巻ける建築 手仕事とロボットを融合した設計・製作手法の提案
0- 概要
手で作られる工芸には独特の暖かみがある。
また、コンピュータと自動機械によって新たな設計・製作の手法が開拓されつつある。
これは実際にある工芸品の製作手法を調査、分析し、その過程にコンピュータとロボットを導入した新たな設計・製作手法の提案である。
1- 理論
主題:手工芸とコンピュータ、自動機械の融合により何が可能になるか? 日本には工芸品が数多く存在する。文化庁によって認定されている「伝
いうものがある。しかし、なぜ「手」で制作する必要があるのか、手で作
を通して再活用するという試みは未だ数少ない。
統的工芸品」だけでも 222 品目(2015 年 6 月現在)あり、その他にも様々
られることによってどのような特徴が制作される物に生まれるのかという
な工芸製品が至る所にある。これらはすべて手で創りだされたものであ
疑問について、今のところ明快な理論が示されていないように思われる。
本研究はこの状況に対して、まず工芸とは何かを明らかにすることを試
り、古来からの豊かな文化的蓄積が感じられるものである。また近年、コ
仮に全く同じ物が出来る時、機械のほうがより低いコストで出来るのであ
み、新しい技術は工芸に対して何が出来るかを論じる。さらに実際にある
ンピュータやそれによって制御された自動機械によって、新たな設計、制
れば、手作りに拘る必要はない。また、新技術の導入を拒むことで技法や
工芸の技法をロボットやコンピュータを用いて拡張し、工芸品へのデジタ
作の手法が開拓されつつある。
製品の開発に歯止めをかけることは、工芸自体の大きな損失になる。制作
ルファブリケーション利用のテストケースとなることを目指す。
される物自体への視線を欠いた無意味な手作りへの信仰からは脱さなけれ この「工芸」と「コンピュータの利用」という二つの制作手法は、いま
ばならない。
まであまり接点を持たなかったのみならず、しばしば対立するものとして
扱われてきた。「工芸」の側は、機械や新技術の導入を技術の保存や人間
また「コンピュータの利用」の側、新たな技術の側も工芸を省みることは
の仕事の確保などを理由として忌避してきた。例えば国の「伝統的工芸品」
あまりなかった。工芸には今まで培われた技術や技法が詰まっており、未
として認定されるための要件には、「主要な工程は手作りであること」と
だ機械が模倣できないものが数多くある。しかし、それらの技法を新技術
アーツ・アンド・クラフツにおける craft の定義 1.不完全性 制作物の歪み等を示す 人間の労働とその創意の発露 として、またキリスト教における人間の不完全さを示 すものとして 2.合一性 デザインと職人技術の合一を示す 作者が用いる素材 と全ての工程を理解した上での制作の結果として
ジョン・ラスキンによる craft
ウィリアム・モリスによる craft の拡張
ラスキンとモリスにおける crafts の定義
"crafts" は有史以来存在したが、それを明確に論じたのは、英国のアーツ・
ラスキンの思想に触発され、様々な業績を残したのがウィリアム・モリス
ラスキンの思想に触発され、様々な業績を残したのがウィリアム・モリス
アンド・クラフツ運動に関わった人々が最初であった。この運動の理論的
(William Morris)である。彼はモリス・マーシャル・フォークナー商会を
(William Morris)である。彼はモリス・マーシャル・フォークナー商会を
支柱だったジョン・ラスキン(John Ruskin)によれば、以下の 3 つの点
1861 年に設立し、デザイナーとしての活動を始める。実践を通して、彼
1861 年に設立し、デザイナーとしての活動を始める。実践を通して、彼
を満たすものが理想的な craft であるといえる。
はラスキンによる craft の定義のうち分業否定についてより思考を深め、
はラスキンによる craft の定義のうち分業否定についてより思考を深め、
• 時間と労力と創意をかけた労働により作られたもの
• 作者が用いる素材と全ての工程 を理解した上で制作しているもの
• 作者が用いる素材と全ての工程 を理解した上で制作しているもの
• 上の労働の発露として、また(キリスト教の神から見た)人間の不
• その結果として、デザインと職人技術の合一が見られるもの
• その結果として、デザインと職人技術の合一が見られるもの
完全さを表すものとして、不完全であるもの • 分業を行うことなしに作っているもの
であるとした。
であるとした。
1- 理論 設計、制作におけるコンピュータと機械の利用
コンピューテーショナルデザイン
デジタルファブリケーションとロボットの利用
コンピューテーショナルデザインとは、コンピュータを
• 複雑な形状の設計
コンピュータの開発に合わせて普及してきたものに、デ
活用した設計を総称する言葉である。CAD の研究開発が
• 考慮できる条件の多様化
ジタルファブリケーションと呼ばれる技術がある。近年
• 複雑な形状や新しい素材の制作
• デザインプロセスそのものの可視化と操作、共有
になり、3D プリンタの基本特許が切れたことやレーザー
• パーソナル・ファブリケーションの広まり
カッター、安価な CNC 工作機械の普及により、コンピュー
• 多品種少量生産の試み
1959 年頃に始まって以降、主にこの技術は航空機産業や 機械設計の分野で発展を遂げてきた。この分野における技
が可能になった。
術の集積により様々な試みが行われ、
タを用いた素材加工が個人にとっても一般的なものになっ
た。これによって、
が可能になった。
工芸制作におけるコンピュータの利用
現代日本における工芸とその問題
工芸制作におけるコンピュータと機械の利用の可能性
先行研究
現代の日本の伝統的工芸品は、1-2 で述べた craft の定義を満たすもので
これらの工芸的営みをその本質を保ちつつ育てるため、コンピュータと
Malcolm McCullough は Abstracting Craft で craft をコンピュータで抽象
ある。しかし日本の伝統工芸は需要の減少により、経済的に危機に瀕して
機械の利用を提案する。これにより、
化することの可能性を説いたが、実際に制作を行うことはなかった。先行
いる。生産額は 5,400 億円(昭和 54 年)から 1,040 億円(平成 24 年)に
• コストの削減と意匠との両立
事例として、土岐謙次による《七宝紋胎乾漆透器》が挙げられる。これ
落ち込んでいる。ただ、政府によって指定されている以外にも多くの工芸
• 制作可能なものの拡張
は、乾漆の平板をレーザーカッターでカットし、漆を塗って連結すること
品が日本には存在するし、今後、製法の開発によって新たな工芸が生まれ
• 工程理解の促進
で完成する作品である。各ユニットの形状と最終的に出来上がる形態は、
ることも考えられる。
• 制作者の創意の刺激
Rhinoceros と Grasshopper を用いてパラメトリックに設計される。
がなされ、craft を経済性と両立した形で実現することが出来る。
2- 調査
ブナコとは
青森県弘前市では、「ブナコ」(figure2-1)という工芸品が製造されて いる。これは、テープ上にカットしたブナの木を巻き、整形することで 器や椅子、照明器具を作るというものである。1956 年に青森県工業試 験場で城倉可成と石郷岡啓之介の共同研究により考案され、1966 年に は青森県の企業で初めてのグッドデザイン賞を受賞している。
2- 調査 ブナコの製法
1. 製材
2. 巻きつけ
まず青森県内で伐採したブナ材を北海道の工場に輸送し、かつら剥き
テープを型に巻いていく。2000mm 程度の長さのテープはすぐに
いく必要があり、制作工程の中で最も熟練が必要な作業であるようだ。
のようにして厚さ 1mm、長さ 2000mm の板材にする。(figure2-2)次
なくなるため、継いでいく必要がある。食器などの場合はこの時接着
巻きつける断面形状だが、外周の曲線の曲率が常に正である形しか
に青森県のブナコの製作所に輸送し、作る製品に応じて幅 6mm, 8mm,
剤を使ってテープを継ぐが、ランプシェード等の場合は接着剤なしで
制作はしていない。コーナーのカーブが不連続である場合、そこで一
10mm に板を裁断する。その後、木材によって細かく色合いが異なっ
間に挟めて巻くことで固定する。巻く直径は製品によって異なるが
旦テープを折って改めて巻いている。このような不連続点が多いほど
ているため、それに応じて分類し、まとめておく。この工程によって
800mm 程度が最大とのこと。これは人間が巻いているので腕の長さ
造形は難しい。また外周の曲率に変化がある形の場合、曲率が急な部
一つの製品で均一な色合いになる。
に依存しているためということだった。
分のテープの巻密度が濃くなり、巻くに従って円形に近づくという現
この後きれいな形に整形するためには全体を均一な力加減で巻いて
象が起きる。
2- 調査 ブナコの製法
3. 成形
4. 修繕・塗装
テープを巻きつけたものを押し出して形状を作っていく。この時に
ずらしていく。最終的に出来た形は水と市販木工ボンドを1:1で混
接着剤の乾燥後、どうしてもテープ同士に巻きの甘さやテープの歪
湯呑やペンのような形状の木型を押し付けることで形を作っていく。
合した液体を表裏に塗ることで固定する。接着剤を塗ったあとは高さ
みなどで隙間が出てしまうことがある。そこで木の断裁時に出た木粉
これらの道具はつくりたい製品の外形の曲がり具合によって変えてい
方向にのみ 2mm~8mm の範囲で縮みが生じるが、平面方向の直径は変
と接着剤を混合したパテを作り、それを隙間に詰めていく。その後研
る。全体の形状を決める型も多くの製品にあり、大雑把な形状ができ
化しない。この段階で形状はほぼ決定する。 テープを型に巻いてい
磨し、塗装を経て完成。
た後に該当の型に押し付けることで最終的な形状を完成させる。押出
く。2000mm 程度の長さのテープはすぐになくなるため、継いでいく
方向が曲線になる造形の場合は内側に型が入らない場合があるため、
必要がある。食器などの場合はこの時接着剤を使ってテープを継ぐが、
ほぼ手仕事で造形しなければならない。一点ものを成形する場合も型
ランプシェード等の場合は接着剤なしで間に挟めて巻くことで固定す
がないため手仕事での成形になる。
る。巻く直径は製品によって異なるが 800mm 程度が最大とのこと。
形状を作りながら、美観を整えるためにテープのピッチを合わせると
これは人間が巻いているので腕の長さに依存しているためということ
いう作業も行う。この時は彫刻刀のようなヘラで一つ一つのテープを
だった。
3- 実験 ブナコへのコンピュータとロボットの導入
ロボットを導入する工程
成形手法の検討
調査の後、ブナコの成形の工程にロボットを導入することにした。ロボッ
成形をロボットで行うにあたって幾つかの手法を検討した。
た。B) の場合ロボットの押し方にたいしてできる底面の角度が一定
トで行うことにより精度を保ちつつ多様な形が生産でき、新たな製品の創作
• A) 垂直な押し出し
しない。C) の場合は、A) と異なり、斜めに動かすとテープが抜ける
に結びつく可能性があると考えられたためである。多様な形という意匠性と
• B) 素材 A をこする
現象は起きづらくなった。また、ロボットにより底面を直接動かす
コストを両立することが出来る。
• C) 曲線的な押し出し
ため、その位置は精度よく固定できることがわかった。よって今回
A) の場合一段のテープが急激に動いて抜けてしまう現象が頻発し
は手法 C を採用し、詳細な検討を行うこととした。
素材の可動域のシミュレーション ある点での中心線に対する法線ベクトル これを基に平面をつくり、その上に円を作る
中心線 テープの厚み テープの幅
プログラムによるシミュレーション
物理的に制作不可能な形態
素材 A はどのような形状を取りうるのか、その可能な
えることにより様々な形状を作ることができる。た
範囲を知る必要がある。そのためにまずコンピュータ上
だし、ここでは
で、素材 A の形状のシミュレーションを行った。
• 1) テープは厚みがない剛体である
今回はある中心線を設定し、それを等分割して垂直に交
• 2) テープは螺旋状ではなく、円筒の連なりと
わる平面を複数作り、その上に半径がテープの厚みの分 だけ異なる厚みのない円筒を生成した。中心線の形を変
考えられる という近似を行った。
左のような近似を行った時、物理的に制作不可能な形態 は次の条件のいずれかに当てはまるものである。 • 他のテープと交差するもの
• 隣のテープとの間に隙間があること 同じく中心線が急に曲がる場合、隣接するテープと の間に隙間を生じることがある。これは現実には図
中心線が急に曲がる場合や全体として円のような形を作
のような状態に相当し、形として成立しない。
る場合、あるテープが他のテープと交差する場合がある。
これらの状態に当てはまる形態を検知するような
これは物理的にありえない。
プログラムを作成した。
3- 実験 ロボットによる成形 実際にロボットを使って素材の成形を行った。それにあたり、ロボットに 取り付けるアタッチメント、素材を固定する器具の設計を行った。本ページ ではそれらの器具の紹介と、実際の成形の様子を写真で紹介する。 (写真上)横から見たロボットによる実際の成形の様子 (写真下)アタッチメント側から見たテープ成形の様子
ロボット ロボットアームとして三菱 RV2SD を用いた。可動軸は 7 つあ り、個人向けのパソコンからプ ログラムを送ることで操作する。 プログラムに用いられる言語は MELFA-BASIC V である。
アタッチメント これはロボットに取り付ける素 材 の 押 出 用 の 器 具 を 設 計 し た。 先端部分は素材の中央部と対応 して抜けない様にプロペラ型に なっている。また成形時に素材 と干渉しないよう、腕部分を湾 曲させている。
固定台 素材を固定するための台である。 異なる直径のものも固定可能な ように、またロボットやアタッ チメントと干渉しない様に幅広 に設計された。また台の歪みが 精度と直結するため、ロボット に対して垂直な部分の厚み、土 台部分のネジなどで台の動きと 歪みを少なくする工夫がなされ ている。
成形の過程と結果 右の画像が実際にロボットで素材の成形を行って いる様子である。背面からロボットが素材の押出を 行っている。テープのズレ方、ロボットで押し込む 距離などの等の諸条件によって、造形に成功するも の、失敗するものが出てくる。 様々な位置についてロボットで成形する実験を行 い、どのような範囲のものがロボットで成形可能な のかを実験的に確認した。合計で 50 例ほどの実験 を行い、成功したものは以下の画像で示した。
成形成功例 最後までロボットに素材が押し出されている
成形失敗例 急激なずれによりテープが飛び出ている
3- 実験 θ=20 θ=-10
(10,50)
θ=-30 θ=-40
成形可能な底面の位置と角度の範囲
θ=30
様々な角度が製作可能かどうかロボットにより成形可能かどうかテストを行った。その結果は図のようになっ
θ=-40
(20,50)
た。また、成形可能と思われる領域を同じ図の中に示した(右の図の赤の範囲)。よってこの領域の中ならば確 実に底面の位置と角度を定めることが出来ると言える。 ただし、これはこの領域の中のみが作ることが出来る底面の角度だということを意味しない。図に示したよ うに、アタッチメントの形状が不都合だったため実験できなかったもの、プログラムの不備によりロボットを 動かすことができなかった箇所が存在する。これらは条件が整えば成形できる可能性がある。また今回は位置 を定めてから多くの角度について実験を行ったが、ある狭い範囲の角度についてのみ成形可能な位置が有り得 る。このためより良い精度で成形可能な範囲を特定するには、さらに広い角度について実験をする必要がある。 z方向 の距 離
(mm
(20,50)
(10,40)
(20,40)
(30,60)
eg.)
度(d の角 平面
θ=+40
75.00
(10,50)
)
θ=0 赤い点は実際に実験を行って 制作可能だった位置と角度
(10,30)
(10,20)
赤い領域… ロボットで確実に製作可能と 思われる範囲
(20,30)
グレーの領域… シミュレーション上で 制作可能と思われる範囲 (ドットの範囲から外形を描いた)
(0,0)
ドット… シミュレーションで制作可能 だった平面の位置と角度
45.00 シミュレーション上で
(10,10)
実際にロボットで
制作可能だった平面
制作可能だった平面
制作不可能だった平面
制作不可能だった平面
(20,30)
θ=-40
x方向 の距 離
(mm
)
θ=+70 θ=+20
(10,10)
3- 実験
現れてくる肌理の違い…手仕事的痕跡の再現 このように成形を行った時、底面と縁面の位置と角度は固定されるが、その中間の曲面は様々な形になる。これは手で 巻く際に生じた、テープ間の細かい摩擦の違いが原因になっている。ラスキンは不完全性こそが craft の条件であると説い たが、ここではその不完全性が、ロボットによる高精度な造形と両立する形で再現されていると言える。
4- 機構
肌理の違いを生かした、自由曲面の設計・制作システムの提案 ここまで述べてきたような手法で、ロボットにより精度の高い多様な成形が可能になった。また結果として、ロボット の精度と手仕事的なランダムさを両立した成形手法を確立できたといえる。 このような成形手法を生かした自由曲面の設計、制作システムを提案する。
step1.
step2.
step3.
step4.
個々の素材の造形
二つの素材によるユニット
ユニット同士の接合
自由曲面の形成
ここまでで述べたように、ロボットに
次に、二つの素材を上の写真のように
複数のユニットを組み合わせていく。
ロボットアームとして三菱 RV-2SD を
よって一つ一つの素材を造形する。
組み合わせてユニットを作る。これは
一つ一つのユニットの形はコンピュー
用いた。可動軸は 7 つあり、個人向け
当然素材の形によって様々に異なる形
タ上で設計されており異なるが、ロボッ
のパソコンからプログラムを送ること
になる。
トにより混乱のない正確な造形が可能
で操作する。プログラムに用いられる
になる。
言語は MELFA-BASIC V である。
4- 機構 制作システムの概要 2つの面をつくる
システムの目的 このシステムでは、 • 任意の二つの面に対してそれらからなる立体が素材 A で製作可能かどうかを示すこと • 製作可能な場合はロボットに必要な素材 A を成形させるプログラムを記述すること を目指す。
Circle packing を同じ円の数で行う
面の生成 まず二つ以上の面を入力する。この面が構造物の外の形になる。
Circle packing 次に設定した面について Circle packing(円充填)を行う。これは面に対して出来る限り円を密に敷き詰めるという作業で ある。今回は Grasshopper のプラグインである Kangaroo 2.0(Daniel Piker により 2015 年 3 月にリリース )を用いて行っ
各面で以下の条件を確認する a. 円が離れすぎていない b. 円に重なりがない
NO
た。設定した面のそれぞれに同じ数の円を割り当てる。各円の直径はそれぞれ異なる値にすることができる。出力される
面の形状を修正する
円充填は厳密なものではなく、隙間や重なりができていることがある。
円の距離と重なりの判定 次に面のそれぞれで、円どうしの隙間、重なりの判定を行う。あまりに大きな隙間や重なりが円どうしの間にあると実
YES
際に制作することができないためである(figure 4-2,3) 。 もしいずれかが当てはまった場合入力された面の形に問題があると考えられるため、形を修正して再入力してもらう。
円どうしのユニットの作成
二つの面同士で向かいにある円を 二つ一組でセットにする
円を二つで一組とするユニットを作る。この時、一方の円はもう片方の円と違う面になければならず、その条件に当て はまるもののうち中心同士が最短距離のものを同じユニットとする。
ユニットの円どうしの距離の判定 ここでユニットの円どうしの距離によって、そのユニットが現実に作成可能かどうかを判定する。2章の段階で底面の
二つの円が製作可能な位置に あるかどうかを判定する
NO
面の形状を修正する
円の有り得る範囲は特定されているが、これを利用するとユニットの円の相対位置と角度によってそのユニットが作成可 能かどうかを知ることができる。これを計算し、作成不可能な円を抽出するプログラムを作成した(できれば (0,0,0) の外 円に対してのありうる外円お範囲の列挙?図示?)。ここで作成不可能とされたユニットは、その間の距離が広すぎるか、 一方に対してもう一方の角度が急すぎる時なので、もう一度適合するように入力する面を修正する必要がある。
中間円の作成 その前のステップで、あるユニットが作成可能かどうかと、そのユニットの中間円がありうる角度が判明した。ここで
二つ一組の円の中間に もう一つの円(中間円)を設定する
そのありうる角度の中から一つを選び、中間円を作成する。(ある外円)
ロボット用コードの書き出し 以上のステップで底面と縁面の位置関係が決まる。2章である面に対してカーブを作るプログラムを解説したが、これ
YES
を利用することである底面を作る時のロボットの動き方を定義し、プログラムで記述することができる。全ユニットを構 成する素材 A に対してロボットのコードが書き出されたらプロセスの終了である(補遺 50 ページに使用した GH definition 記載)。
面上にある円から中間円までのカーブを生成し ロボット用のコードとして書き出す
以上により、ある形状を修正しつつ実際に施工可能な形状を出力し、最終的に必要な素材 A をロボットにより成形させ ることができた。この後これを組み上げることで実際に形状を完成させることができる。
4- 機構
4- 機構
モックアップの制作 前述のシステムを用いて、実際にモックアップの製作を行った。 製作する際に素材 A は 8 個使用した。また製作プロセスを簡単にするため、すべての素材 A の直径は 160mm に統一した。 下の左の画像ではコンピュータ上で作ったモデル、右の画像では実際に制作したモデルを示した。厳 密な形状の比較はすることが出来なかったが、少なくとも外見上はコンピュータ上で作った形状をなぞ ることが出来たということがわかる。
5- 設計 建築スケールでの実践
建築スケールでのディテール
上記のシステムをどのように建築的に応用できるか示すため、実際に建築の 設計を行う。このシステムで建築を設計することにより、
• 木で作られた自由曲面によるやわらかな空間 • 全体に手仕事的な痕跡のある建築空間 を作り出すことを目指す。これは
自由曲面のディテール ワイヤでブナコ同士を聴力をかけて 緊結することで、自由曲面を作り出
• ロボットにより、精度と手仕事的痕跡を両立すること
す事ができる
ターンバックルによって 締め上げる
によって初めて実現される空間である。
ワイヤ 長さを調節できる 鉄製フレーム ブナコを取り付ける フレーム ブナコ 圧縮材として働き 自由曲面を作る
ブナコショールームの改築 制作したシステムの建築的な応用可能性を 示すため、ブナコのショールームの改築計画
二次曲面のディテール
を提案する。ショールームの建築自体がブナ
フレームやガラスにブナコを取り付
コのパフォーマンスを示すようなものとす
けることで滑らかな曲面を作ること
る。ブナコ株式会社は、青森県弘前市に所在
ができる。中心の円を傾けることで
する。この街に本社工場、ショールームとも
入射する光が制御できる。
に存在する。
鉄製フレーム ガラスやパネルでも 代替可能 ブナコ フレームに取り付けて 曲面を制作できる
敷地:市街地中心部 ショールームは弘前市の中心市街地に所在 する。ここは空洞化の進む土手町商店街の入 り口とも呼べるところに位置する。地元私鉄 の駅の近辺であり、毎年行われるねぷたまつ りの運行コースの中心に位置する。 すでに市によって意欲的な街並み整備が行 われ、個性的な建物が多くあるこの地区に、 新たなアイコン的建築を提案する。
5- 設計 素材、構法の構成 頂部 ブナコ同士が緊結され、3 次曲面を構成する。豊かな 半外部空間を作り出す。
2 階までの外壁 周囲に組まれたフレーム にブナコが取り付き、有機 的曲面を構成している。
1 階天井 ブナコの曲面で構成され る。天井からの照明がこれ により制御される。
内部 内部空間は鉄筋コンク リートで構成され、周囲の ブナコの荷重を支える。
空間構成 庭園
1:300
外部から隔てられた庭。路面とは異なった静かで 快適な空間。植栽から四季を感じることができる。
屋外回廊
外の路面と屋内の庭を繋ぐ回廊。屋外空間になっており、外
部から人を内部の閉じた庭に誘導する役割を果たす。夏は日 光が、冬は雪が防がれ道行く人に快適な空間を提供する。
3階
パーティースペースになっている。半分は屋外 空間。程よく日光と音が遮られる。
2階
ブナコのショールームが入居する。路面側はテ ラスになっており、カフェとして使用可能。
1階
喫茶店が入居する。ブナコ製品と共にコーヒー
を楽しめる。主に屋内の庭が見える親密な空間。