【修士論文】廃棄物の転用による、つくることの探求

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修士論文 2020 年度

廃棄物の転用による、つくることの探究 〜意識・物質・他者性の相互作用としての建築制作プロセスの分析から〜

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 松岡大雅


修士論文 2020 年度

廃棄物の転用による、つくることの探究 〜意識・物質・他者性の相互作用としての建築制作プロセスの分析から〜

本論文は、建築制作のプロセスにて、素材として廃棄物を転用することの可能性を、2つのケースス タディの分析から論じるものである。大量生産・大量消費が行われる現代社会において、人間とものの 関係性は益々希薄になり、大量の廃棄が問題となっている。このような時代背景のもと、本論文は、人 間とものの関係性に焦点を置き、より質的に豊かな物質社会をつくることための制作のあり方を提示す る。そのために、大量に生まれる廃棄物を素材として再度転用する、建築制作のプロセスを分析し、こ のようなものづくりがもたらしうる価値や創造性について論じる。

とりわけ、建設に関連する廃棄物に焦点を当て、1つめの制作では、主に都市空間に偏在する建設現 場にて廃棄される建材を、2 つめの制作では、主に不要となった仮設住宅の廃棄された部材を転用する ことで、建築制作を行なった。廃棄物が具体的にどのような特徴を持ち、制作者である私の意識に影響 を与え、さらには私がどのように制作を行なったのかを細微に分析した。分析においては、制作者と廃 棄物が相互に関係し合うことで制作が進むという仮説のもと、意識と物質と他者性という3つの要素の 相互作用によって制作プロセスの整理を行った。それによって、廃棄物を転用する制作の特徴として、 以下の結論が得られた。

・ある他者とある物質の関係性の現れとして、廃棄物を見ることができ、他者と物質の双方に応答す るように制作することで、廃棄物との強固な関係性をつくることができる。 ・部材同士の結びつきが強い建築制作において、ある廃棄物と制作者の応答が、他の廃棄物にも影響 を与えることがある。これによって、制作全体として、より多くの関係性をつくることができる。 ・他者と物質の相互作用に自らも参与することで、自らがのちの制作者にとっての他者となることが できる。こうすることで、つくることは循環の一部を為すことだと理解できる。

これらより、廃棄物のような既存物との関係性によってものをつくることは、人間とものの関係性を 回復し、時間や行為の蓄積のある豊かな物質循環を形成するための、一つの方法であると示される。そ して、この制作によって構築される関係性は、人間とものだけでなく、人間と人間の関係性も豊かにし うると言える。

キーワード:廃棄物、転用、制作、循環、建築

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 松岡大雅


Abstract of Master’s Thesis Academic Year 2020

Exploration of Making, by Reuse of Waste From the Analysis of Architectural Design Process as an Interaction Among Consciousness, Materials and Alterities

This thesis discusses the possibilities of reuse of waste as materials in the architectural design process, analyzing two case studies. In the modern society where mass production and mass consumption occur, the relationship between humans and things become increasingly weak, and mass disposal becomes a problem. Due to this historical background, this thesis points out the relationship between humans and things and presents a making process that qualitatively makes the generous material society. For that, this thesis discusses the values and creativeness brought from making, by analyzing the architectural design process that reuses the mass disposal waste as materials. Especially focusing on waste that is related to architectural construction, for the first case it is mainly focused on building material waste from city space construction, and for the second case it is mainly focused on unneeded temporary house materials to reuse for my architectural design. I closely analyzed what kind of specific characters that each waste has, how that influences me as a maker, and furthermore how I did these two designs. For analysis, based on a hypothesis that the making process will move on if a maker and waste are mutually related, I arranged the making process in an interaction of three elements which are consciousnesses, materials, and alterities. Through these analyses, there’s conclusions for characters of a making, by reuse of waste, as below. ・Waste can be seen as an expression of relationship between alterities and materials, and by making as if responding to an alterity and a material, it can make a firm relationship with waste. ・In the making where there is a firm relationship between materials, sometimes a response of a waste and a maker will give influences to other waste. By that, for a whole making, it can make more relationships. ・By participating in the correspondence of an alterity and a material, I can also be an alterity to the next maker. From that, it can be understood as making is a part of circulation. From these conclusions, the making that uses relationship with existing things such as waste is able to restore the relationship between humans and things, and represent one of the approaches that builds generous material circulation which has accumulation of time and actions. Then it can enrich the relationship between not only humans and things, but also a human and a human.

Keyword: Waste, Reuse, Making, Circulation, Architecture

Keio University, Graduate School of Media and Governance Taiga Matsuoka


1

研究の概要

001

1.1

研究の背景

002

1.2

研究の目的と意義

007

1.3

研究の手法

008

1.4

用語の定義

008

1.5

本論の構成

009

1.6

既往研究・実践

010

2

廃棄物による制作

012

2.1

関係性による制作へ

013

2.1.1

作業としての制作

013

2.1.2

強い主体性をもつ建築家

015

2.1.3

強い主体の問題

017

2.1.4

弱い主体

017

2.1.5

関係論的制作

019

2.2

転用によってつくること

021

2.2.1

参加する意識

021

2.2.3

転用と制作

022

2.3

廃棄物による制作モデル

024

2.3.1

素材としての廃棄物

024

2.3.2

リノベーション

025

2.3.3

他者性(alterity)とナレッジ(knowledge)とともにある制作

026

2.3.4

仮説の制作モデル

027

3

2 つの制作の分析

028

3.1

分析の概要

029

3.1.1

廃棄物を用いたふたつの制作の概説

029

3.1.2

3つの流れ<他者性の流れ・意識の流れ・物質の流れ>による記述

030

3.1.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの発見

031

3.1.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

032

3.1.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

033

3.1.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

035


3.2

制作Ⅰ<都市空間の廃棄物による制作>

036

3.2.1

制作の前談

036

3.2.2

分析の概要

037

3.2.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

038

3.2.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

054

3.2.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

057

3.2.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

060

3.2.7

制作Ⅰの補足資料

063

3.3

制作Ⅱ<仮説住宅の廃棄物による制作>

066

3.3.1

制作の前談

066

3.3.2

分析の概要

067

3.3.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

067

3.3.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

081

3.3.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

084

3.3.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

087

3.3.7

制作Ⅱの補足資料

090

3.4

制作ⅠとⅡの包括的分析

092

3.4.1

制作Ⅰと制作Ⅱの関係性について

092

3.4.2

第3のコレスポンダンスの発見

093

3.4.3

コレスポンダンスのつらなり

096

4

結論・考察・展望

100

4.1

結論

101

4.1.1

円筒モデル

101

4.1.2

円筒の連関

104

4.1.3

入れ子の他者性

105

4.1.4

廃棄物を転用することの可能性

106

4.2

考察

108

4.3

展望

109

謝辞

111

図版出典・引用文献リスト

113


第 1 章 研究の概要

1

001

研究の概要

001

1.1

研究の背景

002

1.2

研究の目的と意義

007

1.3

研究の手法

008

1.4

用語の定義

008

1.5

本論の構成

009

1.6

既往研究・実践

010


第 1 章 研究の概要

1-1

002

研究の背景

本研究は、廃棄物を転用する建築制作プロセスの分析を通じて、つくることを探究するものである。 この研究を通じて、規格化された新品の素材によって新たに創造される制作に代わる、既存の廃棄物と ともに制作することの可能性を示す。この章では、これらの前提となる、廃棄物に関する現状や問題点 を整理し、提示する。建設産業で排出される廃棄物の現状について(1)で整理し、建築家のデザイン 対象である建築物に関する廃棄の問題について(2)で提起する。これら廃棄の問題に対応するために 行われているリサイクルがもつ問題点を(3)で提示し、廃棄物をそのまま転用することでつくられる 循環について(4)で提案する。このような背景の上に行われ、本研究での分析にも扱う2つの制作実 践について(5)で紹介する。

(1) 建設産業における廃棄物 日本の建設産業における廃棄物の総量は、2018 年の統計では 7,440 万 t であり、これはここ十数年 横ばいである。また、この廃棄物の総量に対する再資源化・縮減量の割合は、2000 年代前半に高まり、 それ以降は高い水準を維持している(図 1-1) 。つまり、2000 年代前半に一定の水準での再資源化や縮 減のための整備が行われ、それ以降は安定的にそれらが運用されてきたと言えよう。また、国土交通省 はこのような日本の建設廃棄物や処分の現状に対して「今後は、リサイクルの『質』の向上が重要な視 点となる」と統括し、リサイクルに対する技術的なアップデートに期待を寄せている -1。その上で、リ サイクルによって生産された再生資材などの利用を促すなどの取り組みに力を入れることを計画の柱の 一つとしている -2。 単 位 : 万 トン 10,000 9,914 8,476

8,273 7,700

8,000

7,440

7,269 7,576 7,191

7,100

6,381

7,228

6,979

6,000 5,979

5,767 4,148 4,000

建設廃棄物搬出量 2,000

最終処分量

1,285 697

0

再資源化・縮減量

H7

H12

H14

600

H17

402

290

212

H20

H24

H30

図1.建設廃棄物の搬出量、再資源化・縮減量及び最終処分量の経年変化

図 1-1 日本の建設産業における廃棄物量の推移

単 位 : 万 トン 10,000 解体 2,196

-1 国土交通省「建設リサイクル推進計画 2020—『質」を重視するリサイクルへ」2020 年、p.2 修繕, 15 158 -2 同資料、pp.18-20

7,500

1,751

新築・改築 1,562 民間土木 354

5,000

2,500

57

1,636

1,523 1,191 317

1,111 349

1,364 410

公共土木 5,802

22

1,512

1,295 1,129

352

5,177

4,388 3,105

1,492 437

541 5,217

1,909

1,585

4,054

3,444


第 1 章 研究の概要

003

このように、全ての廃棄物を再資源化することを目指すのは、現代の廃棄物をとりまく一つの大きな 潮流と言えるだろう。もちろんこれは推進されるべきだろう。しかしながら、廃棄される量、それ自体 を減らすことへの言及は極端に少ない。このようなことを踏まえると、建設産業における無限の資源循 環が構築されれば、大量に生産し大量に廃棄されるという現状については黙認して良い、という態度が 見えるのではないだろうか。果たして無限の資源循環など構築しうるのか。しえないとしたら、リサイ クルでも、大量廃棄でもない、何らかの廃棄物に対する取り組み方とは何であろうか。これこそが、本 論文における「つくることの探究」へと接続される、大きな問題提起である。

(2) 廃棄された建築 上で見てきた廃棄物は、基本的には何らかの工事に伴って排出されたものである。すなわち、建築物 が建設される際、もしくは解体される際に発生するものである。一方で、これらには勘定されないが、 空き家などの住まい手がいない空間もまた、資源として問題になっている。ここでは、住まい手にとっ ての価値を失い、放棄されたものとして、空き家も廃棄された建築として、研究における射程に納める こととする。日本において、空き家の数は年々上昇し、2018 年でその総数は 846 万戸、空き家率(総 2 空き家

住宅数に占める空き家の割合)は 13.6%となり、深刻な社会問題となっている(図 1-2) 。このように考

えると、建設産業が抱えている廃棄物の問題は、建設や解体の過程で排出されるものだけに限らず、空 空き家率は %と過去最高 図2-1 空き家数及び空き家率の推移 き家のような廃棄された建築も包含するものであると言えるだろう。 「居住世帯のない住宅」のうち,空き 家は 万戸と,平成 年と比べ, 万戸 ( %)の増加となっている。

総住宅数に占める空き家の割合(空き

家率)は %と,平成 年から ポイ

ント上昇し,過去最高となっている。 空き家数の推移をみると,これまで一 貫して増加が続いており,昭和 年から

-全国(昭和 年~平成 年)

(万戸)

空き家率(右目盛)

また,別荘などの「二次的住宅」を除

き 家

いた空き家数及び空き家率は,それぞれ,

万戸, %となっている。

( %)の増加となっている。

空 き 家 数

平成 年までの 年間にかけて 万戸

(%)

空き家数(左目盛)

昭和 平成 年 年 年 年 年 年 5年 年 年 年 年 年

<図2-1,付表1-1>

図 1-2 空き家数及び空き家率の推移

「その他の住宅」の割合が上昇

(3) 素材としての廃棄物

空き家の内訳を種類別にみると,

図2-2 空き家の種類別割合の推移

このように廃棄が多岐にわたる現状に加え、 世界的な資源問題や環境問題など -全国(昭和 年~平成 年) 「賃貸用の住宅」が 万戸( %),

-3

も考慮に入れながら、

資源循環を構築していくことが求められている。 (1)で見たように、こうした資源循環としてリサイ 昭和 年

「売却用の住宅」が 万戸( %), 「二次的住宅」が 万戸( %),

「その他の住宅」が 万戸( %)

-3 例えば、マレーシアのサラワク州では、輸出向けに行われている違法伐採によって熱帯雨林が減少し、先住民の生 となっている。 平成5年 平成 年と比べると,それぞれ,2万 年 活に影響を与えている。日本もここで生産された木材を輸入しており、結果的に環境から人権までの問題を助長する

戸( %)の増加,1万戸( %)の

ことになっている。「マレーシア・サラワク州―今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵害報告書」国際人権 NGO 年

減少,3万戸( %)の減少, 万戸

年 ヒューマンライツ・ナウ:http://hrn.or.jp/activity/5923/ (最終閲覧 2020 年 12 月 31 日) ( %)の増加となっている。

また,空き家の種類別割合の推移を みると,平成 年以降,「賃貸用の住 宅」の割合は低下を続ける一方で, 「その他の住宅」の割合は上昇を続け ている。

賃貸用の住宅※

売却用の住宅

二次的住宅

※昭和㻡㻟年から平成㻝㻜年までは,賃貸用に売却用を含む。

その他の住宅

(%)


第 1 章 研究の概要

004

クルはとても有力であり、これからも主たる社会システムとしてますます機能するだろう。しかしなが ら、リサイクルは決して完璧な循環ではないことをここでは提示したい。 ここでは、資源が捨てられるまでのフローを、素材・生産・消費・廃棄という4つのフェーズとして 図式化する。リサイクルは、廃棄物を再び素材に戻す行為として描くことができるだろう(図 1-3) 。リ サイクルはこのように資源循環を綺麗な円として捉えることを可能にするが、実際には、その過程では たくさんのエネルギーが使われていることを忘れてはならない -4。 すなわち、綺麗な円として描かれるその循環は見かけのものに過ぎず、z 軸にエネルギーを添えると、

図 1-3 リサイクルの循環

図 1-4 リサイクルの螺旋循環 -4 例えば鉄のスクラップをリサイクルする際、運搬にガソリンを、不純物を取り除くのに薬品を、融解に電気を…と いうように大量のエネルギーが注がれる。


第 1 章 研究の概要

005

その循環は螺旋として描かれるものである(図 1-4) 。このダイアグラムからもわかるように、リサイク ルを繰り返せば、その分エネルギーを消費することは避けられないだろう。

(4) 廃棄物と転用の可能性 このようなリサイクルの問題点を踏まるならば、エネルギーの消費が莫大なシステムによる循環に代 わる循環として、エネルギーの消費の少ない循環が求められているだろう。ものづくりにおいては、こ のようなエネルギー消費の少ない循環を設計しようとして、廃棄物に取り組む事例も珍しくない。アン ティークのような時間の蓄積こそが価値となるものづくりや、アップサイクルのような付加価値を与え て再び商品化するものづくりなどは、その最たる例である。近年の環境意識の高まりから、CtoC の E C サイトなどの成長もあり、中古品の市場が拡大するなど、いわゆるリユースという形で循環する廃棄 物が増えている -5。 一方で、これらリユースで行われていることの多くは、所有者は変わるが用途は変わらないことが 多く、もの自体の使われ方は制限されていると言えよう。その点リサイクルは、製品の素材レベルにま で還元することができるので、ものの用途の制限はないと言える。私がこれから検討を行う転用は、こ れまでの考えに則れば、所有者も変わることがあり、用途も変わることがある、というものである(図 1-5) 。そしてこの循環を支えるには、転用を担う人間が廃棄物に対して何らかのはたらきかけをする必 要がある。このはたらきかけのプロセスを制作と呼び、第 2 章以降でより詳細に見ていくこととする。

図 1-5 リユース・転用・リサイクルの整理

(5) 2つの実践 これまで述べてきた本論文の社会的背景や位置付けのもと、実際に私が行なった2つの建築制作があ る。 「都市空間の廃棄物による制作」を制作Ⅰ(図 1-6)と呼び、 「仮設住宅の廃棄物による制作」を制 作Ⅱ(図 1-7)と呼ぶこととし、本論文ではこれらの制作のプロセスを詳細に分析する。これらの制作 は異なる環境、異なる時期、異なるプログラムなど、相異が多いものであるが、先にも述べた廃棄物を 転用するという点において、根本を共有する物である。この制作物を、建築物そのものとしての価値に -5 リユースの市場規模は約 1.8 兆円(2016 年)であり、年々右肩上がりである。うち、E C サイトの C to C が約 0.5 兆円であり、この成長率が著しい。なお、具体的にはフリマアプリやネットオークションなどが挙げられる。環境省「リ ユース市場規模調査報告書」2019 年、22-24 頁


第 1 章 研究の概要

006

とどめることなく、より深い制作の理解へと繋げたいと思い、ケーススタディとして取り上げる。この 2つの制作の分析を通じて、廃棄物を転用するとき、制作者である私と、素材である廃棄物のあいだに 何が起こり、何が起こらないのかを明らかにする。

図 1-6 都市空間の廃棄物による制作

図 1-7 仮設住宅の廃棄物による制作


第 1 章 研究の概要

1.2

007

研究の目的と意義

本研究には、大きく 3 つの目的・意義がある。中心的な目的は、廃棄物の魅力を示し、それを転用す ることの価値を理解し、実際に制作することによって資源の循環を提示することにある。このような目 的のもと、私たち人間の手によって、人工物に溢れた世界を創造的に調整するための手段としてつくる ことを提唱したい。本研究によって、人間とものの切れた関係性が見直され、人間とものが相互に連関 し、豊かに結びついている社会となることが期待される。

(1) 廃棄物の価値を明らかにすること 1 つめの目的は、廃棄物を用いて制作を行うことの探究を通じて、廃棄物が素材として持っている価 値を明らかにすることにある。新品として市場に流通している規格化された素材ではなく、廃棄物を用 いることにどのような特徴があるのかを提示することを目指す。廃棄物であることの意味が理解されれ ば、新品に仕方なくとって代わる廃棄物ではなく、価値がある素材として廃棄物を使う、という設計の 可能性が開かれるだろう。

(2) 人間とものの関係性で制作すること 2つめの目的は、制作者と廃棄物の関わりとして制作を分析することを通じて、制作における環境や 素材に応答する過程を明らかにし、その重要さを知ることにある。人間が持っている構想をものに押し 付けるようにして行われる制作の態度を再考し、既存のものに応答するように行われる制作の態度を提 示することを目指す。さらにその応答を誘発するような特徴が廃棄物にあり、廃棄物を転用して行った 実践を、制作者(人間)と廃棄物(もの)の互いに影響を及ぼし合う関係で理解する。人間とものの相 互のはたらきで制作することの重要さが明らかになれば、ものが持つ潜在的な特徴が価値と人間の創造 性が合流するようにしてつくられる豊かな制作物が増えるだろう。

(3) つくることによる循環を提示すること 3つ目の目的は、廃棄物を転用してものをつくることは、新たな制作物を生み出すことであると同時 に、これまで続いてきた時間やものの流れを引き継ぐことであることを示し、これによる循環をつくる ことにある。誰かによって生まれた廃棄物を私が制作者として転用してものをつくる。そしてその制作 物もまたいずれ廃棄され、再び誰かによって転用される。このような循環のなかでつくるという制作の あり方を提示することで、廃棄物など既存のものを転用して制作をすることの意義を示し、これからの 資源循環の一翼として、制作の役割が認められるだろう。


第 1 章 研究の概要

1.3

008

研究の手法

(1) 制作モデルの提示 第2章において、廃棄物を転用することを、制作者と廃棄物の関係性によって分析するために、仮説 として制作モデルを作成する。人間(制作者)が強い主体性をもって制作を行なっている現状が引き起 こしている問題を、建築学のみならず人類学や哲学の分野からも整理し、それに対応するための制作と して弱い主体や関係性による制作のあり方を紹介する。それらの概念が、廃棄物という素材や、転用と いう手法に対して親和性があることを述べ、最終的につくることを、意識と物質と他者性の相互作用と して捉えるモデルを提示する。

(2) コレスポンダンスによる分析 制作の最中に起こる、物質や他者に応答する過程を「コレスポンダンス」と呼び、このコレスポンダ ンスによって制作を分析する。たとえば、廃棄物のかたちから何らかの機能を見出す過程は、物質に応 答するという意味で、コレスポンダンスがあると言える。従来の制作者の主体性が強い制作では、構想 が重要なあまりに、ものを実際につくることは、構想を物理的なものにするだけの作業となりがちであ る。このような場合、コレスポンダンスは少ないと言える。第3章では、廃棄物の転用によって行なわ れた制作を、コレスポンダンスの集まりとして分析することで、制作プロセスにおいて物質や他者との 関わりにいかなる創造性があるのかを見出す。

(3)制作モデルの描き直し 第 3 章の分析で得られた結果をもとに、第 2 章で提示した制作モデルを描き直す。このようにして、 廃棄物を転用する制作を、意識と物質と他者性の相互作用としてみた際のモデルを第4章では再提示す る。また、再提示したのちに、制作全体をより発展的に理解するために、分析の内容を抽象的なダイア グラム化することと、仮説で提示した概念を検証する。これによって、コレスポンダンスとして制作を 分析し、関係論として制作を捉えることによって見ることのできる、制作の可能性に言及する。

1.4

用語の定義

本論文において頻出する用語について、以下の通りに定義する。

廃棄物 本論文において、廃棄物とは、建築物がつくられる際、もしくは解体される際に排出されるもののう ち、まだ素材として扱うことができるものを指すこととする。また、一般的なゴミの中でも、建材とし て再度扱うこともできるもの(ブルーシートやダンボールなど)も含むこととする。家庭で排出される


第 1 章 研究の概要

009

一般廃棄物は、基本的に本論文では対象としない。

つくること / 制作 本論文において、ある素材を使ってあるものを生み出すことを、制作と呼ぶこととする。これらには 具体的な意図や作業などが伴っている。一方でつくることは、制作に比べ、より概念的なものとして扱 うこととする。

コレスポンダンス コレスポンダンス(correspondence)は応答や調和といった訳語が充てられる言葉である。文化人 類学者のティム・インゴルドの言説を参照しつつ、本論文では制作において、制作者と素材と他者が相 互に与えあう影響のことをコレスポンダンスと呼ぶこととする。より詳しいコレスポンダンスの分類に ついては2章で述べる。

1.5

本論文の構成

図 1-8 論文の構成

「第1章 研究の概要」では、論を展開するための前提事項(背景・目的・意義・手法・用語の定義) について述べる。この章では、具体的にどのような廃棄物に、どのような視点から研究しているのかが 示されている。 「第 2 章 廃棄物の転用と制作」では、分析に先立ち、廃棄物の転用による制作が、どのように理解 されうるのか、仮説を作成する。具体的には、 「2.1 関係性による制作へ」では、これまでものをつくる 行為が、制作者の構想によって完結するものとして捉えられてきた状況について、建築制作の分野を中 心に述べる。その上で、それが引き起こしている問題が、建築の内外問わず起こっている普遍性を持っ


第 1 章 研究の概要

010

たものであることを示す。こうした制作に対する理解による取りこぼしを収集するための概念として、 関係性によって制作を理解しようとすることの狙いを述べる。続く「2.2 転用によってつくること」では、 転用という制作行為における言説を概観し、転用のもつ特徴や可能性を整理する。ならびに、本論文に おいて転用というプロセスが取られることの意義を説明する。次に「2.3 廃棄物による制作モデル」では、 素材として廃棄物がもつ特徴や可能性を整理する。これまでの整理の全体をまとめあげ、関係性で制作 を理解するために、廃棄物を転用することがどのように位置付けられるのかを提示し、最終的に仮説の 制作モデルを描く。第2章はいわば、本論文が捉える制作に関連する、研究や言説を整理する章と言え よう。 「第3章 2つの制作の分析」では、本論文の中核である、建築制作のケーススタディ分析を行う。 拙作の2つの建築制作のプロセスを、第 2 章で提示したモデルに倣って関係性として見ていく。 「3.1 分 析の概要」では、これから分析を行なっていくにあたって、どのような手順で行うのかを整理する。 「3.2 制作Ⅰ<都市空間の廃棄物による制作>」では、建設現場を中心に収集した廃棄物を転用し、河川敷で 生活するための建築を制作したプロセスの分析を行う。 「3.3 制作Ⅱ<仮設住宅の廃棄物による制作>」 では、廃棄された仮設住宅の部材を転用し、地域のイベントで用いる屋台のような建築を制作したプロ セスの分析を行う。さらに「3.4 制作ⅠとⅡの包括的分析」では、制作ごとに行なった分析を俯瞰的に 検討し、共通項や相異などからプロセスの分析を行う。これは、いわば章結となるパートである。 「第4章 結論・考察・展望」では、そのタイトルが示す通り、これまでの議論を統括するものである。 結論として、仮説で示した制作モデルのアップデートを行い、廃棄物の転用の特徴や可能性を整理する。 展望では、本論文やその延長にある制作が、廃棄物を取り巻く問題にどう対峙することができるのかを 述べる。また、本論文によるつくることの探究が、人間とものの関係性を再考し、社会規模ないし地球 規模となっている様々な問題に介入しうる可能性があることを宣言する。

1.6 既往研究・実践 背景で述べたように、廃棄物に関する研究の大半は、工学を中心としたリサイクル効率や技術に関す るものと、統計学を中心とした中古品市場や環境負荷に関するもので占められる。実際に省庁が発行す る資料では、このような技術や市場の分析が主であり、結果として目標値を定めること中心的な議題と なっている -1。

一方、建築設計の分野ではリサイクルやリユースといった議論は大きなシステムの次元ではなされて いない。しかしながら、環境や資源に配慮する実践は一定数認めることができる。環境などに配慮しな がら設計をしている建築家として川島範久らや、資源の循環などに着目しながら設計をしている建築家 として能作文徳らが挙げられる。これらは似たような社会問題を背景として共有している一方、廃棄物 -1 先に述べた「建設リサイクル推進計画 2020—『質」を重視するリサイクルへ」はその代表例である。


第 1 章 研究の概要

011

への取り組みについては十分に論じられてこなかった。 日本において、廃棄物を建築に利用する事例は少なくない。例えば、隈研吾も店舗設計の内装に古い スキー板やスノーボードを用いている -2。しかし、こうした表現は表層的な操作にとどまっている部分 も多い。地域に根ざすような表層的ではないやり方で、 建築物の構築に廃棄物を用いる例としては、 ルー ラルスタジオの初期の制作などが挙げられる -3。廃木材はもちろんのこと、廃タイヤなどを転用する建 築もある。これらはローコストな建築のアイデアとして評価されることは多いが、そのような限りある 資源の中で建築制作を行うことの創造性は評価されているとは言い難い。 こうした建築分野における既往研究・実践の乏しい現状がある一方で、近年の文化人類学や現象学の 分野では制作そのものに焦点を当てた議論が展開されている。本論文では、こうした人文学の論点を制 作の仮説モデルとして立て、実際の廃棄物を用いた建築制作のプロセスを分析するものである。建築制 作を人文学の視点から分析する先行研究は、アクターネットワークなどを提唱する科学人類学の最新の 取り組み -4 があるが、転用や廃棄物に着目した関係論的な制作分析はなされていない。これら制作に関 する先行研究は、制作モデルの提示に際し、第2章でまとめることとする。

このような既往研究・実践のなか、工学や統計学に収まらない建築制作という実践を、廃棄物を転用 するという手法が持ち合わせる創造性に着目しながら、文化人類学や現象学を下敷きにした制作モデル を通じて分析するのが本論文の位置付けである。

-2 隈研吾『下北沢てっちゃん』(2017 年)。他にも田根剛による『10 kyoto』では解体された木材を再度集成材にする ことが計画されている。 -3 Andrea Oppenheimer Dean, “Rural Studio: Samuel Mockbee and an Architecture of Decency”, Princeton Architectural Press, 2002 -4 アクターネットワーク理論の中核的存在ブルーノ・ラトゥールの弟子にあたるソフィー・ウダールらの研究が代表 的。ソフィー・ウダール+港千尋『小さなリズム —人類学者による「隈研吾」論』加藤耕一+桑田光平+松田達訳、 鹿島出版会、2016 年


第 2 章 廃棄物による制作

2

012

廃棄物による制作

012

2.1

関係性による制作へ

013

2.1.1

作業としての制作

013

2.1.2

強い主体性をもつ建築家

015

2.1.3

強い主体の問題

017

2.1.4

弱い主体

017

2.1.5

関係論的制作

019

2.2

転用によってつくること

021

2.2.1

参加する意識

021

2.2.2

転用と制作

022

2.3

廃棄物による制作モデル

024

2.3.1

素材としての廃棄物

024

2.3.2

リノベーション

025

2.3.3

他者性(alterity)とナレッジ(knowledge)とともにある制作

026

2.3.4

仮説の制作モデル

027


第 2 章 廃棄物による制作

2.1

013

関係性による制作へ

人間は素材として自然環境を人工物につくりかえることで営み続けてきた。有史以前からも、住居を つくったり、道具をつくったりするなかで、素材との関わりは日常的に行われてきた。現代でもなお、 日常的に素材との関わりは続いており、素材との関わりの末に生み出された人工物たちによって世界は 埋め尽くされている。 人間が自らの力を超えて、素材をつくりかえるためのエネルギーを生み出すことに成功したという点 において、産業革命は大きな転換点である。今までは形づくることのできなかった素材をコントロール できるようになり、そしてまた、それを大量に行うことが可能となった。この章では、そのような人間 の力を超えてつくることが、どのような制作者と素材の関係性をつくってきたのかを見渡し、その強す ぎる制作者の主体性に対する問題や批判を整理する。そして、望まれる制作者の態度を、弱い主体に求 め、制作を関係性によるものとして理解しようとする概念を説明する。

2.1.1 作業としての制作

工業化が進んだことにより、制作者が加工しやすいように素材は均質に生産され、客体化された。素 材の特徴に応答しながらものがつくる必要性が少なくなり、制作者の主体性は益々強まっていったと言 えよう。このような制作者と素材の関係性のなかで、制作は、制作者の頭の中で行われる構想と、それ を物理的なものにする作業によって分けて考えられるようになった。そして、創造性を占めるのは構想 であり、実際にものをつくる作業は、それよりも下位にあるものというモデルによって制作が理解され るようになった(図 2-1) 。

図 2-1 上位の構想と下位の作業

建築設計における、 この上下の二段構えの歴史は中世に遡って考えられる。初期ルネサンスの建築家・ 建築理論家であるレオン・バッティスタ・アルベルティは、建築における上位と下位に別れた制作モデ ルを唱えた人物であると言える。マリオ・カルポは、アルベルティの理論を「建築のデザインがオリジ


第 2 章 廃棄物による制作

014

ナルであり、建物はそのコピーである」とまとめる -1。これは、建築家の原作者性を明確にするために、 図面と模型による構想段階での完成が、そのまま建物として現れるべきであるというアルベルティの主 張が端的に表される整理である。カルポはこれを表記法の変遷と結びつけて説明する。一方、アルベル ティが原作者性を担保することによって、建築家と大工が分離した側面を強調するのが、文化人類学者 のティム・インゴルドである。インゴルドは、アルベルティが建築家を定義する際に、建築家は大工で はなく、大工は建築家にとって道具でしかない、としていることに注目している。そしてこのような姿 勢を、 「形相と質量が一体であるという、 質量形相論への無条件な傾倒」として整理する -2。アルベルティ に対するカルポとインゴルドによる言及を整理すれば、中世ヨーロッパの建築論を起点として、建築に おける制作は構想の段階と実際にものをつくる行為に分離し、前者がより創造的でオリジナリティある ものだと考えられるようになったと言える。

このように、作品の制作が上位と下位の二段構えで行われていると捉えられてきた状況に対して、芸 術学者の森田亜紀は、 「精神における『内的形成』が制作の本質的過程で、事物を扱う作業は、それを 物理的なものに置き換えるだけの『外的完成』 、二次的過程なのだろうか」と疑問を投げかける -3。森田 は一貫して二段構えの制作を否定し、制作における「事物の世界での具体的な作業」の重要性を指摘し ている -4。

森田も参照しているが、ジェームス・ギブソンによるアフォーダンス理論は、制作における具体的 な作業についての理解を導く。アフォーダンスとは「環境が動物に与え、提供している意味や価値」で ある、とギブソンは言う。アフォーダンスは、制作者の構想の及ばないところにあり、 「環境の中に実 在する行為の資源である」のだ。つまり、環境の中に入り込まない限り、この資源のはたらきを享受す ることはできない、というのがこのアフォーダンス理論が示すところである -5。このことから考えるに、 制作における具体的な作業は、単に構想を物理的なものに置き換えるだけでなく、制作者によって何ら かの発見があるプロセスなのである。森田は、ガラス工芸家の制作プロセスを受け、 「彼らは素材と関 わる中から素材のアフォーダンスを発見したのであり、素材からもたらされたその発見が、新しい何事 かとして彼らの作品の内に形となっているのだろう。…(中略)…作り手は素材にはたらきかけ、そこ から何がしかの応え(答え)を受け取る。何がしかの発見がある。それが次のはたらきかけへとつなが る」と分析し、ガラス工芸に限らず、さまざまな制作に一般的に言えることであると述べる -6。 -1 マリオ・カルポ『アルファベット そして アルゴリズム—表記法による建築 ルネサンスからデジタル革命へ』美 濃部幸郎訳、鹿島出版会、2014 年、46 頁 -2 ティム・インゴルド『メイキング—人類学・考古学・芸術・建築』金子遊+水野友美子+小林耕二訳、 左右社、 2017 年、 113 頁 -3 森田亜紀『芸術の中動態—受容 / 制作の基層』萌書房、2013 年、140 頁 -4 同書、139 頁 -5 佐々木正人『新版 アフォーダンス』岩波書店、2015 年、72 頁 -6 森田亜紀『芸術の中動態—受容 / 制作の基層』萌書房、2013 年、158 頁


第 2 章 廃棄物による制作

015

すなわち、制作を単なる作業として傍観するのではなく、素材からのはたらきを加味したものとして 熟視することは、制作のプロセスを見ていく上で重要な一つの姿勢であると言える。人間と環境が相互 に作用しあうことの結果として、作品に形が与えられているということ。これに関する創造性について の思索もまた必要であるはずだ。

2.1.2 強い主体性をもつ建築家

再び整理すれば、近代的な制作は一般的に、制作者の主体性が強く、素材は客体化され、構想を本質 的過程として、実際にものをつくる過程の創造性についてはあまり検討されてこなかったと言えるだろ う(図 2-2) 。

図 2-2 制作者と素材の関係性

カルポとインゴルドによるアルベルティに対する言及が示すように、建築家は大工と職能を分離する ことで建物の原作者としての立場を保ってきた。 このような建築家の立場に対する批評は少なくないが、 ここでは形をつくることの問題に関する批評と、廃棄物との関連で資本主義的な問題をとりあげる批評 について触れ、建築家の強い主体性が市場のシステムと結びつくことで、問題が引き起こされているこ とについて述べる。

建築家・建築理論家であるクリストファー・アレグザンダーは、 『形の合成に関するノート』にて、ヴァ ナキュラー建築のように、無自覚な文化がつくる建築と、近代的な建築のように、自覚している文化が つくる建築のふたつを対比させながら、形がつくられるプロセスを「無自覚なプロセス」と「自覚され たプロセス」に分類する。ここでアレグザンダーは「無自覚なプロセス」が持つ、不都合が起こった際 にそれらを修正する適応の速度に注目する。この速度が「自覚されたプロセス」比べて早い「無自覚な プロセス」では、変化に「よく適合する形を生産」することができると述べる -7。この小さな変化に小 -7 クリストファー・アレグザンダー『形の合成に関するノート / 都市はツリーではない』稲葉武司+押野見邦英訳、 鹿島出版会、2013 年、22-38 頁


第 2 章 廃棄物による制作

016

さく対応していく相互作用の制作プロセスは、先に指摘した通り、森田が重要視するプロセスと共通す るものである。

では、なぜデザイナーや建築家といった制作者が、このような相互作用のプロセスを採用できていな いのだろうか。アレグザンダーは、 「自分の個人性の自覚を意識していることが、形をつくるプロセス に深い影響を与えている 」ことが原因だという -8。ここでアレグザンダーがいう「個人性」とは、制作 物に対する作家性や原作者性というものであり、まさにアルベルティが確立しようとした建築家像であ る。そして、このような立場に建築家が置かれているなかで、 「建築デザインの “ 理論 ”」とは、 「問題 の複雑さだけではなく、伝統から一度自由になり、絶え間なく出会う決定の重荷」を「和らげる処方」 であると揶揄する。すなわち、自覚されたプロセスの中では、対処しなくてはならない問題が複雑であ り、その対処の仕方にもまた、新規性が求められる。このような苦悩の中、デザイナーが意思決定から 逃れるようにして理論が生まれていると分析している -9。 このように辛辣な分析をする一方で、 「自覚されたプロセス」の遅さは、デザイナー個人の問題にす ることはできないとも、アレグザンダーは述べる -10。これには社会的な変化に起因している。材料が手 元になく、家の耐久性が高く、つくり手はすまい手ではないというように、近代以降に構築された合理 的な産業システム、ならびにそれを支える建築家を育てる教育など、複雑な要因があるという。 『形の合成に関するノート』が記されたのは 1964 年のことであるので、社会的な時代背景は現在と異 なるだろう。しかしながら、アレグザンダーが述べる要因は現代にも引き継がれているものであると考 えられる。ましてや現代は、建築家がより一層、市場の影響を受けていると言えるのではないだろうか。

日本の建築評論家である飯島洋一は、そのような現代の建築家と市場の関係性について徹底的な批判 を行う。飯島は「一部の世界的な建築家たちについては、 …(中略)…その建築家の持つ名前の威力が、 世界市場で巨大なブランド価値になっている」と現状を説明し、このような市場においてクライアント は、ある世界的な建築家の「仕上がりの良い建築を、実は第一義には求めて」おらず、その建築家が「デ ザインしたという事実」を求めていることを指摘する。そして、その結果として、建築家は自らの建築 「らしい」ものをつくり続けなくてはならなくなっている現状を批判する -11。 飯島のいう「らしい」とはアレグザンダーのいう「理論」と同義であろう。そして、このように市場 の要請が強くなればなるほど、建築家は素材や環境に応答することが難しくなっている。市場やクライ アントとの応答で建築がつくられることによる創造性ももちろんあるだろうが、それに終始するあまり では、素材や環境に対して建築家は依然として強い主体性を発揮し続けることとなる。

-8 同書、50 頁 -9 同書、53 頁 -10 同書、50-54 頁 -11 飯島洋一『「らしい」建築批判』 青土社、2014 年、37 頁


第 2 章 廃棄物による制作

017

2.1.3 強い主体の問題

制作者による主体性が強いことは、制作をミクロにみた際、素材や環境からの作用を軽視することに つながるっている。その一方で、この強い主体の問題は、制作以外にも共通する問題であることが近年 指摘されている。このような主体―客体関係を解体・再構築する理論的取り組みとして、社会学の領域 からブルーノ・ラトゥールらによって提唱されているアクターネットワーク理論や、人類学の領域から ヴィヴェイロス・デ・カストロらの存在論的展開や、哲学の領域からグレアム・ハーマンらの思弁的実 在論が有名である。これらの同時代性は決して偶然ではないだろう。 このような同時代性の背景には人新世の問題が共通に存在していることがわかる。人新世とは、地球 環境に与える人間の痕跡が大きくなり、 地球システムへの影響が、 自然の巨大な力に匹敵するようになっ た時代を指す名称である -12。このような概念が、学者間の専門用語に留まることなく、多くの人々の共 通概念となっているのは、環境問題や格差問題など身近な出来事として表出していることと結びついて いる。

マルクス主義哲学・経済学者である斎藤幸平は、イマニュエル・ウォーラーステインの「世界システ ム」論を引き、資本主義の現状を「中核」と「周辺」で整理する。今まで「中核」である先進国の「周 辺」として搾取されていた、中国やブラジルといった国が経済成長をして、次いでその「周辺」を搾取 するようになったことを例に出し、 「周辺」がさらなる外部に「周辺」を求める再現なき構図を指摘する。 斎藤はこのような帰結として人新世を「外部が消尽した時代」と言い、それを示す最たる例として、気 候変動を提示している -13。 ウォーラーステインや斎藤の「中核」と「周辺」の構図は、主体と客体のそれと地続きである。気候 や環境といった問題に留まらず、 北半球と南半球(グローバルサウス問題)/ 男性と女性(フェミニズム) / 白人と黒人(レイシズム)なども「中核」と「周辺」あるいは主体と客体によって考えることが可能 である。強い主体の問題とは、人間―非人間の関係性のみならず、人間―人間の関係性の問題でもある のだ -14。

2.1.4 弱い主体

このような人間中心主義や強い主体によって限界に直面している世界を前に、私たちはどのように制 -12 Will Stefeen, Jacques Grinevald, Paul Crutzen and John McNeill, “The Anthropocene: conceptual and historical perspectives”, Philosophical Transactions of the Royal Society A, vol.369, 2011, 842-867 -13 斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社、2020 年、31-56 頁 -14 土佐弘之『ポスト・ヒューマニズムの政治』人文書院、2020 年


第 2 章 廃棄物による制作

018

作に向き合うことができるのだろうか。制作における素材の扱いとは、まさに「周辺」への押し付けが 行われており、問題にもなっている。問題の大きさに対して制作自体は小さいからといって、制作者が その構造に無自覚であっていいはずがない。そこで、まずは制作者―素材の関係性に関する再考が必要 であろう。

文化人類学者の奥野克巳は、自身が翻訳したティム・インゴルドの『人類学とは何か』の巻末解説に おいて、 「私たちは一つの世界に住んでいる」ため、 「多種多様な異なるものからなる世界が一つである ことを示すことに挑まなければならない」といい、 「関係論的思考」の必要性を説いている -15。インゴル ドは著書『メイキング』の中での重要な思考として語られる「四つの A-16」が表すように、つくること への探究を行なっている。まさに、インゴルドや奥野は、人類学の立場から、制作者の中心性を廃した、 相互に関係としてつくることを見ようとしている。

人類学とは結びつきが一見ない政治学の中からも、土佐弘之は「人間を脱中心化させながら、地球シ ステムという複雑系全体を包括的に考察する」必要性を述べ、その糸口をアニミズムなどの、人間中心 主義的でないコスモロジーに求めている -17。これも、世界を「関係論的思考」で見ようとする態度であ ると言えるだろう。しかし、土佐はこのような議論に対して、政治的な実現可能性を考慮すると、 「机 上の空論で終わり、現実の政治にほとんど影響も与えず、やがて流行の波の一抹の泡として消えていく 可能性は高い」とも述べる -18。たしかに、関係論的に制作を俯瞰することができたとしても、それが現 実の建築生産にどれほどに影響を与えられるかは疑問が残る。そもそも、このような制作の分析におい て、分析者は人間であるがため、そこでの中心性を完全に排すことは原理的に不可能であろう。しかし ながら、現状の主体性の強い制作を続けることは、カタストロフィへの抵抗にはなり得ない。土佐も同 様な問題意識のもと、人間中心主義の度合いに注目し、 「できうることは、他者としての人間以外の自 然に対して暴力的、搾取的である『強硬な人間中心主義』を、自然の中に人間を特権的でない形で位置 づける『穏健な人間中心主義』にしていく」ことであると述べる -19。すなわち、 「強硬な主体性」から「穏 健な主体性」へ、 「強い主体」から「弱い主体」へというような、程度をシフトさせることの重要性を 説いている。

「弱い主体」による制作とは、どのようなことであろうか。これまでの議論をもとに整理すると、そ れは素材を客体化しすぎず、関係論的に語られる制作である。今までの近代的な制作が現在の資本主義 -15 ティム・インゴルド『人類学とは何か』奥野克巳+宮崎幸子訳、亜紀書房、2020 年、159-163 頁 -16 人類学(Anthropology)、考古学(Archaeology) 、芸術(Art) 、建築(Architecture)の4つの頭文字をとって名 付けられた授業が「4つの A」である。ティム・インゴルド『メイキング—人類学・考古学・芸術・建築』金子遊+ 水野友美子+小林耕二訳、左右社、2017 年 -17 土佐弘之『ポスト・ヒューマニズムの政治』人文書院、2020 年、20-26 頁 -18 同書、26 頁 -19 同書、63-64 頁


第 2 章 廃棄物による制作

019

下における建築家の問題から惑星の問題までに、わずかでも関連するものであることがわかった。すな わち、このように制作を捉え直すことは、それらの問題に応答することであり、同時代性を持つ研究と のネットワークのなかにあるといえる。

2.1.5 関係論的制作

インゴルドは、人類学の観点から、つくることを研究する。インゴルドは、人類学的な探求のために 「コレスポンダンス(correspondence) 」という概念を打ち立てる。コレスポンダンスとは、 「現在生じ ていることに次々に即応できるように、知覚を研ぎすませることであり、すなわち、世界との関係を調 整すること」であると言う。よりつくることに絞って言うならば、実際に手を動かしてみて、どうなる のかを知ること、そしてまた手を動かすこと…、である。私(制作者)が物事(素材)とのあいだで絶 えず応答し続けることの創造性をインゴルドは重要視する -20(図 2-3) 。

図 2-3 制作者と素材の応答

このような概念をインゴルドは一つのダイアグラムにて示す(図 2-4) 。まず初めに「二本の線」が描 かれ、それぞれは「運動の軌跡」である。一方は「光や音や感情で満たされた意識の流れ」であり、も う一方は「混合し溶解して循環していく物質の流れ」である。 「それぞれの線が一瞬だけ停止」すると、 意識の側では「イメージ」 、 物質の側では「オブジェクト -21」という形がとられる。この 2 点をつなぐ「両 端が矢印の線」が描かれ、 「イメージとオブジェクトをつなぐこと」が表現される。インゴルドはこの ようなダイアグラムによる理解は、 「イメージからオブジェクトへ、オブジェクトからイメージへ、終 わりのない往復をくり返す、わたしたちのパースペクティブを切り替えるスウィッチ」であると評価す る -22。 近代的な制作において、つくることは「横方向〔イメージからオブジェクトに変換したもの〕 」とし -20 ティム・インゴルド『メイキング—人類学・考古学・芸術・建築』金子遊+水野友美子+小林耕二訳、左右社、 2017 年、26-27 頁 -21 『メイキング—人類学・考古学・芸術・建築』では、object の訳語として「物体」が訳者によって選ばれている。 しかしながら、object に含まれる客体の意味が保持された方が、制作者―素材の関係性で制作を分析する際に適切であ ると私は考える。そのため image の訳語がカタカナ表記の「イメージ」であることに倣い、object の訳語も「オブジェ クト」として統一することとする。 -22 同書、52-52 頁


第 2 章 廃棄物による制作

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図 2-4 意識、物質、イメージ、オブジェクトのダイアグラム

て理解されてきた。インゴルドは「物質的世界に心の中で描いた形状を押しつけるという質料形相論」 を批判する -23。これは、先にみた、森田が作品の制作における二段構えを批判したことにも共通する立 場である。そして、インゴルドはつくることを「縦方向〔意識の流れと物質の流れが合流したもの〕 」 としてみることを提案する。再度の確認になるが、 これはコレスポンダンスの終わりない往復によって、 つくることを見ていこうとする態度である。これを本論文では以下のようなダイアグラムで表すことと する(図 2-5) 。

図 2-5 コレスポンダンスのダイアグラム

-23 同書、54 頁


第 2 章 廃棄物による制作

021

2.2 転用によってつくること

2.2.1 参加する意識

廃棄物はものの一形態であり、必ずしも無用だから廃棄されているのではない。廃棄物は、その所有 者が様々な要素を複合的に判断することで、無用であるとされたものである。すなわち、あなたにとっ て無用であったとしても、私にとって有用であるものもあるのである。廃棄物を転用させて制作を行う にあたり、もののなかに何らかの有用さを見出すことが制作者には求められる。でないと、無用とされ 廃棄されたものは、また再び、私の中で無用とされ、2度目の廃棄を迎えてしまう。

社会批評家のモリス・バーマンは、科学革命以降の近代が失ってしまった「参加する意識」の重要性 を説く。バーマンによると、近代科学は「すべてを物体と運動に還元する」ために、近代以降の私たち の意識は「自己を世界から疎外する意識」となった。その結果として、 「自然への参入ではなく、自然 との分離」が起こり、 「主体と客体とがつねに対立し、自分が自分の経験の外側に置かれる」という状 況が起こっている -24。これはまさしく、制作における主体:制作者と客体:素材という対立や、構想に 制作の本質を求める制作者の姿勢を言い当てている。この状況を乗り越える態度こそが 「参加する意識」 である。 「参加する意識」とは「自分を包む環境世界と融合し同一化しようとする意識」であるとバー マンは言う -25。これに従えば、近代的な制作を乗り越えるには、制作において、制作者は自分を含むも のの流れと一体になることが求められていると言えるだろう。 バーマンは「錬金術」が、 「参加する意識」の最後のものとなったと述べている。カール・グスタフ・ ユングなどによる錬金術に関する研究が、錬金術師たちが黄金を実際に見たとされる文献が多数あると 指摘していることに、バーマンは注目する。もちろん「近代科学的」にはあり得ないエピソードである が、これはまさに「参加する意識」によって、 「すすんで黄金を見た」のだと考えることができる -26。

廃棄物の転用において、廃棄物に何らかの有用さを見出すことは、まさに錬金術師が黄金を見ること と共通することとして考えられる。路上生活者の研究を行なった坂口恭平もまた、隅田川に住む鈴木さ んが、0 円で集めることのできるものでほぼ全ての生活を行なっていることに注目している -27。このよ うに、無用とされたものの有用さを引き出すには、 「参加する意識」が求められている。自分を特権的 な立場に置き、制作を傍観するのではなく、廃棄物たちの中に没入することが大事である。 -24 モリス・バーマン『デカルトからベイトソンへ—世界の再魔術化』柴田元幸訳、文藝春秋、2019 年、16 頁 -25 同書、16 頁 -26 同書、98 頁 -27 坂口恭平『TOKYO 0 円ハウス 0 円生活』河出書房、2011 年


第 2 章 廃棄物による制作

022

また、バーマンは、この「参加」とは「自己の『内側』と『外側』が体験の瞬間において一体化する こと」であり、 「理知的なものと感覚的なものとをひとつにした、全体的経験」であるとは言う -28。すな わち、制作者の理知的な脳の考えと、感覚的な手の動きの包括的な体験として、制作を捉えることがで きるということである。裏を返せば、制作者の構想に善がるように行われる制作では、この全体を経験 することはできないのである。 この全体を経験するためには、実際に自らの手でものを触る必要がある。廃棄物のような、制作者と は関係なく既にあるものは、制作者の外側の体験と言えよう。このような既存のものを制作に用いるこ とは、制作者に内側と外側が一体化する経験を提供する。そしてこの時の素材の扱い方こそが、転用と 呼ばれるプロセスである。

2.2.2 転用と制作

では、既存のものを使い、新たなものにつくり変えようとする、いわゆる転用という行為が持つ側面 は一体どういうものだろうか。転用のなかでもとりわけ手仕事に近いものは、 ブリコラージュと呼ばれ、 建築家のなかでも重要な概念として語られることも少なくない -29。まずは、このような手に近い転用に ついて見ていく。

そもそもブリコラージュとは、フランス語で手仕事などを意味する言葉であり、構造人類学の始祖で あるクロード・レヴィ = ストロースによって概念化された。レヴィ = ストロースはとくに、 「もちあわ せの」の材料や道具でつくられることに注目し、 この「限られた可能性の中で選択を行うことによって、 作者の性格と人生を語る」と言う -30。また、このような制作を可能にする道具立てとして「資材性〔潜 在的有用性〕 」を提示する -31。すなわち、ある目的のために存在する素材ではなく、様々な機会でストッ クされた、目下の目的を持たない素材が果たしうる役割について評価している。これについては、現代 においても様々な言及があり、例えばランドスケープ・アーキテクトの石川初は、同じような行為を徳 島県神山町に住む人たち「FAB-G」にも見出せるという。そして、この資材性を見つけ出す過程を、 「材 が脱意味化された際に、その材の物性を手がかりに潜在的有用性があらためて発見される」と言う -32。 -28 モリス・バーマン『デカルトからベイトソンへ—世界の再魔術化』柴田元幸訳、文藝春秋、2019 年、85 頁 -29 2008 年に建築家の石山修武が世田谷美術館で 21 回にわたって行なった連続講義をまとめた書籍では、その冒頭 第 1 章をブリコラージュに充てており、本を通して頻出するキー概念となっている。石山修武『生きのびるための建築』 NTT 出版、2010 年 -30 クロード・レヴィ = ストロース『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976 年、27 頁 -31 〔〕は訳者による説明。同書、23 頁 -32 石川初『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い —歩くこと、見つけること、育てること』LIXIL 出版、 2018 年、p.37


第 2 章 廃棄物による制作

023

この脱意味化による冗長性こそが、その後のブリコラージュを駆動力として考えることができよう。 また、建築史家の中谷礼仁も、レヴィ = ストロースを引きながら、 「転用を引きだすのは転用者の要 求であり、 事物に刻まれたかたちはその具体化の引き金」であると言う 。裏を返せば、 「転用の可能性は、 事物のかたちの限界にもとづいて」おり、その可能性は「いくつか ( セヴェラル )」であるとし、それ が故の「ユニーク」さや「ダイナミック」さを中谷は提示する -33。

石川も中谷も、深く鋭い考察であるが、ブリコラージュにおける素材のかたちへの注目に力点が置か れている。 「脱意味化」や「具体化の引き金」と言う表現は、そのような転用における、制作者と素材 との間の距離感を暗示している。一方で、ブリコラージュというには対象が大きい教会建築など、西洋 建築における転用に目を向けてみると、そこには必ずしも実用性だけを重視しないあり方があることが わかる。西洋建築史家の加藤耕一は、部材再利用(スポリア)に「実用的な側面」と「観念的な側面」 があるといわれていることを指摘する -34。どちらかが優位であるというわけではないが、観念的な意味 をあることは注目に値するのではないだろうか。これは、 転用者による「要求」と事物による「具体化」 の関係性において、 必ずしも転用者の主体性が強いわけではないことを示しているように思われる。 「観 念的な側面」によって、 「要求」自体が変化する可能性を示唆している。

すなわち転用する制作とは、潜在的な実用性という物理的観点から創造的であると同時に、素材の装 飾や歴史という観念的な観点からもまた創造的であると言えるのではないか。平たく現代社会において 換言すると、愛着やときめき、履歴という言葉によって表されるものである。そして、このような両方 の観点にかかる転用の代表例として、ヴェネチア・ビエンナーレにて日本館で開催される「ふるまいの 連鎖:エレメントの軌跡」が挙げられる。この展覧会では、 「高度経済成長が始まったときに建設され、 30 年以上にわたって増改築が積み重ねられてきた」一般的な木造住宅を解体し、その部材をヴェネチ アに輸送する。現地では、 「現場ならではの即興的な判断を重視し」建築家たちによって、再構築が行 われるという。ディレクターの門脇耕三はこの展覧会が明らかにするものとして、 「移動するエレメン トが浮かび上がらせたのは、われわれの行いばかりではなく、その軌跡の上に多くの人々の無数のふる まいが連鎖している様相」があると述べる -35。まさに、 「ふるまい」が「軌跡」として「連鎖」すること の現れとして、 「エレメント」すなわち素材がそこに存在するとみる態度は、実用と観念を止揚しよう としていると言っても過言ではないだろう。転用とは、複層的なものの循環のなかに入り込み、自らの はたらきかけを積み上げるような行為として捉えられようとしている。

-33 中谷礼仁『セヴェラルネス+—事物連鎖と都市・建築・人間』鹿島出版会、2011 年、250 頁 -34 加藤は観念的な側面に関して、教会などの装飾におけるスポリアを例示し、信仰心と密接に関わっていたと述べ ている。加藤耕一『時がつくる建築—リノベーションの西洋建築史』東京大学出版会、2017 年、66-67 頁 -35 門脇耕三『ふるまいの連鎖—エレメントの軌跡』TOTO 出版、2020 年、14 頁


第 2 章 廃棄物による制作

2.3

024

廃棄物による制作モデル

2.3.1 素材としての廃棄物

廃棄物はあらゆる素材の中でも、観念的な側面が強いものと言えるだろう。なぜならそれは廃棄物以 前には何らかの用途をもって使用されていた、という過去を持つからである。程度の差こそあれ、廃棄 物には何らかの時間的な蓄積を見てとることができるだろう。無用か有用かの二元論に基づく実用性に よってだけでは判断することのできない冗長性を、廃棄物は内包している。

大衆的に支持されている片づけコンサルタントの近藤麻理恵は、断捨離やミニマリズムといったより 少ないことはより良いことであるとする片づけ手法に異を唱えてきた。無用もしくは有用による線引き は、私たちの生活を必ずしも幸せにはしないと言い、ときめきを感じるものに囲まれて生活することに よって、豊かになることを説いている。その「ときめき」を軸にした片づけの手法は「こんまりメソッ ド」と呼ばれ、確立されている -36。ここからも明らかなように、廃棄物には無用と有用の二元論には還 元しきれない、 「ときめき」の領域がある。この「ときめき」とは、他の言葉で表せば、思い出や愛着 と言えるだろう。これらはすなわち、人間―ものの関係性の積み重ねの結果であると言える。

文化人類学者の奥野克巳は、 このような近藤による片づけを「今まさにつくられつつあるアニミズム」 なのではないかと言う。奥野はアニミズムを「人間とモノ・対象・客体との対話の中で、心の面でのつ ながり合いの想定の下に生じるある種の経験」としており、片づけにおける「人間とモノの対話」に注 目する。そこでさらに近藤が、この対話は自分に向き合う行為であると述べていることに奥野は注目し ている -37。つまり、片づけは「モノ」を通して自分を見るということであり、 「モノ」に「人間」が照射 されていると言えよう。

廃棄物に関して言うならば、廃棄物は機能的な素材として客体視する限りにおいて単なる物質である だろう。しかし、使用者―廃棄物の関係論的なものとして見ることができれば、それは物質であり、 「人 間」でもありうるのだ。つまり、素材として廃棄物を使うことは、廃棄物によって媒介された、私と誰 かの関係性として見てとることができよう。アニミズムといった存在論の概念を踏まえれば、素材とし ての廃棄物の魅力の一つは、まさにこの媒介するはたらきにあると考えることができる。廃棄物は、単 に客体としての物質以上に、以前の所有者である誰かの存在を内包した物質として見ることも可能なの である。そして、このようなアニミスティックな見方は、弱い客体の議論でも参照した土佐が提唱して いる、人新世において必要な世界観に他ならない。廃棄物にはまさに、そのような複層的な可能性が詰 まっていると考えることができるだろう。 -36 近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法 2 改訂版』河出書房、2019 年 -37 奥野克巳『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』亜紀書房、2020 年、5-18 頁


第 2 章 廃棄物による制作

025

2.3.2 リノベーション

第1章で見たように、空き家などの空間に対しても、この廃棄という見方を当てはめることができる。 このように、 廃棄された空間に応答するように行う建築制作として、 最も一般的であるのはリノベーショ ンと言えるだろう。中古住宅を改修するリノベーションは、日本において一般的でなかったものの、近 年それを推進する政策や事業者によって一般的になりつつある -38。また、建築家にとっても重要な制作 のフィールドになっている。リノベーション作品が評価されることで、注目されるようになった若手建 築家も少なくない。 リノベーションとは既存建築に向き合いながら行われる制作である。リノベーションに対する評価指 標は様々であるが、その多くが、既存との関連性を重要視していると言えるだろう。例えば、新建築住 宅特集で組まれた特集記事では、リノベーション作品を「成長する自邸」 「自力建設の精神」 「破壊と構 築」 「継ぎ接ぎされた全体」 「エレメントの再解釈」 「マテリアルの移動」 「部屋の力」 「家のコモン化」 「型 の継承」の重複を認める 9 つの類型にクラスタリングしている。そして、 「部屋の力」と「家のコモン化」 を除き、7 つの類型はどれも既存に向き合うという意味を含むものである 。この既存に対峙するプロ セスこそ、先に見てきたインゴルドが言うコレスポンダンスであり、制作における創造的な部分でもあ る -39。

そして、このようなインゴルドの見方は、建築家自身にも新しい解釈を及ぼしている。建築家の乾久 美子は、インゴルドの概念が、リノベーションと相性が良いことを指摘する。乾は、リノベーションに おいて、 「抽象的なコンセプトを物質化するという、一般には『建築的』と思われているような思考は 立ちゆかなくなり、それよりも、手と物質とが応答しながらスリリングに進む」という状況があること を述べる -40。このように、実社会で活躍する建築家もまた、新築のプロジェクトとリノベーションのプ ロジェクトに違いを見出しており、それをインゴルドが言い当てていると指摘しているのだ。

リノベーション・既存のものを用いる・廃棄物を転用するといった、本論文が扱う一連の制作プロセ スと、新築・新品を用いる・構想でつくるといった、これまでの近代的制作の違いを再度整理する。こ こで改めて、近代以前も含めた3つ区分のもと、その特徴をまとめる(図 2-6) 。本論文の目指すのは、 素材に対して弱い主体としての制作者の立場であり、人工物との関係性による制作のあり方を探究する ことである。

-38 国土交通省「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」2013 年 -39 能作文徳「戦後住宅リノベーション史」、『新建築住宅特集』 、410 号、新建築社、2020 年、13-38 頁 -40 乾久美子「リノベーション—夢をひきつぐ行為として」 、 『新建築住宅特集』 、382 号、新建築社、2018 年、49 頁


第 2 章 廃棄物による制作

026

図 2-6 本論文における制作・制作者の整理

2.3.3 他者性(alterity)とナレッジ(knowledge)とともにある制作

これまで、廃棄物を転用する制作について見てきたが、その特徴はまさにインゴルドが提示した、意 識の流れと物質の流れで表されるダイアグラムさながらであることがわかる。しかし、制作とは時に他 者との協働の上に成り立ち、時に他者との協働によってより創造的になることがあるだろう。また、廃 棄物の特徴で見てきたように、そこには以前の所有者などの他者が現れる。これら他者の存在を踏まえ ると、インゴルドの制作モデルは、制作者である私(意識の流れ)と、制作をともに進める素材(物質 の流れ)によって単純化され過ぎていると言えよう。インゴルドは、握り斧や籠など一人で制作できる ものの事例を多く収集し、探究を行っているため、このような単純化は致し方ないことであろう。ただ、 建築制作という、一人では達成し得ないスケールの制作に対面するとき、やはり他者の存在にも目を向 けるべきではないだろうか。

図 2-7 他者性の流れ・ナレッジ


第 2 章 廃棄物による制作

027

このような仮説のもと、意識の流れの物質の流れによるダイアグラムの左隣に、もう一本の流れを書 き入れる。私はこれを他者性の流れ(flow of alterities)と呼びたい。そして、流れの一点をナレッジ (knowledge)と名付けることとする(図 2-7) 。私たちは、制作の過程において、自分の意識の流れが 及ばないどこかで何らかを学び、そして意識の流れに還元しているのではないだろうか、というもので ある。わかりやすい例で言えば、協働者とのコミュニケーションによって得られる学びもあれば、誰か を観察することで得られる学びがあるだろう。このようなものはナレッジとして私の前に現れる。私た ちの制作とは、一人で完結されるものではなく、また私と物質・オブジェクトだけによって完結される ものとも限らず、そこに他者性・ナレッジが入り込む場合があるだろう。

2.3.4 仮説の制作モデル

こうしたことを踏まえ、インゴルドのダイアグラムに追記する形で、他者性の流れの線を、意識の流 れの左となりに描くことにする。途中の1点はナレッジであり、イメージとのコレスポンダンスが起こ る。こうして3つの流れによって制作を記述する概念が提示された(図 2-8) 。これを仮説モデルと呼ぶ こととする。以降では、この仮説モデルによって制作を分析していく。インゴルドが意識の流れと物質 の流れのコレスポンダンスによって世界を見ることで、 「ものとともにつくる」 と宣言したことに倣えば、 意識の流れと他者性の流れのコレスポンダンスによって世界を見ることは、人類とともにつくるという ことである。このような考え方のもと、より広範な関係性を把握するための仮説モデルとともに、具体 的な制作の分析を行なっていく。

図 2-8 3つの流れ


第 3 章 2 つの制作の分析

3

028

2 つの制作の分析

028

3.1

分析の概要

029

3.1.1

廃棄物を用いたふたつの制作の概説

029

3.1.2

3つの流れ<他者性の流れ・意識の流れ・物質の流れ>による記述

030

3.1.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの発見

031

3.1.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

032

3.1.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

033

3.1.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

035

3.2

制作Ⅰ<都市空間の廃棄物による制作>

036

3.2.1

制作の前談

036

3.2.2

分析の概要

037

3.2.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

038

3.2.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

054

3.2.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

057

3.2.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

060

3.2.7

制作Ⅰの補足資料

063

3.3

制作Ⅱ<仮説住宅の廃棄物による制作>

066

3.3.1

制作の前談

066

3.3.2

分析の概要

067

3.3.3

廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

067

3.3.4

時間軸によるコレスポンダンスの分析

081

3.3.5

<山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

084

3.3.6

廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

087

3.3.7

制作Ⅱの補足資料

090

3.4

制作ⅠとⅡの包括的分析

092

3.4.1

制作Ⅰと制作Ⅱの関係性について

092

3.4.2

第3のコレスポンダンスの発見

093

3.4.3

コレスポンダンスのつらなり

096


第 3 章 2 つの制作の分析

029

3.1 分析の概要 自らが制作者として、廃棄物の転用を行なったプロジェクトの分析を行う。2018 年 12 月から 2019 年 1 月にかけて行った『都市空間の廃棄物による制作』と、2019 年 8 月に行なった『仮設住宅の廃棄 物による制作』の2つが分析対象となる。制作を関係論的に記述することで、制作にあらわれるネット ワークやパターンなどを分析し、つくることの探究を行う。

3.1.1 廃棄物を用いたふたつの制作の概説

(1) 都市空間の廃棄物による制作 『都市空間の廃棄物による制作』 (以下、 制作Ⅰと呼ぶ)は、 慶應義塾大学環境情報学部の卒業プロジェ クトとして、2018 年 12 月から 2019 年 1 月にかけて制作が行われたものである。路上生活者の家のつ くり方を観察・ヒアリングした上で、自らが多摩川河川敷に生活するための小建築をつくるものである。 建築の素材はすべて、自らが拠点とする河川敷に近い都市空間から調達したものであり、いわゆる廃棄 物である。制作Ⅰでは、資材調達や建設のたびにリサーチノートを記し、web 上に公開し、アーカイ ブした -1。その後、体裁を整え『路上の建築から学ぶ建築設計の可能性』として自費出版した -2 。本研 究の分析に用いているデータは、これらの情報に基づき、適宜加筆・修正している。

(2) 仮設住宅の廃棄物による制作 『仮設住宅の廃棄物による制作』 (以下、制作Ⅱと呼ぶ)は、慶應義塾大学小林博人研究会のプロジェ クトとして、2019 年 8 月に制作が行われたものである。宮城県利府町のまちづくり事業として物販の ための仮設の小建築をつくるものである。当時、東日本大震災後に建設された仮設住宅が取り壊されて いたので、これらの部材を用いながら、適宜新たな部材を設計した。また、制作には私の他に、永井、 ラス、梶尾の3名のメンバーが協働者として携わっている。制作Ⅱでは、私が協働者とともに制作を振 り返りながら、分析に用いるデータを作成した。

-1 拙著「路上生活のアーカイヴについて」https://note.com/taigamatsuoka/n/n778fcd1c0f49 を参照。 -2 拙 著『 路 上 の 建 築 か ら 学 ぶ 建 築 設 計 の 可 能 性 』 自 費 出 版、2019 年、https://issuu.com/taigamatsuoka/docs/ graduationproject_book を参照。


第 3 章 2 つの制作の分析

030

3.1.2 3つの流れ<他者性の流れ・意識の流れ・物質の流れ>による記述

2 章で提示した仮説モデルと同じように、左から、他者性の流れ(緑色) 、意識の流れ(赤色) 、物質 の流れ(青色)を 3 本の縦方向の直線で示す(図 3-1) 。これは上(過去)から下(未来)に流れる時間 軸でもある。これらを時間で区切るために、 等間隔に横線を引く。縦線と横線の交点上には、 [ナレッジ] ・ [イメージ] ・ [オブジェクト]のいずれかが現れることとなる(図 3-2) 。

図 3-1 3つの流れ

図 3-2 時間軸による整理


第 3 章 2 つの制作の分析

031

3.1.3 廃棄物ごとのコレスポンダンスの発見

各制作のデータを用いて、素材ごとに[ナレッジ] ・ [イメージ] ・ [オブジェクト]を時系列で記述す る。記述ののちに、前後の関係しあう項同士を矢印などで結ぶ。この矢印は、コレスポンダンスを表す こととなる。すなわち、矢印によって[ナレッジ] ・ [イメージ] ・ [オブジェクト]が連なることで、コ レスポンダンスの現れを俯瞰することができる(図 3-3) 。 また、この際に、コレスポンダンスを4種に分類する。インゴルドが指し示した、意識の流れ[イメー ジ]と物質の流れ[オブジェクト]のあいだで起こるコレスポンダンスを<意識―物質コレスポンダン ス>と呼ぶこととし、青色で示す。私が 2 章で仮説として提示した、意識の流れ[イメージ]と他者性 の流れ[ナレッジ]のあいだで起こるコレスポンダンスを<意識―他者性コレスポンダンス>と呼ぶこ ととし、緑色で示す(図 3-4) 。以降で詳しく見ていくこととなるが、上述した2つのコレスポンダンス に加えて、意識の流れ[イメージ]と物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]の3つ が相互に関係しあうコレスポンダンスの存在が、分析によって明らかになった。これを<他者性・意識・ 物質コレスポンダンス>と呼ぶこととし、赤色で示す。また、この<他者性・意識・物質コレスポンダ ンス>は、2種類に分けることができる。そこで、他者性の流れ[ナレッジ]が物質の流れ[オブジェ クト]として現れ、意識の流れ[イメージ]に還元されるものを<意識―物質―他者性コレスポンダン ス>と呼び、左側(他者性の流れ)が白色で右側(物質の流れ)が赤色のグラデーションで示す。もう 一方の、物質の流れ[オブジェクト]が他者性の流れ[ナレッジ]として現れ、意識の流れ[イメージ] に還元されるものを<意識―他者性―物質コレスポンダンス>と呼び、左側(他者性の流れ)が赤色で 右側(物質の流れ)が白色のグラデーションで示す(図 3-5) 。

図 3-3 矢印による繋がり


第 3 章 2 つの制作の分析

032

図 3-4 コレスポンダンス(仮説)

図 3-5 コレスポンダンス(結論)

3.1.4 時間軸によるコレスポンダンスの分析

廃棄物ごとに書き出した[ナレッジ] ・ [イメージ] ・ [オブジェクト]と、それらに対応するコレスポ ンダンスを、時間軸に合わせて記述する。さらに、制作全体と照らし合わせるために、すべての廃棄物 の変化を並置して、制作全体を総合的に整理する。 時間軸によって整理することによって、制作のどのようなフェーズで、どのようなコレスポンダンス が現れやすいのかを分析する。また、それらの時間による偏りや、廃棄物ごとの偏りなどもあるだろう。 このような偏りについて、制作においてどのような影響を及ぼしているのかを分析する。加えて、全体 の傾向とは関係なく現われるコレスポンダンスについても、どのような効果をもたらしているのかを分 析する。


第 3 章 2 つの制作の分析

033

3.1.5 <山>と<谷>によるコレスポンダンスの分析

[ナレッジ] ・ [イメージ] ・ [オブジェクト]の有無にあわせたベジェ曲線を描くことによって、素材 におけるコレスポンダンスの全体像を俯瞰する。この曲線において、出っ張る部分を<山>と呼ぶこと とし、引っ込む部分を<谷>と呼ぶこととする。この曲線は<意識―物質コレスポンダンス>が見られ るところには、物質の流れの側に大きな山を、コレスポンダンスは見られないが[オブジェクト]が見 られるところには、物質の流れの側に小さな山を描く。すなわち、物質の流れ[オブジェクト]に何ら かが現れた時には、物質の流れの側に山ができる。これを<物質の山>と称することとする。反対に、 <意識―他者性コレスポンダンス>が見られるところには、他者性の流れの側に大きな山を、コレスポ ンダンスは見られないが[ナレッジ]が見られるところには、他者性の流れの側に小さな山を描く。す なわち、他者性の流れ[ナレッジ]に何らかが現れた時には、他者性の流れの側に山ができる。これを <他者性の山>と称することとする(図 3-6) 。

図 3-6 <山>と<谷>による記述

<谷>が現れるのは、意識の流れ[イメージ]を基軸に、反対側の流れで<山>ができる時である。 <他者性の山>が現われる時に、物質の流れの側に<谷>ができ、<物質の山>が現われる時に、他者 性の流れの側に<谷>ができる。これらをそれぞれ<物質の谷>、<他者性の谷>と呼ぶこととする。 すなわち、<物質の山>の裏では<他者性の谷>が、<他者性の山>の裏では<物質の谷>が生じてい る。 このように曲線で表した廃棄物に関する変化の全体を、<山>と<谷>の連続からなるものと捉え、 <山脈>と称する。この<山脈>の長さは、廃棄物と出会ってから、最後の関わりが終わるまでを示す ものであり、廃棄物との関係性の長さを表していると言える。また、<山>と<谷>はコレスポンダン スに対応することから、廃棄物との関係性の深さを表していると言える。これら<山脈>、<山>、< 谷>を用いて、廃棄物との関係性を、その長さと深さから分析する(図 3-7 +図 3-8) 。 なお、制作において、廃棄物との関係性に動きがない期間もある。これは、<山>でも<谷>でもな く、平坦なものとして表すこととする。


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-7 <山>と<谷>による分析ⅰ

図 3-8 <山>と<谷>による分析ⅱ

034


第 3 章 2 つの制作の分析

035

3.1.6 廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

建築制作において、部材と部材は独立しないことが多い。例えば、柱と板を釘で接合することで壁が できるというように、複数の廃棄物が関係しあうことによってつくられることがある。そしてまた、あ る廃棄物とのコレスポンダンスによって得た[イメージ]が、他の廃棄物への制作に作用し[オブジェ クト]に反映されることもある。このような関係性を記述するために、 関係項同士を結ぶ。具体的には、 前者のよう廃棄物同士が繋がっている場合、すなわち[オブジェクト]同士が結びついている場合、両 端が丸の曲線(オレンジ色)で関係性を記述する。後者のような、意識が他の廃棄物に影響を与える場 合、すなわち[イメージ]が他の廃棄物の[イメージ]と結びつく場合、矢印(赤色)で関係性を記述 する(図 3-9) 。これによって、廃棄物と廃棄物の関係性が明らかになることが期待される。

図 3-9 廃棄物同士の関係性


第 3 章 2 つの制作の分析

036

3.2 制作Ⅰ<都市の廃棄物と制作>

3.2.1 制作の前談

制作で主に扱った廃棄物は、アルミサッシ、サイディング、ビニール傘、ブルーシート、ダンボール、 ベニア板、小さい木の板、細い角材、木製パレット、釘、石膏ボードの 11 種である。これらは全て、 都市空間の中で廃棄されていたものである。建設現場から廃棄されるもの、解体屋が廃棄するもの、一 般家庭が廃棄するもの、道端に廃棄されているものが、その基本的な構成である。 路上生活者がどのように家を建てているのかに興味を持ったところから始まったプロジェクトでは あったものの、リサーチを進めるにつれ、家を建てるときの素材や身体性へと興味の解像度が上がって いった。限られた素材・環境下にて発揮される創造性がある、と直感的に気づいたのもこの時であった。 私見ではあるが、それが何でも可能なタブラ・ラサからの制作とは別次元の創造性であるように思い始 めた起点であった。 分析のデータとして用いているリサーチノートは、そのような気づきを徐々に獲得していった軌跡を 示したものであり、まさに流れで示して分析することに価値があるように思う。以下では、先に述べた 11 種の廃棄物について、3つの流れで記述し、廃棄物それぞれの変化と、それらが統合された制作全 体として分析する

図 3-10 制作Ⅰの全体スケッチ


第 3 章 2 つの制作の分析

037

3.2.2 制作の概要

制作Ⅰの初回のリサーチノートは、2018 年5月 27 日に新宿の路上生活者をリサーチしたところから 始まっている。そこから計 29 回分のノートが蓄積している。一月以上あいて更新されている場合もあ れば、連日更新されている場合もあるが、ノート 1 回の更新を時間軸における 1 単位として分析する。 なお、各ノートが示すリサーチ日とタイトルは以下の通りである(図 3-11) 。

1 2 3

4 5 6 7 8 9

10 11 12 13

14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

24 25 26 27 28 29

日付

2018年5月27日 2018年9月4日 2018年10月7日 2018年10月15日 2018年11月4日 2018年11月10日 2018年11月11日 2018年12月1日 2018年12月2日 2018年12月5日 2018年12月13日 2018年12月14日 2018年12月21日 2018年12月26日 2018年12月27日 2018年12月28日 2018年12月30日 2019年1月2日 2019年1月6日 2019年1月10日 2019年1月12日 2019年1月13日 2019年1月14日 2019年1月16日 2019年1月17日 2019年1月18日 2019年1月19日 2019年1月20日 2019年1月24日 ∼2019年1月27日

リサーチ名

新宿駅西口 大阪あいりん地区 川崎∼武蔵小杉 多摩川∼二子玉川 加藤さん1(等々力) 釣り 加藤さん2 新宿駅 加藤さん3 狛江1 狛江2 狛江3 狛江4 狛江5 狛江6 狛江7 狛江8(1泊目) 狛江9(2泊目) 狛江10(3泊目) 狛江11 狛江12 加藤さん4 狛江13(4泊目) 狛江14 狛江15(5泊目) 狛江16 狛江17(6泊目) 狛江18 狛江19(7-9泊目)

図 3-11 制作Ⅰのリサーチの日付とタイトル


第 3 章 2 つの制作の分析

038

3.2.3 廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

(1)アルミサッシ アルミサッシの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-12) 。ア ルミサッシとの出会いは[オブジェクト:植え込みに投棄されていた、ボロボロのアルミサッシ(11) ] から始まる。その後[イメージ:土に刺したりして使えそうな長いもの(11) ]に繋がり、 [オブジェク ト:ブルーシートの屋根を支えるアルミサッシ(19) ]として制作される。そこから[イメージ:シー トなどを支えるための柱になるもの(19) ]へと還元されている。そこから期間をおいて[オブジェクト: 窓枠として使われたアルミサッシ(29) ]となり、最終的に[イメージ:ピクチャーウインドウの窓枠 のようなもの(29) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-13) 。<意識―物質コレスポンダンス>が 2 つ連続したのち、期間をおいて、1つの<意識―物質コ レスポンダンス>が起こる。また、<物質の山>は3つある。 柱から窓枠へと全く違う用途として飛躍して転用された廃棄物であり、 [イメージ]で 3 つの変化が 起こっていることが特徴的である。 [ナレッジ] での変化や<他者性の山>がないことからわかるように、 制作者と物質の関係性でのみ制作が進展したと言える。

(2)サイディング サイディングの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-14) 。加 藤さんから学んだ[ナレッジ:工事現場から材料を調達することができる(5) ]が現れるところから変 化が始まる。 [オブジェクト:建設現場で廃棄されたサイディングの端材 / 制作者の自宅の資材置き場 に移動(15) ]から、 [イメージ:重くて持ち運びにくく、 雨風は防げそうだが、 扱いにくそうなもの(15) ] と[イメージ:内壁を立てる(角材でつっかえをつくり、 サイディングを立てかける)/ 外壁を立てる(ブ ルーシートの上から再びサイディングを立てかける) (15) ]へと繋がる。そこから制作され[オブジェ クト:重ねられて、壁として使われたサイディング(17) ]になり、 [イメージ:簡単に重ねられて、風 を止めてくれる一方、それ自体がとても冷たくなってしまい、寒さの原因になるもの(17) ]に還元さ れている。再度[オブジェクト:制作者によって内側にダンボールが貼られ、 外壁として使われる(17) ] として制作される。そこから期間をおいて、木製パレットが敷かれたことによって[イメージ:床の板 になるもの(26) ]となり、 [オブジェクト:制作者によって床に敷かれ、リビングの床として使われる (26) ]と制作される。そして、最終的には[イメージ:表側と裏側で印象が違い、使い分けることで空 間的に豊かになるようなもの(26) ]となっている。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 4 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-15) 。<意識―他者性コレスポンダンス>が初めにあったのち、<意識―物質コレスポンダンス>が 2 つある。そして最後にもう一度<意識―物質コレスポンダンス>が起こる。また、<他者性の山>は1 つ、<物質の山>は4つある。


第 3 章 2 つの制作の分析

039

元々の用途である壁として主に使われるほか、余ったことなどもあって床の板にもなっている。サイ ディングの表面と裏面がそれぞれ意匠として扱えることに気づいたのは発見である。重く扱いにくそう なものと思ったこともあって、その用途はあまりフレキシブルにはならなかった。

(3)ビニール傘 ビニール傘の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-16) 。新宿 の路上生活者を観察したときに得られた[ナレッジ:傘を用いた壁のつくり方(1) ] 、その後の[オブ ジェクト:ダンボールの上から置かれた傘(1) ]を経て、 [イメージ:雨で濡れるのを防いだり、ダンボー ルとの間に空間を作ることで、空間を広げているようなもの(1) ]となっている。また、次に新宿を訪 れた時にも[ナレッジ:傘を用いたカバーのやり方(8) ] 、その後[オブジェクト:ダンボールをカバー するために使われた傘(8) ]を経て、 [イメージ:雨風の侵入を防ぐもの / ダンボールが濡れないよう にビニール系の材料でカバーするといい(8) ]となっている。そこから少し期間が空き、 [オブジェクト: フェンスにかけて捨てられていたビニール傘(10) ]から[イメージ:街中を移動すればすぐに見つか るもの(10) ]となり、それ以降は変化がない。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-17) 。<意識―物質―他者性コレスポンダンス>が2つあるのち、<意識―物質コレスポンダンス> が 1 つある。また、<他者性の山>は2つあり、<物質の山>は3つある。 新宿という大都市に出向く度に、ビニール傘の使われ方を学んだ。その一方で、実際に多摩川で生活 するには必要とされなかった。 [イメージ]で 3 つの変化が起こっているが、関係性が連なることなく 分裂している。最終的な建築物にも用いられなかったことから、関係が弱いまま制作を終えた廃棄物と 言える。

(4)ブルーシート ブルーシートの変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-18) 。ブルーシートは、新宿の リサーチにおいて、 [ナレッジ:上からの侵入を守る(1) ]からの[オブジェクト:天井にかけられら れたブルーシート(1) ]と、 [ナレッジ:ダンボールなど、家を濡らさない(8) ]からの[オブジェクト: ダンボールをカバーしているブルーシート(8) ]をもとに、 [イメージ:雨風の侵入を防ぐもの / ダンボー ルが濡れないようにビニール系の材料でカバーするといい(8) ]と変化している。また、 多摩川のリサー チでは[ナレッジ:多摩川の雨から守る(12) ]からの[オブジェクト:寝室にだけかぶせられたブルー シート(12) ]ののちに、 [イメージ:寝る際の雨を防ぐために使用するもの / 全体が雨から防ぐことが できなくても、寝室だけ濡れなければなんとかなる(12) ]と変化している。これらの気づきをもとに、 制作に取り組み[オブジェクト:木材に巻き付けられたブルーシート(16) ] 、 [イメージ:ブルーシー トは雨を防ぐために使いたいので、 穴を開けて、 傷つけてしまうわけにはいかないもの(16) ] [ 、オブジェ クト:屋根として使われているブルーシート(16) ] 、 [イメージ:水がたまると、荷重で壊れたり穴が 開いてしまいそうなもの(16) ] 、 [オブジェクト:テントのように使われているブルーシート(19) ]と


第 3 章 2 つの制作の分析

040

一連の変化が起こる。期間をおいて再びブルーシートに出会い、 [オブジェクト:建設現場で廃棄され たブルーシート(26) ]から[イメージ:何かをカバーしたり、 地面に敷いたりするもの(26) ]と変化し、 最終的には[オブジェクト:資源としてストックされる(26) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計6つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-19) 。<意識―物質―他者性コレスポンダンス>が3つ連続したのち、<意識―物質コレスポンダン ス>が 2 つ連続する。最後に、一回<意識―物質コレスポンダンス>が起こる。また、<他者性の山> は3つ、<物質の山>は6つ現れる。 これらから、長い期間に渡って関係性をもった廃棄物であることがわかる。 [イメージ]も5つの変 化が起こり、濃密な関係性を表している。実際に、屋根や壁に用いられており、着実に変化していった 素材と言える。

(5)ダンボール ダンボールの変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-20) 。ダンボールは、 はじめに[ナ レッジ:ダンボールを用いた家のつくり方(1) ]から[オブジェクト:コンパクトな家の材料として使 われているダンボール(1) ]となり、 [イメージ:簡単に持ち運べ、コンパクトに収納できるもの / 家 をコンパクトにするにはダンボールがいい(1) ]と変化している。続いて、 新宿をリサーチするなかで、 [ナレッジ:ダンボールを用いた家のつくり方(8) ] 、 [オブジェクト:4つに連結させられたダンボー ル(8) ]を経て、 [イメージ:同じサイズだと連結させられて筒のようなものがつくれるもの / ダンボー ルを連ねることで、人が入れる長細い空間をつくることができる(8) ]であったり、 [イメージ:どこ でも拾えるため、即興的に風を防いだり、視線を遮ったりすることができるもの / 冷たい床から身体の 体温を保持してくれるもの(8) ]といったものに還元される。また、 [オブジェクト:飲食店で大量に 廃棄されたダンボール(8) ]を発見し、 [イメージ:たくさんのごみとして、毎日のように店舗前に捨 てられていくもの / ダンボールは商業エリアにたくさん捨てられている(8) ]にも繋がっている。これ らの気づきを維持しながら、多摩川で[オブジェクト:八百屋に積み上げられていたダンボール(17) ] を、 [イメージ:床の断熱としてとても機能するもの(17) ]へと還元させた。そこから制作に向かい[オ ブジェクト:家のフローリングに敷き詰められるダンボール(17) ]と[オブジェクト:足を入れるた めに使われたダンボール(19) ]となり、 [イメージ:箱のようにすると体温によってこたつのような環 境になるもの(19) ]と変化する。その後、 [オブジェクト:壁と堤防の隙間に入れられたダンボール(20) ] とし、 [壁からの断熱になりつつ、いざというときに即興的に使えるもの(20) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計6つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-21) 。<意識―物質―他者性コレスポンダンス>が 2 つ連続したのち、<意識―物質コレスポンダン ス>が続く。実際に制作に入り、<意識―物質コレスポンダンス>が 3 つ続いて終わる。また、<他者 性の山>は2つ、<物質の山>は6つ存在する。 このことからも、長い期間に渡って関係性をもった廃棄物であることがわかる。実際に、 [イメージ] も 7 つの変化が起こり、濃密な関係性を表している。終始断熱の用途に用いられており、着実に変化し


第 3 章 2 つの制作の分析

041

ていった素材と言える。新宿の路上生活者から学んだコンパクトであることや、体温を保持してくれる といったことを、多摩川に合わせるように制作を行なっていったことがわかる。

(6)ベニア板 ベニア板の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-22) 。ベニア 板は[オブジェクト:解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、自分の身長よりちょっと長いベニア板 (20) ]から始まり、 [イメージ:汚いが面として使用でき、寝室全体の剛性を高めてくれるもの(20) ] を経て[オブジェクト:寝室の屋根と壁として使われる(20) ]と制作が行われた。その後、期間をお いて[オブジェクト:たくさんの釘が刺さった面材(29) ]にも出会い、 [イメージ:荷物をかける壁の ようなもの(29) ]から[オブジェクト:フック付きのリビングの壁(29) ]として制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 2 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-23) 。<意識―物質コレスポンダンス>が 1 つ起こり、少し経ったのちに、もう一度起こる。また、 <物質の山>は3つである。 ベニア板は解体屋から譲り受けた廃棄物であり、寝室にすぐさま役立っている。結果的に寝室を可能 にするという意味で、非常に重宝された素材であったが、この重要さ故に[イメージ]の更新が起こり にくかった。

(7)小さい木の板 小さい木の板の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-24) 。 [オ ブジェクト:解体屋の廃棄置き場に捨てられていた木材(13) ]から[イメージ:ちょっとしたところ を塞ぐのに使えそうなもの(13) ]となり、はじめはストックされていた。その後[オブジェクト:屋 根の垂木のようなものとして使う(21) ]として制作され、 [イメージ:ブルーシートの屋根をサポート するものとして使える(21) ]と還元された。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 2 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-25) 。<意識―物質コレスポンダンス>が 2 つ連続する。また、これに合わせるように<物質の山> が2つある。 小さい木の板は解体屋から譲り受けた廃棄物であり、冗長さを持った状態で保管されていた。結果と して時間をおいたのち使われており、脱意味化されたブリコラージュの好例であろう。

(8)細い角材 細い角材の変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-26) 。 [ナレッジ:工事現場から材料 を調達することができる(5) ]という加藤さんからの学びから変化がはじまる。その後、実際に[建設 現場で廃棄されていた木材の端材(10) ]として収集された。多摩川の路上生活者を観察するなかで[ナ レッジ:長い木材のつくり方(12) ] 、 [オブジェクト:家の柱として継ぎながら使われていた短い木材 (12) ] 、 [イメージ:繋いでいけば長い材料を作ることができるもの / 短い木材を継ぐことで長い柱など


第 3 章 2 つの制作の分析

042

をつくることができる(12) ]と学ぶ。資材集めにおいて[オブジェクト:建設現場で廃棄されていた 木材の端材(15) ]が発見され、そこから[イメージ:木材は軽くて持ち運びがしやすく、なにかと使 いやすそうなもの(15) ]を経て、 [オブジェクト:ブルーシートを巻きつけるために接合して使われた 木材(16) ]として制作され、 [イメージ:木材はそのまま使うと角が出てしまうので、加工が必要なも の / 一般的な技術では角が出ないように加工するのは難しい(16) ]となる。次に解体にて収集するな かで[オブジェクト:解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、端が斜めにカットされた木材(20) ]を 発見し、 [ナレッジ:木材を斜めに用いる(20) ] 、 [イメージ:斜めに使うことで、家を構造的に強くし てくれるもの(20) ]と変化する。最後に、 [オブジェクト:建設現場で廃棄されていた木材の端材(24) ] と[イメージ:たくさん繋ぎ合わせたら柱になるもの(24) ]から、制作に向き合い[オブジェクト: 継ぎ接ぎされ柱になった木材(27) ]となり、 [イメージ:短い木材でも作り方次第で長く伸ばすことが 可能であるということがわかる(27) ]が獲得された。 この記述に、 コレスポンダンスを重ねると合計 7 つのコレスポンダンスが複雑にあることがわかる (図 3-27) 。<意識―他者性コレスポンダンス>のあとに、<意識―物質―他者性コレスポンダンス>が起 こり、<意識―物質コレスポンダンス>が 2 つ連続する。またその後に、<意識―物質―他者性コレス ポンダンス>が起こり、<意識―物質コレスポンダンス>が 2 つ連続する。また、<他者性の山>は3 つ、<物質の山>は7つある。 細い角材は、多摩川に家を建てるにあたり、大量に使った廃棄物である。実際に[イメージ]も 6 つ の変化が起こっている。制作の序盤に学んだことが、終盤に活かされるなど、学びの蓄積の多さは特筆 すべき点である。それほどに使いやすく、大量に発生する廃棄物であると言えるだろう。実際に、4 回 も廃棄物として収集することもできた。

(9)木製パレット 木製パレットの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-28) 。建 設現場から収集された他の廃棄物と同様に、 [ナレッジ:工事現場から材料を調達することができる(5) ] からスタートしている。その後、多摩川の路上生活者を観察し、 [ナレッジ:路上生活者の家の壁のつ くり方(12) ] 、 [オブジェクト:家の壁として使われていた木製パレット(12) ] 、 [イメージ:家を強固 にする面材のようなもので、簡単に組み立てることができそうなもの / パレットで壁をつくれば強固に なる(12) ]と一連の変化を経験する。終盤になって[オブジェクト:建設現場で廃棄されていたパレッ ト(25) ]が発見され、 [イメージ:基礎になるもの(25) ]となり、 [オブジェクト:リビングの土台と して使われる(25) ]と制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-29) 。<意識―他者性コレスポンダンス>が起こり、その後に<意識―物質―他者性コレスポンダン ス>が起こる。最後に<意識―物質コレスポンダンス>が一つ起こる。また、<他者性の山>は1つ、 <物質の山>は3つである。 木製パレットは多摩川の路上生活者が用いているのを発見し、その後偶然にも、建設現場より譲り受


第 3 章 2 つの制作の分析

043

けた廃棄物である。制作の工程上、多摩川の路上生活者から学んだ壁としてではなく、土台として用い ている。収集と施工を同時並行で行ったことで起こった変化がある特徴的な廃棄物と言える。

(10)釘 釘の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-30) 。多摩川の路上 生活者からの[ナレッジ:工事現場から材料を調達することができる(5) ]や[ナレッジ:木材をつな ぎ合わせるために使われていた釘(12) ]がはじめに起こる。実際に素材として手に入れたのは[オブ ジェクト:解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、木材に刺さったままになっていた釘(13) ]であり、 これは[イメージ:工具なしでは抜けず、使いにくいもの(13) ]となる。その後、 [オブジェクト:工 事現場の地面にたくさん落ちている釘(20) ]を発見し、 [イメージ:現場にはたくさんあるもの(20) ] として気づきを得る。そして[オブジェクト:建設現場の大工さんから大量にもらった新品の釘(20) ] を獲得し、これまでの[ナレッジ]も含めて、 [イメージ:木材を接合するには最も適したもの(20) ] に還元される。最後に、 [オブジェクト:先端だけ木材に刺さった釘(28) ]を見つけ、 [イメージ:鍵 などをかけておくのに適したもの(28) ]と気付き、 [オブジェクト:建設現場の周辺に落ちていた釘 / 構造用ボードに曲がって刺さっていた釘(29) ]に対して、 [イメージ:そのままフックとして使えるも の(29) ]と還元される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 6 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-31) 。<意識―他者性コレスポンダンス>が 2 度起こり、細かく計 5 回の<意識―物質コレスポンダ ンス>が続く。また、<他者性の山>は1つに対し、<物質の山>は5つである。 釘は連なる関係性をあまり描かない、その都度色々な場所で手に入れることができた廃棄物である。 木材を接合するのに欠かせないものとして、多くの制作が行われている一方で、最後に新しい気づきを 物質から受け取った。

(11)石膏ボード 石膏ボードの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-32) 。これ もまた、建設現場で収集した他の廃棄物と同様に[ナレッジ:工事現場から材料を調達することができ る(5) ]からはじまっている。制作の終盤で[オブジェクト:廃材置き場に捨てられていたボードの端 材 / 表面がツルツルしたボードの端材(25) ]を発見し、以降[イメージ:表面が綺麗で、テーブルの 天板のようなもの(25) ] 、 [オブジェクト:テーブルの天板として使われた表面加工されている石膏ボー ド(26) ] 、 [イメージ:食べ物を食べたり、PC で作業したりなどがしやすい(26) ]と変化している。 最後には、 [オブジェクト:柱と柱の間に、等間隔に貼られた石膏ボードの端材(29) ]と制作し、 [イメー ジ:ルーバーのように目隠しになるもの(29) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 4 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-33) 。最初に<意識―他者性コレスポンダンス>が起こり、2回の<意識―物質コレスポンダンス> で続く。そして最後に 1 回<意識―物質コレスポンダンス>で起こる。また、<他者性の山>は1つ、


第 3 章 2 つの制作の分析

044

<意識の山>は 3 つ存在する。 石膏ボードは制作の終盤に建設現場から譲り受けた廃棄物であり、何かに付け足すように転用したも のである。テーブルやルーバーといったように、必ずしも必要としないが、生活を豊かにするものとし て使われている。

図 3-12 アルミサッシの変化ⅰ

図 3-13 アルミサッシの変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-14 サイディングの変化ⅰ

図 3-15 サイディングの変化ⅱ

045


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-16 ビニール傘の変化ⅰ

図 3-17 ビニール傘の変化ⅱ

046


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-18 ブルーシートの変化ⅰ

図 3-19 ビニール傘の変化ⅱ

047


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-20 ダンボールの変化ⅰ

図 3-21 ダンボールの変化ⅱ

048


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-22 ベニア板の変化ⅰ

図 3-23 ベニア板の変化ⅱ

図 3-24 小さい木の板の変化ⅰ

図 3-25 小さい木の板の変化ⅱ

049


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-26 細い角材の変化ⅰ

図 3-27 細い角材の変化ⅱ

050


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-28 木製パレットの変化ⅰ

図 3-29 木製パレットの変化ⅱ

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第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-30 釘の変化ⅰ

図 3-31 釘の変化ⅱ

052


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-32 石膏ボードの変化ⅰ

図 3-33 石膏ボードの変化ⅱ

053


第 3 章 2 つの制作の分析

054

3.2.4 時間軸によるコレスポンダンスの分析

各廃棄物でのコレスポンダンスの集合として制作をみるために、それぞれのダイアグラムを時間軸に 揃え、11 種の廃棄物からなる総体として制作を図式化する(図 3-34) 。制作を通じて 43 個のコレスポ ンダンスを発見することができた(図 3-35) 。全体図では、第 5 回に加藤さんから学んだ[工事現場か ら材料を調達することができる]は、 建設現場で回収した各廃棄物で見られるコレスポンダンスであり、 記述が重複してしまう。この重複を避けるために、この第5回に関しては一つにまとめて表記した。 アルミ

ビニール傘

サッシ

ブルー

ダンボール ベニア板

シート

⼩さい

サイ

⽊の板

ディング

⽊製

細い⾓材

パレット

⽯膏ボード ⼩計

<意識ー物質コレスポンダンス>

3

1

3

4

2

2

3

4

1

5

3

31

<意識ー他者性コレスポンダンス>

0

0

0

0

0

0

1

1

1

2

1

2(*重複除く)

<意識ー物質ー他者性コレスポンダンス>

0

2

3

2

0

0

0

1

1

0

0

9

<意識ー他者性ー物質コレスポンダンス>

0

0

0

0

0

0

0

1

0

0

0

1

合計

3

3

6

6

2

2

4

7

3

7

4

43

図 3-35 制作Ⅰのコレスポンダンスの総数

(1) 意識―物質コレスポンダンス 青色で示された<意識―物質コレスポンダンス>は、制作Ⅰを通じて最も多いコレスポンダンスであ り、31 個発見することができる。全体に占める割合としては約 72%(31/43)である。第 8 回の[オブ ジェクト:飲食店で大量に廃棄されたダンボール]→[イメージ:たくさんのごみとして、毎日のよう に店舗前に捨てられているもの / ダンボールは商業エリアにたくさん捨てられている]というコレスポ ンダンスが、はじめての<意識―物質コレスポンダンス>であった。これは、はじめて都市空間の廃棄 物を、自分にとっての資源になりうるものとして見た時期と重なる。以降も、廃棄物に実際に触ってみ たり、何かをつくってみたりするなかで<意識―物質コレスポンダンス>は得られており、終盤に関し てはこのコレスポンダンスだけが発見される。これは、終盤では、制作者である私と素材である廃棄物 の閉じられた関係性で、制作が進行していったことを示している。

(2)意識―他者性コレスポンダンス 緑色で示された<意識―他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅰを通じて 2 個発見することができる。 全体に占める割合としては約 5%(2/43)である。そしてこれらは第 5 回と第 12 回の、ともに多摩川 の路上生活者に家のつくり方を教わった際のコレスポンダンスである。最少のコレスポンダンスではあ るものの、第5回の<意識―他者性コレスポンダンス>は、サイディング・細い角材・木製パレット・ 釘・石膏ボードと、5つの廃棄物の流れに影響を与えている。確かに、これらの廃棄物と出会うために は、 [ナレッジ:工事現場から材料を調達することができる]は欠くことのできないものであったため、 前半にこのようなコレスポンダンスがあることは、制作を方向付ける大事な要因であると考えられる。


第 3 章 2 つの制作の分析

055

(3)意識・物質・他者性コレスポンダンス 赤色で示された<意識―物質―他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅰを通じて 9 個発見することがで きた。全体に占める割合は約 21%(9/43)である。制作Ⅰの前半に多く見られるが、第 20 回など、途 中でもあらわれることがあるコレスポンダンスである。以降では、<意識―物質―他者性コレスポンダ ンス>と<意識―他者性―物質コレスポンダンス>に分けて分析していく。

(3-1)意識―物質―他者性コレスポンダンス 左側が白色で、右側が赤色で示された<意識―物質―他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅰを通じて 8 個発見することができる。これは<意識 / 物質 / 他者性コレスポンダンス>の中でも大半を占めるも のである。第1回から第 12 回にかけて集中してみられるものであり、 [ナレッジ:ダンボールを用いた 家のつくり方]→[オブジェクト:コンパクトな家の材料として使われているダンボール]→[イメー ジ:簡単に持ち運べ、コンパクトに収納できるもの]というように、ある他者の観察を通じて、廃棄物 がどのように使われるかがイメージに還元されるコレスポンダンスである。制作Ⅰがまずは路上生活者 の生活を観察するところから始まっていることに対応していることが示される。

(3-2)意識―他者性―物質コレスポンダンス 左側が赤色で、右側が白色で示された<意識―他者性―物質コレスポンダンス>は、制作Ⅱを通じて 1個だけ発見することができる。これは第 20 回にあらわれたものであり、 [オブジェクト:解体屋の廃 棄置き場に捨てられていた、端が斜めにカットされていた木材]→[ナレッジ:木材を斜めに用いる] →[イメージ:斜めに使うことで、家を構造的に強くしてくれるもの]というように、廃棄物にかたち によって、他者がどのように使ったかがイメージに還元されるコレスポンダンスである。これは制作Ⅰ において、偶発的な出来事であるものの、実際に家の構造として機能し、制作において重要な起点となっ ている。

(結論) 制作の時系列で見ると、序盤から中盤にかけて<意識―他者性コレスポンダンス>と<意識―物質― 他者性コレスポンダンス>が集中的に発生している。中盤から<意識―物質コレスポンダンス>が多く なり、終盤はほとんど全てのコレスポンダンスがこれである。 また、全体の傾向とは関係なく、中盤に一度だけ<意識―他者性―物質コレスポンダンス>があらわ れた。


056

第 3 章 2 つの制作の分析 アルミサッシの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ビニール傘の変化 意識の流れ

物質の流れ

ブルーシートの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

ベニア板の変化 意識の流れ

物質の流れ

小さい木の板の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

サイディングの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

細い角材の変化 意識の流れ

物質の流れ

木製パレットの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

釘の変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

石膏ボードの変化 意識の流れ

物質の流れ

第1回

ダンボールを用いた

上からの侵入を守る(1)

傘を用いた壁のつくり方(1)

他者性の流れ

家のつくり方(1)

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの上から置かれた傘(1)

新宿の路上生活者 からの学び

天井にかけられたブルーシート(1)

コンパクトな家の材料として

使われているダンボール(1)

簡単に持ち運べ、

雨で濡れるのを防いだり、

調達することができる(5)

家をコンパクトにするにはダンボールがいい(1)

空間を広げているようなもの(1)

第5回

工事現場から材料を

コンパクトに収納できるもの /

ダンボールとの間に空間を作ることで、

加藤さんからの学び

新宿の路上生活者 からの学び

家のつくり方(8)

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールをカバーするために 使われた傘(8)

ダンボールをカバーしている ブルーシート(8)

新宿の路上生活者 からの学び

4つに連結させられたダンボール(8)

同じサイズだと連結させられて

雨風の侵入を防ぐもの /

雨風の侵入を防ぐもの /

筒のようなものがつくれるもの

ダンボールが濡れないように

ダンボールが濡れないように

ダンボールを連ねることで、

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

第8回

ダンボールを用いた

ダンボールなど、家を濡らさない(8)

傘を用いたカバーのやり方(8)

人が入れる長細い空間をつくることができる(8)

制作へ

どこでも拾えるため、即興的に風を防いだり、 視線を遮ったりすることができるもの /

冷たい床から身体の体温を保持してくれるもの(8)

飲食店で大量に廃棄されたダンボール(8)

廃棄物からの コレスポンダンス たくさんのごみとして、

フェンスにかけて捨てられていた

第10 回

建設現場で廃棄されていた

毎日のように店舗前に捨てられていくもの

ビニール傘(10)

木材の端材(10)

ダンボールは商業エリアにたくさん捨てられている(8)

制作からの コレスポンダンス 植え込みに投棄されていた、

ボロボロのアルミサッシ(11)

街中を移動すればすぐに見つかるもの(10)

制作へ

廃棄物からの コレスポンダンス 土に刺したりして使えそうな長いもの(11)

路上生活者の

長い木材のつくり方(12)

多摩川の雨から守る(12)

第12 回

木材をつなぎ合わせるために使われていた釘(12)

家の壁のつくり方(12)

多摩川の路上生活者 からの学び

制作へ

多摩川の路上生活者 からの学び

寝室にだけかぶせられた

多摩川の路上生活者 からの学び

解体屋の廃棄置き場に

ブルーシート(12)

捨てられていた木材(13)

廃棄物からの コレスポンダンス

寝る際の雨を防ぐために使用するもの /

第13 回

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

家の壁として使われていた

木材に刺さったままになっていた釘(13)

木製パレット(12)

廃棄物からの コレスポンダンス 工具なしでは抜けず、使いにくいもの(13)

簡単に組み立てることができそうなもの /

短い木材を継ぐことで長い柱などを

使えそうなもの(13)

多摩川の路上生活者 からの学び

家を強固にする面材のようなもので、

繋いでいけば長い材料を作ることができるもの /

ちょっとしたところを塞ぐのに

全体が雨から防ぐことができなくても、

寝室だけ濡れなければなんとかなる(12)

家の柱として継ぎながら

使われていた短い木材(12)

パレットで壁をつくれば強固になる(12)

つくることができる(12)

制作へ 制作へ 建設現場で廃棄されたサイディングの端材

木材に巻き付けられたブルーシート(16)

木材の端材(15)

廃棄物からの コレスポンダンス 落ちていたり、一般ごみとして

木材は軽くて持ち運びがしやすく、

重くて持ち運びにくく、雨風は防げそうだが、

ブルーシートは雨を防ぐために使いたいので、

捨てられていることはあまりない(17)

なにかと使いやすそうなもの(15)

扱いにくそうなもの(15)

穴を開けて、傷つけてしまうわけにはいかないもの(16)

第15 回

建設現場で廃棄されていた

制作者の自宅の資材置き場に移動(15)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作からの コレスポンダンス

制作へ

制作へ

第16 回

内壁を立てる

屋根として使われている

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

簡単に重ねられて、風を止めてくれる一方、

制作へ

第19 回

制作者によって内側にダンボールが貼られ、

足を入れるために使われたダンボール(19)

ブルーシート(19)

加工するのは難しい(16)

それ自体がとても冷たくなってしまい、寒さの原因になるもの(17)

ダンボール(17)

制作からの コレスポンダンス

一般的な技術では角が出ないように

制作からの コレスポンダンス

家のフローリングに敷き詰められる

テントのように使われている

しまうので、加工が必要なもの

サイディング(17)

制作へ

第17 回

木材はそのまま使うと角が出て

重ねられて、壁として使われた

制作へ

ブルーシートの屋根を支えるアルミサッシ(19)

接合して使われた木材(16)

制作からの コレスポンダンス

制作へ

床の断熱としてとても機能するもの(17)

荷重で壊れたり穴が開いてしまいそうなもの(16)

ブルーシートを巻きつけるために

外壁を立てる

(ブルーシートの上から再びサイディングを立てかける) (15)

制作からの コレスポンダンス 水がたまると、

(角材でつっかえをつくり、サイディングを立てかける)

八百屋に積み上げられていたダンボール(17)

ブルーシート(16)

外壁として使われる(17)

廃棄物からの コレスポンダンス 解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

箱のようにすると体温によって

シートなどを支えるための柱になるもの(19)

端が斜めにカットされた木材(20)

こたつのような環境になるもの(19)

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

壁と堤防の隙間に入れられたダンボール(20)

制作からの コレスポンダンス 壁からの断熱になりつつ、

いざというときに即興的に使えるもの(20)

木材を斜めに用いる(20)

自分の身長よりちょっと長いベニア板(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

第 20 回

工事現場の地面にたくさん落ちている釘(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

汚いが面として使用でき、

斜めに使うことで、

屋根の垂木のようなものとして使う(21)

寝室全体の剛性を高めてくれるもの(20)

第 21 回

現場にはたくさんあるもの(20)

家を構造的に強くしてくれるもの(20)

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス 寝室の屋根と壁として使われる(20)

ブルーシートの屋根をサポート

建設現場の大工さんから

するものとして使える(21)

大量にもらった新品の釘(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

建設現場で廃棄されていた

第 24 回

木材を接合するには最も適したもの(20)

木材の端材(24)

廃棄物からの コレスポンダンス 廃材置き場に捨てられていたボードの端材

建設現場で廃棄されていたパレット(25)

たくさん繋ぎ合わせたら柱になるもの(24)

表面がツルツルしたボードの端材(25)

第 25 回

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 表面が綺麗で、

基礎になるもの(25)

テーブルの天板のようなもの(25) 制作へ

建設現場で廃棄された

制作へ

テーブルの天板として使われた

リビングの土台として使われる(25)

床の板になるもの(26)

ブルーシート(26)

表面加工されている石膏ボード(26)

第 26 回

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス 制作者によって床に敷かれ、

何かをカバーしたり、地面に敷いたりするもの(26)

制作へ

制作からの コレスポンダンス 表側と裏側で印象が違い、

資源としてストックされる(26)

使い分けることで空間的に豊かになるようなもの(26)

食べ物を食べたり、

継ぎ接ぎされ柱になった木材(27)

リビングの床として使われる(26)

制作からの コレスポンダンス

PC で作業したりなどがしやすい(26)

制作からの コレスポンダンス 短い木材でも作り方次第で長く伸ばすことが

第 28 回

先端だけ木材に刺さった釘(28)

可能であるということがわかる(27)

第 27 回

廃棄物からの コレスポンダンス 鍵などをかけておくのに適したもの(28)

窓枠として使われたアルミサッシ(29)

制作からの コレスポンダンス ピクチャーウインドウの窓枠のようなもの(29)

建設現場の周辺に落ちていた釘

たくさんの釘が刺さった面材(29)

構造用ボードに曲がって刺さっていた釘(29)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

荷物をかける壁のようなもの(29)

そのままフックとして使えるもの(29) 制作へ

フック付きのリビングの壁(29)

図 3-34 制作Ⅰの全体 A

柱と柱の間に、

等間隔に貼られた石膏ボードの端材(29)

制作からの コレスポンダンス ルーバーのように目隠しになるもの(29)

第 29 回


第 3 章 2 つの制作の分析

057

3.2.5 <山と谷>によるコレスポンダンスの分析

コレスポンダンスが起こる時間や、その連続性などを分析するために、<山と谷>よって制作全体を 図式化する(図 3-36) 。黒線で囲われた領域は、それに対応する廃棄物と、どのコレスポンダンスが、 いつ起こったのかを示すものである。

(1)<山脈>が長く続くこと 11 種の廃棄物を並置してみると、種類ごとに築いた関係性の<山脈>に長短があることがわかる。 それぞれの<山脈>の長短をまとめると、全 26 回にわたって関係性を築いた素材から、全 5 回の短い 関係性に終わった素材もある(図 3-37) 。ただ、この長さは、コレスポンダンスの数の多さに対応する わけではなく、はじめて出会った時から、最後に扱った時までの長さに対応するものである。すなわち、 関係性の長さを示している。最も関係性の長いブルーシートでは、 [オブジェクト:テントのように使 われて…(16) ]を最後に、コレスポンダンスは終わったかに思えたが、第 26 回[オブジェクト:建設 現場で廃棄されたブルーシート(26) ]に出会ったことによって、 [イメージ:何かをカバーしたり、地 面に敷いたりするもの(26) ]という新しい意識の流れになっている。一方で、最も関係性の短い石膏 ボードでは、 [オブジェクト:テーブルの天板…(26) ]と[オブジェクト:柱と柱の間に、等間隔で貼 られた…(29) ]というように、制作の終盤にコレスポンダンスが集中している。制作の終盤では、よ り便利で過ごしやすい家を目指していたため、構造や機能とは無関係なものとして石膏ボードは使われ た。このように関係性が短いことによって、その制作全体のタイムラインに従って、コレスポンダンス が生まれることがわかる。

アルミ

ビニール傘

サッシ

ブルー

ダンボール ベニア板

シート

⼩さい

サイ

⽊の板

ディング

⽊製

細い⾓材

パレット

⽯膏ボード

<⼭脈>のはじまり

11

1

1

1

20

13

5

5

12

12

25

<⼭脈>のおわり

29

10

26

20

29

21

26

27

25

29

29

<⼭脈>の⻑さ

19

10

26

20

10

9

22

23

14

18

5

図 3-37 制作Ⅰの < 山脈>の長さ

(2)<山と谷>が連続すること 11 種の廃棄物を並置してみると、種類ごとに関係性の<山と谷>のあらわれ方に違いがあることが わかる。<山と谷>が集まってあらわれているところは、コレスポンダンスが連続して起こっているこ とを示している。その逆に、なだらかな箇所は、コレスポンダンスが起こっていないことを示しており、 廃棄物との関係性は動いていないと言える。 それぞれの<山と谷>の数をまとめると、全 11 個あるブルーシートから、全 2 個に止まった小さい 木の板まで、それぞれ違いがあることがわかる(図 3-38) 。先にみたように、制作Ⅰでは、<意識―物


第 3 章 2 つの制作の分析

058

質コレスポンダンス>がコレスポンダンス全体の約 72%を占めることから、<物質の山>が必然的に 多くなっている。廃棄物ごとに<山>をみたときも、<他者性の山>に比べ<物質の山>が多い。 <山>の合計数が5個であるサイディングと木製パレットを比較して検討する。サイディングは<他 者性の山>が1個であり<物質の山>が4個である。木製パレットは<他者性の山>が2個であり<物 質の山>が3個である。すなわち、木製パレットのほうが<山と谷>のバランスが良いとみることがで きる。確かに、木製パレットは、一般的な用途としての[資材を運ぶためのもの]というイメージから、 [イメージ:家を強固にする面材…(12) ]となり、 [イメージ:基礎になるもの(25) ]と変化をしてい る。つまり、コレスポンダンスによって二段階に、意味の異なる転用を見出している。一方、サイディ ングは、一般的な用途としての[家の外壁に使われるもの]というイメージを引き継いで、 [イメージ: 内壁…/ 外壁…(15) ]となり、その後に[イメージ:床の板になるもの(26) ]と変化をしている。つ まり、コレスポンダンスによって一段階に、意味が変化して転用されている。まとめると、同じく5個 の<山>を持つ廃棄物でも、<他者性の山>と<意識の山>のバランスによって、その関係性の深さが 異なることがある。そして、ここで<他者性の山>は<意識の谷>として表され、<意識の山>もまた <他者性の谷>として表される。つまり<山と谷>によって、関係性の深さを見出すことができる。 アルミ

ビニール傘

サッシ

ブルー

ダンボール ベニア板

シート

3

2

0

⼩さい

サイ

⽊の板

ディング

0

⽊製

細い⾓材

1

パレット

3

2

⽯膏ボード ⼩計

2

1 12(*重複除く)

<他者性の⼭>

0

2

<物資の⼭>

3

3

8

6

4

2

4

7

3

5

3

48

合計

3

5

11

8

4

2

5

10

5

7

4

60

図 3-38 制作Ⅰの < 山>の総数

(結論) <山脈>が長いことは必ずしも、コレスポンダンスの多さを表すわけではないため、変化が多様で あったとは言い切れない。しかし、<山脈>が短いことは、制作のタイムラインを反映するようにして 廃棄物が転用されやすいということである。つまり、<山脈>が長いということは、制作のタイムライ ンに長く関わることであり、その状況に応じたコレスポンダンスを生み出される可能性に晒されている ということである。この意味において、<山脈>が長いことは、コレスポンダンスの裾野を広げている と言えるだろう。


059

第 3 章 2 つの制作の分析 アルミサッシの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ビニール傘の変化 意識の流れ

物質の流れ

1

ブルーシートの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

ベニア板の変化 意識の流れ

物質の流れ

小さい木の板の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

サイディングの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

細い角材の変化 意識の流れ

物質の流れ

木製パレットの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

釘の変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

石膏ボードの変化 意識の流れ

物質の流れ

第1回

ダンボールを用いた

家のつくり方(1)

1

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの変化

1

1

上からの侵入を守る(1)

傘を用いた壁のつくり方(1)

他者性の流れ

1

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの上から置かれた傘(1)

1

新宿の路上生活者 からの学び

天井にかけられたブルーシート(1)

コンパクトな家の材料として

使われているダンボール(1)

1

簡単に持ち運べ、

雨で濡れるのを防いだり、

調達することができる(5)

家をコンパクトにするにはダンボールがいい(1)

空間を広げているようなもの(1)

第5回

工事現場から材料を

コンパクトに収納できるもの /

ダンボールとの間に空間を作ることで、

加藤さんからの学び

2

2

2 2

新宿の路上生活者 からの学び

家のつくり方(8)

2

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールをカバーするために 使われた傘(8)

ダンボールをカバーしている ブルーシート(8)

2

新宿の路上生活者 からの学び

4つに連結させられたダンボール(8)

同じサイズだと連結させられて

雨風の侵入を防ぐもの /

雨風の侵入を防ぐもの /

筒のようなものがつくれるもの

ダンボールが濡れないように

ダンボールが濡れないように

ダンボールを連ねることで、

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

第8回

ダンボールを用いた

ダンボールなど、家を濡らさない(8)

傘を用いたカバーのやり方(8)

人が入れる長細い空間をつくることができる(8)

制作へ

どこでも拾えるため、即興的に風を防いだり、 視線を遮ったりすることができるもの /

冷たい床から身体の体温を保持してくれるもの(8)

3 飲食店で大量に廃棄されたダンボール(8)

廃棄物からの コレスポンダンス

3

1

植え込みに投棄されていた、

廃棄物からの コレスポンダンス

木材の端材(10)

ダンボールは商業エリアにたくさん捨てられている(8)

制作からの コレスポンダンス 街中を移動すればすぐに見つかるもの(10)

制作へ

3

多摩川の路上生活者 からの学び

1

寝室にだけかぶせられた

捨てられていた木材(13)

廃棄物からの コレスポンダンス

寝る際の雨を防ぐために使用するもの /

制作へ

4

建設現場で廃棄されたサイディングの端材

5

4 廃棄物からの コレスポンダンス

接合して使われた木材(16)

一般的な技術では角が出ないように 加工するのは難しい(16)

簡単に重ねられて、風を止めてくれる一方、

家のフローリングに敷き詰められる

それ自体がとても冷たくなってしまい、寒さの原因になるもの(17)

ダンボール(17)

制作へ

5

6

3

第19 回

制作者によって内側にダンボールが貼られ、

足を入れるために使われたダンボール(19)

制作からの コレスポンダンス

しまうので、加工が必要なもの

サイディング(17)

制作からの コレスポンダンス

制作へ

ブルーシート(19)

外壁として使われる(17)

5

廃棄物からの コレスポンダンス

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

箱のようにすると体温によって

シートなどを支えるための柱になるもの(19)

端が斜めにカットされた木材(20)

こたつのような環境になるもの(19)

1

6 制作からの コレスポンダンス 壁からの断熱になりつつ、

3

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

壁と堤防の隙間に入れられたダンボール(20)

いざというときに即興的に使えるもの(20)

第17 回

木材はそのまま使うと角が出て

重ねられて、壁として使われた

制作へ

テントのように使われている

制作からの コレスポンダンス

2

制作へ

床の断熱としてとても機能するもの(17)

制作へ

第16 回

ブルーシートを巻きつけるために

外壁を立てる

(ブルーシートの上から再びサイディングを立てかける) (15)

制作からの コレスポンダンス

4

内壁を立てる

(角材でつっかえをつくり、サイディングを立てかける)

八百屋に積み上げられていたダンボール(17)

ブルーシート(16)

水がたまると、

捨てられていることはあまりない(17) 制作へ

屋根として使われている

荷重で壊れたり穴が開いてしまいそうなもの(16)

落ちていたり、一般ごみとして

木材は軽くて持ち運びがしやすく、

なにかと使いやすそうなもの(15)

扱いにくそうなもの(15)

制作へ

2

廃棄物からの コレスポンダンス

重くて持ち運びにくく、雨風は防げそうだが、

ブルーシートは雨を防ぐために使いたいので、

第15 回

木材の端材(15)

廃棄物からの コレスポンダンス

穴を開けて、傷つけてしまうわけにはいかないもの(16)

廃棄物からの コレスポンダンス 工具なしでは抜けず、使いにくいもの(13)

建設現場で廃棄されていた

制作者の自宅の資材置き場に移動(15)

制作からの コレスポンダンス

第13 回

3

1

制作へ

1 解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

木材に刺さったままになっていた釘(13)

木製パレット(12)

パレットで壁をつくれば強固になる(12)

つくることができる(12)

木材に巻き付けられたブルーシート(16)

多摩川の路上生活者 からの学び

家の壁として使われていた

簡単に組み立てることができそうなもの /

短い木材を継ぐことで長い柱などを

使えそうなもの(13)

1

多摩川の路上生活者 からの学び

家を強固にする面材のようなもので、

繋いでいけば長い材料を作ることができるもの /

ちょっとしたところを塞ぐのに

全体が雨から防ぐことができなくても、

寝室だけ濡れなければなんとかなる(12)

2

家の柱として継ぎながら

使われていた短い木材(12)

第12 回

木材をつなぎ合わせるために使われていた釘(12)

家の壁のつくり方(12)

多摩川の路上生活者 からの学び

解体屋の廃棄置き場に

ブルーシート(12)

2

路上生活者の

長い木材のつくり方(12)

多摩川の雨から守る(12) 制作へ

ブルーシートの屋根を支えるアルミサッシ(19)

2

2

3

土に刺したりして使えそうな長いもの(11)

第10 回

建設現場で廃棄されていた

毎日のように店舗前に捨てられていくもの

ビニール傘(10)

ボロボロのアルミサッシ(11)

1

たくさんのごみとして、

フェンスにかけて捨てられていた

木材を斜めに用いる(20)

自分の身長よりちょっと長いベニア板(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

斜めに使うことで、

屋根の垂木のようなものとして使う(21)

2

第 21 回

現場にはたくさんあるもの(20)

家を構造的に強くしてくれるもの(20)

制作へ

寝室の屋根と壁として使われる(20)

第 20 回

工事現場の地面にたくさん落ちている釘(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

2

汚いが面として使用でき、

寝室全体の剛性を高めてくれるもの(20)

2

廃棄物からの コレスポンダンス

3

廃棄物からの コレスポンダンス ブルーシートの屋根をサポート

建設現場の大工さんから

するものとして使える(21)

大量にもらった新品の釘(20)

6

廃棄物からの コレスポンダンス

建設現場で廃棄されていた

第 24 回

木材を接合するには最も適したもの(20)

木材の端材(24)

廃棄物からの コレスポンダンス

1

2

廃材置き場に捨てられていたボードの端材

建設現場で廃棄されていたパレット(25)

たくさん繋ぎ合わせたら柱になるもの(24)

表面がツルツルしたボードの端材(25)

第 25 回

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 表面が綺麗で、

基礎になるもの(25)

テーブルの天板のようなもの(25) 制作へ

7 建設現場で廃棄された ブルーシート(26)

制作へ

3

2

テーブルの天板として使われた

リビングの土台として使われる(25)

床の板になるもの(26)

表面加工されている石膏ボード(26)

第 26 回

制作へ

4

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

7

制作者によって床に敷かれ、

何かをカバーしたり、地面に敷いたりするもの(26)

制作からの コレスポンダンス

8

表側と裏側で印象が違い、

資源としてストックされる(26)

使い分けることで空間的に豊かになるようなもの(26)

食べ物を食べたり、

継ぎ接ぎされ柱になった木材(27)

リビングの床として使われる(26)

制作からの コレスポンダンス

第 27 回

PC で作業したりなどがしやすい(26)

制作からの コレスポンダンス

4

短い木材でも作り方次第で長く伸ばすことが

第 28 回

先端だけ木材に刺さった釘(28)

可能であるということがわかる(27)

廃棄物からの コレスポンダンス 鍵などをかけておくのに適したもの(28)

3

3

窓枠として使われたアルミサッシ(29)

たくさんの釘が刺さった面材(29)

制作からの コレスポンダンス ピクチャーウインドウの窓枠のようなもの(29)

5

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

荷物をかける壁のようなもの(29)

そのままフックとして使えるもの(29) 制作へ

3

建設現場の周辺に落ちていた釘

構造用ボードに曲がって刺さっていた釘(29)

4

フック付きのリビングの壁(29)

図 3-36 制作Ⅰの全体 B

柱と柱の間に、

等間隔に貼られた石膏ボードの端材(29)

制作からの コレスポンダンス ルーバーのように目隠しになるもの(29)

第 29 回


第 3 章 2 つの制作の分析

060

3.2.6 廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

部材同士が接合されることは、建築制作における特徴の一つであるだろう。例えば、柱のようなも のと壁のようなものが、それぞれが結合されることで家の一部となっている。このように部材同士が相 互に連関している建築制作では、部材内での変化だけで捉えきれない関係性があるように思われる。こ のように、制作というプロセスの中で廃棄物同士が結びつくことによってうまれる関係性に焦点を当て る(図 3-39) 。両端が丸の線で結ばれたものは、廃棄物同士の結びつきを示し(オレンジ色) 、片向きの 矢印で結ばれたものはある廃棄物の変化が他の廃棄物の変化に影響を与えたことを示している(ピンク 色) 。

(1)廃棄物同士の[オブジェクト]の結びつき 廃棄物同士の結びつきの総数は、 制作全体で 13 個あることがわかる (図 3-40) 。全ての廃棄物に関して、 最低1個以上の結びつきがあることがわかる。つまり、廃棄物が何らかに転用されるとき、必ず一度は 他の廃棄物との関係が生まれている。一方で、最も多くの結びつきを有した廃棄物は細い角材であり、 累計 5 つの廃棄物との関係を築いたことになる。細い角材は、家の柱や梁として頻繁に用いられた廃棄 物であるため、 その柱や梁に接合することで壁や屋根などの多くの部材がつくられている。裏を返せば、 細い角材が接合しやすい廃棄物であったことが、柱や梁など家のフレームとなる部分に用いられた主要 因であったと言えるだろう。 さらに、木製パレットとサイディングという一見関係ない廃棄物同士の結びつきについて、具体的に 分析する。すると、木製パレットの[オブジェクト:リビングの土台として使われる(25) ]とサイディ ングの[オブジェクト:リビングの床として使われる(26) ]が結びついていることがわかる。木製パレッ トの上にサイディングが乗せられ、ふたつの廃棄物の総体としてつくられるリビングの床は、双方が結 びつかないことには機能しない。物質と物質の相互作用によって、新しい転用が生まれていることは注 目に値する。また、その後のサイディングの[イメージ:空間的に豊かになる…(26) ]への変化につ ながっている。双方が結びつくことによって、新たな[イメージ]が生まれている。

アルミ

ビニール傘

サッシ [オブジェクト]の結びつき

2

1

ブルー

ダンボール ベニア板

シート

3

2

3

⼩さい

サイ

⽊の板

ディング

1

⽊製

細い⾓材

1

パレット

5

1

⽯膏ボード

2

1

図 3-40 制作Ⅰの[オブジェクト]の結びつきの総数

(2)廃棄物同士の[イメージ]の繋がり 廃棄物同士のイメージの総数は、制作全体で 3 個あることがわかる(図 3-41) 。たとえば、ダンボー ルとサイディングという一見関係ない廃棄物間を超えたイメージの繋がりについて、 具体的に分析する。 すると、ダンボールの[イメージ:…即興的に風を防いだり…(8) ]から、サイディングの[イメージ:


第 3 章 2 つの制作の分析

061

…寒さの原因になるもの(17) ]へと、イメージが廃棄物を超えて繋がっている。ここで、制作者であ る私は、ダンボールとサイディングをうまく組み合わせることに気づくのである。そして、最後にはサ イディングの[オブジェクト:…内側にダンボールが貼られ、外壁として使われる(17) ]へと制作が 進む。このように、イメージが廃棄物間を超えて繋がることで、新たな転用を誘発していることは注目 に値する。こうして新たな[オブジェクト]が生まれている。

アルミ

ビニール傘

サッシ

ブルー

ダンボール ベニア板

シート

⼩さい

サイ

⽊の板

ディング

⽊製

細い⾓材

パレット

⽯膏ボード

[イメージ]の繋がり(発)

0

0

0

1

0

0

0

0

0

2

0

[イメージ]の繋がり(受)

0

0

0

0

1

0

1

1

0

0

0

図 3-41 制作Ⅰの[イメージ]の繋がりの総数

(結論) 廃棄物同士の[オブジェクト]の結びつきは、関係ない廃棄物同士の物質の流れが合流するようにし て、転用が行われていることを示している。そしてその後、新しい[イメージ]をつくり出している。 これは、意識の流れが媒介しているとはいえ、廃棄物同士の物質の流れの相互作用によるコレスポンダ ンスと言える。 また、廃棄物同士の[イメージ]の繋がりは、関係ない廃棄物同士の意識の流れが影響し合うように して、転用が行われていることを示している。そしてその後、新しい[オブジェクト]をつくり出して いる。これは、ある廃棄物で起こったコレスポンダンスが、意識の流れを介して、別の廃棄物に対して 作用していると言える。


062

第 3 章 2 つの制作の分析 アルミサッシの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ビニール傘の変化 意識の流れ

物質の流れ

ブルーシートの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

ベニア板の変化 意識の流れ

物質の流れ

小さい木の板の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

サイディングの変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

細い角材の変化 意識の流れ

物質の流れ

木製パレットの変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

釘の変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

石膏ボードの変化 意識の流れ

物質の流れ

第1回

ダンボールを用いた

上からの侵入を守る(1)

傘を用いた壁のつくり方(1)

他者性の流れ

家のつくり方(1)

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールの上から置かれた傘(1)

新宿の路上生活者 からの学び

天井にかけられたブルーシート(1)

コンパクトな家の材料として

使われているダンボール(1)

簡単に持ち運べ、

雨で濡れるのを防いだり、

調達することができる(5)

家をコンパクトにするにはダンボールがいい(1)

空間を広げているようなもの(1)

第5回

工事現場から材料を

コンパクトに収納できるもの /

ダンボールとの間に空間を作ることで、

加藤さんからの学び

新宿の路上生活者 からの学び

家のつくり方(8)

新宿の路上生活者 からの学び

ダンボールをカバーするために 使われた傘(8)

ダンボールをカバーしている ブルーシート(8)

新宿の路上生活者 からの学び

4つに連結させられたダンボール(8)

同じサイズだと連結させられて

雨風の侵入を防ぐもの /

雨風の侵入を防ぐもの /

筒のようなものがつくれるもの

ダンボールが濡れないように

ダンボールが濡れないように

ダンボールを連ねることで、

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

ビニール系の材料でカバーするといい(8)

第8回

ダンボールを用いた

ダンボールなど、家を濡らさない(8)

傘を用いたカバーのやり方(8)

人が入れる長細い空間をつくることができる(8)

制作へ

どこでも拾えるため、即興的に風を防いだり、 視線を遮ったりすることができるもの /

冷たい床から身体の体温を保持してくれるもの(8)

飲食店で大量に廃棄されたダンボール(8)

廃棄物からの コレスポンダンス たくさんのごみとして、

フェンスにかけて捨てられていた

第10 回

建設現場で廃棄されていた

毎日のように店舗前に捨てられていくもの

ビニール傘(10)

木材の端材(10)

ダンボールは商業エリアにたくさん捨てられている(8)

制作からの コレスポンダンス 植え込みに投棄されていた、

ボロボロのアルミサッシ(11)

街中を移動すればすぐに見つかるもの(10)

制作へ

廃棄物からの コレスポンダンス 土に刺したりして使えそうな長いもの(11)

路上生活者の

長い木材のつくり方(12)

多摩川の雨から守る(12)

第12 回

木材をつなぎ合わせるために使われていた釘(12)

家の壁のつくり方(12)

多摩川の路上生活者 からの学び

制作へ

多摩川の路上生活者 からの学び

寝室にだけかぶせられた

多摩川の路上生活者 からの学び

解体屋の廃棄置き場に

ブルーシート(12)

捨てられていた木材(13)

廃棄物からの コレスポンダンス

寝る際の雨を防ぐために使用するもの /

第13 回

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

家の壁として使われていた

木材に刺さったままになっていた釘(13)

木製パレット(12)

廃棄物からの コレスポンダンス 工具なしでは抜けず、使いにくいもの(13)

簡単に組み立てることができそうなもの /

短い木材を継ぐことで長い柱などを

使えそうなもの(13)

多摩川の路上生活者 からの学び

家を強固にする面材のようなもので、

繋いでいけば長い材料を作ることができるもの /

ちょっとしたところを塞ぐのに

全体が雨から防ぐことができなくても、

寝室だけ濡れなければなんとかなる(12)

家の柱として継ぎながら

使われていた短い木材(12)

パレットで壁をつくれば強固になる(12)

つくることができる(12)

制作へ 制作へ 建設現場で廃棄されたサイディングの端材

木材に巻き付けられたブルーシート(16)

木材の端材(15)

廃棄物からの コレスポンダンス 落ちていたり、一般ごみとして

木材は軽くて持ち運びがしやすく、

重くて持ち運びにくく、雨風は防げそうだが、

ブルーシートは雨を防ぐために使いたいので、

捨てられていることはあまりない(17)

なにかと使いやすそうなもの(15)

扱いにくそうなもの(15)

穴を開けて、傷つけてしまうわけにはいかないもの(16)

第15 回

建設現場で廃棄されていた

制作者の自宅の資材置き場に移動(15)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作からの コレスポンダンス

制作へ

制作へ

第16 回

内壁を立てる

屋根として使われている

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

加工するのは難しい(16)

簡単に重ねられて、風を止めてくれる一方、

制作へ

第19 回

制作者によって内側にダンボールが貼られ、

足を入れるために使われたダンボール(19)

ブルーシート(19)

一般的な技術では角が出ないように

それ自体がとても冷たくなってしまい、寒さの原因になるもの(17)

ダンボール(17)

制作からの コレスポンダンス

しまうので、加工が必要なもの

サイディング(17)

制作からの コレスポンダンス

家のフローリングに敷き詰められる

テントのように使われている

第17 回

木材はそのまま使うと角が出て

重ねられて、壁として使われた

制作へ

制作へ

ブルーシートの屋根を支えるアルミサッシ(19)

接合して使われた木材(16)

制作からの コレスポンダンス

制作へ

床の断熱としてとても機能するもの(17)

荷重で壊れたり穴が開いてしまいそうなもの(16)

ブルーシートを巻きつけるために

外壁を立てる

(ブルーシートの上から再びサイディングを立てかける) (15)

制作からの コレスポンダンス 水がたまると、

(角材でつっかえをつくり、サイディングを立てかける)

八百屋に積み上げられていたダンボール(17)

ブルーシート(16)

外壁として使われる(17)

廃棄物からの コレスポンダンス 解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

箱のようにすると体温によって

シートなどを支えるための柱になるもの(19)

端が斜めにカットされた木材(20)

こたつのような環境になるもの(19)

解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

壁と堤防の隙間に入れられたダンボール(20)

制作からの コレスポンダンス 壁からの断熱になりつつ、

いざというときに即興的に使えるもの(20)

木材を斜めに用いる(20)

自分の身長よりちょっと長いベニア板(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

第 20 回

工事現場の地面にたくさん落ちている釘(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

汚いが面として使用でき、

斜めに使うことで、

屋根の垂木のようなものとして使う(21)

寝室全体の剛性を高めてくれるもの(20)

第 21 回

現場にはたくさんあるもの(20)

家を構造的に強くしてくれるもの(20)

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス 寝室の屋根と壁として使われる(20)

ブルーシートの屋根をサポート

建設現場の大工さんから

するものとして使える(21)

大量にもらった新品の釘(20)

廃棄物からの コレスポンダンス

建設現場で廃棄されていた

第 24 回

木材を接合するには最も適したもの(20)

木材の端材(24)

廃棄物からの コレスポンダンス 廃材置き場に捨てられていたボードの端材

建設現場で廃棄されていたパレット(25)

たくさん繋ぎ合わせたら柱になるもの(24)

表面がツルツルしたボードの端材(25)

第 25 回

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 表面が綺麗で、

基礎になるもの(25)

テーブルの天板のようなもの(25) 制作へ

建設現場で廃棄された ブルーシート(26)

制作へ

テーブルの天板として使われた

リビングの土台として使われる(25)

床の板になるもの(26)

表面加工されている石膏ボード(26)

第 26 回

制作へ 廃棄物からの コレスポンダンス 制作者によって床に敷かれ、

何かをカバーしたり、地面に敷いたりするもの(26)

制作からの コレスポンダンス 表側と裏側で印象が違い、

資源としてストックされる(26)

使い分けることで空間的に豊かになるようなもの(26)

食べ物を食べたり、

継ぎ接ぎされ柱になった木材(27)

リビングの床として使われる(26)

制作へ

制作からの コレスポンダンス

PC で作業したりなどがしやすい(26)

制作からの コレスポンダンス 短い木材でも作り方次第で長く伸ばすことが

第 28 回

先端だけ木材に刺さった釘(28)

可能であるということがわかる(27)

第 27 回

廃棄物からの コレスポンダンス 鍵などをかけておくのに適したもの(28)

窓枠として使われたアルミサッシ(29)

制作からの コレスポンダンス ピクチャーウインドウの窓枠のようなもの(29)

建設現場の周辺に落ちていた釘

たくさんの釘が刺さった面材(29)

構造用ボードに曲がって刺さっていた釘(29)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

荷物をかける壁のようなもの(29)

そのままフックとして使えるもの(29) 制作へ

フック付きのリビングの壁(29)

図 3-39 制作Ⅰの全体 C

柱と柱の間に、

等間隔に貼られた石膏ボードの端材(29)

制作からの コレスポンダンス ルーバーのように目隠しになるもの(29)

第 29 回


第 3 章 2 つの制作の分析

3.2.7 制作Ⅰの補足資料

図 3-42 スケッチ 1

図 3-43 スケッチ 2

063


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-44 スケッチ 3

図 3-45 スケッチ 4

064


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-46 スケッチ 5

図 3-47 スケッチ 6

065


第 3 章 2 つの制作の分析

066

3.3 制作Ⅱ<仮設住宅の廃棄物と制作>

3.3.1 制作の前談

制作で主に扱った廃棄物は、折半屋根、軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁) 、床、軽量鉄骨 1800mm(根太) 、軽量鉄骨 1800mm(梁) 、軽量鉄骨 2700mm(梁) 、ブレース、壁パネル、軽量鉄骨 2700mm(柱)である。これらは全て、仮設住宅として使われ、廃棄されていたものである。これらを 最大限に活かすようにしながら、適宜 CNC ルーターを用いてベニア合板 12mm を切り出し、全体の制 作を行った。 本制作は、宮城県利府町と慶應義塾大学小林博人研究会(以下、小林研)の共同プロジェクトであり、 制作に関しては大和リース(株)と真栄工芸(株)に資材や技術の提供を受けている。プロジェクトの 発端は、2020 年東京オリンピックの会場に利府町が指定されたことを受け、当日の集客を通じて町の 活性化を行うための、ユニークな屋台規模の仮設建築が必要とされたところにある。小林研はベニアハ ウスプロジェクトに取り組んでおり、C NC ルーターを用いてベニア合板を加工することで、仮設の小 建築を制作してきた -1 。このノウハウを活かして、利府町にも仮設の屋台を制作することを目指した。 小林研では、本プロジェクトに、松岡(私) 、ラス、永井、梶尾の4名の学生がチームとして取り組んだ。 制作Ⅰでの個人的な気づきや、プロジェクトに金銭的な余裕がなかったことなどから、廃棄されるも のを積極的に利用していくことを検討した。当時、東日本大震災で建てられた応急仮設住宅が役目を終 えて廃棄されていたため、この廃棄物をうまく部材として利活用することで、屋台規模の仮設住宅をつ くる計画となった。

図 3-48 制作Ⅱの全体スケッチ -1 ベニアハウスプロジェクト web サイト、https://www.veneerhouse.com/


第 3 章 2 つの制作の分析

067

3.3.2 制作の概要

制作Ⅱでは、廃棄物となっている仮設住宅の部材を実際に触りながら制作を行なった。はじめに、 2019 年 7 月 22 日に大和リース(株)栃木二宮デポに訪れ、実際に仮設住宅とはどういったものなのか の説明を受けた。これを第 0 回とする。その後、2020 年 8 月 20 日から 26 日にかけて、大和リース(株) 仙台デポと真栄工芸(株)を拠点としながら、滞在型で制作を行なった。25 日は休業日だったため、 25 日を除いて、これらを第 1 回〜第6回とする。当時の設計データや、メモ、写真などを使って工程 表を作成し、これらを用いて協働者との振り返りを行なった。それを元にして、どのように廃棄物が変 化したのかを書き出し、これを整理することで分析した。なお、各工程表が示すリサーチ日と内容は以 下の通りである(図 3-49) 。 0 1 2 3

4 5 6

日付

2019年7月22日 2019年8月20日 2019年8月21日 2019年8月22日

リサーチ名

事前リサーチ(大和リース栃木) 制作1(利府町) 制作2(利府町) 制作3(利府町)

2019年8月23日 制作4(利府町) 2019年8月24日 制作5(利府町) 2019年8月26日 組み立て(利府町)

図 3-49 制作Ⅱのリサーチの日付とタイトル

3.3.3 廃棄物ごとのコレスポンダンスの分析

(1)折半屋根 折半屋根の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-50) 。最初に[オ ブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ]から[イメージ:山が大きく、長くて扱いにくそう で、先端が鋭利で危険(1) ]となる。その後、 [オブジェクト:屋根として使われる折半屋根(2) ]と して制作され、 [ナレッジ:防水や排水のために合理的に設計された(2) ]と気付く。そこから[イメー ジ:屋根として利用するといい(2) ] 、 [オブジェクト:屋根として使われる(3) ]となり、再び[ナレッ ジ:ボルトで接合するために、あらかじめモジュールに合わせた穴が設計された(3) ]と学ぶ。そのま ま[イメージ:穴に合わせれば屋根をそのまま使うことができ合理的(3) ]となり、 最終的に[オブジェ クト:再度屋根として使われる(3) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-51) 。<意識―物質コレスポンダンス>がはじめにあったのち、<意識―他者性―物質コレスポンダ ンス>が 2 つ続く。また、<他者性の山>は2つ、<物質の山>は4つある。 折半屋根は、屋根以外の用途に転用されず、終始屋根として使われ続けている。その一方で、屋根と して使い続けることで、穴の存在に気付くなど、廃棄物のディテールに対してのコレスポンダンスが生 まれていく。


第 3 章 2 つの制作の分析

068

(2)軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁) 軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わ せて記述する(図 3-52) 。事前のリサーチから、 [オブジェクト:プロトタイプとして断面に合わせてカッ トしたベニア板を接合(0) ]から、 [イメージ:C チャンネルの寸法に合わさるように何かをつけられ る(0) ]となる。ここから、 [オブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ] 、 [イメージ:折半 屋根を受けることができるので、屋根の部材との組み合わせで用いることができそうなもの(1) ]とな り、 [オブジェクト:折半屋根がかかる方向の梁として使われる(2) ]と制作される。そこから[ナレッ ジ:ボルトで接合するために、あらかじめモジュールに合わせた穴が設計された(3) ]と学び、 [イメー ジ:屋根を受けるところに穴が空いており、 ボルトで屋根と梁を固定することができる(3) ]と変化する。 また、 [イメージ:屋根は固定された方がいいため、 寸法をこれに合わせる必要がある(3) ]も合わさり[オ ブジェクト:折半屋根がかかる方向の梁として使われる(3) ]と制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-53) 。<意識―物質コレスポンダンス>が 1 つあったのち、<意識―物質コレスポンダンス>と<意 識―他者性―物質コレスポンダンス>が続く。また、<他者性の山>が1つ、<物質の山>が4つある。 軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)は、折半屋根を受けるためのタイトフレームが軽量鉄骨に 溶接されたものである。そのため、折半屋根との相性が良く、折半屋根と連関するように、ディテール に対するコレスポンダンスが生まれている。

(3)床パネル 床パネルの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する (図 3-54) 。はじめに [オ ブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ]から[イメージ:重くて持ち運びにくいが、とても 頑丈で使いやすい木箱のようになっている(1) ]となる。そこから[オブジェクト:床として使われる (2) ]として制作され、 [イメージ:頑丈で根太は最小限で大丈夫(2) ]となる。また[イメージ:全 体の寸法に合わせて床を配置する(4) ]とも合わさり[オブジェクト:床として使われる(4) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 2 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-55) 。これは<意識―物質コレスポンダンス>が2つあるのみである。また、<他者性の山>はなく、 <物質の山>が3つあるのみである。 床パネルは裏側に根太のようなものが入っており、それ単体である程度のスパンに耐えられるように なっている。はじめより転用されず、床として使われ続けている。

(4)軽量鉄骨 1800mm(根太) 軽量鉄骨 1800mm (根太) の変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する (図 3-55) 。事前に [オブジェ クト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板を接合(0) ]から[イメージ:C チャン ネルの寸法に合わさるように何かをつけられる(0) ]と変化した。そこから[オブジェクト:手に持っ てみる / 実測してみる(1) ] 、 [イメージ:もともと梁だった部材に比べ、重く、先端が塞がっており C


第 3 章 2 つの制作の分析

069

字の断面が扱いにくいが、赤く塗装されているため、使ってみたいと思わせるもの(1) ]となる。その 後、制作の終盤にて[ナレッジ:飲食スペースのベンチやテーブルの構造として使用したい(4) ]とな り[オブジェクト:テーブル・ベンチの構造として使われる(6) ]として制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 3 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-56)<意識―物質コレスポンダンス>が 1 つ起こったのち、<意識―物質コレスポンダンス>と<意 識―他者性コレスポンダンス>が 1 つずつ続く。また、<他者性の山>は1つあり、<物質の山>が3 つある。 軽量鉄骨 1800mm(根太)は他の C 字鋼とは異なり、 両端が溶接されて塞がっていて、 赤色をしている。 使いにくさがあるが、最後には協働によって転用することができた。

(5)軽量鉄骨 1800mm(梁) 軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-57) 。まず[オブジェ クト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板を接合(0) ]からの[イメージ:C チャ ンネルの寸法に合わさるように何かをつけられる(0) ]がある。そこから[オブジェクト:手に持って みる / 実測してみる(1) ] 、 [イメージ:軽量鉄骨の中では扱いやすく、仮設の屋台をつくる際に主要な 構造体となるもの(1) ] 、 [オブジェクト:柱として使われる(2) ] 、 [イメージ:柱として使うには長さ が足りず、天井が低くなってしまうもともとと同じ梁として使用できる(2) ] 、 [オブジェクト:梁とし て使われる(2) ]と連続する。その後機能を拡張するように[イメージ:断面に合わせて、梁から何か を吊り下げることができる(4) ]と[ナレッジ:建築の中と外の関係を緩やかにつくりたい(4) ]から、 [オブジェクト:ルーバーの外壁が吊り下げられる梁として使われる(6) ]と制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 4 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-58) 。<意識―物質コレスポンダンス>がはじめに起こり、そこから<意識―物質コレスポンダンス >が 2 つ連続する。最後に<意識―他者性コレスポンダンス>が 1 つ起こる。また、<他者性の山>は 1つあり、<物質の山>は5つある。 軽量鉄骨 1800mm(梁)は最も扱いやすく、最も手に入りやすい C 字鋼であった。柱として制作し た際のコレスポンダンスをもとに、梁として転用が行なわれている。梁として使われることが決まった のちに、その C 字のディテールが注目され、CNC ルーターで切り出したルーバーとの組み合わせも図 られた。

(6)軽量鉄骨 2700mm(梁) 軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-59) 。事前のリサーチにて[オブジェクト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板 を接合(0) ]から[イメージ:C チャンネルの寸法に合わさるように何かをつけられる(0) ]と変化する。 そこから[オブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ]となり、 [イメージ:長さもあり重く、 扱いにくいが、必要に合わせて構造体として用いることができそうなもの / クロスさせて、三角形のフ


第 3 章 2 つの制作の分析

070

レームのようにすることができるのではないか(1)]と変化する。続いて[オブジェクト:ベニア板か ら切り出した接合部を用いて、直交するフレームとなる(2) ]から[イメージ:重いため、接合部に負 荷が強くかかり、ベニア板では難しい(2) ]と気づきになる。その後[イメージ:天井の高さを出すこ とができる(2) ] 、 [オブジェクト:柱として使われる(2) ] 、 [ナレッジ:柱や梁と接合するためにボル トの穴が設計されている(2) ]となり、 [イメージ:あらかじめ空いている穴を用いて、梁の取り付け も簡単にできる(2) ]と変化する。最後に構造などにも注意しつつ[イメージ:既存の穴を有効活用し てブレースを取り付けることもできる(3) ]となり、制作に向かい[オブジェクト:穴が足りない箇所 にだけ追加で穴あけ(4) ] 、 [オブジェクト:柱として使われる(6) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 4 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-60) 。<意識―物質コレスポンダンス>が 3 つあったのち、<意識―他者性―物質コレスポンダンス >が1つ起こる。また、<他者性の山>が 1 つ、<物質の山>が5つある。 軽量鉄骨 2700mm(梁)は軽量鉄骨 1800mm(梁)と同様に、扱いやすい廃棄物である。柱として使 い続けることでディテールへのコレスポンダンスが生まれ、穴などへの気づきがあった。最終的には追 加でも穴を空けて、柱として様々な機能を果たすものとなった。

(7)ブレース ブレースの変化を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する (図 3-61) 。はじめに [オ ブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ]がある。次に[オブジェクト:柱同士をブレースで つなげる(2) ]から[イメージ:かなり強固な構造となる(2) ]となる。最後に協働者からの[ナレッ ジ:鉄骨の柱梁のため、構造的にブレースを入れられるところに入れた方がいい建物の 3 面はブレース を入れたら安心(4) ]となり、 [オブジェクト:カウンターが入る面以外に使われる(6) ]と制作される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 2 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-62) 。それぞれ一つずつ、<意識―物質コレスポンダンス>ののちに、<意識―他者性コレスポンダ ンス>が起こる。 ブレースはもともと柱同士や梁同士を固定するために用いられており、この制作でも同様の役割を果 たすものとなった。ブレースは構造材として機能に忠実に生産されているため、 転用の冗長性が少なく、 コレスポンダンスが起こりにくかったと言えるだろう。

(8)壁パネル 壁パネルの変化を3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-63) 。まず[オブジェクト:手に持っ てみる / 実測してみる(1) ]から[イメージ:軽くて頑丈であり、壁ではなくテーブルなどにも使うこ とができそうなもの(1) ] 、そして[オブジェクト:壁の一部として使われる(2) ]と制作される。終 盤に[ナレッジ:背面の壁にはちょっとした調理や、道具を置いたりするための作業スペースがあると いい(4) ]と[ナレッジ:外側にも飲食用のテーブルとして出したい(4) ]といったところから、 [オ ブジェクト:カウンターテーブルと飲食カウンターの天板として使われる(6) ]と制作される。さらに、


第 3 章 2 つの制作の分析

071

[イメージ:コンパクトに扱えるので即席の天板として便利(6) ]となり[オブジェクト:根太でつくっ た椅子の余った部分に載せて、ローテーブルして使われる(6) ]として転用される。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 4 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-64) 。<意識―物質コレスポンダンス>がはじめに起こる。その後、<意識―他者性コレスポンダン ス>が 2 つ起こり、<意識―物質コレスポンダンス>が最後に1つ起こる。また、<他者性の山>は1 つ、<物質の山>は 4 つ存在する。 壁パネルは、外壁として用いられているもので、今回扱った廃棄物の中でも、とりわけ手に持ちやす いサイズと重さのものである。壁パネルはその扱いやすさから、多角的な転用のアイデアが出やすく、 様々な天板として使われることが多かった。

(9)軽量鉄骨 2700mm(柱) 軽量鉄骨 2700mm(柱)を意識・物質・他者性の3つの流れと時間軸に合わせて記述する(図 3-65) 。 事前のリサーチにて [オブジェクト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板を接合 (0) ] から[イメージ:C チャンネルの寸法に合わさるように何かをつけられる(0) ]となる。またその後[オ ブジェクト:手に持ってみる / 実測してみる(1) ]となるが、 [イメージ:非常に重く、扱いにくい。 できれば使わないほうが施工しやすそうなもの(1) ]となり、 [オブジェクト:使われない(2) ]となる。 この記述に、コレスポンダンスを重ねると合計 2 つのコレスポンダンスがあることがわかる(図 3-66) 。どちらも<意識―物質コレスポンダンス>である。 軽量鉄骨 2700mm(柱)は、仮設住宅の主要な構造を担う柱として使われている。しかし今回の制作 では、コレスポンダンスが得られずにうまく扱われなかった。


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-50 折半屋根の変化ⅰ

図 3-51 折半屋根の変化ⅱ

072


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-52 軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化ⅰ

073

図 3-53 軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-54 床パネルの変化ⅰ

図 3-55 床パネルの変化ⅱ

074


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-56 軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化ⅰ

075

図 3-57 軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-58 軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化ⅰ

076

図 3-59 軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-60 軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化ⅰ

077

図 3-61 軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-62 ブレースの変化ⅰ

図 3-63 ブレースの変化ⅱ

078


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-64 壁パネルの変化ⅰ

図 3-65 壁パネルの変化ⅱ

079


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-66 軽量鉄骨 2700mm(柱)のの変化ⅰ

080

図 3-67 軽量鉄骨 2700mm(柱)のの変化ⅱ


第 3 章 2 つの制作の分析

081

3.3.4 時間軸によるコレスポンダンスの分析

各廃棄物でのコレスポンダンスの集合として分析するために、それぞれの[イメージ] 、 [オブジェク ト] 、 [ナレッジ]を時間軸に揃え、9 種の廃棄物からなる総体として制作を図式化する(図 3-68) 。制 作を通じて 23 個のコレスポンダンスを発見することができた(図 3-69) 。全体図では、第 0 回に起こっ た[オブジェクト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板を接合]→[イメージ:C チャ ンネルの寸法に合わさるように何かをつけられる]は、C 字鋼全般に見られるコレスポンダンスであり、 記述が重複してしまう。この重複を避けるために、この第 0 回に関しては一つにまとめて表記した。

軽量鉄⾻+ 折半屋根

軽量鉄⾻

タイトフレーム

床パネル

1800mm(根 太)

1800mm(梁)

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻

1800mm(梁)

2700mm(梁)

ブレース

軽量鉄⾻

壁パネル

⼩計

2700mm(柱)

<意識ー物質コレスポンダンス>

1

2

2

2

3

3

1

2

2 14(*重複除く)

<意識ー他者性コレスポンダンス>

0

0

0

0

1

1

1

2

0

5

<意識ー物質ー他者性コレスポンダンス>

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

<意識ー他者性ー物質コレスポンダンス>

2

1

0

0

0

1

0

0

0

4

合計

1

2

2

2

4

4

2

4

2

23

図 3-69 制作Ⅱのコレスポンダンスの総数

(1) 意識―物質コレスポンダンス 青色で示された<意識―物質コレスポンダンス>は、制作Ⅱを通じて最も多いコレスポンダンスであ り、14 個発見することができる。全体に占める割合としては約 61%(14/23)である。第 0 回の[オブ ジェクト:プロトタイプとして断面に合わせてカットしたベニア板を接合]→[イメージ:C チャンネ ルの寸法に合わさるように何かをつけられる]というコレスポンダンスが、はじめての<意識―物質コ レスポンダンス>であった。<意識―物質コレスポンダンス>のほとんどが第 0 回~第 2 回に集中して おり、制作Ⅱは廃棄物に応答することを重視して始まったことがわかる。

(2)意識―他者性コレスポンダンス 緑色で示された<意識―他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅱを通じて 5 個発見することができる。 全体に占める割合としては約 22%(5/23)である。<意識―他者性コレスポンダンス>はすべてが第 4 回以降に起こっている。すべてが協働者からの学びであり、制作の終盤の具現化に向けたフェーズで、 このような協働が実現されていると考えることができる。一方で、 [ナレッジ:…3 面はブレースを入 れたら安心 (4)]というナレッジは、協働者の中でも、大和リース(株)の所長からのアドバイスであっ た。このような<意識―他者性コレスポンダンス>は、制作の時間軸に関係なく得られるものであった ので、制作Ⅱでは人間―ものの関係性を重視するがあまりに、序盤での人間―人間のコミュニケーショ ンが少なくなっていることを表している。

(3)意識・物質・他者性コレスポンダンス


第 3 章 2 つの制作の分析

082

赤色で示された<意識・物質・他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅱを通じて 4 個発見することがで きた。全体に占める割合は約 17%(4/23)である。制作Ⅱの第 2 回~第 3 回にすべてが見られる。以 降では、<意識―物質―他者性コレスポンダンス>と<意識―他者性―物質コレスポンダンス>に分け て分析していく。

(3-1)意識―物質―他者性コレスポンダンス 左側が白色で、右側が赤色で示された<意識―物質―他者性コレスポンダンス>は、制作Ⅱでは見る ことができない。制作Ⅱでは、ある他者がある物質(廃棄物)を扱っていることを見ていない。すなわ ち、他者を通じた観察やリサーチのフェーズがなかったため、<意識―物質―他者性コレスポンダンス >がなかったと言えるだろう。

(3-2)意識―他者性―物質コレスポンダンス 左側が赤色で、右側が白色で示された<意識―他者性―物質コレスポンダンス>は、制作Ⅱを通じて 4 個発見することができる。折半屋根、 軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁) 、 軽量鉄骨 2700mm(梁) の 3 種の廃棄物で見ることができる。短時間で施工できる仮設住宅を象徴するモジュールがこれに関係 している。折半屋根、軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の双方に現れる[イメージ:ボルトで 接合するために、あらかじめモジュールに合わせた穴が設計された (3)]が示すように、現場で穴を空 けなくとも接合ができるようにモジュールに沿った細部の設計がなされている。このように廃棄物を通 じて、私たち制作者が、過去の仮設住宅の設計者と、繋がって学ぶことができると言えるだろう。

(結論) 制作の時系列で見ると、序盤には<意識―物質コレスポンダンス>が集中的に発生している。中盤か ら<意識―他者性―物質コレスポンダンス>が起こり、終盤はほとんど<意識―他者性コレスポンダン ス>があらわれた。これは、はじめに廃棄物をよく知ることを重要視し、その後に様々な制作をしてみ て学び、最後には協働者と建築的な機能や意匠に関しての具現化を目指すという、全体の制作工程が反 映されていると考えることができる。一方で、あらかじめ工程を決めすぎていたということも言える。 序盤に<意識―他者性―物質コレスポンダンス>が起こったり、終盤に<意識―物質コレスポンダンス >起こったりすれば、さらに豊かな転用が行われる可能性もあったと言えるだろう。


第 3 章 2 つの制作の分析

他者性の流れ

折半屋根の変化 意識の流れ

軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化

物質の流れ

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

床パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化 他者性の流れ

意識の流れ

軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化

他者性の流れ

物質の流れ

意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ブレースの変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

壁パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(柱)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

第0回

プロトタイプとして断面に合わせて カットしたベニア板を接合(0)

軽量鉄骨の変化

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

C チャンネルの寸法に合わさるように 何かをつけられる(0)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

屋根の部材との組み合わせで用いることができそうなもの(1)

先端が鋭利で危険(1)

制作へ

防水や排水のために

廃棄物からの コレスポンダンス

ベニア板から切り出した接合部を用いて、

柱として使われる(2)

廃棄物からの コレスポンダンス

合理的に設計された(2)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ 制作へ

床として使われる(2)

梁として使われる(2)

制作からの コレスポンダンス

使われない(2)

第2回

重いため、接合部に負荷が強くかかり、ベニア板では難しい(2)

もともとと同じ梁として使用できる(2)

制作へ

壁の一部として使われる(2)

制作からの コレスポンダンス

柱として使うには長さが足りず、天井が低くなってしまう

頑丈で根太は最小限で大丈夫(2)

制作へ

制作へ

かなり強固な構造となる(2)

直交するのフレームとなる(2)

できれば使わないほうが施工がしやすそうなもの(1)

使うことができそうなもの(1)

することができるのではないか(1)

制作へ

折半屋根がかかる方向の

非常に重く、扱いにくい。

軽くて頑丈であり、壁ではなくテーブルなどにも

柱同士をブレースでつなげる(2)

クロスさせて、三角形のフレームのように

第1回

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

構造体として用いることができそうなもの

主要な構造体となるもの(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス 長さもあり重く、扱いにくいが、必要に合わせて

軽量鉄骨の中では扱いやすく、仮設の屋台をつくる際に

C 字の断面が扱いにくいが、赤く塗装されているため、 使ってみたいと思わせるもの(1)

制作へ

屋根として使われる折半屋根(2)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

もともと梁だった部材に比べ、重く、先端が塞がっており

木箱のようになっている(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 重くて持ち運びにくいが、とても頑丈で使いやすい

折半屋根を受けることができるので、

山が大きく、長くて扱いにくそうで、

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

屋根として利用するといい(2)

天井の高さを出すことができる(2)

梁として使われる(2)

制作へ

柱として使われる(2)

柱や梁と接合するために

ボルトの穴が設計されている(2)

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

あらかじめ空いている穴を用いて、 梁の取り付けも簡単にできる(2)

屋根として使われる(3)

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

廃棄物からの コレスポンダンス

第3回

既存の穴を有効活用してブレースを取り付けることもできる(3)

制作へ 屋根を受けるところに穴が空いており、

廃棄物からの コレスポンダンス

ボルトで屋根と梁を固定することができる(3)

制作へ

穴に合わせれば屋根をそのまま

屋根は固定された方がいいため、

使うことができ合理的(3)

寸法をこれに合わせる必要がある(3)

制作へ

制作へ 再度屋根として使われる(3)

折半屋根がかかる方向の梁として使われる(3)

飲食スペースのベンチやテーブルの

全体の寸法に合わせて床を配置する(4)

断面に合わせて、梁から何かを

構造として使用したい(4)

協働者からの 学び

制作へ

床として使われる(4)

道具を置いたりするための

作業スペースがあるといい(4)

制作へ

制作へ

柱として使われる(4)

建築の中と外の関係を緩やかにつくりたい(4)

協働者からの 学び

鉄骨の柱梁のため、構造的に

外側にも飲食用のテーブル

ブレースを入れられるところに入れた方がいい

として出したい(4)

建物の 3 面はブレースを入れたら安心(4)

協働者からの 学び

第4回

背面の壁にはちょっとした調理や、

穴が足りない箇所にだけ追加で穴あけ(4)

吊り下げることができる(4)

協働者からの 学び

協働者からの 学び カウンターが入る面以外に使われる(4)

テーブル・ベンチの構造として使われる(6)

ルーバーの外壁が吊り下げられる 梁として使われる(6)

カウンターテーブルと飲食カウンターの 天板として使われる(6)

廃棄物からの コレスポンダンス コンパクトに扱えるので即席の天板として便利(6)

制作へ 根太でつくった椅子の

余った部分に載せて、

ローテーブルして使われる(6)

図 3-68 制作Ⅱの全体 A

第6回

083


第 3 章 2 つの制作の分析

084

3.3.5 <山と谷>によるコレスポンダンスの分析

コレスポンダンスが起こる時間や、その連続性などを分析するために、<山と谷>よって制作全体を 図式化する(図 3-70) 。黒線で囲われた領域は、それに対応する廃棄物と、どのコレスポンダンスが、 いつ起こったのかを示すものである。

(1)<山脈>が長く続くこと 9 種の廃棄物を並置してみると、種類ごとに築いた関係性の<山脈>に長短があることがわかる。そ れぞれの<山脈>の長短をまとめると、全 7 回にわたって関係性を築いた素材から、全 3 回の短い関係 性に終わった素材もある(図 3-71) 。この長さは、はじめて出会った時から、最後に扱った時までの長 さに対応するものであり、 関係性の長さを示している。軽量鉄骨 1800mm (根太) と軽量鉄骨 1800mm (梁) が最も<山脈>が長い廃棄物である。しかしながら、中盤にはコレスポンダンスが一切ない。途中の主 要な構造をつくる過程では使いにくく、最後にうまく転用された廃棄物であったと言える。一方で、< 山脈>の短い、折半屋根と軽量鉄骨 2700mm(柱)は、折半屋根は[オブジェクト:屋根…(3)] 、軽量 鉄骨 2700mm(柱)は[オブジェクト:使われない (2)]となり、転用は起こっていない。このことか ら<山脈>短さは、転用の少なさと相関関係にあると言えるだろう。 軽量鉄⾻+ 折半屋根

軽量鉄⾻

タイトフレーム

床パネル

1800mm(根

1800mm(梁)

太)

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻

1800mm(梁)

2700mm(梁)

ブレース

軽量鉄⾻

壁パネル

2700mm(柱)

<⼭脈>のはじまり

1

0

1

0

0

0

1

1

0

<⼭脈>のおわり

3

3

4

6

6

4

4

6

2

<⼭脈>の⻑さ

3

4

4

7

7

5

4

6

3

図 3-71 制作Ⅱの < 山脈>の長さ

(2)<山と谷>が連続すること 9 種の廃棄物を並置してみると、種類ごとに関係性の<山と谷>のあらわれ方に違いがあることがわ かる。<山と谷>が集まってあらわれているところは、コレスポンダンスが連続して起こっていること を示している。その逆に、なだらかな箇所は、コレスポンダンスが起こっていないことを示しており、 廃棄物との関係性は動いていないと言える。 それぞれの<山と谷>の数をまとめると、全 6 個あるものから、全 3 個に止まったものまで、それぞ れ違いがあることがわかる(図 3-72) 。 (3.4.4)でみたように、制作Ⅱでは、<意識―物質コレスポンダ ンス>がコレスポンダンス全体の約 61%を占めることから、<物質の山>が必然的に多くなっている。 廃棄物ごとに<山>をみたときも、<他者性の山>に比べ<物質の山>が多い。 <山>の多い、折半屋根と軽量鉄骨 1800mm(梁)を比べてみると、折半屋根は<他者性の山>が 2 つあり、軽量鉄骨 1800mm(梁)は<他者性の山>が 1 つあり、バランスは折半屋根の方が多いことが わかる。折半屋根では<意識―他者性―物質コレスポンダンス>が 2 回起こっており、これに由来する


第 3 章 2 つの制作の分析

085

<山>が2つ現れている。(3.3.4) で見たように、折半屋根は廃棄物に関する解像度が高まっていくよう にコレスポンダンスが起こっている。一方で、軽量鉄骨 1800mm(梁)は、最後に[イメージ:…梁か ら何かを吊り下げることができる (4)]となり、あまり廃棄物そのものに関する解像度は高まっていな い。断面の形状には、第 0 回で[イメージ:C チャンネルの寸法に合わせるように何かをつけられる (0)] とあるように、すでに言及されている。つまり、同じく 6 個の<山>を持つ廃棄物でも、<他者性の山 >と<意識の山>のバランスによって、その関係性の深さが異なることがある。 軽量鉄⾻+ 折半屋根

軽量鉄⾻

タイトフレーム

床パネル

1800mm(根

1800mm(梁)

太)

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻

1800mm(梁)

2700mm(梁)

ブレース

軽量鉄⾻

壁パネル

⼩計

2700mm(柱)

<他者性の⼭>

2

1

0

1

1

1

1

1

0

8

<物資の⼭>

4

4

3

3

5

5

2

4

3

29

合計

6

5

3

4

6

6

3

5

3

37

図 3-72 制作Ⅱの<山>の総数

(結論) <山脈>が長いことは必ずしも、コレスポンダンスの多さを表すわけではないため、変化が多様で あったとは言い切れない。しかし、<山脈>が短いことは、転用があまりなされなかったことを表して いる。つまり、<山脈>が長いということは、転用のタイミングを廃棄物が待っているとも言え、転用 の機会が訪れれば、コレスポンダンスが生み出される。この意味において、<山脈>が長いことは、コ レスポンダンスの裾野を広げていると言えるだろう。 <山と谷>が多いことは、コレスポンダンスの多さを表しており、その多さは廃棄物の変化と相関関 係にある。しかしながら、<山>もしくは<谷>だけが多い場合よりも、<山>と<谷>がバランス良 く現われる場合の方が、量的に豊かな変化になりやすいと言えるだろう。この意味において、<山と谷 >がバランスよく配置されることは、コレスポンダンスによる決定的な変化の萌芽になりうると言える だろう。


第 3 章 2 つの制作の分析

他者性の流れ

折半屋根の変化 意識の流れ

軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化

物質の流れ

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

床パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化 他者性の流れ

意識の流れ

軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化

他者性の流れ

物質の流れ

意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ブレースの変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

壁パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(柱)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

1

第0回

プロトタイプとして断面に合わせて カットしたベニア板を接合(0)

軽量鉄骨の変化

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

C チャンネルの寸法に合わさるように 何かをつけられる(0)

1

2

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

2 1 防水や排水のために

合理的に設計された(2)

3

制作へ

3

制作へ

廃棄物からの コレスポンダンス 廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

屋根として利用するといい(2)

2

制作へ

壁の一部として使われる(2)

制作へ

3 使われない(2)

第2回

重いため、接合部に負荷が強くかかり、ベニア板では難しい(2)

もともとと同じ梁として使用できる(2)

制作へ

廃棄物からの コレスポンダンス

制作からの コレスポンダンス

柱として使うには長さが足りず、天井が低くなってしまう

制作へ

非常に重く、扱いにくい。

できれば使わないほうが施工がしやすそうなもの(1)

使うことができそうなもの(1)

かなり強固な構造となる(2)

直交するのフレームとなる(2)

制作からの コレスポンダンス

頑丈で根太は最小限で大丈夫(2)

3

ベニア板から切り出した接合部を用いて、

柱として使われる(2)

第1回

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 軽くて頑丈であり、壁ではなくテーブルなどにも

することができるのではないか(1)

制作へ

2

床として使われる(2)

梁として使われる(2)

1 柱同士をブレースでつなげる(2)

クロスさせて、三角形のフレームのように

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

構造体として用いることができそうなもの

主要な構造体となるもの(1)

2

1

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス 長さもあり重く、扱いにくいが、必要に合わせて

軽量鉄骨の中では扱いやすく、仮設の屋台をつくる際に

C 字の断面が扱いにくいが、赤く塗装されているため、 使ってみたいと思わせるもの(1)

折半屋根がかかる方向の

屋根として使われる折半屋根(2)

2

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

もともと梁だった部材に比べ、重く、先端が塞がっており

木箱のようになっている(1)

屋根の部材との組み合わせで用いることができそうなもの(1)

先端が鋭利で危険(1)

2

2

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

重くて持ち運びにくいが、とても頑丈で使いやすい

折半屋根を受けることができるので、

山が大きく、長くて扱いにくそうで、

1 手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

4 天井の高さを出すことができる(2)

梁として使われる(2)

制作へ

4 柱として使われる(2)

1 柱や梁と接合するために

ボルトの穴が設計されている(2)

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

あらかじめ空いている穴を用いて、 梁の取り付けも簡単にできる(2)

3 屋根として使われる(3)

1

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

廃棄物からの コレスポンダンス

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

第3回

既存の穴を有効活用してブレースを取り付けることもできる(3)

2

制作へ 屋根を受けるところに穴が空いており、

廃棄物からの コレスポンダンス

ボルトで屋根と梁を固定することができる(3)

制作へ

穴に合わせれば屋根をそのまま

屋根は固定された方がいいため、

使うことができ合理的(3)

制作へ

寸法をこれに合わせる必要がある(3)

4 再度屋根として使われる(3)

制作へ

折半屋根がかかる方向の梁として使われる(3)

4

1 飲食スペースのベンチやテーブルの

全体の寸法に合わせて床を配置する(4)

断面に合わせて、梁から何かを

構造として使用したい(4)

協働者からの 学び

制作へ

1

床として使われる(4)

制作へ

制作へ

5

柱として使われる(4)

建築の中と外の関係を緩やかにつくりたい(4)

道具を置いたりするための

作業スペースがあるといい(4)

1

1

鉄骨の柱梁のため、構造的に

協働者からの 学び

協働者からの 学び

協働者からの 学び

外側にも飲食用のテーブル

ブレースを入れられるところに入れた方がいい

として出したい(4)

建物の 3 面はブレースを入れたら安心(4)

3

第4回

背面の壁にはちょっとした調理や、

穴が足りない箇所にだけ追加で穴あけ(4)

吊り下げることができる(4)

2

協働者からの 学び

カウンターが入る面以外に使われる(4)

3 テーブル・ベンチの構造として使われる(6)

3

ルーバーの外壁が吊り下げられる 梁として使われる(6)

5

カウンターテーブルと飲食カウンターの 天板として使われる(6)

廃棄物からの コレスポンダンス コンパクトに扱えるので即席の天板として便利(6)

制作へ

4 根太でつくった椅子の

余った部分に載せて、

ローテーブルして使われる(6)

図 3-70 制作Ⅱの全体 B

第6回

086


第 3 章 2 つの制作の分析

087

3.3.6 廃棄物同士の関係性によるコレスポンダンスの分析

部材同士が接合されることは、建築制作における特徴の一つであるだろう。例えば、柱のようなも のと梁のようなものが、それぞれが結合されることで家の一部となっている。このように部材同士が相 互に連関している建築制作では、部材内での変化だけで捉えきれない関係性があるように思われる。こ のように、制作というプロセスの中で廃棄物同士が結びつくことによってうまれる関係性に焦点を当て る(図 3-73) 。両端が丸の線で結ばれたものは、廃棄物同士の結びつきを示し(オレンジ色) 、片向きの 矢印で結ばれたものはある廃棄物の変化が他の廃棄物の変化に影響を与えたことを示している(ピンク 色) 。

(1)廃棄物同士の[オブジェクト]の結びつき 廃棄物同士の結びつきの総数は、制作全体で 7 個あることがわかる(図 3-74) 。床パネルと軽量鉄骨 2700mm(柱)を除いた廃棄物で、この結びつきがあることがわかる。最も多くの結びつきを有した廃 棄物は、制作では柱として使われた軽量鉄骨 2700mm(梁)であり、累計 4 種の廃棄物と関係を築いた ことになる。梁やブレースなど多くの部材が柱に接合されているため、 必然の結果であったと言えよう。 また[ナレッジ:…ボルトの穴が設計されている (2)]とあるように、コレスポンダンスの中で他の廃 棄物を巻き込むかたちをしていたことも大きな要因であると考えられる。 また、一見関係のない軽量鉄骨 1800mm(根太)と壁パネルの結びつきは、 [イメージ:コンパクト に扱えるので即席の天板として便利 (6)]という壁パネルの中での[イメージ]から派生するものである。 これが結果として、 [オブジェクト:根太でつくった椅子の余った部分に乗せて、ローテーブルとして 使われる (6)]となっている。このように、ある廃棄物の変化によって、廃棄物同士が結びつき、その 先の[イメージ]を生むことがある。 軽量鉄⾻+ 折半屋根

軽量鉄⾻

タイトフレーム

床パネル

1800mm(根

1800mm(梁) [オブジェクト]の結びつき

1

太)

3

0

1

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻

1800mm(梁)

2700mm(梁)

3

ブレース

4

軽量鉄⾻

壁パネル

1

2700mm(柱)

1

0

図 3-74 制作Ⅱの[オブジェクト]の結びつきの総数

(2)廃棄物同士の[イメージ]の繋がり 廃棄物同士の繋がりの総数は、制作全体で 4 個あることがわかる(図 3-75) 。ここでは、具体的に折 半屋根と床パネルの繋がりを分析する。折半屋根での[イメージ:穴に合わせれば屋根をそのまま使う ことができ合理的 (3)]によって全体の寸法が大まかに決まったことを受け、 [イメージ:全体の寸法に 合わせて床を配置する (4)]という床パネルの[イメージ]に繋がっている。すなわち、 床パネルの配置は、 床パネルにおける意識の流れ[イメージ] 、物質の流れ[オブジェクト] 、他者性の流れ[ナレッジ]の 外側によって決定されたと言える。このように、 [イメージ]が廃棄物間を超えて繋がることで、新た


第 3 章 2 つの制作の分析

088

な転用を誘発し、 [オブジェクト]が生まれている。

軽量鉄⾻+ 折半屋根

軽量鉄⾻

タイトフレーム

床パネル

1800mm(根 太)

1800mm(梁)

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻

1800mm(梁)

2700mm(梁)

ブレース

軽量鉄⾻

壁パネル

2700mm(柱)

[イメージ]の繋がり(発)

2

0

0

0

1

1

0

0

0

[イメージ]の繋がり(受)

0

1

1

0

0

0

0

0

0

図 3-75 制作Ⅱの[イメージ]の繋がりの総数

(結論) 廃棄物同士の[オブジェクト]の結びつきは、関係ない廃棄物同士の物質の流れが合流するようにし て、転用が行われていることを示している。そしてその後、新しい[イメージ]をつくり出している。 これは、意識の流れが媒介しているとはいえ、廃棄物同士の物質の流れの相互作用によるコレスポンダ ンスと言える。 また、廃棄物同士の[イメージ]の繋がりは、関係ない廃棄物同士の意識の流れが影響し合うように して、転用が行われていることを示している。そしてその後、新しい[オブジェクト]をつくり出して いる。これは、ある廃棄物で起こったコレスポンダンスが、意識の流れを介して、別の廃棄物に対して 作用していると言える。


第 3 章 2 つの制作の分析

他者性の流れ

折半屋根の変化 意識の流れ

軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化

物質の流れ

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

床パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化 他者性の流れ

意識の流れ

軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化

他者性の流れ

物質の流れ

意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

他者性の流れ

物質の流れ

ブレースの変化 意識の流れ

物質の流れ

他者性の流れ

壁パネルの変化 意識の流れ

物質の流れ

軽量鉄骨 2700mm(柱)の変化

他者性の流れ

意識の流れ

物質の流れ

第0回

プロトタイプとして断面に合わせて カットしたベニア板を接合(0)

軽量鉄骨の変化

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

C チャンネルの寸法に合わさるように 何かをつけられる(0)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

屋根の部材との組み合わせで用いることができそうなもの(1)

先端が鋭利で危険(1)

制作へ

防水や排水のために

廃棄物からの コレスポンダンス

ベニア板から切り出した接合部を用いて、

柱として使われる(2)

廃棄物からの コレスポンダンス

合理的に設計された(2)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ 制作へ

床として使われる(2)

梁として使われる(2)

制作からの コレスポンダンス

使われない(2)

第2回

重いため、接合部に負荷が強くかかり、ベニア板では難しい(2)

もともとと同じ梁として使用できる(2)

制作へ

壁の一部として使われる(2)

制作からの コレスポンダンス

柱として使うには長さが足りず、天井が低くなってしまう

頑丈で根太は最小限で大丈夫(2)

制作へ

制作へ

かなり強固な構造となる(2)

直交するのフレームとなる(2)

できれば使わないほうが施工がしやすそうなもの(1)

使うことができそうなもの(1)

することができるのではないか(1)

制作へ

折半屋根がかかる方向の

非常に重く、扱いにくい。

軽くて頑丈であり、壁ではなくテーブルなどにも

柱同士をブレースでつなげる(2)

クロスさせて、三角形のフレームのように

第1回

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス

構造体として用いることができそうなもの

主要な構造体となるもの(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス 長さもあり重く、扱いにくいが、必要に合わせて

軽量鉄骨の中では扱いやすく、仮設の屋台をつくる際に

C 字の断面が扱いにくいが、赤く塗装されているため、 使ってみたいと思わせるもの(1)

制作へ

屋根として使われる折半屋根(2)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

もともと梁だった部材に比べ、重く、先端が塞がっており

木箱のようになっている(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

廃棄物からの コレスポンダンス 重くて持ち運びにくいが、とても頑丈で使いやすい

折半屋根を受けることができるので、

山が大きく、長くて扱いにくそうで、

手に持ってみる / 実測してみる(1)

手に持ってみる / 実測してみる(1)

廃棄物からの コレスポンダンス

制作へ

屋根として利用するといい(2)

天井の高さを出すことができる(2)

梁として使われる(2)

制作へ

柱として使われる(2)

柱や梁と接合するために

ボルトの穴が設計されている(2)

廃棄物+制作からの コレスポンダンス

あらかじめ空いている穴を用いて、 梁の取り付けも簡単にできる(2)

屋根として使われる(3)

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

ボルトで接合するために、

あらかじめモジュールに合わせた 穴が設計された(3)

廃棄物からの コレスポンダンス

第3回

既存の穴を有効活用してブレースを取り付けることもできる(3)

制作へ 屋根を受けるところに穴が空いており、

廃棄物からの コレスポンダンス

ボルトで屋根と梁を固定することができる(3)

制作へ

穴に合わせれば屋根をそのまま

屋根は固定された方がいいため、

使うことができ合理的(3)

寸法をこれに合わせる必要がある(3)

制作へ

制作へ 再度屋根として使われる(3)

折半屋根がかかる方向の梁として使われる(3)

飲食スペースのベンチやテーブルの

全体の寸法に合わせて床を配置する(4)

断面に合わせて、梁から何かを

構造として使用したい(4)

協働者からの 学び

制作へ

床として使われる(4)

道具を置いたりするための

作業スペースがあるといい(4)

制作へ

制作へ

柱として使われる(4)

建築の中と外の関係を緩やかにつくりたい(4)

協働者からの 学び

鉄骨の柱梁のため、構造的に

外側にも飲食用のテーブル

ブレースを入れられるところに入れた方がいい

として出したい(4)

建物の 3 面はブレースを入れたら安心(4)

協働者からの 学び

第4回

背面の壁にはちょっとした調理や、

穴が足りない箇所にだけ追加で穴あけ(4)

吊り下げることができる(4)

協働者からの 学び

協働者からの 学び カウンターが入る面以外に使われる(4)

テーブル・ベンチの構造として使われる(6)

ルーバーの外壁が吊り下げられる 梁として使われる(6)

カウンターテーブルと飲食カウンターの 天板として使われる(6)

廃棄物からの コレスポンダンス コンパクトに扱えるので即席の天板として便利(6)

制作へ 根太でつくった椅子の

余った部分に載せて、

ローテーブルして使われる(6)

図 3-73 制作Ⅱの全体 C

第6回

089


第 3 章 2 つの制作の分析

3.3.7 制作Ⅱの補足資料

図 3-76 スケッチ 1

図 3-77 スケッチ 2

090


第 3 章 2 つの制作の分析

図 3-78 スケッチ 3

図 3-79 スケッチ 4

091


第 3 章 2 つの制作の分析

3.4

092

制作Ⅰと制作Ⅱの包括的分析

制作Ⅰ(都市空間の廃棄物による制作)と制作Ⅱ(仮設住宅の廃棄物による制作)は、廃棄物を素材 として用いるという点については軸を共有する制作である。しかし、制作Ⅰでの気づきが制作Ⅱに反映 されており、そもそもこれらの制作が行われていた条件が違うなど、共有しないことも多々ある。廃棄 物の種類、最終アウトプットの要件、協働者の有無、行なった日数や時期など、様々な異なる点もある ため、単純に比較することはできない。以降では、この点を踏まえつつ、2 つの建築制作プロセスを包 括的に分析していく。

3.4.1 制作Ⅰと制作Ⅱの関係性について

制作Ⅰは、慶應義塾大学環境情報学部の卒業プロジェクトとして行われた。制作した家と制作過程か らなるリサーチノートが成果物となり、建築系の卒業制作として完成したものであった。制作Ⅰの概要 でも示した通り、当時の興味は廃棄物そのものではなく、0 円で家はつくれるのだろうか?という素朴 なものであった。制作を終え、実際につくれたことへの満足感以上に、0 円で獲得できる素材として、 廃棄物には隠された魅力があるように直感した。廃棄物を扱っているときの自分の身体は、規格化され た素材を扱っているときのそれ以上に、創造的であるように思えた。この根源にあることはなんだろう か、と考えた時、廃棄物そのものに、私の創造性を誘導する何らかの作用があるのではないか、という 仮説に辿り着いた。 そのようなことを思索している時、慶應義塾大学小林博人研究会(以下、小林研)にて、新しいプロ ジェクトが発足した。それが制作Ⅱである。プロジェクトのリーダーを引き受けると同時に、廃棄物へ の関心を探究していくことはできないかと思うようになった。そのとき、偶然ながらも仮設住宅の部材 が廃棄されていることがわかり、この廃棄物を素材として転用しようという考えに至った。先述した仮 説を、制作に最大限反映させるために、できるだけ廃棄物の声に耳を澄ますことを意識するようにした。 構想を練って、模型でスタディして、実施設計をする、という流れで進むことが多い中で、構想は練ら ずに、はじめから廃棄物に囲まれた環境で制作をスタートさせることを行なった。そのため、制作Ⅱで は、廃棄物とコレスポンドするための濃密な制作合宿が設定され、実寸スケールで手を動かしながら制 作を行なった。 このように制作Ⅰと制作Ⅱでは、同じ目線で廃棄物を見ているとは言い難い。むしろ制作Ⅰでの興味 関心をより探究するようにして、制作Ⅱが行われていると考える方が自然である。上記したような探究 の過程における2つの制作であることに留意したい。


第 3 章 2 つの制作の分析

093

3.4.2 第3のコレスポンダンスの発見

2 章で提示した仮説の制作モデルでは、意識の流れ[イメージ]と物質の流れ[オブジェクト]のあ いだで起こる<意識―物質コレスポンダンス>と、 意識の流れ[イメージ]と他者性の流れ[ナレッジ] のあいだで起こる<意識―他者性コレスポンダンス>の2つのコレスポンダンスを提示した。しかしな がら、この2つのコレスポンダンスだけで説明することのできない、意識の流れ[イメージ]と物質の 流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]が作用して起こる<意識・物質・他者性コレスポン ダンス>の存在があることがわかった。これらは制作全体のダイアグラムにて、赤色と白色のグラデー ションで示されている。<意識―物質コレスポンダンス>と<意識―他者性コレスポンダンス>は、そ れぞれ2つの流れのあいだで起こるのに対し、<意識・物質・他者性コレスポンダンス>は、3つの流 れのあいだで起こる。廃棄物ごとの分析で見たように、<意識・物質・他者性コレスポンダンス>は、 廃棄物の変化が大きく、より創造性の高い転用を引き起こすことがある。 さらに、この<意識・物質・他者性コレスポンダンス>には、他者性の流れ[オブジェクト]→物質 の流れ[オブジェクト]→意識の流れ[イメージ]という関係で生まれる<意識―物質―他者性コレス ポンダンス>と、物質の流れ[オブジェクト]→他者性の流れ[オブジェクト]→意識の流れ[イメー ジ]という関係で生まれる<意識―他者性―物質コレスポンダンス>がある。制作全体のダイアグラム にて、前者は左側が白色で右側が赤色のグラデーションで表され、後者は左側が赤色で右側が白色のグ ラデーションで表されている。これは大きく特徴が異なるため、以下で個別に分析していく。

(1)物質の流れ[オブジェクト]を基軸とした第3のコレスポンダンス 他者性の流れ[オブジェクト]→物質の流れ[オブジェクト]→意識の流れ[イメージ]という関係 で生まれる<意識―物質―他者性コレスポンダンス>について分析する。これは、制作Ⅰにおいて 9 個 見られ、制作Ⅱでは見られていない。制作Ⅰでもこのコレスポンダンスは第 1 回〜第 12 回の制作の前 半でのみ見ることができる。<意識―物質―他者性>コレスポンダンスを抜き出すと、このコレスポン ダンスは、他者に深く入り込み、その制作によって生まれた物質に接近したときに見られるものである ことがわかる。 たとえば、木製パレットの<意識―物質―他者性コレスポンダンス>について検討する。このとき、 私は[ナレッジ:…家の壁のつくり方]を得ようと思い、いくつかの路上生活の観察を行う。すると、 そこに[オブジェクト:家の壁として使われていた木製パレット]を見つけ出すことができる。結果と して、木製パレットについての[イメージ:家を強固にする面材のようなもので、簡単に組み立てるこ とができそうなもの / パレットで壁をつくれば強固になる]を獲得する。このようにして、ある他者を 深く観察することで、その他者によってつくられた物質が現れ、それに応答するようにして、新しい意 識を得ることができるのである。


第 3 章 2 つの制作の分析

廃棄物名

094

時間

他者性の流れ[ナレッジ]

物質の流れ[オブジェクト]

意識の流れ[イメージ]

第1回

傘を⽤いた壁のつくり⽅

ダンボールの上から置かれた傘

ダンボールとの間に空間を作ることで、

⾬で濡れるのを防いだり、 1

空間を広げているようなもの

ビニール傘 2

第8回

傘を⽤いたカバーのやり⽅

ダンボールをカバーするために 使われた傘

⾬⾵の侵⼊を防ぐもの ダンボールが濡れないように ビニール系の材料でカバーするといい ⾬⾵の侵⼊を防ぐもの/

3

第1回

上からの侵⼊を守る

天井にかけられたブルーシート

ダンボールが濡れないように ビニール系の材料でカバーするといい

4

ブルーシート

5 制作Ⅰ

第8回

ダンボールなど、家を濡らさない

第12回

6

第1回

多摩川の⾬から守る

ダンボールをカバーしている ブルーシート

寝室にだけかぶせられた ブルーシート

ダンボールを⽤いた

コンパクトな家の材料として

家のつくり⽅

使われているダンボール

ダンボール 7

第8回

ダンボールを⽤いた 家のつくり⽅

⾬⾵の侵⼊を防ぐもの/ ダンボールが濡れないように ビニール系の材料でカバーするといい 寝る際の⾬を防ぐために使⽤するもの/ 全体が⾬から防ぐことができなくても、 寝室だ濡れなければなんとかなる 簡単に持ち運べ、 コンパクトに収納できるもの/ 家をコンパクトにするにはダンボールがいい 同じサイズだと連結させられて

4つに連結させられたダンボール

筒のようなものがつくれるもの ダンボールを連ねることで、 ⼈が⼊れる⻑細い空間をつくることができる

8

9

細い⾓材

⽊製パレット

第12回

第12回

⻑い⽊材のつくり⽅

家の柱として継ぎながら 使われていた短い⽊材

路上⽣活者の

家の壁として使われていた

家の壁のつくり⽅

⽊製パレット

繋いでいけば⻑い材料を作ることができるもの/ 短い⽊材を継ぐことで⻑い柱などを つくることができる 家を強固にする⾯材のようなもので、 簡単に組み⽴てることができそうなもの/ パレットで壁をつくれば強固になる

図 3-80 <意識―物質―他者性コレスポンダンス>のリスト

(2)他者性の流れ[ナレッジ]を基軸としたコレスポンダンス 物質の流れ[オブジェクト]→他者性の流れ[オブジェクト]→意識の流れ[イメージ]という関係 で生まれる<意識―他者性―物質コレスポンダンス>について分析する。これは、制作Ⅰにおいて 1 個 見られ、制作Ⅱでは 4 個見られる。制作Ⅰでは第 20 回に、制作Ⅱでは第 3 回〜第 4 回に、すなわちこ のコレスポンダンスは、制作の中盤でのみ見ることができる。<意識―他者性―物質コレスポンダンス >を抜き出すと、このコレスポンダンスは、物質に深く入り込み、関わった他者の意図に接近したとき に見られるものであることがわかる。 たとえば、細い角材の<意識―他者性―物質コレスポンダンス>について検討する。このとき、私 は[オブジェクト:解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、端が斜めにカットされた木材]と向き合い、 そのかたちから何をつくれるのかを思考する。すると、これを過去に制作した人の[ナレッジ:木材を 斜めに用いる]が目の前に現れ、 そこから学ぶことができる。結果として、 細い角材についての[イメー ジ:斜めに使うことで、家を構造的に強くしてくれるもの]を獲得する。このようにして、ある物質を 深く観察することで、その物質をつくった他者が現れ、それに応答するようにして、新しい意識を得る ことができるのである。


第 3 章 2 つの制作の分析

廃棄物名

時間

物質の流れ[オブジェクト] 解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、

1 制作Ⅰ 細い⾓材

第20回

2

第2回

屋根として使われる折半屋根

第3回

屋根として使われる

端が斜めにカットされた⽊材

折半屋根 3 制作Ⅱ 4

⽊材を斜めに⽤いる

防⽔や排⽔のために 合理的に設計された ボルトで接合するために、 あらかじめモジュールに合わせた ⽳が設計された

軽量鉄⾻+ タイトフレーム 第2,3回 1800mm(梁)

5

他者性の流れ[ナレッジ]

軽量鉄⾻ 2700m(梁)

第2回

折半屋根がかかる⽅向の 梁として使われる

柱として使われる

ボルトで接合するために、 あらかじめモジュールに合わせた ⽳が設計された

095

意識の流れ[イメージ] 斜めに使うことで、 家を構造的に強くしてくれるもの

屋根として利⽤するといい

⽳に合わせれば屋根をそのまま 使うことができ合理的 屋根を受けるところに⽳が空いており、 ボルトで屋根と梁を固定することができる

柱や梁と接合するために

あらかじめ空いている⽳を⽤いて、

ボルトの⽳が設計されている

梁の取り付けも簡単にできる

図 3-81 <意識―他者性―物質コレスポンダンス>のリスト

(結論) <意識―物質―他者性コレスポンダンス>も<意識―他者性―物質コレスポンダンス>は、それぞれ プロセスに違いはあるものの、ともに物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]のあい だのコレスポンダンスと、それらを意識の流れ[イメージ]のコレスポンダンスによって形成されてい る。<意識―物質コレスポンダンス>や<意識―他者性コレスポンダンス>に比べて、2倍量のコレス ポンダンスが起こっている、もしくはそれぞれが 1 回ずつ起こっていると考えることもできる。


第 3 章 2 つの制作の分析

096

3.4.3 コレスポンダンスのつらなり

各廃棄物の変化において、関係性は長く続き、また廃棄物同士の関係性も生まれていることを踏まえ ると、それぞれのコレスポンダンスを個別の現象として理解するだけでは不十分である。すなわち、コ レスポンダンスのつらなりとして、廃棄物の変化や、各廃棄物における関係性の長短、廃棄物同士の関 係性の有無などを加味していくことが必要であろう。 (3.1.5)と(3.1.6)で提示した分析は、そのコレ スポンダンスのつらなりを理解する上で重要な作業である。 (3.2.5)と(3.3.5)では、<山>と<谷>、 またそれらの連続である<山脈>として記述された曲線によって、廃棄物のコレスポンダンスを時間軸 の中で整理した。これは、各廃棄物におけるコレスポンダンスの種類、数、有無などが、時間軸によっ て整理されているため、制作においてコレスポンダンスが連続することの意味や可能性が導出されるだ ろう。また、 (3.2.6)と(3.3.6)では、廃棄物の[オブジェクト]同士が<山脈>を超えて結びついて いることや、廃棄物の[イメージ]が<山脈>を超えて他の廃棄物と繋がっていることを整理した。こ れは、各廃棄物同士の関係性が整理されているため、制作においてコレスポンダンスが越境することの 意味や可能性が導出されるだろう。以下ではそれらを(1)連続するコレスポンダンス(2)越境するコ レスポンダンスに大別し、より詳細に分析する。

(1)連続するコレスポンダンス 連続するコレスポンダンスに注目するために、<山脈>で表されるダイアグラムをより図形的に俯 瞰する(図 3-36+ 図 3-70) 。コレスポンダンスが連続するとき、図形の<山>と<谷>が密集している。 この密集を追うことで、制作全体でどの部材がどのタイミングで、どの程度コレスポンダンスをしなが ら扱われているのかがわかる。制作Ⅰにおけるブルーシートの変化の第 12 回〜第 19 回や、制作Ⅱにお ける軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化の第 1 回〜第 2 回では、多くの<山>と<谷>密集している。確か にブルーシートはこの期間に、様々な張り方を試行錯誤することによって最終形の屋根として使われる ようになり、軽量鉄骨 2700mm(梁)はこの期間に、様々な傾きを試行錯誤することによって最終形に 柱として使われるようになっている。なかでも、細い角材の変化は常に<山>と<谷>が現れており、 制作Ⅰの中心的素材となったことがわかる。このように、<山>と<谷>が多く現れ、密集することは、 廃棄物がその分変化していることを示し、転用において創造的であると言えるだろう。 また、<山>と<谷>が密集するところには、廃棄物同士の関係性も多く見ることができる。 このように連続するコレスポンダンスには、制作の中での創造的なはたらきが起こっていることがわ かる。

(2)越境するコレスポンダンス これまで見てきたように、越境するコレスポンダンスには、建築物を構成する部材同士の関係性とい う点で[オブジェクト]同士が結びつくことや、物理的な結びつきはないとしても、制作を通じて他の 廃棄物とのコレスポンダンスが、また他の廃棄物への意識へと還元される[イメージ]同士が繋がるこ


第 3 章 2 つの制作の分析

097

とがある。2つの制作を通じて、 [オブジェクト]同士の結びつきは 19 個、 [イメージ]同士の繋がり は 6 個あることがわかる(図? + ?) 。例えば、制作Ⅰにおける細い角材の[オブジェクト:継ぎ接ぎ され柱になった木材(27) ]と石膏ボードの[柱と柱の間に、 等間隔に貼られた石膏ボードの端材(29) ] の結びつきを見ると、これらは双方が存在しなければ、制作としては成り立たないと言える。つまり、 その[オブジェクト]としての細い角材が存在しない限り、その[オブジェクト]としての石膏ボード は存在することができない。他の廃棄物の物質の流れ[オブジェクト]に応答するという意味で、これ は、これまで見てきたコレスポンダンスと同様の作用があることがわかる。そしてこれは<意識―物質 コレスポンダンス>に近いものがあるだろう。 また、 [イメージ]同士の繋がりについて、制作Ⅱの具体例をみると、折半屋根の[イメージ:穴に 合わせれば屋根をそのまま使うことができ合理的]が床パネルの[イメージ:全体の寸法に合わせて床 を配置する]に繋がっている。これは、折半屋根の変化で起こった意識の流れ[イメージ]に対して、 床パネルの変化における意識の流れ[イメージ]が応答するようにしているという意味で、<意識―他 者性コレスポンダンス>に近いものがあるだろう。 このように越境するコレスポンダンスには、今までコレスポンダンスとされていなかったが、制作に おける相互作用を促進するはたらきがあることがわかる。

(結論) 連続するコレスポンダンスには、その制作における創造的な場面を示している。また、逆説的に、コ レスポンダンスが連続することは想像的である。越境するコレスポンダンスは、建築制作のように部材 数の多い制作の特徴である。また、他の[オブジェクト]や[イメージ]に応答するように制作を行う ため、 [オブジェクト]同士の結びつきと[イメージ]同士の繋がりもまたコレスポンダンスの一種で あると言えよう。そして、これらが多いほど、より強固な関係性として制作が営まれる。


第 3 章 2 つの制作の分析 廃棄物名1 1

時間

物質の流れ[オブジェクト]

第19回

ブルーシートの屋根を⽀えるアルミサッシ

第29回

窓枠として使われたアルミサッシ

第1回

ダンボールの上から置かれた傘

第16回

⽊材に巻き付けられたブルーシート

廃棄物名2

時間

ブルーシート

第19回

細い⾓材

第27回

ダンボール

第1回

細い⾓材

第16回

⼩さい⽊の板

第21回

ベニア板

第20回

第29回

構造⽤ボードに曲がって刺さっていた釘

細い⾓材

第27回

継ぎ接ぎされ柱になった⽊材

⽊製パレット

第25回

リビングの⼟台として使われる

第20回

⽯膏ボード

第29回

アルミサッシ 2

3

ビニール傘

4 ブルーシート

屋根として使われている

5

第16回

6 制作Ⅰ ダンボール

第20回

壁と堤防の隙間に⼊れられたダンボール

7

第29回

たくさんの釘が刺さった⾯材

第29回

フック付きのリビングの壁

ブルーシート

098

物質の流れ[オブジェクト] テントのように使われている ブルーシート 継ぎ接ぎされ柱になった⽊材 コンパクトな家の材料として 使われているダンボール ブルーシートを巻きつけるために 接合して使われた⽊材 屋根の垂⽊のようなものとして使う 解体屋の廃棄置き場に捨てられていた、 ⾃分の⾝⻑よりちょっと⻑いベニア板

ベニア板 8

9

サイディング

第26回

制作者によって床に敷かれ、 リビングの床として使われる

10 細い⾓材

第27回

継ぎ接ぎされ柱になった⽊材

11

12

折半屋根

第3回

再度屋根として使われる

軽量鉄⾻+

タイトフレーム 第3回

建設現場の⼤⼯さんから ⼤量にもらった新品の釘 柱と柱の間に、 等間隔に貼られた⽯膏ボードの端材 折半屋根がかかる⽅向の梁として使われる

1800mm(梁) 13

軽量鉄⾻

軽量鉄⾻+ タイトフレーム 第3回 1800mm(梁)

14

軽量鉄⾻

15 制作Ⅱ 16

17

18

19

折半屋根がかかる⽅向の梁として使われる

2700m(根太)

軽量鉄⾻ 1800m(梁)

1800m(梁) 軽量鉄⾻ 2700m(梁)

第6回

テーブル・ベンチの構造として使われる

壁パネル

2700m(梁)

第2回

第6回

ルーバーの外壁が吊り下げられる 梁として使われる 柱として使われる 根太でつくった椅⼦の 余った部分に載せて、 ローテーブルして使われる

ブレース 第2回

柱として使われる

軽量鉄⾻ 2700m(梁)

軽量鉄⾻

第6回

第2回

柱として使われる

第2回

柱同⼠をブレースでつなげる

第2回

柱として使われる

第2回

柱同⼠をブレースでつなげる

第3回

カウンターが⼊る⾯以外に使われる

ブレース 第4回

柱として使われる

図 3-82 [オブジェクト]同士の結びつきのリスト


第 3 章 2 つの制作の分析

廃棄物名(発) 時間

意識の流れ[イメージ]

廃棄物名(受) 時間

どこでも拾えるため、即興的に⾵を防いだり、 1

ダンボール

第8回

視線を遮ったりすることができるもの/

意識の流れ[イメージ]

簡単に重ねられて、⾵を⽌めてくれる⼀⽅、 サイディング

第17回

冷たい床から⾝体の体温を保持してくれるもの 2 制作Ⅰ

099

それ⾃体がとても冷たくなってしまい、 寒さの原因になるもの

第20回

⽊材を接合するには最も適したもの

細い⾓材

第24回

たくさん繋ぎ合わせたら柱になるもの

第29回

そのままフックとして使えるもの

ベニア板

第29回

荷物をかける壁のようなもの

釘 3

軽量鉄⾻+

4 折半屋根

第3回

5 制作Ⅱ

6

軽量鉄⾻ 1800m(梁)

第2回

⽳に合わせれば屋根をそのまま 使うことができ合理的

柱として使うには⻑さが⾜りず、 天井が低くなってしまう もともとと同じ梁として使⽤できる

タイトフレーム 第3回 1800mm(梁) 床パネル 軽量鉄⾻ 2700m(梁)

屋根は固定された⽅がいいため、 ⼨法をこれに合わせる必要がある

第4回

全体の⼨法に合わせて床を配置する

第2回

天井の⾼さを出すことができる

図 3-83 [イメージ]同士の繋がりのリスト


第 4 章 結論・考察・展望

4

100

結論・考察・展望

100

4.1

101

結論

4.1.1

円筒モデル

101

4.1.2

円筒の連関

104

4.1.3

入れ子の他者性

105

4.1.4

廃棄物を転用することの可能性

106

4.2

考察

108

4.3

展望

109


第 4 章 結論・考察・展望

4.1

101

結論

2章で仮説として提示した3つの流れのコレスポンダンスによる制作モデルと、3 章で行なった制作 Ⅰ(都市空間の廃棄物による制作)と制作Ⅱ(仮説住宅の廃棄物による制作) 、並びに双方の包括的分 析を踏まえ、結論として廃棄物を転用することの制作モデルを示す。この制作モデルは、仮説で提示し たモデルを下敷きに、<円筒モデル(4.1.1)>、<円筒の連関(4.1.2)>、<入れ子の他者性(4.1.3) >の3つの段階によって多次元的に示される。これらを踏まえ、意識・物質・他者性の相互作用として 建築制作を理解するとき、廃棄物の転用にはどのような可能性があるのか(4.1.4)を提示する。

4.1.1 円筒モデル

第 2 章で提示した制作モデルでは、意識の流れの線を中心に引き、その右に物質の流れの線を、その 左に他者性の流れの線を引いた。その上で、それぞれの流れの上に[イメージ] 、 [オブジェクト] 、 [ナ レッジ]として点をとり、この点同士の相互作用の関係として[イメージ]と[オブジェクト]のあい だ、そして[イメージ]と[ナレッジ]のあいだを両向き矢印で結んだ。そして、意識の流れ[イメー ジ]と物質の流れ[オブジェクト]のあいだのコレスポンダンスを<意識―物質コレスポンダンス>と 呼び、意識の流れ[イメージ]と他者性の流れ[オブジェクト]のあいだのコレスポンダンスを<意識 ―他者性コレスポンダンス>と呼んだ(図 4-1) 。

図 4-1 仮説の制作モデル

しかし、これまで見たように、この2つのコレスポンダンスとは違う、第3のコレスポンダンスが発 見された。これは意識の流れ[イメージ]と物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[オブジェク ト]の3つの流れのあいだで起こっているものであり、<意識・物質・他者性コレスポンダンス>と呼 ぶこととした。すなわち第 3 のコレスポンダンスである<意識・物質・他者性コレスポンダンス>が分


第 4 章 結論・考察・展望

102

析によって明らかにされたため、仮説の制作モデルに、もう一つの両向き矢印を記入することが求めら れる(図 4-2) 。

図 4-2 第3のコレスポンダンス

また、分析した通り、この<意識・物質・他者性コレスポンダンス>は、物質の流れ[オブジェクト] を基軸とするものと、他者性の流れ[ナレッジ]を基軸にするものの存在がある。第 3 のコレスポンダ ンスを構成する、ふたつのコレスポンダンスとして、前者を<意識―物質―他者性コレスポンダンス>、 後者を<意識―他者性―物質コレスポンダンス>とすることで、意識の流れ[イメージ]を中心線とし た、線対称のコレスポンダンスが描かれる(図 4-3) 。

図 4-3 意識の流れを軸とした線対称のコレスポンダンス

これを踏まえると、第3のコレスポンダンスの発見により、物質の流れ[オブジェクト]と他者性の 流れ[ナレッジ]のあいだに両向き矢印が存在することがわかる。これを制作モデルに反映するには、 仮説では平面で捉えていた制作モデルを、円筒状の三次元立体のダイアグラムとして考えるべきことが わかる(図 4-4+4-5) 。これによって描かれる制作モデルを<円筒モデル>と呼ぶこととする。


第 4 章 結論・考察・展望

図 4-4 3次元的に制作を捉える

図 4-5 <円筒モデル>

103


第 4 章 結論・考察・展望

104

4.1.2 円筒の連関

(4.1.1)では、各廃棄物とのコレスポンダンスによる制作を図式化する際に、平面的ではなく、立体 的に捉える<円筒モデル>が適切であることを示した。この<円筒モデル>が示しているのは、一つの 廃棄物を、意識の流れ[イメージ] 、物質の流れ[オブジェクト] 、他者性の流れ[ナレッジ]の関係性 として見たときの変化である。しかしながら、これまでも見てきたように、建築制作において部材同士 は様々なかたちで接合されているため、制作全体を捉えるとき、廃棄物同士の関係性を無視することは できない。すなわち、制作全体のプロセスを見る際、個々の廃棄物の外側のコレスポンダンスを加味す る必要がある。これは、いくつかの<円筒モデル>同士が両向き矢印で結ばれているように図式化でき る(図 4-6) 。このように円筒同士のコレスポンダンスによって、それぞれの廃棄物が連関し、制作の全 体を構築していると見ることができる。

図 4-6 円筒の連関


第 4 章 結論・考察・展望

105

4.1.3 入れ子の他者性

<円筒モデル>において示される、物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]のあい だにある両向き矢印(コレスポンダンス)について検討する。これは、第3のコレスポンダンスとして 定義された、<意識・物質・他者性コレスポンダンス>の一部を成すものである。 物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]は、 私の主観である意識の流れ[イメージ] からは離れた、外側の世界に存在する。<意識・物質・他者性コレスポンダンス>は、外側の世界で起 こっているコレスポンダンスと、内側の世界で起こっているコレスポンダンスがつながって生まれてい るコレスポンダンスである。というのも、物質の流れ[オブジェクト]と他者性の流れ[ナレッジ]の コレスポンダンスとは、この他者にとっての[意識の流れ[イメージ]と物質の流れ[オブジェクト] の<意識―物質コレスポンダンス>と考えることができるからである。たとえば、私(制作者)の意識 では、ある路上生活者という他者が、ダンボールという物質に応答しながら彼らの家をつくるというも のも、その路上生活者にとってみれば、 (路上生活者である)私の意識が、ダンボールという物質に応 答しながら自らの家をつくるということになるのだ(図 4-7) 。

図 4-7 他者性の流れに関するスケッチ

つまり、ある他者にとっての意識の流れ[イメージ]と物質の流れ[オブジェクト]のコレスポンダ ンスと、私から見た他者性の流れ[ナレッジ]と物質の流れ[オブジェクト]のコレスポンダンスは同 じである。すると、他者性[ナレッジ]と物質の流れ[オブジェクト]によるコレスポンダンスを見る ことができる廃棄物という素材において、 他者性[ナレッジ]=他者にとっての意識の流れ[イメージ] が成り立つ。すなわち、他者性[ナレッジ]は入れ子状に3つの流れを汲んでおり、原理上、廃棄物と のコレスポンダンスによって制作する限り、コレスポンダンスは無限に続くのである(図 4-8) 。 このような状況を他者性が<入れ子>になっていると表現したい。この<入れ子>によって、廃棄物 による制作が、コレスポンダンスによって無限に延長されていく。それと同時に、私もまた、次なる誰 かにとっての他者であり、私の制作は、その誰かにとっての他者性の流れ[ナレッジ]である。


第 4 章 結論・考察・展望

106

図 4-8 入れ子の他者性

4.1.4 廃棄物を転用することの可能性

ここまで制作モデルを中心に、廃棄物を転用することの意義を見てきた。より一般的な言葉に言い直 すとしたら、これら廃棄物を転用することの可能性は、以下の 3 つの要点としてまとめられる。

(1)廃棄物が素材として持っている価値と素材として扱うための態度 これまで見てきたように、廃棄物を転用するプロセスは、意識と物質と他者性のコレスポンダンスで 捉えることができる。また、その廃棄物と以前の所有者のコレスポンダンスに対して、制作者である私 が応答する過程があることもわかった。すなわち、廃棄物は、ある他者とある物質の関係性の現れとし て見ることができる。そして、このある他者とある物質の関係性に、制作者の意識も応答していくこと で、転用が促進されることもわかった。

(2)建築制作における廃棄物の転用の可能性 制作全体を記述した際にわかったように、廃棄物を転用して行った建築制作では、廃棄物同士が関係 性を持つことがある。これは、建築制作は部材同士の結びつきが強いということの裏付けとも言える。 そしてこれらの廃棄物同士が関係性を持つことで、一方の廃棄物における変化が、他方の廃棄物の変化 に影響を与えることがわかった。つまり、建築制作において、転用される廃棄物でも、転用する制作者 でもなく、他の廃棄物によって、その廃棄物の転用を決定することがあることがわかった。そしてその ような関係性が多数存在することも明らかになった。


第 4 章 結論・考察・展望

107

(3)他者性によって生まれる制作の循環 他者性の流れとは、 一段階前の制作における意識の流れであることが明らかになった。これによって、 時間軸を跨ぐかたちで、他者性の流れ=意識の流れとなり、他者性は入れ子状になっていると考えるこ とができた。つまり、自分という制作者を考えたとき、関係性の中で制作を行うことによって、自分の 意識の流れが、次の制作者にとっての他者性の流れとなることがわかる。このようにして、制作を繋げ ていくことによって、理論上時間軸を遡行するような制作による循環が提示された。


第 4 章 結論・考察・展望

4.2

108

考察

(1)関係性による制作の分析 構想が先行する制作に疑問を投げかけ、主体性の強い制作者を批評し、その打開策として関係論的制 作を提示するこれまでの芸術学や人類学の取り組みを参照にしつつ、具体的なケーススタディを分析す るのは未踏の領域であった。とくに、廃棄物という素材的特徴を、制作における他者性とナレッジとい う概念にあてはめ、意識・物質・他者性の相互作用として制作を記述することを達成したのは、本論文 の大きな成果と言える。具体的な制作実践を裏付けにし、インゴルドが捉えていたダイアグラムを更新 したこともまた評価できるだろう。 一方で、制作における関係項が意識・物質・他者性という3項で必要十分であったかに関しては、明 確にできていない。制作の中で見落としている関係項や、そもそも提示したこれら 3 つの関係項の具体 的表現については、今後の更なる探究が求められる。

(2)転用の射程 これまでの転用に関する言説は、物質的な有用性を中心に添えたものであった。しかしながら、本論 文は廃棄物という素材に着目することで、 転用には観念的なはたらきが作用しうることを明らかにした。 これは転用の射程を押し広げるものとして評価できるだろう。一方で、そのプロセス特有の創造性など には言及ができず、観念的なはたらきが制作全体にどのように関係するのかについては今後の分析主題 になってくると思われる。また、本論文では建設に関連する廃棄物を扱っているが、元の所有者との関 係性が深い廃棄物は建設に関連しないところにも多数存在すると想像できる。このような素材そのもの を再考することで、より転用の射程を広げることが今後の課題である。

(3)制作物の評価 廃棄物を転用した建築制作を実際に 2 回行い、そのプロセスを意識・物質・他者性の観点から分析す ることで、つくることの探究を行なった。制作Ⅰ(都市空間の廃棄物による制作)は、卒業制作として 「SFC 環境デザイン表彰奨励賞」や「SDL2019 100 選」を受賞した。また、制作Ⅱ(仮設住宅の廃棄物 による制作)は、オリンピック延期に伴い実用はまだされていないものの、実際に完成して町へのお披 露目をした。このように制作物は一定の評価を得ていると考えることはできるが、果たしてそれが「よ い制作」であるかは定義することが難しい。本研究では、その建築制作プロセスに関して、廃棄物を転 用することの意義や特徴、可能性は示せているものの、その制作を「よい」と断言することは難しい。 廃棄物の転用は、新品至上主義とでも言える消費文化へのアンチテーゼでもある。そのことを踏まえる と、新品によってつくられる制作物よりも、廃棄物の転用によってつくられる制作物の方が優れている と言える点を、客観的に示す必要があっただろう。本研究では、その優劣を比較検討するには至らず、 差異を示すにとどまった。この点に関しては、これからの研究活動、ならびにこれからの制作活動にお いて、廃棄物の転用を探究して実践していくことで、追い求めていきたい。


第 4 章 結論・考察・展望

109

(4)建築のスケールと一般化 建築制作では、スケールが大きくなれば、扱う素材の量や数が増えるだけでなく、構造や法規やプロ グラムなど、考慮に入れなければならないことが増える。そして、建築作品としての意義が高まる。廃 棄物を転用するという手法も、よりスケールとして大きなものとして挑戦することが求められるだろ う。本研究では、 「建築制作プロセスの分析」と銘打ちながらも、 その分析対象は小規模な建築であった。 自らが行った制作をケーススタディとしているため、 自らの未熟さを反映したスケールではあるものの、 徐々に大きなスケールへと移行し、様々な知見を都度獲得することが必要だろう。次のステップでは、 リノベーションなどを手がけ、コレスポンダンスによってどの程度制作を進めることができるのかを探 究することは、今後の最重要課題である。本研究では、コレスポンダンスによる制作の理解を示すこと はできたが、廃棄物を転用する制作を手法として一般化することはできなかった。コレスポンダンスを 重視するため、ここでの一般化は、個別具体の制作手法というよりも、よりメタな制作手法となるだろ う。このようなメタな手法として、制作者たちのあいだで浸透していくことによって、ようやく廃棄物 を転用することが一般化しうる。今後の自らの実践を積み上げ、ときに振り返ることを通じて、取り組 んでいきたい課題である。


第 4 章 結論・考察・展望

4.3

110

展望

私は、人間とものの関係性を捉え直すことを通じて、社会を良くしていきたい。社会を良くするとは 漠然的に写るかもしれない。しかし、本論文の執筆と分析を行った制作などを深めていくうちに、人間 とものの関係性というテーマは、多くの社会構造の根底にあるものだと確信するようになった。多くの 場合、私たちは「もの」を大切にする必要がない。 「もの」は、また買えるものであり、交換可能なも のであるからだ。高性能なものが次々と生産され、私たちは消費に走る。街も、インターネットも、私 たちの消費欲を煽る広告で埋め尽くされている。このような時代を、豊かな時代だと言うかもしれない が、人間とものの関係性について言えば、貧相な時代だろう -1。私たちは、 「もの」を、人間よりも遥か に価値のないものとして生活している。

このような価値観は、 「もの」が無限に存在する世界であれば有意義だったかもしれない。しかし、 周知の通り、地球に対して資源は有限である。人間の活動が自然に対して与える影響が大きければ、自 ずと何らかのフィードバックが人間に返ってくるのである。この現実が、実態として現れているのが、 近年の気候変動を代表とする惑星規模の問題である。日本でも、近年台風の甚大な被害に見舞われてい るように、異常と呼ばれる気候の影響を受けている。世界に目を向けると、これらの気候変動の影響を 受けているのは、アジアやオセアニアのいわゆる発展途上国と呼ばれる地域が多い。この国々は二酸化 炭素の排出量も少ないにも関わらず、先進国がこれまで行ってきた経済活動の影響を受けている。この ような不平等は、グローバル・サウスの問題として世界的に注目されており、気候変動に限った話では 終わらず、安価な労働力や農産物の搾取なども問題となっている。これは第2章で述べた、強い主体の 問題である。先進国の私たちは、常に負担を周辺に押し付けることで現在の生活を維持しているのであ る。ここでは、 個々の問題は追求しないが、 一点だけ強調したいのは、 現在の消費文化を支えるように 「も の」を扱うことは、周辺で生きる、どこかの人、そしていつかの人を殺しうる、ということである。遅 かれ早かれ、このような周辺の搾取によって成り立つ資本主義システムは見直しが迫られるだろう。さ もなければ、生存すらも危ぶまれる時代に突入することになる -2。

このような時代のもと、資源や物質を扱うことで制作を行う建築家・デザイナーとして、どのような 循環を設計する必要があるだろうか。制作モデルを検討する際にも見てきた通り、リサイクルはエネル ギーが莫大にかかる。もちろん技術革新によって、より効率的に処理することができるかもしれない。

-1 人類学者のデヴィッド・グレーバーは、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の好例として、このような 消費を促す広告関連の仕事を挙げる。デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』 酒井隆史+芳賀達彦+森田和樹訳、岩波書店、2020 年 -2 イギリスでは「Extinction Rebellion(絶滅への反抗) 」という市民社会運動が起こっている。生存や絶滅という ことに対する危機感が、市民レベルで強く抱かれていると言えるだろう。Extinction Rebellion web サイト:https:// rebellion.global/(最終閲覧 2020 年 12 月 31 日)


第 4 章 結論・考察・展望

111

しかし、それだけに全てを頼るのは無理があるだろう -3。このような現実を、実際にものをつくる私た ち人間の創造性によって乗り越えていけないだろうか。それこそが、本論文からはじまる私の試みに他 ならないだろう。これまで述べた通り、廃棄物を転用することは、ものとともにつくることであり、さ らに他者とともにつくることである。このような相互に作用し合うように制作することで、人間はより 多くの創造的な、ものとの関係性を構築することができるだろう。

そして、本論文では焦点を当てていないが、廃棄物は 0 円の素材であるという大きな特徴がある。価 値を生むために「もの」に様々なことを施す資本主義システムにおいて、 「もの」の行き着く先は無価 値であるのだ。これは皮肉にも思えるが、私は壮大なリソースだと感じている。これらに再び付加価値 を上乗せし、市場に流通させたのがアップサイクルである。アップサイクルは資源循環の問題などの解 決に寄与し、人間とものの関係性を再考する機会を与えているように思う。しかし、アップサイクルが ハイブランド化してしまうだけでは、私たちとものの関係性が全面的に潤うことはない。だからこそ、 廃棄物を様々な社会課題を解決するための資源として扱うことができないだろうか、と私は模索してい る。制作Ⅱでつくった屋台は、廃棄物を有効活用するだけでなく、そして新たな価値を付加することに も留まらず、更なる地域活性化の引き金にしようとした。実際に材料費は節約になるし、地域由来の廃 棄物を転用すれば、その地の特徴も浮かび上がり、使う人にとっても愛着深い建築物になるのではない だろうか。現に、震災を乗り越えた街の姿として、仮設住宅のマテリアルが、新しい用途に生まれ変わ るのは画期的で素晴らしい、という声を聞くこともできた。いつでもどこでも、その建築家の「らし い -4 」人工物を生み出すのではなく、もう既にそこにある人工物を編集していくような建築制作ができ ないだろうか。

本論文は先ほど考察した通り、課題が山積しており、まだまだ未熟なものである。しかしながら、私 はこの主題の可能性と奥深さに触れることができた。これから社会に出ていくことになるが、これから も廃棄物とともに制作に取り組み、いずれは建築物を自らがつくることで、新しく豊かな人間とものの 関係性を育てていきたい。これを通じて、様々な問題に直面する社会を良くしていくことを目指す。

-3 第2章でも参照した経済学者の斎藤公平は、未来の技術革新が課題を解決してくれるといった技術楽観論を様々な 観点から否定し、より少ないものでより豊かになるための脱成長を提案する。斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社、 2020 年 -4 第2章でも言及したように、資本家の要求に応えるようにアイコニックな建築を設計せざるをえない状況に対する 批判である。飯島洋一『「らしい」建築批判』青土社、2014 年


謝辞

謝辞

112

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謝辞

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はじめに、多くのことを教えてくれた廃棄物たちに、感謝を伝えたいです。ぼくがこのような研究を 行えているのも、魅力的なたくさんの廃棄物との出会いがあったからです。大好きです。 主査の小林博人さん。ここでは書き表せないほどの多くのことを学ばせていただいています。学部 2 年生で研究会に入ってからの 5 年間、追求したいことを自由にやらせていただきました。この研究で取 り上げている2つのケーススタディも、小林さんの指導だからこそ探究できたものです。これまで本当 にありがとうございました。そして、今度ともお世話になります。副査の鳴川肇さん。対抗文化下の建 築への造詣の深さや、路上生活者へのリサーチの経験など、似た関心領域を持つ先駆者として、とても 刺激をいただきました。あまり研究に関する相談ができず申し訳なく思っていますが、今後ともご指導 お願いいたします。副査の連勇太朗さん。建築のことも、研究のことも、社会のことも、公私問わず親 身にしてくださる偉大な先輩です。社会のなかで実践を続ける連さんがいるから、自分も今こうして建 築を通じて社会と関わろうとしています。これからもよろしくお願いいたします。そして懇切丁寧に指 導してくださった、助教の清水信宏さん。文献の紹介から分析の指導まで、毎回的確なアドバイスを頂 いたおかげで、はじめての論文を楽しみながら取り組むことができました。ありがとうございます。こ ちらに記しきれなかった、これまで私に指導してくださったすべての先生方に、感謝申し上げます。 制作Ⅰに関わってくれた皆さま。この制作では、名前も知らない人々に、たくさんのことを教わり、 大量の廃棄物をいただきました。ありがとうございます。ぼくのことを可愛がってくれた、等々力に住 んでいる加藤さん。家のつくり方も、廃棄物への向き合い方も、懇切丁寧に教えてくれてありがとうご ざいます。人間と廃棄物が生み出す凄まじい創造の世界を見せてくれたのは、 紛れもなく加藤さんです。 この研究テーマにたどり着いたのも、加藤さんのおかげです。ありがとうございます。制作Ⅱに関わっ てくれた皆さま。この制作は、研究会のメンバー、大和リース㈱と真栄工芸㈱の方々の尽力によるもの です。ありがとうございます。ともに廃棄物と戯れながら制作をしてくれた、ラス・イルハム、永井大 貴、梶尾瑛奈には特に感謝したいです。ぼくの廃棄物への好奇心に賛同し、一緒に楽しんでくれたおか げで、いいプロジェクトになりました。さらに永井には、本論文に合わせて図面の整理やスケッチを作 成してもらいました。ありがとう。 ある日突然、廃棄物を収集したり、河川敷に住んだりするぼくを、不思議に思いながらも応援してく れていた両親に感謝します。色々と興味が転々とし、将来が読めない息子に不安を感じながらも、寛大 に放置してくれてありがとう。いつか活躍を見せられるように、今後とも頑張ります。 たくさんの仲間たちにも支えられて、研究に取り組めています。昨年夏より活動をはじめた HUMARIZINE のメンバーは、制作や研究を語る上で欠かせない存在です。お互いの専門領域は違っ ても、個々の実践に向き合っている仲間がいることは本当に心強いです。自分の研究が、他の建築系の 研究と比べ、少しでも広い視野を持っているとしたら、それはここに集う仲間たちのおかげです。その なかでも、佐野虎太郎と村松摩柊からは特にたくさんの刺激をもらっています。いつもありがとう。 そして、れいぽんの深い友情と深い愛情に何度も救われてきました。最高の友人であり、最大のライ バル。そして最愛のパートナーのれいぽんに。愛しています。 2021 年 1 月 11 日 松岡大雅


図版出典・引用文献リスト

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図版出典リスト

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引用文献・参考文献リスト

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図版出典・引用文献リスト

図版出典リスト 第1章 図 1-1

日本の建設産業における廃棄物量の推移、国土交通省(2020)

図 1-2

空き家数及び空き家率の推移、総務省統計局(2019)

図 1-3

リサイクルの循環、筆者作成

図 1-4

リサイクルの螺旋循環、筆者作成

図 1-5

リユース・転用・リサイクルの整理、筆者作成

図 1-6

都市空間の廃棄物による制作、撮影:寺内玲

図 1-7

仮設住宅の廃棄物による制作、撮影:永井大貴

図 1-8

論文の構成、筆者作成

第2章 図 2-1

上位の構想と下位の作業、森田(2013)をもとに筆者作成

図 2-2

制作者と素材の関係性、筆者作成

図 2-3

制作者と素材の応答、筆者作成

図 2-4

意識、物質、イメージ、オブジェクトのダイアグラム、インゴルド(2017)に加筆

図 2-5

コレスポンダンスのダイアグラム、インゴルド(2017)をもとに筆者作成

図 2-6

本論文における制作・制作者の整理、筆者作成

図 2-7

他者性の流れ・ナレッジ、筆者作成

図 2-8

3つの流れ、インゴルド(2017)をもとに筆者作成

第3章 図 3-1

3つの流れ、インゴルド(2017)をもとに筆者作成

図 3-2

時間軸による整理、筆者作成

図 3-3

矢印による繋がり、筆者作成

図 3-4

コレスポンダンス(仮説)、筆者作成

図 3-5

コレスポンダンス(結論)、筆者作成

図 3-6

<山>と<谷>による記述、筆者作成

図 3-7

<山>と<谷>による分析ⅰ、筆者作成

図 3-8

<山>と<谷>による分析ⅱ、筆者作成

図 3-9

廃棄物同士の関係性、筆者作成

図 3-10

制作Ⅰの全体スケッチ、筆者作成

図 3-11

制作Ⅰのリサーチの日付とタイトル、筆者作成

図 3-12

アルミサッシの変化ⅰ、筆者作成

図 3-13

アルミサッシの変化ⅱ、筆者作成

図 3-14

サイディングの変化ⅰ、筆者作成

115


図版出典・引用文献リスト

図 3-15

サイディングの変化ⅱ、筆者作成

図 3-16

ビニール傘の変化ⅰ、筆者作成

図 3-17

ビニール傘の変化ⅱ、筆者作成

図 3-18

ブルーシートの変化ⅰ、筆者作成

図 3-19

ブルーシートの変化ⅱ、筆者作成

図 3-20

ダンボールの変化ⅰ、筆者作成

図 3-21

ダンボールの変化ⅱ、筆者作成

図 3-22

ベニア板の変化ⅰ、筆者作成

図 3-23

ベニア板の変化ⅱ、筆者作成

図 3-24

小さい木の板の変化ⅰ、筆者作成

図 3-25

小さい木の板の変化ⅱ、筆者作成

図 3-26

細い角材の変化ⅰ、筆者作成

図 3-27

細い角材の変化ⅱ、筆者作成

図 3-28

木製パレットの変化ⅰ、筆者作成

図 3-29

木製パレットの変化ⅱ、筆者作成

図 3-30

釘の変化ⅰ、筆者作成

図 3-31

釘の変化ⅱ、筆者作成

図 3-32

石膏ボードの変化ⅰ、筆者作成

図 3-33

石膏ボードの変化ⅱ、筆者作成

図 3-34

制作Ⅰの全体 A、筆者作成

図 3-35

制作Ⅰのコレスポンダンスの総数、筆者作成

図 3-36

制作Ⅰの全体 B、筆者作成

図 3-37

制作Ⅰの < 山脈>の長さ、筆者作成

図 3-38

制作Ⅰの<山>の総数、筆者作成

図 3-39

制作Ⅰの全体 C、筆者作成

図 3-40

制作Ⅰの[オブジェクト]の結びつきの総数、筆者作成

図 3-41

制作Ⅰの[イメージ]の繋がりの総数、筆者作成

図 3-42

スケッチ 1、筆者作成

図 3-43

スケッチ 2、筆者作成

図 3-44

スケッチ 3、筆者作成

図 3-45

スケッチ 4、筆者作成

図 3-46

スケッチ 5、筆者作成

図 3-47

スケッチ 6、筆者作成

図 3-48

制作Ⅱの全体スケッチ、筆者作成

図 3-49

制作Ⅱのリサーチの日付とタイトル、筆者作成

図 3-50

折半屋根の変化ⅰ、筆者作成

図 3-51

折半屋根の変化ⅱ、筆者作成

図 3-52

軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化ⅰ、筆者作成

図 3-53

軽量鉄骨+タイトフレーム 1800mm(梁)の変化ⅱ、筆者作成

図 3-54

床パネルの変化ⅰ、筆者作成

図 3-55

床パネルの変化ⅱ、筆者作成

図 3-56

軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化ⅰ、筆者作成

図 3-57

軽量鉄骨 1800mm(根太)の変化ⅱ、筆者作成

116


図版出典・引用文献リスト

図 3-58

軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化ⅰ、筆者作成

図 3-59

軽量鉄骨 1800mm(梁)の変化ⅱ、筆者作成

図 3-60

軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化ⅰ、筆者作成

図 3-61

軽量鉄骨 2700mm(梁)の変化ⅱ、筆者作成

図 3-62

ブレースの変化ⅰ、筆者作成

図 3-63

ブレースの変化ⅱ、筆者作成

図 3-64

壁パネルの変化ⅰ、筆者作成

図 3-65

壁パネルの変化ⅱ、筆者作成

図 3-66

軽量鉄骨 2700mm(柱)の変化ⅰ、筆者作成

図 3-67

軽量鉄骨 2700mm(柱)の変化ⅱ、筆者作成

図 3-68

制作Ⅱの全体 A、筆者作成

図 3-69

制作Ⅱのコレスポンダンスの総数、筆者作成

図 3-70

制作Ⅱの全体 B、筆者作成

図 3-71

制作Ⅱの < 山脈>の長さ、筆者作成

図 3-72

制作Ⅱの<山>の総数、筆者作成

図 3-73

制作Ⅱの全体 C、筆者作成

図 3-74

制作Ⅱの[オブジェクト]の結びつきの総数、筆者作成

図 3-75

制作Ⅱの[イメージ]の繋がりの総数、筆者作成

図 3-76

スケッチ 1、図面(作成:永井大貴)をもとに筆者作成

図 3-77

スケッチ 2、図面(作成:永井大貴)をもとに筆者作成

図 3-78

スケッチ 3、図面(作成:永井大貴)をもとに筆者作成

図 3-79

スケッチ 4、図面(作成:永井大貴)をもとに筆者作成

図 3-80

<意識―物質―他者性コレスポンダンス>のリスト、筆者作成

図 3-81

<意識―他者性―物質コレスポンダンス>のリスト、筆者作成

図 3-82

[オブジェクト]同士の結びつきのリスト、筆者作成

図 3-83

[イメージ]同士の繋がりのリスト、筆者作成

第4章 図 4-1

仮説の制作モデル、インゴルド(2017)をもとに筆者作成

図 4-2

第3のコレスポンダンス、筆者作成

図 4-3

意識の流れを軸とした線対称のコレスポンダンス、筆者作成

図 4-4

3次元的に制作を捉える、筆者作成

図 4-5

<円筒モデル>、筆者作成

図 4-6

円筒の連関、筆者作成

図 4-7

他者性の流れに関するスケッチ、筆者作成

図 4-8

入れ子の他者性、筆者作成

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図版出典・引用文献リスト

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引用文献・参考文献リスト 論文・論考 Will Stefeen, Jacques Grinevald, Paul Crutzen and John McNeill, “The Anthropocene: conceptual and historical perspectives”, Philosophical Transactions of the Royal Society A, vol.369, 2011, 842-867 乾久美子「リノベーション—夢をひきつぐ行為として」 『新建築住宅特集』新建築社、382 号、2018 年、49 頁 加藤耕一「リノベーションの点と線」『新建築住宅特集』新建築社 、410 号、2020 年、10~11 頁 能作文徳「戦後住宅リノベーション史」『新建築住宅特集』新建築社、410 号、2020 年、13~38 頁 書籍 Andrea Oppenheimer Dean, “Rural Studio: Samuel Mockbee and an Architecture of Decency”, Princeton Architectural Press, 2002 クリストファー・アレグザンダー『形の合成に関するノート / 都市はツリーではない』稲葉武司+押野見邦英、鹿島 出版会、2013 年 クロード・レヴィ = ストロース『野生の思考』大橋 保夫 みすず書房、1976 年 ケヴィン・リンチ『廃棄の文化誌—ゴミと資源のあいだ』有岡孝+駒川義隆、工作舎、1994 年 ソフィー・ウダール+港千尋『小さなリズム—人類学者による「隈研吾」論』加藤耕一+桑田光平+松田達訳、鹿 島出版会、2016 年 ティム・インゴルド『メイキング — 人類学・考古学・芸術・建築』金子遊+水野友美子+小林耕二、左右社、 2017 年 ティム・インゴルド『人類学とは何か』奥野克巳+宮崎幸子、亜紀書房、2020 年 デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ—クソどうでもいい仕事の理論』酒井隆史+芳賀達彦+森田和樹訳、 岩波書店、2020 年 マリオ・カルポ『アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築—ルネサンスからデジタル革命へ』美 濃部幸郎、鹿島出版会、2014 年 モリス・バーマン『デカルトからベイトソンへ—世界の再魔術化』柴田元幸、文藝春秋、2019 年 飯島洋一『「らしい」建築批判』青土社、2014 年 石川初『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い — 歩くこと、見つけること、育てること』LIXIL 出版、 2018 年 石山修武『生きのびるための建築』NTT 出版、2010 年 奥野克巳『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』亜紀書房、2020 年 加藤耕一『時がつくる建築—リノベーションの西洋建築史』東京大学出版会、2017 年 門脇耕三『ふるまいの連鎖—エレメントの軌跡』TOTO 出版、2020 年 久保明教『ブルーノ・ラトゥールの取説』月曜社、2019 年 近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法 2 改訂版』河出書房、2019 年 佐々木正人『新版 アフォーダンス』岩波書店、2015 年 斎藤幸平『大洪水の前に—マルクスと惑星の物質代謝』堀之内出版、2019 年 斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社、2020 年 坂口恭平『TOKYO 0 円ハウス 0 円生活』河出書房、2011 年 篠原雅武『人新世の哲学—思弁的実在論以後の「人間の条件」 』人文書院、2018 年 土佐弘之『ポスト・ヒューマニズムの政治』人文書院、2020 年 中谷礼仁『セヴェラルネス+—事物連鎖と都市・建築・人間』鹿島出版会、2011 年 森田亜紀『芸術の中動態—受容 / 制作の基層』萌書房、2013 年


図版出典・引用文献リスト

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資料・web ページ Extinction Rebellion web サイト:https://rebellion.global/(最終閲覧 2021 年 1 月 11 日) 国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウ「マレーシア・サラワク州―今なお続く違法伐採による先住民族の権利侵 害報告書(2016 年)」:http://hrn.or.jp/activity/5923/(最終閲覧 2021 年 1 月 11 日) 国土交通省「建設リサイクル推進計画 2020 「質」を重視するリサイクルへ」2020 年 国土交通省「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」2013 年 国土交通省「平成30年度建設副産物実態調査結果(確定値) 」2020 年 環境省「リユース市場規模調査報告書」2019 年 社団法人日本建材産業協会「建築資材リサイクルシステム調査研究報告書 新築戸建て住宅の建設工事現場から発生 する建設廃棄物のリサイクル推進方策の検討」 2004 年 総務省統計局「平成 30 年住宅・土地統計調査住宅数概数集計 結果の概要」2019 年 補足資料 路上生活のアーカイヴ:https://note.com/taigamatsuoka/n/nb5da3c4def13 制作Ⅰに関するリサーチの記録

路上生活者から学ぶ建築設計の可能性:https://issuu.com/taigamatsuoka/docs/graduationproject_book 制作Ⅰをまとめた自費出版書籍


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