あの日からの建築私
―ANOHIKARANO KENCHIKUSHI―
SELECTED WORCS March, 2023 Architecture and Building Engineering Program Univ. of the Ryukyus . 2021 - 2022
落丁本・乱丁本はお取替えいたします。 本書の無断転写、転載は著作権法上での例外をのぞき、禁じられています。
「状態」の建築 | Architecture of “States” ある古い民家を訪れたとき、光、風、音、匂い、人間の活動の 総体としか言い表せない空間に胸を打たれた。 その古民家に足を踏み入れると、私自身これまでなんの脈絡も ないその空間の要素のひとつになれた気がした。空間の側から 許容されたと思える瞬間だった。私は、そのときの様子を「状態 の建築」と名付けた。 あの日から、できうるならばそのような建築を設計できないだろう かと考えるようになった。 本作品集は、これまで設計した建築の中でも冒頭に記した「状 態」が立ち現れているものを選んでいる。かなうならば、建築 の形式性や様式それ自体としてではなく、その場所でしか感じ ることができない光や風、人間の活動を含めた総体のような ものを、過去から現在そして未来へと紡ぐ「状態」として、人々 の記憶のなかに生き続ける建築を設計したい。 2022.12.01 我如古 和樹 Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
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目次 | Contents
Ⅰ ・ Diploma Project , 2022
Ⅱ ・ Competition , 2021-2022
Ⅲ ・ Public buildings , 2021-2022
Ⅳ ・ Houses, etc., 2021-2022
Through The Symphonic Composition of
Architectural Design Competition
Studio assignment 3rd grade
Independent production work
・Home & Office Style「やちむんの家」
・Pavilion「形態に感情が宿るとき」
・Urban Housing「群青 House」
・Childcare Center「交差園」
・Elementary School「葛藤する建築」
・Conversion「都市のオリオン」
CHAPTER Ⅰ
CHAPTER Ⅱ
CHAPTER Ⅲ
CHAPTER Ⅳ
Kandinsky's Work ・「響きのアンソロジー」
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Ⅱ・Competition, 2021-2022
CHAPTER Ⅱ
Architectural Design Competition 所 在 地 : 沖縄県 読谷村 用途地域: 第 2 種住居地域 主要用途: 住宅 兼 アトリエ(夫婦、子供 2 人) 階
数: 地上 1 階
敷地面積: 328.4 ㎡(99.3 坪) 建築面積: 130.4 ㎡(40 坪) 容 積 率: 40%(許容 200%) 建ぺい率: 40%(許容 60%) 最高高さ: 4.1 m 構
造: 木構造
駐車台数: 普
通
自転車
自動車 1 台 複数台
制作期間:2 週間
Home & Office Style, 2021.08
「やちむんの家」 ~中庭がつなぐ職と住~ 木の家設計グランプリ 2021 提出作品
伊礼智 賞・20選
計画敷地周辺図 兼 配置図
計画敷地 : 沖縄県読谷村 那覇空港より約 30km 北上した場所にある計
敷地に対する「職住一体」の住まいをテーマに
画敷地は、陶芸の里(やちむんの里)として人々
掲げた。庭づくりが趣味のサラリーマンの夫と、
に親しまれ、共同登窯を中心として読谷村内に
陶芸家の妻の生活を想像し、豊かな生活が送れ
多くの陶工たちが集まっている。また、住宅が
る住宅の設計を目指した。
立ち並ぶ計画敷地周辺において、計画敷地は三 角形上の余剰スペースとして近代の都市計画か ら取り残されているように思えた。 そのような状況を踏まえて、三角形上の計画
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建築が木々に溶け込むように調和するイメージ
ゾーニング計画について
家族構成
間口の広い計画敷地に対し、中庭を敷地の中
父(38歳)
よく笑う。真面目な性格。
心として据え、囲むように各部屋を配置した。 ここでは中庭が住まいと職場をつなげる共通の
母(36 歳)
コモンスペースとして機能しながら、両者の空
パワフル。頑固モノでお茶目。
間を緩やかに区切る役割を果たしている。また、
息子(5 歳)
8つの壁を設けることで縦方向に対する空間に
笑顔は父親ゆずり。面倒見が良い。
連続性が生まれ、住まいと職場に新たな関係性 が構築されることを意図している。 Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
飼いネコのミース
おとなしいが餌が少ないと怒る。
娘(2 歳)
母親に負けず頑固モノ。
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A-A’ 断面図
平面・断面計画について 周辺環境に対してなるべく建物の高さを低く
び空間認識の操作を行い、住まいと職場を緩や
抑えたかったことから平屋の計画が念頭に置か
かに繋げる工夫をおこなった。リズムある屋根
れた。住まいと職場が付かず離れずの関係性を
高さを利用した窓の配置からは、時間帯によっ
持ち、光や風を取り込む方法として中庭を中心
て異なる光や風を取り込み、時には多様な陰影
に据えた職住一体の住まいを考えた。また、屋
が生まれることで室内はさまざまな要素で彩ら
根高さにリズムを与えることで各部屋の空間と
れる。
機能が1対1の関係性になるように思われた。 住まいと職場のヒエラルキーを無くし、フラッ トかつ曖昧な関係性が立ち現れたように思う。 屋根高さのリズムに合わせるように諸室の床 レベル、窓高さの変化に抑揚をつけて視線およ 1F 平面図 兼 外構計画図
初期の断面イメージスケッチ
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CHAPTER Ⅱ| Home & Office Style「やちむんの家」
北東立面図
住まいと職をまちにひらく この場所でしか感じることができない歴史や
職住一体の住まいのあり方は、都市が急速に
文化、空気のようなものがあるなら、それらを
発展する近代以前はありふれた風景の一部とし
どのように紡ぎ、周辺環境と共存することがで
て地域に佇んでいた。しかし、機能主義が台頭
きるだろうか。
し徐々に専用住宅が主流になった現代の都市に
情緒ある屋根の形態は周辺の街並みに変化を
おいて、「やちむんの家」は昔からそこにある
与え、中庭を介して様々な要素を住まいに取り
ような、しかしノスタルジックに帰することな
込む。植栽計画では、室内の窓から見える景色
くこれからの住まいの在り方を模索している。
との関係性から樹種を選定した。庭先で育つ四 季を感じることができる木々や花々は道行く誰 かの安らぎとなり、ひいてはまち全体へと波及 していくことを期待したい。
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初期の立面イメージスケッチ
建築が木々に溶け込むように調和する
Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
初期のイメージスケッチ
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CHAPTER Ⅱ| Home & Office Style「やちむんの家」
「やちむんの家」で暮らす家族にとって、豊かな生活が送れる住宅であることを期待する
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Childcare Center, 2022.07
「交差園」~マチとヒトをつなげる交差点のあるこども園~ 第 6 回 未来こども園建築デザインコンペ U30 部門 提出作品 主要用途: 認定こども園 階
数: 地上 1 階
敷地面積: 4,000 ㎡ 建築面積: 130.4 ㎡ 容 積 率: 40% 建ぺい率: 40% 最高高さ: 4.2 m 構
造: 木構造
駐車台数: 普
通
自動車 10 台
大
型
トラック 1 台
自転車
複数台
制作期間:2 週間 共同設計者:九州大学大学院 古賀万優子
優秀賞
交差点がもつ機能 複数本の道路が交差することで形成さ れる交差点は、様々な場所からやってき た人が集まる地点となる。その場所では、 人や物が交わり、かねてより交易が発達 してきた。こども園の拠点となる交差点 は、様々な方向から来る人を交わらせ、 繋いでいく機能をもっている。
周辺との関係性 このこども園は、畑・住宅・高齢者施 設に囲まれた場所に位置している。こど も・親・高齢者・農家と様々な世代の人々 が暮らす街であり、地域全体でこどもの 成長を見守ることができる場所である。
世代を超えた交流が生まれる 核家族化により減少している多世代間 交流を行いやすい位置関係にある。多世 代の人々が同じ場で過ごし交流すること は、生活を豊かにし、こどもの成長を刺 激するだろう。
1F 平面図 兼 外構計画図
交差点の建築化 こども園として必要な機能でありながら、周辺地域の人々も利用が可能な施設を併設 し、交差点での交流を生み出すこども園を計画する。
こども・高齢者・地域住民それぞ
ボリュームの間を縫うようにして、
道に沿って内部と外部の境界を整
れの利用空間を、3 つのボリューム
道で繋ぎ交差点を形成
理し壁を立ち上げる
で敷地内に配置
諸室配置計画 こども・高齢者・地域住民の動線が交差する建物の中心にまちかどテラスを設け、地 域全体が交流する場とする。より上位の発達段階にある 5 歳児の保育室を、高齢者との 交流をより図りやすい北側に配置し、職員ゾーンに向かって 0 歳児保育室までを順に配 置した。保育室同士は家具で間仕切り、異年齢のこども同士での交流も行いやすくする。
Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
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CHAPTER Ⅱ| Childcare Center「交差園」
A-A' 断面パース
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地域と交わりマチと共に成長する ある一日のこども園の様子を描いている。左右の
<モノ・コト・ヒト>がつながる。毎日登園す
屋根の高さを変えることで設置したハイサイド
るこどもだち、テラスで食事をとる地域住民、
ライトと、建物外周に並ぶ開口によって室内に
企画室でサークル活動を楽しむ高齢者、こども
光と風を取り込む断面計画とした。
に作物の育て方を教える農家など、周辺のすべ
また、建物外部4方向に曲線状の伸びやかに
ての人々を交差点のあるこども園が繋ぎ、こど
連なる軒下空間が、各利用者の憩いの場となる。
もたちは地域と交わりマチと共に成長する。
ちびっこ広場へと伸びる軒の高さは、こどもの 身体スケールに合わせて低く計画している。こ こでは保育室、まちかどテラス、企画室が大屋 根の下でシークエンスに繋がっている。 交差園は、交差点があることによって様々な
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こども園に様々な方向からくる人々の振る舞 いを許容するため、おおらかな大屋根とそれ を支える構造体によって実現する。
こどもの身体スケールに合わせて、軒先を 低く設計した。それを可能とするために軒 先の梁せいを終端 60mm とし、水平カット
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断面詳細図
を行っている。
アイソメパース
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CHAPTER Ⅱ| Childcare Center「交差園」
職員室側デッキから広場全体を見渡す
マチとヒトをつなげる交差点のあるこども園 交差点は、さまざまな方向からくる人を交らわせ つなげる働きを持つ。 こどもたちをマチのヒトをつないだり、小さな生 き物とつないだりと、交差点があることによって 生まれる機能や動線がさまざまな環境とこどもた ちをつなぐ。 つながりが生まれることで次第に「共生」してい くことの大切さを知る。
沢山の人が利用するまちかどテラスと遊戯室
交差点からはじまるこども園の設計によって、新 しい環境が生まれることを期待する。
家具で仕切られ広場とも一体感の取れる保育室
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ちびっこロードでこどもの作品を見る
Ⅲ・ Public buildings, 2021-2022
CHAPTER Ⅲ
Studio second half assignment 3nd grade 所 在 地 : 沖縄県 宜野湾市普天間基地跡地 用途地域: 商業地域(想定) 主要用途: パビリオン(博物館 兼 祝祭広場) 階
数: 地上 6 階 地下 1 階
敷地面積: 3,850 ㎡ 建築面積: 2,350 ㎡ 建ぺい率: 61%(許容 80%) 最高高さ: 35 m 構
造: 鉄筋コンクリート造 一部 鉄骨造、木構造
制作期間:2 ヵ月
FUTENMA EXPO’2030, pavilion, 2022.01
「形態に感情が宿るとき」
~沖縄の光にのせて平和を伝えるパビリオン~
CHAPTER Ⅲ| Pavilion「形態に感情が宿るとき」
形態に感情が宿るとき 建物の内部から派生した空間や空間体験が、建築の形 態や外部空間と重なったときに立ち現れる建築の様相と はなにか。そして、建物に訪れた人々に対する身体を通 した経験、あるいは感情に訴えることのできる建築の形 態とはなにかを模索した。 揺さぶられた感情はやがて人々の記憶を形づくり、そ の記憶を人々は共有し、思いを馳せるのではないだろう か。本提案では、建築の形態(様相)に人々の感情がフィー ドバックされたとき、本提案は建築としてなり得ると考
外周に張り巡らされた鉄製のフェンスである。どちらも 外的要因に対する構えとして設けられるが、住人の心理
建築形態のイメージ 建築を構想し始めたとき、沖縄の土着の芸能である「琉 球舞踊」の所作を建物の形態としてイメージした。力強 さとしなやかさを兼ね備えた琉球舞踊の所作が、沖縄の 歴史を表しているように思えたからだ。
的な実情はまるで意味が異なる。 本提案では、沖縄の一風景としての両者が持つ意味・ 要素を乗り越えるべく、新しい格子の設計を行った。具 体的には、GL に近づくにつれて格子の開口率はヒュー マンスケールに、上階に行くにつれて都市スケールに変 化するよう操作した。そのため、内部から外の景色を望
2 つの格子
む際、上階に行くほど開口部の領域は広がる。
えた。形態という言葉には「人の記憶のかたち」と「建
現在、私たち沖縄の生活を取り巻く 2 つの格子がある。
境界としての分断、あるいは遮るものとしての 2 つの
築のかたち」の二つの意味が込められている。その両者
ひとつは沖縄の伝統住宅にみられる「竹垣(チニブ)」と、
格子は、ここでは繋げるものへと役割が変化している。
に感情を宿した建築が、普天間飛行場跡地という場所で
もうひとつは戦後沖縄の風景の一つとなった米軍基地の
琉球舞踊「二童敵討(にどうてきうち)」七目付ちの場面
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人々の前に立ち現れたらどんなに良いだろうと考えた。
断面のファーストスケッチ
上 伝統住宅のチニブ(竹垣) 、下 米軍基地フェンス
Elevation drawing
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2Floor plan
5Floor plan
平面計画について
B1 plan
建物平面の外壁は、敷地境界線から 5 mセットバックす ると同時に、祝祭広場に向かって曲線を描く計画とした。直 線の外壁だとボリュームが必要以上に大きく見えたからであ る。また曲線を描くことによって、建物の外観にしなやかさ があらわれ、訪れる人々をゆるやかに招き入れるサインとし て機能する。
◀ 1Floor plan
3Floor plan
6Floor plan
4Floor plan
Roof plan
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CHAPTER Ⅲ| Pavilion「形態に感情が宿るとき」
48
49
CHAPTER Ⅲ| Pavilion「形態に感情が宿るとき」
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▲ Sectional configuration
普天間国際博覧会「FUTENMA expo' 2030」
ファーストスケッチ ◀ Site plan
本提案は、普天間基地跡地を計画敷地として
あるが、多くの市民はどのように感じているだ
2030 年に開催される予定の普天間国際博覧会
ろうか。人類史を振り返ると、多くの人が同じ
「FUTENMA expo' 2030」に際して、メイン会
出来事や経験によって記憶や歴史を共有すると
場となる祝祭広場と琉球パビリオンを設計する
き、建築は都市のなかのモニュメントに近づく
というものである。
ことがわかる。
普天間飛行場は 96 年に全面返還合意された。
本提案は、博覧会のメイン会場として、開幕
現在、跡地利用計画の作成が進められているが、
後は普天間の中心施設としてモニュメントとな
取り巻く状況は変わらず、跡地利用計画につい
るような建築をめざした。形態に感情が宿ると
ての議論が積極的に交わされているとは言い難
き、未来の沖縄の一風景として、この先の遠い
い。都市再生事業は政治家や地権者、官僚、土
未来まで人々に愛される建築になることを願っ
地購入者、建設計画者にとっては当事者意識は
ている。
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CHAPTER Ⅲ| Pavilion「形態に感情が宿るとき」
沖縄の未来に思いを馳せる場所 地下 1 階の広場には、祝祭広場に設けた水盤の水が湾曲した外壁 をつたい流れてくる。太陽の軌道に沿い、正午に差し掛かる頃に入 射してくる光が水盤を反射して空間を照らす。ここでは、光だけが 空間の輪郭をあらわにする。建物を訪れた人々がさまざまな思いを 馳せる場として、普遍ともいうべき太陽の運動とともにあろうとし た。人々が遠い未来に思いを馳せて、遥か彼方の過去を振り返ると き、建築物が人々の感情に寄り添いともに歩もうとする場が必要で あると考えた。
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First basement floor plan
Elementary School, 2021.11
「葛藤する建築」~二面性を持つ空間で育む小学校生活~ 第 29 回 琉球大学合同設計発表会 選出作品 所 在 地 : 沖縄県 那覇市天久 1 丁目 用途地域: 第 1 種中高層住居専用地域 主要用途: 小学校 階
数: 地上 2 階
敷地面積: 18,902 ㎡ 建築面積: 6,750 ㎡ 容 積 率: 55%(許容 150%) 建ぺい率: 35%(許容 60%) 最高高さ: 12 m 構
造: 鉄筋コンクリート造 一部 鉄骨造、木構造
駐車台数: 普
通
制作期間:2 ヵ月
自動車 5 台
第1位
CHAPTER Ⅲ| Elementary School「葛藤する建築」
初めて鉛筆を握った日の指先と筆圧の葛藤
喧嘩をした後の心身における葛藤
席替えで初対面の子との精神における葛藤
葛藤すること 「葛藤」とは自分と他者(対象)との相互関係によって成り立つ言葉であり、社会性や将来性を育んでいく行為である。 また、葛藤することは自分や他者と向き合った軌跡の証ではないかだろうか。 そこで、「葛藤」することは自分と他者(対象)との距離感を図る行為であると考えた。子どもたちが自分の心身 のスケールを知るきっかけの溢れる小学校建築を提案する。
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計画敷地周辺図 兼 配置図
外構計画および配置計画について 計画敷地の北側には低層住宅街が広がってお り、南側の交通量の多い大通り沿いに商業施設 が立ち並んでる。また、計画敷地に隣接して大 きい原っぱを有する公園が整備されており、そ の緩衝部分の並木道には、生徒たちが登下校す る風景が見られた。それら特色のある要素を反 映させるために、公園との繋がりを意識した配 置計画、および街路樹・花道を引き込む計画と し、特色ある 4 方向からアクセスできるアプ ローチ計画としている。
二面性を持つ空間の平面ダイアグラム
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二面性を持つ空間の断面ダイアグラム
Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
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1F 平面図 兼 外構計画図
二面性を持つ空間で育む小学校生活 小学校は、人生経験の積み重ねの初期過程に位置す
る行為であると考え、それらを「建築的スケールを主
るため、日々の生活に葛藤が溢れている。それら行為
軸とした二面性を持つ空間」をキーワードとして挙げ
を活かせる、または生み出すような学校建築の在り方
た。ゾーニング計画を行う段階で、建築の柱・壁・屋
を模索する中で、合理性や機能性を優先した建築とは
根などの要素を分類し、二面性を持つ空間の平面ダイ
違った場所や空間を設計した。ここで 6 年間を過ごす
ヤグラムと、断面ダイアグラムをもとにそれぞれの場
生徒たちにとってより良いアクティビティが生まれる
における生徒たちのアクティビティを想像しながら平
学校建築を提案する。
面・断面計画に反映させた。
「葛藤」という抽象的な言葉を建築に落とし込む際
平面計画では、1・2 年生の生徒に親子で並木道を
に、「葛藤」とは自分と他者(対象)との距離感を図
登下校して欲しいという思いから、公園の近くに配置 した。3・4 年生は低層住宅地と近接させることで安 心感が得られるのではないかと考えた。5・6 年生は 次第に社会に関心を持つことから、人通りの多い商業 施設に近接している。 断面計画では、計画敷地の周辺建物の最高高さに合 わせて、建築物の屋根高さや、屋根勾配を決定してい る。それらは二面性をもつ空間とのすり合わせを行い ながら内部空間の要素として活かされている。
2F 平面図
1
体育館
8
廊下
2
玄関
9
階段(踊り場)
3
ピロティ
10
職員室
4
玄関 2
11
職員更衣室
5
特別支援教室
12
家庭科室
6
お手洗い
13
屋上
7
1年生教室
北側立面図
A-A' 断面図
CHAPTER Ⅲ| Elementary School「葛藤する建築」
成長する君へ、成長した君へおくる建築 建築の空間によって心情に変化が起こる。 心情の変化によって生徒のアクティビティに変 化が生まれる。 「建築」と「葛藤」の相互作用と関係性による 小学校の設計を行った。 葛藤する建築。それは成長する君へ、成長した 君へおくる建築の提案である。
建物中央のボイドから空を見上げる少年
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Ⅳ・ House, etc., 2021-2022
CHAPTER Ⅳ
Independent production work 所 在 地 : 沖縄県 那覇市上之屋 1 丁目 用途地域: 第一種中高層住居専用地域 主要用途: 専用住宅(夫婦、子供 2 人) 階
▪ Second floor plan ▪ Plan 1 Entrance lobby 玄関 2 Kitchen 台所 3 Dining area 食卓 4 Living area 居間 5 Terrace 庭 6 W.C. 便所 7 Bathroom 浴室
8 Washroom 洗面所 9 Servuce yard 洗濯干し場 10 Stairs 階段 11 Master bedroom 主寝室 12 Study 書斎 13 Bedroom 寝室 1 14 Bedroom 寝室 2
数: 地上 2 階
敷地面積: 180.67 ㎡ 建築面積: 76.50 ㎡ 延床面積: 103.50 ㎡ 容 積 率:57 %(許容 200%) 建ぺい率: 42 %(許容 60%) 最高高さ: 6.0 m 構
造: 鉄筋コンクリート壁式構造
駐車台数: 普
通
自動車 2 台
制作期間:2 週間
▪ First floor plam
Urban Housing, 2021.03
「群青 HOUSE」 ▪ Axonometric projection
CHAPTER Ⅳ | Urban Housing「群青 House」
01 都市から住宅、そして身体へ 身体が住宅を介して都市と繋がる空間を考え る。ここでは次第に変化する「空間スケール」と「要 素の重なり」を住宅に挿入した。
計画敷地は国道 58 号線に近接しており、計 画敷地周辺にはさまざまなエリアにアクセスで きる。日中は 58 号線の交通量が激しく周辺に は高層マンションが立ち並んでいるため、住宅 プランではプライバシー空間の質が重要である ことが分かった。また、58 号線沿いから住宅 街に進むにつれビルディングタイプのスケール が徐々に小さくなっており、斜めの線が形成さ れていることに気が付いた。このグラデーショ ンによるスケールの変化を住宅のプランに組み 込むことを検討した。
fig01 都市スケールの変化
02 沖縄の伝統住宅にみられる空間の複層性 沖縄の伝統住宅にみられる空間の複層性を再 解釈し、空間のレイヤとしてさまざまな要素が 重なる住宅の設計を試みた。
fig02 伝統住宅の断面構成
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fig03 本設計の断面構成
fig04 伝統住宅の平面構成
03 要素の重なりを都市を介して発見する 沖縄の街並みを「チャンプルー文化」とひとくく りで表現するのは少しだけ強引に感じた。 沖縄では「混ざり合う=チャンプルー」と表現す ることが多々あるが、 「混ざり合う」とは、個々 の個性がある調和に向かって折衷的な抽象化のあ り方探っているように思う。 一方で沖縄の文化は混ざり合うというよりは、 個々の個性が極めて強く主張しあい、その緊張関 係が独特の文化を形成してきたのではないか。 例えば、沖縄の伝統的踊りのエイサーにみられる 三線と太鼓の音色はそれぞれにぶつかり「重なり」 あい、その緊張関係の中に美しさがある。 そのような要素の「重なり」は、食文化、衣服、 言語、建築とさまざまなところで発見することが できる。 目の前にひろがる雑然とした街並みの表象には表 れない「重なり」の部分に着目して設計を進めた。
▪ Site plan
64
▪ Composition diagram
▪ First floor plam
Conversion, 2022.03
「都市のオリオン」 ~公共的余白をもつレストランの提案~ 第1回 琉球大学けんちくクラブ レビュー会 提出作品
ビルド賞&レイアウト賞
所 在 地 : 沖縄県 那覇市安里 用途地域: 商業地域 現 用 途 : 私立予備校 提案用途:レストラン、広場 階
数: 地上 1 階、半地下
敷地面積: 869.220 ㎡ 建築面積: 415.500 ㎡ 容 積 率: 47%(許容 200%) 建ぺい率: 47%(許容 60%) 最高高さ: 3.2 m 構
造: 鉄筋コンクリート壁式構造 鉄骨造
駐車台数: 搬入用 トラック 1 台 制作期間:2 週間
沖縄の冬、南の方角に向かって夜空を見上げるとオリオン座が見える。いつもオリオン座を見 るたびに「星座っていいな」と感じていた。星座は隣り合う星との関係性によって構築されて いる。ひとつ星がなくなったりすると、その関係性は崩壊する。 都市に存在する建物が一つの機能で完結せずに、様々なネット―ワークを介すことによって構 築する、目的を持たずとも訪れることのできる建築の在り方を考える。 北側立面図
CHAPTER Ⅳ | Conversion「都市のオリオン」
計画敷地 : 沖縄県那覇市安里
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計画敷地は、那覇市の国際通りから横にそれ
道路の河川の向こう側の大通り沿いでは、日々
て小道に入り車が一台通るぐらいの狭い路地の
人々の往来が激しいことが分かった。しかし、
脇にある。敷地に向かって下方には河川が流れ
現行している都市機能は目的や意味が先だって
ており、上方にはモノレールが通りビルが立ち
存在しており、都市には意味の持たない余白の
並んでいる。
ような場所が必要であると考えた。そこで本設
周辺には商業施設、県立図書館、国際通りな
計では目的を持たずとも訪れたくなる「余白の
ど都市機能が充実している。また、ビジネス街
ある空間」を都市の安らぎの場として設計する
や飲食店、観光産業が盛んな地域であり、前面
ことを目標とした。
計画敷地周辺図
コンバージョン―減築による新たな空間の創出 既存建物は、鉄骨造トタン張りの平屋形式で、 用途は中高生向けの学習塾である。本設計では、 既存建物に対してある一定のボリュームを取り 出すことで空隙空間が生まれ、それにより新た な空間が創出できると考えた。また、前面道路 に対して可能な限り空隙空間を開くことで、日 光・風・都市の音、通り沿いを歩く人々を許容 する樹木のようなおおらかな建築を目指した。
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CHAPTER Ⅳ | Conversion「都市のオリオン」
都市のオリオン―星座のような関係性 計画敷地周辺を歩いているとき、建築家ルイ スカーンによる都市についての論考を思い出し た。「都市とは、少年が朝早くから出かけて夕 方に帰宅するころには将来の夢が決まっている 場所を指す(意訳)」 。 沖縄の都市について想いを巡らせる。果たし てルイスカーンの言うような都市に出向く少 年・少女が夢や希望を託すことのできる都市に なっているだろうか。建物が一つの機能に完結 せずに、目的を持たずとも立ち寄れる余白を、 少年の夢や希望を受け止める余白を都市に挿入 することを試みた。 平面計画では既存建築の外形をそのままに、 屋内空間にはレストラン、半屋外空間には半円 上の余白を設けて「シアター広場」と名付けた。 それらを、建物中央にある大きなテーブルがつ なぐ。また、シアター広場で大道芸や学生サー クル等がパフォーマンスを行う際にはレストラ ン内部も観客席になり、建築内外の物理的な境 界線を越えて、場の雰囲気に一体感が生まれる ことを意図している。シアター広場のためのレ ストランであり、レストランのためのシアター 広場というような関係性を目指した。シアター 広場は、レストランで食事をする目的以外の行 為を受けとめ、さまざまなアクティビティにつ ながる期待を込めている。
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外構計画図 兼 1F 平面図
樹木のような居場所を創る 樹木には余白がある。具体的には枝葉の隙間に「空隙」が存在する。 この空隙からなる空間はさまざまな行為を誘発し許容するおおらかさ がある。ときには鳥が羽を休め、風が通り抜け、枝葉の隙間から木漏 れ日が落ちて人々や動物に安らぎの場を提供している。 本設計においてもそんな場をつくりたいと考えた。既存建物を減築 的に設計することにより余白の場を創出し、人々や自然環境に対して さまざまな行為を誘発し受け止めることのできる空間を目指した。
A-A’ 断面図
Kazuki Ganeko's Selected Works 2020-2022
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あとがき | Postscript
山登りと建築設計| Mountain climbing and Architectural Design 小さい頃から山に登るのが好きだ。自らの五感と身体感覚を研ぎ澄ませ、 大地の強度を確かめながら登っていく。てっぺんまで登り周囲を見渡すと 景色は一変している。見えている世界が変わり、まるで鳥にでもなったか のように、地上に見える街並みや田畑の風景、太平洋の向こう側にひろが る水平線を眺めたり、なによりも全身に風を纏うかのような体験が出来る。 ある日、建築を設計することは山登りと似ていると思った。自らの感性と 創造力を研ぎ澄ませ、その土地の歴史や風土、周辺環境などのさまざまな 要素に応答しながら進んでいく。ある地点まで進むと見える景色が一変す るのだ。私が設計した建物が人々や環境を繋ぎ、ひいては地球を形づくる 要素のひとつとなったとき、これ以上の喜びはないだろう。 そういうわけで、今日も私は山を登る。
我如古 和樹 | kazuki ganeko 2020.04 - Architecture and Building Engineering Program , Univ. of the Ryukyus 2022.04 - Kinjo lab . architectural design
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あの日からの建築私 ―ANOHIKARANO KENCHIKUSHI― 2023 年 3 月 10 日
初版発行
編集・執筆 我如古 和樹 所属 琉球大学工学部工学科 建築学コース 発行元 ○○会社 ○○出版 〒○○○ - ○○○○ 沖縄県○○市○○ 原稿レイアウト作成ソフト InDesign 図面作成ソフト Auto CAD, Jw cad, illustrator 3D モデリングソフト Sketchup パース作成ソフト Lumion, Photoshop, Lightroom 表紙デザイン Urban Housing「群青 House」1F 平面図 裏表紙デザイン 沖縄県那覇市首里金城町地区 周辺図 印刷・製本 ○○会社 ○○出版 〒○○○ - ○○○○ 沖縄県○○市○○ 落丁本・乱丁本はお取替えいたします。 本書の無断転写、転載は著作権法上での例外をのぞき、禁じられています。
ISBN ○○○ - ○ - ○○○○○ - ○○○ - ○ Printed in Japan ©Kazuki Ganeko
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0000000000000 定価:本体 0,000 + 税 ISBN ○○○ - ○ - ○○○○○ - ○○○ - ○ C0000 ¥0000E