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ZUIYO C

スイスといえば、多くの人々が思い出すアニメ『アルプスの少女ハイジ』は、演出の高畑勲さん、場面設定・画面構成の宮崎駿さ ん、キャラクターデザインと作画監督の小田部羊一さんという、現在ではアニメ界の巨匠といわれるドリームチームが手がけた記念 すべき作品でした。初めてレイアウトシステムを導入したり、日常描写や登場人物の心理を丁寧に描くなど、当時としては画期的な 手法で、後の日本のアニメに多大な影響を与えたといわれています。毎週30分、全52話で放映された1974年から、毎年何度となく 再放送をくり返し、不朽の名作アニメとして、今も子供から大人まで世代を越えて愛されています。

『アルプスの少女ハイジ』は、テレビアニメ番組として日本で初めて海外ロケをして制作された作品でもあります。海外旅行がま だ一般的ではなかった時代に「本物のスイスを肌で感じ、世界に通じるアニメを制作したい」という強い思いで、1973年夏にスイス ロケを敢行。訪ねることができた場所や季節は限られていたため、本やパンフレットなどの資料も参考にされましたが、この時、 スイスで見たもの、聞いたもの、感じたもののすべてが作品に反映されています。アルプホルンやカウベルの音などの 班がスイスで実録するなど、本物へのこだわりが、アニメにあふれる臨場感を支えていたのでしょう。

1973 年 ロケハンルートと行 程

7月

東京 = アンカレッジ = アムステルダム = パリ = チューリヒ

チューリヒ

チューリヒ = クール = マイエンフェルト

マイエンフェルト

マイエンフェルト

サン・モリッツ(別班はバート・ラガッツ)= マイエンフェルト

マイエンフェルト = インターラーケン = グリンデルワルト = クライネ・シャイデック

ユングフラウヨッホ = ラウターブルンネン = インターラーケン

インターラーケン = ベルン = チューリヒ = フランクフルト

フランクフルト

フランクフルト発 = 東京

当初、スイスロケの計画をたてた時は、原作の舞台といわれるスイス東部のマイエンフェルト村を訪ねることが目的でしたが「やは り本物のアルプス地方を見ておいたほうがよいだろう」ということで、一行はユングフラウ地方へ向かいました。実は、作品のタイトル に“アルプス”とあるのは日本のアニメだけで、原作はもちろん、各国で発行された翻訳本や映画、テレビシリーズなどに“アルプス”と いう表現はありません。日本で制作されたこのアニメはタイトルに『アルプスの少女』を冠したように、スイスを代表するアルプスの イメージが強く感じられるものになりました。

世紀から発展してきたアルプスを代表するリゾート です。ユングフラウ鉄道が結ぶユングフラウヨッホ、アレッチ氷河を含む一帯は、7カ国にまたがるアルプス山脈で唯一の自然遺産に 認定されています。わずか2日という強行軍ではありましたが、世界的に有名なアイガー・メンヒ・ユングフラウが目の前に広がるクラ イネ・シャイデックの山岳ホテル「ベルヴュー・デザルプ」に宿泊し、ユングフラウ鉄道に乗って、ヨーロッパ最高地点の鉄道駅となる標 のユングフラウヨッホまで上りました。アイガー山麓のグリンデルワルトやU字谷や名瀑が印象的なラウターブルンネンも訪 岩壁を滑り落ちる滝、 に広がる花畑、森の木々、流れる小川 など、ユングフラウ地方に息づくアルプスの世界は、アニメの中にあざやかに描き出されていたのです。

S W E N

▲シュレックホルン

Schreckhorn(4078m) ▲ヴェッターホルン

We erhorn(3692m) ▲シュヴァルツホルン

Schwarzhorn(2928m)

Grosse Scheidegg(1962m)

Schreckfeld (1955m)

First(2167m)

Pfingstegg(1387m

Bort (1564m)

Bachsee/Bachalpsee (2265m)

Brienz(566m

Mönch(4107m) ▲アイガー Eiger(3970m)

Eismeer (3160m)

Eigerwand(2865m)

Alpiglen (1616m)

Brandegg (1332m)

Grindelwald(1027m)

Faulhorn(2681m

Bussalp(1792m)

Schwendi(920m)

Holenstein(1624m)

Grindelwald Terminal(937m)

Burglauenen (896m)

Schynige Pla e (1987m) ブライトラウエネン

Breitlauenen (1542m)

Interlaken Ost(567m

Jungfrau(4158m)

Jungfraujoch(3454m)

Silberhorn (3695m) クライネ・シャイデック

アイガーグレッチャー

Eigergletscher(2320m)

Wengernalp(1874m)

Kl.Scheidegg(2061m)

メンリッヒェン

Männlichen(2230m)

Allmend(1509m)

Stechelberg(875m)

Wengen(1275m)

Wengwald(1182m)

Lauterbrunnen(797m)

Lütschental (714m)

Isenfluh(1090m)

Zweilütschinen(652m)

Wilderswil(584m)

Heimwehfluh(662m)

Interlaken

▲ブライトホルン

Breithorn(3785m)

Gspaltenhorn(3436m)

Tschingelhorn(3562m)

Schilthorn(2967m)

Birg(2685m)

Allmendhubel(����m)

Mürren(1639m)

Winteregg(1588m)

Grütschalp(1481m)

Sulwald(1526m)

アルプスを抜けて天空へ向かう 夢の登山鉄 道「ユングフラウ鉄

道 」の 誕生

���� 年

ユングフラウ鉄道の工事開始 " 天空へ向かう夢の鉄道"といわれたユングフラウ鉄道の誕生 はまさに奇跡的な出来事でした。名峰ユングフラウへ結ぶ 登 山鉄道は、多くの事業家や鉄道技師たちが何度となく夢 みてきましたが、長い間、実現不可能だといわれてきたもの。 かつて、エッフェル塔の技師ケクランやスイスの有名鉄道技師 ロッハーなど数々の精鋭がこの鉄道計画を試みたものの、 実現しませんでした。

そんな中、すでに他の鉄道事業で名をあげていたアドルフ・ グイヤー・ツェラーの画期的な設計プランが夢物語と思われていた鉄道を現実のものへと導いたのです。始まりは、娘とハイキング を楽しんでいたツェラーがひらめき書き留めた1枚のスケッチ。山 麓のラウターブルンネン谷から結ぶ、従来の案とちがい、すでに 開通していたヴェンゲルンアルプ鉄道の終点クライネ・シャイデックからアイガー山中にトンネルを通して山頂へと結ぶ画期的な 案でした。さらに工事にかかる莫大な費用問題は、ツェラー自身の私財をかなり投入することや、開通した区間ごとに営業を開始し ながら資金を得ることでまかなうことにして、ついに、1896年、ユングフラウ鉄道の敷設工事がスタートしました。

ユングフラウ鉄道アイガーグレッチャー駅開業 着工から2年後となる1898年には、クライネ・シャイデック駅から約2Km(高低差約260m)の標高2320mにアイガーグレッチャ 駅が完成。最初の区間の往復運転でユングフラウ鉄道は営業を始めました。アイガー氷河(アイガーグレッチャー)の前につくら れた駅には、眼前に迫るアイガー氷河や雄大な山々の眺望を目当てに多くの観光客が訪れ、駅や売店はスーツやドレスを着た 紳士や貴婦人たちで賑わっていました。

����年

ユングフラウ鉄道アイガーヴァント駅開業

アイガーグレッチャー駅開業の翌年には、今はなきロートシュトック駅まで開通。ここからはアイガー山中にトンネルを通す という前例のない難工事でしたが、1903年にアイガーヴァント駅が完成。アイガー山中につくられたトンネル内の駅で、観光客が 眺望を楽しめるように岩に開けられた展望窓から、グリンデルワルトの谷やクライネ・シャイデックなど、アイガー北壁直下の 絶景が楽しめることで人気を博しました。

����年

ユングフラウ鉄道アイスメーア駅開業

アイガーヴァント駅の開業から2年後、おなじくアイガー山中につくられたトンネル内の駅が完成しました。 "アイスメーア(氷の 海) "という名前の通り、岩をくりぬいて設置された展望窓 からは 、シュレックホルンや海のように広がるフィーシュ氷河、グリ ンデルワルト下氷河の眺望を楽しむことができます。ユングフラウヨッホまでの最終区間が開通する1912年までは、標高3160m にあるこの駅がユングフラウ鉄道の終点だったので、洞窟のような駅構内にレストランもありました(今は閉鎖)。ベルグリ小屋や メンヒスヨッホ小屋、ミッテルレギ小屋の山小屋に近いため、多くの登山家たちがここからメンヒ、アイガー、ユングフラウなどの 山頂をめざし、出発していきました。

����年

ユングフラウ鉄道ユングフラウヨッホ駅開業

高所のため用意した火薬の威力も発揮できず、標高をあげるごとにトンネル工事は難航。約 3.5Kmとなる最後の区間には 7 年 を要しました。そして1912 年、ついに標高 3454mのユングフラウヨッホまでの路線が完成。スイス建国記念日である8 月 1 日に、 クライネ・シャイデックからユングフラウヨッホまで約 9 Km のルートが全線開通しました。

『アルプスの少女ハイジ 』とユングフラウ地方

世界的に有名なアイガー・メンヒ・ユングフラウを眼前にのぞむクライネ・シャイデ ックからヨーロッパ最高地点の鉄道駅ユングフラウヨッホまで結ぶ「ユングフラウ 鉄道」。1912 年 8 月 1 日に開通してからの約 100 年間に、2300 万人を超える世界 各国のお客様を乗せて走り続けてきたアルプスを代表する登山鉄道です。

アルプス唯一の世界遺産にも認定されている名峰群を抱くこのユングフラウ 地 方は、日本のアニメで初めて海外ロケをしてつくられた名作『アルプスの少女 ハイジ』のモデルとなった地域です。海外旅行がまだ一般的ではなかった時代で したが「本物のスイスを肌で感じ、世界に通じるアニメを制作したい」という強い 思いで、1973年の夏にスイスロケを敢行。「ただスイスの風景を書くだけなら写真 でも十分だが、スイスの空気、人々のちょっとした仕草などを、知識ではなく肌で 感じ取って欲しかった」と高橋プロデューサーが語るように、実際にスイスロケで 見たもの、聞いたもの、感じたものすべてが作品に反映されています。 スイスロケの計画をたてた時は、原作の舞台といわれるマイエンフェルトを訪ねる ことが目的で、ユングフラウ地方へ足をのばす予定はありませんでした。しかしマイ エンフェルトは、真のアルプスの地域ではないので「本物のアルプス地方を見て おいたほうがよいだろう」と、一行はユングフラウ地方へ向かったそうです。アイガー 直下のクライネ・シャイデックに宿をとり、この鉄道に乗ってユングフラウヨッホに 向かいました。白く輝く雪山、雄大な氷河、しぶきをたてて岩壁を滑り落ちる滝、 美しい山上湖、一面に広がる花畑、森の木々、流れる小川など、アニメの中で描き 出されていた憧れのアルプスの情景は、今も変わることなくユングフラウ地方に 息づいています。

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