月刊現代ギター - 2016年6月号

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Vol.50 No.7 June 2016 No.631

June

エグベルト・ジスモンチ

特集 ジョン・ウィリアムス生誕 75 周年──ロングインタビュー:テレーズ・ ワシリー・サバ

12

19 第 2 特集 特別対談:福田進一×平野啓一郎 小説『マチネの終わりに』を語る CONCERT PHOTO REPORT 30

78 名曲・名演 聴き比べ~ナクソス・ミュージック・ ライブラリーで聴くギタリストたち〔3〕

コンサート・フォトレポート

(朝川 博)

荘村清志、小林沙羅(S)

時空を超えて~歴史的ギタリストへの (手塚健旨) インタビュー〔3〕

80

エグベルト・ジスモンチ レオナルド・ブラーボ、近藤久美子(Vn) 原 壮介、北川 翔(バラライカ) 長島 昇、岡部匡美、松澤 栄 さいたまギターデュオ 、 デ ュ オ・ ト ラ サ ル デ ィ

84 86 88

ICHIRO のギターの宝箱〔3〕 (鈴木一郎) a tempo 日記〔74〕 (渡辺和彦) (富川勝智) レパートリー充実講座〔255〕

ロートレック讃歌(E.S. デ・ラ・マーサ)

太田真佐代 藤元高輝

INFORMATION

REPORT 54 日本ギターアンサンブルフェスティバル 神奈川ギターフェスティバル 56 61 カルロス・ホアン・ブスキエール 「スペインギターへの帰還」

INTERVIEW 25 28

エドゥアルド・フェルナンデス アナ・ヴィドヴィチ

40

Jiro's Bar ~濱田滋郎対談[39]

樋浦靖晃(ギタリスト)

49 50 51 52 58 64 74 94 96

ENSEMBLE 92

READING / ESSAY / LECTURE 36

愛器を語る[87]

44

ポインツ・オブ・ギターテクニック[27]

66

12 のエチュード〔3〕

70 71

あなたの街の~ギター教室紹介〔15〕 オールド・ポップス・コレクション〔27〕

75

ポピュラー・ヒット・レパートリー〔39〕

エマヌエーレ・セグレ(ブライアン・コーエン)

谷辺昌央

ドルフィン (鈴木大介)

悲しき天使( ホ プ キ ン)

(たしまみちを)

『パコ・デ・ルシア~灼熱のギタリスト』 新刊案内 新譜案内 外盤案内 コンクール & 演奏会通信 2016 めもらんだむ コンクール・インフォメーション 今月の見どころ聴きどころ イベント & コンサートガイド

アンサンブルの広場

SCORE 113 今月の楽譜解説 114 50 の漸進的な小品 Op.59 より 第 33 番~第 38 番(カルカッシ~原 善伸) 118 やさしい訴え~ロンドー(ラモー~バーケル ト) 120 6 つの独創的な夜の旋律 Op.4a( フェラン ティ) 127 ロマンス、ピアノが聴こえる(中林淳眞)

●表紙 アナ・ヴィドヴィチ ●写真 東 昭年

瀬戸の花嫁(平尾昌晃) (小関佳宏)

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特集/ジョン・ウィリアムス生誕 75 周年 ロング・インタビュー

インタビュアー/テレーズ・ワシリー・サバ 翻訳/森井英朗

ジョン・ウィリアムスの自宅にて © Thérèse Wassily Saba

テレーズ・ワシリー・サバ Thérèse Wassily Saba

シドニー出身ロンドン在住。シドニー大学で音楽学を専攻する傍ら、シドニー音楽院にてクラシックギターを学ぶ。1991 ~ 2014 年イギリスのクラシックギター専 門誌『Classical Guitar Magazine』にて編集・執筆を務める。その他、 『International Record Review』、 『HMV Choice』、ドイツの『Akustik Gitarre』、アメリカの『Guitar Player』 、日本の『現代ギター』など各国の音楽雑誌にて執筆。また、アラビア語、ペルシャ語、スペイン語での書籍編集、スペイン語から英語への翻訳を行なう。

数年前にジョン・ウィリアムスは、海外のコンサートツアーから身を引く事を発表しました。しかし、それは彼が完全 に引退するという意味ではありませんでした。私は 75 歳の誕生日を迎えたジョン・ウィリアムスに、ソニーから発売さた 彼の 58CD + DVD ボックスセットについてのお話を伺ってきました。これまでに CBS とソニー・クラシカルでなされた これらの録音は、凄まじい量の重要な作品群です。彼が行なってきた様々な分野でのコラボレーション作品は、彼が現在最 も向上心のある音楽家の1人であり続けていることを表しています。今回のインタビューでは、『スカイ』など他の録音に ついても話が及びました。さらにグッド・ニュースとしては、イギリス国内のみとは言え、ジョンの新しいレコーディン グやコンサートはこれからも続いていくとのことです。 (テレーズ・ワシリー・サバ)

●『ジョン・ウィリアムス~ザ・ギタリスト』――――― ――(ワシリー・サバ、以下同)今回のボックスセットは 1964 年にあなたが 23 歳で初めて CBS と録音した作品か ら、その後 50 年間に及ぶ膨大な量の驚くべきコレクショ ンですね。このセットはその 50 年間に音楽界で起こった ことだけでなく、その間のロンドンの状況をも反映するも *1 のですね。まずはアンドレ・プレヴィン に関してお聞き したいのですが。 ジョン・ウィリアムス(以下ジョン) :最初にアンドレと会っ たのは、1967 年アメリカのヒューストンででした。私はそ こでロドリーゴの協奏曲を演奏し、彼と友人になりました。 それは彼がロンドン交響楽団の指揮者に正に就任する時で した。それから数年後、彼は「君のために協奏曲を書きた

いんだ」と言いました。私はとても興奮しました。彼は数 多くの素晴らしいアイディアを思いついてくれました。私 たちは 1971 年にその協奏曲を初演しました。当時の首相 *2 であったエドワード・ヒース も指揮をしました。 ――[CD15]ですね。当時の首相であったエドワード・ヒー スがゲストとしてオープニングにエルガーの曲を指揮した とありますね。ところで、あなたはジャズの演奏家ともよ く仕事をされていますね。 ジョン:はい。私はインプロヴィゼーションはしませんが、 *3 *4 ジョン・ダンクワース とクレオ・レーン の 2 人とは多 くの仕事をしました。彼らは私のためにいつも譜面を書き 起こしてくれました、そして譜面さえあれば私はジャズの スタイルを上手く演奏できます。彼らとは 2 つの CD を録

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特集 2 /特別対談

小説『マチネの終わりに』を語る

Kei-ichiro Hirano

Shin-ichi Fukuda

平野啓一郎

福田進一

作家・平野啓一郎が毎日新聞に連載した恋愛小説『マチネの終わりに』(2015 年 3 月∼ 2016 年 1 月)。クラシック・ギタリス ト蒔野聡史が主人公とあって、朝刊が届くのを日々心待ちにされたギターファンも多いのではなかろうか。その『マチネの終わり に』が完結をみて、2016 年 4 月に毎日新聞社より単行本が刊行された。発売を記念し 4 月 8 日∼ 18 日、東京・渋谷ヒカリエに て『マチネの終わりに』作品展が開催されたが、オープニング・トーク・イベントにはゲストとして、主人公蒔野と同じくパリ国 際ギターコンクール優勝の経歴を持つ我らがマエストロ・福田進一が登場。以下に二人の対談の様子をお伝えしたい。 2016 年 4 月 9 日 渋谷ヒカリエ 8 /取材:渡邊弘文/写真:東 昭年

●福田さんが演奏されたバッハを聴いて、主人公はギタリ

福田:私はちょうど 5 年前の夏に Twitter を始めたんですが、

ストだ!と決めました(平野)――――――――――――

そうしたらすぐにですね、「平野啓一郎があんたのことを色

平野啓一郎:福田さんと最初にお会いしたのは、スウェー

んなとこで書いてるよ」と人づてに聞きまして、「なんて

デンのストックホルムでしたね? もう 10 年くらい前にな るでしょうか?

ヤツだ! 探し出して問い詰めてやる!」と息巻いていたら (笑)、どなたかが教えてくださって、それで、すぐに関係

福田進一:そうでしたね。あれからもう 12 ~ 13 年になる

が復活したというね。

んじゃないのかな !? 日本の音楽をストックホルムの人に

平野:……(笑)。福田さんの演奏はずっと拝聴していたん

紹介するというフェスティバルがあって、武満 徹さんの曲

ですけれど、今回の小説を書く前に、音楽家を主人公にし

を演奏しに行った時でした。

た作品を書きたいなと思っていまして。以前、ショパンを

平野:僕は全然別の文学シンポジウムに参加してたんです

主人公にした『葬送』という小説を書いたのですが、あれ

が、あるパーティーに招かれたら、そこへ福田さんもお越

が自分でも書いていて凄く楽しかったんですね。だからま

しになっていて、偶然、隣の席になったんですね。

た音楽家を主人公にしたいなと。ただ、何の楽器を弾かせ

福田:そう、二人とも名刺を持ち合わせていなかったので、

るかは決まっていませんでした。ピアノは『葬送』で散々

コースターにお互いのメールアドレスを書いて交換しまし

書いたから、ヴァイオリンとかチェロとか色々考えたんで

たよね。でも、その時は、それっきりになってしまいました。

すけれど、ちょうどその時に、福田さんがバッハのレコー

平野:福田さんは凄い巨匠なのに、あの時、気さくに色々

ディングに取り組んでらして。

とお話しをしてくださったのがとても印象的でした。アド

福田:ええ、ギターで演奏可能なバッハ作品を全曲録音し

レスは交換したのですが、何となく恐れ多くて、ずっと連 絡しそびれていました。でもその後、世の中に Twitter とか、

ようということで続けています。

SNS が徐々に浸透してきて、その頃に改めてご連絡を差し

をずっと聴いていて、僕は本当に感動したんですね。ロマ

上げまして……。

ン派以降の近代の作曲家だと、国が違ってもやはり近代人

平野:特に〈無伴奏チェロ組曲〉を新しく録音されたもの

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アナ・ヴィドヴィチインタビュー Ana Vidovic インタビュー:編集部 翻訳:角 圭司 協力:メロス・アーツ・マネジメント

2005 年の日本デビュー以来、精密なテク ニックと高い音楽性に加え、その美貌も相 まって全国のギターファンを魅了し続けて いる“クロアチアの妖精”アナ・ヴィドヴィ チが 3 年連続、8 度目となる来日を果たす。 今回の日本ツアーは全国 5 ヵ所 5 日間連続 公演となる過密日程だが、大の親日家であ るヴィドヴィチは、日本での演奏を今から 心待ちにしているという。 今回は、ヴィドヴィチとはピーボディ音楽 院の同窓生であり、茨城公演ではゲスト出 演も行なうギタリストの角 圭司さんに翻 訳をお願いし、メールインタビューを行 なったので紹介させていただく。

【日本公演予定プログラム(全国共通)】 J.S. バッハ~バルエコ/無伴奏ヴァイオリン・ソナ タ第 1 番ト短調 BWV1001 武満 徹/「ギターのための 12 の歌」より〈オーバー・ ザ・レインボー〉〈イエスタデイ〉 タレガ/アランブラの想い出 アルベニス/「スペイン組曲」Op.47 よりグラナダ、 アストゥリアス パガニーニ/グランド・ソナタ イ長調 バリオス/大聖堂、最後のトレモロ M =トローバ/カスティーリャ組曲

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荘村清志〔共演〕小林沙羅

写真:青柳 聡/提供:東京文化会館

(S)

Kiyoshi Shomura

Sara Kobayashi

この日のコンサートは武満 徹の没後 20 年を記念し、命日に あたる 2 月 20 日に東京文化会館小ホールで開催された。チ ケットは早々に完売、当日は雨天であったが、それにもかか わらず、会場は満員の聴衆で埋め尽くされた。プログラムは 荘村による、武満の〈フォリオス〉〈すべては薄明のなかで〉 〈エキノクス〉〈森の中で〉のギター独奏曲全曲演奏を柱に、 ソプラノの小林沙羅との共演で〈島へ〉 〈素晴らしい悪女〉 〈う たうだけ〉〈○と△のうた〉 〈小さな空〉〈ワルツ〉 〈めぐり逢 い〉 〈翼〉 〈ぽつねん〉〈死んだ男の残したものは〉を間に挟 む形で進められた。武満と荘村の出会いから生まれた〈フォ

リオス〉から始められた荘村のソロは、武満との永年の親交 に裏付けられた、風格を感じさせる演奏であったことは言う までもない。小林とのデュオは 2015 年の Hakuju ギター・フェ スタなど共演機会も多く、すべてを包み込むような心地良い 演奏を聴かせてくれた。歌曲を挟むことによって、ともすれ ば重くなりがちなプログラムが色彩豊かなものとなり、武満 の多彩な作風を楽しむことができた。 アンコールとして、 ギターソロで〈ヒロシマという名の少年〉、 デュオで〈明日ハ晴レカナ曇リカナ〉が演奏された。 [2 月 20 日/東京文化会館・小]

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愛器を語る エマヌエーレ ・ セグレ ◆ ブライアン ・ コーエン(1993)

Emanuele Segre 1965 年生まれ。ミラノ音楽院でルジェッロ・キエザに師事し最優秀の成績で卒業。ジュリアン・ブリーム、ジョン・ウィ リアムスのマスタークラスにも参加、その他に作曲やヴァイオリンも学んでいる。数多くのコンクールで優勝、1987 年にはニューヨークでイースト & ウェスト・アーティスト賞を受賞、カーネギー・リサタル・ホールでの北米デビュー を果たし、ワシントン・ポスト紙において“計り知れない可能性を秘めた音楽家”と絶賛される。同年、プロムジシス 国際賞受賞、1989 年にはユネスコの若い演奏家国際ロストルムに選ばれている。その後、世界中の主要都市でリサイ タルを開催し、多数の国際フェスティバルにも参加、ソロの他、パトリック・ガロワやミラノ・スカラ座オーケストラ との共演他、室内楽の分野でも活躍中。フランス人作曲家ジャン・フランセより献呈されたギターとオーケストラのた めの協奏曲をはじめ、多くの CD を発売している。

写真:木田新一 写真:木田新一

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写真 宮島折恵

No.39

──本日は奥様(伴子さん)とようこそお出でください

靖晃 マシャドさんの名前は皆さんご存知だったでしょ

ました。ギターファンの代表としてはお二人には「イー

うけれども、恐らく実際のパフォーマンスは初めてとい

ストエンド国際ギターフェスティバル」を毎年続けてく

う方も多かったと思います。

ださってお礼を申し上げたいです。今年はびっくりする

──彼はテレビに取り上げてもらってもいいと思うんで

ような素晴らしい内容でしたね。

す(笑)。ギターにはこんな世界があるのかということ

樋浦靖晃・伴子 ありがとうございます。毎回、ゲスト

を知ってもらう意味でもね。絶対にウケますし。それに

の方たちが前向きにやってくださるので、私たちも助け

しても、樋浦さんはそれだけのレーダー網と言いますか、

られていますし、濱田先生をはじめ色々な方々のご協力

世界の素晴らしいギタリストの情報をキャッチすること

があってこそのことですので、こちらのほうこそ本当に

については本当に敏感ですが、それはどのような心掛け

皆さんに感謝しています。

でやっていらっしゃるんでしょうか?

───今回(第 6 回)のフェスティバルは特にゲストが

靖晃 フランスにしばらくいたことがありまして、その

三者三様でそれぞれに面白かったですね。

時に知り合った方たちから色々な話を聞く機会があった

靖晃 毎回、なるべく正統的なクラシックの人とは違う

んです。

系統の人達も呼ぶようにしているんです。

──そういうことの蓄積なわけですね。

──それがファンを拡げているんだと思います。今回の

靖晃 はい。音楽的に素晴らしく、まだ日本には来てい

セルソ・マシャドにしても誰が見ても聴いても面白いで

ない方をフェスティバルに呼びたいと思っています。

すからねえ。

──日本では事前に CD を出していればプロモートして

樋浦靖晃

Yasuaki Hiura(ギタリスト) ギターを前川博信、伊東福雄両氏に師事後、渡 西し A. ポンセ、L. ブローウェル、P. ロメロ等の マスタークラスを修了。94 年渡仏しパリ・エコー ルノルマル音楽院にて R. アンディアに師事。96 年にディプロマを取得。99 年 11 月に帰国するま で他にギターを A. ピエッリ、アナリーゼを N. ボ ネ、古楽をマルコ・メローニ、佐藤豊彦各氏に 師事。94 年フランス・ピカルディギターコンクー ル優勝、04 年フランス・アグスティン・バリオ ス国際ギターコンクール最高位受賞。04 年バン コク国際ギターコンクール第 3 位受賞。03 年東 京国際ギターコンクール本選入賞。 「日本の音楽 展」にて 04・05 年ズイホー賞受賞、他受賞多数。 ソロ、アンサンブル等ルネサンスから現代まで 幅広いレパートリーを持つ。音楽教室ミュージッ クベア(木場校・小岩校)主宰。イーストエン ド国際ギターフェスティバル主催。

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