翻 訳 の 未 来 を 考 え る
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January / February 2015
一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌 日本翻訳ジャーナル
特集
第24回JTF翻訳祭 2020年へ 新翻訳時代の幕開け
SDL では優秀な人材を 募集しております! ・プロジェクトマネージャー ・翻訳コーディネーター / 翻訳者 ・ローカリゼーションエンジニア ・DTP スペシャリスト ・ビジネスディベロップメントマネージャー ・アカウントマネージャー 詳細は下記 URL をご覧ください。 http://www.sdl.com/jp/
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January / February 2015 #
c o n t e n t s 特集:第 24 回 JTF 翻訳祭
5 Introduction ● 中尾 勝 1 3 6 翻訳チェックする際の明快な指針を検討する トラック セッション
―あったらいいな― 翻訳チェックのガイドライン ● 斎藤 玲子 / 河合 正廣 / 田中 千鶴香 / 中村 哲三
7 8 9 10 11 12 13
トラック 1 セッション 2
世界における翻訳業界の現在と未来 ● 胡 艶玲 / 佐藤 美帆 / 伊藤 彰彦 / 渡邊 麻呂 トラック 6 セッション 4
新米の上り坂、中堅の曲がり角 ●井口 富美子 / 松浦 悦子 / 庄野 彰 / 高橋 聡 トラック 2 セッション 4
いまさら聞けない機械翻訳 ∼動作原理から上手な活用方法まで∼ ● 秋元 圭 / 内山 将夫 / 山田 優 / 井佐原 均 トラック 6 セッション 1
翻訳業界の現状と未来 ∼そのなかで翻訳者が取りうる道∼ ● 井口 耕二 トラック 2 セッション 2
翻訳・通訳の ISO 規格の最新動向 ● 田嶌 奈々 / 森口 功造 / 佐藤 晶子 トラック 3 セッション 3
スモール&クイック翻訳への取り組み ∼人力翻訳と機械翻訳でのアプローチについて∼ ● 古河 師武 トラック 3 セッション 1
新翻訳時代を作る品質管理イノベーション
∼多種多様なニーズ、コンテンツに合わせた翻訳品質基準の設定と品質管理プロセス∼ ● 徳田 愛 / 本多 秀樹 / エイリー エイドリアン
表 紙 のひと
「東 郁男さん」 撮影:世良武史 東郁男さんは株式会社翻訳センターの代表取締 役社長として同社を国内最大手の翻訳会社へと成 長させるとともに、翻訳会社として国内初となる 株式上場に導いた経営者です。2006 年以降は一 般社団法人日本翻訳連盟(JTF)の会長も務めて います。
14 15 16 17 18 19
トラック 5 セッション 2
ワードと秀丸を使い分けるハイブリッド翻訳のすすめー 2 つのエディタで翻訳効率をアップさせるー ● 杉山 範雄 トラック 3 セッション 4
MLV の屋台骨 !! プロジェクトマネージャー達が語るローカライズ現場の舞台裏とトレンド(と本音)● 柴山 康太 / 田辺 朋子 / 内山 敬 / 平野幸治 トラック 6 セッション 3
需要急増:上場企業の開示情報英訳の実態と今後の動向 ∼チャンスかリスクか?翻訳者と翻訳会社が今、やるべきこと∼ ● 松本 智子 トラック 1 セッション 1
医療・医学研究での翻訳の役割と可能性 ∼アカデミアが必要とするプロのサービス∼ ● 後藤 励 / 田村 寛 / 早川 威士 トラック4セッション 2
Stealin' Time
(Time management and translation styles)
● ダーギー ダグラス / 内村ウェンディ / ラッシュブルック トバイアス / エベースト キャシー
トラック 5 セッション 3
日本における映像翻訳 −字幕翻訳を中心に− ● 篠原 有子
イベント報告
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2014 年度第 3 回 JTF 翻訳セミナー報告 SV を鍛えて翻訳の「殻を破る」英文ライティング術 ● 遠田 和子
JTF <ほんやく検定> 22 第 61 回 JTF <ほんやく検定>合格者発表 24 第 61 回 JTF <ほんやく検定>1・2 級合格者プロフィール 一般社団法人 日本翻訳連盟 一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌
〒 104-0031
日本翻訳ジャーナル
東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F
2015 年 1 月/ 2 月号 #275 発行人●東 郁男(会長) 編集人●河野 弘毅
TEL. 03-6228-6607 FAX. 03-6228-6604 E-mail. info@jtf.jp URL. http://www.jtf.jp/ 無 断 転用 禁 止 Copyright©2015 Japan Translation Federation
3
特集
第24回
JTF翻訳祭
4
特集
第24回
JTF翻訳祭 聴講者が多かった セッションを中心に ご紹介いたします。
I n t r o d u c t i o n
全セッションの報告は Web 版にてご覧いただけます。
1991 年に産声をあげた翻訳祭は今年 24 回目を迎えた。
http://journal.jtf.jp/275/
今 年 の テ ー マ は「2020 年 へ 新 翻 訳 時 代 の 幕 開 け ∼ Break The
Paradigm, Shape The Future ∼」。2020 年の東京オリンピックに向けて、 翻訳業界は何ができるのか、あらたに何に着手しなければならないのか、 そして既成概念を壊し、どういう未来ビジョンを描かなければならない のか、しっかりと考え抜く機会としたかった。 参加総数は 882 名。これに加えて登壇者約 50 名と翻訳祭をしっかり とささえてくれているボランティアが約 80 名、合計 1000 名を超える方 たちが、落ち葉舞う中、アルカディア市ヶ谷に参集した。過去最多の入 場者数を今年も更新。会場は 1 日熱気でつつまれた。 例年通り 24 のトラック、プレゼン・製品説明コーナーには 6 つのセッ ション。そして翻訳プラザには 33 社が集い、朝早くから多くの「出会い」 が生まれた。 翻訳業界に従事する方たちが直面する問題にお答えするため、広範囲 なテーマを用意した。 入場者ベスト 5 は、田中理事がパネラーで参加した「翻訳チェックす る際の明快な指針を検討する」、渡邊理事モデレートによる「世界にお ける翻訳業界の現在と未来」、ベテラン翻訳者 4 人によるパネルディス カッション「新米の上り坂、中堅の曲がり角」 、井佐原 AAMT 理事モデ レートによる「いまさら聞けない機械翻訳」 、井口常務理事による「翻 訳業界の現状と未来」。どれも 120 名定員を大幅にオーバーし、廊下ま
日本翻訳連盟 翻訳祭企画 実行委員会委員長
で人が溢れてしまった(座れなかった方たちにはたいへんご迷惑をおか
中尾 勝
けいたしました)。この他にも「翻訳・通訳の ISO 規格の最新動向」「ス
Nakao Masaru
「新翻訳時代を作る品質管理イノ モール & クイック翻訳への取り組み」 ベーション」といったトラックも 100 人を超えた。詳細はこの後のレポー
PROFILE
トを読んでいただきたいが、どのトラックも日々私たちが頭を悩ませて
1957 年生まれ。新潮社 Focus 編集部にて、週 刊誌記者として従事。87 年ジャストシステム
いる喫緊の課題ばかりだ。
入社。出版部を一からたちあげ、出版部長とし
トラック終了後の交流パーティーにはなんと 360 名の方が参加。 参加してくださったそれぞれの方たちが業務改善のヒントや解決策、 また人脈やビジネスチャンスを持ち帰ってくださったのならば望外の喜 びだ。アンケートによれば、個々のトラックの内容への満足度もかなり 高かった。
2015 年はいよいよ四半世紀の歴史の節目となる 25 回目。日本におけ る翻訳祭の役割の重要性がさらにあがっていくであろう。
てコンピュータ雑誌・書籍の編集とマルチメ ディアタイトルを数多くプロデュース。フジテ レビの『ポンキッキーズ』、米国 DreamWorks 社などと提携する大型プロジェクトを担当。
1999 年 6 月に DNA Media 株式会社を創業し、 代表取締役に就任。「世界文化の架け橋になる」 を企業ミッションにローカライズ、コンテンツ 制作事業に従事している。2012 年(一社)日 本翻訳連盟理事就任。
5
トラック 1 セッション 3
翻訳チェックする際の明快な指針を検討する ―あったらいいな―翻訳チェックのガイドライン
Panel Discussion C パネルディスカッション
斎藤 玲子 Saito Reiko 日 本 オ ラ ク ル 株 式 会 社 WPTG - Japan, Senior Language Specialist。 日 英・ 英 日 翻訳、開発者向け製品および OS のローカ リゼーションプロジェクトマネージャーな どを経験し、日本オラクル株式会社で主に サン製品の翻訳品質管理責任者を務める。
モデレーターより ローカリゼーション分野の翻訳者、翻
業務フローは、準備(翻訳会社への情
訳会社、クライアントの各視点で、翻訳
報提供:注意事項、スタイルガイド、用
チェックの問題点のうち恣意性に注目し
語集、翻訳メモリ+製品情報) 、質問へ
て検討する。
の回答(英語の意味、問題の報告) 、レ
翻訳者の視点 発注元から翻訳フィードバックとし
Kawai Masahiro YAMAGATA INTECH 株 式 会 社 翻 訳 ビ ジ ネス部 チーフスペシャリスト。2002 年、 YAMAGATA INTECH 株式会社に入社。各種 マニュアルの多言語版制作に携わる。現在 は翻訳支援ツールを使った各種の日英・英 日翻訳の QA に取り組む。
ビュー、完了(製品テスト、翻訳の修正) の 4 ステップを経る。 準備と質問への回答を最重視し、レ
て返される修正箇所を種類(category)
ビューは品質の安定度に応じて、選択的
と重大度(severity)に応じて分類する
に行う。
と、誤訳などのミスは全体の 10 ∼ 15 %
河合 正廣
クライアントの視点
、 フィードバックは用語(terminology)
以下であることが多い。残りは、発注元
、正確性 日 本 語 の 問 題(language)
しか知らない情報に基づく修正や恣意的
英語の問題(translatability) (accuracy)、
(preferential)修正である。現状では重
などのカテゴリーに分け客観化・数値化
要度の高いエラーが重要度の低いエラー に埋もれてしまう可能性がある。翻訳
している。 恣意性は見方によって変わる。発注・
フィードバックが、変更履歴機能による
受注側がフィードバックやチェックの形
修正ファイルという形ではなく、修正理
式・対象・度合を互いに同意する必要が
由やエラーの重大度を明確に伝える指示
ある。
やコメントを含み、お客様が求める品質 とプロジェクト方針が具体的に伝わる形
田中 千鶴香 Ta n a k a C h i z u k a 技術翻訳者、JTF 理事・標準スタイルガイ ド検討委員長。自動車会社勤務などの後、 フリーランス翻訳者になる。共著『プロが 教える技術翻訳のスキル』 (講談社刊)
で提供されれば、翻訳の品質向上につな がると思われる。
有効なフィードバックのために: コミュニケーション 最初が重要、事前に発注元に訊ねる、
翻訳会社の視点 Trados で定訳語・不訳語にプロテク
先に必須条件を伝える(翻訳メモリの使 用による制限など)、質問口調を取り入 れる、顔を見て話す。
トをかけ翻訳箇所、チェック対象(項目) モデレーター
を限定し、チェック量の削減を図ってい る。QA として QA Distiller によるフォー マット/数字・用語の一貫した機械的な
中村 哲三 N a k a m u r a Te t s u z o
恣意的チェックがなくなれば、翻訳者、
チ ェ ッ ク と、Y-Proof に よ る Online バ
翻訳会社、クライアント全員がハッピー
イリンガルプルーフを行う。プルーフで
になれる。3 者共に業務を効率化し、品
は、文脈確認用にリファレンスファイル
質(Quality)、 費 用(Cost)、 ス ピ ー ド
財団法人 TC 協会 理事、TC World TCTrainNet
をアップするなど環境を提供し、修正理
(Delivery)を向上させることができる。
認定トレーナー、TAUS 日本代表。英文テ
由の履歴を残す。ネイティブの語学的
業界全体で翻訳チェックのガイドライン
チェック(海外)の後、メーカーガイド
を設けることが必要である。
株式会社エレクトロスイスジャパン、一般
クニカルライティングを中心に認知言語 学、ローカリゼーションなどをカバー。関 連セミナーなどを企画。著書『英文テクニ
ラインに沿ったチェック(国内)を行う。
カルライティング 70 の鉄則』(日経 BP 社
恣意性の対処として、ガイドラインの他、
刊)
プルーフチェックの際、修正理由を明確 化している。
6
モデレーターまとめ
報告者:後藤 亜季
特集
第24回
JTF翻訳祭
トラック 1 セッション 2
世界における翻訳業界の 現在と未来
Panel Discussion B パネルディスカッション
胡 艶玲 H u Ya n l i n g 華為技術日本株式会社 (ファーウェイ・ジャ パン)社長室 日本語翻訳センター マネー ジャー
佐藤 美帆 Sato Miho SAP ジ ャ パ ン 株 式 会 社 SAP ラ ン ゲ ー ジ サービス(SLS)ジャパン ビジネスパート ナーマネジメント リソースデベロッパー
伊藤 彰彦 Ito Akihiko
本セッションでは海外クライアントの
化が進んでいる。導入に積極的な企業は
最新の動向や着眼点が紹介され、翻訳会
効率重視。経営視点で導入メリットを説
社が世界に商機を求めるヒントが提供さ
明しなければならない。
(この報告書はダイジェスト版です。) れた。
佐藤氏:積極的にしている。機械翻訳 (MT)は一部言語では既に数年前から利
情報収集方法
用しているが、対象言語の拡大を含む本
佐藤氏:ドイツ本社のメンバーを中心に
た。
業界フォーラムに積極的に参加し、情報
胡氏:一部言語で MT エンジンを自社開
収集のみならず発信も行っている。
発した。
胡氏:華為本社(中国)には 300 人以上 の中⇔英社内翻訳者がいる。サブチーム である「業務支援部」が常に業界団体や 業界動向に注目し、月に 1 度収集した情
渡邊 麻呂 Watanabe Maro 株式会社十印 代表取締役社長、JTF 理事
翻訳会社の選定基準 胡氏:変動する。例えば品質 5 割・スピー
報を社内で共有。
ド 3 割・コスト 2 割。
伊藤氏:米国企業はフォーラムで人脈
佐藤氏:最も重要なのはコミュニケー
作り。ウェビナーや業界誌は手軽な手
ション能力。柔軟なプロジェクトマネジ
段。 イ ベ ン ト で 出 会 っ た 人 と す ぐ に
メント能力と主体的に問題解決に取り組
LinkedIn でつながり、ネットワークを
む姿勢も大切。
広げている。
株式会社十印 海外事業本部長
モデレーター
格的な導入に向けた取り組みを開始し
伊藤氏 :米国のクライアントは「ベン ダーが翻訳のプロ」という前提で、品質、
過去 10 年間の変化
コスト、スピードに加え、クライアント
胡氏:華為の日本市場開拓の時期と重な
視する傾向にある。
に有益な情報を提供できるかどうかを重
る。前半 5 ∼ 6 年は入札や技術関連の書 類が中心で、その後マーケティングやプ レゼンテーション、社内研修の書類が増
現在、将来の注目トピック
えた。現在はウェブ資料や動画の字幕が
佐藤氏:プロセスの連携、効率化、自動
増加。
化への取り組みは今後ますます進んでい
伊藤氏:スマートフォンが普及し、ユー
くが、人の関与が必要なものは常に存在
ザーは情報の質よりも情報入手のスピー
する。翻訳者や翻訳会社にとってはこの
ドを重視するようになった。ダウンロー
部分に商機があるのではないか。
ド型のソフトウェアに代わりクラウドが
胡氏:ウェブコンテンツなどマルチメ
浸透した。
ディアが課題。リライトのスキルを身に
佐藤氏:クラウドベースのアプリケー
つけた優秀な翻訳者が求められるため、
ションの増加に伴い、翻訳の品質要件や
社内翻訳者が再び増えるのではないか。
市場提供までのスピードも大きく変化し
伊藤氏:経営者が使う言葉(つまり数値)
た。組織面ではグローバル組織の一員と
を基にビジネスにおけるローカリゼー
してドイツや他の国のメンバーと密に連
ションの存在意義をアピールする力。こ
携する体制が確立された。
の点が翻訳会社の商機ともいえる。
テクノロジーの導入
報告者:辻 仁子
伊藤氏:知る企業と知らない企業の二極
7
トラック 6 セッション 4
新米の上り坂、 中堅の曲がり角
Panel Discussion J パネルディスカッション
2013 年度翻訳白書の調査データを基 にした井口耕二氏の分析から、個人翻訳 者は処理量よりも単価の引き上げを考え
井口 富美子 Iguchi Fumiko 独日英日実務翻訳者。立教大学文学部日本
るべきという結論が打ち出された。この
中堅のその先へいくために 〈交渉:複数のエージェント相手〉 ・スケジュールを整える
洞察は個人翻訳者がこれから考えるべき
自身のスケジュールをエージェントの
重要な指針となるだろう。このセッショ
優先度順に早めに伝え、仕事しやすい状
ン で は そ の 道 を 進 む た め の ヒ ン ト を、
況を作る。
ト大学に留学。帰国後は翻訳会社に 10 年
Facebook 上 の メ ン バ ー が デ ィ ス カ ッ
・特徴を伝える
勤務し、2005 年よりフリーランス。専門
ション形式で探った。
文学科卒業後、図書館勤務を経てフンボル
分野は自動車・機械・医療機器・歯学など。
JAT 会員。
松浦 悦子 Matsuura Etsuko
自分がどういう翻訳者であるかをエー ジェントに伝える。具体的には速度・量・
駆け出しと中堅の定義
得意な分野等。常に情報を伝え自身の特
・案件の受け方
・レート交渉
駆け出しが何でも仕事を受けるのに対
徴を相手に浸透させることが重要。 受注安定後、段々と習慣化させていく。
して、中堅翻訳者は断る案件が出る程度
自分の希望と状況に応じて柔軟に対応す
フリー翻訳者。大卒後、精密機器メーカー
に安定して仕事を受けている。
ること。
で技術翻訳、テクニカルライター、外資系
・トライアルの勝率
システム開発会社でローカライザーとして 勤務の後、 配偶者米国転勤帯同を経て現職。
庄野 彰 Shono Akira
トライアルに落ちた理由がわからない うちは駆け出し。ほとんどのトライアルに
40 代後半に独立して 10 年目。原子力を中 心とする技術系資料の英日 / 日英翻訳、英 文校閲に従事。
モデレーター
受かり、また押さえるぺきポイントも見
知人や同業者からの紹介、つてによっ てパイプを作っていく。紹介は黙ってい て来るものではなく、様々な人との交流
駆け出しから中堅になるために 〈駆け出しのうちにこころがけること〉 ・プラスαを付け加えての納品 自身の考え、たとえばある単語を選択 した時の理由等を注釈に付けて納品する
Ta k a h a s h i A k i r a 英日産業翻訳者。学習塾講師と翻訳業の兼 業時代から、ローカリゼーション系翻訳会
在は SNS の場があるがこれはあくまで補 助であり、やはり実際に現場に出て顔を つなぐことが人脈の形成に不可欠である。 ・高品質高レートモード 自分の得意な分野で高品質高レートを 目指す。
ができ、結果としてチーム作業にも役立
・契約事務
・SNS で横のつながりを広げる 近年のネットワークの発達により、翻 訳者同士の情報の流れが極めて透明で自
ソースクライアントは高いレートを実 現できる反面、契約事務の段取りに非常 に手間がかかる。これは経験によって効 率化していく。
由になった。SNS を通しての情報交換
社勤務の時代を経て 2007 年にフリーラン
やアドバイスは非常に良い刺激となり、
スとして独立。IT を中心にテクニカル翻
自己の研鑽にもつながるだろう。
訳全般を手がける。
が直接的・間接的に仕事につながる。現
こと。これによって努力の跡を示すこと つ。
高橋 聡
・クライアント探し
えるようになったら中堅と言えるだろう。
フリー翻訳者。サラリーマン技術者とし て核燃料サイクルの開発に約 25 年従事後、
〈交渉:ソースクライアント相手〉
〈単価交渉のタイミング〉 ・普段と違う案件の時 ・紹介で来る案件の時
〈こういう翻訳会社を選ぼう〉
・ソースクライアントからの案件の時
・コーディネーターが良い会社を探す
受注が安定し仕事を選べる段階にきた
コーディネーターの善し悪しで仕事の
ら、その機会に積極的に交渉を行うこと
効率は変わる。担当者との意思疎通がス
が単価アップへとつながるだろう。
ムーズにいく会社とは仕事もやりやす く、良好な関係が発展する。
8
報告者:岸本 寛大
特集
第24回
JTF翻訳祭
トラック 2 セッション 4
いまさら聞けない機械翻訳
~動作原理から上手な活用方法まで~
Panel Discussion E パネルディスカッション
秋元 圭 Akimoto Kei 獨協大学大学院外国語学研究科博士前期課 程修了。2003 年から 2014 年 6 月まで(株) クロスランゲージ、 (株)クロスランゲー ジアールアンドディにて機械翻訳エンジン の開発を行う。2012 年 11 月より AAMT 機 械翻訳課題調査委員会委員。
本セッションでは、翻訳業務で機械翻
ス設定→ 4)翻訳環境 / 専門語辞書選択
訳を効果的に利用するための知識やノウ
→ 5)未知語抽出・登録→ 6)機械翻訳
ハウを 3 つの観点から解説した。
実行→ 7)各文を処理→ 8)用語抽出・ 用語確認
ポストエディット(PE) (山田氏) まず山田氏が PE に関する研究を発表 した。PE とは、機械翻訳の結果を後か
のミスは、句をまとめる「フレーズ」 、 未知語は「辞書登録」で対応できるとい う。
ら手作業で修正することで、欧米言語同 士では、コストと納期とのバランスでみ ると通常翻訳より優れているという研究 結果も出ている。
内山 将夫
また、誤訳の種類と対処法も詳しく示 された。たとえば係り受けや句構造解析
日本語 PE について、プロ翻訳者と学
統計ベース翻訳 (内山氏)
最後に内山氏から、統計ベース翻訳の
生(TOEIC800 程度)の修正量と負荷軽
概要と、同氏が携わっている「みんな
独立行政法人情報通信研究機構 主任研究
減、修正品質をそれぞれ比較したところ、
の自動翻訳 @TexTra®」の紹介があった。
員。 (独)情報通信研究機構(NICT)で自
プロは MT 出力を無視する場合もあるが
(独)情報通信研究機構(NICT)多言語
ほぼエラーはなく、学生は 10 ∼ 25 %の
翻訳研究室は一般の機械翻訳、とりわけ
負荷軽減がみられたが致命的エラーが残
特許分野等に注力している。
Uchiyama Masao
動翻訳の研究開発に従事。翻訳者支援サイ ト「みんなの翻訳」と、カスタマイズでき る自動翻訳サイト「みんなの自動翻訳 @
TexTra®」を研究・開発。
山田 優 Ya m a d a M a s a r u 株式会社翻訳ラボ代表、麗澤大学、青山学 院大学など講師。IT、ローカリゼーション 実務翻訳者、プロジェクトマネージャーを
存していた(ただし作業意欲は高かっ
NICT の統計ベース翻訳では、入力文
た)。結果がよかった学生は翻訳初心者
を構文解析してから語順変換を行い、訳
に多い「分析的処理」(原文と訳文の形
語を選択する。統計ベース翻訳は、対訳
式的対応を重視)をしており、これが
の蓄積に伴って精度が上がる、訳語選択
PE に向いている可能性がある。またス
に強い、というようなメリットがあり、
ラッシュリーディングの要領で翻訳単位
世界中で研究されている。
を細かく分けることが、MT 結果の改善 につながると考えられる。
も取り込んだ MT を作成するプロジェク
経て、現在は主に大学で翻訳通訳を研究す る。
モデレーター
「 み ん な の 自 動 翻 訳 @TexTra®」 は、
NICT 提供の訳文に加えてユーザーの訳
ルールベース翻訳 (秋元氏) 次に登壇した秋元氏はルールベース翻
トで、特許に関しては日英・日中ともに
1000 万文以上の対訳が登録されている。 多くの人に使ってもらって、さらに改善 していきたいとのこと。
訳の概要と、翻訳失敗例、その具体的な
井佐原 均
対処法を紹介した。ルールベース翻訳は、
Isahara Hitoshi
原文を文分割したものに、「ルール」を
質疑
豊橋技術科学大学情報メディア基盤セン
用いて実装された形態素解析や構文解析
「今後数年で機械翻訳はどの程度普及
ター センター長・教授。AAMT 理事。
などを順次適用して訳文を作成する仕組
するか」 「日本は TAUS(翻訳の技術革
みで、ATLAS、The 翻訳、PC-Transer な
新を推進する組織)に参加する動きはな
どのソフトがあり、訳揺れや訳抜けが少
いのか」など活発な質疑が行われた。
通商産業省工業技術院電子技術総合研究 所、郵政省通信総合研究所を経て、現職。
AAMT 前会長、機械翻訳国際連盟元会長。 言語資源協会理事。
ない、レアな解釈でも文法的に正しいも のを選ぶ等の特徴がある。
企画協力 アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)
報告者:二木 夢子
次に、参考として秋元氏の使用フロー 例が示された。次のとおり。1)用語集 設定→ 2)翻訳メモリ設定→ 3)コーパ
9
トラック 6 セッション 1
翻訳業界の現状と未来
~そのなかで翻訳者が取りうる道~ 翻訳サービスの速さ、安さを重視する
井口 耕二 Inokuchi Koji 翻訳者、JTF 常務理事
翻訳会社やソースクライアント(SC)と、 一生の仕事として続けるための報酬、将
労働時間を増やす (目標:5 ~ 10%増)
来性、やりがいを手に入れたい翻訳者の
・無駄を削減する。1 日中机に向かって
思惑には、当然のことながら隔たりがあ
いても、実際に収入を生む作業をして
る。本セッションでは、JTF 翻訳業界調
いるとは限らない。メール対応やウェ
査に基づいて個人翻訳者の現状を紹介し
ブ閲覧などの無駄を省くことで、実質
つつ、個々の翻訳者が将来に向けたビジ
的な作業時間が増える。
ネス戦略を考えるためのヒントが提示さ れた。
2013 年 度 の JTF 翻 訳 業 界 調 査 で は、
スピードを上げる (目標:5%~増)
初めて個人翻訳者を対象とするアンケー
・辞書の整備やユーザー辞書の登録な
トが実施された。回答者のボリューム
ど、作業効率の上がる環境を整える。
ゾーンは、翻訳単価(英日)が 9 ∼ 15
・翻訳ツールの導入を検討する。効率
円/ワード、年収が 300 ∼ 400 万円(平
アップ、資産の再利用、コストダウン
均 380 万円)、時間単価が 2000 ∼ 3000
など、翻訳ツールの長所と言われるも
円だった。しかし単価 35 円/ワード超、
のの一部は、実は翻訳会社側のメリッ
年収 1000 万円超という翻訳者も少数な
トである。翻訳者には単価の引き下げ
がら存在した。このようなプレミアムな
や編集作業の負担といったデメリット
層は一定のポジションを維持している
をもたらす場合もあるため、主体的に
が、業界全体には単価抑制の圧力がか
選択しなければならない。スピードは
かっているとみられる。
追い求めるものではなく、後からつい
アンケート結果の分析によれば、年収
てくるというスタンスが望ましい。
との相関関係が最も強いのは単価であ る。スピードに関しては、極端に遅いケー スを除けば年収との関係はそれほど明確 ではなかった。
単価を上げる (目標:20%増)
また、SC から個人翻訳者が直接受注
・品質を上げる。ネイティブ言語のブ
する場合に、SC から翻訳会社が受注す
ラッシュアップも怠らないようにす
る場合よりも料金が抑えられる傾向が あった。これは、第三者チェックやリラ
る。 ・単価を厳密に計算する。DTP 作業が
イトに対応できない点が個人翻訳者の弱
含まれるなら、その料金を上乗せする。
点と見なされるためである。しかし、ス
消費税の支払いを確認する。
ムーズな意思疎通や安定した品質といっ
・価格交渉をする。交渉のタイミングは
た個人翻訳者の強みをアピールすれば、
「断る仕事が多くなったとき」である。
翻訳会社を上回る単価で受注することも
仕事が殺到するのは優秀で割安な翻訳
不可能ではない。
者だと思われている証拠である。現在 の仕事が無くなって困るようならば、
高年収を実現するには、スピード、単
価格交渉をするのは時期尚早だ。
価、労働時間のどれか 1 つ以上を増やす 必要がある。具体例として年収 450 万円 の翻訳者が 600 万円を目指す(33 %増) 場合の戦略を考える。
10
報告者:辻 仁子
特集
第24回
JTF翻訳祭
トラック 2 セッション 2
翻訳・通訳のISO規格の最新動向
田嶌 奈々 Ta j i m a N a n a JTF/ISO 規 格 検 討 会 翻 訳 プ ロ ジ ェ ク ト リーダー、株式会社翻訳センター 品質 管理推進部 部長。外国語大学卒業後、複
各規格の現状と位置づけ
ビス提供者の一般要件」。
・翻訳の国際規格 ISO 17100
格」の要件がベルリン総会にて削除。「翻
欧州規格 EN15038 をベースに要件を
翻訳者については「政府認定の翻訳資 訳の学位」または「翻訳以外の学位+
緩める方針で調整され、2015 年早々に
、 翻訳経験 2 年」または「翻訳経験 5 年」
発行の見込み。本規格は認証規格である
いずれかを満たせばよいとなったが、日
ため、ISO 準拠のサービスを提供する会
本の課題は翻訳の学位が存在しない点と
で約 8 年、実案件の品質管理業務に従事。
社は遵守が必須。外注先の翻訳者にも一
いえる。
2012 年以降、分野や案件の枠を越え全社
定の要件が定められるため、個人翻訳者
数の会社で約 4 年、株式会社翻訳センター
の品質向上を推進する部署を起ち上げ、社 内作業の標準化や仕組み作りを行ってい る。ISO 規格策定には 2012 年のマドリッ ド総会から参加。TC37 SC5 国内委員。
森口 功造 Moriguchi Kozo JTF/ISO 規格検討会 副議長・機械翻訳プロ ジェクトリーダー、株式会社川村インター ナショナル 執行役員・ゼネラルマネー
訳者と全く同じ要件が求められていた
・ポストエディット作業についての
が、改訂版 CD ではポストエディターと
国際規格 ISO18587
しての経験が要件に加わり、緩和された。
2014 年 10 月 末 に Committee Draft
ポストエディターは必ずしも翻訳者であ
( 以 下、CD) か ら Draft International
る必要はないという現場の声を反映した
Standard(以下、DIS)の段階へと進んだ。
コミュニティ通訳者についてはガイド
改訂・再投票が行われ段階を踏み発行に
ラインなので大きな波紋はないが、日本
至る予定だが、一足飛びに発行に進む可
の「通訳案内士」を、要件を満たす資格
能性もある。
として認めてよいか等の議論がある。
・コミュニティ通訳に関する規格
ンターナショナルに入社。チェック、 翻訳、
ISO13611
経験し、2011 年からは業務全般の統括と して社内管理に携わる。ISO 規格策定には JTF の ISO 検討会発足時から参加し、当検 討会では副議長を務める。TC37 SC5 国内 委員。
Sato Akiko JTF/ISO 規格検討会 通訳プロジェクトリー ダ ー、JTF 理 事、Atelier Ark Mary 代 表。 外国為替専門銀行勤務後、個人事業主とし て翻訳・通訳・講師業務に 25 年以上従事。 博士後期課程で言語文化学を専攻し「品質
一般の通訳者については現在進行形で 要件変更を要求中。最新案では「通訳の
本年度中の発行が決定。位置付けは認
学位」または「通訳以外の学位及び 180
証規格ではなくガイドライン。尚、コミュ
時間のトレーニング、及び 100 日程度の
ニティ通訳とは公共性の高い病院、警察、
経験または政府、政府間機関、非営利機
教育機関等で行われる対価の伴う通訳と
関が授与する学位・認定資格」と要件が
いう定義。
実務寄りに変更されたが、これでも日本
・通訳一般に関する規格 ISO18841
の現状には合わず、更なる改訂を求めて
ベルリン総会にて長時間議論、日本も
佐藤 晶子
結果である。
指定参照規格は ISO17100。今後、更に
ジャ。品質管理担当として株式会社川村イ プロジェクトマネジメント等の制作業務を
ポストエディターについては当初、翻
にも影響する。
いる。
規格策定チームに加わり検討した結果、
CD に移行。1 月 22 日期限で投票が行わ れ、DIS へ移行するか、CD で再検討す るか決まる予定。位置付けは認証規格。 ・その他 通 訳 機 器 の 既 発 行 規 格 ISO2603 、
発行後に考えられる日本への影響 発行後、世界各国のベンダーが認証取 得に動くと予想される。東京五輪等、国 際入札の際に認証取得が入札要件となる
ISO4043 についても欧州委員会を中心に
可能性が高いため、日本の会社が認証未
は通訳、通訳機器両部会に参加。JAT 通訳
見直しが行われ、2016 年度を目途に新
取得であれば大変不利。しかし、現状で
分科会委員長。TC37 SC5 国内委員。
たな規格を発行予定。
は日本に認証機関はなく、規格を国内規
管理の父」デミングを研究。 ISO 総会で
格化するのか、邦訳版にするのかも未定
全規格共通の中心議題は資格要件 注 目 は ISO 17100 3 章「 翻 訳 者 の 要 件」、ISO18587 5 章「ポストエディター
である。 将来の認証機関設立を促すためにも、 今からできるだけ多くの関係者にこの内 容を伝えたい。
の資格要件」 、ISO13611 4 章「通訳者の 技能と要件」、ISO18841 2 章「通訳サー
報告者:赤間 ゆみな
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トラック 3 セッション 3
スモール&クイック翻訳への取り組み ~人力翻訳と機械翻訳でのアプローチについて~ 古河 師武 Furukawa Osamu YAMAGATA INTECH。1996 年 に 渡 米 し、 Second BA を 取 得 し た 後、6 年 間 現 地 の 会 社 に 勤 務。2005 年 に California State University, Long Beach で MBA を 取 得 し 2008 年 に 帰 国。 外 資 系 翻 訳 会 社 を 経 て 2013 年 4 月より現職。従来の取説翻訳だ けでなく、マーケティング資料、カタログ、
SNS・ブログ、ウェブコンテンツ、UI など 幅広い分野の翻訳に対して MT やスモール
マ ニ ュ ア ル の 制 作・ 翻 訳・ 印 刷 を
語のみ登録している。Y-MTS では RBMT
手 掛 け る YAMAGATA グ ル ー プ の 制 作
のエンジンを使用している。Google 翻
部 隊 と し て 1983 年 に 設 立 さ れ た の が
訳と似たインターフェースで馴染みやす
YAMAGATA INTECH で あ る。 世 界 各 地
いが、自動車用語、技術用語、社内用語
10 か国にある YAMAGATA グループの拠
など、カスタマイズされたエンジンを
点は、それぞれ多言語のハブとしてはも
選べるようになっているのが特色であ
ちろん、独自ツール開発や印刷工場とし
る。たとえば、「2 色ペラの社内資料の
ての機能を持っている。
見積もり、最終承認を得た。五月雨で納
「JTF の翻訳祭でスピーカーとして登
品いたします。」が Google 翻訳で“two
壇する」と顧客に話したら、「実際に悩
colors Pella”、“early summer rain” と
みを乗り越えていった経験談を聞きたい
妙な訳を返してくるのに対して、Y-MTS
翻訳含めた様々なソリューションの提案を
人が多いのでは」とのことだった。そこ
のカスタマイズされた社内用語エンジ
推進している。
で、今回のセミナーでは、独自ツールの
“The one by one ンなら“2 color fliers”
開発経緯と成果を中心に紹介する。
we deliver”と意に沿った訳を返せる。
まずは Ichigo である。名称は果物の
RBMT と SMT にはそれぞれ長所と短
イチゴと「一語」をかけている。翻訳現
所がある。14 言語しか対応できないが
場の悩みとして、「翻訳中の元原稿が突
アウトプットをコントロールしやすいの
然改版・追記される」 「急ぎの多言語展
が RBMT である。対訳データをのべつ
開に無駄な間接作業が発生する」があっ
まくなしに登録するのではなく、自社ノ
た。1 ∼ 2 センテンスくらい数時間でで
ウハウでコントロールしている。それ以
きてほしいという顧客からの期待に応え
外の言語にも対応できるが毎回アウト
るため、Ichigo ではテクニカルライター
プットが異なるのが SMT である。対訳
から直接翻訳者のプールに依頼する特別
データを増やしていけば精度は向上する
なワークフローを確立した。発注者は作
が、動作が見えない。言語の組み合わせ
業経過を 3 画面構成でリアルタイムに把
や翻訳条件に応じて方式を選択してい
握でき、翻訳者は指示をテキストや画像
る。
で簡潔に受けることで即座に作業に着手
新規・膨大な翻訳量に対して即時性が
でき、お互いにとって効率の良いシステ
求められるときこそ、機械翻訳が強みを
ムとなっている。なお、稀に翻訳者プー
発揮すると考えている。顧客が自らス
ルに仕事を依頼しても誰も引き受けてく
モール翻訳を手掛けるようになるかもし
れない場合は、コーディネーターから直
れないと期待が高まっている。
接確認している。結果として、時差の関 係もあるが、24 時間以内(平均 3 時間) での納品を実現できている。 次に Y-MTS である。MT エンジンのタ イプには主に 2 種類あり、RBMT では用 語を抜き出して登録していく。たとえば 主語、SVO や SVC のような文型は入っ ているが、細かい言い回しである「車」 「車 両」などは対応しづらい。それに対し て、SMT ではバイリンガルファイルか ら対訳を入れていく。その際、顧客の企 業秘密が登録されてしまわないよう入力 時には 1 語ずつ確認し、一般的な業界用
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報告者:鎌田 奈緒美
特集
第24回
トラック 3 セッション 1
新翻訳時代を作る品質管理イノベーション
JTF翻訳祭
~多種多様なニーズ、コンテンツに合わせた翻訳品質基準の設定と品質管理プロセス~ 徳田 愛 To k u d a M e g u m i 株式会社ヒューマンサイエンス ローカリ ゼーション・スペシャリスト。2006 年∼
2010 年 多言語翻訳のプロジェクトマネー ジャー。2011 年∼多言語翻訳を左右する
このセッションでは、翻訳の品質基準
る。これは、当社独自のツールでランダ
と品質管理プロセスを具体化・数値化し
ムに検査対象のサンプルを抽出し、その
て「見える化」することで、求められる
サンプルから検出されたエラーの数によ
品質を実現するための株式会社ヒューマ
り、合否判定をするものである。翻訳物
ンサイエンスの取り組みが紹介された。
の量と種類によってチェック項目やサン
翻訳の品質について発注側と受注側で
プル抽出量を変更したり、エラー数の許
認識が異なると、発注側には不満が、受
容値を変えることで、検査工数の最適化
原文品質を重要視し、和文ライティング工
注側には手戻りが生じたりする。また、
エラー と検査水準の調整ができる。また、
程も担当。和文制作から英語版、多言語版
翻訳単価が高いからと言って、品質も
の数はカテゴリ別にカウントするため、
良いとは限らない。同じ翻訳会社に発
翻訳者毎にミスの傾向がわかり、翻訳者
注しても品質が一定でないこともある。
の能力も「見える化」できる。
までの一連のプロジェクトの全工程管理を 行う。 現在は、企業に向けて翻訳のプロ セス構築や品質管理のコンサルティング、 翻訳しやすいドキュメントの作成支援等も
チェック工程を増やすと翻訳単価が上
従来の翻訳品質は感覚的に評価されが
行っている。
がったり納期が延びたりすることがある
ちで、その費用対効果も不明瞭であっ
が、これらも品質を保証するとは限らな
た。しかし、このシステムにより翻訳の
い。こうした問題は、翻訳品質の基準が
品質を具体化・数値化することで、発注
曖昧で品質が「見える化」されておらず、
者は望んだ品質を適正価格で得ることが
適正な品質検査が出来ていないことが原
でき、翻訳会社は品質の根拠とそれに見
因であると考えられる。
合う価格を設定することで納品後のトラ
本多 秀樹 Honda Hideki 株式会社ヒューマンサイエンス ローカリ ゼーション・エンジニア。制作会社の社内
株式会社ヒューマンサイエンスでは、
ブル防止や他社との差別化を図ることが
日英翻訳者として活動後、2012 年プロジェ
こうした問題を解決するために、翻訳品
できる。また、翻訳者は、品質に応じた
クトマネージャーとして同社に入社。 日英・
質を「見える化」するシステムの構築に
評価やフィードバックを得ることができ
取り組んでいる。このシステムにより、
る。
多言語の翻訳プロジェクト担当の他、各国 語の翻訳者の開拓や管理を行い、リソース 面からも品質管理に取り組む。最近では機
目指す品質に対する認識を発注者と受注
今後の課題としては、さらに柔軟に対
械翻訳における効果的なワークフローデザ
者が前もって共有し、過不足なく品質検
応可能な QA チャートの改善、翻訳のプ
インについても研究し、機械翻訳による品
査を行うことで、目指した品質と適正価
ラス評価の追加、多言語翻訳向けプロセ
格の翻訳物の提供が可能になる。
スの構築等がある。
質確保のための検証等を行っている。
具体的には、1. コンテンツの種類(読 みやすさと正確さに対する要求) 、2.
エイリー エイドリアン Adrian Aley 株式会社ヒューマンサイエンス Localization
ターゲットユーザ(社内または社外、一 般または技術者、地域等)、3. 時間、4. ブランドイメージを損なう用語等の有
Business Strategist。ボストン大学で日本
無、5. 人命に関わる等の品質の重要性
語や日本文学を学び、卒業後に台湾の師範
の有無といった要件から、発注者と受注
大学で 1 年間中国語を勉強。後にアメリカ に戻り国際ビジネスを中心とした MBA を 取得し、来日。フリーランスの翻訳者・通
者が事前にすり合わせを行い、品質基準 を設定する。その後、これを基に翻訳者
訳者として活動後、2012 年同社に入社。
を選定する。翻訳者からの訳稿に対し、
現在は日英・多言語翻訳プロジェクトのマ
QA チャートという独自の検査システム
ネジメントに加え、Localization Business
Strategist として、ローカライズサービス を企業に合わせて戦略的に活用するための コンサルティングを行っている。
報告者:石飛 千恵
によるフルレビュー、ツールチェック、 抜き取り検査を行う。特に抜き取り検査 では、製造業等の現場で用いられる合格 品質基準(AQL)という統計的な考え方 を取り入れ、設定した品質基準を保証す るために、翻訳物の量に応じた適正なサ ンプル分量とエラー許容値を設定してい
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トラック 5 セッション 2
ワードと秀丸を使い分けるハイブリッド翻訳のすすめ ー2つのエディタで翻訳効率をアップさせるー このセッションでは翻訳をする際に
杉山 範雄 Sugiyama Norio 名古屋大学大学院工学研究科結晶材料工学 専攻科卒。工学博士。国内・外資系メー カーを経て特許事務所に勤務。2002 年か
補完している(Office2013 を使用) 。さ
ワードと秀丸エディタ(以下、秀丸)を
らに一括置換も行えるようになってい
うまく使い分ける方法、また杉山氏が
る。一括置換を可能にさせているソフト
自作されたマクロについて述べる。翻訳
は FlashTerms で、このソフトは用語集
をするとき、多くの翻訳者がワードで
を使ってテキストファイルに一括置換を
作業する。理由はクライアントから仕事
行うためのものである。このソフトを使
を受注するときも納品するときも、ワー
うと、100 万個の用語ペアで 10 万字の
に。著書に「あの手・この手の特許翻訳」
ドファイルで原稿の受け渡しが行われる
文書に対して 30 秒で置換することがで
(2011 年)がある。 「杉山特許翻訳」代表。
のが一般的だからである。しかし、ワー
きる(2015 年販売予定)。この非常に速
ドでの翻訳作業は、作業中フリーズした
い置換ソフトに加えて、手作業による置
り、ファイルの開閉が重かったりなど不
換結果が自作マクロによって一番下に出
便なことが多い。そこで秀丸を利用する。
るようになっており、置換された履歴を
秀丸とはテキストエディタの一種で、テ
検索することが可能である。このように
キストエディタとはワープロソフトから
秀丸で作り上げた文書をワード上でスペ
らフリーランスの特許翻訳者(英日 / 日英)
ページレイアウトなどの機能を省いたソ
ルチェックしたり、文字数のカウントを
フトで、テキストファイルを作成、編集
したりすることも可能である。また、 ワー
するためのものである。編集に必要な入
ドだけではなく、エクセルやパワーポイ
力や置換などの機能だけを備えたシンプ
ントのファイルを秀丸で編集し、再びエ
ルなツールで、文字入力やファイルの
クセルやパワーポイントに戻すことも可
オープン、クローズが軽くて速い。テキ
能であるため、互換性が非常に高いとい
ストエディタのなかでも秀丸はエディタ
える。このように、ワードやエクセルと
機能が豊富で、マクロ機能も充実してお
秀丸を用いたハイブリッド翻訳をするこ
り、特にほかのソフトと関連づけて文字
とで作業効率の向上、正確性の向上が見
の取り込みや書き出しができる点が優れ
込まれる。また、杉山氏が今回紹介され
ている。ちなみに秀丸は秀まるおのホー
たような画期的なマクロを公開するセミ
ムページ(http://hide.maruo.co.jp/)に
ナー(東京ほんま会主催)が 2015 年に
て 4320 円で入手できる。
行われる予定である。
秀丸での翻訳作業は以下のようにして 行う。まず、対訳形式を用いることであ る。これは視線の動きの減少や、校正が 容易だからである。次に上書き翻訳を用 いることである。これは、用語集による 一括置換ができ、訳抜けの激減、訳語の 統一、タイプレスで労力を省くことがで きるからだ。これらの方法をとると、置 換をかけるだけで文章の半分が訳語に変 わり、作業効率が非常に良い。次に、杉 山氏の自作マクロを用いたハイブリッド 翻訳の実演記録を述べていく。ワード ファイルを秀丸にコピーすると、フォン トの変化、下線などの書式情報の消去、 ギリシャ文字の全角化、表の消去などか み合っていない点がいくつか出てくる が、杉山氏自作のマクロではその欠点を
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報告者:伊藤 晃基
特集
第24回
トラック 3 セッション 4
MLVの屋台骨!! プロジェクトマネージャー達が語る
JTF翻訳祭
ローカライズ現場の舞台裏とトレンド(と本音)
Panel Discussion G パネルディスカッション
柴山 康太 Shibayama Kohta Welocalize Japan 株式会社 LPM MANAGER, ASIA。
平野:今日は、PM である皆様にざっく
トは終了したが、アジャイルでは製品が
ばらんに語って頂きたい。まずは、業務
出た後のアップデートにも対応するた
に関する悩みを伺いたい。
め、終わりがない。
柴山:祝日や機械翻訳(MT)の案件に
内山:事前に分量がわからず、翻訳者の
対応できる翻訳者が少ないこと。
忙しさはプロジェクト次第。
田辺:以前はプロジェクトが終わると達成
田辺:少量でも PM のタスクはその都度
感があったが、最近はプロジェクトの切れ
発生するので、負荷が大きい。
目がなく、終わりが実感できないこと。
柴山:ベンダーの手間・コストは大きく
内山:様々な立場の人が違った要求を出
なるが、顧客にとっては早めに修正がで
し、矛盾した要件が PM に届くこと。い
きるため、アジャイルは効果がある。お
かにこの矛盾を解決・整理し、全員で合
客様第一でやるしかない。
意するかが課題。
平野:どこまで顧客のために頑張れる
平野:矛盾と思える要求にどう対処する?
か?
田辺 朋子
田辺:客のタイプを知り要求をじっくり
柴山:自社に不利になったり、PM が倒
Ta n a b e To m o k o
(株)スリー・エー・システムズ(後の(株)テック・ インデックス)に入社後、Welocalize Japan 設立 と共に転籍、日本法人の礎を築く。翻訳業界に おける経験と実績は 10 年以上。ローカライザー、 品質管理、PM を経て、2012 年より現職。プレイ ングマネージャーとして日々修行中。
聞く。ランゲージ担当やエンジニアが直
れたりしたら本末転倒だが、顧客に喜ん
ヨンカーズ トランスレーション アンド エンジニ
接説明することも。
でもらってこその仕事だと思う。
アリング株式会社 シニア プロジェクト マネー
内山:地道に説明し、説得する。
田辺:付き合いが長いと顧客の好みがわ
機械翻訳(MT)と ポストエディット (PE)の 今後について
PM の仕事。
田辺:昔、翻訳メモリの信頼性は低かっ
要求をしっかり理解し、まとめていくの
たが、今では技術翻訳に不可欠。MT も
が PM の仕事だ。
ジャ。広報、ライターなど様々な職場を経て、
1996 年から米国の翻訳会社で、翻訳チェック、 DTP、プロジェクトマネジメントを経験。帰国後、 2000 年より MLV でプロジェクトマネジメントに 従事。英語から日本語、多言語化プロジェクトの グローバル PM を担当。2006 年にヨンカーズに 入社。
内山 敬 U c h i y a m a Ta k a s h i Moravia IT a.s. プロジェクトマネージャー。歴史 研究者志望の大学院生から転じ、SLV に PM アシ スタントとして入社。後に PM となり、MLV1 社 を経て 2008 年より Moravia 東京オフィスにて勤
かる。チームにそれを伝えていくのも 内山:顧客とは、お金を払う人とコンテ ンツの最終消費者の双方を意味する。両 者を満足させることが重要。コンテンツ
同様になるのでは。 柴山:ポストエディターの意識が変わっ ていくだろう。今回のような機会で MT の利点を周知したい。MT は翻訳ソフト
グローバル化による 日本市場縮小の危機感について
ではなく、あくまで入力支援ツールとし
田辺 :日本オフィスは人件費が高いの
務。標準的なローカライズの他、特殊な要件を
て、使える訳があればラッキーくらいに
で、必要な事のみ行うよう指示されてい
持つソフトウェア、ゲーム、E-learning のローカ
考える方がよい。MT エンジンの能力を
る。細かい要求に対応できる日本オフィ
判断し、価格とのバランスを考える必要
スは「売り」であるが、仕事が海外に流
がある。
れている実感はある。
内山:以前より Google 翻訳等で MT は
内山:多言語の単なるローカライズと、
一般的になり、その品質の低さも消費者
その土地にあった個別化は異なる。差別
に知られている。また、クラウドの出現
化で存在価値を高めるのがミッションと
ライズを中心にハンドリング。
モデレーター
平野 幸治
でソース文書の公開が早くなったため、
なる。
公開直後に MT 版を、後追いで PE 済み
柴山:危機感はあるが、日本人特有の曖
部 企画・広報部長。大学卒業後、外資 IT 企業
の和文を公開する等、新しいワークフ
昧な要求に対応できるのは、日本オフィ
にて翻訳会社とのドキュメント開発のコーディ
ローが必要。
スの強み。日本人スタッフに対応して欲
Hirano Koji 株式会社メディア総合研究所 国際メディア事業
(株)エイブス入 ネーションを担当。1999 年、 社。MLV 系 / ソースクライアント系 PM として約 10 年修練を積む。現(株)メディア総合研究所 にてローカライゼーション部門を立ち上げ、2014 年より翻訳をマーケティング的な視点で再構築 するべく現職となる。
しいという要望も増えている。
アジャイル対応サービスについて
報告者:石飛 千恵
田辺:従来は一度納品すればプロジェク
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トラック 6 セッション 3
需要急増:上場企業の開示情報英訳の実態と今後の動向 ~チャンスかリスクか? 翻訳者と翻訳会社が今、やるべきこと~ 松本 智子 Matsumoto Satoko 日本財務翻訳株式会社 代表取締役社長。 大学卒業後、半導体メーカー、食品商社、 流通業界を経て、1992 年より IR /ディス クロージャー業界へ。2006 年 12 月の日本 財務翻訳株式会社(財翻)設立時から参画 し、2013 年 4 月より現職。 上場企業に対して英文開示の進め方、文書 作成についてのソリューションを提供しつ つ、正しい英文開示文書の効率的な作成方 法の確立に努めている。財翻は英文開示文 書の作成では国内で No.1 のシェアを獲得。 現在、IR・開示分野における翻訳について セミナーを開催するなど、企業と翻訳者・ 翻訳会社に対して啓蒙活動を展開中。
企業の開示文書の英訳は大きなニーズ
め、取り扱いには高い倫理観が求められ
があり、今後も需要拡大が見込まれるが、
る。財翻では社外委託先を含め、すべて
きちんと対応できる翻訳者、翻訳会社は
の情報入手者を記録している。また定期
きわめて少なく、専門業者として危機感
的にインサイダー研修を実施している。
がある。ぜひこの機会に、日本企業の英
セキュリティ対策は手間がかかるが、顧
文での開示情報発信を支える基盤強化に
客の信頼につながる。
加わってもらいたい。 講演のアジェンダと内容の概略は以下 のとおり。
5. 需要急増の背景 ― 好景気と IFRS
需要急増が見込まれる 2 つの要素に
1. 開示情報とは
― 具体的な文書とその翻訳サンプル
は、好景気と IFRS 導入がある。英訳開 示の潜在的な需要はあるが、実際に増
日本語で提出が義務づけられている主
えるのは業績のよい時のみである。IFRS
な制度開示書類には、決算短信、株主総
の導入は手間、人手、予算がかかるため
会招集通知、有価証券報告書がある。そ
35 社にとどまっているが、他社の動き
れぞれベースとなる法律や対象期間が異
に合わせて今後数年以内に急拡大するも
なるため、異なったノウハウが必要とな
のと考えられる。
る。講演では各形式の英訳サンプルが示 された。
2. 大手企業には必ずニーズあり ― 英文開示の実態
6. 翻訳者/翻訳会社に今、 求められていることは?
財務・会計分野の翻訳者に求められる
資質は、知識力、対応力、調査力。翻訳
2013 年度のデータによれば、東証 1
者とは、フィードバックや社内での作業
部上場企業 1,747 社中、英文招集通知を
を通じて信頼関係を築いていくことが多
開示している企業は 399 社、英文決算短
い。優秀な人を探して囲えば済む分野で
信を開示している企業は 821 社にのぼ
はなく、翻訳会社には翻訳者、チェッ
る。また外国人持株比率は現在 28% で、
カー、コーディネーターを育てなければ
英語での情報開示を求める圧力が強まっ
ならないことを認識してもらいたい。
ている。
3. 開示情報の翻訳はルールだらけ ― 知らないと土俵に上がれない
7. 業界地図はどう変わるか
― チャンスでもあり、リスクにもなる
IFRS の導入により、従来の英文財務
開示情報の翻訳では、会計基準の頻繁
諸表作成が有価証券報告書の英訳に切り
な変更に対応し、日本基準、米国基準、
替わり、会計士や監査法人の仕事から翻
IFRS(国際財務報告基準)の用語を使い
訳者の仕事になることが予想される。需
分け、企業独自の用語も踏襲する必要が
要の急増はチャンスだが、一方で大半の
ある。一次翻訳を納品して終わりという
企業は 3 月決算なので業務が 5 ∼ 6 月に
ケースは稀なので、顧客とのコミュニ
集中するリスクが大きい。
ケーションが重要となる。 報告者:二木 夢子
4. 必ず絡むインサイダー情報 ― セキュリティ対策が必須
開示情報はインサイダー情報(企業の 株価に影響を与える情報)に該当するた
16
特集
第24回
トラック 1 セッション 1
医療・医学研究での翻訳の役割と可能性
JTF翻訳祭
~アカデミアが必要とするプロのサービス~
Panel Discussion A パネルディスカッション
後藤 励 Goto Rei 京都大学医学部卒業、京都大学経済学研究 科博士課程修了、甲南大学経済学部講師・
医療・医学研究での 翻訳の役割と可能性 で 25 位と停滞している。研究者が最新
なる可能性があり、医療経済学は成長が
の統計テクニックの習得や研究そのもの
期待される分野である。
に十分な時間を使えないこと、研究デ ザ イ ン の 稚 拙 さ、GCP(Good Clinical
Practice)への準拠が要求されること、
Ta m u r a H i r o s h i 京都大学医学部卒業、京都大学大学院医学 研究科外科系専攻、ハーバード大学公衆衛 生学博士、 MBA 取得。眼科医でありながら、 医療社会学、病院管理、国際医療政策など の分野でも活躍中。
モデレーター
研究者の英語力不足などが原因と考えら
H a y a k a w a Ta k e s h i 京都大学文学部卒業、2006 年株式会社ア スカコーポレーションに入社。医療機関、 大学関係の翻訳、英文校正などに関する業
医療翻訳に求める 品質・コスト・ニーズ
れる。投稿後のやりとりを最後までフォ
論文がアクセプトされることが最も重
ローするなど、翻訳の包括的なサポート
要であり、「伝わる」英語が求められて
は論文のアクセプトにつながる。翻訳は、
いる。ノンネイティブの査読者も増えて
臨床分野の国際競争力向上を支援する役
いるため、ネイティブらしい英語にこだ
割を担っているのではないか。
わる必要はない。
翻訳者には、統計学、最新の研究デザ
翻訳というサービスを買っているとい
イン、GCP などについて理解を深める
う意識であり、コスト削減よりは、ア
ことを期待したい。翻訳における機械的
ク セ プ ト 確 約 サ ー ビ ス、Certificate of
要素を IT で自動化し、上記分野の学習
Proofreading の発行、大学や研究費ご
時間を確保して欲しい。
との経費申請ルールに精通するなど、研
これからの医療翻訳の可能性として、 インターネット上の集合知を活用した
早川 威士
日本でも今後、公的医療制度の適用決 定時に薬や治療の費用効果分析が必須に
センター・経済学研究科特定准教授。医療
田村 寛
ある。
日本の臨床分野の研究論文数は世界
准教授を経て、2012 年より京都大学白眉 と経済に関する鋭い評価には定評がある。
翻訳者はこうした背景を理解する必要が
究者の論文投稿を総合的にサポートする サービスを求めている。
「協業」を目指すべきではないか。 報告者 : 藤村 希早
医療経済学の事例 ~医学研究での翻訳の役割と 可能性~
務のプロジェクトマネージャーとして日夜 奔走。
医療経済学は、患者、一般人、支払者(保 険会社や政府) 、医療機関の考えや行動 を、ミクロ・マクロ的な視点、産業組織 論の視点などから研究する学問である。 今後、 医療の財源確保が厳しくなると、 医療の効果が費用に見合っているか(費 用効果研究)を考えるだけでなく、社会 として誰の健康改善を優先するべきかを 実証的に議論する必要が生じる。後藤氏 は、実際の日本人の価値観を調査し、 「他 人の視線」の有無で価値判断に変化があ るかどうかの研究を行った。 医療経済学の研究は、医療に対するイ デオロギーに基づいている。研究論文は、 医学系と経済系の雑誌に論文を投稿され るが、専門用語を始め様々な違いがある。
17
トラック 4 セッション 2
Stealin' Time
(Time management and translation styles)
Panel Discussion H パネルディスカッション
ダーギー ダグラス Doug Durgee Like many others, Doug Durgee stumbled into translation after a few years living and working in Japan at various office positions. He now translates out of Sendai, where he helped to start TRAC, the new Tohoku regional branch of the JAT. Doug is also now facing a new challenge: balancing work with a newborn son.
内村 ウェンディ Wendy Uchimura Wendy Uchimura has been working with the written word professionally since 2004. She splits her time between inhouse and freelance work in Tokyo and Yokohama, while having fun raising two children and studying law.
ラッシュブルック トバイアス To b i a s R u s h b r o o k After around ten years working in-house as a translator and interpreter, mostly for law firms, Toby began working freelance in 2013. While Toby has dabbled in subtitling and literature, the law has a way of catching up with him. Toby graduated from the University of Queensland with MAJIT and is also a graduate of Simul Academy.
モデレーター
エベースト キャシー Cathy Eberst
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Time is a translator’s most valuable resource. We spend a huge chunk of it translating, and then use up more to maximize the quality of our work: looking up terms, researching the subject matter and revising. Simultaneously, we try to minimize this time so that we can ultimately earn more. In this session, J-E translators Doug Durgee, Tobias Rushbrook and Wendy Uchimura, with Cathy Eberst as moderator, shared their strategies for staying focused, scheduling and prioritizing to “steal more time” out of their work day.
Work environment The panelists are presently in different situations in life, which is reflected in their preferred work environment. Dividing her time between in-house and freelance jobs, Uchimura is usually on the go. She brings everything she needs in her work bag and works in cafés and even on trains. Durgee also recently started working from cafés because of the distraction of a baby at home but wants to be in a shared office soon. Rushbrook, however, cannot concentrate in cafés and prefers having the original manuscript right beside the computer while translating at home.
Translation process Rushbrook uses a two-step process of drafting and proofreading. Since the drafting stage can take up a lot of time and energy, he makes sure to go through it as quickly as possible. This means leaving the research until after, at the proofreading stage, which helps lessen Internet time and consequently, overall time spent for translation. On the other hand, Durgee finds advance preparation, gathering reference materials and researching beforehand, helps make the translation go faster. If he encounters anything that needs to be looked up while translating, he highlights it for checking later. In contrast, Uchimura does not separate research from translating work and looks it up as she goes along.
Peak efficiency Peak hours also differ for all three panelists. Durgee starts off with checking translations from the previous day. He tries to finish a large part of the day’s translation in the morning although he is most efficient at the end of the day, before his self-imposed daily deadline of 6 pm. In contrast, Rushbrook is a night owl. He aims to start translating by mid-morning but doesn’t peak until around 5 pm. On the other
hand, Uchimura finds herself focused midmorning and mid-afternoon. One thing they do agree on is that they are all more efficient when working toward a looming deadline!
Work vs. personal time To balance work and personal life with children, Uchimura makes sure she is out of the office by 4 pm. She also tries not to work on weekends or take on rush jobs. Likewise, Durgee allots time after 6 pm for family and tries to cut out working on weekends and nights. Rushbrook does not have any problem working on weekends, although they all agree on setting rush rates for weekend jobs.
Internet, email and social media Although for Durgee the Internet is a translator's best tool, it is also a huge distraction from paying work, along with emails and social networks. It is a big time trap particularly when you get fascinated with reading Wikipedia articles like Rushbrook or when you have a streak of perfectionism and can revise endlessly like Uchimura. To control the constant stream of emails, Rushbrook relies on phone calls for urgent stuff, while Uchimura limits emails and social media to her smart phone.
Managing work time The panelists also had different strategies regarding time management. Durgee uses a to-do list. He recommends setting small goals reinforced by rewards throughout the day. Uchimura focuses on limiting wasteful non-work related activities, and fills out her non-office schedule with freelance work and post-graduate studies. However, making invoices and bookkeeping are unanimously burdensome for both panelists and audience. Many use or are considering the services of an accountant, and some even recommend outsourcing invoicing and email. The panelists came up with plenty of great advice that’s worth trying out, but their different translation styles made it abundantly clear that there is no one-size-fits-all. Choosing the right approach all comes down to what yields better results for you as a translator.
報告者:梅村 フィデス Fides Umemura
特集
第24回
JTF翻訳祭
トラック 5 セッション 3
日本における映像翻訳 -字幕翻訳を中心に-
このセッションでは、視聴覚翻訳(映
篠原 有子 S h i n o h a ra Yu ko 字幕翻訳歴約 20 年。主に NHK、WOWOW、 ビデオ、DVD の映画翻訳に携る。2012 年 から立教大学大学院異文化コミュニケー ション研究科にて翻訳学および字幕翻訳を
像と音声を伴う翻訳)の一つである字幕
る情報は字幕から省略できる、音声情報
翻訳について、日本での字幕翻訳の歴史
(声の強弱)により状況のすべてを説明
と、字幕翻訳の現在、および字幕翻訳の
する必要がない、映像とスクリプトが異
今後の展望について報告された。
なる場合は映像を優先するなどの特徴が ある。
日本における字幕翻訳の歴史
研究している。大学非常勤講師。日本通訳 翻訳学会会員。主な翻訳作品: 「風の絨毯」 、 「炎のランナー」 、 「リトル・マーメイド 3」 など。
の種類の翻訳とは異なり)映像が提示す
このような字幕翻訳の特殊なルールに 従うだけでなく、映画制作者や配給会社
日本では、明治末期から外国映画を輸
などが作品を通して観客に伝えたいこと
入し上映していたが、映画がサイレント
を翻訳に表現することも、重要なことで
(無声映画)からトーキー(発声映画) に変化したことで、日本人に外国映画(英
ある。「アナと雪の女王」の歌詞の翻訳 などはその成功例と言えるだろう。
語)のセリフをどう理解させるかという 課題が浮上した。この課題に対する解決 策として「日本語の字幕を付ける」と「日
字幕翻訳の今後
本語のセリフで吹き替えを行う」の 1 つ
近年は、吹き替えで上映される映画も
が考案され検討された。日本では、文化
増えているが、DVD では字幕と吹き替
的背景(外国への関心が高く、識字率も
えの両方が選択できるようにするため、
高い)、コスト(吹き替えよりも制作費
字幕の需要は減ってはいない。また、 クー
が軽減される) 、品質確保という 3 つの
ルジャパン政策や、日本映画の海外コン
理由から、吹き替えではなく字幕が採用
ペへの参加などが増加しているため、英
されることとなった。この結果、映画説
語字幕の翻訳需要は今後も増加すると考
明者(弁士)に代わる字幕翻訳者の需要
えられる。
が生まれた。
現在、字幕翻訳を取り巻く環境は変化 している。その一つが観客の英語力の向
字幕翻訳の現在
上だ。台詞を聴き取ることのできる観客 が極端な意訳を受け入れられなくなって
字幕翻訳は、配給会社や制作会社など
きたり、TED などインターネット上の
によって翻訳者に発注される。その際、
映像に付けられたアマチュアによる字幕
翻訳者には映像とスクリプトが渡され
のように、既存の翻訳ルールに拘束され
る。字幕翻訳は、映像に合わせて翻訳し
ない字幕も出現している。
た文章が表示されるという特性から、翻
このような観客の変化と共に、字幕翻
訳プロセスにおいて次のような制約が発
訳のあり方もまた変わってくるかもしれ
生する。一つ目は、台詞の長さによって
ない。
翻訳に使用できる文字数が規定されるこ とである。このため、スクリプトの確認
報告者:近藤 美保子
後、すぐに翻訳するのではなく、音声の 長さを測定し、翻訳に使用できる文字数 を決める等の準備作業が発生する。準備 作業の後に、「1 秒に付き 4 文字、1 行最 大 13 文字、最大 2 行」などの翻訳ルー ルを順守しつつ、スクリプトに基づいて 翻訳が行われる。 二つ目は、映像の優位性である。(他
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Event Report
2 014 年 度 第 3 回 J T F 翻 訳 セミナ ー 報 告 2014 年度 第 3 回 JTF 翻訳セミナー 日 時 ● 2014 年 10 月 9 日(木)14:00 ∼ 16:40 開催場所 ● 剛堂会館 テーマ ●
SVを鍛えて翻訳の「殻を破る」英文ライティング術
SEMINAR 講 師 ● 日英翻訳者、サン・フレア アカデミー講師
遠田 和子 Enda Kazuko
報告者 ● 冨永 陽(株式会社 ホンヤク出版社)
今回のセミナーでは、講師の遠田和子
と字面や見た目だけで判断され、やり直
氏(日英翻訳者)に、英訳における SV
しを指示される。海外駐在経験者(非母
の重要性と翻訳の殻を破るためのライ
語話者)が書きかえた結果、英文の質が
ティングの要諦をお話しいただいた。
落ちてしまうケースもある。 日本語と語順を変えないと自然な英語
いま翻訳に何が 求められているか 昨年(2013 年)の JTF 業界調査アン ケートで、「翻訳者に求めているもの」
Tokyo 9 Oct. 2014
にならない場合も多い。しかし、中には 「チェックが大変だから原文と語順を変 えずに訳してほしい」と指示される翻訳 者もいて、不自然な英訳を渡さざるを得 ないとの話を聞く。
として最も多かった回答は「語学力と表
「不自然な英訳でもネイティブチェッ
現力」(47.6%)。これは翻訳の品質その
クで自然な英語に仕上がる」と思ってい
ものと言っても良い。価格やスピードよ
る人も案外多い。だが、直訳調の訳文は
りも翻訳の品質が重視されていることが
SV 構造から全面的に書き直す必要があ
調査結果から読み取れる。
り、リライトを請け負うチェッカーでな
翻訳の質を高めることで自分たちの市
い限り単純な文法上の修正で終わること
場価値も高まることが期待できそうだ
が多い。ネイティブチェックはどんな英
が、質を高めるには目指すゴールが明確
訳も美しく仕上げる魔法の杖ではない。
でなくてはならない。「翻訳の質は定量 化しにくい」との声も聞く。だが、高品 質な翻訳が求められる中、クライアント から翻訳の品質について説明責任を求め られる機会も少なくない。 今回は日英翻訳に的を絞り、現状を分
殻を破る !! このように英訳の現場にも様々な問題 があるが、常にベストを尽くして質の高 い英訳を目指してほしい。そこで、現状
析して目指すゴールを探りたい。
の殻を破るべく目指すべきゴールと私が
• 日英翻訳の現場と実情
and concise(明快で簡潔)な英語である。
考えるのが、正確さを前提とした clear 日本人の英訳は、内容的には正確で文
clear and concise の 手 本 と し て Plain
法的に正しくても、原文が透けて見える
English を勧めたい。Plain English を参
逐語訳や不自然で冗長な英文に陥りがち
考に、わかりやすく質の高い英語を書く
だ。その要因の一つに翻訳の質が正しく
力を身につけ、英文の良し悪しも的確に
評価されない状況が挙げられる。翻訳者
説明できるようになってほしい。
が原文の意味を汲んで訳した英文も、ク ライアントや上司から「ここが訳出され ていない」「これは原文に書いていない」
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• Plain English(明快な英語) Plain English は 1960~70 年 代 頃、 英
イレクトに伝わる。日本語の構造に引き
の長さや受動態の使用頻度などに基づい
やすく書く」(明確で簡潔であれば必要
ずられて訳文中の S の位置が後退した
た定量化の余地がある。SV の位置や SV
な情報は伝わる) との考えから生まれた。
り、長い修飾語で S と V が離れたりし
間の距離も読みやすさの客観的な評価指
この考えは様々な分野の文書にも応用で
ないよう工夫する。
標として使える。翻訳の品質について説
き る。Plain English の 基 本 は「 一 般 的
得力のある説明ができれば、翻訳者や翻
な言葉(専門用語は除く) 」 「短い文」 「能
3. 意味の濃い V を使う。基本は受動態
動態」の 3 点。この基本に絡めて文の長
より能動態。さらに 1 語でより多くの意
最後に翻訳料金について一言。以前は
さと SV の重要性に着目してみたい。
味が伝わる「強い V」を使うと語数が少
訳文ベースで料金を算出している企業が
なく収まり文が引き締まる。強い V を
多かったが、文を簡潔にするほど翻訳者
• 文の長さの目安
使い分ければ表現の幅も広がる(Word
の収入が減る方式であり、冗長な訳文や
一般的な英語の 1 文の長さは文書の
の類語検索が便利) 。インパクトのある
悪訳を助長する要因にもなる。原文ベー
種類や用途によって異なるが、およそ
表現にしたい場合、動詞を名詞化した
スの適正な算出基準を採用してほしい。
15~20 語が平均とされており、20 語未
表現や It 構文の多用を避ける。構文上、
満が読み易い目安とされている。30 語
動詞が弱くなり語数が膨らみやすい。
未満であれば許容範囲とされているの
また、日本語に多い状況描写(ある、
訳会社の市場価値も高まるだろう。
感想
で、産業翻訳ではこの程度の長さが目
いる)は、be 動詞ではなく動作動詞を
遠田氏は「原文の質や低単価などを理
安になるだろう。中には 1 文の上限値を
使って英訳すると自然な表現に近づく。
由に手を抜くのは翻訳者の甘えだ」と
では、上記の基準に照らしながら次の
指摘された。この指摘はクライアント
39 語にすべきだと主張する人もいる。
訳文 A と B を評価してみたい。
に対する翻訳会社の姿勢にも幾分当ては
と思い込んではいないだろうか。日本語
原文 : スキルレスで高精度研磨を全自動
のチェッカーのためではなく、情報(訳
時に冗長な訳文と遭うが、「原文が 1 文なら訳文も 1 文でなくてはならない」
まるだろう。「クライアントや翻訳会社
では 1 文に複数の話題を繋げても問題な
で行うため、XX 技術を採用して高精度
文)の受け手である実際の読者のための
く済む場合が多い。一方、英語では言葉
研磨器の開発が行われました。
翻訳」を極力心がけたい。読者を意識し
を繋げていくと非常に読みづらい。英語
A: To perform high-precision polishing
た高品質の訳文を提供し、翻訳の品質を
は one sentence, one idea が 原 則 で あ
work fully automatically without
的確に説明できれば、一般の人が翻訳を
る。長い原文は意味のまとまりで区切っ
special skills, the development of a
理解する一助となるだろう。
て英訳することを勧める。
high-precision polishing machine has
• SV(主語と動詞)は英語の体幹 「SV は英語の体幹であり文のメイン
been done using the XX technology.
紹介された参考資料(一部)
B: We have developed a high-precision
• U.S. Securities and Exchange Commission A Plain
polisher using XX technology. This
アイデアを担う」という点を意識する。
machine is fully automatic and requires
SV を意識して文章を組立てれば、イン
no special skills to operate.
パクトのある生き生きとした英文にな
A は原文の語順どおりの訳であるが、冗
る。逆に SV への意識が薄く言葉の置換
長で文のポイントがぼやけている。2 文
に終始する人の英文は「弱い」。体幹と
に分けた B の方が明快で語数も少ない。
なる強い SV を生み出すコツは次の 3 点
SV が文頭にあり SV 間も近く、能動態
である。
の強い動詞でメインポイントが明確だ。
1. S を上手に選ぶ。明快な英語を書く
まとめ
には何を S に決めるかが鍵を握る。日本
Event Report
米で「政府関係の文書を誰にでもわかり
語の主語を機械的に英文の主語にしない
今回、Plain English に基づいて明快で
よう注意する。適切な S を決めれば文の
簡潔な英文の書き方を説明したが、英語
メインポイントが明確になる。長文の場
の本質は Economy of Words(「言葉の
合は、文中の既出 / 新出情報の繋がりも
燃費」を高める)。言い換えれば、最小
意識しながら S を決める必要がある。
の語数で最大限の情報を効果的に伝える ことだ。Economy of Words を意識すれ
2. SV は 文 頭 &SV 間 は 近 く。 文 頭 の
ば、日本語でも意味の濃い言葉を効果的
5~6 語に下線を引き、その中に SV が含
に使って引き締まった文章が書ける。ぜ
まれているか確かめるとよい。SV が文
ひ実践してほしい。
頭にあり SV 間の距離が近ければ、それ
定量化が難しいとされる翻訳の品質
だけ文のメインアイデアが読者に早くダ
も Word の校閲機能などを使って、英文
English Handbook
• Bailey, Edward P. The Plain English Approach to Business Writing
• Cutts, Martin Oxford Guide to Plain English • Morrissey, Kevin『技術翻訳のチェックポイント』 • Williams, Joseph M. Style Toward Clarity and Grace
遠田 和子 Enda Kazuko PROFILE 青山学院大学英米文学科卒。在学中米国パシフィック 大学に留学。大手電機メーカにて翻訳業務に就いた後、 フリーランスになる。現在、 『通訳翻訳ジャーナル』 (イ カロス出版)にて「英訳ドリル」連載中。 著書には、 『英語「なるほど!」ライティング』、 『Google 英文ライティング』、 『e リーディング英語学習法』、 『あ いさつ・あいづち・あいきょうで 3 倍話せる英会話』 (全 て講談社、含む共著)がある。 訳書には、小川英子著『ピアニャン』英語版 Little Keys and the Red Piano, 星野富弘著『愛、深き淵よ り 』 英 語 版 Love from the Depths ─ The Story of Tomihiro Hoshino(共訳)がある。
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第61回JTF<ほんやく検定> 合格者発表 平成 26 年 7 月 26 日(土)に実施された「第 61 回 JTF <ほんやく検定>」の結果が発表されました。
山田 充(東京都)
高萩 みつ子(福島県)
辻 雅浩(愛知県)
小林 亜紀(埼玉県)
辻岡 裕子(大阪府)
刈谷 吉克(埼玉県)
菅沼 まどか(東京都)
金子 まゆみ(神奈川県)
原田 美香(東京都)
松本 真一(埼玉県)
渡邊 有基(東京都)
栄 皓(千葉県)
山田 裕子(石川県)
サンパイオ ロベルト(ブラジル)
中野 千佳(東京都)
料治 弦太(神奈川県)
立川 恵(岐阜県)
小松 真美子(東京都)
小野 広智(福岡県)
小林 昭博(東京都)
篠原 祥子(千葉県)
実用レベル・英日翻訳
1 級(5 名) (非公開:1 名)
実用レベル・日英翻訳
岡林 茜子(大阪府)
2 級(5 名) 平田 光(石川県)
伊藤 直樹(U.S.A)
1 級(2 名)
田中 美佳(東京都)
大槻 朝(宮城県)
大久保 雄介(長野県)
矢島 有記(東京都)
鈴木 和博(東京都)
染谷 ゆうじ(埼玉県)
日下部 健一(カナダ)
及川 規昭(茨城県)
大友 詞保子(兵庫県)
今川 香織(神奈川県)
2 級(3 名)
辻 秀俊(千葉県)
平田 光(石川県)
浦岡 治美(東京都)
山田 裕子(石川県)
清水 直人(東京都)
若杉 英(新潟県)
3 級(62 名) (非公開:18 名)
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西岡 沙季(福岡県)
菅沼 洋(茨城県)
3 級(28 名)
丸山 昭治(東京都)
西墻 佳代子(神奈川県)
森 らい奈(広島県)
菅 良和(神奈川県)
嶋田 道也(青森県)
宗村 聡子(東京都)
クインビー ブレット(富山県)
及川 宏(オランダ)
宝達 美穂(東京都)
長田 宏子(大阪府)
中村 幸子(北海道)
岩隈 絵瑠(長崎県)
笹 みゆき(U.S.A)
村越 由香(神奈川県)
阪梨 紘子(静岡県)
川井 美枝(静岡県)
大久保 雄介(長野県)
御友 綾(愛知県)
後藤 友見(埼玉県)
後藤 友見(埼玉県)
徳弘 京子(北海道)
大関 厚央(埼玉県)
(非公開:7 名)
第61回JTF<ほんやく検定> 合格者発表
菅沼 まどか(東京都)
森 啓五(埼玉県)
レイム グレゴリー(東京都)
瀧口 真実(福島県)
鍋岡 奈津子(福岡県)
柳内 綾子(愛知県)
ローゼンバーグ ジョシュア(U.S.A)
佐藤 治子(群馬県)
鈴木 隆矢(静岡県)
宮田 知子(三重県)
鈴木 和博(東京都)
堀 勝雄(神奈川県)
川口 真由(神奈川県)
川西 諒一(東京都)
柳 せつ子(東京都)
日下部 公実子(北海道)
石毛 愛佳(千葉県)
宮田 裕之(神奈川県)
佐藤 薫(東京都) 箭本 陽子(東京都) 石井 達也(神奈川県)
5 級(29 名) (非公開:13 名)
ラフィディナリブ エリズファビエン(長崎県)
青木 雄佑(東京都)
福家 浩之(大阪府)
今枝 美奈(愛知県)
今泉 敦(北海道)
西村 梨恵(三重県) 麻生 英伸(神奈川県) 長尾 千鶴(神奈川県)
基礎レベル
森 啓五(埼玉県) 原田 翔太(山口県) 瀧口 真実(福島県)
4 級(34 名) (非公開:18 名)
藤崎 繁治(東京都) 佐藤 治子(群馬県)
福原 菜摘(兵庫県)
山田 真梨子(三重県)
遊免 尚美(三重県)
佐々木 美和(宮城県)
辻 雅浩(愛知県)
堀 勝雄(神奈川県)
楠本 宏正(神奈川県)
川西 諒一(東京都)
森 邦博(石川県)
宮田 裕之(神奈川県)
西村 梨恵(三重県)
太田 あゆみ(兵庫県)
麻生 英伸(神奈川県)
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第61回JTF<ほんやく検定> 1・2級合格者プロフィール 2014 年 7 月 26 日(土)に実施されました第 61 回 JTF <ほんやく検定>で、
1・2 級に合格された方々のプロフィールをご紹介します。項目は以下の 4 つです。 ①得意な分野と言語は? ②現在のお仕事は? 合格者への連絡先は、
③学歴・職歴と翻訳の実務経験は?
「検定合格者リスト
④翻訳依頼時の制約条件・希望条件は?
」 (JTF 会員専用サイト)
http://www.jtf.jp/user/u_0101.do をご覧ください。
小松 真美子(こまつ まみこ) 実用レベル・英日翻訳・医学・薬学 1 級合格
1
東京都在住 ①医薬(英日) ② 2014 年現在、フリーランス校閲者(英日、日英、独日、 日独)。今後は翻訳へ移行したいと考えております。 ③大学は文学部で心理学を専攻、1 年間ドイツに交換留学。
田中 孝(たなか たかし) 実用レベル・英日翻訳・科学技術 1 級合格
翻訳会社で医薬翻訳の校閲者として 2 年間勤務ののち、現
神奈川県在住
在は在宅フリーランスにて校閲をしています。
①電子回路、半導体、マイコン、Lua。英文和訳。
④平日のみ、翻訳会社からの依頼に応じることができます。
1
②フリーランス翻訳者 ③電波高専電子工学科卒業(1988 年)。電機メーカーで電子
オンサイトも可能です。
回路の設計に従事(1988 ∼ 1996 年)。フリーランスとし て技術翻訳に従事(1997 年∼)。 ④御依頼をお待ちしております。制約条件・希望条件はご 小林 昭博(こばやし あきひろ) 実用レベル・英日翻訳・情報処理 1 級合格
1
ざいません。
東京都在住 ① IT 全般。現在は英日のみ。ハードウェア / ソフトウェア のマニュアル、技術文書、UI、Web サイト、トレマテ、マー
大久保 雄介(おおくぼ ゆうすけ)
ケティング資料、データシート、契約書などに幅広く対
実用レベル・日英翻訳・情報処理1級合格
応可能。
長野県在住
②フリーランス翻訳者 ③早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。旅行業界新
1
①コンピュータ全般。マニュアル、マーケティング資料、e ラーニング、コラム等幅広く対応可能。英日と日英、両
聞社記者、家庭教師を経て、バベル翻訳・外語学院・通
方の案件を承ります。
学教育部のビジネス翻訳コース基礎課程を修了。翻訳会
②フリーランス翻訳者。
社にてオンサイト翻訳者として勤務後、2000 年 4 月に独
③大学で英語学を専攻。その後ソフトウェア開発会社の翻
立。取得資格 : 初級シスアド、TOEIC 940 点、工業英検 2 級。
訳部門で翻訳者 / レビューアとして 6 年間勤務。2009 年
使 用 可 能 ツ ー ル : TRADOS 2007/2014、Idiom Desktop
からフリーランス翻訳者。2012 年に「IT ソフトウェア翻
Workbench、HyperHub ほか。
訳士認定試験」1 級を取得。Trados や HyperHub など各
④翻訳会社からの依頼に応じることができます。1 日 2,000 ∼ 2,500 ワード、週 10,000 ∼ 15,000 ワード対応可能。
種翻訳ツールの使用経験あり。2014 年現在 34 歳。 ④翻訳会社からの依頼に応じることができます。英日翻訳 は 1,500 ワード / 日、日英翻訳は 3,000 文字 / 日を目安に 対応可能。
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染谷 ゆうじ(そめや ゆうじ) 実用レベル・日英翻訳・特許 1 級合格
第61回JTF<ほんやく検定> 1・2級合格者プロフィール
1
埼玉県在住 ①日英特許翻訳(主に電気・電子分野) ②フリーランス翻訳者 ③大学は工学部で電気電子専攻、在学中に翻訳学習を開始 し、その後フリーランス翻訳者として契約書、論文、マニュ アル等(日英および英日)の翻訳に従事した期間を経て、 現在(2014 年 10 月)までの約 14 年間は専属フリーラン ス翻訳者として日英特許翻訳(主に電気・電子分野)に 従事。他の取得資格は、知的財産翻訳検定 1 級(和文英訳・
若杉 英(わかすぎ すぐる)
電気電子工学) 、実用英語技能検定 1 級など。
実用レベル・日英翻訳・政経・社会 2 級合格
④日英翻訳で、1 週間に英語 200 ワード 50 枚程度です。
2
新潟県在住 ①技術文書、政経教育全般。日英が中心です。 ②フリーランス翻訳者、英語講師。
矢島 有記(やじま ゆうき) 実用レベル・英日翻訳・科学技術 2 級合格
③早稲田大学商学部卒業。外資系食品メーカーに営業職とし
2
東京都在住 ①現在(2014 年 10 月時点)の業務では、コンピューター関 係の英日翻訳が中心です。このほか、契約書、金融経済 分野の翻訳も手がけています。IT 系翻訳という仕事の性 質上、各種ツールにも対応可能です。なお、ほんやく検
て 6 年間勤務。退職後、ハワイ大学で Second Language
Studies を専攻、卒業。帰国後から現在まで大学で英語の 講師をしています。また、2013 年 9 月からフリーランス として翻訳の仕事をしています。TOEIC975 点。 ④翻訳会社からの依頼に応じることができます。詳細はお 問合せ下さい。
定ではこれまでに、特許(1 級)、政経・社会(2 級)、情 報処理(2 級)、医学・薬学(3 級)を取得しています(い 日下部 健一(くさかべ けんいち)
ずれも英日) 。 ②翻訳会社内で英日翻訳に従事しています。
実用レベル・英日翻訳・情報処理 2 級合格
③早稲田大学商学部にて経済学史を専攻。その後、商社、
カナダ在住
2
個別指導塾、翻訳会社内チェッカーを経て現職。現職で
① IT 全般、特にプログラミング、ソフトウェア開発、ネッ
は主に、IT 系翻訳の英日翻訳に従事。このほか、フリー
トワーク、情報通信。他に計測機器関連。英日・日英対
ランスとして 2008 年より翻訳業務を数社から受注(金融、
応できます。 ②フリーランス翻訳者。カナダ在住(日本からみて -17 ∼
会計、法律の英日が中心)。 ④上記のとおり現時点ではフルタイムで勤務しているため、
-16 時間の時差)。 ③大学院の化学工学専攻を修了後、ソフトウェア開発会社
対応は休日のみとなります。
に約 6 年半勤務。バンクーバーの通訳翻訳学校で 7 ヵ月間 の講座受講(ディプロマ取得)を経て独立。英日、日英 田中 美佳(たなか みか) 実用レベル・英日翻訳・金融・証券 2 級合格
の翻訳講座修了。Java、2 種情報処理技術者などの IT 系
2
東京都在住 ①金融・証券。英日のみ。 ②フリーランス翻訳者。
資格を保有。TOEIC 915 点。 ④在宅の翻訳業務に対応できます。翻訳量の目安は英日翻 訳で 2,000 ∼ 2,500 語 / 日、日英翻訳で 4,000 ∼ 4,500 文字
/ 日です。Trados(2007 のみ)、SDLX 対応可。
③私立大学商学部を卒業後、大手証券会社関連リサーチ部 門に勤務。退職後、翻訳学校にて実務翻訳、金融・証券 翻訳のクラスを受講。1998 年より金融・証券分野のフリー ランス翻訳者として活動中。 ④翻訳会社からの依頼に応じることができます(平日、休 日とも可能)。翻訳量は英日の場合、1 日に原文 1,000 ワー ドが可能です。
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次号 予告
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March / April 2015 #
2015 年 3 月 13 日発行予定
※発行日や内容は変更になる可能性があります。
特集「クラウド時代の翻訳サービス」 短期間に 4,900 万ドルをベンチャーキャピタルから調達し、 年率 250% で売上を伸ばしている翻訳関連のベンチャー企業があるのをご存知ですか? その会社の名前は Smartling。 次号では、GMO スピード翻訳の古谷祐一さんを特集編集者に迎えて、 クラウドが普及するこれからの時代にどのような翻訳サービスが顧客から求められていくのかを考えます。ご期待ください。
第 24 回 JTF 翻訳祭にご参加くださった皆さま、ありがとうございま した。おかげさまで過去最多の方々にお集まりいただき、盛況のうちに 終えることができました。当日ご来場いただけなかった方も、ぜひ JTF ジャーナルのこの特集号で JTF 翻訳祭の雰囲気にふれてください。
JTF 翻訳祭は現在のアルカディア市ヶ谷に会場を移して 5 回目の開催 になりますが、はじめてこの会場を利用した第 20 回のときと比べて、 さまざまな立場の方が参加してくださるようになってきたと思います。
JAT(日本翻訳者協会)の特別協力は特に目覚ましいものですが、それ に加えて機械翻訳の専門家の皆さん、翻訳を大学で学んでいる皆さん、 世界に顧客を持つ翻訳支援ツールのメーカーなど、翻訳者と翻訳会社の 枠を超えた方々のご参加が増えてきて、それが JTF 翻訳祭に新しい活気 をもたらしているように感じました。 一方で立ち見の会場が複数でてしまい、聞きたかったセッションを聞 き逃すことになった方が少なからずいらっしゃったことは申し訳なく、
JTF 全体として改善していくべき課題ととらえ、次回以降の翻訳祭にこ の経験を活かしていく所存です。どうかご容赦ください。 私事になりますが、JTF 翻訳祭は自分のこれまでの職業生活のそれぞ 一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌 日本翻訳ジャーナル 2015 年 1 月/ 2 月号 #275 発 行 ● 2015 年 1 月 16 日
れの時期に出会った方々といちどきに再会できる機会として年々得難い ものになってきました。一つの組織にずっと所属していたらこれほど多 くの人たちと知り合えなかったろうと思います。長くひとつの仕事にた ずさわっていけることのしあわせを実感した一日でした。
発行人 ● 東 郁男(会長) 編集人 ● 河野 弘毅 発行所 ● 一般社団法人 日本翻訳連盟 〒 104-0031 東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F TEL. 03-6228-6607 FAX. 03-6228-6604 E-mail. info@jtf.jp URL. http://www.jtf.jp/ 企画・編集 ● ジャーナル編集委員会 校正協力 ● 菊地 清香、豊田 麻友美、中尾 千恵、中村 克也 久松 紀子、松浦 悦子、矢能 千秋 表紙撮影 ● 世良 武史 デザイン ● 中村 ヒロユキ(Charlie's HOUSE) 印刷 ● 株式会社 プリントパック
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編集長
河野 弘毅
Kawano Hiroki
翻訳・ローカリゼーション・ ドキュメンテーションサービス
Communications for a global marketplace
51年目のスタート。 十印は、 ますます激しくなる時代の変化に迅速に対応するため、 機械翻訳をはじめとした技術革新を目指します。 2014年、更なる進化を求めて、 新オフィスで51年目をスタートしました。
Our office has moved >>> 本社移転のお知らせ 営業開始日:2014年4月21日 (月)
<新住所> 〒141-0031 東京都品川区西五反田7丁目25番5号 オーク五反田ビル TEL 03-5759-4353(代表)FAX 03-5759-4375
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275 January / February 2015
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日本翻訳ジャーナル
一般社団法人 日本翻訳連盟 機関誌
2015 年 1 月 16 日発行
頒布価格
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