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ファブの経済性

多くの利点をもたらすサイクルタイムの 短縮 Doug Sutherland – KLA-Tencor Corporation

コンシューマエレクトロニクスが工場の収益力向上の原動力となる中、ウェーハのサイクルタイムが半導体製品の市場投入ま での時間を短縮する決め手となっている。サイクルタイムを短縮して運用効率を向上させることで、ウェーハ工場環境の稼働 率改善と早期の市場投入を実現できる。 通常、計測および検査工程がウェーハ工場の合計サイクル タイムに占める割合は5%ほどにすぎないが、これらの計測 および検査工程でもたらされる価値は、歩留まりの改善と いう点から、プロセスに要するサイクルタイムコストの何 倍にもなる。しかし、サイクルタイム管理プログラムを成 功させるには、工場内に設置されているあらゆるツールセ ットにおいてサイクルタイムを短縮するというファブワイ ドな活動が要求される。近年、ウェーハ工場では、ツール の利用率を最大限高めてウェーハあたりのコストを引き下 げるという傾向から脱却し、サイクルタイムを短縮して売 上と収益を伸ばそうとする傾向が強くなっている。これら 2つの目的は互いに相反するものである。それは、利用率を 下げるとサイクルタイムは短縮するが、それと同時に生産 性も下がるからである。重要なのは、これら2つの目的のバ ランスをとることである。 サイクルタイム(CT)の短縮は多くの利点をもたらす。その 1つは、製品の市場への早期投入である。ほとんどの半導体 製品(DRAM、フラッシュメモリ、ロジックなど)の価格は、 当初の製品リリースから1年間で50∼80%急落することが 普通である。CTが短いほど、製品が製造工程に投入されて から市場に供給されるまでの価格の下げ幅が小さくなるの で、高い価格を維持できる。その他の利点としては、習熟 サイクルの短縮と仕掛品(WIP)の削減がある。研究開発分野 では、習熟サイクルの短縮は開発時間の短縮を意味する。 量産工程に応用すれば、歩留まりの早期立ち上げに役立 つ。WIPとCTの関係は、いわゆる「リトルの法則」で求め ることができる(1)。

WIP = (CT) x (単位時間あたりの投入量) 上の式では単位時間あたりの投入量が一定の場合、WIPは CTと共に線形的に小さくなることになる。その利点は、 その時々で工場のロット数を少なくできるということであ る。その結果、オーバーヘッドを削減し、プロセス切り 替えの対象となるロット数を減らし、歩留まり異常の発 生に際してリスクにさらされるロット数を減らすことがで きる。また、WIPが少なくなることは、市場が鈍化した際 2007年冬号 歩留まり管理ソリューション

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に手持ちの未完成品が少なくなることも意味する。Clayton Christensenは、サイクルタイムについて、次のような大変 興味深い発言をしている(2)。「開発時間を1日追加すること は、ステッパーの検査であれ、プロセスの検証であれ、製 造するウェーハ1枚あたり3.44ドルを支払っていることに等 しい。また、ダイ歩留まりの成熟が1日延期されることは、 ウェーハ1枚あたり1.35ドル支払うことに等しい。さらにサ イクルタイムが1日延びることは、ウェーハ1枚あたり3.04ド ル支払うことに等しい。」 以上のことから、CTの価値がいかに大きいことが想像でき るであろう。つまり、CTを一日短縮すれば、年間で約100万 ドルの節約となる(30,000 [WSPM] x 12[月数] x 3.04ドル[ウェ ーハ1枚] = 年間110万ドル)。 数学的に説明すると、CTは、待ち時間(1つのロットが処理 されるまで待機する時間)にプロセス時間(ツールでの処理に 要する時間)を加算した数値に等しい。プロセス時間は簡単 に計算することができるが、待ち時間(QT)は、以下の3つの 関数の積として求める必要がある(3)。

QT = {ƒ(変動性)} {ƒ(利用率)} {ƒ(稼動率)} 上記の式が唯一正しい式というわけではない。式に反映させ る詳細レベルに応じ、単純なものから非常に複雑なものまで いくつかの式がある。しかし、基本的には、QTに関連すべ ての数式には以下の4つの特徴が共通している。 1) 変動性のないシステムの待ち時間は0(ゼロ)となる: ƒ(変動性)=0の場合、QT=0である。 2) ƒ(利用率)は1/(1−利用率)に比例する:CTは、利用率 の増加と共に指数関数的に増大する。 3) ƒ(利用率)は1/(ツール数)にも比例する:CTはツール数 が増えるほど短縮する。 4) ƒ(稼働率)が1/(稼働率)と比例する:CTは、稼働率(アッ プタイム)が上がるほど指数関数的に小さくなる。

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ファブの経済性 利用率を下げて稼働率を高めるだけでは、CTは短縮できな い。あらゆる変動原因を排除することによってのみ、QTを ゼロにすることができる。数学的には、変動性はシステム の標準偏差をその平均値で除算して測定される。ウェーハ 工場における変動の基本原因は以下の3つである。 1) ロット到着間隔の変動 2) ロットのプロセス時間の変動 3) ツールのダウンタイムの変動 図1に、1∼5台のツールで構成された同一のツールセットの 運用曲線(CTと利用率のプロット)を示す。ここでは単位変動 性と稼働率100%を想定する。ここで明らかなのは、ツール を1台から2台に増やしても処理能力が単純に2倍になるわけ ではないという点である。CTが、利用率60%のツール1台と 同じ場合、2台のツールを約80%の利用率で実行できる。こ の場合、ツール数が2倍になるだけでなく、それらの各ツー ルで処理できるウェーハが約30%増えることになる。これは 260%の改善率である。n+1台目のツールを増やす効果は、 nが大きくなる(大規模なツールセット)ほど低減される が、原理的にはn=1の場合と同様に利用率を高められる。こ れが、大規模ウェーハ工場が得ている経済的優位性の根幹 を成す教義の1つである。大規模工場は通常、CTが短く、ウ ェーハ1枚あたりのコストも低い。それは、運用曲線の最も 急峻な部分にまで上昇することなく、高利用率でツールを 運用できるからである。

大規模工場は通常、CTが短く、 ウ ェーハ1枚のコストも低い。 それ は、運用曲線の最も急峻な部分 にまで上昇することなく、高利用 率でツールを運用できているか らである。 もう1つの興味深い事例はツールマッチングである。専用(ゴ ールデン)ツールを所有することは必ずしもCT短縮につなが らない。図3は、プロセスの5レイヤを5台の明視野検査マッ チングツールで検査した場合と、4レイヤを4台のマッチング ツールで、残りの1レイヤを1台の専用(ゴールデン)ツールで 検査した場合の、CTへの影響を比較したものである(単純化 を図るため、ここではサンプリング率を100%とする)。5台の マッチングツールの場合、5レイヤともCTは5台のツールの 運用曲線(図1を参照)で表されるが、4台のマッチングツール の場合、4レイヤのCTが4台のツールの運用曲線で表され、 1レイヤのCTが1台のツールのみで構成されたツールセット の運用曲線で表される。この事例で非マッチングツールを使 用した影響は、そのツールセットの合計CTが2倍になったこ とである(図3)。工場では、ゴールデンツールを利用できない 場合、他のツールをマッチングツールとみなして(つまり、

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4.0 1000 Hrs MTBI

1 Tool 2 Tools 3 Tools 4 Tools 5 Tools

5 4

100 Hrs MTBI

Cycle Time (Days)

Cycle Time ( x Process Time)

ツール数の他にも、関連する変動、稼働率、利用率もCTに 直接的な影響を与える。稼働率および利用率をそれぞれ 95%と85%に仮定した場合、いくつかの興味深く予期しな い傾向がサイクルタイムに現われる。たとえば、ある稼働 率について、MTBI (Mean Time Between Interrupts:平均介入 時間)が大きくなると、CTは実際には増大する。つまり、図 2に示すように、同じダウンタイムを、少数の長時間イベン ト(高MTBI、高MTTR)に分割するよりも、多数の短時間イ ベント(低MTBI、低MTTR)に分割したほうが良いというこ とである。この場合、ツール設計の点が問題となることは ない。それは、我々は通常、MTBIが高い(システムのダウ

ンイベント数が少ない)ほど、稼働率が高くなると想定する からである。しかし、点検修理の観点から、我々は「ここ で問題Aを解決したら、同時にB、C、およびDも調整したほ うが良くはないだろうか」というように、実利的な考え方 をすることがよくある。このような善意の行動はツールの MTBIとMTTRを改善するが、稼働率が大きく改善すること はなく(つまり、合計修復時間は変わらない)、結果的にCTを 大きくしてしまう。我々の善意の行動は、顧客のCTを短縮 するという点で、直感に反し、しかも逆効果である。

3 2 1 0 0%

20%

40%

60%

80%

100%

Utilization

3.0

2.0

1.0

0.0 50%

60%

70%

80%

90%

100%

Utilization

図1:1∼5台のツールで構成されたツールセットのサイクルタイムと利

図2:稼働率は同じ(95%)だがMTBIとMTTRは異なる2つのツールセットのサイ

用率。CTの単位はツールのプロセス時間の倍数である。各ツールセット

クルタイムと利用率。CTの短縮という観点からは、稼働率が同じあれば、イ

のツール数が多い大規模工場は、CTに大きな影響を与えずに高利用率で

ベント時間は長いがイベント数は少ない(MTBI=1000時間)よりも、イベント

ツールを実行できる点で優位である。

時間は短いがイベント数は多い(MTBI = 100時間)ほうが良い。この例の両者 の差は利用率85%で約1日である。

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ファブの経済性 ゴールデンツールでロットを処理するまで待機させるより も、他のいずれかのツールでロットを処理することによっ て)、この影響を緩和できる。ただし、この方法では、ベー タリスク増大によるコストは避けられない。

4.0 1 Golden & 4 Matched

Cycle Time (Days)

5 Matched Tools 3.0

2.0

1.0

0.0 50%

60%

70%

80%

90%

100%

Utilization

図3:複数台の専用ゴールデンツールでレイヤを処理した場合、「シングルツー ル」環境(図1を参照)が形成され、サイクルタイムが大幅に増大する。このサイ クルタイムの増大は、利用率が高くなるにつれて悪化する。この事例の場合、 非マッチングツールを所有した結果、サイクルタイムがほぼ2倍になっている。

4.0 Billable

Cycle Time (Days)

Contract 3.0

2.0

1.0

0.0 50%

60%

70%

80%

90%

100%

Utilization 図4:6台の明視野ツールを有償契約からサービス契約に切り替えた場合のサ イクルタイムへの影響。ツールをサービス契約で所有することで稼働率が高 くなると、運用曲線が平坦化すると同時に、利用率が低下する(利用率は生 産時間を稼動時間で除算したものと等しい)。利用率が85%の有償ツールの場

サービス契約では、有償契約と比べ、サイクルタイム管理 にもたらす利点が3倍になる。第一に、サービス契約はツー ルの稼働率を高める。これは言い換えると、利用率が自動 的に小さくなるという利点も追加される(利用率は、生産時 間を稼動時間で除算したものに等しい)。最終的には、サー ビス契約はダウンタイムの変動を大幅に縮小する。このこ と自体、CT短縮に大きく寄与する。図4に、2つの異なる条 件下で6台の明視野検査ツールを運用したときの運用曲線を 示す。1つは、有償ツールの代表的な信頼性特性値を適用す るという条件、もう1つは、サービス契約下で6台のツール を保証対象とする条件である。対応が速く(ダウンタイムが 短く、稼働率が高い)、またダウンタイムの変動が小さくな ると、CTが1.9日短縮される。もう1つの大きな要因は、利 用率は生産時間を稼動時間で除算したものと等しいので、 有償契約の場合に85%の利用率で運用しているツールセット は、サービス契約だと82%の利用率で運用できるということ である。 IC業界がコンシューマエレクトロニクスによって活力を得 るにつれ、適切な量の製品を適時生産することを目指すウ ェーハ工場にとって、サイクルタイム(「市場投入までの 時間」ともいう)はこれまでにない重要性を帯びてきてい る。ICメーカが初めて見込み客に提供するエンジニアリン グサンプルによってデザインウィンを獲得できる可能性も ある。これは、文字通りそのビジネスの成功を左右する。 同様に、数百万ドル分のWIPで身動きが取れなくなってい ても、市場が下降したり消費者が次の新製品に目移りした りすることは止められない。そこが、その年度を増益で終 わることができるか、赤字で終わるかの分かれ道となる。 IC業界には、サイクルタイムの重要性が低い多くのニッチ 市場が存在し、今後もこれは変わらないであろうが、全体 的な傾向として、当面はサイクルタイムを短縮して経営効 率を改善する方向に進んでいくであろう。その結果、ウェ ーハ工場環境に高稼働率と変動縮小をもたらす製品および サービスを重視する傾向は強まっていくであろう。

合、サービス契約に切り替えることでサイクルタイムが1.9日短縮される。

参考文献 1. W.J. Hopp and M.L. Spearman, McGraw-Hill, Factory Physics , 2001, p. 223. 2. Clayton Christensen, Solid State Technology , August 2001. 3. W.J. Hopp and M.L. Spearman, McGraw-Hill, Factory Physics , 2001, p. 325.

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