パンフ 石山修武の時間をめぐる物語 ~松崎町を舞台に~

Page 1


25時にボンがなったとき、建築

を訪れた人は、ギザギザしたガラス

が揺れる水鏡になって、さまざまの

ものを映し出す。

西海岸の壮麗な夕暮れの空のあり

方や、燃える落日に差し伸べられた

2本の鉄塔、中空に浮かぶステンド

グラス、円環を浮かべた星のゲート

、隣の美術館の全体。つまり小さな

世界の全体が砕かれて結晶体となり

、万華鏡のようにガラスの表面に映

し出されているのを見ることができ

る。那賀川は時間の万華鏡、民芸館

は天空の複写器として設計される。

時計塔はそのことを暗示する遠い

町への道標。


時間を埋め込んでゆく

昔、ときわ橋のかたわらにあった

という時計塔を主役にした、時間を

めぐる物語。

時計塔に刻まれた13。25時に

ボンがなったとき、黄昏時の満潮に

なった川の流れが滞る。その時間に

水面を見下ろすと不思議な世界が映

し出されている。その風景をそのま

まに再現したのが現在のまちの姿。

つまり、目に見える時計塔や橋であ

る。夢と現実が鏡像のように逆転し

ている。過去が現実となり、さらに

未来へと交信していく。現実の中に

夢が埋め込まれ、夢に触れることが

できる。


原っぱには何もなかったけれど、全てがあった。何より自由が。



モダニゼーション(近代化)の歴史的潮流によって、初期モダニ ※1

ズムの理念が形骸化された、後期モダニズムによる一般建築や住 宅建築が町を形成している。そのような近代建築は、職人が腕を 振える場をなくし、そうさせないことを基本として建てられてい る。しかし、それらの建築を建てるには、高い職人技能に寄り掛 ※2

からなければいけないし、寄り掛かるべき職人技能は崩壊寸前で ある。 日本の近世まで、輝かしく保持されていた職人技能は擬洋風建 築で華開き、職人文化の矜持、誇りを時代に示していた。そうい った中で、伊豆長八美術館では、職人文化の聖地を作り上げてし まった。 長八という、町人たちに愛され、語り継がれてきた英雄的な職 人を記念する美術館。職人技能を競い合い、それが広く一般の目 にも供する場を作り上げる。職人が"技"を発揮できる場があり、 ※3

それを刺激する形態があり、町への思入れのある者が金銭を寄進 し、珍しい左官道具を寄進し、左官職に関する資料を寄進する。 職人の中の職人の気質が参集されていく。文化の均質化の波(後期 モダニズム)をダイレクトに被ってしまった職人達の断片化された 職人の存在を、本来的な意味合いを、広く社会的に再考するきっ かけになるような、職人の聖地を作り上げたのだった。 石山修武は、ネパールに面したヒマラヤ山脈に点在するチベッ ト高原の集落群に輝きを見た。チベット高原に降り注ぐ陽光と、 松崎に降り注ぐ陽光を重ね、接続し、町の新たな個性を作り上げ ようとする。自然のエネルギーの希薄の尾根筋に構える仏教徒た ちの集落には、凄い数のチョータルと呼ばれる白布ののぼり旗、 集落の出入り口にはカニと呼ばれる仏教門、集落内のゴンパ(寺院 、僧院)、集落のあちこちに積まれた石壁(メンダン)がある。仏教 徒たちはみなそれらを「マニ」と呼ぶという。サンスクリット語 で宝石を意味し、仏教徒たちの、自らの作り出した造形物を宝石 と呼ぶ創造力とその風景に結晶体を透視していたことを思う。 作り上げるモノを大切に思い、風景として残してゆく。現代の 日本の風景にはない輝きを民芸館の折板のガラス面に複写器とし て映し出している。 R4 03/05 日本大学理工学部建築学科 4年 武井翔太郎



ダウンロードはこちらから


Turn static files into dynamic content formats.

Create a flipbook
Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.