平成29年度 卒業研究
い草の家具
緒方 胤浩 九州大学 芸術工学部 工業設計学科
平成29年度 卒業研究
い草を活用した家具の提案 Proposal of a New Igusa Applied Furniture 工業設計学科
2018年2月16日
森田昌嗣研究室 1DS13045T 緒方 胤浩 九州大学 芸術工学部
Natural Life 自然に暮らそう
SINCE 1886
研究協力:株式会社イケヒコ・コーポレーション
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4
目次 07 はじめに 背景
07
目的
13
研究方法
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20 調査 現地調査
21
文献調査
25
製品調査
49
54 コンセプト立案・アイデア展開 コンセプト立案
55
アイデア展開1・プロトタイプ制作
59
アイデア展開2
63
72 最終提案 製品説明
75
デザインプロセス
77
82 おわりに
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07 はじめに
7
8
背景 いまの暮らしの中で、畳の上で過ごす時間はどれくらいあるだろうか。 明治以降の欧米文化の流入、生活の洋風化、高度経済成長期の団地 建設などを経て、次第に暮らしの中から「畳の部屋」が減っていき、近 年では和室が1室あるかどうか、という住宅も少なくない。 また和室の減少に伴って、原料である「い草」の生産量も年々減少し ている。い草の生産量のうち約90%以上が熊本県と福岡県によって占 められているが、そこでの生産農家や関連する職人の減少にもつながっ ているという現状がある。 しかし畳の多目的に使える「機能性」や、特に祖父母の家や旅館で感 じられる「落ち着く感じ」は最大の特徴であり暮らしを豊かにする要素 の一つであると考えられる。古くは平安時代の頃から畳の素材として使わ れてきた「い草」が、長い歴史の中で日本の気候や風土に合わせて取り 入れられてきたのには理由があり、私たちの暮らしから失くなってしまう のは勿体無いのではないだろうか。 そこで、この持続可能的で、豊かな暮らしを作り出し得る優れた自然 素材に新しい価値を見出し、現代のライフスタイルに取り入れていくこと はできないだろうか、と考えた。
はじめに
い草って、、、?
photo by haru_q - Tatami
生活環境の変化 畳、い草の減少 優れた自然素材 現代の暮らしに合わせた変化の可能性
photo by Xurxo Martínez - Habitación
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動機 私は2016年10月から約1年間、ドイツのカールスルーエ造形大学に 交換留学をしていた。その年の春休み期間中に、あのミラノサローネに 足を運んだ。カールスルーエ造形大学からも出展していて、それに同行 する形でミラノを訪れた。噂に聞いていた通り、街全体に展示会場が点 在していて、3日の滞在では到底全てを見ることはできなかったが、たく さんの刺激、インプットを得ることができた。そこには日本から参加して いる企業も数多くあったが、その中でも特に気になるものが一つあった。 それはい草製品を製造、販売する株式会社イケヒコ・コーポレーション と業務用・店舗用家具を製造、販売する株式会社 ADAL が共同で出展 していた「い草の家具」だった。もともと伝統産業や工芸に興味があっ たことと、これまで見たことのなかったい草の家具に惹かれて、その場 で担当していた株式会社イケヒコ・コーポレーション海外販売部の北村 さんにお話を伺った。そこでい草の家具についてだけでなく、株式会社 イケヒコ・コーポレーションが同郷の福岡県の企業であることや、創業1 30周年を迎えた老舗企業であること、これから100年先に向けてい草 をどう残していくのか、どう変わっていけるのかという想いを伺った。 ちょうどパナソニック株式会社が工芸と家電の未来というテーマで企 画していた展示会場で、工芸師の方々に伺った「100年後を視野に入 れたものづくり」への想いとも相まって、地元福岡の「い草」を使って デザインをしてみたいと考えた。その時をきっかけにして、北村さんと連 絡を取らせていただいて、研究に協力していただけることになった。
はじめに
い草を対象に選んだきっかけ
Iori[ イオリ ]、株式会社 ADAL x 株式会社イケヒコ・コーポレーション
ミラノサローネ 2017
LED ペンダントライト「月灯」、 GO ON x Panasonic Design
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目的 近年、日本の伝統工芸や民藝が見直され、ファッションや雑貨などに 取り入れられるようになり、より身近なものになりつつある。また、20 20年の東京オリンピックにおいて、日本の文化を海外からの観光客に 発信するアイテムとして売り込もうとする動きもある。さらに、長く受け 継がれてきた技術を残していくためにも、デザイナーと協力することで新 しい形を生み出していこうとする事例も多い。 このようなある種の「トレンド」の中で、伝統産業が継承されていく 意味・価値を考えた時に、ナガオカケンメイ氏のロングライフデザインの 考えや、近江商人の心得である三方良しの考えなどが一つの参考になっ た。作り手、売り手、買い手、産地などの商品を取り巻く環境全体を捉 えて、それらの全てが満足のできるサイクルを考えることが重要である、 といったところだ。 これに加えて、素材としての観点から伝統産業を見た時に、そこには 地域性が密接に関わってくる。その土地でしか採れないもの、その土地 の気候や風土による素材の特長、その土地で暮らすために適した素材選 び、それに合わせた加工技術、隣接する地域との関係性など。そういっ た地域性が、物の価値を裏付けていて、その土地で生産されて消費され る意味につながるのではないだろうか。それらが地方ならではのオリジナ リティになるとも言える。
はじめに
続く →
伝統産業が継承される価値とは?
HASAMI_
今治タオル_愛媛県今治市
長崎県波佐見町 d design travel_ D&Department Project
伝統工芸や民藝の再評価 伝統産業の継承
世間
その意味・価値とは? ロングライフデザイン 三方良し
買い手
売り手
三方良しの関係性
地域性
オリジナリティ
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調湿効果 消臭効果
機能性
い草
文化
歴史
現代の暮らし 多様化
椅子座中心
集合住宅
い草が現代の暮らしにどうアプローチしていけるのか?を探る
はじめに
暮らしを豊かにする素材としての可能性 そしてさらに、そのような価値を持ったものが、地方から全国、そして 世界のどこか、同じように価値を享受できる場所で、新しく使われていく 可能性を広げていくことが、伝統産業が継承されていく意味・価値であ ると考えた。それは例えば、い草が畳として使われることかもしれないし、 私たちも知らなかった使い方があるのかもしれない。暮らしを豊かにす るものとしての役割を果たせる場所が、まだまだ存在するのではないだ ろうか。
畳の原材料として使われている「い草」は、1000 年以上前から日本 人の生活に深く関わってきた歴史があり、吸放湿性能や空気清浄効果な ど、高温多湿の日本の気候にとってポジティブな機能性を持っている素 材である。 しかし椅子座の生活様式や集合住宅の増加によって、和室の数が減る ことに伴い、い草の生産量や農家の数も減少している状況にある。 そこで、この素材としての良さや機能性などを再認識し、現代の暮らし に適応する形を提案することで、新たな活用法を示すことを本提案の目 的とする。
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研究方法 まずは、い草についての知識を得ることから始めた。歴史の中でどの ように生活に関わってきたのか?素材としての特性はなんなのか?生産量 の推移はどうなっているのか?福岡県三潴郡大木町に所在する株式会社 イケヒコ・コーポレーション本社を訪問してインタビュー調査をしたり、 い草製品の加工・製造過程を見学させていただいたり、文献調査をする ことで情報を収集し、デザインに活かせそうな特長を探した。 い草に関することと並行して、和室のあり方や生活スタイルに関する 事柄についてもインターネットを用いて調査した。どのくらいの世帯が和 室を所有しているのか?和室が欲しいと思うか?家では何をして過ごすの か?どういった休日の過ごし方をしているのか?それらの中から現代のラ イフスタイルにおいて、い草が活用されることによるメリットや暮らしに 入り込む余地を見つけ出した。そして「い草」が暮らしの中で、どういっ たものとして存在することができるのかを検討した。 その上でコンセプトを決定し、それを実現するためのアイデア展開を 行った。ある程度の方向性が固まったところで、一旦実寸サイズでのプ ロトタイプを制作して使い方やサイズ感、機能性について検討を行った。 そこで得た評価や反省から再度、使い方や形状のデザインについてアイ デア展開を行い、最終的なデザインを決定した。その案をもとに最終モ デルの制作を行い、実際に座ることで形状や機能性についての評価を 行った。
はじめに
調査 調査内容は以下の3つに分類される。
現地調査 株式会社イケヒコ・コーポレーションで のインタビュー調査や職人の工房見学など
文献調査 畳の歴史やい草の効能、暮らしに関する
アイデア展開①
書籍や研究論文、アンケートの調査
どのような使い方をすれば良さを
製品調査
活かせるのかを主軸に、使い方や 形状のアイデアを展開
い草を使った生活用品や家具、デザイ ナーによる製品、卒業制作などの調査
コンセプト立案 調査から抽出された特長を要件に加えて、
プロトタイプ制作
コンセプトを設定
アイデア展開①で出したアイ デアのいくつかを実寸サイズの プロトタイプとして制作
評価・再検討 プロトタイプをもとにアイデアの評価 を行い、さらに再検討を重ねた
アイデア展開② スケッチや3D モデリングをしな
最終モデル制作
がらスタイリングを行った
本学工作工房で最終的な モデルを実寸サイズで制作
評価 特に、座れるものであるかの検証
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20 調査
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現地調査 2017年9月12日と11月1日の2回、福岡県三潴郡大木町にある株 式会社イケヒコ・コーポレーション本社を訪ねて、池上代表取締役社長、 猪口代表取締役専務、海外販売担当の北村さんに対してインタビュー調 査を行った。また同時に染師さんの作業する工房や織り職人さんの作業 場を見学した。 インタビューをする中で、生産者の視点から「い草を生活に取り入れ る意義」についての熱い想いを感じた。同社は定期的にイベントやワー クショップを開催したり、株式会社良品計画と共同でい草の収穫体験を 企画したり、い草のマットレスを使ったヨガ教室を開いたりと、い草の魅 力を広く普及するための活動を積極的に行っている(主に地元で、時に は東京で)。そういった機会において予想以上の参加者や反響があるそ うで、い草本来の良さに興味を持つ消費者のニーズが一定数あると考え られる。インターネットや SNS が広く普及した現代では、モノから人へ のアクセスがしやすくなった、だからこそモノの後ろにあるコトを正しく 伝えられるものづくりをしていきたいとおっしゃていた。また国内のイベ ントだけではなく、ミラノサローネをはじめとする海外の展示会にも商品 を出展していて、い草文化を世界に発信しようとしている。猪口代表取 締役社長は、い草を求めて世界中から大木町を訪れる人が増えて地場産 業が活気付いたら面白いというヴィジョンを持っていた。 続く →
調査
工房見学とインタビュー調査
高温の湯の中に塩基染料を混ぜておいて、そこにい草を25分くらいつけ、その後半日以上かけて 乾燥させる。職人さんの経験に基づいた染料の配合加減によって様々な色を作り出す。
染色職人
機械織り
無染土
90cm 以上 ニーズ 消費者の興味
ワークショップ
ヨガ教室
収穫体験
6 色のい草が編まれている
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織り方の情報を持つ紋紙と呼ばれる型紙を使った昔ながらの織り機とデジタルデータを使うものがあった。 時々きれいに編めない箇所が出てくるので、数台の機械を常に見ながら職人さんが修正作業を行なっていた。
和室の効果 機能性
下肢機能
地方産業 海外展開
経年変化
調査
情報発信
5∼6割が捨てられる
生産者からみた「い草」のこと さらに情報発信がしやすくなった現在、地方も都市も関係なく世界中に 向けて情報を届けることが容易になった。ここに地方産業だからこその 価値が生まれる可能性があり、それを伝えられる商品を作っていきたい、 と。 また同時に文化的な背景に基づく畳の効果がある。それは立つ、座る の動作や布団を押入れに入れるといった動作が日常的に行われることに よる下肢機能の維持、向上が長生きにつながるということ。さらに転倒 しても畳がクッションの役割を果たして、大きな怪我につながりにくくし ていたとも考えられる。こういった生活における背景が日本人の長寿に つながってきたのかもしれない。 そのほかには、い草は素材として呼吸をしているから家具製造などで のプレス加工は適さないこと、経年によって色が緑から黄色、そして金色 に変化すること、畳などは毎年買うものではないので長く使える品質が 大事になること、良質な畳を作るためには 90cm 以上のきれいない草 が必要になるから5∼6割のい草が(畳の材料としては)捨てられている こと、海外輸送する時にタンカーの中で高温状態に耐えられるのかとい う懸念があること、などのことがわかった。
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文献調査1 「畳:日本人とすまい (2)」を読み、畳の歴史を読み解くために重要な 事項を以下に示す。 ●畳の大きさは西と東日本で異なるが、プロポーションは1対2の比率で、 モダンデザインのモジュールの発想と対応している。 ●畳縁の色合いや模様によって地位を示していたことは、ヨーロッパに おける椅子が階級を示していたことと同様に、空間的な階層性を持っ ていたことを示している。 ●正倉院に残されている寝台(ベッド)は、その上に畳を敷いて使われた。 ●書院造りの座敷空間は、封建社会のヒエラルキーを視覚化していた。 殿様と対峙する場での格式と序列の必要性。 ●「桂離宮」に代表される数寄屋風の造りは、きらびやかな襖に仕切ら れた畳の間があり、室町時代には見られるようになり、江戸時代の後 半までには町家や農家の座敷にも取り入れられ、和風の伝統的建築と して現代にまで受け継がれてきた。 ●三角形の畳(通称 三角亭):「木通庵」 、土井良輔、仙台市の馬渕家邸 内、「元浩房」、伊藤家6代目の書斎、新潟県新発田市 ●わび茶では、茶の湯の道具の置き場所を畳の目数によって定めていた。 ●元々は客人を招いた時の客座や寝床として用いられていたことが、畳 縁を踏まないとか、膳をまたがせないといった作法を生み出した。 ●明治天皇の宮殿において、畳の上に絨毯を敷き洋家具を設えていた。 富豪である三井家はそのような洋風な暮らしを取り入れる中で、クッ ション性による足腰の負担軽減のために良いという機能性にも気づい ていた。 続く →
調査
歴史的な観点から見た畳について
モジュール 椅子文化と同様 空間的な階層性 ヒエラルキーの視覚化
茶具の置き場所と編み目の数 作法の発生 客座や寝床
柏木博ほか (1997)『畳:日本人とすまい (2)』 リビングデザインセンター
畳の上に絨毯 明治天皇
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和室の構成要素
和洋折衷の模索 椅子座と床座の視線
杵屋六左衛門別邸
聴竹居
聴竹居、藤井厚二、1928 『「日本の住宅」という実験 』、小泉和子、 社団法人農山漁村文化協会、2008年より掲載
2DK 食寝分離論 食寝転用論
調査
明治維新を境に変わりだした畳の文化 ●畳を床材料としてではなく、和室を構成する集積要素の一つとして認 識し、単独で使用するものとして認識していなかったために、洋風化 の中で畳だけを置くことに違和感を感じるのではないか。 ●和洋融合の住宅を模索し、藤井厚二は「聴竹居」の中で板張りの床 から 30cm 持ち上げた畳の間を設けることで、椅子座と床座の目線 が合うように計画した。 ●「杵屋六左衛門別邸」座敷の床を一段高くし、椅子座との視線の高さ を同じにし、数寄屋住宅の中での椅子座の生活を提案した。 ●「丹下邸」ピロティの2階の居住空間に畳が敷き詰められ、その上には 低座の椅子と座布団が不調和なく置かれている。 ●戦後復興期に「美しい暮らしの手帖」では板の間が推奨され、座式の 生活は未開の生活であると述べたり、衛生面に関する論文を紹介した り、板の間に改造する方法や手入れの方法を掲載するなどしていた。 ●高度経済成長期になると公営住宅や公団住宅が現れ、食寝分離論の もとに 2DK の間取りが標準となり、あらかじめテーブルを付設するこ とで椅子式の生活が奨励されていた。またダイニングに対してリビング ルームと呼ばれる部屋では畳の上に絨毯を敷き、ソファやテレビ、フ ロアスタンドなどの洋家具が置かれた。 ●備後表が昔から最高級とされるのは、い草の品質とともにこの地方で 取れる染土が優れているためで、青みのある銀白色が出せる。
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文献調査2 「イグサのすべて」から、い草の素材特性や歴史などを以下に列挙する。 ●平安時代以降、一般庶民にとっては薬草としてい草が用いられていた。 ●フィトンチッドやバニリンなどのリラックス効果を高める芳香成分が含 まれている。 ●小・中学生を対象にした実験で、畳の部屋での学習において集中力が 上がるという結果が得られた。(計算問題の解答数の増加) ●抗酸化作用や整腸作用、血糖値を下げる、血圧を下げる、コレステロー ル値を下げるといった健康に寄与する成分を含み、食用することでそ の効果を得られる。またビタミンを十分に含み、活性酸素を減らすこ とで肌の老化を防ぐ。 ●八代市ではい草を料理に取り入れた飲食店もある。 ●抗菌作用を持ち、温度で効果に差がないことから料理に使用しても効 果を持続する、胃酸に負けることが ないので腸内まで効果が届く、 悪玉菌にのみ作用するので安心して摂取できる、などの利点がある。 (食中毒菌、アンモニア、水虫菌、防腐剤) 続く →
調査
科学的な「い草」の効能 リラックス効果
バニラエッセンスの原料である バニリンや、森林の香りの源 のフィトンチッドを多く含む
森田洋 (2008)『イグサのすべて』新芽出版
集中力の向上 抗酸化作用 ビタミン・ミネラル 酵素
フィトケミカル
右のような抗酸化物質の含有量が、緑
畳の教室で算数の試験をした小学生
黄色野菜などと比べても非常に多い
の方の解答数が約 14% 増加した
29
30
-98%
二酸化窒素
ハニカム構造 灯心部分のハニカム構造が、
-72%
ホルムアルデヒド
有害物質を吸着 ガス濃度 20ppm で、2時間後の濃度減少率
機能性を生む
10%
22%
綿
い草
吸湿性能 各素材に対する、吸湿による 24 時間後 の質量増加割合
調査
弾力性 スポンジ構造による弾力性を持つ
ハニカム構造による機能性 ●維管束がハニカム構造をなして並び、弾力性や吸放出性、吸音性、有 害ガス・有害物質の吸着性などの 機能性を生み出している。 ●高齢者の屋内での転倒事故に対する安全性の確保につながる弾力性。 ●吸湿性能の高さ。畳1枚あたり約 500ml の水分を吸収する。 ●窒素酸化物やアンモニア、ホルムアルデヒドなどの有害物質を吸着す る。 ●江戸時代が始まる頃に書院造りの家屋が広まるとともに、畳が一般的 なものになり始め、農村部などまでに広まったのは明治時代以降。 ●泥染によって、丈夫な構造を保つ、変色防止、調湿機能の追加、香り の付与を行う。 ●1980年のピーク時に比べてい草の栽培面積は10分の1に減少し、 そのうち約95%は熊本県が占める。
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文献調査3 素材特性の詳しいデータについて、「就寝時の布団中の湿度」と「和 室と洋室の湿度変化比較」を示す。 まず就寝時の布団中の湿度に関して、布団の上にそれぞれ「い草シー ツ」と「綿パッド」を敷き、被験者は横になる。この時の被験者の腰部 下の湿度を計したものである。い草シーツを使用した場合では、布団に 入ると同時に湿度の上昇が確認できるが、3分後からは次第に減少して いき65%付近で一定に保たれている。一方で綿パッドを使用した場合 には、30分頃までは大きな変化はないが、それ以降で著しい上昇が確 認できる。同時にそれぞれ「い草シーツ」と「綿パッド」の腰部下にお ける温度を計測すると、1時間経過時点でい草が38℃、綿が39℃となっ ており、い草が特別冷たい状態にあるわけではないことがわかる。つま り、い草は綿と比較した時にサラサラとした状態で保たれるので、より 快適な眠りを得られると言える。 次に和室と洋室における湿度の変化を比較した時に、和室では雨天時 に室内の水分を吸収することで湿度の上昇を抑えている。これが洋室に なると湿度が大きく上昇している。い草の高い吸放出性能、及び調湿性 能によって室内の湿度を一定に保とうとするので、特に日本のような気候 の地域において、快適な暮らしを実現するために寄与する素材であると 言える。 続く →
調査
就寝時の布団中の温度
温度 38℃ 36℃
機能特性のデータ
34℃ 32℃ 30℃ 0h
1h 時間
就寝時の布団中の湿度
100% 95% 90% 85%
湿度(%RH)
80%
い草
75% 70% 65% 60% 55% 50%
綿
45% 40% 0
10
20
30
40
50
60
時間(min.)
和室と洋室の湿度変化比較 60
雨天時 55
洋室 湿度(%RH)
50
45
和室
40
35
30
20:00 2:00 2004.12.3
8:00 14:00 20:00 2004.12.4
2:00
8:00
14:00
時刻
2004.12.5
出典:株式会社イケヒコ・コーポレーション
33
34
い草の吸放出性 40℃, 90%RH
吸放出率(%):対絶乾
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20℃, 65%RH
20 15 10 5 0 0
1
2
3
4
5
7
24
25
29
31
48
時間(h)
臭い減少率
・ アンモニア ・ 酢酸 ・ イソ吉草酸 ・ インドール ・ イネナール ・ 化学物質
・ 100ppm ・ 30ppm ・ 38ppm ・ 33ppm ・ 14ppm ・ 初期濃度
減少率(%) 99 95 98 96 94
ホルムアルデヒド残存濃度
二酸化窒素残存濃度
濃度(ppm)
濃度(ppm)
20
20
15
15
10
10
5
5
0
0 0
1
2
時間(h)
0
1
2
時間(h)
出典:株式会社イケヒコ・コーポレーション
調査
日本の暮らしにフィットした機能 前頁に続き「い草の吸放出性」、「臭い減少率」、「ホルムアルデヒドと 二酸化窒素の残存濃度」を示している。 まず前述の通り、い草は高い吸放出性能を持つが、この実験では 130x151mm の試験片を絶乾状態にしてから、気温40℃、湿度90% 下で水分を吸させたのちに、気温20℃、湿度65%下で水分を放出させ た。(この時に絶乾状態の試験片と、吸湿した状態での試験片の質量の 割合から吸湿率を算出している。)すると、24時間経過時点では21.9% の吸湿率、48時間経過時点では11.8%の吸湿率が計測された。この 差から、い草は質量の10%分ほどの水分を吸放出し、湿度を調節する ことができると言える。 次にい草が悪臭の原因となる化学物質を吸着し、それらの濃度を90% 以上減少させていることがわかる。汗臭、ペット臭、トイレ臭、タバコ 臭などの原因物質も抑えて、気持ちのいい空気環境に整えることができ る。 さらに、い草が有害物質を吸着することもわかっている。シックハウ スの原因となるホルムアルデヒドや、酸性雨や光化学スモッグの原因の一 つである二酸化窒素(NO )を吸着し、二酸化窒素では98%も減少さ せている。また、アンモニアやアミン類など、屎尿系の臭いに対して高 い吸着力を発揮することもわかっている。室内では靴を脱ぐという文化を 持った日本人にとって、畳は素晴らしい機能性を持った床材であると言 える。
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文献調査4 ここでは、実際にどれくらいの生産量の現状が起きているのかなどに ついて、い草の全国累計「収穫量」と「作付け面積」の推移、「国内生 産量と輸入量の比較」を示す。 まず収穫量と作付け面積を見たときに、これらは概ね相似の関係にな る。また戦後の復興期、ちょうど東京オリンピックが開催された年に最 大量を記録したのを機に、多少の増減はあるものの右肩下がりになって いる。2015年の数値に至っては、戦時中の記録に近いところにまで減 少してきている。戦後から現在までの期間で見たときに、高度経済成長 期以降の団地などの集合住宅の建設ブームによって、徐々に収穫量が減 少している。その後、バブル崩壊からの10年間で最も減少が顕著であり、 最近10年間での減少率は比較的低いと言える。このように、各時代に おいて生活に直結するような出来事に強く影響を受けて、収穫量の増減 が発生していることがわかった。 次に国内生産量と輸入量を比較したときに、国内産と輸入品の両方で 減少傾向にあるが、2014年には約4倍の量が主に中国から輸入されて いる。マンションなどの集合住宅で用いられるものとして、安価な輸入 品が選ばれる傾向にあるそうだ。しかし、輸入されるものは、色が鮮や かなうちに刈り取るために国内産よりも収穫時期が早く、芯が細くて耐久 性などの面で性能が落ちる。 続く →
調査
農作物としての実態 収穫量の推移
作付面積の変化
(t) 160,000
141,100(t)
140,000
1964 年
(ha) 14,000
64,500(t)
120,000
2015 年
40,000
1,700(ha) 2005 年 701(ha)
6,000
7,800(t)
60,000
5,610(ha) 1995 年
8,000
2005 年
80,000
1964 年
10,000
21,800(t)
100,000
12,300(ha)
12,000
1995 年
2015 年
4,000
0
1926 1929 1932 1935 1938 1941 1944 1947 1950 1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013
0
1926 1929 1932 1935 1938 1941 1944 1947 1950 1953 1956 1959 1962 1965 1968 1971 1974 1977 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013
2,000
20,000
( 西暦 年 )
( 西暦 年 )
引用:農林水産省「全国累計統計表、工芸農作物、い」 注 :1 1944(S19) 年産から 1973(S48) 年産までは沖縄県を含んでいない。 2 1995(H7) 年以降の数値は主産県(熊本県及び福岡県)の合計値である。
い草の国内生産量と全国輸入量の推移 3,500 3,000 2,500
2,496
2,000 1,500 1,000
1,447 782
500
367 2014
2013
2012
2011
2010
2009
2007
2008
2006
2005
0
( 西暦 年 )
国内生産量 ( 万枚 )
全国輸入量 ( 万枚 )
注: 1 主産県(福岡県及び熊本県)の生産量は、国内生産量と同一であり、各当該年の前年7月から当年6月までに生産されたものである (農林水産省 特定作物統計調査) 2 全国輸入量は、農林水産省の換算値(輸入量を畳表一枚当たりの平均使用量 1.7kg として枚数に換算)及び期間に合わせ長崎税関 が算出した枚数である。
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畳表生産農家数
い生産農家数の推移 (戸)
(戸)
1,400
1,400
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2016
2015
2014
2013
2012
2011
476( 戸 )
200 0
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
0
1,180( 戸 )
400
552( 戸 )
200
(西暦 年)
(西暦 年)
畳表生産量
780( 万枚 )
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
254( 万枚 ) 2004
(万枚) 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0
(西暦 年)
資料:農林水産省統計部「作物統計」 注:1. い生産農家数は、各当該年産の「い」の栽培を行った農家の数である。 2. 畳表生産農家数は、各当該年の前年7月から当年6月までに畳表の生産を行った農家の数である。 3. 畳表生産量は、各当該年の前年7月から当年6月までに生産されたものである。 4. 主産県(福岡県と熊本県)のデータ
調査
2016
1,260( 戸 )
400
2015
800 600
2014
800 600
2013
1,200 1,000
2012
1,200 1,000
い草産業の縮小という現状 続いて、い草の生産農家数、畳表生産農家数、畳表生産量の推移を 示す。 こちらも最近10年間の統計であるが、それぞれの数が著しく減少して いることがわかる。い生産農家数は、畳表生産量(=畳表の需要)が なければ、必然的にその数も減少してしまう。2016年の畳表の生産 農家数を47都道府県で割ったとすると、各都道府県に10人ずつ畳表の 生産農家が存在することになるが、これも非常に少ない。これらは景気 低迷や住宅着工数の減少、住宅の洋風化、畳表替え離れ、後継者不足、 経営者の高齢化、などの要因によって、このような事態になっていると考 えられる。 このように、他の伝統産業と同様な課題を抱えていることがわかる。 い草の生産に関していえば、その 90% 以上が熊本県と福岡県で行われ ているから、その地域性という点での価値は非常に高く、保存・発展の 意味も大きいだろうと考えた。
39
40
文献調査5 これまではい草の機能性や実際の生産量の推移など、素材そのものの 調査を行ってきたが、ここからはそれが暮らしの中でどれくらい使われて いるのか?どれくらいのニーズがあるのか?などについて調べていった。 まずは「和室の有無」について、関東地区の持ち家(戸建、集合住宅) の方を対象にしたアンケートでは、約82%が「あり」と回答している。 このうち71%が毎日利用していると回答しており、「寝室」としての利用 が最も多く、次いで「来客用の寝室」、 「家族のくつろぐスペース」、 「客間」 として利用していることがわかった。一方で和室は「なし」と回答した方 のうち、 「和室が欲しいと思うか?」という質問に対して約半数で「欲しい」 という回答が得られた。 次に新築の分譲住宅購入者に対して行われたアンケートでは、和室の 必要性を考えている方が全体として70%近くいることがわかった。サン プルをマンション購入者と戸建購入者に分けた時には、戸建購入者の方 が和室が必要であると回答している。その目的として「押入れが必要」 という答えが最も多く、それに次ぐ答えとして「畳さえあれば良い」が選 ばれ、その他に「床の間」、「仏壇置場」のために和室が必要とする回答 があった。現状のニーズとしては、その機能面での需要が多く、和室のニー ズは一定数あることがわかった。 続く →
調査
和室のニーズ 和室の有無 和室の利用頻度
和室が欲しいと思うか?
48%
82%
欲しいと思う
なし
特にいらない
71% ほとんど使わない
あり
時々使う
毎日使う
東京ガスメールマガジンにて、「住まいに関するアンケート」を実施。 回答数:1606名 ※持ち家(戸建、集合住宅)の方の回答を集計。賃貸は除く 実施期間:2009年4月。 東京ガスは関東地区(1都6県)に都市ガスを供給。
和室のニーズ(全体 n=722) 和室のニーズ(戸建 n=491)
和室のニーズ(マンション n=222)
53%
46%
14%
14%
16%
必要と思ったが、今は不要
無回答他
不要
必要
57%
不要と思ったが、今は必要 引用: 「住宅に関するニーズについてのアンケート調査」 、(社)日本住宅建設産業協会戸建住宅委員会・中高層住宅委員会 顧客ニーズアンケート合同ワーキングチーム 調査対象:日住協会員企業が首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)にて供給した新築分譲マンション及び新築戸建 分譲住宅を購入した主に 30 歳代の方で、入居後概ね1年∼2年経過した方。 調査時期:平成18年3月
41
42
居室の床はどんな素材がいいか?
間取り
16.9%
80%
44.1%
引用: 「お住まいに関するアンケート」 不動産・住宅サイト SUUMO 調査対象:20代シングルで一人暮らしの男女
ワンルーム
1K
1DK
1LDK
2K∼3LDK
( 男性94名、女性83名 )
カーペットなど
こだわらない
調査時期:2017年3月
畳
フローリング
全国の20∼30代の男女330名に調査。 (2016年12月16日 CHINTAI 調べ)
今住んでいる家の建物や部屋の 設備・仕様について契約時に決め手になったもの 60%
40%
21.5%
20%
バ ス ・ ト イ レ 別
2 階 以 上
部 屋 の 内 観 の 良 さ
収 納 ス ペ ー ス
エ ア コ ン 付 き
日 当 た り の 良 さ
室 内 洗 濯 置 き 場
フ ロ ー リ ン グ
角 部 屋
各 部 屋 の 広 さ
L/D/K
0%
の 広 さ
イ ン タ ー ネ ッ ト 対 応
オ ー ト ロ ッ ク
引用:「お住まいに関するアンケート」 、不動産・住宅サイト SUUMO 調査対象:20代シングルで一人暮らしの男女 ( 男性94名、女性83名 ) 調査時期:2017年3月
調査
建 物 の 外 観 の 良 さ
そ の 他
借家に求められること 前頁では分譲住宅の所有者に対してのアンケートを調査したが、ここで はそれと比較する形で借家に暮らす方に対してのアンケートを見ていく。 まず家の「間取り」を見た時に、ワンルームもしくは1K に暮らす割合 が高く、1LDK の広さまで含めると約75%の割合を占めることになる。 ここで「居室の床はどんな素材がいいか?」というアンケートに対して8 0%がフローリングと回答している。さらに賃貸選びのポイントとしてフ ローリングが上位に選ばれているというアンケート結果も見られた。他の 項目を見ても機能性や清潔感につながる項目が上位に来ていることから、 やはり手入れの手軽さや新しく見えることから、フローリングが選ばれて いるのではないだろうか。しかしこの場合は1部屋だけしかない借家に あって、優先的に選ぶものとしてフローリングが優位に選ばれているけれ ど、分譲住宅を購入したり家族が増えて部屋数の多い場所に居を移す場 合には、前述のように和室の需要も増えるはずである。私は、ここに畳・ い草をアピールできる余地があると考えた。つまり、単身者の生活にお いて、い草の良さが理解されることで今以上に和室の需要が増えること が期待できる。そして、い草の素材特性まで含めた機能性の高さを認識 することで、より良い暮らしのために畳・い草を生活に取り入れようとい う意識が広く普及することを期待した。
43
44
文献調査6 前項で単身者の暮らしにい草をアピールする余地があると仮定した。そ こで実態としてどのような部屋で生活をしているのかを探るために、自分 の部屋のインテリアやコーディネートの写真を共有できるウェブサイト や、レイアウトサンプルなどを紹介したウェブサイトを参考に調査を行なっ た。 右の写真を見てもわかるように、ベッド・テーブル・ソファを基本の家 具としている。さらにテーブルのほとんどはローテーブルで、狭い空間を なるべく広く見せるために、全体的に全てのものを低く配置しようとして いることがわかる。それに伴って、生活の中心がローテーブルになり、 それを囲むような範囲で行動が完結するようになっている。ここで注目 されるのは、ローテーブルを使った時に必然的に床座、もしくはソファや ベッドと床を行き来するような行動が予測できることだ。つまり、単身者 の暮らしを切り取ってみると、積極的に床座の生活が行われていて、い草・ 畳の入り込む余地は用意されているのだ。
調査
一人暮らしの生活スタイルとは?
出典: http://www.hitorigurashi-tsuuhan.com/index.html http://www.receno.com/ http://roomclip.jp/
45
46
意外になくても暮らせた家具・家電 (複数回答) 1位
ソファ
2位
いす
オフ ( 仕事がない日 ) の過ごし方タイプの構成比
51.6 (%) 0%
35.2
3位
食器棚
25.5
全体 (n=1,000)
4位
ベッド
25.2
男性 (n=500)
5位
テレビ台
22.3
女性 (n=500)
6位
時計
20.3
7位
掃除機
19.8
8位
テレビ
18.9
9位
ラグ
18.6
未婚 (n=857)
10位
本棚
17.5
既婚 (n=143)
25%
50%
75%
19.9%
100%
41.9%
20 代前半 (n=500) 20 代後半 (n=500)
16.0%
引用: 「SUUMO 賃貸一人暮らし調査」 調査対象:18 ∼ 29 歳、首都圏で賃貸一人暮らしをしている 349 名 調査時期:2015 年 2 月
47.7%
リア充タイプ ( コミュ派 x ソト派 )
アットホーム ( コミュ派 x ウチ派 )
おひとりさまタイプ ( ソロ派 x ソト派 )
巣ごもりタイプ ( ソロ派 x ウチ派 )
オフ ( 仕事がない日 ) にどのようなことをして オフ ( 仕事のない日 ) の過ごし方について、
して過ごすことが多いか ( 複数回答 )
どちらに近いか?
アットホームタイプ
巣ごもりタイプ
( コミュ派 x ウチ派、n=199) 誰かと過ごすことが多い ( コミュ派 ) 一人で過ごすことが多い ( ソロ派 )
61.8% 54.4% 自宅外で過ごすことが多い ( ソト派 ) 自宅で過ごすことが多い ( ウチ派 )
( ソロ派 x ウチ派、n=419)
1位
インターネット閲覧
77.9(%)
1位
インターネット閲覧
84.5(%)
2位
ショッピング
52.8
2位
動画共有サイト視聴
54.2
3位
睡眠
42.7
3位
ゲーム
43.0
4位
TV 視聴
40.7
4位
録画番組の消化
42.7
5位
動画共有サイト視聴
40.2
5位
TV 視聴
40.8
6位
録画番組の消化
37.7
6位
ショッピング
40.1
7位
マンガ
39.6
ゲーム 8位
部屋の片付け
34.7
8位
睡眠
38.4
9位
マンガ
33.2
9位
音楽鑑賞
34.1
外食・グルメ
32.7
10位
インターネットの交流
30.5
10位
引用: 「20 代のオフの過ごし方に関する調査 2016」、SMBC コンシューマーファイナンス株式会社、2016 年 6 月に 20 代のビジネスパーソン 1000 名を対象にインターネットリサーチを実施。 http://www.smbc-cf.com/bincan-station/antenna/05.html
調査
家ではどう過ごしているのか? さらに詳しく20代単身者の暮らしを調べると、「意外になくても暮ら せた家具・家電」としてソファと椅子が上位に挙げられた。これはソファ でなくてもベッドが高さも含めて同じような使い方ができること、さらに ローテーブル中心の床座の生活で全てのことをすませられるし、むしろそ の方が楽なことも多いからではないだろうか。 また、20代のオフの過ごし方(=家での暮らし)に着目した時に、 自宅で過ごす人の割合が高いことと、一人で過ごす人の方が多いことがわ かった。さらに自宅で一人で過ごすことが多いサンプルを「巣ごもりタイ プ」、誰かと自宅で過ごすことが多いサンプルを「アットホームタイプ」 とした時に、これらのグループがどのようなことをして過ごすことが多い かを調べた。この時に、パソコンで動画を見たり、テレビを見たり、漫 画を読んだりと、リラックスした状態で行う静的な活動がほとんどの回 答で見られた。このような過ごし方や当初は必要だと考えていたソファや 椅子の存在を考慮して、床座の生活において「床座と椅子座の中間」に 位置して、リラックスした状態をサポートするような家具を作りたいと考 えた。
47
48
製品調査 い草の製品をデザインするにあたって、現状で市場にどのようなもの が存在するのかを調査した。 1.「マイル」や 2.「F ドロップ」などは生活用品の素材として、い草が 使用されている。い草の持つ消臭性能や吸放出性のを活かして、カー ペットやマットレス、枕、サンダル、靴の中敷などが売り出されている。 3.「い草の洗顔石鹸」は、い草の抽出液を使用しており、カロテン・ビ タミン C・ビタミン E・ポリフェノールなどを含み、抗抗菌作用や抗酸 化作用を持つ。これはい草の植物としての効能を活用している。 4.「ヴォロノイ畳」は、コンピューター・アルゴリズムで多角形を組み合 わせた畳を作れるオンラインサービス。天然素材とそれを用いた職人 の技術力があってこそのオーダーメイド商品ができる。畳の見た目を新 しくし、またそれに伴うサービス(販路拡大、世界展開、インターフェ イス)のデザインを実現している。 5.「光畳」は、天然い草と透過素材で編んだ畳表を、畳に内蔵された LED ライトで光らせている。茶室を現代的な空間に演出したりと、従 来の形は変えずに素材の変化によって新しい価値を見出している。 6.「IGUSA RUG」は、アメリカンネイティブ柄を大胆に表すことで、ベッ ドやソファに合わせられるようなテキスタイルのデザインがなされてい る。またこの商品は男性ファッション誌に紹介されるなどしており、 ファッションの分野にい草製品が進出して若者にも身近なものになろ うとしている。 続く →
調査
い草製品の市場
1.「マイル ( くぼみ平枕 )」 、株式会社イケヒコ・コーポレーション 2.「Fドロップ ( キッチンマット )」 、株式会社イケヒコ・コーポレーション 1
3.「い草の洗顔石鹸」 、Tokyo-Igusa 4
3
5
4.「ヴォロノイ畳」 、noiz・草新舎
6
2 7
5.「光畳」、村上産業 8
6.「IGUSA RUG」、BasShu 7.「Men s JOKER(2017 年 9 月号 )」 、KKベストセラーズ 8.「Begin(2017 年 9 月号 )」 、世界文化社
49
50
9.「響」、ADAL 9 12
10
11
10.「IGUSA series」、添島勲商店 ( 清水 慶太 )
13
12.「RUSH series」、金沢美術工芸大学、西岡 大貴
11.「いぐさロール」、畳屋道場 ( 尾形 航 ) 13.「畳プロダクトの開発」、東北芸術工科大学、尾形 航
調査
デザイナーの介入 9.「響」や 10.「IGUSA series」の椅子は、構成要素の一部をい草 に置き換えることで、い草の家具としてデザインされている。「IGUSA series」については、畳の上に座り、物を置き、寝転がる、という普 遍的な行為そのものを抽出し現代の生活に合う様にアレンジした結果、 必然的に実現した家具であると説明されている。 11.「い草ロール」は、畳一畳を折るのに必要な長さ 90cm 以下に満た ないい草を活用することをコンセプトにした製品。クッション性の向上 と、汎用性の高さを実現。クッション、椅子、ベンチ、ベッドに応用 される。畳やゴザの面的な形状からは全く違った新しい形を持ったプ ロダクトになっている。 12.「RUSH series」と 13.「畳プロダクトの開発」は、卒業制作とし てデザインされたもので、12 の椅子は、従来の成型合板にイグサを編 み込んだ層を同時に成型する「イグサ編み込み一体成型合板」という 技法を発案し、座面と背面のスリットが弾力性を生み出し、イグサへの 通気性を与え独特の心地よさを演出する。 13 はリラックス効果や集中力を上げる効果を活かすために、休息や学 習のための家具の部材として使用することの有用性をコンセプトに、生 産過程で無駄になる素材の利用を実現し、従来のゴザの形を用いなが ら造形的にインパクトのあるプロダクトに仕上がっている。
51
52
54 コンセプト立案 ・アイデア展開
53
54
コンセプト立案 これまでの調査をもとに、メインのターゲットを20代で一人暮らしを している男女に設定した。このターゲットの暮らしを調べた時に、「意外 になくても暮らせた家具・家電」の上位2つにソファと椅子が選ばれて いた。これは狭い空間の中、ローテーブルを中心に低い家具に囲まれて 生活する上で、床座の生活で事足りる、むしろその方が楽だからであろう。 しかし、新生活が始まるにあたってソファや椅子が欲しいという気持ち や理想があることもまた事実である。 そこで、このギャップを埋められるものがターゲットのニーズに応えら れるものになるのではないかと仮定した。それが床座と椅子座の生活ス タイルの中間になるようなものであって、その二つをスムーズに繋ぐよう なものであれば良いと考えた。 そしてこのような仮定に対して、い草が適した素材として使用できると 同時に、い草が応用される可能性があると考えた。さらに、このターゲッ トがい草の良さを知り、将来的に広い部屋に転居したり、住宅を購入す る時に和室を取り入れる選択肢を持つようにすることで、長期的な需要 の創出もい草産業のメリットになると考えた。 このようなシナリオを踏まえて、デザイン条件や要件を設定していった。
コンセプト・アイデア展開
生活スタイルからヒントを抽出 コンセプト
家具デザインを通して、い草の良さを再認識する メインターゲットを20代で一人暮らしをしている男 女に設定し、床座と椅子座の中間になるような家具を デザインする。 また、この製品を通して「い草、畳」の良さを再認 識してもらい、住宅購入や広い部屋に転居する時に、 和室の選択肢を持ってもらう。 ここでの良さというのは、和の雰囲気という点だけ ではなく調湿効果や弾力性など、日本での暮らしに対 する機能的な利点も含んでいる。
潜在的ニーズ 意外と入らなかった家具 = 欲しいと思ったもの
ソファ、椅子 床座の生活 x 暮らしへのメリット ・リラックス効果 ・調湿効果 ・消臭効果
椅子座の生活
床座と椅子座の中間になるもの
「い草」 将来的な和室の選択の可能性
55
56
デザイン条件と要件 ここで、「オフの日にどのように過ごすことが多いか」というアンケー トの結果と「床座と椅子座の中間」というキーワードから、リラックスチェ アのような家具をデザイン対象として設定した。 そこからデザイン条件を「1 人用」、 「耐久性」、 「快適性」、 「サイズ」「い 草の使用」の 5 項目とした。まずは一人暮らしの人がメインターゲットで あることから、一人用の家具であること。またワンルームや 1DK の部屋 のスペースにも置けて、邪魔にならないだけのサイズ感であること。加え て耐久性や快適性を考慮する必要があると考えた。もちろん今回のテー マである「い草の応用」も条件として設定した。 デザイン要件には、「リラックス」できること、「姿勢」を自由に変え られること、「複数の使用方法」があること、い草を「張り替える」こと で新しいものになることを挙げた。オフの過ごし方から考えて、自宅でリ ラックスするときに最適な形であること、床座と椅子座の中間になるた めに単一のプロダクトとしてあるだけではなく、使い方に自由度を持たせ るようにすることなどを要件として設けた。漫画を読むにしても、仰向け になったり、うつ伏せになったり、壁を背もたれにしたり、寝転がって足 を何かに置いたり、様々な姿勢を取ることを想定した。また、畳が本来 張り替えることによって長く使えるものであることも踏まえて、ロングラ イフ製品としての良さを伝えることも目指した。
コンセプト・アイデア展開
オフの日の過ごし方に着目 条件
1人用
耐久性
快適性
サイズ
要件
リラックス
複数の使用法
姿勢
張り替え
57
58
アイデア展開1 前項で設定した要件や、畳が古来では来客用の持ち運べる寝具であっ たこと、ゴザの折りたたんで収納できる機能性、などのキーワードをも とに座る以外の使い方を持った「動きのある」家具のアイデアを出していっ た。まずはクッションとフレームから構成された椅子で、クッション部分 に折りたたんだゴザを置き、それを広げて使うことができるもの、シー トとフレームで構成したもの、ソリッド感があって組み合わせの仕方で座っ たり寝たりできるようなもの、ベッドのクッション部分がユニット畳になっ たもの、などを考えた。 日常的なソファの使い方を観察すると、ソファの座面を背もたれにし て床に座ったり、床に寝転がって足をかけたり、体を委ねるような姿勢 を取ることがわかった。このことから家具の前にゴザを広げて座れる範 囲が広がるような仕掛けを取り入れる方向性を固めた。これによって床座 と椅子座の中間になる仕組みを作ることができると考えた。そして折り たたんでいるものを広げることで、一人だけでなく、二人以上でもシェア できる可能性ができる。さらにこの仕組みを使えば、フレーム部分のデ ザインは無限で、将来においても長く展開していける可能性もあると考 えた。
コンセプト・アイデア展開
座る行為を取り巻く動きに着目
シェア
シート+フレーム
もたれかかる
折りたたむ
取り外し
ソリッド感
クッション+フレーム
開放感
59
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プロトタイプ制作 アイデア展開をもとに早速、本学工作工房にてプロトタイプの制作に取 り掛かった。使用した材料は合板、鉄パイプ、い草の三点である。これ によって大まかなサイズ感や座り心地、使い方などを実験的に検証した。 一つはクッションと木フレームの構造、もう一つはシートと鉄フレームの 構造を制作してみた。 これによって、写真のように木フレームにもたれかかる姿勢を取るとき には、肘をかけられるだけの座面の幅が必要になること、シートに座っ たときにテンションが小さく包み込まれるような心地は生まれないことな どの課題が見つかった。それを改善する策としてシートの下(裏)に補強 として張る素材をロープや布に変えてみたけれど、結果としてうまくはい かなかった。 しかしそこから、異素材との組み合わせや複数の色を組み合わせるこ とで、季節や気分に合わせて張るシートを替えられるという仕掛けを思 いついた。また、テンションを生み出すために鉄フレームにシートを巻き つけることで体や姿勢に合わせた快適性が生まれるのではないかという 発想を得た。 また、株式会社イケヒコ・コーポレーションの北村さんにも見てもらい、 「柔らかさ」と「夏感」についてのアドバイスをもらった。畳のパリッとし た感じではない柔らかさが出ると家具として座りたくなる。畳やゴザの拭 いきれない夏のイメージがあるから、それを考慮したアイデアがあると面 白い、ということも新たに要件としてさらにアイデアを練り直した。
コンセプト・アイデア展開
サイズ感の把握と気付き
クッション+フレームの構造
肘をかけられるだけの幅が必要だった
シート+フレーム、予想以上にテンションがなく包み込まれなかった
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62
アイデア展開2 プロトタイプ制作から見つかったヒントを元に、シートを巻きつけてクッ ション性のある座面を持った形を考えていった。ロール状になっているこ とで、キッチンペーパーのように引っ張るアフォーダンスを作れると同時 に、それをすぐに前の床に広げられる簡単さもあると考えた。 まずはロールの向きを前向きにするのか、横向きにするのか、芯にな る部分をどう構造材と結びつけるのか、メインとなる座面の仕組みについ て検討した。次にロール状の座面をどのように配置するのか、どう椅子 を構成するのか、全体的な外形を考えていった。 形のアイデアを出すと同時に引っ張り出したシートが何に使えるか、簡 単に引っ張り出せるにはどうすればいいか、どういう姿勢が取れるように なるのか、などの機能やサイズ感についてのアイデアも広げていった。 そうして考える中で、一般的な椅子に見られるような脚部などを排して、 い草のロール部分を際立たせられるような形にしていくことを決めた。と 同時に、背もたれの部分にもロール形状を使い同じ要素を持った形にす ることで、ミニマルなものになるようにした。これによってい草を応用し た家具という提案の意図をより明確に伝えられると考えた。
コンセプト・アイデア展開
ロール形状を基本に展開
63
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余談1:低座椅子のこと 今回の家具をデザインするにあたって、高さなどの点で低座椅子と呼 ばれるジャンルの家具を参考にした。長大作がデザインしたものが低座 椅子という名で呼ばれ、現在も販売されているが、これはもともと八代 目松本幸四郎邸の和室に置くものとしてデザインされたものの背と座に3 次元局面の成形合板を使い、座をカンチレバーで支える構造に改良した ものである。しかしその元になったのが、坂倉準三の竹かご低座椅子で ある。さらにこれも1941 年にシャルロット・ペリアンが来日した時にデ ザインした低座椅子(ローシート チェア)のリデザインであると言われ ている。 4 の椅子はペリアンがデザインに関わったものであることは確かなのだ が、名称や製造年を見つけることができなかった。しかし 5 の椅子と比 較した時に脚部の Z の形が非常によく似ている。この 5 は坂倉準三が 1947 年に MoMA 主催の「ローコストファニチャー国際設計競技」にお いて佳作に入選した時のプレゼンボードである。これを和室で畳を傷つ けないように脚部を長くソリのようにしたものが 6. 竹かご低座椅子であ る。したがって、4 の椅子は 1941 年にペリアンが日本の和室空間のた めにデザインした低座椅子だろうと予測できる。 このように当時はまだ和室での生活が一般的であった中で、椅子の文 化が入ってき、その調和を図る家具として生まれた低座椅子。和室でもく つろげることを目的とし、コンセプトは違うが使い方などでは共通すると ころがあると考えて参考とした。
コンセプト・アイデア展開
低座椅子の歴史とそれぞれの関係性
1. Low Chair, Charlotte Perriand, 1950
1
2
5
3
4
6
2. Lounge Chair, Charlotte Perriand, 1955 3. Tokyo Lounge Chair, Charlotte Perriand, 1954 4. 名称不明 , Charlotte Perriand, (1941*) * おそらく間違いないが不確定 5. Seating Unit Bamboo Chair 4, 坂倉準三 , 1947 6. 竹かご低座椅子 , 坂倉準三 , 1948
7
8
7. 低座椅子 , 長大作 ( 坂倉準三建築研究所 ), 1957 8. 低座椅子 , 長大作 ( 天童木工 ), 1960
65
66
余談2: い草に関してのデザイン提案として、まずはじめに思い浮かんだことは、 4畳半の空間を造形することだった。もしもそれぞれの畳が自由度のあ る絨毯のような動きをすれば、好きな高さに調整して様々な使い方がで きて機能の幅が広がるし、椅子座と床座の連続性を生み出すことができ ると考えた。しかしこれは、通常時はフラットな面が確保できて、ユーザー の思うがままに形を変えられる機構が必要になる。そうでなければ4畳 半の和室の機能性が奪われてしまい、本末転倒である。なので、いつか この機構が作れる人に出会った時に、このアイデアを実現させたい。 またい草から畳、和室まで範囲を広げて対象を観察した時に、それを 成り立たせるためにはいくつもの構成要素があるということがわかった。 壁や柱、床の間、障子、押入れ、縁側、軒など。障子一つを取っても、 強い日差しを和らげて室内を照らすというような機能がある。このように 長い歴史の中で快適な暮らしができるような仕組みを築き上げてきたこ とに気づいた時、ある種の感動を覚える。そしてこのようなアイデアを知っ た時、容易にそれらを忘れることはできないという思いが生まれた。こ ういった先人の知恵を知り、これからのデザインのアイデアとしてアップ デートしていくという方法は、地方産業のリデザインの一つの仕方になる だろうと考えた。
コンセプト・アイデア展開
和室としての機能性
67
68
スタイリング アイデア展開で形の要件として座面と背もたれの部分をロール形状にし てつなぐこと、機能的な要件として複数枚のシートを巻いておいて自由に 取り出せること、を決定した。これに加えてスタイリングの要件として、 柔らかいこと(北村さんのアドバイス)、安定感があること(リラックスチェ アとしての包容力)、ミニマルであること(要素を際立たせると同時に使 い方の自由度を上げる)を設定した。 このような要件を踏まえた上で、主に2つのロールをどれだけ単純に つなぐことができるか、ということにフォーカスしてスタイリングを行なっ た。その中で椅子として構造的に成り立つようにスタイリングをしていっ た。
コンセプト・アイデア展開
柔らかさ、安定感、ミニマル
69
70
72 最終提案
71
72
最終提案
最終提案
い草の家具
73
74
製品説明 このリラックスチェアは、座面と背もたれにい草のシートがロール状に 巻かれている。これを取り外すして床に敷いて寝転がったり、椅子の前 に敷いて椅子にもたれかかったりすることができるような、椅子座と床 座の中間になる家具としてデザインした。シートは複数巻くことで、来客 の時に簡易的な座布団として使用したり、夏の時期にベッドの上にゴザと して敷いたり、ヨガマットにしたり、上着にかけて脱臭したり、といった 使い方ができる。また、いくつかの色を巻いておくことで、季節や気分 によって見た目を変えることができる。 サイズ感としては低座椅子を参考にして座面高を低くしているが、横を 向いて座った時に背もたれに肘をかけられたり、背もたれに一時的に腰 掛けられるような床からの高さになっている。 形は、円を使うことで柔らかさを感じ、地面との接地面が広く、重心 の低いどっしりとした印象があり安定感を感じられる。そしてそれらがミ ニマルにまとめられている。また、座面の下を空洞にすることで軽い印 象を与えると同時に、雑誌を置いたり、リモコンを置いたりできて、生 活に馴染むようなスキを生み出している。
最終提案
75
76
デザインプロセス まずはスタイリングの段階で決定したスケッチを元に、3D ソフトやミ ニチュア模型によって細かな寸法などを大まかに決めていった。そこから 素材として何を使うかを考えた時に、い草との組み合わせで温かみのあ る木材を採用した。その木材を構造体として使うにあたって、曲げ木に するのか、無垢材を組み合わせるのか、合板から切り出すのか、などの 技術面については、工作工房の指導教員の方々にアドバイスをしてもらっ た。縦と横の繊維方向や接合方法を考慮した時に、合板を切り出して補 強材としてアルミを挟む方法が、後ろ足の細さも確保でき最適であるとし て、この方法を選択した。そして合板の板厚やアルミ板の大きさなどにつ いては、実寸サイズで簡単な実験を行いながら最終的な寸法を決めて いった。
500
φ250 250
1800
250
600
455
最終提案
[ 単位:mm ]
展開図_ 使用材料_合板 12mm, 4mm, アルミ板 4mm, 木丸棒Φ12mm, ボルトナットΦ6mm,
77
78
デザインプロセス い草のシート部分は株式会社イケヒコ・コーポレーションに制作の協 力をしていただいた。本社で最終提案の説明を行なった際に、様々な織 り方から最適なものを選んだり、ヨガマット用に裏地を貼ることにしたり、 数十種類のカラーサンプルからイメージに近いものを選んだり、細かな 要求を聞いていただいた。 畳表になるい草の織り方だと、意図が太く凹凸がはっきりしているが、 今回は巻きつけたりすることも考慮してよりフラットな織り方の「二二目 織り」を採用した。また重なりが1層の目セキ織りと比較した時に耐久性 の面でメリットがある。
全体的な思考プロセス ・素材として日本の生活に効果がある。 ↓ ・それをどのようにして 気づいてもらうのか?選んでもらうのか? ↓ ・その良さを伝えられるモノを考える。 ↓ ・暮らし ( 家 ) の中で使うモノを考えるとする。 ↓ ・暮らし方や生活の仕方を調べる。
・一人暮らしの多くは床座の生活スタイル。 ・ソファや椅子を買ったけど、意外に使わなかった。 ・休みの日には家で過ごす 20 代の割合が高い。
・床座と椅子座の中間になる家具を作ることで、 椅子座を理想とする潜在的なニーズに答えられるのではないだろうか? 家でリラックスする時間をより良くできるのではないだろうか?
↓ ・ヒントを発見する。 ↓ ・コンセプトを決めてアイデアを展開する。 ↓ ・デザイン提案。
最終提案
・い草のシートが巻きつけられたリラックスチェア。 椅子の前に広げて寝そべったり、夏はベッドに敷 いて快適な寝床を作ったり、友達が来た時の簡易 的な座布団になったり、ヨガマットになったり、 多様な使い方ができる家具を目指した。
掛川織
目セキ織
筑後地方に古くから伝わる伝統的な織り方。
い草と縦糸が交互に絡み合った織り方。
縦糸が 94 本で太い。他の織りに比べて、
柔軟性があり肌触りが良く、座布団や
よりたくさんのい草を使っている。
シーツ等によく使われている。
三重織
麻引織り
縦糸が 330 本あり西陣織りの様に細かく
畳表と同じ織り方で縦糸に
浮き上がった三重構造の高級品。
麻糸を使用した織り方。
良質で柔軟性のあるい草を使用している。 袋織
糸引織
縦糸が通常のものよりも 100 本位多い
畳表の織り方。
330 本あり、細かい柄をきれいに出せる 二重織。 紋織
双目織
縦糸を 235 本使用した二重織りで
い草と縦糸がからまる間隔が約
柄がはっきり出せる織り方。
1cm あり、等間隔になった織り方。
大目織
ニニ目織
い草と縦糸がからまる間隔が 2.5∼
肌触りのいい織り方。
3cm あり、伝統的な織り方の一つで、 肌触りがいいのが特徴。
ゴザの編み方
白イ
ベージュ
オレンジ
赤
コイカワ
鉄コン
出典:株式会社イケヒコ・コーポレーション
ブルー
79
80
82 おわりに
81
82
おわりに
椅子と友達と
83
84
おわりに
作業風景
85
86
おわりに
大木町と八女市の風景
87
88
参考文献と面白かった本
終わりに
[ 100 Chairs in
[ 1000 Chairs ],
[ Biomimetics for
[ Charlotte
[ Craft Becomes
[ Design of the
[ Finn Juhl and His
100 Days and
Charlotte Fiell
Designers ],
Perriand et le
Modern ],
20th Century ],
House ], Per Hansen,
its 100Ways ],
and Peter Fiell,
Veronika Kapsali,
Japon ],
Regina Bittner
Charlotte Fiell
Hatje Cantz Verlag
Martino
Taschen
Thames & Hudson,
Jacques Barsac
他 , Kerber
and Peter Fiell,
Gmbh & Co Kg,
Gamper, The
America Llc,
2016.9
ほか ,Norma
Berlag, 2017.8
Tashen America
2014.9
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Editions, 2008.9
Llc, 2012.12
2007.10
[ Furnitecture ],
[ One by One ],
[ Overview ],
[ Planet LED ],
[ Product
[ Square, Circle,
Anna Yudina,
Edward Barber and
Benjamin Grant,
Teddy Lo,
Minimalism ],
Triangle ], Bruno
Thames & Hudson,
Jay Osgerby,
Preface Publishing,
ORO Editions,
Sendpoints,
Munari,
2015.3
Barber & Osgerby
2016.9
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Princeton
2016
Architecyural Press,
Books, 2015.9
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[ The Making of
[ The Vitra
[ WA ],
[ イグサのすべて ],
[ かたち曼荼羅 ],
[ ザ ニュー ヴィ
[ シャルロット・ペ
Design ],
Campus ],
Stefania Piotti ほ
森田 洋 ,
坂根 厳夫 ,
ジョン ],
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か , Phaidon
新芽出版 ,
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2009.6
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[ デザインの次に
[ 陰翳礼讃 ],
[ 形の美とは何
[ 工藝文化 ],
[ 山永耕平家具作
[ 畳:日本人とすまい
[ 色彩論 ],
来るもの ],
谷崎潤一郎 ,
か ],
柳 宗悦 ,
品集 ],
(2) ], 柏木 博ほか ,
ヨハネス・イッテン ,
安西 洋之、八重樫
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2017
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[ 世界でいちばん優
[ 生とデザインーか
[ 造形思考 ],
[ 地域ブランドクリ
[ 長大作 ],
[ 日本の工芸を元気
[ 理想の書物 ],
しい椅子 ],
たちの詩学 ],
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エイターズファイル
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ウィリアム・モリス ,
宮本 茂紀 ,
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部,
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89
90
謝辞 本研究をするにあたり、日頃よりご指導いただいた指導教員の森田昌 嗣教授に心より感謝いたします。 資料やサンプルの提供など、研究に協力していただいた株式会社イケヒ コ・コーポレーションに感謝の意を表します。 工作工房の技術指導員の方達には、制作協力やアドバイスをいただきま した。ここに感謝したします。 家族や友人には研究生活を支えてもらいました。ありがとうございまし た。
おわりに
緒方 胤浩 Kazuhiro Ogata 1993 年 6 月 17 日生まれ 2010-11 St. Andrew s College, Dublin 2013-2018 九州大学 芸術工学部 工業設計学科 2016-17 Staatliche Hochschule für Gestaltung Karlsruhe 2018- 京都工芸繊維大学 大学院 デザイン学専攻
91
92
93
94
hcraeseR noitaudarG 81-7102
erutinruF asugI
atagO orihuzaK ytisrevinU uhsuyK ,ngiseD fo loohcS ,ngiseD lairtsudnI fo tnemtrapeD