん薄れてきている。トレンドに敏感な韓
チャー創業資金生態系好循環方策」とクラウドファンディングの法制
国人たちの間で共有経済は一種の流行になったのだ。もちろん、そ
化を進めたが、これまでは金融というよりは小額寄付の性格が強かっ
の背景にはグローバル経済危機もある。共有経済は基本的にフェイス
たため、規制策がまだ設けられていないのが現状である。クラウド
ブックやカカオトーク、ツイッターなど、SNSサービスを基盤にして
ファンディングを通して集まった後援金が本来の目的通りに執行され
いるため、インターネット網さえあれば、地方に基盤があってもいく
なかったり、資金を受けた後、プロジェクトを実行しなかった場合に、
らでも運営できる。韓国のスマートフォン文化こそ、その技術的基盤
制裁できる手段が用意されていないわけだ。投資家を保護するセーフ
なのだ。イスラエルの「ファイバー(fiverr.com)」をベンチマークした
ティネットが設けられて、泣き寝入りする人がいないように制度面の
才能取引サイトである「クモン(Kmong.com)」も韓国の南の地方都市、
対策が求められる。(翻訳:趙祥恩)
Koreana ı 冬号 2013
59
60
韓国の文化と芸術
Koreana ı 冬号 2013
61
韓 国 文 学 の 旅
作家評
ドジな人間の 人生を記憶する一つの方式 カン・ジヒ(姜知希、文学評論家)
・ヒョンス(1959-李賢洙)は思わず唾を飲むような描写の
う事実を知っている。それで彼女の小説における食べ物というの
できる作家だ。彼女の小説の食べ物に関する描写を読むと
は、この小説の中のカムジャ タンのように、料理する人間がその
食指が動かされ、思わず唾を飲み込んでしまう。(実際に彼女は
間、口にはできなかった歳月の重みの中に蓄積された「心臓の言
料理の腕も素晴らしいという)そして彼女が食べ物の話の間に絶
葉」を伝え、また食べる人間の傷までも癒してくれるものだ。
イ
妙に挿入する食べ物とは関係のない比喩はさらに強烈な印象を与
登場人物たちをして過去に遡らせ、その時代を理解し、許容で
える。例えば、全羅南道の特産であるメイタガレイのヨモギ汁に
きるようにしてくれる媒体が前述の小説では「カムジャタン」だっ
ついて説明した文章の後に、ヨモギは本当に素晴らしいハーブだ
た。そして今回の小説『バラの木の食器棚』では父の作った頑丈そ
が韓国人はこれとあまりにも身近に接しているせいか、その良さ
うな「机」だ。丈夫なうえに外見は机だが、中は米びつという父の
を忘れて暮らしていると言い、その比喩として「まるで本妻の苦
作った奇抜な芸術品は残念ながら机としても、米びつとしても使
労を忘れようと誓った無情な亭主たち」のようだと付け加えると
い勝手が悪く、家の片隅に追いやられたまま埃が積もり、結局は
いった具合だ。こんな比喩を読んでしまうと、その後メイタガレ
家のお荷物に転落してしまう。「頼み込んで金を借りて行ったっ
イのヨモギ汁を食べるたびに李賢洙の小説を思い出さずにはいら
きり返してこない貧しい親戚」のようだし、「生涯病気がちで金ば
れない。
かり使う家族」のようなこの机の末路は火葬。しかしパチパチと
李賢洙という作家を語るのに欠かせない短編の一つが『秋風 嶺』だ。代々亭主に先立たれた未亡人ばかりの家で 戸主として生
燃えあがる炎と共にその机の正体が何だったのかがはっきりと現 れる。
きていくために、結婚も放棄しなければならなかった主人公の女 には、野宿と放浪という一種の巫病を患っている母親がいる。母
「便宜上私たちは机と呼んでいたが米びつの役割をより長い間
親は家出を繰り返し、家に帰ってくるとそのたびに家族に「カム
果たしていたその物の正体は何だったのだろう?机なのか?米び
ジャタン(骨付き豚肉とジャガイモのスープ)」を作ってあげるの
つなのか?生前の父はその物がどんな用途で使われた時に喜んで
だった。家族はこのカムジャタンを「舌がひりひりするくらいに、
いたのだろう?それが机ならばただの一時でも完全な机として扱
ひどく辛くて熱いが、食べ終わるとなぜか少し生臭い悲しみを感
われたことがあっただろうか?それが米びつなら、ただの一時で
じ、後味がヌルッとした料理」だと感じる。主人公はカムジャタ
も完全な米びつとして扱われたことがあっただろうか?いくら考
ンを食べている間だけは「悲しみと憤怒、原因の分からない憤り、
えても世の中のすべての父親のように、要領足らずのその品物」
殺気だとも言える、体の中をさ迷うどうしようもない熱気を不思
62
議なほど静かに抑えることができた」と回想する。到底、理解し
小説は当初、何一つやり遂げることもなく、経済的にもあま
がたい母親をカムジャタンを通して「納得する」のだ。作家はこん
りにも無能だった父が亡くなり、ようやく母がその翼をひろげる
な風に味覚が人間の感じる感覚の中でも心臓の一番奥にあるとい
ように事業を起こしていく様子に焦点を当てている。そして小説 韓国の文化と芸術
イ・ヒョンス(李賢洙)は日々消えゆく身の回りの品々を、文学を通して こそやっと、その痕跡を残すことができる物の保存に貢献している作家 だと評価されている。彼女はまた、男性中心に動いている社会の中で、 女性たちの日々の細々とした苛立ちや気だるさ、長年にわたって蓄積さ れ放置されてきた悲しみを、鋭い錐の一言で突き刺すように表現するこ とでも有名な作家だ。 イ
ヒョン
ス
李 賢 洙 の話し手が机を燃して気付くのは、男勝りに一家を率いていった
て、この世と無関係に生きていくわけにはいかないと苦笑いしな
母とそれぞれ天真爛漫にすくすくと育った娘たちの背後には、実
がら認めて いるものの、その欲望の危うさからさっと身をかわす
はいつも用途も分からずデカイだけで役立たずな家具のような父
ことのできる作家だ。煩悩をすべて断ち切ったかのように見える
の面影が存在していたという事実だ。オイディプス以来、世界の
禅僧の一喝よりも、こんな世俗的欲望にゆれ動かされるなかで奮
文学者は父と闘争するのに明け暮れてきた。しかし植民地の世の
闘しながらできあがった小説だからこそ、本物の面白さがあり、
中を経て独裁政権に至るまで特に受難の多かった韓国では、小説
真理であり、慰めなのだ。
の中の父親は家族の一員というよりは副材としてもっと大きな存
これと関連して最後に作家の面白いエピソードを一つ紹介す
在感を持ち、独特な象徴として作動してきた。そして李賢洙の小
ることにしよう。デビューするのに6年かかったという作家は、
説はそんな父を憎悪もせず、同情することもないままにただ見つ
その後5年が経過しても作品の依頼がなかったので雑誌社に直接
め、その生き方に納得する準備を終えたかのようだ。考えてみる
投稿した。6ヵ月後に投稿した小説を載せたいという連絡があっ
と私たちの人生自体が何の役にもたたない巨大な机のように最初
たが、推敲に与えられた時間はわずか3日。その血を吐くような
から到底、捨てるに捨てられない煩わしく不便な一面を供えてい
3日を30日のように使うために作家が考えあぐねた空間はソウル
るのではないか。そうだとすればこのどうしようもない人生の前
近郊の海、月尾島だった。彼女は月尾島周辺のモーテルを探し回
で私たちが出来ることは、あっという間に流れてい ってしまう人
り、ようやく部屋を一つ得たが、防音施設のないそのモーテルで
生の一瞬、一瞬をしっかり記憶するために努力するということだ
は一日に3組の客の高低強弱の違うあえぎ声がサラウンドで聞こ
と李賢洙の小説は言っている。
えてきたという。あえぎ声のせいで一 日を無駄にした作家は「分
事実、この小説をより魅力的なものにしているのは、父の作っ
かった、お前たちはすればいい、私は書くから!」と再び決心も
た机を回想する部分よりもそれ以外の話だ。融通の利かない点や
新たに2日間集中して完全に別の小説を作り出し、2002年「創作
金儲けに疎いところが考古学者の夫に似てきたという話者は、家
と批評春号」にその短編小説『トラン』を発表した。原稿依頼があ
の拡張と財テクを兼ねて不動産投資をしようと決心し、オフィス
るまでこうして11年もの歳月がかかった作家の実力はこのような
テルの分譲を見に行くが、モデルハウスを見て回る内に気持ちが
世俗のあえぎ声がその基盤にあるのであるから、どれほど確かで
すっかり失せてしまう。しかしこの未遂に終わった不動産財テク
そしてセクシーだろうか。あなたも李賢洙の小説を読めば、ドジ
投資の話は、小市民として暮らしていく人生の苦労のその隙間を
な人間たちとそんな人間の生きる世の片隅の温かさと人情に間違
ついて吹き出る世俗の欲望を実に正直に、そして率直につづって
いなく魅了されるだろう。そして人生の世俗の中で奮闘し、力尽
おり読者は苦笑せずにはいられなくなってしまう。李賢洙は俗物
きるたびに取り出して読んでみれば何か不思議な力が得られるだ
的な欲望に超然としているわけでもなく、かといってその欲望
ろう。(翻訳:金明順)
に簡単に染まってしまうわけでもない。地面にしっかり足をつけ Koreana ı 冬号 2013
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韓国のイメージ
玉
座の上、高いところに座り雪をかぶりながら大王は600年の歳月を振り返る。ヨーロッパ大陸 の南の果てにあるトスカーナの偉大な芸術家ブルネレスキが、ルネッサンスの花ともいえる
フィレンツェのドームを完成させてから7年後、アジア大陸の東の果ての静かな王国朝鮮では4代目の 国王、世宗大王がハングルを創制された。 1443年、そのときから韓国人は彼らだけの独創的で誇らしい文字を持つことになった。それゆえ今 日の大韓民国は首都ソウルの輝く額のような王宮前の幅広い大路を世宗路と名づけ、ありがたい大王
雪をかぶった世宗大王 キム・ファヨン ( 金華榮、文学評論家、 芸術員会員)
を偲んでいる。 玉座の上、高いところに腰を下ろした大王は600年の歳月のように積み重 なる雪に耐えている。子供たちは心配そうに遙か上をみつめて尋ねる。寒く
ありませんか?大王は黙っている。雪は音もなく降り続く。 世宗大王が広場に座り雪をかぶり始めたのはわずか数年前のことだ。大王は私たちの財布の中で、 1万ウォン札の緑色の紙幣の顔となって穏やかな日々を過ごしておられた。ところがこの国に広場の時 代がやってきた。ソウル市はこの大通り沿いに茂っていたイチョウの木を全部引き抜き、その開いた 空間に広場を作った。そして大王は玉座に座ったまま広場に招かれた。 だいじょうぶ? だいじょうぶ、とささやくようにゆっくりと視線が降りてくる。光化門が大王の 代わりに軒を高く持ち上げて後ろの王宮と高い山を指し示す。雪の中に隠れてしまった王宮と山々を。 しんしんと降り積もる雪の中で長い冬がゆっくりと過ぎていくだろう。そしてようやく春が来て雪が 解ければ大王が、王宮が、そして高い山々が順々にその場から立ち上がるだろうか?(翻訳:金明順)
Hawoo Publishing Catalog of Korean Books
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo, Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Kang Choi & Noboru Yamaguchi
PLUS
RISKS & OPPORTUNITIES FOR ASIA’S NEW LEADERS: ESSAYS BY
Gilbert Rozman, Takashi Inoguchi, David Shambaugh, Joon Hyung Kim, Haksoon Paik, Leon V. Sigal, Jonathan Berkshire Miller & Lilia Shevtsova
By Pavin Chachavalpongpun
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid The Emerging Role of Indo-Pakistan Border States Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
PLUS
CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES
Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA
By Nguyen Manh Hung
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo, Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Kang Choi & Noboru Yamaguchi CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES
Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid US$15.00 The Emerging Role of Indo-Pakistan Border States W15,000 Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea
A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012 Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA
By Nguyen Manh Hung
The US ‘Pivot’ to Asia The US ‘Pivot’ to Asia
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
By Pavin Chachavalpongpun
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
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US$15.00 W15,000
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo,| A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012 Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Kang Choi & Noboru Yamaguchi Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid
Is It JustTheAbout Emerging Role of Indo-Pakistan Border States CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea Containing China? Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA By Nguyen Manh Hung
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
By Pavin Chachavalpongpun
Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
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A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012
The US ‘Pivot’ to Asia Is It Just About Containing China?
THE TPP AND THE QUEST FOR EAST ASIAN REGIONALISM
By Inkyo Cheong
THE DEBATE: IS THE TPP AIMED AT THWARTING CHINA?
TACKLING TRUST GAPS IN EAST
PLUS
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In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
By Mark J. Valencia
ASSESSING A CODE OF CONDUCT FOR THE SOUTH CHINA SEA
Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
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Wang Yong Squares Off Against Takashi Terada
In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
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Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
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By Inkyo Cheong
THE DEBATE: IS THE TPP AIMED AT THWARTING CHINA?
Andy Yee When Will Japan Tap Its Internet Potential? Saroj Kumar Rath Drugs in India Are a Security Threat
Wang Yong Squares Off Against Takashi Terada
In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
ASSESSING A CODE OF CONDUCT FOR THE SOUTH CHINA SEA
Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
By Mark J. Valencia
Avoiding the Mines Avoiding the Mines We now have an iPad and Android tablet edition! See p.5
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A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 8, NUMBER 1, SPRING 2013
New Leaders, New Dangers in Northeast Asia New Leaders, New Dangers in Northeast Asia
Avoiding the Mines
THE POLITICS OF ENGAGEMENT: ESSAYS BY
Mel Gurtov, Miroslav Nincic, Walter C. Clemens, Jr., Karin J. Lee, Andrei Lankov, Troy Stangarone, Stuart J. Thorson, Hyunjin Seo, Trita Parsi & Nicholas Farrelly JAPAN’S DANGEROUS GAMBLE ON ‘ABENOMICS’
By Gongpil Choi
THE DEBATE: IS POLITICAL RECONCILIATION POSSIBLE IN MALAYSIA?
Khairy Jamaluddin Squares Off Against Rafizi Ramli THE POLITICS OF ENGAGEMENT: ESSAYS BY
Mel Gurtov, Miroslav Nincic, Walter C. Clemens, Jr., Karin J. Lee, Andrei Lankov, Troy Stangarone, Stuart J. Thorson, Hyunjin Seo, Trita Parsi & Nicholas Farrelly JAPAN’S DANGEROUS GAMBLE ON ‘ABENOMICS’
PLUS
Rudiger Frank Rolling Reforms: Reflections on Visits to Kim Jong Un’s North Korea Cheol Hee Park The Double Life of Shinzo Abe Stein Tønnesson Steps Forward for China to Resolve the South China Sea Disputes Mark J. Valencia & Hong Nong Exploring Joint Development Possibilities in the South China Sea Book Reviews by John Delury Have and Taehwan Kim you tried our iPad or Android tablet PLUS editions? Rudiger Frank Rolling Reforms: Reflections on Visits to Kim Jong Un’s North KoreaSee p.3 Cheol Hee Park The Double Life of Shinzo AbeUS$15.00 Stein Tønnesson Steps Forward for China W15,000
to Resolve the|South China8,Sea Disputes A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG VOLUME NUMBER 2, SUMMER 2013 By Gongpil Choi THE DEBATE: IS POLITICAL RECONCILIATION POSSIBLE IN MALAYSIA?
Positive Engagement with North Korea, Iran and Myanmar
Khairy Jamaluddin Squares Off Against Rafizi Ramli
Carrots Before Sticks Carrots Before Sticks Carrots Before Sticks
THE POLITICS OF ENGAGEMENT: ESSAYS BY
Mark J. Valencia & Hong Nong Exploring Joint Development Possibilities in the South China Sea Book Reviews by John Delury Have and Taehwan Kim you tried our iPad or Android tablet editions? See p.3 PLUS
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Rudiger Frank Reforms: Reflections Mel Gurtov, OF Miroslav Nincic, Walter C. Clemens, | Jr., | Rolling A JOURNAL THE EAST ASIA FOUNDATION WWW.GLOBALASIA.ORG VOLUME 8, NUMBER 2, SUMMER 2013 on Visits to Kim Jong Un’s North Korea Karin J. Lee, Andrei Lankov, Troy Stangarone, Stuart J. Thorson, Hyunjin Seo, Trita Parsi & Nicholas Farrelly Cheol Hee Park The Double Life of Shinzo Abe
Positive Engagement with North Korea, Iran and Myanmar
JAPAN’S DANGEROUS GAMBLE ON ‘ABENOMICS’
By Gongpil Choi
THE DEBATE: IS POLITICAL RECONCILIATION POSSIBLE IN MALAYSIA?
Khairy Jamaluddin Squares Off Against Rafizi Ramli
Stein Tønnesson Steps Forward for China to Resolve the South China Sea Disputes Mark J. Valencia & Hong Nong Exploring Joint Development Possibilities in the South China Sea Book Reviews by John Delury Have and Taehwan Kim you tried our iPad or Android tablet editions? See p.3 US$15.00 W15,000
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Positive Engagement with North Korea, Iran and Myanmar
South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
In This Issue: We Start a New Regular Section Profiling Asian Countries in Taiwan
South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
In This Issue: We Start a New Regular Section Profiling Asian Countries in Taiwan
In This In Focus: Issue:How We Start to Break a New the Regular Deadlock Section in the South Profiling China Asian SeaCountries in Taiwan
South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
In This Issue: We Start a New Regular Section Profiling Asian Countries in Taiwan
In This In Focus: Issue:How We Start to Break a New the Regular Deadlock Section in the South Profiling China Asian SeaCountries in Taiwan
New Leaders, New Dangers in Northeast Asia
In This In Focus: Issue:How We Start to Break a New the Regular Deadlock Section in the South Profiling China Asian SeaCountries in Taiwan
ASIA: ESSAYS BY
Yun Byung-se, Richard Ned Lebow, Tae-Seop Bahng, Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan
NON-WESTERN DEMOCRACIES AND ASIAN POLITICAL
By Alexei D. Voskressenshi.
SYSTEMS
THE DEBATE: TACKLING AUSTRALIA TRUST GAPS ’S INNEW EASTREFUGEE ASIA:
POLICY ESSAYS BY Andrew MarkusRichard Yun Byung-se, Squares OffLebow, Against Ned GraemeBahng, Tae-Seop McGregor Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan NON-WESTERN DEMOCRACIES AND ASIAN POLITICAL
By Alexei D. Voskressenshi.
THE DEBATE: AUSTRALIA’S NEW
SYSTEMS
REFUGEE POLICY
Andrew Markus Squares Off Against
Graeme McGregor
PLUS
Andrew Billo A Way to Peace in the South China Sea Jung-Sun Park Why ‘Gangnam Style’ Isn’t Hallyu Style Chung-in Moon North Korea vs. South Korea: What Will It Take to End 60 Years of War? Haruki Wada Korea’s War, Armistice and Legacy Book Reviews by John Delury, Taehwan Kim, Nayan PLUS Chanda and David Plott Andrew Billo A Way to Peace in the South China Sea Jung-Sun Park Why ‘Gangnam Style’ Have Isn’ttrie you Hallyu d Style Chung-in Moon North Korea vs. South ourKorea: iPad or What Will It Take to End 60 Years of And roid tablet War? Haruki Wada Korea’s War, Armisticeeditions? and Legacy See p.57 Book Reviews by John Delury, Taehwan Kim, Nayan Chanda and David Plott US$15.00
Have you triedW15,000 | VOLUME 8, NUMBER our iPad 3, FALL Andrew Billo A Way or 2013 to Peace in the South And roidChina tabletSea Jung-Sun Park Why ‘Gangnam Style’edit Isn’t Hallyu ions ? Style Chung-in Moon North Korea vs. SouthSee p.57 Korea: NON-WESTERN DEMOCRACIES AND ASIAN POLITICAL SYSTEMS What Will It Take to End 60 Years of War? By Alexei D. Voskressenshi. Haruki Wada Korea’s War, Armistice and Legacy US$15.00 Book Reviews by John Delury, Taehwan DEBATE: AUSTRALIA’S NEW REFUGEE ATHE JOURNAL Kim, W15,000 POLICY OF THE EAST ASIA FOUNDATI Nayan Chanda and David Plott ON | WWW.GLOBALASIA.O Andrew Markus Squares Off Against Graeme RG | VOLUME 8, NUMBER McGregor A TACKLING JOURNAL TRUST EASTFOUNDATI ASIA: ESSAYS BY OF THEGAPS EASTINASIA PLUS ON | WWW.GLOBALASIA.O Yun Byung-se, Richard RG Ned Lebow, Tae-Seop
Bahng, Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan
How East Asia Can Secure a Peaceful HowFutu East reAsia Can Secure a Peaceful Future How East Asia Can Secure a Peaceful Future
A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION
| WWW.GLOBALASIA.ORG
3, FALL 2013
Have you tried our iPad or Android tabl et editions? See p.57
US$15.00 W15,000 | VOLUME 8, NUMBER 3, FALL 2013
The Politics Trus Thof e Po littics of Trust The Politics of Trust
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Hawoo Publishing Address 131-230 1F Mangu-dong, Jungnang-gu, Seoul, Korea Tel 82-2-922-7090 Fax 82-2-922-7092 Homepage www.hawoo.co.kr e-mail hawoo@hawoo.co.kr
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Hawoo Publishing Catalog of Korean Books
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo, Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Kang Choi & Noboru Yamaguchi
PLUS
RISKS & OPPORTUNITIES FOR ASIA’S NEW LEADERS: ESSAYS BY
Gilbert Rozman, Takashi Inoguchi, David Shambaugh, Joon Hyung Kim, Haksoon Paik, Leon V. Sigal, Jonathan Berkshire Miller & Lilia Shevtsova
By Pavin Chachavalpongpun
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid The Emerging Role of Indo-Pakistan Border States Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
PLUS
CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES
Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA
By Nguyen Manh Hung
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo, Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Kang Choi & Noboru Yamaguchi CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES
Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid US$15.00 The Emerging Role of Indo-Pakistan Border States W15,000 Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea
A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012 Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA
By Nguyen Manh Hung
The US ‘Pivot’ to Asia The US ‘Pivot’ to Asia
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
By Pavin Chachavalpongpun
THE US REBALANCING TOWARD ASIA: ESSAYS BY
Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
PLUS
US$15.00 W15,000
Georgiy Voloshin China as a Stabilizer in Central Asia Patrick M. Cronin, Michael McDevitt, Wu Xinbo,| A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012 Donald K. Emmerson, Malcolm Fraser, Richard A. Bitzinger, Ramesh Thakur The New Great Game in Afghanistan Kang Choi & Noboru Yamaguchi Tridivesh Singh Maini & Manish Vaid
Is It JustTheAbout Emerging Role of Indo-Pakistan Border States CREATING A NEW WORLD OF SOCIAL ENTERPRISES Reflections by Won-soon Park & Tae-won Chey Young-hoon Lee Economic Reform in North Korea Containing China? Peter Hayes A Breakthrough Six-Party Summit in 2013? DRAWING A LINE IN THE SOUTH CHINA SEA By Nguyen Manh Hung
BURMA IN THE ASEAN CHAIR IN 2014, AT LAST
By Pavin Chachavalpongpun
Asger Røjle Christensen Japan’s Abduction Saga Book Reviews by David C. Kang, Börje Ljunggren & John Delury
Is It Just About Containing China?
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A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG | VOLUME 7, NUMBER 4, WINTER 2012
The US ‘Pivot’ to Asia Is It Just About Containing China?
THE TPP AND THE QUEST FOR EAST ASIAN REGIONALISM
By Inkyo Cheong
THE DEBATE: IS THE TPP AIMED AT THWARTING CHINA?
TACKLING TRUST GAPS IN EAST
PLUS
Jennifer Lind Beware the Tomb of the Known Soldier Shalendra D. Sharma From Meltdown to Bounceback: How South Korea Weathered the 2008 Financial Crisis Andy Yee When Will Japan Tap Its Internet Potential? Saroj Kumar Rath Drugs in India Are a Security Threat
Wang Yong Squares Off Against Takashi Terada
In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
By Mark J. Valencia
ASSESSING A CODE OF CONDUCT FOR THE SOUTH CHINA SEA
Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
RISKS & OPPORTUNITIES FOR ASIA’S NEW LEADERS: ESSAYS BY
PLUS
Gilbert Rozman, Takashi Inoguchi, David Shambaugh, Joon Hyung Kim, Haksoon Paik, Leon V. Sigal, Jonathan Berkshire Miller & Lilia Shevtsova
THE TPP AND THE QUEST FOR EAST ASIAN REGIONALISM
By Inkyo Cheong
We now have an iPad and Android tablet Jennifer Lind Beware the Tomb of theedition! Known Soldier See p.5 Shalendra D. Sharma From Meltdown to Bounceback: How South Korea Weathered the 2008 FinancialUS$15.00 Crisis W15,000 Andy Yee When Will Japan Tap Its Internet Potential?
| VOLUME A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG NUMBER 1, SPRING 2013 Saroj Kumar Rath Drugs in8,India Are a Security Threat THE DEBATE: IS THE TPP AIMED AT THWARTING CHINA?
Wang Yong Squares Off Against Takashi Terada
In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
ASSESSING A CODE OF CONDUCT FOR THE SOUTH CHINA SEA
Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
By Mark J. Valencia
RISKS & OPPORTUNITIES FOR ASIA’S NEW LEADERS: ESSAYS BY
We now have an iPad and Android tablet edition! See p.5 US$15.00 W15,000
PLUS
Gilbert Rozman, Takashi Inoguchi, David Shambaugh, Jennifer Lind Beware the Tomb of the Known Soldier | VOLUME A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG 8, NUMBER 1, SPRING 2013 Joon Hyung Kim, Haksoon Paik, Leon V. Sigal, Shalendra D. Sharma From Meltdown to Bounceback: Jonathan Berkshire Miller & Lilia Shevtsova How South Korea Weathered the 2008 Financial Crisis THE TPP AND THE QUEST FOR EAST ASIAN REGIONALISM
By Inkyo Cheong
THE DEBATE: IS THE TPP AIMED AT THWARTING CHINA?
Andy Yee When Will Japan Tap Its Internet Potential? Saroj Kumar Rath Drugs in India Are a Security Threat
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In Focus: Taiwan Wu Yu-shan, Chen Tain-jy & Chu Yun-han
ASSESSING A CODE OF CONDUCT FOR THE SOUTH CHINA SEA
Book Reviews by John Delury and Taehwan Kim
By Mark J. Valencia
Avoiding the Mines Avoiding the Mines We now have an iPad and Android tablet edition! See p.5
US$15.00 W15,000
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New Leaders, New Dangers in Northeast Asia New Leaders, New Dangers in Northeast Asia
Avoiding the Mines
THE POLITICS OF ENGAGEMENT: ESSAYS BY
Mel Gurtov, Miroslav Nincic, Walter C. Clemens, Jr., Karin J. Lee, Andrei Lankov, Troy Stangarone, Stuart J. Thorson, Hyunjin Seo, Trita Parsi & Nicholas Farrelly JAPAN’S DANGEROUS GAMBLE ON ‘ABENOMICS’
By Gongpil Choi
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Khairy Jamaluddin Squares Off Against Rafizi Ramli THE POLITICS OF ENGAGEMENT: ESSAYS BY
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to Resolve the|South China8,Sea Disputes A JOURNAL OF THE EAST ASIA FOUNDATION | WWW.GLOBALASIA.ORG VOLUME NUMBER 2, SUMMER 2013 By Gongpil Choi THE DEBATE: IS POLITICAL RECONCILIATION POSSIBLE IN MALAYSIA?
Positive Engagement with North Korea, Iran and Myanmar
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By Gongpil Choi
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Positive Engagement with North Korea, Iran and Myanmar
South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
In This Issue: We Start a New Regular Section Profiling Asian Countries in Taiwan
South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
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South Korea Leading the Way Into a New World of Social Enterprises
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New Leaders, New Dangers in Northeast Asia
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ASIA: ESSAYS BY
Yun Byung-se, Richard Ned Lebow, Tae-Seop Bahng, Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan
NON-WESTERN DEMOCRACIES AND ASIAN POLITICAL
By Alexei D. Voskressenshi.
SYSTEMS
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POLICY ESSAYS BY Andrew MarkusRichard Yun Byung-se, Squares OffLebow, Against Ned GraemeBahng, Tae-Seop McGregor Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan NON-WESTERN DEMOCRACIES AND ASIAN POLITICAL
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SYSTEMS
REFUGEE POLICY
Andrew Markus Squares Off Against
Graeme McGregor
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Andrew Billo A Way to Peace in the South China Sea Jung-Sun Park Why ‘Gangnam Style’ Isn’t Hallyu Style Chung-in Moon North Korea vs. South Korea: What Will It Take to End 60 Years of War? Haruki Wada Korea’s War, Armistice and Legacy Book Reviews by John Delury, Taehwan Kim, Nayan PLUS Chanda and David Plott Andrew Billo A Way to Peace in the South China Sea Jung-Sun Park Why ‘Gangnam Style’ Have Isn’ttrie you Hallyu d Style Chung-in Moon North Korea vs. South ourKorea: iPad or What Will It Take to End 60 Years of And roid tablet War? Haruki Wada Korea’s War, Armisticeeditions? and Legacy See p.57 Book Reviews by John Delury, Taehwan Kim, Nayan Chanda and David Plott US$15.00
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Bahng, Charles A. Kupchan, Wang Yizhou, Yoshihide Soeya, Mansourov, Myung-bok Bae & Mohamed Alexandre Y. Jawhar Hassan
How East Asia Can Secure a Peaceful HowFutu East reAsia Can Secure a Peaceful Future How East Asia Can Secure a Peaceful Future
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冬 号 2013
韓国の文化と芸術
特 集 冬号m2013 n o . n4o . 2 sum er 2012vo l.vo20 l. 26
焼 酎 あ れ こ れ 詩人の焼酎夢想 世界一売れる蒸留酒 盗まれる記憶、創られる記憶
焼酎あれこれ 韓国の飲酒文化
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v o l. 20 n o. 4
ISSN 1225-4592