TPM 東京発 日本の写真の今を伝えるフォトグラフィーマガジン
Tokyo Photography Magazine
Vol. 2
特集・誌上再録
night view emotion
東京夜間写真部グループ展 2018
インタビュー
まだ見ぬ世界を求めて 山岳滑降写真家・松岡祥子 特別記事
東京の記憶 TPM Publishing
TPM Tokyo Photography Magazine
Vol. 2
CONTENTS 3
Editor's Note
4 旅する写真家
東京夜間写真部グループ展 2018
NIGHT VIEW EMOTION
Kenji Fukuda
6 インタビュー
まだ見ぬ世界を求めて
50 特別記事
Shoko Matsuoka
Cover Photo by Yumiko Sato >> p. 48
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東京の記憶
EDITOR'S NOTE 1 月に発行した Vol. 1 から半年。なんとか Vol. 2 を完成することができた。半年に 1 冊の ペースはかなりのんびりだが、焦らず地道に やっていきたいと思う。 さて、今回の発行は夏だというのに、特集 としてフィーチャーした東京夜間写真部のグ ループ展の誌上再録では、イベントが開催さ れた3月以前の冬の写真が目立つ。そして、 インタビューにご登場いただいた山岳滑降写 真家の松岡祥子さんも、主に冬山の写真を撮 る方だ。 今年の夏は全国的に厳しい暑さだから、涼 を取る、という意味ではちょうどいいのかも しれない。また、次にこの Tokyo Photography Magazine を発行するとしたら次の冬以降にな るだろうから、ファッション誌なみに季節を 先取りした、と言えなくもない。 なんていうゴタクはともかく、この Vol. 2 も多くの方に楽しんでいただけたら、大変う れしく思う。 山本高裕
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旅する写真家 Vol. 2 Kenji Fukuda
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兵庫県の内陸部を走る全長わずか 13.6 キロメートルの北条鉄道。この鉄道と沿線 の風景に惹かれてかれこれ3年になる。名 だたる写真家のように移住とまではいかな いけれど、毎週日曜日になると夜明け前に 起きて、大阪の自宅から片道約 70km の道 のりを通い続けている。 鉄道好きなのは物心ついたころから。学 生のころは長期の休みになると全国各地の ローカル線を乗り歩いていたものだが、残 念ながら当時は全く写真に興味がなかっ た。当然、写真などはほとんど撮っておら ず、今となってはつくづく惜しいことをし たなと思う。 そんな私が写真を始めたのは4年前。か つて撮り損ねた風景を探すように、今では 週末毎に撮り歩く日々が続いている。また 次の日曜日もここへ通うであろう。 旅する写真家。私がこのタイトルに相応 しいかどうかわからないけれど、この風景 にカメラを向けるとき、心は今でもあの日 の旅の途上なのは間違いない。 福田 賢治(ふくだ けんじ) 大阪在住。会社員として働くかたわら、西は中国 地方から東は関東まで、ローカル線が走る風景を 求めて旅する写真家。テーマは旅情。見る人が 「旅」 を感じる絵作りを得意としている。
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インタビュー
まだ見ぬ世界を求めて
Ski Alpinism 冬山に登って滑る。言葉にするのはたやすいが、
それを実行し、記録することは並大抵の努力ではできない。 山岳滑降写真家は何を考えて、まだ見ぬ景色を探し続けるのだろうか。
松岡 祥子(まつおか しょうこ) 秋田県生まれ、東京在住。子ども時代はノルディックで雪山を駆け巡り、成人後 は基礎スキー、後に山を滑るようになる。2008 年白馬岳で菊池哲男氏に出会い、 一眼レフを手に取る。2011 年より Ski Alpinist 三浦大介氏に師事し、初滑降の様 子をカメラに収める。サポートメーカー:MILLET
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谷川岳マナイタグラ山稜、これから滑る斜面を見下ろす 群馬県みなかみ町、谷川岳マナイタグラ山稜、1 月。昔はここを 谷川岳と呼んでいた(現在は「トマの耳」「オキの耳」を谷川岳と 呼ぶ)。朝日に染まる斜面は、夢のような美しさだが、日射による 昇温で雪崩が出る恐れがあるため、急いで滑降準備をした。 Ski Alpinist:三浦大介、須藤正雄
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八幡平の極上パウダーを滑る 岩手県八幡平市、1 月。以前はここにあったスキー場がなくなっ た現在も、パウダーを求めて滑り手たちが集まる。地形と光がよく、 格好のスタジオとなるが、この日は終日太陽は顔を出さず、一日 中雪が降り続いた。 Skier:鈴木新一
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北アルプス爺ヶ岳西俣奥壁、雪庇(せっぴ)を崩し滑降斜面に降り立つ 長野県大町市、北アルプス爺ヶ岳西俣奥壁、3 月。鹿島槍ヶ岳を滑ろうと、 前夜に冬期小屋に入ったが、天候が回復しないため、西俣奥壁に変更した。 稜線には雪庇が張り出し、容易に滑降ポイントに近付けない。ロープで確 保しながら斜面に降り立ち、滑降準備をする。 Ski Alpinist:三浦大介
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北アルプス北穂高岳滝谷 C 沢、松岡のシュプール 岐阜県高山市、北アルプス北穂高岳滝谷 C 沢、5 月。「鳥も通わぬ 滝谷」と言われるクライミングルート。 「あそこに行ったらどんな 景色が見えるんだろう?」一人夢中になって登って滑った。帰り の涸沢西尾根から一瞬だけ自分が残したシュプールが見え、そし て、ガスの中に消えた。
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谷川岳マナイタグラの滑降 群馬県みなかみ町、谷川岳マナイタグラ、1 月。とても絵になる 山だが、雪崩の危険があるため、撮影もほどほどに滑降を急いだ。 Ski Alpinist:三浦大介
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まだ見ぬ世界を求めて ――壮大な山頂からの光景、斜面を滑降するスキーヤーを切り取ったダ イナミックな写真。一つ間違えば命にかかわる雪山の記録を残し続ける 写真家、松岡祥子さんに、山岳写真を撮り始めたこと、その魅力、そして、 今後やっていきたいことなどをうかがった。
スキー自体は子どものころからやっていました。ゲレンデ スキーとか、なだらかな丘を走るノルディックスキーとか。 山を滑ってみようと思ったのは、スキー検定で 1 級を取った あとの 2004 年あたりです。山は登るのも滑るのも大変ですが、 そのワイルドな自然の中で遊べることが魅力でした。 雪山は、それなりに滑れる人ではないと楽しめません。圧 雪されていなパウダースノーは足元が不安定ですし、パック という風で叩かれた雪は密圧されていて、板の操作が難しい です。でも、それをうまく滑ることができたときの喜びは何 事にも代えられません。技術的なことだけではなくて、天気 も影響しますし、多くのことが複合的に組み合わさったとこ ろに山岳滑降があるんです。
機材は少なく、安全第一 山岳写真に真剣に取り組むようになったきっかけがあったの は、 2008 年でした。ゴールデンウィークに白馬岳に滑りに行っ たときに、山滑りのルート集を持って行ったんです。その本 を山小屋で見ていたら、そのルート集を書いたご本人が私に 声をかけてくださって。その方が山岳写真の第一人者、菊池 哲男さんでした。 「一眼レフに興味があるなら、ブームが来ているからやったほ うがいい」 。そうアドバイスをいただいた縁で、菊池さんの教 室に通って一眼レフカメラを手に入れました。 今、機材として携行するのは、一眼レフ一台と 24-105 ミ リのレンズ一本ということが多いです。富士山のような高い 山のときは、性能の優れたコンデジを持っていくこともあり ます。先日、フルサイズセンサーを搭載しているミラーレス 一眼を手に入れましたが、軽くて使い勝手が良さそうです。 登るときの荷物は、総重量で 8 キロ前後に抑えています。 山の麓(ふもと)から撮るスタイルの方であれば、機材が 30
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キロ近くになることもあると思います。でも、登る場合は軽 ければ軽いほどいい。山はやっぱり怖いですから、安全第一。 荷物が軽ければ、女性でも険しい斜面を滑ることができます。
将来、意味を持つ写真を残したい 写真の作風については、いろいろ考えることがあります。 麓から撮ったほうが山の容姿が美しく撮れるんじゃないか、 とか。山に登ってしまうと、その一部しか切り取ることがで きませんし。でも、そうは言っても、山に登るのが好きな私 にとっては、 「登って撮る」が一石二鳥(笑) 。どちらも楽し みたいです。 怖いけれど惹かれる。夏でも冬でも、山の頂に立つ達成感 があります。特に雪山は美しい。それを美しく撮りたいですね。 撮り手が感動してシャッターを切った写真って、それを見る 人にもその感動が伝わると思うんです。 今の私の師匠で、スキーアルピニストの三浦大介さんとい う方がいます。国内で初滑降のルートを 80 本くらい持ってい らっしゃるんです。その記録を超える人は今後出てこないの では、というくらいの巨匠です。今はその三浦さんについて、 専属カメラマンのような役割をやらせていただいています。 そんな方について、誰も入ったことのない斜面に行って撮 ることは貴重なことですし、私自身、それを続けていきたい と思っています。誰も滑ったことのない景色を見るためには、 登るルートも滑るルートも難しいところがほとんどです。で も、ほかの人が見られない景色、5 年とか 10 年とかたって意 味のある写真を残したいと思っています。 今後やっていきたいことの一つに、写真集の出版がありま す。山小屋に泊まりに行くと、いろいろな写真家の写真集が 置いてあります。私の写真集も山小屋に置きたいんです。山 に行く方は、山の写真を見るのも好きということが多いので、 天気が悪く外に出られないときは、山小屋で写真集を眺める んです。だから、誰も入ったことがないような場所の写真を まとめて、多くの方に見てもらいたいです。小さな夢ですみ ません(笑) 。 取材・構成:山本 高裕 取材協力:JY
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特集・誌上再録
東京夜間写真部グループ展 2018
night view emotion 2018 年 3 月 21 日~ 26 日 恵比寿アメリカ橋ギャラリー(ABG)
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東京夜間写真部が始まったのは3年前のこと。たった 3人の部員で撮って食って飲む。それだけの集まり だった。それが3年たった今、Facebook のグループ メンバーの数は 2000 人を超えた。 東京の街は明るい。写真家の立場から見れば、写真を 撮るのに欠かせない「光」が夜通しそこにある。そん な光を求めて夜な夜な街を撮り歩くメンバーたちによ る初のグループ展示。 2018 年 3 月、恵比寿のアメリカ橋ギャラリーで開催 したこのイベントの展示の様子を、誌面で再現してみ たい。33 人のエモーションを切り取った 33 枚の写真。 撮り手の思いを感じていただければ何よりである。
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Curves 坂下秀彦
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Loop Line 木村紀雄
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asakusa in snow Katze/satomi N
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▲ Rain of Reflections
銀座四丁目 ▼
Hiroshi Sata
Takanori Mutoh
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▲ Möbius loop 加藤嘉昭
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池袋ふくろ祭り 2017 宵神輿フィナーレ ▼ 末澤昭宏
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▲ やわらかな存在 植村妙子
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いつの日か想い出に変わる君と ▼ 鳥養順子
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墨田十月桜 2018 下城仁志
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Odaiba view emotion 原 朋士
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光あふるる街 model:yuki SHINJI MINAGI
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千鳥ヶ淵の桜 Noe Arai
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▲ Takeshita Street.
お正月の東京駅 ▼
塚本淨司
Kimiyuki Yamaguchi
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▲ からっぽの倉庫にメリー・クリスマス 田村誠
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巨人を見上げる少年 ▼ Don b. ( Kishio Tazaki )
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▲ 大都会 Morning glow 井原弘貴
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春の匂い、夜の色 ▼ 鳥山優子
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▲ 週末の寄り道 kyoko doi
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vieeeeeW ▼ mica nagami
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祈り model: 山中夏歩 雅辺
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▲ misty
月夜 ▼
Naruki Koizumi
山本高裕
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Erochrome City 植村信一郎
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家路 池田英里
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アメノヒカリ 関 佳明
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▲ アトム 丹沢正伸
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神輿 ▼ Taka Waka
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Thousand future 高橋直哉
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きみを待つ日の雨 ・・・
stellar MARUNOUCHI
中村美保
Yumiko Sato
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fragile 谷 美沙子
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Memories of Tokyo
東京の記憶 ビルド・アンド・スクラップ。 人が作ったものが、街に現れ、そして消えていく。 そこにかつて何があったのか、 存在しなくなってしまうと 人の記憶は薄れるばかりだ。 だからこそ写真の意味がある。 こうやって、かつてそこにあったもの姿を、 残すことができるのだから。 写真:山本高裕
東京都千代田区神田神保町に 1927 年に立てられ、2012 年まで存在していた九段下ビル。解体され る前年末に、公開可能な部屋をギャラリーとして利用してインスタレーションを展示。併せて立ち 入り可能な室内を一般開放した。
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ここで紹介した写真は、2011 年 12 月の一般開放時に撮影した。
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http://sakurasling.co.jp/ 77
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Vol. 2 2018-7-20 Publisher
TPM Publishing
Editor
Takahiro Yamamoto
Contributors Shoko Matsuoka
Kenji Fukuda Hidehiko Sakashita
Don b. (Kishio Tazaki)
Norio Kimura
Hirotaka Ihara
Katze/satomi N
Yuko Toriyama
Hiroshi Sata
Kyoko Doi
Takanori Mutoh
Mica Nagami
Yoshiaki Kato
Gabe
Akihiro Suezawa
Naruki Koizumi
Taeko Uemura
Shinichiro Uemura
Junko Torikai
Eri Ikeda
Hitoshi Simojo
Yoshiaki Seki
Tomoshi Hara
Masanobu Tanzawa
Shinji Minagi
Taka Waka
Noe Arai
Naoya Takahashi
George Tsukamoto
Miho Nakamura
Kimiyuki Yamaguchi
Yumiko Sato
Makoto Tamura
Misako Tani