ドローイングの伝達連鎖ネットワークによる文化的浮動の観測と進化実験
はじめに:
今回の発表内容・データは既に論文発表しています.実験方法など詳細は
Design Creation and Random Drift: Neutral Evolution of Drawings in the Laboratory, Matsui, M., Ono, K., Watanabe, M. (2017, In Press) Letters of Evolutionary Behavioral Science をお読みください. 未発表データは含まれていませんのでいくらでも撮影してください. ツイッターなどにアップロードしてくださっても構いません.
Article In Press, Uncorrected Proof, 2017.06.23 Vol. 8 No.1 (2017) 24-27.
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Random Drift and Design Creativity: Evolution of Drawings in the Laboratory
condition of the experiment, we show that these two match very well. For mutation rate μ ≪ 1, previous studies show that real-world cultural variants and simulation datasets obey power-law distribution,
Minoru Matsui*, Kenta Ono, Makoto Watanabe
However, it is known that the pattern breaks down
p(x) ∝ x . -α
(1)
結論 デザインがランダムプロセスである可能性 を捨てきれない ... 少なくとも一定の条件下では
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まずは日本デザイン学会での
「デザインの進化」の受け取られ方を知りたい
「デザインは進化する」という 主張に疑問を持たれている方は いらっしゃいますか? =デザインは進化すると思いますか?という質問 「この春さらに進化した洗濯機」とか「進化し続ける人工
知能技術」, 「目新しさはないが正常進化した新機種」など というし,その用法に違和感はないし, まあデザインは進化するといってよい, と直観的に理解しているのでは
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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3c/Charles_Darwin_01.jpg/1200px-Charles_Darwin_01.jpg
まずは日本デザイン学会での「デザインの進化」の受け取られ方を知りたい
どのようなメカニズムで進化するのか を 明確に答えられる方はいても少数なのでは みんななんとなく非公式に理解していても,はっきりとした理論としては認められていない,不思議 で微妙な立ち位置にある
→このモヤモヤした状態を解消し, 自信を持って「デザインは進化する」といえるようにしたい
( ˘ ω ˘ ) モヤァ… 5
何 故 そ ん な に 進 化 に 必 死 な の か
以下のような信念があるため: デザインは生き物のようなもので,デザイナーが主体的 につくっているものではない デザイナーは,設計が自らを複製するのを助ける道具に すぎない
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→デザインの進化の主体はデザインのアイディアであっ て,人間ではない:デザインは人間のためにあるのでは ない.(人間がいようといまいとデザインは成立しうる)
何 故 そ ん な に 進 化 に 必 死 な の か
以下のような信念があるため: デザインは生き物のようなもので,デザイナーが主体的 につくっているものではない デザイナーは,設計が自らを複製するのを助ける道具に すぎない
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→生物の進化の主体は遺伝子であって,神ではない:生 物は神のためにあるのではない. (神がいようといまい と生物は成立しうる)
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文 化 は 進 化 す る 1976 年の Dawkins「ミーム」@利己的な遺伝子 批判を浴びつつ新たな学問 memetics が黎明 1981 年の Cavalli-Sforza & Feldman と 1985 年の Boyd & Richerson によって数理的な 裏付け ~ しばらくおやすみ ~
2005 年の Boyd & Richerson などでここ 10 年で 急速に研究が進んでいる学際分野の急先鋒 ミーム学は死んだ
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3 0 秒 で 理 解 す る 文 化 進 化
IF ある集団で,個々の個体が 1.バリエーションがあり 2.その変異が複製・継承され 3.その過程でその複製率に差がある場合, THEN 必ず進化する.生物だろうと文化だろうと 10
IF ある集団で,個々の個体が ちょっとずつ複製の品質がばらつくので 1.バリエーションがあり 年長者に教えられ 2.その変異が複製・継承され 3.その過程でその複製率に差がある場合, ものによってはよく切れるため,それが好まれより沢山コピーされる
必ず進化する.生物だろうと文化だろうと https://www.isas.illinois.edu/UserFiles/Servers/Server_260627/Image/Public_Engagement_Images/Documenting_Collections_Images/Huber_CS.jpg
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3 0 秒 で 理 解 す る 文 化 進 化
IF ある集団で,個々の個体が 変異 1.バリエーションがあり 継承 2.その変異が複製・継承され 淘汰 3.その過程でその複製率に差がある場合, THEN 必ず進化する.生物だろうと文化だろうと 12
知 ら れ て い る こ と
このあたりは論争の対象ではない
生物進化では,
変異はランダム である 全く偶然の遺伝子突然変異 ただし確率が激低
淘汰はランダム でない
環境によってパターンがある 寒いところでは体毛がふさふさだったほうがよいとか
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知 ら れ て い る こ と
こちらは議論の対象だが,ひとまず↓という理解でよい
淘汰がないなら,データはランダムと見分 けがつかなくなるはず これを浮動 (drift) と呼ぶ.背景的進化.中立進化説などと呼ばれる.木村資生が提唱
「ドリフト(drift, 浮動)だけでは地べたを這うような変化しか生じな い.ドリフトにリフト(lift, 引っ張り上げること,自然淘汰をさす)が加わった とき,真に興味深い進化がおきる」 Dennett, D (1991)
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ま だ よ く わ か っ て い な い ! と こ ろ
文化進化では, 変異はランダムなものとランダムでないも のがある,っぽい ・・・ ?
前者はコピーの際の工作精度に起因する形状のばらつきや伝達ミスなど. 「文化変異 cultural variation」 後者は製作者・コピー者が意図によって修正を加えた場合. 「誘導された変異 guided var.」ラマルク的
淘汰はランダムでない が, どうも淘汰が観察されない例がかなりある 人の名前.陶器のデコレーション.犬種.CD の売上.ポップチャート.などなど ・・・
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デ ザ イ ン の 変 異 は ラ ン ダ ム な の か 選 択 は ど う な の か 用不用説的
「デザインはデザイナーが作りたもうたものである」 「デザインはラマルク的であり,予見的である」 「デザインはラマルク的でもありダーウィン的でもある」 Dennett 「ランダムな場合もあるが多くのデ ザインは選択圧がかかっている」 Mesoudi 「デザインはランダムだったりそう でなかったりする」 Bentley, Hahn, Shennan, Herzog
このあたりでは ? と思っている
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※かなり単純化しています ※ここでいうデザインとは人類による人工物の設計です
「デザイン意図など思惑 通り行くほうが稀」 Langrish
ダーウィン的
思っているよりずいぶん デザインの選択はランダムなのでは? ↑というのが私の今回の発表の主張です.これを実験で確かめた どうやって? 少数の被験者で構成された極小社会 microsociety 内で伝達ネットワークを組み,文化的形質(今 回はドローイングにした)を「放流」 .伝言ゲームのようなもの. 伝達チェーンによる研究は既にあった(Caldwell et al., 2011; ) 貢献は ネットワーク状にした=集団遺伝学的な要素を採り入れた.これは今までなかった
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一般化した例
実際にやった実験とは違いますが,これでも同じような結果になるはず
1. 最初の被験者にたとえば 20 ほどの新しいカーデザインのスケッチを渡す
2. ある淘汰圧,たとえば「近未来的だと感じるものをより近未来的にしてくれ」というお題を伝 えて渡す
3. するとひとつの新しいデザイン(文化進化では innovation と呼ぶ)が集団に導入される 4. 集団サイズを維持するため近未来的でないスケッチをひとつ絶滅させてもらう
5. これを数十世代程度繰り返す.するとより近未来的であると皆さんが感じるスケッチがいろい ろなバリエーションを生みながら繁栄しているはず
6. こうして生成される累積頻度分布の実験データを,人間の感じる主観的な「近未来感」と全く 関係なくランダムにコピーしたと想定した数値シミュレーションをおこなった場合と比べる!
7. もしランダムにコピーしたモデルと実験データがよく一致したら,近未来感を感じるものの適 応度(複製数)を増やす,という淘汰圧は観察できない,と結論付ける
8. もしランダムモデルとの乖離が大きければ,そのような淘汰圧が観察できた,と結論付ける
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妄想だけでは説得できないので デ ー タ を と る あとで詳細を説明します 淘汰圧を明示的に設定し,被験者にその淘汰圧に従って主観的に選んでもらう.
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私の実験の場合は,16 の個体で,ドローイングを, 「好みで,覚えやすく,目立ち,写しやすい」 ものに変えてもらうという条件でやった →現実世界よりも厳しめに設定したにも関わらず,形質の累積頻度分布がランダムシミュ レーションと大差なかった! →なぜか? →デザイン変異・選択がランダムだからとしか ・・・(やり方がまずいのか?)
何か条件がよくなかったのかもしれない! と思い追加実験した
1. ドローイングがよくなかった?→より目的のはっきりしたロゴデザインでも大差ない結果 2. 性能を競わせれば淘汰されるのでは?→飛距離を明記した紙飛行機でも大差ない結果 3. 淘汰圧が悪かった?→思いつく限りのバリエーションやってみたが大差ない結果 4. 残された可能性 1:fluctuating selection など他の非帰無モデルの可能性, 5. 残された可能性 2:集団による選挙でないといけない可能性(現状は 1 人が選んでいる).こち らは現実世界のデータセットから類推するに望み薄
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ロゴデザイン
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紙飛行機のデザイン
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実験 説明
0 世代目
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4 世代目
20 世代目 42 世代目
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2 世代目の被験者に よってつくりあげられ,
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9 世代目の被験者に 「イマイチ」と評価され 絶滅させられた
実験全試行を とおして 7 回コピー された (かなり優秀)
相補累積密度関数 28
y =被コピー数が x 以下であるデザ インの割合 29
x=被コピー数
水色の線がランダム シミュレーション. シミュレーションは log-log プロットで ほぼ直線になる (べき乗則に従う) ことが知られている 実験結果(黒)も ほぼ完全に一致 →ランダムプロセス 30
デザイン は ランダム プロセス か
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デザイン は ランダム プロセスかも
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おわり 33
個別の質問・論文のデータなどのお問い合わせ, 共同研究は xerroxcopy@gmail.com 千葉大学 特任研究員 松井実 まで. 共著者
竹内崇馬 小野健太 渡邉誠
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相補累積 密度関数
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べき乗則+指数関数 カットオフの パラメタのプロット 37
階層ベイズモデルで 効果の推定 38