ソ ー シ ャ ル デ ザ イ ン 白 書
2016
ソ ー シ ャ ル デ ザ イ ン 白 書
2016 07
07
ソ ー シャル デ ザ イン 白 書
VOL 07
2016
ソーシャルデザイン白書
2016
「ソーシャルデザイン」は、どこから来て、どこへ 向 かうの?
社会のバクを直しながら、 多くの人の幸せにつながるしくみを生み出すこと 丸 原 孝 紀 greenz シニアライター/ POZI プランナー/コピーライター
想像したことが、社会に実現する状態をつくること 小 野 裕 之 greenz.jp プロデューサー/ NPO 法人グリーンズ事業統括理事
Q:
愛と工夫と少しのお金 自然と「いいね!」に動きだすそんな仕組み
「ソ ー シャル デ ザ イン 」って な んで す か?
グリー ンズ の ま わりに い る ソ ー シャル デ ザ イナ ー の み な さん に
菅 原 規 之 greenz people
わたしと社会をつなぐもの え び す あ き こ greenz people
聞 い て み まし た
人らしい風土を育む結果、自然に社会課題も解決されること 戸 谷 浩 隆 ウェル洋光台・オーナー代行
8
9
第 1章
今では当たり前に使われている「ソーシャルデザイン」という言葉。けれども ほんの数十年前まで、ソーシャルデザインは一般には浸透していない概念でした。
ソーシャルデザインの歩み
そして、そんな新しい概念だからこそ、私たちは今もこの問いに、向き合い続 けています。
「ソーシャルデザインって何?」
この大きな問いの答えを探すべく、まずはみなさんとともに、過去の旅へ。 greenz.jp 編集長・鈴木菜央が、時代の渦中から見続け、体感してきた「ソーシャ ルデザインの歩み」を振り返ります。
ソーシャルデザインが、社会と密接に関わり合いながらいかに変化し、成長し ていったのか。その足あとを辿り、踏みしめることで、改めてソーシャルデザ インの現在地を確認したいと思います。
14
15
ソーシャルデザインってなんだろう
ソーシャルデザイン進化論 ソーシャルデザインはどこから来て、どこへ行くのか?
はじめに、「ソーシャルデザイン」について改めて考えてみます。 現在、僕の見えている範囲での代表的な定義を紹介しましょう。
こんにちは、greenz.jp 編集長/ NPO 法人グリーンズ代表の鈴木菜央です。 本章では、「ソーシャルデザイン」という考え方、概念について、現時点で僕に見えている風景を整理して、ソーシャルデ
社会的な課題の解決と同時に新たな価値を創出する画期的なしくみをつくること ー『ソーシャルデザイン』(グリーンズ 朝日出版社 2012)
ザインの成り立ちから現在に至る歴史を振り返ってみたいと思います。 今回は試みとして、ソーシャルデザインを事例ごとに論じるのではなく「ミーム(meme)」に分解し、論じてみたいと思 います。ミームとは、例えば習慣や技能、物語といった、人から人へコピーされる、人類の文化を進化させる情報のこと。
人間の持つ「創造」の力で、社会が抱える複雑な課題の解決に挑む活動 ー『ソーシャルデザイン実践ガイド』(筧裕介 英治出版 2013)
「文化的遺伝子」とも言われます。遺伝子が生物を形成し、特徴を次の世代に受け継ぐように、ミームは文化を形成し、特 徴を受け継ぎます。しかし、それは前の世代の完全なコピーにはなりません。少しだけ変異します。これが進化です。ミー ムに注目することで、それぞれの事例が影響を受けた事例について考えたり、ミームがどんなふうに進化してきたのか考
ソーシャルデザインとは、ひと言で言うと、 単なる利益追求ではなく、社会貢献を前提にしたコトやモノのデザインのことである。 ー『ソーシャルデザインの教科書』(村田智明 生産性出版 2014)
えることを通して、ソーシャルデザインがより理解できるのではないかと考えました。なお、文中ではミームは【】で囲 むこととします。 プロジェクト名に続くカッコ内の数字はプロジェクトの開始年です。本章では、それぞれのプロジェクトについて細かく 説明をする余裕がないため、活動の詳細は greenz.jp で検索するなどしてください。 また、本章では、基本的に日本国内のことについて語っています。活動の開始年、内容なども、日本国内におけるものです。
上記 3 冊の本を通して「ソーシャルデザイン」の定義の共通点を見つけるとすれば、こんなふうにまとめることができます。
・デザインする対象は(モノやカタチだけじゃなく) 社会 である ・社会をつくるのは(政治家や専門家でなく)一人ひとりの個人である ・(社会を 変える よりも)社会の課題を解決したり、より良い社会を つくる ことである ・そして、そのための 考え方 である
この前提を持って、まずは 2016 年現在から過去を振り返り、どのように「ソーシャルデザイン」が生まれたのか、僕の視 点を通して語ってみたいと思います。
16
17
10 年前は「移住=田舎暮らし」だった
移 住 ×ソーシャルデザイン
今から 10 年前、私は東京都内から、神奈川県の旧藤野町(現・相模原市緑区)に 移住 した。東京からほど近い立地だけれども、 山に囲まれ、川や湖が広がる、いわゆる里山と呼ばれる地域だ。 「なんで移住したんですか?」 仕事柄なのか、よく聞かれる質問のひとつだ。greenz ライターなのだから、さぞかし大きな目的意識をもって移住したに 違いない…! そんな期待を帯びた熱い視線を感じることもあるのだけれど、申し訳ないほど、移住の理由はシンプルだ。 「都会の生活に疲れ、田舎でスローライフが送りたかったから」である(笑)。 10 年前は奇しくもグリーンズがスタートした年でもあったらしい。まだ ソーシャルデザイン という言葉は普及していな かった。当時のブームは、ロハスやスローライフ、オーガニック、エコといった、ライフスタイルの変化を求めたゆえの 田 舎暮らし だった。そんなつもりはなかったけれど、私もご多分に漏れず、ブームにのって田舎暮らしに憧れ、たまたま藤 野という地を見つけ移住した、というわけだ。 ところがその藤野が、芸術家が多く暮らし、多種多様な
平川 友紀(greenz シニアライター)
アートイベントがあり、シュタイナー学園やパーマカル チャーセンタージャパンが拠点を置くという、オルタナ ティブ・カルチャーが息づく稀有な田舎だった。 本当に疲れ切って、ライターの仕事も、趣味で書くこと
どうやって暮らすか、から、どうやって生きるか、へ
すらもやめて移住したのだけれど、藤野での面白い人々 との出会いや、自由で楽しいイベントを通じて、私はい つのまにか元気になり、表現する意欲を取り戻した。仲 間のおかげで少しずつ執筆や編集の仕事も頼まれるよう
ひと昔前、移住は今ほど気軽なものではなかった。それがここ数年、地方に移住する人は増えており、も
になった。
はや珍しいことではなくなっている。なぜ、みんなが競うように移住しはじめたのだろう? いったいど んな価値観の変化がそこに起こったのだろうか? 移住者のひとりとして長年見続けてきた、移住にまつ
ひっそりゆったりスローライフを送るつもりが、今では
わる社会の変化をあらためて振り返りたい。そしてまちづくり系の取材が多いライターとして、多くの人々
毎日のように締切に追われてスローライフとは無縁の生
と出会う中で見えてきた、今とこれからの移住の意味を考えてみたい。
活をしているのだから、人生何が起こるかわからない。
移住する 3 ヶ月ほど前、初めて藤野駅に降り立った日、橋の上からこの夕日を見て、 あまりの美しさに、ここに住みたい、と思ったのでした(写真:袴田和彦)
94
95
暮 らし の 未 来 TALK SESSION : 01
田 舎 暮らしの 実 践 者 が 語り合う、 暮らしをつくること、その 先 にある未 来 。 社会の「これから」を暮らしという個人のレベルで考えた時、自分らしい暮らし方を実践するために 田舎暮らしを選択する人が増えてきているように思えます。都会のものにあふれた生活から、田舎の 自給的な暮らしへ。それは現代の便利さを捨て昔の不便な生活へと戻るようなイメージもありますが、 便利さを追求するのとは違う暮らしを自分の手でつくり上げていくことでもあり、別の形の「未来」 をつくっていくことなのかもしれません。
どうしたらそのように自分の暮らしをつくっていけるのでしょうか。2 年前に東京から長野県諏訪郡 富士見町へと移住し、第 2 章でもコラム(P54)を執筆した増村江利子さんが、夫の徳永青樹さん(元 グランドライン代表)とともに、隣の山梨県北杜市にて家族 3 人で自給自足的な暮らしを営む田舎暮
わたなべ あきひこさん × 徳永 青樹さん ×
らしの先輩、わたなべあきひこさんを訪ねました。 文:石 村 研 二
増村 江利子さん (greenzシニアエディター/シニアライター) わたなべ あきひこ
徳 永 青 樹(とくなが・あおき)
1997 年、山梨県北杜市白州町に移住。地球からの恵みをいただき、足るを知る暮らしを楽しむ「地
1977 年鳥取県生まれ。2000 年、空間デザイナー木村二郎のアシスタントとなる。2002 年、師の
給知足」をモットーに、自給自足ほどには頑張らない「テキトー」で「いい加減」な楽しめる田舎
元を離れ、建築設計修行をするが個人としての生きかたを模索し、2010 年、長野県諏訪郡富士見
暮らしを模索中。天ぷら廃油で車を走らせ、太陽光発電で電気をつくり、薪ストーブや太陽熱温水器、
町で、建築・内装デザインを行うユニット「グランドライン」として活動を開始。人から譲り受け
パッシブソーラーなどで熱エネルギーをまかなう。ドラム缶回転式のコンポストトイレを愛し、そ
たものや廃材をつかった小屋づくりやリノベーションから、周辺環境からの流れを汲んだ土地の造
こから生まれる堆肥で農作物を育て、母、妻、娘の 4 人家族で暮らす。
形まで、さまざまな制作活動を行う。現在、個人での活動を再開し、すべてが必然と偶然によって 形づくられる空間づくりに取り組んでいる。
124
125
greenz.jp は一方的に情報を提供するだけでなく、みんなでつくり、アクション までつなげていくソーシャル・メディア。だからやっぱり、グリーンズのメンバー だけでなく、読者の思い描く未来も知りたい! そこで greenz.jp の 10 周年読者アンケートから「あなたのほしい未来は?」と
Future
いう質問への回答をご紹介します。
greenz.jp 読者のほしい未来
さまざまな個性を持つ人がいるように、ほしい未来も実にさまざま。ほしい未 来は、未来を思う人の数だけありました。そんな多様性のある未来をつくりあ げるための種を、ここに蒔きたいと思います。読み終わったあと、みなさんも 考えてみてください。
「私のほしい未来は?」
そしてそれが、たくさんの人のほしい未来とともに存在する社会を、想像して みてください。
172
173
評価基準が貨幣だけでない
greenz.jp読 者 の ほし い 未 来
海辺の田舎で自給自足暮らし (じぇろ) まちの暮らしをみんなが楽しめて、 自分たちのまちを自分たちで考えられる人が 日本中にあふれる未来! (コウメイ)
﹁
タイムマシーンが 楽 できる未来 (たけお)
それぞれが自立して、 すべての人に役割と 居場所がある社会 (evergreen90)
政治がかわる
し い ﹂ の 全 て を 体 感 し た い ! !
(磯崎 剛)
今よりも、もっと身近に
︵ Mr. お せ っ か い ︶
再生エネルギーが普及して、 (koo)
家族と社会が緩やかに連続した 消費尽くされない未来
︵ 松 尾 ゴ ッ ツ ︶
楽 し く 運 営 で き る 世 の 中 ︵ 堺 寛 ︶
気 に な る テ ー マ の コ ミ ュ ニ テ ィ を 立 ち 上 げ 、
新 し い 価 値 を 創 造 す る こ と
誰 も が 、
︵ ゆ ー や ん ︶
福 祉 と サ ッ カ ー と 地 域 を 結 ん で
ちゃんと生きる、 生きられる社会
(TT)
それぞれが解放されて 自分を生きている未来
(なこ)
森と都市が同期した東京 (sugamori2)
(高嶋 大介)
子供たちが自分のなりたい 未来を自由に描ける世界 (松山 タカヨシ)
住みたくなる地域が 悩むぐらいに増えること
︵ な み っ き ー ︶
自 己 肯 定 と 他 己 承 認 が
(B chan)
生活と仕事が一体になって、 家族と楽しい暮らしをし続けること
石油からの脱却 (yuk)
(花井 雅敏)
誰もが自分の日常に 無限の楽しみを見いだせる世界
(てぃに)
思わず笑っちゃう日常 (あず)
人間も自然の一部になっている 人 達 を 幸 せ に す る ︵ ユ ウ キ ︶
自 分 の 人 生 に 関 わ っ て く だ さ っ た
イデオロギーなどの西洋思想主義ではなく、 仏教的な空の世界 (南須原 圭)
みんなが小商いを営んでいて お金の動きがぐるぐるある社会 (ロドリゲス) 日本の音楽に多様性が生まれる未来
(金野 和磨)
独身でも独り暮らしでも 子どもがいてもいなくても、 血縁にしばられず生きられる社会 (竹本 祐子)
(じじぃ)
な ま こ の よ う に 生 き る こ と ︵ お さ む し ︶
「あなたのほしい未来は?」 greenz.jpの「10周年読者アンケート」にエントリーいただいた205の自由回答 の中から、編集部が厳選したものを掲載させていただきました。
(武田 重昭)
174
175
※アンケート期間:2016 年 4 月 14 日 ∼ 6 月 17 日
美 味 し い も の を 食 べ 続 け ら れ る 未 来 ︵
BT
エネルギーを自給自足できること
子 ど も の 笑 顔
経済社会
あ ふ れ て る 空 気
︶