メディアを語る ニコ生対談本シリーズ2

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本書には、作家・批評家であり、合同会社コンテク チュアズ代表の東浩紀が聞き手となった 3 つの対談が 収められている。対談はそれぞれ、合同会社コンテク チュアズと株式会社ドワンゴの共同制作のウェブ討論 番組、 『ニコ生思想地図』の第 4 回∼第 6 回として 2011 年に放送されたものである。当番組は 3 回 1 組で共通 のテーマを設定しており、第 7 回以降も順次書籍化す る予定である。番組スケジュール、収録観覧などの詳 細は http://contectures.jp/ まで。


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目次 第一章 8

川上量生×東浩紀

「 お も し ろ い 」を セ カ イ に 広 め る に は 第二章

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宇川直宏×東浩紀

「 ば ら ば ら 」か ら 始 ま る エ ク ス ト リ ー ム 第三章

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濱野智史×東浩紀

『 ア ー キ テ ク チ ャ の 生 態 系 』と そ の 後

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あとがきにかえて 東浩紀

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索引

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著者略歴



﹁ お も し ろ い ﹂ を セ カ イ に 広 め る に は

川 上 量 生

2011.9.10

第 一 章


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メディアを語る

『コクリコ坂から』 について

東浩紀 こんにちは、東浩紀です。 『ニコ生思想地図』 9 月号は、株式会社ドワンゴの川上量生会長をお招き し「「おもしろい」をセカイに広めるには」というタイ トルでお送りします。 いままでの 3 回の放送はいわば「震災編」だったの ですが、今回からの 3 回は方向性を新たに「メディア と社会編」と呼べる内容にしていくつもりです。過去 10年間に台頭し、震災においても重要な役割を果たし た新しいネットメディアが、これからの社会をどのよ うに変えていくのか。今日は川上さんと議論できれば と思っています。よろしくお願いします。 川上量生 よろしくお願いします。 東 まずは雑談から始めましょうか。川上さんはドワ ンゴの会長でありながら、2011 年 1 月からはスタジオ ジブリに入社し、鈴木敏夫プロデューサーの弟子とし て働いていらっしゃるのですよね。というわけで、今 ★1

回はジブリの新作『コクリコ坂から』の話を議論の枕 にしようと思って、昨日見てきました。いやあ、よ かったですよ! 川上 ありがとうございます。 『コクリコ坂から』は 僕も大好きな作品です。 東 僕は『耳をすませば』が大好きだったので、久し


「おもしろい」をセカイに広めるには

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ぶりにジブリの青春ものに触れて、キュッと心が締め つけられる感じを味わいました(笑)。ジブリはこれか ら青春ものを作っていくのでしょうか? 川上 そんなことはないですよ。たぶん次にやるも のはまた全然違った雰囲気の話だと思います。ただ、 ファンタジーから少し離れて現実路線で行こうという 流れはありますね。 東 『コクリコ坂から』は舞台となった昭和 30 年代の ディテールの描き込みがいいですよね。物語としても あの年代設定は大事です。文化部部室棟が「カルチェ ラタン」と呼ばれているという設定からして年代を感 じますが、その取り壊しを撤回させるべく高校生たち が運動を始めるというストーリー展開は、昭和30年代 を舞台としているからこそ共感可能性がある。登場人 物がまったく同じでも、現代を舞台にしたら同じ物語 は展開できない。たとえば、学校の理事長である徳丸 書店社長のもとへ、主人公のメルちゃんたちが直談判 に行くシーンがありました。いまだったらメールで一 発ですよね。もう全然絵にならない。 川上 メールもきっと無視されるでしょうし。 東 それでキレた高校生が、徳丸書店のホームページ ★2

を狙い撃ちで F5 アタックをかけると(笑)。 川上 あるいはスポンサーを狙ったりとかね(笑)。


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メディアを語る

※顔写真は宇川氏の要望により黒塗り処理しています。


「ばらばら」から始まるエクストリーム

﹁ ば ら ば ら ﹂ か ら 始 ま る エ ク ス ト リ ー ム

宇 川 直 宏

2011.10.15

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第 二 章


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メディアを語る

DOMMUNE と 3.11 ★1

東浩紀 こんにちは、東浩紀です。今日はDOMMUNE

の宇川直宏さんをお呼びしています。いままでどうも 重くなりがちだった『ニコ生思想地図』ですが、宇川 さんがゲストということで、今日は飛ばしていこうと 思います(笑)。 ★2

さて、まずは対談にあたって、宇川さんの 『@DOMMUNE』 を拝読させていただきました。かなりおもしろかった です。僕は 1990 年代にポストモダンだなんだとやっ たあとに、いまは遠く離れて違うことをやっている。 けれどもやっぱりあの時代は好きなわけで、そのはっ ちゃけた感じを思い出しました。いまはむしろ、この はっちゃけ感が大事だなあと。 宇川直宏 それはうれしいですね。でも今日は、哺乳 類史上最高の頭脳を持つ東さんの番組『ニコ生思想地 図』の歴代ゲストの中で最も IQ が低い、 「マジカル頭 脳パワー」程度のインテリジェンスしか持ち合わせて ない男が登場するので、ニコ生のビュワーに叩かれて、 逆さ張り付けにされる覚悟でやってきました(笑)。 東 別にそんなことないですよ! ただ、ニコ生文化 圏とカルチャーが違うことはあるかもしれない。 宇川 それは DOMMUNE との文化圏違い? それと も、Ustream とニコ生の間に存在する溝のことでしょ


「ばらばら」から始まるエクストリーム

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うか? 東 Ustream 独自の文化圏があるとは感じないので すが、ニコ生はかなり偏った世界ですね。視聴者数が 伸びる話題やしゃべりかたはほとんど決まっている。 DOMMUNE はそれとは少し距離がありますね。 宇川 たしかにあると思います。たとえば、今日のこ の番組の議題は 「ばらばらな社会は経験を共有できる ★3

のか 」 ですが、Ustream で配信されている情報は、基 本的に「ばらばら」なんですよね。つまり文化様式が 存在しない。結びつける文化がないので、Ustream 自 体に独自のコミュニティは存在していない。一方、ニ コ生を支配している様式はたしかにあって、だからこ そニコ生は強固なコミュニティが形成されているソー シャルストリームだと感じています。Ustream のプ ラットフォームを使って配信している僕たちは、元来 ばらばらなメディアとしてばらばらな情報を配信をし ているので、ニコ生の生主やビュワーの皆さんとは、 一概にソーシャルメディアといっても、その意味合い が全く違うと思います。 この「ばらばら」という言葉は東さんが書かれた 『思想地図β』vol.2 の巻頭言にも印象的に登場します よね。そして、東さんは「ぼくはさきほど、震災でぼ くたちはばらばらになってしまったと記した。正確に


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メディアを語る


『アーキテクチャの生態系』とその後

﹃ ア ー キ テ ク チ ャ の 生 態 系 ﹄ と そ の 後

濱 野 智 史

2011.11.19

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第 三 章


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メディアを語る

情報環境の変容

東 『ニコ生思想地図』をご覧のみなさま、こんばんは。 東浩紀です。第 1 回から第 3 回は震災の話、そして第 4 回はドワンゴ川上会長との知的なバトルということ で、僕はすっかりまじめさを使い果たしてしまいまし た。というわけで、今回は前回に続きリラックスした 感じでお話ししたいと思っています。 そんな感じで今日は、一時僕との不仲説もあった(笑) 濱野智史くんをお呼びして、 「 『アーキテクチャの生態 系』とその後」と題してお送りします。 濱野 よろしくお願いします。 東 さて、今日の標題にもあります『アーキテクチャ ★1

の生態系』は、2008 年に書かれた濱野くんの本です。 このなかで濱野くんは、アーキテクチャという概念を 導入することで、日本独特のネットサービスの展開や、 サービスごとにおけるコミュニケーションモードの違 いなどに対して、社会学に留まらない、領域横断的な 新しい視点を提出し、評判になりました。 しかし、その 2008 年から、もう 3 年が経過していま す。そのあいだに、Twitter が登場したり、いまみなさ んがご覧になっているような、ニコニコ生放送(ニコ 生)に代表される動画配信のブームが来たりと、状況 もかなり変わってきている。そういう変化を踏まえた


『アーキテクチャの生態系』とその後

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うえで、いま濱野くんのネット観がどうなっているの か。それが今日、おもに伺いたいところです。 今日はそんな感じでゆるく、しかしけっこうラジカ ルな感じで、タブーなしで行きたいと思っています。 濱野 タブーなしですか。わかりました(笑)。 東 今日はまず、濱野くんに短い講演をしていただき ます。よろしくお願いします。

『アーキテクチャの生態系』 再読

濱野 でははじめに、僕が『アーキテクチャの生態 系』でどういうことを書いているのか、そして現状に ついてどう考えているのかについて、軽くご説明しよ うと思います。さきほど東さんにもご紹介いただいた とおり、 『アーキテクチャの生態系』は 2008 年に出し た本です。実は編集者には、出版以前から「タイトル がわけわからない」 「これでは通らない」と、散々に言 われていました。たしかに言われてみると、 「アーキ テクチャの生態系」って意味がわからない。 「アーキ テクチャ」 「生態系」と本書の主概念ふたつは盛り込 まれていますが、それだけ出されても困ると言われま した。しかし僕からは「新語でいくしかない」と言っ


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