下灘駅アーカイブギャラリー &More
19681054 Kakuda Lab. Rin Nishiyama
「海に最も近い駅」といわれる下灘駅。 その名の通り眼前に伊予灘が広がる絶景に、ぽつんと佇 む ホ ー ム の 上 屋 や 、 海 に 続くような改札の駅舎がある。穏やかな海に、ひなびた 人 工 物 が 持 つ 懐 か し さ や ノスタルジーがフレームとして重なって「物語の一部の よ う な 風 景 」 を 作 り 出 し ている そのような美しい景観が多くの人の心をつかみ、数多く の ド ラ マ や C M の ロ ケ 地に抜擢され、小さな無人駅は地元の誇りとして愛され て き た ここ数年では SNS を通じて話題を呼び、数多くの人がカメ ラ を 持 っ て 訪 れ る 観 光地としても有名になった。ホームに人があふれる休日 も し ば し ば あ る ほ ど しかし、彼らはこの駅を「駅」として利用しない
もともと電 車の本数が少なく、二時間に一本程度。周 辺 に は 民 家 が 並 ぶ の み で 、 時間をつぶ せる場所はない。その結果、 「10 分程度写真 を 撮 り た い 」 だ け の 人 々 は車でやっ てきて、さっと写真を撮り、また車で帰っ て い く 夕暮れ時の 「よい時間」に駅前の生活道路に十数台の 路 上 駐 車 が 列 を な す こ と もすでに日 常になってしまった そうして下 灘駅は、インスタントな写真映えのスポッ ト と し て 消 費 さ れ て い る 「駅」とし ての本質的な価値は、薄れていく その時、そ こにある「なつかしさ」や「ノスタルジー 」 は 本 物 な の だ ろ う か ? ファインダ ー越しに虚構の情緒を汲み取っているだけ に 過 ぎ な い の で は な い か ?
下灘駅の持つ魅力を最大化 電車で来る、待つ、という一連の行為そのものに価値を持たせることでインスタントな関係から脱却する
そのために必要な建築を考える
下灘駅が醸し出す魅力的な情緒を生み出す要素とは何か
縦軸
横軸 街・日常からの距離
時間の積層
電車の待ち時間
可視化して体験する時間に変換
運航の 50 分間
Archive Gallery
& more along the line
横軸
①向井原駅
②高野川駅
③上灘駅
④下灘駅
5.4km
3.6km
6.2km
こ の 小 さ な 駅には鈍行列車しか止まらない。 始 発 の 松 山 から乗れば 5 0 分はかかってしまう。 し か し そ の 5 0 分のささやかな旅を経た時にこそ、本物の情緒を得られるのだとわたしは思う 車 窓 に 流 れ る風景が、少しずつ街を遠ざかっていくことを感じさせたり ワ ン マ ン 列 車ならではのルールに気が付いたり お ば あ ち ゃ んが野菜を裸で抱いていたり 気 が 付 く と 海が見えていたり 当 た り 前 の ように少し遅れていたり そ う や っ て 少しずつ自分の世界から離れてきたことを自覚する。同時に、知らないはずのその田舎の風景 に 懐 か し さ を感じ始める。自分の奥底に眠っていた、原風景と重なり始める。 自 分 は こ の 物語の当事者になっていることに気が付く そ の 実 感 が 、下灘駅へ降り立った時に感じる懐かしさやノスタルジーにリアリティをもたらす そ の た め に 、そのささやかな旅のなかで風景を発見する手助けをするために、路線沿いにいくつかの提案 を行った
縦軸
下 灘 駅 に 電 車 で 来 ると、帰りの電車への待ち時間の長さに戸惑う。長いときは4時間もの間隔が空くのだ。だ か ら と 言 っ て 、 車 出来てすぐ帰るような旅と駅の関係では、本質的な下灘駅の魅力を知らないままで、記憶は 薄れていってしまう 長 い 年 月 で そ の イ ンスタントな消費が続けば、いずれ流行の廃れとともに駅そのものが無くなってしまわない とも限らない だ か ら こ そ 、 そ の 長い待ち時間を使って駅にとどまり、駅と向き合い、駅を知るきっかけを作り出せないかと 考えた ア ー カ イ ブ ギ ャ ラ リーは下灘駅の魅力の縦軸、時間の積層を収蔵する。そこで、訪れた人は駅の歩んできた歴 史 や 、 過 去 に 取 ら れてきた写真を目にする。 そ う い っ た 行 為 は 撮影意欲を刺激する。 過 去 の 写 真 と 比 較 するような構図を探したり ス タ ー 俳 優 と 同 じ ポーズをとってみたり 疲 れ た ら カ フ ェ で 珈琲を飲んだり、デッキでボーっとしてみてもいい そ う い う 時 に 、 自 分だけの構図を発見したりもするだろう そ う や っ て 、 二 度 、三度と駅の魅力の再発見が繰り返される。その濃密な関係の中で、旅人は駅への愛着心を 強くする そ ん な 関 係 の き っ かけになる建築こそがここには必要だと考える
下灘駅:アーカイブギャラリー
下灘駅の魅力の縦軸である、 「 時間の積層」を可視化するアーカイブギャ ラリー。大きなフレーム状を成す RC 造の 1F と浮遊するコールテン鋼 の 2F、二つの長方形のボリュームをクレバス状の階段が貫き、「企画 展示」 「常設展示」 「ホワイエ」 「カフェ」の四つのセクションを生み出す。 企画展示ギャラリーでは、フォトコンテストや個展などが行われ、新 しく積層された時間の下灘駅を知る。 常設ギャラリーに上がると、完成当初の写真やロケ地としての撮影現 場風景など、より深い過去にさかのぼった下灘駅を知ることができる。 ホワイエには大きな開口が開けられ、これまでになかった下灘駅を見 下ろす構図でフレーミングする。 ホームの上屋を捉えるクレバスの階段を下りていくと、積層した時間 の体験を経て、新たな撮影意欲が掻き立てられていることに気が付く。 一休みに最適なカフェはデッキスペースと向かい合い、一体となって ゆったりとした時間を過ごすことができる空間となる。ぼんやりと珈 琲を飲んでいるうちに、また新しい構図を発見するかもしれない。 そうしているうちに、帰りの電車がやってくる。
ギャラリー 内 部
カフェから 駅 を 見る
立面図 S=1/50
Gallery Platform
Deck
屋根:耐候性鋼板 t=16 全溶接無塗装
300
屋根天端 +6,100 外壁:耐候性鋼板 t=16 全溶接無塗装
32
RF L + 5 , 8 0 0
CH=1,100
2,100
CH=2,668
壁上部蛍光灯
内壁:RC躯体 t=300 打ち放し仕上げ
スラブ:RC躯体 t=300 耐候性鋼板 t=16 全溶接無塗装
300
2FL +3,100
2,600
50
CH=2,200
200 184
16 スラブ:RC躯体 t=200 防水塗装
壁:RC躯体 t=300 打ち放し仕上げ
650
60 400 60
GL ± 0
650
1FL +200
床スラブ:RC躯体 t=400 捨てコンクリート t=60 砕石転圧t=60
矩計図 S=1/50
60
650
60 400
650
60 400
2,130
CH=2,200
2,600
CH=2,200
200 184
200
16
60
300
330
CH=1,100
2,566
2,100
Permanent Exhibition Gallery
Strage place
長手断面図 S=1/100
CH=2,668
1900
16
468
438
32
300
23,100
17,700 1,800
1,800
5,400
1,500
7,200
5,400
Feature Exhibition Gallery
Entrance
950
Storage
1F 平 面 図 S = 1 / 1 0 0
3,250
Outdoor unit
Cafe
2,300
Kitchen
175
Gate
5,400
900
3,600 2,700
24,000 1,500
900
13,500 10,800
900
900
1,700
Permanent Exhibition Gallery
3,400
Foyer
1,700
2F 平 面 図 S = 1 / 1 0 0
①向井原駅:海への期待
JR 予讃線は向井原駅を経て分岐する。特急も運行する山側 の主線「内子線」と、各駅停車のみ運航の海側のローカル線、 「愛ある伊予灘線」である つまりこの駅は、街から少しずつ離れて非日常へ向かう物語 の玄関口といえる。愛媛県では珍しい高架の無人駅で、地続 きの街から浮遊し、遠景に海が見え始める この駅には、その遠くに見える海をパノラミックに切り取る フレームを設置する。携帯を触っていたり、友人と会話して 暇をつぶしていると、なかなか遠景の海には気が付くことが できないが、このフレームはゆっくりと減速する車窓に映り 込み、その異質さをもって乗客の視線を外へと誘導する 遠景の海 そして行く手には民家がまばらになっていく風景が続いてい ることに気が付く これから訪れるノスタルジックな風景への期待が膨らむ 携帯を置き、カメラに手を伸ばす
100
200 100 150 200 200
支柱:耐候性鋼板 t=16 溶接 アンカーボルト M10L70 耐候性鋼板 t=16 既存ホームRC躯体
既存ホームRC躯体
500
100 200
200
1,500
184 16
500
16
584
耐候性鋼板 t=16
断面詳細図 S=1/25
既存ホームRC躯体
0
アンカーボルト M16L70
17
120
150
300
耐候性鋼板 t=16
支柱部分詳細図 S=1/10
溶接
②高野川駅:どこまでも続く直線
トンネルを抜けて狭い谷へ、海が見えなくなったところで停 車するのが高野川駅である。利用者は少なく、車窓の風景も 谷の側面が迫っていて、豊かなものではない しかしこの駅もまた、美しい風景を確かに持っている。 それは「列車から見る風景」ではなく「列車を見る風景」だ この駅の前後はどこまでも直線が続き、それを丁度真上から 見下ろすような橋がある この橋からの一点透視的な構図は、特にツツジの時期に際 立って美しく、この駅ならではの魅力だ この橋はかなり老朽化しており、近く建て替えも予定されて いる。そこで、この駅の魅力を橋からの構図ととらえ、橋と、 一体化したフレームを提案する 行きの電車では気が付かない橋。このフレームは旅人に非日 常を伝えるのではなく、物語の登場人物に仕立て上げる 下灘駅のギャラリーでこの橋の存在を知り、帰りの電車で少 し、降りてみたい気持ちになる
5,000 10 1
500
300
300
1,500
耐候性鋼板 t=12
スラブ:RC躯体 300
1,800
1,400
1,800
300
短手断面図 S=1/50
300
1,800
500
300 300
1,100
1,800
耐候性鋼板 t=12
1,400
1,800
300
フレーム部短手断面図 S=1/50
17,000 1,700
1,700
1,700
1,700
1,700
1,700
1,500
1,800
800
200
1,000 60
1,700
1,100
1,700
200 100
1,700
300
1,700
1,250
長手断面図 S=1/100
③上灘駅:知らない街と非日常性
下灘駅のひとつ手前の駅、伊予上灘駅。この辺りでは一番人 口の多い町の駅で、乗り降りする人も少し多い。特に朝や夕 方の時間は、通学通勤の人がまとまって降りていく そんなこの駅は少し変わった特徴がある この駅はすれ違い駅になっていて、乗降が終わっても向かい の電車が到着し、乗降が完了するまで発進しない。二台の列 車が向かい合って停車する形になる。そして、降りた乗客が 線路に降りて、その間をわたっていくのだ 高架通路や地下通路を持たない無人駅ならではの少しかわっ た風景。普通入ってはいけないはずの線路に次々と人が下り ていき、電車がそれを見守るように待っている そんな都市にはない日常性を可視化するように、線路へ降り る階段にトンネルを設置する 知らない街には、知らない常識やルールがある この町の日常は、旅人にとっての非日常である 非日常への各駅停車はまた、動き出す
240
200 200
31 9
2,740
2,100
9
600
200 200 200
断面図 S=1/50
耐候性鋼板 t=9
既存ホーム躯体RC
200
31 9
耐候性鋼板 t=12
耐候性鋼板 t=9 モルタル下地 t=20 溶接アンカーボルト M10L60 溶接プレート用鋼板 t=9 既存ホームRC躯体
部分詳細図 S=1/20