スマートポリマー技術による金型の表面温度変動への対処 (JA)

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WHITE PAPER スマートポリマー技術による金型の表面温度変動への対処 By Matt Lococo Ph.D, Global Technical Director 要約

高圧ダイカストにおいて温度分布を持つ金型への均一保 護層の形成は長年の課題であった。 従来からの離型剤で は高温に晒される部分は金型に保護皮膜を形成する一方 で離型性をあまり必要としない低温部分では保護層が形 成されないためスプレー塗布によって補完されている。

このような状況のもとクエーカーホートンはスマートポリ マー技術を打ち立てた。 スマートポリマー技術は熱力学的 な反応性をもつポリマーを使用した技術で、 架橋のメカニ ズムによるポリマー化をベースとした技術である。反応性 は金型表面の温度や暴露時間に左右されるが、 この反応 性が低温で離型性をあまり必要としない部分で過剰な保 護膜を形成せずに高温部で優れた保護膜を形成すること を可能にする。

素早く反応し型表面に効果的に保護と最強のコーティン グ層を形成する。 図1 - 低温、 中温、 高温での架橋イラスト X = 活性部位 I = 化学結合が新たに形成した部分

序論

高圧ダイカストは溶融した合金を高圧で金型内に押し出 す工程で、 一般的にはアルミ合金や亜鉛、 マグネシウム合 金で成形される。 型形状は非常に複雑で成形されるパー ツも各種広範囲にわたる。 型の大きさや複雑な構造など 多岐にわたる金型設計により、 特有の溶湯の流れ方や温 度分布をもつ。 主な離型剤の役割は溶湯から型を守ること と鋳造後の離型性なため、 離型剤は広範囲の温度領域で 効果的である必要がある。

低温時110-220°C

従来からの離型剤は型の高温部での保護には優れる一方 で低温部で残渣を生成させる傾向があり、 結果として型メ ンテナンスなどによる生産時間の損失になる。 つまりこの 特性の離型剤では型の温度変動に対応できない。 ワック ス、 オイル、 シリコンポリマーを不活性下でブレンドした離 型剤では型表面に効果的な保護膜を生成させることがで きるが、 温度変動があっても常に均等な塗布になってしま う。 離型剤には低温部分で過剰な残渣を形成せずに高 温部分で優れた保護膜を形成させることが要求されるが、 達成のためには離型剤に熱力学的に反応する成分を含有 させなければならない。 ポリマー中の “リアクティブサイト (反応部位)”はスマート ポリマー技術の重要な役割であり、 型表面が高温に晒され たときこれらの反応性官能基が化学結合を可能にする。 低 温部分(110-220°C)ではスマートポリマーは反応せず通常 の溶湯からの保護の働きをし、 中温帯(220-330°C)でポリ マーが化学的に反応し始め強固な耐熱コーティング層を 形成する。 型温度が330°Cを超えるとスマートポリマーは

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中温時220-330°C

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リアクティブサイト(反応性部位)の多い順1>2>3>4

高温時> 330°C

反応性部位のシロキサンポリマーのTGA分析

熱重量分析(TGA)は物質の熱力学的安定性の測定方法と して知られており、 試料は設定された昇温レート、 初期温 度、 最終温度、 試験雰囲気に加温されます。 下図の試験は パーキンエルマー社の TGA 4000にて通常雰囲気のもと昇 温レート20°C/minで 30度から800度までで行われた。 グラ フは水分を除去した試料の重量%と温度の関係で表され る。 例(サンプル1、 図2)200度では100%の重量%が800度 では25%になる。

図は異なる数の反応性部位を持つ変性シロキサンポリマ ーのTGA分析結果になる。 試験はリアクティブサイト (反応 性部位)のみ異なるシロキサンポリマーで行なわれ、 反応 できる部位が少なくなるにつれ600度以上での熱安定性も 低下する (サンプル1-4、 図2)。 また、 リアクティブサイト (反 応性部位)数の最も多いポリマー1では温度範囲全般にわ たって熱安定性が改善している。 ポリマー4は30~400度まではポリマー2や3に比べ熱安定 性が良好だがその後急激に低下する。これはリアクティブ サイト (反応性部位)数との関係からは予期できない結果 である。ポリマー2と3は30~500度で同じような初期分解 率だが、 650度以上になると挙動が異なる。

これらの 熱安定性の違いはアクティブサイト (活性部位) への反応のしやすさやオリゴマーポリマーのマクロ構造の 特性によるものと考えられる。

架橋生成時の立体障害やオリゴマー生成によるメカニズ ムやリアクティブサイト (反応性部位)への反応性について は解明できていないが、 化学的メカニズムの解明による性 能の最適化は現在も続いている。

スマートポリマー技術を使用した量産トライア ル

ある自動車1次サプライヤーは製品の溶着や金型表面の 過剰な溶着が原因の金型メンテの頻度をできるだけ削減 しようと模索していた。 鋳造品は各種自動車部品で、 東 芝機械製600-2500tonダイカストマシンで鋳造される粉 末塗布された383アルミ合金である。顧客では競合A社製 品を60倍希釈で使用しており、 競合B社製品を70倍希釈 でトライアルを実施したが、 スマートポリマー技術を持っ た “DIE SLICK® 2050” が代替品として推奨されトライアル された。

6ヶ月にわたり75倍希釈の”DIE SLICK® 2050” にてトライア ルが行われた。結果として顧客からは連続鋳造時間の延 長、 鋳造品質や製品外観の改善の報告があった(図3)。 金型は最小限の溶着により長時間使用が可能になったり メンテナンス時間減により保守管理が容易になった。 ”DIE SLICK® 2050”は現在顧客において20%の初期コスト 削減にて使用されているが、 この削減がメンテナンス負荷 の低減や鋳造品質の改善によるものかどうかは確定され ていない。

図2 - 異なるスマートポリマーのTGA分析結果

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まとめ

熱反応性重合を応用したスマートポリマー技術によりサイ クルタイムの短縮、 メンテナンス頻度の低減、 溶着の削減と 製品品質の改善が立証され、 世界の多くのダイカスト拠点 でこの新しい技術が役立っている。 高圧ダイカストにお ける離型剤のアプリケーションやコントロール技術は日々 進化しており、 今後スマートポリマー技術のメリットが明確 になるだろう。

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