政策ブリーフ: 日本農業のイノベーショ ン、生産性及び持続可能

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agriculture policy brief

政策ブリーフ: 日本農業のイノベーショ ン、生産性及び持続可能性

May 2019

業政策がイノベーション、起業、持続的な資源利用と親和的になれば、日本の食料・農業部門の未 農 来は明るい。 本の農業政策は歴史的に小規模農家を市場やイノベーションへの誘因から隔離し、農業者を競争力 日 がなく、収益の低い生産活動に留め置いてきた。 本は経済全体のイノベーションシステムや世界的な技術の進展を最大限に生かし、高付加価値の食 日 品やサービスに焦点を移すことにより恩恵を受けられる。

どのような課題があるのか? 日本の農業は、近年まで長らく縮小傾向を見せていた。国内 市場は縮小していくものの、東アジアの急速な経済成長は日 本の農産物・食品に対する市場機会を開いている。ここ20 年で土地利用は大規模なプロ農家に集約した。 さらに、農業 は様々なサービスを価値創造に組み入れることにより技術、 データ集約的産業になっている。日本は、国内でより技術集 約的農業を発展させ、潜在的に、高付加価値な農産物の生産 ネットワークを地域的や全世界に拡大させる上で好位置にあ る。

日本では、経営資源に乏しい小規模家族農家は政府が支えな ければ消滅するとの暗黙の仮定があり、長らく農業は他分野 とは異なる扱いを受けてきた。 国内における農業構造の進展 と、国内、地域的、全世界的なバリューチェーンの統合とい う世界的な潮流を踏まえ、日本の政策パラダイムは、イノベ ーションや起業、持続可能な資源の利用を促すものへと転換 することが求められている。

図. 農業支持の内訳, 2015-17年 (全農業支持推定額(TSE)に占める割合) 市場価格支持 0

10

生産者への直接支払い 20

30

知識・イノベーションシステムへの支出 40

50

60

インフラへの支出 70

その他の支出 80

韓国 日本 中国 カナダ スイス OECD EU28 米国 豪州

出展: OECD (2018), “Agricultural support estimates (Edition 2018)”, OECD Agriculture Statistics (database), https://doi.org/10.1787/a195b18a-en.

www.oecd.org/agriculture

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政策ブリーフ: 日本農業のイノベー ション、生産性及び持続可能性 日本は2000年代から品目横断的な支持の役割を増やしてきた にもかかわらず、依然として生産者支持の大半は特定品目の 生産を必要とするもので占められている。 高い割合の農業支 持がインフラ投資、特に灌漑に向けられている一方、日本の イノベーション・知識システムに対する支出の割合は低い。 農業政策は、農家を非競争的で収益の低い生産活動に留め置 く指示的政策から、生産者が、よりイノベーションに対する 誘因を高め、研究開発や人材育成に対しより積極的に関与す る需要主導的な枠組みに転換すべきである。

環境政策の目的を農業政策の枠組みに完全に適合させる。

農業におけるイノベーションは、農業以外の他分野で開発さ れた技術にますます依存している。農業と他分野の融合を更 に進めることで、日本の農業は、他分野の高い競争力を有す る技術やスキルの恩恵を受けることが可能となるだろう。プ ロ農家の専門的なニーズにより適確に応え、農業と他分野と の融合を促進するためには、民間の生産資材やサービスの供 給者の役割を拡大させる必要がある。農協と他のプレーヤー との競争は、代替的な生産資材やサービスの提供者の発展を 促すだろう。

より協働的な農業イノベーションシステムの確立

農業の環境パフォーマンスの向上と気候変動に伴い増加する 自然災害への備えを強化することは、日本農業の持続的な成 長を確保するために決定的である。一方で、農業の環境負荷 低減に向けた進捗はこれまでのところ限定的であった。日本 は、すべての生産者が環境パフォーマンスの改善に関与する 統合された農業環境政策の枠組みを作るべきである。農業政 策の各プログラムは、農家が持続性の高い生産方式を採用す るよう、一貫したインセンティブを与えるべきである。 政策立案者は何をすべきか? 政策立案者は、農業者と非農業者による継続的なイノベーシ ョンを促しつつ、生産者が最新の技術を導入し、その恩恵 を受けることを可能にする政策環境の整備に着目すべきであ る。このような政策環境は主に3つの側面がある。すなわち 起業、環境的な持続可能性、イノベーションシステムへの関 与である。生産者は自らを国際市場に参画する独立した経済 主体であるとの意識を持つべきである。

農業の環境パフォーマンスの体系的評価に基づいて、国 及び地域レベルで農業環境政策の目標を設定する。

現在の農業環境規範で定義されている順守すべき環境水 準(リファレンスレベル)の範囲を、より幅広い環境課 題に拡大し、環境政策目標とリファレンスレベルを地域 の環境条件を適合させるとともに、直接支払いの受給要 件とする。

公的な農業研究開発は、中長期的視点を持つ前競争的な 分野や、商業生産と結び付いていない分野に集中させ る。

生産者団体との共同出資スキームを含め、研究開発や人 的資本開発における農業・食品産業との連携を強化す る。

民間の技術普及サービス事業者の役割を拡大するととも に、都道府県の普及事業を、持続的な生産方式の促進等 公益的な分野に集中させる。

参照文献 • OECD (2019), Innovation, Agricultural Productivity and Sustainability in Japan, OECD Food and Agricultural Reviews, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/92b8dff7-en. • OECD (2018), Agricultural Policy Monitoring and Evaluation 2018, OECD Publishing, Paris, https:// doi.org/10.1787/agr_pol-2018-en.

イノベーションと起業をより促す政策及び市場環境の構築 •

国際市場に対するより需要主導型のアプローチを構築す るとともに、現地生産ネットワークの国際的展開を行 う。

独占禁止法の適用徹底及び単位農協での信用事業と経済 事業間の相互補てんの制限を通じ、JAグループと他の農 業資材及びサービス供給事業者との間の公平な競争条件 を確保する。

金融支援における政府の役割を減らし、民間銀行の役割 を増大させる。

農業生産を超えた、農家による起業的需要に対応するた め、農業経営政策と、中小企業に焦点を当てたより幅広 い政策との関連性を拡大させる。

品目特定的支持の段階的廃止と、段階的な国際市場への 開放により、生産の決定に関する農家の自由度を高め る。

政策プログラムでカバーされる収入損失の範囲を狭める ことで、通常の経営リスクの管理における農家の役割を 強化する。

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